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高校柔道事故で逆転敗訴 男性障害、賠償認めず

 福岡県の県立高校の武道大会で2011年、柔道の試合中に頭を打ち障害が残ったとして、当時高校1年だった男性(23)と両親が損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は、県に約1億2千万円の支払いを命じた一審福岡地裁判決を取り消し、男性側の請求を棄却した。判決は1日付。
 一審は、教諭が授業などで適切な安全指導をせず、事故を未然に防ぐ取り組みが不十分だったとして過失を認定した。これに対し、高裁の佐藤明裁判長は「教諭は柔道指導の手引書に基づき、競技の危険性を説明し、受け身の練習をさせた」と指摘。安全配慮義務違反はないと判断した。
 二審判決によると、男性は11年3月、柔道の試合で技を掛けた際にバランスを崩して転倒。頭を畳に打ち付け、手足がまひする重い障害が残った。〔共同〕
(2018/2/2 18:25 日経新聞)

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平成29(ネ)507  損害賠償請求控訴事件
主文
1一審被告の控訴に基づき,原判決中,一審被告の敗訴部分を取り消す。
2上記取消部分にかかる一審原告らの請求をいずれも棄却する。
3一審原告らの本件各控訴をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,1審,2審とも一審原告らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1一審原告ら(なお,請求1と請求2は,選択的併合の関係)
⑴原判決を次のとおり変更する。
⑵(請求1)
ア一審被告は,一審原告Aに対し,2億6254万1671円及びこれに
対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
イ一審被告は,一審原告Bに対し,333万8731円及びこれに対する
平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
ウ一審被告は,一審原告Cに対し,300万円及びこれに対する平成23
年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ仮執行宣言
⑶(請求2)
ア一審被告は,一審原告Aに対し,2億4981万9039円及びこれに
対する平成27年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
イ一審被告は,一審原告Bに対し,333万8731円及びこれに対する
平成27年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
ウ一審被告は,一審原告Cに対し,300万円及びこれに対する平成27
年1月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ仮執行宣言
2一審被告
主文第1項及び第2項に記載のとおり。
第2事案の概要等(略語は,特に断らない限り,原判決の表記による。)
1事案の要旨
本件は,D高等学校(D高校)の1年生であった一審原告Aが,平成23
年3月11日,D高校で開催された武道大会(本件大会)における柔道の試
合において,試合中に左側頭部から畳に衝突し,頸髄損傷及び頸椎脱臼骨折
の傷害を負い,重度四肢麻痺等の身体障害者等級表による等級1級の後遺障
害を残した事故(本件事故)について,一審原告らが,D高校を設置する一
審被告に対し,
一審原告らは,公権力の行使に当たるD高校の教諭らには,生徒に対する
柔道の指導にあたり,その練習や試合によって生ずるおそれのある危険から
生徒を保護するため,常に安全面に十分な配慮をし,事故の発生を未然に防
止すべき注意義務(安全配慮義務)があるところ,―斉燦罵の危険性を看
過し,試合形式による武道大会を漫然と開催し,∪古未紡个靴峠斉擦隆躙
性や安全な技のかけ方に関する具体的な指導を怠り,I霪斬膕颪離襦璽襪
規律して危険な技を制限するなどの措置を講じるのを怠り,せ邱腓忘櫃靴
危険性の高い行為が行われた場合に備えて直ちに試合を制止する態勢を構築
することを怠ったことによって本件事故を発生させたと主張して,国家賠償
法1条1項に基づき,それぞれ次のとおりの支払を請求する(請求1)。
ア一審原告A
治療費,付添費,将来介護費,通院交通費,家屋等改造費,逸失利益,
慰謝料,弁護士費用等の損害賠償金2億6254万1671円及びこれに
対する本件事故日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金
イ一審原告Aの父である一審原告B及び母である一審原告C
本件事故による固有の慰謝料等として,一審原告Bについて,333万
8731円及び一審原告Cについて300万円並びにこれらに対する上
記アと同じ遅延損害金
一審原告らは,柔道の授業を実施すれば不可避的に死亡ないし傷害事故が
発生するところ,一審被告はそれを知りながら公共の利益のために上記武道
大会を開催し,その結果,一審原告Aは受忍限度を遥かに超える「生命,身
体に対する特別な犠牲」というべき傷害を負ったのであるから,一審被告は,
憲法29条3項に基づく損失補償義務を負うと主張し,一審原告Aにつき2
億4981万9039円,一審原告Bにつき333万8731円及び一審原
告Cにつき300万円並びにこれらに対する訴状送達日である平成27年1
月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による損失補償金の支払
をそれぞれ請求する(請求2)。
2原判決の概要及び控訴
原審は,D高校の教諭らにおいては,一審原告Aや試合相手の健康状態や技
量等の特性等を十分に把握して,学校行事である本件大会における柔道の試合
又はその練習による事故の発生を未然に防止して事故の被害から一審原告Aを
保護すべき注意義務を負い,また,本件大会の参加対象者である生徒の健康状
態や技量等の各生徒の特性等を十分に把握し,柔道の指導状況に応じて本件大
会の開催の是非を適切に検討し,本件大会を開催するのであれば,各生徒の特
性に応じた態勢を構築した上で監督を行うことにより,柔道の試合による事故
の発生を未然に防止して事故の被害から一審原告Aを保護すべき注意義務を
負っていたものとした上で,D高校の教諭らは,本件試合の形式や雰囲気等に
照らして,出場する生徒に対して通常の柔道の授業と異なる特別の指導を行う
べきであったのに,これを怠ったこと(上記◆法に楫鐶膕颪鮗損椶垢襪冒蟇し
い十分な安全指導を含む適切な準備が整っていないのに,本件大会の開催を中
止せずに漫然とこれを開催したこと(上記)にそれぞれ過失があるとして,
一審被告は本件事故について損害賠償義務を負うと判断した。
そして,一審原告Aは,払い腰をかけた際の崩しがうまくいかなかったにも
かかわらず,技をいったん中断して体勢を整えるなど柔道経験を踏まえた適切
な対応をとらなかったことに落ち度があるとして,3割の過失相殺を認め,国
家賠償法1条1項による損害賠償請求(請求1)について,一審原告Aにつき
1億1998万8385円及びこれに対する平成23年3月11日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,一審
原告B及び同Cにつきそれぞれ210万円及びこれに対する上記同旨の遅延損
害金の支払を求める限度でそれぞれ認容し,また,憲法29条3項による損失
補償請求(請求2)については,柔道の授業を実施すれば,不可避的に死亡な
いし傷害事故が発生するものということはできないから,憲法29条3項適用
又は類推適用の前提を欠き,請求は理由がないとして,これを棄却した。
双方が,これを不服として控訴した。
3本件の「前提事実」,「争点」,「争点に関する当事者の主張」は,原判決
の「事実及び理由」欄の第2の2ないし4に記載のとおりであるから,これを
引用する。
ただし,原判決8頁4行目の「右手をつかみ」を「右手でつかみ」と,同2
4行目の「背後からを」を「背後から」と,同10頁2行目の「防御態勢」を
「防御体勢」とそれぞれ改める。
第3当裁判所の判断
1認定事実及び本件事故の態様等
本件の「認定事実」及び「争点1(本件事故の態様)について」の判断は,
次のとおり,原判決を補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3の1
に記載のとおりであるから,これを引用する。
⑴原判決20頁14行目の「昇段することはなかった」の後に「が,黒帯を
所持しており,高校の柔道の授業や本件大会にも黒帯を締めて参加していた」
を加え,同26頁5行目の「自由に」及び同6行目の「また,」から同7行
目の「すること,」までをいずれも削り,同31頁22行目の「原告AとE
の試合は,」の後に,「柔道経験者である一審原告AがEに対して次々に技
を掛け,Eが腰を引き気味にしてこれをしのいで,時々足技をかけるという」
を加え,同25行目の「原告Aは,」を「すわなち,一審原告Aは,Eの不
意をついて」と,同32頁初行の「一瞬踏ん張ったのに対し」から同5行目
末尾までを「踏ん張ったため,両者の力が拮抗して動きが瞬間的に止まった
が,そのまま両者が接着した状態で一審原告Aの前方に向かって倒れ,一審
原告Aは受け身を取る間もなく,その左側頭部を畳に衝突させ,Eが一審原
告Aの上に乗りかかる状態となった(前提事実エ,F証人,G証人,一審
原告A本人)。」とそれぞれ改める。
⑵原判決32頁22行目の「認められず」から同34頁14行目末尾までを
次のとおり改める。
「認められない。Fは,本件事故直前に,Eがあえて一審原告Aに体重を掛
けたり,抱え込んだという印象は受けていないと供述しており(F証人30
頁),Eが一審原告Aの足をずっとつかんでいたとする生徒もいる(甲7)。
一審原告らは,一審原告A及びFの立会いのもとで事故態様を再現したと
いう「写真撮影報告書2」(甲255)を提出するが,上記のとおり,Fは,
Eが一審原告Aを背後から抱え込んだ状況を目撃していないのであるから,
同報告書中の再現状況はFの記憶を正確に反映しておらず,一審原告らの主
張に沿って作成されたものにすぎないから,本件事故態様を裏付ける的確な
証拠とは言い難い。
一審原告Aが優勢に試合を進めていたとはいえ,本件事故直前は,一審原
告Aの払い腰の力とEが踏ん張った力が拮抗して両者の動きが瞬間的に止ま
るような状況であった(この点については,時間の差はあるものの,一審原
告A本人,F証人,G証人の供述が一致している。)から,一審原告Aの柔道
経験等を考慮しても,Eが両手で一審原告Aの背後から抱きついたこと以外
の原因で,一審原告Aが受け身を取るタイミングが遅れることは十分に考え
られる上,仮に,上記写真撮影報告書のようにEが両手で一審原告Aに抱き
ついたとしても,直ちに一審原告Aの左腕が地面に手を着くこともできない
程度に動きを制限されるともいえないから,一審原告Aが受け身をとらな
かった事実のみをもって,Eが両手で一審原告Aに抱きついたことを推認す
ることはできない。
加えて,証拠(F証人21頁,同22頁,G証人10頁,同11頁)によ
れば,一審原告AがEに払い腰を掛けてから両者が倒れこむまでの時間は,
審判が「待て」の指導をとる時間的余裕はなかったと認められる程短時間で
あったと認められる上,上記認定事実のとおり,一審原告Aは,腰を引き気
味に防御する姿勢のEの不意をついて,Eの上体を自身の体に引き付けた上,
自身の体を左方向(Eから見て右方向)に回転させて払い腰を掛けようとし
たのに対し,Eは投げられまいと踏ん張って両者の動きが瞬間的に止まった
というのであるから,Eは,一審原告Aから右前方向に引っ張られようとす
る力に対抗して,自身の左後方向(一審原告Aから離れる方向)に全力で体
を動かそうとしていたと考えられるところ,かかる状況の中で,Eが,ほぼ
同時に自身の左前方向に左手を伸ばして一審原告Aの背中より先にある同一
審原告の左肘付近をつかんで同一審原告に抱きつくという動作を取ることは,
およそ不自然というべきである。
したがって,Eが両手で一審原告Aの背後から抱え込んで,羽交い締めに
したなどとする一審原告らの上記主張等は,これを採用することができない。
そうすると,本件事故の態様は,一審原告Aが払い腰の技を掛けようとし
たのに対して,体勢が十分に崩れていなかったEが投げられまいと一瞬踏ん
張ったために両者の力が拮抗して動きが瞬間的に止まった後,バランスが崩
れて,そのまま両者が接着した状態で一審原告Aの前方に向かって倒れ,一
審原告Aは受け身を取る間がなかったために左側頭部を畳に衝突させ,Eが
その上に乗りかかる状態となったものと考えられ,結果的に見れば,一審原
告Aが,Eの体勢を十分に崩しきれていない状態でEに払い腰を掛け,Eが
踏ん張った後も直ちに技を中断しなかったことが本件事故の原因となってい
るともいえるが,一審原告AやEのそれぞれの行動が明らかに危険なもので
あったとは認められない。」
2高等学校の柔道指導における注意義務の内容について
一審原告らは,争点2ないし5のとおりの注意義務違反を主張しているから,
その前提として,高等学校の柔道指導における一般的注意義務について検討す
る。
⑴国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には,公立学校における教諭
の教育活動も含まれ,教育活動を担う学校の教諭においては,教育活動に際
し,生徒を指導監督し,学校事故の発生を防止して生徒の生命及び身体を保
護すべき注意義務を負うものと解される(最高裁判所昭和62年2月6日第
二小法廷判決・判例タイムズ638号123頁,最高裁判所平成2年3月2
3日第二小法廷判決・集民159号261頁参照)ところ,技能を競い合う
格闘技である柔道には,本来的に一定の危険が内在しているから,学校教育
としての柔道の指導,特に,心身共に発達途上にある高等学校の生徒に対す
る柔道の指導にあっては,その指導に当たる者は,柔道の試合又は練習によっ
て生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために,常に安全面に十分な
配慮をし,事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うものと解
される(最高裁判所平成9年9月4日・集民185号63頁参照)。
⑵そして,高等学校の部活動における柔道による死亡及び重傷事故の発生件
数が他の競技に比して高い(甲234,258,259,265,266)
ところ,正課授業あるいはその延長ともいうべきクラス対抗の武道大会であ
る本件大会における柔道の危険性も部活動の場合と本質的には異ならず,む
しろ柔道に習熟していない生徒の比率が高く,生徒間の技量の格差が大きい
場合があることなどを考えると,正課授業等における柔道の指導に関わる教
諭においては,生徒の健康状態や技量等の当該生徒の特性等を十分に把握し
て,それに応じた指導や態勢を構築することにより,柔道の試合又は練習に
よる事故の発生を未然に防止して事故の被害から当該生徒を保護すべき注意
義務を負うものと解される。
⑶以上を前提に,一審原告らが主張する義務違反について検討する。
3争点2(事前指導における注意義務違反の有無)について
⑴一審原告らは,G教諭を含むD高校の教諭らが,通常の授業課程において,
生徒に対して,柔道が時には死亡事故を伴う危険な競技であること,勝敗よ
りも安全性が優先し,無理に技をかけるべきでないこと,技をかける際にど
のような場合に傷害が生じ,それを防止するためにどのように技をかければ
よいかなどについて,生徒同士で話し合いをさせるなどして自主的に理解さ
せて十分に周知し,基本的動作が十分に生かせるような対人的技能の練習を
行う義務があったにもかかわらず,柔道の危険性を抽象的に説明したにとど
まり,実演して見せるなどして具体的にどのような行為が危険であるかを説
明せず,生命及び身体の安全を守るという観点から無理に技をかけないよう
にと指導したことがなかった点に注意義務違反があり,生徒において柔道が
死亡や重大な傷害が生じる危険な競技であることの認識が十分でなかったこ
とで本件事故が発生したなどと主張する。
しかし,上記引用に係る認定事実のとおり,G教諭は,策定した柔道授業
の年間指導計画に基づき,一審原告Aを含む生徒らに対し,平成22年度初
頭に柔道が怪我や事故の危険を孕む競技であり,頭部を畳に打つ危険性があ
ることなどを指導するとともに,個別の技を指導するに当たっては,自ら模
範を示した上で,2人1組の生徒に技をお互いに掛けさせながら,無理に技
をかけてはいけないことなどを指導していたというのであり,柔道指導に関
する各手引書や学習指導要領解説書の内容に照らしても,一審原告らが主張
するように生徒同士での話し合いを通じて理解を深めさせることが要求され
ていたとは認められないから,G教諭の上記指導方法は上記各手引書等の要
請を概ね満たしていたものといえる。
また,一審原告Aは,中学校3年間,柔道部に所属して多くの練習及び試
合を経験したこと,本件事故当時の年齢や一審原告Aの本人尋問における供
述内容等を考えると,G教諭の上記指導内容を理解し,柔道が怪我や事故の
危険を孕む競技であり,無理に技を掛けたり,頭部を畳みに打ちつけること
の危険性は十分認識していたといえる。
したがって,G教諭の通常の授業課程における安全指導について不適切な
点があったとは認められない。
⑵一審原告らは,G教諭を含むD高校の教諭らが,生徒に対して,自分が相
手から投げられる場合の対処について事故発生のおそれがない程度にまで技
能と知識をつけさせる義務があり,勝敗よりも安全性が優先されることを理
解させるとともに,投げられた際に相手に倒れかかる状態になると事故が発
生しやすいことを自主的に理解させ,無理に防御をせずに投げられるべきこ
とを具体的に指導する義務があったにもかかわらず,これを怠ったため,本
件試合において,一審原告Aから投げられそうになったEは,一審原告Aに
抱きついて寄りかかる体勢になったために本件事故が生じたと主張する。
しかし,上記引用に係る認定事実のとおり,G教諭は,受け身のやり方に
ついて繰り返し指導するとともに,受け身の練習を毎時間実施し,投げられ
る際には無理に抵抗せずに投げられるようにすることなどを説明していた上,
Eが,払い腰を掛けようとした一審原告Aの背中から抱きついたとは認めら
れず,体勢が十分に崩れていない状態のEが投げられまいと一瞬踏ん張った
ことが通常の防御の範囲を逸脱していたとは認められないから,Eが無理な
防御や抵抗を行ったともいえない。なお,「投げられる際には無理に抵抗せず
に投げられるようにする」との上記指導は,自分の体勢が明らかに崩されて
投げられている途中で無理に抵抗しないことを求める趣旨と解すべきであり,
相手から技を仕掛けられた場合(多少なりとも自分の体勢が崩れているのが
通常である。)には一切相手に抵抗してはならないことを求めているものと
は解されない(上記引用に係る認定事実の柔道ハンドブックや柔道指導の手
引の記載も同趣旨と解される。)。
したがって,G教諭において投げられた際の受け身や危険防止ついての指
導義務違反があったとは認められない。
⑶一審原告らは,試合形式をとる本件大会においては,勝敗を意識して無理
に技をかけようとする傾向にあることは,前年度(平成21年度)の武道大
会においても2件の事故が発生したことからも明らかであり,G教諭を含む
D高校の教諭らは,上記事故を踏まえた事故防止策を十分に検討し,生徒に
対して,上記安全指導を徹底するとともに,段階的な試合形式を含めて対人
的技能の練習を十分行わせるなどする必要があったにもかかわらず,これを
怠ったために,一審原告AがEの体勢を十分に崩すことなく技をかけ,Eが
無理な防御体勢をとったために,本件事故が発生したなどと主張する。
ア確かに,本件大会が,対象学年全員の参加する学校行事として,クラス
対抗の試合形式が採用され,1位と2位を表彰する競技方法で実施されて
いたこと,本件大会の試合会場の周辺は生徒ら観客で埋まり,審判の声が
通りにくいほどの歓声が生徒から上がるなど盛り上がりを見せていたこ
と(F証人10頁,E証人12頁)等を考えると,通常の授業等とは異な
り,生徒が競争心や顕示欲を必要以上に煽られたり,冷静さを欠くなどし
て,反則行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及ぶ可能性も否定で
きない。
また,証拠(G証人16頁以下,H証人9頁)及び弁論の全趣旨によれ
ば,本件大会と競技方法を同じくして行われた前年度の武道大会の柔道競
技では,少なくとも,技をかけた生徒が対戦相手の生徒と共に倒れこみ,
床に手をついた際に右第5中手骨骨折を負った事故,押さえ込みに入った
生徒の胸部に対戦相手の生徒の頭部が強打し,胸部打撲及び上腹部打撲を
負った事故の2件が発生したことが認められるところ,これらの事故の直
接的な原因は定かでないが,大会の形式や雰囲気等によって生徒が反則行
為や危険な行為に及んだことが原因となった可能性も否定できない。
そうすると,上記引用に係る認定事実のとおり,G教諭を含めたD高校
の教諭らが,前年度の武道大会における2件の事故について詳しく調査し
た上で,本件大会での事故防止対策を具体的に検討した形跡が見当たらな
いことは,本件大会における事故防止策に不十分な点があったことを示す
ものといわざるをえず,また,生徒に本件大会前に練習試合を行わせたり,
本件大会の開会式において,生徒に対して張り切りすぎて怪我をしないよ
うに改めて注意を行なうことは,生徒が本件大会の形式や雰囲気等により
反則行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及ぶことを防止すると
いう観点からは望ましいといえる。
イしかし,上記引用に係る認定事実によれば,一審原告Aが中学時代に柔
道部に所属して試合に参加しており,本件大会にも黒帯を締めて参加して
いるのに対し,Eは授業以外には柔道の経験がほとんどなく,体格差もそ
れ程大きくなかったため,一審原告Aは,大体自分が勝つと考えて,冷静
に試合に臨み(一審原告A本人22頁以下),Eは負けると思っていた(E
21頁)というのであり,実際にも一審原告Aが終始優勢に試合を進め,
本件事故直前の払い腰についても,一審原告Aは,きれいに入れて,うま
く投げられると思い,技がうまく掛かっていないとは思っていなかった(一
審原告A本人24頁)のであり,観戦していた柔道経験者のFも,一審原
告Aがしっかり技の形に入っていて,Eを投げられると思っていた(F証
人12頁)のであるから,一審原告Aが,本件大会の形式や雰囲気等で競
争心や顕示欲を煽られたり,冷静さを欠くなどしたために,反則行為や無
理に技を掛けるなどの危険な行為に及んだとはいえない。
また,上記のとおりEの防御姿勢が正当な防御の範囲を超えていたとは
認められないから,G教諭らがEに対して安全指導を行わなかったために
本件事故が発生したとはいえない。
さらに,一審原告Aが,両者の動きが瞬間的に止まった際に直ちに技を
掛けるのを中止していれば,本件事故が発生しなかった可能性があるもの
の,上記のとおり,一審原告Aが無理に技を掛けたものとはいえず,技を
掛けてから倒れるまではごく短時間であって,一審原告Aが危険を無視し
て執拗に技を掛け続けたとも認められないから,一審原告Aが技を掛ける
のを直ちに中止しなかったことが,明らかに危険な行為であったともいえ
ない。
もちろん,本件試合の雰囲気や興奮等が,技を止めるかどうかの一審原
告Aの瞬間的な判断に影響を及ぼしたことは否定できないが,それは通常
の試合等でも一定程度は見られるものであり,一審原告Aの柔道の経験や
危険性についての理解状況等を考えれば,上記のとおりG教諭らが前年の
事故の調査や安全対策の検討を怠ったこと,本件大会前に練習試合等を行
わず,本件大会の開会式でも再度注意を行わなかったこと等が原因となっ
て,本件事故が発生したと認めることはできない。
ウ以上のとおりであるから,一審原告らの上記主張は採用できない。
4争点3(試合形式による本件大会の開催における注意義務違反の有無)につ
いて
⑴一審原告らは,日本国内の学校で行われる柔道が他の競技と比べて,死亡
や重大な傷害結果が発生する危険性が極めて高い競技であることは,本件大
会実施前から,D高校の教諭において認識し又は容易に認識し得たといえ,
さらに,本件大会のように,クラス対抗による試合形式での対戦は,死亡事
故の要因となる柔道固有の技をかけあって勝利することを目的とするもので
あるから,重大な事故が発生する可能性が高く,D高校の1年生は,段階を
経て実施すべき試合形式による対戦を授業において一度も練習していないの
であり,さらに危険性は高かったから,D高校の教諭らは,重大事故の発生
を未然に防止するために,本件大会を取りやめるべき義務があったのに,こ
れを怠って,漫然と本件大会を実施したために本件事故が発生したと主張す
る。
⑵しかし,柔道の試合は,授業等で学習したことを総合的に発揮する場であっ
て,基本動作や対人的技能,態度などについて部分的に学習してきた事項を
試合の形式で全体的に学習することができるものであり,試合形式の武道大
会を開催することも,柔道の指導を一定期間受けてきた生徒に対する一定の
教育的効果が期待できるものであって,技能を競い合う柔道に本来的に一定
の危険性が内在していることのみを理由として,武道大会の開催が許されな
いと解するのは相当でない。
そして,上記3⑴⑵のとおり,G教諭の通常の授業課程において危険防止
の指導義務違反があったとは認められず,また,同⑶アのとおり,前年の事
故の調査及び検討,本件大会前の練習試合や開会式での注意を行わなかった
など安全対策上不十分と指摘される点があったことは否定できないものの
(なお,これらが原因で本件事故が発生したとはいえないことは同⑶イのと
おりである。),上記引用に係る認定事実のとおり,予選リーグにおいて試
合会場を2分するほかは,国際審判規定に基づいて実施されており,柔道部
の2年生の主審,G教諭あるいはH教諭が副審として,生徒が明らかな反則
行為や無理に技を掛けるなどの危険な行為に及んだ場合には試合を止めるこ
とができる態勢を取っていたのであるから,D高校の教諭らに,本件大会の
実施を取りやめるべき注意義務があったとは認められない。
したがって,一審原告らの上記主張は採用できない。
5争点4(本件大会の態勢構築における注意義務違反の有無),争点5(本件大
会当日の監督指導における注意義務違反の有無)について
一審原告らが主張する注意義務違反があったとは認められないことは,原判
決の「事実及び理由」欄の第3の5及び6に記載のとおりであるから,これを
引用する。
ただし,原判決45頁13行目の「この点は」から同15行目末尾までを「上
記のとおり,一審原告Aの払い腰は無理に技を掛けにいったものではなく,一
審原告Aのほか,FやGらも一審原告Aの行動に特段の危険を感じていないの
であって,一審原告AがEに払い腰を掛けてから両者が倒れこむまでの時間は,
審判が指導をとる時間的余裕がない程短時間であったというのであるから,一
審原告ら主張のような反則を定めたとしても本件事故を予防しえたとは考えら
れない。」と改める。
6請求1についてのまとめ
上記3ないし5のとおり,一審原告らが主張する一審被告の注意義務違反は
いずれも認められないから,その余の点を判断するまでもなく,一審原告らの
国家賠償請求はいずれも理由がない。
7一審原告らの損失補償請求(請求2)について
学校教育にはある程度の危険が内在し,教諭等の関係者が万全の注意を払っ
てもなお回避し得ない事故が発生し,生徒の生命身体が害される可能性がある
ことは否定できない。
しかし,憲法29条3項は,文言上,国民の私有財産の適法な収用を適用対
象とする規定であり,生命身体の侵害は直接の適用対象としていない。また,
人的物的設備としての学校又は学校教育を,有害施設又は警察活動等と同様の
本質的に危険な存在又は活動とみることはできない。学校教育自体,少なくと
も公立学校における教育自体が公益性を有し,その教育課程で実施される授業
及び諸行事等には公益目的があるといえるとしても,そこで追求されるのは国
民又は地域住民の生命,身体,健康等の重要な法益の侵害防止という公益性の
強いものではなく,個人の人格の醸成及び完成,ひいては社会的にも有為な国
民又は住民の育成等というものであって,その公益実現のためには,特定の者
の生命身体に損害が生じることが避けられない場合であるともいえない。さら
に,本件において,一審原告Aが,法律上又は事実上,身体及び健康に対する
被害を受忍することを強制されたとみることはできない。
以上の点からすると,公共の利益のため財産権に特別の犠牲を課す場合の補
償を定めた憲法29条3項を本件事故のような公立学校における学校行事中の
事故における傷害事案に適用することはできないし,同項の法意により,上記
事案につき学校の設置主体が損失補償責任を負うと解するのも困難である。
したがって,一審原告らの損失補償請求(請求2)は理由がない。
8結論
したがって,一審原告らの請求はいずれも理由がないところ,原判決中,一
審原告らの国家賠償請求の一部を認容した部分は相当でないから,一審被告の
控訴に基づき,これを取り消した上で,その取消部分に係る一審原告らの請求
をいずれも棄却することとし,一審原告らの各控訴は理由がないからいずれも
棄却することとして,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 佐藤明
裁判官 小田島靖人
裁判官 佐藤康平

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