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平成18年12月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成17年(行ウ)第53号 法人税更正処分取消等請求事件
口頭弁論終結日 平成18年9月11日
判 決
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請 求
1 名古屋中村税務署長が,原告に対し,平成14年12月24日付けでした平
成11年5月1日から平成12年4月30日までの事業年度における法人税の
更正処分(ただし,確定申告及び修正申告に基づいて計算された金額を超える
部分)及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 名古屋中村税務署長が,原告に対し,平成14年12月24日付けでした平
成13年5月1日から平成14年4月30日までの事業年度における法人税の
更正処分(ただし,確定申告に基づいて計算された金額を超える部分)及び重
加算税の賦課決定処分を取り消す。
3 名古屋中村税務署長が,原告に対し,平成14年12月24日付けでした平
成13年5月1日から平成14年4月30日までの課税期間の消費税及び地方
消費税の更正処分(ただし,確定申告に基づいて計算された金額を超える部
分)を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,不動産業を営む原告が,愛知県による収用が予定されている別紙物
件目録1記載の土地(「本件土地A」という。)を強制競売の売却手続によっ
て取得した上,これを株式会社Dに転売し,その土地の一部が同社から愛知県
土地開発公社(「県公社」という。)に売却されて,Dが租税特別措置法(平
成15年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)65条の2(収用換地
等の場合の所得の特別控除)所定の特別控除による譲渡益の損金算入をした法
人税の確定申告をしたところ,被告が,原告とD間の上記売買契約(「本件取
引」という。)は,原告が県公社に対する売主となった場合に生じる租税負担
を回避すること等の目的で行われた通謀虚偽表示であって無効であり,県公社
への売主は原告であって,上記土地の売却によって得た利益は原告に帰属する
ものとして,原告に対し確定申告に係る法人税並びに消費税及び地方消費税の
更正処分及び重加算税の賦課処分をしたので,原告が,これらの処分の取消し
を求めた抗告訴訟である。
1 前提事実(争いのない事実)
(1) 当事者等
ア 原告
原告は,平成7年9月13日に設立された商品券販売業及び不動産販売
業等を目的とする有限会社である。なお,原告が飲食店を経営している実
態はない。
原告の代表者は,平成10年11月ころまではEであり,その後,同人
の妻のFを経て,現在はEの子のGとなっている。
イ D
Dは,昭和31年3月15日に設立された旅行業及び商品券販売業等を
目的とする株式会社である。なお,同社が履歴事項全部証明書記載の喫茶,
飲食,西洋料理営業等の飲食店を経営している実態はない。
同社の代表者であるHは,Eの甥に当たる者である。
(2) 原告による本件土地Aの取得
原告は,平成11年11月9日,名古屋地方裁判所平成10年(ヌ)第18
3号不動産強制競売事件の売却手続において,本件土地Aを代金6357万
円で取得した。
上記競売事件における最低売却価額は4730万円で,物件明細書の備考
欄には,本件土地Aが市街化調整区域及び宅地造成等規制区域にあることや,
同土地の北側部分の一部(791.63屐砲都市計画道路(高架式自動車
専用道路)の布設計画による拡張部分の道路予定地に含まれていること,拡
幅工事開始時期は平成13年,拡幅工事完了時期は平成16年が予定されて
いること,上記部分の買収予定者は愛知県であること,買収に伴い補償金の
支払が見込まれることなどが記載されていた。
(3) 愛知県との本件土地Aの買収協議
愛知県は,平成11年11月29日,原告との間で,本件土地Aの一部
(別紙図面記載の点線で囲んだX部分(792.98屐法砲稜禺協議を開
始した。原告の窓口となって上記協議に当たったのはEであった。
愛知県から提示されたX部分の買収価格は,1崚たり8万5600円
(合計6787万9088円)であったが,Eは,それでは低額にすぎると
して提示額の見直しを求めるとともに,本件土地A全体の買収をするよう要
請した。
この協議は,同年12月16日にも行われたが,合意に至らなかった。
(4) 原告からDへの本件土地Aの売却
原告は,上記同年12月16日の協議の翌日である同月17日,本件土地
Aの全部をDに代金7000万円(1崚たり約4万3400円)で売却す
る旨の売買契約を行い(本件取引),同日,同社への所有権移転登記手続を
した。
本件取引の上記売買代金7000万円は,原告からDへの貸付金として処
理され,代金の現実の授受は行われなかった。
(5) 愛知県による本件土地Aの一部の買収経緯
ア 本件土地Aの分筆と買収
愛知県は,平成12年1月24日,Eと協議した際,同人から,本件土
地Aの所有権が原告からDに移転した旨を告げられた。
その協議には,Eのほか,Dの代表者であるHも同席していたが,それ
以後の買収協議においても引き続きEが売主側の窓口となって交渉にあた
り,泰宏が実質的に交渉にあたることはなかった。
上記1月24日の協議の結果,愛知県が,本件土地Aの北側部分でX部
分の一部に当たる本件土地B(543.97屐な婿羶淕無載の本件土地
B部分)を1崚たり8万5600円で買収することで合意に達した。
これを受けて,同年2月16日,県公社がDから本件土地Bを4656
万3832円で買収することを内容とする売買契約が締結された。県公社
は,本件土地Bの収用補償金として,Dに対し,同月25日に3259万
4000円,同年3月31日に1396万9832円をそれぞれ支払った。
そして,同年3月16日,本件土地Aから別紙物件目録2記載の土地
(本件土地B)が分筆され,同月21日,Dから愛知県に所有権移転登記
がなされた(この分筆後の別紙図面記載の残地を「本件残地B」とい
う。)。
イ 本件残地Bの分筆と買収
愛知県は,平成14年1月ころ,本件残地Bについての買収協議を行い,
同月23日,本件残地Bの北側部分の土地である別紙図面記載の本件土地
C(357.11屐砲稜禺について合意に至った。
そして,同年2月5日,県公社がDから本件土地Cを3056万861
6円(1崚たり8万5600円)で買収することを内容とする売買契約
が締結された。県公社は,Dに対し,本件土地Cの収用補償金として,同
月15日に2139万8000円,同年3月5日に917万0616円を
それぞれ支払った。
本件残地Bから,同年2月20日,別紙物件目録3記載の土地(本件土
地C)が分筆され,同月22日,Dから愛知県に所有権移転登記がなされ
た(この分筆後の別紙図面記載の残地を「本件残地C」という。)。
ウ Dから原告への本件残地Cの譲渡
その後,Dは,平成14年4月30日,原告に対し,本件残地C(71
3屐砲鬘械娃坑緩5000円(1崚たり約4万3400円)で譲渡す
る旨の売買契約を締結し,原告への所有権移転登記をした。この売買代金
は,原告からDに対する貸付金と相殺処理された。
(6) Dによる確定申告と原告に対する更正
Dは,平成11年5月1日から平成12年4月30日まで(「平成12年
4月期」という。)及び平成13年5月1日から平成14年4月30日まで
(「平成14年4月期」という。)の各事業年度の法人税につき,それぞれ
本件土地B及びCの県公社への各売却による譲渡益について,上記租税特別
措置法65条の2の特別控除を適用して損金算入をした上,それぞれ確定申
告をした。なお,原告は,平成12年4月期の確定申告について,別表「課
税の経緯」記載のとおり修正申告をした。
これに対し,名古屋中村税務署長は,原告とD間の本件取引は,架空の売
買であり,Dの県公社に対する本件土地B及び本件土地Cの各売買の実際の
取引主体は原告であると認定し,原告の平成12年4月期及び平成14年4
月期における各法人税及び平成13年5月1日から平成14年4月30日ま
での課税期間(「平成14年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税
につき,別表「課税の経緯」の各「更正等」欄記載のとおりの各更正処分を
し,法人税については同表記載のとおりの各重加算税の賦課決定処分をした。
(7) 原告による不服申立等の経緯と本訴提起
原告は,上記更正決定等に対し,別表課税の経緯の「異議申立」及び「審
査請求」欄記載のとおりの不服申立手続をし,これに対する裁決等は同表
「異議決定」及び「裁決」欄各記載のとおりである。
原告は,平成17年10月6日,本訴を提起した。
2 争 点
(1) 本件取引は通謀虚偽表示により無効で,本件土地B及びCの県公社への各
売買契約の売主は原告と認められるか否か(被告の主位的主張)
(2) 法人税法37条8項(寄付金の損金不算入)の適用の有無(被告の予備的
主張)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1) 本件取引は通謀虚偽表示により無効で,本件土地B及びCの県公
社への売主は原告と認められるか否か(被告の主位的主張)について
(被告の主張)
租税法律主義の下では,法律の根拠なしに,当事者の選択した法形式を通
常用いられる法形式に引き直した上,それに対応する課税要件が充足された
ものとして課税処分を行うことは許されないが,仮装行為(意図的に真の事
実や法律関係を隠ぺいないし秘匿して,見せかけの事実や法律関係を仮装す
ることであり,通謀虚偽表示がその典型例である。)が存在する場合には,
仮装された事実や法律関係ではなく,隠ぺいないし秘匿された真実の事実や
法律関係に従って課税が行われなければならないのであって,そのことは,
課税要件事実が外観や形式に従ってではなく,実体や実質に従って認定され
なければならないことの当然の論理的帰結である。
本件取引は,以下のとおり,原告とD双方にとって経済的合理性を認め難
い極めて不自然な取引であって,民法94条1項の通謀虚偽表示に当たり無
効である。
ア 本件取引の不自然さ
(ア) 原告は,強制競売の売却手続によって,本件土地Aを取得したもので
あるが,その物件明細書の備考欄には,同地の北側部分(791.63
屐砲都市計画道路の布設計画による拡張部分の道路予定地に含まれて
おり,愛知県による買収に伴い補償金の支払が見込まれることなどが記
載されていた。また,原告は,本件土地Aの購入資金に充てるため,朝
銀中部信用組合(旧朝銀岐阜信用組合,現在のイオ信用組合)に対し,
融資を申し込んでいるが,その借入申込書には,資金使途として売却用
不動産購入資金と記載され,買収価格が1坪当たり25万円の場合と3
0万円の場合についての売却利益の予定金額が記載されていた。
これらによれば,原告が,本件土地Aを取得する際,愛知県が同土地
を買収する見込みがあり,それによって補償金が支払われることを認識
し,これを同県に転売することで相当額の譲渡益を得ることを目的とし
ていたことが明らかである。
しかし,原告は,本件土地Aの北側部分(792.98屐砲砲弔い董
平成11年12月16日,買収協議に当たった愛知県の職員から,1
当たり8万5600円という買収価格の提示を受けたにもかかわらず,
その翌日の同月17日には,本件土地A全部をDに7000万円(1
当たり4万3370円)で売却している。その売却利益は643万円
(7000万円と取得価額6357万円の差額)にすぎず,朝銀中部信
用組合に提出した書類に記載されていた売却利益の予定額にも満たない
ものであった。
さらに,本件取引の上記代金(7000万円)は,原告の決算上,D
に対する貸付金として処理され,現実に代金が授受された事実はない。
(イ) また,Dには本件土地Aを取得する利益がない。
すなわち,Dの代表者であるHは,本件土地Aから本件土地Bを分筆
した残りの土地で焼き肉レストランを経営することを計画していた旨供
述するが,同土地は市街化調整区域内に位置しており,上記のようなレ
ストランの建築は許可されないから,かかる計画が存在していなかった
ことは明らかである。
以上のとおり,本件取引は,原告及びD双方にとって経済的合理性を
認め難いものであって,不自然であるというほかない。
イ 原告がDと本件取引を仮装した動機について
(ア) 特別控除の適用の可否
原告は,本件取引を仮装することにより,上記租税特別措置法65条
の2所定の特別控除(「本件特別控除」という。)による税負担の軽減
効果を享受することを図ったものである。
すなわち,本件特別控除は,法人の有する資産が棚卸資産の場合には
適用されないところ,原告のように不動産業を営む法人が販売目的で所
有している土地等は棚卸資産に該当することになるから,仮に,原告が
本件土地B及びCを県公社に譲渡したときには本件特別控除所定の額を
損金に計上することはできない。
これに対して不動産業を営まない法人が所有する土地は,一般に棚卸
資産に該当しないから,Dが本件土地B及びCを県公社に譲渡した場合
には,本件特別控除所定の額を損金の額に算入することができるのであ
り,原告はこの仕組みを認識していたものである。
以上のとおり,原告には,Dに本件土地B及びCの譲渡益を申告させ
ることで,本件特別控除の適用を受け,本来,原告が負担すべき課税を
免れることができるのであって,本件取引を仮装する動機が存在したこ
とは明らかである。
(イ) Dの繰越欠損金の利用
Dは,本件土地B及びCの各取引当時,多額の累積欠損金を有してお
り,資産の販売等により利益を得た場合であっても,累積欠損金の範囲
内では,法人税が課税されない状況にあった。
他方,原告は,恒常的に繰越欠損金を有している法人ではないから,
資産の販売等により利益が生じた場合には,その所得に応じた租税債務
が発生することになる。
そうすると,原告が本件土地B及びCの譲渡益を取得した場合には多
額の法人税が発生することになるが,Dが同様の譲渡益を取得した場合
には,繰越欠損金額により租税負担が生じないことになる。
このような事情も,原告が本件取引を仮装した動機の裏付けとなると
いうべきである。
ウ 原告とDとの人的・物的関係について
(ア) 原告は,平成10年3月20日,Dの全株式を取得した上,平成14
年4月30日までこれを保有していたのであり,本件取引当時,Dは原
告の子会社であった。
なお,Dの全株式については,平成10年3月20日付けでJに譲渡
する旨の契約書が存在するが,同契約には,買戻特約が付されており,
原告とDとの資本上の密接な関係は否定できない。
(イ) Dの代表者であるHは,原告の従業員として,原告から給与を支給さ
れていた上,同人はEの甥に当たる者であり,また原告の代表者はEの
子であることなど,両社が人的に密接な関連性をもっていたことが明ら
かである。
エ まとめ
以上のとおり,本件取引は,原告及びD双方にとって,経済的合理性を
認め難く,不自然な取引といわざるを得ない。
したがって,本件取引が,原告とDとの間で仮装されたものであること
は明らかであって,民法94条1項の通謀虚偽表示に該当し無効である。
(原告の主張)
被告の主張は否認ないし争う。
ア 本件取引の不自然さについて
私的自治の原則からすれば,当事者間で合意に達するのであれば,どの
ような売買契約を締結するかは,当事者の自由な選択に任されているもの
であるところ,本件取引は,原告とDによって,様々な経営判断を前提に
行われたものである以上,これを否定する理由はないはずである。
被告は,本件取引が通謀虚偽表示に該当する理由として,原告とDの双
方にとって経済的合理性がないなどと主張する。
しかし,実際には,原告は,本件土地Aを6357万円で落札し,70
00万円でDに譲渡することによって,その差額分の利益を得ているし,
Dも本件土地Aの一部の本件土地Bを4656万3832円で,同Cを3
056万3616円で県公社に売却することにより,上記取得価額700
0万円との差額分の利益を得ている。
被告は,本件取引において,売買代金7000万円が現実に授受されて
いないことをその不自然さの根拠とするが,上記代金はDに対する貸付金
として処理され,後に利息も含め全額返済されており,何ら不自然ではな
い。
イ 仮装の動機について
被告は,原告が本件取引を仮装する動機として,原告には適用されない
本件特別控除の適用を受け,また,Dの累積欠損金を利用して,税負担の
軽減効果を享受するためであると主張する。
しかし,そのような動機があればこそ,原告とDが,仮装ではなく,実
体を伴う売買契約を締結したことが明らかである。
すなわち,被告も主張するとおり,原告が所有者として本件土地Aを県
公社に売却したとすれば,仮に1崚たり8万5600円で売却できたと
しても,本件特別控除の適用を受けられない可能性があるため,譲渡益の
大部分を税金として支払わなければならなくなってしまう。
そのため,そのような無益な売買を行い,みすみす税負担を負うよりも,
たとえ,自らの譲渡益は少額となっても,本件土地Aをより有効に利用し
うるグループ会社であるDに売却して所有権を移転した方が,グループ全
体にとって利益であると考えることも,一つの経営判断ないしはグループ
企業間の経営協力として,十分に経済的合理性がある行為である。
被告は,本件取引における原告の効果意思を否定するが,本件取引が仮
装取引(通謀虚偽表示)であるとすれば,原告が本来は所有権を手放す意
図がないにもかかわらず,何らかのメリットのために所有権を移転するか
のような外観を作出し,実際には,自己の下へ所有権を留保し続けている
はずである。
しかし,上記のとおり,原告には,本件土地Aの所有権を留保すること
について何らメリットはない。本件特別控除による税負担の軽減や累積欠
損金の利用は,原告が本件土地Aの所有権を手放し,Dに所有権を移転し
たからこそ,Dが享受し得た利益であって,原告には本件取引に係る内心
的効果意思があったことは明らかである。
ウ 原告とDとの人的・物的関係について
被告は,原告とDとが,人的・資本的構成上密接な関連性を有している
ことをもって,本件取引が通謀虚偽表示によるものであることの理由とす
る。
しかし,Dの株主はJであって,原告は,同社の株式の買戻権を有して
いるにすぎず,同社を子会社として支配しているものではない。
仮に,Dが原告の子会社であると評価されたとしても,そもそも,両社
は別法人であるから,原告が,Dの利益を自己の利益として享受し得ない
ことは明らかである。
確かに,原告とDとは,経営者が親族同士であって,関連性を有してい
ることは否定できないが,その収支は明確に区別され,別個に税務申告を
行っており,Dの法人格を否認できない以上(被告も法人格否認を主張す
るものではないとする。),同社の行為をもって原告の行為と評価するこ
とはできないはずである。
本件における課税処分は,いずれも法人格を否定し得ないような会社の
行為についても,グループ会社であれば,恣意的に法人格を否定したのと
同様の課税をしようとするものであり,いわば,同族会社・グループ会社
の存在をすべて否定する課税方式を認めようとするものであって,違法で
ある。
(2) 争点(2) 法人税法37条8項(寄付金の損金不算入)の適用の有無(被告
の予備的主張)について
(被告の主張)
ア 仮に,本件取引が通謀虚偽表示によるものではなく有効であるとしても,
本件土地Aの譲渡価額(7000万円)は,以下のとおり,時価に比して
低額であり,その差額は法人税法37条8項により寄付金の額に含まれる
ことになる。
原告は,平成11年11月29日に県公社から,本件土地Aの北側部分
(792.98屐砲砲弔,1崚たり8万5600円の買収価格を提示
されている。これが,本件土地A全体としての価格か,上記北側部分のみ
を対象とした評価額であるかは必ずしも明確ではないものの,北側部分と
その余の部分との当時の現況に特段の差はなく,E自身が,県公社に対し,
1崚たり10万4800円での買収事例をあげて上記買収価格が不当に
低額である旨主張していることからすると,本件土地Aの時価は,低く見
積もっても,同土地の面積(1614屐砲烹鵜崚たりの単価8万560
0円を乗じた1億3815万8400円となる。
そして,上記時価額と本件取引に係る譲渡価格(7000万円)との差
額(6815万8400円)は,実質的には,原告がDに贈与したもので
あると認めるのが相当である。
イ 以上によれば,上記差額の6815万8400円は,法人税法37条8
項に基づき寄付金の額に算入されるところ,同法所定の算式による寄付金
の損金不算入額は6675万6497円となり,平成12年4月期の法人
税額は2022万8600円となる。
これは,本件の更正処分における税額を上回るので,平成12年4月期
の法人税の更正処分は適法である。
ウ 原告は,被告の上記予備的主張が,処分理由の差し替えに当たり許され
ないと主張するが,被告の上記主張は,新たな事実を主張するものではな
く,既になされた更正処分の理由として記載されていた事実関係を前提と
して,その法的評価を主張するものであるから,処分理由の差し替えとし
て許されないものではない。
また,原告は,被告の予備的主張が,民訴法157条1項の時機に後れ
た攻撃防御方法の提出に当たり,却下されるべきであるとも主張するが,
上記のとおり,法的評価の主張であって訴訟の完結を後らせるものではな
いから,同項にいう攻撃防御方法には当たらない。
(原告の主張)
被告の主張は否認ないし争う。
ア 処分理由の変更は許されないこと
本来,当初の更正処分と異なる課税根拠・理由に基づき課税を行うなら
ば,従前の更正処分を取り消し,新たな更正処分が行われなければならな
いはずである。
したがって,単に訴訟上において,予備的主張として新たな課税根拠・
理由が主張されたとしても,それをもって直ちに新たな更正処分とみなさ
れ,理由を附記したことになるものではない。
また,更正処分の適否は,当該処分の根拠・理由ごとに判断されるべき
ものであり,仮に,予備的主張のような処分根拠・理由に基づく課税が適
法と認められたとしても,それによって,当初の更正処分の違法性が治癒
されるものではない。
さらに,裁判所は,課税機関ではなく,判決主文やその理由によって,
当初の更正処分に記載されている理由が変更されたり,判決自体が新たな
更正処分とみなされるような効力を有するものではない。
そもそも,被告の主位的主張(当初の処分理由)は,本件取引が無効で
あることを前提とするものであるのに対し,上記予備的主張は,本件取引
が有効に成立していることを前提にするものであって,両者には課税根拠
や争点の内容についても全く共通性がなく,被処分者である原告にとって
は不明確な本件土地Aの時価が持ち出されており,かかる主張の追加は,
原告の利益を害し,法人税法が更正処分に理由附記を要するとした趣旨を
没却するものである。
したがって,被告の予備的主張は,それ自体失当である。
イ 時機に後れた攻撃防御方法であること
仮に,かかる予備的主張をすることが認められるとしても,本件土地A
の平成11年12月17日時点における時価は全く明らかにされていない。
被告は,県公社が提示した1崚たり8万5600円との価格をもって
時価であると主張するが,土地収用金額が時価(市場価格)よりも高額で
あることや,本件取引の1か月前における強制競売での落札価格が635
7万円であったことを前提にすると,被告主張の価額が,時価とかけ離れ
たものであることは明らかである。
そのため,被告が時価との差額を問題とする予備的主張をするのであれ
ば,時価額の立証を要するところ,被告が予備的主張において問題とする
課税期間は,平成12年4月期であり,法定申告期間から6年以上が経過
している現在において,かかる予備的主張をすることは遅きに失している
というべきである。
したがって,被告の予備的主張は,時機に後れた攻撃防御方法として却
下されるべきである。
第3 争点に対する判断
1 争点(1) 本件取引は通謀虚偽表示により無効で,本件土地B及びCの県公社
への売主は原告と認められるか否か(被告の主位的主張)について
(1) 前記前提事実欄記載の事実と各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,
次の事実が認められる。
ア 原告による本件土地Aの取得
(ア) 本件土地Aは,前記競売事件の売却手続において原告が取得したもの
であるところ,同事件における本件土地Aの平成11年8月9日付け物
件明細書の備考欄には,同土地が市街化調整区域,宅地造成等規制区域
内にあること,都市計画道路(高架式自動車専用)の布設計画による拡
幅部分の道路予定地に本件土地の北側部分の一部(791.63屐砲
含まれていること,同拡幅工事の開始時期は平成13年度の予定で,そ
の完了時期は平成16年の予定であること,同拡幅部分該当地の買収予
定者は愛知県であり,同買収に伴い補償金の支払が見込まれるが,補償
額は未定である旨の情報が記載されていた(乙8号証)。
(イ) 原告は,平成11年10月28日,朝銀中部信用組合に対し,資金使
途を売却用不動産購入資金(愛知郡長久手町大字●●●●番),借入希
望日を平成11年11月9日,返済予定日を平成12年3月31日,返
済条件を期日一括弁済として,7500万円の借入を申し込んだ(乙9
号証)。
原告が上記信用組合に提出した借入金申込書には,既に同信用組合か
ら946万円の融資を受けたが,本件土地Aを6357万円で落札した
ので,物件取得費及び経費として7500万円の借入を申し込むもので
あること,本件土地Aの北側部分(791.63屐砲蓮ぐγ慮で開催
される万国博覧会の会場へ向かう高架式自動車専用道路の拡幅工事部分
に含まれていること,愛知県の買収担当者に原告が本件土地Aを落札し
た旨連絡したところ,収用予定地の買収価格は既に決まっており,正式
には原告への所有権移転後に提示するとのことであったが,坪当たり2
5万円から30万円と推定されること,買収に係る補償金は平成12年
1月には入金されると思われること,収用対象外の土地についても,他
の収用者用の代替地として,愛知県が前記金額と同程度にて買い取る予
定であり,その入金には約6か月を要すること,収用による譲渡益の税
務控除を利用するため,本件土地Aの登記名義人は原告の代表者を含め
た個人2名ほどにする予定であることなどが記載されていた。さらに同
書には,取得費等は,落札予定価格6357万円に諸費用を含めた75
10万円になること,売却予定利益は,坪当たり25万円で買収された
場合には4692万円,坪当たり30万円で買収された場合には713
4万円になる旨の記載もあった(乙10号証)。
イ 本件取引と愛知県による買収の経緯
(ア) 原告は平成11年11月9日,朝銀中部信用組合から7500万円の
融資を受け,同日,前記競売の売却代金6357万円の残額を納付して
本件土地Aを取得した。これを受けて,愛知県の担当者は,同月29日,
原告との間で,本件土地Aの一部のX部分(792.98屐砲稜禺に
ついて協議を開始した。
上記担当者は,原告の上記買収関係の窓口である旨申し出たEに対し,
1崚たり8万5600円の買収価格を提示したが,Eは,1崚たり
10万4800円で取引された他の宅地の事例を引き合いに出して,提
示された上記の買収価格が低い原因が本件土地Aが宅地ではないことに
あるのであれば,宅地開発を行うなどと述べて買収単価の増額見直しを
迫るとともに,残地の買取又は他への買取あっせん方を要望した(乙1
1号証,12号証)。
買収協議は,同年12月16日にも行われたが,Eは,なお買収単価
の見直しを求め,単価の見直しが確実になるためには,宅地開発も辞さ
ないとの意向を示した(乙13号証)。
(イ) 原告は,上記第2回目の買収協議の翌日である同月17日,本件土地
A全部をDに代金額7000万円(1崚たり約4万3370円)で売
却し(本件取引),同日,同社への所有権移転登記手続をした。
なお,同日,原告とDとの間で「受渡し方法に関する覚書」と題する
書面が取り交わされ,原告が本件土地Aに設定した根抵当権(平成11
年11月9日受付第26655号根抵当権,根抵当権者朝銀中部信用組
合,極度額7500万円)を解除することができないので,Dから原告
への上記売買代金の支払は,原告が上記根抵当権を解除したときにする
こととされ,原告においては,上記売買代金債権は,原告からDに対す
る貸付金として経理処理がなされ,その決済は行われなかった(甲3号
証,6号証,9号証)。
(ウ) 本件取引後の平成12年1月24日に行われた第3回目の買収協議で
は,Eのほか,Dの代表者であるHが立ち会い,Eらは,県側の従来の
提示額である1崚たり8万5600円での売却を承諾した。
その後,同年2月7日にも買収協議が行われ,同月16日,売主をD,
買主を県公社として,本件土地Aのうち本件土地Bの部分(543.9
7屐砲砲弔い涜絛盂曚鬘苅僑毅極3832円とする売買契約が締結さ
れ,同年3月16日,本件土地Aから本件土地Bを分筆の上,愛知県に
対する所有権移転登記がなされた(甲4号証,7号証,乙14号証)。
本件土地Bの売買代金は,同年2月25日に3259万4000円,
同年3月31日に残金1396万9832円が支払われた(乙15号証
の1・2)。
(エ) その後,本件残地Bの買収協議が進められ,平成14年1月23日に
行われた第8回目の買収協議において,本件残地Bの一部である本件土
地Cの部分(357.11屐砲稜禺について合意に至り,同年2月5
日,売主をD,買主を県公社として,本件土地Cについて代金額を30
56万8616円(1崚たり8万5600円)とする売買契約が締結
され,同月20日,本件残地Bから本件土地Cを分筆の上,愛知県に対
する所有権移転登記がなされた(甲5号証,8号証,乙16号証,17
号証)。
本件土地Cの売買代金は,同月15日に2139万8000円,同年
3月5日に残金917万0616円が支払われた(乙18号証)。
ウ 本件土地B及びCの売買代金の流れ
(ア) 本件土地Bの売買代金の一部として,上記のとおり平成12年2月2
5日に県公社からDに支払われた3259万4000円のうち2500
万円は,同日のうちに,同社から原告に返済され,同年4月3日,原告
は同額を朝銀中部信用組合に返済した(乙15号証の1,33号証の1,
34号証の1)。そして,同年3月31日に支払われた上記残代金13
96万9832円のうち,1000万円が,同日のうちに,Dから原告
に返済され,同年4月30日,原告は同額を上記信用組合に返済した
(乙15号証の2,33号証の2,34号証の1)。
(イ) 本件土地Cの売買代金の一部として,上記のとおり平成14年2月1
5日に県公社からDに支払われた2139万8000円のうち100万
円が,同月18日同社から原告に返済され,同日のうちに原告は110
0万円を上記信用組合に返済した(乙18号証,34号証の2・3)。
そして,同年3月5日に支払われた上記残代金917万0616円のう
ち,828万3300円が,同日のうちに,Dから原告に返済され,同
月27日,原告は900万円を上記信用組合に返済した(乙18号証,
34号証の2・3)。
さらに,同年4月30日には,Dから原告に1550万円が返済され
た(乙34号証の2)。
(ウ) 上記のとおり,本件土地B及びCの売買代金として県公社からDに支
払われた合計金額は7713万2448円であり,このうち5978万
3300円が原告に返済され,Dに留保されたのは残額の1734万9
148円である。
エ 本件残地CのDから原告への譲渡
愛知県による買収が上記のとおり終了した後の平成14年4月30日,
本件残地Cは,代金額3094万5000円(1崚たり約4万3400
円)でDから原告に譲渡され,原告に対する所有権移転登記がなされた
(甲3号証,乙19号証)。
Dの原告に対する本件残地Cの上記売買代金債権は,前記のとおり原告
からDへの貸付金として処理されていた本件取引の残代金債権と相殺処理
された(乙2号証)。
原告は,本件残地Cを3800万円程度で売りに出し,平成17年の愛
知万博開催時期には3240万円(坪単価15万円)に値下げをして広告
を出したがなお売れず,平成18年4月ころには売値をさらに2360万
円(坪単価10万9000円)に減額したものの売却できていない(甲1
6号証の1・2,17号証,乙35号証)。
オ 原告とDの関係について
(ア) Eは,不動産業を営む株式会社Kの代表者であるが,平成8年ころか
ら平成10年11月26日までは原告の取締役に就任しており,原告の
代表者にはEの妻のFや,子のGが順次就任しているものの,その経営
の実態は,長年にわたって不動産業に従事しているEの経営判断や営業
活動に負うところが大きく,同人が原告の実質的な主宰者としての立場
にあって,本件土地Aについて行われたDとの本件取引や,県公社との
買収交渉及び契約等の一切は,同土地の所有名義がDに移転した前後を
問わず,Eにおいて仕切っていたものと認められる(甲1号証の1・2,
17号証,乙24号証,27号証,29号証,30号証)。
(イ) Dは,昭和31年3月15日に設立され,旅行代理店などの営業を行
っていたが,代表取締役のIが平成10年3月20日,原告との間で,
Dの全株式(8万株)を4000万円で譲渡する旨の株式譲渡契約を締
結し,同社に関する一切の業務や事務所の賃借権を原告に引き継いだ。
原告は,同日,Jとの間で,平成28年3月末日までの間原告におい
て買い戻すことができるとの買戻特約付きで,Dの全株式をJに400
0万円で譲渡する旨の買戻特約付株式譲渡契約を締結した(甲14号証,
乙7号証)。
(ウ) 上記のとおり,原告がDの株式等を取得した平成10年3月20日,
Eの甥のHが同社の取締役に就任し,平成11年2月4日に代表取締役
になった。なお,登記簿上,平成10年3月20日から平成14年2月
5日までの間,Iが同社の代表取締役に就任しており,平成14年12
月16日から平成15年11月4日までの間,Jが同社の代表取締役に
就任しているが,上記両名がその間,Dの経営について実質的な関与を
したことをうかがわせるような事情はみあたらない(甲2号証,弁論の
全趣旨)。
(エ) 原告は,平成10年4月期から平成14年4月期までの各事業年度に
おいて,確定申告書添付の借入金及び支払利子の内訳書にJからの借入
金として4000万円を計上するとともに,上記申告書添付の有価証券
内訳書にもDの株式を計上していた(乙5号証の1ないし5,6号証の
1ないし5)。
また,Dの代表者であるHに対する給与は,平成12年1月から平成
14年9月まで原告が支払っており,平成11年から平成13年までの
間,Dでは役員賞与を支払っていなかった(乙3号証,4号証の1ない
し3)。
カ Dの経営状況
(ア) Dは,パート従業員を含めて10名前後の従業員で携帯電話や交通券
の販売などを行っていたが,Eは,同社の従業員らから,原告,K及び
Dのオーナーであると認識されていた(乙29号証,30号証)。
(イ) Dは,平成11年の事業年度において4000万円以上の繰越欠損金
を計上し,その額はその後の各事業年度において増加しており,平成1
4年の事業年度においては9000万円を超える繰越欠損金を計上して
いた(乙25号証の1ないし4)。
(2) 本件取引の実態についての判断
ア 以上に認定した諸事実によれば,不動産業を営む原告は,本件土地Aの
一部が高架式自動車専用道路のための道路拡幅予定地として愛知県による
収用の対象になっていることから,愛知県への転売を見込み,その転売差
益を得る目的で同土地を競落して取得したものであるが,なお,不動産業
を営んでいる原告が買収に応じた場合には,本件特別控除の適用が受けら
れないことから,その場合に課されることになる相当額の法人税を免れる
目的で,本件土地Aの所有名義を,不動産業を営んでおらず,本件特別控
除の適用が得られるDに移転した上,同社が売主となって県の買収に応じ
ることを予定し,既に金融機関に対して前記競売手続での買受資金の融資
を申し込んだ時点で,このような仕組みによる県への転売を実行すること
を企画していたことが明らかである。
イ(ア) そして,原告が本件取引によって本件土地Aの所有名義を移転したD
は,本件取引の当時,原告がその全株式を資産に計上している原告の子
会社であり,その代表取締役は,原告の実質的な主宰者であるEの甥に
あたるHが就任しているが,同人の給与はDからではなく原告から支払
われていること,Dの従業員はEを原告,K及びD三社のオーナーと認
識していること,Eは,本件土地Aを巡る本件取引や県公社への売却交
渉についても,同土地の所有名義が原告からDに移転した前後を問わず,
これらを中心的に取り仕切っていたこと,これら前記認定にかかる諸事
情に照らしてみれば,Dは,原告の子会社として,原告と経済的,人的
に密接な関係をもち,かつ,両社はいずれもEが主宰者的な立場で経営
している実態にあるものと認められる。
原告は,Dの実質的なオーナーは株主であるJであり,両社はそれぞ
れ独立した別個の法人であると主張し,E作成にかかる陳述書には,H
がDの代表者に就任したのは,事務所の賃貸借関係を継続する必要上,
形式的にHが代表者になったものにすぎないことなど,上記主張に沿う
供述記載がある(甲17号証)。
しかし,Jは,税務調査においては,自らDの従業員であると述べ
(乙28号証),Eの上記供述記載とは矛盾する説明をしている上,D
の元従業員らは,同社のオーナーはEであって,Jには会ったこともな
い旨を述べていること(乙30号証)に照らしても,Eの上記供述記載
は信用性に乏しいというべきである。したがって,原告の上記主張は採
用できない。
(イ) 本件取引は,原告と県公社の間で本件土地Aの一部(本件土地B)に
ついての第2回目の買収協議が行われた翌日に,愛知県の提示額(1
当たり8万5600円)の半額に近い低価額(1崚たり約4万337
0円相当)で行われたものであり,その後行われた第3回目の買収協議
にはD代表者のHが加わったが,引き続きEが中心となって折衝が行わ
れ,最終的に同年2月16日にはDを売主として県公社への本件土地B
の売買契約が締結され,さらに同様の交渉が継続された上,平成14年
2月5日にDを売主として県公社との間で本件土地Cの売買契約が締結
され,これらの売買契約後の残地である本件土地Cは,その後まもなく,
Dから原告へ売り戻され,その代金は本件取引の残代金債権と相殺処理
されたものであって,このような本件取引を巡る諸経緯には,Dがその
事業の用に供する目的で本件土地Aを取得したような経緯,事情は一切
認められない。
Dの代表者であるHは,税務調査に際しては,本件土地Aについて,
県公社へ売却した残地において焼き肉レストランを開業する計画であっ
た旨を述べている(乙22号証)が,同土地は前記のとおり市街化調整
区域にあるため開発行為が規制されており,これについて原告又はDが
許可手続の申請や行政に対する事前相談を求めた経緯があるともうかが
われず(乙21号証),また,上記の残地は,高架式自動車専用道路脇
の無道路地となるものであるから,そのような立地で飲食店を開設する
計画を有していたというのも不審であって,Hの上記供述記載の内容は,
はなはだ疑わしいというべきである。
(ウ) 既に述べたとおり,原告とD間の本件取引の売買代金額は,Eが愛知
県担当者に対しては低額にすぎると主張していた同県提示金額の半額に
近い超低価格で行われた上,その売買代金は原告からDに対する貸付金
として処理され,Dを売主として県公社との間で締結した本件土地B及
びCの残地である本件残地Cは,原告がDから買い戻し,その売買代金
は本件取引の売買代金残債権と相殺処理をして,現実の授受がなされた
ものではない。
また,Dは前記のとおり,多額の繰越欠損金を抱える会社であって,
そのような会社に対して本件取引による売買代金を貸付金として処理し,
回収の危険を度外視することができたのは,原告が実質的にDの経営を
掌握し,原告と一体としての経営判断を行うことができる実態にあるこ
とを背景とするものと解される。 また,原告とD間の本件取引とDを
売主とした本件土地B及びCの県公社への売却,そして本件残地Cの買
い戻しという一連の取引によって得た利益は,原告のそれだけをみれば,
本件土地Aを取得した際に企図した利益に到底及ぶものではなく,その
企図は,Dに経理上留保された前記の1734万9148円を含めなけ
れば合理的な理解はできないものである。
(エ) これらの諸事情によってみれば,原告は,前述した本件特別控除の適
用を受ける利益の他,実質的に原告と一体の経営実態にあるDの繰越欠
損金をもって本件土地B及びCの売却益にかかる法人税の負担をも免れ
る意図,計算のもとに本件取引を企図し,実行したものであることが明
らかである。
ウ 以上のとおりの諸事情を総合して検討してみると,原告は,本件土地A
を自らが売主となって愛知県(県公社)に売却した場合には本件特別控除
の適用が得られないため,不動産業を営んでおらず本件特別控除の適用が
得られるDを介在させてその売却を行い,自らが売主となる場合に課され
ることになる法人税等の負担を免れ,また,Dの多額の繰越欠損金を利用
して,上記譲渡益に掛かる法人税等の負担を免れることを企図して本件取
引を行ったものであるところ,そのような実態にある本件取引は,Dの事
業目的とは全く無関係に,単に同社の別法人としての外形と,同社が実質
的に原告と一体の経営支配の下にあって,その経営意思を実質上決定でき
ることを利用して,専ら本件特別控除の適用を受けること,及び同社の繰
越欠損金の利用による租税負担の回避を目的として便宜的に行われたもの
であることが明らかであって,それ自体本件特別控除制度の趣旨の潜脱を
図るものというべきであり,私法上の取引契約としても,正常な取引契約
としての実質を伴う所有権移転の効果意思を認め難いものといわざるを得
ない。
したがって,本件取引は原告とDの間の通謀虚偽表示として無効と認め
るほかはない。
なお,Dを売主名義人として県公社との間で締結された本件土地B及び
Cの上記各売買契約は,形式的にその名義が使用されたDから県公社に売
り渡されたものではなく,真実の所有権者であって実質的な売主である原
告との間で有効に成立したものと解することができ,また県公社側におい
てこれを問題とすべき事情は想定できないから,それをもって足るという
べきである。
エ これに対して,原告は,〇篥自治の原則から,どのような売買契約を
締結するかは,当事者間の自由な選択にゆだねられていること,原告は
本件取引によって転売差益を得ており,Dも愛知県の買収により転売差益
を得ているから,本件取引には経済的な合理性があること,K楫鐚莪の
動機が税負担の軽減にあるからこそ,真の所有権移転の効果意思が存在す
ること,じ狭陲硲弔蓮な霧墜販の法人であって,Dの行為を原告の行為
と評価することはできないこと,これらの諸点を主張している。
(ア) 私的自治の原則によれば,国民が一定の経済的目的を達成するために,
どのような法定手段,法的形式を選択するかは原則として自由というべ
きであり,憲法84条の定める租税法律主義の下においては,国民が,
その判断によって特定の法的手段,法的形式を選択した場合,課税要件
が充足されるか否かの判断も当該手段,形式に即して行われるべきであ
って,租税法の定める否認規定(所得税法157条,法人税法132条
等)によらずして,課税庁が当該手段,形式を否認し,あるいはこれを
引き直すことは許されないというべきである。
しかし,このことは,国民が選択した法的手段,法的形式の外形がど
のような場合にも承認されなければならないことを意味するものではな
く,これが実体を伴わないもの,仮装されたものにすぎないものと認め
られる場合には,民法その他の実体法規の定めるところにより,その実
質に従って課税要件の充足を検討すべきこともまた当然というべきであ
る。
本件は,原告とDとの間でなされた本件取引が,上記判示のとおり通
謀の上仮装されたにすぎないものと認められるので,真に存在したと認
定できる法律関係に即して課税要件の充足を検討したものであるから,
原告の上記,亮臘イ肋綉の判断を左右するものではない。
(イ) また,前判示のとおり,原告が本件土地Aを取得するについて企図し
た転売による利益は,Dに経理上残されたそれを一体として考慮しなけ
れば実現し得ないものであるが,その利益は,本件取引を介在させるこ
とによって発生したものであるところ,本件取引は原告とD間の通謀虚
偽表示の実態にあり,原告は上記の利益を享受することが許されないも
のであることは次項に敷衍するとおりである。
したがって,原告の上記△亮臘イ蓮じ狭陲本来取得することが許さ
れない利益の主張を前提とするものであって採用できない。
(ウ) 原告は上記5載のとおり,本件取引の動機が税負担の軽減にあるか
らこそ,真の所有権移転の効果意思が存在する旨を主張するが,本件特
別控除の制度は,法の規定による資産の収用等又はそれらを前提とする
買収がなされ,その対価として補償金が支払われた場合に,それによる
益金に課税をすることは,譲渡法人の経営維持のための再投資である代
替資産の取得を阻害する結果となって相当でないことを考慮した特例措
置であり,その趣旨からは法人の所有する棚卸資産以外の資産について
適用されるものであって,原告のような不動産業を営む法人が取得する
土地は棚卸資産であるから,この特別控除制度の対象とならないことが
明らかである。
原告は,本件特別控除が適用される上記の範囲を承知していたからこ
そ,本件取引を介在させることを企図したことが明らかであるが,それ
は原告が享受することが法律上許されない本件特別控除による税負担の
軽減措置を,実質的に原告の経営意思によって運営できるDを利用する
ことによって実現すべく企図したものであって,しかも,Dにおいては
代替資産の取得など本件特別控除制度が趣旨目的としている前提状況は
ないものと認められるから,結局,原告の企図した本件取引は,本件特
別控除制度の趣旨を潜脱して適用を受け,それによる利益を享受するた
めの方便として構成されたものにすぎず,私法契約としても正常な取引
契約の効果意思を認め難いものであることは前述したとおりである。
原告は,Dとの本件取引を利用した税負担の軽減措置の選択は,Dの
繰越債務の件も含め,法人の一般的な経営判断として正常なものである
旨を主張するが,選択可能な法形式が複数存在する場合に,その選択が
経営判断として許される場合があるとしても,本件のように,自社が法
律上享受できない税負担の軽減措置を受けるため,別法人とその事業目
的とも無関係な法律行為を作出して,実質的に許容されない軽減措置の
潜脱的な適用を図ることまでが,その選択肢として許容されるものと解
すべきものではない。
よって,原告の上記の主張も理由がない。
(エ) 原告の上記い亮臘イ砲弔い討蓮ごに原告とDの関係について判示し
たとおり,原告とDが行った本件取引については,原告とD両社の利益
を一体として評価されるべき実態にあるから,この主張も理由がないと
いうべきである。
2(1) 以上のとおり,本件取引は通謀虚偽表示として無効であり,本件土地B及
びCは真実の所有権者である原告と県公社との間で売買契約が締結されたも
のと解され,その転売による利益はすべて原告に帰属するものと解するのが
相当である。
そして,Dに対する貸付金として処理されていた本件取引の代金にかかる
受取利息は税額の計算上減算すべきであり,Dに計算上留保されている売却
益は,原告からの寄附金と解するのが相当である。
(2) これらを前提とし,関係法令を適用して原告の平成12年4月期及び平成
14年4月期における法人税及び消費税等の税額を計算すると,本件各更正
処分と同額になる。
また,既に判示したところによれば,原告は,本件取引を利用して課税標
準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし,又は仮装し
ていたと認めるのが相当であるから,法人税についての重加算税の賦課も適
法であり,上記税額を基準として算出された重加算税の額も前記賦課決定処
分における税額と同額になる。
したがって,前記法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに消
費税等の更正処分はいずれも適法というべきである。
3 結 論
よって,被告の予備的主張について判断するまでもなく,原告の本訴請求は
いずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,
民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 中村直文?
裁判官 前田郁勝
裁判官 片山博仁
(別表省略)
(別紙)
物 件 目 録
1 所 在 愛知郡長久手町大字●●字●●
地 番 ●●番●●
地 目 山林
地 積 1614平方メートル
2 所 在 愛知郡長久手町大字●●字●●
地 番 ●●番●●
地 目 山林
地 積 543平方メートル
3 所 在 愛知郡長久手町大字●●字●●
地 番 ●●番●●
地 目 山林
地 積 357平方メートル
(別紙)
図 面 (本件土地Aの分筆状況)
道 路
本件土地B(543屐

(792.98屐
本件土地C(357屐
本件残地B
(1070屐 残地X
本件残地C(713屐 (821.2屐
本件土地A(1614屐
(面積は公簿地積による。ただし,X,残地Xは買取申出の面積である。)

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