報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

社員自殺とパワハラの因果関係認定 賠償額大幅増、名古屋高裁判決

 名古屋市の青果仲卸会社の女性社員(当時21)が自殺したのは職場でのいじめやパワーハラスメントが原因として、女性の両親が同社と先輩社員2人に約6400万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が30日、名古屋高裁であった。永野圧彦裁判長は自殺とパワハラの因果関係を認め、賠償額を165万円とした一審・名古屋地裁判決を変更し、約5500万円の支払いを命じた。
 1月の一審判決はいじめやパワハラによる精神的苦痛の自殺への影響を認める一方、自殺との因果関係は否定していた。
 判決理由で永野裁判長は、女性は自殺直前に「食欲不振や集中力、注意力の減退があり、うつ病を発症していた」と認定。会社側の責任について「先輩社員の叱責を認識しながら放置し、注意義務を怠った」などとし、「自殺との因果関係がある」と判断した。
 判決によると、女性は2009年に入社し、12年6月に自殺した。先輩の女性社員2人から長期間にわたり、「てめえ」「同じミスばかりして」などと繰り返し厳しく叱責されていた。
 判決後の記者会見で、女性の母親(54)は「娘に何の落ち度もないことが分かり、安心した」と話した。原告側の代理人弁護士は「会社の責任が全面的に認められた画期的な判決だ」と述べた。
 青果仲卸会社は「担当者が不在でコメントできない」とした。
(2017/11/30 21:30 日経新聞)

職場のパワハラで21歳女性自殺 会社等に5500万円の支払い命じる 名古屋高裁

 青果会社に勤務していた娘が自殺したのは、職場のパワハラが原因と両親が会社などを訴えた控訴審の判決で、名古屋高裁は一審を上回る約5500万円の支払いを会社などに命じました。
 訴えを起こしていたのは2012年に自殺した名古屋市熱田区の青果会社に勤務していた当時21歳の女性社員の両親で、娘が自殺したのは先輩社員から激しく叱責されるなどパワハラがあったとして会社などに対し損害賠償を求めていました。
 一審判決は先輩社員のパワハラは認められたものの、自殺との因果関係を否定していました。
 30日の控訴審判決で名古屋高裁(永野圧彦裁判長)は「パワハラで女性が受けた心理的負荷は大きい」と自殺との因果関係を認め、一審を上回る約5500万円の支払いを会社などに命じる判決を言い渡しました。
 判決後、女性の両親は「ほっとしている。長時間労働だけではなくハラスメントが無くなる職場環境になっていけば」とコメントしています。
(12/1(金) 0:35 東海テレビ)

PDF

平成29年11月30日判決言渡名古屋高等裁判所
平成29年(ネ)第216号,同第439号,同第482号,同第489号損害賠
償請求控訴,同附帯控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成26年(ワ)第1109
号)
主文
1控訴人らの被控訴人会社に対する本件控訴及び被控訴人Aの本件附帯控訴に
基づき,原判決中,被控訴人会社及び被控訴人Aに関する部分を,次のとおり変
更する。
2(1)被控訴人会社は,控訴人Bに対し,3190万3783円及びこれに対す
る平成24年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,
うち27万5000円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による
金員の限度で被控訴人Cと連帯して,うち27万5000円及びこれに対する
同日から支払済みまで同割合による金員の限度で被控訴人A及び被控訴人C
と連帯して)を支払え。
(2)被控訴人会社は,控訴人Dに対し,2384万2643円及びこれに対す
る平成24年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,
うち27万5000円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による
金員の限度で被控訴人Cと連帯して,うち27万5000円及びこれに対する
同日から支払済みまで同割合による金員の限度で被控訴人A及び被控訴人C
と連帯して)を支払え。
(3)被控訴人Aは,控訴人Bに対し,被控訴人会社及び被控訴人Cと連帯して
27万5000円及びこれに対する平成24年6月21日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
(4)被控訴人Aは,控訴人Dに対し,被控訴人会社及び被控訴人Cと連帯して
27万5000円及びこれに対する平成24年6月21日から支払済みまで
年5分の割合による金員を支払え。
(5)控訴人らの被控訴人会社及び被控訴人Aに対するその余の請求をいずれも
棄却する。
3控訴人らの被控訴人A及び被控訴人Cに対する本件控訴をいずれも棄却する。
4被控訴人会社及び被控訴人Cの本件附帯控訴をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,控訴人らと被控訴人会社との間では,第1,2審を通じ,控訴人
らに生じた費用の10分の9と被控訴人会社に生じた費用の10分の9を被控
訴人会社の負担とし,控訴人ら及び被控訴人会社に生じたその余の費用は控訴人
らの負担とし,控訴人らと被控訴人Aとの間では,第1,2審を通じ,控訴人ら
に生じた費用の100分の1と被控訴人Aに生じた費用の100分の1を被控
訴人Aの負担とし,被控訴人A及び控訴人らに生じたその余の費用を控訴人らの
負担とし,控訴人らと被控訴人Cとの間では,控訴費用は控訴人らの負担とし,
附帯控訴費用は被控訴人Cの負担とする。
6この判決は,主文2項(1)ないし(4)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴及び附帯控訴の趣旨
1控訴の趣旨
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)被控訴人らは,控訴人Bに対し,連帯して3641万3914円及びこれ
に対する平成24年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
(3)被控訴人らは,控訴人Dに対し,連帯して2820万7660円及びこれ
に対する平成24年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
2被控訴人会社の附帯控訴の趣旨
(1)原判決中被控訴人会社敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3被控訴人Aの附帯控訴の趣旨
(1)原判決中被控訴人A敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。
4被控訴人Cの附帯控訴の趣旨
(1)原判決中被控訴人C敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消部分に係る控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
1本件は,被控訴人会社に勤務していたEの父母である控訴人らが,“鏐義平
会社の先輩従業員として,Eに対し指導を行うべき立場にあった被控訴人A及び
被控訴人Cは,Eに対し,長期間にわたり,いじめ・パワーハラスメントを繰り
返し行った,被控訴人会社は,上記,了態を放置した上,十分な引継ぎをす
ることなくEの配置転換を実施して,Eに過重な業務を担当させた,上記 
△侶覯漫ぃ鼎蓮ざい心理的負荷を受けてうつ状態に陥り,自殺するに至ったな
どと主張して,被控訴人A及び被控訴人Cに対しては,民法709条に基づき,
被控訴人会社に対しては,債務不履行(安全配慮義務違反),民法709条及び
同法715条(選択的併合と解される)に基づき,損害賠償金(控訴人Bにおい
て3641万3914円,控訴人Dにおいて2820万7660円)及びこれに
対する不法行為終了の日である平成24年6月21日(Eの自殺の日)から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案で
ある。
原審は,(1)被控訴人Cが,(神23年秋以降,Eに対し「てめえ。」「あん
た,同じミスばかりして。」などと厳しい口調で叱責し,「親に出てきてもらうく
らいなら,社会人としての自覚を持って自分自身もミスのないようにしっかりし
てほしい。」と述べ,■鼎平成24年4月に配置転換となり営業事務に従事す
るようになった以降,Eを頻繁に呼び出して被控訴人Aとともに叱責していたこ
とは,不法行為に該当する,(2)被控訴人Aは,。鼎両綉配置転換後の業務遂
行状況を踏まえて,必要に応じて,Eに対する適宜の支援を行うべき職責を負っ
ていたが,これを怠ったことは不法行為に該当し,また,被控訴人Cとともに
行ったEに対する上記(1)△亮言婢坩戮鷲塰々坩戮乏催する,(3)被控訴人会社
は,被控訴人C及び被控訴人Aの不法行為によってEが被った損害につき,使用
者責任を負う,(4)被控訴人Cの上記不法行為,被控訴人Aの上記不法行為及び
配置転換後のEの業務の負担が,Eの自殺の原因であったとまで認めることはで
きず,仮に,これらの点がEの自殺の原因であったとしても,被控訴人らにその
予見可能性があったとは認められないから,被控訴人らの不法行為と相当因果関
係のある損害は,Eが上記不法行為自体によって被った精神的苦痛に対する慰謝
料に限られる,(5)“鏐義平唯辰両綉(1),良塰々坩戮砲弔い討蓮と鏐義平唯
及び被控訴人会社が連帯して損害賠償責任を負い,被控訴人Cの上記(1)及
び被控訴人Aの上記(2)△良塰々坩戮砲弔い討蓮と鏐義平佑蕕連帯して損害賠
償責任を負い,H鏐義平唯舛両綉(2),良塰々坩戮砲弔い討蓮と鏐義平唯禅
び被控訴人会社が連帯して損害賠償責任を負う,(6)上記(5),覆い鍬の各不法
行為によってEが被った精神的苦痛に対する慰謝料額は,各50万円(合計15
0万円)とするのが相当であり,控訴人らは,これを2分の1ずつ相続し,弁護
士費用は,上記(5),覆い鍬の各不法行為につき各5万円の合計15万円(各
控訴人7万5000円ずつ)が相当であるとして,(7)“鏐義平猷饉劼紡个靴
は,控訴人らに各82万5000円及びこれに対する平成24年6月21日から
支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,うち27万5000円及びこれ
に対する上記遅延損害金の限度で被控訴人A及び被控訴人Cと連帯して,うち2
7万5000円及びこれに対する同遅延損害金の限度で被控訴人Aと連帯して,
うち27万5000円及びこれに対する同遅延損害金の限度で被控訴人Cと連
帯して)をそれぞれ支払うよう命じ,被控訴人Aに対しては,控訴人らに各5
5万円及びこれに対する同遅延損害金(ただし,うち27万5000円及びこれ
に対する同遅延損害金の限度で被控訴人C及び被控訴人会社と連帯して,うち2
7万5000円及びこれに対する同遅延損害金の限度で被控訴人会社と連帯し
て)をそれぞれ支払うよう命じ,H鏐義平唯辰紡个靴討蓮す義平佑蕕乏藤毅桔
円及びこれに対する同遅延損害金(ただし,うち27万5000円及びこれに対
する同遅延損害金の限度で被控訴人会社及び被控訴人Aと連帯して,うち27万
5000円及びこれに対する同遅延損害金の限度で被控訴人会社と連帯して)を
それぞれ支払うよう命じた。
そこで,控訴人らが控訴するとともに,被控訴人らが附帯控訴した。
2前提事実は,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2に記載
するとおりであるから,これを引用する。
3争点及びこれに関する当事者の主張は,以下のとおり補正するほかは,原判決
の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の3に記載するとおりであるから,
これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決9頁23行目の「イないしカ」を「イないしオ」と改める。
(2)原判決14頁8行目の「同月28日」を「平成23年10月28日」と改
める。
(3)原判決17頁3行目の「するようになり,」の次に,「また,外出を嫌がり,
家で寝ていることが多くなり,ツイート数も以前と比べると激減し,」を,4
行目の「追い詰められ,」の次に「疲れた様子で帰るようになり,」を,6行目
の「悪化した。」の次に,「また,Eは,その頃から精神的に追い詰められたこ
とにより,家でも外出先でも控訴人Dに密着するようになった。」を加える。
(4)原判決17頁8行目末尾の次を改行の上,以下のとおり加える。
「ところで,ICD−10の診断ガイドラインの「F32うつ病エピソード」
では,うつ病エピソードの基本症状として,〕泙Δ諜な,興味と喜びの喪
失,0徃莽感増大・活動性低下が挙げられ,一般的な症状として,a集中力
と注意力の減退,b自己評価と自信の低下,c罪責感と無価値感,d将来に対
する希望のない悲観的な見方,e自傷あるいは自殺の観念や行動,f睡眠障害,
g食欲不振が挙げられている。
上記のとおり,Eは,平成23年秋頃から食欲がなくなり,外出を嫌がり,
家で寝ていることが多くなり,ツイート数も以前より激減しており,食欲不振,
易疲労感,活動性の減少,興味の喪失が認められる。また,上記のとおり,E
は,平成24年4月以降,髪も梳かさず,春に冬物のブーツを履いて出かける
など身なりに構わなくなっており,興味と喜びの喪失が認められる。さらに,
上記のとおり,Eは,その頃から家でも外出先でも控訴人Dに密着するように
なり,自己評価と自信の低下が認められる。また,上記のとおり,Eは,他の
従業員と話す際に目が泳いでいるような時もあったが,これは注意力・集中力
の減退があったと考えるのが合理的である。
以上のとおり,Eには,自殺前,心身の強い負荷を受けて,興味と喜びの喪
失,食欲不振,易疲労感,活動性の低下,自己評価と自信の低下,集中力の減
退などの症状が見られており,うつ病を発症していたか,うつ状態にあったと
推認される。」
(5)原判決18頁19行目末尾の次を改行の上,以下のとおり加える。
「控訴人らは,ICD−10の診断ガイドに照らせば,Eはうつ病を発症して
いたか,うつ状態にあったと推認されると主張する。しかし,控訴人らがその
前提とするEの状態は,客観的な証拠に裏付けられているものではなく,うつ
病発症エピソードの基本症状や一般的な症状に該当する根拠とすることは,困
難であるといわざるを得ない。なお,控訴人らが主張するツイート数の減少は,
後記のとおり,EがFと親しくなり,個人的にやり取りをする時間が増え,そ
の分アニメやゲームに費やす時間やツイートする時間が減ったため,ツイート
総数も減少したと考えるのが合理的である。」
第3当裁判所の判断
当裁判所は,被控訴人A及び被控訴人CのEに対する注意・叱責は不法行為に
該当し,被控訴人会社はそれについて使用者責任を負うほか,被控訴人会社が被
控訴人A及び被控訴人CのEに対する注意・叱責を制止ないし改善させず,また,
Eの業務内容の変更などを行わなかったことは被控訴人会社の注意義務違反で
あって不法行為に該当し,被控訴人会社の上記不法行為(使用者責任を含む)と
Eの自殺との間には相当因果関係があり,被控訴人会社はEの自殺について予見
可能性があったから,Eの自殺により生じた損害を賠償する義務があるが,被控
訴人A及び被控訴人Cの上記不法行為のみではこれら不法行為とEの自殺との
間には相当因果関係があるとは認められないから,被控訴人A及び被控訴人Cは,
上記不法行為によりEが被った精神的苦痛に対する慰謝料の限度で責任を負う
と判断する。その理由は,以下のとおりである。
1認定事実
本件の経緯等に関する認定事実は,以下のとおり原判決を補正するほかは,原
判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」の1に記載するとおりで
あるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決27頁11行目の「C」を「被控訴人C」と改める。
(2)原判決27頁23行目の「G」から24行目の「指示された」までを,「G
から,同年4月以降,Eの指導を担当するよう指示され,その際,本件配置転
換実施の時点では引継ぎが十分でなかったとして,Eを支援することも指示さ
れた」と改め,同行目の「証人H,」の次に「原審証人G,」を加える。
(3)原判決29頁7行目の「同年中旬頃」を「同月中旬頃」と改める。
(4)原判決30頁5行目の「被告A」から8行目の「注意することもあった。」
までを,以下のとおり改める。
「被控訴人Aは,Eがミスをすることが多かったことから,事実確認や注意
のためにEをEDP室に呼び出すことも多く(なお,Iに関するミスの場合に
は,Iの売掛管理の総務担当者であった被控訴人Cの在席時を選んでいた。),
その際には,Eに対し,(被控訴人C在席時には同人とともに)「何度言ったら
わかるの」などと強い口調で注意・叱責をするなどしており,同じ注意・叱責
を何回も繰り返し,相応に長い時間にわたることもあった(甲17,50,5
1,56,57,丙1,原審証人H,原審における被控訴人A本人及び同被控
訴人C本人)。(なお,被控訴人Aは,原審において,Eを呼び出した頻度につ
いて週1回くらいで,時間は10分くらいであった旨供述し,被控訴人Cは,
原審において,Eを呼び出した頻度について1週間に1回もない,時間はそれ
ほどではない,被控訴人Aが同席しているときに自分が注意したことはない旨
供述する。しかし,営業職だったJは,本来であれば5分で済むようなことな
のに1時間近く同じことを何回も繰り返していたと述べている(甲56)こと,
Hは,原審において,Eは毎日のようにEDP室に呼ばれていた,EDP室に
いる時間は,長い時は20〜30分,普通で10〜15分と述べていること,
2階で勤務していたKも結構な頻度で被控訴人Aと被控訴人Cに怒られてい
た,Eのように毎日怒られている人は見たことがないと述べている(甲54)
こと,Lは,本件配置転換前,被控訴人CがEに対しかなり強い威圧的口調で
何でこうなったのか等と何回も何回も繰り返していた,EはEDP室で被控訴
人Aと被控訴人Cからよく注意されていたと述べている(甲17,51)こと
からすると,上記のとおり認定するのが相当である。)」
(5)原判決30頁15行目冒頭から20行目の「〔5頁〕)」。」までを,削除する。
(6)原判決31頁17行目末尾の次に,以下のとおり加える。
「なお,控訴人らは,上記 き△虜櫃癲ぃ鼎蓮と鏐義平猷饉劼遼楴劼防襪
て,必要な業務を行った旨主張し,控訴人Dの原審における供述中には,同主
張に沿う部分があるが,被控訴人Aは,原審においてこれを否定する供述をし
ており,他に控訴人らの主張を裏付ける具体的な証拠がないから,控訴人らの
主張は直ちに採用することができない。」
(7)原判決31頁24行目の「被告Cは,」の次に,以下のとおり加える。
「補正後の前記イのとおり,Iの業務に関するEのミスについて,EDP室
において,被控訴人Aとともに注意・叱責をしていたほか,」
(8)原判決33頁24行目冒頭から25行目の「あった。」までを,以下のとお
り改める。
「Eの死亡時における月額賃金(毎月15日締め,当月24日払い。以下,
平成23年12月16日から平成24年1月15日までの賃金で同月24日
に支払われる賃金を平成24年1月分賃金というふうに,平成○年○月24日
に支払われる賃金を平成○年○月分賃金という。)は15万5110円(基本
賃金14万円,調整手当6000円等)であり,また,Eは,平成23年7月
21日及び同年12月13日に各11万円の特別給与の支払を受けた。」
(9)原判決34頁2行目の「なお,」から5行目の「支払った」までを,以下の
とおり改める。
「そして,被控訴人会社は,E死亡時において,平成23年10月16日以
後の時間外手当の一部について未払があり,その後これを控訴人らに支払った
が,平成24年1月分賃金から同年6月分賃金までの,Eの時間外手当の金額
(死亡後に支払われた金額を含む本来支給すべき金額)は,次のとおりである。
平成24年1月分4万1067円
同年2月分4万4792円
同年3月分6万1354円
同年4月分7万6097円
同年5月分7万7155円
同年6月分7万7362円
合計37万7827円」
(10)原判決34頁16行目末尾の次を改行の上,以下のとおり加える。
「Eは,平成24年3月頃には,朝起きて身支度をしていても出勤時まで横
になっており,お弁当もおにぎり程度でいいというふうに食欲もなくなってき
た。また,Eは,同年4月頃には,出勤するまでずっと寝ているという状態が
続き,髪の毛を梳かさずに出てみたり,暖かくなっているのにブーツを履いて
出かけることがあった。(甲43,原審における控訴人D本人)」
(11)原判決34頁23行目の「疲れている様子であったが」を,「疲れている
様子があり,髪の毛もぼさっとしていたが」と改める。
(12)原判決35頁2行目冒頭から7行目末尾までを削除する。
2争点(1)(被控訴人Cの行為の不法行為該当性の有無)について
争点(1)に対する判断は,以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事
実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」の2に記載するとおりであるから,
これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決36頁23行目の「E」から24行目末尾までを,以下のとおり改
める。
「Eに対し,EDP室において,被控訴人Aとともに叱責していたほか,自
身でも別途Eを呼び出して叱責していたものである。」
(2)原判決38頁26行目末尾の次を改行の上,以下のとおり加える。
「被控訴人会社及び被控訴人Cは,当審において,被控訴人Cが強い口調で
叱責したことはない,被控訴人Cの注意・指導は違法性を帯びるようなもので
はないなどとして,縷々主張する。しかし,前示で掲記した証拠によれば,被
控訴人CがEに対し強い口調で注意・叱責し,これはEに威圧感や恐怖心を与
えるものであったと認定できるのであり,かかる行為が社会通念上許容される
業務上の指導の範囲を超えるものと認められることも明らかである。被控訴人
会社及び被控訴人Cの主張は採用することができない。」
(3)原判決39頁19行目末尾の次を改行の上,以下のとおり加える。
「控訴人らは,被控訴人Cが「埃がとれていないから,PCが壊れるだろ!
やり直せ!」と叱責したと主張するが,被控訴人Cはそのような言い方はして
いないと否定しており,控訴人Dの原審における供述以外にこれを裏付ける具
体的な証拠がないから,採用することができない。また,控訴人らは,被控訴
人Cがマニュアルを見ることはなかったから,マニュアル作成は必要のない業
務指示であり,パワーハラスメントとして行われた旨主張するが,マニュアル
作成がそもそも業務上の必要性を欠くものであったということはできず,被控
訴人Cがマニュアルを見ることがなかったことから,パワーハラスメント目的
で行われたと断ずることもできないから,採用することができない。さらに,
控訴人らは,当審において,被控訴人Cはその他にもパワーハラスメントに該
当する言動をしていたとして縷々主張するが,具体的な証拠がないか,パワー
ハラスメントに該当すると認めることはできないものであり,いずれも採用す
ることができない。」
3争点(2)(被控訴人Aの行為の不法行為該当性の有無)について
争点(2)に対する判断は,以下のとおり原判決を補正するほかは,原判決の「事
実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」の3に記載するとおりであるから,
これを引用する。
(原判決の補正)
(1)原判決41頁7行目冒頭から43頁15行目末尾までを,以下のとおり改
める。
「ア前示前提事実(1)ウのとおり,被控訴人Aは,女性従業員の担当事務の全
般を把握することのできる能力と経験を有していたところ,補正後の前示1
(3)イのとおり,被控訴人会社の取締役であるGから,平成24年4月以降
のEの指導を委ねられ,その際,本件配置転換実施の時点では引継ぎが十分
でなかったとして,Eを支援するよう指示されたことが認められる。
そして,補正後の前示1(4)イのとおり,被控訴人Aは,Eに対し,受け
た注意の内容を付箋にメモしてコンピュータに貼るよう助言するなどし,E
はこれを実践してはいたものの,補正後の前示1(4)イ及びエのとおり,被
控訴人A及び被控訴人Cが継続的にEのミスを注意・叱責していたことから
すると,Eの入力ミスという業務上の問題点は改善されていなかったと認め
られる。また,前示1(4)アのとおり,Iのシステム変更により午前中の入
力作業に追われる心理的負担は軽減されたものの,逆に夕方の残業が増える
ことになり,補正後の前示1(4)イのとおり,Iに係る入力業務については,
入力内容を確定した後に修正を要することが判明した場合には,業務量が増
加するところ,Eは,平成24年4月下旬以降,数字や日付の誤入力が徐々
に増えていき,前示1(5)イのとおり,Eの時間外労働時間も増加したこと,
補正後の前示1(4)イのとおり,被控訴人Aは,営業担当者からEの業務量
が多いため担当者を替えた方がよいのではないかと言われていたこと,しか
し,被控訴人Aは,Eの業務量について配慮を行わず,Gに対し,Eのミス
が少し多いという報告をした以外には,Eの業務状況について相談すること
もしなかったことが認められる。
もっとも,上記のとおり,被控訴人Aは,平成24年4月以降のEの指導
を委ねられたものであるが,それはEが本件配置転換後業務をミスすること
なく,単独で適切に処理することができるようにするというものであり,G
からの支援の指示も,Eがミスをしたり,入力業務に時間を要したりした場
合に,被控訴人AがEの業務の補助をするというものであったと認められる。
そして,従業員の配属の決定権や仕事の分量の変更は,被控訴人会社の代表
取締役とGにあり(原審証人G〔同人調書8頁,18頁〕),被控訴人Aは,
Eが担当していた業務の一部を他の従業員に割り当てるとか,Eを他の部署
に異動させる権限は有していなかったのであるから,被控訴人Aが,Eの業
務量について配慮を行わなかったことが,直ちに不法行為に該当するとはい
えない。そして,被控訴人Aが,Eについて業務量の低減を図るとか,配置
転換を検討する必要性があることを認識していながら,あえて業務量の低減
ないし配置転換を上申しなかったという場合には,不法行為が成立する余地
があるとしても,被控訴人Aが,Gに対しEのミスが少し多いという報告を
した以外には,Eの業務状況について相談することをしなかったのは,補正
後の前示1(4)イのとおり,Iのシステム変更によって業務負担が軽減され
たものと軽信し,あるいは,Eに対し,業務の状況につき,「大丈夫か」な
どと尋ねたが,Eから「大丈夫」等の返事があり,また,本件入力業務の補
助を依頼されることもなかったためであり,被控訴人Aとしては,Eの業務
に関するミスについては,注意・叱責をもって改善できると考えていたもの
と認められ,業務量の低減等の必要性を認識しながら,あえてこれをGに上
申しなかったとはいえない。
したがって,被控訴人Aが,Eの業務内容や業務分配の見直し等をGに上
申しなかったことが,不法行為に該当するということはできない。
イもっとも,補正後の前示1(4)イのとおり,被控訴人Aは,Eがミスをす
ることが多かったことから,事実確認や注意のためにEをEDP室に呼び出
すことも多く,その際には,Eに対し,(被控訴人C在席時には同人ととも
に)「何度言ったらわかるの」などと強い口調で注意・叱責をするなどして
おり,同じ注意・叱責を何回も繰り返し,相応に長い時間にわたることもあ
ったことが認められる。かかる被控訴人AのEに対する叱責行為は,その態
様,頻度等に照らして,被控訴人Cの場合と同様に,業務上の適正な指導の
範囲を超えて,Eに精神的苦痛を与えるものであったと認められるから,不
法行為に該当するというべきである(当該不法行為を「被控訴人A不法行為」
という。)。そして,かかる叱責の態様に照らせば,被控訴人Aにおいて,こ
れが社会通念上許容される業務上の適正な指導の範囲を超えて不法行為に
該当するものであることを認識することは容易であったと認められる。した
がって,被控訴人Aは,上記行為について不法行為責任を負うというべきで
ある。
ウ被控訴人会社及び被控訴人Aは,当審において,被控訴人Aの指導・注意
は,違法と評価されるようなものではないとして縷々主張する。しかし,上
記イで認定した被控訴人AのEに対する叱責行為の態様等に照らせば,業務
上の適正な指導の範囲を超えるものであることは明らかである。被控訴人会
社及び被控訴人Aの主張は採用することができない。」
(2)原判決43頁16行目冒頭から20行目末尾までを,以下のとおり改める。
「(3)被控訴人Aのその余の不法行為の有無
控訴人らは,被控訴人Aは,Eに対し,社員旅行後に「男に色目を使って」
などと言って嫌がらせをした旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はな
い。控訴人らは,被控訴人Aは,Eに対し,平成24年3月中に営業事務の
仕事を完全に引き継ぐように指示した旨主張するが,補正後の前示1(3)イ
のとおり,被控訴人Aは,Mに対し,Gの指示に基づき,同年3月の1か月
間で,本件配置転換後業務をEに引き継ぐよう伝えたと認められるものの,
その他に控訴人らが主張する上記指示をしたことを認めるに足りる証拠は
ない。」
(3)原判決44頁3行目の「その上で」から7行目末尾までを,以下のとおり
改める。
「控訴人Dは,原審において,上記電話の後,Eが肩を震わせて泣いていた
旨供述し,これを踏まえて控訴人らは,被控訴人Aが上記電話の際に仕事をや
っていないなどと叱責した旨主張する。しかし,前示1(4)オのとおり,上記
の電話をした段階では,納品日の入力に誤りがあるのか否かは判明していなか
ったのであるから,被控訴人AがEに対し上記言動をして叱責したと直ちに推
認することはできないし,控訴人Dにおいて,Eが肩を震わせて泣く理由を聞
いて,上記言動があったことを確認したわけではない。そして,補正後の上記
1(4)ウのとおり,上記電話の以前にも帰宅後にEが関与した業務に漏れがあ
った場合等に,被控訴人AからEの携帯電話に電話がかかることが3回あった
ことからすると,Eにおいてまた入力ミスをしたのではないかと自責の念に駆
られて泣いた可能性も十分考えられる。したがって,控訴人らの主張は直ちに
採用することができない。なお,仮に上記電話の際,被控訴人Aが,Eに対し
叱責の言葉を述べたとしても,被控訴人A不法行為とは別途に,それ自体が不
法行為といえるような暴言であったと推認することもできない。そして,上記
のとおり,上記電話連絡は,業務上の必要性によるものであったといえる。し
たがって,上記電話について,被控訴人Aに不法行為に該当する行為があった
と認めることはできない。」
4争点(3)(被控訴人会社の損害賠償責任の有無)について
(1)被控訴人会社の不法行為又は債務不履行の有無について
ア使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理する
に際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心
身の健康を損なうことがないように注意する義務(雇用契約上の安全配慮義
務及び不法行為上の注意義務)を負うと解するのが相当である(なお,最高
裁判所平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁参
照)。
イ(ア)補正後の前示2(1)のとおり,被控訴人CのEに対する本件叱責行為は,
社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えて,Eに精神的苦痛を与
えるものであったと認められる。したがって,被控訴人会社としては,被
控訴人Cの本件叱責行為について,これを制止ないし改善するように注
意・指導すべき義務があったというべきである。
そして,前示1(2)ウのとおり,Gは,遅くとも平成23年10月頃に
は,被控訴人Cの口調についてEが心理的負担を感じているものと認識し,
その頃,Eを指導する際の口調について注意したことが認められる。しか
しながら,Gは,被控訴人会社には午前10時頃に出社し,午後5時頃ま
で会社にいる(原審証人G〔同人調書31頁〕)のであり,また,被控訴
人CのEに対する本件叱責行為は多数回行われ,従業員らもその状況を認
識していた(前示1(2)イ及び1(4)イ,同エ(補正後のもの))のである
から,Gも被控訴人Cの本件叱責行為を認識していたものと認めるのが相
当である(なお,Gは,原審において,被控訴人Aや被控訴人CがEをE
DP室に呼び出して指導していることは見たことがない旨供述する(同人
調書31頁)。しかし,被控訴人Cの本件叱責行為のみならず,補正後の
前示1(4)イのとおり,被控訴人Aによる叱責も多数回行われ,かかる状
況は,他の従業員も認識していたものであるから,被控訴人会社で午前1
0時頃から午後5時頃まで仕事をしているGは,被控訴人C及び被控訴人
Aの上記言動を認識していたと考えるのが合理的であり,これを知らなか
ったというGの上記供述は不自然であり,直ちに採用することができな
い。)。それにもかかわらず,Gが,被控訴人Cに対し,本件叱責行為につ
いて,これを制止ないし改善するように指導・注意をしたことはうかがえ
ないから,被控訴人会社は,上記義務を怠ったといえる。
(イ)補正後の前示3(2)イのとおり,被控訴人Aが,EDP室において,E
に対し,(被控訴人C在席時には同人とともに)「何度言ったらわかるの」
などと強い口調で注意・叱責をするなどしたことは,社会通念上許容され
る業務上の適正な指導の範囲を超えて,Eに精神的苦痛を与えるものであ
ったと認められる。したがって,被控訴人会社としては,被控訴人Aの上
記指導・叱責について,これを制止ないし改善するように注意・指導する
などすべき義務があったというべきである。
そして,上記(ア)のとおり,Gは,被控訴人Aの上記言動を認識してい
たと考えるのが合理的である。そうすると,被控訴人会社は,被控訴人A
の上記指導・叱責を認識しながら,これを制止・改善させることなく,そ
のまま放置していたといわざるを得ないから,上記義務を怠ったと認めら
れる。
(ウ)前示1(2)ア,同イ,同(3)ア,同イ及び同(4)イ(補正後のもの)のと
おり,被控訴人会社は,本件配置転換前業務は高等学校卒業後に入社する
新入社員が担当することが比較的多く,その負担も比較的軽いものであっ
たこと,及びEが本件配置転換前業務においても入力ミスが多かったこと
を認識しながら本件配置転換を決定し,しかも,Gは,本件配置転換に当
たり,その時点では前任者からの引継ぎが十分でなかったとして,Eの指
導担当者と定めた被控訴人Aに対し,Eを支援するよう指示していたこと
が認められる。したがって,被控訴人会社としては,本件配置転換後業務
におけるEの業務の負担や遂行状況を把握し,場合によっては,Eの業務
内容や業務分配の見直しや増員を実施すべき義務がある。
そして,前示1(4)ア及び同イ(補正後のもの)のとおり,Iに係る入
力業務については,入力内容を確定した後に修正を要することが判明した
場合には,業務量が増加するところ,Eは,平成24年4月下旬以降,数
字や日付の誤入力が徐々に増えていき,前示1(5)イのとおり,Eの時間
外労働時間も増加したことが認められる。また,上記のとおり,Eは,被
控訴人A及び被控訴人Cから頻繁に注意・叱責を受けていたものの,入力
ミスが減らず,補正後の前示1(4)イのとおり,被控訴人Aに対し,担当
者の交替の必要性を示唆する営業担当者もいたことが認められる。
Eの上記業務の実情に鑑みると,Eは平成24年5月中には業務遂行上
の支援を必要とする状況にあったといえるから,被控訴人会社としては,
Eの業務内容や業務分配の見直し等を検討し,必要な対応をとるべき義務
があったというべきである。
しかし,被控訴人会社は,被控訴人AからEのミスが少し多い旨の報告
をうけるにとどまり,それ以上,Eの業務の実情の把握に努めたことはう
かがえない。被控訴人会社は,タイムカードや従業員らからの事情聴取に
より,Eが支援を必要とする状況にあるということを認識することは十分
可能であったから,被控訴人会社がこれを怠ったことは,上記義務違反に
該当する。
なお,被控訴人会社は,当審において,本件配置転換後業務において,
Eに多少のミスがあったとしても,大きな問題を起こしていたわけでもな
いから,しばらく様子を見ようとしたものであるなどとして,被控訴人会
社の判断に誤りがあったということはできず,安全配慮義務違反はない旨
主張する。しかし,上記認定のとおり,Eは平成24年5月中には業務遂
行上の支援を必要とする状況にあったといえるから,被控訴人会社として
は,Eの業務内容や業務分配の見直し等を検討し,必要な対応をとるべき
義務があったというべきである。被控訴人会社の主張は,採用することが
できない。
ウ被控訴人会社は,平成23年10月頃の控訴人DからGに対する電話の前
後を問わず,被控訴人Cの行為をいじめ・パワーハラスメント行為とは認識
していなかった旨主張する。しかし,前示1(2)ウ認定のとおり,Gは,被
控訴人Cに対し,Eのミスが減らないのは被控訴人CがEに対して注意する
際に徐々にきつい口調になることも原因ではないかと指摘し,Eに対して注
意する際にはもう少し優しい口調で行うよう促していたことなどに照らす
と,被控訴人会社の主張は採用することができない。
また,被控訴人会社は,Gが,本件配置転換後,Eの様子を把握すべく,
声掛け,面談を実施し,Eの仕事のミスを減らすための助言をし,女性従業
員の交流を深めるために女子会を開催するなどした旨主張する。しかし,前
示4(1)イ(イ)のとおり,Gは,被控訴人C及び被控訴人AのEに対する注
意・叱責を認識しながら,これを制止ないし改善するよう注意したことはな
かったことからすると,Gが被控訴人会社の主張する上記面談・助言をした
というのは疑問がある。また,女性従業員の交流を深めるために女子会を開
催したということがあったとしても,これにより被控訴人C及び被控訴人A
に対するEの注意・叱責が改善されたわけでもないから,被控訴人会社が注
意義務を尽くしたということもできない。被控訴人会社の主張は,採用する
ことができない。
エ(ア)控訴人らは,被控訴人会社が,本件配置転換を行ったこと自体が被控
訴人会社の不法行為及び債務不履行(安全配慮義務違反)に該当する旨主
張する。
補正後の前示1(3)イのとおり,被控訴人会社が本件配置転換を検討す
ることになったのは,Mが退職することになったことによるものである。
そして,被控訴人会社の女性従業員の中には,数年ごとに担当業務が変更
されている者も少なくない(弁論の全趣旨)ところ,前示1(2)アのとお
り,Eが入社後3年間に担当していた業務は,高等学校卒業直後に被控訴
人会社へ入社した新入社員が担当することが多かった業務である。また,
前示1(2)イ及びウのとおり,Eは本件配置転換前業務においてもミスを
することが多かったものの,本件配置転換後業務はそれ自体に特殊な技能
を要するものではない。さらに,補正後の前示1(3)イのとおり,Eは,
Gからの打診に対し,明確な拒絶の意思表示をしなかったし,Mからの本
件配置転換後業務の引継ぎに際しても,Mの説明を詳細に記したノートを
作成するなどしており,本件配置転換後業務に対し一定の意欲を持ってい
たことがうかがえる。そして,補正後の前示1(3)イのとおり,Gは,被
控訴人Aに対し,Eの本件配置転換後業務について指導をするように指示
している。そうすると,本件配置転換について,業務上の必要性がなかっ
たとはいえず,本件配置転換後業務をEに担当させることにした被控訴人
会社の判断が不合理であったともいえない。したがって,被控訴人会社が
本件配置転換を行ったことが,不法行為又は債務不履行に該当するとはい
えない。控訴人らの主張は,採用することができない。
(イ)控訴人らは,本件配置転換に伴う引継期間を1か月としたことは,被
控訴人会社の不法行為及び債務不履行(安全配慮義務違反)に該当する旨
主張する。
しかし,前示(ア)のとおり,Eはミスがあったものの本件配置転換前業
務に3年間従事していたこと,本件配置転換後業務はそれ自体に特殊な技
能を要するものではないこと,Gは,被控訴人Aに対し,Eの本件配置転
換後業務について指導をするように指示していることからすると,Iのシ
ステム変更という事情があったことを考慮しても,1か月という引継期間
が明らかに不足するものであり,引継期間の延長をしなかった被控訴人会
社の判断が不合理であったとはいえない。したがって,被控訴人会社が引
継期間を1か月としたことが,不法行為又は債務不履行に該当するとはい
えない。控訴人らの主張は,採用することができない。
(ウ)控訴人らは,被控訴人会社のみなし残業制度は雇用契約上明示されて
なく,支給時に時間外手当の額が明示されていないから労働基準法に違反
するものであり,違法なみなし残業制度のもとで長期間にわたり継続的に
不払残業を命ずることは,本来の業務の適切な範囲を超え,パワハラ行為
に該当するとして,被控訴人会社には不法行為及び債務不履行(安全配慮
義務違反)がある旨主張する。
しかし,みなし残業制度が労働基準法に違反し,残業代が一部支払われ
てないということは,賃金不払という債務不履行に該当するとしても,そ
れのみでは被控訴人会社の不法行為又は安全配慮義務違反の債務不履行
に該当するということはできない。
そして,精神障害の業務起因性に関する判断基準として,精神医学,心
理学,法律学等の専門家によって構成される専門検討会が平成23年11
月8日に取りまとめた「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報
告書」(甲36)を踏まえて厚生労働省が発出した同年12月26日付け
基発1226号厚生労働省労働基準局長通達「心理的負荷による精神障害
の認定基準について」(甲37。以下「認定基準」という。)があるところ,
上記報告書には,恒常的に月100時間程度の時間外労働に従事した場合,
心身に極度の疲弊,消耗を来し,うつ病等の原因となる旨の記載があるが,
Eの時間外労働時間は,前示1(5)イのとおり,最も長かった平成24年
3月22日ないし同年4月20日の1か月間において,約67時間であり,
その後,自殺に至るまでの2か月における1か月当たりの時間外労働時間
は,それぞれ約49時間半,約58時間である。また,認定基準によれば,
1か月当たりの時間外労働時間が80時間未満の場合には,心理的負荷の
程度は「弱」(日常的に経験するものであって,一般的に弱い心理的負荷
しか認められないもの)に該当するところ,前示1(5)イのとおり,Eの
時間外労働時間はいずれも80時間未満にとどまっている。
したがって,被控訴人会社がEに対し時間外労働に従事させたことは,
その労働時間に照らし,不法行為又は安全配慮義務違反の債務不履行に該
当するものであったとはいえない。控訴人らの主張は,採用することがで
きない。
(2)以上のとおり,被控訴人会社が,被控訴人Cの本件叱責行為及び被控訴人
Aの指導・叱責について,制止・改善を求めず,また,Eの業務内容や業務分
配の見直し等を怠ったことは,被控訴人会社の義務違反に該当し,これらは被
控訴人会社の不法行為(民法709条)及び債務不履行(安全配慮義務違反)
に該当する。
また,補正後の前示2(1)及び3(2)イのとおり,被控訴人Cの本件叱責行為
及び被控訴人Aの指導・叱責は,いずれも不法行為に該当するところ,被控訴
人会社は,これらについて,使用者責任(民法715条)を負う。
5争点(4)(被控訴人らの不法行為とEの死亡(自殺)との間の相当因果関係の
有無)について
(1)Eがうつ病を発症していたか否かについて
ア証拠(甲85)によれば,精神及び行動の障害に関する診断ガイドライン
であるICD−10においては,軽症うつ病,中等症うつ病及び精神病症状
をともなわない重症うつ病のすべての典型的な抑うつのエピソードとして,
〕泙Δ諜な,興味と喜びの喪失,3萠呂慮座爐砲茲覦徃莽感の増大や
活動性の減少のほかに,一般的な症状として,(a)集中力と注意力の減退,
(b)自己評価と自信の低下,(c)罪責感と無価値感,(d)将来に対する希望の
ない悲観的な見方,(e)自傷あるいは自殺の観念や行為,(f)睡眠障害,(g)
食欲不振があげられていること,上記,覆い鍬の症状の少なくとも2つ,
さらに上記(a)ないし(g)の症状のうちの少なくとも2つが存在する場合に
は,軽症うつ病エピソードの患者と,上記,覆い鍬の症状のうち少なくと
も2つ,さらに上記(a)ないし(g)の症状のうちの少なくとも3つ(4つが望
ましい)が存在する場合には,中等症うつ病エピソードの患者と,それぞれ
診断することができることが認められる。
イ補正後の前示1(7)イのとおり,Eは,平成24年3月頃には,朝起きて
身支度をしていても出勤時まで横になっており,お弁当もおにぎり程度でい
いというふうに食欲もなくなってきたこと,同年4月頃には,出勤するまで
ずっと寝ているという状態が続き,髪の毛を梳かさずに出てみたり,暖かく
なっているのにブーツを履いて出かけていたことが認められる。また,補正
後の前示1(7)イのとおり,Nは,Eが自殺する直前の状況について,疲れ
ている様子があり,髪の毛がぼさっとしていたこともあったと述べている。
また,証拠(甲105)によれば,Eのツイート数は,平成23年6月は
460,同年7月は358,同年8月は236,同年9月は220であった
ところ,同年10月は59に減少し,同年11月は21(前示1(7)ウのと
おり,同月21日には「忙しいなんてレベルじゃないぞこれ。」などとツイ
ッターに投稿している。),同年12月は83,平成24年1月は23,同年
2月は35,同年3月は5(前示1(7)ウのとおり,同月1日には「新しい
仕事で目が回る。」などとツイッターに投稿している。),同年4月は40,
同年5月は15であり,Eが死亡した同年6月は16であったことが認めら
れる。
さらに,前示1(2),(4)(補正後のもの)のとおり,Eは,本件配置転換
前業務においても業務上のミスを被控訴人Cから注意・叱責されており,本
件配置転換後業務においても業務上のミスが多く,被控訴人A及びCから注
意・叱責を受けていたが,業務上のミスは減らなかったことが認められる。
そして,補正後の前示1(4)イのとおり,Eは,EDP室に呼び出された後,
Hに対し,落ち込んだ様子で「また言われちゃった」などと述べている。
また,前示1(5)イのとおり,Eの時間外労働時間は,平成23年12月
23日から平成24年1月21日までは合計8時間15分,同月22日から
同年2月20日までは合計32時間32分,同月21日から同年3月21日
までは合計41時間25分,同月22日から同年4月20日までは合計67
時間01分,同月21日から同年5月20日までは合計49時間28分,同
月21日から同年6月19日までの労働時間は合計58時間08分と明ら
かに増加傾向にあったことが認められる。なお,Eの時間外労働時間は著し
く長時間であるとはいえないが,本件配置転換前業務においてはほとんど時
間外労働がなかったのであるから,従前との比較において検討することも必
要である。
ウ上記のEが出勤するまで寝ているということは,上記労働時間の長さや増
加傾向にあったことからすると,上記アの(易疲労感の増大)に該当する
と認められる。また,上記のEが髪の毛を梳かさずに出かける等身なりを構
わなくなったということ,及びツイート数の減少は,上記アの◆紛縮の喪
失)に該当すると認められる(なお,被控訴人会社は,Eのツイート数の減
少は,男性との交際時間等によりツイートに充てる時間が減ったために過ぎ
ず,アニメ等に対する興味がなくなったことを裏付けるものではない旨主張
する。証拠(乙5ないし16)によれば,Eが交際相手と思われる男性との
交際に時間をかけていることや,アニメ等に関するツイートも依然としてあ
ることが認められるものの,全体としてアニメ等に関するツイートが減少し
ていること,上記のとおり,易疲労性が認められ,身なりを構わなくなって
いるということも考慮すると,アニメ等に対する関心が従前よりも薄れてい
ると認めるのが相当である。)。さらに,上記のお弁当がおにぎり程度となっ
たということは,上記アの(g)(食欲不振)に該当するほか,注意・叱責を
受けても業務上のミスが減らないということは,上記アの(a)(集中力と注
意力の減退)に該当する。さらに,上記のEが落ち込んだ様子で「また言わ
れちゃった」などと述べていることは,Eに対する叱責が多数回にわたって
いたことからすると,上記アの(b)(自己評価と自信の低下)に該当する。
以上によれば,Eは,遅くとも平成24年6月中旬には,軽症エピソード
もしくは中等症エピソードの患者と診断できる状態にあったと認められる
から,Eは,遅くともその頃には,うつ病を発症していたと認めるのが相当
である。
エなお,補正後の前示1(7)のとおり,被控訴人会社の多くの従業員は,E
の自殺直前まで,Eの心身状態の変化を特に感じなかったことが認められる。
しかし,上記イのEの状態によれば,Eはうつ病を発症していたと認められ,
被控訴人会社の従業員らの上記印象は,上記結論を左右するものとはいえな
い。
また,補正後の前示1(7)イのとおり,Eは,精神障害に関連する疾病で
の受診歴はなく,平成24年4月に受検した健康診断においても,特に異常
はなかったことが認められるが,これは,Eが同年6月中旬にはうつ病を発
症していたという上記結論を左右するものとはいえない(なお,控訴人Dの
供述中には,うつ病で入院した同人の父親の様子を見たことがあるが,Eに
は精神障害に関連する疾病をうかがわせるような症状は出ていなかったと
の部分(甲43,原審における控訴人D本人)があるものの,上記イのEの
状態によれば,Eはうつ病を発症していたと認められるから,同供述はやは
り上記結論を左右するものとはいえない。)。
さらに,O医師は,同人作成の「E殿の精神科的診断と死亡背景について
の意見書」(乙50)において,P労働基準監督署が,Eが平成24年6月
中旬頃には「F32うつ病エピソード」を発病していた旨判断したことにつ
いて,Eがうつ病に発症していたと診断する根拠に乏しいとの意見を出して
いる。しかし,O医師の同意見は,前提となるEの業務状況や心身の状態が
上記認定に反するものであるから,採用することができない。
被控訴人会社は,Eのツイートの内容,男性との交際状況などを指摘して,
Eがうつ病を発症していたと認めることには疑問があると主張する。しかし,
上記認定・判断に照らし,被控訴人会社の主張は採用することができない。
(2)被控訴人らの不法行為とEの死亡(自殺)との間の相当因果関係の有無に
ついて
ア補正後の前示2のとおり,被控訴人Cが,平成23年秋以降,Eに対し,
「てめえ。」「あんた,同じミスばかりして。」などと厳しい口調で叱責し,
控訴人Dから被控訴人会社に対してEのことで相談の電話があった後もE
のミスがなくならなかったことから,Eに対し,「親に出てきてもらうくら
いなら,社会人としての自覚を持って自分自身もミスのないようにしっかり
してほしい。」と述べ,本件配置転換後は,Eを頻繁にEDP室に呼び出し,
被控訴人Aとともに叱責していたほか,自身でも別途Eを叱責していた(本
件叱責行為)ことは,不法行為に該当し,前示4のとおり,被控訴人会社が
これを制止ないし改善するよう注意・指導をしなかったことは不法行為に該
当する。
また,補正後の前示3のとおり,被控訴人Aが,本件配置転換後,EDP
室において,Eに対し,(被控訴人C在席時には同人とともに)「何度言った
らわかるの」などと強い口調で注意・叱責をするなどしたことは,不法行為
に該当し,前示4のとおり,被控訴人会社がこれを制止ないし改善するよう
注意・指導しなかったことは,不法行為に該当する。
さらに,前示4のとおり,被控訴人会社がEの業務内容や業務分配の見直
し等を怠ったことは,不法行為に該当する。
イ被控訴人Cの本件叱責行為は,Eに対し,一方的に威圧感や恐怖心を与え
るものであったことや,本件配置転換後の被控訴人AのEに対する注意・指
導は,強い口調で注意・叱責するというもので,同じ注意・叱責を何回も繰
り返し,相応に長い時間にわたることもあり,また,被控訴人Aと被控訴人
Cの二人から注意・叱責をするということも多かったというものであり,ま
た,このような注意・叱責について被控訴人会社から制止ないし改善の指導
がなく,状況に変化はなかったというのであるから,これによりEが受けた
心理的負荷は相応に大きいものであったということができる。
なお,前示4(1)エ(ウ)のとおり,厚生労働省は認定基準を発出していると
ころ,認定基準は,法令と異なり,行政上の基準にすぎないが,各分野の専
門家による精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書に基づき,
医学的知見に沿って作成されたもので,一定の合理性は認められるから,本
件における因果関係の判断に際しては,参考となるというべきである。そし
て,Eに対する上記指導・叱責は,認定基準のァ並仗祐愀検暴侏荵29の
具体的出来事(「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」)のうち,
心理的負荷が「中」となる例(上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱し
た発言があったが,これが継続していない)を参考とすると,心理的負荷の
程度は少なくとも「中」に該当すると考えるのが相当である。
ウまた,Eは,負担が比較的軽い本件配置転換前業務においても入力ミスが
多かったところ,本件配置転換により従前より負担が大きい本件配置転換後
業務に従事することになり,その上,本件配置転換に当たり,その時点では
前任者からの引継ぎが十分でなかったため,被控訴人Aの支援を受けること
が予定されていた。しかし,Eは,本件配置転換後業務においても入力ミス
は減らず,時間外労働時間は,平成24年1月22日から同年2月20日ま
では合計32時間32分,同月21日から同年3月21日までは合計41時
間25分であったところ,同月22日から同年4月20日までは合計67時
間01分,同月21日から同年5月20日までは合計49時間28分(ただ
し,いわゆるゴールデンウィークの関係で休みが前期間は5日であったのが
10日となり(甲18),残業時間が抑えられたにすぎない。),同月21日
から同年6月19日までは合計58時間08分とさらに増加し,負担感も相
応のものとなっていたにもかかわらず,被控訴人会社がEの業務の負担や遂
行状況を把握することなく,被控訴人AをEDP室に移動させるなどして,
Eの業務内容や業務分配の見直しを行わなかったというのであるから,これ
によりEが受けた精神的負荷は相応のものであったということができる。な
お,認定基準に当てはめると,ぁ別魍筺γ楼未諒儔重)出来事21のうち,
「配置転換があった」という具体的出来事に当てはめるのが相当であり,配
置転換後の業務が容易に対応できるものであり,変化後の業務の負荷が軽微
であったものが「弱」とされ,過去に経験した業務と全く異なる質の業務に
従事することになったため,配置転換後の業務に対応するのに多大な労力を
費やしたものが「強」とされていることを考慮すると,心理的負荷の程度は
「中」に該当すると考えるのが相当である。
エ以上によれば,被控訴人A及び被控訴人Cから注意・叱責を受け,かつ,
被控訴人会社が,被控訴人A及び被控訴人Cの注意・叱責を制止ないし改善
を求めず,Eの業務内容や業務分配の見直しを検討しなかったことにより,
Eが受けた心理的負荷の程度は,上記各心理的負荷の程度やこれらの違法行
為が密接に関連するものであることも考慮すると全体として大きなもので
あったと認めるのが相当である(認定基準に当てはめると「強」に相当する
と認められる。)。
したがって,被控訴人会社の不法行為(使用者責任を含む)によるEの心
理的負荷は,社会通念上,客観的に見てうつ病という精神障害を発症させる
程度に過重なものであったと評価することができ,また,被控訴人会社の不
法行為(使用者責任を含む)とEの自殺との間には,相当因果関係があると
認めるのが相当である。
なお,Eの自殺については,自殺の前日である平成24年6月20日の被
控訴人Aとの電話がきっかけとなった可能性があるところ,同電話での被控
訴人Aの言動が不法行為に該当すると認められないことは,補正後の前示3
(3)のとおりである。しかし,同電話で確認されたEのミスは,それほど重
大なものではなく,それ自体が直ちに自殺の原因となるようなものではなか
ったが,当時,Eがうつ病を発症していたことから,絶望感ないし自責感に
駆られて自殺するに至ったものと考えられる。そして,被控訴人会社が,E
の業務内容や業務分配の見直しをしなかったことは,上記ミスと関連性を有
しているといえる。したがって,上記電話が,被控訴人会社の不法行為に該
当しないことは,被控訴人会社の不法行為(使用者責任を含む)とEの自殺
との間に相当因果関係があるという上記結論を左右しないというべきであ
る。
オ一方,被控訴人Cの不法行為及び被控訴人Aの不法行為については,上記
のとおり,心理的負荷の程度は相応に大きいものであり,認定基準に当ては
めると「中」と評価できるものであるが,それのみでうつ病を発症させる程
度に過重なものであったと評価することはできず,したがって,Eの自殺と
の間に相当因果関係があると認めることもできないし,被控訴人C及び被控
訴人Aにおいて,Eの自殺について予見可能性があったということもできな
い。
(3)ア被控訴人会社は,―抄醗の自殺につき予見可能性が認められるのは,
長時間労働やいじめといった就労環境の存在,当該従業員が休みがちであっ
たなどの就業状況,当該従業員が精神科にかかっているなどの事実が存在し,
それを使用者が認識していたこと又は容易に認識し得た場合に限られる旨,
(a)Eは恒常的に長時間労働を行っていたわけではないし,(b)被控訴人C
及び被控訴人Aの指導や注意は業務の適正な範囲内のものであり,(c)Eの
担当業務は過重なものではなく,業務に対する相応の支援も行われ,(d)E
の様子がおかしいと感じた従業員はなく,Eが精神科に通院していたという
こともなかったから,Eの自殺を予見することは不可能であった旨主張する。
しかし,上記△里Δ繊(a)ないし(c)は,前示のとおり採用することがで
きないし,(d)はうつ病の発症を直ちに否定するものではない。また,上記
,砲弔い討蓮じ生労働省は,すでに平成13年に「職場における自殺の予
防と対応」(甲97)において,うつ病にり患した患者が自殺を図ることが
統計的にある程度の数字になっており,自殺した労働者で生前に精神科を受
診していた人はごくわずかであるとし,自殺のサインとして,うつ病の症状
に気を付ける,仕事の負担が急に増える,職場のサポートが得られないこと
などを挙げ,労働者が業務上の原因で自殺することを防止するよう注意を呼
び掛けていたこと,平成11年の段階で,業務によるストレスを原因として
精神障害を発病し,あるいは自殺したとして労災保険金請求が行われる事案
が増加していることを背景として,精神障害等の労災認定に係る専門検討会
による「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」において,いじめ
や業務内容の変化が精神障害等の発症の原因となる出来事として報告され
ており(甲33),平成23年には上記のような労災保険金請求のさらなる
増加を受けて,前示4(1)エ(ウ)記載の専門検討会報告書が作成されて公表さ
れている。そうすると,上記専門検討会報告書の内容はともかくとして,使
用者は,平成24年当時,仕事の負担が急に増えたり,職場でサポートが得
られないといった事由から,労働者がうつ病になり,自殺に至る場合もあり
得ることを認識できたのであるから,うつ病発症の原因となる事実ないし状
況を認識し,あるいは容易に認識することができた場合には,労働者が業務
上の原因で自殺することを予見することが可能であったというべきである。
そして,被控訴人C及び被控訴人Aによる違法な注意・叱責とこれについて
被控訴人会社が適切な対応を取らなかったこと,及びEの業務内容や業務分
配の見直しをすべき義務があったのにこれをしなかったということを,被控
訴人会社は認識し,あるいは容易に認識できるものであったから,被控訴人
会社にはEの自殺について予見可能性があったというべきである。被控訴人
会社の主張は,採用することができない。
イ被控訴人会社は,Eが,生前,Fと交際しており,亡くなる前日に同人か
ら別れ話を持ち出されたことがEの自殺の原因となった可能性がある旨主
張し,Q作成の陳述書(乙58)には同主張に沿う記載部分があるものの,
そのような話を聞いたという伝聞であって,これを裏付ける具体的な証拠は
ない。被控訴人会社の主張は採用することができない(なお,前示1(7)ウ
のとおり,Eは自殺する11日前に「今回は絶望的ですかね。もう会えない
かもですね。昔みたいな衝撃はないけど,散々振り回された結果がこれだと
虚しすぎて,いっそ笑えてくる。」「最後の言葉くらいは言いたかったのう…」
とツイッターに投稿していることが認められるが,これがうつ病の発症の原
因となったとか,自殺の原因であることを認めるに足りる証拠はない。)。
ウ被控訴人会社は,Eはうつ病を発症していない,心理的負荷の程度を「強」
と評価することはできない,被控訴人会社の不法行為とEの自殺との間に因
果関係はない,Eの自殺の予見可能性はなかったなどとその他縷々主張する
が,いずれも上記認定説示に反するか,上記結論を左右するものではなく,
採用することができない。
6争点(5)(損害額)について
(1)被控訴人会社が支払うべき損害賠償額について
ア前示5のとおり,被控訴人会社の不法行為(使用者責任を含む)とEの死
亡との間には相当因果関係があるから,被控訴人会社はこれによりE及び控
訴人らが被った損害を賠償する義務がある。
そこで,以下,E及び控訴人らが被った損害について検討する。
イEの被った損害
(ア)逸失利益(請求額:3759万5260円)
補正後の前示1(6)のとおり,Eの死亡時における賃金は月15万51
10円であった。また,補正後の前示1(6)のとおり,Eは平成23年7
月及び12月に各11万円の特別給与の支払を受けているが,これは賞与
としての性格を有するものと考えられる。さらに,補正後の前示1(6)の
とおり,Eに支払われるべき時間外手当は,平成24年1月分賃金から同
年6月分賃金までの6か月間の合計は37万7827円であったことが
認められる。
そうすると,逸失利益算定におけるEの基礎収入(年額)については,
月額賃金15万5110円の12か月分である186万1320円に,上
記6か月間の時間外手当の2倍である75万5654円及び上記賞与分
(年額22万円)を加算した283万6974円とするのが相当である。
また,就労可能年数は,Eの死亡時の年齢(21歳)から67歳までの
46年間(ライプニッツ係数は17.880)とするのが相当である。
さらに,生活費控除率は,Eの年齢等を考慮すると,30%とするのが
相当である。
したがって,Eの逸失利益は,3550万7566円(283万697
4円×17.880×(1−0.3)。円未満切捨(以下同じ)。)となる。
(イ)慰謝料(請求額:2500万円)
被控訴人C及び被控訴人Aによる違法な注意・叱責の態様や期間,Eが
担当した本件配置転換後業務の負荷及び期間,並びに被控訴人会社がこれ
を改善ないし見直しをしなかったことによりEがうつ病を発症し,その後,
21歳で自殺するに至ったことなど,本件に現れた一切の事情を考慮する
と,Eが被った精神的苦痛に対する慰謝料は2000万円とするのが相当
である。
(ウ)葬祭料(請求額:150万円)
死亡時のEの年齢等を考慮すると,被控訴人会社の不法行為と相当因果
関係にある葬祭料は,150万円とするのが相当である。
(エ)合計
上記(ア)ないし(ウ)の合計額は,5700万7566円となる。
ウ控訴人らの損害(請求額:慰謝料各250万円)
上記イ(イ)記載の事情によりEが自殺するに至ったことなど本件に現れた
一切の事情を考慮すると,控訴人ら各自において慰謝すべき固有の精神的苦
痛が生じたと認められ,これを慰謝するための慰謝料は各100万円とする
のが相当である。
エ損害の填補
控訴人らは,上記イのEの損害(5700万7566円)の2分の1であ
る2850万3783円をEからそれぞれ相続した。
そして,控訴人Dは,労働者災害補償保険から,遺族一時金693万80
00円及び葬祭料一時金52万3140円を受け取っている(甲29,30)
から,同額を上記相続したEの損害額(ただし,逸失利益及び葬祭料)から
控除すると,残損害額は2104万2643円となる。
これに上記ウの控訴人ら固有の慰謝料(100万円)を加算すると,控訴
人Bの損害額は2950万3783円,控訴人Dの損害額は2204万26
43円となる。
オ弁護士費用(請求額:控訴人B331万0355円,控訴人D256万5
241円)
上記エの控訴人らの各損害額などを考慮すると,被控訴人会社の不法行為
と相当因果関係にある弁護士費用は,控訴人Bについて240万円,控訴人
Dについて180万円とするのが相当である。
カ以上によれば,被控訴人会社は,控訴人Bに対し3190万3783円,
控訴人Dに対し2384万2643円を賠償する義務があることになる。
(2)被控訴人C及び被控訴人Aが支払うべき損害賠償額について
ア補正後の前示2のとおり,被控訴人Cの不法行為は,平成23年秋以降,
Eに対し,「てめえ。」「あんた,同じミスばかりして。」などと厳しい口調で
叱責し,控訴人Dから被控訴人会社に対してEのことで相談の電話があった
後もEのミスがなくならなかったことから,Eに対し,「親に出てきてもら
うくらいなら,社会人としての自覚を持って自分自身もミスのないようにし
っかりしてほしい。」と述べ,本件配置転換後は,Eを頻繁にEDP室に呼
び出し,被控訴人Aとともに叱責していたほか,自身でも別途Eを叱責して
いたというものである。
また,補正後の前示3のとおり,被控訴人Aの不法行為は,本件配置転換
後業務に関し,Eに対し,(被控訴人C在席時は同人とともに)強い口調で
注意・叱責するというもので,同じ注意・叱責を何回も繰り返し,相応に長
い時間にわたることもあったというものである。
被控訴人C及び被控訴人Aの上記各行為は,Eに対し精神的苦痛を与える
ものであったことは明らかであるから,Eが被った精神的苦痛に対する慰謝
料を支払うべき義務があるというべきである。
一方,被控訴人C及び被控訴人Aの上記各行為の態様等を考慮すると,控
訴人らに慰謝すべき固有の精神的苦痛が生じたとまでは認められない。
イ上記アのとおり,本件配置転換後のEに対する注意・叱責は,被控訴人A
及び被控訴人Cが一緒になってしたものと,被控訴人A及び被控訴人Cが単
独でしたものとが混在しているが,その割合などは不明であるので,被控訴
人A及び被控訴人Cが一緒になって注意・叱責したことによるEの損害の算
定において,被控訴人A及び被控訴人Cが各自で行った注意・叱責を含めて
考慮するのが相当である。
“鏐義平唯辰単独でEを注意・叱責したのは平成23年秋以降から平成
24年3月31日までであり,∧神24年4月1日以降は被控訴人C及び
被控訴人Aが一緒になって注意・叱責をしているところ,その叱責の態様な
どを考慮すると,被控訴人Cの上記,砲ける不法行為によりEが被った精
神的苦痛に対する慰謝料は50万円,被控訴人C及び被控訴人Aの上記△
おける不法行為によりEが被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円と
するのが相当である。
したがって,被控訴人Cが賠償すべき損害額は100万円(うち50万円
は被控訴人Aと連帯),被控訴人Aが賠償すべき損害額は50万円(全額被
控訴人Cと連帯)ということになる。
ウ弁護士費用について
控訴人らは,Eの上記イの損害について2分の1の割合でそれぞれ相続し
た。したがって,被控訴人Cは,控訴人らに対し,各50万円(うち各25
万円は被控訴人Aと連帯)の損害賠償金を,被控訴人Aは,控訴人らに対し,
各25万円(全額被控訴人Cと連帯)の損害賠償金の支払義務がある。
そして,被控訴人C及び被控訴人Aが支払うべき弁護士費用は,上記損害
額の1割とするのが相当であるから,被控訴人Cは,控訴人らに対し,各5
5万円(うち各27万5000円は被控訴人Aと連帯)を,被控訴人Aは,
控訴人らに対し,各27万5000円(全額被控訴人Cと連帯)を,それぞ
れ支払う義務があるということになる。
エ被控訴人Cは,。鼎領梢討任△觜義平佑蕕任垢蕋鼎亮殺に至る心情,原
因を明確に把握できなかったこと,■鼎凌涜欧砲Δ追卒擬圓いることから
すれば,Eには自殺親和性が極めて高い素因があった旨主張する(争点(6))。
しかし,ゝ擇哭△自殺親和性が高いことを裏付ける事情ということはでき
ないから,被控訴人Cの主張は採用することができない。
また,被控訴人Cは,当審において,慰謝料は多くとも30万円程度が相
当である旨主張する。しかし,被控訴人CのEに対する叱責の態様や期間な
どを考慮すると慰謝料は合計100万円とするのが相当である。被控訴人C
の主張は,採用することができない。
(3)被控訴人らが支払うべき損害額について
被控訴人会社が控訴人らに対し支払うべき上記(1)の損害には,被控訴人C
及び被控訴人Aの不法行為による上記(2)の損害が含まれており,この部分に
ついては,被控訴人C及び被控訴人Aは被控訴人会社と連帯して賠償責任を負
う。
したがって,(ア)被控訴人会社は,々義平唯造紡个掘ぃ械隠坑伊3783
円(うち27万5000円は被控訴人Cと連帯して,うち27万5000円は
被控訴人A及び被控訴人Cと連帯して),控訴人Dに対し,2384万26
43円(うち27万5000円は被控訴人Cと連帯して,うち27万5000
円は被控訴人A及び被控訴人Cと連帯して)の損害賠償義務があり,(イ)被控
訴人Cは,々義平唯造紡个掘ぃ毅桔円(うち27万5000円を被控訴人会
社と連帯して,うち27万5000円を被控訴人会社及び被控訴人Aと連帯し
て),控訴人Dに対し,55万円(うち27万5000円を被控訴人会社と
連帯して,うち27万5000円を被控訴人会社及び被控訴人Aと連帯して)
の損害賠償義務があり,(ウ)被控訴人Aは,々義平唯造紡个掘と鏐義平猷饉
及び被控訴人Cと連帯して27万5000円,控訴人Dに対し,被控訴人会
社及び被控訴人Cと連帯して27万5000円の損害賠償義務があるという
ことになる。
(4)被控訴人会社の債務不履行による損害及びその額は,上記(3)を超えるもの
とは認められないから,特に判断しない。
第4結論
よって,控訴人らの被控訴人会社に対する本件控訴及び被控訴人Aの本件附帯
控訴に基づき,控訴人らの被控訴人会社及び被控訴人Aに対する請求に関し結論
を異にする原判決を変更し,控訴人らの被控訴人A及び被控訴人Cに対する本件
控訴並びに被控訴人会社及び被控訴人Cの本件附帯控訴はいずれも理由がない
から,棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判長裁判官 永野圧彦
裁判官 田邊浩典
裁判官 鈴木幸男

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

もくじ

名前で検索


 あ行

 か行

 さ行

 た行

 な行

 は行

 ま行

 や行

 ら行?

 わ行

 

管理人/副管理人のみ編集できます