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名張毒ブドウ酒事件、再審請求棄却を決定 名古屋高裁

 三重県名張市で1961年、女性5人が死亡した名張毒ブドウ酒事件の第10次再審請求で、名古屋高裁(山口裕之裁判長)は8日、請求を棄却する決定を出した。89歳で病死した奥西勝元死刑囚に代わり、妹の岡美代子さん(88)が2015年11月に再審を申し立てていたが、弁護団が求めていた事実調べなどは行われていなかった。
 第10次再審請求で弁護団は、ブドウ酒の王冠に封をしていた紙(封緘紙〈ふうかんし〉)ののりの成分を分析した鑑定結果など計28点の証拠を提出。「犯人が一度開けて毒を入れ、のりで封緘紙を貼り直したと推認される」などと訴えていた。9月には岡さんが意見書を提出し、「証拠や書類をしっかり見て頂き、きちんと証拠調べをして頂きたい」と再審開始を求めていた。検察側は弁護団が提出した証拠の信用性を否定する意見書を出していた。
 事件は1961年3月、名張市の公民館でブドウ酒を飲んだ女性17人が中毒症状を起こし、5人が死亡したもの。奥西元死刑囚は一審で無罪、二審で死刑判決を受け、最高裁で死刑が確定。05年の第7次再審請求で一度、再審開始の決定が出たが、その後取り消され、最高裁まで争ったが再審が認められなかった。奥西元死刑囚は第9次再審請求中の15年10月4日に病死した。
(12/8(金) 10:18 朝日新聞)

<名張毒ぶどう酒事件>再審棄却 第10次請求、名古屋高裁

 三重県名張市で1961年3月、女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」の第10次再審請求で、名古屋高裁刑事1部(山口裕之裁判長)は8日、2015年に収監先で89歳で死亡した奥西勝・元死刑囚の妹、岡美代子さん(88)の請求を棄却し、再審を認めない決定を出した。高裁は「(弁護団の)新証拠は無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらない」とした。
 奥西元死刑囚の死後、再審請求に対する初めての判断だった。第10次請求は高裁、検察、弁護団による3者協議が開かれないまま決定が出された。弁護団は異議申し立てをする方針。
 弁護団は第10次請求で、ぶどう酒瓶の王冠に巻かれていた封かん紙から、製造段階と異なるのりの成分が検出されたとの大学教授の鑑定結果を新証拠として提出した。封かん紙を貼り直したことを示すものだが、捜査段階の自白や確定判決の認定にそうした行為はなく「元死刑囚以外の真犯人が一度開栓して毒物を混入した後、のりで貼り直した可能性がある」と主張した。
 混入毒物は確定判決が認定した「ニッカリンT」でないとの主張を補強するデータも出した。さらに、30人で実験したが自白通りの犯行は不可能だったとも訴え、いずれも元死刑囚以外に真犯人がいる可能性を示す新証拠としていた。
 これに対し高裁は封かん紙ののりの分析結果は誤っているとの見解を示した上で、封かん紙の状況について「事件から長い時間が経過し、このような実験などから結論を導き出すのは合理的でない。実験方法に多大の疑問がある」とした。毒物のデータに関しても「条件のわずかな違いで結果は異なるのに、事件当時の条件の詳細は分からず、実験は何の意味も持たない」と退けた。犯行再現も客観的意味を持つとは考えがたいと判断した。
 奥西元死刑囚は第9次再審請求中の15年10月、収監先の八王子医療刑務所で病死した。岡さんが請求人となって同11月、第10次再審請求をしていた。刑事訴訟法で、有罪判決を受けた人が死亡した場合は、配偶者か直系親族、兄弟姉妹が再審請求できる。
 この事件を巡っては第7次再審請求で名古屋高裁刑事1部が05年に再審開始決定を出したが、同高裁2部が取り消した。最高裁が審理を差し戻したものの、刑事2部は改めて決定を取り消し、最高裁も支持した。【道永竜命、斎川瞳】
(12/8(金) 11:31 毎日新聞)

閉ざされた再審請求審を裁判員裁判にしてオープンに!〜名張毒ぶどう酒事件の再審請求棄却決定から考える

 56年前、三重県名張市で地域の懇親会に出されたぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」で、名古屋高裁(山口裕之裁判長、出口博章裁判官、大村陽一裁判官)が8日、第10次再審請求を棄却する決定を出した。三者協議もやらない裁判所の姿勢から、この結論は予想していたが、様々な証拠に照らして確定判決を検討することにも拒否的で、毒物鑑定の検証実験などを「無意味」と突き放すなど、「これ以上裁判所の手を煩わせるな」と言わんばかりの拒絶感に満ちた態度が決定要旨からあふれているのには、唖然とさせられた。
 三者協議さえ開かず
 本事件で起訴された奥西勝さんは、一審の津地裁は無罪だったが、二審の名古屋高裁で逆転有罪で死刑を言い渡された(このため、再審請求は地裁ではなく、高裁に提出することになる)。奥西さんは、判決確定後も無実を訴え続け、裁判のやりなおしを求めてきた。第7次再審請求で、ようやく名古屋高裁刑事第1部(小出じゅん一裁判長、「じゅん」はカネヘンに「享」)が再審開始を決定したが、検察の即時抗告による異議審で取り消された。第9次請求の最中に、奥西さんは死亡。第10次請求は、実妹の岡美代子さんが請求人となった初めての再審請求である。
 弁護側は使われた毒物が確定判決で示されたニッカリンTとは別の農薬であるとする主張を補強するため、事件当時の鑑定方法を再現する実験を行う一方、ぶどう酒の瓶の封緘紙ののりの成分を分析。製造過程で使用されたのとは異なる、一般家庭などで使われているのりが付着していたとして、奥西さん以外の誰かが、事前に開栓して毒物を入れた後に、再び封緘紙を貼り直した可能性があると主張した。 
 弁護側は鑑定を行った科学者の話を直接聞く機会を設けるよう、再三要請したが、裁判所は受け付けなかった。裁判所、弁護人、検察官による三者協議は、途中で請求を取り下げ第9次請求審に切り替えたために短期間で終わった第8次請求審でも行われたが、今回は一度も行われていない。
 決定では、毒物に関する再現実験は、当時の器具は入手不能などとして「再現を試みたところで、何の意味も持たない」「かかる再現実験をいくら重ねても無意味である」と切り捨てた。のりの成分についての再現実験でも、「意味をなさない」「意味をもたない」という言葉が繰り返された。
 専門的な知識や経験が必要な分野について、鑑定人の詳細な説明を求めることもなく、他の専門家の見解も聞かずとも、裁判官の非科学的な頭で科学鑑定の是非を判断できるんだと言わんばかりの対応は、傲慢の極みを言えよう。
 証拠の吟味も行わず
 今回の決定は、確定判決を支えた証拠だけをつまみ食いしたうえ、当時の状況をまったく無視した評価をしている。
 確定判決は、ぶどう酒に毒を入れる機会があったのは、懇親会会場の公民館で奥西さんが10分間1人でいた時間帯だけである、と認定した。ただ、このぶどう酒はその前に、懇親会を主催する生活改善クラブの会長Nさん宅に一定時間置かれていた。ぶどう酒の購入は、事件当日の朝にNさんが決めたこともあり、当初はNさんにも強い疑いが向けられていた。ところが、ぶどう酒到着時刻に関する関係者の供述は、途中ですべて、一斉に不自然な変化を遂げ、N宅に置かれていた時間がぐんと短くなり、ここで毒を入れる機会はないことになった。
 これによって、犯行の機会があった者は奥西さんのみだと主張する検察側に対し、一審の無罪判決は、証言の変遷は「検察官のなみなみならぬ努力の所産」と皮肉っている。
 しかし、今回の決定はそうした経緯は一切無視し、確定判決に合う証言のみをつまみ食いした。そのうえ、当時の状況は一切無視している。
 たとえば、ぶどう酒到着時刻に関する証言をしているT女の供述について、決定は「明確で一貫しており、うそをつく理由もない」と断言した。しかし、捜査の初期のT女供述は証拠として提出されていないので、果たして一貫しているのか不明だ。しかも、T女はNさんの実の妹である。
 第7次の再審開始決定では、T女ら関係者の供述の取扱いについて、次のような注意を述べている。
 〈重要な供述者全員、特にNをはじめその家族(K女、T女)が、いずれも事件との強い利害関係を有する複雑な立場であって、供述の対象事項が、自らや親族らの嫌疑に直接、間接に関係し、虚偽供述を行いやすい強い動機が認められる〉
 〈特にN女は嫁ぎ先から実家に帰っておりぶどう酒を一時的に保管していた家族として強い利害関係を有する者であり、兄Nとは供述当時の時点で同居していたこと(中略)などの背景事情があった〉
 〈このような当時の背景事情を念頭に置いた上で、各供述の信用性の判断に当たり、供述の変遷、その理由、供述内容の自然さ、他の証拠との整合性などの観点から、慎重な検討を要する〉
 2005年に再審開始決定が出たのだが……
 こうした「慎重な検討」もなく、証拠を十分に吟味しないまま、T女供述が「明確で一貫しており、うそをつく理由もない」などと断定した今回の決定は、控えめに言っても、あまりに軽率だ。こんな軽率な判断は、裁判記録全体を読み直し、これまでの再審請求審で明らかになった事実(弁護人が書面で丁寧に解説している)を新証拠とともに総合して検討していればできないだろう。今回の裁判所が、まともに再審の訴えに向き合っていなかったことが、ここに現れている、と思う。
 歴史に学ばない裁判官
 自白の取扱いもひどいものだ。
 決定は、捜査段階の自白について次のように認定している。
 〈身柄拘束前の任意調べで犯人と供述した。本件のような重大な事犯について特段の強制もなく自白した以上、任意性に問題がないことはもとより、信用性も高いと考えられる〉
 本件被害者の中には、奥西さんの妻も含まれている。まもなく小学校に上がる娘を含め、2人の子供がいた。そういう状況下で、奥西さんは連日警察に呼び出されて深夜まで厳しい追及を受け、「新聞記者がうるさいから家に帰ってはいかん」と近くの宿屋に泊まるよう求められた。なんとか頼んで自宅に帰らせてもらっても、刑事がついてきて家の中まで強引に上がり込み、トイレもドアを開けたまま用を足させるなど、徹底的な監視をした。果たしてこれが、「任意」の取り調べと言えるだろうか。
 逮捕前の「任意捜査」の段階で、虚偽の自白に追い込まれた事例は、過去にいくつもある。足利事件で菅家利和さんは、午前7時に自宅にやってきた刑事に警察署に連れていかれ、自白の強要を受け、午後10時頃には虚偽自白に追い込まれた。それでも、警察に連れて行ったのは「任意同行」であり、自白強要は「任意の取り調べ」で、「任意捜査」による「任意」の自白として扱われた。
 松橋事件では、連日の「任意」での取り調べの末にとられた「自白」の信用性を裁判所も否定した
 先日、熊本地裁に続いて福岡高裁が「自白」の信用性を否定して再審開始を認めた松橋事件でも、事件発生後13日間に9日もの取り調べを受け、「ポリグラフ検査で陽性反応が出た」などと告げられ、取り調べがない日も自宅待機を命じられるなど、完全に捜査当局の支配下に置かれた状況が続く中で、「自白」に追い込まれた。
 冤罪の歴史から、名古屋高裁の裁判官はまったく教訓を学んでいない。こういう裁判官が、刑事司法の現場にいて、今日も人を裁いているのである。
 「自白」に引きずられる裁判官
 ただ、こうした姿勢は、今回の裁判体に限ったものではない。第7次請求審での再審開始決定をひっくり返し、再審請求を棄却した2006年の名古屋高裁刑事2部(門野博裁判長)による異議審決定でも、自白が「任意捜査の段階」で行われたことを重視し、「そう易々とうその自白をするとは考えにくい」として、長々と自白を引用している。
 裁判所が、このように自白に引きずられて有罪認定するからこそ、刑事訴訟法の改正によって捜査段階での可視化が導入されるに至ったのだ。ただ、それだけでは過去の事件は救われない。しかも、多くの裁判官は、再審に対しては極めて消極的だ。今回の裁判所に至っては、様々な証拠から確定判決を見直すことさえ拒否するような態度で事件に臨んでいる。
 こういう裁判官たちが、密室で判断を下しているのが、今の再審請求審だ。公開の法廷で証人尋問を行うなど、一部の過程をオープンにすることは、今の法律でもできる。過去には、日産サニー事件の再審請求審で福島地裁いわき支部は証人尋問を公開の法廷で行った前例もある。けれども、多くの裁判所は、国民の目が届かない密室を好む。名張事件でも、ずっと密室審理が行われてきた。
 このような状況では、よほど奇特な裁判官に当たらない限り、救われるべき者も救われない。そろそろ、本気で再審請求制度の見直しが必要ではないか。
 私の提案はこうだ。
 1)名張事件のように、現在であれば裁判員裁判で行われるような重大事件に関しては、職業裁判官のみではなく市民を入れた裁判員方式で審理する。
 2)公開の法廷で請求人・弁護人、検察側の主張を述べ合う。
 3)証人尋問などは公開の法廷で行う。
 再審請求審の取材は、多くの場合、検察が非協力的なので、報道陣は弁護人からしか情報を得られない状況だく。提供される情報には弁護人というバイアスがかかっているという前提で報道しなければならない。しかし、公開の法廷で双方のやりとりや証人尋問が行われれば、客観的な立場で取材し、だからこそ確信を持って報道できる。国民も、傍聴席に座って、あるいは報道を通して、再審請求審がどのように行われているかを確認することができる。
 憲法で裁判の公開が決められているのは、裁判の公正さを担保し、それによって国民の司法への信頼を確保するためだ。
 再審請求審も、国民の目に、審理の過程がある程度見える状況が確保されてこそ、裁判官も緊張感をもって、公正な態度で審理に取り組むだろうし、その姿勢が見えることで国民の司法への信頼も醸成されるだろう。
(12/8(金) 21:12 江川紹子)

ファイル

主文
本件再審請求を棄却する。
理由
1本件再審請求の趣意は再審請求書,再審請求理由補充意見書(1)から(6)まで
(弁護人作成),意見書(請求人作成)のとおりであり,これに対する意見は意見
書,同(2),(3),上申書(検察官作成)のとおりである。要するに有罪の言渡しを
受けた亡A(以下「被告人」という。)を犯人と認めて有罪の言渡しをした確定判
決に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したというのである。
2確定判決は「(罪となるべき事実)」として要旨次のとおり判示して被告人
の犯人性を認めた。
被告人は,妻(B)と愛人(C)との三角関係の処置に窮し,両名を殺害して関
係を一挙に清算しようと考え,昭和36年3月28日,居住地区の生活改善グルー
プが公民館で行う懇親会で女子会員用にぶどう酒が出されることを察知し,これに
農薬ニッカリンTを混入するときは,これを飲む妻と愛人を含む女子会員が死亡す
るかも知れないことを十分認識しながら,密かに同ぶどう酒にニッカリンTを混入
し,これを飲んだ妻と愛人を含む5名を有機燐中毒により死亡するに至らせて殺害
するとともに,これを飲んだ12名に有機燐中毒症の傷害を負わせたにとどまり,
その余の3名はこれを飲まなかったため,15名については殺害するに至らなかっ
た。
3確定判決までに提出された証拠(更には当審までに提出された証拠)によれ
ば,被告人の犯人性は揺るがない。
4(1)本件はぶどう酒中に毒物の有機燐テップ製剤(茶畑等の害虫の駆除に用い
られる農薬の一種。強毒性のテトラエチルピロホスフェート[TEPP]を主成分
とする。)が混入されたことによって生じた事件である。混入は製造過程や流通過
程ではなく(TEPPは加水分解速度が速く,それによって無毒化する[ゆえに農
薬に適する。]ため,かかる過程での混入で本件のような事件は起こせない[販売
時点に近接する流通過程での混入については,そのような事態をうかがわせる証跡
は何ら存しない。]。),本件当日であることは証拠上明らかである。
(2)本件当日,Dは酒屋で本件ぶどう酒を買い受け,E運転の車の助手席に乗っ
てF方前に至り,車に乗ったまま助手席窓からFの妻Gにこれを手渡した。Gは本
件ぶどう酒をF方玄関小縁(上り框)の西端付近に置いた。被告人がF方を訪れ,
Gが本件ぶどう酒を公民館に持って行くよう依頼し,被告人はこれを公民館に持っ
て行った。本件ぶどう酒は公民館に持ち込まれてから懇親会に出されるまでの間,
囲炉裏の間の流しの前に置かれていた。以上は証拠上明らかである。
(3)有機燐テップ製剤が上記4(2)のいずれかの過程で混入されたことは明らか
である。この間に何者かが密かに混入する機会があったかどうかについてみる。
F方に到着するまでの間は,DとEが行動を共にしていたことから否定される(D
とEの共犯をうかがわせる事情はおよそない。)。Gの犯人性は否定される(本件
ぶどう酒を飲んで死亡していること等から)。
そうすると,F方にあった際と公民館囲炉裏の間にあった際が問題となる(F方
から公民館に運ばれるまでの間は,被告人とHが行動を共にしている[被告人も自
認している。]ことから否定される[Hはぶどう酒を飲んで傷害を負った。被告人
との共犯をうかがわせる事情はおよそない。]。)。
(4)F方にあった際については,当日午後,I(Fの妹)が出産のためJ(Iの
義母)と一緒に実家のF方に来た後,Jが帰るのを見送るため,I,G,Gの息子
K(小学5年),L(小学3年)の5人でF方から出掛けるということがあったと
ころ(証拠上明らかである。),本件ぶどう酒が届いたのがこの見送りに出掛ける
前かそれとも見送りから戻って来た後かが重要である。届いたのが出掛ける前であ
れば,本件ぶどう酒はその後しばらくの間家人らの目に留まらない状態でF方に置
かれていたと考える余地がないわけではなく,第三者による混入の機会が生じ得る。
届いたのが戻って来た後であれば,第三者による混入の機会はなかったといえる。
すなわち,戻って来た時点でF方にはM(Fの母。見送りに出掛けず家の掃除等を
していた。),N,B(Iらが戻って来る前からF方台所土間で懇親会の準備等を
していた。)が居たところ,そこにI,G,K,Lの4人が戻って来たわけである。
本件ぶどう酒が置かれたF方玄関小縁(上り框)のある土間は台所土間と隣接し,
当時間を仕切る3枚の格子戸のうち真中の1枚は開けられていたから,台所土間か
ら本件ぶどう酒の置かれていた玄関小縁(上り框)が見通せる状態であった。Iら
が戻って来るとさほど時間をおかずに被告人が訪れ,被告人がGの依頼に応じて本
件ぶどう酒を持って公民館に向かった(以上の事実関係は証拠上明らかである。)。
このような状況下では,GがDから受け取った本件ぶどう酒をF方玄関小縁(上り
框)に置いた後F方で誰にも気付かれずに本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤を混入
するのは不可能といえる。
本件ぶどう酒の到着がIらが見送りに出掛ける前であったか見送りから戻って来
た後であったかに係る証拠としてIの供述がある。Iは本件ぶどう酒の到着は見送
りから戻って来た後であった旨供述している(F方を出,GとLが更に先までJを
見送りに行く間,Kと魚屋で待ち,Gらが戻ると,魚屋で缶詰等を買い,F方に向
かった。途中スクーターで往診に行く医師Oと会い,立話をするなどした。その後
牛にリヤカーを引かせたPに会い,Lをリヤカーに乗せてもらい,Pと話しながら
F方前まで行った。F方に着いて間もなく[Gが缶詰等を持って一旦F方に入り−
Iは外に居た。−,すぐに出てくると],DがE運転の車に乗って来て,車の窓越
しに本件ぶどう酒を含む酒3本を差し出したので,Gと一緒に受け取った旨)。
I供述は明確で一貫しており,うそをつく理由もない。見送りの経過はJ,L,
P,Oの供述と合致し,見送りと本件ぶどう酒到着の先後関係はJ,M,Nの供述
と整合する。信用性は十分である(D,E[本件ぶどう酒の受渡し状況についてI
供述と合致する供述をする。]の供述中当日の行動経過の各場面の時刻を述べる部
分は,同人らがいずれも特に時刻を意識して行動していたわけではなく,時刻の特
定も確実な記憶や根拠に基づくものではないことが供述内容自体からも明らかであ
ることからして,同人らの供述に依拠して時刻を特定することはできないというべ
きである。)。
以上によれば本件ぶどう酒がF方に到着したのはIらが見送りから戻って来た後
と認められる。本件ぶどう酒がF方にあった際の有機燐テップ製剤混入の機会性は
否定される。
(5)本件ぶどう酒が公民館囲炉裏の間にあった際については,Hの供述がある(準
備のためF方に行った。被告人が来て何か持って行く物はないかと尋ねると,Gが
本件ぶどう酒等を運ぶように頼んだ。本件ぶどう酒等を持った被告人に続いて公民
館に向かった。F方を出たところでNから食器等を乗せたお盆を持っていくよう頼
まれて引き受けた。被告人は公民館に着くと本件ぶどう酒を囲炉裏の間の流しの下
[向って右端]に置き,囲炉裏のそばに座った。会場の机が汚れていたので雑巾を
取りにF方に戻った。被告人は一人公民館に残った。雑巾を取りに戻る時公民館の
入口でQが電気工事をしているのを見た。F方から再び公民館に向かう途中Rと出
会い,話をしながら一緒に公民館に向かった。公民館を出て戻って来るまでの時間
は10分くらいだった。公民館に戻って来た時にはQは居なくなっていた。被告人
は最初に公民館に来た時と同じように一人で囲炉裏のそばに座っていた。雑巾で机
を拭くなどし,Rは囲炉裏の周りをほうきで掃くなどした旨)。
H供述は明確で一貫しており,うそをつく理由もない。N(HがF方から公民館
に向かう時,風呂敷入りの茶碗等を託した。ちょうどその頃被告人がF方を出て行
き,玄関に置いてあった酒がなくなっていた。5分から10分くらいしてHが戻り,
雑巾を持って再び出て行った旨),Q(公民館の玄関辺りではしごを掛け,10分
くらい電線を引っ張り直す作業をした。作業の間被告人とHが公民館に来た。被告
人は酒瓶を抱えるようにして持っていた。二人はそれほど間をおかずに来たと思う。
その後Hが公民館を出て行った。被告人は公民館の中におり,作業中他の者が公民
館に入ることはなかった旨),R(Hと出会い,一緒に公民館に向かった。公民館
には囲炉裏の間に被告人が一人で居た。囲炉裏の周りをほうきで掃くなどした旨)
の供述とよく整合している。信用性は十分である。
この点被告人は公判で「本件ぶどう酒等を持ってHと一緒にF方を出た。途中R
と出会い,HはRと話をしながら歩き,自分は同人らより先に公民館に入った。公
民館に着いた時は誰も居なかったが,自分が着いてからHらが到着するまで1分も
かからなかった。公民館でQが電気工事をしていたかどうかはっきりしない。F方
に行く前,牛の運動で倉庫の作業場の前を通った時,Hが(公民館の方に)上がっ
て行くのを見た。」旨供述する(すなわち,Hが2回目に公民館に向かった際同道
した[Hが1回目に公民館に向かっていた際は自分は牛の運動をさせていた]とする
ものである。)。しかし,被告人の供述するHと被告人の行動経過はH供述のみな
らず上記N,Q,R供述に明らかに反している(Nらの供述はいずれも被告人のH
との同道はHが1回目に公民館に向かった際の出来事であり,Hが2回目に公民館
に向かった際には被告人との同道はなかったとするものである。)。被告人供述に
沿う供述をしている者はいない(Nは第5次再審請求原審で「HがF方から公民館
に出掛けた後,自分が便所に行った際,被告人がF方前を子牛を引いて行くのを見
た。」旨供述するに至ったが,同供述が信用できないことは第5次再審請求原審決
定[第二の二2(二)],同異議審決定[第二の五2(1)]が正当に説示するとおりで
ある。)。被告人の公判供述は信用できない。
以上によれば被告人はHと共に公民館に来てからHがF方に戻り再び公民館に来
るまでの約10分間一人で公民館囲炉裏の間に居たと認められる。HとRが公民館
に来てから後については,同人らが公民館に居合わせたほか,間もなく順次多数の
者が公民館に集まってきて囲炉裏の間やこれに隣接する懇親会場の間に居たもので,
当時間を仕切る障子は1枚分くらいが開かれ,会場の間から囲炉裏の間の本件ぶど
う酒が置かれていた流しの前辺りがよく見渡せる状況にあった(以上は証拠上明ら
かである。)から,その際の有機燐テップ製剤混入の機会性は否定される。そうす
ると,本件ぶどう酒に有機燐テップ製剤を混入する機会となり得たのは,本件ぶど
う酒が公民館に運び込まれてからHが一旦F方に戻り再び公民館に来るまでの間被
告人が約10分間一人で囲炉裏の間に居た時間帯だけであり,それ以外に有機燐テ
ップ製剤混入の機会はなかったと認められる。
5(1)捜査段階の自白がある。
(2)ア自白に至った経過は第7次再審請求異議審決定第2章第4の3(2)ア(ア)
説示のとおりである。
イ身柄拘束前の任意調べで犯人と自供した(昭和36年4月2日。同自白は犯
行に至る経緯・動機,使用毒物,犯行準備状況,犯行状況,証拠隠滅工作等の全般
にわたる概括的ではあるものの詳細で矛盾なくまとまった内容のものである[上記
5(2)ア決定「別紙供述調書」参照]。これら全てが同月2日午後7時過ぎから翌
3日午前1時40分頃までの間に供述され,供述録取書も作成された。)。それま
でに特に強制が加えられたといった状況はうかがわれない(被告人も自白を強要さ
れるような状況があった旨の供述をしていない。)。本件のような重大事犯につい
て特段の強制もなく自白した以上,任意性に問題がないことはもとより,信用性も
高いと考えられる(更には,同月3日記者会見が行われ,犯人と認めた。捜査関係
者以外の者に対するもので,自白の任意性,信用性を支える事情といえる。)。そ
の後起訴当日(同月24日)に至るまで(同月21日一旦自白を撤回したがその直
後再び自白に戻ったほかは)約20日間にわたり自白を維持した。
ウ自白内容は当然極刑が予想される重大殺人事件の犯人というもので,うその
自白をしたというのであれば,それをするだけのよほどの理由があってしかるべき
ところ,公判(更には第5次再審請求審)での被告人の説明はそのようなものとし
て到底納得できない(Bが犯人と思っていたが,Bが犯人と断定されることについ
てつらい感情を持っており,更にBが犯人と新聞報道されたと聞いて自供する気持
ちになった。Bが犯人とすれば原因を作った自分が悪いと考え自責の念に駆られた。
自分が農薬の在りかを教えているところ,取調官から幇助犯として同罪と言われ責
任を感じたなどというものである。)。
(3)ア〆入有機燐テップ製剤として「ニッカリン」を用いたとする点は,被告
人は昭和35年8月頃ニッカリンT(100cc瓶入り)を購入している(証拠上
明らかである。)ところ,この事実と符合する(ニッカリンTは有機燐テップ製剤
である。なお,本件後ニッカリンTは被告人方から発見されなかった。)。▲縫
カリンを竹筒に入れて運んだとする点は,被告人方に竹筒を作るのに使ったという
竹鋸(目に竹屑が付着)があったもので,この事実に支えられている。1祺饒阿
公民館囲炉裏の間で細工をしたとする点は,もちろん上記4の犯行の機会性に係る
認定と整合する。て唄屬破楫錣屬匹酒の栓を開けてニッカリンを入れたとする点
(囲炉裏の火挟みで王冠を突き上げて取り[その際王冠の上に巻いてあった巻紙も
一緒に切れて落ちた。],残った金蓋[内栓]を歯を使って開けたとする。)は,
(本件ぶどう酒は四つ足替栓の上に耳付き冠頭がかぶさり,その周りに封緘紙が貼
られていたところ)同間及びその周辺で耳付き冠頭,四つ足替栓,封緘紙片が発見
され(耳付き冠頭の耳がめくれ上がっておらず,封緘紙が二つに千切れ,四つ足替
栓に歯型様の痕があった。),囲炉裏には火挟みがあったもので,この事実と整合
している。ゼ白に係るニッカリン(T)注入量は本件で発生した結果を招く量と
して十分であることは科学的に明らかである。Χ盂犬世韻鬚慶召靴燭箸垢訶世蓮
宴会直前の(最後の)開栓者は(後記8(4)アのとおりFかDかの争いはあるが,い
ずれも)開けた栓は一つだけと供述していることと符合する。О蕨裏で竹筒を燃
やしたとする点(Hが持って来た柴を囲炉裏で燃やし,竹筒も共に焼いてしまった
とする。)は,Hの持って来た柴を被告人が囲炉裏で燃やした旨の供述に支えられ
ている。更には犯行動機(上記2の確定判決判示同旨)に関しては,Bとの夫婦
仲が相当に悪化し,Cと不倫関係にあったことは既に地域でも噂に上っていた状況
にあったことが指摘できる。
イ自白に特に不自然不合理はない。
ウ自白は一貫している(一部曖昧な個所がある[ニッカリン注入時とHの公民
館出入り状況,Hが持って来た物,公民館の机がきちんと並べられた状況等]けれ
ども,自白の根幹部分[犯人性,動機,使用毒物,犯行準備状況,犯行状況,証拠
隠滅工作等]の信用性を揺るがすようなものでないことは明らかである。)。
(4)以上のとおりであるから,被告人の捜査段階の自白は十分信用できる。
6被告人は捜査段階当初(自白に至る以前),公判でB犯人説を唱えている(B
の犯人性は同人が本件ぶどう酒を飲んで死亡していること等から否定される。当初
Bが囲炉裏の間でしゃがんで本件ぶどう酒に何かを入れるのを見たと言っていたと
ころ,後にはしゃがんでいるのを見ただけだとなり,更に後にはそれもうそとした。)。
そのようなうその供述をした理由について何ら納得できる説明をしない。このよう
に人を犯人に仕立て上げるうその供述をしたのは犯人として罪を逃れたいとの思い
に駆られたものと考えることができる。
7以上によれば被告人の犯人性は優に認められる。
8(1)本件再審請求の新証拠は別紙のとおりである。
(2)新証拠,らい泙如きからまで,粥㉑,㉖
ア混入有機燐テップ製剤に係るものである。被告人がニッカリンを混入したと
自白し,被告人はニッカリンTを購入していたところ,本件で用いられた有機燐テ
ップ製剤はニッカリンTではなかったとする主張に係るものである(この主張は自
白の信用性を揺るがそうとするものである。)。
イ本件で混入された有機燐テップ製剤がニッカリンTとして矛盾はない。
本件当時d研究所が行ったペーパークロマトグラフ試験の結果,事件検体(飲み
残しの本件ぶどう酒)についてRf値0.94(TEPPに相当),0.48(ジ
エチルホスフェート[DEP。TEPPの加水分解物]に相当)のスポットが検出
され,対照検体(対照試験のため本件ぶどう酒と同じぶどう酒[三線ポートワイン]
に市販のニッカリンTを入れたもの)について同じRf値のスポットが得られた。
ここから本件で混入された有機燐テップ製剤はニッカリンTとして矛盾はないとさ
れたものである。なお,対照検体についてはRf値0.58に薄いスポットが検出
された。
このRf値0.58のスポットはトリエチルピロホスフェート(TriEPP。
ニッカリンTの含有[微量]成分ペンタエチルトリホスフェート[PETP]の加
水分解物)のそれである。上記d研究所の試験ではエーテル抽出が行われており,
TriEPPはエーテル抽出されない。したがって,対照検体から出たTriEP
Pのスポットは検体に含まれていたTriEPP由来のものと考えることはできな
い。ニッカリンTの成分PETPはエーテル抽出されやすいところ,抽出されたP
ETPがペーパークロマトグラフ試験の展開[物質の分配・分離]過程で加水分解さ
れてTriEPPが生成され(ペーパークロマトグラフ試験の展開過程では加水分
解が起きる蓋然性が高い[濾紙や溶媒,発色剤には水分が含まれている。]。),
これが検出されたものと考えられる。すると事件検体からは出ず対照検体だけから
出た理由が問題となるが,これはニッカリンT混入後の時間経過の長短(PETP
が加水分解するに足りるだけの時間経過の有無。反応速度は非常に速い。)によっ
て科学的合理的に説明可能である(事件検体では混入後試験[抽出]までの時間経
過[3月28日午後8時頃事件発生,d研究所でペーパークロマトグラフ試験に付
されたのは早くとも翌29日]の中で加水分解してしまったのに対し,対照検体で
は抽出までに全量完全に加水分解するほどの時間経過がなかったことによるものと
考えられる。)。
ウ新証拠 き粥㉖は,模擬ぶどう酒(エタノール12mlと水88mlを混
合したもの)に新ニッカリンT(報告書作成者が合成したもの)を添加し,エーテ
ル抽出したもの(PETPも抽出されている。)についてペーパークロマトグラフ
試験を行ったところ,TriEPPのスポットが出なかったとするものである(上
記8(2)イの「抽出されたPETPがペーパークロマトグラフ試験の展開過程で加水
分解されてTriEPPが生成され・・・,これが検出された」との考えを攻撃す
るものである。)。
ペーパークロマトグラフ試験は,展開溶媒の組成,濾紙の性状,共存物質,試験
場所の温度・湿度,試料の滴下方法,展開時間,容器内の蒸気圧(気密容器の中で
行っているものの内部の蒸気圧が一定にならない。),乾燥条件等の僅かな違いに
よって異なる結果(分離,移動,発色等)を生じ得るものであるところ,当時の試
験器具等は既に入手不可で,条件,操作方法の詳細も分明でない。このような状況
下,ある器具等を用い,ある条件の下ある操作方法により再現を試みたところで,
よしんばその結果同様の結果が得られなかったとして,そのこと自体何の意味も持
たない(かかる再現実験をいくら重ねたところで無意味である。新証拠い録珪攀
〇邯海療静量,点滴方法の適切さをいうもので,上記の論にとって何の意味も持
たないものであり,新証拠㉑は,新証拠粥㉖でTriEPPのスポットが出なか
ったのは,PETP,TriEPPが極めて微量で,ペーパークロマトグラフ試験
の検出限界を下回っていることによると推定されるという[すなわち,この実験に
よって上記8(2)イにいう機序で生成されるTriEPPはペーパークロマトグラフ
試験の検出限界を下回ることが明らかになったとし,したがって対照検体にTri
EPPのスポットが出たのは別の機序で存在したTriEPP−後記塩析で抽出さ
れたTriEPP−由来のものとする論を支えるものとするものであろう。]けれ
ども,対照検体投入のニッカリンTの量[PETPの量],投入後の静置時間は不
明であり,そもそもペーパークロマトグラフ試験の検出限界も不明なのであって,
およそ十分な根拠を有する論でないことが明らかである。)。上記8(2)イで述べた
とおり,PETPはエーテル抽出され(現に新証拠 き瓦任眞蟒个気譴討い襦),
ペーパークロマトグラフ試験の展開過程は加水分解が起きる蓋然性が高く,一方,
PETPの加水分解速度は非常に速いのであって,同所の説明は十分な科学的合理
性を有している。新証拠 き粥㉖は「本件で混入された有機燐テップ製剤がニッ
カリンTとして矛盾はない。」との論をおよそ揺るがすものでない。
エ新証拠◆きは,新証拠,汎瑛諭ぬ狼爾屬匹酒に新ニッカリンTを添加し
たものを,ここでは塩析(塩化ナトリウムを飽和状態まで加えること[これにより
エーテル抽出されにくい物質のエーテル抽出効率を高めることができる。])の上
エーテル抽出し,ペーパークロマトグラフ試験を行ったところ,TriEPPのス
ポットが出たとするものである(塩析をすればTriEPPが抽出され,ペーパー
クロマトグラフ試験でそのスポットが出ることを示したもので[新証拠ぁきから
までは新証拠◆き試験の適切さをいうもので,新証拠◆きから離れて独立の
価値を有するものでない。],本件当時も塩析が行われたはずであり,塩析をすれ
ばTriEPPが抽出されるから,事件検体からTriEPPのスポットが出ず対
照検体から出たのは,正に前者にはTriEPP[その加水分解前物質のPETP]
が含有されておらず後者には含有されていることを示している,すなわち事件検体
と対照検体の混入・投入物は別物だ[事件検体の混入物はニッカリンTではない]
ということを示しているとする論を支えるものである。)。
そもそも本件当時塩析が行われたことをうかがわせる証跡は何もない。行われた
はずだとすることの関連で事件検体と対照検体とでペーパークロマトグラフの試験
結果が異なっていることが挙げられているけれども,この点は上記8(2)イのとおり
事件検体の混入物もニッカリンTとして科学的合理的に説明がつくのである。新証
拠◆き(更にはぁきからまで)は「本件で混入された有機燐テップ製剤がニ
ッカリンTとして矛盾はない。」との論をおよそ揺るがすものでない。
(3)新証拠
ア複製した本件ぶどう酒瓶24本を用い,耳付き冠頭を火挟みで突いて開栓す
る実験を行ったところ,本件耳付き冠頭の変形(切れた先端部分が重なった状態に
なるなどしているという。)は再現できなかったとするものである(火挟みで王冠
を突き上げて取ったとの自白の信用性を揺るがそうとするものである。)。
イ耳付き冠頭を火挟みで突き上げて開栓する場合,力の入れ具合や方向(例え
ばねじる力の加わり)といった条件いかんで本件耳付き冠頭の変形が生じる可能性
は十分にあるというべきである(そもそも被告人が行ったという開栓方法自体詳細
は分明でない。)。かかる再現実験をいくら行ったところで無意味である。
(4)新証拠Αき
アΔ亘楫錣屬匹酒の王冠は自分が抜いたとする従前の供述が絶対的に間違い
ないとはいえない旨の記載があるFの警察官調書(昭和36年4月12日付け)で
ある。Г聾民館で発見された日本酒の王冠7個の傷痕にDが捜査段階で歯で開栓
した王冠の傷痕と同一の特徴を有するものは認められないとするものである。いず
れも本件ぶどう酒を宴会直前に(最後に)開栓したのはFではなくDとする主張を
裏付けようとするものである(Г蓮ぃ弔歯で栓を開けたのがぶどう酒だったか日
本酒だったかはっきりしない旨の供述もしているところから,Dが開けたのは日本
酒ではなかった[したがってぶどう酒であった]ことを立証しようとするものと思
われる。最後の開栓者がFかDのいずれであるかは上記4(5)の犯行の機会性に係る
証拠状況にぶつかるものではなく,被告人の自白の信用性を揺るがすものでもない。
ΑきГ枠鏐霓佑陵罪認定に何ら影響しない。)。
イΔ竜載内容は上記8(4)アのとおりであり,従前供述を覆す趣旨のものでは
ない。Fは以後も従前供述と同旨の供述を一貫してしている。これと整合するSら
の供述もある。他方Dの供述は,要するに歯で開栓したが,それが本件ぶどう酒だ
ったというはっきりとした記憶はなく,他の者が言うのであればという程度のもの
にすぎない(ギザギザが付いていたともいうが,本件ぶどう酒の栓の特徴[ギザギ
ザはついていない。]と明らかに異なる。お前が開けたと言われたという関係者の
供述も曖昧である。)。Г鰐椹覽擇喙命燭埜‘い靴新覯未鮟劼戮襪發里砲垢ず,
作成者も十分な正確性を期し得ないと自認するとおり,その証明力には限界がある。
最後の開栓者はFとする供述の信用性は揺るがない。
(5)新証拠─きから欧泙如㉕,㉗,㉘
ア┐蓮な製封緘紙にカルボキシルメチルセルロースナトリウム(CMC)糊
だけを塗布した試料とこれに再現フエキ糊(本件当時の成分を再現)を重ねて塗布
した試料について経年変化を再現して肉眼観察,写真撮影,色差測定を行った結果
後者の資料についてのみ本件封緘紙に見られる変色が認められたことや,本件封緘
紙に一部糊の盛り上がりが認められることからして,本件封緘紙にはCMC糊に加
えてそれ以外の糊が付着している可能性が高いとするものである。は,本件封緘
紙片大について赤外線吸収スペクトルを測定した結果,裏面にCMCの外ポリビニ
ルアルコール(PVA)の付着が判明したとするものである。阿ら欧泙如㉕は
本件当時PVA糊「ゴーセノール」,「フエキ糊スーパー」が製造販売されていた
ことに係る証拠である。㉗は㉘のため弁護人が「ゴーセノール」を入手したことに
係る証拠であり,㉘はの補足。いずれも本件封緘紙裏面にはCMC糊とPVA糊
の2種類の糊が付着していたもので,真犯人が本件ぶどう酒の封緘紙を一度剥がし
て開栓し,有機燐テップ製剤混入後PVA糊を使って封緘紙を貼り直したことが裏
付けられたとするものである。
イ┐砲弔い討歪垢せ間の経過(事件発生から┐亮存海泙婆鵤毅看)がある
のである。本件封緘紙の変色や盛り上がりはこのような経過の中様々な環境条件の
下種々の要因が重なり合って生じたものと考えられるのであって,かかる実験等か
らそのいうような結論を導き出すのは合理的でない。実験方法に多大の疑問がある
(経年変化を再現すべく紫外線照射,米酢の噴霧・塗布を行っているけれども,か
かることで本件封緘紙の変化をもたらしたものと同様の影響を試料に与えたことに
なるのかの検証がおよそなされていない。再現実験として意味をなさないとさえい
える。)。,㉘については,CMCの外PVAが付着しているとする封緘紙片大
の裏面のスポットのスペクトル図とCMCとPVAとを塗布した紙のスペクトル図
とを比較対照してみても,その形状はかなり異なっており,前者のスペクトル図が
PVAの存在を示しているとは考え難い(阿ら欧泙如㉕,㉗は,㉘が意味を
持たなければ意味を持たないものである。)。
(6)新証拠
ア四つ足替栓上の傷痕が被告人の歯牙により生じたと,あるいは被告人の歯牙
によるものと類似すると判定した鑑定書について,手法の不正確不適切をいい,結
論は誤りとするものである。
イ指摘の鑑定書が立証しようとする事実(四つ足替栓上の傷痕が被告人の歯牙
によるとの事実)は上記2から7までのとおり被告人の犯人性の認定に用いられて
いない。は何ら意味を有しない。
(7)新証拠
ア被告人の自白に従い30名で犯行準備過程の再現実験を行ったが,成功裏に
遂行できた者はおらず,被告人の自白には再現実験をした者がその過程で体験した
主観的経験の報告が著しく欠如しているか全くなく,架空の話とするものである。
イ自白に係る犯行準備が可能なことはその内容からして疑問はない(確定判決
までに提出された証拠中の再現実験による検証等もある。)。海里茲Δ丙童充存
が客観的意味を持つとは考え難い。本件証拠に照らして被告人の自白が信用できる
ことは上記5のとおりである(その他被告人の犯人性を基礎付ける事情は上記4,
6のとおり)。かかる証拠状況を離れて自白内容自体を心理学的観点から検討して
そのいうような結論を導くなどという一面的な見方はおよそ与し得るものではない
(自白である以上指摘のような主観的経験の報告が語られるはずだ[またそれは調
書に記載されるはずだ]との論は何ら根拠を有しないもの[自白には種々の態様の
ものがある。]というほかはない。海倭按鵑魴腓い討い襪箸發い┐襦)。
(8)新証拠㉒
ア被告人が実は無実であったが,本件のような自白をするに至ったというアナ
ザーストーリーは心理学的視点から検討して十分成り立つ可能性があるとするもの
である。
イ海砲弔い峠劼戮燭箸り,本件証拠に照らして被告人の自白が信用でき,そ
の犯人性が優に認められることは上記4から6までのとおりである。かかる証拠状
況を離れてそのいうようなアナザーストーリーが成立し得るなどといってみたとこ
ろで意味がない(その展開する論自体上記5(2),6の供述経過に照らして無理があ
るものというほかはない。)。
(9)新証拠㉓,㉔
ア本件封緘紙片大の発見場所に係るものである。主として当該場所の撮影写真
の証拠資料発見報告書(昭和36年3月30日付け)と検証調書(同年4月22日
付け)各添付のものの違いを根拠に(㉔は前者添付の写真撮影を担当した当時の捜
査官に対する弁護人の面談聴取の報告である。「同じ場所とはちょっと違うように
見えます。」と話したとするものである。)本件封緘紙片大の発見場所は確定判決
認定の「公民館の囲炉裏の間東北隅の片開き戸の取付箇所より約56cm東南方の
壁際」ではなかった可能性があるとするものである(囲炉裏の間で封緘紙を剥がし
て本件ぶどう酒にニッカリンTを混入したとの事実認定を揺るがそうとするものと
思われる。)。
イ本件封緘紙片大は同年3月30日警察官によって発見された(その顛末を記
載したものが上記8(9)アの報告書)。発見場所の特定に意味があるのは同報告書だ
けである(その後の検証はこの特定を前提に当該場所を見分したものにすぎない。)。
同報告書の場所を特定する記載,添付図面上の特定地点は確定判決の認定場所と同
一である。本件封緘紙片大の発見場所が確定判決の認定どおりであることは明らか
である(指摘の発見場所の撮影写真は壁際の土の堆積状況や畳のへりの状況等が異
なっているけれども,その間の二十数日間にかような状況変化をもたらす何らかの
手が加えられたものとみるのが合理的である。)。
9以上のとおりであるから新証拠は刑訴法435条6号所定の無罪を言い渡す
べき明らかな証拠に当たらない。本件再審請求は理由がない(刑訴法447条1項
適用)。
平成29年12月8日
名古屋高等裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 山口裕之
裁判官 出口博章
裁判官 大村陽一
(別紙添付省略)

このページへのコメント

大村陽一裁判官は、袴田事件で再審を認めて付いたミソを、ぶどう酒の再審棄却で洗い流そうとしたのか?

1
Posted by おいおい 2018年06月15日(金) 22:57:52 返信

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