裁判官 ☆ データベース - 東京地判H20.1.22 所得税賦課決定処分取消等請求事件
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税務訴訟資料第258号−8(順号10866)
東京地方裁判所平成●●年(○○)第●●号所得税賦課決定処分取消等請求事件
国側当事者・国(荒川税務署長)
平成20年1月22日却下・控訴
判示事項
(1)国税通則法115条1項(不服申立ての前置等)における裁決の意義
(2)納税者の平成11年から平成15年分所得税に対する決定処分等に係る納税者の異議申立ては、
いずれも、国税通則法77条1項(不服申立期間)の定める不服申立期間を経過した後にされたもの
であり不適法であって、また、納税者がその後にした当該各処分に係る審査請求も、適法な異議申立
てを経ないでされたものであり不適法であるから(同法75条3項(国税に関する処分についての不
服申立て))、本件訴えは、国税通則法115条1項本文(不服申立ての前置等)に定める審査請求に
ついての裁決を経ていない不適法な訴えであるとされた事例
(3)本件各処分の通知書を受領した際、本件各処分の「通知書」を受領したとは認識しておらず、実
際に本件各処分の通知書であることを認識したのは翌日になってからであるから、納税者が認識した
日の翌日から2ヶ月以内に行った異議申立ては不服申立期間内になされたものであるとの納税者の
主張が、処分に係る通知を受けたというためには、社会通念上、処分を受ける者が通知の内容を了知
し得る客観的状態に置かれれば足り、現実にその内容を了知することを必要とするものではないとい
うべきであるところ、納税者が通知書を受領したときに通知書の内容を十分に了知し得る客観的状態
にあったということができるのであって、その翌日から起算して2か月以内に異議申立てがされなか
ったことは明らかであるとして排斥された事例
(4)納税者は異議申立てを不服申立期間から1日経過した後にしており、かつ、本件各処分には重大
な違反があるから国税通則法115条1項の充足を認めるべきであり、また、不服申立制度を理由に
国民の司法の判断を受ける権利に制限を加えることはできないなどの納税者の主張が、いずれも納税
者独自の見解に基づく主張であるとして排斥された事例
(5)納税者が主張する事情を考慮しても、納税者が不服申立期間内に異議申立てをしなかったことに
ついてやむを得ない理由(国税通則法77条3項(不服申立期間))があったとはいえず、また、裁
決を経ないことにつき正当な理由(同法115条1項ただし書、同項3号)があったということもで
きないとされた事例
判決要旨
(1)国税通則法115条1項本文は、国税に関する法律に基づく取消訴訟は、当該処分が審査請求を
することができる処分にあっては、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起することができ
ないと定めるところ、上記裁決とは、適法な審査請求に基づいてなされた裁決を指すのであって、不
適法な審査請求に基づく却下裁決はこれに含まれないというべきである(最高裁昭和30年1月28
日第二小法廷判決・民集9巻1号60頁参照)。
(2)〜(5)省略
判決
原告甲
訴訟代理人弁護士笠原健司
被告国
代表者法務大臣鳩山邦夫
処分行政庁荒川税務署長
廣瀬武敏
指定代理人長谷川秀治
同坂上悦子
同櫻井光照
同植山昌文
主文
1本件訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
荒川税務署長が原告に対して平成18年7月4日付けでした次の1ないし5の各処分
をいずれも取り消す。
1平成11年分所得税の決定処分及び重加算税賦課決定処分
2平成12年分所得税の決定処分、無申告加算税賦課決定処分及び重加算税賦課決定処

3平成13年分所得税の決定処分、無申告加算税賦課決定処分及び重加算税賦課決定処

4平成14年分所得税の更正処分のうち、総所得金額4062万2000円、納付すべ
き税額211万8800円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分及び重加
算税賦課決定処分
5平成15年分所得税の更正処分のうち、総所得金額845万4000円、還付金の額
に相当する税額142万0240円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分
第2事案の概要
本件は、原告が、荒川税務署長から平成18年7月4日付けで平成11年分ないし平成
15年分の所得税について、上記第1「請求」記載の各処分がされたところ、同各処分が
有効な送達を欠いたものであること、雑所得の認定に事実誤認があること、理由付記がな
いことを理由に違法であるとして、これらの取消しを求めた事案である。
これに対し、被告は、上記各処分に係る通知書はいずれも有効に送達されたものであり、
そうすると、異議申立期間の経過により、本件訴えが有効な審査請求を欠いたものになる
ことから、いずれも不適法であるとしてこれらの却下を求めている。
そこで、本案前の争点(上記送達の有効性)についての判断を先行させるため、弁論を
終結したものである。
第3争点に対する判断
1本件訴えに至る経過に関する事実(争いのない事実及び顕著な事実並びに掲記の証拠
及び弁論の全趣旨により認められる事実)は、次のとおりである。
(1)原告に対する各処分
荒川税務署長は、平成18年7月4日、原告に対し、次のアないしオの各処分を行
った(以下「本件各処分」という。)(甲1から5まで)。
ア平成11年分の所得税の決定処分及び重加算税賦課決定処分(荒所持第●●号)
イ平成12年分の所得税の決定処分並びに無申告加算税賦課決定処分及び重加算
税賦課決定処分(荒所持第●●号)
ウ平成13年分の所得税の決定処分並びに無申告加算税賦課決定処分及び重加算
税賦課決定処分(荒所持第●●号)
エ平成14年分所得税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分及び重加算
税賦課決定処分(荒所持第●●号)
オ平成15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(荒所持第●
   ●号)
(2)本件各処分に係る通知書の交付(乙1から3まで)
ア荒川税務署の担当職員は、平成18年7月4日、原告の自宅に赴き、同所におい
て原告と会い、原告の自宅のあるビルの1階に所在する原告が監査役を務める株式
会社Aの応接室において、本件各処分に係る通知書を原告に交付した。
なお、上記各通知書には、「不服申立て等について」として、「この処分に不服が
あるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して2月以内に荒川税務署長に対
して異議申立てをすることができます。」との記載があった。
イ荒川税務署の担当職員は、本件各処分に係る通知書を交付する際、国税通則法施
行規則1条1項に基づき、送達記録書(以下「本件送達記録書」という。)の受取
人署名押印欄に署名押印を求めたところ、原告は、これに応じ、本件送達記録書の
上記署名押印欄に署名、押印した。
本件送達記録書には、署名押印欄のほか次の記載がある。
(ア)送達を受けるべき者
住所東京都荒川区
氏名甲
(イ)書類名荒所持第号から荒所持号所得税の更正及び加算
税の賦課決定通知書5通
荒所持第号消費税及び地方消費税の決定通知書並びに加算税の賦課
決定通知書1通
(ウ)送達した場所荒川区
株式会社A応接室内
(3)本件訴えに至る経緯(甲6から8まで、乙4)
ア原告は、平成18年9月5日、荒川税務署長に対し、本件各処分の異議申立てを
したが、荒川税務署長は、いずれも不服申立期間を経過してなされた不適法な異議
申立てであることを理由に却下する決定をした(上記異議申立てのうち、所得税の
決定処分及び更正処分に係る部分については同年10月5日に、各加算税の賦課決
定処分に係る部分については同年12月5日に行われた。)。
イ原告は、平成18年10月31日、国税不服審判所長に対し、上記アの各決定を
不服として審査請求したが、国税不服審判所長は、平成19年1月5日、適法な異
議申立てを経ないでされた審査請求であることを理由に不適法であるとして却下
する裁決をした。
ウ原告は、平成19年7月4日、本件各処分の取消しを求めて、東京地方裁判所に
本件訴えを提起した(顕著な事実)。
2国税通則法115条1項本文は、国税に関する法律に基づく取消訴訟は、当該処分が
審査請求をすることができる処分にあっては、審査請求についての裁決を経た後でなけ
れば提起することができないと定めるところ、上記裁決とは、適法な審査請求に基づい
てなされた裁決を指すのであって、不適法な審査請求に基づく却下裁決はこれに含まれ
ないというべきである(最高裁昭和30年1月28日第二小法廷判決・民集9巻1号6
0頁参照)。
上記1(2)の認定事実によれば、本件各処分は、平成18年7月4日に原告に対して
交付送達の方法により通知されたことが認められるところ、原告が同年9月5日にした
本件各処分に係る異議申立ては、いずれも、国税通則法77条1項の定める不服申立期
間を経過した後にされたものであることになるから不適法であって、また、原告がその
後にした本件各処分に係る審査請求も、適法な異議申立てを経ないでされたものである
から不適法である(同法75条3項)。
そうすると、本件訴えは、国税通則法115条1項本文に定める審査請求についての
裁決を経ていない不適法な訴えであるといわざるを得ない。
3この点につき、原告は、本件各処分の通知書を受領した際、本件各処分の「通知書」
を受領したとは認識しておらず、実際に本件各処分の通知書であることを認識したのは
平成18年7月5日になってからであるから、原告が同年9月5日に行った異議申立て
は不服申立期間内になされたものであると主張する。
しかし、処分に係る通知を受けたというためには、社会通念上、処分を受ける者が通
知の内容を了知し得る客観的状態に置かれれば足り、現実にその内容を了知することを
必要とするものではないというべきである。前記1(2)の認定事実によれば、原告が同
年7月4日に本件各処分の通知書の内容を十分に了知し得る客観的状態にあったとい
うことができるのであって、その翌日から起算して2か月以内である平成18年9月4
日までに異議申立てがされなかったことは明らかであるから、原告の上記主張は理由が
ない。なお、原告は、本件訴えの当初、訴状においては、そもそも本件各処分の通知書
は原告に手交されず、ポストに入れられていたと主張していたものであって、その主張
内容の信用性自体にも疑問がある。
また、原告は、異議申立てを不服申立期間から1日経過した後にしており、かつ、本
件各処分には重大な違反があるから国税通則法115条1項の充足を認めるべきであ
るとか、一般国民であれば7月5日から2か月以内という意味を9月5日までと理解す
るとか、不服申立制度を理由に国民の司法の判断を受ける権利に制限を加えることはで
きないなどとして、本件訴えが適法であると主張するようであるが、いずれも原告独自
の見解に基づく主張であり、採用の限りではない。
【判示(1)】
【判示(2)】
【判示(3)】
【判示(4)】
さらに、念のため付言するに、原告が主張する上記事情を考慮しても、原告が不服申
立期間内に異議申立てをしなかったことについてやむを得ない理由(国税通則法77条
3項)があったとはいえず、また、裁決を経ないことにつき正当な理由(同法115条
1項ただし書、同項3号)があったということもできない。
4よって、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えはいずれも不適法である
から、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官大門匡?
裁判官倉地康弘
裁判官小島清二?
【判示(5)】