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主 文
1 本件訴えをいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請 求
豊橋市長が平成16年9月13日付けでした豊橋市α×番206の土地に関する
都市計画法29条1項の規定による開発行為の許可処分(豊橋市指令建指第××−
××号)のうち別紙「合成図」の赤線で囲まれた土地に係る部分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告らが,豊橋市長が行った開発行為の許可処分(豊橋市指令建指第×
×−××号)に従って宅地造成が行われると,原告らの所有する土地が建築基準法
43条1項本文の接道要件を充たさなくなるなどと主張して,同許可処分の取消し
を求める事案である。
1 前提事実(争いがないか,証拠上明らかである。)
(1) 当事者
原告aは豊橋市α×番729の土地(以下,「豊橋市α」所在の土地を地番のみ
で表記する。)を,原告bは×番730の土地を,原告cは×番536の土地を,
それぞれ所有する者である(各土地の位置関係につき,別紙「合成図」参照)。
豊橋市長は,都市計画法29条1項に基づく開発行為の許可処分の権限を有する
者であり,被告は豊橋市長が所属する行政主体である。
(2) ×番206の土地(以下「本件土地」という。)を所有するd株式会社(以
下「d」という。)は,平成16年8月23日,本件土地について,予定建築物等
の用途を「専用住宅(宅地分譲)」とする都市計画法29条1項に基づく開発行為
の許可を申請し,豊橋市長は,同年9月13日,同申請を許可した(豊橋市指令建
指第××−××号。以下,同開発行為を「本件開発行為」,同許可処分を「本件許
可処分」という。)。
なお,原告らの所有地と本件土地の間には,独立行政法人水資源機構(以下「水
資源機構」という。)が所有する×番526の土地(以下「本件係争地」ともい
う。)が存在する。
(3) 原告ら及びeは,平成18年9月7日,本件許可処分について審査請求を行
ったが,豊橋市開発審査会は,同年10月23日,同審査請求は,処分の日から約
1年11か月を経過してされたものであり,行政不服審査法14条3項に定める審
査請求期間を大幅に徒過しており,同条ただし書に定める「正当な理由があると
き」に当たらない不適法なものであるとして,同審査請求を却下した。
(4) 原告らは,平成19年4月22日,本件許可処分の一部取消しを求める本訴
を提起した。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本案前の主張
(被告の主張)
ア 原告適格がないこと
原告らは,本件開発行為の対象区域の北側に,水資源機構所有の×番526の土
地(本件係争地)の一部が含まれており,本件係争地の幅員が狭められた結果,更
にその北側の原告らの土地において,建物の新築や改築が困難となったり,自動車
での出入りが不便になったりする等の不利益が生じていると主張する。
しかし,都市計画法上の開発許可制度は,原告らのような開発区域外の住民の個
別的な生活利益を保護しているものとは解されないから,原告らは,本件開発行為
の許可処分の取消しを求める法律上の利益を有する者とはいえず,原告適格を有し
ないというべきである。
イ 訴えの利益がないこと
本件開発行為は,平成17年7月21日に工事を完了し,同日,工事施行者であ
るdに対し検査済証が交付されている。
したがって,本件開発行為の許可処分の取消しを求める原告らの本件訴えは,訴
えの利益を欠くものというべきである。
ウ 出訴期間を徒過していること
本件許可処分は,平成16年9月13日付けでされており,本件訴えの提起は,
その処分の日から1年以上を経過してされている。
したがって,原告らの本件訴えは,行政事件訴訟法14条2項が定める出訴期間
を徒過するもので不適法なものである。
なお,原告らは,本件許可処分について審査請求を行っているが,豊橋市開発審
査会の平成18年10月23日付け裁決は「却下裁決」であり,行政事件訴訟法1
4条3項の適用はない。
エ 原告らは,本件係争地をめぐる従前の経緯を基に,被告が本件訴えに係る
原告適格,訴えの利益及び出訴期間を争うことは許されない旨主張するが,同主張
のうち覚書(甲5,6)の存在は認めるが,その余は争う。同覚書は本件係争地を
対象とするものではない。
(原告らの主張)
ア 原告適格について
本件土地は,別紙「合成図」の110,228,227,226,K1,235,213,214,215,
236,1P,24-2,412,110の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた土地であったの
に,現在では,同別紙の110,228,227,226,K1,235,234,405,404,403,236,
1P,24-2,412,110の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた土地とされて,本件係
争地を侵食しており,そのため,本件係争地の幅員は2.727mとされている。
被告は,本件係争地を含む水資源機構が所有する土地を公道として整備する旨確
約したにもかかわらず,これを履行しておらず,本件許可処分に従って,本件係争
地の幅員が2.727mであるという誤った認識のまま,dが宅地造成を施行する
と,仝狭陲蕕僚衢地は,建築基準法上の接道要件を充たさないことになり,同土
地上に建物の新築,改築ができなくなること,原告らは,これまで自由に出入り
して自宅まで車を乗り入れることができたのにそれができなくなること,以上の支
障が生ずる。
したがって,原告らは,本件許可処分の取消しを求める原告適格を有する。
イ 訴えの利益について
被告の主張は争う。
ウ 出訴期間について
原告らは,平成18年8月31日に本件許可処分がされたことを知ったものであ
り,そのころ,以下の経緯を認識したのであるから,行政不服審査法14条3項た
だし書の正当事由がある。
(ア) 豊橋市開発審査会は,平成16年8月27日,dに対し,本件土地の北側
隣接地の通路について関係者と協議の上,当該通路に面した箇所の工事を行うよう
指導していた。
(イ) dの担当者は,同年9月3日及び同月7日,「総代及び5人(本件係争地
の北側の地権者ら)との話合いはする。相談には応じ,可能な限り協力はする。工
事に着工する前に相談を行い,その条件に従って施行する。上記についてまちがい
なく約束し,履行する。」,「許可があれば必ず要望は聞く。話合いには応じでき
る限り要望には応える。dは許可が下りたところで5人と話合いに応じる。」と誓
約していた。
(ウ) 水資源機構は,同年8月26日,豊橋市長に対し,その所有する本件係争
地に隣接する本件土地の開発を承諾する旨の承諾書を提出したが,その際,「開発
予定者(d)に対し,機構所有地の北側に隣接する土地に居住する住民との十分な
話し合いをすることを求めている」と記載していた。
(エ) 豊橋市建設部建築指導課の主幹fらは,同月18日及び同月27日,原告
らと面談しており,原告らの申入れの内容を十分に掌握していたにもかかわらず,
豊橋市開発審査会のdに対する上記(ア)の指導内容を原告らに伝えなかった。
(オ) 加えて,上記bらは,原告らに秘匿して, 屐複笋)許可があれば,必
ず要望は聞く」というのは,事前の話合いを許可の条件とすると,それによって全
体の開発行為が遅れることになり,営業上の損失が大きくなるという意味であり,
許可によって話合いを有利にしようとする意向ではない,◆複笋)「開発審査会
の意見に基づく指導については,間違いなく履行する」とはっきり意思表示してい
るため,地権者5人との事前相談を理由に開発許可を保留することはできない,
面会や相談の機会が設けられているから,後は民間同士の条件設定となり,現状で
地権者5人が了解していないことが,開発許可を保留する理由にはならない,た
資源機構の同意書は,隣接土地所有者の同意として必要となる,と一方的な解釈を
した。
(カ) 結局,豊橋市長は,前記(ア)の開発審査会の意見を無視して,同年9月1
3日,本件許可処分をした。
エ 本件係争地をめぐる従前の経緯について
昭和54年ころ,被告の要望に基づいて本件係争地を含む公道化事業が始められ,
昭和55年5月27日,昭和56年2月27日及び昭和57年12月13日に豊橋
市建設部長らと豊橋市α地区代表らとの間で覚書(甲5,6)を取り交わし,本件
係争地を含む水資源機構の所有に係る用地を公道として整備していくことが確認さ
れた。
また,β地区住民からなるg協議会は,昭和59年9月20日及び平成2年3月
22日に,豊橋市建設部長等に対し,上記の公道としての整備を要望した。
このような経緯があるから,被告は,本件訴えに係る原告適格,訴えの利益及び
出訴期間を争うことは許されない。
(2) 本案に関する主張
(原告らの主張)
ア 原告らの所有地と本件開発行為が対象とする本件土地との間の本件係争地
は,その幅員が4m以上あった。
イ 本件係争地については,前記(1)「原告らの主張」欄エで述べた経緯があ
り,原告らや一部の原告らの先代は,本件係争地等を被告に舗装させて道路として
公然と使用してきたものであり,被告に対し,本件係争地を公道として整備するよ
う求めてきた。
ウ それにもかかわらず,豊橋市長は,前記(1)「原告らの主張」欄ウで述べ
たとおり,豊橋市開発審査会の意見を無視して本件許可処分をしたものであって,
dは,本件許可処分に基づいて,本件係争地の幅員が2.727mであることを前
提とした宅地造成を行おうとしている。
そして,dによる宅地造成が行われると,前記(1)「原告らの主張」欄アで述べ
たとおり,原告らの所有地は接道要件を充たさなくなり,また,自動車での出入り
ができなくなる。
エ 以上のとおり,本件許可処分は違法であるから取り消されるべきである。
(被告の主張)
ア 原告らの主張アは否認する。
イ 原告らの主張イのうち,覚書(甲5,6)の存在は認めるが,その余の事
実は争う。同覚書は本件係争地を対象とするものではない。
ウ 原告らの主張ウは争う。
水資源機構が本件係争地の使用を承諾している上,dはセットバックを申し出て
いることから,とりあえず,原告らの日々の生活に支障を来すことはない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本案前の主張)について
(1) 原告適格について
ア 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1
項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該
処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵
害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多
数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属
する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解され
る場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処
分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取
消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判
断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,
当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性
質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,
当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,
当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令
に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害さ
れる態様及び程度をも勘案すべきである(同条2項参照)。
イ 原告らは,本件開発行為の対象区域には,その北側の本件係争地の一部が
含まれており,被告は,本件係争地を含む水資源機構が所有する土地を公道として
整備する旨確約したにもかかわらず,これを履行しておらず,本件許可処分に従っ
て宅地造成が行われると,原告らの所有地が,建築基準法上の接道要件を充たさな
いこととなり,同土地上に建物の新築,改築ができなくなったり,これまで自由に
出入りして自宅まで車を乗り入れることができたのにそれができなくなる旨主張す
る。
しかしながら,都市計画法29条1項の開発許可に係る基準を定めた同法33条,
34条やその他の下位法令をみても,地盤の沈下,崖崩れ,出水その他の災害等の
予防といった人の生命,身体の安全に関わる権利利益を保護している規定はあるも
のの(同法33条1項7号),個人の財産に関わる権利利益の保護までを目的とす
ると解すべき根拠となる規定は見当たらない。なお,同法33条1項14号は,開
発行為をしようとする土地等につき当該開発行為の施行等の妨げとなる権利を有す
る者の相当数の同意を得ていることを許可基準と定めているが,同規定は,開発許
可をしても,許可を受けた者が開発区域等について私法上の権原を取得しない限り
開発行為等をすることはできないことから,開発行為の施行等につき相当程度の見
込みがあることを許可の要件とすることにより,無意味な結果となる開発許可の申
請をあらかじめ制限するために設けられているものと解され,同規定が権利者個々
人の権利を保護する趣旨を含むものと解することはできない(最高裁平成6年(行
ツ)第189号同9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁参照)。
そうすると,原告らの所有地上に建物の新築,改築ができなくなるとか,車での
出入りに支障が生ずるなどの原告らが主張する不利益は,いずれも財産上のもので
あるか,少なくとも,人の生命,身体の安全に関わるものではないのであって,原
告適格を基礎付ける事情には当たらないものというべきである。
ウ また,原告らは,被告が本件係争地を含む水資源機構が所有する土地を公
道として整備する旨確約したにもかかわらず,これを履行していない旨を主張する
が,同主張は,結局,公道として整備してもらう利益が害されたという財産上の権
利に関わる事柄を述べるものにすぎず,原告適格を基礎付ける事情には当たらない
というべきである。そして,都道府県知事等は,開発許可の申請があった場合にお
いて,当該申請に係る開発行為が,法令の基準に適合し,かつ,その申請の手続が
都市計画法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは開発許可
をしなければならないのであるから(都市計画法33条1項),仮に原告らが主張
するような経緯があったとしても,そのことは,開発行為の許否を判断する上で考
慮すべき事情に含まれるものではない。
エ したがって,本件訴えは,原告適格を欠くものというべきである。
(2) 訴えの利益について
ア 前記前提事実及び乙1によれば,豊橋市長は,平成16年9月13日,都
市計画法29条1項に基づきdに対して本件許可処分をし,dは,平成17年7月
21日,本件許可処分に基づく本件開発行為を完了し,同日,検査済証が交付され
たことが認められる。
そして,本件開発行為に関する工事が完了し,検査済証の交付もされた後におい
ては,本件開発許可が有する本来の効果は既に消滅しており,本件において,他に
その取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないから,本件開発許可
の取消しを求める訴えは,その利益を欠くものといわざるを得ない(最高裁平成3
年(行ツ)第46号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号4955頁)。
イ したがって,本件訴えはその利益を欠くものというべきである。
(3) 出訴期間について
ア 前記前提事実によれば,原告らは,本件許可処分に対し,処分の日から1
年11か月以上が経過した平成18年9月7日に審査請求をしているが,同審査請
求が,行政不服審査法14条3項所定の審査請求期間(1年)を大幅に徒過してさ
れたものであることは明らかであり,豊橋市開発審査会もこれを却下している。
原告らは,同項ただし書にいう「正当な理由」がある旨主張するが,証拠(乙2,
3)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,本件許可処分の対象となった本件土地
の直近に居住し,本件土地と原告らの所有地の間に存する本件係争地の公道化につ
いて長年にわたって関心を抱き,平成17年には,弁護士に委任した上で,被告に
対して本件係争地を公道とすることを求める訴えを提起するなど,本件開発行為の
経緯について十分知り得る状況にあったことが認められる上,本件許可処分の内容
は開発登録簿に登録されており,原告らが同登録簿を閲覧したりその写しを入手す
ることも可能であったから(都市計画法47条),原告らが本件許可処分から1年
以上が経過して審査請求をしたことにつき正当な理由があるということはできない。
したがって,同審査請求を却下した上記裁決は正当であるから,本件訴えの出訴期
間について行政事件訴訟法14条3項の適用は認められない。
イ そうすると,本件許可処分がされたのは平成16年9月13日であり,原
告らが本件訴えを提起したのは平成19年4月22日であるから,本件訴えは,行
政事件訴訟法14条1項(ただし,平成16年法律第84号による改正前のもの),
2項の出訴期間を徒過してされたものであり,同項ただし書所定の「正当な理由」
も認められないことが明らかである。
ウ したがって,本件訴えは出訴期間を徒過してされた不適法なものというべ
きである。
(4) なお,原告らは,本件係争地をめぐる従前の経緯を基に,被告が本件訴えに
係る原告適格,訴えの利益及び出訴期間を争うことは許されない旨主張するが,原
告らが主張するこれらの事情は,いずれも上記各訴訟要件の存否に関わらないもの
であるから,原告らの同主張は失当である。
2 以上によれば,本件訴えは不適法であるからいずれも却下することとし,主
文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 松並重雄
裁判官 前田郁勝
裁判官 片山博仁

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