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平成18年10月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成17年(行ウ)第37号,同第44号 行政文書不開示処分取消請求事件(以
下,事件番号に従って「37号事件」,「44号事件」という。)
口頭弁論終結日 平成18年7月13日
判 決
主 文
1 中部経済産業局長が,原告に対し,平成16年12月8日付けでした行政機
関の保有する情報の公開に関する法律に基づく開示請求に対する部分開示(一
部不開示)決定処分のうち,別紙1記載の各不開示決定処分をいずれも取り消
す。
2 中部経済産業局長は,原告に対し,前項の部分開示(一部不開示)決定処分
のうち,別紙1記載の各不開示決定に係る行政文書の開示決定をせよ。
3 中部経済産業局長の原告に対する第1項の部分開示(一部不開示)決定処分
のうち,別紙2記載の各不開示決定処分の取消し及び同各不開示決定に係る行
政文書の開示決定の義務付けを求める部分の本件各訴えをいずれも却下する。
4 訴訟費用は,両事件を通じて4分し,その3を被告の負担とし,その余は原
告の負担とする。
事実及び理由
第1 請 求
(37号事件)
中部経済産業局長が,原告に対し,平成16年12月8日付けでした行政機
関の保有する情報の公開に関する法律に基づく開示請求に対する部分開示(一
部不開示)決定処分のうち,別紙1及び2各記載の各不開示決定処分を取り消
す。
(44号事件)
中部経済産業局長は,原告に対し,平成16年12月8日付けでした上記部
分開示(一部不開示)決定処分のうち,別紙1及び2各記載の各不開示決定に
係る行政文書の開示決定をせよ。
第2 事案の概要
本件は,原告が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報
公開法」又は単に「法」という。)4条1項に基づき,中部経済産業局長(以
下「処分庁」という。)に対し,開示されるべき行政文書を,エネルギーの使
用の合理化に関する法律(ただし,平成17年法律第93号による改正前のも
の。以下「省エネ法」という。)11条に基づく平成15年度の定期報告書な
どとして開示の請求をしたところ,処分庁が,上記定期報告書のうち,「燃料
等の使用量,電気の使用量」等の部分に記録されている情報が,法5条2号イ
の「公にすることにより,当該法人等(中略)の権利,競争上の地位その他正
当な利益を害するおそれがあるもの」に該当することを理由として,上記部分
を不開示とする旨の決定をしたことから,これを不服としてその取消しを求め
るとともに(37号事件),上記不開示部分の開示決定の義務付けを求めた
(44号事件)抗告訴訟である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠上明らかな事実)
( ) 当事者 1
ア 原告は,地球温暖化・気候変動問題に取り組む非政府組織(NGO)や
市民によって構成される特定非営利活動法人(NPO法人)である。
イ 被告は,処分庁の所属する行政主体である。
ウ 処分庁は,経済産業大臣から,省エネ法11条の定期報告書の提出を受
ける権限を委任された行政庁である(省エネ法27条,同法施行令(ただ
し,平成16年政令第210号による改正前のもの)15条2項)。
( ) 原告による行政文書開示請求 2
原告は,平成16年8月9日,法4条1項に基づき,処分庁に対し,開示
請求する行政文書の名称等を「平成15年度の省エネ法第11条に基づく定
期報告書(電子情報があれば電子媒体にて)(燃料等・電気共に第2表以下
を除く)」として,行政文書の開示を請求した(以下「本件開示請求」とい
う。乙1号証)。
( ) 処分庁による意見聴取 3
処分庁は,本件開示請求の対象となる文書として,省エネ法11条に基づ
いて第一種特定事業者から提出された1055通の定期報告書の報告者等に
関する記載欄及び「燃料等の使用量及び販売副生燃料等の量」等に関する第
1表を特定し,同表に記録されている,第一種特定事業者の設置する工場又
は事業場(以下,単に「工場」という。)における燃料等使用量等及び電気
使用量等に関する情報は,法13条1項にいう「国,独立行政法人等,地方
公共団体,地方独立行政法人及び開示請求者以外の者」に関する情報(以下
「第三者情報」という。)に該当すると判断し,平成16年9月7日付けで,
対象文書を提出した第一種特定事業者である各法人に対し,意見書の提出を
求めた(弁論の全趣旨)。
( ) 処分庁による行政文書開示決定 4
処分庁は,各法人からの意見書の提出状況に応じて上記の定期報告書を順
次開示することとし,意見書において開示に反対しなかった事業者及び意見
書を提出しなかった事業者の提出に係る定期報告書については,平成16年
10月8日付け決定(199通分),同年11月10日付け決定(618通
分)及び同年12月8日付け決定(67通分)において,法5条1号又は2
号に該当する作成責任者等個人に関する情報等の部分を不開示とし,第1表
を全面的に開示した。
しかし,平成16年12月8日付けで決定をした171通分については,
作成責任者等個人に関する情報等の部分を不開示とするほか,第1表記載事
項のうち「燃料等の使用量」「電気の使用量」等の各部分を(なお,文書に
よっては,「燃料等の種類」,「合計GJ(ギガジュール)」,「原油換算
kl」,「対前年度比」などの部分も)不開示とする部分開示(一部不開
示)決定をした(甲1号証,弁論の全趣旨)。
( ) 原告による審査請求と本訴の提起 5
原告は,平成17年1月31日,上記部分開示決定について,第1表に関
する不開示処分を不服として,行政不服審査法5条1項1号に基づき,処分
庁の上級行政庁である経済産業大臣に対して審査請求をしたが,平成17年
7月29日に至っても応答がなかった。
そこで,原告は,同日,上記各処分のうち,別紙1及び2各記載の17通
分の第1表に関する不開示処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求
める37号事件を提起し,さらに,同年8月19日,同部分につき開示の義
務付けを求める訴えを37号事件の関連請求として併合提起した(44号事
件,当裁判所に顕著な事実)。
( ) 本訴係属中の一部開示 6
処分庁は,本訴係属中の平成18年3月から,本件開示請求の対象である
定期報告書を提出した各事業者に対して順次改めて意見聴取を行い,その結
果を踏まえて,同年5月19日,別紙2記載の9通分の定期報告書の各「不
開示とした部分」をいずれも開示する旨の決定をし(以下「本件変更決定」
という。なお,出光興産株式会社愛知製油所に関する定期報告書のうち平成
15年度の電気の使用量の合計及びその対前年度比の部分は,平成16年1
2月8日時点で既に開示済みである。甲3号証),これらを原告に開示した。
( ) 現時点での不開示部分 7
本訴で原告が取消し等を求める本件処分のうち,本件変更決定によっても
開示されなかった部分は以下のとおりである。
ア 新日本製鐵株式會社名古屋製鐵所が提出した定期報告書の様式第4第1
表に記載されている燃料等の種類別の平成15年度の使用量及び販売副生
燃料等の量,これらを熱量に換算した値(熱量TJ(テラジュール)),
熱量TJを合計した値(合計TJ),合計TJを原油に換算した値(原油
換算Ml(メガリットル)),燃料等の使用量の原油換算Mlの対前年度
比(別紙1行政文書の番号1( )ァす達換羮據なお,甲1号証の不開示 9
部分の単位の記載は明白な誤記と認める。)
イ 新日本製鐵名古屋製鐵所が提出した定期報告書の様式第5第1表に記載
されている平成15年度の昼間買電,夜間買電,それ以外の電気の使用量
及びそれらの合計並びに昼間買電,夜間買電,それ以外の電気の使用量及
びそれらの合計の対前年度比(同1( )ァす達宜羮據 10
ウ 東ソー株式会社四日市事業所が提出した定期報告書の様式第4第1表に
記載されている燃料等の種類別の平成15年度の使用量及び販売副生燃料
等の量,これらを熱量に換算した値(熱量GJ),熱量GJを合計した値
(合計GJ),合計GJを原油に換算した値(原油換算kl),燃料等の
使用量の原油換算klの対前年度比(同1( )ぁす達隠姐羮據 41
エ 東ソー四日市事業所が提出した定期報告書の様式第5第1表に記載され
ている平成15年度の昼間買電,夜間買電,それ以外の電気の使用量及び
それらの合計並びに昼間買電,夜間買電,それ以外の電気の使用量及びそ
れらの合計の対前年度比(同1(42)ぁす達隠厩羮據
オ 三菱化学株式会社四日市事業所が提出した川尻工場に関する定期報告書
の様式第4第1表に記載されている燃料等の種類別の平成15年度の使用
量及び販売副生燃料等の量,これらを燃料等の種類別に換算した熱量GJ,
熱量GJを合計した値(合計GJ),合計GJを原油に換算した値(原油
換算kl),燃料等の使用量の原油換算klの対前年度比(同1( )ぁ 170
甲14号証)
カ 三菱化学四日市事業所が提出した川尻工場に係る定期報告書の様式第5
第1表に記載されている平成15年度の昼間買電,夜間買電,それ以外の
電気の使用量及びそれらの合計並びに昼間買電,夜間買電,それ以外の電
気の使用量及びそれらの合計の対前年度比(同1( ) 171 ,甲15号証)
キ 三菱化学四日市事業所が提出した四日市工場に関する定期報告書の様式
第4第1表に記載されている燃料等の種類別の平成15年度の使用量及び
販売副生燃料等の量,これらを燃料等の種類別に換算した熱量GJ,熱量
GJを合計した値(合計GJ),合計GJを原油に換算した値(原油換算
kl),燃料等の使用量の原油換算klの対前年度比(同1( )ぁす 172
16号証)
ク 三菱化学四日市事業所が提出した四日市工場に係る定期報告書の様式第
5第1表に記載されている平成15年度の昼間買電,夜間買電,それ以外
の電気の使用量及びそれらの合計並びに昼間買電,夜間買電,それ以外の
電気の使用量及びそれらの合計の対前年度比(同1( )ぁす達隠傾 173
証)
2 関係法令の抜粋
( ) 情報公開法 1
5条柱書き
行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に
次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録
されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなけれ
ばならない。
同条2号柱書き
法人(中略)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報
であって,次に掲げるもの。ただし,人の生命,健康,生活又は財産を保
護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除く。
同条2号イ
公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位そ
の他正当な利益を害するおそれがあるもの
( ) 省エネ法(前述のとおり,平成17 2 年法律第93号による改正前のもの)
(目的)
1条 この法律は,内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応
じた燃料資源の有効な利用の確保に資するため,工場,建築物及び機械器
具についてのエネルギーの使用の合理化に関する所要の措置その他エネル
ギーの使用の合理化を総合的に進めるために必要な措置等を講ずることと
し,もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(第一種エネルギー管理指定工場の指定)
6条1項
経済産業大臣は,燃料及びこれを熱源とする熱(以下「燃料等」とい
う。)の年度(4月1日から翌年3月31日までをいう。以下同じ。)の
使用量が政令で定める数値以上である工場を燃料等の使用の合理化を特に
推進する必要がある工場として,電気の年度の使用量が政令で定める数値
以上である工場を電気の使用の合理化を特に推進する必要がある工場とし
て,それぞれ指定することができる。
(定期の報告)
11条 第一種特定事業者は,毎年,経済産業省令で定めるところにより,
第一種熱管理指定工場にあつては燃料等の使用量その他燃料等の使用の状
況(燃料等の使用の効率に係る事項を含む。)並びに燃料等を消費する設
備及び燃料等の使用の合理化に関する設備の設置及び改廃の状況に関し,
第一種電気管理指定工場にあつては電気の使用量その他電気の使用の状況
(電気の使用の効率に係る事項を含む。)並びに電気を消費する設備及び
電気の使用の合理化に関する設備の設置及び改廃の状況に関し,経済産業
省令で定める事項を主務大臣に報告しなければならない。
3争点
( ) 本件処分によって不開示とされた情 1 報が,法5条2号イの不開示事由に該
当するか否か
( ) 本件処分によって不開示とされた情 2 報が,法5条2号ただし書きの開示事
由に該当するか否か
4 争点に関する当事者の主張
( ) 争点( )本件処分によって不開示とされた情報が,法5条2号イの不開示 1 1
事由に該当するか否かについて
(被告の主張)
ア 法5条2号イの趣旨・判断基準等
(ア) 法5条2号イの「権利,競争上の地位その他正当な利益」とは,法的
保護に値する権利一切,公正な競争関係における地位,ノウハウ,信用
等法人の運営上の地位が広く含まれる。なお,原告は特定化学物質の環
境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律6条を指摘す
るが,同条の規定は法5条2号イの解釈とは何ら関係がない。
そして,一般に情報公開訴訟において,請求の趣旨に係る行政文書に
法5条各号に該当する不開示情報が記録されているかという点の審理,
判断は,当該行政文書に記載された個別具体的な文言を明らかにするこ
となく,そこにいかなる性質,種類の情報が記録されているかという一
般的抽象的観点から行わざるを得ない。
したがって,情報公開訴訟において,不開示決定を行った行政庁は,
当該不開示決定に係る行政文書に記載されている個別的・具体的な内容
を明らかにしないまま,これを公にした場合に生ずる法5条各号所定の
事由ないし支障について,当該行政文書ないし当該不開示情報の類型的
な特質に着目した主張・立証を行うことが想定されている。
(イ) また,情報公開法においては,個人的・具体的利益にかかわらず,だ
れでも開示請求をすることが可能であるし,いったん開示された情報は,
どのような経路でいかなる者の手に渡るとも限らない。
したがって,法5条2号イ等が不開示情報の要件として定める「おそ
れ」が生じるかどうかの判断は,開示請求者の開示請求に係る個別的事
情,動機などにかかわらず,広く,不特定多数の者に対して公開される
という前提に立って行われなければならないという特質がある。
(ウ) 以上のことからすれば,情報公開訴訟では,ある情報を公にすると支
障が生ずるかどうか,またいかなる支障が生ずるかの判断は,当該情報
が不特定かつ多数の者に取得され,利用されることを想定した一般的,
抽象的な判断とならざるを得ないし,かつ,そのような判断をもって足
りるというべきである。
したがって,情報公開訴訟においては,当該不開示決定に係る行政文
書に記録された不開示情報が公にされた場合に支障が生じる蓋然性は,
それ自体が証拠に基づいて直接具体的に証明されることまでは要求され
ていないと解され,行政庁が不開示情報に該当するとする情報の類型的
な性質を明らかにするなどして,そのような情報が公にされた場合,経
験則上,支障が生ずるおそれがあることを判断することが可能な程度の
主張・立証をすれば,不開示情報該当性は肯定されるというべきである。
イ 定期報告書の趣旨等
処分庁は,本件開示請求について,第一種熱管理指定工場に関する定期
報告書につき,報告者等に関する記載欄及び「燃料等の使用量及び販売副
生燃料等の量」に関する第1表を,また第一種電気管理指定工場に関する
定期報告書につき,報告者等に関する記載欄及び「電気の使用量」に関す
る第1表を,それぞれ開示請求の対象文書として特定した。
省エネ法上,エネルギーの使用量が一定以上の第一種特定事業者には,
定期報告書の提出が義務付けられているところ,この定期報告書の提出に
よって,エネルギー使用者自身に対し,エネルギー使用量等の状況,エネ
ルギー消費設備の設置改廃等の状況の把握や整理分析を促すとともに,主
務大臣に対し,エネルギー使用者に対する必要な指導及び助言(同法5
条)等を行うに当たっての基礎資料を提供しようとしたものであり,省エ
ネ法上の制度として,公開を予定しているものではない。
ウ 定期報告書上の数値情報の性質
定期報告書の各第1表に記載された「燃料等の使用量及び販売副生燃料
等の量」又は「電気の使用量」中の数値情報(以下「本件数値情報」とい
う。)は,当該事業者の内部情報であり,その性質上,当該工場において
1年間に製品を製造するために要した燃料等の費用,電気の費用(以下,
これらをまとめて「エネルギーコスト」という。),さらに,当該工場で
生産される製品の製造原価を推計する有力な手掛かりになる等の性質を有
しており,以下に述べるとおり,それらが公開された場合に当該法人の競
争上の地位その他正当な利益を害するおそれを生じさせる可能性が大きい
情報である。
(ア) 製造原価を知られるリスク
a 本件数値情報は,通常一般に入手できない当該事業者である法人の
事業活動に関する内部情報である。他方,燃料等又は電気の単価は,
新聞,取引市場等において一定の範囲で明らかとなっており,さらに,
広報活動の一環としてインターネットの企業ホームページや関連の業
界紙等には,当該工場において生産する製品の種類,生産量等が公開
されていることがある。
そうすると,本件数値情報が公にされた場合,本件数値情報に燃料
等又は電気の単価を乗じることにより,当該工場において1年間に製
品を製造するために要したエネルギーコストが算出可能となる。特に
定期報告書では,数値の算出方法や記載方法の統一が図られており,
正確性の担保もされていることから,本件数値情報は,他の情報と照
合することにより,何人にとっても,年間のエネルギーコストを正確
に算出する有力な手掛かりになる。
このようにして算出した年間エネルギーコストを年間生産量で除す
れば,製品ないし製品一単位当たりのエネルギーコストが推定できる。
そして,製品ないし製品一単位当たりのエネルギーコストは,当該
工場で製造する製品の製造原価を構成する主たる要素の一つであるか
ら,当該事業者以外の第三者が原価を推計しようとする場合には有力
な手掛かりとなる。
したがって,本件数値情報は,当該事業者以外の第三者にとって,
エネルギーコストひいては製造原価の推計の手掛かりとなる。
b 本件数値情報の上記のような特質からすれば,当該事業者の本件数
値情報を知った競業他社は,同種製品の製造に当たって,その製造原
価を設定する際,本件数値情報から推計した当該事業者のエネルギー
コストや製造原価を指標として,当該事業者の製造原価より下回る又
はそれに近似するような製造原価を設定し,これにより製品の低価格
戦略を展開することが考えられる。
また,当該事業者の製造原価を知った販売先は,当該事業者の製造
原価を根拠に値下げを要求することも考えられる。
以上のように,本件数値情報が公にされれば,当該事業者の競争上
の地位やその正当な利益が害されると考えられる。
(イ) エネルギー効率化技術の水準・進展状況を知られるリスク
競業他社は,当該事業者の業種・製品における製造過程等について一
定の知見を有しているのが通常であるところ,当該事業者に関する本件
数値情報を知り得ることにより,当該事業者のエネルギー効率化技術水
準を推測できる場合がある。また,競業他社が,当該事業者に関する本
件数値情報のうち,前年度比の改善率の数値を知り得ることにより,当
該事業者のエネルギー効率化に対する取組内容及びその進展状況を推測
できる場合も考えられる。
さらに,競業他社が,第一種エネルギー管理指定工場に指定されず,
定期報告書提出の義務を負わないこともあり得る上,各事業者の競争力,
技術力等にも差があり,国外の業者を競争相手にしている事業者もある
など,各事業者の経済活動を取り巻く事情は様々である。
そして,当該事業者にとって,これらエネルギー効率化に関する技術
水準,取組内容及びその進展実施状況等が重要な企業戦略・企業秘密で
あるときには,当該事業者は,その競争上の地位に支障を来し,その正
当な利益が害されると考えられる。
(ウ) 燃料等の調達需要を知られるリスク
本件数値情報が公にされると,当該事業者に関する本件数値情報を知
った当該事業者の燃料等の調達先は,当該事業者の燃料等の需要を高い
精度で知り得ることになるため,当該事業者との間で燃料等の価格交渉
等を行うに当たり,有利な立場に立つことになり,反面,当該事業者は,
その交渉等において不利な立場に立たされることになり,正当な利益が
害されるおそれがある。
(エ) 他者との契約違反となるリスク
当該事業者が,その製品製造に関し,他者と技術ライセンス契約を締
結している場合,当該技術ライセンス契約の内容によっては,本件数値
情報の公開が契約違反事由に該当することもあり得るため,本件数値情
報が公にされることによって,ライセンス契約の相手方から契約違反を
問われ,その契約を解除されるなど,不測の損害を被るおそれもある。
(オ) 製造技術が推知されるリスク
例えば,鉄鋼業の場合,粗鋼の生産過程においてエネルギー使用の効
率化につながる一般的な工程の組み換えを進展させると,石炭系燃料の
使用量は変わらず,石油系燃料の使用量が低減されるという現象がみら
れる。したがって,本件数値情報が公にされると,使用される石油系燃
料の削減量によって,工程の組み換えをどの程度進展させたかについて,
競業他社に知られることとなり,当該事業者の製造技術の進展等が判明
するおそれもある。
(カ) 小括
このように,本件数値情報は,一般的に,その性質上,公にすること
により,当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれを生
じさせる可能性が大きいものであることが明らかである。
エ 各事業者の意見書を参考にしたことの当否
(ア) 法13条1項が,開示請求に係る行政文書に第三者情報が含まれてい
るときに,行政機関の長が当該第三者に意見提出の機会を付与すること
ができることとしている趣旨は,行政機関の長が法5条各号の不開示事
由に該当するか否かを判断するに当たり,第三者の利益等について誤っ
た判断を回避できる可能性を高めることにある。
本件では定期報告書の第1表には第三者情報が記録されているため,
処分庁が,各事業者に意見書の提出を求め,それを参考として部分開示
を行ったことは,法13条1項の趣旨に沿う適法なものである。
(イ) 他方,各事業者に対し意見を述べる機会が与えられ,各事業者が特定
の情報を開示することにつき反対する意見を述べない場合には,個別的
な事情に基づき自己の正当な利益が害されることはないと自ら判断して
いるものと解することができるから,各事業者の個別・具体的な事情を
考慮すれば,本件数値情報等の全部又は一部が,法5条2号イに規定す
る「当該法人等(中略)の権利,競争上の地位その他正当な利益を害す
るおそれがある」情報に該当しないという場合もあり得る。
したがって,各事業者が,法13条1項に基づき,開示に反対する意
見を述べないのであれば,この意見を参考にして,法5条2号イの該当
性がないとの判断をすることができるというべきである。
(ウ) 原告は,同業種の他の事業者がほとんど開示に応じているのであれば,
反対の意見を述べた事業者についても,競争上の地位を害するおそれは
ないと考えるべきである旨主張する。
しかし,それは定期報告書の数値情報の開示について個別的,例外的
事情から,開示に反対しない事業者が複数あったことを示すにすぎない
から,上記の一般的なおそれに基づく同法5条2号イ該当性の判断が誤
りであるとする根拠になるとはいえない。したがって,処分庁が,本件
数値情報には一般的類型的性質として法人の正当な利益を害するおそれ
があることを前提とした上,例外的に開示に反対しない事業者からの意
見を踏まえて,本件数値情報が同法5条2号イに該当しないとの判断を
したことは,何ら不合理なものではない。
オ 本件各事業者の個別事情について
(ア) 新日本製鐵
a 新日本製鐵は,第一種熱管理指定工場及び第一種電気管理指定工場
とされている名古屋製鐵所に関し,様式4及び様式5の各定期報告書
を提出していた。
新日本製鐵は,本件処分に先立ち,…蟯報告書には,エネルギー
使用の実態(種別使用量等),設備の稼働状況等,同製鉄所のエネル
ギーコストに関する情報や経営戦略にかかわる社外秘とすべき情報が
記載されていること,燃料種別年度使用量/原油換算使用量(様式
4)については,容易にコストを計算できる情報であること,9膩
原油換算使用量(様式4)については,全国に複数,品種の異なる事
業所を有しており,品種別の活動量やエネルギー効率等を推し量るこ
とができること,以上を理由として,当該情報が開示された場合には,
新日本製鐵の事業に支障(不利益)があるとの意見書を提出した。
そのほか,本件数値情報のほかに有価証券報告書記載の新日本製鐵
全社の変動費,公表情報である各工場の生産量を考慮すると,名古屋
製鐵所におけるエネルギーコスト以外の変動費も推計することが可能
になるほか,固定費についても概算することが可能であるため,名古
屋製鐵所のコスト構造を推計することが可能である。
b 新日本製鐵の競業者のうち海外の事業者にとって,新日本製鐵の製
造コスト,エネルギー等プロセス効率は貴重な情報であり,海外の事
業者がこれらの情報を知ることが,新日本製鐵に競争上著しい不利益
を生じさせるおそれがある。
また,鉄鋼業においてはエネルギーがコスト構造上大きなウエイト
を占めているため,エネルギーコストに関する情報が,需要者側にも
たらされていることになれば,鉄鋼業者側は価格交渉上大きな不利益
を受けるおそれがある。
さらに,製鉄所におけるエネルギーの大半は,石炭であるところ,
石炭業は国際的に寡占化が進んでいるため,石炭の供給業者がエネル
ギー使用量に関する情報を知った場合,供給先たる新日本製鐵に対し
て高価格を提示してくるおそれがある。
(イ) 東ソー
a 東ソーは,第一種熱管理指定工場及び第一種電気管理指定工場とさ
れている四日市事業所に関し,様式4及び様式5の各定期報告書を提
出していた。
東ソーは,燃料等の種類別使用量,販売副生燃料等の量,それらの
合計値,原油換算量,対前年度比及び欄外の記載(様式4)並びに電
気の種別使用量,合計値及びそれらの対前年度比(様式5)から,工
場の稼働状況,使用燃料・電力等の消費原単位などのエネルギーコス
ト,製造原価の推定が可能であり,競争者に当該事項が明らかになっ
た場合には,東ソーが競争上不利益を被るという内容の意見書を提出
した。
そのほか,東ソー四日市事業所の主力製品である苛性ソーダ(水酸
化ナトリウム)製造過程については,電力コストが製造原価に占める
割合が大きく,そのコスト割合も業界内で周知のものとなっているか
ら,本件数値情報が開示されると,高い精度で製造コストが把握され
うる。
b 苛性ソーダなどの電解工場の製品は,化学工業の基礎原料と位置付
けられ,品質や機能といった優位性で差別されることはほとんどなく,
コスト競争の激しい製品である。本件数値情報が公にされることによ
り,コストの推計が詳細に行われると,苛性ソーダなどの販売におい
て,相手のコストレベルを推計した上での価格競争による不当な値引
き競争が発生し,経営体力の乏しい企業にとっては著しい不利益とな
る。
(ウ) 三菱化学四日市事業所
a 三菱化学は,第一種熱管理指定工場及び第一種電気管理指定工場と
されている四日市事業所の川尻工場及び同事業所の四日市工場に関し,
様式4及び様式5の各定期報告書を提出していた。
三菱化学は,燃料等の種類別使用量,販売副生燃料等の量,それら
の合計値,原油換算量及び対前年度比(様式4)並びに電気の種別使
用量,合計値及びそれらの対前年度比(様式5)から,製造コストを
推定することができ,製品によってはコストの大部分を燃料費が占め,
販売価格等の交渉に直接影響がでることが予想されるとし,また,燃
料は複数社から購入しており,各燃料の使用量の開示により,購入条
件の交渉に影響することが予想されるなど,当該情報が開示された場
合には,三菱化学の事業に支障(不利益)があるとする意見書を提出
した。
そのほか,化学製品の多くは,一般的な原料を使用して製造される
ため,原料の購入価格差が少ない。このため,製品のエネルギーコス
ト(燃料費)が推計されれば,これにより,競業他社は製品の製造コ
スト(少なくとも自社製品とのコストの差)を把握することが可能と
なる。
b 本件数値情報が公にされることにより,三菱化学四日市事業所の製
造コスト等が,その販売先や競業他社に把握される事態となれば,三
菱化学四日市事業所は,製品販売価格の価格交渉において劣勢となり,
販売価格の低下ひいては利益の低下という不利益を受けるおそれがあ
る。また,競業他社が,製造コスト等を把握すれば,低価格戦略等の
上で,三菱化学が劣勢に立たされ,販売量の低下という不利益を受け
るおそれがある。
(原告の主張)
ア 法5条2号イの趣旨・判断基準等
法5条2号イの「権利,競争上の地位その他正当な利益」とは,「当
該情報が事業活動上の機密事項や生産技術上の秘密に属する内容」をいう
ものと解すべきである。なお,特定化学物質の環境への排出量の把握等及
び管理の改善の促進に関する法律は,第一種指定化学物質等取扱事業者が
第一種指定化学物質の排出量等を主務大臣に届け出て,主務大臣が経済産
業大臣及び環境大臣に届出内容を通知することとしているところ,第一種
指定化学物質等取扱事業者が,主務大臣に対し,経済産業大臣及び環境大
臣に対する通知に当たって対応化学物質分類名によることを求めることが
できるのは,第一種指定化学物質の使用その他の取扱いに関する情報が
「秘密として管理されている生産方法その他の事業活動に有用な技術上の
情報」で,かつ「公然と知られていないもの」に限定されている(同法6
条1項)。
そして,法5条2号イの「当該法人等(中略)の権利,競争上の地位そ
の他正当な利益を害するおそれがあるもの」とは,その有している競争上
の地位が当該情報の開示によって具体的に侵害されることが客観的に明白
な場合に限られ,当該情報の開示により,どのような法人の権利,競争上
の地位その他正当な利益を害するおそれがあるのかについて,具体的な理
由とその根拠について示すことが不可欠である。仮に,一般的抽象的なお
それで足りるとすれば,一定の情報を開示することによって何らかの不都
合が生じるおそれがおよそ存在しないと断定できる場合は少ないから,開
示・不開示は全く行政庁の裁量にゆだねられてしまうことになる。
なお,被告は,情報公開法が開示請求権者を限定していないことを指摘
して,法5条2号イを広く解釈し,開示度を制限しているが,これは何人
に対しても開示請求権を認めることにより,広く行政を的確に監視するこ
とを保障する法の趣旨にそぐわない。
イ 本件数値情報の法5条2号イ非該当性
本件数値情報は,「生産方法その他の事業活動に有用な技術上の情報」
ではなく,また,本件数値情報から事業所の「生産方法その他の事業活動
に有用な技術上の情報」が明らかになるものではない。したがって,法5
条2号イの「権利,競争上の地位その他正当な利益」を,「当該情報が事
業活動上の機密事項や生産技術上の秘密に属する内容」と解する以上,本
件数値情報が法5条2号イに該当するとはいえないことは明らかである。
仮に,法5条2号イの権利,競争上の地位その他正当な利益を被告の主
張のとおり法的保護に値する権利一切,公正な競争関係における地位,ノ
ウハウ,信用等法人の運営上の地位が広く含まれると解するとしても,下
記に詳述するように本件数値情報が法5条2号イに該当することはない。
(ア) 製造原価を知られるリスク
本件数値情報によって,製品当たりの製造コストが類推可能になるも
のではない。仮に製品当たりの製造コストが類推可能になることがある
としても,同業他社も共通のルールによって開示されるのであり,競争
上の不利益が生じ,その地位が不当に害されることにはならない。
被告は,本件数値情報が公にされることにより,エネルギーコストが
判明し,ひいては製造原価を推計する手掛かりとなると主張する。しか
し,本件数値情報と公表資料等の他の情報を総合するとしても,燃料価
格の変動等により燃料種別の単価の想定には限界があること,事業所で
製造している製品は単一であるとは限らないことに照らすと,製品当た
りのエネルギーコストの推計の精度は極めて粗いものにとどまる。
そして,製造原価にはエネルギーコストのほかに,原材料費,人件費,
設備費など多様なものが含まれるところ,製造原価に占めるエネルギー
コストの割合は高くないこと,原材料費,人件費は事業所単位ではなく
会社単位でしか公表されていないことに照らすと,製品当たりの製造原
価の推計の精度は極めて粗いことは明らかである。
本件数値情報が公にされたとしても,このように極めて粗い精度でし
か製造原価の推計ができないのであれば,競争上の不利益が生ずるとは
到底いえない。
(イ) エネルギー効率化技術の水準・進展状況を知られるリスク
被告は,本件数値情報が公にされることにより,エネルギー効率化技
術の水準・進展状況が推測されうると主張する。
しかし,そもそも,エネルギー効率化技術の水準・進展状況が重要な
企業戦略・企業秘密であるとは考えられない。
また,本件数値情報に基づく製品当たりのエネルギーコストの推計の
精度は極めて粗いことから,エネルギー効率化技術の水準を推測するこ
とも極めて困難である。そうすると,具体的な競争上の地位が害される
といえるほどの具体的なエネルギー効率化技術が明らかになるとは到底
いえない。
(ウ) 燃料等の調達需要を知られるリスク
被告は,本件数値情報が公にされることにより,燃料等の調達先が当
該事業者の燃料等の需要を高い精度で知り得ることになり,当該事業者
の燃料の価格交渉に支障を来すと主張する。しかし,燃料の供給事業者
は複数あり,供給事業者側にも競争原理が働き,また,大量の購入であ
ればより価格交渉力が高まるともいえる。
(エ) 他者との契約違反となるリスク
被告は,当該事業者が製造技術に関し他者と技術ライセンス契約を結
んでいた場合,本件数値情報の公開が同契約違反に該当し得ると指摘す
る。しかし,本件数値情報は,当該工場全体の1年間のエネルギーの使
用量等であって,個別の製品の技術に関するエネルギー使用量を明らか
にするものではない。本件数値情報は,もともと,経済産業大臣(ない
しその委任を受けた中部経済産業局長)に対して報告が義務付けられて
いる情報であって,個別の技術ライセンス契約等において,本件数値情
報の秘密保持義務が課されることは想定できない。仮に,そのような秘
密保持義務が課されているとすれば,その契約自体の効力が問題となる
だけである。
(オ) 製造技術が推知されるリスク
被告は,本件数値情報が公にされることにより,本件数値情報を同業
他社が知ると,製造技術の進展等が判明するおそれもあると主張する。
しかし,本件数値情報そのものは製造技術に係る情報とはいえないほか,
製鉄所において,工場当たりの年間の石炭系の使用量が変わらず石油系
のエネルギー使用量が低減されたとしても,製鉄所における製造技術の
進展が明らかになるとの根拠はない。
(カ) 小括
このように,本件数値情報が公にされたとしても,当該法人の競争上
の地位その他正当な利益を害するおそれが生じることはない。
ウ 各事業者の意見書をも参考にしたことの当否
法13条所定の第三者に対する意見書提出の機会の付与の制度は,行政
機関の長が開示・不開示を正しく判断するために意見を求めるものであり,
判断自体は,行政機関の長が情報公開法に基づきするものであることは多
言を要しない。
競業関係にある同一業種の事業所が,一方は反対の意見を述べず,他方
が述べた場合は,どちらかの意見が誤っていると考えるのが自然であると
ころ,ことの性格上,開示に反対するとした方の意見が誤っていることが
考えられる。どちらの意見が正しいのか,意見が分かれる理由は何かなど
について処分庁は精査した上で,開示・不開示の決定をすべき義務がある。
それにもかかわらず,処分庁がこのような検討をした形跡は全くなく,
逆に,反対した事業者の意見をうのみにしていると考えざるを得ない。す
なわち,処分庁が情報公開法に基づいて判断する義務を怠ったものといわ
ざるを得ない。
( ) 争点( )本件処分によって不開示とされた情報が,法5条2号ただし書き 2 2
の開示事由に該当するか否かについて
(原告の主張)
仮に,本件数値情報が法5条2号イに該当する場合であっても,本件数値
情報は下記のとおり「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公に
することが必要であると認められる情報」(同号ただし書き)であるから,
本件処分は違法である。
ア 地球温暖化は,人間活動による温室効果ガスの急激な排出増加により,
地球の平均気温の上昇とそれに伴う気候変動を引き起こしている現象であ
るところ,温室効果ガスの代表的なものが二酸化炭素である。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測では,地球の平均地
上気温は1990年から2100年の間に1.4〜5.8度上昇する。こ
の度合いは,少なくとも過去1万年間で例をみないものである可能性がか
なり高い。
このような気温の上昇によって,日中の最高気温や最低気温が将来的に
上昇し,それに伴って暑い日が増え,熱波が現在よりも頻繁になる一方で,
寒波の発生や霜の日数が減少すること,多くの場所で集中豪雨現象が増加
し,アジアの夏季モンスーンによる降水量の変動性も増大すること,大陸
の内部地域の多くの場所では,夏季の干ばつが発生する頻度が高くなり,
エルニーニョ現象による干ばつや洪水が激しさを増してくること,熱帯低
気圧による最大風力や平均降水量,最大降水量が大きく上昇するなどの変
化が起こることが予測されている。
イ 予測される極端な気候現象の変化は,熱中症による死者の増加,マラリ
アを媒介する蚊の生息域の拡大など人の生命,健康にも影響を及ぼし,洪
水や高潮の増加,激甚化によって人の生命,身体,財産にも被害を及ぼす
ものである。
地球温暖化による悪影響を最小化するため,平成9年に京都議定書が採
択され,平成17年2月16日,京都議定書が発効したことから,我が国
は平成20年から平成24年までに温室効果ガスの排出を平成2年の水準
から6パーセント削減するという目標を達成する法的義務を負うに至った。
全温室効果ガス排出量の9割以上を占める二酸化炭素等の温室効果ガスの
排出状況に関する情報のみならず,本件数値情報及びその経年的変化は,
二酸化炭素排出削減のための政策立案,実施,評価,見直しのために公に
することが必要不可欠である。
(被告の主張)
地球温暖化による影響として,原告主張の影響が予測され,懸念されてい
ることは,一般論としては認める。また,京都議定書の趣旨・要点に関する
一般的理解を争うものではない。
しかし,これを理由に本件数値情報が開示されるべきとの主張は争う。
( ) なお,被告は,別紙2記載の9通分 3 の定期報告書の各不開示部分は,前記
のとおり,平成18年5月19日,本件変更決定により原告に開示されたか
ら,同部分に関する本件各訴えは訴えの利益を欠くので却下されるべきであ
る旨,また,各不開示部分の開示決定の義務付けを求める訴えは,行政事件
訴訟法3条6項2号のいわゆる申請型の義務付けの訴えであり,同法37条
の3第1項2号の「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却す
る旨の処分又は裁決がされた場合において,当該処分又は裁決が取り消され
るべきものであり,又は無効若しくは不存在であること」が救済の必要性に
係る訴訟要件となるから,本件処分が取り消されるべきものでない以上,こ
の訴えは,不適法として却下されるべきである旨主張した。
第3 当裁判所の判断
1 前述したとおり,本件処分のうち別紙2記載の各不開示決定に係る行政文書
は,平成18年5月19日,処分庁が,本件変更決定によって開示処分をし,
原告はこれによってそれらの開示を受けたことが明らかであるから,別紙2記
載の各不開示決定の取消しと,各不開示決定に係る行政文書の開示の義務付け
を求める部分の各訴えは,いずれも訴えの利益を欠き,却下を免れない。
原告は,従来の訴訟進行の経緯を明らかにするため,上記各部分の訴えを維
持する旨主張するが,そのような事情が訴えの利益を基礎づけるものではない
ことは明らかであって,その主張は採用できない。
2 争点( )本件処分によって不開示とされた情報が,法5条2号イの不開示事 1
由に該当するか否かについて
( ) 法5条2号イの趣旨・判断基準等 1
情報公開法は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権
利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,
もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにす
るとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進
に資することを目的としており(1条),その観点から,行政機関の保有す
る行政文書の開示の請求権者を特に限定せず(3条),また,5条各号に掲
げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き,行政機関の長に対
して当該行政文書の開示を義務付けている。
法5条2号イは,「公にすることにより,当該法人(中略)の権利,競争
上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」を不開示情報として
定めているところ,ここにいう「当該法人(中略)の権利,競争上の地位そ
の他正当な利益」は,その文言解釈からして,法的保護に値する権利一切,
公正な競争関係における地位,ノウハウ,信用等法人の運営上の地位が広く
含まれると解するのが相当と解され,原告が主張するような,当該情報が事
業活動上の機密事項や生産技術上の秘密に属する内容をいうものとの限定的
な解釈をすべき根拠は,情報公開法の各規定上にその手掛かりもなく,また,
原告指摘の特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に
関する法律6条の規定も,情報公開法の不開示情報の規定の解釈と関係すべ
き根拠は見当たらないから,そのような解釈を採用することは困難というべ
きである。
次に,法5条2号イは不開示情報の要件として「正当な利益を害するおそ
れ」の存在を定めているが,法1条が定めている上記のとおりの同法の趣旨
及び目的,そして同法が行政文書の原則的な公開を義務付け,不開示情報を
例外的なものとして位置付けている構造に照らすと,上記「おそれ」は公に
することにより当該法人の正当な利益を害する可能性があるというだけでは
足りず,それにより当該法人の正当な利益が害される蓋然性が認められるこ
とが必要というべきである。
そして,上記蓋然性があるかどうかの判断に当たっては,法人やそれが属
する業界の多種,多様な種類,業態,性格,商圏その他の諸要素を勘案し,
当該法人について問題となる利益の内容,性質をも考慮した上,それに応じ
て,当該法人の権利の保護の必要性の内容,程度等の諸事情を検討して行う
必要がある。
もっとも,上記の正当な利益を害するおそれについて,その蓋然性の有無
の検討にあたり,前提となるべき事実関係として求められる具体性の程度,
内容いかんによっては,それ自体が情報の開示を意味するものともなり得る
ものであるから,そのような不都合を来すことのないよう,ある程度類型的
な事実関係を基にした判断が前提となることはやむを得ない。
そうすると,法5条2号イの不開示事由に当たるかどうかの判断について
は,対象となる情報の類型的な特質に着目した検討を行った上,なお当該法
人に関する個別事情に照らした検討を併せて行うのが相当であるから,以下
この検討方法に従って判断を進める。
( ) 本件数値情報が一般的に法5条2 2 号イの不開示事由に該当するか。
ア 本件数値情報の内容・性質
(ア) 本件数値情報の前提となる省エネ法等の規定
省エネ法は,内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応
じた燃料資源の有効な利用の確保に資するため,工場,建築物及び機械
器具についてのエネルギーの使用の合理化に関する所要の措置その他エ
ネルギーの使用の合理化を総合的に進めるために必要な措置等を講ずる
こととし,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としてい
る(同法1条)。同法は,上記の目的を達するため,経済産業大臣は,
政令で定める基準以上の燃料等を使用する工場を燃料等の使用の合理化
を特に推進する必要がある工場(第一種熱管理指定工場)として,政令
で定める基準以上である電気等を使用する工場を電気の使用の合理化を
特に推進する必要がある工場(第一種電気管理指定工場)として,それ
ぞれ指定することができ(同6条),主務大臣は,事業者に対し,エネ
ルギーの使用の合理化の適確な実施を確保するため必要があると認める
ときには,必要な指導及び助言をし(同5条),エネルギーの使用の合
理化が著しく不十分であると認めるときは,当該第一種特定事業者に対
して,エネルギーの合理化に関する計画の作成,提出を指示し,この合
理化計画が不適切であれば合理化計画を変更すべき旨を指示し,合理化
計画を適切に実施すべき旨を指示することができる(同12条)旨を定
めている。
そして,同法は,主務大臣が,第一種特定事業者に対しエネルギーの
使用の合理化を促す前提として,第一種特定事業者は,毎年,第一種エ
ネルギー管理指定工場におけるエネルギーの使用の合理化の目標に関す
る中長期的な計画を作成し,主務大臣に提出する義務を負うほか(同1
0条の3),毎年,第一種熱管理指定工場にあっては燃料等の使用量そ
の他燃料等の使用の状況(燃料等の使用の効率に係る事項を含む。)並
びに燃料等を消費する設備及び燃料等の使用の合理化に関する設備の設
置及び改廃の状況に関し,第一種電気管理指定工場にあっては電気の使
用量その他電気の使用の状況(電気の使用の効率に係る事項を含む。)
並びに電気を消費する設備及び電気の使用の合理化に関する設備の設置
及び改廃の状況に関し,経済産業省令で定める事項を主務大臣に報告し
なければならないことを定めている(同11条)。
(イ) 本件数値情報の内容
本件数値情報は,省エネ法11条で提出を義務付けられた定期報告書
のうち,第一種熱管理指定工場については燃料等の使用量及び販売副生
燃料等の量並びにそれらの合計量(省エネ法施行規則(ただし,平成1
6年経済産業省令第101号による改正前のもの)11条1項1号,様
式第4第1表),第一種電気管理指定工場については電気の使用量(施
行規則11条2項1号,様式第5第1表)であるが,その具体的な内容
は以下のとおりである。
第一種熱管理指定工場に関する定期報告書では,第1表として燃料等
の使用量及び販売副生燃料等の量を報告すべきこととしている。すなわ
ち,燃料等の種類(原油,コンデンセート(NGL。ただし原油の内量
として),揮発油,ナフサ,灯油,軽油,A重油,B・C重油,石油ア
スファルト,石油コークス,石油ガス(液化石油ガス(LPG),石油
系炭化水素ガス),可燃性天然ガス(液化天然ガス(LNG),その他
可燃性天然ガス),石炭(原料炭,一般炭,無煙炭),石炭コークス,
コールタール,コークス炉ガス,高炉ガス,転炉ガス,その他の燃料等
(都市ガス,蒸気,温水,冷水,その他))ごとの使用量を記載し,燃
料等の種類ごとに施行規則別表第1で定められた値(例えば,原油1キ
ロリットルにつき38.2ギガジュール)を乗じて換算した値を使用量
の熱量GJ欄に記載する(別表第1に記載のない燃料等については,発
熱量を記載する。)。燃料の種類ごとに記載した燃料GJの値を合計し
た値を合計GJ欄に記載し,この値を千万キロジュール(10ギガジュ
ール)に対し原油0.258klとして換算した値を原油換算kl欄に
記載する。対前年度比(%)の項目には,原油換算klの値の対前年度
比を小数点以下1位まで記載する。販売副生燃料等の量の欄には,燃料
等の種類ごとに販売された及び自らの生産に寄与しない燃料等の量を記
載し,燃料等の種類ごとに施行規則別表第1で定められた値を乗じて換
算した値を販売副生燃料等の量の熱量GJ欄に記載した上で,燃料の種
類ごとに記載した燃料GJの値を合計した値を合計GJ欄に記載する
(乙2号証)。
第一種電気管理指定工場に関する定期報告書では,第1表として電気
の使用量を報告すべきこととなっている。すなわち,報告年度における
電気の使用量の合計を報告年度の合計欄に,その内訳を昼間買電(8時
から22時までに一般電気事業者から供給を受けた電気),夜間買電
(22時から翌8時までに一般電気事業者から供給を受けた電気),上
記以外の電気に分けて記載する。その上で,合計,内訳ごとに対前年度
比を計算してそれぞれ対前年度比欄に記載する(乙3号証)。
(ウ) 本件数値情報の公開に関する立法経緯
エネルギーの使用の合理化に関する法律の一部を改正する法律(平成
10年法律第96号)の施行により,第一種特定事業者が,本件数値情
報を含む定期報告書を提出することが義務付けられた。同法案の審議が
行われた平成10年5月15日の衆議院商工委員会において,政府委員
(資源エネルギー庁石炭・新エネルギー部長)は,年間のエネルギー使
用量(本件数値情報),生産数量,あるいは具体的な設備の導入,投資
の計画等について定期報告を求める趣旨は,国が指定工場におけるエネ
ルギー使用合理化の取組状況を把握し,その取組を推進,徹底するため
であり,これらの事項は,通常,企業の経営上の秘密に属するから一般
に公開することはなじまない旨,もし,これらを公開することとすると,
企業から国が入手できる情報が限定されかねない旨の答弁をしている
(乙4号証)。
上記平成10年法律第96号は,情報公開法(平成11年5月14日
公布,平成13年4月1日施行)の制定前の平成10年6月5日に公布
され,平成11年4月1日に施行されたものであるが,その立法過程に
おいては,本件数値情報を含む定期報告書の内容を一般的には公開しな
いことを前提とした審議がなされた経緯があることが認められる。
イ 本件数値情報が公にされることによる不利益のおそれ
(ア) 製造原価を知られるリスクについて
本件数値情報から直接特定の製品の製造原価を推計することはできず,
本件数値情報とその他の情報から工場全体のエネルギーコストを推計し,
工場全体のエネルギーコストとその他の情報から製品当たりのエネルギ
ーコストを推計し,製品当たりのエネルギーコストとその他の情報から
製造原価を推計するという3段階の推計の過程を経る必要がある。その
推計の過程及び推計の精度は,下記aないしcのとおりである。
a 本件数値情報による工場全体のエネルギーコストの推計
一般に,燃料種別の単価は,各種統計により入手することができる。
例えば,原油,ナフサ,灯油,軽油,A重油,C重油,LPGのCI
F価格(運賃・保険料込み条件価格)は,石油連盟が「石油資料月
報」で毎月の価格を公表している。また,石炭の価格は,石炭年鑑等
により公表されている。そのほか,電力費については,各電力会社が
時間帯別調整契約標準単価を公表している(乙9号証,14号証,弁
論の全趣旨)。
そこで,定期報告書様式第4の第1表及び同様式第5の第1表に記
載されている本件数値情報が公にされると,燃料等の種類ごとの使用
量に公表された燃料種別単価をそれぞれ掛けたものを合算し,販売副
生燃料等の量に燃料種別単価を掛けたものを減じ,昼間買電及び夜間
買電の使用量に上記標準単価をそれぞれ掛けたものを加えると,定期
報告書に係る工場全体のエネルギーコストを推計することは可能であ
る(乙9号証)。
しかし,上記推計結果の精度には以下のとおりの限界がある。すな
わち,各種統計で公開されている燃料種別単価は,月ないし年を通じ
た平均単価であり,この単価が,当該事業者が特定の供給業者との交
渉等を経て決定される金額と同一であるとは限らず,両者の価格に差
異があり得ることが予想される。また,海外から輸入する燃料等で購
入価格が外貨建てで決定される場合には,為替変動等による不確定要
因もある。そのほか,各種統計で公表されていない燃料等(石炭コー
クスの粉,コールタール,コークス炉ガス,転炉ガス,蒸気等)につ
いては,購入価格等を他の方法で推定する必要があるところ,その推
定値と当該工場の実際の購入価格等との間に差異があり得る(甲40
号証,弁論の全趣旨)。
したがって,本件数値情報が公にされた場合,当該工場全体のエネ
ルギーコストは,他の公表資料等をも利用することによって推計する
ことが一応可能であるとはいえるが,その精度にはある程度の幅があ
ることも否定できない。
b 製品当たりのエネルギーコストの推計
仮に,当該工場が単一の製品のみを生産しているという場合には,
当該工場全体のエネルギーコストを製品の生産量で割ることにより,
1製品当たり(あるいは製品1単位当たり)のエネルギーコストを推
計することが可能である(乙9号証)。
この場合の1製品当たり(又は同上)のエネルギーコストの推計の
精度は,生産量が当該事業者の発表資料等により正確に把握できる場
合には,当該工場全体のエネルギーコストの推計の精度のみに依存す
るが,正確な生産量が把握できない場合には,その生産量の推計の精
度によっても左右される。
しかし,実際には,一つの工場で単一の製品のみを生産するという
場合は比較的少ない事態と推認されるから,通常は,特定の製品につ
いて製品当たりのエネルギーコストを推計するためには,その工場の
主力製品などを代表製品として設定し,代表製品当たりのエネルギー
コストを推計する方法を採用することになる。すなわち,代表製品及
び当該製品の各1製品当たり(あるいは製品1単位当たり)のエネル
ギーコストをそれぞれ想定した上で,当該製品の製造に要するエネル
ギーと代表製品の製造に要するエネルギーとの比を推測し,代表製品
に換算した場合の生産量を計算し,当該工場全体のエネルギーコスト
を換算生産量で割ることにより,代表製品の1製品当たり(あるいは
製品1単位当たり)のエネルギーコストを推計し,当該製品の製造に
要するエネルギーと代表製品の製造に要するエネルギーとの比を利用
して当該製品の製品当たり(あるいは製品1単位当たり)のエネルギ
ーコストを推計することになる(乙14号証)。
この方法による当該製品の製品当たりのエネルギーコストの推計の
精度は,当該工場のエネルギーコストの推計の精度のほかに,当該製
品の製造に要するエネルギーと代表製品の製造に要するエネルギーの
比の推測の精度にも依存する。
また,当該製品の製造に要するエネルギーと代表製品の製造に要す
るエネルギーの比の推計をする前提としての当該製品及び代表製品の
製造に要するエネルギーコストの想定は,競業者にとっても相当困難
であると推測され,これらの比の推計の精度は粗いものとみざるを得
ない。
そうすると,製品当たりのエネルギーコストの推計の精度は,工場
全体のエネルギーコストの推計の精度よりも更に粗いものとみるほか
ない。
c 製品当たりの製造コストの推計
製品当たりの製造コストは,エネルギーコストに着目した場合,製
品当たりのエネルギーコスト,エネルギーコストを除く原材料費,労
務費及びその他の経費(機械設備等の減価償却費等)の合計であると
整理することができる。このうち,エネルギーコストを除く原材料費
等は,当該工場で生産されている製品の種類,生産量,製造方法等か
ら原材料の種類を割り出して推測することになる。さらに,労務費,
その他の経費も有価証券報告書等で公表されているものを工場ごとに
割り付け,その後当該工場で生産している製品ごとに割り付けること
となる。すなわち,エネルギーコストを除く原材料費,労務費及びそ
の他の経費は,本件数値情報から推計することはできない(乙9号証,
弁論の全趣旨)。
そうすると,本件数値情報が公にされることにより,製品当たりの
製造コストの推計がより正確になる程度は,製品当たりのエネルギー
コストの推計の精度のほかに,製造コストに占めるエネルギーコスト
の割合にも依存することになる。しかし,経済産業省調査統計部によ
る工業統計によれば,製造業平均の燃料使用額・電力使用額の製造品
出荷額等に占める割合は,2.1パーセントにとどまること(弁論の
全趣旨)に照らすと,製造業一般の製造コストに占めるエネルギーコ
ストの割合はさほど大きいものではないと推測される。
そして,製品当たりのエネルギーコストの推計の精度に相当の限界
があることをあわせ考えれば,一般的には,本件数値情報を第三者が
入手することにより製造原価の推計が精密になる度合いはわずかなも
のにとどまると評価するのが相当である。
原告の本件開示請求について,本件数値情報に係る事業者らの大多
数が最終的にはその開示に反対しない旨の意見を被告に提出したこと
は前述のとおりであるところ,その間,事業者ごとに製造原価を推計
される程度,内容と,それにより営業上の正当な利益を侵害されるお
それの有無,程度等について,個別の検討を加えた経緯があるものと
推認されるが,このことは,多様な業種,規模等にわたる上記事業者
らの大多数が,各事業者に関する製造原価の推計の点が本件数値情報
の開示について支障とならないとの判断をしたことを示しているとみ
ることが可能である。
d 小括
そうすると,本件数値情報が公にされたとしても,本件数値情報を
利用することによる製造原価の推計の結果は,さほど精度の高いもの
となるとは解されないから,競業他社が本件数値情報を知ることによ
って,より低価格の営業を展開するので競争上の不利益が生じるとか,
本件数値情報を知った販売先顧客から値下げの要求がなされて不利益
が生じるなどという可能性は少ないものと解される。
(イ) エネルギー効率化技術の水準,進展状況を知られるリスク
競業他社が,当該事業者の工場に関する本件数値情報を入手した場合,
当該事業者における製品当たりのエネルギーコストをある程度推計する
ことができることは上述したとおりであり,このことはエネルギー効率
化技術に関する水準や進展状況の推知にもつながり,競業他社の技術革
新や投資状況等を推し量るための情報となり得ることも否定できない。
しかし,一般的には,製品当たりのエネルギーコストの推計精度には限
界があること,そして製造業におけるエネルギーコストの製造原価に占
める割合が必ずしも大きくないことは上述したとおりであるから,本件
数値情報が公にされたとしても,エネルギー効率化技術の水準や進展状
況を知られることにより不利益が生じる可能性は相当小さいものといわ
ざるを得ない。
(ウ) 燃料等の調達需要を知られるリスク
本件数値情報が公にされると,当該事業者の燃料等の調達先は,当該
事業者の燃料等の種類別の年間使用量を知ることができる。そのため,
本件数値情報が公になると,当該事業者の燃料等の調達の際の価格交渉
等に影響が生じることが全くないとはいえない。
しかし,現実に燃料等の調達に支障が生じるかどうかは,当該工場で
用いている燃料等の種別,燃料等の量,従来の調達に関する経緯その他
の諸要因によって左右されるものと解されるから,本件数値情報が公に
されたとしても,一般的に燃料等の調達に関する不利益が発生する蓋然
性があるとまではいえない。
(エ) 他者との契約違反となるリスク
当該事業者が,その製品の製造に関し,他社と秘密保持条項を含む技
術ライセンス契約等を締結する場合において,当該製造方法では,競業
他社が通常使用することのない燃料等を使用するときには,ライセンス
の供与者が当該事業者に対し,燃料等の種類について秘密保持を求める
こともありえないことではない。
しかし,法令の定めにより行政庁への報告が義務付けられている情報
について,これを行政庁に対しても報告をしてはならない義務が秘密保
持条項等に定められているとすれば,そのような約定の効力それ自体が
問題とされるべきであり,法令に従って行政庁に報告した情報が,情報
公開法に基づく開示請求に基づいて,同法所定の不開示情報に当たらな
い情報であるとして開示された場合,当該事業者に何らかの契約上の債
務不履行責任が生じることは,一般的には想定されないから,本件数値
情報が公にされたとしても,当該事業者がこれによって契約違反として
不測の損害を被る余地は少ないと解される。
(オ) 製造技術が推知されるリスク
被告は,本件数値情報が公にされることによって製造技術が推知され
るリスクがあると主張するが,その主張にかかるリスクはなお限定的な
事例に関する抽象的なものに止まり,一般的に,本件数値情報が開示さ
れることによって製造技術が推知される可能性があるとまでは解されな
い。
ウ 小括
以上に検討したとおり,本件数値情報が公にされたとしても,一般的に,
競争上の不利益が発生する可能性が相当程度に認められるとか,したがっ
てその蓋然性があるとは認められない。
エ なお,省エネ法の上記平成10年改正法をめぐる国会審議の際には,本
件数値情報を含む定期報告書の内容は公開を予定しないことを前提とする
係官説明がなされた経緯があることは前述したとおりである。
しかし,定期報告書の記載事項は,本件数値情報のほか,燃料等ないし
電気を消費する設備の新設,改造又は撤去の状況及び稼働状況,燃料等な
いし電気の使用の合理化に関する設備の新設,改造又は撤去の状況及び稼
働状況,燃料等ないし電気の使用の合理化に関し実施した措置,生産数量
又は建物延べ床面積その他のエネルギーの使用量と密接な関係をもつ値,
燃料等ないし電気の使用の効率など多岐に渡るものであるところ,これら
が公開されることにより一般に予想される事業者の利益への影響の程度,
内容は,その情報ごとに様々であり,例えば,燃料等の使用の合理化に関
する設備及び燃料等を消費する主要な設備の概要,稼働状況及び新設,改
造又は撤去の状況(様式第4第2表),燃料等の使用に係る原単位が対前
年度比1%以上改善できなかった場合その理由(様式第4第5表)など一
般に企業の秘密と評価すべきことが明らかなものもあれば,本件数値情報
のように,上述したとおり,公にしても法人等の正当な利益を害さないと
解されるものが混在しているから,上記の改正法の立法経緯は,本件数値
情報を不開示とすべき根拠とすることはできない。
また,被告は,定期報告書中の情報が開示されると,事業者が正確な報
告をしなくなるとか,あるいは定期報告書の提出それ自体を拒否するなど
の懸念が生じると主張するが,そのような事態が正当な根拠に基づくもの
とはいえないことは明らかであるから,それらの懸念があるとすれば,主
務大臣又はその委任を受けた者は,事業者に対して適切な行政指導を行う
などして,そのような事態の発生を防止するよう対処すべきものである。
したがって,上記の被告の主張は採用することができない。
( ) 法人の個別事情に照らした検討 3
ア 新日本製鐵
(ア) 乙13号証(新日本製鐵従業員作成にかかる開示に関する意見書)及
び弁論の全趣旨によれば,新日本製鐵名古屋製鐵所に関して以下の事実
が認められる。
a 名古屋製鐵所の製造過程等
新日本製鐵は,鉄鉱石を石炭で還元し鉄鋼を製造する一貫プロセス
を中心とした鉄鋼製造会社である。名古屋製鐵所は,一貫プロセスに
より自動車用鋼板等の高級薄板を中心に製造しており,その国内出荷
量の75パーセントは中部地区の自動車製造会社や家電製造会社を中
心とした特定需要家に供給されている。
一貫プロセスを採用する一貫製鉄所においては,1次エネルギー供
給源の90パーセント以上は石炭及び製鉄工程から発生する副生ガス
・電気等の転換エネルギーであり,そのうち90パーセント程度は,
製銑(鉄鉱石から溶銑を作る工程),製鋼(溶銑を精製して溶鋼とし,
それを固めて半製品である鋼片を作る工程)で消費されている。
鉄鋼製品は鋼片を加工して製造するが,鉄鋼製品のエネルギーコス
トは,製銑及び製鋼の効率に大きく依存している。また,一貫製鉄所
の場合,エネルギーコストの全変動費に占める割合は25〜35パー
セントである。
製鉄業は,国際的な競争が激しく,とりわけ近年,低い人件費やイ
ンフラコストに加え,最先端の設備を導入してきた韓国,中国等のア
ジア諸国のメーカーは国内外の市場において,日本の鉄鋼業界にとっ
て大きな脅威となっている。
b エネルギーコスト等の推計等
名古屋製鐵所の提出した定期報告書中の本件数値情報が公にされ,
あるいは,新日本製鐵の各工場の提出した定期報告書中の本件数値情
報が公にされると,下記の過程( )ないし a c( )によりエネルギーコスト
等の推計等が可能になる。
( ) エネルギーコストの推計 a
名古屋製鐵所で用いられている燃料は,灯油,軽油,C重油,液
化石油ガス(LPG),原料炭,一般炭,石炭コークスであるとこ
ろ,原料炭及び一般炭の石炭の割合が熱量基準で約9割を占める。
名古屋製鐵所の販売副生燃料等は,石炭コークス,コークス炉ガス,
高炉ガスからなる。名古屋製鐵所で使用している電気は,すべて自
家発電である。したがって,本件数値情報を入手した場合,灯油,
軽油,C重油,液化石油ガス(LPG),原料炭,一般炭,石炭コ
ークスの燃料別使用量に,各種資料で公表されている燃料別単価を
掛けて足し合わせることによって,名古屋製鐵所全体のエネルギー
コストを推計することが可能である。また,本件数値情報のうち,
使用量の合計TJ欄や原油換算Ml欄のみが公開されたとしても,
使用エネルギーの石炭の占める割合が大半であるから,名古屋製鐵
所のエネルギーコストを推計することが可能である。なお,年度ご
とのエネルギーコスト等の比較の際,燃料単価の変動を除外するこ
とが必要であれば,当該年度の燃料単価に代えて,基準年の燃料単
価を用いてエネルギーコストを推計することも可能である。
( ) 生産量当たりの b エネルギーコスト等の推計等
上記で推計した名古屋製鐵所全体のエネルギーコストを,名古屋
製鐵所の粗鋼生産量(新日本製鐵のアニュアルレポート又は名古屋
製鐵所のパンフレットにより公開されている。)で割ることによっ
て,粗鋼1トン当たりのエネルギーコストを推計することができる。
そのほか,本件数値情報中の使用エネルギー量を生産量で割るこ
とによって,エネルギー効率を示すエネルギー原単位を計算するこ
とができる。
( ) 原価構造等の把握 c
新日本製鐵は上場企業として有価証券報告書を提出しており,そ
の中の製造原価明細書において新日本製鐵全体の材料費が明らかに
されているところ,その中にエネルギーコスト分も含まれている。
そして,材料費からエネルギーコスト部分を除いた原材料部分は,
生産量におおむね比例すると考えて,工場ごとに案分して取り扱え
ば,原材料費とエネルギーコストの構造を把握することができる。
また,競業他社といえども,設備装備の差,生産構成の差,設備
償却費用等の要因があることから,有価証券報告書をもとに,事業
所別の固定費を正確に推定することは困難であるものの,各製鉄所
の粗鋼生産量を案分することにより概算することは可能である。す
なわち,本件数値情報が開示されることにより,名古屋製鐵所全体
の原価構造をおおむね把握することが可能になる。
( ) 推計の精度 d
上記( )ないし( )の推計方法は,先 a c に述べた一般論としての推計
方法と異なるものではないから,上記推計等の精度については,先
に述べたとおりの限界が存在している。すなわち,統計上の燃料種
別単価と実際との購入単価との差異,最終的な製品が単一ではない
ことなどは,推計の精度を下げる要因である。
そして,本件数値情報が公にされた場合,名古屋製鐵所のエネル
ギーコストの推計が,製造業一般のそれより精度が高いものとなる
ことをうかがわせるべき事情は,乙13号証その他の本件全証拠に
よっても認めることができない。
また,一貫製鉄所のエネルギーコストの全変動費に占める割合は
25〜35パーセントであり(乙13号証),原告の指摘によれば,
一般的な製造業における売上高等に占める燃料・購入電力使用額の
割合は,製造業一般につき2.1パーセント,高炉による製鉄業に
つき6.3パーセントであり,これに反する証拠もみあたらないか
ら,製造コストに占めるエネルギーコストの割合についても,高炉
による製鉄業が製造業一般より顕著に高いとは見受けられない。
そうすると,本件数値情報が公開された場合に,名古屋製鐵所の
製造コストの推計が,製造業一般のそれに比べてより精度が高いも
のになるとは認められない。
(イ) 名古屋製鐵所につき本件数値情報が法5条2号イに該当するか。
a 競業他社との競争
被告は,名古屋製鐵所のエネルギーコスト,製造コストが競業他社
に知られた場合,同製鉄鐵所の製品の価格競争力が低下する懸念があ
ると主張し,乙13号証の内容はこれに沿うものである。
しかし,情報公開法における不開示情報該当性を判断するに当たっ
ては,客観的な状況に基づいて,そのような懸念がどれだけ現実化す
るかという前記の蓋然性を考慮すべきであるところ,本件数値情報が
公開された場合に,名古屋製鐵所全体のエネルギーコストの推計精度
が製造業一般に比べてより高いものになるとは考えられず,同製鉄所
の製品の製造原価の推計精度も製造業一般に比べ格段に精密になると
は認められないから,上記懸念が現実化する可能性は,製造業一般に
比べて格別大きいとは認められない。
また,乙13号証によれば,名古屋製鐵所は,国際的な競争が激化
している現状において,成長著しい韓国や中国の製造業者が,名古屋
製鐵所のエネルギー効率及びエネルギーコストを知ると,国際的な競
争力が低下するとの懸念を抱いていると認められる。
しかし,厳しい国際的な競争の存在は製鉄業だけに限らず,我が国
の製造業全体に共通する状況であって,それによって本件数値情報が
公にされた場合に競争上の地位が害されることを認めるのは困難とい
うべきである。そして,本件数値情報が公にされることにより,名古
屋製鐵所のエネルギー効率(エネルギー原単位)及びエネルギーコス
トを海外の競業関係にある事業者が入手した場合,これらの事業者が
開発目標値の設定に当たってこれを参考とするものと推測されるが,
それによって直ちに新日本製鐵の国際的な競争上の地位が害される蓋
然性があるとまでは認められない。
b 需要家との価格交渉に与える影響
被告は,名古屋製鐵所の製品の需要家に,本件数値情報を数か年に
わたり取得され,名古屋製鐵所の生産量当たりのエネルギーコストの
推移を把握されると,同製鐵所は,これら需要家から製品単価の値下
げを要求される懸念があると主張し,乙13号証にはこれに沿う部分
がある。
しかし,鉄鋼業一般におけるエネルギーコストの全変動費に占める
割合が25〜35パーセントであるものの,製造原価全体に占めるエ
ネルギーコストの割合は必ずしも明らかでないことに加え,現実の燃
料の調達コストを需要家は正確に知ることはできないことをも考慮す
ると,本件数値情報が公にされることによっても,特定需要家が,製
品単価の値下げを要求できる程の正確な製造原価等を推知できるわけ
ではなく,したがって上記の懸念が現実化する蓋然性があるとはいえ
ない。
c 石炭供給者との価格交渉に与える影響
乙13号証には,石炭の供給者は国際的な寡占化が進んでいること
から,本件数値情報が公にされると,石炭供給者に名古屋製鐵所の石
炭消費量を正確に把握され,石炭価格の値上げを要求されかねないと
する趣旨の記述がある。
一貫製鉄所における粗鋼生産に要する石炭と鉄鉱石の割合は鉄鋼業
界及びその関係業界には公知であるとみられるから,新日本製鐵のよ
うに各工場における粗鋼の生産量が公開されている場合には,鉄鋼業
界及びその関係業界の関係者は,石炭消費量を相当の精度で推計する
ことができる。そして,本件数値情報が公にされると,石炭供給者が
名古屋製鐵所の石炭消費量を正確に把握し得ることになるが,もとも
と相当の精度での推計が可能であったものであるから,本件数値情報
が公にされることによって石炭供給者との価格交渉に悪影響を及ぼす
蓋然性があるということはできない。
d 製造技術が推知されるリスク
被告は,鉄鋼業において本件数値情報を同業他社が知ると,使用さ
れる石油系燃料の削減量によって,工程の組み換えをどの程度進展さ
せたかについて競業他社に知られることとなり,当該事業者の製造技
術の進展等が判明すると主張する。
しかし,鉄鋼業の場合,粗鋼の生産過程においてエネルギー使用の
効率化につながる一般的な工程の組み換えを進展させると,石油系燃
料の使用量が低減されるという現象がみられることに関する証拠はな
いが,仮にこれを前提とし,競業他社が当該事業者の製造技術の進展
等を知り得たとしても,それによっては直ちに当該事業者の競争上の
地位その他正当な利益が害されることになるとはいえない。
e 小括
上記aないしdの検討によっても,本件数値情報が公にされること
により新日本製鐵の競争上の地位が害されるとの蓋然性を認めるに足
りない。したがって,名古屋製鐵所が提出した定期報告書中の本件数
値情報は,法5条2号イの法人等の正当な利益を害するおそれがある
ものに該当するとは認められない。
イ 東ソー
(ア) 乙15号証(東ソー従業員作成にかかる不開示理由の陳述書)及び弁
論の全趣旨によれば,東ソー四日市事業所に関して以下の事実が認めら
れる。
a 東ソー四日市事業所の製造過程等
東ソー四日市事業所は,塩水を電気分解して苛性ソーダ(水酸化ナ
トリウム)などを,ナフサを熱分解してエチレンなどを製造している。
東ソー四日市事業所で用いられている燃料は,重油類,石油コークス,
副生ガスであるところ,副生ガスはエチレン等の製造の際の熱源とし
て使用し,重油類と石油コークスを自家発電等のボイラー用燃料とし
て使用していることは,第三者とりわけ競業他社には常識的なものと
して理解されている。
b 製造コスト等の推計等
本件数値情報が公にされると,東ソー四日市事業所における発電コ
スト,製造コストが以下のようにして推計される。
( ) 発電コストの推計 a
発電コストは,一般に,発電用ボイラーに関する燃料費等に電力
比率(発電用に利用された燃料の割合)を掛け,発電設備固定費を
足すことによって計算することができる。
まず,燃料費等は,燃料費(本件数値情報中の重油類,石油コー
クスの使用量に各種資料により公表されている燃料別単価をそれぞ
れ掛けた上で足したもの),脱硫費(ボイラーで発生する硫黄分を
除去するための費用であり,脱硫剤使用量に脱硫剤の単価を掛けて
計算する。),その他の費用(燃料助剤,脱硝用アンモニア等の費
用であり,各使用量に各単価を掛けた上で足し合わせて計算す
る。)を加えたものである。
次に,電力比率は,電力熱量(発電に要した熱量)を燃料熱量
(ボイラーで燃料を燃やして発生する熱量)及び燃料利用効率で順
次割った値である。なお,ここにいう燃料利用効率は,競業他社な
どにはほぼ明らかな数値であり,0.8程度である。また,燃料熱
量は,本件数値情報中の重油類,石油コークスの使用量にエネルギ
ー源別標準発熱量を燃料別に掛け合わせて足すことによって計算す
るものである。また,電力熱量は電気の熱量と復水ロス(発電設備
のタービンを回転させるためにボイラーで製造された高温高圧水蒸
気をボイラーに環流させる際,液体に戻すため冷却して余剰の熱量
を排熱(廃棄)することによるエネルギーの損失)からなるところ,
電気の熱量は本件数値情報中の発電量を1キロワット時=3600
キロジュールで換算したもの,復水ロスは復水ロス量(競業他社は
東ソー四日市事業所の復水ロス量を知っている。)に1キログラム
当たり2177キロジュールの定数を掛けたものである。
発電設備固定費は,本件数値情報とは別個に,公開されている設
備建設時期と投資額から減価償却費を推測するものである。
( ) 製造コストの推計 b
苛性ソーダの製造コストは,発電コスト,原料費,製造設備固定
費及び労務費からなる。このうち原料費については,業界団体から
公表されている設備稼働率と東ソー四日市事業所の苛性ソーダの生
産能力を掛けて生産量を推計した上で,生産量に応じた原料使用量
を推計した上で,原料単価を掛けることにより原料費を推計するこ
とができる。また,製造設備固定費については設備の建設時期,生
産能力,設備数をもとに一応の推計をすることは不可能ではない。
同様に,労務費についても,生産設備の規模などから推定した必要
人員数をもとに一応の推計をすることは不可能ではない。
( ) 推計の精度等 c
上記( )及び( )の推計方法は,先に述べた一般論における推計方 a b
法と基本的に異なるものではないから,上記推計等の精度について
は,先に一般論として述べた限界が存在している。すなわち,統計
上の燃料種別単価と実際との購入単価との差異,製品が単一ではな
いことなどは,推計の精度を下げる要素である。
他方,本件数値情報が開示されることによって,苛性ソーダの製
造原価の推計の精度が上がる部分は,発電コスト部分にとどまるも
のの,発電コストの製造原価に占める割合は40パーセントに達し
ているため,製造業一般に比べると,本件数値情報が公開された場
合の推計精度が上がる程度は大きい。
(イ) 東ソー四日市事業所につき本件数値情報が法5条2号イに該当するか。
乙15号証には,苛性ソーダなどの製品は,化学工業の基礎原料と位
置付けられ,品質や機能といった優位性で差別化されることはほとんど
なく,コスト競争が激しいため,本件数値情報中発電コストの推計可能
な情報すなわち重油類及び石油コークスの使用量及びその熱量GJ並び
に対前年度比並びに電気使用量及び対前年度比が公にされると,競業他
社により東ソー四日市事業所が製造している苛性ソーダの製造コストを
相当精密に知られてしまい,競争上正当な利益が害されるとの趣旨の記
述がある。
しかし,化学工業の基礎原料ではないが,金属工業の基礎原料と認識
されている亜鉛,アルミニウムも,苛性ソーダなどと同様に,品質や機
能といった優位性での差別がほとんどなく,コスト競争が激しい商品と
推測されるところ,売上高等に占める燃料・購入電力使用量の割合は,
亜鉛第1次精錬・精製業においては23.0パーセント,アルミニウム
第1次精錬・精製業においては20.5パーセントとソーダ工業におけ
る19.6パーセントを上回っているにもかかわらず,亜鉛第1次精錬
・精製業者及びアルミニウム第1次精錬・精製業者は,本件数値情報の
開示に異議を述べておらず,競争上正当な利益が害されると判断してい
るとは認められない(弁論の全趣旨)。
以上の諸事情に照らしてみると,乙13号証その他の本件各証拠によ
っても,東ソー四日市事業所について本件数値情報が開示されたとして
も,東ソーの競争上の地位が害される蓋然性があるとは認められず,し
たがって,東ソー四日市事業所の提出した定期報告書中の本件数値情報
が法5条2号イの法人等の正当な利益を害するおそれがあるものに該当
するとは認められない。
ウ 三菱化学
(ア) 乙14号証(三菱化学従業員作成にかかる意見陳述書)及び弁論の全
趣旨によれば,三菱化学四日市事業所に関して以下の事実が認められる。
a 三菱化学四日市事業所の製造品目等
三菱化学四日市事業所は四日市工場,川尻工場等からなるところ,
アクリル酸,アクリル酸エステル,エトキシレート,ポリエチレンテ
レフタレート,ポリブチレンテレフタレート,1,4−ブタンジオー
ル,ポリテトラメチレンエーテルグリコール,ジフェニルメタンジイ
ソシアネートなどの石油化学製品,シュガーエステル(ショ糖脂肪酸
エステル),カラートナー用原料,電解液その他各種ファインケミカ
ル製品などの機能化学製品,カーボンブラック,合成ゴムなどの炭素
製品,炭素関連製品を製造している。
三菱化学四日市事業所で製造している多くの製品の原料は,一般的
な化学原料を使用しているため,競業会社との間で原料購入価格の差
が小さい。
b 製造コスト等の推計等
本件数値情報が公にされると,三菱化学四日市事業所におけるエネ
ルギーコスト,製品当たりのエネルギーコストが以下のようにして推
計される。
( ) エネルギーコストの推計 a
本件数値情報が公にされた場合,三菱化学四日市事業所四日市工
場ないし川尻工場全体のエネルギーコストは,本件数値情報中の燃
料別の使用量に,石油連盟のホームページに記載されている燃料別
の平均単価を掛けたものを足し合わせることによって推計すること
ができる。
( ) エネルギー単価 b
各工場全体のエネルギーコストを,本件数値情報中の使用量の熱
量GJの合計欄の数値で割ることにより,熱量単価(1ギガジュー
ルの熱量を発生させるのに必要としたエネルギーコスト)を計算す
ることができる。この熱量単価を発電効率(発電によって得られた
電気エネルギーの量を発電に要したエネルギーで割った値)で割る
と,電気単価を得ることができる。
( ) 製品当たりのエネルギーコスト c
三菱化学の事業所では,複数の製品を生産しているから,製品ご
とのエネルギーコストを単純に計算することはできない。しかし,
代表製品を設定した上で,三菱化学四日市事業所の各工場の生産量
を代表製品生産量に換算し,各工場全体のエネルギーコストを代表
製品生産量で割ることにより代表製品の1単位当たりのエネルギー
コストを推計することができる。そして,当該製品の代表製品に対
するエネルギーコストの比を利用して,当該製品の1単位当たりの
エネルギーコストを推計することができる。
( ) 推計の精度等 d
上記( )ないし( )の推計方法は,先 a c に述べた一般論における推計
方法と異なるものではない。また,乙14号証によっても,三菱化
学四日市事業所の製品の製造コストの推計方法については具体的な
記載はなく,この点も先に述べた一般論における推計方法と異なら
ないと認められる。したがって,これらの推計等の精度については,
先に述べたのと同様の限界が存在する。すなわち,統計上の燃料種
別単価と実際との購入単価との差異,製品が単一ではないことなど
は,推計の精度を下げる要因である。
なお,三菱化学四日市事業所が製造している製品は,多種多様で
あるところ,製造原価に占めるエネルギーコストの割合は明らかに
なっていない(乙14号証で例として挙げられている塩素,苛性ソ
ーダは,三菱化学水島事業所で製造しており,四日市事業所では製
造していない。)。
したがって,本件数値情報が公にされたとしても,製造業一般に
比べて,三菱化学四日市事業所が製造する製品の製造原価について
の推計精度が上がるとは認められない。
(イ) 三菱化学四日市事業所につき本件数値情報が法5条2号イに該当する
か。
乙14号証には,三菱化学で製造する化学製品の多くは,競業会社と
の間で原料購入価格の差が小さいことから,本件数値情報が開示される
と,競業会社にこれらの工場で作成される各製品の製造原価(あるいは
製造原価の相対的な差)を把握され,製品販売価格の価格交渉について
三菱化学が劣勢な立場に立たされるとする記述がある。
しかし,上記のとおり製造原価の推計精度については限界があること,
また前述したように,金属工業の基礎原料と認識されている亜鉛,アル
ミニウムも,品質や機能といった優位性での差別がほとんどなく,コス
ト競争が激しいと推測される上に,売上高等に占める燃料・購入電力使
用量の割合は,亜鉛第1次精錬・精製業においては23.0パーセント,
アルミニウム第1次精錬・精製業においては20.5パーセントと相当
高いにもかかわらず,亜鉛第1次精錬・精製業者及びアルミニウム第1
次精錬・精製業者は,本件数値情報の開示に異議を述べておらず,競争
上正当な利益が害されると判断しているとは認められないことにも照ら
してみると,三菱化学四日市事業所に関する本件数値情報が公にされた
としても三菱化学の競争上の地位が害される蓋然性があるとは認められ
ないから,三菱化学四日市事業所の提出した定期報告書中の本件数値情
報は法5条2号イの法人等の正当な利益を害するおそれがあるものには
該当するとは認められない。
( ) 小括 4
よって,本件処分のうち,別紙1記載の各不開示決定は,法5条2号イの
不開示事由該当性の判断を誤ったもので違法であり,取消しを免れない。
3 義務付けの訴えについて
以上のとおり,本件処分のうち別紙1記載の各不開示決定の取消しを求める
請求は理由があるから,その行政文書の開示決定の義務付けを求める訴えは,
行政事件訴訟法3条6項2号,37条の3第1項2号,同条5項,情報公開法
5条に照らして理由がある。
4結論
よって,原告の請求は,本件処分のうち別紙1記載の各不開示決定の取消し
と,同各不開示決定に係る行政文書の開示の義務付けを求める部分は理由があ
るからいずれも認容し,別紙2記載の各不開示決定の取消しと,同行政文書の
開示の義務付けを求める部分は不適法であるから同部分に係る各訴えをいずれ
も却下し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法64条本文,6
1条を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官 中村直文?
裁判官 前田郁勝
裁判官 尾河吉久?
(別紙1)
行政文書
の番号 事業所名 不開示とした部分 不開示とした理由
1(9)
新日本製鐵
(株)名古屋
製鐵所
燃料等の使用量,
合計TJ,原油換算Ml,
対前年度比,
販売副生燃料等の量,合計
TJ,原油換算Ml
1(10)
新日本製鐵
(株)名古屋
製鐵所
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
1(41) 東ソー(株)
四日市事業所
燃料等の使用量,
合計GJ,原油換算kl,
対前年度比,
販売副生燃料等の量,合計
GJ,原油換算kl
1(42) 東ソー(株)
四日市事業所
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
1(170)

三菱化学(株)
四日市事業所
川尻工場
燃料等の使用量,
合計GJ,原油換算kl,
対前年度比,
販売副生燃料等の量,合計
GJ,原油換算kl
1(171)

三菱化学(株)
四日市事業所
川尻工場
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
1(172)

三菱化学(株)
四日市事業所
四日市工場
燃料等の使用量,
合計GJ,原油換算kl,
対前年度比,
販売副生燃料等の量,合計
GJ,原油換算kl
1(173)

三菱化学(株)
四日市事業所
四日市工場
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
第1表に記載されている以下の部分について
は,法人に関する情報であって,通常一般には
入手できない当該法人の事業活動に関する内
部情報であり,当該情報を競合他社が入手し,
パンフレット等により生産量等の情報を知り得
た場合,製品当たりのエネルギーコスト等が推
測され,製品当たりの製造コストが類推可能と
なり,競合他社との競争上の不利益や販売先
事業者との価格交渉上の不利益が生じること
等が想定される。したがって,これらの情報を
公にすることにより,当該法人の権利,競争上
の地位,ノウハウ等正当な利益を害するおそ
れがあることから,法第5条第2号イに該当す
るため,これらの情報が記載されている部分を
不開示とした。
(別紙2)
行政文書
の番号 事業所名 不開示とした部分 不開示とした理由
1(1) 出光興産(株)
愛知製油所
燃料等の種類,
燃料等の使用量部分
1(2) 出光興産(株)
愛知製油所
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
1(29) 横浜ゴム(株)
新城工場
燃料等の使用量,
合計GJ,原油換算kl,
対前年度比
1(30) 横浜ゴム(株)
新城工場
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
1(37)
昭和四日市
石油(株)
四日市製油所
燃料等の使用量,
合計GJ,原油換算kl,
対前年度比,
販売副生燃料等の量,合計
GJ,原油換算kl
1(38)
昭和四日市
石油(株)
四日市製油所
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
1(47) 横浜ゴム(株)
三重工場 燃料等の使用量
1(48) 横浜ゴム(株)
三重工場
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
1(206)

明治乳業(株)
愛知工場
電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
及び電気の使用量
((昼間買電),(夜間買電),
(上記以外の電気),(合計))
の対前年度比
第1表に記載されている以下の部分について
は,法人に関する情報であって,通常一般には
入手できない当該法人の事業活動に関する内
部情報であり,当該情報を競合他社が入手し,
パンフレット等により生産量等の情報を知り得
た場合,製品当たりのエネルギーコスト等が推
測され,製品当たりの製造コストが類推可能と
なり,競合他社との競争上の不利益や販売先
事業者との価格交渉上の不利益が生じること
等が想定される。したがって,これらの情報を
公にすることにより,当該法人の権利,競争上
の地位,ノウハウ等正当な利益を害するおそ
れがあることから,法第5条第2号イに該当す
るため,これらの情報が記載されている部分を
不開示とした。

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