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殺人の罪に問われた裁判 時効成立で打ち切る判決
 18年前、福岡県田川市で建設作業員の男性を川に転落させて殺害した罪に問われた建設会社社長に、福岡地方裁判所は「殺意は認められず傷害致死の罪にあたるが、時効が成立している」として、裁判を打ち切る「免訴」を言い渡しました。
 福岡県嘉麻市の建設会社社長、井手口信次被告(54)は、18年前の平成11年、田川市で当時20代だった建設作業員の神浦太志さんを川に転落させ、溺れさせて殺害したとして、おととし逮捕され、殺人の罪に問われました。
 裁判で検察は懲役13年を求刑し、被告側は無罪を主張していました。
 2日の判決で、福岡地方裁判所の足立勉裁判長は「被告がすぐに川に入って被害者を捜そうとしていることなどから、殺意を認めることはできない」と述べたうえで、「被害者は川に飛び込まされて溺れて死亡しており、傷害致死の罪にあたるが、時効が成立している」として、裁判を打ち切る「免訴」を言い渡しました。
 判決について福岡地方検察庁は「判決内容を精査し、適切に対応したい」としています。
(6月2日 18時06分 NHK)

従業員殺害の罪認めず免訴 傷害致死罪時効と福岡地裁
 福岡県田川市で1999年、従業員の男性を川に転落させて殺害したとして、殺人罪に問われた会社役員の男(54)の裁判員裁判で、福岡地裁(足立勉裁判長)は2日、殺人罪を認めず、傷害致死罪を適用した上で時効成立を理由に裁判を打ち切る「免訴」の判決を言い渡した。有罪、無罪の判断はしなかった。
 検察側の求刑は懲役13年。弁護側は「男性が誤って足を滑らせた。(会社役員の男は)転落させていない」と無罪を主張していた。
 99年2月から6月のいずれかの日に、当時20代半ばだった従業員の神浦太志さんを田川市の彦山川で溺死させたとして起訴された。
(2017/6/2 17:12 共同通信)

従業員殺害の罪認めず免訴
 福岡県田川市で1999年、従業員の男性を川に転落させて殺害したとして、殺人罪に問われた会社役員の男(54)の裁判員裁判で、福岡地裁(足立勉裁判長)は2日、殺人罪を認めず、傷害致死罪を適用した上で時効成立を理由に裁判を打ち切る「免訴」の判決を言い渡した。有罪、無罪の判断はしなかった。
 検察側の求刑は懲役13年。弁護側は「男性が誤って足を滑らせた。(会社役員の男は)転落させていない」と無罪を主張していた。
 99年2月から6月のいずれかの日に、当時20代半ばだった従業員の神浦太志さんを田川市の彦山川で溺死させたとして起訴された。
(2017年06月2日 17:12 ロイター)

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平成29年6月2日宣告
平成27年第1440号殺人被告事件
主文
被告人を免訴する。
理由
第1公訴事実の要旨
訴因変更後の本件公訴事実の要旨は,「被告人は,平成11年2月9日
から同年6月5日までにかけての頃の夜,福岡県田川市大字a字bc番
d(現福岡県田川市ae番f地先)のA堰の南側のB川右岸において,
殺意をもって,泳ぐことができないC(当時24,25歳)をあえて前
記B川内に転落させ,よって,その頃,同所において,同人を溺死させ
て殺害した」というものである。
第2被告人を免訴した理由
1当裁判所の判断の概要
当裁判所は,本件公訴事実について,被告人には殺人罪が成立せず,
傷害致死罪の限度で犯罪が成立するが,傷害致死罪の公訴時効は既に完
成しており,免訴を言い渡すべきものと判断したので,以下その理由を
説明する。
2当裁判所が認定した事実関係
⑴証拠上認定できる事実
アCは,平成7年頃から,被告人が経営する福岡県田川郡g町
(以下,福岡県内の地名については「福岡県」を省略する。)所在のD工
業で働き始め,県内外の現場に出張するなどして働いていたが,仕事の
覚えが悪いなどとして被告人からたびたび叩かれたり,蹴られたりして
いた。
そして,Cが,平成11年2月下旬か3月頃,万引き事件を起こした
として出張先の島根県の現場から福岡県のD工業に戻されて以降,被告
人は,自ら又はE(当時,D工業の従業員。)ら従業員を介して,Cに対
し,殴る,蹴る,殺虫剤を噴射して火を付けCの身体に向けて吹きかけ
る,全裸で正座させる,無理やり水にCの顔を押し付けるなどの激しい
暴力等を振るうようになった。こうしたことなどから,本件当時,Cは,
体中に青あざややけどの傷があり,やせてもいた(なお,被告人の前妻
であるF及びその弟であるGは,Cの健康状態に問題がなかった旨証言
するが,いずれもCに激しい暴力等が振るわれるようになる前の時期の
話と考えられるから,上記認定を左右しない。)。
イCは,同年5月の大型連休頃,D工業の事務所において,E
及びH(当時,D工業と近しい関係にある会社の従業員。)がいる中で,
被告人から説教を受けるとともに,平手で顔面を殴打されるなどした。
そして,被告人,C,E及びHは,2台の車に分乗し,食事のため田川市
内のB川付近のうどん屋に向かった。その後被告人らは目的地を変更し,
同市内の公訴事実記載のB川右岸の河川敷(以下「本件現場」という。)
に赴いたが,その頃には,既に陽は完全に沈み,夜になっていた。
本件現場付近のB川の川幅は約70メートル,水深は最大約4メート
ルで,本件現場から数十メートルほど離れたところにゲート式の堰が存
在し,本件現場付近は川の流れがほとんどなかった。また,本件現場付
近は,河川敷がコンクリートに覆われ,川岸からB川の水中に向かって
ブロック(以下「間知ブロック」という。)に覆われた約45度の傾斜の
斜面が続いていた。本件現場付近には,堰のところにあるライト及び水
銀灯以外に街灯などの明かりはなかった。
ウ本件現場付近に到着した被告人らは車から降り,被告人とE
は,本件現場でCに説教していたが,Cの態度に腹を立てた被告人は,
Cの顔面を平手で殴打するなどした。
その後,被告人らは川岸に近づき,被告人がCに対し,声を荒げて川
に入れという趣旨のことを言った(なお,Eは,被告人が「飛べ」「飛ば
んか」と言った旨証言しているが,その経緯からしても「飛べ」などと
いう言葉が出るのはやや唐突な印象を受ける上,被告人のみならずHも
そのような被告人の発言について一切言及していないことからも,Eが
述べるような被告人の「飛べ」「飛ばんか」という発言があったとは認定
できない。)。Cは,何も言わずにその場で下を向いて一,二分ほどため
らった後,被告人に許しを請うこともないまま,服を着た状態で自ら川
に飛び込み,川岸から一,二メートル先の水面に前のめりの体勢で足か
ら入水した。Cは,水面を両手でバシャバシャと叩いていたが,1分も
たたずに水中に沈んでいった。被告人は,Cが完全に水没した直後に川
に入ってCを探そうとしたが,Cを見つけることができず,間知ブロッ
クの斜面を登り,Eの手を借りて川岸に上がった。
エ被告人,E及びHは車に乗りいったん本件現場を立ち去った
が,その後,被告人は,EとHにCを探すよう指示し,EとHは,本件現
場に戻ってCを捜索し,数時間後に川に沈んでいたCの遺体(後に述べ
るとおり,Cが溺死により死亡したことは明らかである。)を発見して引
き上げた。EとHは,被告人及び被告人のいとこであるIと合流し,被
告人,E,H及びIはCの遺体を田川郡g町所在の池沼(以下「本件池
沼」という。)まで運び,EとHがCの遺体を本件池沼に埋めた。
オIは,平成26年頃,Jに対し,Cの遺体を本件池沼に埋め
たことなどを告白し,そのことをきっかけとして本件池沼から遺骨が発
見された。
⑵⑴の事実を認定した理由
ア被告人がCに激しい暴力等を振るっていたかどうかについて
被告人は,Cに対し,殺虫剤を噴射して火を付けCの身体に炎を浴び
せかける,全裸で正座させる,無理やり水にCの顔を押し付けるなどの
激しい暴力等を振るったことはないと述べ,弁護人もその旨主張してい
る。
この点,Iは,平成11年2月下旬か3月頃にCが出張先の島根県の
現場から福岡県のD工業に戻されて以降,被告人がCに対し,前記⑴ア
記載の激しい暴力等を振るっていた旨証言するところ,Iが述べる暴力
等の内容は具体的であるし,そのような暴力等が振るわれた時期につい
ても自身が病気で入院していたという印象的な経験に絡めて比較的明確
に述べるなど記憶は正確なものと考えられる上,Iが,あえて被告人に
不利益な虚偽の証言を行う理由まではうかがわれないことからすれば,
Iの上記証言の信用性は高いと認められる。これに対し,弁護人は,島
根に出張していたIが,一,二週間に1回程度時間と金をかけて福岡に
戻り,わざわざD工業の事務所に寄って被告人による暴力を見ていたと
するのは余りに不自然である旨主張するが,福岡に居住する家族に会う
ため一定の頻度で福岡に戻ってくるというのは何ら不自然ではなく,そ
の際にいとこであり以前から親しく,仕事上も関係のある被告人の下に
寄るというのも不自然とはいえない。
そこで,信用性の高いIの証言及びこれに沿う限度で信用性を有する
E及びHの各証言に基づき,前記⑴ア記載のとおり認定した。
イCがB川に入り,溺れた状況について
被告人は,Cが服を脱いでパンツ1枚になり,自ら間知ブロックの斜
面をお尻で滑るように下りて川に入り,10分ほど間知ブロックにつか
まりながら水につかっていたところ,被告人から上がってくるよう言わ
れたため,間知ブロックをつかんで斜面を上がろうとしたときに足を滑
らせ,そのまますうっと沈んでいったなどと述べ,弁護人も被告人の供
述に沿う主張をしている。
この点,E及びHは,いずれもCの体が川岸から離れた瞬間は見てい
ないものの,Eは,Cが川の方を向いて前かがみの体勢で足から入水し,
1回沈んでから水面に浮いて両手を溺れている感じで振ってバシャバシ
ャしていたが,1分もたたないうちに沈んでいった旨証言し,Hも,C
が川の方を向いて両手を上げて前のめりの体勢で入水し,上げた両手を
前後に動かして溺れており,15秒ほどで沈んでいった旨証言している。
EとHは,Cが入水した場面に立ち会っているため,自身を擁護して被
告人に不利益な虚偽の証言を行う可能性は否定できず,両名の証言の信
用性は慎重に検討する必要があるところ,証言内容はいずれも具体的で
ある上,Cの入水態様に関して概ね一致しており,被告人を陥れるため
に両名が口裏を合わせているなどの事情もうかがわれない。仮に両名が
被告人に責任を押し付けようとするのであれば,被告人がCを突き飛ば
して川に転落させたと述べればよく,Cが入水する直前の状況を見てい
ないとする両名の証言は,事実をありのままに証言していることをうか
がわせるものであり,少なくともCの入水態様に関する両名の証言は信
用できるといえる。
これに対し,弁護人は,仮にE及びHが述べる体勢でCが入水した場
合,水中へと続く間知ブロックに激突してしまい,その場で沈むことは
あり得ないなどと主張する。しかし,そもそもE及びHが述べる体勢で
川に飛び込んだとしても必ずしも間知ブロックに激突するとはいえない
し,Cの足が入水時に水中の間知ブロックに接触したとしても,間知ブ
ロックは約45度の角度があり,接触してそのまま水中に沈んでいくこ
とも十分あり得るものといえ,E及びHの各証言と必ずしも矛盾するも
のではないから,弁護人の主張は採用できない。その他弁護人が弁論で
指摘する諸点を十分に考慮検討しても,E及びHの上記各証言の信用性
は揺らがない。
他方,Cが間知ブロックを滑り下りて川に入ったとする被告人の供述
は,E及びHの各証言に明確に反する上,被告人が述べるCの当初の入
水態様,Cが約45度もの角度がある間知ブロックに10分ほどつかま
った状態で水につかっていた状況等はいずれもかなり不自然であり,信
用できない。
そうすると,信用できるE及びHの各証言に基づき,Cの入水態様を
認定することになるが,E及びHは,入水直前にCの体が川岸を離れた
瞬間を見ておらず,被告人がCの体に触れた瞬間も見ていない。Cの入
水位置は川岸から一,二メートル離れている上,Cが入水時に前のめり
の体勢であったことなどにも照らすと,Cは自ら川に飛び込んだものと
推認するのが合理的であるが,被告人がCを突き飛ばして川に転落させ
たとするには合理的な疑いが残るから,かかる事実までは択一的であっ
ても認定できない。
以上より,前記⑴ウ記載のとおり認定した。
3殺人罪の成否について
本件の争点は,“鏐霓佑,Cを突き飛ばす,又はCに自ら飛び込ま
せるといういずれかの方法によって,CをB川に転落させたかどうか(争
点1),■辰B川で溺死したのかどうか(争点2),H鏐霓佑殺意を
有していたのかどうか(争点3)の大きく3点であり,以下順に検討す
る。
⑴争点1について
既に前記2⑵イで検討したとおり,被告人は,被告人らから日頃及び
本件当日暴力等を振るわれ,抵抗できない状態のCに対し,B川に入る
よう強く命じ,その結果,Cが川に自ら飛び込んだ事実は認められるが,
被告人がCを突き飛ばして川に転落させた事実までは認められない。
⑵争点2について
まず,本件池沼で発見された遺骨がCのものであるかどうかについて
考えると,IがCの遺体を埋めたとして案内した本件池沼から遺骨が発
見されたことに加え,複数の鑑定の結果(遺骨の歯とCの歯の治療痕等
の比較,頭蓋骨とCの生前写真とのスーパーインポーズ法による異同識
別,遺骨とCの異父兄について実施したミトコンドリアDNA検査)を
併せれば,本件池沼で発見された遺骨はCのものであると優に認められ
る。
また,Cの死因についてみると,Cが両手を動かしながら溺れるよう
にして水中に沈んでいったこと,Cの体が川に沈んでから引き上げられ
るまでに数時間以上が経過していること,本件池沼で発見されたCの遺
骨の骨髄からプランクトンが検出されていることを総合すれば,Cは,
B川で溺死したものと認められ,弁護人が指摘するような心疾患が死因
である可能性は否定される。
⑶争点3について
ア検察官の主張について
検察官は,被告人がCをB川に飛び込ませた行為は,客観的に溺れ死
ぬ危険性が高い行為であるとして,)楫鏝従貮婉瓩寮遒蓮づ祥遒垢譴
溺れて死ぬ危険性が高い場所であること,∨楫鐡時,Cは服を着てお
り動きにくく,溺れやすい状態だったこと,Cが泳げなかったこと,
ぃ辰論鎖静・肉体的に衰弱していたことを指摘した上で,被告人は
ないしい了情をいずれも認識しており,しかもト鏐霓佑錬辰水没し
た後,119番通報をしていないし,EやHにも助けるよう指示してい
ないことから,被告人は,Cが溺れ死ぬ危険性が高い行為であると認識
していたのであり,殺意があった旨主張する。
イCを川に飛び込ませた行為の客観的危険性について
この点,検察官が主張する,了情については,Cが入水したのが川
岸から一,二メートルと比較的川岸に近い位置であったこと,水中にも
約45度の角度とはいえ間知ブロックに覆われた斜面があること,本件
現場付近の川の流れはほとんどなかったことなどからすると,夜の時間
帯で周囲が暗く,周りの状況を把握しにくかったことを踏まえても,C
を川に飛び込ませること自体が直ちに溺れ死ぬ危険性が高い行為である
とまではいえない。
しかし,△了情については,本件当時Cが着ていた服の種類を証拠
上特定することはできないが,服を着たまま川に飛び込んだ場合に一般
的に溺れる危険性が高くなることは否定できない。の事情については,
Cが溺れた際の状況などからすれば,Cは泳げなかったと考えるのが自
然である。い了情についても,Cが以前より被告人らから激しい暴力
等を振るわれるなどして,本件当時体中に傷があり,やせてもいたとい
うのであるから,その程度はさて措き,精神的・肉体的に衰弱していた
ことは明らかである。これらはいずれもCが溺れ死ぬ危険性を高める事
情である。
そうすると,,覆い鍬い了情を総合すれば,本件当時CをB川に飛
び込ませることは,Cが溺れ死ぬ危険性を少なくとも一定程度有する行
為であることは間違いないといえる。
ウCが泳げなかったことを被告人が認識していたのかどうかに
ついて
検察官が主張する,覆い鍬い了情のうち, き及びい了情につ
いては被告人も当然認識していたものといえるが,の事情については,
被告人はCが泳げないとは知らなかったと述べ,弁護人もその旨主張す
るので,Cが泳げなかったことを被告人が認識していたのかどうかにつ
き検討する。
まず,Eは,被告人やCと川遊びに行ったとき,川に入ったCが時々
足をつきながらも犬かきのようなことをしており,その際,CがEに対
して泳げないと発言し,被告人もその場にいたなどと証言している。し
かしながら,Eの上記証言は,時期や状況が明確ではなく,被告人がそ
の場にいたという核心部分についても,Eの被疑者段階の供述から変遷
し,かつ憶測が混じったものとなっており,この証言を直ちに信用する
ことはできない。Eは,Cが泳げないなどと被告人が言っているのを聞
いたことがあるとも証言するが,そのような発言があったとする時期や
状況も曖昧であり,この証言も信用性が乏しい。
また,Iは,Cが泳げないという話を被告人としたことがある旨証言
しているが,I自身,このような会話をしたのが本件の前か後かも分か
らないと述べている。
そうすると,本件当時,Cが泳げなかったことを被告人が認識してい
たとは認められない。
エ被告人の殺意の有無について
以上を踏まえて,被告人の殺意の有無について検討すると,まず,被
告人は, き及びい了情を認識していたが,前記3⑶イで検討した
ように,△了情については,Cの服の種類が特定できず,い了情に
ついても,本件当時のCの精神的・肉体的衰弱の程度を裏付ける確たる
証拠はないことから,これらの事情を認識していたことで,Cが溺れる
危険性を被告人がどの程度認識していたかを推知することは容易ではな
い。
また,被告人がCに川に入るよう命じるに至った動機,経緯は明らか
でない面があるが,Cを反省させるため川に入るよう命じたという被告
人の供述は,従前の被告人のCに対する接し方に照らして特段不自然な
ことではなく,Eの証言ともこの点では整合している。そうすると,被
告人は,Cを反省させる目的で川に入るよう命じたと認めるのが相当で
あるが,そのような目的であるとすれば,Cが川で死亡することを被告
人が予測又は期待していたとは考えにくい。
さらに,被告人は,Cが水没した直後,どこまで真剣に救助を試みた
か疑問は残るものの,自ら川に入ってCを探そうとしており,これは,
被告人がCの死の結果を予測又は期待していなかったことを示す事情と
いえる。この点,検察官は,イ里箸りEやHに助けるよう指示してい
ない点や被告人が直ちに119番通報をしていない点を指摘するが,被
告人はCの水没直後に川に入っており,EやHにCを助けるよう指示を
出す余裕がなかったとも考えられるし,被告人が,結果として自身の命
令によってCが死亡したと考えて怖くなり,119番通報をせず立ち去
ってしまったとしても不自然ではなく,検察官の主張は説得力に欠ける。
以上に加えて,前記3⑶ウで検討したように,本件当時,Cが泳げな
かったことを被告人が認識していたとは認められないことも踏まえると,
被告人が,CをB川に飛び込ませた行為について,その行為当時,Cが
溺れ死ぬ危険性が高い行為であると認識していたとすることにはなお合
理的な疑いが残るから,被告人に殺意があったと認めることはできない。
⑷結論
以上によれば,被告人に殺人罪は成立しない。
なお,これまで述べたとおり,Cが以前からの被告人らによる激しい
暴力等により,肉体的・精神的に衰弱していたことは明らかであるとこ
ろ,泳ぎが苦手なCが,川岸で入水をためらった後に,被告人に許しを
請うこともないまま,自らB川に飛び込んでいることに照らすと,本件
当時,Cは,川に飛び込む以外の行為を選択することが著しく困難な精
神状態に陥っていたものと推認できる。
そうすると,被告人が,Cに対し,B川に入るよう強く命じ,Cをし
て川に飛び込ませた行為は,Cが泳げないことの認識が被告人になかっ
たとしても,少なくとも被害者であるCの行為を利用した暴行に当たる
といえ,その結果,Cが溺死しているから,本件では傷害致死罪が成立
する。
4以上検討したように,被告人の所為は,傷害致死罪(平成16年
法律第156号による改正前の刑法205条)に該当するが,その公訴
時効の起算点は,犯罪行為が終わった平成11年5月の大型連休の頃で
あり,検察官が平成27年10月30日に公訴提起した時点においては,
既に7年(平成16年法律第156号附則3条2項により同法による改
正前の刑訴法250条3号による。なお,平成22年法律第26号附則
3条1項)が経過して公訴時効が完成していたことが明らかであるから,
刑訴法337条4号により被告人に対し免訴の言渡しをする。
(求刑懲役13年)
平成29年6月12日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官 足立勉
裁判官 松村一成
裁判官 井隆一

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