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ユニチカの跡地売却益、豊橋市に請求命じる 名古屋地裁

 愛知県豊橋市が大手繊維メーカー「ユニチカ」(大阪市)に無償提供した土地をめぐり、同社が返還契約に反して第三者に売却した代金63億円を請求するよう、市民130人が市長に請求した訴訟の判決が8日、名古屋地裁であった。市原義孝裁判長は「返還すべき相手と異なる第三者に売却した」として市長に対し、同社に全額を請求するよう命じた。
 判決によると、土地(約27万平方メートル)は1951年、工場用地として市が同社前身の大日本紡績に無償提供。「将来、敷地内で使用する計画を放棄した部分は市に返還する」という契約を交わしたが、事業所閉鎖を決めたユニチカは2015年、跡地を積水ハウスに63億円で売却した。
 市原裁判長は契約について「不要となった部分については返還すると理解できる」と指摘。ユニチカに返還義務があり、第三者への売却は、市の権利や利益の侵害にあたると判断した。
 市とユニチカは「現時点でコメントは差し控えたい」などとしている。
(2018年2月8日13時10分 朝日新聞)

豊橋市に63億円請求命令 ユニチカ跡地売却で

 大手繊維メーカーのユニチカ(大阪市)が、愛知県豊橋市から無償提供を受けた土地を市に返還せず売却したのは不当だとして、豊橋市の住民ら約130人が市長を相手取り、同社に63億円の損害賠償を請求するよう求めた訴訟の判決が8日、名古屋地裁であった。市原義孝裁判長は原告側の請求を認め、63億円を同社に請求するよう市長に命じた。
 判決によると、市は1951年、ユニチカに工場用地として約27万平方メートルの土地を無償で提供。同社は工場を建設して操業してきたが、2015年に工場を閉鎖した後、跡地を住宅メーカーに63億円で売却した。
 土地提供の際に市とユニチカが交わした契約は「将来、ユニチカが使用する計画を放棄した部分は返還する」とされ、訴訟では、この「部分」は土地の一部のみを指すのか、全部にも適用されるのかが争われた。
 市側は「返還義務は土地の一部について計画放棄した場合のみに適用される」として、全部について放棄した場合は返還義務は生じないと主張したが、市原裁判長は「『部分』は全部も含むと解するべきで、一部放棄のみに限るのは合理的ではない」などと指摘。ユニチカには市の利益を侵害する不法行為があり、市には損害賠償を求める義務があると結論づけた。
 同市とユニチカはともに「現時点ではお答えできません」としている。
(2018年02月09日 読売新聞)

豊橋市長に63億円請求命令 ユニチカの土地売却巡り

 繊維メーカー「ユニチカ」が愛知県豊橋市から無償で譲り受けた土地を売却したのは契約違反だとして、豊橋市の住民130人がユニチカに63億円の損害賠償を支払わせるよう佐原光一市長に求めた訴訟の判決で、名古屋地裁(市原義孝裁判長)は8日、住民側の訴えを認め、市長に全額の請求を命じた。
 譲渡時の契約内容の解釈が争点だった。市原裁判長は「同社が土地使用を自ら放棄した場合は市に返還する義務を負うものと解釈するべきだ」と指摘した。
 市側は、市に土地の所有権はないと主張していたが、市原裁判長は「契約に基づく義務と所有権の帰属との間に関連はない」と判断した。
 判決などによると、豊橋市は1951年、市内の国有地をユニチカの前身企業が取得するための費用を負担するとの内容で、同社と契約を結んだ。ユニチカは紡績関連の工場を稼働していたが、経営再建策の一環として2015年、用地全体の約27万平方メートルを別の企業に63億円で売却した。
 豊橋市は「判決文が届いていないので現時点ではお答えできない」とし、ユニチカは「現時点でのコメントは差し控えたい」とした。〔共同〕
(2018/2/8 10:49 (2018/2/8 13:05更新) 日経新聞)

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平成30年2月8日判決言渡
平成28年(行ウ)第114号損害賠償請求事件(住民訴訟)
口頭弁論終結日平成29年11月30日
判決
主文
1被告は,被告補助参加人に対し,63億円及びこれに対する平成
27年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
うよう請求せよ。
2訴訟費用のうち,補助参加によって生じた費用は被告補助参加人
の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,愛知県豊橋市(以下「豊橋市」という。)の住民である原告らが,
被告補助参加人(以下,単に「補助参加人」という。)は,別紙物件目録記載の各
土地(以下「本件各土地」という。)のうち同目録記載2及び10の各土地を除く
もの(以下「本件売却土地」という。)を豊橋市に返還すべき債務を負っているに
もかかわらず,補助参加人及びその連結子会社においてこれらの土地をA株式会社
(以下「A会社」という。)に売却し,上記返還債務を履行不能としたものであり,
これは補助参加人による債務不履行又は不法行為に当たるところ,豊橋市の執行機
関である被告は補助参加人に対する損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとし
て,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,補助参加人に対し
て損害賠償金63億円(本件売却土地の売却代金相当額)及びこれに対する履行期
限が到来した後又は不法行為の日である平成27年10月1日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することを求めた住民訴訟で
ある。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実等。以下,書証番号は,特記しない限り枝番を含む。)
(1)当事者等
ア原告らは,いずれも豊橋市の住民である。(弁論の全趣旨)
イ被告は,豊橋市の執行機関である。(弁論の全趣旨)
ウ補助参加人は,各種繊維及び繊維工業品等の製品及びこれらの原材料,副製
品の製造,加工及び売買並びに輸出入等を業とする株式会社である。(甲1,弁論
の全趣旨)
(2)補助参加人が本件各土地を取得,利用した経緯等
ア旧軍用地の一部であった本件各土地は,終戦前後から入植者等によって開拓
が進められていたが,農業に適した土地ではなかった。(乙1,2)
イ豊橋市,豊橋市議会及び補助参加人(当時の商号は「B株式会社」である。)
は,昭和25年12月5日,補助参加人が豊橋市内に工場を新設するに当たり,豊
橋市が工場用地として本件各土地を提供したり,諸便宜を供与したりすることに関
し,覚書を取り交わした(以下「本件覚書」という。)。
本件覚書13条は,「甲(注・補助参加人を指す。)は将来第3条(1)の(イ)の敷
地(注・本件各土地を指す。)の内で使用する計画を放棄した部分は之を乙(注・
豊橋市を指す。)に返還する」と定めている。(甲2)
ウ豊橋市は,豊橋市議会の議決を経た上で,昭和26年4月3日,補助参加人
(当時の商号は「B株式会社」である。)との間で,本件覚書とおおむね同内容の
契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
本件契約12条は,本件覚書13条と同様,「甲は将来第3条(1)の(イ)の敷地の
内で使用する計画を放棄した部分はこれを乙に返還する」と定めている。(甲3,
7)
エ上記ウの後,補助参加人は,本件各土地において豊橋事業所を設置し,これ
を運営した。なお,本件各土地の所有権に係る登記名義は,国から補助参加人に直
接移転した。(甲8,10,14,弁論の全趣旨)
オ豊橋市と補助参加人(当時の商号は「C株式会社」である。)は,昭和41
年2月21日,本件契約12条に関し,疑義事項協議書を取り交わした(以下「本
件協議書」という。)。
本件協議書には,前文において,本件契約12条の字句の解釈につき意思を統一
するために協議がされた旨が記載されており,以下,次の趣旨の記載がされている。
(甲4)
)楫鏃戚鵤隠仮鬚傍定する「将来」とは,ある一定の期限を有するものではなく,
何ら期限の制約を受けるものでないことを互いに確認する。
∨楫鏃戚鵤隠仮鬚傍定する「・・・敷地の内で使用する計画を放棄した・・・」
とは,補助参加人が使用する計画を放棄する旨自ら豊橋市に対して意思表示をした
場合に限ることを意味するものであることを互いに確認する。
0幣紂の昭坿屬砲いて行った確認は本件契約の趣旨に基づいて再確認をしたもの
で,両者全く異存のないことを互いに確認する。
(3)本件売却土地の売却等
ア補助参加人は,平成26年10月9日,豊橋市に対し,平成27年3月末ま
でに豊橋事業所全体を閉鎖する予定である旨を申し入れ,その後,豊橋事業所を閉
鎖した。(甲5,弁論の全趣旨)
イ本件売却土地の所有者である補助参加人(別紙物件目録記載3から9までに
つき)及びその連結子会社(同社は,平成28年4月1日に補助参加人に吸収合併
された。)(別紙物件目録記載1につき)は,平成27年10月1日頃,A会社に
対し,本件売却土地(合計約27万屐砲鯊絛盥膩廝僑害円で売却し,同日,所有
権移転登記手続をした。
上記の売却及び所有権移転登記手続により,補助参加人が本件売却土地を豊橋市
に返還することは,社会通念上不能となったと認められる。
なお,本件各土地のうち,(婿翳件目録記載2の土地は,昭和62年9月17
日に下水道用地として豊橋市に売却され(代金1816万1400円),同目録
記載10の土地は,平成24年6月20日に下水道事業用地として豊橋市に売却さ
れていた(代金87万5535円)ため,本件売却土地は,本件各土地のうち,平
成27年10月1日当時補助参加人及び上記連結子会社が所有していた土地の全部
である。(甲1,7ないし10,乙6,7,弁論の全趣旨)
(4)監査請求及び本件訴えの提起
ア原告らは,平成28年6月2日,豊橋市監査委員に対し,本件に関する監査
請求をしたところ,豊橋市監査委員は,同年7月25日付けで上記監査請求を棄却
し,原告らに対してこれを通知した。(甲12,15)
イ原告らは,平成28年8月23日,本件訴えを提起した。(顕著な事実)
3争点及び当事者等の主張
(1)争点
本件の争点は,本件売却土地が売却された時点において,補助参加人が,本件契
約上,豊橋市に対して本件売却土地を返還する義務(以下,単に「返還義務」とい
う。)を負っていたか否かである。
(2)当事者等の主張
ア原告らの主張
(ア)返還義務の存在
本件覚書,本件契約及び本件協議書の文言からすれば,補助参加人が豊橋事業所
を閉鎖した以上,補助参加人が自らの意思により本件売却土地を使用しなくなった
といえるから,豊橋市に対し,使用計画を放棄した部分,すなわち本件売却土地を
返還すべき義務を負うことが明らかである。なお,放棄の意思表示は,補助参加人
が豊橋市に対し,豊橋事業所の全面閉鎖の意向を表明した時点でされたと見るのが
合理的である。
この帰結は,本件契約に基づく豊橋市から補助参加人への便宜供与や納税面での
優遇等は,飽くまでも補助参加人が本件各土地において豊橋事業所の操業を継続し
ていくことを前提とするものであったことから考えても,妥当なものである。豊橋
市が公金を支出して,本件各土地の取得費用も負担して補助参加人を誘致した以上
(なお,豊橋市は,上記取得費用とは別に,本件各土地に入植していた開拓民等に
対し,各種補償費として約1500万円もの金員を支出した事実もある。),豊橋
市にとって本件各土地を使用するのが誰でも構わないということはあり得ず,補助
参加人が本件各土地を使用しない場合には豊橋市が原状を回復する手段が必要であ
るし,ましてや,優遇を受けていた補助参加人が本件各土地を売却して利益を得る
事態など,およそ想定し得ない。
そして,現に,平成18年9月当時,豊橋市長は,補助参加人との同一性がない
別の企業が本件各土地を使用するようになるのであれば,本件各土地は返還される
べきであるという認識を示していたところであるし,補助参加人も,平成26年1
0月,本件売却土地の売却については豊橋市に相談したいと述べるなど,豊橋市の
同意がなければ売却ができないことを前提にした対応をしていた。
(イ)被告の主張について
a被告は,本件契約締結当時に,補助参加人が全面撤退をすることは想定され
なかったと主張するが,補助参加人も企業である以上,別の場所での経営が更なる
成長・発展の好機を生むと見込んで,全面撤退をするに至ることは当然に想定され
たと解すべきである。また,仮に全面撤退が想定されていなかったとしても,そう
した想定外の事態が起きても紛争を未然に防ぐことができるようにするのが,本件
契約12条の役割であるから,本件契約12条が全面撤退の場合を排除していると
はいえない。なお,この点に関連して,被告は,全面撤退が想定されていたのであ
れば仮登記などの保全措置が執られてしかるべきであると主張するが,誘致を行う
上では友好関係・信頼関係が重要であり,大企業である補助参加人に対して返還を
求めることに困難が伴うことも想定されない状況下では,あえて保全措置まで執ら
れなかったとしても不自然とはいえない。
また,そもそも本件契約12条において,使用計画が放棄されるのが全部か一部
かは問題とされていない(「部分」とは,使用されない範囲の全てという意味であ
るし,「内」という記載があっても,その中で全部が該当するということもあり得
る以上,全部の使用計画が放棄された場合が排除されるものではない。)から,文
理上も,被告の主張は不合理である。実質的に考えても,補助参加人が本件売却土
地の全部を使用しなくなる場合には,これを売却して利益を得てもよいが,一部を
使用しなくなる場合には豊橋市に返還しなければならないなどという解釈は,明ら
かに不当である。
bさらに,被告は,本件契約締結当時において補助参加人の稼働状況の見通し
が定まっておらず,本件各土地の使用範囲が明らかになっていなかったために,暫
定的に本件契約12条が定められたことを主張するが,そのようなことをうかがわ
せる文言はなく,上記の事情はせいぜい単なる動機の問題にとどまるから,契約条
項の解釈とは結び付かない。また,本件協議書が,本件契約の締結から15年も経
過した後に取り交わされた上,本件協議書の中で,本件契約12条に期限は特段な
いことが確認されていることからしても,被告の主張は理由がない。
c加えて,被告は,本件協議書は,費用負担に関して同時に取り交わされた別
の覚書(以下「昭和41年覚書」という。)との関係上,補助参加人に有利な形で
本件契約12条を変更した趣旨であると主張するが,これも理由がない。
そもそも,本件協議書においては,本件協議書が本件契約を変更する趣旨のもの
ではないことが明示的に確認されている。現に,本件契約12条における「放棄」
という用語自体,補助参加人が一方的に使用をしなくなるという趣旨を含んでいる
から,本件協議書によって本件契約12条の意味内容が変更されたという理解は採
り得ない。また,昭和41年覚書は,住民から豊橋市が補助参加人を過度に優遇し
ているという批判があったことを受けて取り交わされたものであるから,それと同
時に取り交わされた本件協議書において,豊橋市が,別の面で補助参加人を有利に
扱う合意をして,住民からの別の批判をもたらす余地を生じさせることなど,あり
得ない。
なお,被告が指摘する別紙物件目録記載2及び10の各土地に係る売買契約は,
豊橋市の都合で補助参加人が土地を手放した局面において締結されたものであって,
補助参加人が自ら使用計画を放棄した局面での契約ではないから,本件とは無関係
である。
(ウ)補助参加人の主張について
a補助参加人は,自らが現在の岡山県総社市(当時の岡山県都窪郡α村。以下
「総社市」という。)等と取り交わした覚書(以下「別件覚書」という。丙4の1)
に,総社市から提供された土地に設置される工場が廃止された際には補助参加人が
無償で土地を返還する旨の定めがあることと本件契約の内容との相違を強調するが,
別件覚書の上記定めと本件契約12条は,いずれも文書の末尾に清算条項的に設け
られているのであって,両者に本質的な違いはないと考える方が自然である(まし
てや,総社市よりも豊橋市の方が,補助参加人に経済的な利益を多く供与してきた
ことからすれば,総社市等との間における別件覚書の方が,より自治体に有利な定
めが置かれているなどと解釈するのは不当である。)。
bまた,補助参加人は,本件契約12条による制約は合理的期間が経過した後
は及ばないなどと主張するが,仮に本件契約の効力を一定期間経過後に失わせるに
しても(ただし,合意解約も可能な中で,明文もないのにそのような強制的な終了
原因を解釈上導く根拠はなく,原告らとして,本件契約の失効を認める趣旨ではな
い。),その際には当然に清算が必要なのであって,清算に関する本件契約12条
までが無効となる理由はない。しかも,補助参加人が,当初無償で提供された本件
各土地を,事業終了時に無償で返還するのは当然であり,本件契約12条が,補助
参加人の営業の自由などを不当に制約するといった理解も採り得ない。
なお,総社市から補助参加人に提供された土地の一部については,別件覚書の上
記aに掲げた定めの趣旨に即して,総社市議会での了解を得た上で,補助参加人か
ら総社市への寄附がされたところ,何らの合意もないのに,営利企業が広大な土地
の売却代金を取得しない理由など見当たらない以上,別件覚書が期間の経過によっ
て無効となったなどとは解されないのであり,その意味からも,別件覚書と同趣旨
の内容を含む本件契約の失効に関する補助参加人の主張は失当である。
cさらに,補助参加人は,買戻しの特約に関する民法580条が類推適用され
るべきであるなどとも主張するが,財物が提供されればそれで契約上の義務の履行
が完了する売買契約と異なり,本件契約においては,本件各土地が提供された後も,
契約当事者間の継続的信頼関係が維持され,補助参加人から豊橋市に利益が還元さ
れていくことが予定されているものであるから,民法580条が予定する状況とは
前提状況が全く異なっている。
イ被告の主張
(ア)元々返還義務が存在しないこと
本件契約,本件覚書及び本件協議書においては,補助参加人が本件各土地の一部
の使用計画を放棄した場合についての定めはある(本件契約12条等。「敷地の
内」,「部分」という表現ぶりから,一部に係る使用計画の放棄のみについての定
めであることは明らかである。)が,補助参加人が豊橋事業所を閉鎖し,本件各土
地の全部を使用しなくなる場合については,定めが設けられていないし,補助参加
人が本件各土地を売却する際に豊橋市の承諾が必要である旨も定められていない。
そもそも,)楫鏃戚鹹結当時の社会経済状況に加え,当時補助参加人が引く手
あまたの大企業であったことや,補助参加人が豊橋事業所に莫大な先行投資をした
ことに照らせば,補助参加人が豊橋事業所を閉鎖して本件各土地の全部から撤退す
ることなど,想定しようもなかった(仮に想定されていれば,本件各土地につき,
条件付所有権移転仮登記等の保全措置が講じられたはずである。)。また,∨楫
契約12条は,できるだけ早期に補助参加人の工場誘致を行うことが優先されたこ
とで,本件各土地の具体的な使用範囲が分からないままに本件契約の締結に至った
ために,使用されないことが後に判明した部分について豊橋市が返還を受けること
ができるように設けられたものであって,その経緯からも,本件各土地全部の返還
を想定した条項と捉えられるべきではない(稼働状況いかんで返還の問題が生じ得
ることは,常に変わらないし,現に昭和41年に本件協議書が取り交わされた当時
も空き地は存在していたのであるから,△陵解は,本件契約12条に期限が設け
られていないことと矛盾するものではない。)。
(イ)少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,返還義務は存在しないこと
本件協議書において,補助参加人が自ら放棄の意思表示をした場合にしか本件契
約12条が妥当しないという趣旨の定めが置かれたのは,本件協議書と同一日に取
り交わされた鉄道引込線に関する覚書(昭和41年覚書)において,補助参加人の
豊橋事業所専用の鉄道引込線の費用負担の点で,本件契約よりも補助参加人に不利
な取決めがされたこととの均衡を図る形で,当時も存在していた空き地部分につい
て豊橋市から返還を求められることのないように,補助参加人に有利な規定を置く
こととなったからである(何らかの交換条件がなければ,本件契約よりも不利な昭
和41年覚書の内容を補助参加人が了承するはずはない。)。こうした経緯及び本
件協議書の文言からすれば,少なくとも本件協議書が取り交わされた時以降,使用
計画の放棄の要件に該当するか否かの判断権は補助参加人にのみあることとなるか
ら,本件契約12条だけを見れば,豊橋市が本件各土地の返還を求めることができ
るように読み得るとしても,少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,そのよ
うな解釈は成り立ち得ないものというべきである。現に,本件協議書が取り交わさ
れた後,昭和62年及び平成24年に,補助参加人が使用していない土地につき豊
橋市との間で売買契約が締結されていることは,本件契約12条があっても,豊橋
市が無償返還を求めることができなくなっていたことの現れである。
(ウ)原告らの主張について
本件売却土地の売却について,補助参加人から豊橋市への報告がされたことはあ
るが,豊橋市の承諾が必要であるという前提での申入れ等はされていない。
また,原告らが指摘する平成18年9月における豊橋市長の答弁も,結論として
法的に返還請求をすることは難しい旨の認識を示したものであって,本件における
被告の主張と矛盾するものではない。
ウ補助参加人の主張
(ア)元々返還義務が存在しないこと
本件契約が,本件各土地の一部を使用しないことのみを想定して締結されたこと
は,被告の主張するとおりであり,このことは,(篏参加人が同時期に総社市内
に設けた工場と同様に,豊橋事業所の工場も約6万坪(本件各土地の全部よりも狭
い面積)とすることが予定されていたこと,⊂綉総社市の工場に係る別件覚書と
異なり,あえて「使用する計画を放棄した部分」という記載がされていること(別
件覚書には,工場の廃止により工場敷地が不用となった場合に補助参加人が無償返
還するという趣旨のみが定められている。)から明らかである。
(イ)少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,返還義務は存在しないこと
本件協議書が取り交わされた経緯についても,被告の主張するとおりであり,当
時,本件各土地の未使用部分の返還を豊橋市側から求められる懸念があったために,
本来応じなくてもよい鉄道引込線の費用負担を了承する代わりに(昭和41年覚
書),補助参加人側から使用計画を放棄する意思表示をしなければ返還義務は生じ
ないという趣旨を明確にしたものである。
(ウ)仮に上記(ア)及び(イ)が採用されないとしても,本件売却土地の売却当時には,
返還義務はなくなっていたこと
a補助参加人は,昭和43年に本件各土地の未使用部分に豊橋事業所の第2工
場を設置したところ,その時点で,補助参加人が使用計画を放棄する部分はなくな
ったのであって,もはや本件契約12条が適用される余地はない。
b仮にそうでないとしても,本件契約12条によって補助参加人の営業の自由
及びそれに伴う本件各土地の処分の自由が永久に害されるのは不当であって,当事
者の合理的意思として,合理的期間が経過した後は本件契約12条は失効するもの
と解すべきところ,本件契約締結後,補助参加人は,相当長期間にわたり,本件各
土地の固定資産税を負担し,豊橋市の雇用創出にも貢献してきたものであるから,
遅くとも本件売却土地の売却の時点では,合理的期間の経過により,本件契約12
条は失効していたものと解すべきである。
また,本件契約12条は,一定の事由が生じた場合に所有権移転契約が解除され
るという意味で,買戻しの特約に類似した効果を持つから,民法580条の法意
(目的物の帰属を長期間にわたって不安定にすることを回避する趣旨)に照らし,
遅くとも,本件協議書が取り交わされた昭和41年から10年が経過した後の時点
では,豊橋市が本件契約12条に基づく権利を行使することは許されないと解すべ
きである。
(エ)原告らの主張について
原告らは,補助参加人が総社市に対して工場の敷地の一部を寄附した事実を捉え
て,補助参加人が本件契約と同様の別件覚書を有効なものと認識していた旨主張す
るが,別件覚書の効力にかかわらず,諸事情により補助参加人が敷地の一部を寄附
することはあり得るのであって,原告らの主張するような推論は成り立たない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に,掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認め
られる。
(1)補助参加人が本件各土地を利用するに至った背景
豊橋市は,昭和25年当時,工業化政策を本格化させるため,本件各土地を含む
広大な旧軍用地(農地としての利用には適していなかった。)を利用した工場誘致
政策を進めていた。この政策の一環で,豊橋市は,当時,工場の新設を計画してい
た補助参加人への働き掛けを行い,本件各土地に補助参加人の事業所を誘致するこ
とに成功した。(甲8,22,乙1ないし3,弁論の全趣旨)
(2)本件覚書及び本件契約の締結等
ア昭和25年12月5日,本件覚書が取り交わされたところ,この時点では,
補助参加人の事業所の敷地となる土地の範囲が確定していたわけではなかった。
また,補助参加人としては,この頃,本件各土地のうち6万坪程度を利用する想
定をしており,結果として使用しない部分が生じてくることを想定していた。(甲
2,3,丙4の1,弁論の全趣旨)
イ本件覚書においては,前記前提事実(2)イに掲げた本件覚書13条のほか,
次の趣旨が合意された。
なお,本件覚書13条は,本件各土地の利用計画が完全に定まっていなかったた
めに,補助参加人が本件各土地に新設する事業所が操業を開始した後になっても使
用する見込みがない部分があれば豊橋市に返還することを念頭に,設けられたもの
であった。(甲2,8)
(ア)豊橋市は,補助参加人による工場建設が早期に完成するように,物心両面に
わたって全面的に協力し,諸便益を提供する。(2条)
(イ)当時政府が所有していた本件各土地について,払下げがされるまでの間は,
政府から豊橋市が借り受けてこれを補助参加人に無償貸与し,払下げを受けること
が可能となれば,豊橋市が自らの費用負担で払下げを受けた上で,その所有権を補
助参加人に無償移転させる。(3条(1)(ハ))
(ウ)工場用鉄道引込線は補助参加人の専用とし,当該鉄道引込線の施設費用のう
ち用地買収及びこれに伴う費用は豊橋市の負担とする。(3条(4)(ハ)(ホ))
(エ)補助参加人に課されるべき市税のうち本件各土地に新設される工場の操業開
始後6年間分の固定資産税を実質的に免除するほか,補助参加人に課されるべき事
業税その他の県税に関して補助参加人の希望にそうように愛知県とあっせん交渉す
る。(5条,6条)
(オ)本件覚書に規定のない事項あるいは疑義を生じた事項については,各当事者
が本件覚書の趣旨に従って誠意をもって協議し,実行する。(14条)
ウ本件覚書における上記各定めの趣旨は,本件契約にもそのまま引き継がれた。
ただし,本件契約3条(1)(ハ)においては,補助参加人が政府から直接本件各土地の
払下げを受ける場合には,その費用は豊橋市が負担する旨が追加で合意された。
なお,豊橋事業所の工場建設自体は,本件覚書が取り交わされた後,本件契約の
締結を待たずに開始された。(甲3,15,22,25,弁論の全趣旨)
(3)本件契約の締結当初における本件各土地の利用状況等
ア補助参加人による豊橋事業所の建設工事は,昭和26年12月5日に竣工し
た。そして,当初,工場の従業員として約2000人が雇用された。(甲7,8,
乙1,3)
イ昭和29年3月頃,本件各土地の所有権は国から補助参加人に直接移転し,
その後,所有権に係る登記名義も国から補助参加人に直接移転したところ,その払
下げに必要な手続や費用の負担(合計約1100万円)は豊橋市において行ったほ
か,本件各土地に入植していた者に対する補償関係費用(約1500万円)も,豊
橋市において負担した。(甲8,10の6ないし10,14,16ないし18,2
3,24,26,弁論の全趣旨)
ウ本件契約に基づき,昭和31年までは,豊橋事業所に係る固定資産税は免除
されていたが,昭和32年以降は,補助参加人が固定資産税を負担した。豊橋事業
所の操業開始当時において,固定資産税額は,年額2500万円程度と見込まれて
いたが,昭和32年から昭和41年までに実際に支払われた固定資産税の合計額は,
9800万円程度であった。
なお,平成18年から平成27年までの10年間において,豊橋事業所に係る固
定資産税,法人市民税及び事業所税の合計額は,年額で平均1億6000万円弱で
あった。(甲8,乙1,5の1)
(4)本件協議書の作成等
ア本件協議書が取り交わされた昭和41年頃までの間,本件各土地の中になお
空き地があることや,鉄道引込線に関して補助参加人に過大な便宜供与がされてい
ること(鉄道引込線用地の借地料を豊橋市が負担していること等)が豊橋市議会等
で問題視されていた。(甲8,乙5)
イ本件協議書が取り交わされたのと同じ日である昭和41年2月21日に,豊
橋市と補助参加人との間で覚書が取り交わされ(昭和41年覚書),本件契約3条
(4)にかかわらず,鉄道引込線用地のうち東海財務局所管の国有地については,買
収及びそれに伴う一切の費用を補助参加人の負担とすること,その買収事務が同年
4月1日までに完了しない場合,豊橋市が支払っている当該国有地の借地料は以後
補助参加人の負担とすることが取り決められた。(乙4)
ウ本件協議書が取り交わされた後,豊橋市と補助参加人との間で,本件契約1
2条について具体的な協議がされたことはうかがわれない。(甲8,弁論の全趣旨)
エ昭和43年,昭和41年当時に問題とされた空き地部分も利用する形で,豊
橋事業所の第2工場が完成した。(甲7,丙6,弁論の全趣旨)
(5)平成18年における豊橋市議会での質疑
平成18年9月,豊橋市議会において,本件各土地のうち広範囲が空き地となっ
ている点などが問題とされたところ,当時の豊橋市長であったDは,平成14年に
補助参加人の分社化がされた際に弁護士と相談して検討したが,分社化がされたと
しても会社としての同一性が失われるわけではないから,本件契約への違反は生じ
ないし,法的に返還請求をしていくことは難しいという検討結果となった旨,全く
違う企業が使用するようになれば,本件契約に違反してくる可能性がある旨を答弁
した。(甲11)
(6)本件売却土地の売却の前後における事実経過
ア補助参加人は,平成26年10月9日,豊橋市に対し,同年に定めた「中期
経営計画」の中で,本件売却土地に設けている豊橋事業所の操業を停止する方向性
を固めた旨を明らかにし,その際,次の点を申し入れた。
(神27年3月末までに,豊橋事業所全体を閉鎖すること。
∧頂燭冒宛紊靴董に楫鑁箋囘效呂蓮ず導発を前提として第三者へ売却したいこと。
今後,売却及び開発を行うに当たり,豊橋市に相談したいこと。
なお,補助参加人は,豊橋市の担当者に対し,豊橋事業所閉鎖の準備や買手の選
定等の関係で,社内決定までは上記の事項の公表を控えてほしい旨を申し入れた。
(甲5,8)
イ補助参加人の代表取締役であるEは,平成26年10月29日,本件売却土
地の売却方針につき,豊橋市長に対する説明を行った。(甲7,14)
ウ豊橋市長は,平成26年11月5日,F敷地対策会議を設置した。同会議は,
計7回開催され,本件売却土地の開発が周辺区域の街づくり等に及ぼす影響等につ
いて検討がされた。(甲7,8,弁論の全趣旨)
エ補助参加人は,平成27年3月12日,豊橋市に対し,本件売却土地で営ん
でいる豊橋事業所に関する事業所等廃止申告書を提出した。(甲7)
オEは,平成27年9月16日,豊橋市長に対し,本件売却土地の売却や引渡
しの予定等を報告した。(甲7,弁論の全趣旨)
カ補助参加人は,平成27年9月28日,遊休資産である本件売却土地をA会
社に売却し,約10億円の特別利益を計上する旨を公表した。(甲7,9)
キ豊橋市長は,平成28年6月頃,本件に関する記者会見の場で,「使用計画
した土地は全部使った。事業の放棄と使用計画の放棄をごちゃ混ぜにしないでくだ
さい。」と述べた。(甲6,14)
2争点(返還義務の存否)に関する判断
(1)ア上記認定事実によれば,本件においては,補助参加人が豊橋事業所を閉鎖
することに伴って,本件売却土地の全部が使用されなくなり,かつ,補助参加人は,
遅くとも平成27年3月12日における事業所等廃止申告書の提出の時点で,本件
売却土地を使用する計画を放棄する旨の意思表示を豊橋市に対してしたものと認め
るのが相当である。そうすると,本件協議書の内容(補助参加人による使用計画の
放棄の意思表示を必要とするもの)を踏まえたとしても,補助参加人が本件売却土
地を使用する計画を自ら放棄したという本件契約12条の要件は満たされるものと
解すべきである。
イそこで,次に問題となるのは,本件契約12条に基づく返還義務は,補助参
加人が対象土地の全部を使用しなくなった場合にも生ずるかという点である。
(ア)この点に関し,本件契約12条(この基礎となった本件覚書13条も同様で
ある。)においては,本件各土地のうち使用計画が放棄された「部分」を返還する
という定めがされているところ,対象土地の全部につき使用計画が放棄された場合
であっても,返還対象となる「部分」が対象土地のうちの全部であるという理解を
することは可能であるから,文理上,本件契約12条が,対象土地の全部の使用計
画が放棄された場合を排除しているとは解されない(なお,一般に,法令上,「部
分」という文言が使われる場合には,その「部分」は必ずしも対象の一部に限定さ
れるものではなく,対象の全部をも含む趣旨で使われることもあるのであって(民
法550条ただし書等),「・・・のうち,・・・の部分」というような文言が使
われているからといって,対象の全部が該当する場合を排除しているとは解されな
い。)。
(イ)そして,実質的に考えても,本件契約の締結に至る経緯等に鑑みると,本件
契約12条は,工場誘致政策の関係で,本件各土地に関し,豊橋市が税制面も含め
た種々の便宜供与を行う必要があった一方で,早期に上記政策を遂行することが優
先されて使用計画が確定しないまま本件契約を締結せざるを得なかったために,一
旦本件契約を締結した上で,不要となった部分については便宜供与の対象としたま
まとはせずに速やかに豊橋市に返還するということを念頭に設けられたと理解され
るところ,この趣旨が,対象土地の一部について使用計画が放棄された場合にのみ
妥当し,対象土地の全部について使用計画が放棄された場合に妥当しないという理
由も見当たらない。かえって,対象土地の全部の使用計画が放棄された場合に本件
契約12条が適用されないと解すると,対象土地の一部についてのみ使用計画が放
棄された場合には,補助参加人はその一部を豊橋市に返還しなければならず,第三
者に土地を転売するなどして利益を得ることは本件契約12条に違反し許されない
にもかかわらず,全部について使用計画が放棄された場合には,返還義務がないた
めに第三者への転売等も妨げられないという帰結となり,一部放棄の場合よりも全
部放棄の場合の方が補助参加人に有利,すなわち豊橋市に不利となる。しかし,豊
橋市としては,工場誘致の一環であったからこそ本件各土地の無償提供を始めとす
る様々な便宜供与をしたものである以上,工場としての使用が全面的にされなくな
った場合に,一部放棄の場合には生じないような利益を補助参加人に与えなければ
ならない合理的な理由は一切ないのであって,上記の帰結は,単に均衡を失するば
かりでなく,契約当事者の合理的意思にも反しているというほかない。なお,本件
契約締結後,補助参加人の豊橋事業所のために多くの雇用が生み出され,豊橋市の
税収等にも継続的な貢献がされた点を前提としても,使用計画の全部放棄の場合の
方が一部放棄の場合よりも補助参加人に有利な帰結となることが不合理であること
に変わりはないから,上記の点は,判断を左右しない。
(ウ)このように,文理上,対象土地の使用計画の全部放棄の場合が排除されてい
ると解することはできず,実質的に考えても,全部放棄の場合を除外して考えるこ
とは不合理な帰結を招くのであるから,全部放棄の場合にも,補助参加人は,本件
契約12条に基づく返還義務を負うものと解すべきである(なお,上記返還義務は
飽くまで本件契約12条に基づく債権的な義務であるから,豊橋市に本件売却土地
の所有権が帰属したことがないことは,義務の消長とは関連がない。)。
ウそして,補助参加人が,上記イに述べた返還義務を負うにもかかわらず,目
的物である本件売却土地を,自己及び当時の連結子会社において,返還すべき相手
方と異なる第三者に売却し,これにより返還義務の履行を確定的に不能とさせた行
為(前記前提事実(3))は,豊橋市の権利又は法律上保護される利益を侵害するも
のであって,不法行為に該当すると認められるから,補助参加人は,豊橋市に対し,
損害賠償として,本件売却土地の売却代金相当額63億円及びこれに対する不法行
為の日(本件売却土地の所有権移転登記がされ,返還義務が履行不能となった日)
である平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金を支払うべき義務を負っているといえるから,原告らの請求は全部理由があ
る(したがって,補助参加人の債務不履行責任については,判断することを要しな
い。)。
(2)被告の主張について
ア被告は,本件契約締結当時,補助参加人が豊橋事業所を全面閉鎖して本件各
土地から全面撤退することは想定されていなかったと主張する。しかし,使用計画
の全部放棄が想定されていなかったという事実は,全部放棄の場合をあえて除外す
る趣旨で本件契約12条の合意に至ったとすることとはむしろ矛盾するのであって,
被告の主張は,上記の判断を左右するには至らない。
なお,被告は,使用計画の全部放棄が想定されていたとすれば,豊橋市において
何らかの保全措置が講じられたはずであるとも主張するが,当裁判所は,必ずしも
上記のような想定がされていたという前提を採るものではない(全部放棄の場合を
あえて除外する趣旨ではないと認めるにとどまるものである。)から,被告の指摘
する点は判断に影響しない。また,本件において問題となっているのは飽くまで本
件契約の解釈であるから,豊橋市が当事者となっていない別件覚書(補助参加人と
総社市等との間で取り交わされたもの)の文言との比較などによって,判断が左右
されるものではない。
イまた,被告は,少なくとも本件協議書が取り交わされた後は,本件契約12
条に基づく返還義務は存在しないなどとも主張する。
この点に関し,まず,本件協議書はその文言上も飽くまで本件契約の趣旨を再確
認したものと位置付けられている(なお,豊橋市の担当者も,後に,本件協議書に
より新たな権利義務が設定されるものではないという理解を述べているところであ
る(証拠(甲14)により認められる。)。)のであって,本件契約と本件協議書
が実質的に異なる意味内容を定めていると解釈すること自体にそもそも無理がある。
そして,具体的に本件契約や本件協議書の文言に即して検討してみても,本件契約
12条の「放棄」という文言は,補助参加人側からの使用をしない旨の明示又は黙
示の意思表示があることを前提にしていると解し得るのであって(信託法99条,
183条3項等参照),本件協議書は,飽くまで本件契約12条の内容を明確化し
たものにとどまると解するのが自然である。なお,対象土地を使用しないことに関
する意思表示が補助参加人によってされる必要があるということと,そうした意思
表示がされた場合に豊橋市から返還を求められるということは,何ら矛盾するもの
ではない。
さらに,被告が主張するように,本件協議書が取り交わされたのと同じ時期に,
昭和41年覚書が取り交わされ,その中で鉄道引込線をめぐる費用負担に関して本
件契約よりも補助参加人に不利な合意がされた事実は認められるものの,昭和41
年覚書が,上記費用負担等に関して豊橋市が図っている便宜が過大であるという批
判を受けて取り交わされた経緯からすれば,豊橋市が,同じ機会にあえて本件契約
よりも補助参加人の便宜を図るような内容の協議書を取り交わすことは考え難いの
であって,被告が主張する点は,本件協議書の解釈には影響しない。なお,鉄道引
込線については,補助参加人の専用に係るものでありながら,元々豊橋市によって,
補助参加人には特段の負担が生じない形で,無償の便宜供与がされていたことに鑑
みれば,豊橋市が市議会等の意向を受けて費用負担を求めるなどした場合に,補助
参加人が何の見返りもないのにこれを了承することが不自然であるとまではいえな
い。
加えて,被告は,別紙物件目録記載2及び10の各土地の売買をもって,本件契
約12条に基づく返還義務が存在しないことの根拠としているが,上記各土地は下
水道事業のために豊橋市に売却されたものであるから,その状況からして,補助参
加人が自ら使用計画を放棄したとは認められない。したがって,上記各土地の売買
は,本件契約12条が問題となる場面には当たらないので,被告の主張は採用する
ことができない。
ウ被告は,平成18年9月におけるD豊橋市長の答弁を援用するが,上記答弁
は,飽くまでも補助参加人の分社化の場合を念頭に,返還請求が法的に難しいとい
う検討結果を述べたにとどまり,本件のように第三者に対象土地が売却された場面
とは異なる場面についてのものである上,上記答弁においては,全く別の企業が対
象土地を使用する場合には返還請求が可能であることも示唆されていたものである
から,上記答弁も本件判断を左右するものではない。
(3)補助参加人の主張について
ア補助参加人は,第2工場が完成した昭和43年の時点で,本件各土地のうち
使用計画を放棄する部分はなくなったため,それ以降,本件契約12条の適用の余
地はないと主張するところ,いずれにせよ本件各土地の一部又は全部が工場用地と
して使用されなくなれば,豊橋市が補助参加人に無償提供をする合理的な理由がな
くなることに変わりはないため,一旦使用するようになったがその後使用を中止し
て使用計画を放棄した場合と,そもそも当初から一切使用しない場合とを区別する
合理的な理由はないから,補助参加人の主張は採用することができない。
イまた,補助参加人は,合理的期間が経過すれば本件契約12条は無効となる
と解すべきである旨主張するが,本件協議書において,本件契約12条には期限が
ないことが明示的に確認されている状況の下で,補助参加人が主張するような法的
効果を導く具体的根拠は見当たらない。この点に関し,補助参加人において,長期
間にわたって豊橋市の財政等に貢献してきた事情があるにせよ,それをもって,本
件契約に係る条項が一定期間経過後に当然に失効するとまで解することは到底でき
ない。補助参加人としては,本件契約締結後あるいは本件協議書を取り交わした後
においても,契約内容の見直しを求める機会はあったのであって,そのような具体
的な行動に出なかった以上,本件契約や本件協議書の内容に拘束されることはやむ
を得ないというほかない。また,補助参加人は本件各土地を無償で取得したのであ
るから,それらを使用しなくなった場合に豊橋市に返還しなければならないとして
も,補助参加人の財産権や営業の自由が不当に害されているなどとは評価し難い。
ウさらに,補助参加人は,買戻しの特約に係る期間制限に関する民法580条
の法意をも問題とするが,そもそも,本件契約は,本件各土地の所有権を補助参加
人に無償で移転する内容の契約であるから,有償契約である売買契約とは性質を大
きく異にしており,売買を前提とした民法580条の類推適用等をする前提を欠い
ているというべきである。すなわち,有償で所有権を取得した者が買戻権を行使さ
れ得るという不安定な地位に長期間置かれるのを防ぎ,もって取得者を保護すべき
要請があるとしても,本件のように,無償で土地を取得した者がその利用を終えた
時に土地を無償で返還することになることが想定される場合において,有償で取得
した者と同様に取得者を保護しなければならない要請が働くとまではいえない。
第4結論
以上の次第で,原告らの請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担に
つき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条,66条を適用して,主文のとおり判決
する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 市原義孝
裁判官 平田晃史
裁判官 佐藤政達
※別紙物件目録は添付省略

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