報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

大間原発、市民団体の建設差し止めの訴え棄却

 電源開発(東京)が青森県大間町で建設中の大間原子力発電所について、北海道函館市の市民団体「大間原発訴訟の会」が、国と同社を相手取り、住民の安全が脅かされるとして建設差し止めなどを求めた訴訟で、函館地裁(浅岡千香子裁判長)は19日、市民団体の訴えを棄却する判決を言い渡した。
 市民団体は、札幌高裁に控訴する方針。
 浅岡裁判長は「原子力規制委員会による安全審査が継続中で、運転するめども立っていない現時点では、具体的な危険性があると認めるのは困難だ」と述べた。
 大間原発は2008年5月に着工したが、11年3月の福島第一原発事故の影響で工事が一時、中断。事故を教訓に導入された新規制基準に基づいた原子力規制委員会の安全審査が今も続いている。訴訟では、新規制基準の合理性などが争われたが、函館地裁は「不合理ではない」と市民団体側の訴えを退けた。
(2018年03月19日 18時36分 読売新聞)

大間原発訴訟 函館市民団体ら原告の請求を棄却

 電源開発(Jパワー)が青森県大間町に建設中の大間原発をめぐり、北海道函館市の市民団体らが国とJパワーを相手取り、建設の差し止めなどを求めた訴訟の判決が19日、函館地裁であった。浅岡千香子裁判長は「建設の見通しが立たない中で、現時点で重大事故の危険性を認めることは困難」などとして、原告の請求を棄却した。
 訴訟は津軽海峡を挟んで最短18キロにある函館市の市民団体「大間原発訴訟の会」(竹田とし子代表)を中心に2010年7月に提訴。商業炉としては世界で初めてプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を全炉心で使う「フルMOX」の安全性や原発周辺の活断層の有無などが争点になった。
 原告側は「フルMOX」は原子炉制御棒の効きが悪くなるなど、「安全性が証明されておらず、危険」と主張。また、原発敷地の北約10キロ沖に長さ約40キロ以上の活断層があるほか、過去に噴火した「銭亀カルデラ」と呼ばれる海底火山などがあるが、影響が考慮されていないと指摘した。
 Jパワー側はフルMOXの特性は炉心の設計などに適正に考慮されていると反論。海上音波検査などで周辺に活断層はなく、「銭亀カルデラ」も過去の記録などから再噴火の可能性はないと主張した。
 東日本大震災後、建設中の原発への司法判断は初めて。大間原発をめぐっては、この訴訟とは別に函館市が14年4月、自治体として初めて原発建設の差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こし、審理が続いている。【山田泰雄】
 【ことば】大間原発
 Jパワーが青森県大間町に建設している改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)で、出力は国内最大級の138万3000キロワット。原発の使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを再利用する国の核燃料サイクル政策の重要施設で、2008年5月に着工したが、東日本大震災後に工事を中断。Jパワーは24年度の運転開始を目指すが、原子力規制委員会の新規制基準の適合性審査が長びき、運転開始の見通しは立っていない。
(2018年3月19日 15時11分(最終更新 3月19日 19時55分) 毎日新聞)

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平成22(行ウ)2  原子力発電所設置許可処分取消等請求事件 大間原子力発電所建設・運転差止等請求事件 原子力発電所建設・運転差止等請求事件
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,全事件を通じ原告らの負担とする。
事実及び理由
第1章請求
1被告電源開発*は,別紙1の1から別紙1の9までの各記載第1の各原告に対
する関係で,青森県下北郡大間町において,経済産業大臣の平成20年4月2
3日付け許可に係る大間原子力発電所を建設し,運転してはならない。
2被告らは,別紙1の1記載第1の各原告及び別紙1の2から別紙1の9まで
記載の各原告に対し,連帯して各3万円を支払え。
3被告電源開発は,別紙1の1記載第2の各原告に対し,各3万円を支払え。
第2章事案の概要
第1請求の概要
本件は,被告電源開発が経済産業大臣の平成20年4月23日付け設置許可処
分(本件設置許可処分*)に基づき青森県下北郡大間町に建設に着手した大間原子
力発電所(本件原発*)について,原告らのうち別紙1の1から別紙1の9までの
各記載第1の原告66名が,被告電源開発に対し,人格権に基づく侵害予防とし
て,本件原発の建設及び運転の差止めを求めるとともに,原告ら1164名が,
被告らに対し(ただし,別紙1の1記載第2の原告143名については,被告電
源開発のみに対し),本件原発の危険性に対する不安のため甚大な精神的苦痛を受
けているなどとして,被告電源開発に対しては不法行為に基づき,被告国に対し
ては国賠法*1条1項に基づき,慰謝料各1000万円の一部請求として各3万円
の連帯支払を求めた事案である(以下,原告らについては,特に断らない限り,
事件・請求ごとに区別せず単に「原告ら」と総称する。)。
なお,第1事件のうち本件設置許可処分の取消しの訴えに係る部分は,取下げ
により終了した。
第2前提事実
1当事者
(1)原告ら
原告らは,函館市及び青森県を始めとする北海道から沖縄県までの日本全
国各地に居住している者である。
(2)被告電源開発
被告電源開発は,昭和27年9月16日,我が国の電力需要の増加に対応
するため,電源開発(水力又は火力による発電のため必要なダム,水路,貯
水池,建物,機械,器具その他の工作物の設置若しくは改良又はこれらのた
め必要な工作物の設置若しくは改良をいう。後に原子力による発電も加えら
れた。)を目的として,電源開発促進法(同年法律第283号)13条以下の
規定に基づき,政府が発行済み株式総数の2分の1以上を出資する特殊会社
として設立された株式会社である。ただし,平成15年法律第92号により
電源開発促進法が廃止され,平成16年に株式が証券取引市場に上場されて
政府が保有していた株式が全て売却されたことにより,現在は完全民営化し
ている。
被告電源開発は,これまで,大規模水力発電所,石炭火力発電所等を開発,
保有するのみならず,地域間の電力連系設備を整備するなどしてきた。ただ
し,原発*については,本件原発が初めて建設するものである。
2本件原発に係る安全審査の経緯
(1)本件原発の設置許可申請
被告電源開発は,平成16年3月18日,旧原子炉等規制法*23条1項1
号に基づき,経済産業大臣に対し,本件原発に係る原子炉設置許可申請(本
件設置許可申請*)を行い,平成17年6月3日,平成18年2月17日,同
年10月24日,平成19年3月28日及び平成20年3月17日に,それ
ぞれ申請内容を一部補正した(乙イ5の1から6まで,乙イ6)。
(2)安全審査等
旧原子炉等規制法において,経済産業大臣は,原子炉設置許可をするに当
たり,同法24条1項1号,2号及び3号(経理的基礎に係る部分に限る。)
の各要件への適合性については,原子力委員会の意見を聴かなければならな
いものとされ,同項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び4号の各要件
への適合性については,安全委員会*の意見を聴かなければならないものとさ
れていた(同条2項)。
安全委員会は,平成18年9月19日,原子炉設置に係る安全審査のうち,
基準地震動*の策定等に関して,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指
針」と題する指針(旧耐震設計審査指針*)を全面的に見直し,新たな指針
(新耐震設計審査指針*。別紙3の1記載(5))を策定した。
本件設置許可申請に係る地震動評価等に関しては,この新耐震設計審査指
針に基づく安全審査が実施された。
(3)本件原発の設置許可処分
経済産業大臣は,平成20年4月23日,本件設置許可申請について,許
可処分(本件設置許可処分)をした(乙イ29)。
(4)本件原発の工事計画認可処分
被告電源開発は,平成20年4月24日,経済産業大臣に対し,旧電気事
業法*47条1項に基づき(旧原子炉等規制法73条により,実用発電用原子
炉については,同法27条の適用が除外され,旧電気事業法に基づく規制が
されていた。),本件原発の工事計画認可申請(第1回)を行い,平成20年
5月27日,同申請に係る認可(本件工事計画認可処分*)を受けた。
被告電源開発は,同月28日(第2回),平成21年2月17日(第3回),
同年8月10日(第4回),同年11月16日(第5回)及び平成22年4月
13日(第6回)にもそれぞれ本件原発設置の工事計画認可申請をし,申請
内容の一部について補正を行うなどした後,同年12月24日までの間に,
いずれの申請についても経済産業大臣から認可処分(本件工事計画認可処分)
を受けた(乙イ30の1から14まで,乙イ31の1から6まで,乙ロD9)。
(5)本件原発の建設工事
被告電源開発は,平成20年5月27日以降,本件工事計画認可処分を受
けて,主要建屋の建設や主要機器の製作を開始した。しかし,平成23年3
月11日,東北地方太平洋沖地震*が発生し,同地震とこれに伴う津波により,
東京電力*福島第一原発*において,全電源喪失に至り,放射性物質を閉じ込
める格納容器の破損が生じるなどした事象(福島原発事故*)が発生したこと
を受けて,本件原発の本体の建設工事を一旦休止した。
(6)原子炉等規制法*の改正等
福島原発事故を契機に,平成24年6月27日,規制委員会設置法*が新た
に制定される(同年9月19日施行)とともに,原子炉等規制法も改正され
(改正原子炉等規制法*。同日から平成25年12月18日までに4段階で施
行された。),これにより,原子炉設置の許可を規制委員会*が行うこととなっ
た。
すなわち,発電用原子炉を設置しようとする者は,改正原子炉等規制法4
3条の3の5第1項により,規制委員会の原子炉設置許可を受けなければな
らないものとされ,原子炉設置許可を受けた者(発電用原子炉設置者)が,
当該原子炉及びその附属設備の位置,構造及び設備を含む同法43条の3の
5第2項2号から5号まで又は8号から10号までに掲げる事項を変更しよ
うとするときにも,同法43条の3の8第1項により,規制委員会の設置変
更許可を受けなければならないものとされた。
また,改正原子炉等規制法においては,発電用原子炉設置者が発電用原子
炉施設の設置又は変更の工事をしようとする場合は,改正原子炉等規制法4
3条の3の9第1項に基づき,工事に着手する前に,工事の計画について規
制委員会による認可を受けなければならず,同認可に基づき工事した発電用
原子炉施設は,同法43条の3の11第1項に基づき,規制委員会の検査を
受け,合格しなければ使用できないこととされている。
さらに,発電用原子炉設置者は,保安規定を定め,運転開始前に規制委員
会の保安規定認可を受けなければならないとされている(同法43の3の2
4)。
(7)安全審査に関する規制
ア新規制基準*とは
前記(6)のとおり,発電用原子炉を設置しようとする者は,規制委員会の
設置許可を受けることを要するところ,改正原子炉等規制法第43条の3
の6第1項4号により,規制委員会は,当該発電用原子炉施設の位置,構
造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発
電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして規制委員会の規則で
定める基準に適合するものであると認められない限り,その許可をしては
ならないものとされている。また,当該規定は,規制委員会が前記(6)の設
置変更許可をする場合においても準用されている(同法43条の3の8第
2項)。
これを受けて策定又は改正された原子力規制委員会規則,告示及び内規
は,別紙2のとおりである。別紙2のうち原子力規制委員会規則の主要部
分を含むこれらの一部は,平成25年7月8日に施行された。行政実務上,
これら(別紙2記載(1)から(38)まで)を総称して,又は原子力規制委員会
規則(別紙2記載(1)から(6)まで)のみを指し,若しくは行政手続法上の
命令等に当たるもの(別紙2記載(1)から(15-2)まで)を指して,「新規制
基準」と呼称している。
イ従前の安全審査指針類について
規制委員会は,改正原子炉等規制法の第1段階目の施行時点(平成24
年9月19日)で,実用発電用原子炉設置許可の審査基準につき,「核原料
物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律等に基づく原子力規制委
員会の処分に係る審査基準等(原規総発第120919127号)」(乙イ
D6)の別表中において,安全委員会(前身としての原子力委員会を含む。)
が策定してきた別紙3の1記載の安全審査指針類(平成24年審査基準等)
を,原子炉設置許可の指針に用いることとしていた。
規制委員会は,改正原子炉等規制法の第3段階目の施行に伴い,平成2
5年6月19日付けで前記別表の改正(原規総発第1306193号)を
し(同年7月8日施行),発電用原子炉設置許可の審査基準等につき,別紙
3の2記載の三つの規程(平成25年審査基準等)を用いることとした
(乙イD14参照)。この三つの規程のうち,設置許可基準規則の解釈*
(別紙3の2記載(3),別紙2記載(10))には,従来用いていた別紙3の1
記載の安全審査指針類が一部引用されるなどしており,従前の安全審査指
針類は,別紙3の2記載の平成25年審査基準等においても規制体系の一
部を構成している。
(8)本件原発の設置変更許可申請
被告電源開発は,改正原子炉等規制法及び新規制基準の施行を踏まえ,平
成26年12月16日,規制委員会に対し,同法43条の3の8第1項に基
づき,本件原発の設置変更許可申請(本件設置変更許可申請*)をするととも
に,同法43条の3の9第1項に基づき,本件設置変更許可申請に係る工事
計画認可申請(平成26年工事計画認可申請*)をした(乙ロD1の1)。
現在までに,規制委員会は,これらの各申請に対する処分をしていない。
3本件原発の現状等
(1)本件敷地*の位置・面積
本件原発の建設予定地(本件敷地)は,青森県下北郡大間町にあり,別紙
4の1及び別紙4の2のとおり,下北半島北西端の大間崎付近西側海岸部,
津軽海峡に面した場所に位置し,敷地面積は約130万屬任△襦
(2)改良型沸騰水型原子炉
本件原発は,電気出力約138万3000kwの改良型沸騰水型原子炉
(ABWR*)1基及びその附属施設から成る施設を予定している。
(3)工事の大まかな進捗状況
本件原発は,現在,原子炉建屋,タービン建屋等の建屋の一部について建
設工事が行われたが,燃料,圧力容器,タービン,発電機等の原発の主要な
機器,施設等は,本件敷地内に搬入されていないか,又は未建設である(乙
ロD10)。
4原子力発電の仕組みと原子炉の種類等
(1)原子力発電の基本的な仕組み
1個の原子核が複数の原子核に分裂する現象を核分裂という。ウランやプ
ルトニウムといった重い元素の同位体であるウラン235やプルトニウム2
39は,中性子を吸収して核分裂を起こしやすい性質を有している(これら
の性質を有する原子核を,核分裂性核種という。)。核分裂性核種の原子核は,
核外から中性子を吸収して核分裂を起こすと,大きなエネルギーが発生する
とともに放射性物質である核分裂生成物(ヨウ素131,キセノン133,
クリプトン85,セシウム137等)と,二,三個の速度の速い中性子(こ
れを高速中性子という。)が生じる。この中性子の一部が他の核分裂性核種の
原子核に吸収されて次の核分裂を起こし,連鎖的に核分裂が持続される現象
を,核分裂連鎖反応という。
なお,核分裂性核種の原子核が中性子を吸収して核分裂する確率は,速度
が極めて遅い中性子(これを熱中性子〔サーマル・ニュートロン〕という。)
を吸収する場合に大きくなる。そのため,熱中性子を利用して核分裂連鎖反
応を行わせる種類の原子炉では,高速中性子を減速材と呼ばれる物質(水,
黒鉛等)に衝突させて熱中性子の速度まで減速させる手法が用いられている。
また,核分裂を安定的に持続させるためには,核分裂を起こす中性子の数
を調整する必要があるため,制御材と呼ばれる中性子を吸収する物質(ホウ
素,ハフニウム等)を用いて中性子の数を調整している。
原子力発電は,核分裂連鎖反応によって持続的に生じるエネルギーを熱エ
ネルギーとして取り出し,その熱エネルギーによって蒸気を発生させ,蒸気
の力によってタービンを回転させて発電するものである。
(2)原子炉の構成要素
原子炉は,核分裂連鎖反応によって発生する熱エネルギーを取り出し,そ
の熱エネルギーによって蒸気を発生させる装置である。
原子炉を構成する基本的な要素は,ヽ吠裂を起こして熱エネルギーを発
生させる核燃料(燃料集合体),核分裂によって発生する高速中性子を次の
核分裂を起こしやすい熱中性子の速度にまで減速させるための減速材,
核分裂で発生するエネルギーを外部に取り出すための冷却材(水,ヘリウム
ガス等),こ吠裂により発生する中性子を吸収して核分裂連鎖反応を安定的
に制御するための制御材(制御棒を含む。)である。
(3)原子炉の種類
普通の水(これを,重水〔質量の大きい同位体の水分子を多く含む水〕と
区別して,軽水ということがある。)を減速材及び冷却材の両方に使用する原
子炉のことを,軽水型原子炉又は軽水炉という。
軽水炉には,原子炉の中で冷却材である軽水を沸騰させ,発生した蒸気を
直接タービンに送って発電する沸騰水型原子炉(BWR*)と,原子炉の中で
加圧して高温の水を作り,これを蒸気発生器に導き,別系統を流れる水を蒸
気に変えてタービンに送る加圧水型原子炉(PWR*)と呼ばれる種類のもの
がある。このような発電の基本的仕組みは,別紙5に図示するとおりである。
(4)BWRを採用する原子炉施設の基本構造
BWRを採用する原子炉施設では,鉄筋コンクリート造の原子炉建屋内に
格納容器や使用済燃料貯蔵槽(プール)が設置される。そして,格納容器の
内部に,高温・高圧に耐えられる縦置き円筒型の圧力容器が設置され,また,
原子炉冷却設備が設けられる。
圧力容器の中に炉心が収められる。炉心は,原子炉の出力を担う燃料集合
体と,原子炉の出力調整や停止等を担う制御棒とから構成されている。圧力
容器の中には,炉心を取り囲むような形で,シュラウドというステンレス鋼
製の円筒状の構造物や,気水分離器,蒸気乾燥器等が設けられる。
(5)ABWRの従来型BWRからの変更点
沸騰水型原子炉(BWR)の中には,別紙6のとおり,従来型のものと比
較して以下の点を変更した改良型沸騰水型原子炉(ABWR)と呼ばれるも
のがある。
ア圧力容器内の冷却材を再循環ポンプにより循環させる設備(これを原子
炉冷却材再循環系という。)について,従来型BWRでは,圧力容器外部に
原子炉冷却材再循環配管と再循環ポンプを設けていたが,ABWRでは,
圧力容器に内蔵する再循環ポンプ(インターナルポンプ)を設けている。
イ格納容器について,従来型BWRでは,鋼製格納容器を設けていたが,
ABWRでは,原子炉建屋と一体化した鋼製ライナ張り鉄筋コンクリート
製原子炉格納容器(RCCV)を設けている。
ウ制御棒を炉心へ挿入・引抜きを行う装置(制御棒駆動機構)について,
従来型BWRでは,水圧駆動形式であったが,ABWRでは,通常操作時
は電動駆動であり,すべての制御棒を炉心に急速挿入して原子炉を緊急停
止(スクラム*)するときは,水圧駆動形式としている(これを改良型制御
棒駆動機構という。)
5現時点の設計に係る本件原発の基本構造
(1)燃料集合体
本件原発の原子炉(本件原子炉*)では,核燃料として燃料集合体を使用す
る。粉末状の二酸化ウラン又はMOX*(二酸化プルトニウムと二酸化ウラン
との混合物)を円筒状に焼き固めたものを燃料ペレット*(ウランペレット又
はMOXペレット)といい,これを燃料被覆管と呼ばれる長さ約4mのジル
カロイ製のさやに充填した円柱棒状のものが燃料棒であり,燃料棒を正方格
子状に配列して組み立てたものが燃料集合体である。
炉心には,燃料集合体が一定間隔で配置される。
(2)原子炉停止系(制御棒等及びホウ酸水注入系)(乙ロD2〔8−3−37頁
以下〕)
制御棒は,ステンレス鋼製のU字形のさや(シース)の中に中性子吸収材
を収めて,当該U字形シースを十字形に組み合わせたものである。
制御棒は,炉心から出し入れすることによって,核分裂を起こす中性子の
数を調整して,原子炉の起動,停止や出力制御を行うものである。すなわち,
炉心に一定間隔で配置された燃料集合体の間に制御棒を挿入することで,原
子炉の出力は減少し,原子炉の停止が可能となり,炉心から制御棒が引き抜
かれることで,原子炉の出力は上昇し,原子炉の起動が可能となる(ただし,
制御棒の出し入れのみによって出力制御等を行うものではない。)。
また,制御棒が炉心に挿入不能となって原子炉の停止ができなくなった場
合には,中性子吸収材(制御材)であるホウ酸水を炉心に注入して原子炉を
停止させる装置(これをホウ酸水注入系という。)が作動する。
(3)圧力容器
本件原子炉の圧力容器内部は,別紙7で図示するとおり,炉心(燃料集合
体及び制御棒)を取り囲むような形で,シュラウドというステンレス鋼製の
円筒状の構造物が設置され,炉心内の冷却材の流路を確保する機能を有する。
シュラウドには上部格子板及び炉心支持板が固定され,これらによって炉心
が支持される。
圧力容器の下部には,10台のインターナルポンプが取り付けられ,圧力
容器底部には,改良型制御棒駆動機構が設置され,制御棒は原子炉の底の方
から挿入する仕組みとなっている。
炉心周辺は,シュラウド内外含めて減速材兼冷却材である軽水で満たされ
ており,上部格子板の更に上部には,炉心で蒸気となった軽水から乾燥蒸気
を取り出すための気水分離器と蒸気乾燥器が設置される。
(4)原子炉冷却設備
ア主たる循環系
本件原発の運転時に,放射性物質を内部に保持させ,冷却材を循環させ
る機能を有する主蒸気管,タービン,復水器,給水管等から構成される循
環系を,主たる循環系という。炉心で発生した乾燥蒸気は圧力容器上部に
接続された主蒸気管を通ってタービンへ導かれ,蒸気と分離された水は,
給水管から給水された冷却材と混合してシュラウド外部を下降して流れる。
タービンに導かれた乾燥蒸気は,タービンを駆動した後に,海水が循環す
る細管が設置された復水器を通り,細管によって冷却・凝縮されて水に戻
り,再び給水管を通って圧力容器内部に給水される。このような発電の仕
組みを図示すると,別紙8のとおりである。
イ原子炉冷却材再循環系
圧力容器の下部に取り付けられる10台のインターナルポンプによって,
シュラウド内外で軽水を循環させて炉心の熱を効率よく軽水に伝達させる
とともに,冷却材の循環量を調節して原子炉出力が調整される。これを原
子炉冷却材再循環系という。
ウ除熱のための設備
除熱のための設備としては,主蒸気逃がし安全弁(格納容器内の主蒸気
管に設けられた安全弁)や,熱交換器,ポンプ,計測制御装置等で構成さ
れる残留熱除去系及び原子炉補機冷却系がある。
エ非常用炉心冷却設備(ECCS*)
圧力容器に繋がる配管の破断等により冷却材が喪失し,圧力容器内の水
位が低下するような異常事態(LOCA*)が発生した場合,冷却水を圧力
容器内に注水して水位を回復・維持し,炉心の冷却を確保するための設備
を,非常用炉心冷却設備(ECCS)という。
本件原発のECCSは,原子炉隔離時冷却系(原子炉がタービンや復水
器から隔離された状態の場合に,自動的に復水貯蔵タンクの水及びサプ
レッションチェンバ〔格納容器の一部で,水を内部に蓄えた円筒形の部
分〕内のプールの水を圧力容器内に給水する系統であり,その動力源を原
子炉の蒸気の一部に求めるタービン駆動のポンプを有する設備),高圧炉心
注水系(高圧状態の原子炉に冷却水を供給する系統),低圧注水系(低圧状
態の原子炉に冷却水を供給する系統)等から構成される。このようなEC
CSの仕組みを図示すると,別紙9のとおりである。
(5)電源
本件原発の安全上重要な機能を有する設備に対しては,外部電源(送電系
統又は所内主発電機によって本件原発機器に電力を供給する電源をいう。)又
は非常用電源設備により電力が供給される。
なお,主発電機,送電系統及び非常用ディーゼル発電機からの電力供給が
すべて喪失した状態を,全交流電源喪失という。
(6)使用済燃料貯蔵槽
使用済燃料貯蔵槽(プール)は,原子炉建屋内に格納容器と一体となった
構造で設置される,ステンレス鋼を内貼りした鉄筋コンクリート造の水槽で
ある。本件原発の使用済燃料は,使用済燃料貯蔵槽の貯蔵ラックに挿入し,
通常65℃以下に保たれたプール水に冠水した状態で貯蔵される。
(7)格納容器及び原子炉建屋
本件原発においては,鋼製ライナを内貼りした鉄筋コンクリート製の原子
炉格納容器(RCCV)を設ける。また,原子炉格納容器スプレイ冷却系及
び格納容器内ガス濃度制御系が設置される。
格納容器の外側には原子炉建屋を設け,非常用ガス処理系を設ける。
6MOX燃料について
(1)プルサーマル
原発の使用済燃料を再処理してプルトニウムやウラン等を回収し,これを
原発の燃料として再利用することを,核燃料サイクルという。核燃料サイク
ルの一環として,プルトニウムとウランを混合した燃料であるMOX燃料を,
従来のウラン燃料と同様に軽水炉において使用することを,プルサーマルと
いう。
本件原子炉では,ウラン燃料とMOX燃料とを使用することを想定してお
り,運転開始後,段階的にMOX燃料装荷体数を増加させ,最終的に,全炉
心にMOX燃料を装荷すること(フルMOX)を計画している。このことか
ら,本件原発は,フルMOX−ABWRと呼ばれている。
(2)MOX燃料の性質(ウラン燃料との差異)(乙ロA37)
アウラン燃料集合体は,二酸化ウランの粉末を焼き固めたものであり,核
分裂性核種であるウラン235を約三,四%含み,その余が非核分裂性核
種であるウラン238で構成されるウランペレットを使用したウラン燃料
棒から構成されている。
他方,MOX燃料集合体は,二酸化プルトニウムと二酸化ウランとの混
合物であるMOXの粉末を焼き固めたものであり,例えば,核分裂性核種
であるウラン235及びプルトニウム239等を数%(最大で10%)含
み,その余が非核分裂性核種であるウラン238及びプルトニウム240
等で構成されるMOXペレットを使用した複数のMOX燃料棒とウラン燃
料棒などから構成される。
イ前記のとおり,MOX燃料には,プルトニウムが含まれている。プルト
ニウムは,ウランと比較して,’中性子をより吸収しやすく,非核分
裂性プルトニウム(プルトニウム240等)は,ウラン238に比べて減
速材との衝突により高速中性子から熱中性子へと減速する途中の中性子を
より吸収しやすく,かつ,温度上昇に伴って吸収しやすくなるという特性
を有している。
このような特性から,MOX燃料を装荷すると相対的に熱中性子が減少
し,制御材に吸収される熱中性子も減少することになるため,制御棒を挿
入した場合やホウ酸水注入系を作動した場合に起こる核分裂反応の変化は
小さくなる(反応度価値は小さくなる。)。
ウさらに,MOX燃料は,プルトニウムの含有に伴ってその物性等が変化
する。ウラン燃料と比較した場合に差が生じる主な点としては,プルト
ニウムの含有率の増加に従って,ペレットの融点及び熱伝導率が低下する。
で馨禿戮高い場合には,MOX燃料の方がウラン燃料よりも放射性希ガ
ス等の気体放出率が高い。また,タ掲確繊併藩兀冉確舛搬佝罎靴討いΑ)
では,放射線量(中性子線及びガンマ線の線量)もウラン燃料と比較して
高い。そのほかに,Ε撻譽奪叛渋せに,母材であるウラン粉末と,加え
るMOX粉末との混合が不十分であると,ペレット内のプルトニウム含有
率の不均一が生じる可能性があり,局所的に出力分布に変化等が生じる可
能性がある。
第3主な争点
1被告電源開発に対する差止請求について
(1)生命・身体への具体的危険性の判断の在り方(争点1)
(2)具体的危険性その1−主に審査基準の合理性の問題(争点2)
(3)具体的危険性その2−主に審査基準への適合性の問題
ア基準地震動の策定(争点3)
イ本件原発周辺の海底断層(争点4)
ウ本件敷地内及びその周辺の断層(争点5)
エ本件敷地及びその周辺の地質,地盤(争点6)
オ火山対策(争点7)
カ津波対策(争点8)
(4)具体的危険性その3−その他
ア立地審査指針適合性(争点9)
イ被告電源開発の技術的能力(争点10)
ウ改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の構造(争点11)
エフルMOX炉心(争点12)
オ使用済燃料貯蔵槽(争点13)
2被告電源開発に対する慰謝料請求について
(1)故意・過失(争点14)
(2)原告らの法益侵害及び損害の発生(争点15)
3被告国に対する慰謝料請求について
(1)本件設置許可処分の違法性等(争点16)
(2)不作為の違法性(争点17)
(3)原告らの法益侵害及び損害の発生(争点15)
第4争点に対する当事者の主張
1争点1(生命・身体への具体的危険性の判断の在り方)について
(原告らの主張)
(1)差止めの要件について
個人の人格的利益のうち,生命,身体,名誉等の重大な保護法益が現に侵
害され,又は将来侵害されようとしている場合には,これらの人格権に基づ
き,その侵害の排除又は予防のために,当該侵害行為の差止めを求めること
ができる。
(2)安全性について
ア高度の安全性
福島原発事故によって周辺地域に甚大な被害が生じたことからも明らか
なように,原告らは,本件原発において重大な事故が発生すれば生命,身
体に対する重大な被害を及ぼす放射線被ばくを受ける高度の危険にさらさ
れている。大きな自然災害や戦争以外で,根源的な権利が極めて広汎に奪
われるという事態を招く可能性があるのは,原発*による事故のほかには想
定し難い。
したがって,原発には,絶対的安全性に準じる程度の高度の安全性を要
求すべきであり,原発の差止訴訟においては,福島原発事故のような深刻
な災害が起こる可能性が万が一でもあれば差止めが認められるべきである。
イ社会通念を基準とすることの誤り
これに対し,これまでの裁判例において,原発に求められる安全性につ
いては,「被害発生の危険性を社会通念上無視し得る程度に小さいものに保
つこと」とされてきた。しかし,「社会通念」という文言は曖昧不明確で恣
意的に解釈される危険性が大きく,実質的には行政庁の判断や原発設置・
運転事業者の主張を無批判に受容するための基準と化していたのであり,
「社会通念」という基準では原発に求められる極めて高度な安全性を確保
することはできない。
ウ科学的,専門技術的知見と司法判断との関係
安全性の判断において,行政庁の専門技術的裁量を無批判に尊重するの
は,福島原発事故後になされた一連の原子力関連法規の改正の経緯や趣旨
からすれば,明らかな間違いである。
また,高度の専門技術的知見について,裁判所の判断能力には限界があ
るという指摘をされることもあるが,原告らが主張している事項の多くは,
高度の専門技術的知見以前の問題であり,一般の経験則や基本的な科学技
術的知識,知見に照らすだけで十分に判断可能な問題である。
(3)立証責任について
以上のとおり,原発には高度の安全性が求められることや,証拠の偏在等
を考慮すると,具体的危険性の立証責任については,次のいずれかのアプ
ローチにより,原告らの立証の負担が軽減されるべきである。
^吠原発最高裁判決*の考え方に従って立証責任を事実上転換し,被告電
源開発において,本件原発が絶対的安全性に準じる程度の高度の安全性を
有していることを立証すべきである。
⇔証責任を転換しないとしても,原告らがすべき立証の程度を軽減し,
原告らにおいて被告電源開発の安全設計,安全管理の方法に不備があり,
原告らが許容限度を超える放射線被ばくをする具体的可能性があることを
相当程度立証した場合には,被告電源開発において反証(許容限度を超え
る放射線被ばくの危険性が存在しないこと)を尽くさない限り,原告らが
許容限度を超える放射線被ばくをする具体的危険が推認されると解すべき
である。
A圧(2)アの「深刻な災害が起こる具体的危険性が万が一でもあれば差止
めが認められるべき」との考え方から,原告らが行うべき立証の命題を,
「福島原発事故のような深刻な事態を招く具体的危険性が万が一でもある
こと」と修正すべきである。
(4)人格権侵害の具体的危険性について
ア居住地域との関係
被告電源開発は,原告らの中に本件原発から遠く離れた地に居住する者
がいることを指摘するが,差止めの根拠が生命・身体の安全等を中心とす
る人格権という極めて重要な権利利益であるから,差止めを求め得る者の
範囲は,最悪の事態を想定してできる限り広く解する必要がある。そして,
本件原発において重大な事故が発生した場合,風向き等によっては,本件
原発から1300km離れた地点(九州地方の北西部に達する。)であって
も,チェルノブイリ原発事故*における放射線管理区域(一般人の立入りが
制限される。)に相当するレベルの汚染が生じ得るから,この範囲に居住す
る者は差止めを求めることができるというべきである。
イ本件原発が建設中(稼働前)であることとの関係
本件原発は本格的な工事が中止されており,現在,規制委員会が被告電
源開発の本件設置変更許可申請を審査している段階にあって,規制委員会
による処分は未だなされていない。しかし,そもそも,これまでの原子力
規制行政が適切に機能してこなかったために福島原発事故が発生したので
あり,本件原発についても,いずれは設置変更許可処分がなされる公算が
大きいから,現時点で原告らの人格権侵害の具体的危険がないということ
はあり得ない。本件は,規制委員会の処分に係る行政訴訟ではなく,民事
上の差止訴訟であるから,現時点で主張立証されている範囲で本件原発の
安全性を検討すれば足りる。
(被告電源開発の主張)
(1)差止めの要件について
原発の運転等の差止請求は,発生が不確実な将来の侵害を根拠にせざるを
得ないため広範にわたり易く,被告電源開発の権利行使を阻害するおそれも
大きいものであるから,差止めが認められるには,侵害が現存するのに匹敵
するような具体的危険性が発生していることが必要であり,具体的には,
生命・身体のような重大な保護法益が侵害され被害の発生する危険が切迫し
ており,△修凌害により回復し難い重大な損害が生ずることが明らかで
あって,その損害が被告電源開発の被る不利益よりもはるかに大きな場合
で,ず校澆甍奮阿紡綢惻蠱覆なく,差止めが唯一最終手段であることを要
すると解するのが相当である。
(2)安全性について
原発差止訴訟においては,原発に内在する潜在的な危険を顕在化させない
よう適切に管理できるかどうかが,具体的危険性の有無という形で判断され
ることになるのであって,抽象的,潜在的な危険性の存在のみをもって原発
の利用を否定することは,現代社会における科学技術の利用そのものを否定
することになり,相当ではない。
そして,原発が高度に科学的,専門技術的なものであり,原発の潜在的な
危険を顕在化させないための各種の対策も科学的・専門技術的知見を踏まえ
て講じられるものである以上,この具体的危険性の有無の判断に際しては,
科学的,専門技術的知見を踏まえることが不可欠である。伊方原発最高裁判
決もこのような見地から判断している。同判決は,行政訴訟である原子炉等
規制法に基づく設置許可処分の取消訴訟についての判決であるが,人格権に
基づく原発差止訴訟であっても,原子炉施設の安全性が確保されているか否
かという基本的な問題点は共通しており,判断に当たって科学的・専門技術
的知見を踏まえる必要があるという点では何ら異ならない。
原告らは具体的危険性が万が一にもあることなどの立論をするが,実質的
には,危険性の有無を,抽象的なそれの有無によって判断するものにほかな
らない。
(3)立証責任について
差止請求の要件を満たす事実,すなわち,本件原発の安全性に欠ける点が
あり,原告らの生命,身体に被害が及ぶ具体的危険が切迫していることなど
の事実の立証責任は,差止請求権の発生をいう原告らが負うものである。原
告らの主張する立証負担の軽減は,次のとおりいずれも理由がない。
ア原告らは,^吠原発最高裁判決の考え方に従って立証責任を事実上転
換すべきであると主張するが,同判決は,行政庁がした原子炉設置許可処
分の取消訴訟について,行政庁の判断に不合理な点があることの主張立証
責任が原告にあることを前提として,行政庁が自らの判断に不合理な点の
ないことを主張立証しなければ,当該判断に不合理な点があることが事実
上推認される旨を判示したに過ぎず,立証責任の転換を認めたものではな
い。
イ原告らは,原告らにおいて被告電源開発の安全設計,安全管理の方法
に不備があり,原告らが許容限度を超える放射線被ばくをする具体的可能
性があることを相当程度立証した場合には,被告電源開発において反証を
尽くさない限り,原告らが許容限度を超える放射線被ばくをする具体的危
険が推認されるべきと主張する。しかしながら,原告らの主張に沿う最高
裁判例は存在せず,むしろ,最高裁は,後遺障害や負傷又は疾病という身
体に対する具体的侵害が現実に発生している場面においてすら,因果関係
に係る事実の証明に高度の蓋然性が必要であるとして立証の程度の軽減を
認めておらず,本件のような具体的侵害が未だ発生していないうちにその
予防を求める請求においてはなおさら,立証の程度の軽減を認める余地は
ない。
ウ原告らは,8狭陲蕕砲いて福島原発事故のような深刻な事態を招く具
体的危険性が万が一でもあることを立証すれば足りる旨を主張するが,前
記(2)のとおり,かかる立論は,実質的に危険性の有無を抽象的なそれの有
無によって判断するものにほかならない。
(4)人格権侵害の具体的危険性について
ア本件原発の建設によって生ずる具体的危険性が原告ら個々人についてど
のように生ずるのかについて個別具体的に明らかにすることが必要である
ところ,原告らの主張によっても,原告ら個々人の生命・身体にいかなる
危険が生ずるというのかについての個別的・具体的事実は何ら明らかでは
ない。
特に,原告らのうちの相当数の者は,本件原発から遠く離れた地に居住
地しているというのであるから,このような原告らに,本件原発に関連し
て生命・身体に被害の及ぶ具体的危険性は想定されないことが明らかであ
る。
イ被告電源開発は,旧原子炉等規制法下において本件設置許可処分及び本
件工事計画認可処分を受け,本件原発の建設工事に着手したが,福島原発
事故を踏まえて強化された新規制基準下において,安全確保対策を強化し,
本件設置変更許可申請を行い,現在,規制委員会において,同申請に係る
適合性審査が行われているところである。被告電源開発は,同申請に係る
設置変更許可並びに工事計画認可,工事計画変更認可,使用前検査及び保
安規定認可等を受けた上で初めて,本件原発の運転を行うことができるこ
ととなる。このような経緯及び今後のプロセスからして,本件原発が安全
性に欠けることなく建設され,運転されることは明らかである。
2争点2(審査基準の合理性の問題)について
(原告らの主張)
(1)新規制基準の策定過程の杜撰さ等
新規制基準を策定した当時の規制委員会の委員長である田中俊一委員長は,
平成19年に政府の原子力推進機関である原子力委員会の委員長代理に就任
するなど,原子力推進行政の中心を担ってきた人物である。委員長以外の委
員4名のうち更田豊志委員及び中村佳代子委員は,委員候補者となった当時,
原子力事業者の従業者であり,規制委員会設置法上の欠格事由に該当する。
このように,委員長を含む5名の委員のうち3名が原発関連事業出身者で
あって,当時の規制委員会の人的構成は,規制委員会に求められた委員の基
準に反するものである。
また,新規制基準には,地震の他に津波,竜巻,火山に関する基準も含ま
れるが,これらに対応する専門家は当時の委員には存在しなかった。後記7
の原告らの主張のとおり,火山ガイド*は,噴火の時期や規模を予知できるこ
とを前提として策定された点などにおいて不合理であるが,これは,火山に
関する専門家がいない中で策定されたという策定手続の杜撰さに起因するも
のである。
平成24年9月に発足した規制委員会は,同年10月以降,規則類の策定
作業を開始し,平成25年7月までに合計49件の規則類(新規制基準)を
策定した。平成18年9月に制定された新耐震設計審査指針が,旧耐震設計
審査指針の改定にすぎないにもかかわらず,その1件の検討に5年の期間が
掛けられたことと比べれば,新規制基準の検討期間が絶対的に足りなかった
ことは明らかである。
また,現在に至っても,福島原発事故の事故調査は尽くされておらず,福
島原発事故の原因は未解明である。それにもかかわらず新たな規制基準を策
定したとしても,その内容は十分なものとはいえない。
(2)深層防護の欠如
ア深層防護は,一般に,安全に対する脅威から人を守ることを目的として,
ある目標を持った複数の障壁(防護レベル)を用意し,防護レベルを段階
的に深化させていくことにより高度な安全性を達成する概念である。深層
防護の考え方は,原発に特有のものではないが,原発については,事故被
害の甚大性,事故想定や対策の不確かさなどから,深層防護の考え方が安
全上,不可欠とされている。
イ福島原発事故の発生まで,被告国や電力会社は,原発について,^枉
の発生防止,異常の拡大防止と事故への発展防止,J射性物質の異常
な放出の防止という3重の防護で安全が確保されているとしてきた。しか
し,国際的基準は,これらに加えて,ぅ轡咼▲▲シデント*対策,ニ漂
対策という5重の防護をとっていたのであり,福島原発事故発生までの安
全対策は,明らかに不足していた。
ウ新規制基準においては,ぅ轡咼▲▲シデント対策が規定されたが,後
記(5)のとおり,対策として不十分である。
また,国際的基準では,原発事故による放射線被害を回避するため,緊
急時計画の整備と適切な立地評価が設置許可の要件とされているが,新規
制基準においては,ニ漂丗从に関する規定は存在せず,福島原発事故で
内容の不備が明らかになった立地審査指針*について,改定し適用すること
がされていない。また,原災法*に基づき策定された原子力災害対策指針
(平成24年10月31日原子力規制委員会)は,緊急時の防災計画を建
設,運転の許可条件としておらず,原発の緊急時対策を規制委員会が審査
するという構造になっていない(後記(7),(8))。
(3)共通要因故障
ア福島原発事故以前から,安全設計審査指針*において,重要な安全機能*
を有する系統,機器は,同一の機能を有する同一の性質の系統又は機器が
複数ある(多重性*)か,同一の機能を有する異なる性質の系統又は機器が
複数あること(多様性*)及び複数の系統又は機器が設計上考慮する環境条
件及び運転状態において,共通要因*又は従属要因*によって,同時にその
機能が阻害されないこと(独立性*)が要求されていた。すなわち,重要な
安全機能を有する系統,機器は複数あり,一つの事故原因で同時に全ての
安全機能が失われることがないことを前提に設計されていた。
そして,設計基準事故*では,一つの原因でその安全機能を有する複数の
系統又は機器のうちの一つが故障することを仮定し(単一故障*の仮定),
その場合でも残りの系統又は機器で安全機能が確保されるような設計思想
であった。これは,事故原因を内部事象に限って考え,単一故障の仮定で
設計して安全性が確保されたものとし,自然現象に対しては別途基準を策
定して,その設計基準として定めた自然現象内であれば安全性が確保され
るものと考える二分法をとっていたことに基づく。
しかし,福島原発事故では,単一故障の仮定どおりに事は進まず,一つ
の原因で必要な安全機能が同時に全て故障した。これは,自然現象である
地震及び津波が原因となって,設備の駆動源である非常用電源や最終的な
熱除去を行う設備が働かなくなり,次に,これらの設備に依拠した複数の
安全上重要な設備が全て機能を失うという,共通要因故障による事故とし
て特徴づけることができる。
米国NRC*では,深層防護の観点から,全交流動力電源の同時機能喪失
であるSBO*,原子炉保護系の同時機能喪失であるATWS*に対しても,
事業者に設計上の対策を要求する規制要件が課されるようになった。
したがって,深層防護の観点からは,共通要因故障の発生頻度が想定以
上に高いこと,特に想定を超える外的事象が発生することも考慮して,共
通要因故障を仮定した設計が要求される。
イ規制委員会の原子炉施設等基準検討チーム*は,福島原発事故の教訓とし
て,安全設備の多様性の不足を挙げ,「現行の『多重性又は多様性』として
いる要求の『多様性』への変更の要否の検討」を提示したが,新規制基準
において,このような変更は見送られた。
しかし,福島原発事故の教訓や深層防護による信頼性確保の考え方に基
づけば,このような変更の見送りは不合理であり,原子炉施設等基準検討
チームが提示した前記案のとおり,設計基準として,「共通要因による機能
喪失が,独立性のみで防止できる場合を除き,その共通要因による機能の
喪失モードを特定し,多様性を求めることを明確にす」べきである。
ウ新規制基準において,共通要因故障は,シビアアクシデント対策で対応
すればよいとされているが,設計段階で共通要因故障を想定して対応する
場合と比較して,安全性の程度に質的な差異がある。
(4)安全重要度分類*と耐震重要度分類*の不備
ア安全重要度分類と耐震重要度分類
平成2年8月30日に制定された重要度分類審査指針*は,安全機能を有
する構造物等の機能によって,異常発生防止系(PS*)と異常影響緩和系
(MS*)に分類するとともに,安全機能の重要度に応じてクラス1から3
までに分類し(安全重要度分類),重要度の最も高いクラス1は「合理的に
達成し得る最高度の信頼性を確保し,かつ,維持すること」,クラス2は
「高度の信頼性を確保し,かつ,維持すること」,クラス3は「一般の産業
施設と同等以上の信頼性を確保し,かつ,維持すること」としている。
平成18年9月19日に制定された新耐震設計審査指針は,耐震設計上
の重要度(耐震重要度*)をSクラス,Bクラス,Cクラスに分類し(耐震
重要度分類),重要度の最も高いSクラスは「自ら放射性物質を内蔵してい
るか又は内蔵している施設に直接関係しており,その機能喪失により放射
性物質を外部に放散する可能性のあるもの,及びこれらの事態を防止する
ために必要なもの,並びにこれらの事故発生の際に外部に放散される放射
性物質による影響を低減させるために必要なものであって,その影響の大
きいもの」,Bクラスは「Sクラスに比べてその影響が比較的小さいもの」,
Cクラスは「Sクラス,Bクラス以外であって,一般産業施設と同等の安
全性を保持すればよいもの」とされている。
新規制基準(基準地震動審査ガイド*等)においても,これらの分類は,
基本的に変わりがないが,以下のとおり,安全重要度分類及び耐震重要度
分類には問題があり,新規制基準においても是正されていないことになる。
イ外部電源
外部電源の安全重要度分類は,異常発生防止系のクラス3(PS−3)
という最低ランクであり,耐震重要度分類も,耐震性の最も低い設計が許
容されるCクラスであった。
しかし,安全設計審査指針では,「重要度の特に高い安全機能を有する構
築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合
においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受
けられる設計であること」(指針48)とされており,外部電源は,非常用
電源と並列的にいずれかからの電気が供給される設計を要求される重要な
系統と解される。
米国の地震PRA(確率論的リスク評価)において,CDF(炉心損傷
頻度)の大部分を外部電源喪失シーケンスが占めていることからも,外部
電源にはこのようなリスクの大きさに応じた規制が求められる。
また,福島原発事故も,東北地方太平洋沖地震による送電鉄塔の倒壊,
送電線の断線等で生じた外部電源の喪失が一要因となって発生している。
政府は,福島原発事故後,SBO(全交流電源喪失)対策に係る技術的要
件の一つとして「外部電源系からの受電の信頼性向上」の観点を掲げ,「発
電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針及び関連の指針類に反映
させるべき事項について(とりまとめ)」(平成24年3月14日原子力安
全基準・指針専門部会,安全設計審査指針等検討小委員会)において,「外
部電源系は,(中略)今般の事故を踏まえれば,高い水準の信頼性の維持,
向上に取り組むことが望まれる」と明記され,重要度分類の格上げの必要
性が説かれている。
しかるに,新規制基準において,前記の重要度分類は変更されていない。
ウ使用済燃料の貯蔵施設等
安全重要度分類上,使用済燃料プールはPS−2,燃料プール水の補給
設備はMS−2(いずれもクラス2)とされており,耐震重要度分類上も,
使用済燃料の貯蔵施設(冠水機能に係る設備)はSクラスであるが,冷却
機能に係る施設はBクラスである。
福島原発事故においては,4号機の使用済燃料貯蔵槽が注水不能となり,
使用済燃料が露出して破損,溶融し,溶融した燃料とコンクリートの相互
作用により大量の放射性物質が放出された。使用済燃料の貯蔵施設は安全
上最も重要な施設の一つであり,給水機能と冷却機能の両方を維持するこ
とによって安全性を確保すべきである。
使用済燃料の貯蔵施設の重要性に鑑みれば,安全重要度分類はクラス1
に,耐震重要度分類は,冷却機能に係る施設についてもSクラスに分類し
直すべきであり,現行の基準は安全確保策として不十分である。
エ非常用取水設備
原子炉に制御棒を挿入して出力運転を停止した後も,核燃料からは長期
にわたり崩壊熱が発生するため,原子炉補機冷却水冷却器,原子炉補機冷
却水を介して,原子炉補機冷却海水に崩壊熱を渡し,これを放出口から海
中に放出することとされているところ,前記の原子炉補機冷却海水を海中
から取水する設備が非常用取水設備である。非常用取水設備は,その機能
が失われると原子炉の崩壊熱を除去することができなくなるため,安全上
重要な設備である。
耐震重要度分類上も,「原子炉停止後,炉心から崩壊熱を除去するための
施設」,「津波防護機能を有する設備及び浸水防止機能を有する設備」はS
クラスに分類される。しかるに,本件設置変更許可申請において,被告電
源開発は,非常用取水設備を構成する取水口スクリーン口,取水路,取水
ピットの耐震重要度分類をCクラスとしている。このままでは,基準地震
動の地震力によってでも,原子炉補機冷却用海水設備が破損され,冷却不
能になる危険性がある。
また,非常用取水設備は,安全重要度分類はクラス1に分類されるべき
であり,多重性又は多様性及び独立性を備える必要があるところ,本件原
発の3系統の取水口と水路は隣接しており,単一事象によって全てが同時
に使えなくなる可能性があるから,独立性が不十分である。
(5)シビアアクシデント対策の不備
ア重大事故*及び大規模損壊への対応に関する規定の欠如
(ア)重大事故への対応
設置許可基準規則*には,「重大事故」の明確な定義がないが,同規則
37条の規定から, ̄薪消罎慮胸厦Г力Э瓦涼しい損傷(同条1項参
照),∋藩兀冉確礎蔵槽内に貯蔵されている燃料の著しい損傷(同条3
項参照),1薪渉篁瀉罎慮胸厦Г稜確舛涼しい損傷(同条4項参照)を,
重大事故として想定しているものと解される。
しかしながら,重大事故に至った場合の対応が規定されているのは,
前記,砲弔い討里澆任△蝓米云鬘温燹法ち圧及びについては,重大
事故に至るおそれがある事故への対応が規定されているのみで,重大事
故に至った場合の対応が規定されていない。
(イ)大規模損壊への対応
大規模な自然災害による大規模損壊の一例である福島原発事故が発生
したことを受けてシビアアクシデント対策が規制に導入されたのである
から,「炉心の著しい損傷その他の事故」には,大規模な自然災害による
大規模損壊が含まれると考えるべきであり,大規模な自然災害による大
規模損壊への対処施設及び体制について,規制委員会の許可(改正原子
炉等規制法43条の3の5第2項10号)を必要とすることは,当然の
要求事項と考えられる。
しかし,実用炉規則*4条の重大事故の定義には,大規模な自然災害に
よる大規模損壊が含まれておらず,同規則上,重大事故等*発生時の規定
(85条)とは別に大規模損壊発生時の規定(86条)が設けられ,両
者は異なる概念とされている。そして,同規則86条は,大規模な自然
災害による大規模損壊に対処する保安規定の設定を要求しているが,大
規模な自然災害による大規模損壊への対策は,まず設置許可基準規則で
定めるべきである。しかるに,設置許可基準規則には,大規模な自然災
害による大規模損壊の想定及びその対策に関する規定が存在しない。
かかる定めが存在しない設置許可基準規則は,改正原子炉等規制法4
3条の3の6第1項4号(「災害の防止上支障のないもの」として規則を
定めるべきこと)に反する。
また,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項3号は,設置許可基
準を定めるものであるから,同号において要求される技術的能力は,重
大事故に対処する設備を設置し,これを運転する能力を指すものと解さ
れる。
しかしながら,同号を受けて定められた技術的能力基準*の「桐弋
事項」は,「重大事故等が発生した場合又は大規模な自然災害若しくは故
意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる発電用原子炉施設
の大規模な損壊が発生した場合における当該事故等に対処するために必
要な体制の整備に関し,法43条の3の24の規定に基づく保安規定等
において,以下の項目が規定される方針であることを確認する」と規定
する。重大事故に対処する能力は,設置許可基準で審査すべきであり,
保安規定は設置許可基準に代替できるものではないにもかかわらず,技
術的能力基準の前記の定めは,設備の設置,運転について言及せず,設
置許可後に審査される保安規定によって体制の整備に関する方針が示さ
れていればよいというのであって,改正原子炉等規制法43条の3の6
第1項3号の目的を実現するために必要な事項を欠いている。
(ウ)常設重大事故等対処設備に求められる水準
シビアアクシデント対策とされる重大事故等対処設備*は,設計基準対
処設備(ママ)の安全機能が喪失した場合に稼働することが予定されて
いる設備である。しかし,設置許可基準規則上,常設重大事故対処設備
(ママ)は,地震動の想定が設計基準対処設備(ママ)と同一であるた
め(39条1項),基準地震動による地震力を超える地震力により同時に
機能を喪失するおそれがある。設置許可基準規則の解釈43条の4によ
ると,常設重大事故防止設備*に多様性を求めることで対応することを求
めるようであるが,多様性だけで地震力への対応の不備を補うことは不
可能であるし,設置場所の高さを変えたとしても,津波には対応できて
も地震には対応できない。
イ有効性評価の問題
(ア)新規制基準においては,シビアアクシデント対策における事故シーケ
ンス*グループの抽出等の一部において,確率論的安全性評価が導入され
たが,本来の意味での確率論的安全性評価は規制要件化されず,シビア
アクシデント対策の有効性評価は,結局のところ,決定論的手法によっ
て行われている。また,事故シーケンスグループの抽出等においても,
外部事象レベル2(放射性物質の放出)の確率論的安全性評価を実施し
ていないから,格納容器の機能喪失に至るような事故シーケンスグルー
プが抽出できないのは当然であって,格納容器の機能喪失に至らないと
いう有効性が確認されてもほとんど意味をなさない。
設置許可基準規則の解釈37条1−3によると,設置許可基準規則3
7条1項の「炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置」の有効性
評価は,]Э瓦涼しい損傷が発生するおそれがないものであり,かつ,
炉心を十分に冷却できるものであること,原子炉冷却材圧力バウンダ
リ*にかかる圧力が最高使用圧力の1.2倍又は限界圧力を下回ること,
8胸厦С頁射憧錺丱Ε鵐瀬蠅砲かる圧力が最高使用圧力又は限界圧力
を下回ること,じ胸厦С頁射憧錺丱Ε鵐瀬蠅砲かる温度が最高使用温
度又は限界温度を下回ること,により確認される。
しかしながら,この判断基準は,安全評価審査指針*(僑粥ィ押砲糧
断基準と同じである。シビアアクシデント対策は,深層防護の第4段階
であるのに対し,安全評価審査指針は,第3段階である。シビアアクシ
デントは,設計基準事故を超える事故であり,より制御が困難になる事
故であるにもかかわらず,制御に成功しなかった場合は考慮せず,ただ
安全設備が有効に働く場合だけを評価するのは,安全性に関する考慮が
不十分である。
(イ)設置許可基準規則37条(同規則の解釈37条)は,有効性評価の際
に,BWR運転中の炉心の著しい損傷防止において必ず含めなければな
らない事故シーケンスとして7例,使用済燃料貯蔵槽内の燃料の著しい
損傷防止において必ず含めなければならない事故シーケンスとして2例,
運転停止中の原子炉内の燃料の著しい損傷防止において必ず含めなけれ
ばならない事故シーケンスとして4例を挙げるのみであり,事故シナリ
オが不足している。
また,同規定を受けて,各有効性評価ガイド*(炉心等に関する有効性
評価ガイド,貯蔵槽内燃料体等に関する有効性評価ガイド,運転停止中
原子炉内燃料体に関する有効性評価ガイド)が策定されているが,検討
すべきシビアアクシデントのシナリオが不足している。しかも,必要な
措置が講じられているか否かについて,各損傷防止対策の有効性がある
ことを確認することにはなっているが,有効にならない場合のシナリオ
とその評価は規定されていないから,これらに従った本件設置変更許可
申請では,安全対策は不十分である。
さらに,有効性評価ガイドは,シビアアクシデントの解析条件として,
「故障を想定した設備を除き,設備の機能を期待することの妥当性(原
子力の圧力,温度及び水位等)が示された場合には,その機能を期待で
きる」,「重大事故等対処設備について,単一故障は仮定しない」などと
しており,シビアアクシデントの想定及び評価方法も限定的である。
(ウ)これに対し,米国では,DCD(DesignControlDocument,設計管理
文書)Ch.(チャプター)19により,約1万9000通りのシビアア
クシデントのシナリオが作られ,日本に比較して検討されるシナリオの
数が圧倒的に多く,また,日本では考慮されていないシビアアクシデン
トが考慮され,最悪の事態まで考慮されている。
また,IAEA*安全基準の安全指針「原子力発電所のシビアアクシデ
ントマネジメント計画」(No.NS−G−2.15)では,「火災,洪水,
地震及び極めて異常な気象状態(例えば,強風,極端な高温や低温及び
淡水)のような,適切に選択した外部事象も対象にすべきである」など
としており,具体的起因事象を検討して,可能性のある起因事象に基づ
いて起こり得ると考えられる全ての事象と事象進展中の複雑な事象を扱
うべきであるということが,IAEAの要求である。
このように,現行の日本のシビアアクシデントの想定及び対策は,国
際基準に劣っており,災害の防止上支障がないものになっていない。
ウ可搬型設備と常設設備
規制委員会は,シビアアクシデント対策は可搬型設備での対応を基本と
し,常設設備との組合せにより更に信頼性が向上するとしている。
しかし,炉心損傷は短時間で生じるため,短時間で稼働することができ
ない可搬型設備をシビアアクシデント対策の基本に据えることは適切では
ない。シビアアクシデント対策は,常設設備を基本とし,可搬型設備を補
充的にすべきである。
エ電源設備
(ア)福島原発事故以前の安全設計審査指針(指針27)では,30分間の
全交流電源喪失(SBO)を想定すれば足りるとされており,長時間の
全交流電源喪失を考慮していなかったことは不合理である。
(イ)新規制基準における設置許可基準規則では,外部電源喪失時の電源設
備の種類と容量を増やすこととされ,まず,設計基準対象施設*について,
非常用電源設備及びその附属設備の多重性又は多様性及び独立性を確保
し,設備の機能を確保するために十分な容量を有すること(外部電源を
喪失したと仮定して7日分)を要求した(設置許可基準規則33条)。さ
らに,シビアアクシデント対策としての重大事故等対処施設*については,
非常用電源喪失に備えて,代替電源設備を設けること,重大事故等に対
応可能な電気を24時間供給できる可搬型直流電源設備を整備すること
などが規定された(同規則57条)。
しかし,その基準を満たす具体的内容が定められておらず,現実の設
備が安全確保のために十分か否かを判断する基準とはなっていない。
(ウ)また,同規則57条2項では,所内常設直流電源設備の3系統目を設
けることが要求されているが,これについて5年間の経過措置期間(平
成30年7月7日まで)が設けられており,安全性を欠いた状態になっ
ている。
オシビアアクシデント対策のパッシブ性*
IAEAのINSAG*(国際原子力安全諮問グループ)の基本安全原則
(INSAG−12*),EUR*(欧州電力事業者要求事項)の共通要件,
WENRA*(西欧原子力規制者会議)の指針においては,人力や動力に依
存せず,自然の原理により作動するパッシブな安全対策設備の採用がうた
われており,安全対策のパッシブ性を高めることが国際基準となっている。
また,米国のNRCが発行したポリシー・ステイトメントは,単純化され
た,自然現象による,パッシブ性の原理を,より信頼性の高いメカニズム
として将来の原子力設備の設計に取り入れるべきとしている。
パッシブ・フラダー(格納容器内の温度が一定以上に上昇すると,流出
口に取り付けられたプラグが溶けて,自動的に冷却水が流入する設備),ラ
プチャー・ディスク(破裂板。格納容器内の圧力が一定以上に上昇すると,
配管に取り付けられたラプチャー・ディスクが破裂して,当該配管から蒸
気を放出させるというもの),コア・キャッチャー(厚いコンクリートに超
耐熱合金を被覆したもので,炉心が溶融して落下した際に,落下した溶融
物を受け止め冷却する設備),PCCS(静的格納容器冷却系。格納容器の
圧力が上昇した際に,格納容器内の蒸気が熱交換器に流れ込み,冷却され
て水となることで格納容器内の圧力上昇を抑える設備)といった,欧米に
おいて採用されているパッシブな安全設備が日本には導入されていない。
なお,日本のプラントメーカーは,米国仕様,欧州仕様にアップグレード
し,これらを取り入れたABWRを提案している。
(6)テロ対策の不備
改正原子炉等規制法1条にテロリズムの発生も想定した必要な規制をする
ことが規定されているところ,設置許可基準規則には,7条に「発電用原子
炉施設への人の不法な侵入,発電用原子炉施設に不正に爆発性又は易燃性を
有する物件その他他人に危害を与え,又は他の物件を損傷するおそれがある
物件が持ち込まれること及び不正アクセス行為を防止するための設備を設け
なければならない」,42条に「原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突
その他テロリズムに対してその重大事故等に対処するために必要な機能が損
なわれるおそれがないものであること」が規定されているだけである。テロ
対策に関する電力会社の申請及び規制委員会の審査も非公開であり,有効な
テロ対策が用意されているのか不明である。
米国においては,設計基準脅威として事業者が対応しなければならないテ
ロを定義して防御するものとされており,例えば,規制側が用意する仮想敵
チームが原発に攻撃を仕掛けてくるのを,原発の戦闘部隊が撃退することを
実証するという物理的実証プロセスが要求される。
欧米においては,テロ対策は公開され,批判に耐えるようなものでなけれ
ば実効性がないと考えられているのに対し,新規制基準は,テロ対策に係る
基準の考え方及び具体的内容において国際的基準を踏まえたものではない。
(7)立地評価の不備
ア本件設置許可処分当時の立地審査指針においては,(旧)重大事故*や
(旧)仮想事故*を仮定した上で,目安として,全身に対する1年間の積算
放射線量が0.25Sv*を超える範囲を非居住地帯又は低人口地帯とする
ものとされていた。しかし,前記の(旧)重大事故や(旧)仮想事故の想
定が甘かったため,福島原発事故では,福島第一原発の敷地境界における
平成23年4月1日から1年間(事故直後の放射線量を含んでいない。)の
積算放射線量は最大0.956Svであり,前記の目安線量を大幅に超え
ている。
そのため,適切な立地指針に改定することが求められているが,新規制
基準においては,立地審査指針の改定はされず,立地審査指針を組み入れ
ることすらしなかった。規制委員会は,シビアアクシデントへの対応が十
分であれば隔離要件は不要としているが,深層防護の考え方は,5段階の
防護を設けて,前段の防護が働かない場合でも次の対応ができるというも
のであり,第4段階に相当するシビアアクシデント対策が十分であれば,
第5段階に相当する隔離要件が不要ということにはならない。
イ以下のとおり,確立された国際基準は,立地評価の段階において,事業
者に対し避難計画の実行可能性や実効性の確保を要求している。しかし,
新規制基準は,福島原発事故の教訓を踏まえ,国際的な基準に劣る部分を
改めるべきものとして定められたにもかかわらず,立地基準が放置され,
必要な立地評価がなされていないという異常な状況にあり,明らかな基準
の瑕疵である。
(ア)IAEA安全基準のNS−R−3*は,2003年版でも2016年版
でも同様に,立地評価により,避難計画策定に当たって克服できない障
害がないこと,つまり避難計画の実施可能性,実効性のある地点である
ことを確認することとされ,その際に考慮しなければならない事項とし
て,「放出された放射性物質の人及び環境への移行に影響を及ぼすような
立地地点及びその周辺環境の特徴」と「外部領域の人口密度,人口分布
及びその他の特徴」を規定している。
また,IAEA安全基準の個別安全指針「原子炉等施設に対する許認
可プロセス」(No.SSG−12)では,「事業許可の条件は,原子炉等施
設の立地評価,…(中略)…の段階で有効な規制管理を可能とするため,
これらに影響を与える安全関連面を,適宜,範疇に含めるべきである。
これらの要件は,とりわけ,…放射線防護,…緊急時の計画と手順,…
などの重要な側面を取り扱うべきである。」と規定しており(同指針
2.15.),これは,立地評価の要件を満たしていない限り原発の建設を許
可しないとすることで,建設予定の原発が必ず立地評価の要件を満たす
ことを確保するものである。さらに,規制機関は,立地地点の容認可能
性に関する決定に関与すべきであり,この立地地点の条件を確定する権
限又は安全上の懸念に基づいて提案された立地地点を却下する権限を有
すべきである(同指針3.4.)とされており,立地評価は事業者に対する
規制である。
(イ)米国NRCが規定する連邦規則(10CFR*Part100)では,非居
住区域は,非居住区域の境界において,原子炉事故に伴う放射能雲の放
出から2時間で受ける被ばく量が25rem*以下の地域とされ,低人口
地帯は,低人口地帯の境界において,原子炉事故に伴い放射能雲の放出
が終わるまでに受ける被ばく量が25rem以下の地域とされている
(10CFRPart100§100.11Determinationofexclusionarea,
lowpopulationzone,andpopulationcenterdistance.〔立入禁止区
域,低人口地帯及び人口密集地までの距離の決定〕)。
また,NRCの連邦規則(10CFRPart50)の緊急時計画の項目
(§50.47EmergencyPlans)において,放射性物質が放出される緊急
事故時に十分な防護措置が取られ得る保障があるとNRCが判断しなけ
れば,原発の運転許可も建設許可もされないと規定している。
(ウ)EURは,ヨーロッパの原子力事業者の要求として,将来導入する原
子炉が満足しなければならない仕様をまとめた文書であるところ,20
01年から既に,「800m以遠に居住する住民の避難が,事故から24
時間後でも間に合うこと。」,「3km以遠に居住する住民の避難が,事故
から4日後でも間に合うこと。」,「800m以遠に居住する住民が,事故
の収束後,速やかに帰還可能であること。」,「経済的影響を最小限にする
ための事故時に放出される放射能量の制限。30TBq*」等の規制があ
る。
英国では,2006年編集「原子力施設の安全評価原則」(Safety
AssessmentPrinciplesforNuclearFacilities2006Ed.)において,立
地の規制評価として,サイト周辺の人口統計学,有効なアクシデントマ
ネジメント及び緊急時の取り決め,サイトと関わりのある外部ハザード
が考慮すべき因子として挙げられ,炉のライフサイクル中のその変動も
考慮すべきこと,オフサイトの人口特性が,有効なオフサイト緊急時対
応ができることを示すべきであること,緊急時対応の実施可能性,公衆
の避難の観点からの地形学的考慮を要求している。
ウ本件原発は,原発から約30kmの地点に約27万人余の人口を擁する
函館市があり,函館市には,学校が143校,幼稚園・保育園は149園,
福祉施設が83施設,病院・診療所は297箇所も存在する。これらの
人々が避難するのに必要な集団輸送体制が著しく不足しており,避難は不
可能又は極めて困難である。また,本件原発からわずか300mの地点に
住人が居住し,原子炉施設から数百メートルの位置には公共施設が存在し,
その周辺には人家が連なっている。したがって,本件原発は立地不適であ
る。
(8)避難計画について
ア深層防護の第5層目を規制内容とすることは,前記のとおり,確立され
た国際的基準であり,原発の設置許可の段階で,避難計画の実行可能性,
実効性を審査しない現行の規制は,確立された国際的基準を踏まえないも
のである。
IAEA安全基準のSSR−2/1*では,深層防護の第5層として,事
故により放出される放射性物質による放射線の影響を緩和することが求め
られ,そのために,十分な装備を備えた緊急時管理センターの整備と,所
内と所外の緊急事態に対応する緊急時計画及び緊急時手順の整備が必要と
されている。そして,IAEA安全基準の全般的安全要件第1編「政府,
法律及び規制の安全に対する枠組み」(No.GSRPart1)は,事業者に
対して,緊急時対応計画を策定する責任及び緊急時準備と緊急時のための
取決めを整える責任を負わせている。具体的には,IAEA安全基準の安
全要件「原子力または放射線の緊急事態に対する準備と対応」(No.GS−
R−2)において,事業者は,敷地内及び敷地外について被ばくを最小限
にとどめるための避難計画を策定するような取決めをしなければならない
とされている。また,IAEA安全基準の全般的安全要件第4編「施設と
活動に対する安全評価」(No.GSRPart4)では,事業者の責任において
避難計画の実効性を評価する「安全評価」を,許認可プロセスの一環とし
て規制当局に提出するものとされている。
イ本件原発において原子力緊急事態が発生した場合,原告らのうち約半数
の住居が集中している函館市,北斗市,七飯町の住民の避難経路は極めて
限定されており,活断層や土砂災害で避難路が寸断される可能性もあり,
集団輸送体制も不足している。車両での避難には燃料の制約があり,鉄道
や航空機での移動は非現実的である。さらに,モリタリング体制の不足や
避難退域時検査(スクリーニング)に長時間を要することなどの事情も考
慮すると,実効性ある避難計画の策定は,不可能である。
(被告国の主張)
(1)新規制基準の策定過程等について
ア新規制基準は,福島原発事故の教訓を踏まえ,海外の知見も参考にしつ
つ,各専門分野の学識経験者等の専門技術的見地に基づく意見を集約した
上で,中立性が担保された学識経験者の関与の下,公開の議論を経て,意
見公募手続等の適正な手続を経て作成されたものであるから,現在の科学
技術水準を踏まえた合理的なものといえる。
イ福島原発事故後の規制基準の見直しは,規制委員会に設置された,原子
炉施設等基準検討チームや地震等基準検討チーム*において検討が行われた。
このうち,原子炉施設等基準検討チームには,中立的な立場から複数の外
部専門家を関与させるため,シビアアクシデント解析等,関係分野の専門
技術的知見を有する学識経験者4名も参加した。原子力機構*の安全研究セ
ンターにおいて研究主席の地位にある者についても,電気事業者等との中
立性の確認が行われた上で,同チームに参加した。また,地震等基準検討
チームには,地震,津波及び地盤等の各種専門分野の専門技術的知見を有
する学識経験者らが,電気事業者等との中立性の確認が行われた上で参加
した。
規制基準の策定に当たっては,透明性・中立性を確保するため,原則と
して,検討チームの議事,資料及び議事録を公開するとともに,外部専門
家に対しては,利益相反の可能性を考慮して電気事業者等との関係に関す
る情報の申告を要求し,当該情報も公開している。
ウ原告らは,福島原発事故の原因が未解明なまま新規制基準が策定された
旨を主張する。
しかし,福島原発事故で発生した全ての設備の故障,破損の具体的な位
置や状態までは調査できていないものの,当該事故の発生及び進展に関す
る基本的な事象は明らかにされており,その発生及び進展は,最新の科学
技術的知見に基づくシビアアクシデントに関する研究結果と大きく異なる
ところはなかった。
その結果を踏まえ,新規制基準においては,地震・津波対策を含めた自
然現象による損傷防止対策の強化等により事故防止対策が強化され,万が
一,炉心の著しい損傷に至るおそれがある事故等が起きた際の対策として,
重大事故等対策が新たに要求された。
そして,重大事故等対策は,施設・設備の機能喪失の具体的な原因が無
数に考えられるため,原因を問わず,設計基準対象施設の持つ安全機能が
喪失することを仮定し,その場合でも炉心の著しい損傷や格納容器の破損
を防止することなどを要求している。
したがって,福島原発事故の具体的な状況が完全に解明されていなくと
も,既に解明された事故の発生・進展状況から得られる教訓に加え,最新
の科学的知見,海外の規制に関する最新知見等を結集することで,重大事
故等対策に係る規制基準を策定することは可能である。
エ原告らは,規制基準の策定に必要な検討時間が不足していたなどと指摘
するが,基準の内容に触れることなく,検討期間が短いことなどを理由と
して規制基準が不合理であるという主張は,それ自体が失当である。
なお,福島原発事故後の規制基準の見直しは,平成24年9月に規制委
員会が設置される以前から,安全委員会及び保安院*において検討が重ねら
れ,報告書として取りまとめられており,規制委員会における各検討チー
ムは,こうした検討による知見を事実上引き継いでいる。
オ規制基準の合理性を検討する上では,最新の科学的,技術的知見を考慮
する必要があるところ,この点に関し,国際的にどのような規制がされて
いるかは,一つの指標となる。そして,原子力の平和利用のための国際的
機関であるIAEAは,安全原則,安全要件及び安全指針から構成される
IAEA安全基準を作成している。
IAEA安全基準は,加盟各国の規制における参考として使用すること
ができるとされており,その全てを加盟各国の規制内容に採用するよう義
務付けるものではなく,加盟各国の判断により取り入れるものである。特
に原発の計画又は設計における安全面を扱うものは,主として新規の施設
と活動への適用を意図しており,初期の基準で建設された既存の施設では
要件が満たされない場合に,IAEA安全基準を既存施設に適用するか否
かは,個々の加盟国の決定事項である。したがって,IAEA安全基準の
全てをそのままには採用せず,専門的技術的知見に基づいて取り入れるべ
き要件を判断した上で定めても,そのことが科学技術水準に照らして不合
理となるものではない。
もっとも,我が国の規制内容は,IAEA安全基準と概ね良好に整合す
るものである。
(2)深層防護について
アIAEA安全基準の最上位である基本安全原則(No.SF−1)では,原
発において事故を防止し,かつ,発生時の事故の影響を緩和する主要な手
段は,深層防護の考え方を適用することであるとされている。また,IA
EA安全基準のSSR−2/1(Rev.1)は,深層防護の考え方を原発の設
計に適用し,以下のとおり,5段階の防護レベルを構築している。
‖茖韻遼標逎譽戰襦並茖荏悄砲蓮つ名鎹薪松態からの逸脱と安全上重
要な機器等の故障を防止することを目的として,品質管理及び適切で実
証された工学的手法に従って,原発が健全でかつ保守的に立地,設計,
建設,保守及び運転されることを要求するものである。
第2の防護レベル(第2層)は,運転期間中に予期される事象(設置
許可基準規則では「運転時の異常な過渡変化*」と定義される。)が事故
状態に拡大することを防止するために,通常運転状態からの逸脱を検知
し,管理することを目的として,設計で特定の系統と仕組みを備えるこ
と,それらの有効性を安全解析により確認すること,さらに運転期間中
に予期される事象を発生させる起因事象を防止するか,さもなければそ
の影響を最小にとどめ,原発を安全な状態に戻す運転手順の確立を要求
するものである。
B茖海遼標逎譽戰襦並茖柿悄砲蓮け薪彰間中に予期される事象又は想
定起因事象が拡大して前記△破標罎任ず,また,設計基準事故に進展
した場合において,固有の安全性及び工学的な安全の仕組み又はその一
方並びに手順により,事故を超える状態に拡大することを防止するとと
もに原発を安全な状態に戻すことができることを要求するものである。
ぢ茖瓦遼標逎譽戰襦並茖漢悄砲蓮ち圧での対策が失敗した場合を想
定し,事故の拡大を防止し,重大事故の影響を緩和することを要求する
ものである(重大事故等に対する安全上の目的は,時間的にも適用範囲
においても限られた防護措置のみで対処可能とするとともに,敷地外の
汚染を回避又は最小化することである。また,早期の放射性物質の放出
又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シーケンスの発生の可能
性を十分に低くすることによって実質的に排除することを要求するもの
である。)。
ヂ茖気遼標逎譽戰襦並茖義悄砲蓮そ殿膸故に起因して発生し得る放射
性物質の放出による影響を緩和することを目的として,十分な装備を備
えた緊急時対応施設の整備と,所内と所外の緊急事態の対応に関する緊
急時計画と緊急時手順の整備が必要であるというものである。
イ設置許可基準規則も,深層防護の考え方を踏まえて策定されており,設
計基準対象施設(同規則第2章)と重大事故等対処施設(同規則第3章)
を明確に区別している。IAEA安全基準との関係で概ね整理すれば,設
計基準対象施設が第1段階から第3段階までに相当する事項を規定し,重
大事故等対処施設が第4段階に相当する事項を規定している。なお,第5
段階に相当する事項については,後記(8)のとおり,災害対策基本法及び原
災法により,原子力災害の発生に係る防災計画の策定等について,国,地
方公共団体,原子力事業者等がそれぞれの責務を果たすこととされている。
(3)共通要因故障について
ア原発の安全機能に影響を及ぼし得る異常を引き起こすおそれのある事象
としては,地震等の自然現象を始めとする外部事象,内部火災・内部溢水
などの発電所内の事象,施設を構成する設備等の偶発故障(ランダム故障)
などがある。このうち外部事象と偶発故障に対する規制の概要は次のとお
りであり,合理性が認められる。
まず,外部事象については,発生それ自体を防止することはできず,ま
た,一度発生すればその影響は施設全体に及び得るため,最新の科学的知
見に基づいて現実に生じ得る外部事象を想定した上,原子炉施設の立地や
設備の強度等の観点から,想定し得る外部事象が発生しても,それによっ
てその安全機能が損なわれないような基本設計を行うことが要求されてい
る(設置許可基準規則3条から6条まで)。すなわち,外部事象に対しては,
それによって一つの機能喪失も生じないような設計を要求しているのであ
る。
これに対し,偶発故障については,そもそも偶発故障が生じないように,
施設を構成する機械や器具について,高度の信頼性を確保することを要求
した上,安全機能の重要度が特に高い安全機能を有する系統については,
当該系統を構成する一つの機械等に偶発故障が生じた場合であっても(単
一故障の仮定),当該系統が機能しなくなるような事態が生じないように,
多重性又は多様性及び独立性を確保すべきものとし(設置許可基準規則1
2条),かつ,通常運転の状態を超える異常状態としての運転時の異常な過
渡変化時及び設計基準事故時において,多重性又は多様性及び独立性が機
能した上で事態を収束できるかについて,安全評価を行うこととしている
(同規則13条,同規則の解釈13条)。
イ原告らは,自然現象を原因とする事故であれば,多数の機器に同時に影
響を及ぼすことがあり得るから,安全機能を司る機器,系統の一つだけが
機能しないという仮定は非現実的であり,共通要因故障を想定すべきであ
るにもかかわらず,設置許可基準規則においては,従前どおり単一故障の
仮定で判断するものとされており,共通要因故障が想定されていない旨を
主張する。
しかし,共通要因故障,すなわち,一つの事象によって複数の系統又は
機器が同時に故障しないようにするための方策としては,個々の設備が,
想定され得る外部事象によってその安全性能が損なわれないような設計が
されることが必要である。新規制基準においては,このような観点から厳
格な規制が行われているのであって,外部事象に対する共通要因故障を考
慮した規制は行われている。その上で,万が一,外部事象が想定を上回る
規模で発生した場合に備えて,重大事故対策も講じているのであるから,
この点でも共通要因故障を考慮した規制がされているということができる。
なお,原告らは,設置許可基準規則の策定過程で「共通要因又は従属要
因による機能喪失が独立性のみで防止できない場合には,その共通要因又
は従属要因による機能の喪失モードに対する多様性及び独立性を備えた設
計であること」とする案が採用されなかったことを指摘する。
しかし,そもそも,独立性とは,「二以上の系統又は機器が,想定される
環境条件及び運転状態において,物理的方法その他の方法によりそれぞれ
互いに分離することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機
能が損なわれないことをいう」(設置許可基準規則2条2項19号)のであ
り,「共通要因又は従属要因による機能喪失が独立性のみで防止できない場
合」というのは,それ自体論理矛盾であるとの指摘がなされたことを受け
て,当該文言が削除されたのであって,その趣旨が共通要因故障を考慮し
ないこととしたものではないことは明らかである。
また,単一故障の仮定とは,重要度の特に高い安全機能を有する系統に
ついて,多重性又は多様性の要件を満たすかを確認するための解析手法で
あって,設置許可基準規則において共通要因故障を考慮した規制を課して
いるか否かとは次元の異なる話である。
(4)安全重要度分類と耐震重要度分類について
ア安全重要度分類と耐震重要度分類
(ア)安全重要度分類は,安全施設*に関して設置許可基準規則12条が規制
する事項である。
すなわち,同条1項において,安全施設は,その安全機能の重要度に
応じて,安全機能が確保されたものでなければならないと規定し,同規
則の解釈12条の1は,その判断を重要度分類審査指針により行うべき
ものとしている。
重要度分類審査指針は,安全施設を,異常発生防止系(PS)と異常
影響緩和系(MS)に分類し,PS及びMSをそれぞれ重要な順に,ク
ラス1からクラス3までに分類した上で,各分類に応じた信頼性の確保
を求めることとしている。
IAEAにおいても,SSR−2/1(Rev.1)において,安全重要度
分類の考え方が規定されており,さらに,個別安全指針「原子力発電所
における構築物,系統及び機器の安全分類」(No.SSG−30)におい
て,安全上重要な構築物,系統及び機器を,設計対応策(重要度分類審
査指針のPSに概ね相当する。)と機能(同じくMSに概ね相当する。)
に分類し,それぞれを安全クラス1から3に振り付けることで,適切な
品質及び信頼性が明確になるとしている。
このように,IAEAの安全重要度分類の考え方と我が国の安全重要
度分類の考え方とは,基本的に同じとなっている。
(イ)耐震重要度分類は,地震による損傷の防止について定める設置許可基
準規則4条が規制する事項である。
すなわち,同条1項は,「設計基準対象施設は,地震力に十分耐えるこ
とができるものでなければならない。」とし,同条2項は,「前項の地震
力は,地震の発生によって生ずるおそれがある設計基準対象施設の安全
機能の喪失に起因する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定し
なければならない」としている。
そして,同規則の解釈(別記2の2)は,前記「影響の程度」を耐震
重要度に応じて分類するものとし,設計基準対象施設は,それぞれの耐
震重要度に応じて,Sクラス,Bクラス,Cクラスに分類するものとし
ている。
イ電源設備
(ア)発電用原子炉施設内で必要とされる電源には,交流電源と直流電源が
あり,交流電源は,炉心を冷却するために水を供給する大型ポンプ等の
機器を動作させるもの,直流電源は,各機器の制御を担う機器等を動作
させるものである。
通常運転時は,交流電源は,当該施設で発電された所内電力供給と外
部電源から電線路を通って供給される外部電源系を利用し,直流電源は,
前記のとおり供給される交流を直流に変換して供給する。
これに対し,事故等の発生に伴い外部電源系が機能喪失した場合は,
非常用ディーゼル発電機から交流の電力を供給し,直流は,当該発電機
で発電された交流を変換し,当該発電機も機能喪失した場合は,非常用
直流電源として蓄電池等を使用する。
(イ)電源設備は,設計基準対象施設であり,かつ,安全施設であるから
(設置許可基準規則2条2項7号,8号),これらに係る規制が適用され
る。そして,設置許可基準規則は,発電用原子炉施設に非常用電源設備
(前記の非常用ディーゼル発電機や非常用交流電源等)を設けることを
規定し(33条2項),非常用電源及びその附属設備は,多重性又は多様
性及び独立性を確保し,その系統を構成する機械等の単一故障が発生し
た場合であっても,事故等に対処するための設備がその機能を確保する
ために十分な容量を有するものでなければならないとしている(同条7
項)。
ここで,「十分な容量」とは,必要とされる電力を供給できる発電容量
があること及び外部電源系が長期間復旧できないことに備え,発電所へ
の燃料補給等の外部支援がなくとも,7日間非常用ディーゼル発電機等
を運転するのに必要な容量以上の燃料を敷地内に貯蔵できることを指し
ている(設置許可基準規則の解釈33条の7)。
(ウ)非常用電源設備である非常用ディーゼル発電機は,安全重要度がMS
−1,耐震重要度がSクラスに分類される。これに対し,外部電源系の
うち,発電所内にある開閉所等の電源設備は,安全重要度がPS−3,
耐震重要度がCクラスに分類されている(外部電源系のうち,発電所外
にある電線路等は,発電用原子炉施設ではないため,各重要度分類の対
象外である。)。
これは,外部電源系による電力供給が,遠く離れた発電所等から電線
路等を経由して供給されるものであり,長大な電線路の全てについて高
い信頼度を確保することは不可能であること,そもそも当該電線路は発
電所外の設備であり,原発側から管理することができないものであるこ
とから,事故等の発生時は外部電源系による電力供給を期待すべきでは
なく,非常用電源設備により対応すべきものと考えられることによるも
のである。
このような考え方は,IAEA安全基準のSSR−2/1(Rev.1)と
も整合する世界共通の考え方である。
ウ使用済燃料の貯蔵施設
(ア)使用済燃料の貯蔵施設は,使用済燃料に残存する核分裂性物質の臨界
を防止し,核分裂生成物等が放出する崩壊熱を除去し,放射線を遮断す
る設計であることが求められる(設置許可基準規則16条2項)。
そして,使用済燃料の放射性物質を閉じ込める役割を果たす燃料被覆
管は,概ね1200℃以下であれば冷却可能な形状を維持できるもので
あるところ,使用済燃料が使用済燃料貯蔵槽内で冠水されていれば,燃
料被覆管が100℃以上に上昇することは考えられない。また,使用済
燃料は,運転中の炉心の燃料のように高温・高圧の環境下にはないため,
格納容器のような設備で閉じ込める必要はないものと考えられる。
そのため,使用済燃料の貯蔵施設に係る点として最も重要なのは,使
用済燃料貯蔵槽内を冠水状態に維持することである。
使用済燃料の貯蔵施設は,設計基準対象施設であり,かつ,安全施設
であるから(設置許可基準規則2条2項7号,8号),これらに係る規制
が適用される。
(イ)使用済燃料の貯蔵施設は,主に,〇藩兀冉確礎蔵槽,∧箋訖綫瀏,
N箋儼呂砲茲辰胴柔されるところ,これらのうち,〇藩兀冉確礎蔵
槽は,設置許可基準規則の解釈(別記2の2一)においてSクラスの施
設として明記されている「使用済燃料を貯蔵するための施設」に当たり,
∧箋訖綫瀏も,「使用済燃料を貯蔵するための施設」の機能を一部担う
ため,いずれも耐震重要度Sクラスに分類される。
これに対し,N箋儼呂蓮て渦鮗瓠癖無2の2二)においてBクラス
の施設として明記されている「使用済燃料を冷却するための施設」に当
たり,耐震重要度Bクラスに分類される。これは,使用済燃料の崩壊熱
は時間の経過により急激に低下するものであり(原子炉の定格出力時に
発生する熱と比較すると,原子炉の停止直後に7%,24時間後に1%
未満となる。),冷却系の機能を喪失したとしても,補給水設備により使
用済燃料補給プールに水が補給できれば,崩壊熱の除去及び放射線の遮
断等は可能であり,補給水設備により機能を代替できるため,その影響
の程度はSクラス施設と比べて小さいことによるものである。
(ウ)また,〇藩兀冉確礎蔵槽は,重要度分類審査指針(掘ィ押ヂ茖寡宗
において,PS−2に当たる機能として明記されている「原子炉冷却材
圧力バウンダリに直接接続されていないものであって,放射性物質を貯
蔵する機能」に当たり,安全重要度PS−2に分類される。
∧箋訖綫瀏は,同指針(同第2表)において,MS−2に当たる機
能として明記されている「燃料プール水の補給機能」に当たり,安全重
要度MS−2に分類される。もっとも,補給水設備の電気系統について
は,同指針(后ィ押(3)(a))により,「重要度の特に高い安全機能」
(安全設計審査指針の指針48第1項,第4項)を有すべきものとされ,
外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設
計であることなどが求められている。
N箋儼呂蓮そ斗彭拱類審査指針(解説付表)において,PS−2の
「特記すべき関連系(BWR)」として明記されている「使用済燃料プー
ル冷却系」に当たり,安全重要度PS−2に分類される。
原告らは,これらの設備の安全重要度がクラス1に分類されていない
ことが適切でない旨を主張するが,これらの設備について,本来的に,
安全重要度分類においてハイクラスに分類すべき事情は見当たらず,補
給水設備の電気系統については「重要度の特に高い安全機能」を有すべ
きものとされ,十分な設計上の考慮がされるから,これらの安全重要度
分類は,それぞれの施設の特徴に応じて合理的に設定されたものといえ
る。
(5)重大事故等対策(シビアアクシデント対策)について
ア重大事故等及び大規模損壊への対策に係る規制の概要
設置許可基準規則は,そもそも設計基準として,事故の誘因を排除する
目的で想定すべき自然現象を含む外部事象による損傷防止を要求すること
に加え,事故防止対策を講じることを要求し(同規則第2章),さらに深層
防護の観点から,重大事故等対策を講じることを要求している(同規則第
3章)。これらの対策が講じられることによって,事故防止対策及び重大事
故等対策に関する要求は十分高い水準になっているが,さらに,同規則は,
想定を大幅に上回る外部事象による大規模損壊への対策を求めることに
よって,放射線による影響緩和のための対処をすることを求めている。
これらのうち,重大事故等対策及び大規模損壊への対策の概要は次のと
おりである。
(ア)設置許可基準規則は,重大事故等(設置許可基準規則2条2項11号)
への対策として,網羅的,体系的に事故の原因と事故に至るまでの発展
(事故シーケンス)を想定し,事故発生及び拡大を防止する対策の立案
とその有効性の確認を求めている(同規則の解釈37条)。
(イ)次に,重大事故等対処施設については,自然的条件(地震及び津波)
や内部火災に対し,重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれ
るおそれがないことを要求している(同規則38条から42条まで)。ま
た,このうち特定重大事故等対処施設*については,社会的条件(故意に
よる大型航空機の衝突その他のテロリズム)に対して,重大事故等に対
処するために必要な機能が損なわれるおそれがないことを要求している
(同規則42条)。なお,同規則42条にいう「故意による大型航空機の
衝突その他のテロリズム」は,大規模損壊について定めた実用炉規則8
6条の「故意による大型航空機の衝突その他のテロリズム」と同義であ
る。
さらに,重大事故等対処設備については,全ての設備に共通する一般
的要求事項として,可搬型及び常設の各設備の役割を踏まえた機能等を
要求しており(設置許可基準規則43条),この中で,大規模損壊に備え
た可搬型重大事故等対処設備の保管等(同規則43条3項5号)につい
ても定めている。また,重大事故等対処設備への個別的要求事項として,
炉心の著しい損傷等を防止するための対策(同規則44条から49条1
項まで),原子炉格納容器の破損等を防止する対策(同規則49条2項,
50条から53条まで),使用済燃料貯蔵槽の冷却等のための対策(同規
則54条),放射性物質の拡散を抑制するための設備(同規則55条),
その他の設備(同規則56条から62条まで)を要求し,多重的に防護
措置を講じている。
(ウ)このほか,発電用原子炉設置許可申請者には,重大事故等の発生及び
拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力等が要求さ
れている(改正原子炉等規制法43条の3第1項3号,技術的能力基準
供ィ院法
また,大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテ
ロリズムによる発電用原子炉施設の大規模損壊(実用炉規則86条)が
発生した場合における技術的能力基準(供ィ押暴蠶蠅梁寮が整備され
ていることを要求している。
イ有効性評価について
(ア)設置許可基準規則37条は,炉心の著しい損傷の防止対策,原子炉格
納容器の破損の防止対策等について,有効性評価の実施を求めている。
このうち,炉心損傷防止対策における有効性評価では,これまでの研
究成果等を踏まえ,有意な炉心損傷頻度をもたらす様々な事故シーケン
スを概ね網羅すると考えられる事故シーケンスグループを「必ず想定す
る事故シーケンスグループ」として定め(SBO,LOCA時注水機能
喪失など),さらに,個別プラントの内部事象に関する確率論的リスク評
価(PRA)及び外部事象に関する適用可能なPRA又はそれに代わる
方法で評価し,その結果,有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケン
スグループが抽出された場合には,これも「想定する事故シーケンスグ
ループ」に追加することを求めている(設置許可基準規則の解釈37条)。
そして,想定する事故シーケンスグループごとに重要事故シーケンスを
選定した上(有効性評価ガイド),計算シミュレーション等により有効性
評価を行う。
(イ)原告らは,自然現象を原因とする故障を考えれば,解析上の事故シー
ケンスで想定していない系統,機器の故障が発生することもあり得るが,
それは考慮されていないなどと主張する。
しかし,重大事故等対策は,設計基準事象では想定していない共通要
因故障や多重故障が生じた場合にも対策の有効性を評価することが要求
されているため,有効性評価において想定されている事故シーケンスは,
複数の故障(多重故障,共通要因故障)が組み合わさって形成されてお
り,この点に関しておよそ不合理な点は認められない。また,前記(ア)の
とおり,重要な事故シーケンス選定の過程で,自然現象(自然現象は,
外部事象に含まれる。)に起因する故障も考慮されている。一方,このよ
うな事故シーケンスの選定も成立しないような大規模な自然災害に対し
ては,後記(6)アのとおり大規模損壊に係る規制を行っている。
(ウ)原告らは,原子炉施設等基準検討チーム第3回会合の資料3に「各事
故シーケンスにおいては,多重故障を想定した設備を除き,健全である
と想定する。また,各事故シーケンスにおいて,設計基準事故で想定す
る単一故障を重ねて想定しなくてよい。」などとされている点を指摘して,
不合理であると主張する。しかしこれは,有効性評価の方法を理解しな
いものである。
例えば,大破断LOCA(主冷却管が瞬時に破断したような場合)を
起因事象とし,その後,原子炉隔離時冷却系(RCIC)及び非常用炉
心冷却設備(ECCS)の作動に失敗し,炉心冷却機能を喪失し,炉心
損傷に至るという事故シーケンスを選定して有効性評価を行う際,さら
に別途,単一故障(例えば,非常用ディーゼル発電機1機の故障)が生
じるものと仮定すると,選定した事故シーケンスとは異なる事故シーケ
ンスを評価していることとなる。確率論の面でも,評価対象となる事故
シーケンスの発生確率が異なるものになる(大破断LOCA及び炉心冷
却機能喪失が発生する確率に,非常用ディーゼル発電機1機の故障が発
生する確率を掛け合わせると,その発生確率はより低くなる。)。
(エ)原告らは,高圧・低圧注入機能喪失とSBOが同時に発生する事故
シーケンスがないなどとも指摘する。しかし,前記(ア)のとおり,必ず想
定する事故シーケンスグループに掲げられていなくても,個別プラント
評価により,有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケンスグループが
抽出された場合には,想定する事故シーケンスグループとして追加する
こととされている。
ただし,炉心損傷防止対策において想定する事故シーケンスグループ
は,発生頻度が低いと考えられるため,二つの想定する事故シーケンス
グループが重畳するという極めて低い頻度になる場合までを検討するこ
とはしていない。もっとも,事故シーケンスグループごとに炉心の著し
い損傷の防止対策を定めることから,仮にそのような事故の重畳が発生
したとしても,それぞれの防止対策を柔軟に活用し,対処することが可
能である。
ウ設備の可搬性
(ア)前記ア(イ)のとおり,設置許可基準規則は,重大事故等対処設備に係る
要求事項を定めているところ,重大事故等対策においては,常設設備を
設置する場合には設計する際に必ず設計上の想定を定めなければならな
いため,設計上の想定を超えた場合の効果が限定される可能性がある。
他方,可搬型設備は柔軟性があり,経験則的に耐震上優れた特性が認め
られる。このため,重大事故等対策では可搬型設備による対策を基本と
している。
(イ)これに対し,原告らは,短時間で稼働することができない可搬型設備
をシビアアクシデント対策の基本に据えることは適切ではない旨を主張
する。
しかし,接続に要する時間は接続手法の改善で短縮が見込めるもので
ある。また,重大事故等対策は,深層防護の観点から,想定を上回る不
測の事態に対処するために要求されているものであり,事前に設計上の
想定を要せず,柔軟に対応することが可能となる可搬型設備を基本とし
た対応を要求することは何ら不合理ではないというべきである。
なお,設置許可基準規則は,可搬型設備と常設設備の特性に応じてそ
れぞれに役割を持たせることとしており,可搬型設備のみを設定すれば
よいとしているものではない。
エ電源設備
(ア)新規制基準策定前の安全設計審査指針(指針27)は,「原子炉施設は,
短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,
停止後の冷却を確保できる設計であること」と定め,同指針27の解説
部分に「長時間にわたる全交流動力電源喪失は考慮する必要はない」旨
が記載されているところ,原告らは,本件設置許可処分当時,安全設計
審査指針が長時間の全交流動力電源喪失を考慮していなかったことが不
合理である旨を主張する。
しかし,安全設計審査指針が長時間の全交流動力電源喪失を考慮して
いなかったのは,同指針において,重要度の特に高い安全機能を有する
構築物,系統及び機器が電源を必要とする場合,外部電源及び非常用所
内電源の双方からの電力供給が確保され,外部電源系は,複数回線の送
電線により電力系統に接続されることが要求されていることに加え,非
常用所内電源系は,多重性,多様性,独立性が設計上考慮されており,
この系統の機器の単一故障を仮定した場合にも,運転時の異常な過渡変
化時において,支障なく原子炉を停止,冷却し,原子炉冷却材喪失等の
事故時には炉心冷却を行い,原子炉格納容器の健全性等を確保するのに
十分な容量及び機能を有する設計であることが要求されていることから,
長時間にわたる全交流動力電源喪失はおよそ想定し難いと考えられたこ
とによるものであり,この考え方は,本件設置許可処分当時,専門家の
一般的,通説的知見に基づくものであったため,このような方針を採用
したことが不合理なものとはいえない。
(イ)原告らは,新規制基準において,外部電源喪失時の非常用電源設備等
の種類と容量を増やすことが定められたが,この基準を満たす具体的内
容が定められていないことを指摘する。
この点,福島原発事故の教訓を踏まえ,非常用電源設備に十分な容量
が要求されるようになったこと及びその具体的内容は,前記(4)イ(イ)の
とおりである。しかし,各発電所の設備がそれぞれ異なる以上,その非
常用電源として具体的にどのような非常用電源設備がどの程度必要とさ
れるかも発電所ごとに異なるのであり,必要な設備等の種類や容量等を
一律に定めることは不可能である。
(ウ)原告らは,特定重大事故等対処施設である所内常設直流電源設備の3
系統目を設けることについて,5年間の経過措置期間(既設炉につき平
成25年7月8日以降最初に行われる工事認可の日から記載して5年間)
が定められたことが不当である旨を主張する。
しかし,特定重大事故等対処施設において要求されている機能は,そ
れ以外の施設においても重大事故等対策に必要な機能として既に要求さ
れているのであって,特定重大事故等対処施設は,更なる機能の信頼性
向上のためのバックアップであるから,それが設置されていなければ直
ちに危険が生ずるというような施設ではない。よって,5年間は不合理
な経過措置期間ではない。
オ受動的安全設備(安全対策のパッシブ性)
原告らは,安全対策のパッシブ性を高めることが国際基準であり,重大
事故等対策において受動的安全設備を要求事項としていないことが不合理
である旨を主張する。
しかし,重大事故等対策として受動的安全設備を設けるよう要求するこ
とが,国際的な規制水準になっているとは認められない。すなわち,原告
らの指摘するINSAG−12は,INSAGによって作成された将来的
な目標にすぎないものであり,IAEA安全基準として採用されているも
のではない。EURは,西欧諸国の新たな原発の建設需要の減少を受けて,
原子力プラントメーカーが,広く西欧各国を市場として新たな原発を開発,
建設することができるよう要求事項を取りまとめたものであり,EURに
適合しない原発も現在運転されていること,WENRAの指針は,参加国
の多様な規制制度及び稼動中の発電所の種類の広さを前提としており,法
的及び技術的に深く踏み込んだものではないこと(なお,WENRAの指
針で示されている自動化又は受動性は,設置許可基準規則でいう運転時の
異常な過渡変化又はこれを引き起こす偶発故障の場合についてであって,
重大事故等対策ではない。),NRCが発出するポリシー・ステイトメント
は,事案に対するNRCの期待を示すものであって規制要件ではないこと
(他方,NRCの規則である10CFRPart50には,受動的安全設備を
要求する規定は見当たらない。)などから,いずれも国際的な規制基準とい
えるものではない。
実質的にみても,受動的安全設備は,人為的な操作がなくても一定の物
理的条件下で作動する特徴がある一方,事故時における限定的な状況でし
か作動せず,臨機かつ柔軟な対応ができない特徴があり,必ずしも重大事
故等対策として運転員等が能動的に作動させる設備より優れているとはい
えないものであるから,これを要求しないことが不合理であるとはいえな
い。なお,我が国においても,偶発故障に対しては,受動的安全設備を要
求しているものがある(設置許可基準規則10条,24条)。
(6)テロ対策について
ア設置許可基準規則42条は,発電用原子炉を設置する工場又は事業所に
特定重大事故等対処施設を設けることを要求している。特定重大事故等対
処施設とは,故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムにより炉心
の著しい損傷が発生するおそれがある場合又は炉心の著しい損傷が発生し
た場合において,原子炉格納容器の破損による発電所外への放射性物質の
異常な水準の放出を抑制するためのものをいい(設置許可基準規則2条2
項12号),例えば,原子炉から100m以上離れた場所に,常設の電源,
注水ポンプ等の設備を有した特定重大事故等対処施設を設けることが要求
されている(同規則の解釈42条の1,3等)。
また,発電用原子炉設置者には,故意による大型航空機の衝突その他の
テロリズムによる大規模損壊が発生した場合における体制の整備が要求さ
れている(技術的能力基準2.1,実用炉規則86条)。
イ原発に対するテロ行為に対しては,事態対処法*に基づき,国が対応する
ことが予定されている。
我が国においては,民間人が拳銃等を所持することは法律上許されてお
らず,テロ行為それ自体に対する対処を原子力事業者に行わせることは困
難であり,法制度の全く異なる米国と比較することは失当であって,改正
原子炉等規制法上も,原子力事業者がこれを行うことは予定していないと
いうべきである。
(7)立地評価について
ア立地審査指針の法的な位置付け
立地審査指針は,福島原発事故後においても規制機関によって改廃され
てはいないが,改正原子炉等規制法の施行後においては,設置許可の基準
を定める同法43条の3の6第1項4号所定の規則ではなく,また,同号
の委任を受けて規制委員会が策定した設置許可基準規則においても採用さ
れず,同規則の解釈においても引用されていない。したがって,現在,立
地審査指針は,審査基準として使用されていない。
イ立地審査指針の概要
旧原子炉等規制法の下において,立地審査指針は,万一の事故に備え公
衆の安全を確保するために,原則的立地条件として,次のとおり定めてい
る。
‖腓な事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことは
もちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと。また,
災害を拡大するような事象も少ないこと。
原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れ
ていること。
8胸厦Г良瀉呂蓮い修亮辺も含め,必要に応じ公衆に対し適切な措
置を講じうる環境にあること。
そして,前記原則的立地条件を踏まえ,(旧)重大事故の発生を仮定して
も周辺の公衆に放射線障害を与えないこと,(旧)仮想事故の発生を仮定し
ても周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと,(旧)仮想事故の場合
には集団線量に対する影響が十分に小さいこと,を達成すべき基本的目標
として設定している。
以上を踏まえ,立地審査指針においては,次の事項を判断していた。
(ア)敷地周辺の公衆に放射線による確定的影響を与えないため,(旧)重大
事故を仮定した上で,目安として,甲状腺(小児)に対し1.5Sv,
全身に対して0.25Svを超える範囲は非居住地帯であること(同指
針別紙2の1)
(イ)防災活動を講じ得る環境にある地帯とするため,(旧)仮想事故を仮想
した上で,目安として,甲状腺(成人)に対し3Sv,全身に対して0.
25Svを超える範囲は低人口地帯であること(同指針別紙2の2)
(ウ)社会的影響を低減するため,(旧)仮想事故を仮想した上で,目安とし
て,全身線量の人口積算値が例えば2万人Svを下回るように,原子炉
敷地が人口密集地帯から離れていること(同指針別紙2の3)
ウ新規制基準の下での立地に係る規制と立地審査指針との関係
立地審査指針における原則的立地条件のうち,前記,粒杏事象との関
係については,設置許可基準規則においても,実質的に同様の要求がなさ
れている。
また,前記△慮衆からの隔離及びの防災対策との関係については,
前記(5)のとおり,設置許可基準規則において重大事故等対策に係る規定が
整備され,有効性評価において,放射性物質による環境への影響をできる
だけ小さくとどめるものであることが求められており,実質的には立地審
査指針における隔離要件よりも厳しい要求がされている。防災対策につい
ても,原災法が整備され,原子力災害対策の充実と強化が行われたため,
立地審査指針における低人口地帯を要求することは,現在においては意義
が失われている上,とりわけ避難計画については,本来的に地域の実情に
精通した地方公共団体が中心となって策定されるべきものである。これら
により,原則的立地条件を立地審査の過程で審査することが必然ではなく
なったことから,新規制基準において,立地審査指針は用いられないこと
とされた。
エ原告らの主張に対する反論
原告らは,新規制基準が隔離要件を適用していないことが不合理である
と主張する。しかし,重大事故等対策が全て奏功せず,炉心が著しく損傷
し,原子炉格納容器が破損し,福島原発事故と同様の放射性物質が異常な
水準で放出するような事態は,確率論的に極めて稀である。そして,規制
権限の行使については規制委員会の専門的技術的裁量に委ねられているの
であるから,規制委員会が前記のような極めて稀な事態に対して規制手段
を採用しなかったとしても,そのことから直ちに新規制基準が不合理であ
るとはいえない。
(8)避難計画について
アIAEA安全基準における避難計画の位置付け
避難計画は,IAEA安全基準のSSR−2/1(Rev.1)が,第5段階
の防護レベルとして策定を求める所外の緊急事態の対応に関する緊急時計
画と緊急時手順の整備に含まれる。もっとも,SSR−2/1(Rev.1)は,
深層防護の概念を原発の設計に適用すべきとしているにとどまり,必ずし
も第1段階から第5段階の全ての対応を設置許可基準規則等の原子力事業
者に対する規制に規定することが求められているわけではない。
また,IAEA安全基準の全般的安全要件第7編「原子力又は放射線の
緊急事態に対する準備と対応」(No.GSRPart7)においても,政府は,
規定を設け,原子力又は放射線源による緊急事態に対する準備と対応に関
する役割と責任を明示し,割り当てることを確実なものとしなければなら
ないとされており,避難計画に関する事項を含む緊急事態に対する準備と
対応について原子力事業者に対する規制として規定することは求められて
いない。
原告らが指摘するIAEA安全基準の個別安全指針「原子炉等施設に対
する許認可プロセス」(No.SSG−12)の2.15.も,避難計画を事
業許可の条件として求めていない。同指針において記載されている「放射
線防護」は,敷地外の避難計画を意味するものではなく,ここで事業者に
課されている「緊急時の計画」も,前記GSRPart7の4.16.及び4.
17.のとおり,敷地外の避難計画を含まない。
IAEA安全基準の全般的安全要件「施設と活動に対する安全評価」(No.
GSRPart4〔Rev.1〕)も,敷地外の避難計画の実効性を評価するものと
はされていない。
イ我が国の法体系における避難計画の位置付け
我が国の法制度上,SSR−2/1(Rev.1)が示す深層防護のうち第1
段階から第4段階までの防護レベルに相当する事項については,改正原子
炉等規制法や設置許可基準規則において,原子力事業者に対する規制とし
て規定される一方,第5段階の防護レベルに相当する避難計画等の整備は,
災害対策基本法及び原災法により,「災害」の一形態としての「原子力災害」
として,国,地方公共団体及び原子力事業者等が,相互に連携を図りなが
ら協力して原子力災害予防対策を実施すべきものとされ,避難計画の策定
については,地域の事情に精通した地方公共団体が中心になって策定する
こととなる。
これに対し,原子力事業者は,原子力災害の発生及び拡大を防止し,原
子力災害の復旧を図るために必要な業務を行う責務を負うものであるが,
当該地域の住民等の避難計画を策定し,それに従って住民等を行動させる
権限や責務を有しておらず,避難計画を策定することはできない。
また,規制委員会は,専門的・技術的事項について情報提供等を行うこ
とは可能であるものの(原災法6条の2により,原子力災害対策指針を定
めることとされている。),各地域の実情等については精通しておらず,こ
れに適合した避難計画が策定されているか否かについて判断することは困
難である。改正原子炉等規制法とは別に原災法が定められたことに鑑みて
も,同法が,規制委員会が改正原子炉等規制法に基づく規制権限の行使と
して原子力事業者等に対し避難計画の策定等を義務付けることを予定して
いないことは明らかである。
ウ原子力事業者の防災計画
原子力事業者は,原子力災害の発生及び拡大の防止に関し一定の措置を
講じる責務を有するとされているところ(改正原子炉等規制法3条),その
原子力事業所ごとに原子力事業者防災業務計画を作成等しなければならな
いとされている(原災法7条1項)。そして,かかる義務を実効化するため,
内閣総理大臣及び規制委員会は,原子力事業者が同項の規定に違反してい
ると認めるとき,又は,原子力事業者防災業務計画が当該原子力事業所に
係る原子力災害の発生若しくは拡大を防止するために十分でないと認める
ときは,原子力事業者に対し,同計画の作成又は修正を命ずることができ
(原災法7条4項),仮に,原子力事業者である発電用原子炉設置者がこれ
に違反した場合,規制委員会は,設置許可の取消し又は1年以内の期間を
定めて発電用原子炉の運転停止を命ずることができるとされている(改正
原子炉等規制法43条の3の20第2項22号)。
(被告電源開発の主張)
(1)被告国の主張を援用する。
(2)IAEA安全基準等について
被告電源開発は,本件原発の安全設計に当たって,国際的な合意を尊重し,
自主的にIAEA安全基準をも参考として,深層防護の考慮や安全解析の実
施などを行っているが,IAEA安全基準は,加盟国の規制に反映させるこ
とが期待されているものの,事業者が直接これに準拠し適合させる義務を負
うものではない。
また,欧州に建設する新設の軽水炉を対象とした,欧州の有志の電力会社
が集まって定めた仕様にすぎないEURを,日本の原発に適合させなければ
ならない合理的理由はない。
(3)非常用取水設備の耐震重要度分類等について
ア非常用取水設備を含む屋外重要土木構造物に関して,耐震設計に係る工
認審査ガイド(別紙2の第4(29))には,‥斂攅渋なの静的地震力は,
JEAG4601*の規定を参考に,Cクラスの建物・構造物に適用される
静的地震力を考慮していること,屋外重要土木構造物の耐震設計に当
たっては,基準地震動Ss*による地震力に対する安全機能の保持を確認す
るため,水平方向及び鉛直方向の基準地震動Ssに基づく構造物の地震力
を適用していること,という規定がある。これを踏まえ,本件原発の非常
用取水設備は,Cクラスの建物・構造物に適用される静的地震力を考慮し
て設計し,かつ,基準地震動Ssによる地震力に対して損壊し取水を妨げ
ることがないことを確認することとしている。
イこれに加え,沖合タンカーからの油漏れに対しては,直ちにオイル・
フェンスの設置等の対策を,異常発生したクラゲや藻の流入に対しては,
取水口前面のカーテンウォール,取水口スクリーン室に設けられるスク
リーン,海水ポンプ出口に設置するストレーナによりそれらの異物を除去
することなどの対策が講じられるのであって,これらの対策を無視して,
本件原発の取水口及び取水路の各系統が近接していることのみをもって同
時に機能喪失する可能性があるとする原告らの主張は理由がない。
(4)重大事故等対策について
ア有効性評価について
IAEA安全基準の安全指針である「原子力発電所のシビアアクシデン
トマネジメント計画」(No.NS−G−2.15)は,レベル2PSA(P
RA)*(PRAのうち炉心損傷に至る事故シーケンスを解析し,炉心損傷
頻度を算出するものを「レベル1PRA」,格納容器破損に至る事故シーケ
ンスを解析し,格納容器損傷頻度を算出するものを「レベル1.5PRA」
といい,これに加え放射性物質の種類や量も併せて算出する評価を「レベ
ル2PRA」という。)の実施を要求したものではない。被告電源開発は,
本件原発において,レベル1.5PRAを実施し,これにより原発の有効
性評価において用いる格納容器破損の防止に係る事故シーケンスを選定す
る目的を十分達成することができる。
被告電源開発が講じる更なる対策に不足がないかどうかは,本件原発を
対象としたPRAの結果からも確認しているが,さらに,外部組織である
社団法人原子力安全推進協会に依頼し,別の方法を用いた充足性評価を実
施した。これは,IAEA安全報告書シリーズ「原子力発電所の深層防護
の評価」(No.SRS−46)に基づくものであり,SSR−2/1などの
IAEA安全基準にも対応したものとなっている。
イ可搬型設備について
本件原発において,可搬型設備は,更なる対策で設ける常設設備が機能
喪失した場合を想定して設けることとしており,当該可搬型設備と同等の
機能を有する常設設備が常に存在する。すなわち,「まず最初に可搬型設備
を持ってくる」といった考え方は,本件原発には存在しない。
ただし,可搬型設備は,常設設備に対し,多様性,独立性及び位置的分
散を考慮した設備として安全上重要な機能を代替できることに加え,事故
の進展の状況に応じて臨機かつ柔軟な対応が可能という利点を有しており,
事故収束のためのツールとして重要な選択肢の一つである。その設置のた
めの作業を要するという点については,手順書を整備し訓練を継続して実
施することにより,これを迅速に行えるようにすることが可能である。
ウ電源設備について
被告電源開発においては,所内常設直流電源設備の3系統目を5年間の
経過措置規定にかかわらず当初より設ける設計とするなどしているほか,
外部電源喪失時に備えて電源設備強化対策を講じ,念のための更なる対策
も用意している。
エパッシブ機器について
INSAGの基本安全原則(INSAG−12)は,パッシブ機器につ
いて,電源等の外部サポート系から独立していること,構造が単純である
ことなどをその利点とする一方で,液体系における駆動力の低さ及び異常
状態における柔軟性の低さといった欠点があること,新規のパッシブ系の
性能に関する既存データの制限に特別な注意を払わなければならないこと
などを述べ,その上で,パッシブ機能の利点と欠点は,設計段階において
慎重に考慮されるという偏りのない考え方を採っている。このことは,学
識経験者も明らかにしているところである。このことから,原発における
パッシブ機器の採否は,利点のみならず欠点も慎重に考慮して決定するこ
とが必要であり,パッシブ機器を採用しないことをもって本件原発が欧州
の原発に安全性において劣るかのようにいう原告らの主張は正当ではない。
また,本件原発の更なる対策の有効性評価においては,可搬型設備が必
要とされる場合でも事故発生から12時間はこれに期待しないこととして
おり,この前提で有効性評価を行っている。その結果,設計基準事故を超
えた炉心の著しい損傷を含む状態が発生してから一定時間は可搬型設備に
期待すべきでないとするEURの設計仕様を満足している(なお,EUR
の当該設計仕様は,事故後一定時間は可搬型設備に期待すべきではないと
するものであって,常設設備を運転員が操作することなどは何ら否定され
ておらず,「人的対応が一定時間は不要である」などということとは,大き
く意味が異なる。)。
(5)テロ対策について
そもそも犯罪の予防及び鎮圧は,警察,海上保安庁の責務とされており
(警察法2条,海上保安庁法2条),警察庁は,武装した銃器対策部隊が24
時間体制で原子力関連施設を警戒しているほか,テロ事案発生時には,高度
な制圧能力を有する特殊部隊を投入するという,二段構えの体制を採ってい
る。海上保安庁は,水際対策,巡視船艇・航空機による警戒監視,旅客ター
ミナル等での海上保安官による警戒,不測の事態に備えた即応体制の確保等
の対策を講じるとしている。また,武力攻撃事態等に対しては,国が主導的
に対処するという考え方のもと,国全体として万全の措置を講ずることとさ
れている(国民保護法*,事態対処法)。
事業者である被告電源開発は,本件原発に対する妨害破壊行為を防止する
ため,防護区域,その周りを周辺防護区域,さらにその周りを立入制限区域
として,多重の区画で囲み,必要な措置を講じる(実用炉規則91条2項)。
また,武力攻撃による原子力災害の発生又は拡大の防止のため応分の責務を
果たすこととしている(国民保護法36条,105条,106条)。
(6)避難計画について
ア原子力事業者にとっても深層防護の第5段階に相当する原子力防災対策
は,運転開始前の保安規定の認可申請書を提出する日までに,原子力事業
者防災業務計画として作成することとされており,第4段階の対策とは別
の法令に基づきその妥当性が確認される。このことから,原子力災害対策
の妥当性が確認されないまま運転を開始することはそもそもあり得ない。
イ被告電源開発は,原災法等に基づき,本件原発に燃料が搬入・装荷され
るまでに,原子力事業者防災業務計画を策定するとともに,関係機関への
通報及び関係機関との情報共有を確実に行うために必要な体制の整備,放
射線測定設備の設置等を行うなど原子力災害対策も行う予定である。
本件原発の運転開始後は,IAEA安全基準の個別安全指針「原子力発
電所の定期安全レビュー」(No.SSG−25)を参考にして,原子力事業
者防災業務計画で定めた事項が引き続き十分な状態にあることを定期的に
評価することとしている。
ウなお,米国においては,原発設置者が作成する緊急時計画について,N
RCが連邦規則10CFRPart50(§50.47)等により妥当性を評価し,
地元州政府及び自治体が作成する緊急時計画について,連邦国土安全保障
省(DHS)及び連邦緊急事態管理庁(FEMA)がFEMA規則により
妥当性を評価することとされている。また,これらの緊急時計画は,従来
から,建設許可取得後の運転認可申請時に最終的な計画を提出することと
されている(ただし,1989年以降の制度では,事業者の選択により,
建設運転の統合認可の申請時に提出することもできるとされた。)。
エ避難計画は,地域防災計画とともに政府を挙げてその作成を支援するこ
ととなっており,原子力防災会議においてその内容が合理的かつ具体的な
ものとなっていることが確認される。また,避難計画は,当該原発周辺の
地形等の自然条件や現存する道路等の交通環境を所与のものとして,合理
的かつ具体的な計画として策定されるものであり,継続的にその計画の改
善を進めていることが期待されている。したがって,関係する地方公共団
体が実効的な避難計画を策定することが著しく困難又は不可能であるとい
うことは考えられない。また,区域の一部が本件原発の30km圏内に掛
かることのみを理由として,函館市及びその周辺自治体に居住・滞在する
全ての住民を即時一斉避難の対象と,根拠なく仮定する原告らの主張は相
当ではない。
3争点3(基準地震動の策定)について
(原告らの主張)
(1)基準地震動の策定
ア基準地震動策定の手法
原発の耐震安全性評価は,|覗悗琉銘屬篦垢掬の各種調査を行い,
その調査結果に基づき安全評価を行うための基準となる基準地震動を策定
し,4霆狠録牝阿亡陲鼎施設の耐震安全性評価を行う,という手順で進
められる。このうち基準地震動の策定は,大きく,地質調査や活断層の評
価を前提とする「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と,「震源を
特定せず策定する地震動」の二つに分かれる。このことは,新規制基準
(設置許可基準規則4条,同規則の解釈別記2,基準地震動審査ガイド)
においても,従前の規制基準(新耐震設計審査指針)においても,変わり
はない。
イ確立された国際基準
IAEAが福島原発事故について作成した報告書の技術文書によれば,
地震の想定につき,必要とされる低確率と釣り合うような先史データがな
いことを埋め合わせるため,国際慣行としては,[鮖傍録のある最大の
震度又は規模に上乗せする決まりと,⊃霧擦鬟汽ぅ箸ら最短距離に置く
想定とがあり,これは1979年のIAEA安全基準(No.50−SG−
S1)に反映されていると記載されている。また,IAEA安全基準のS
SG−9*には,「地震発生源構造ごとに,最大潜在マグニチュードが,そ
の構造の最も原子力発電所サイト地域に近く,地震源の物理的大きさを考
慮した位置で発生すると想定すべきである」と記載されており,前記国際
慣行ゝ擇哭△錬咤咤如檻垢砲眸娠任気譴討い襦
したがって,〆蚤臉在マグニチュードの評価と,▲汽ぅ箸忘任盒瓩
場所における震源の想定は,確立された国際基準と考えるべきであり,こ
れらの評価を行っていない地震動想定は,原則的に不合理というべきであ
る。
ウ地震調査研究推進本部の文書について
地震調査研究推進本部(推本*)は,政府の公的機関であって,推本に設
置された地震調査委員会は,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行
う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集・分析し,これに基づく総合
的な評価を行っている。その作成,公表する文書は,地震についての国と
しての統一的評価というべきものであって,科学的根拠に基づいており,
日本における地震の調査,研究に基づく評価としては最も権威がある。し
たがって,推本が作成,公表している文書は,地震学,地震工学の現在の
科学技術水準を反映するものとして,被告電源開発が評価した基準地震動
の合理性を判断する上でも十分考慮されなければならない。
(2)基準地震動についての規制基準の不合理性
ア新規制基準の策定過程について
福島原発事故を受けて新規制基準が策定されたが,新規制基準を検討す
る過程では,検討用地震*の選定の妥当性や不確かさの考慮の妥当性につい
て判断基準を明確にすることが必要であるという提言がされ,これに異論
らしい異論はなかったにもかかわらず,結局,具体的,定量的な基準は策
定されなかった。規制委員会の地震等基準検討チームは,それまではほと
んど存在しなかった津波についての規制基準を新たに設けるという大きな
課題を抱えながら,約7か月間に13回の会合で検討を行ったにすぎない。
その結果,新規制基準における地震動想定手法は,福島原発事故を受けて
も従前と変わっていない。
イ新規制基準の要求事項の曖昧さ
設置許可基準規則3条,4条,38条,39条等から分かるとおり,地
震対策に係る規制上の要求事項の基礎として,基準地震動(設置許可基準
規則4条3項)が位置付けられる。しかるに,基準地震動の内容としては,
設置許可基準規則の解釈(別記2の5)において「最新の科学的・技術的
知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震
活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適切なもの」と
されているのみである。また,基準地震動審査ガイドも,地震動評価にお
いて「適切に」との文言を多数使用しているが,何が適切かという具体的
な審査の基準を示していない。
このようなほとんど白紙委任の規制基準は,基準の名に値しない不合理
な基準ということができる。
ウ基準地震動の超過確率*
IAEA安全基準の安全指針「原子力発電所の耐震設計と認定」(No.N
S−G−1.6)では,設計基準の地震規模として,発生頻度が10−3〜
10−4(平均)又は10−4〜10−5(最頻値)/炉年と設定する考え方が
示されており,基準地震動の超過確率は,1万年に1回以下でなければ国
際的な基準に合致しているとはいえない。
しかし,以下のとおり,日本のこれまでの超過実績を見ると,頻繁に設
計基準地震動を超過しており(これらを踏まえると,本件原発の基準地震
動の超過確率は,100年に1回程度か,せいぜい1000年に1回程度
にすぎないというべきである。),抜本的な見直しが必要であることは明ら
かである。しかし,新規制基準において抜本的な変更は見られない。
(ア)国内で過去10年間に,基準地震動を上回る地震動が,四つの地震動,
五つのケースで観測されている。福島原発事故前の10年間に,50基
の原子炉のうち延べ18基で基準地震動を超過しているので,一つの原
子炉当たり27.8年に1回は超過する計算となる。
(イ)地震学者である浜田信生,泉谷恭男,増田徹は,基準地震動の超過確
率が1万年に1回以上であることを認めている。多くの地震学者は,稀
に発生する可能性のある最大の地震動の大きさを一般的に信頼するに足
りる精度で算出することはできないと考えている。
(ウ)1万年に1回という低頻度の地震動の規模を探る上で,数百年分の観
測記録では少なすぎる。
(エ)地震動の予測は,恣意的な算出が比較的容易である。
エ確率論的安全性評価の非徹底
SSG−9では,「5.1地震動ハザードは,確率論的および決定論的
地震ハザード解析手法の両方によって評価することが望ましい」とされて
おり,確率論的な評価は国際的なスタンダードである。また,「東京電力福
島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の最終報告(平成24年
7月23日)においては,地震時の確率論的安全性評価(地震PSA)が
手法として確立されていることを前提に,「施設の置かれた自然環境特性に
応じて総合的なリスク評価を事業者が行い,規制当局等が確認を行うこと
が必要である」と提言されている。
ところが,新規制基準では,敷地ごとに震源を特定して策定する地震動
及び震源を特定せず策定する地震動については,それぞれが対応する超過
確率を「参照」し,それぞれ策定された地震動の応答スペクトル*がどの程
度の超過確率に相当するかを把握することと規定されているにすぎない
(設置許可基準規則の解釈別記2の5四)。適合性審査でも,申請者が提示
した基準地震動の超過確率の信用性について,実質的な審査は行われてい
ない。
なお,基準地震動の妥当性を担保するための手続は,日本において特に
重要であり,SSG−9(項目11.18〜11.20)では,第三者に
よるピアレビューを実施すべきであることが規定されている。しかし,現
在の規制基準でもこのような手続は規定されておらず,不合理である。
(3)震源を特定して策定する地震動
被告電源開発による,震源を特定して策定する地震動(設置許可基準規則
の解釈別記2の5二)は,以下のとおり,検討用地震の選定・評価,応答ス
ペクトルの設定等において不合理である。
ア検討用地震の選定・評価
(ア)推本(2010)*や島崎(2008)*によれば,孤立した短い活断
層からはM*6.9〜7.4程度の地震が発生するのであるから,大間北
方沖活断層(後記4参照)については,少なくともM7.4は想定しな
ければならないところ,被告電源開発はF−14断層(後記4参照)に
つきM6.7と評価しており,「不確かさの考慮」としてM7.0相当ま
で考慮しているようではあるが,それでも過小評価であることには変わ
りがなく,最大潜在マグニチュードの評価を求める前記(1)イのSSG−
9の要請に反する。
(イ)F−14断層による地震の基本震源モデルについては,震源断層*が屈
曲する等して本件原発の直下ないし近傍を走るケースを想定すべきであ
り,この想定を行っていない被告電源開発の地震動評価は,前記(1)イの
SSG−9の定めに反する。
(ウ)被告電源開発が内陸地殻内地震*の想定に用いた松田式*には,大きな
ばらつきがあるところ,ばらつきを考慮しないことは,基準地震動審査
ガイド(気裡魁ィ押ィ(2))に違反する。また,地震発生前に地下の震
源断層の長さは分からないので,地表地震断層の長さを当てはめざるを
得ず,過小評価しやすい。
また,被告電源開発は,F−14断層等から発生する地震規模を評価
するにあたって入倉・三宅(2001)*の式を用いているようであるが,
この式によると他の式に比べて顕著に地震モーメントを過小評価するこ
とになり,島崎邦彦前規制委員会委員長代理も,垂直又は垂直に近い断
層で発生する大地震の地震モーメントの推定にはこの式を用いてはなら
ないと断じている。推本レシピ*でも,平成20年4月の改訂から,入
倉・三宅(2001)の式と並んで松田式等他の式が採用されるに至っ
ており,F−14断層のように地震発生層が比較的薄いところにある高
角の活断層については,入倉・三宅(2001)の式だけでなく松田式
等他の式をも用いた地震規模の想定を行い,いずれか大きいほうを採用
した上でばらつきを考慮するという方法によらなければ,保守性に欠け
ることは明らかである。
(エ)被告電源開発が,プレート間地震*,海洋プレート内地震*について参
照した過去の地震記録は,宝暦13年(1763年)陸奥八戸地震を除
き,全て昭和以降のものであって,地震規模の想定に何ら余裕を見てお
らず,かつ,固有地震として設定しており,極めて稀に発生する巨大地
震の想定としては不十分であって,前記(1)イの確立された国際的基準に
反する。
本件敷地が所在する領域の海洋プレート内地震の最大マグニチュード
は,推本(2014)*によると,北海道東方沖地震と同様のM8.2と
いうことになるから,M8.2のスラブ内地震*が敷地直下で発生した場
合も想定すべきである。
被告電源開発は,プレート間地震につき,Mw*8.3,不確かさ考慮
でMw9.0という地震規模を設定しているが,津波審査ガイド*には,
千島海溝から日本海溝沿いの領域まで連動すれば最大Mw9.6程度の
津波波源となることが記載されており,かかる記載を参照し,地震規模
の設定を見直すべきである。加えて,被告電源開発が主張する,Mw8.
3より大きくなると地震動が飽和するという見解は,観測記録や理論で
十分に裏付けられた普遍的法則とはいえず,仮説の域を出ない。また,
Mw9.0の地震について,強振動生成域を敷地に近付け,応力降下量*
を大きくする等の不確かさを考慮していない。
イ応答スペクトルに基づく地震動評価
(ア)距離減衰式*に基づく地震動の経験的評価法とされている耐専式*
(Noda,etal.(2002)*)の手法では,標準偏差2倍以上のばらつ
きが発生するが,被告電源開発は,アスペリティ*配置の変更により,わ
ずかに余裕を持たせているにすぎず,内陸地殻内地震の地震動評価にお
いて低減係数を用いないことや地盤増幅率の補正をすることによっては,
基準地震動審査ガイド(気裡魁ィ魁ィ(1))が求める不確かさの考慮と
して,不十分である。
(イ)被告電源開発は,耐専式以外にも10種類の距離減衰式を適用した上
で包絡線を設定していることにより余裕があると主張している。しかし,
耐専式の手法以外の距離減衰式も,標準偏差2倍(約4倍)程度のばら
つきがあるところ,被告電源開発は2倍程度の不確かさの考慮しかして
おらず,基準地震動の想定は過小である。また,本件敷地からF−14
断層を延長した震源断層まで断層距離は5km程度しかないが,敷地近
傍の地震動データは未だ限られているため,断層近傍サイトでの距離減
衰式による予測精度はとりわけばらつきが大きい。被告電源開発による
評価は,結果としてほとんど全ての距離減衰式においてNoda,etal.
(2002)による評価を下回っているが,これは恣意的に作出された
結果である疑いが拭えない。
(ウ)距離減衰式のばらつきを低減させる最も有効な方法は,当該敷地にお
ける観測記録を分析することであるが,本件原発の敷地における観測記
録はない。仮に,被告電源開発が本件敷地ないしその周辺の地質や地盤
を調査していたとしても,調査によって地盤・地質を把握できるのは,
必要な情報のごく一部にすぎず,地震動の予測のばらつきを有意に減ら
すことはほとんど期待できない。
なお,本件原発の敷地地盤は不均質であり,貫入岩が入り込むなどし
て地下構造が不整形なものとなっていることが推測され,地震動を増幅
させる可能性があるにもかかわらず,被告電源開発はこれを十分に調査
せず,耐震設計上この点を考慮していない。
ウ断層モデルを用いた地震動評価
断層モデルを用いた手法では,一般に,推本レシピを適用して,活断層
(震源モデル)の長さ,面積等から地震規模を推定するが,推本レシピは,
強震動の分析や予測を行う上で,倍半分程度の誤差を目指したものにすぎ
ず,現在も開発途上であり,実観測記録を用いた検証によっても精度の低
い再現しかできなかったものであって,たとえ詳細な調査や適正な経験式
の適用を前提としても,信頼性が十分ではない。また,そこで用いられる
各種経験式にもばらつきがある。したがって,基準地震動の策定において
は,ばらつきが十分考慮されている必要がある。
しかし,被告電源開発の行った不確かさの考慮は,破壊開始点*を変更し,
短周期レベルを1.5倍としたことと,断層傾斜角を60°から45°に
変更したことの2点であるが,.哀蝓璽鶸愎法の誤差,⊃霧暫覗悗離
デル化の誤差,震源パラメータに係る経験式(アスペリティの地震モー
メント,応力降下量)の誤差,ざ然的不確定性に係るパラメータ(アス
ペリティの位置・強度,破壊伝播速度,破壊開始点など)の誤差を踏まえ
ると,不十分である。
(4)震源を特定せず策定する地震動
被告電源開発による,震源を特定せず策定する地震動(設置許可基準規則
の解釈別記2の5三)は,以下のとおり,過去の観測記録の評価,応答スペ
クトルの設定等において不合理である。
ア基準地震動審査ガイドにおいて,収集対象となる内陸地殻内の地震の例
として挙げるものは,わずか17年間の16地震だけでしかなく,同審査
ガイド上,この16地震は例示にすぎないとされ,各種不確かさの考慮が
義務付けられていることからしても,この観測記録のみに依拠して検討す
べきではない。しかし,被告電源開発が検討対象とした過去の内陸地殻内
地震は,M6.1〜6.6規模の4地震のみ(平成9年鹿児島県北西部の
2地震,平成10年岩手県内陸北部地震,平成16年留萌支庁南部地震)
とされ,その根拠として,本件原発敷地近傍の過去100〜200年程度
の記録から想定される地震の最大規模がM6〜6.5程度であるからとし
ている。しかし,短期間のわずかな記録で,1万年に1回以下という低頻
度の地震動を知ることは不可能である。推本(2014)では,新垣見
マップ*に示された本件原発の領域で発生する可能性がある内陸地殻内地震
の最大規模は,M7.5とされており,被告電源開発の評価は明らかに過
小である。また,基準地震動審査ガイドでは,Mw6.5(気象庁マグニ
チュードに換算するとM6.8程度)未満の地震を全国共通に考慮すべき
地震としているのであり,M6〜6.5程度とする被告電源開発の評価は
同審査ガイドに反する。
イ被告電源開発が考慮した加藤ほか(2004)*の応答スペクトルは,限
られたデータのみに基づくもので,かつ,M6.6までの地震しか考慮し
ていない点で保守性を欠いており,これを用いた基準地震動の評価は過小
である。
ウ被告電源開発は,加藤ほか(2004)の応答スペクトルと,佐藤ほか
(2013)*の応答スペクトルを,特段の修正を加えることなく用いたよ
うであるが,一般財団法人地域地盤環境研究所が留萌支庁南部地震につい
て検討を加えた「震源を特定せず策定する地震動計算業務報告書」で示
されたように,最大地震動の観測記録を考慮し,破壊開始点の違いやNF
RD効果(アスぺリティによる断層近傍の破壊伝播効果であり,破壊伝搬
方向に観測点があるとき,地震動が重なって増幅する効果)も加味して,
最大の加速度を考慮すべきである。規制委員会は,震源を特定せず策定す
る地震動について,過去の地震動観測記録をほぼそのまま用いるものとし,
各種不確かさの考慮は,現状,はぎとり解析に係るものに限定されている
が,このような解釈・運用は,新規制基準の趣旨に反する。
エ大間北方沖活断層については,詳細な調査によっても断層の震源モデル
設定に必要な情報が得られていない以上,地下の震源断層が本件原発の敷
地直下又は近傍まで続いている可能性を考え,「震源を特定して作成する地
震動」としてのみではなく,「震源を特定せず策定する地震動」としての評
価をしなければならない。
オ気象庁地震カタログでは,大正12年以降に発生したM6.5以上の内
陸地震は30個であるところ,そのうち地震断層を生じたのは約3分の1
である11個にすぎず,M7.0以上でも地震断層の出現率は44%で
あって,未知の断層が強い地震動を生じさせる例は最近12年間でも相次
いでいるから,あらかじめ震源を特定できない地震は,現実的リスクとし
て捉えなければならない。
(被告電源開発の主張)
(1)震源を特定して策定する地震動
ア検討用地震の選定・評価
(ア)F−14断層による地震の震源モデルにつき,被告電源開発は,震源
断層の長さとして,Stirling,etal.(2002)(MarkStirlingほか
‘ComparisonofEarthquakeScalingRelationsDerivedfromDataof
theInstrumentalandPreinstrumentalEra’〔計器観測がなされた地震
のデータ及びそれ以前の地震のデータに基づくスケーリング則の比較〕)
を参考にしながら,地表の痕跡長さ(最大約3.4km)を上回る20
kmと設定した。震源断層の幅としては,本件敷地における地震発生層
の厚みを考慮しながら,保守的に13kmと厚く設定した。これらを基
に入倉・三宅(2001)の式に入力するなどして,地震規模をM6.
7と設定した。さらに,震源断層の傾斜角等の不確かさを考慮してM7.
0の震源モデルを設定している。
推本(2010)では,長期評価の高度化に向けて,海域の短い断層
につき,評価地点に応じた詳細な各種調査等を踏まえて震源断層を推定
するといった考え方が示されているところ,被告電源開発のF−14断
層に係る調査,評価はこれに沿うものである。また,島崎(2008)
がいうM7.4の想定は,推本による文献調査を基本とした全国の断層
評価を対象として一般的な最大規模を検討したものであって,変動地形
学的調査,地質調査,地球物理学的調査等の組合せによる詳細な調査に
よる本件原発の内陸地殻内地震の地震動評価に当てはまるものではない。
(イ)原告らは,F−14断層の震源モデルについてSSG−9に反する旨
主張するが,調査結果により認められる地質構造等を踏まえることなく,
敷地直下に内陸地殻内地震の震源断層を設定するといった考え方は,S
SG−9においても採用されていない。
(ウ)松田式は,地震規模を想定する際に広く一般的に用いられている回帰
式であり,推本レシピにも採用されている。被告電源開発は,検討用地
震のうち根岸西方断層による地震につき応答スペクトルに基づく地震動
評価を行う際に適用しているが,他の検討用地震による地震動を下回っ
ており,本件原発における基準地震動の策定に影響を及ぼすものではな
い。
なお,原告らが指摘するばらつきは,平成15年に気象庁がマグニ
チュードの算出方法を改定する前の数値であり,改定後の数値に置き換
えると,過去14地震のデータは松田式とよく整合している。
また,原告らは,入倉・三宅(2001)の式を用いた被告電源開発
の地震動評価が過小であるかの主張をするが,原告らの主張は均質な断
層すべりを仮定したモデルに基づくものであって,これにより入倉・三
宅(2001)の式の妥当性を検証することはできない。むしろ,平成
28年の熊本地震を含む近時の内陸地殻内地震の震源断層面の不均質な
すべり分布を伴う解析を通じて,入倉・三宅(2001)の式の合理性
は検証されているのであって,これらを考慮しない原告らの主張は理由
がない。なお,推本レシピには,断層長さを松田式に適用してマグニ
チュードを求める簡便法が採用されるに至っているが,F−14断層に
よる地震の断層長さは最大約3.4kmであり,こうした長さの断層は
松田式のデータセットに含まれておらず,松田式の適用範囲外である。
(エ)被告電源開発は,スラブ内地震の検討用地震の想定に当たり,東北地
方から北海道地方にかけてのスラブ内地震の発生様式を踏まえ,本件敷
地に与える影響が大きくなるように敷地から近い位置に震源断層を想定
している。原告らが指摘する推本(2014)によると,M8.2の地
震の断層は,領域の東側のみに配置されており,本件敷地直下に配置さ
れていない。
また,プレート間地震の地震規模の設定については,想定三陸沖北部
の地震(Mw8.3)を検討用地震として選定した上で,東北地方太平
洋沖地震が複数の領域にわたって連動したことを踏まえ,その知見の反
映として,三陸沖北部の領域と千島海溝沿いの十勝沖及び根室沖の領域
が連動した場合の地震(Mw9.0)を想定した地震動評価を実施して
いる。これら想定した二つのプレート間地震の各地震動評価の結果を比
較すると,地震規模がMw8.3からMw9.0と大きくなっているに
もかかわらず,地震動の飽和が生じている。
仮にMw9.0よりも大きい規模の地震を想定したとしても,被告電
源開発が想定した地震域よりも遠方の色丹島,択捉島に及ぶような領域
まで連動することになり,本件敷地から非常に離れているため,これら
の領域からの地震動による影響は少ないと考えられる。
イ応答スペクトルに基づく地震動評価
(ア)距離減衰式は,入力パラメータの数が少ないため計算が簡便であるこ
と,誤差が累積されにくく評価結果が安定していること,観測事実に基
づいているため算出した値に対する信頼性が高いことなどの利点を有し,
地震工学分野で広く用いられてきた。距離減衰式の一つである耐専式
(Noda,etal.(2002))の方法は,マグニチュード,等価震源距離
(面的に拡がりを持つ震源断層から受けるエネルギーと同じエネルギー
を放つ仮想の点震源までの距離をいう。)及び評価地点の地盤の弾性波速
度をパラメータとして,解放基盤表面*における地震動の応答スペクトル
を評価する手法である。
(イ)被告電源開発は,F−14断層による地震の地震動評価において耐専
式の方法を用いて,本件敷地周辺の詳細な各種調査結果により情報を得
た上で,基本震源モデルについて震源断層面の断層長さ,断層幅及び傾
斜角を調査結果よりも保守的な条件に設定した。この設定により,入力
パラメータとして用いられる地震規模及び等価震源距離は保守的な想定
となる。
また,耐専式の方法を用いると,内陸地殻内地震に対しては,地震動
の応答スペクトルを大きく評価する傾向のあることが知られており,低
減係数を考慮することでより正確に算定できることが提案されているが,
被告電源開発は,低減係数を用いた応答スペクトルの低減を考慮しない
ことにより,保守的に評価している。なお,平成19年の新潟県中越沖
地震*における短周期レベルが平均的な値より1.5倍程度大きかったこ
とは,耐専式の方法を用いる際に設定される入力パラメータとは関連し
ない(別途,断層モデルを用いた手法で考慮している。)。
本件原発の基準地震動の設計用応答スペクトルは,耐専式の方法に加
え,各文献による経験的な方法により算出した応答スペクトルの全てを
包絡した上で,更に余裕を見込んで設定されている。
(ウ)地震記録による地盤増幅特性*(原告らのいうサイト特性)の検証は,
評価対象となる地震と異なる発生様式の地震の観測記録を用いても行う
ことが可能であるから,本件敷地において内陸地殻内地震を観測できて
いなくとも,検証がないことにはならない。
被告電源開発は,本件敷地地盤の地盤増幅特性について,本件敷地で
得られた観測記録の初期微動部の水平/上下スペクトル比(地震観測記
録の水平方向のフーリエ振幅スペクトル〔地震動の周波数特性を表すも
のであり,不規則な地震動の振幅が,どの周波数成分の振幅に寄与して
いるのかを示すもの。〕と上下方向のフーリエ振幅スペクトルとの比のこ
と)を逆解析して深い地盤の地下構造を推定する方法による検討を行い,
水平成層構造(速度層が水平を成して広がっている地下構造)の地下構
造モデルと判断している。また,観測記録を用いて,本件敷地における
地震動の到来方向の違いによる顕著な差異が認められないことをもって,
別途検証している。
ウ断層モデルを用いた地震動評価
(ア)断層モデルを用いた手法は,多くのパラメータが用いられ,個別の地
震の震源特性*,地下構造による地震波の伝播特性(伝播経路特性*,地
盤増幅特性)を,詳細に地震動評価へ反映させることができること,地
震動の振幅だけでなく時間の経過を意味する位相も含めた時刻歴波形と
して評価できることなどの利点があり,広く実務に利用されている。現
状における手法等は推本レシピに取りまとめられている。
(イ)被告電源開発は,F−14断層による地震につき断層モデルを用いた
手法による地震動評価を行うに当たり,基本震源モデルについて,本件
敷地周辺の詳細な調査結果を踏まえ,影響が大きくなるよう保守的な条
件を設定した。具体的には,|覗慊垢気髻つ敢困任郎蚤臾鵤魁ィ苅襭
のところ20kmと設定したこと,断層面の傾斜を,調査では鉛直又
は広角で本件敷地から離れる方向に傾斜しているところ,鉛直と設定し
たこと,C録免生層を,調査では9kmと考えられるところ13km
と設定したこと,で鵬開始点を,本件敷地における地震動が大きくな
るように設定したことが挙げられる。その上で,震源断層面の傾斜角,
応力降下量,地震モーメント及び破壊開始点については,不確かさを考
慮したモデルを設定した。
(ウ)原告らが,「観測記録を倍/半分の精度で説明できる」ことを目標にし
たにすぎないと指摘する点は,観測記録そのものの持つばらつき程度の
精度という趣旨である。また,原発における地震動評価に当たっては,
詳細な各種調査により震源モデルの設定精度が向上している。
(エ)原告らはグリーン関数法の誤差などを指摘し,不確かさの考慮が不十
分である旨主張するが,IAEAのSSG−9においても,個々の関係
式のばらつきを地震動評価に結びつけるといった考え方は採用されてお
らず,被告電源開発の行った検討結果を理解することなく,科学的にも
合理性のない主張をしているにすぎない。
(2)震源を特定せず策定する地震動
ア被告電源開発は,本件原発の確率論的安全性評価(地震PSA)を行う
に当たり,本件敷地が位置する領域において,活断層の存在が知られてい
ないところで発生する地震の最大マグニチュード値を,推本(2014)
と同じM7.3として考慮している。
なお,本件敷地が所在する領域の中で等しく発生する可能性がある内陸
地殻内地震の最大の地震規模がM7.5であるとの見解は,新垣見マップ
では根拠付けられていない。
被告電源開発は,震源を特定せず策定する地震動の評価に当たって考慮
した四つの地震以外の,基準地震動審査ガイドに挙げられている地震を含
め,今後とも,知見の蓄積等を踏まえて,信頼性の高いデータを用いた検
討を適切に行う考えである。
イ加藤ほか(2004)の応答スペクトルは,相当数の観測記録に基づく
信頼性のあるものである。安全基盤機構*の報告書でも,同応答スペクトル
の年超過確率の値,及び,同応答スペクトルを超える地震動が震源特性の
組合せとして発生する可能性が低いことから,同応答スペクトルを肯定的
にとらえている。
なお,安全基盤機構の試算は,試算した地震動をそのまま震源を特定せ
ず策定する地震動として用いるために試算したものではない。また,規模
も位置も特定されない地震について,様々な断層パラメータを,信頼性を
もって設定することはできず,仮想的に全ての断層パラメータを対象地点
に大きくなるように設定しても妥当な結果は得られないから,一般財団法
人地域地盤管工研究所の留萌支庁南部地震に関する報告書において試算し
た地震動をそのまま震源を特定せず策定する地震動として用いることに合
理性はない。
ウ新耐震設計審査指針における地震動評価の基本は,敷地ごとに震源を特
定して策定する地震動であり,その策定に最大限の努力が払われることを
前提として,その補完的な位置付けとして,震源を特定せず策定する地震
動が規定された。新規制基準においても考え方は承継されている。
規制委員会も,現実の観測記録ではない地震動や,地震の規模を仮定し
て計算した仮想的な地震動をもとに策定することを求めていない。
エ原告らは,M7.0以上の地震断層の出現率は44%であるなどと指摘
するが,原告ら主張の地震断層の出現率は,震源断層と地表地震断層の長
さが対応する場合に限った比率である上,原発における基準地震動の策定
を目的として実際に活断層に係る調査を行った場合を前提とするものでは
ないから,詳細な調査を基に様々な保守的条件を設定して行った被告電源
開発の地震動評価を過小とする理由にはならない。
(3)新規制基準の合理性等について
ア藤原証人*の見解について
藤原証人は,規制委員会の地震等基準検討チームの会合において,検討
用地震の選定の妥当性や不確かさの考慮の妥当性について見解を述べてい
るが,藤原証人の尋問結果によれば,これらはいずれも,明確な判断基準
を示したものではなく,長期的な課題として認識していると考えられる。
また,基準地震動審査ガイドにある,震源を特定せず策定する地震動の
各種の不確かさや,経験式のばらつきについても,長期的な課題又は今後
の課題と回答している。
よって,藤原証人の見解をもって,新規制基準が不合理であるとするこ
とはできない。
イ基準地震動の超過確率
(ア)地震動想定を誤ったと原告らが指摘する過去10年間の5事例によっ
ても((神17年宮城県沖地震・女川原発*,∧神19年能登半島地
震*・志賀原発*,J神19年新潟県中越沖地震・柏崎刈羽原発*,な
成23年東北地方太平洋沖地震・福島第一原発,テ院女川原発),基準
地震動策定の基本的な枠組みが有する合理性は否定されない。すなわち,
これらはいずれも新規制基準下での基準地震動を超過したものではなく,
旧耐震設計審査指針における基準地震動S1及び基準地震動S2を超過し
たものである。また,東北地方太平洋沖地震は,明治以降の国内最大規
模,1900年以降の世界4番目の規模にもかかわらず,な‥臑莪豸
発及びソ川原発とも,基準地震動Ssと概ね同程度である。さらに,
前記0奮阿了例では,観測記録のはぎとり波の応答スペクトルが各原
発の基準地震動の設計用応答スペクトルを超過した周期帯は一部に限ら
れ,施設の健全性に特段の問題を生じていない。前記事例は,当初設
計時の想定を大きく上回る地震動が観測されたものの,安全上重要な設
備の健全性に特段の問題は確認されていない。
(イ)被告電源開発が採用した基準地震動の超過確率の算定方法は,日本原
子力学会標準の「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実
施基準:2007」を参照したものであり,科学的裏付けに基づく相応
の信頼性がある。
(被告国の主張)
(1)本件設置許可処分に係る規制基準及び調査審議の合理性について
ア被告国(安全委員会)は,本件安全審査*の調査審議において,新耐震設
計審査指針に基づき,被告電源開発の策定した基準地震動Ssが,本件原
子炉の敷地周辺の実体を踏まえたものであり,既往の地震の規模の検証等
を行うなど必要な検討過程を経た結果のものであるとして妥当なものと判
断したものであって,調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落は
ない。
イ本件設置許可処分の耐震設計の審査に用いられた新耐震設計審査指針は,
基準地震動Ssの策定につき,地震発生様式等による分類を行った上で敷
地に大きな影響を与えると予想される検討用地震を複数選定し,地震発生
様式,地震波伝播経路等に応じた諸特性を十分に考慮するものであって,
それ自体十分な合理性を有するものである。なお,同指針は,基準地震動
Ssを策定するに当たり,地震動の平均像を基にすることを要求している
ものではなく,その策定過程に伴う不確かさ(ばらつき)について適切な
手法を用いて考慮することを求めている。
実際,安全委員会は,本件安全審査の調査審議において,被告電源開発
が,断層の長さを保守的に長く想定して検討用地震を選定していることな
ど基準地震動Ss策定過程に伴う様々な不確かさを考慮して基準地震動S
sを設定していることを確認し,本件原発が,地震動の平均像そのものを
もって基準地震動Ssを設定していないことを確認している。
(2)新規制基準の合理性について
ア原告らは,基準地震動審査ガイドにおいて「適切に」との文言が多用さ
れ,具体的な審査基準を明らかにしておらず,基準の名に値しない不合理
な基準であるなどと主張するが,基準地震動審査ガイドは,規制委員会の
規制基準に係る内規にすぎず,審査に当たって審査官を拘束するものでは
なく,それ自体が直ちに規制基準となるものではない。
この点を措いても,基準地震動の策定に当たり検討すべき項目は多岐に
わたり,それぞれ高度に専門技術的な検討を要するのであって,事前に細
部まで網羅的かつ一義的な基準を示すことは極めて困難であり,かえって
個々の検討用地震の特性を考慮した柔軟かつ適正妥当な審査を阻害するな
ど不合理な事態を招きかねない。
確かに,将来的に,地震に関する知見が蓄積され,これらについて十分
な分析がされた上で,不確かさ等について定量的な規制基準が定められる
ことは望ましいことではあるものの,前記知見の蓄積や分析等には相応の
時間を要することは明らかである。この間,「適切に」等の定性的な基準な
いしは指針を定め,個々の事案に応じて個別に審査を行うことは,何ら不
合理ではないというべきである。
イ原告らは,IAEA安全基準のSSG−9(項目11.18〜11.2
0)では基準地震動の策定に当たって第三者によるピアレビューを実施す
べきであるとされているのに対し,我が国においてはこのような手続が取
られていないと主張する。
しかし,ピアレビューを求める趣旨は,定立した評価手法についての客
観性を担保することにあるところ,設置許可基準規則の解釈(別記2の5)
においては,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地
質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地
から基準地震動が策定されることを求めており,この過程を経ることによ
り,結果として必然的に複数の専門家の見解が反映されることになる。そ
の上で,規制委員会が審査を行うこと自体によって,原子力規制に際して
の専門性及び客観性を担保するものであり,ピアレビューに関する要求が
ないことのみをもって直ちに,地震に係る規制基準が不合理であるという
ことはできない。
4争点4(本件原発周辺の海底断層)について
(原告らの主張)
(1)大間北方沖活断層の存在
ア渡辺ほか(2012)*が指摘するとおり,以下の理由から,本件原発の
北方の海底には,別紙10の赤色破線で示す位置に,大間崎の北西約16
kmの海域から東南東方向に延びる長さ約43〜44kmの断層(以下
「大間北方沖活断層」という。)が存在し,後期更新世以降(約12万60
00年前から現在までの間)に活動があったことがほぼ確実であるから,
「耐震設計上考慮する活断層」又は「将来活動する可能性のある断層等」
として考慮しなければならない。なお,大間北方沖活断層は,被告電源開
発が指摘するF−14断層を起点として東方向に延びるものである可能性
が高い。
(ア)大間崎周辺には,海成段丘面*が多数存在し,それぞれ位置する高度か
ら考えられる形成年代によって,古いものから順にH1面,H2面,M
1面,M2面,A1面,A2面に区分することができる(H1面からM
2面までの分布を分かりやすく記載したものが別紙11である。)。この
うちM1面は,約12万5000年前に形成されたものであるところ,
この旧汀線*の高度は,大間周辺から南方の佐井周辺に向かって低下して
おり,現在までに大間周辺で最大で55m程度隆起していることが分か
る。
M1面が自然に隆起したのであれば,これに対応する水準点の変化が
あるはずであるが,明治36年(1903年)から昭和56年(198
1年)までの約80年間において,隆起量の少ない佐井周辺を除き水準
点の大きな変動は見られない。このことは,当該隆起が緩やかな自然隆
起ではなく,複数回の地震によるものであることを示している。
(イ)大間崎の北方約600mに位置する弁天島には,A1面とA2面の2
段階の離水ベンチ*が存在するところ,かかる地形は,自然隆起により形
成されるものではなく,地震によるものであることを示している。また,
A1面の旧汀線高度が,弁天島で6m,大間平で5m,蛇浦で3mと,
わずか数kmの区間で大きく異なっていることからも,地震による隆起
により形成されたものと考えるべきである。
(ウ)大間周辺におけるM1面の旧汀線が同じ高度にあるものをそれぞれ1
本の線でつなぎ,等隆起線を作成すると,別紙12のようになり,この
等隆起線は,北が高く南に行くほど低くなる。そして,弁天島の北方約
10kmの海底には,西北西から東南東方向に海底の高度が急激に変化
する急崖地形が40km以上にわたり存在する(別紙12の「→←」
の箇所)。これらのことから,海底の急崖のある場所(別紙10の赤色破
線)に40km以上に及ぶ大きさの活断層が存在すると考えるべきであ
る。
イ設置許可基準規則4条3項は,耐震重要施設*について,基準地震動によ
る地震力に対して安全性が損なわれるおそれがないものでなければならな
いものとし,基準地震動審査ガイドは,基準地震動について,「震源として
想定する断層の形状等の評価が適切に行われていることを確認」して策定
するものとしている。また,地質審査ガイド*によると,後期更新世以降の
活動性を明確な証拠により否定されない限り「将来活動する可能性のある
断層等」であることは否定されず,「将来活動する可能性のある断層等」の
活動性の評価については,「安全側の判断が行われていることを確認する」
ものとされている。
このように,本件原発の設置変更許可に当たっては,大間北方沖活断層
等の存在を明確に否定できない以上,基準地震動を作成する際の対象に含
める必要があるのであって,これを考慮しないことは新規制基準の定める
要件を満たさないに等しい。
ウ本件設置許可処分当時の関連法令等を前提としても,新耐震設計審査指
針及び「発電用原子炉施設の耐震安全性に関する安全審査の手引き」によ
れば,後期更新世以降に活動があったことを否定できない断層は,「耐震設
計上考慮する活断層」として認定することとなる。これを考慮していない
本件設置許可処分は,安全審査に看過し難い過誤,欠落が存在する場合に
匹敵する。
(2)大間西方沖活断層の存在
別紙10に示されるように,下北半島西岸に位置する仏ヶ浦にも階段状の
離水ベンチが存在し,また,本件原発の西方の海底には100〜150mの
急斜部という海底の変化が生じていることから,当該海域にも,同別紙の縦
方向の破線で示すとおり,大間崎の北西約11kmの海域から南北方向に延
びる約47〜48kmの長さの活断層(以下「大間西方沖活断層」という。)
が存在し,後期更新世以降に活動していた可能性を否定できず,活断層とし
て考慮しなければならない。なお,大間西方沖活断層は,被告電源開発が指
摘するF−15断層及びこれに雁行する一体の断層群と近似している可能性
が高い。
(3)新規制基準の不合理性
米国NRCの立地指針(RG4.7〔Revision2〕)では,原子炉から半径
5マイル(約8km)以内に地表の変形や地震を引き起こす断層がないこと
を要求している。NRCの前記立地指針に即して考えると,本件原発は,大
間北方沖活断層が存在するというだけで立地不適となり,およそ建設が許さ
れないこととなる。
日本の法規制を前提とすると,大間北方沖活断層等の活動性が否定できな
いと判断された場合でも,施設にどのような影響を及ぼすか検討し,それに
応じた耐震設計をすることで,建設が許可される可能性がある。しかし,ど
れだけ地震の予測をしても,その想定を超えるような地震が発生する可能性
があることは公知の事実である。
日本の新規制基準には,NRCのような立地指針はないが,この点は新規
制基準の不備であり,国際的基準に劣っている。
(被告電源開発の主張)
(1)活断層の分布状況
ア被告電源開発の実施した調査
被告電源開発は,基準地震動の策定に際し「震源として考慮する活断層」
の評価に必要な本件敷地周辺の地質,地質構造の把握を目的として,本件
敷地を中心とする半径約30kmの範囲及びその周辺を対象に,文献調査,
変動地形学的調査,地質調査,地球物理学的調査等を組み合わせた調査を
行い,本件敷地を中心とする半径約5kmでは,精度の高い詳細な調査を
行った。
イ震源として考慮する活断層に係る評価
(ア)敷地の前面海域
被告電源開発は,敷地の前面海域の断層について,F−1断層からF
−5断層まで及びF−7断層からF−33断層までを評価した。なお,
F−18断層からF−24断層までについては,地下深部で単一の断層
となっていることも否定し難いため,これらの断層を一括して長さが最
大7.2kmの「敷地西方沖断層」として評価している。
(イ)外側海域
被告電源開発は,本件敷地の外側海域の断層について,奥尻海盆東縁
断層,恵山岬東方沖断層を含む複数の断層を評価した。
(ウ)敷地周辺及び近傍の陸域
被告電源開発は,敷地周辺の陸域の断層について,根岸西方断層,函
館平野西縁断層帯(渡島大野断層,函館平野西縁断層,茂辺地断層及び
海域延長部),清水山南方断層を含む複数の断層を評価した。
(エ)震源として考慮する活断層に係る評価
前記評価結果を踏まえた,本件敷地周辺における震源として考慮する
活断層の分布は,別紙13に示すとおりであり,長大な断層はない。
なお,このうちF−14断層については,活断層の可能性は非常に低
いと考えられるものの,後期更新世より新しい時代の地層が欠如してい
るため後期更新世以降の活動を明確に否定することができず,このため,
震源として考慮する活断層と評価し,孤立した短い活断層として評価し
ている。
また,F−15断層については,海上音波検査により,後期更新世以
降の活動がないと判断している。
(2)大間北方沖活断層の不存在
ア海上音波探査等
被告電源開発が海上音波探査を実施して(本件設置許可処分以降も継続
している。),海底の地質構造を直接把握した結果,大間北方沖活断層が存
在すると原告らが主張する範囲を含む領域において,海底下のE層からB1
層までの地層(先新第三紀から後期更新世まで。別紙14地質年代区分参
照)に,変位・変形は認められず,断層活動の痕跡は認められない。
この調査結果は,重力探査の結果に基づき作成した重力異常図によって,
逆断層*タイプの活断層が伏在している場合に示される顕著な線状の重力急
変部が認められなかったことと整合する。
他方,下北半島を含む東北地方では,太平洋プレートが陸のプレートの
下に東から西へ潜り込むという東西圧縮の応力場の下,南北方向の逆断層
になるという特徴があるところ,原告らが指摘する大間北方沖活断層は,
東西方向の逆断層として示されており,東北地方の地域性に合わない。
イ等隆起量線
被告電源開発は,下北半島西部全域を対象として,文献調査,変動地形
学的調査及びボーリング調査等を実施し,複数のM1面の旧汀線の標高等を
精密に把握した上,最終間氷期以降の推定等隆起量線を,別紙15のとお
り作成した。なお,本件敷地とその周辺では,M1面の旧汀線が隆起量を把
握するのに適した指標となる(被告電源開発は,約258万年前以降の地
質系統である第四系の段丘*堆積物について,高位段丘面を形成するH1面,
H2面,H3面,中位段丘面を形成するM1面,M2面,M3面,低位段丘面
を形成するL1面,L2面,L3面に区分して検討しているところ,M1面は,
約12.5万年前の最終間氷期に形成された段丘面である。)。その結果に
よれば,海側(北方向)が低く内陸側(南方向)が高い現在の地形形状に
近い内陸に隆起の中心を持つ台形状を呈している。これは,小池・町田
(2001)*によるMIS*5eの旧汀線高度等値線と整合する。渡辺ほ
か(2012)は,これとは逆に,海側(北方向)が高く内陸側(南方向)
が低いことから,大間北方沖活断層が存在すると指摘するが,同論文発表
以降の,最近の知見を含むデータ拡充の結果が考慮されていない。
推定等隆起量線により示された隆起は,広域的な下北半島西部全体の隆
起を示しており,東北地方の地形的な特徴も考慮すると,特定の活断層に
より形成される局所的な隆起や傾動ではなく,相対的に厚さが薄くなって
いる上部地殻の非弾性的な東西圧縮変形に伴って生じたものと考えられる。
ウ波食棚(ベンチ*)
被告電源開発は,複数段に発達している下北半島西部の海岸の地形面に
ついて,下位よりC面,B面,A面に区分し(A面は,弁天島の中央付近
にある標高約9〜13mの平坦面であるが,人工的な改変が進んでおり,
地形の形成時期等について検討することは困難である。),C面を更に下位
よりC3面,C2面,C1面に細分して,別紙16のとおり分布標高を整理し
た。C面群は,現在の海水準において波浪の影響を受けており,海水準変
動又は隆起を示唆するものではない。B面及びA面は離水した地形面と判
断されるが,このうちB面は下北半島西部全域に点在し,標高値は縄文海
進期の海水準と一致していることから,局所的な隆起や傾動といった陸の
隆起によるものではなく,広範囲に等しく影響を及ぼす海水準変動による
ものと判断される。
(3)大間西方沖活断層の不存在
原告らが指摘する大間西方沖活断層については,渡辺ほか(2012)に
僅かに記載があるのみであって,原告らから,その存在を裏付ける根拠は示
されていない。被告電源開発は,詳細な調査を実施して,当該海域に断層の
分布が認められないことを確認している。
(被告国の主張)
(1)本件設置許可処分について
被告国(安全委員会)は,本件安全審査の調査審議において,「原子力発電
所の地質,地盤に関する安全審査の手引き」(昭和53年8月23日原子炉安
全専門審査会)を踏まえて,被告電源開発が本件敷地周辺の断層の性状及び
後期更新世以降の活動性に係る検討に足る十分な文献調査,変動地形学的調
査,地表地質調査,地球物理学的調査等を実施し,その結果に基づいて,清
水山南方断層,函館平野西縁断層帯,根岸西方断層,敷地西方沖断層,恵山
岬東方沖断層,奥尻海盆東縁断層のほか,F−14断層を耐震設計上考慮す
べきものとして評価したことを確認したものであり,このような本件安全審
査の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落はない。
(2)新規制基準の合理性について
原告らは,米国では,原子炉から半径8km以内に地表の変形や地震を引
き起こす断層がないことが要求されているのに対し,我が国ではこのような
要求はしておらず,我が国の安全確保策が国際的基準に劣っている旨主張す
る。
しかし,原告らが引用している立地指針(RG4.7〔Revision2〕)は,
NRCが規則に基づいて具体的な規制を行う際の解釈や見解をまとめ,許認
可保有者や申請者に対する指針を示した規制指針(RegulatoryGuide)の一
部であり,規制要求そのものではない。このことは,前記立地指針の注意書
きに「規制指針は規制に代わるものではなく,規制指針への準拠は必須では
ない」旨記載されていることからも明らかである。
なお,設置許可基準規則3条は,設計基準対象施設について,基準地震動
等が作用した場合においても当該設計基準対象施設を十分に支持することが
できる地盤に設けなければならないこと等を要求しており,その条件を満た
さない地盤であれば,我が国においても設置許可がなされないこととなる。
前記立地指針(RG4.7〔Revision2〕)は,このような緻密な分析をせず
に,単に「原子炉から半径8km以内に地形の変形や地震を引き起こす断層
がないこと」を要求するのみで,その科学的,合理的理由は何ら示されてい
ないのであって,このような基準を採用していないことのみをもって,直ち
に我が国の規制基準が米国の規制基準に劣っているとはいえず,我が国の規
制基準が不合理であるということもできない。
5争点5(本件敷地内及びその周辺の断層)について
(原告らの主張)
本件設置許可処分当時の新耐震設計審査指針及び「発電用原子炉施設の耐震
安全性に関する安全審査の手引き」によれば,後期更新世以降に活動があった
ことを否定できない断層は,「耐震設計上考慮する活断層」として認定すること
となる。新規制基準のもとにおいても,設置許可基準規則3条3項において,
耐震重要施設は変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない旨規定
し,これを受けた地質審査ガイドは,「3.1調査方針」として,「重要な安
全機能を有する施設の地盤には,将来活動する可能性のある断層等の露頭が無
いことを確認する。」と定めているところ,ここでいう「将来活動する可能性の
ある断層等」とは,後期更新世以降の活動が否定できないものとされ,震源と
して考慮する活断層のほか,地震活動に伴って永久変位が生じる断層が含まれ
るとされる。
しかるに,本件敷地の地盤には,以下の断層が存在し,これらはいずれも
「耐震設計上考慮する活断層」又は「将来活動する可能性のある断層等」に当
たることを否定できない。
(1)S−10及びS−11について
本件敷地の地盤には,被告電源開発が「シーム」と呼ぶ断層が存在し,被
告電源開発は,これらの断層に「S−0」から「S−11」までの番号を付
している。これらのうち,S−10は,別紙17の1及び2のとおり,本件
原発の原子炉建屋から約200mしか離れていない地点の露頭で確認されて
おり(ただし,S−10は広く分布しており,ボーリング調査の数が少ない
ことも考慮すれば,本件原発の重要な施設の直下にないとはいえない。),地
下10〜15m程度の浅い地盤に存在している。また,S−11は,もとも
と本件原発の原子炉建屋の直下に存在していたところ(別紙17の1),直下
の地面を掘削除去したことにより,原子炉建屋の側面に露頭している(別紙
17の2)。S−10及びS−11は,いずれも後期更新世以降の段丘堆積物
に変状を与えており,耐震設計上考慮する活断層として認定し又は将来活動
する可能性のある断層等として考慮されなければならない。
(2)cf−1断層について
本件原発の耐震重要施設であるコントロール建屋の直下には,被告電源開
発が「cf−1断層」と呼ぶ断層が存在する(別紙18参照)。
被告電源開発は,cf−1断層が将来活動する可能性のある断層等である
ことを否定するが,規制委員会の審査会合において,被告電源開発の資料・
論拠の不十分さが明確に指摘され,被告電源開発自身,そのような資料を有
していないために改めて調査を実施するなどとしている。このように,被告
電源開発は,cf−1断層について,後期更新世以降の活動性を否定できる
根拠を示せていないから,少なくとも現在の規制基準の下では,その活動性
を否定できないということになる。
(3)sF断層系及びE系断層について
これらの他にも,本件敷地の地盤には,「sF断層系」,「E系断層(E−2
9,E−33など)」と呼ばれる断層が存在するところ,被告電源開発は,そ
の活動性を否定するに足りる資料を提出していないから,これらが将来活動
する可能性のある断層等であることは否定されない。
(被告電源開発の主張)
(1)本件敷地内の断層について
本件敷地には,新第三系中新統の大間層や易国間層を変位させる断層が認
められ,被告電源開発は,その分布及び性状から,dF断層系,cf断層系,
sF断層系の3種類に区分しているが(別紙19の1及び2参照),いずれの
断層も,後期更新世以降の活動はなく,将来活動する可能性のある断層等で
はない。
(2)S−10及びS−11について
本件敷地内には,地層(層理面)に平行して連続性の認められる粘土質の
薄層が認められ,「シーム」と呼ぶ。S−10及びS−11は,これらシーム
の一部である。
S−10は,別紙19の1及び2に示すように,df−2断層(デイサイ
トの貫入に伴う断層)に切られていることが確認されているから,デイサイ
トの貫入に伴う断層の形成時期より後の変異は生じていない。また,より上
層のS−11は,易国間層上部層の細粒凝灰岩層に挟まれている。S−11
の分布,性状及び構成物質は他のシームとほぼ同様であり,類似の生成環境
で同時期に形成されたものである。
よって,S−10及びS−11は,いずれも後期更新世以降に変位は生じ
ておらず,将来活動する可能性のある断層等ではないと判断される。
(3)cf−1断層について
cf−1断層は,本件敷地に分布するM3面段丘堆積物に不整合の関係で覆
われており,上位のM3面段丘堆積物の基底面には変位・変形は認められない。
また,cf−1断層は固結度が高く,周囲の岩盤と同等かそれ以上の強度を
有することが判明しており,長時間をかけて固結し,岩石化して,動いてい
ないものと考えられる。
よって,cf−1断層は,後期更新世以降の活動はなく,将来活動する可
能性のある断層等ではない。
(4)sF断層系並びにE−29及びE−30について
sF断層系も,後期更新世以降の活動はなく,将来活動する可能性のある
断層等ではない。
E−29及びE−33は,節理であり,面に平行な変位のある断層とは異
なる。また,原子炉建屋等の重要な安全機能を有する施設が設置される地盤
に分布するものではないので,これらの安全機能に重大な影響を与えること
はない。
(5)第四系中の変状について
本件敷地には,第四系(約258万年前以降の地質)中に不明瞭な不連続
面あるいは堆積構造の微小な変位,変形が認められる箇所がある。原告らは,
第四系中に変状があることを根拠に,シームが断層である,後期更新世以降
の活動がある,などと主張するが,この変状は,その発生が岩盤の風化が進
行した局所に限られ,変位の方向が一定ではなく様々な方向を示すことから,
地表付近における岩盤の強風化部*の局所的膨張によって形成されたものと考
えられ,シームとは分けて活動性の評価をすべきものである。また,こうし
た岩盤の風化が進行した部分は,原子炉建屋等の重要な施設付近では掘削除
去されるから,原発の安全性に重大な影響を与えるおそれはない。
(被告国の主張)
前記4(争点4)における被告国の主張(1)と同じ。
6争点6(本件敷地及びその周辺の地質,地盤)について
(原告らの主張)
本件敷地の地盤は,敷地北方に貫入岩が入り込み,地下構造の入り組んだ不
均質なものとなっている。その上,一般に,堆積岩の中を地震波が伝わる速さ
(弾性波速度)は,緻密なほど速く,時間の経過によって堆積岩が緻密になっ
た深部ほど速い構造になるが,本件敷地の地盤は,弾性波速度が上下で不均等
な数値となっている。したがって,平成19年の新潟県中越沖地震や平成21
年の駿河湾地震*で見られたような地震動の増幅が生じる可能性がある。
新潟県中越沖地震で確認されたように,地表から4〜6kmより深部の地下
構造によって地震動が増幅されることがあるのに,被告電源開発の本件敷地深
部の調査は,せいぜい450mにとどまっており,これまでの調査では地盤構
造の把握として不十分である。そして,被告電源開発は地震動を増幅させる構
造があることを前提として耐震設計をしていないから,地震動に対する施設の
安全機能は不十分である。
(被告電源開発の主張)
(1)被告電源開発が行った調査
被告電源開発は,本件敷地及びその周辺の地質・地質構造を把握するため,
以下のとおり詳細な調査を実施した。
ア本件敷地周辺及び近傍
)楫鑄瀉麓辺の陸域−文献調査,露頭観察等の地表地質調査
∨楫鑄瀉麓辺の海域−文献調査,海上音波探査,海上ボーリング
K楫鑄瀉篭疔機殃幻ツ敢此っ鷲獣麓粗Ш此こぞ絏伺斑戯此そ杜話戯
つ媛辰如ず膿靴諒幻ツ敢此す匐レーザ測量による地形測量結果を用い
た地形の再判読,海底地形図を用いた地形判読,段丘面の形成時代等を
確認するボーリング調査,海成段丘面での地表地質踏査等の地表地質調
査,ヘリコプターを用いた重力探査,最新の手法・範囲拡大による海上
音波探査を実施している。
イ本件敷地内
|鷲獣麓祖敢此っ鷲獣得探査,50〜200m間隔の格子の交点にお
けるボーリング調査,試掘坑調査,トレンチ調査
原子炉施設設置位置付近での炉心ボーリング調査,試掘坑調査,岩盤
試験,岩石試験
D媛辰如ざ中写真判読,大型バイブレータによる反射法・屈折法地震
探査及び重力探査,ボーリング調査,深部ボーリング調査,法面調査,
掘削面調査を実施している。
(2)調査結果
別紙19の1及び2,別紙20のとおり,原子炉建屋の支持地盤は,易国
間層の火山砕屑岩であり,形成年代は新第三紀中新世(約2300万年前か
ら約530万年前まで)であって,形成から相当な年月が経過することに
よって固結しており,各種試験結果を見ても基礎として十分な安全性を有し
ている。
また,被告電源開発は,前記(1)の各種調査結果を踏まえ,原子炉建屋等の
重要な施設の支持地盤が,支持力に対する安全性,すべりに対する安全性,
傾斜に対する安全性を有することを確認した。
(被告国の主張)
本件設置許可処分に係る本件安全審査については,以下のとおりである。
すなわち,本件安全審査で用いられた「原子力発電所の地質,地盤に関する
安全審査の手引き」の内容に不合理な点はない。
また,被告国(安全委員会)は,本件安全審査において,被告電源開発が
行った原子炉施設設置地盤の各種調査,岩石試験,岩盤試験等の結果に基づく
慣用法,有限要素法による基準地震動Ssに基づく動的解析の結果による支持
力,すべり及び沈下の評価結果等を踏まえ,本件原子炉施設の設置地盤が本件
原子炉施設に対して十分な支持性能を有する旨判断したものであり,調査審議
の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はない。
7争点7(火山対策)について
(原告らの主張)
(1)新規制基準(火山ガイド等)の定め
設置許可基準規則6条1項は,「安全施設は,想定される自然現象(中略)
が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない。」
と規定し,同規則の解釈6条の2において,「想定される自然現象」の中に火
山の影響も含まれるとされている。そして,規制委員会は,火山の影響を判
断するための基準として火山ガイドを定めている。
火山ガイドにおいては,‥該原発の地理的領域*(半径160kmの範囲)
内に第四紀*に活動した火山が存在する場合,「将来の活動可能性が否定でき
ない火山」を抽出し(第四紀のうち完新世*に活動があった火山は,「将来の
活動可能性が否定できない火山」とされ,そうでない火山は,過去の活動を
示す階段ダイヤグラムにおいて,火山活動が終息する傾向が顕著であり,最
後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間より長い等,将来の活動可能
性がないと判断できる場合に,将来の活動可能性が否定される。),⊂来の
活動可能性が否定できない火山が存在する場合,設計対応不可能な火山事象*
が当該原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分に小さいといえなけれ
ば,当該原発は立地不適となる。かかる可能性が十分に小さいといえる場
合,立地不適とはならないが,既往最大の噴火を考慮しても当該原発に影響
を及ぼさないと判断できる火山を除き,火山活動のモニタリング及び火山活
動の兆候を把握した場合の対処方針を策定することを要する。また,ぞ来
の活動可能性が否定できない火山が存在する場合は,当該火山による火山事
象の影響を評価し,ヅ該原発の火山事象に対する設計対応及び運転対応が
妥当といえる場合に,当該原発は火山事象への対応が可能なものと評価され
る。
しかし,以下のとおり,火山ガイドの内容は不合理であり,仮に火山ガイ
ドの内容自体は不合理とはいえないとしても,被告電源開発による「将来の
活動可能性が否定できない火山」の抽出や火山事象の影響評価は,不合理で
ある。
(2)火山ガイドの不合理性
ア将来の活動可能性が否定できない火山の抽出
確立された国際的基準の一つであるIAEA安全基準のSSG−21*で
は,過去1000万年間に発生した火山についての情報収集が規定されて
おり,この段階ではスクリーニングの対象にならず,次のステージに進む
ことになる。続いて,過去1万年(完新世)の間に火山活動があれば将来
噴火があり得るものとされ,過去1万年以内に活動していない火山につい
ても,過去200万年間に火山活動があれば,一般に活動可能性があると
判断されることになる。活動的でないカルデラも,過去500万年間に活
動していれば,将来の活動可能性を残すものとみなされる。ただ,前期更
新世又はより古い時期(約200万年よりも前)において活動があり,そ
れ以降,明白な減退傾向や休止を示す場合で,火山活動の再開が非常に稀
であることが証明される余地があることを残しているが,そうでない限り,
1000万年より若いあらゆる火山が将来の活動可能性があると仮定する
必要があるものとされる。
しかし,前記のとおり,火山ガイドは,「原子力発電所に影響を及ぼし得
る火山の抽出」として,第四紀火山から活動可能性のある火山を抽出する
ものとしており,約258万年前より古い火山を最初に評価の対象外とし
ている点で,SSG−21の規定に反する。
また,火山ガイドは,完新世(過去約1万1700年間)に活動を行っ
ていない火山については,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期
間より長いなど将来の活動可能性がないと判断できる場合,個別評価の対
象外としており,最後の活動終了からの期間と最大休止期間とを比較して
安易に将来の活動可能性を否定できるかのような定めになっていて,実質
的に要件を緩和したものにほかならない。この規定によると,例えば,8
万年前及び5万年前の2回しか噴火が確認されていない火山は,最大活動
休止期間が3万年,最後の活動終了からの期間が5万年であるから,将来
の活動可能性がないと判断できることになるが,これは過去200万年間
の噴火記録があれば一般に活動可能性があるとするIAEAのSSG−2
1と比較して,著しく不合理である。
なお,火山ガイドの案の段階では,過去にVEI*=6以上の大規模噴火
を起こした第四紀火山は将来の活動可能性が全て肯定されると規定されて
おり,前記のとおり過去500万年の間に活動したカルデラは将来の活動
可能性を残すとしたSSG−21の基準を反映したものであったのに対し,
策定された火山ガイドでは当該規定が削除されている。規制委員会が原子
力事業者の便宜のために削除したのではないかと疑わざるを得ない。
イ抽出された火山の個別評価(立地の適否)
火山ガイドにおいては,当該原発の地理的領域内に「将来の活動可能性
が否定できない火山」が存在するものの,設計対応不可能な火山事象が当
該原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分に小さいといえる場合に
は,火山活動のモニタリング及び火山活動の兆候を把握した場合の対処方
針(原子炉の停止,核燃料の搬出等)を策定した上で,当該原発の設置が
許可され得る(前記(1)の)。
しかし,かかる定めは,当該火山の噴火の時期や規模が相当前の時点で
的確に予測できることを前提とするものであるところ,現在の科学的技術
的知見をもってしても原発の運用期間中に当該火山が噴火する可能性やそ
の規模を的確に予測することは困難であるから,過去に設計対応不可能な
火山現象が到達したとみられる原発を立地不適としない火山ガイドの定め
は,不合理である。
少なくとも,過去に設計対応不可能な火山事象が到達したと考えられる
原発は,原則,立地不適とすべきであり,この原則に対する例外が認めら
れる場合とは,科学技術水準の発達等により,当該原発の運用期間中に設
計対応不可能な火山事象が到達する可能性のないことが,客観的な根拠を
もって明確に示された場合等の極めて限定的な場合に限られるというべき
である。
ウ火山事象の影響評価−火山灰のリスク評価
火山灰の影響評価について,イギリスの原子力安全の専門家であるジョ
ン・ラージ氏のレポートにおいて指摘されるように(別紙21),米国NR
Cが通常行う審査やIAEAが勧告する原発の立地審査基準においては,
降灰確率,風向き,火山灰の密度等広範かつ詳細なパラメータが設定され
ているが,火山ガイドには,その多くについて具体的な定めがなく,規制
委員会による川内原発*の安全審査においても検討された形跡がない。
川内原発の火山灰のリスク評価やその対策が国際基準を大きく下回って
いることは明らかであり,同じ火山ガイドに従って審査が行われる以上,
本件原発の火山灰リスクに対する評価のみが国際基準に合致するとは考え
られない。
(3)被告電源開発による火山の抽出及び影響評価等の不合理性
ア将来の活動可能性が否定できない火山の抽出
(ア)洞爺カルデラ
被告電源開発は,洞爺カルデラ(別紙22の番号27)について,約
11万年前に1回活動したのみであるとして,将来の活動可能性を否定
する。
しかし,洞爺カルデラの周辺に存在する洞爺中島(別紙22の番号3
1,約4万5000年前に活動)や有珠山(別紙22の番号38,1万
から2万年前以降活動,平成12年に噴火)の活動が,たとえ洞爺カル
デラの後カルデラ活動の一部であったとしても,洞爺カルデラの火山活
動であることには変わりがなく,将来の活動可能性の判断において考慮
される「最後の活動終了からの期間」は,これらの火山活動を含めるべ
きである。現に,洞爺カルデラの周辺に原子力関係の施設を設置する事
業者は,例外なく,これらの火山の活動を一体のものとして評価してい
る。
そうすると,洞爺カルデラは,有珠山の活動履歴から,完新世に活動
を行っている火山とみるべきであり,将来の活動可能性を否定できない。
また,仮に有珠山等の活動履歴を考慮せず,洞爺カルデラ単体の活動
可能性を検討するとしても,1回しか活動していない火山について最大
休止期間をゼロとして扱い,最後の活動終了からの期間が最大休止期間
よりも長い場合に該当するとして将来の活動可能性を否定する考え方は,
極端な例を挙げれば1年前に1回だけ噴火した火山であっても活動が終
息傾向にあるということになってしまい,余りにも不合理である。
この点を措くとしても,洞爺カルデラの最後の活動終了からの期間で
ある約11万年間は,火山の平均的な活動休止期間の範囲内であり,洞
爺カルデラの活動が開始したとする14万年前からみても,一つの火山
の平均寿命より大幅に短い期間しか経過していないのであるから,現在
の洞爺カルデラは,一般的な活動休止期間に当たっているだけだと判断
するのが自然である。
(イ)銭亀
銭亀(別紙22の番号64,本件原発の北方約26km,函館市沿岸
の海底に存在するカルデラ)は,約4万5000万年前から約3万30
00万年前までの間に1回だけVEI=6クラスの大規模な噴火をした
火山である。1回しか活動していない火山には,活動期間内の最大休止
期間が存在しない。しかし,火山学におけるタイムスケールからすれば
ごく最近の活動であり,火山活動が終息する傾向が顕著であるなどとは
到底評価できない。したがって,銭亀を将来の活動可能性がないと評価
することは不合理である。
銭亀が過去1回の活動と同規模の活動をすると想定した場合,噴出し
た火砕物密度流が本件原発に到達する可能性が十分にあり,この場合は,
火山ガイドでも設計対応不可能とされているから,立地不適となる。
イ抽出された火山の火山活動に関する個別評価(立地不適)
被告電源開発は,本件原発から半径160kmの地理的領域内にある9
3の第四紀火山(別紙22)のうち,将来の活動可能性を否定できない火
山として抽出した35の火山(別紙23)について,既往最大規模の噴火
を考慮しても,本件原発の供用中に設計対応が不可能な火山事象が本件敷
地に到達する可能性は十分小さい,としている。しかし,このうち陸奥燧
岳(むつひうちだけ,別紙22及び23の番号70),恐山(同番号73),
恵山(同番号62),北海道駒ヶ岳(同番号54)は,本件原発に影響を及
ぼし得る火山というべきであり,本件敷地が立地として不適であることは
明らかである。
ウ降下火砕物の影響評価
(ア)最大層厚の想定
被告電源開発は,降下火砕物の層厚を既往最大の30cmと想定して
いるが,想定に当たっては,文献調査や敷地の堆積物調査等では足りず,
数値シミュレーションの実施は義務的とすべきである。IAEA安全基
準のSSG−21でもシミュレーションの実施が強く推奨されている。
銭亀,恐山,倶多楽(くったら)・登別火山群(別紙22及び23の番
号41)の各火山において,過去の噴火と同規模の活動があった場合,
風向次第では想定を大きく上回る降下火砕物が本件原発に堆積する可能
性がある。しかし,被告電源開発は,本件敷地及びその近傍に分布する
銭亀女那川火山灰は検討しているが(ただし,過去にたまたま本件敷地
への降下火砕物が少なかったというだけで,影響は小さいと評価してい
る。),恐山や倶多楽を起源とする降下火砕物については一切考慮してい
ない。
このように,被告電源開発による最大層厚の評価は,数値シミュレー
ションを実施していない点,また,風向・風力のばらつきを考慮すると
本件原発に100cmを超える降下火砕物が積もる可能性すらあり,こ
れを一切考慮していない点において,極めて重大な過誤,欠落がある。
(イ)大気中濃度計算の評価等
降下火砕物は,大気中濃度が大きいほど,換気空調系統のフィルタの
目詰まり,非常用ディーゼル発電機の損傷等を起こしやすい。
被告電源開発は,他の原発の事業者と同様,アイスランド南部のエイ
ヤヒャトラ氷河の噴火(2010年)の際にヘイマランド地区で観測さ
れた数値である3.24mg/㎥を想定しているが,米国のセントヘレ
ンズ山の噴火(1980年)の際に約135km離れたヤキマ地区で3
3.4mg/㎥の火山灰濃度が観測されたことから,平成28年10月,
規制委員会は,電力各社に対し,従来の約10倍の濃度の火山灰を想定
して対策を立てるよう求めるに至っており,本件原発においても10倍
以上の過小評価がある。
のみならず,規制委員会の検討会においても,前記のヤキマ地区の観
測結果が「採取器がこのような高濃度に対応できる設計ではなかったの
で,実際はより高い濃度であった可能性も否定できない」ことが明言さ
れていること,当該観測の際の火山灰層厚は5〜9mmにすぎず,本件
原発において想定される30cmの降灰が生じた際には,33.4mg
/㎥よりはるかに高い火山灰濃度となる可能性があることからすると,
火山灰濃度の想定は33.4mg/㎥でも不十分である。
仮に,大気中濃度10倍を考慮すると,非常用ディーゼル発電機の吸
気フィルタ交換に要する時間には全く余裕がなくなり,目詰まりを起こ
して機能喪失するおそれがある。
(4)本件設置許可処分の不合理性
被告国は,平成20年の本件設置許可処分当時,火山による原発の安全性
への影響に関する基準を定めていなかった。安全審査基準を欠いたままなさ
れた本件設置許可処分は違法である。
(被告国の主張)
(1)火山ガイドの合理性
アSSG−21の位置付け
IAEAの安全基準は,施設と活動に関して各国の規制における参考と
して,加盟国で使用されることができるものとされており,加盟国を法的
に拘束するものではなく,各加盟国がそれぞれの実情等に照らして規制基
準を定めることは否定されない。
他方,火山ガイドは,規制委員会の規制基準に関連する内規にとどまり,
審査官が火山の影響評価の妥当性を判断する際の参考とするものにすぎず,
審査に当たって審査官を拘束するものではない。
したがって,そもそも火山ガイドがSSG−21に反することを理由に
審査基準が不合理といえるものではないが,この点を措いても,以下のと
おり,火山ガイドの内容はSSG−21と整合している。
イ将来の活動可能性を否定できない火山の抽出
(ア)過去1000万年前まで遡って火山を抽出していない点
原告らは,SSG−21においては地理的領域内において過去100
0万年の間に発生した火山活動についての情報収集が規定されているの
に対し,火山ガイドにおいては,258万年前より古い火山を評価の対
象外としており,SSG−21の規定に反すると主張する。
しかし,我が国においては,258万年間の休止期間を経た後に火山
活動を再開させた火山は存在せず,個々の火山活動において,同一マグ
マ供給系の火山活動期間は,数十万年から100万年程度と考えられて
いる。そこで,258万年(第四紀)を基準に火山を抽出すれば,現在
評価すべき火山を包含できるものといえる。
SSG−21が1000万年前までの火山活動を抽出しているのは,
IAEA安全基準の安全指針(No.NS−G−3.1)において,放射線
学的影響の可能性を有する事象の年発生確率の限界値が一部の加盟国に
おいて10−7(1000万年に1回)とされていることによるものであ
り,確率論的評価手法に基づくものである。この1000万年という数
値(前記の確率論的評価手法による数値)を,検討対象とすべき火山の
抽出方法として採用する根拠は明らかではなく,また,SSG−21の
規定も,決定論的手法を不合理であるなどとして排除するものではない。
(イ)将来の活動可能性の評価方法
原告らは,火山ガイドにおいては,最後の活動終了からの期間が過去
の最大休止期間より長いなど将来の活動可能性がないと判断できる場合,
個別評価の対象外としており,火山活動が終息する傾向が顕著であるか
否かの具体的基準が明らかではなく,SSG−21より緩やかに火山活
動の終息が認められかねず,不合理であるなどと主張する。
しかし,SSG−21は,過去1000万年までの間に活動が認めら
れる火山について,まず,現在又は過去1万年間,すなわち完新世の火
山活動が認められれば,次の評価段階に移行すべきとしており,火山ガ
イドの規定と符合する。
また,SSG−21は,決定論的手法として,「例えば,類似した火山
を調査して,噴火活動が発現した後で次の発現が起こるまでの時間経過
の最大期間を判別し,この活動の空白期間を閾(しきい)値として使用
することができる」,「火山系の時間と量の関係,若しくは岩石学的傾向
を引き合いに出せる可能性がある。例えば,時間と量の関係は,更新世
初期若しくはそれより古い期間における火山活動の明確な衰弱傾向や明
白な休止を示す場合がある。こうした状況では,新たな火山活動の可能
性が極めて低いと言うことができる。これらの基準に基づいた解決が達
成されない場合,将来の噴火は,10Ma(1000万年)より若い火
山に対して可能性があると単純に仮定するのがよい。」としているところ,
これらは「例えば」とされていることからも明らかなとおり,例示にす
ぎず,決定論的手法により「新たな火山活動の可能性が極めて低い」と
いえない場合に,次の評価段階に移行すべきとしたものである。火山ガ
イドも,「火山活動が終息する傾向が顕著であり,最後の活動終了からの
期間が,過去の最大休止期間より長い等,将来の活動可能性が無いと判
断できる場合」にのみ,当該火山を評価対象外とし,「それ以外の火山は,
将来の火山活動可能性が否定できない火山」として個別評価に移行する
ものとしているから,決定論的手法により「将来の火山活動可能性が否
定できない」場合に個別評価に移行するものを示したものであって,何
らSSG−21と異なるものではない。
なお,原告らは,例えば8万年前及び5万年前の2回しか噴火が確認
されていない火山は,最大活動休止期間が3万年,最後の活動終了から
の期間が5万年であるから,将来の活動可能性がないと判断できること
になるなどと主張するが,そもそも原告らが例示するような火山活動を
歩む火山があるのか疑問であるし,「最後の活動終了からの期間が,過去
の最大休止期間より長い」ことはメルクマールの一つにすぎず,「将来の
火山活動可能性が否定」できるか否かは「火山活動が終息する傾向が顕
著」であることも含めて評価すべきものであるから,原告らの前記主張
は失当である。
(ウ)VEI=6以上の大規模噴火を起こした第四紀火山について,一律に
将来の活動可能性を認めていない点
原告らは,火山ガイドの案の段階では,過去にVEI=6以上の大規
模噴火(噴出量が10km3以上)を起こした第四紀火山は将来の活動可
能性が全て肯定されるとされていたのに対し,策定された火山ガイドで
は当該規定が削除されていることを指摘して,原子力事業者の便宜のた
めにこれを削除したものではないかと疑わざるを得ないなどと主張する。
しかし,当該規定に対しては,パブリックコメントにおいて,「SSG
−21では火山系の時間と量の関係等から,新たな火山活動の可能性が
極めて低いということができるとしている。それにもかかわらず,過去
に10km3以上の大規模噴火が発生したことのみをもって『将来の活動
可能性が否定できない火山』とすることは,矛盾する」などの意見が述
べられたため,改めて検討を行い,過去に10km3以上の噴火を起こし
た火山であっても将来の噴火の可能性が乏しい火山が存在することは火
山学的に明らかであることを踏まえ,削除することとしたものであり,
原告らの前記主張は失当である。
ウ過去に設計対応不可能な火山現象が到達したとみられる原発を一律に立
地不適としていない点
原告らは,現在の科学的技術的知見をもってしても原発の運用期間中に
当該火山が噴火する可能性やその規模を的確に予測することは困難である
から,過去に設計対応不可能な火山現象が到達したとみられる原発を立地
不適としない火山ガイドの定めは不合理であるなどと主張する。
しかし,運用期間中の火山の活動可能性や設計対応不可能な火山事象の
到達可能性が十分小さいと認められる場合に立地不適としないとする評価
方法は,SSG−21においても採用されている国際水準に合致した評価
方法である。
すなわち,SSG−21は,「サイト領域における将来の火山活動の可能
性が特定された場合,若しくはこの可能性を排除できない場合は,危険な
現象がサイトに影響を与える可能性について解析するのがよい。(中略)場
合により,これらの現象がサイトに到達する可能性がごくわずかであるな
らば,特定の危険な現象を更なる検討から選別排除することができる。」と
しており,サイト選定段階における排除条件に該当すれば,それだけで立
地不適とまではしておらず,全ての火山事象について,サイトに到達する
可能性がごくわずかであれば,特定の危険な現象を更なる検討から選別排
除することができるとしている。このように,SSG−21も火山ガイド
も,設計対応が不可能な火山事象に対し,その到達可能性を評価すること
ができることを前提として,その可能性を評価することとしており,この
点において両者は整合している。
エ火山事象の影響評価
原告らは,ジョン・ラージ氏のレポート(別紙21参照)を根拠に,火
山ガイドの降下火山灰対策が,米国NRCが通常設定するパラメータやS
SG−21と比較して劣っているなどと主張する。
しかし,そもそもジョン・ラージ氏が,具体的にいかなる法規や条文を
指して,「NRCが通常使用する標準的なパラメータ」,「原発の立地審査に
関しIAEAが勧告する内容」であるとしているのか明らかでない。
NRCの規則である10CFRには,火山事象の影響評価を求める条項
は見当たらない。
SSG−21においても,ジョン・ラージ氏が指摘するパラメータのう
ち,「発電所における予想される最大の降灰の厚さ」以外のものは明記され
ていない。そして,前記「発電所における予想される最大の降灰の厚さ」
について,SSG−21は「サイトにおける火山灰降下堆積物に対する最
大想定厚の閾値を設定するのがよい。例えば,類似する火山の噴火からの
実際の堆積物を用いて,可能性のある火山に対するサイトの堆積物の最大
厚を定義することができる。」としているところ,火山ガイドも「降下火砕
物に関しては,(中略)原子力発電所の敷地及びその周辺調査から求められ
る単位面積あたりの質量と同等の火砕物が降下するものとする。」としてお
り,両者は特段,矛盾抵触するものではない。
(2)本件設置許可処分について
ア審査基準について
本件設置許可処分当時の安全設計審査指針(指針2)において,「安全機
能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象に
よって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に
高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のう
ち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせ
た場合を考慮した設計であること。」とされ,火山はこの「自然現象」に含
まれるから,本件設置許可処分に係る安全審査において,火山も考慮の対
象とされていた。
イ調査審議について
原子炉安全専門審査会は,本件敷地周辺の火山について,今後大規模な
噴火を起こす可能性が非常に小さく,又は火山活動をしたとしても,本件
敷地に与える影響は小さいと考えられるとする本件設置許可申請における
検討事項は,いずれも本件原子炉の敷地周辺の実体を踏まえた適切なもの
であり,必要な範囲における従前の火山活動の検証等を行うなど必要な検
討過程を経た結果のものであるとして妥当なものと判断したが,この調査
審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はない。
(被告電源開発の主張)
(1)火山ガイドの合理性等
以下に補足するほか,被告国の主張に同じ。
ア火山ガイドは,原子炉施設等基準検討チーム及び「火山に関する規制基
準検討会」において専門家からの意見聴取を行い,その意見を踏まえた上
で策定されており,SSG−21とも概ね良好に整合する。
イ日本列島の火山は,プレートが沈み込んでいるところ(海溝)に分布す
る火山に当たるので,その寿命は一般に数十万年程度と言われている。ま
た,日本列島の基本的な骨組みができたのは鮮新世(約533万年前〜約
258万年前)の頃であるため,それ以前に活動した火山は既に寿命を終
えているのみならず,日本列島の形成に伴ってその地理的場所が移動し,
多くの場合,火山の山体自体が浸食により消失するなどしているため,そ
のような火山があった位置を現時点で確認することはできない。火山ガイ
ドは,以上のような日本列島の火山に係る専門技術的知見に基づき,将来
活動の可能性を否定できない火山の抽出を定めたものであり,合理性を有
している。
ウなお,日本においては,各電力会社が原発を設置するに当たり火山の影
響評価のために参考にする技術的な指針として,一般社団法人日本電気協
会が平成21年にJEAG4625*を制定しているところ(平成26年及
び平成27年に改定された。),これには,SSG−21の制定に関与した
火山の専門家である中田節也教授も関わっている。そして,JEAG46
25は,火山ガイドと並んで,SSG−21の内容とよく整合している。
(2)将来の活動可能性が否定できない火山の抽出
被告電源開発は,本件敷地を中心とする半径160kmの範囲内の全ての
第四紀火山を検討対象と設定し,文献調査,地形・地質調査及び火山学的調
査を行い,別紙22のとおり,93の第四紀火山を抽出した。そして,それ
らの活動期間等により,別紙23のとおり,将来の活動可能性を否定できな
い35の火山(うち完新世に活動を行った火山は14,完新世に活動を行っ
ていないが将来の活動可能性を否定できない火山は21)を抽出した。この
考え方は,JEAG4625や火山ガイド,SSG−21の考え方と整合的
である。
なお,被告電源開発は,洞爺カルデラ及び銭亀について,将来の活動可能
性を否定する評価を行っているが,補足して説明すると以下のとおりである。
ア洞爺カルデラ
洞爺カルデラの火山活動は,約11万年前の1回のみでそれ以降の活動
は認められず,最後の活動からの経過期間が活動期間内の最大休止期間よ
りも短い場合に当たらない。よって,被告電源開発は,洞爺カルデラが再
び噴火することはないと評価した。なお,洞爺カルデラは気象庁の定義に
よっても活火山とはされておらず,地元自治体である洞爺湖町も火山災害
対策計画を定めていない。
ただし,降下火砕物については将来の活動性を否定した火山も含め噴出
源にかかわらず検討対象としており,本件敷地及びその近傍に分布する洞
爺火山灰についても検討している。
また,洞爺カルデラとその後カルデラ火山である洞爺中島及び有珠山と
は,別の火山と見ることが一般的である。仮に一体として見て,将来の活
動可能性が否定できない火山として扱うとしても,想定される運用期間中
の噴火規模は有珠山相当と考えられ,洞爺カルデラのカルデラ噴火と同規
模の噴火が想定されているわけではないから,この点に関する原告らの指
摘は本質的なものではない。
イ銭亀
銭亀の火山活動は,約5万年前の1回限りであり(文献調査に加え,銭
亀火山起源の軽石流堆積物の年代測定を行って確認している。),それ以降
の活動は認められず,火山活動の兆候も見られず,火山活動が終息する傾
向が顕著であると考えられる。そして,最後の活動からの経過期間が活動
期間内の最大休止期間よりも短い場合に当たらない。そのため,被告電源
開発は,銭亀が再び噴火することはないと評価した。なお,銭亀は気象庁
の定義によっても活火山とはされておらず,函館市も火山災害対策計画を
定めていない。
また,被告電源開発が行った多数の調査の結果,約5万年前の銭亀の火
山噴火の際に,本州大間側に火砕物密度流が到達していないことが確認さ
れていることから,仮に銭亀が再び過去最大規模の噴火をしたとしても,
本件敷地に火砕物密度流は到達しない。
被告電源開発は,念のため,銭亀が既往最大規模の陥没が起こった場合
を想定し,それによる津波の影響を詳細に検討しているが,その結果,本
件敷地における水位変動は小さいことを確認している。
(3)抽出された火山の火山活動に関する個別評価
被告電源開発は,抽出した将来の活動可能性を否定できない35の火山に
ついて,本件原発の運用期間中に設計対応が不可能な火山事象が本件敷地に
到達する可能性について評価し,いずれも,過去に設計対応が不可能な火山
事象は本件敷地に達しておらず,本件敷地との位置関係,地形等から,既往
最大規模の噴火を考慮しても,本件原発の運用期間中に設計対応の不可能な
火山事象が本件敷地に到達する可能性は十分小さいと評価した。なお,恵山
と恐山について補足すると,次のとおりである。
ア恵山
恵山起源とされる溶岩,火砕流堆積物等は,津軽海峡を挟んだ下北半島
西部には分布せず,降下火砕物の広域的な分布も確認されていないから,
本件原発の運用期間中に設計対応の不可能な火山事象が本件敷地に到達す
る可能性は十分小さい。
なお,恵山火山には急峻な溶岩ドームがあり,その山体は海岸近くに位
置することから,山体崩壊が発生すれば,岩屑なだれが海域に達して津波
が発生する可能性がある。そこで,被告電源開発は,恵山における火山現
象に起因する津波の検討について,既往最大の約2万年前の山体崩壊量を
超える0.075km3が海へ流入することを想定して評価した。これは,
Miura,etal.(2013)*による約8700年前の噴火による火砕流の
見かけの量が,仮に全量海に流入した場合を上回る。また,被告電源開発
は,斜面の設定や流れ込む方向の違い等も検討した。
イ恐山
恐山起源の溶岩,火砕流堆積物等の分布は,本件敷地に達しておらず,
降下火砕物の広域的な分布は確認されていない。また,恐山と本件敷地と
の間には,標高781mの陸奥燧岳や標高500〜600m級の山々から
なる下北山地がある。よって,本件原発の運用期間中に設計対応の不可能
な火山事象が本件敷地に到達する可能性は十分小さい。
(4)降下火砕物(火山灰)の影響評価
被告電源開発は,将来の活動可能性を否定できない35の火山について,
本件原発の運用期間中における活動可能性と規模を考慮し,降下火砕物,火
山性土石流,噴石,火山性ガス等の火山事象の影響を検討し,本件原発の安
全性に影響を与える可能性のある火山事象として,降下火砕物(火山灰)を
抽出した。また,降下火砕物については,噴出源にかかわらず,本件敷地及
びその近傍において確認されたものを検討対象とした。降下火砕物について
補足すると,次のとおりである。
ア被告電源開発は,本件敷地及びその近傍において詳細な調査を実施し,
更新世以降に最も厚い層厚を有する降下火砕物が洞爺火山灰であり,その
層厚が最大30cm程度であることを確認した。そこで,本件原発の設計
上考慮する火山灰の厚さは,最大30cmと想定している。なお,洞爺カ
ルデラは,現在は後カルデラ活動ステージであり,カルデラ噴火ステージ
ではないので,本来,洞爺カルデラ噴火による洞爺火山灰を設計上考慮対
象にする必要はない。しかし,本件敷地及びその近傍において,洞爺火山
灰のほかに考慮対象としてふさわしい降下火山灰がないため,洞爺火山灰
の厚さを設計上考慮する火山灰厚さとすることとしたという経緯がある。
そのため,洞爺カルデラのカルデラ噴火自体を想定する必要はなく,洞爺
カルデラのカルデラ噴火を想定した数値シミュレーションを実施する必要
はないことになる。
イ前記のとおり,火山灰の層厚設定は,本件敷地内における第四紀の降灰
実績に基づき十分保守的に実施しており,また,火山ガイド上,降下火砕
物の数値シミュレーションは必須とされていないが,被告電源開発は,念
のため,今後,数値シミュレーションを実施する予定である。
(5)降下火砕物に対する設計・運転対応
ア基本方針
被告電源開発は,降下火砕物(火山灰)に対して,火山灰が本件原発に
達したとしても,安全上重要な機能を有する施設及びこれらの施設の機能
の達成に必要となる施設について,火山灰による直接的影響に対して機能
を損なわないよう,必要な対策を講じることとしている。また,火山灰に
より本件原発外で生じる可能性のある長期間の外部電源喪失及び交通の途
絶といった間接的影響に対しても,安全上重要な機能を有する施設につい
て,必要な対策を講じることとしている。なお,これらの対策を具体的に
検討するに当たり,JEAG4625を用いている。
イ非常用ディーゼル発電機について
火山灰を含む空気の流路のうち,屋内の空気を機器内に取り込む機構を
有する施設であって,安全上重要な機能を有するものとして,非常用
ディーゼル発電機が挙げられるが,被告電源開発は,非常用ディーゼル発
電機に対して,閉塞,摩耗及び腐食に係る対策を講じることとしており,
このうち閉塞に対する設計上の考慮は,以下のとおりである。
(ア)対策の概要
非常用ディーゼル発電機(別紙24参照)は,換気空調設備の外気取
入口を地上方向(下向き)に向けることにより火山灰が外気取入口に進
入しにくい構造とし,地面に堆積した火山灰の吸い込みを防ぐため地上
から約10m離れた高い位置に設けることとする。換気空調設備には袋
形中性能フィルタを設置することにより,火山灰を除去した空気を屋内
に取り入れる。フィルタの目詰まりに関しては,交換が容易な構造とし,
交換で対応する。
また,本件原発においては,非常用ディーゼル発電機1基で原子炉及
び使用済燃料貯蔵槽の冷却に必要な電力を供給することが可能であると
ころ,非常用ディーゼル発電機3基をそれぞれ独立した区画に設け分散
して設置することとしており,仮に1基のフィルタが閉塞したとしても,
他の非常用ディーゼル発電機に切り替え,その間に十分な時間的余裕を
もってフィルタ交換を行うことが可能である。
(イ)フィルタ交換
非常用ディーゼル発電機1基につき換気空調設備の外気取入口に設置
するフィルタは36個のユニットからなり,そのフィルタ交換はユニッ
トごとに行うものである。1ユニットのフィルタは,取付枠を含んだ重
さで約6kg,実際に交換するフィルタそのものの重さは3kgで,寸
法は高さ及び幅が約60cm,奥行きが約100cmであるため,交換
は人力によって容易に行うことができる。交換の手順も単純なもので,
交換に要する時間は要員6名で2時間程度と試算される。
ここで,十分な時間的余裕をもってフィルタ交換を行うことが可能で
あることを確認するため,被告電源開発が,火山灰によって36個の
フィルタが閉塞するまでの時間を試算したところ,約39時間という結
果が得られており,約1日半の間はフィルタ交換が不要ということにな
る。前記の試算には,本件原発に到達する降下火砕物の大気中濃度とし
て,アイスランド共和国のエイヤヒャトラ氷河で2010年4月に発生
した火山噴火の噴火地点から約40km離れたヘイマランド地区におけ
る大気中の降下火砕物濃度の観測地のピーク値(3.241mg/㎥)
を用いているが,仮に原告ら主張のように,1980年の米国セントヘ
レンズの噴火の際の観測値を考慮して,降下火砕物の大気中濃度を10
倍として,フィルタ閉塞までの時間が10倍早くなるとしても,フィル
タ交換は十分に可能である。さらに,前記の試算は,前記(ア)で述べた火
山灰を吸い込みにくい構造とした効果を考慮せず,大気中を降下浮遊す
る火山灰の粒子が一部地上に降下することを考慮せず大気中濃度のまま
全て吸い込まれることを前提としているから,実際には更に時間的余裕
があることになる。
なお,フィルタ閉塞の試算及びフィルタの交換頻度等に関しては,現
在,規制委員会,他電力会社,電気事業連合会等において,様々な検討
がなされているところであり,被告電源開発は,今後も,審査状況と最
新の知見を踏まえ,更なる信頼性向上に向けた取組みを行うこととして
いる。
8争点8(津波対策)について
(原告らの主張)
(1)新規制基準における津波想定手法の見直しが不十分であること
津波審査ガイドでは,それ以前と比べ,太平洋側の津波想定が厳しくなっ
たが,日本海側の検討対象では,日本海中部地震*(Mw7.9)などを挙げ
るにとどめられている。日本海においては今後発生が想定される地震につい
て十分な検証ができていない状況との「日本海における大規模地震に関する
調査検討会」(国土交通省)の指摘もあり,津波審査ガイドをそのまま使用す
ることは,最大限安全側に考えるという基本を無視することになりかねない。
(2)本件原発における津波の高さの想定
ア一般的に,津波は,海底の断層が動くことによって海底が隆起又は沈降
し,その上の海水面を上昇又は下降させて発生するが,それ以外にも,海
底火山の爆発,海岸付近の火山の山体崩壊,海底地すべり(海底の堆積物
が比較的急速に斜面をすべり落ちる現象)の発生によっても生じる。地震
発生とともに海底地すべりが発生して津波を増大させることがあることは,
もともと知られていたが,東北地方太平洋沖地震において,海溝軸付近で
これまで想定されていなかった大規模な海底地すべりが生じて,巨大な津
波を生じさせた。しかるに,本件原発の津波評価において,地震と同時に
海底地すべりが発生し,津波を増大させることについて,全く考慮されて
いない。
また,プレート境界地震*に伴う津波は,複数の領域におけるプレート活
動が連動する可能性を考慮しなければならない。
イ被告電源開発は,日本海東縁での断層すべり量を9.45m,津波によ
る敷地前面の最大水位をT.P.*(東京湾平均海面)+4.4mと想定す
るが,東北地方太平洋沖地震と同程度のすべり量(40〜50m)を想定
すべきである。
また,被告電源開発は,遠地津波の最大のものとして,1960年のチ
リ津波(断層すべり量24m)を想定するが,わずか50年前に発生した
チリ津波が,3000万年間同様のプレート運動が起きているこの地域で
最大のものといえる根拠はなく,ここでも40〜50m程度のすべり量は
想定すべきである。
そして,複数領域の連動を考えれば,被告電源開発が想定した津波の高
さの10倍程度は最大限想定すべきであり,地震に伴い大規模な海底地す
べりが生じれば,本件敷地には更に大きな津波が襲う。
(3)引き波による本件原発への影響
津波によって生じる施設の損傷は,押し波(陸地へ押し寄せる波)による
ものだけでなく,引き波(沖へ引く波)により海水位が低下し,原子炉補機
冷却系の海水取水口からの取水が困難になる場面も想定される。
被告電源開発は,津波の引き波による海水位の低下を最大T.P.−3.
8mと想定し,取水口スクリーン前面の敷高がT.P.−4.0mであるた
め,海水位が低下しても取水は可能であるとしているが,その余裕はわずか
20cmしかなく,それ以上水位が低下すると原子炉補機冷却系は機能しな
くなり,原子炉の冷却が不可能となる。
(被告国の主張)
(1)津波に係る現在の規制の合理性
ア津波に対する規制
設置許可基準規則は,基準津波*により施設の安全機能や重大事故等に対
処するために必要な機能が損なわれないよう設計することを要求している
(同規則5条,40条)。そして,そのために,基準津波の策定に当たって
は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,かつ,津波の発生要因として地
震のほか,地すべり等の地震以外の要因やこれらの組合せによるものを複
数選定し,不確かさを考慮して数値解析を実施し,保守的に調査及び評価
を行うことを要求しており,策定された基準津波に対しては,多層的な防
護措置を講ずることを要求している(設置許可基準規則の解釈別記3)。
よって,津波に係る規制は何ら不合理ではない。
イ津波審査ガイドに係る原告ら主張について
そもそも津波審査ガイドは,規制委員会の規制基準に関する内規にすぎ
ず,それ自体が規制基準となるものではなく,審査に当たり審査官等を拘
束するものではない。
また,津波審査ガイドは,海域の活断層の調査結果に基づいて,将来の
活動を否定できない海域の活断層に想定される地殻内地震を対象に津波波
源を設定していることを確認することとしており(津波審査ガイド機ィ魁
3.4(1)),その「解説」では,海域の活断層による地殻内地震に起因す
る津波発生事例として,日本海中部地震(Mw7.9)による津波などの
事例を挙げている。しかし,これは飽くまで例示にすぎず,これらのみを
検討すれば足りる旨記載したものではない。
なお,国土交通省に設置された「日本海における大規模地震に関する調
査検討会」は,確かに,平成25年1月当時,日本海において,今後発生
が想定される地震につき十分な検証ができているとはいえない状況であっ
たことを前提に設置されたものであるが,同月から平成26年8月まで合
計8回開催され,同年9月には詳細な検討結果の報告がされている。そし
て,同報告において,前記検討会において検討された日本海側の津波断層
モデルにおける最大Mwは7.9であったとされている。したがって,現
在においては,原告らが主張するような,「今後発生が予想される地震規模
について十分な検証ができているとはいえない状況」にはないというべき
である。
(2)本件設置許可処分について
ア本件設置許可処分当時の津波の設計上の考慮については,安全設計審査
指針(指針2)において,「安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地
震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない
設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機
器は,予想される自然現象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力
に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。」とされ
ていた。また,新耐震設計審査指針において,地震随伴事象に対する考慮
として,「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性がある
と想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を
受けるおそれがないこと。」とされていた。
本件安全審査に用いられたこれらの各指針の内容に不合理な点はない。
イまた,被告国(安全委員会)は,これらの指針に基づき,被告電源開発
が津波について検討した事項及びその内容が,本件原子炉の敷地周辺の実
体を踏まえた適切なものであり,既往の地震や津波の規模の検証等を行う
など必要な検討過程を経た結果のものであるとして妥当なものと判断した
ものであり,調査審議の過程及び判断には,当時の科学技術水準に照らし,
看過し難い過誤,欠落はない。
(被告電源開発の主張)
(1)津波の想定
ア被告電源開発は,既往津波の文献調査や津波堆積物調査を実施し,本件
敷地を含む津軽海峡沿岸に最も影響を及ぼしたと考えられる既往津波とし
て,日本海東縁部,三陸沖から根室沖,チリ沖にそれぞれ想定される地震
に伴う津波を抽出し,これらについて,波源モデルを設定し,数値シミュ
レーションにより,本件敷地における津波の水位変動を検討した。このう
ち,日本海東縁部に想定される地震に伴う津波については,青森県西方沖,
その北方の地震空白域とされる海域及び北海道南西沖の三つの領域が連動
するものとして基準波源モデルを設定した。また,三陸沖から根室沖に想
定される地震は,東北地方太平洋沖地震を考慮し,Mw9.0の基準波源
モデルを設定した。その結果,日本海東縁部に想定される地震に伴う津波
が,水位変動に最も大きく影響を与えるケースとなった。
このほか,海域活断層に想定される地震に伴う津波,陸上の斜面崩壊及
び海底地すべりに起因する津波,火山現象に起因する津波をそれぞれ検討
し,さらに,津波発生要因の組合せとして,日本海東縁部に想定される地
震に伴う津波と陸上の斜面崩壊に起因する津波とを組み合わせた検討を
行った。
以上の検討の結果,本件敷地における水位変動に最も大きな影響を与え
る津波は,日本海東縁部に想定される地震に伴う津波であることから,こ
れを基準津波として選定した。
イこの基準津波による本件敷地における最高水位はT.P.+6.3m,
取水口スクリーン室前面における最低水位はT.P.−4.1mと推定さ
れ,これらの年超過確率はいずれも10−4〜10−5程度である。
(2)本件原発の耐津波安全性及び設計上の考慮
前記(1)の基準津波の本件敷地における最高水位はT.P.+6.3mであ
るのに対し,本件敷地における原子炉建屋等の重要な施設の設置高さはT.
P.+12.0mであるため,津波の遡上波が地上部から到達することはな
い。ただし,タービン建屋内の海水ポンプ室床部に浸水防止蓋を設置し,
タービン建屋内に水密扉を設置する等の対策を講ずる。
他方,引き波による水位低下については,基準津波による取水口スクリー
ン室前面における最低水位T.P.−4.1m程度は,取水口スクリーン室
前面の敷高(T.P.約−4.1m)を一時的に下回る可能性がある。しか
し,取水路等に原子炉補機冷却海水ポンプの取水に必要な海水量を十分に確
保できる設計とし,これにより原子炉補機冷却系の海水冷却機能に必要な取
水は確保される。
また,基準津波により本件敷地付近の海底の砂が移動した場合の影響につ
いて,数値シミュレーションによる検討を行った結果,取水口スクリーン室
への流入部付近における砂の堆積厚さは最大でも0.03m程度であり,こ
れにより取水口,取水路及び取水ピットの通水性に支障を生じることはない。
さらに,津波の襲来状況等を把握するため,津波監視カメラ及び取水ピッ
ト水位計を設置する。
これらの対策を講ずることから,津波により本件原発の安全性が損なわれ
ることは考えられないが,念のための措置として,本件原発の主要な建物の
外周の必要な箇所にT.P.+15m(T.P.+12.0mの敷地からの
高さ3m)の防潮壁を設置するなどの対策を講ずることとしている。
9争点9(立地審査指針適合性)について
(原告らの主張)
原告Bの居宅の所在地は,本件原発の炉心との距離がわずか300m程度に
すぎず,「原子炉の周囲は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であるこ
と。」とする立地審査指針に反している。
(被告電源開発の主張)
(1)本件安全審査では,[地審査指針において非居住区域及び低人口地帯で
あるべき範囲が,いずれも周辺監視区域の内側に包含されること,∨楫鑄
地が人口密集地帯から離れていることが確認され,立地審査指針に適合して
いることが確認されている。
原告らが主張する原告Bの居宅(以下「原告Bの居宅」という。)とは,a
町大字b字c番の土地(以下「c番の土地」という。)に設置されたログハウ
ス風の建物であると推察されるところ,c番の土地は,別紙4の2のとおり,
周辺監視区域境界の外側にあることから,非居住区域及び低人口地帯のいず
れの範囲にも該当しない。
(2)立地審査指針では,一定の条件を想定して解析評価した公衆の受ける線量
が一定の基準以下になる距離までの範囲について,非居住区域であるべき範
囲,低人口地帯であるべき範囲の各条件を満たすことの確認を求めているが,
発電所の敷地境界周辺において人が居住しないようにすることを要求してい
ない。
(3)c番の土地は,実質的に放置されて荒地化していた土地であった。被告電
源開発は,同土地の所有者であって原告Bの母であるCに対し,昭和58年
以降,本件原発の建設計画への協力要請をし,平成2年7月以降,用地取得
交渉をしていた。同人は,c番の土地から直線距離で約1.5km離れた住
宅地のa町大字d字e番地fに自宅を置いていたが,平成17年8月,c番
の土地に建物(原告Bの居宅)を造り,冬季以外に利用できるようにしてい
た。
原告Bは,Cが平成18年5月に死亡した後,c番の土地の所有権移転登
記手続を経ないまま,原告B居宅を存置しているが,原告Bについても,同
所に住民票上の住所を置いていた事実は見当たらない。
以上のとおり,C及び原告Bが本件原発の建設計画以前からc番の土地上
の建物を居宅としていた事実はない。
(被告国の主張)
(1)前記2(争点2)の(被告国の主張)(7)のとおり,旧原子炉等規制法の下
において,立地審査指針は,まず,事故時に公衆の安全を確保するために必
要な原則的立地条件を定め,これを踏まえて達成すべき基本的目標を設定し
た上,次の3条件が満たされていることを確認すべきものとしている。
仝胸厦Г亮囲は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。
原子炉からある距離の範囲内であって,非居住区域の外側の地帯は,低
人口地帯であること。
8胸厦敷地は,人口密集地帯からある距離だけ離れていること。
被告国(安全委員会)は,安全評価審査指針に基づき選定された「原子炉
冷却材喪失」及び「主蒸気管破断」の2事象における被告電源開発の解析・
評価によると,周辺監視区域(原子力施設の周辺に設けられた区域であって,
当該区域の外側のいかなる場所においても,その場所における線量が規制値
〔1年につき実効線量で1mSv〕を超えるおそれのない区域であり,その
区域内においては,人の居住が禁止され,かつ,業務上立ち入る者以外の立
ち入りが制限されるもの)境界外において,(旧)重大事故時の最大線量が前
記,砲いΑ屬△覽離の範囲」の目安を下回っており,(旧)仮想事故時の最
大線量が,前記にいう「ある距離」の目安をはるかに下回っていることを
確認したものであり,調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落はな
い。
(2)なお,既許可の原子炉施設に立地審査指針を適用した結果,非居住区域及
び低人口地帯は,いずれも発電所敷地内に収まっており,(旧)仮想事故の発
生を仮想した上で,めやす線量(全身線量の人口積算値は2万人Sv)を超
えるような人口密集地帯に近接した立地地点は,日本国内に存在しなかった。
10争点10(被告電源開発の技術的能力)について
(原告らの主張)
被告電源開発は,原発を1基も所有しておらず,軽水炉運転技術の蓄積は皆
無に等しく,原発を安全に設置・運転する技術的能力を著しく欠いている。
(被告電源開発の主張)
被告電源開発は,組織,技術者の確保,経験,品質保証活動,教育・訓練等
に関し体制を整え,本件原発の建設・運転を適確に遂行するに足りる技術的能
力を有している。このうち,経験の点では次のとおりである。
(1)建設に係る経験
被告電源開発は,原子力機構の原子炉研修部門,日本原電*の総合研修セン
ター等に技術者を派遣して,原発に関する基礎研修を実施している。また,
原子力機構,東京電力,日本原電等に技術者の出向及び派遣を行い,設計及
び建設工事に関する実務の習得を行っている。
ABWRを採用している柏崎刈羽原発6,7号機,浜岡原発*5号機,志賀
原発2号機の建設工事には,多数の技術者を派遣している。
(2)運転及び保守に係る経験
東北電力*,東京電力,北陸電力*,中部電力*,原子力機構に技術者を出向
及び派遣するとともに,株式会社BWR運転訓練センターにおける運転訓練
を通じ,実務の修得を行っている。
(3)MOX燃料及びMOX炉心に係る経験
ア旧動力炉・核燃料開発事業団(原子力機構に統合)新型転換炉ふげん発
電所(昭和54年本格運転,平成15年運転停止,平成20年廃止措置)
の設計協力を行った経験を有し,運転協力として技術者を出向させている。
イ全炉心にMOX燃料を装荷する新型転換炉実証炉の設計を実施するとと
もに,新型転換炉技術確証試験を国から受託し,MOX燃料臨界試験,M
OX燃料集合体照射試験等を実施した経験を有する。
ウ新型転換炉実証炉の建設計画中止,フルMOX−ABWRへの炉型変更
決定後は,電力会社からABWRの技術移転等を受けるとともに,情報共
有を行いつつ設計を実施している。
エMOX燃料を装荷する原子炉施設として,新型転換炉ふげん発電所建設
時の施工監理,高速増殖炉もんじゅ建設に当たり技術者派遣を行った経験
を有する。
(被告国の主張)
被告国は,被告電源開発の技術的能力についての調査審議を,技術的能力審
査指針に基づき,「組織」,「技術者の確保」,「経験」等の各項目について行い,
被告電源開発が,原子炉の設置及び運転を主体的に実施し,MOX燃料を使用
することは初めての経験となることを踏まえても,前記技術的能力を有するこ
とを確認したものであり,この調査審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠
落はない。
11争点11(改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の構造)について
(原告らの主張)
(1)格納容器
従来型BWRの格納容器が厚さ3〜4cmの鋼鉄製で,原子炉建屋とは独
立した容器であるのに対し,ABWRの格納容器はRCCVと呼ばれる原子
炉建屋と一体となった構造で,コンクリート壁の内側に厚さ5〜6mmの鉄
板を貼り付けただけの簡易な造りである。格納容器の設計圧力は,従来型B
WRのそれが3.9〜4.3気圧であるのに対し,本件原発のそれは3.1
気圧にすぎず,大きな爆発衝撃を伴うような事故(核的爆発,水蒸気爆発)
が起きれば,破損,破壊を免れない。
(2)インターナルポンプ
ア脱落等の危険性
ABWRの圧力容器に内蔵されたインターナルポンプには,地震による
振動防止のためのサポートが付属していない上,圧力容器の底部には貫通
孔が設けられているため,地震の際にインターナルポンプが脱落する危険
性がある。
イインペラ(動翼)部への異物落下の危険性
インターナルポンプのインペラ(動翼)部に異物が落下し,ノズルを破
損させ,破損した部品により燃料集合体を損傷させる危険性がある。
ウECCSによる炉心冷却失敗のおそれ
インターナルポンプの採用に伴い,非常用炉心冷却設備(ECCS)を
簡素化する設計となっているため,複数のインターナルポンプが破損,脱
落すれば,ECCSによる炉心の冷却に失敗するおそれがある。
(3)改良型制御棒駆動機構(FMCRD)
アスクラムの際に制御棒を水圧駆動するための水圧制御ユニットが,2本
の制御棒で1ユニットを構成しており,1ユニットの故障につき2本の制
御棒が挿入されなくなる危険がある。
また,従来型BWRにおいては,手動操作時は1度に1本の制御棒しか
動かせないようインターロックがかかっていたのに対し,ABWRにおい
ては,1度に最大26本の制御棒を操作できるギャングモードが採用され
ており,運転操作を誤れば核暴走事故につながる可能性がある。
イ従来型BWRの制御棒には,万が一制御棒が落下した場合に備えて,落
下スピードを緩めるために速度リミッタが取り付けられていたが,ABW
Rの制御棒にはこの装置が省かれており,落下スピードが速く,核分裂反
応が急速に進むような事故になる可能性がある。
ウ本件設置許可申請時の安全審査における制御棒落下の事故解析で,被告
電源開発は,1ユニットの制御棒の緩やかな落下事故を想定しているとこ
ろ,実際には,志賀原発1号機で3本の制御棒が脱落するトラブルが発生
し,柏崎刈羽原発6号機で4本の制御棒が同時に落下するトラブルや,制
御棒が駆動装置の中空ピストンから外れるという炉心の自由落下につなが
りかねないトラブルも発生しており,被告電源開発の解析は事故想定が甘
すぎる。
エABWRでは,制御棒と制御棒駆動装置との接合装置としてバイオネッ
ト・カップリングという外れにくいつなぎを採用していることが長所であ
ると宣伝されている。しかし,平成20年6月に柏崎刈羽原発6号機で結
合不良が発見されたほか,同様の事例が複数発生しており,取付けの確認
手段に難があることも分かった。
(4)発電用蒸気タービン
浜岡原発5号機,志賀原発2号機,柏崎刈羽原発6号機・7号機では,発
電用蒸気タービンの動翼が破損する事故が起きている。ABWRではタービ
ンの大型化によって翼の長さを長くし,ランダム振動(タービン内を通過す
る蒸気の乱流による振動)の影響を受ける範囲が従来のものより広くなって
いる。
(5)ロッキングの影響
原子炉建屋の耐震性について,ABWRではロッキングと呼ばれる現象に
より上下動が大きく観測される可能性が高い。
(被告電源開発の主張)
(1)格納容器
格納容器は,鉄筋コンクリート部を厚さ約2mの設計とし,耐圧機能を有
しており,コンクリートに内張りされた鋼製ライナが漏えい防止機能を持っ
ており,十分な強度を有する。
また,本件原発の格納容器については,想定される中で格納容器にかかる
圧力が最も高くなる給水管の瞬時両端破断の解析評価がなされており,その
結果,格納容器内の設計圧力を十分下回る圧力であり,格納容器の健全性が
確保されることを確認している。
(2)インターナルポンプ
ア脱落等の危険性について
本件原発の圧力容器のインターナルポンプ取付部は,詳細設計において,
事故時を含め想定される圧力及び温度等による荷重や地震荷重により,当
該部分に生じる応力が材料の許容値を超えないよう設計することとし,定
期検査でも健全性を確認することとしているから,地震により複数個のイ
ンターナルポンプが破損又は脱落して大口径破断が起こることなどおよそ
考えられない。
なお,柏崎刈羽原発7号機の耐震解析において,破損をもたらす基準値
を超過する結果が示されたのは,簡易モデル(質点系モデル)による解析
であり,より現実に近い評価を得ることができるモデル(有限要素法モデ
ル)による解析結果では,基準値を超過していない。
イインペラ(動翼)部への異物落下の危険性について
本件原発では,異物混入防止管理を行うこととしており,これにより,
インターナルポンプのノズルを破損するような異物の圧力容器内への混入
は,防止される。また,燃料集合体下部の冷却材流入口にはフィルタが設
けられ,原告らが主張するような,インターナルポンプの破損部品が燃料
集合体内に進入してこれを損傷するという事態の発生は,およそ考えられ
ない。
ウECCSの機能・性能について
ABWRにおいては,従来のBWRと異なり,インターナルポンプの採
用により原子炉冷却材再循環配管が設けられておらず,その破断による大
規模な原子炉冷却材喪失(LOCA)のおそれがない。その分,中小規模
のLOCAへの対応として,非常用炉心冷却系(ECCS)につき3区分
全てに高圧系を配置した独立3区分の構成として,特に高圧系を強化して
いる。その設計上の機能及び性能の妥当性は,安全設計評価において確認
している。
(3)改良型制御棒駆動機構(FMCRD)
アギャングモードにおける誤操作について
本件原発では,異常な引抜きを防ぐよう運転手順を定め,制御棒価値ミ
ニマイザにより引抜き手順を監視することとしている。万が一,誤操作に
より出力が異常に上昇したとしても,制御棒の引抜きが阻止され,更には
原子炉が緊急停止されるようになっている。
イ制御棒落下速度リミッタについて
本件原発で使用する制御棒は,万一落下してもダッシュポット効果(制
御棒が万一落下した場合,中空ピストンと一体となったまま落下するが,
その際,中空ピストンによって制御棒駆動機構内部から排除される水の抵
抗により,制御棒の落下速度が緩和される効果のこと)により大きな抵抗
を受け,従来のBWRにおける速度リミッタ付き制御棒の落下速度(0.
95m/s)と比較しても,十分に緩和された落下速度(0.7m/s)
に制限される。
ウ他の原発における制御棒の引抜け事象について
(ア)志賀原発1号機等の引抜け事象(平成11年6月)は,制御棒の引抜
きを水圧駆動で行う従来型のBWRで発生した事象であり,水圧では制
御棒を引き抜けない構造のABWRと同一視はできない。
(イ)柏崎刈羽原発6号機の引抜け事象(平成8年6月)は,ABWRの改
良型制御棒駆動機構の設計・構造そのものに起因して発生した事象では
ない。本件原発では,同事象を踏まえた対策を講じている。
エ他の原発における制御棒の結合不良事象について
柏崎刈羽原発6号機の結合不良事象が見過ごされた件(平成20年6月)
を踏まえ,本件原発では作業員の人的ミスによる制御棒の結合不良の看過
を防止するための対策を講じている。
(4)タービン羽根損傷事象について
本件原発のタービンには,高い減衰効果を持つスナッバ翼を採用する範囲
を拡大することとしており,ランダム振動やフラッシュバックによりタービ
ン羽根の付け根部に発生する応力が疲労限度に対し十分な余裕を有すること
を確認している。また,折損などの異常が生じれば自動的にタービンが停止
し原子炉が緊急停止されるよう設計することとしている。
(5)ロッキングの影響について
柏崎刈羽原発6号機及び7号機について,東京電力及び保安院は,ロッキ
ング振動により耐震安全性が損なわれることはないものと判断している。ま
た,本件原発の耐震設計については,基準地震動の水平動及び上下動(鉛直
動)のいずれに対しても余裕を有した設計としている。
12争点12(フルMOX炉心)について
(原告らの主張)
本件原発は,世界で初めてフルMOX炉心,すなわち炉心全体にMOX燃料
集合体を装荷しての本格稼働を目的とする原発である。
MOX燃料は,毒性の強いプルトニウムを多量に使用しており,事故が発生
した場合に被害が拡大するおそれがある。
のみならず,MOX燃料は,ウラン燃料を使用する場合と比較して,融点・
熱伝導度の低下(燃料溶融に対する裕度の減少),FPガス*放出率の上昇,遅
発中性子*割合の低下,制御棒やホウ素の価値(効き)の減少,燃料ペレットの
不均質性(プルトニウム濃度の高いプルトニウム・スポット*が生じ,局所的な
出力上昇のおそれがある。),遅発中性子発生割合の低下(出力急上昇に対する
裕度の低下),出力分布の偏り,減幅比の増大(出力振動の振れ幅の増大),ボ
イド係数*の負側への増大(ボイド*の増減による出力の変動が急激になり,原
子炉の不安定さが増す。)など,危険な要素が多い。このため,ウラン炉心の原
発では深刻な事故にならなかったような異常事態が,MOX炉心の原発では深
刻な事故に至る可能性がある。
したがって,MOX炉心の稼働に当たっては,実験炉,実証炉等の段階を踏
んだ試験が必要である。しかし,本件原発では,そのような段階を経ることな
く,いきなり商業炉でフルMOXを実施しようとしている。
被告電源開発は,段階的に安全性を確認しながらMOX燃料の装荷割合を増
やしていくとしているが,このことは,被告電源開発自身,本件原発をフルM
OXとして稼働することによる未知のリスクを危惧していることの証左である。
(被告電源開発の主張)
ウラン燃料のみを装荷した原子炉においても,燃料の使用期間当初はウラン
の核分裂反応によって発生するエネルギーを利用するが,燃焼が進むにつれウ
ラン238等からプルトニウムが生成され,プルトニウムによる発電比率が上
がっていき,燃料使用期間末期にはプルトニウムによる発電比率が約70%と
なる。これに対し,MOX燃料を使用した原子炉におけるプルトニウムによる
発電比率は,燃料の使用開始当初から使用期間末期まで,概ね一貫して約8
0%である。すなわち,MOX燃料装荷炉心においても,ウラン燃料のみを装
荷した炉心と全く異なる現象が生じるものではなく,原発におけるMOX燃料
の使用は,ウラン燃料使用の継続,進展によって培われ十分な実績を有する技
術の土台に立ったものであって,全く新たな技術を要するようなものではない
のであり,そのことは,多数の実験等によっても裏付けられている。
もとより,被告電源開発は,MOX燃料の使用について,ウラン燃料との違
いを適切に考慮して,以下のとおり安全性を確保している。
(1)MOX燃料の特性
ア燃料ペレットの融点及び熱伝導度の低下
本件原発で使用するMOXペレットは,通常運転時の最高温度が,その
融点を大きく下回ることが解析評価により確認されており,この点はウラ
ンペレットと変わらない。また,本件原発の安全設計評価において,MO
Xペレットの融点及び熱伝導度の低下を考慮している。
イFPガス放出量
FPガスの放出量は,FPガスの生成量に放出率を乗じて算出されると
ころ,FPガスの生成量は,燃焼度が同じであれば,ウラン燃料とMOX
燃料とで違いはない。また,燃焼度が低い場合は,ウラン燃料とMOX燃
料とでFPガスの放出率に大きな違いはないから,FPガスの放出量も同
等となる。
燃焼度の高い場合にMOX燃料のFPガス放出率がウラン燃料と比して
若干高くなることは,試験により把握されているが,このことを考慮して,
本件原発で使用するMOX燃料は,ウラン燃料より燃焼率を低くするとと
もに,燃料棒のプレナム*の体積をウラン燃料棒のそれよりも大きくするこ
とで,燃料棒内圧の上昇を抑えている。
ウプルトニウム含有率の不均一
MOXペレット製造時の対応(MIMAS法)により,プルトニウム含
有率が均等なものを製造することが可能となっている。また,プルトニウ
ム・スポットの存在がMOX燃料の健全性に影響を与えないことは確認済
みである。
(2)MOX炉心の核的特性
ア制御材の反応度価値の低下
フルMOX炉心における全制御棒の反応度価値は,ABWRにおいて燃
料集合体相互の間隔が広くされているため,ウラン燃料のみを装荷した炉
心におけるそれから,ほとんど低下していない。また,本件原発につき,
制御棒による原子炉の停止余裕が十分にあることを確認している。
イ出力分布の偏り
被告電源開発は,ウラン燃料とMOX燃料とが混在する場合の位置関係
や,燃料棒の位置(燃料集合体の外周部に位置するか,内側に位置するか)
によって生じる,燃料集合体又は燃料棒ごとの出力偏差を考慮して,本件
原子炉の燃料装荷パターンの検討を行い,制御棒の配置等により,炉心の
出力分布に大きな偏りが生じないよう設計している。
ウボイド係数の負側への増大
ボイド効果*は,核分裂反応の増加による燃料の温度上昇等により冷却材
中の蒸気泡(ボイド)が増加することで,中性子が減速されにくくなって
熱中性子が減少し,核分裂反応が抑制されるという,原子炉の固有の安全
性を示すものである。
ボイド係数がより負となる(値がマイナス方向に大となる)ということ
は,ボイド効果が大きくなり核分裂反応が抑制されることを意味し,炉心
にMOX燃料を装荷すると,ウラン燃料を装荷する場合に比べ,ボイド係
数がマイナス方向に大となるが,あまりに大きくマイナスの値になると,
何らかの原因でボイドが急激に減少した場合に,核分裂反応が大きく増加
することになる。
そのため,本件原発においては,燃料集合体の間隔が従来のBWRより
広く減速材である軽水の領域が広いABWRを採用し,MOX燃料におけ
るプルトニウムの含有率を最大10%に抑えることなどにより,ボイド係
数があまりに大きくマイナスの値とならないよう設計している。
エ炉心の不安定性
原子炉が炉心安定性を有するとは,通常運転状態において,何らかの原
因により原子炉の出力が変動した場合に,ボイド効果等により出力が抑制
されて,制御棒等の作動がなくとも出力が自然に減衰して収束するという
減衰特性を有することを意味し,かかる減衰特性を示す指標が減幅比であ
る(減幅比が1未満であれば出力振動は自然に減衰し,1であれば出力振
動はそのまま持続し,1を超える場合は時間の経過に従って出力振動が大
きくなる。別紙25参照)。
本件原子炉は,フルMOXで稼働させても,炉心安定性に係る減幅比は
最大で0.68であり,減衰特性を有していることを確認している。
オ遅発中性子発生割合の低下
核分裂反応により発生する中性子には,核分裂反応の直後に発生する即
発中性子と,その後数秒〜数十秒間に発生する遅発中性子があり,遅発中
性子が存在することで原子炉の出力を制御することが可能となっている。
プルトニウムの核分裂反応における遅発中性子の発生割合は,ウラン2
35等におけるそれより低いが,MOX燃料には,プルトニウム239の
みならず,ウラン235やウラン238,プルトニウム241なども含ま
れることから,フルMOX炉心であっても,その遅発中性子発生割合は,
ウラン燃料のみ装荷した炉心のそれと大きく異ならない。
13争点13(使用済燃料貯蔵槽)について
(原告らの主張)
(1)格納容器に守られていないこと
本件原発の使用済燃料貯蔵槽は,原子炉建屋内と燃料補助建屋内に1つず
つ設置されているところ,外部環境との間には,それぞれ建屋の壁があるだ
けであり,特別な格納設備はなく,自然災害(地震,津波,台風,竜巻等)
対策に不備がある。
国際的な視点からすると,ドイツにあるビブリス原子力発電所A,B号炉
やイザール原子力発電所2号炉においては,使用済燃料貯蔵槽も格納容器に
入れる形の設計が採用されており,本件原発はこれに比べて安全性の面で劣
後している。
(2)テロ対策の不十分さ
本件原発の使用済燃料貯蔵槽について,テロ等の故意による人為的な加害
行為への対策として,被告電源開発のいう後備低圧注水系があるということ
は,使用済燃料の冷却を確保する上では幾らの足しにもならない。
(被告電源開発の主張)
(1)使用済燃料貯蔵槽からの周辺環境への放射性物質の放出を防止するために
は,使用済燃料の冠水状態を保つことで十分であるから,堅固な施設による
閉じ込めを必要としない。
なお,原告らが主張するドイツの原子力発電所の設計は,格納容器がBW
Rより大きなPWRの特殊なプラントであり,世界で稼働している約280
基のPWRプラントの中でも極めて例外的なケースである。IAEA安全基
準の個別安全要件SSR−2/1(Rev.1)において定められた燃料の取扱い
及び貯蔵系に関する要件に,使用済燃料貯蔵槽を堅固な施設で閉じ込めると
いった機能は求められていない。
また,被告電源開発は,MOX燃料とウラン燃料の発熱量の違いを設計条
件に取り入れた上で冷却を確保できる措置を講ずることとしている。
(2)本件原発の使用済燃料貯蔵槽について,テロリズムの発生を考慮した対策
を講ずることとしている。
14争点14(被告電源開発の故意・過失)について
(原告らの主張)
被告電源開発は,前記2から13まで(争点2から13まで)の原告らの主
張のとおり,安全性に極めて重大な問題のある本件原発を設置し,運転しよう
とする加害行為に及んでいる。被告電源開発は,本件原発の安全性に重大な問
題のあることを十分に認識しつつ,前記の加害行為に及んでいるから,故意・
過失が認められる。
(被告電源開発の主張)
本件原発の安全性に重大な欠陥があるとする原告らの主張は争う。
15争点15(原告らの法益侵害及び損害の発生)について
(原告らの主張)
(1)被侵害利益について
本件において侵害されている原告らの利益は,不十分な安全審査に基づい
て,安全性に極めて重大な欠陥のある本件原発が設置・運転されることによ
り,生命・身体等の重要な利益に対する侵害への恐怖や不安な気持ちを抱か
されないという利益,すなわち内心の静穏な感情及び生活を害されないとい
う人格権ないし人格的利益である。
ア本件原発から半径約50kmの範囲の地域には,大間町の南方向には陸
続きに風間浦村,佐井村,東通村及びむつ市があり,この地域には合計8
万3000人余の人が生活しており,大間町の真北には津軽海峡を挟んで
人口約27万人の函館市があるなど,これらの地域内にある函館市及び道
南地域には38万人余の人々が生活している。これらの地域は,原発の平
常運転時においても,放射性物質の排出,温排水による環境悪化が懸念さ
れ,重大事故に至らない規模の事故が発生しても,放射性物質の流出,風
評被害によって深刻な被害を受ける地域であり,仮に重大事故が発生した
場合には壊滅的な被害に遭うことが必至な地域である。
本件原発の平常運転及び事故は,漁業,観光を基幹産業とするこれらの
地域に甚大な被害をもたらすこととなる。本件原発は建設中であるが,建
設中の現時点においても,前記被害を受ける危険による不安感は甚大であ
る。
イ人が社会の中で内心の静謐を保持して生活できるという利益は,一律に
全てが法的保護に値する利益とまではいえないとしても,その態様や程度
によっては,甘受すべき限度を超えて,人格権として法的保護に値する利
益に含まれると解すべきである。この点について,最高裁平成3年4月2
6日第二小法廷判決・民集45巻4号653頁も,「人が社会生活において
他者から内心の静穏な感情を害され精神的苦痛を受けることがあっても,
一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが,社会通念上その限
度を超えるものについては人格的な利益として法的に保護すべき場合があ
り,それに対する侵害があれば,その侵害の態様,程度いかんによっては,
不法行為が成立する余地があるものと解すべきである」と判示している。
他方,被告らは,本件原発がいまだ本件設置許可処分がされただけの段
階であることを指摘するが,,海譴泙任亮体磴鯀按鵑箸垢觚造蝓げ罎国
の原子力規制において,ひとたび原子炉設置が許可されてしまうと,ベル
トコンベアーに乗るがごとく必ず使用(運転)に至る現実があること,
原告らの恐怖心は,単なる危惧感ではなく,福島原発事故で現に発生し続
けている被害の大きさや不可逆性に照らすと,具体的かつ現実的恐怖で
あって,法的保護に値する利益への侵害が発生していることを指摘できる。
(2)損害について
原告らは,これらの利益を侵害され,精神的苦痛を被っており,その損害
を金銭的に評価すれば,一人当たり1000万円を下らないが,そのうち一
人当たり3万円を,被告らに対し(ただし,別紙1の1記載第2の各原告に
ついては,被告電源開発のみに対し),連帯して支払うよう求めるものである。
(被告電源開発の主張)
(1)被侵害利益について
原告らの主張する「内心の静穏な感情」の侵害による精神的苦痛は,主観
的で具体的内容を明確にし難いものであり,その発生,内容,程度等におい
てこれを感じたとする人と場合により千差万別であるから,その全てを損害
賠償の対象とすることは社会通念上到底容認されるものではなく,仮に「内
心の静穏な感情」を法的保護の対象とするとしても,その範囲は極めて限定
的に解すべきである。原告らの挙げる最高裁判決は,水俣病という特別な病
像を有する疾病のり患が疑われるという事情の下で,被侵害者の内心の感情
が極めて複雑で特殊なものと捉えられる特殊な場合に関する判断であるのに
対し,本件においては具体的な健康被害が何ら伴っていない段階における不
安等が主張されているにすぎず,事案が大きく異なる。その他「内心の静穏
な感情」が問題となった最高裁判決に照らしても,原告らの主張する「内心
の静穏な感情」について法的保護を認める余地はない。
(2)損害について
原告らが精神的損害として主張する金銭についても,具体的算定根拠が不
明である。
(被告国の主張)
(1)法律上保護された権利利益の侵害がないこと
ア国賠法は,民法の不法行為の特別法であり,個別の国民の権利利益に対
する侵害があることを前提としているから,法律上保護された権利利益の
侵害がなければ,国賠法1条1項に基づく損害賠償を請求することはでき
ない。
イ本件原発は,旧原子炉等規制法24条1項3号及び4号の安全審査を
行って本件設置許可処分がされ,その後,平成24年法律第47号による
改正前の電気事業法47条に基づき本件工事計画認可処分がされたが,そ
の後に予定されている保安規定の認可や使用前検査等は未了であり,これ
らを経て初めて,運転し得る状態となるものである。そして,保安規定の
審査や使用前検査等は,その都度,審査時における最新の科学技術水準に
照らして行われるものであるところ,福島原発事故を契機として,原子炉
等規制法及び関連法令が改正され,規制基準についても大幅な見直しがさ
れた。本件設置許可処分の対象とされた基本設計や,これを前提とした工
事計画は,同改正前の規制基準に則って策定されたものであって,改正後
の規制基準に適合したものではないため,本件設置許可処分及び本件工事
計画認可処分に基づいて本件原発の建設が進められたとしても,保安規定
は認可されず,使用前検査に合格することもできない。
このため,同改正後の規制基準を踏まえ,被告電源開発から,平成26
年12月16日付けで本件設置変更許可申請及びこれに係る工事計画認可
申請がされ,現在,規制委員会は,本件設置変更許可申請に係る審査を
行っているものの,重要な事項についてはいまだ本格的な審査が行われて
いない上,前記工事計画認可申請に対しては何ら審査が行われておらず,
保安規定については,認可申請すらされていない。
なお,被告電源開発は,本件工事計画認可処分の対象とされた工事計画
に基づき,前記改正前に既に工事に着手された設備について工事を行って
いるが(原子力規制委員会設置法の一部の施行に伴う関係規則の整備に関
する規則附則3条),これは飽くまで,本件設置変更許可申請に係る設置許
可がされ,さらに,これに係る工事の認可がされることを期待して,これ
と抵触しない範囲で行われているにすぎない。
以上のとおり,本件原発は,本件設置許可処分がされれば当然に運転に
つながるものではなく,本件原発が将来運転可能な状態に至るかどうかは,
今後予定されている複数の規制措置に合格するかどうかの結果いかんに左
右されるものである。また,本件設置許可処分を取り消し,又は,同工事
の中止を命じなかったとしても,同処分に基づいて本件原発の建設工事が
完成し,運転が開始されるなどという事態はおよそ想定し得ない。
そうすると,原告らが主張する恐怖や不安感なるものは,現時点におい
ては,具体性を欠いた抽象的なものであり,漠然とした危惧感にすぎない
ものであるから,国賠法1条1項により法的に保護される利益には該当し
ないというべきである。
ウなお,原告らの中には,本件原発から遠隔地に居住している者もおり,
特にかかる原告との関係では,法的に保護される利益を観念し得ない。
(2)損害及び因果関係について
原告らの被告国に対する各請求は,個々の原告らが,国賠法1条1項に基
づき損害賠償を請求し,それが単純に併合されたものにすぎず,いかなる公
務員のどのような行為によっていかなる損害が生じたかについては,個別の
原告ごとに主張立証することを要する。
しかし,原告らは,原告らそれぞれについて,いかなる公務員のどのよう
な行為によって,いかなる損害を被ったのかを明らかにしていない。
16争点16(本件設置許可処分の違法性等)について
(原告らの主張)
(1)被告国の違法性
ア公権力の発動は,法に基づく場合にのみ許容されるのが法治国家の大原
則であるから,行政処分等を行う要件を欠いていたにもかかわらず,処分
等がされた場合には,当該処分等は,国賠法上,違法となると解すべきで
ある。
経済産業大臣がした本件設置許可処分は,前記2から13まで(争点2
から13まで)の原告らの主張に照らすと,旧原子炉等規制法24条1項
各号に適合していないにもかかわらずされたものであるから,国賠法上,
違法である。
仮に,違法性二元論を採用したとしても,本件設置許可処分は,前記2
から13までの原告らの主張のとおり,審査基準が極めて不合理であり,
かつ,その調査審議及び判断過程に看過し難い過誤,欠落があるにもかか
わらずなされたものであるから,違法である。
イ違法性判断の基準時は,本件設置許可処分時であり,当時の科学技術水
準に照らして違法性を判断することとなる。
前記2から13までの原告らの主張のとおり,本件設置許可処分におい
ては,そもそも当時の安全審査指針類自体に重大な問題があった上,有力
に主張されている活断層の存在について全く無視して基準地震動(450
ガル)を策定し,津波や火山に対する考慮が著しく不十分であったなど,
当然に考慮すべき事柄を意図的に考慮せずに安全審査が行われたもので
あった。原告らが主張するところは,今だからいえるというものではなく,
当時の科学技術水準を前提にしても同様であり,新規制基準施行後におい
ても問題状況は本件設置許可処分時とで共通している。
現に福島原発事故を許してしまうような安全審査類が,客観的・科学的
にみて合理的であったとは到底いえない上,被告国は,今般,新規制基準
を設けて従来の安全審査類を改めており,このこと自体,本件設置許可処
分時に用いられていた基準が不合理であり,その判断に重大な過誤,欠落
があったことの証左である。
(2)被告国の故意・過失
前記2から13までの原告らが主張する事情に基づいて本件設置許可処分
等がされたことに照らせば,経済産業大臣は,当該行政処分が違法であるこ
とを当然に認識していたというべきであって,故意があった。また,仮に故
意がなかったとしても,経済産業大臣等は,原発の安全を審査する専門的な
機関として,当然に前記違法性を認識すべきであったというべきであるから,
少なくとも過失が存在する。
(被告国の主張)
(1)被告国の違法性
ア違法性とは
国賠法1条1項の違法性は,権利利益の侵害があることを前提として,
公務員が公権力の行使に当たって遵守すべき行為規範としての個別の国民
に対して負担する職務上の法的義務に違背することを意味するものである
(職務行為基準説)。公務員が行った処分が処分要件を欠いていたとしても,
そのことだけで直ちに国賠法上違法との評価を受けるものではなく(違法
性二元論),公務員が職務上通常尽くすべき注意義務に違反したといえなけ
ればならない。そして,職務上通常尽くすべき注意義務に違反したか否か
は,損害填補の責任を誰に負わせるのが公平かという見地に立って,行政
処分の法的要件以外の諸種の要素も対象として,総合的に判断すべきであ
り,行政処分の法的要件充足性の有無のみならず,被侵害利益の種類,性
質,侵害行為の態様及びその原因,行政処分発動に対する被害者側の関与
の有無,程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的に判断して決すべ
きである。
原告らは,本件設置許可処分が処分要件を欠き違法である旨主張してい
るにすぎず,国賠法固有の違法性を何ら具体的に明らかにしていないから,
その主張は失当といわざるを得ない。
イ安全性について
改正原子炉等規制法は,公共の安全を図るため,規制委員会が原子炉の
設置等に関し必要な規制を行うことで,我が国の安全を保障することを目
的としている。もっとも,一般に,科学技術の分野においては,絶対的に
災害発生の危険がないといった絶対的な安全性というものは,達成するこ
とも要求することもできないものといわれている。科学技術を利用した各
種の機械,装置等は,常に何らかの程度の事故発生等の危険性を伴ってい
るものであるが,その危険性が社会通念上容認できる水準以下であると考
えられる場合,又はその危険性の相当程度が人間によって管理できると考
えられる場合に,その危険性の程度と科学技術の利用により得られる利益
の大きさとの比較衡量の上で,これを一応安全なものであるとして利用し
ているのである。原子炉の安全性についても同様であって,改正原子炉等
規制法が要求する前記の安全も,このような相対的安全性の考え方をいう
ものと解するのが相当である。
それゆえ,規制委員会が安全審査における具体的審査基準を策定し,そ
の適合性を判断するに当たっては,我が国の現在の科学技術水準によるべ
きことはもとより,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するか
という観点を考慮に入れざるを得ず,本来的に規制委員会の専門技術的裁
量に委ねざるを得ない。実際,発電用原子炉施設の安全性に関する審査は,
当該施設そのものの工学的安全性,平常運転時における従業員,周辺住民
及び周辺環境への放射線の影響,事故時における周辺環境への影響等を,
設置予定地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件
及び設置者の技術的能力との関連において,多角的,総合的見地から検討
するものであり,しかも,その審査の対象には将来の予測に係る事項も含
まれているのであって,審査においては,原子力工学はもとより,多方面
にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断
が必要とされるものである。
このため,伊方原発最高裁判決が指摘するとおり,原子炉設置許可処分
における安全審査に当たっては,処分行政庁(規制委員会)の専門的技術
的裁量が認められており,同処分は,その裁量権の範囲を超え又はその濫
用があった場合に限り初めてこれを取り消すことができるものとされてい
る(行政事件訴訟法30条)。そうすると,国賠法上の違法性の有無を検討
する場面においても,当然のことながら,処分行政庁に専門技術的裁量が
あることが十分考慮されるべきである。
ウ違法性の判断基準時
違法性の判断,すなわち職務上通常尽くすべき注意義務に違反したかど
うかを判断するに当たっては,職務行為時における行為規範違反の有無が
問題となるのであるから,原子炉設置許可処分を行った当時の具体的事情
に基づいて違法性の有無が検討されなければならない。本件設置許可処分
後に科学技術水準の進歩があり,これに伴って処分当時は存在せず又は通
説的見解ではなかった新たな科学的知見が通説的見解となったとしても,
処分当時において,そのような将来に至って定説化した知見を考慮に入れ
て注意義務を尽くすことはそもそも不可能であったのであるから,処分後
に明らかとなった科学的知見を処分当時の行為規範違反の有無を判断する
に当たり斟酌するのは相当ではない。
エ本件における違法性について
これを踏まえると,本件において,調査審議が行われた当時の科学技術
水準に照らし,少なくとも安全委員会等における調査審議に用いられた具
体的審査基準に不合理な点があり,あるいは,安全委員会等の行った調査
審議の過程及び判断に看過し難い過誤,欠落があり,主務大臣の判断がこ
れに依拠してされたと認められることが必要であり,このような事由が認
められないにもかかわらず,経済産業大臣の行為が国賠法上違法と評価さ
れる余地はない。
そして,前記2から10まで(争点2から10まで)で被告国が主張し
たとおり,本件安全審査における調査審議当時の科学技術的知見に照らし,
本件調査審議に用いられた審査指針に不合理な点はなく,調査審議の過程
及び判断に看過し難い過誤,欠落はないから,本件設置許可処分を行った
経済産業大臣の行為について,職務上通常尽くすべき注意義務違反はない。
(2)被告国の故意・過失
国賠法上の故意・過失は,職務上の法的義務違反としての違法性の認識な
いし認識可能性を意味するものであり,国賠法1条1項にいう過失について
は,違法に他人に損害を生ぜしめるという結果についての予見ないし予見可
能性を要するというべきであるところ,原告らはこれらを基礎付ける事情に
ついて何ら主張していない。
17争点17(不作為の違法性)について
(原告らの主張)
(1)被告国の作為義務の根拠
国民の人格権を守ることは,憲法上の国家の当然の義務である。そして,
新たに設置された規制委員会の趣旨,目的や改正原子炉等規制法の立法趣旨
が,福島原発事故のような甚大な被害を二度と繰り返さないために,国家に
よる原子炉施設への規制権限を強化することであることからすれば,被告国
は,規制委員会を通じて,最新の科学的知見から判断し,原子炉施設の安全
性に疑いが生じれば,これを適切に是正すべき規制権限の行使義務があると
いうべきである。
(2)被告国の不作為の内容
被告国には,次の,らい泙任良垪邂戞憤焚次い海譴蕕良垪邂戮鮃腓錣
て,又はこのいずれかを指して「本件不作為」という。)がある。前記2から
13まで(争点2から13まで)の原告らの主張に照らせば,本件不作為は,
遅くとも現時点(本件訴訟の口頭弁論終結時)までには違法であり,そのこ
とに過失もある。
ゝ制委員会は,改正原子炉等規制法43条の3の20第2項に基づき,
本件設置許可処分を取り消すべき義務を負っているにもかかわらず,これ
を怠っている。
規制委員会は,改正原子炉等規制法43条の3の23第1項に基づき,
本件原発の建設工事の中止を命ずる義務があるにもかかわらず,これを
怠っている。
5制委員会は,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項4号により災
害の防止上支障がない基準を作成すべき義務があるにもかかわらず,不合
理な新規制基準を直ちに改めることをしていない。
さ制委員会は,本件原発について,何ら安全性が確認されていないので
あるから,改正原子炉等規制法等の明文で定められていない場合であって
も,独自の権限行使として,国民の権利・利益を原発事故の危険から守る
ために,本件原発の使用停止や建設工事の中止を命じるべき義務があるに
もかかわらず,これを怠っている。
(3)不作為の違法性
被告国の前記不作為は,このまま継続すれば過酷事故等により国民に放射
線被ばく等の生命身体に対する回復し難い損害が生じる点で被侵害利益が非
常に重大であり,このことについて予見可能性,結果回避可能性,期待可能
性のいずれも十分に存在することからすれば,その裁量権の範囲を逸脱し,
又は裁量権を濫用したものといえる状態に達していると考えられるから,国
賠法上,違法である。
(被告国の主張)
(1)作為義務の内容及び根拠
原告らの主張する本件不作為(,らい泙如砲蓮ぜ,里箸りその内容が
不明確なものである上,作為義務が生ずる法的な根拠を指摘していない。
ア本件不作為
原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の20第2項に基づく本件設
置許可処分の取消しの不作為を主張するが,同項は,その要件として同項
1号から22号までの各規定を定めているものの,原告らは,いずれの号
が根拠であるのかの特定やその要件該当性を何ら主張しておらず,どの時
点において,どのような規制権限を発動すべき作為義務がいかなる法的根
拠に基づいて発生したのか具体的に特定して主張していない。
イ本件不作為
原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の23第1項の使用停止等処
分の不作為を主張するが,その作為義務の発生根拠に関し,新規制基準の
具体的な規定について不適合といえる具体的な事実を特定して主張してい
ない。
ウ本件不作為
原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項の趣旨に基づいて,
被告国が新規制基準を改定すべき作為義務を怠っていると主張するが,前
記規定は新規制基準の策定やその合理性に関する規定ではないから,その
趣旨から新規制基準を改定すべき作為義務が導かれるとはいえない。また,
その不作為の内容についても具体的に特定して主張していない。
エ本件不作為
原告らは,規制委員会が本件原発の使用停止や建設工事の中止を命じる
べき義務があるにもかかわらず,これを怠っていると主張するが,法律に
基づく行政において,明文の根拠なく,国民の権利義務の範囲を形成し,
又はその範囲を具体的に確定することはできず,規制委員会にそのような
権限も義務もない。
(2)不作為の違法性
規制委員会には,前記16(争点16)の被告国の主張で述べたとおり,
改正原子炉等規制法上の規制権限を行使するか否かについて専門技術的裁量
が認められており,規制権限の存在から直ちに作為義務が認められるもので
はなく,その権限不行使が国賠法上違法となるのは,その不行使が許容され
る限度を逸脱して著しく合理性を欠くときに限られるというべきであるとこ
ろ,前記2から10まで(争点2から10まで)の被告国の主張に照らせば,
本件不作為が著しく合理性を欠くとはいえない。
また,改正原子炉等規制法の制定に伴い改定された規制基準への適合性に
ついては,設置変更許可,工事計画変更認可,使用前検査等の手続により確
認するものとしている。本件原発についても,本件設置変更許可申請に対す
る審査において同規制基準への適合性を審査中であり,その後の工事計画認
可申請,保安規定及び使用前検査等を通して審査されることが予定されてい
る。そうすると,改正原子炉等規制法の趣旨や目的,原告らが指摘する規制
委員会の有する規制権限の性質等に照らしても,その不行使が許容される限
度を逸脱して著しく合理性を欠くなどとは,およそ認められない。
第3章当裁判所の判断その1−被告電源開発に対する差止請求について
第1争点1(生命・身体への具体的危険性の判断の在り方)について
1認定事実
前提事実(第2章第2),後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件原発に係
る安全審査の経緯等について,以下の事実が認められる。
(1)旧原子炉等規制法における規制
ア旧原子炉等規制法23条1項により,実用発電用原子炉を設置しようと
する者は,経済産業大臣の原子炉設置許可を受けなければならないものと
されていた(同項1号)。
イ経済産業大臣は,同法24条1項により,同項各号の要件に適合してい
ると認められる場合でなければその許可をしてはならないものとされ,同
条2項により,同要件のうち,原子炉設置の政策的評価や原子炉設置者の
経理的基礎に係るもの(1号,2号及び3号の一部)への適合性について
は,原子力委員会の意見を聴かなければならず,原子炉設置者の技術的能
力や原子炉の安全性に係るもの(3号の一部及び4号)への適合性につい
ては,安全委員会の意見を聴かなければならないものとされていた。
ウ旧電気事業法及び同法に基づく命令の規定による検査を受けるべき原子
炉施設であって実用発電用原子炉に係るものについては,旧原子炉等規制
法73条により,同法27条から29条までの適用が除外され,これに代
わり,旧電気事業法の規定により,設置の工事の計画についての経済産業
大臣の認可(同法47条)又は経済産業大臣に対する届出(同法48条),
設置の工事についての経済産業大臣の使用前検査(同法49条),経済産業
大臣が特定の時期ごとに行う定期検査(同法54条)及び事業者が定期に
行う定期事業者検査(同法55条)が定められていた。
(2)本件設置許可申請,本件設置許可処分及び本件工事計画認可処分並びにこ
れに基づく本件原発の建設工事
被告電源開発は,平成16年3月18日,旧原子炉等規制法23条1項1
号に基づき,経済産業大臣に対し,本件設置許可申請を行い,経済産業大臣
は,平成20年4月23日,本件設置許可処分をした(前提事実2(1),(3))。
また,被告電源開発は,同月24日から平成22年4月13日にかけて,
6回にわたり,旧電気事業法47条1項に基づき,経済産業大臣に対し,本
件原発の工事計画認可申請を行い,平成20年5月27日から平成22年1
2月24日までの間に,いずれの申請についても経済産業大臣から認可処分
(本件工事計画認可処分)を受けた(前提事実2(4))。
これを受けて,被告電源開発は,平成20年5月27日以降,主要建屋の
建設や主要機器の製作を開始した(前提事実2(5))。
(3)福島原発事故について
ア事故と被害の概要
平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震の発生に伴い,福島第一
原発は,地震動により外部電源が喪失し,津波により非常用電源設備が水
没して機能不全となり,複数の原子炉施設において全電源が喪失して炉心
損傷や水素爆発が発生するなどし,放射性物質が放出された。
放出された放射性物質の量は,ヨウ素換算でチェルノブイリ原発事故の
約6分の1に相当するおよそ900PBqと推定され,福島県内の約18
00km2の土地が,年間5mSv以上の空間線量を発する可能性のある地
域となった。福島原発事故による避難区域指定は,福島県内の12市町村
に及び,避難した人数は,同年8月29日時点で,警戒区域(福島第一原
発から半径20km圏)で約7万8000人,合計で約14万6520人
に達した。
(甲D5)
イ事故に関する調査・検証
福島原発事故を受けて,同年10月30日,東京電力福島原子力発電所
事故調査委員会法が施行され,これに基づき,国会に東京電力福島原子力
発電所事故調査委員会(いわゆる国会事故調)が設置された。同委員会は,
福島原発事故について調査し,平成24年6月,福島原発事故の原因等を
まとめた報告書(甲D5,乙イD21)を作成した。同報告書においては,
福島原発事故の主な原因として,‖竸魅丱奪チェック*が不十分であった
こと,津波対策が不十分であったこと,シビアアクシデント対策が不
十分であったこと,づ豕電力及び国の事故対応が不十分であったこと,
ジ胸厠呂魑制する機関が原子力利用推進機関から独立していなかったこ
となどが指摘されている。(甲D5)
福島原発事故に関する調査,検証としては,このほかにも,平成23年
6月に政府の原子力災害対策本部からIAEAに提出された日本国政府の
報告書(乙イD20),同年5月の閣議決定により設置された東京電力福島
原子力発電所における事故調査・検証委員会(いわゆる政府事故調)が同
年12月に取りまとめた中間報告(乙イD42)及び平成24年7月に取
りまとめた最終報告(乙イD19),事故当時の規制当局であった保安院が
取りまとめた「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見
について」と題する報告書(乙イD18)などがある。(乙ロB59)
(4)規制委員会について
以上のような福島原発事故の反省を踏まえて,平成24年6月27日,規
制委員会設置法が制定され,その施行(同年9月19日)に伴い,安全委員
会が廃止され,規制委員会が発足した。
規制委員会は,東北地方太平洋沖地震に伴う福島原発事故を契機に明らか
となった原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し,一の行
政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問
題を解消するため,原子力利用における事故の発生を常に想定し,その防止
に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って,確立され
た国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な
施策を策定し,又は実施する事務(原子炉に関する規制に関することを含む。)
を一元的につかさどるとともに,その委員長及び委員が専門的知見に基づき
中立公正な立場で独立して職権を行使し,もって国民の生命,健康及び財産
の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として,国
家行政組織法3条2項の規定に基づき,環境省の外局として設置された行政
機関である(規制委員会設置法1条,2条)。
規制委員会には,原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会が置か
れ,原子炉の安全性に関する事項は,規制委員会の指示により,原子炉安全
専門審査会が調査審議するものとされている(同法13条,14条)。
また,規制委員会は,その所掌事務について,法律若しくは政令を実施す
るため,又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて,原子力規制委員会
規則を制定することができるとされているほか,規制委員会の事務を処理さ
せるために原子力規制庁が設置され,原子力規制庁長官は規制委員会委員長
の命を受けて庁務を掌理することとされている(同法26条,27条)。
(5)改正原子炉等規制法について
前記(4)のとおり規制委員会設置法が制定されたことに伴い,平成24年,
旧原子炉等規制法が改正され,同年9月19日,平成25年4月1日,同年
7月8日及び同年12月18日の4段階で施行された。また,別紙2記載の
新規制基準は,いずれも改正原子炉等規制法の第3段階目及び第4段階目の
施行に当たって,改正又は策定された規則,告示又は内規である。
改正原子炉等規制法においては,規制権限の一元化のため,それまで原子
力施設の種類ごとに異なる主務大臣が有していた安全規制に係る権限を規制
委員会に移し(同法23条,43条の3の5等),規制と利用の分離の観点か
ら,法目的から「利用の計画的な遂行」が削除され,「国民の生命,健康及び
財産の保護,環境の保全並びに我が国の安全保障に資する」旨が追加された
(同法1条)。これらのほか,改正原子炉等規制法における主要な改正点は,
次のとおりである(なお,このうち安全規制の強化を内容とする下記ア,イ,
ウ,オ,カ及びケについては第3段階目に施行され,下記エについては第4
段階目に施行された。)。
アシビアアクシデント(重大事故)への対処(43条の3の5第2項10
号,43条の3の6第1項3号)
イ供用開始の前段階である設計及び工事段階における品質保証(43条の
3の9第3項3号)
ウ変更後の設置許可基準に適合しない既存の発電用原子炉施設の使用停止
等の処分(43条の3の23)
エ発電用原子炉の安全性向上のための評価(43条の3の29)
オ運転期間の制限(原則40年間とするもの。43条の3の32)
カ事業者の災害の防止に関する責務規定の明確化(57条の9)
キ緊急時における災害防止のための措置命令の強化・拡充(64条3項)
ク原子力災害が発生した原子力施設に対する特別規定(64条の2から6
4条の4まで)
ケ発電用原子炉施設に対する原子力安全規制体系の整理(前記(1)ウのとお
り,旧原子炉等規制法27条から29条までの適用を除外していた同法7
3条を削除し,改正原子炉等規制法に旧電気事業法上の規制に相当する規
定〔43条の3の9から43条の3の16まで〕を定めるもの)
(6)改正原子炉等規制法下の規制手続の概要
ア原子炉設置(変更)許可
発電用原子炉を設置しようとする者は,規制委員会の原子炉設置許可を
受けなければならず(43条の3の5第1項),その許可を受けた者(以下
「発電用原子炉設置者」という。)が同条2項2号から5号まで又は8号か
ら10号までに掲げる事項を変更しようとするときは,規制委員会の原子
炉設置変更許可を受けなければならない(43条の3の8第1項)。
上記各許可の申請があった場合において,規制委員会は,“電用原子
炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと,△修亮圓鉾電用原
子炉を設置するために必要な技術的能力及び経済的基礎があること,そ
の者に重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要
な技術的能力その他の発電用原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術
的能力があること,と電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物
質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害
の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合
するものであることをいずれも満たす場合でなければ,原子炉設置許可又
は原子炉設置変更許可をしてはならないものとされている(43条の3の
6第1項,43条の3の8第2項)。
なお,上記い竜定を受けて規制委員会が定めた規則が,設置許可基準
規則(乙イD9の3)である。
イ工事計画(変更)認可
発電用原子炉施設の設置又は変更の工事をしようとする発電用原子炉設
置者は,当該工事に着手する前に,その工事の計画について規制委員会の
認可を受けなければならず,これを変更しようとするときも同様である
(43条の3の9第1項,2項)。
上記の認可の申請があった場合において,規制委員会は,,修旅事の
計画が原子炉設置許可(原子炉設置変更許可)を受けたところによるもの
であること,発電用原子炉施設が原子力規制委員会規則で定める技術上
の基準に適合するものであること,その者の設計及び工事に係る品質管
理の方法及びその検査のための組織が原子力規制委員会規則で定める技術
上の基準に適合するものであることをいずれも満たす場合には,工事計画
又は工事計画変更の認可をしなければならないものとされている(同条3
項)。
なお,上記△竜定を受けて規制委員会が定めた規則が技術基準規則*
(乙イD9の4)である。
ウ使用前検査
工事計画の認可を受けて設置又は変更の工事をする発電用原子炉施設等
は,原則として,その工事について規制委員会の検査を受け,これに合格
した後でなければ,これを使用してはならない(43条の3の11第1項)。
この使用前検査では,既に認可を受けた工事計画に従って行われたもの
であること及び技術基準規則に適合するものであることが確認された場合
に,合格とされる(同条2項)。
エ保安規定(変更)認可
発電用原子炉設置者は,原子力規制委員会規則で定めるところにより,
保安規定を定め,発電用原子炉の運転開始前に,規制委員会の認可を受け
なければならず,これを変更しようとするときも同様である(43条の3
の24第1項)。
規制委員会は,保安規定が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染
された物又は発電用原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときは,
その認可をしてはならないとされている(同条2項)。
オ施設定期検査
特定重要発電用原子炉施設を設置する者は,原則として,原子力規制委
員会規則で定める時期ごとに,規制委員会が行う検査を受けなければなら
ない(43条の3の15)。
カいわゆる再稼働申請について
規制委員会設置法の附則3条1項は,改正原子炉等規制法の第1段階目
の施行前の法令の規定によりなされた許可等は,施行後の法令に基づく許
可等とみなすものとしている。
しかしながら,安全規制の強化を内容とする改正原子炉等規制法の第3
段階目の施行(前記(5)ア,イ,ウ,オ,カ及びケ)については,原則とし
て経過規定の定めがなく,施行時において同改正法及びこれに係る新規制
基準への適合が求められる(ただし,例外的に,設置許可基準規則の附則
2項において,同規則42条の特定重大事故等対処施設及び同規則57条
2項の常設直流電源設備に関しては,5年間の猶予期間が設けられてい
る。)。このため,旧原子炉等規制法の下でなされた原子炉設置許可処分の
対象とされた基本設計やこれを前提とした工事計画に基づいて原発の建設
をし,あるいは建設された原子炉の運転をしようとしても,使用前検査に
合格することはできず,保安規定も認可されないこととなる。
そこで,例えば,福島原発事故を受けて運転を停止した発電用原子炉が
運転を再開するためには,発電用原子炉設置者が,改正原子炉等規制法及
び新規制基準に基づき,規制委員会による原子炉設置変更許可処分を受け,
工事計画変更及び保安規定の各認可を受け,規制委員会が行う使用前検査
に合格する必要がある(ただし,原子力規制委員会設置法の一部の施行に
伴う関係規則の整備に関する規則〔乙イD60〕の附則3条により,施行
前に認可された工事計画に基づき既に着手した工事を継続すること自体は
可能である。)。このことは,未完成であり運転を開始していない本件原発
についても同様であり,被告電源開発が本件原発の建設を進め,運転を開
始するには,規制委員会による上記の許認可や検査を受ける必要がある。
(7)本件設置変更許可申請とその審査
ア概要
被告電源開発は,改正原子炉等規制法の施行後である平成26年12月
16日,規制委員会に対し,本件設置変更許可申請及び平成26年工事計
画認可申請をした。ただし,平成26年工事計画認可申請は,本件原発の
施設に係る基本設計方針や設計及び工事に係る品質管理の方法等に限るも
のであり,その余の工事計画については,未だ認可申請がなされておらず,
また,保安規定については,認可申請もなされていない(甲D86,乙ロ
D1の1,乙ロD32)。
イ規制委員会における審査の経過
規制委員会では,本件設置変更許可申請及び平成26年工事計画認可申
請を受けて,平成27年1月20日から現在(口頭弁論終結日である平成
29年6月30日)までに,以下の審査会合を含む合計15回の審査会合
が開かれ(各審査会合は,必ずしも本件原発の審査のみを対象とした会合
ではなく,申請中の複数の原発に関する新規制基準適合性を審査するもの
であるところ,以下は,本件原発に関する審査の一部について示すもので
ある。),本件設置変更許可申請について審査中であるものの,未だこれに
対する処分には至っておらず,平成26年工事計画認可申請については,
審査自体が行われていない。
(ア)平成27年1月20日・第184回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B234)
被告電源開発が,本件原発の新規制基準適合に係る申請(本件設置変
更許可申請)の概要を説明し(甲B235,甲D101,乙ロB350,
乙ロD8),規制委員会(担当委員及び原子力規制庁の担当者)との間で
質疑応答が行われた。
(イ)平成27年1月27日・第187回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B236)
規制委員会から,本件原発の申請内容に係るこの時点における主要な
24の論点(甲B237)が示された。その内容は,「地盤・地震関係」,
「火山関係」,「津波関係」,「プラント関係」と分類して多岐にわたる論
点を示すものであり,例えば地質・地盤に関する調査・評価結果の提示,
基準地震動の策定に関わる個別の検討内容,火山による降下火砕物の影
響評価に関する事項,PRAの手法,重大事故等対処のために必要な技
術的能力に関するものなど,被告電源開発に対し詳細かつ具体的な説明
を求めるものであった。そして,次回以降,地盤・地震・津波関係とプ
ラント関係とに分かれて審査会合を開くこととされた。
(ウ)平成27年2月17日・第196回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B238)
非公開で行われ,被告電源開発から,特定重大事故等対処施設に係る
意図的な大型航空機の衝突等の設計上の考慮事項について説明がなされ
た(甲B239)。
(エ)平成27年3月27日・第212回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B240)
被告電源開発が,本件原発周辺の地質・地質構造の概要及び断層評価
について説明し(甲B241),規制委員会との間で質疑応答が行われ,
被告電源開発への追加データ提示の要望が出された。
(オ)平成27年4月10日・第218回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B242)
被告電源開発が,本件原発周辺の地質・地質構造のうち,下北半島西
部の後期更新世以降(約12万6000年前以降)の地殻変動について
説明し(甲B243),規制委員会との間で質疑応答が行われた。その際,
原子力規制庁の出席者からは,被告電源開発が作成した下北半島西部全
域の推定等隆起量線図(別紙15参照)について,再検討を求める意見
や,海岸に見られる隆起ベンチは典型的には地震性隆起と考えられ,そ
うではないということは考えにくいので,その点について詳しい説明を
聞きたいといった意見等が述べられた。
(カ)平成27年7月24日・第253回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B244)
被告電源開発が,前記(オ)の審査会合において規制委員会から質疑のな
された下北半島西部の隆起評価について,被告電源開発がこれに回答す
るために,追加調査を実施することにしたことが報告され,必要と判断
した地質調査の計画を示すなどし(甲B245,246),規制委員会と
の間で質疑応答が行われた。
(キ)平成28年1月8日・第316回原子力発電所の新規制基準適合性に
係る審査会合(甲B247)
被告電源開発が,本件敷地の地形,地質・地質構造の概要,本件敷地
内の断層(被告電源開発がdF断層系,cf断層系,sF断層系として
説明するものなど)について改めて一から説明し(甲B248,249),
規制委員会との間で質疑応答が行われた。
(ク)平成28年3月10日・第338回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B250)
被告電源開発が,本件敷地の地質・地質構造のうち,被告電源開発が
「S−1」から「S−11」まで及び「S−0m」の付号を付したシー
ム(薄層)について説明し(甲B251),規制委員会との間で質疑応答
が行われた。
(ケ)平成28年6月24日・第373回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B252)
被告電源開発が,本件敷地の地質・地質構造のうち,第四系中の変状
について説明し(甲B253),規制委員会との間で質疑応答が行われた。
その際,原子力規制庁側の出席者から,第四系中の変状が被告電源開発
のいう強風化部の関係のみで起こり得るということについて,確認可能
なデータが示されていないといった意見が出された。
(コ)平成29年1月20日・第432回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B277の3)
被告電源開発が,前記(エ)の審査会合及び平成28年11月11日開催
の第414回審査会合に引き続き,本件原発周辺の地盤の変形,地質・
地質構造及び断層について説明し(甲B275,276,乙ロB282),
規制委員会との間で質疑応答が行われた。
その中で,規制委員会から,被告電源開発が海上音波探査の結果によ
り存在を否定できるとした下北海岸断層について,その近辺に活断層の
存在可能性を示す資料があり,より広範に海上音波探査記録を精査する
必要があることなどが指摘された。
(サ)平成29年3月24日・第456回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合(甲B301)
被告電源開発が,前記(キ)から(ケ)までの各審査会合(本件敷地の地質
等に関するもの)において規制委員会から指摘された事項に回答し(甲
B297から299まで,乙ロB304の1から3まで),規制委員会と
の間で質疑応答が行われた。
その中で,規制委員会から,。磽翆覗愀呂砲弔い董と鏐霤展山発が
いうM3面段丘堆積物(約10万年前)との関係,変位センスと応力場と
の関係,断層内物質の固結度といったものの総合評価によっては,後期
更新世の活動を否定するには不十分であり,耐震重要施設の直下に分布
しているので,より直接的な活動性の評価データを示す必要があること,
■鵤特覗愀呂砲弔い討癲じ經更新世以降の活動性の評価がまだ十分で
はないと考えられるので,直接的なデータを示す必要があること,B
震重要施設の側面に露頭しているシームS−11については,S−10
と分布状況が大きく異なるため単独で活動性を評価する必要があり,そ
の資料が不足していること,ぢ荵遊話罎諒兢について,被告電源開発
が強風化部の近傍以外には認められないと判断した過程の説明が十分で
ないことなどが指摘され,被告電源開発は,資料収集のため改めて調査
を実施することなどを回答している。
(シ)平成29年6月23日・第478回原子力発電所の新規制基準適合性
に係る審査会合
被告電源開発は,前記(サ)の審査会合における指摘を踏まえ,追加の地
質調査を実施することとし(乙ロB390),その調査計画を説明した
(乙ロB389)。
(8)本件原発の現状
被告電源開発は,本件工事計画認可処分を受けて,平成20年5月27日
以降,本件原発の建設工事を開始し,原子炉建屋やタービン建屋等の建設が
行われたが(被告電源開発によると,福島原発事故直後の平成23年3月2
0日の時点における工事の進捗率は,土木工事が64.7%,建築工事が3
8.5%,機械電気工事が36.1%であり,総合進捗率は37.6%であ
る。),福島原発事故を受けて工事を中断した。その後,被告電源開発は,工
事を再開したが,その内容は,規制委員会設置法の一部の施行に伴う関係規
則の整備に関する規則(乙イD60)の附則3条に基づく,改正原子炉等規
制法の施行前に既に工事に着手された設備に関するもの(施工・設置済みの
建屋の維持・品質確保に係るものなど新規制基準の影響を受けない範囲のも
の)に限られている(乙ロD10,31)。
また,本件原発の主要な機器である圧力容器,タービン,発電機は,機器
メーカーの工場における製作を終えて保管されているが,本件敷地内には搬
入されていない(本件原発の運転に供される核燃料物質も搬入されていな
い。)。
被告電源開発は,本件原発の運転開始時期は未定と発表している(乙ロD
33,34)。
(9)放射線被ばくについて
放射性物質が放出する放射線は,人が全身に一度に大量の被ばくをすると
致死的となり,被ばく線量がそこまで多くなくとも深刻な健康被害をもたら
すことがある。放射線被ばくによる身体的影響は,被ばく線量が同じでも年
齢や個人差などによって違いがあり,胎児や成長期の子どもは大人に比べて
影響を強く受けると言われている。また,被ばくした本人の子孫に遺伝的影
響を及ぼすこともある。放射性物質が環境中に放出されると,大気汚染によ
る健康障害が懸念されるほか,農産物や海産物が汚染されることにもなり,
その影響が広範囲に及ぶおそれがある。(甲C1,2,4)
2判断枠組みについて
(1)人格権に基づく民事差止請求における差止めの要件
原告らは,被告電源開発に対し,建設中の本件原発の運転が開始されれば,
重大な事故が発生した際に,放射性物質により原告らの生命・身体を害され
るおそれがあるなどと主張して,人格権に基づき,侵害の予防として,本件
原発の建設及び運転の差止めを求めている(本件差止請求)。
一般に,人格権とは,人の生命,身体,自由及び生活等に関する諸利益に
至る包括的な概念であるところ,原告らが本件差止請求の根拠とする生命・
身体等は極めて重大な保護法益であるから,それが違法に侵害され,又は違
法に侵害される具体的危険がある場合には,現に行われている違法な侵害行
為を排除し(妨害排除),又は違法な侵害行為を予防する(妨害予防)ため,
人格権に基づき当該侵害行為の差止めを求めることができると解される。
そして,放射線被ばくによる影響を考慮すると,発電用原子炉施設におい
て重大な事故が発生し,放射性物質が外部に拡散するような事態になれば,
当該施設の周辺の住民に対し,放射線被ばくにより生命・身体に回復し難い
重大な被害をもたらすおそれがある。また,現時点において,環境中に放出
された放射性物質を効果的かつ効率的に除去する方法がないことからすると,
広範囲に居住する住民が生活の本拠を失い,あるいは長期間にわたる避難生
活を余儀なくされるなど,甚大な生活上の被害を受けるおそれが高い。この
ように,原発において重大な事故が発生した場合,周辺の住民が受ける人格
権の侵害は極めて深刻であるといえる。
そうすると,当該原発について安全性に欠けるところがあり,重大な事故
の発生による放射性物質の放出等の具体的危険がある場合,周辺住民は,人
格権に基づく妨害予防として,当該原発の建設及び運転の差止めを求めるこ
とができるものと解するのが相当である。
(2)本件原発における人格権侵害の具体的危険性
アもっとも,前記認定のとおり,本件原発は未完成であって,圧力容器,
タービン,発電機といった主要な機器や,原子炉の運転に供される核燃料
物質も未だ搬入されておらず,被告電源開発は,福島原発事故後,施工済
みの建屋の維持・品質確保に係る工事等を行っているにとどまる。
そして,改正原子炉等規制法や新規制基準の施行に伴い,被告電源開発
が本件原発の運転を開始するには,改正原子炉等規制法及び新規制基準に
基づき,規制委員会による原子炉設置変更許可処分を受け,工事計画変更
及び保安規定の各認可を受けた上で,規制委員会が行う使用前検査に合格
する必要がある。
この点について,被告電源開発は,平成26年12月16日,規制委員
会に対し,本件設置変更許可申請をし,規制委員会は,平成27年1月2
0日から現在までに,合計15回の審査会合において,本件設置変更許可
申請について審査を行っている。しかし,前記1(7)イのとおり,規制委員
会は,上記審査会合の初期段階で,本件設置変更許可申請について検討す
べき主要な論点として,「地盤・地震関係」,「火山関係」,「津波関係」,「プ
ラント関係」と分類して多岐にわたる論点を示しているところ,現在まで
に検討が加えられた論点は,自然的立地条件に関わる部分に限ってみても,
上記「地盤・地震関係」の一部である本件原発周辺及び本件敷地の地質構
造等にとどまり,基準地震動の策定関係にすら審査は及んでいない上,地
盤に係る審査中においても,規制委員会から被告電源開発の申請や説明の
内容について疑問点や根拠となる資料の不足等が指摘され,被告電源開発
において追加の調査を実施するなどしている状況にあると認められ,今後,
本件設置変更許可申請に対する審査にどの程度の期間を要するかすら明ら
かでなく,当然のことながら,規制委員会が本件設置変更許可申請に対し
変更許可をするか否かについて,見通しが全く立っていない状況といえる。
被告電源開発自身も,本件原発の運転開始時期を未定と発表している。
このように,本件設置変更許可申請に対し規制委員会の許可がなされる
具体的な見通しが立っておらず,本件原発の運転開始の具体的目途が立っ
ていない現時点で,本件原発において,人格権侵害をもたらすおそれのあ
る重大な事故が発生する具体的危険性を直ちに認めることは困難であると
いわざるを得ない。
イ加えて,発電用原子炉施設の安全性確保に関しては,当該原子炉施設そ
のものの工学的安全性,平常運転時における周辺住民及び周辺環境への放
射線の影響,事故時における周辺地域への影響等について,当該原子炉施
設の立地の地形,地質,気象等の自然的条件,人口分布等の社会的条件及
び当該原子炉設置者の原子炉の設置,運転等に必要とされる技術的能力と
の関連において,多角的,総合的見地から検討がされるべきであり,しか
も,これらの検討対象には,将来の予測に係る事項も含まれているので
あって,このような検討を行うには,原子力工学はもとより,多方面にわ
たる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合的判断を必
要とする。
そして,前記認定のとおり,福島原発事故の反省を踏まえて規制委員会
設置法の制定及び旧原子炉等規制法の改正が行われた経緯等に鑑みると,
これらの法律は,高度の科学的,専門技術的知見を有し,原子力事業者や
原子力利用の推進機関からの独立性を確保した委員長及び委員により構成
される規制委員会に原子炉に関する規制を一元的に担わせることによって,
原子力利用の安全の確保を期したものであって,規制委員会以外の機関が
重大事故発生防止の観点から発電用原子炉施設の安全性を審査することは
予定していないものと解される。
そうすると,裁判所が,規制委員会による安全審査及び処分を待たずに,
前記のような多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見
を要する原子炉施設の安全性に関する審査を,規制委員会に代替して行う
ことは相当ではないから,人格権侵害の具体的危険性,すなわち,原発の
安全性についての裁判所の審理,判断は,規制委員会の調査審議及び判断
に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきである。具体的に
は,現在の科学技術水準に照らして,規制委員会の審査に用いられた具体
的審査基準に不合理な点があるか否か,あるいは,当該原子炉施設が同審
査基準に適合するとの審議・判断に不合理な点があるか否か,という観点
で審理,判断がされるべきである。
ウ上記のとおり,現時点では,本件設置変更許可申請に対する規制委員会
の安全審査及び処分は未だなされていないが,規制委員会が本件原発の安
全審査に用いる具体的審査基準それ自体(当該審査基準の内容いかんが,
例えば本件原発の具体的立地条件等に関係しない事項であるなど,本件原
発の安全性を左右しないと認められるような場合は除く。)に不合理な点が
ある場合は,原則として規制委員会による適正な審査を期待することがで
きない上,本件設置変更許可申請における諸施設や設備の変更等もかかる
不合理な審査基準を想定してなされたものと事実上推認されるから,この
ような場合は,被告電源開発において,当該不合理な基準にもかかわらず
本件原発の安全性が確保されていることを主張立証しない限り,本件原発
が安全性を欠き重大な事故発生の具体的危険性が否定できないものとして,
その建設及び運転の差止めを認めるべきである。
他方,それ以外の場合には,上記ア及びイで述べたところからすれば,
本件設置変更許可申請に対する規制委員会の安全審査及び処分が未だなさ
れておらず,本件原発が運転を開始する具体的な目途も立っていない現時
点において,本件原発に重大な事故発生の具体的危険性があると認めるこ
とは困難であり,かつ,裁判所が規制委員会の審査に先立って,安全性に
係る現在の具体的審査基準に適合するか否かについて審理判断をすべきで
はないから,裁判所が,安全性に係る現在の具体的審査基準に適合しない
との理由で,本件原発の建設及び運転の差止めを命じることはできないと
いうべきである。
なお,前記アで述べた観点から,本件設置許可処分がされた平成20年
当時の具体的審査基準の合理性又は同審査基準への適合性は,原告らの被
告電源開発に対する本件差止請求との関係では,直ちに差止めの理由にな
るものではないというべきである(したがって,本件設置許可処分当時の
具体的審査基準の合理性又は同審査基準への適合性に係る主張については,
後記第2及び第3においても個別に取り上げない。)。
エこれに対し,原告らは,これまでの原子力規制の実態からすれば,本件
設置変更許可申請についてもベルトコンベア式に許可がなされる可能性が
高い旨を主張する。しかし,前記認定のとおり,福島原発事故を受けて原
子炉等規制法が改正され,新規制基準が定められており,そもそも制度上,
同改正前に設置許可を受けた原子炉が当然に改正後に許可を受けられるも
のではない。のみならず,現在,規制委員会において調査審議中の本件原
発に係る地質・地質構造の関係についてみても,本件原発周辺の下北半島
西部において地震性隆起による海岸地形が存在していることや大間北方沖
活断層の存在が想定されることを指摘する,渡辺ほか(2012)が,平
成20年の本件設置許可処分の後に発表されているところ,被告電源開発
がこれを否定する根拠の一つとして提示している推定等隆起量線図(別紙
15参照)に対して,前記のとおり,規制委員会から疑問が呈され,ある
いは,被告電源開発の地震性隆起ではないとする根拠や説明が不十分であ
ることを指摘する意見が出され,被告電源開発において追加調査を実施す
るに至ったが,現時点ではこの点を含む審議が継続中であることなど,現
在の審査状況に照らせば,渡辺ほか(2012)における指摘内容の当否
はともかくとして,規制委員会における審査が当然に許可を前提にしてい
るものとは認められない。また,プラント関係についても,規制委員会か
らは,本件原発が建設中であって,新規制基準適合のために取り得る対策
の選択肢が広いと考えられることから,採用した対策の有効性を詳しく説
明することなどが求められており(甲B237),平成20年になされた本
件設置許可処分を前提に許可することが前提であるかのような審査をする
姿勢はうかがわれないから,上記原告らの主張は採用することができない。
また,原告らは,原告らの主張する事項の大部分は一般の経験則や基本
的な科学技術的知識・知見に照らすだけで十分に判断可能である旨主張す
る。しかし,発電用原子炉施設の安全性に関する理論は,多方面にわたる
極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に根ざしたものであって,こ
のような知見を有しない裁判所が直感的な経験則により判断することは,
科学的に裏付けのない恣意的判断をすることになりかねず,この点につい
ての原告らの主張も採用することができない。
(3)発電用原子炉施設に求められる安全性の程度
次に,規制委員会が安全審査に用いる具体的審査基準が安全性を確保する
ために合理的といえるか否か,という観点から,発電用原子炉施設に求めら
れる安全性の程度について検討する。
原告らは,発電用原子炉施設に求められる安全性は,福島原発事故のよう
な重大な事故を万が一にも起こしてはならないという絶対的な安全性に準じ
る極めて高度な安全性であって,その判断においては,社会通念という基準
を持ち込むべきではなく,裁判所は,人格権や条理等の観点から当該原子炉
施設の具体的危険性を判断すべきである旨を主張する。
しかし,原告らのいう「絶対的な安全性に準じる高度な安全性」は,その
内容が不明確であって,高度な安全性を強調するあまり,結局のところ絶対
的安全性を求めるものに帰することとなりかねない。
科学技術の分野において,絶対的に重大事故や災害の発生の危険がないと
いう意味での絶対的安全性は達成することも要求することもできないもので
あって,このことは,発電用原子炉施設においても同様というほかなく,規
制委員会設置法も,このことを踏まえて,「原子力利用における事故の発生を
常に想定し,その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認
識に立って,確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の
確保を図るため必要な施策を策定し,又は実施する」ことを規制委員会の使
命としたものといえる(同法1条)。
以上によれば,具体的審査基準の合理性は,最新の科学技術水準を踏まえ,
確立された国際基準からみて,原子炉事故等による災害の防止を図る上で合
理的なものといえるか否かという観点から判断すべきである。
(4)主張立証責任
規制委員会が本件原発の安全審査に用いる具体的審査基準に不合理な点が
あることの主張立証責任は,人格権に基づく差止請求訴訟一般と同様に,人
格権が侵害される具体的危険について主張立証責任を負う原告らが本来負う
べきものと解される。
もっとも,発電用原子炉施設設置者においては,発電用原子炉施設の安全
性に関する専門技術的知見及び資料を十分に保持し,当該原子炉施設につい
て,規制委員会において用いられる具体的な審査基準に適合するように設計
し,その安全性について自ら評価した上で,設置許可の申請等を行い,既に
許認可等を受けた場合であっても,原子力規制委員会規則で定める技術上の
基準に適合するよう維持する義務を負うものとされている。こうしたことな
どを考慮すると,まず,発電用原子炉施設設置者である被告電源開発におい
て,規制委員会が安全審査で用いる具体的審査基準について原告らが不合理
であると主張する点について,その合理性を,相当の根拠,資料に基づき主
張立証する必要があり,被告電源開発が上記の主張立証を尽くさない場合に
は,規制委員会の審査基準に不合理な点があることが事実上推認されるもの
というべきである。
他方,被告電源開発において上記の主張立証を尽くした場合には,本来,
主張立証責任を負う原告らにおいて,規制委員会が安全審査で用いる具体的
審査基準について不合理であること,より具体的には,当該基準が,最新の
科学技術水準を踏まえて確立された国際基準を満たしていないことを主張立
証する必要があると解するのが相当である。
第2争点2(審査基準の合理性の問題)について
1認定事実等
(1)新規制基準策定の経緯
ア福島原発事故
平成23年3月11日,東北地方太平洋沖地震が発生し,福島第一原発
においては,地震随伴事象として発生した津波によりタービン建屋が浸水
し,それとほぼ同時に,非常用ディーゼル発電機,配電盤,蓄電池等の電
気設備の多くが,水没又は被水して機能を喪失した。これにより,1号機
から5号機においては,全交流動力電源喪失(SBO)となり,交流電源
を駆動電源として作動するポンプ等の注水・冷却設備が使用不能となった
(ただし,5号機は,6号機から電源融通を行うことにより,原子炉への
注水等の操作を行うことができた。)。のみならず,1号機,2号機及び4
号機においては,直流電源も機能を喪失し,3号機は直流電源が残ったも
のの同月13日には蓄電池が枯渇したため,結局,1〜4号機は全電源喪
失の状態となった。
また,冷却用ポンプ類も津波により全て機能を喪失したため,原子炉内
の残留熱や機器の使用により発生する熱を海水へ逃す最終ヒートシンク*
(UHS)への熱の移送手段が失われた。その結果,運転中であった1号
機から3号機においては,冷却機能を失った原子炉の水位が低下して炉心
融解に至り,その過程で燃料被覆管のジルコニウムと水が反応することな
どにより大量の水素が発生し,さらに,3号機の格納容器ベントを行った
際に,3号機内の水素が非常用ガス処理系の配管等を通じて4号機に流入
して,1号機,3号機及び4号機において水素爆発が発生した。2号機に
おいては,ブローアウトパネル(原子炉建屋内の圧力が上昇した際に開放
され,建屋内のガス等を放出して圧力を下げる装置)が開いたことから水
素爆発には至らなかったものの,放射性物質が放出された。
福島原発事故に関して,前記第1の1(3)イのとおり,様々な事故原因調
査が行われたが,原子炉施設内部の放射線量が高く,実施可能な調査が限
られているため,格納容器の具体的な損傷箇所は不明であり,非常用発電
機の故障の原因が最終的にどの部品によるものであるかなどが未解明であ
ると指摘されている。
(甲D5,乙イD18から21まで,41,42)
イ安全委員会による事故防止対策の検討
安全委員会の原子力安全基準・指針専門部会の下に設置された安全設計
審査指針等検討小委員会において,平成23年7月15日から平成24年
3月15日にかけて,合計13回にわたり,安全設計審査指針及び関連指
針類を対象として,福島原発事故の教訓としてこれらの指針類に反映させ
るべき事項として,SBO(全交流動力電源喪失)対策及び最終ヒートシ
ンク喪失対策を中心に検討が行われた。この検討に当たっては,深層防護
の考え方を安全確保の基本と位置付け,IAEA,米国等の規制動向や諸
外国における事例が参照され,同月14日付けで「発電用軽水型原子炉施
設に関する安全設計審査指針及び関連の指針類に反映させるべき事項につ
いて(とりまとめ)」が報告書として取りまとめられた。(乙イD22,4
1)
ウ保安院による事故防止対策の検討
保安院は,福島原発事故の技術的知見に関する意見聴取会を設置し,平
成23年10月24日から平成24年2月8日にかけて,合計8回にわた
り,設備・手順に係る必要な対策の方向性について検討を進め,同年3月
28日,「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見につい
て」を取りまとめ,今後の規制に反映すべきと考えられる30項目が示さ
れた(乙イD18,23,41)。
エシビアアクシデント対策の検討
福島原発事故に至るまで,シビアアクシデント対策については,平成4
年5月に安全委員会が決定した「発電用軽水型原子炉施設におけるシビア
アクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定)」
(乙イD24)において,原子炉設置者が効果的なアクシデントマネージ
メントの自主的整備と万が一の場合にこれを的確に実施できるようにする
ことが強く奨励されていたにとどまっていた。
福島原発事故後,上記決定は廃止され(乙イD25),シビアアクシデン
ト対策は法規制上の要求とされることとなり(乙イD20),保安院は,平
成24年2月から同年8月にかけて,発電用軽水型原子炉施設におけるシ
ビアアクシデント対策規制の基本的考え方に係る意見聴取会(乙イD26)
を7回開催し,シビアアクシデント対策規制の考え方に関する整理を行い,
同月27日付けで「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント
対策規制の基本的考え方について(現時点での検討状況)」(乙イD27)
を報告書として取りまとめた。もっとも,同報告書は検討過程としての側
面を有するものであり,以後,新たに設置される規制委員会において検討
が進められることとなった。
(乙イD27,41)
オ地震及び津波に関する対策の検討
安全委員会では,平成23年6月22日,原子力安全基準・指針専門部
会の下に,入倉孝次郎ら学識経験者を構成員とする地震・津波関連指針等
検討小委員会が設置され,同年7月12日から平成24年2月29日にか
けて,合計14回の会合と現地調査(女川原発)が実施された。そして,
平成18年の新耐震設計審査指針及び関連指針類を対象とした検討が行わ
れ,新耐震設計審査指針に基づき実施された耐震バックチェックによって
得られた経験及び知見を整理し,推本,中央防災会議,国土交通省や関連
する学協会等から説明を受け検討するなどし,平成24年3月14日付け
で「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針及び関連の指針類に反映
させるべき事項について(とりまとめ)」を報告書として取りまとめた。こ
の中で,津波に対する安全性評価については,津波による海水ポンプ,非
常用電源設備等の機能喪失を防止するため,津波を敷地に遡上又は流入さ
せないというドライサイトを基本とする津波防護設計の基本的な考え方や,
津波対策を検討する基礎となる基準津波の策定を義務付ける旨を表明した。
(乙イD28,29,41)
また,保安院においても,平成23年9月,高田毅士,藤原広行(藤原
証人)ら学識経験者を委員とする「地震・津波の解析結果の評価に関する
意見聴取会」と,同様に学識経験者を委員とする「建築物・構造に関する
意見聴取会」が設置され,事業者より報告された東北地方太平洋沖地震及
びこれに伴う津波による原発への影響などの評価結果について,学識経験
者の意見を踏まえた検討を行い,いずれも平成24年2月16日付けで報
告書の取りまとめを行った(乙イD30から33,41)。
カ規制委員会の設置と委員等の欠格事由の定め
前記第1の1(4)のとおり,規制委員会設置法に基づき,平成24年9月
に規制委員会が設置され,安全委員会と保安院は廃止されたが,規制委員
会の委員長及び委員は,独立してその職権を行うものとされ,人格が高潔
であって,原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並
びに高い識見を有する者のうちから,両議院の同意を得て,内閣総理大臣
が任命するものであり,原子力に係る製錬その他の事業を行う者,原子設
置者やその従業員等については,委員長又は委員の欠格事由とされている
(同法5条,7条1項・7項)。
キ規制委員会による検討
規制委員会の発足後,重大事故等対策,地震津波以外の自然現象への対
策,従来の安全設計審査指針類の見直し等を検討するため,規制委員会の
更田豊志委員,原子力規制庁及び安全基盤機構の職員,安全委員会及び保
安院における検討に参画していた有識者等の外部専門家により,原子炉施
設等基準検討チームが構成された(乙イD34)。また,地震及び津波対策
とこれに関連する基準を検討するため,規制委員会の島崎邦彦委員,原子
力規制庁及び安全基盤機構の職員,安全委員会における耐震指針等の報告
書の検討に参画した有識者等の外部専門家により,地震等基準検討チーム
が構成された(乙イD35)。
原子炉施設等基準検討チームは,平成24年10月25日から平成25
年6月3日にかけて,合計23回の会合を開催し,更田豊志委員を中心と
して,新規制基準の骨子案を作成し,これについて意見公募手続を行い,
その結果も踏まえて基準案を取りまとめた。検討に当たっては,IAEA
安全基準や欧米の規制状況等の海外の知見も勘案された。
地震等基準検討チームは,平成24年11月19日から平成25年6月
6日にかけて,合計13回の会合を開催し,島崎邦彦委員長代理を中心と
して,地震及び津波について,IAEA安全基準,アメリカ,フランス及
びドイツの各規制内容のほか,福島原発事故を踏まえた国会事故調の耐震
関係基準の内容に関する主な指摘事項などを整理し,地震・津波に関する
新規制基準の骨子案を作成し,意見公募手続を行い,その結果を踏まえて
基準案を取りまとめた。
なお,これらの会合に係る議事録や会議映像,外部専門家の電気事業者
等との関係に関する情報の自己申告に係る情報は,インターネット上に公
開されている(乙イD36,37)。
これらを経て,新規制基準(そのうち主要なもの)は,前提事実2(7)及
び前記第1の1(5)のとおり,改正原子炉等規制法の第3段階目の施行に合
わせ,平成25年7月8日から施行されることとなった。
(乙イD34から41)
(2)深層防護の考え方について
ア深層防護とは,安全に対する脅威から人を守ることを目的として,ある
目標を持った幾つかの障壁(防護レベル)を用意して,各々の障壁が独立
して有効に機能することを求めるものである。
原発においては,人と環境に対する大きなリスク源が存在し,かつ,ど
のようなリスクが顕在化するのかも不確かさが大きいという点で,不確か
さに対処しつつ,リスクの顕在化を着実に防ぐため,従来から深層防護の
考え方を適用することが有効とされており,IAEA安全基準(なお,I
AEA安全基準の意義については後記(4)のとおり。)の基本安全原則(No.
SF−1)において,原子力又は放射線の事故の影響の防止と緩和の主要
な手段は深層防護であることが明記されており(同原則3.31.),さら
に,個別安全要件であるSSR−2/1(Rev.1)において,深層防護の考
え方を設計に適用し,次のとおり,5段階の異なる防護レベルが設定され
ている(同要件2.13.)。
第1の防護レベルは,通常運転状態からの逸脱と安全上重要な機器等の
故障を防止することを目的として,品質管理及び適切で実証された工学的
手法に従って,発電所が健全で,かつ,保守的に立地,設計,建設,保守
及び運転されることを要求するものである。
第2の防護レベルは,発電所で運転時に予期される事象(運転時の異常
な過渡変化)が事故状態に拡大することを防止するために,通常運転状態
からの逸脱を検知し,管理することを目的として,設計で特定の系統と仕
組みを備え,それらの有効性を安全解析により確認し,発電所を安全な状
態に戻す運転手順の確立を要求するものである。
第3の防護レベルは,運転時に予期される事象又は想定起因事象が拡大
し,前段のレベルでは制御できないこと,事故に進展し得るかもしれない
こと(設計基準事故)が生じた場合において,固有の安全性及び工学的な
安全の仕組み又はその一方並びに手順により,炉心損傷や放射性物質の放
出といった事態に拡大することを防止するとともに,発電所を安全な状態
に戻すことができることを要求するものである。
第4の防護レベルは,第3の防護レベルでの対策が失敗した場合を想定
し,事故の拡大を防止し,重大事故の影響を緩和することを要求し,時間
的にも適用範囲においても限られた防護措置のみで対処可能とするととも
に,敷地外の汚染を回避又は最小化することを目的としている。また,早
期の放射性物質の放出又は大量の放射性物質の放出を引き起こす事故シー
ケンスの発生の可能性を十分に低くすることによって実質的に排除できる
ことを要求するものである。
第5の防護レベルは,重大事故に起因して発生し得る放射性物質の放出
による影響を緩和することを目的として,十分な装備を備えた緊急時対応
施設の整備と,所内外の緊急事態の対応に関する緊急時計画と緊急時手順
の整備を要求するものである。
(乙イA6の1,乙イD16,41,63)
イ新規制基準においては,深層防護の考え方が採用され,設置許可基準規
則は,設置基準対象施設と重大事故等対処施設を区別している。そして,
通常運転時の対策や事故の防止対策につき,同規則第2章(設置基準対象
施設)として,深層防護の第1から第3までの防護レベルに相当する事項
を,また,そうした事故対策が機能を喪失するような万一の事態における
重大事故の発生防止及び拡大防止のための安全確保対策につき,同規則第
3章(重大事故等対処施設)として,第4の防護レベルに相当する事項を,
それぞれ規定した。
他方,第5の防護レベルに相当する事項は,設置許可基準規則には盛り
込まれておらず,防災については地方公共団体が基本的な責務を有してい
ることや,緊急時における原子力事業者と地方公共団体との連携といった
観点に鑑み,原災法及び災害対策基本法という別の法体系によって対応す
ることとされている。
(3)「設置許可基準規則」及び「設置許可基準規則の解釈」等の概要
前記第1の1(5)アのとおり,改正原子炉等規制法において,規制委員会は,
発電用原子炉の設置許可申請(同法43条の3の5)につき,同法43条の
3の6第1項各号に定める要件適合性を判断するものとされており,同項4
号にいう規制委員会で定める基準として,設置許可基準規則(乙イD9の3)
が,また,同規則の解釈を示す規制委員会の内規(行政手続法の審査基準に
該当するもの)として,設置許可基準規則の解釈(乙イD11の2)が,そ
れぞれ前記(1)の経過を経て制定され,いずれも改正原子炉等規制法の第3段
階目の施行と同じく平成25年7月8日に施行されている。
これらの規定の概要は,以下のとおりである(なお,このほか本件の争点
と関連する部分については,後記2以下で個別に示す。)。
ア設計基準対象施設(第2章)
設計基準対象施設とは,発電用原子炉施設のうち,運転時の異常な過渡
変化又は設計基準事故の発生を防止し,又はこれらの拡大を防止するため
に必要となるものをいい(設置許可基準規則2条2項7号),前記のとおり,
深層防護の第1から第3の防護レベルまでに相当する事項が,同規則第2
章(設計基準対象施設)に定められている。
その概要は,概ね別紙26のとおりであるが,まず,設計基準対象施設
に対して一般的に要求すべき事項として,外部事象等への頑健性が要求さ
れており,自然的条件(地震,津波等),社会的条件(人の不法な侵入等),
内部火災及び内部溢水において,安全機能が損なわれるおそれがないこと
又は損なわれないことが求められている(同規則3条から9条まで)。また,
当該施設に共通する一般的要求事項として,誤操作の防止,安全避難通路
等の設置,安全施設につき安全機能の確保などが求められている(同規則
10条から13条まで)。
このほか,個別の設備に対する要求事項が定められており(同規則14
条から36条まで),この中には,SBO対策設備に関する規定(同規則1
4条)や非常用電源設備に関する規定(同規則33条)が含まれる。
イ重大事故等対処施設(第3章)
重大事故とは,発電用原子炉の炉心の著しい損傷又は核燃料物質貯蔵設
備に貯蔵する燃料体若しくは使用済燃料の著しい損傷をいい(改正原子炉
等規制法43条の3の6第1項3号,実用炉規則4条),重大事故に至るお
それのある事故(運転時の異常な過渡変化及び設計基準事故を除く。)と併
せて,重大事故等という(設置許可基準規則2条2項11号)。重大事故等
に対処するための機能を有する施設を,重大事故等対処施設といい(同号),
前記のとおり,深層防護の第4のレベルに相当する事項が,設置許可基準
規則第3章(重大事故等対処施設)に定められている。
その概要は,概ね別紙27のとおりであるが,まず,発電用原子炉施設
について,炉心損傷,格納容器破損,使用済燃料貯蔵槽における燃料損傷,
運転停止中の原子炉内の燃料損傷に対し,それぞれの防止対策が求められ
(同規則37条),それぞれの重大事故等において,網羅的,体系的に事故
原因と事故に至るまでの進展(事故シーケンス)を想定し,当該事故発生
の防止対策や拡大防止対策を立案し,その対策の有効性を確認することが
求められている(同規則の解釈37条)。
また,重大事故等対処施設について,自然的条件(地震,津波等),内部
火災及び社会的条件(故意による大型航空機の衝突等)に対して,重大事
故等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないことが要求さ
れている(同規則38条から42条まで)。
重大事故等対処設備については,全ての設備に共通する一般的要求事項
として,常設設備と可搬型設備のそれぞれの役割を踏まえた機能等が要求
され(同規則43条),さらに,重要な設備に必要な個別の要求事項として,
炉心の著しい損傷の防止,原子炉格納容器の破損の防止,貯蔵槽内燃料体
等の著しい損傷の防止のための設備が求められ,それでもなお,炉心の著
しい損傷及び原子炉格納容器の破損又は貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷に
至った場合に,放射性物質の拡散抑制のための対策が求められている(同
規則44条から55条まで)。また,重大事故等に対処するための電源設備
その他の必要な設備を設けることが求められている(同規則56条から6
2条まで)。
なお,重大事故等対策に関し,技術的能力基準(乙イD11の6)にお
いて,大規模損壊が発生した場合の体制の整備や必要な資機材の整備が求
められている(同基準僑押ィ欝擇哭沓押ィ院法
(4)IAEA安全基準の概要
IAEAは,IAEA憲章に基づき設置された国際機関であり,我が国も
その加盟国である。
IAEAは,同憲章3条A6項により,安全上の基準を制定し又は採用す
る権限を有するものとされ,これに基づきIAEA安全基準を策定している。
IAEA安全基準は,別紙28のとおり,安全原則,安全要件及び安全指
針から構成され,これらのうち,^汰憾饗Г蓮ご靄榲な安全の目的と,防
護と安全の原則を示すもの,安全要件は,安全原則を踏まえて,現在と将
来において人と環境の防護を確保するために満たさなければならない要件を
制定するもの(なお,多くの要件は,ある一つの特定の当事者に対して向け
られたものではなく,適切な当事者がそれらの要件に適合することの責任を
負うものである。),0汰柑愎砲蓮ぐ汰翰弖錣鮟綣蕕垢詈法について推奨さ
れた手段又はこれと等価な代替的手段等を提示するものである(なお,本件
訴訟において当事者が主張する主なIAEA安全基準を,別紙29の番号1
から13に掲げた。)。
IAEA安全基準は,「基準は,施設と活動に関して各国の規制における参
考として,加盟国で使用されることができる」(乙イD17・ⅺ頁等)として
おり,加盟国を法的に拘束するものではなく,加盟各国がそれぞれの判断に
より国内の規制に取り入れるものとされ,また,既存の施設に同基準の適用
があるか否かも加盟各国の決定事項であるとされている。
他方,多くの加盟国がIAEA安全基準を国内の規制で使用するため採用
することを決定している。また,放射線リスクは国境を超えることもあるこ
とから,IAEA安全基準は,環境保護に関するもののような国際法の一般
原則に基づいて,各国がその責務を果たすことを支援するものと位置付けら
れている。
(乙イD16,17,41)
2新規制基準の策定過程について
原告らは,新規制基準策定当時の規制委員会の委員長及び委員の構成や,新
規制基準が短期間のうちに策定されたこと等を指摘して,新規制基準に合理性
がない旨を主張する。この点,新規制基準の合理性は,第一次的にその内容を
検討して判断されるべきものであって,策定過程の事情をもって直ちに合理性
が否定されるものではないというべきであるが,策定過程に関する事情が,基
準の合理性を疑わせる一事情となることがあり得るとしても,以下のとおり,
原告らの上記主張に係る事情はこれに当たらない。
(1)原告らは,新規制基準策定までの期間が短く杜撰であると主張するが,そ
の策定過程は前記1(1)のとおりであって,福島原発事故直後の規制委員会発
足前から,安全委員会や保安院の下で規制基準類の見直しに向けた検討が進
められており,規制委員会の発足後はこれを引き継ぐ形で(規制委員会の発
足の前後にわたり関わった構成員も少なくない。)行われていることが認めら
れ,平成25年7月までに実質的に約2年間にわたる検討が行われている。
また,この期間を長いとみるか短いとみるかはさておき,策定過程において,
いわゆる国会事故調や政府事故調など福島原発事故に関する調査検証を踏ま
えた検討がされ,外部の学識経験者や,専門的知見を有する機関(推本など),
学会等からの意見聴取や意見公募手続がされ,原子炉施設等基準検討チーム
や地震等基準検討チームの議事等は公開されていることが認められる。こう
した策定過程からは,直ちに新規制基準の合理性が否定されるということは
できない。
なお,福島原発事故の原因等の調査について,施設内部の立入りが制限さ
れている関係から未解明の部分があるという指摘はされているが(前記1(1)
ア),そのことが本件原発の安全性に関わるいずれの点に関連するのか原告ら
の主張によっても明らかではない。また,一般に,最新の科学的知見,現時
点までに判明した福島原発事故の教訓,確立された国際的基準等が現在の科
学技術水準を構成するものであり,本件差止請求については,こうした現在
の科学技術水準を踏まえ審査基準の合理性が判断されるべきものであるから
(前記第1の2(2)イ),同事故の解明が必ずしも全てし尽くされてはいない
という事情は,直ちに本件の結論を左右するものではない。
(2)原告らは,新規制基準策定当時の規制委員会の委員のうち更田豊志委員及
び中村佳代子委員について,委員候補者になった当時,原子力事業者の従業
者であったとして,規制委員会設置法上の欠格事由(7条7項3号)に該当
する旨を主張する(甲D45の2及び3参照)。しかし,同号は,任命時又は
任期中に原子力事業者の従業者等であることを委員長又は委員の欠格事由と
して定めたものと解すべきであって,委員候補者となった当時に原子力事業
者の従業者であったとしても,直ちに同号の欠格事由に該当するものではな
く,これらの委員が任命時又は任期中に原子力事業者の従業者等であったこ
とを認めるに足りる証拠はない。
(3)原告らは,津波や火山に関する専門家がいない中で,津波や火山に関する
規制基準が策定されたと主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はな
い。少なくとも,安全委員会の下に設置された地震・津波関連指針等検討小
委員会の構成員(乙イD28),規制委員会の下で設置された火山に関する規
制基準検討会の構成員(乙ロB180)等に,津波や火山に関する専門家が
いないという事実は認められない。
3共通要因故障について
(1)設置許可基準規則の定め
安全施設が機能を喪失する原因としては,|録未箍仍格火等の自然現象,
あるいは発電所外の火災等の外部事象,発電所内の火災,溢水といった内
部事象,0汰柑楡澆鮃柔する設備の偶発故障が想定されるところ(乙イD
41・95頁),これらに係る設置許可基準規則(乙イD9の3)及び同規則
の解釈(乙イD11の2)の定めは,次のとおりである。
ア設計基準対象施設について
(ア)まず,ヽ杏事象及び内部事象について,次のとおり,同規則3条
から9条までにおいて,これらの事象が発生した場合であっても,施設
の安全機能が維持できることを求めている。
a設計基準対象施設は,地震力が作用した場合においても当該施設を
十分に支持することができる地盤に設けなければならない(同規則3
条1項)。
b設計基準対象施設は,地震力に十分に耐えることができるものでな
ければならない(同規則4条1項)。
c基準設計対象施設は,その供用中に当該施設に大きな影響を及ぼす
おそれがある津波に対して安全機能が損なわれるおそれがないもので
なければならない(同規則5条)。
d安全施設は,想定される自然現象(地震及び津波を除く。)が発生し
た場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(同
規則6条1項)。
安全施設は,工場等(発電用原子炉を設置する工場又は事業所をい
う。)内又はその周辺において想定される発電用原子炉施設の安全性を
損なわせる原因となるおそれがある事象であって人為によるもの(故
意によるものを除く。)に対して安全機能を損なわないものでなければ
ならない(同条3項)。
上記の「発電用原子炉施設の安全性を損なわせる原因となるおそれ
がある事象であって人為によるもの(故意によるものを除く。)」とは,
敷地及び敷地周辺の状況をもとに選択されるものであり,飛来物(航
空機落下等),ダムの崩壊,爆発,近隣工場等の火災,有毒ガス,船舶
の衝突又は電磁的障害等をいう。なお,航空機の落下については,「実
用発電用原子炉施設への航空機落下確率の評価基準について」(平成1
4年7月30日保安院制定)等に基づき,防護設計の要否について確
認する(同規則の解釈6条の8)。
e設計基準対象施設は,火災により発電用原子炉施設の安全性が損な
われないよう,火災の発生を防止することができ,かつ,早期に火災
発生を感知する設備及び消火を行う設備並びに火災の影響を軽減する
機能を有するものでなければならない(同規則8条1項)。
f安全施設は,発電用原子炉施設内における溢水が発生した場合にお
いても安全機能を損なわないものでなければならない(同規則9条1
項)。
(イ)また,設備の偶発故障への対策として,次のとおり,同規則12条
において,そもそも設備が偶発故障を起こさないよう設備の信頼性を要
求し,かつ,重要度の特に高い安全機能を有する系統については,多重
性又は多様性及び独立性を備えた設計であること,また,その系統を構
成する機器等の単一故障が発生し,かつ,外部電源が利用できない場合
においても,その系統の安全機能が失われることがないよう設計するこ
とを求めている。
a安全施設は,その安全機能の重要度に応じて,安全機能が確保され
たものでなければならない(同規則12条1項)。
b発電用原子炉施設の安全機能を有する系統のうち,安全機能の重要
度が特に高い安全機能を有するものは,当該系統を構成する機械又は
器具の単一故障が発生した場合であって,外部電源が利用できない場
合においても機能できるよう,当該系統を構成する機械又は器具の機
能,構造及び動作原理を考慮して,多重性又は多様性を確保し,及び
独立性を確保するものでなければならない(同規則12条2項)。
ここで,多重性とは,同一の機能を有し,かつ,同一の構造,動作
原理その他の性質を有する2以上の系統又は機器が同一の発電用原子
炉施設に存在することをいう(同規則2条2項17号)。
多様性とは,同一の機能を有する2以上の系統又は機器が,想定さ
れる環境条件及び運転状態において,これらの構造,動作原理その他
の性質が異なることにより,共通要因又は従属要因によって同時にそ
の機能が損なわれないことをいう(同項18号)。
独立性とは,2以上の系統又は機器が,想定される環境条件及び運
転状態において,物理的方法その他の方法によりそれぞれ互いに分離
することにより,共通要因又は従属要因によって同時にその機能が損
なわれないことをいう(同項19号)。
共通要因とは,2以上の系統又は機器に同時に影響を及ぼすことに
よりその機能を失わせる要因をいう(同項18号)。
従属要因とは,単一の原因によって確実に系統又は機器に故障を発
生させることとなる要因をいう(前同)。
単一故障とは,単一の原因によって一つの機械又は器具が所定の安
全機能を失うことをいい,上記の従属要因による多重故障を含むもの
とされる(同規則12条2項)。
c重要安全施設*は,原則として,2以上の発電用原子炉施設において
共用し,又は相互に接続するものであってはならない(同規則12条
6項)。
イ重大事故等対策について
前記アの対策にもかかわらず,なお設備が機能喪失した場合に備え,設
置許可基準規則第3章は,重大事故等対策を定め(後記5),また,技術的
能力基準(乙イD11の6)は,大規模損壊が発生した場合の対応を要求
している(前記1(3)イ)。
(2)IAEA安全基準SSR−2/1の定め
IAEA安全基準の個別安全要件である「原子力発電所の安全:設計」(S
SR−2/1)は,原子力発電所の設計に関する安全基準を定めたものであ
り,次のような規定が存在する(乙イD63)。
ア要件24共通原因故障
設備の設計は,多様性,多重性,物理的分離及び機能の独立性の概念が,
必要とされる信頼性を達成するためにどのように適用されなければならな
いかを判断するため,安全上重要な機器等の共通原因故障の可能性につい
て十分に考慮しなければならない。
イ要件25単一故障基準
単一故障基準は,発電所の設計に取り入れられた安全グループごとに適
用されなければならない。
(3)原告らの主張について
ア前記(1)のとおり,安全施設が機能を喪失する原因のうち,設備の偶発故
障については,設置許可基準規則12条が,安全機能を有する系統のうち
重要性の高いものについて,当該系統を構成する機器が多重性又は多様性
及び独立性を備えた設計であることを要求することによって,複数の機器
が同時に故障(共通要因故障,従属要因故障)して当該系統の安全機能が
失われることを防止している。ここで,上記の「多重性又は多様性及び独
立性」とは,当該系統において同一の機能を要する機器を複数要求し,そ
のいずれかが機能を失った(単一故障)としても,他の機器が同時に機能
を損なわないことであり,同条が規定する「単一故障の仮定」は,当該系
統に多重性又は多様性及び多重性が確保されているかを検証するための概
念として位置付けられる。
また,外部事象や内部事象による故障については,設置許可基準規則3
条から9条までが,各種の自然現象や人為的事象に対して安全機能が損な
われないものであることを要求しており,外部事象や内部事象を原因とす
る共通要因故障によって当該施設の安全機能が損なわれることを防止して
いる。
このように,設置許可基準規則は,機器自体の偶発故障,外部事象や内
部事象による故障について,共通要因故障が生じない設計を求めることで,
当該施設の安全機能が損なわれないようにしている一方,その設計上の想
定を超えて共通要因故障が生じた場合には,同規則第3章の重大事故等対
処施設により対処することを想定している(乙イD41・103頁)。
イこれに対し,原告らは,想定を超える外部事象が発生することを考慮し
て,共通要因故障を仮定した設計を要求すべき旨を主張する。
しかし,原告らのいう「共通要因故障を仮定した設計」が何を指すのか
は明らかでない。
ただし,原告らは具体的指摘として,福島原発事故において全電源喪失
から重大な事故に至ったことや,米国NRCの10CFRPart50(§
50.62及び50.63)において,SBO(全交流動力電源喪失)やATWS
(原子炉停止機能喪失)の対策が規定されていること(甲D165・24
頁以降参照)を主張しており,機器の偶発故障に係る単一故障の仮定等に
ついての主張というよりも,深層防護の考え方について指摘する趣旨の主
張であるように解されるところであるが,この点については,我が国の設
置許可基準規則においても,深層防護の観点から,重大事故等対処施設に
つき,緊急停止失敗時に発電用原子炉を未臨界にするための設備(44条)
及び設計基準事故対処設備*の電源が喪失したことにより発生した重大事故
に対処するための電源設備(57条)の設置を要求しており,この点に関
して我が国の規制が不合理であるとはいえない。
また,前記(2)アのとおり,IAEA安全基準であるSSR−2/1の要
件24は,共通原因故障について規定しているところ,その内容は,「多様
性,多重性,物理的分離及び機能の独立性の概念が,必要とされる信頼性
を達成するためにどのように適用されなければならないかを判断するため,
安全上重要な機器等の共通原因故障の可能性について十分に考慮しなけれ
ばならない。」というものであって,我が国の設置許可基準規則と同様,共
通要因故障を防ぐために多様性,多重性,独立性等を適切に適用して必要
な信頼性を達成すべき旨を定めているものと解される。
ウこの点に関し,原告らは,規制委員会の新規制基準検討チームが検討段
階において示した整理案(甲D168)を援用して,多重性又は多様性を
選択する際に,共通要因による機能喪失が独立性のみで防止できる場合を
除き,その共通要因による機能の喪失モードを特定し,多様性を求めるこ
とを明確にすべきである旨を主張するが,前記(1)ア(イ)bのとおり,多様
性は,複数の系統又は機器が,構造等が異なることにより,共通要因に
よって同時にその機能が損なわれないこと(共通要因故障が生じないこと)
をいうものであって,原告らのいう「共通要因故障を仮定した設計」では
ないことは明らかである。また,この点を措いても(あるいは,上記整理
案が論理矛盾であるとの被告国の指摘も措いて),上記整理案は,「当該系
統を構成する機械又は器具の機能,構造及び動作原理を考慮して,多重性
又は多様性を確保し,及び独立性を確保する」とする設置許可基準規則1
2条2項の規定を敷衍するものにすぎないと認められるのであって,これ
をもって現在の審査基準が不合理であるとはいえない。
エ以上によれば,共通要因故障に関する具体的審査基準が国際基準等に照
らし不合理であるとはいえない。
4安全重要度分類及び耐震重要度分類について
(1)規制基準の概要
ア設置許可基準規則及び同規則の解釈
設置許可基準規則は,前記3(1)ア(イ)のとおり,「安全施設は,その安全
機能の重要度に応じて,安全機能が確保されたものでなければならない」
(同規則12条1項)と定めるところ,上記の「安全機能の重要度に応じ
て,安全機能が確保されたもの」については,重要度分類審査指針による
ものとされている(同規則の解釈12条の1)。
また,同規則4条2項は,設計基準対象施設の有すべき耐震性について,
地震の発生によって生ずるおそれがある当該施設の安全機能の喪失に起因
する放射線による公衆への影響の程度に応じて算定した地震力に十分耐え
得ることを規定するところ,同規則の解釈(別記2の2)は,上記の「影
響の程度」について,各施設の安全機能が喪失した場合の影響の相対的程
度(耐震重要度)をいうものとして,後記ウのとおり分類し,重要度に応
じて適切な地震力を定め,その地震力に耐えるよう設計することを求めて
いる。そして,同規則4条3項は,最も重要度の高い耐震重要施設につい
ては,基準地震動による地震力に対して安全機能を保持することを求めて
いる。
イ安全重要度分類について
(ア)安全重要度分類の概要
安全重要度分類は,発電用原子炉施設の安全機能について,安全上の
見地からそれらの相対的重要度を定めたものであり,重要度分類審査指
針(甲D84,乙イD48)に定められている。重要度分類審査指針は,
平成2年に定められたものであるが,前記アのとおり,設置許可基準規
則の解釈において引用されており,新規制基準施行後も規制委員会の安
全審査の審査基準とされている。
安全重要度分類の概要は,次のとおりである。
a安全機能の区分
(a)異常発生防止系(PS)
その機能の喪失により,原子炉施設を異常状態に陥れ,もって一
般公衆ないし従事者に過度の放射線被ばくを及ぼすおそれのあるも
の。
(b)異常影響緩和系(MS)
原子炉施設の異常状態において,この拡大を防止し,又はこれを
速やかに収束せしめ,もって一般公衆ないし従事者に及ぼすおそれ
のある過度の放射線被ばくを防止し,又は緩和する機能を有するも
の。
b重要度分類
(a)PS及びMSのそれぞれに属する安全施設をその有する安全機能
の重要度に応じ,それぞれクラス1,クラス2,クラス3に分類す
る。
(b)当該系の機能遂行に直接必要となる関連系は,当該系と同位の重
要度を有するものとみなす。
(c)当該系の機能遂行に直接必要はないが,その信頼性を維持し,又
は担保するために必要な関連系は,当該系より下位の重要度を有す
るものとみなす。ただし,当該系がクラス3であるときは,関連系
はクラス3とみなす。
(d)一つの安全施設が,二つ以上の安全機能を有するときは,果たす
べき全ての安全機能に対する設計上の要求を満足しなければならな
い。
(e)安全施設は,これら二つ以上のものの間において,又は安全機能
を有しないものとの間において,その一方の運転又は故障等により,
同位ないし上位の重要度を有する他方に期待される安全機能が阻害
され,もって原子炉施設の安全が損なわれることのないように,機
能的隔離及び物理的分離を適切に考慮しなければならない。
c設計上の考慮
(a)クラス1
合理的に達成し得る最高度の信頼性を確保し,かつ,維持するこ
と。
(b)クラス2
高度の信頼性を確保し,かつ,維持すること。
(c)クラス3
一般の産業施設と同等以上の信頼性を確保し,かつ,維持するこ
と。
(イ)外部電源の安全重要度分類
外部電源の安全重要度分類は,PS−3に分類される(重要度分類審
査指針の第2表及び付表「PS−3」の「電源供給機能(非常用を除
く。)」に該当する。)。
なお,非常用ディーゼル発電機による電力供給機能については,MS
−1に分類される(重要度分類審査指針の第2表及び付表「MS−1」
の「安全上特に重要な関連機能」に該当する。)。
(ウ)使用済燃料貯蔵施設の安全重要度分類
設置許可基準規則16条2項は,発電用原子炉施設に使用済燃料の貯
蔵施設を設けることを求めているところ,使用済燃料貯蔵施設は,使用
済燃料貯蔵槽(いわゆる使用済燃料貯蔵プール),プール水の補給のため
の補給水系(補給水設備),プール水の冷却等のための冷却系などから構
成される(乙ロD1の3・8−4−1以下参照)。
このうち,使用済燃料貯蔵槽の安全重要度分類は,PS−2に分類さ
れる(重要度分類審査指針の第2表及び付表「PS−2」の「原子炉冷
却材圧力バウンダリに直接接続されていないものであって,放射性物質
を貯蔵する機能」に該当する。)。
また,補給水設備の安全重要度分類は,MS−2に分類される(重要
度分類審査指針の第2表及び付表「MS−2」の「燃料プール水の補給
機能」に該当する。)。ただし,補給水設備の電気系統については,安全
設計審査指針(乙イA1)の指針48第1項の「重要度の特に高い安全
機能」に当たるものとされ(重要度分類審査指針坑(3)(a))ア)),外
部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給が受けられる設計
であることが要求されている。
冷却系の安全重要度分類は,PS−2に分類される(重要度分類審査
指針の付表「PS−2」の「使用済燃料プール冷却系」に該当する。)。
ウ耐震重要度分類について
(ア)耐震重要度分類の概要
旧原子炉等規制法の下においても,平成18年改定後の新耐震設計審
査指針(乙イB2)において,施設の耐震設計上の重要度を,地震によ
り発生する可能性のある環境への放射線による影響の観点から,施設の
種別に応じてSクラス,Bクラス,Cクラスに分類し,Sクラスの施設
については,基準地震動Ssによる地震力に対してその安全機能が保持
できることを求めていた。
新規制基準においても耐震重要度分類の基本的な考え方は承継されて
いるが,津波対策に係る施設・設備の耐震重要度が見直されている。す
なわち,前記アのとおり,設置許可基準規則の解釈(別記2の2)にお
いて,施設の安全機能が喪失した場合の影響の相対的程度(耐震重要度)
をいうものとして,次のとおり分類している。
aSクラス
地震により発生するおそれがある事象に対して,原子炉を停止し,
炉心を冷却するために必要な機能を持つ施設,自ら放射性物質を内蔵
している施設,当該施設に直接関係しておりその機能喪失により放射
性物質を外部に拡散する可能性のある施設,これらの施設の機能喪失
により事故に至った場合の影響を緩和し,放射線による公衆への影響
を軽減するために必要な機能を持つ施設及びこれらの重要な安全機能
を支援するために必要となる施設,並びに地震に伴って発生するおそ
れがある津波による安全機能の喪失を防止するために必要となる施設
であって,その影響が大きいものをいい,少なくとも次の施設はSク
ラスとすること。
・原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器・配管系
・使用済燃料を貯蔵するための施設
・原子炉の緊急停止のために急激に負の反応度を付加するための施
設,及び原子炉の停止状態を維持するための施設
・原子炉停止後,炉心から崩壊熱を除去するための施設
・原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故後,炉心から崩壊熱を除去
するための施設
・原子炉冷却材圧力バウンダリ破損事故の際に,圧力障壁となり放
射性物質の放散を直接防ぐための施設
・放射性物質の放出を伴うような事故の際に,その外部拡散を抑制
するための施設であり,上記の「放射性物質の放散を直接防ぐため
の施設」以外の施設
・津波防護機能を有する設備及び浸水防止機能を有する設備
・敷地における津波監視機能を有する施設
bBクラス
安全機能を有する施設のうち,機能喪失した場合の影響がSクラス
施設と比べ小さい施設をいい,例えば,次の施設が挙げられる。
・原子炉冷却材圧力バウンダリに直接接続されていて,一次冷却材
を内蔵しているか又は内蔵し得る施設
・放射性廃棄物を内蔵している施設(ただし,内蔵量が少ない又は
貯蔵方式により,その破損により公衆に与える放射線の影響が実用
炉規則2条2項6号に規定する「周辺監視区域」外における年間の
線量限度に比べ十分小さいものは除く。)
・放射性廃棄物以外の放射性物質に関連した施設で,その破損によ
り,公衆及び従事者に過大な放射線被ばくを与える可能性のある施

・使用済燃料を冷却するための施設
・放射性物質の放出を伴うような場合に,その外部放散を抑制する
ための施設で,Sクラスに属さない施設
cCクラス
Sクラスに属する施設及びBクラスに属する施設以外の一般産業施
設又は公共施設と同等の安全性が要求される施設をいう。
(イ)外部電源の耐震重要度分類
外部電源の耐震重要度分類は,前記(ア)a,bのSクラス又はBクラス
に属する施設ではないため,Cクラスに属する。
(ウ)使用済燃料貯蔵施設の耐震重要度分類
使用済燃料貯蔵槽及び補給水施設の耐震重要度分類は,Sクラスに属
する(前記(ア)aの「使用済燃料を貯蔵するための施設」に該当する。)。
冷却系の耐震重要度分類は,Bクラスに属する(前記(ア)bの「使用済
燃料を冷却するための施設」に該当する。)。
(エ)非常用取水設備の耐震設計
「耐震設計に係る工認審査ガイド」(別紙2の第4(29),乙イD12の
14)では,非常用取水設備に関連する海水ポンプ基礎,海水管ダクト
等が「屋外重要土木構造物」とされ,屋外重要土木構造物及びその他の
土木構造物について,JEAG4601の規定を参考に,Cクラスの建
物・構造物に適用される静的地震力を考慮していること,屋外重要土木
構造物の耐震設計に当たっては,基準地震動Ssによる地震力に対する
安全機能の保持を確認するため,水平方向及び鉛直方向の基準地震動S
sに基づく構造物の地震力を適用していることが求められている。
(2)IAEA安全基準SSR−2/1の定め
IAEA安全基準の個別安全要件であるSSR−2/1(前記3(2))には,
次のような規定が存在する(乙イD63)。
ア要件22安全重要度分類
全ての安全上重要な機器等は特定されなければならず,また,それらの
機能とそれらの安全上の重要度に基づいて分類されなければならない。
安全上重要な機器等の安全上の重要度分類の分類方法は,以下の因子に
十分に配慮をして,主として決定論的手法に基づいて,必要な場合は確率
論的手法で補完して行わなければならない。
\瀏によって果たされるべき安全機能
安全機能を果たせなかったときの影響
0汰患’修魏未燭垢燭瓩棒瀏が起動される頻度
ち枋蟲因事象が発生してから安全機能を果たすために設備が起動され
る時間又は安全機能を果たすために設備が起動される期間
イ要件23安全上重要な機器等の信頼性
安全上重要な機器等の信頼性は,それらの安全上の重要度に相応してい
なければならない。
(3)原告らの主張について
ア安全重要度分類及び耐震重要度分類の合理性
前記(1)ア及びイのとおり,安全施設は,その安全機能の重要度に応じて
安全機能が確保されなければならないとされ(設置許可基準規則12条1
項),同規則の解釈12条の1により,重要度分類審査指針が定める安全重
要度分類が適用される。
また,前記(1)ア及びウのとおり,設計基準対象施設の有すべき耐震性に
ついて,地震による当該施設の安全機能喪失に起因する放射線による公衆
への影響に応じて定めるべきものとされ(設置許可基準規則4条2項),同
規則の解釈(別記2の2)が,耐震重要度分類を定めている。
一方,前記(2)のとおり,IAEA安全基準であるSSR−2/1は,
「全ての安全上重要な機器等は特定されなければならず,また,それらの
機能とそれらの安全上の重要度に基づいて分類されなければならない」(要
件22),「安全上重要な機器等の信頼性は,それらの安全上の重要度に相
応していなければならない」(要件23)と定めているのであり,我が国の
安全重要度分類及び耐震重要度分類と同様の考え方を採用しているものと
いえる。
イ外部電源
外部電源の安全重要度分類はPS−3,耐震重要度分類はCクラスに分
類されるところ(前記(1)イ(イ),ウ(イ)),原告らは,福島原発事故は外部
電源の喪失が一要因となって発生しており,これらの分類の格上げが必要
である旨を主張する。
しかし,外部電源系による電力は,遠く離れた他の発電所から電線路や
変電所等を経由して供給されるものであり,原子力事業者において,発電
所外の長大な電線路や複数の変電所等を管理し,信頼性を確保することは
不可能というべきであって,もとより発電所内の外部電源設備のみ重要度
分類を高めることも実益に乏しいから,そもそも大規模な自然災害等が発
生した際に外部電源の供給は期待することができないというべきであり,
外部電源の安全性に重きを置かず,外部電源が喪失することを前提として
非常用電源設備の重要度に重きを置く設置許可基準規則等の定めが,それ
自体不合理であるとはいえない。また,確立された国際基準に照らして不
合理であると認めるべき事情は見当たらない。
ウ使用済燃料貯蔵施設
使用済燃料貯蔵槽は,安全重要度分類がPS−2に,耐震重要度分類が
Sクラスに分類され,補給水施設は,安全重要度分類がMS−2に,耐震
重要度分類がSクラスに分類され,冷却系は,安全重要度分類がPS−2
に,耐震重要度分類がBクラスに分類されるところ(前記(1)イ(ウ),ウ
(ウ)),原告らは,これらの施設はいずれも安全重要度分類をクラス1に,
耐震重要度分類をSクラスに分類する必要がある旨を主張する。
しかし,使用済燃料貯蔵槽に貯蔵される使用済燃料は,時間の経過によ
り崩壊熱が急速に低下し,運転停止の1秒後には定格出力時の7%前後,
24時間後には1%未満になることが認められ(乙イD41・177頁),
使用済燃料の冠水が維持されていれば基本的な安全性が保たれると考えら
れるところ,使用済燃料貯蔵槽及び補給水施設の耐震重要度分類はSクラ
スに分類され,津波その他地震以外の自然現象によっても安全性が損なわ
れない設計であることが要求されていること(設置許可基準規則5条,6
条),補給水施設の安全重要度分類はMS−2に分類されているものの,ク
ラス1の施設と同様,安全設計審査指針の指針48における重要度の特に
高い安全機能に当たるものとされ,外部電源又は非常用所内電源のいずれ
からも電力の供給を受けられる設計であることが求められていること(前
記(1)イ(ウ)),冷却系は,その機能を喪失したとしても,補給水設備により
機能を代替できると考えられることからすると,それぞれの施設・設備の
機能に応じた分類がなされているものと解される。
前記アのとおり,安全機能の重要性や安全機能喪失に伴う影響に応じて
安全重要度分類や耐震重要度分類を定める考え方自体は合理性を有すると
いうべきところ,上記のような使用済燃料の物理的特性等を踏まえれば,
使用済燃料貯蔵施設(補給水施設及び冷却系を含む。)の安全重要度分類及
び耐震重要度分類の分類が不合理とはいえず,確立された国際基準に反す
ると認めるべき事情も見当たらない。
エ非常用取水設備
原告らは,被告電源開発が,本件設置変更許可申請において,非常用取
水設備の耐震重要度分類をCクラスとしており(甲D86の80頁),基準
地震動の地震力によっても破損等の危険がある旨,また,非常用取水設備
の安全重要度はクラス1に分類されるべきであり,多重性又は多様性及び
独立性を備える必要があるところ,本件原発の非常用取水設備の3系統あ
る取水口及び水路が隣接しており,独立性が不十分である旨を主張する。
しかし,前記(1)ウ(エ)のとおり,新規制基準においては,非常用取水設
備に関連する海水ポンプ基礎,海水管ダクト等について,基準地震動によ
る地震力に対する安全機能の保持が求められている。また,非常用取水設
備の安全重要度をクラス1に分類すべきとの主張がいかなる根拠によるも
のかは明らかではなく,前記3(1)ア(イ)のとおり,設置許可基準規則にお
いて,重要度の特に高い安全機能を有する系統については,多重性又は多
様性及び独立性を備えた設計であることが求められていることからすると,
審査基準そのものに不合理な点は見いだせない。なお,原告らの当該主張
のうち,本件原発の具体的な設備についていう部分は,具体的審査基準の
不合理性をいうものとは認められず,前記第1の2で説示のとおり,本件
設置変更許可申請に対する規制委員会の審査及び判断が未了の現時点にお
いて,同審査基準に適合しないことを理由として本件原発に重大な事故発
生の具体的危険性があると認めることはできないから,原告らの主張は採
用できない。
5深層防護とシビアアクシデント対策について
(1)規制基準の概要
ア設置許可基準規則と同規則の解釈
前記1(2)イのとおり,福島原発事故の教訓から,新規制基準において深
層防護の考え方が採用され,設置許可基準規則第3章で重大事故等対策が
求められている。その概要は,前記1(3)イ(別紙27参照)のとおりであ
るが,このうち主なものを具体的に述べると,以下のとおりである。
(ア)重大事故等への対策とその有効性評価(同規則37条関係)
a炉心の著しい損傷防止のための対策
(a)発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生し
た場合において,炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置を
講じたものでなければならない(同規則37条1項)。
(b)上記(a)の「重大事故に至るおそれがある事故が発生した場合」と
は,運転時の異常な過渡変化及び設計基準事故に対して原子炉の安
全性を損なうことがないよう設計することを求められる構築物,系
統及び機器がその安全機能を喪失した場合であって,炉心の著しい
損傷に至る可能性があると想定する以下の)及び)の事故シーケ
ンスグループ(想定する事故シーケンスグループ)とする。なお,
)の事故シーケンスグループについては,)における事故シーケ
ンスグループの検討結果如何にかかわらず,必ず含めなければなら
ない(同規則の解釈37条の1−1)。
)必ず想定する事故シーケンスグループ(。贈廝劼砲弔い董
・高圧・低圧注水機能喪失
・高圧注水・減圧機能喪失
・全交流動力電源喪失
・崩壊熱除去機能喪失
・原子炉停止機能喪失
・LOCA時注水機能喪失
・格納容器バイパス(インターフェイスシステムLOCA)
)個別プラント評価により抽出した事故シーケンスグループ
仝鎚魅廛薀鵐箸瞭睇事象に関する確率論的リスク評価(PR
A)及び外部事象に関するPRA(適用可能なもの)又はそれ
に代わる方法で評価を実施すること。
△修侶覯漫ぞ綉顱砲了故シーケンスグループに含まれない
有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケンスグループが抽出
された場合には,想定する事故シーケンスグループとして追加
すること。なお,「有意な頻度又は影響をもたらす事故シーケン
スグループ」については,上記顱砲了故シーケンスグループ
と炉心損傷頻度又は影響度の観点から同程度であるか等から総
合的に判断するものとする。
(c)また,上記(a)の「炉心の著しい損傷を防止するために必要な措置
を講じたもの」とは,以下に掲げる要件を満たすものであることを
いう(同規則の解釈37条の1−2)。
)想定する事故シーケンスグループのうち炉心の著しい損傷後の
原子炉格納容器の機能に期待できるものにあっては,炉心の著し
い損傷を防止するための十分な対策が計画されており,かつ,そ
の対策が想定する範囲内で有効性があることを確認する。
)想定する事故シーケンスグループのうち炉心の著しい損傷後の
原子炉格納容器の機能に期待することが困難なもの(格納容器先
行破損シーケンス,格納容器バイパス等)にあっては,炉心の著
しい損傷を防止する対策に有効性があることを確認する。
b原子炉格納容器の破損及び外部への放射性物質拡散の防止
(a)発電用原子炉施設は,重大事故が発生した場合において,原子炉
格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の放出を
防止するために必要な措置を講じたものでなければならない(同規
則37条2項)。
(b)上記(a)の「重大な事故が発生」において想定する格納容器破損
モードは,以下の)及び)の格納容器破損モード(想定する格納
容器破損モード)とする。なお,)の格納容器破損モードについて
は,)における格納容器破損モードの検討結果如何にかかわらず,
必ず含めなければならない(同規則の解釈37条の2−1)。
)必ず想定する格納容器破損モード
・雰囲気圧力・温度による静的負荷(格納容器過圧・過温破損)
・高圧溶融物放出/格納容器雰囲気直接加熱
・原子炉圧力容器外の溶融燃料−冷却材相互作用
・水素燃焼
・格納容器直接接触(シェルアタック)
・溶融炉心・コンクリート相互作用
)個別プラント評価により抽出した格納容器破損モード
仝鎚魅廛薀鵐箸瞭睇事象に関するPRA及び外部事象に関す
るPRA(適用可能なもの)又はそれに代わる方法で評価を実
施すること。
△修侶覯漫ぞ綉)の格納容器破損モードに含まれない有意な
頻度又は影響をもたらす格納容器破損モードが抽出された場合
には,想定される格納容器破損モードとして追加すること。
(c)上記(a)の「原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の
異常な水準の放出を防止するために必要な措置を講じたもの」は,
想定する格納容器破損モードに対して,原子炉格納容器の破損を防
止し,かつ,放射性物質が異常な水準で敷地外へ放出されることを
防止する対策に有効性があることを確認することを要する(同規則
の解釈37条の2−2)。
また,上記の「有効性があることを確認する」際,放射性物質の
総放出量は,放射性物質による環境への汚染の視点も含め,環境へ
の影響をできるだけ小さくとどめるものであることという評価項目
を含む評価項目を概ね満足することを要する(同規則の解釈37条
の2−3(c))。
c貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷防止対策
発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した
場合において,使用済燃料貯蔵槽内の燃料体又は使用済燃料の著しい
損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない
(同規則37条3項)。
d運転停止中原子炉内燃料体の著しい損傷防止対策
発電用原子炉施設は,重大事故に至るおそれがある事故が発生した
場合において,運転停止中における発電用原子炉内の燃料体の著しい
損傷を防止するために必要な措置を講じたものでなければならない
(同規則37条4項)。
(イ)故意による大型航空機の衝突等への対処(同規則42条関係)
a工場等には,次に掲げるところにより,特定重大事故等対処施設
(重大事故等対処施設のうち,テロリズムにより炉心の著しい損傷が
発生するおそれがある場合又は炉心の著しい損傷が発生した場合にお
いて,原子炉格納容器の破損による工場等外への放射性物質の異常な
水準の放出を抑制するためのもの)を設けなければならない(同規則
42条)。なお,当該規定は,平成28年1月12日時点で現に設置さ
れ又は設置に着手されている発電用原子炉施設については,平成25
年7月8日以降最初に行われる工事認可の日から起算して5年間,適
用されない(附則2項)。
仝胸厦Х屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズム
に対してその重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれる
おそれがないものであること。
原子炉格納容器の破損を防止するために必要な設備を有するもの
であること。
8胸厦Х屋への故意による大型航空機の衝突その他のテロリズム
の発生後,発電用原子炉施設の外からの支援が受けられるまでの間,
使用できるものであること。
b上記a,痢峺胸厦Х屋への故意による大型航空機の衝突その他の
テロリズムに対してその重大事故等に対処するために必要な機能が損
なわれるおそれがないものであること」とは,以下に掲げる設備又は
これらと同等以上の効果を有する設備とする(同規則の解釈42条の
1)。
・原子炉建屋及び特定重大事故等対処施設が同時に破損することを
防ぐために必要な離隔距離(例えば100m以上)を確保すること,
又は故意による大型航空機の衝突に対して頑健な建屋に収納するこ
と。
c上記aの「発電用原子炉施設の外からの支援が受けられるまでの
間,使用できるものであること」とは,「例えば,少なくとも7日間,
必要な設備が機能するに十分な容量を有するよう設計を行うことをい
う」ものとされる(同規則の解釈42条の4)。
(ウ)常設設備と可搬型設備について(同規則43条2項,3項)
a常設重大事故等対処設備は,以下に掲げるものでなければならない
(同規則43条2項)。
(a)想定される重大事故等の収束に必要な容量を有するものであるこ
と。
(b)原則として,2以上の発電用原子炉施設において共用するもので
ないこと。
(c)共通要因によって設計基準事故対処設備の安全機能と同時にその
機能が損なわれるおそれがないよう,適切な措置を講じたものであ
ること。
b可搬型重大事故等対処設備は,以下に掲げるものでなければならな
い(同条3項)。
(a)想定される重大事故等の収束に必要な容量に加え,十分に余裕の
ある容量を有するものであること。
(b)常設設備と接続するものにあっては,共通要因によって接続する
ことができなくなることを防止するため,可搬型重大事故等対処設
備の接続口をそれぞれ互いに異なる複数の場所に設けるものである
こと。
(c)地震,津波その他の自然現象又は故意による大型航空機の衝突そ
の他のテロリズムによる影響,設計基準事故対処設備及び重大事故
等対処設備の配置その他の条件を考慮した上で,常設重大事故等対
処設備と異なる保管場所に保管すること。
(d)想定される重大事故等が発生した場合において可搬型重大事故等
対処設備を運搬し,又は他の設備の被害状況を把握するため,工場
等内の道路及び通路が確保できるよう,適切な措置を講じたもので
あること。
(e)共通要因によって,設計基準事故対処設備の安全機能,使用済燃
料貯蔵槽の冷却機能若しくは注水機能又は常設重大事故防止設備の
重大事故に至るおそれがある事故に対処するために必要な機能と同
時にその機能が損なわれるおそれがないよう,適切な措置を講じた
ものであること。
(エ)非常用電源設備について
発電用原子炉施設で必要となる電源として,通常運転時は外部電源系
等が利用されるが,事故等発生時には,非常用ディーゼル発電機から電
力を供給し,非常用ディーゼル発電機も機能を喪失した場合は,非常用
直流電源(蓄電池等)が必要となる(乙イD41)。
新規制基準では,福島原発事故の教訓を踏まえ,電源に関する規制が
強化されており,その概要は,設計基準対象施設に係る規制を含め,次
のとおりである(別紙30参照)。
a設計基準対象施設における要求(同規則33条)
発電用原子炉施設には,非常用電源設備を設けなければならない
(同規則33条2項)。
設計基準対象施設に接続する電線路のうち少なくとも2回線は,そ
れぞれ互いに独立したものであって,当該設計基準対象施設において
受電可能なものであり,かつ,それにより当該設計基準対象施設を電
力系統に連系するものでなければならない(同条4項)。
非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性を確保し,
及び独立性を確保し,その系統を構成する機械又は器具の単一故障が
発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は設計基準事
故時において工学的安全施設及び設計基準事故に対処するための設備
がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければなら
ない(同条7項)。なお,上記の「十分な容量」は,7日間の外部電源
喪失を仮定しても,非常用ディーゼル発電機等の連続運転により必要
とする電力を供給できることをいう(同規則の解釈33条の7)。
b重大事故等対策としての電源設備(同規則57条関係)
発電用原子炉施設には,設計基準事故対処設備の電源が喪失したこ
とにより重大事故等が発生した場合において炉心の著しい損傷,原子
炉格納容器の破損,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷及び運転停止中原
子炉内燃料体の著しい損傷を防止するために必要な電力を確保するた
めに必要な設備を設けなければならない(同規則57条1項)。
上記の「必要な電力を確保するために必要な設備」とは,以下に掲
げる措置又はこれらと同等以上の効果を有する措置を行うための設備
をいう(同規則の解釈57条の1)。
(a)代替電源設備を設けること
)可搬型代替電源設備(電源車及びバッテリ等)を配備すること。
)常設代替電源設備として交流電源設備を設置すること。
)設計基準事故対処設備に対して,独立性を有し,位置的分散を
図ること。
(b)所内常設蓄電式直流電源設備は,負荷切り離しを行わずに8時間,
電気の供給が可能であること。
(c)24時間にわたり,重大事故等の対応に必要な設備に電気(直流)
の供給を行うことが可能である可搬型直流電源設備を整備すること。
発電用原子炉施設には,前記により設置される電源設備のほか,電源
喪失により重大事故等が発生した場合において炉心の著しい損傷等を防
止するための常設の直流電源設備を設けなければならない(同規則57
条2項)。なお,当該規定は,平成28年1月12日時点で現に設置され
又は設置に着手されている発電用原子炉施設については,平成25年7
月8日以降最初に行われる工事認可の日から起算して5年間,適用され
ない(附則2項)。
上記の電源設備は,以下に掲げる措置又はこれと同等以上の効果を有
する措置を行うための設備をいう(同規則の解釈57条の2)。
・負荷切り離しを行わずに8時間,その後,必要な負荷以外を切り離
して残り16時間の合計24時間にわたり,重大事故等の対応に必要
な設備に電気の供給を行うことが可能であるもう1系統の特に高い信
頼性を有する所内常設直流電源設備(3系統目)を整備すること。
イ有効性評価ガイド
有効性評価ガイド(乙イD12の6から8まで)は,設置許可基準規則
37条の規定のうち,評価項目を満足することを確認するための手法の妥
当性を審査官が判断する際に参考とするものであり,以下の点を確認する
ことが定められている。
(ア)炉心損傷防止対策の有効性評価の手法及び範囲(2.2.1)
複数の対策(例えば,常設設備と可搬型設備)がある場合には,各々
の対策について有効性を評価することを基本とする。ただし,評価条件
の包絡性が示すことができれば,包絡条件による有効性評価で代表して
もよい。
格納容器圧力逃がし装置を使用する事故シーケンスグループの有効性
評価では,敷地境界での実効線量を評価し,周辺の公衆に対して著しい
放射線被ばくのリスクを与えないこと(発生事故当たり概ね5mSv以
下)を確認する。
(イ)炉心損傷防止対策の有効性評価の共通解析条件(2.2.2)
a設計基準事故対処設備の適用条件
故障を想定した設備を除き,設備の機能を期待することの妥当性
(原子炉の圧力,温度及び水位等)が示された場合には,その機能を
期待できる。
故障を想定した設備の復旧には期待しない。
b重大事故等対処設備の作動条件
重大事故等対処設備の作動条件において,作動環境等の不確かさが
ある場合は,その影響を考慮する。
重大事故等対処設備について,単一故障は仮定しない。
(ウ)格納容器破損防止対策の有効性評価の手法及び範囲(3.2.1)
設置許可基準規則の解釈37条の2−3(c)(前記ア(ア)b(c)参照)の
「放射性物質による環境への汚染の視点も含め,環境への影響をできる
だけ小さくとどめるものであること」を確認するため,想定する格納容
器破損モードに対して,Cs−137(セシウム137)の放出量が1
00TBqを下回っていることを確認する。
ウ大規模損壊について
発電用原子炉施設の設置者には,技術的能力基準(乙イD11の6)に
おいて,大規模な自然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロ
リズムによる発電用原子炉施設の大規模損壊が発生した場合の体制の整備
や必要な資機材の整備が求められており(同基準2.1),これについては,
改正原子炉等規制法43条の3の24第1項に基づく保安規定等において
規定される方針であることを確認することとされている。
また,実用炉規則(乙イD9の1)86条において,発電用原子炉施設
の設置者には,同法43条の3の22第1項に規定される保安のために必
要な措置として,大規模損壊発生時における発電用原子炉施設の保全のた
めの活動を行う体制の整備が求められている。
(2)IAEA安全基準SSR−2/1の定め
IAEA安全基準の個別安全要件であるSSR−2/1(前記3(2)参照)
には,次のような規定が存在する(乙イD63)。なお,同基準は,「全ての
要件を既に運転中の又は建設中の原子力発電所に適用することは現実的では
ないことがある。(中略)そのような設計の安全解析については,例えばその
発電所に対する定期安全レビューの一環として現行の基準に対して比較し,
合理的に実行可能な安全の改善によって発電所の安全運転をさらに向上させ
ることができるかどうか判断することが期待されている」(1.3)としてい
る。
ア要件10安全評価
包括的な決定論的安全評価及び確率論的安全評価は原子力発電所の設計
プロセスの全体において実行されなければならない。
イ要件16想定起因事象
原子力発電所の設計は,重大な影響を与える可能性のある全ての予見し
得る事象及び有意な発生頻度を有する予見し得る全ての事象が設計におい
て予期され,考慮されるような,一群の包括的な想定起因事象を明確にす
ることに対して,体系的な方法を適用しなければならない。
想定起因事象は,工学的判断並びに決定論的評価及び確率論的評価の組
み合わせに基づいて特定されなければならない。
ウ要件19設計基準事故
設計において考慮されるべき一式の事故は,原子力発電所が放射線防護
の容認限度を超えることなく耐える境界条件を設定する目的のために,想
定起因事象から導かれなければならない。
エ要件20設計拡張状態
設計基準事故より厳しい事故又は追加の故障を伴う事故のいずれかに対
して,許容できない放射線影響を生じることなく発電所が耐える能力を増
強することによって,原子力発電所の安全性を一層向上させるために,工
学的判断,決定論的評価及び確率論的評価に基づいて一群の設計拡張状態
が導出されなければならない。これらの設計拡張状態は,設計で取り扱わ
れるべき追加的な事故シナリオを特定するために,また,そのような事故
の発生防止のための又は影響緩和のための実行可能な対策を計画するため
に用いられなければならない。
(3)原告らの主張について
ア重大事故等及び大規模損壊への対応に関する規定について
(ア)重大事故等への対応について
原告らは,設置許可基準規則上,重大事故に至った場合の対応が規定
されているのは,炉心の著しい損傷(同規則37条1項)の場合のみで
あり,同条3項及び4項にそれぞれ規定される燃料体等の著しい損傷の
場合については,重大事故に至るおそれがある事故への対応が規定され
ているのみで,重大事故に至った場合の規定を欠く旨を主張する。
しかし,前記1(3)イのとおり,重大事故とは,炉心の著しい損傷又は
貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷をいうところ,設置許可基準規則37条
2項,55条その他同規則第3章の規定全体を見れば,いずれの場合に
関しても,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な
水準の放出を防止するための措置を講じること等,重大事故が発生した
場合の対応が要求されていることは明らかであって(なお,同規則37
条3項にいう貯蔵槽内燃料体等は,原子炉格納容器に格納されているも
のではないから,貯蔵槽内燃料体等の著しい損傷の場合に原子炉格納容
器の破損という事態が通常は直ちに想定されないものと考えられる。),
原告らの上記主張は失当である。
(イ)大規模損壊への対応について
a原告らは,大規模な自然災害による大規模損壊(実用炉規則86条)
は,重大事故等(同規則85条)とは別個の概念であるところ,設置
許可基準規則は,大規模な自然災害による大規模損壊についての規定
を欠いている旨を主張する。
しかし,実用炉規則86条が規定する大規模損壊とは,大規模な自
然災害又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる発
電用原子炉施設の大規模な損壊のことをいうところ,例えば,設置許
可基準規則43条3項5号(前記(1)ア(ウ)b参照)は,可搬型重大事
故等対処設備に関する要求事項の一つとして,地震,津波その他の自
然現象又は故意による大型航空機の衝突その他のテロリズムによる影
響を考慮して保管することを求めており,想定を大幅に超える自然災
害による大規模損壊も想定した規定と解される。また,同条項3号,
6号,同規則55条等も自然現象による大規模損壊の場合を排除する
規定ではない。よって,同規則が大規模な自然災害に起因する大規模
損壊について規定していないものではなく,原告らの上記主張は採用
することができない。
bまた,原告らは,改正原子炉等規制法43条の3の6第1項3号を
受けて策定された技術的能力基準(乙イD11の6)の「桐弋畛
項」が,保安規定等を確認するとしていることについて,同法43条
の3の6第1項3号は設置許可基準を定めるものであるから,同号に
おいて要求される能力は,重大事故に対処する設備を設置し運転する
能力であって,技術的能力基準がこれを問題にしないのは同号に反す
る旨を主張する。
しかし,同号における「重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措
置を実施するために必要な技術的能力」は,「発電用原子炉の運転を適
確に遂行するに足りる技術的能力」の一部をなすものであって,同号
は施設の設置に係る技術的能力について規定するものではないという
べきであるから(施設自体の問題に関しては同項4号が規定するもの
と解すべきである。),原告らの上記主張も採用することができない。
また,原告らは,保安規定は設置許可基準に代替できるものではな
いとも主張するが,いずれの段階で規制されるにせよ,許認可を受け
ない限り運転開始には至らないことからすると,本件差止訴訟におけ
る人格権侵害の具体的危険性の有無を判断するに当たっては,いずれ
の段階での規制であるかという点は,直ちに結論を左右するものとは
いえない。この点を措くとしても,保安規定という形で規制すること
が,確立された国際的基準に照らして相当でないと認めるに足りる事
情については,主張立証がない。
(ウ)常設重大事故等対処設備に求められる水準について
原告らは,設計基準対処設備(ママ)と常設重大事故対処設備(ママ)
で地震動の想定が同一であるため(なお,原告らの主張は,設置許可基
準規則39条1項により,常設重大事故等対処設備〔同規則2条2項1
4号から16号まで,43条2項〕が設置される重大事故等対処施設
〔同規則2条2項11号〕が,同規則4条の設計基準対象施設と同じ地
震動による地震力を想定したものとなっていることを指摘する趣旨と解
される。),基準地震動による地震力を超える地震力により同時に機能を
喪失するおそれがある旨を主張する。
しかし,原告らも指摘するとおり,常設重大事故等対処設備は,多様
性を確保することで(設置許可基準規則の解釈43条の4),過酷な状況
下においても同時に機能を喪失しないよう配慮している上,後記ウのと
おり,そもそも,重大事故等対処設備は,想定を超える事態に柔軟に対
処するため,可搬型設備による対策を基本とするものであるから(乙イ
D41・154頁),原告らの主張するところをもって具体的審査基準が
不合理であるとはいえない。
イ有効性評価について
(ア)原告らは,設置許可基準規則37条1項の有効性評価について,同規
則の解釈37条の1−3が,シビアアクシデントに至る前の設計基準事
故に関する安全評価審査指針(甲D48,乙イD49)の4.2と同じ
判断基準を採用していることを指摘して,同項がシビアアクシデント対
策に関する規定であって,より制御が困難な事故に関するものであるに
もかかわらず,制御に成功しなかった場合を考慮せず,安全設備が有効
に働く場合だけを評価するのは,安全性に関する考慮が不十分である旨
を主張する。
しかし,同規則の解釈37条の1−3の定めは,有効性評価における
イベントツリーを具体的に示したものではなく,確認目標を定めたもの
と解されるから,例示された事項のみ確認することを求めたものではな
いというべきである。そもそも,安全性に係る審査基準は,現在の科学
技術水準を構成する科学的,技術的知見が将来変わり得ることを前提に,
安全性につき審査する基準であるから,その規定の在り方については,
一定程度,概括的あるいは抽象的なものにならざるを得ないというべき
であり,有効性評価に関していえば,その具体的手順の全てが同規則又
は同規則の解釈に定められているわけではなく,また,そのことをもっ
て不合理であるということもできない。
そして,設置許可基準規則37条1項は,重大事故に至るおそれがあ
る事故が発生した場合において,炉心の著しい損傷(重大事故)の発生
を防止する措置を講じることを求めるものであるから,当該措置により,
設計基準事故に対する措置による結果と同様の結果(炉心の安定)を求
めるのはむしろ当然といえる。また,同項の措置による制御が成功せず,
炉心の著しい損傷(重大事故)に至った場合については,同条2項によ
り,原子炉格納容器の破損及び工場等外への放射性物質の異常な水準の
放出を防止するための措置が講じられていることが要求されているので
あるから,同規則が制御に成功しなかった場合を考慮せず,安全設備が
有効に働く場合だけを評価するものではないことは明らかである。
なお,原告らは,外部事象レベル2(放射性物質の放出)の安全性評
価を実施しないことが不十分であるかのようにも主張するところ,被告
電源開発が本件原発について行う有効性評価の当否は別として(前記第
1の2で説示のとおり,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の審
査及び判断が未了の現時点において,被告電源開発が本件原発について
行う有効性評価の当否を理由として,本件原発に重大な事故発生の具体
的危険性を認めることは困難である。),IAEA安全基準の安全指針
「原子力発電所のシビアアクシデントマネジメント計画」(No.NS−G
−2.15)(乙ロA87)においても,レベル2の確率論的安全評価
(PSA)は必ずしも必須とはされておらず,他に確立された国際基準
に照らして不合理であることを裏付ける事情は見当たらない。
(イ)原告らは,設置許可基準規則37条の規定を受けて策定された有効性
評価ガイドについて,その内容が抽象的で具体的な事故の想定を欠いて
いることを主張する。
しかし,有効性評価ガイドが拘束力のある具体的審査基準に当たるか
どうかをさて措くとしても,前記のとおり,科学技術的知見が将来変わ
り得るものであることからすると,審査基準は一定程度,概括的あるい
は抽象的なものにならざるを得ないというべきであるから,審査基準の
定めが抽象的であることは,現時点における本件原発の安全性に係る判
断を直ちに左右するものとはいえない。
また,原告らは,有効性評価ガイドにおけるシビアアクシデントの解
析条件に「重大事故等対処設備について,単一故障は仮定しない」など
とされている点が問題であるかのようにも主張するが,同ガイドに示さ
れた解析条件とは異なる条件(それがどのような解析条件であるかは原
告らの主張によっても明らかではない。)により解析することの意義が原
告らの主張によっても明らかではなく,採用の限りではない(なお,本
件原発に係る有効性評価の在り方を問題にする趣旨であるとすれば,前
記のとおり,現時点において,その点を理由として本件原発に重大な事
故発生の具体的危険性を認めることは困難であるから,原告らの主張は
失当である。)。
さらに,原告らは,設置許可基準規則37条(同規則の解釈37条)
が挙げる事故シーケンスの例が少なく,米国において,DCDCh.1
9(甲D130の1・17〜31頁,証人佐藤暁)により約1万900
0通りのシビアアクシデントのシナリオが作られていることと比較して,
明らかに想定が不足している旨を主張する。
しかし,上記証拠によっても,原告らのいう「約1万9000通りの
シビアアクシデントのシナリオ」が,誰が作成し,どのような性質を有
するものか明らかではない。原告らの主張からして,DCDは,原子力
事業者が原子力施設の設置に当たりNRCに提出する文書であることが
うかがわれるところ,米国においてかかる事故シナリオが作成されてい
るとしても,そのことから,設置許可基準規則の定めが不合理であると
いうことはできない。
ウ可搬型設備と常設設備
設置許可基準規則は,シビアアクシデント対策について,可搬型設備を
基本とし,常設設備との組み合わせにより信頼性の向上を図っているとこ
ろ(乙イD41・155頁),原告らは,炉心損傷が短時間のうちに生じる
こと,可搬型設備の稼働に時間を要することを指摘して,シビアアクシデ
ント対策は,常設設備を基本とすべき旨を主張する。
しかし,常設設備は,多様性等により信頼性を向上させても,設計上の
想定を超えた事象に対処することが困難になるリスクが存在する(前記ア
(ウ)参照)一方,可搬型設備については,配置の分散等により,より過酷な
状況下においても機能の維持が期待できると考えられること,稼働に要す
る時間についても,運用等により改善が見込めることに照らすと,設置許
可基準規則が可搬型設備を基本とし,常設設備との組み合わせにより信頼
性の向上を図っていることが不合理であるとはいえない。また,可搬型設
備を基本とすることが,確立された国際基準に照らして不合理であると認
めるに足りる証拠もない。
エ電源設備(設計基準対象施設に係るものを含む。)
(ア)原告らは,設置許可基準規則33条,57条(前記(1)ア(エ))が規定
する非常用電源設備等の種類と容量について,その基準を満たす具体的
内容が定められておらず,現実の設備が安全確保のために十分か否かを
判断する基準とはなっていない旨を主張する。
しかし,発電所ごとに設備が異なる以上,その非常用電源として具体
的にどの程度の電力を必要とするかも発電所ごとに異なることは明らか
であり,必要な設備等の種類や電力の容量等を一律に定めることは不可
能であるから,原告らの上記主張は失当である。
(イ)また,原告らは,設置許可基準規則の附則2項が,同規則57条2項
の直流電源設備について5年間の経過措置期間が設けていること(前記
(1)ア(エ)b)は,必要な安全性を欠くものであると主張する。
しかし,本件設置変更許可申請は,当該経過規定にかかわらず,上記
直流電源設備を設置することを内容としているものと認められるから
(乙ロD1の3・8−1.4−171頁参照),当該経過規定の合理性い
かんは,本件差止請求との関係においては問題とならない。
オシビアアクシデント対策のパッシブ性
原告らは,設置許可基準規則等において,欧米において採用されている
受動的安全設備を採用していないことが国際基準に反する旨を主張する。
しかし,原告らの指摘するINSAG−12(乙イA8,乙ロA90)
は,INSAG(国際原子力安全諮問グループ,乙イA7参照)が将来的
な目標として定めたものであり(乙イA8),EUR文書(第2巻「原子炉
設備の一般的要件」,甲D111,124)は,プラントメーカーが西ヨー
ロッパ各国を市場として新たな原発を建設することができるよう,各国の
規制基準に対応可能な共通した要求事項をとりまとめたものであって(乙
イA9,10),これらの文書に記載された内容が直ちに,確立した国際基
準といえるものではなく,WENRAの指針(甲D122,124,乙イ
A12)は,既設原子炉の設計基準に関する規定であって,重大事故等の
対処に関する規制ではない。米国NRCのポリシー・ステイトメントも規
制要件(10CFR)を示すものではなく(乙イA13参照),他方,規制
要件である10CFRにおいて,受動的安全設備の採用が必須であるとさ
れているものとは認められない(乙イA14)。その他,重大事故等の対処
に係る設備に受動的安全設備を採用すべきことが,確立された国際基準で
あることを認めるに足りる証拠はない。
なお,INSAG−12は,受動的安全機能の利点と欠点を挙げ,それ
らが設計過程において慎重に考慮されることや,最終的に能動的な安全機
能が必要かもしれないことを示しており(乙ロA90,証人D),受動的安
全設備を一方的に推奨しているものではない。
したがって,受動的安全設備を必須のものとしていない我が国の審査基
準が不合理であるとはいえない。
6テロ対策について
原告らは,設置許可基準規則がテロ対策について詳細な定めを置いていない
こと,原子力事業者のテロ対策に係る規制委員会の審査が公開されていないこ
と(なお,前記第1の1(7)イ(ウ)のとおり,本件設置変更許可申請に係る規制
委員会の審査会合も,テロ対策に関するものは非公開である。)を指摘して,新
規制基準が国際的基準を踏まえていない旨を主張する。
しかし,前記5(1)ア(イ),同(ウ)b(c)のとおり,設置許可基準規則はテロリ
ズムを含めてその対応を求め,前記1(3)イ,5(1)ウのとおり,技術的能力基
準及び実用炉規則86条は大規模損壊に対する整備を求めているところであっ
て,テロ対策への対応も規制基準に含まれている。また,前記のとおり,科学
技術的知見が将来変わり得るものであることからすると,審査基準は一定程度,
概括的あるいは抽象的なものにならざるを得ないというべきである上,テロ対
策の性質上,規制の具体化には馴染まないと考えられるから,これ以上に詳細
な定めがないということが不合理とはいえない。
さらに,原告らがいかなる根拠をもってテロ対策の内容を公開するのが国際
基準とするのか不明である上,テロ対策は,その性質上,内容を公開すること
によって,当該テロ対策の間隙を狙った攻撃を受けるリスクが生じるから,そ
の審査過程を非公開とすることは十分合理的であるというべきであり,原告ら
の主張は採用することができない。
なお,原告らは,米国においては,規制側が用意する仮想敵チームが原発に
攻撃を仕掛けてくるのを,原発の戦闘部隊が撃退することを実証することも要
求されている旨を主張するが,我が国の法制度上,民間人が拳銃等を所持する
ことは許されておらず,原発の事業者が原発に武装した警備員等を配置するこ
とは不可能であることは明らかであって,テロ行為に対しては,国,地方公共
団体及び指定公共機関が対応することが予定されている(事態対処法)。原告ら
の当該主張は,我が国において議論する前提を欠くものであり,また,法制度
の異なる米国との比較が直ちに新規制基準の不合理性を基礎付けるものとはい
えない。
7深層防護と立地評価・避難計画について
(1)立地審査指針の内容と位置付け
ア立地審査指針(甲A9,甲D47,乙イB1)は,昭和39年に原子力
委員会が決定し,平成元年に安全委員会が一部改定したものであり,万一
の事故に関連して,その立地条件の適否を判断するためのものである。
(ア)原則的立地条件
立地審査指針では,万一の事故に備え,公衆の安全を確保するための
原則的立地条件として,以下の3条件を規定している(同指針1.1)。
a大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことは
もちろんであるが,将来においてもあるとは考えられないこと。また,
災害を拡大するような事象も少ないこと。
b原子炉は,その安全防護施設との関連において十分に公衆から離れ
ていること。
c原子炉の敷地は,その周辺も含め,必要に応じ公衆に対して適切な
措置を講じうる環境にあること。
(イ)基本的目標
また,同指針は,上記(ア)の原則的立地条件を踏まえて達成すべき基本
的目標として,以下の3点を規定している(同指針1.2)。
a敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的
見地からみて,最悪の場合には起るかもしれないと考えられる(旧)
重大事故の発生を仮定しても,周辺の公衆に放射線障害を与えないこ
と。
b(旧)重大事故を超えるような技術的見地からは起るとは考えられ
ない(旧)仮想事故の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線
災害を与えないこと。
c(旧)仮想事故の場合には,集団線量に対する影響が十分に小さい
こと。
(ウ)立地審査の指針
同指針は,上記(イ)の基本的目標を達成するため,少なくとも以下の3
条件が満たされていることを確認しなければならないとされている(同
指針2,同指針別紙2)。
a(旧)重大事故の場合に,そこに人がいつづけるならば,その人に
放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲(目安
としては,甲状腺〔小児〕に対する線量が1.5Sv,全身に対する
線量が0.25Svに達する区域)内が,非居住区域(公衆が原則と
して居住しない区域をいう。)となっていること。
b(旧)仮想事故の場合に,何らの措置を講じなければ,その範囲内
にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範
囲(目安としては,甲状腺〔成人〕に対する線量が3Sv,全身に対
する線量が0.25Svに達する区域)内であって,上記非居住区域
の外側の地帯は,低人口地帯(著しい放射線災害を与えないために,
適切な措置を講じ得る環境にある地帯〔例えば,人口密度の低い地
帯〕をいう。)となっていること。
c(旧)仮想事故の場合に,全身線量の積算値(集団中の一人一人の
全身線量の総和)が,集団線量の見地から十分受け入れられる程度に
小さな値(目安としては,全身線量の積算値2万人Sv)となるよう
な距離だけ,その敷地が人口密集地帯から離れていること。
イ立地審査指針は,現時点においても改廃されていないが,改正原子炉等
規制法43条の3の6第1項4号の原子力規制委員会規則として策定され
た設置許可基準規則(乙イD9の3)及び同規則の解釈(乙イD11の2)
には引用されていない。また,立地審査指針そのものは,改正原子炉等規
制法43条の3の6第1項4号の原子力規制委員会規則に当たらない。
(2)改正原子炉等規制法下における緊急時対応と防災対策
ア重大事故等対策
立地審査指針は,前記(1)アのとおり,万一の事故に備えて定められたも
のであったが,その内容のうち,深層防護の第4段階目に相当する部分に
ついては,前記1(2)イ及び(3)イのとおり,改正原子炉等規制法下では設
置許可基準規則第3章に規定が設けられた。
イ緊急時対応施設の整備
深層防護の第5段階目に相当する部分のうち,緊急時対応施設の整備に
関しては,設置許可基準規則に,以下の点を含む施設や設備の整備に関す
る規定がある。
(ア)発電用原子炉施設には,原子炉制御室を設けなければならない(26
条1項)。この原子炉制御室には,重大事故が発生した場合においても運
転員がとどまるために必要な設備を設けなければならない(59条)。
(イ)工場等には,一次冷却系統に係る発電用原子炉施設の損壊その他の異
常が発生した場合に適切な措置をとるため,緊急時対策所を原子炉制御
室以外の場所に設けなければならない(34条)。この緊急時対策所は,
重大事故等が発生した場合においても当該重大事故等に対処するための
適切な措置が講じられなければならない(61条)。
(ウ)発電用原子炉施設には,重大事故等が発生した場合において,重大事
故等に対処するために監視することが必要なパラメータを計測すること
が困難であっても当該パラメータを推測するために有効な情報を把握で
きる設備(58条),工場等及びその周辺において発電用原子炉施設から
放出される放射性物質の濃度及び放射線量を監視・測定し記録すること
のできる設備(60条),通信連絡を行うために必要な設備(62条)等
を設けなければならない。
ウ防災対策
前記1(2)イのとおり,設置許可基準規則においては,深層防護の第5段
階目に相当する部分のうち防災対策に関する規定は存在せず,防災対策に
ついては原災法及び災害対策基本法により規定されている。
(ア)災害対策基本法は,国土並びに国民の生命,身体及び財産を災害(原
子力災害を含む。)から保護するため,防災に関し,基本理念を定め,国,
地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し,責任
の所在を明確にするとともに,防災計画の作成,災害予防,災害応急対
策,災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基
本を定めることにより,総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を
図り,もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的
とする法律である(同法1条)。
原災法は,原子力災害の特殊性に鑑み,原子力災害の予防に関する原
子力事業者の義務等,原子力緊急事態(原子炉の運転等により放射性物
質又は放射線が異常な水準で原子力事業所外へ放出された事態)宣言の
発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施そ
の他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより,
原子炉等規制法,災害対策基本法その他原子力災害の防止に関する法律
と相まって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害
から国民の生命,身体及び財産を保護することを目的とする法律である
(同法1条)。
(イ)原子力災害予防対策は,国,地方公共団体及び原子力事業者等が相互
に連携を図りながら協力して実施すべきものとされ(原災法6条),この
うち避難計画の策定等については,地方公共団体が中心となって行うこ
ととなる。
すなわち,都道府県及び市町村は,それぞれ地域並びに住民の生命,
身体及び財産を災害から保護するため,原子力災害に係る防災に関する
計画を作成し,実施する責務を負う(原災法5条,災害対策基本法4条
1項,5条1項)。そして,都道府県に設置される都道府県防災会議及び
市区町村に設置される市町村防災会議(その設置がないときは市町村長)
は,それぞれ,原子力災害について,地域防災計画を作成するものとさ
れ(原災法28条,災害対策基本法14条,40条),この地域防災計画
として,PAZ(予防的防護措置を準備する区域。発電用原子炉では,
当該施設から概ね半径5kmの区域をいう。)及びUPZ(緊急時防護措
置を準備する区域。発電所原子炉施設では,当該施設から概ね半径30
kmの区域をいう。)圏内の住民の広域避難計画の作成等を行っている
(乙イD70)。
国については,内閣府に設置される中央防災会議が,防災に関する総
合的かつ長期的な計画及び地域防災計画において重点を置くべき事項等
を定める防災基本計画を作成するとともに(災害対策基本法11条,3
4条,35条),原発の所在する地域ごとに設置される地域原子力防災協
議会(原子力規制庁を含む関係府省庁,地方公共団体等を構成員とする
もの)における要配慮者対策,避難先や移動手段の確保,原子力事業者
に協力を要請する内容等についての検討及び具体化を通じて,地域防災
計画や避難計画の具体化・充実化の支援を行っている(乙イD68,6
9)。また,規制委員会は,専門的・技術的事項について,原子力事業者,
国の各機関,地方公共団体等による原子力災害対策の円滑な実施を確保
するための指針(原子力災害対策指針,乙イD70)を定めることとさ
れている(原災法6条の2)。
(ウ)一方,原子力事業者(改正原子炉等規制法43条の3の5第1項に基
づく設置許可を受けた者)は,原子力災害の発生の防止に関し万全の措
置を講ずるとともに,原子力災害の拡大の防止及び原子力災害の復旧に
関し,誠意をもって必要な措置を講ずる責務を負い(原災法3条),原子
力事業所ごとに,当該原子力事業所における原子力災害予防対策,緊急
事態応急対策及び原子力災害事後対策その他の原子力災害の発生及び拡
大を防止し,並びに原子力災害の復旧を図るために必要な業務に関し,
原子力事業者防災業務計画を作成するなどしなければならないとされて
いる(同法7条1項)。
この原子力事業者防災業務計画は,改正原子炉等規制法43条の3の
24第1項の規定に基づく保安規定の認可の申請書を提出する日までに
作成しなければならないとされており(原災法に基づき原子力事業者が
作成すべき原子力事業者防災業務計画等に関する命令〔平成24年9月
14日号外文部科学省,経済産業省令第4号〕2条5項),同計画は,地
域防災計画に抵触しないようにしなければならず(原災法7条1項),ま
た,あらかじめ都道府県知事等と協議しなければならない(同条2項)。
そして,かかる義務を実効化するために,内閣総理大臣及び規制委員
会は,原子力事業者が上記の規定に違反していると認めるとき,又は原
子力事業者防災業務計画が当該原子力事業所に係る原子力災害の発生若
しくは拡大を防止するために十分でないと認めるときは,原子力事業者
に対し,同計画の作成又は修正を命ずることができ(同条4項),仮に原
子力事業者がこれに違反した場合,規制委員会は,設置許可の取消し又
は1年以内の期間を定めて発電用原子炉の運転の停止を命ずることがで
きるとされている(改正原子炉等規制法43条の3の20第2項22号)。
(3)IAEA安全基準における深層防護の第5層目に関する規定
ア政府,法律及び規制の安全に対する枠組み(No.GSRPart1)
IAEA安全基準の全般的安全要件である「政府,法律及び規制の安全
に対する枠組み(No.GSRPart1)」(乙イD17)は,政府,法律及び
規制の安全に対する枠組みに関する要件を制定する目的で策定されたもの
である。この中には,次の規定が存在する。
要件8緊急時準備及び緊急時対応
政府は,原子力又は放射線の緊急事態に対する時宜を得た効果的
な対応を可能にするために,緊急時準備に関する方策を講じなけれ
ばならない。
2.20政府は,各許認可取得団体に対して,緊急時対応計画を策定
する責任及び緊急時準備と緊急時のための取決めを整える責任を持
たせなければならない。(以下省略)
イ施設と活動に対する安全評価(No.GSRpart4)
IAEA安全基準の全般的安全要件である「施設と活動に対する安全評
価(No.GSRpart4)(Rev.1)」(乙イD75の1及び2)は,施設及び
活動に対する安全評価において満たされるべき全般的に適用可能な要件を
定める目的で策定されたものである。この中には,次の規定が存在する。
要件13深層防護の評価
4.45深層防護の評価では,深層防護のそれぞれのレベルにおいて
十分な対策が取られているかどうかが決定されなければならない。
これは,施設に責任を有する人又は組織が以下のことができること
を確実なものとするために行われる。
(a)通常運転からの逸脱を扱うこと。又は,処分施設の場合は,長期
間の間に予想される進展からの逸脱を扱うこと。
(b)通常運転及び長期間の間に予想される進展からの,安全に関わる
逸脱が万一発生した場合に逸脱を検知し終息させること。
(c)設計で定められた限度内に事故を管理すること。
(d)設計限度を超える事故の影響を緩和するための対策を特定するこ
と。
(e)潜在的な放射性物質の放出に付随する放射線リスクを緩和するこ
と。
ウ原子力又は放射線の緊急事態に対する準備と対応(No.GSRPart7)
IAEA安全基準の全般的安全要件である「原子力又は放射線の緊急事
態に対する準備と対応(No.GSRPart7)」(乙イD74の1及び2)は,
No.GS−R−2を改定したものであり,次の規定が存在する。
(ア)要件2緊急事態への準備と対応における役割と責任
政府は,原子力又は放射線の緊急事態への準備と対応に関する役割と
責任が明確に特定され,明確に割り当てられることを確実なものとする
ために,規定を設けなければならない。
政府は,操業組織,地域,地方及び国レベルにおける,また適切であ
れば国際レベルにおける原子力又は放射線の緊急事態の予測,準備,対
応及び復旧のため,十分な準備を行わなければならない(4.5.)。
政府は,原子力又は放射性の緊急事態への準備と対応に関する全ての
役割と責任を,操業組織,規制機関及び対応組織に前もって明確に割り
当てることを確実にしなければならない(4.7.)。
操業組織は,適用可能な要件に従って,その責任下にある施設又は活
動についての原子力又は放射線の緊急事態へのオンサイトでの準備と対
応について,取決めを作成して維持しなければならない(4.16.)。
操業組織は,その責任下にある施設又は活動に関連して,原子力又は
放射線の緊急事態に対して敷地内において実効的な対応をするための緊
急事態の取決めが整備されていることを立証しなければならず,また規
制機関にそれが保証されていることを示さなければならない(4.1
7.)。
(イ)要件20緊急事態への準備と対応に関する権限
政府は,原子力又は放射線の緊急事態への準備と対応に関する権限を
明確に確立することを確実にしなければならない。
敷地内及び敷地外双方における原子力又は放射線の緊急事態への準備
と対応に関する取決めを策定し維持し規制する権限は,法律・条例・規
則によって定めなければならない(6.2.)。
5章(機能要件:緊急事態における運転管理,緊急事態の通報,緊急
防護措置,公衆に対する指示などに関する規定)で示した機能は全て,
適切な操業組織及び地域・地方・国の対応機関に割り当てなければなら
ない(6.3.)。
エ原子炉等施設の立地評価(NS−R−3)
IAEA安全基準の安全要件であるNS−R−3(甲D81)は,原子
炉等施設の立地評価の安全要件を定めるものであり,「人口及び緊急時計画
に関する検討に得られる判断基準」として,次のような規定が存在する。
(ア)人口の特性と分布に関連して,立地地点と施設の組み合わせによる影
響を以下のようにしなければならない(2.27)。
a施設の運転状態では,住民の放射線被ばくが,国際的な推奨事項を
考慮に入れて合理的に達成可能な限り低く維持され,いかなる場合に
おいても国の要件に従っている。
b緊急時対策の実施に至り得るような事態を含む事故時状態に伴う住
民への放射線リスクが,容認可能なほどに低い。
(イ)徹底的な評価の後,上記要件を満足するために適切な対策が施せない
ことが示された場合には,立地地点は,提案された種類の原子炉等施設
の設置に適していないと考えなければならない(2.28)。
(ウ)住民に対する放射線影響の可能性,緊急時計画の実行可能性とそれら
の実行を妨げる可能性のある外部事象や現象を考慮し,提案された立地
地点に対する外部領域を設定しなければならない。プラント運転開始に
先立つ外部領域に対する緊急時計画の設定において,克服できない障害
が存在しないことをプラントの建設が始まる前に確認しなければならな
い(2.29)。
オ原子力発電所の安全:設計(SSR−2/1)
IAEA安全基準の個別安全要件SSR−2/1(Rev.1)(乙イD63)
には,前記1(2)アのとおり,深層防護の第5層目として,十分な装備を備
えた緊急時対応施設の整備と,所内外の緊急事態の対応に対する緊急時計
画と緊急時手順の整備が必要とされているほか(2.13.),次の規定が
ある。
(ア)要件7深層防護の適用
原発の設計は,深層防護を取り入れなければならない。深層防護の階
層は,実行可能な限り独立したものでなければならない。
(イ)要件67所内の緊急時対応施設
発電所の重要なパラメータ並びに原発及び近隣の放射線の状況に関す
る情報は,関連する緊急時対応施設に提供されなければならない。各々
の施設は,制御室,補助制御室及び発電所の他の重要な場所並びに所内
外の緊急時対応機関と適宜,連絡するための手段を備えていなければな
らない。(6.42.)
カ原子炉等施設に対する許認可プロセス(No.SSG−12)
IAEA安全基準の個別安全指針「原子炉等施設に対する許認可プロセ
ス(No.SSG−12)」(乙イD76の1及び2)は,規制機関による許認
可の付与に関する要件を満たすことに関する推奨事項を示すものであり,
次の規定がある。
(ア)事業許可の条件は,原子炉等施設の立地評価,設計,建設,試運転,
運転,廃止措置及びその後の規制管理からの解放の全ての段階で有効な
規制管理を可能とするため,これらに影響を与える安全関連面を,適宜
範疇に含めるべきである。これらの要件は,とりわけ,設計,放射線防
護,保守実施計画,緊急時の計画と手順,改造,マネジメントシステム,
運転上の限界と条件,手順及び職員の認定などの重要な側面を取り扱う
べきである。さらに,事業許可の条件は,規則が改定されたときに矛盾
又は不一致を回避するため,規則を参照することはあっても,規則と同
じものとすべきではない。(2.15.)
(イ)許認可の原則は,規制の枠組み及び法的な枠組みの中で制定されるべ
きである。許認可の原則の例として,施設及び(又は)活動は,施設又
は活動が作業者,公衆又は環境に不当なリスクを与えないような方法で
使用又は実施されることを規制機関が確認したときのみ認められるべき
である。(2.19.(a))
(ウ)立地地点選定の後,規制機関は,選定された立地地点の容認可能性に
関する決定に関与すべきであり,この立地地点の条件を確定する権限又
は安全上の懸念に基づいて提案された立地地点を却下する権限を有すべ
きである(3.4.)。
(エ)立地評価は,原子炉等施設の安全及び施設の活動の安全に影響を及ぼ
し得る立地地点における各要素を分析することである。これには,立地
地点特性評価並びに原子炉等施設又はその活動の安全に関する特徴に影
響を及ぼし,放射性物質の放出につながり得る要因の検討及び環境への
放射性物質の分散に影響を及ぼし得る要因の検討を含む。規制機関に
よって審査,評価及び承認される立地評価では,原子炉等施設及びその
活動の環境への潜在的影響も考察するべきであり,それらの不適合が予
測されないことを検証するため,予備評価が実施されるべきである。(3.
5.)
キ原子力発電所の定期安全レビュー(No.SSG−25)
IAEA安全基準の個別安全指針「原子力発電所の定期安全レビュー
(No.SSG−25)」には,次の規定がある。(乙ロA101)
(ア)緊急時計画のレビューの目的は, ̄人兪反イ,緊急事態に適切に対
応できる計画,人員,施設及び機器を整備しているかどうか,運用組
織による取決めが地方及び国の行政機関の取決めと適切に調整されてき
ているかどうか,そして,定期的に訓練されているかどうか,を確認す
ることである(5.136.)。
(イ)PSR(定期安全レビュー)では,運用組織が,原発敷地での重大な
変更,そして供用中における発電所の組織的な変更,緊急時用機器の保
守及び保管に関する変更及び緊急時計画に影響し得る敷地の周辺の開発
状況を適切に考慮したことを確認しなければならない(5.138.)。
(ウ)緊急時計画のレビューにおいては,以下を行わなければならない(5.
139.)。
・敷地内の緊急用の機器及び施設の妥当性評価
・敷地内の技術・運転支援センターの妥当性評価
・緊急時における通信,特に発電所外部の組織との相互連絡の効率性評

・緊急時対応の訓練の内容及び効率性の評価及びこうした訓練から得ら
れた経験の記録確認
・定期的なレビュー並びに緊急時の計画及び手順の更新のための取決め
の評価
・緊急時用機器の保守及び保管における変更の調査
・敷地周辺における最近の住宅及び産業の開発の影響評価
(エ)緊急時対応の訓練の記録は,運用組織及び敷地外の(緊急時対応)組
織の要員の効率性及び能力,機器に求められる機能並びに緊急時計画の
妥当性を評価するためにレビューしなければならない(5.141.)。
(オ)警察,消防機関,病院,緊急搬送機関,規制機関,地方公共団体,中
央政府,公共福祉機関,報道機関など関連する敷地外の組織との相互連
絡を行うための運用組織の取決めを評価しなければならない(5.14
2.)。
(4)原告らの主張について
ア立地評価について
前記(1)イのとおり,立地審査指針は現在の審査基準として適用されない
ところ,原告らは,設置許可基準規則等の新規制基準において,公衆との
隔離を定める規定が存在しないことは,深層防護の考え方に反する旨を主
張する。
立地審査指針の内容は前記(1)アのとおりであるところ,同指針において
原則的立地条件及び基本的目標として示されていたのは,‖腓な事故の
要因となる外部事象がない地点を選ぶための条件,大きな事故が敷地周
辺の公衆に影響を与えないための条件,I要に応じ防災活動を講じ得る
環境にあることを求める条件であり,このうち上記△砲弔い討蓮だ限里
受ける放射線の影響度に応じて公衆との隔離を求めるものであったといえ
る。
これに対し,前記(2)アのとおり,設置許可基準規則においては,これま
で規定されていなかった深層防護の第4段階に相当する重大事故等の防止
対策が規定され,各種の事故を想定してPRAによる評価を実施するなど
して炉心の著しい損傷を防止し,放射性物質の放出を防止する対策の有効
性を評価することを要求しており,その有効性評価の中で,周辺の公衆に
対して著しい放射線被ばくリスクを与えないため,発生事故当たり概ね5
mSv以下であることや,想定する格納容器破損モードに対して,セシウ
ム137の放出量が100TBqを下回っていることを要求するなどして
おり,(旧)重大事故を仮定して,目安として全身に対し0.25Svを超
える範囲を非居住区域とするなどとしていた立地審査指針(前記(1)ア)と
比較しても厳しい対策を要求しているといえる。
このように,新規制基準においては,公衆との隔離という形ではないも
のの,公衆への影響を考慮した大きな事故の影響緩和のための規制がされ
ており,これは,前記1(2)アのIAEA安全基準で採用されている深層防
護の考え方(第4の防護レベル)にも正に沿うものである。前記(3)の各I
AEA安全基準の定めをみても,IAEA安全基準で示された第4の防護
レベルを実現する手段として,低人口地帯などの概念を設けることが必須
であるとまでは認められない。したがって,深層防護の第4段階目に相当
する部分を重大事故等対策として定めた設置許可基準規則等の新規制基準
が確立された国際基準に反する不合理なものであるとはいえず,原告らの
主張を採用することはできない(なお,原告らの指摘する隔離要件の防災
対策という観点からの検討については,次に述べるとおりである。)。
イ防災対策について
原告らは,新規制基準において,深層防護の第5段階に相当する防災対
策に関する規定が存在せず,緊急時の防災計画が建設,運転の許可条件と
されていないことを指摘して,新規制基準が深層防護を欠いたものであっ
て不合理である旨を主張する。
(ア)緊急時の防災計画については,前記(2)ウのとおり,原災法及び災害対
策基本法により,国,地方公共団体及び原子力事業者等が相互に連携を
図りながら協力して実施すべきものとされ,住民の避難計画は,地方公
共団体が中心となって作成し,国はこれを支援するものとされている一
方,原子力事業者も,原子力災害の発生及び拡大を防止し,原子力災害
の復旧を図るために必要な措置を講ずる責務を負うものとされ,緊急事
態への対応が地方公共団体,国,原子力事業者に適切に割り当てられて
いる。
原子炉施設における緊急時対応は,一義的に原子力事業者が責務を負
うべきであるとしても,敷地外の避難計画を含む防災計画については,
広域にわたる可能性があり,かつ,地域の実情に応じた対応が必要と考
えられること,原子力事業者は,住民の避難計画に従って住民を行動さ
せる権限を有していないことなどの事情からすると,自治体が中心と
なって避難計画を策定し,国がこれを支援し,原子力事業者がこれに抵
触しないよう自治体側とも協議した上で原子力事業者防災業務計画を作
成するものとされていることは,実効性のある防災対応のため十分に合
理性を有するものというべきである。また,前記の事情からすると,必
ずしも各地域の実情等に精通していない規制委員会が避難計画の適否に
ついて一義的に判断することは合理的ではないというべきであり,規制
委員会の許可という形での規制をしないこと(もっとも,前記のとおり,
規制委員会は原子力事業者防災業務計画の作成・修正を求めることや最
終的に原子炉設置許可の取消し等をする権限が与えられている。)が不合
理であるともいい難い。
この点,IAEA安全基準においても,No.GSRPart1(前記(3)ア)
では,政府に緊急時準備及び緊急時対応の責務を負わせた上で,原子力
事業者に緊急時計画を作成する責務を負わせており,No.GSRPart7
(前記(3)ウ)は,緊急事態に対する準備と対応に関する役割と責任を明
示し,その対応を操業組織(原子力事業者),地方,国等の対応機関に割
り当てるべき旨を定めるとともに,原子力事業者には,その責任下にあ
る施設又は活動についての緊急時計画を作成,維持することが求められ
ている。また,原子力発電所の定期安全レビューにおいても(No.SSG
−25〔前記(3)キ〕),原子力事業者が敷地内における緊急時計画を適切
に整備していることや,国及び地方公共団体における取決めとの調整等
を確認することとされている。このように,敷地内における対応は原子
力事業者の責務としつつも,敷地外の避難計画を含む防災対策を地方公
共団体及び国にも適切に割り当て連携して対応するという考え方は,I
AEA安全基準とも整合している。
(イ)緊急時の防災計画は,原告らの指摘するように,原子炉の設置,運転
の許可条件とされているものではないが,前記(2)ウ(ウ)のとおり,原子
力事業者防災業務計画は,自治体側と事前に協議した上,保安規定の認
可申請書の提出日までに作成することが求められ,かつ,地域防災計画
と抵触しないようにすることが求められている。そして,かかる規定に
反し又は原子力事業者防災業務計画が不十分である場合には,規制委員
会等がその作成や修正を求めることができ,原子力事業者がこれに違反
すれば規制委員会から原子炉の設置許可の取消しや運転停止を命じられ
ることになるのであって,防災対策がなく又はその妥当性が確認されな
いまま原発が運転されることのないよう法的規制がされているものとい
える。
そして,改正原子炉等規制法の下においても,原発の設置許可から運
転が開始されるまでの間に,工事認可,保安規定認可,使用前検査等の
各種手続を経る段階的規制が採られており(前記第1の1(6)),各段階
における手続において審査対象となる事項に安全性の観点からみて欠け
るところがあれば,原発の運転開始には至らない仕組みとなっているこ
とを考慮すると,そもそも,必要とされる規制自体がいずれの段階にお
いても存在しないような場合は別として,いずれかの段階(手続)にお
いて安全性や妥当性が判断されることとなっている場合に,いずれの段
階で判断すべきかの問題は,少なくとも本件差止請求における人格権侵
害の具体的危険性を判断するに当たっては,直ちに結論を左右するもの
ではない(一例を挙げれば,保安規定認可段階の審査事項に係る具体的
審査基準への適合性に関して,仮に当該原発の安全性の観点から欠ける
ところがあるような場合には,差止めが認められ得ることになる。)とい
うべきである。
この点,原告らは,より早い段階で規制することが安全性に資すると
の趣旨で,設置許可段階で判断すべきと主張しているものと解されるが,
前記(ア)のとおり,緊急時対応に当たるべき事業者,地方公共団体,国の
役割と責務はそれぞれ異なり,かつ,各関係機関の連携が重要であるこ
とや,規制委員会が社会的,経済的側面を含む地域の実情等を踏まえた
最終判断をすることに必ずしも合理性があるとはいえないことからする
と,設置許可段階で判断することが必ずしも実効性のある防災対策につ
ながるとはいえないというべきである。
(ウ)前記(3)のとおり,IAEA安全基準においては,深層防護の第5段階
目に相当する事項に関する定めが複数存在するところ,No.GSRPart
1(前記(3)ア),No.GSRPart4(前記(3)イ),No.GSRPart7
(前記(3)ウ)はいずれも,避難計画等の防災対策を原子炉の設置許可の
条件とすべきことを求めるものではない。原子炉等施設に対する許認可
プロセスに係る指針であるNo.SSG−12(前記(3)カ)には,事業許
可の条件について,緊急時の計画と手順もその対象とすべきことを推奨
するものであるが,敷地内の緊急時対応施設の設置等のみならず,敷地
外の避難計画を含む防災対策の全てを設置許可の条件とすべき趣旨であ
ると直ちに解されるものではない。なお,同指針には,規制機関が選定
された立地地点の容認可能性に関する決定に関与すべきであることが規
定されているが,我が国の現在の法制度のように,規制委員会が原子力
事業者防災業務計画の修正を求め,あるいは,これに応じない場合に設
置許可の取消し等をするという形での関与にとどめることでは不足する
という趣旨とも解されない上,ここでいう立地地点の容認可能性の判断
には,原子炉等施設の安全及び施設の活動の安全に影響を及ぼす事項
(地盤,地震,火山等の外部事象の影響等)が幅広く含まれる趣旨で
あって,敷地外の避難計画を含む防災対策のみを念頭にした定めではな
いと解される。
(エ)他方,前記(3)エのとおり,IAEA安全基準であるNS−R−3の2.
29は,「住民に対する放射線影響の可能性,緊急時計画の実行可能性と
それらの実行を妨げる可能性のある外部事象や現象を考慮し,提案され
た立地地点に対する外部領域を設定しなければならない。プラント運転
開始に先立つ外部領域に対する緊急時計画の設定において,克服できな
い障害が存在しないことをプラントの建設が始まる前に確認しなければ
ならない。」と規定している。しかし,「克服できない障害」として具体
的にどのようなものが想定されているのかが必ずしも明らかではないこ
と,全ての国が原発の設置許可から運転開始までの間の段階的規制とい
う形をとっているわけではないこと(証人佐藤暁)を考慮すると,これ
を直ちに,事業者(申請者)に対する設置許可という形で規制すること
を求める趣旨とは解されない。
なお,米国NRCの規則である10CFRのPart50(生産及び利用
施設のための緊急時計画及び準備)によれば,事業者が作成する緊急時
計画はNRCが妥当性や実行可能性を評価し,州や地域が作成する緊急
時計画は連邦緊急事態管理庁(FEMA)が行った評価をもとにNRC
が判断するものとされ,これらの緊急時計画に十分な防護措置が取られ
る保証があると判断されない限り,原発の新設の運転認可がされない旨,
また,これらの緊急時計画は,運転認可の申請者が最終安全解析報告書
に盛り込むことが要求されているが,建設・運転の統合認可の申請時に
提出してもよい旨の規定が存在することが認められる(甲C97の1及
び2,98,甲D117,124,乙イA14,乙ロA56,103,
証人佐藤暁)。すなわち,米国の規制要件上も,必ずしも設置許可段階で
緊急時計画の妥当性が許可条件とされているとはいえない。
(オ)したがって,設置許可(設置変更許可)の段階で防災計画が策定され
ていることが要件とされていないことが国際基準に照らし不合理である
とはいえない。
ウ防災対策の妥当性について
原告らは,本件原発に関して実効性ある避難計画の策定は不可能である
と主張するところ,本件原発に関しては,前記第1の1(7)のとおり,被告
電源開発が本件設置変更許可申請及び平成26年工事計画認可申請をした
ものの,前者の申請についてその内容の一部が審査中の段階にとどまり,
地域防災計画や原子力事業者防災業務計画の作成段階に至っていない。そ
して,前記第1の2(2)のとおり,本件設置変更許可申請に対する規制委員
会の許可ですら,これがなされる具体的見通しが立っていない段階におい
て,本件原発が,規制基準に適合せず人格権侵害をもたらす具体的危険性
があると認めることは困難である上に,原子力災害に係る防災についても,
原子力災害の特殊性を踏まえ,具体的に建設運転予定の原発の施設を前提
として,自然的条件,社会的条件等との関連において,多角的,総合的見
地からの検討が必要となることからすると,本件差止請求における本件原
発の安全性との関係で検討されるべき防災対策の妥当性に係る裁判所の審
理,判断は,現に建設運転予定の原発を前提に作成された防災対策を踏ま
えてされるよりほかはないというべきであって,本件原発については,か
かる防災対策の作成も未だなされていない以上,避難計画の策定困難を理
由に人格権侵害をもたらす具体的危険性があると認めることも困難である。
また,原告らの主張を踏まえても,現時点において,被告電源開発及び関
係機関が,本件原発に係る原子力災害予防対策,事後対策等を,今後(保
安規定の認可の申請書を提出する日までに),提示することすら不可能と認
めるべき事情は認められないといわざるを得ない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
第3その余の争点(争点3から13まで)について
1総論
その余の争点(争点3から13まで)は,主として又はもっぱら,具体的審
査基準の合理性の問題を離れた本件原発の危険性が問われているものであると
ころ,前記第1の2で説示のとおり,本件差止請求における本件原発の安全性
についての裁判所の審理,判断は,規制委員会の審査に用いられた具体的審査
基準に不合理な点があるか否か,あるいは,同審査基準に適合するとの審議判
断に不合理な点があるか否かという観点からなされるべきであり,審査基準の
合理性又は同審査基準への適合性との関連性が明らかではない主張は失当とい
うべきである。また,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の審査及び判
断が未了の現時点において,同審査基準に適合しないことを理由として,重大
な事故が発生する具体的危険性を直ちに認めることは困難であって,かかる理
由で本件原発の建設,運転の差止めを認めることはできない。
そこで,当裁判所は,具体的審査基準の合理性が問題とされる点に限って,
以下検討を加えることとする。
2争点3(基準地震動の策定)について
(1)関連する規制基準の概要
ア設置許可基準規則
設置許可基準規則(別紙2の第1(3),乙イD9の3)は,原子炉施設の
地震による損傷の防止に関し,設計基準対象施設と重大事故等対処施設と
に分けて規定している。
(ア)設計基準対象施設について
設計基準対象施設は,地震力に十分に耐えることができるものでなけ
ればならない(4条1項)。また,設計基準対象施設のうち,耐震重要施
設は,基準地震動による地震力に対して安全機能が損なわれるおそれが
ないものでなければならない(同条3項)。ここで基準地震動とは,その
供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震によ
る地震動(揺れ)をいう(同規則の解釈別記2の4一)。
(イ)重大事故等対処施設について
重大事故等対処施設のうち,特定重大事故等対処施設は,地震力に十
分耐えることができ,かつ,基準地震動による地震力に対して重大事故
等に対処するために必要な機能が損なわれるおそれがないものとしなけ
ればならない(39条1項4号)。
それ以外の重大事故等対処施設のうち,常設耐震重要重大事故防止設
備*及び常設重大事故緩和設備*が設置されるものは,基準地震動による
地震力に対して,重大事故等に対処するために必要な機能が損なわれる
おそれがないものとしなければならず(同項1号,3号),常設耐震重要
重大事故防止設備以外の常設重大事故防止設備が設置されるものは,地
震力に十分耐えることができるものとしなければならない(同項2号)。
イ設置許可基準規則の解釈
設置許可基準規則4条に係る解釈については,同規則の解釈(別紙2の
第3(10),乙イD11の2)の別記2にまとめられており,同規則39条
に係る解釈についても,同別記2に準ずるものとされている。
(ア)基準地震動は,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周
辺の地質・地質構造,地盤構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工
学的見地から想定することが適切なものとし,次の方針により策定する
こと(別記2の5)。
a基準地震動は,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び
「震源を特定せず策定する地震動」について,解放基盤表面における
水平方向及び鉛直方向の地震動としてそれぞれ策定すること。
b「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」は,内陸地殻内地震,
プレート間地震及び海洋プレート内地震について,敷地に大きな影響
を与えると予想される地震(検討用地震)を複数選定し,選定した検
討用地震ごとに,不確かさを考慮して応答スペクトルに基づく地震動
評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を,解放基盤表面
までの地震波の伝播特性を反映して策定すること。
c「震源を特定せずに策定する地震動」は,震源と活断層を関連付け
ることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍に
おける観測記録を収集し,これらを基に,各種の不確かさを考慮して
敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定して策定すること。
d「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」及び「震源を特定せ
ずに策定する地震動」については,それぞれが対応する超過確率(一
定の期間中に対象とする事象がある基準値を超える確率)を参照し,
それぞれ策定された地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率に
相当するか把握すること。
(イ)基準地震動による地震力の算定に当たっては,以下に示す方法による
こと(別記2の7)。
a基準地震動による地震力は,基準地震動を用いて,水平2方向及び
鉛直方向について適切に組み合わせたものとして算定すること。
b基準地震動による地震力の算定に当たっては,地震応答解析手法の
適用性及び適用限界等を考慮の上,適切な解析法を選定するとともに,
十分な調査に基づく適切な解析条件を設定すること。
c地震力の算定過程において建物・構築物の設定位置等で評価される
入力地震動については,解放基盤表面からの地震波の伝播特性を適切
に考慮するとともに,必要に応じて地盤の非線形応答に関する動的変
形特性を考慮すること。また,敷地における観測記録に基づくととも
に,最新の科学的・技術的知見を踏まえて,その妥当性が示されてい
ること。
ウ基準地震動審査ガイド
基準地震動審査ガイド(別紙2の第4(26),乙イD12の11)は,発
電用軽水型原子炉施設の設置許可段階の基準地震動策定及び耐震設計方針
に関わる審査において,審査官等が,設置許可基準規則及び同規則の解釈
の趣旨を十分に踏まえ,基準地震動及び耐震設計方針の妥当性を厳格に確
認するために活用することを目的とするものである。このうち,基準地震
動の関係(同ガイド機砲任蓮ぁ嵒瀉呂瓦箸某霧擦鯑団蠅靴萄定する地震動」
と「震源を特定せず策定する地震動」のそれぞれについての策定方針,検
討用地震又は検討対象地震の選定,地震動評価の各場面における確認事項
や,超過確率の算定に関する確認事項等について定められており,例えば,
次のような規定がある。
(ア)敷地ごとに震源を特定して策定する地震動における検討用地震の選定
に関し
内陸地殻内地震の起震断層,活動区間及びプレート間地震の震源領域
に対応する震源特性パラメータに関して,既存文献の調査,変動地形学
的調査,地表地質調査,地球物理学的調査の結果を踏まえ適切に設定さ
れていることを確認する。震源モデルの長さ又は面積,あるいは1回の
活動による変位量と地震規模を関連付ける経験式を用いて地震規模を設
定する場合には,経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認
する。その際,経験式は平均値としての地震規模を与えるものであるこ
とから,経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。(毅魁
2.3(1),(2))
(イ)応答スペクトルに基づく地震動評価に関し
参照する距離減衰式に応じて適切なパラメータを設定する必要があり,
併せて震源断層の拡がりや不均質性,断層破壊の伝播や震源メカニズム
の影響が適切に考慮されていることを確認する(毅魁ィ魁ィ(1)。押法法
(ウ)断層モデルを用いた手法による地震動評価に関し
震源断層のパラメータは,活断層調査結果等に基づき,地震調査研究
推進本部による「震源断層を特定した地震の強振動予測手法」(推本レシ
ピ)等の最新の研究成果を考慮し設定されていることを確認する(毅魁
3.2(4)。院法法
(エ)震源を特定せず策定する地震動に関し
震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震を検
討対象地震として適切に選定し,それらの地震時に得られた震源近傍に
おける観測記録を適切かつ十分に収集していることを確認する(毅粥
2.1(1))。
震源を特定せず策定する地震動の評価において,収集対象となる内陸
地殻内の地震の例を表−1(省略)に示す(毅粥ィ押ィ渦鮴(3))。
(オ)基準地震動の超過確率に関し
超過確率を参照する際には,基準地震動の応答スペクトルと地震ハ
ザード解析による一様ハザードスペクトルを比較するとともに,当該結
果の妥当性を確認する(毅供ィ(2))。地震ハザード解析による一様ハ
ザードスペクトルの算定においては,例えば日本原子力学会による「原
子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007」
や地震調査研究推進本部による「確率論的地震動予測地図」(中略)等に
示される手法を適宜参考にして評価する(毅供ィ渦鮴(1))
各種のモデル化では,専門家の意見の相違をロジックツリーとして表
すために,複数の専門家の情報が収集されていることを確認する(毅供
2.1(2))。
不確実さ要因の分析結果に基づき,地震ハザードに大きな影響を及ぼ
す認識論的不確実さ(知識及び認識の不足による不確実さ)を選定して
ロジックツリーを作成し,ロジックツリーの分岐として考慮すべき項目
が適切に設定されていることを確認する。また,ロジックツリーにおけ
る各分岐で設定した重みの設定根拠を確認する。(毅供ィ押ィ(1))
作成したロジックツリーを用いて地震ハザード曲線群を算出し,信頼
度別ハザード曲線や平均ハザード曲線の妥当性を検討するとともに,そ
れらを踏まえて一様ハザードスペクトルが適切に算定されていることを
確認する(毅供ィ押ィ(1))。
策定された基準地震動の応答スペクトルと地震ハザード解析による一
様ハザードスペクトルを比較し,地震動の超過確率を適切に参照してい
ることを確認する。参照にあたっては,地震動の超過確率のレベルを確
認すると共に,地震ハザードに大きな影響を及ぼす地震と検討用地震と
の対応も確認する(毅供ィ押ィ(1))。
エ新耐震設計審査指針
新耐震設計審査指針(別紙3の1の(5),乙イB2,乙ロ10)は,新規
制基準施行前までの耐震設計の安全審査の指針であり,昭和56年の旧耐
震設計審査指針を平成18年9月に全面的に見直したものである。
基準地震動は,旧耐震設計審査指針においては,基準地震動S1及び基準
地震動S2の2種類に区分して策定することとされていたが,新耐震設計審
査指針においては,「基準地震動Ss」のみとし,「敷地ごとに震源を特定
して策定する地震動」及び「震源を特定せず策定する地震動」について,
敷地における解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動として
それぞれ策定することとされ,その基本的な枠組みは設置許可基準規則及
び同規則の解釈(上記ア及びイ)に引き継がれている。
(2)IAEA安全基準SSG−9の定め
IAEA安全基準の個別安全指針であるSSG−9(甲B108,140)
は,原子炉施設における地震ハザードを評価するための安全指針を提供する
とともに,その手続を勧告するものであり(1.1),以下の規定が存在する。
ア地震動ハザードの評価について
地震動ハザードは,確率論的及び決定論的地震ハザード解析手法の両方
によって評価することが望ましい(5.1)。
イ第三者によるピアレビューについて
(ア)地震ハザード解析の複雑度を考慮し,独立のピアレビュー(第三者に
よる評価,検証)を実施すべきである。ピアレビューをする者は当該確
率論的地震ハザード解析の他部分に関与した者であってはならず,解析
の結果に利害関係のある者であってもならない。(11.18)
(イ)ピアレビューの目的は,地震ハザード解析がしかるべきプロセスに
沿って適正に行われた確証を,また解析で認識論的不確定性が評価され
ている確証を,また,成果文書が完備されかつ検証可能である確証を得
ることである(11.19)。
(3)基準地震動の超過事例
ア我が国における超過事例
我が国の原発において,基準地震動を上回る地震動が観測されたのは,
以下の5例である(後掲各証拠)。
(神17年8月16日宮城県沖で発生した地震女川原発
∧神19年3月25日能登半島地震志賀原発
J神19年7月16日新潟県中越沖地震柏崎刈羽原発
な神23年3月11日東北地方太平洋沖地震福島第一原発
ナ神23年3月11日東北地方太平洋沖地震女川原発
(以下,上記の番号に従い,「事例 廚覆匹箸いΑ)
イ事例 焚汽蹌贈隠亜ぃ毅魁
平成17年8月16日に宮城県沖で地震が発生した際,女川原発1号機
から3号機までの3基の原子炉は,いずれも「地震加速度大」のスクラム
信号により自動停止し,点検の結果,一部の施設に損傷が認められたもの
の,安全上重要な設備に対して損傷は認められなかった。
各原子炉建屋で観測された地震動から求めた加速度応答スペクトルは,
機器の設置されていない屋上を除き,全ての周期において,旧耐震設計審
査指針の基準地震動S2(設計用限界地震)による応答スペクトルを下回っ
ていた。他方,岩盤上で観測された地震データから上部地盤の影響を取り
除いたデータを解析した結果,一部の周期において,基準地震動S2を超え
ている部分があった。
ウ事例◆焚汽蹌贈毅粥ぃ毅機
能登半島地震が発生した際,志賀原発1号機及び2号機の各原子炉建屋
及び敷地地盤で観測されたデータから算定したこの地震動による応答スペ
クトルは,長周期側の一部の周期帯において,基準地震動S2を超えている
部分があった。ただし,安全上重要な施設のほとんどは剛構造としている
ため,これらの固有周期(揺れやすい周期をいう)は短周期側に集中して
おり,また,基準地震動S2を上回る周期帯には安全上重要な施設はなかっ
た。
エ事例(乙ロB11,56,57,146から148まで)
(ア)新潟県中越沖地震が発生した際,柏崎刈羽原発1号機から7号機で観
測された地震観測記録に基づき,解放基盤表面における地震動の推定を
実施したところ,基準地震動S2の最大加速度(450ガル)に対し,1
号機から4号機では2.3倍から3.8倍,5号機から7号機では1.
2倍から1.7倍の最大加速度となった。
このような増幅が生じた要因としては,同地震が震源において同じ地
震規模の地震と比べ大きめの地震動を与える地震であったこと,地下深
部地盤における堆積層の厚さと傾きの不整形性の影響で地震動が増幅し
たこと,発電所敷地下にある古い褶曲構造の地盤のために地震動が増幅
したことが指摘された。
もっとも,新潟県中越沖地震の発生後,柏崎刈羽原発において安全上
重要な設備の健全性には特段の問題は確認されなかった。この点につい
て,IAEA調査団が平成19年8月18日に発表した報告書は,「安全
に関連する構造,システム及び機器は大地震であったにも関わらず,予
想より非常に良い状態であり,目に見える損害はなかった。この理由と
して,設計プロセスの様々な段階で設計余裕が加えられていることに起
因していると考えられる。」としている。
(イ)当該事例を受けて,保安院は,平成19年12月27日付け及び平成
20年9月4日付けで,既設原発の原子力事業者等に対し,前記(ア)の柏
崎刈羽原発において観測された地震動が想定を上回った要因等を踏まえ
た,新耐震設計審査指針に基づく耐震安全性評価(耐震バックチェック)
を指示し,被告電源開発に対しても,同日付けで,本件原発の工事計画
の審査において検討結果を確認することを通知した(乙ロ15の1及び
2)。
オ事例ぁ焚汽蹌贈隠押ぃ隠粥
東北地方太平洋沖地震が発生した際,福島第一原発1号機から6号機の
各原子炉建屋の地下層において観測された最大加速度値は,基準地震動S
sに対する最大応答加速度値を一部上回ったが,上回ったものについても
概ね基準地震動Ssと同程度であった(乙ロB14・表6.19参照)。
カ事例ァ焚汽蹌贈隠魁ぃ僑院ぃ僑押
東北地方太平洋沖地震が発生した際,女川原発1号機から3号機の各原
子炉建屋の各階で観測された最大加速度値は,基準地震動Ssに対する最
大応答加速度値を一部上回ったが,上回ったものについても概ね基準地震
動Ssと同程度であった(乙ロB13・表1参照)。
(4)原告らの主張について
ア原告らは,基準地震動について,設置許可基準規則の解釈は「最新の科
学的・技術的知見を踏まえ,敷地及び敷地周辺の地質・地質構造,地盤構
造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から想定することが適
切なもの」とされているのみであり(別記2の5),同規則の解釈や基準地
震動審査ガイドが多用する「適切に」との文言も,その具体的基準を示し
ておらず,要求事項が曖昧である旨を主張する。
この点,同規則の解釈(別記2の5)には,原告ら主張のとおりの記載
があるが,これに続けて,より具体的な策定方針が定められているから
(なお,前記(1)イの摘示は,そのうちの大枠を示したものである。),同規
則の解釈における定めが原告らの主張する点にとどまるわけではなく,要
求事項が曖昧であるともいえない。
とはいえ,設置許可基準規則,同規則の解釈,基準地震動審査ガイドに
おいて,例えば,震源断層モデルの長さ・幅・深さ・傾斜角の設定方法,
アスペリティの位置・個数の設定方法といった,基準地震動の策定過程に
おける具体的手順が事細かに定められているというものではない。しかし
ながら,基準地震動は,震源を特定して策定する地震動と震源を特定せず
に策定する地震動について,それぞれ広範な項目を検討し多数の過程を経
て策定されるものであり,その検討においては,最新の科学的・技術的知
見を踏まえることが求められるのであって,かかる事項に対する審査基準
をあらかじめ個別かつ網羅的,一義的に定めることは極めて困難であり,
かえって適正な審査を阻害することになりかねない。そもそも,安全性に
係る審査基準は,現在の科学技術水準を構成する科学的,技術的知見が将
来変わり得ることを前提に,安全性について審査する基準であって,概括
的又は抽象的な規定となることはやむを得ないというべきであり,基準地
震動の策定の適否については,高度の中立性,専門性を有する規制委員会
が,その時点における最新の知見を踏まえて,臨機応変に審査すべきもの
である。また,基準地震動審査ガイドにおいても,推本レシピ(乙イB1
4,乙ロB324)等の最新の研究成果を考慮すべきものとされている
(なお,推本レシピは,最新の知見を踏まえ頻繁に改訂されている〔乙ロ
B322,323,乙イD50〕。)。
よって,設置許可基準規則,同規則の解釈あるいは基準地震動審査ガイ
ドにおける要求事項が,曖昧さゆえに不合理であるとはいえない。
イ原告らは,新規制基準において,地震を起因とする確率論的安全評価
(地震PSA)が徹底されておらず,SSG−9で採用されている第三者
によるピアレビュー(前記(2))も規定されていないことが不合理である旨
を主張する。
この点,設置許可基準規則の解釈では,前記(1)イ(ア)dのとおり,策定
された地震動の応答スペクトルがどの程度の超過確率に相当するか把握す
ることとされているにとどまるが,前記のとおり,最新の科学的,技術的
知見が変動し得るものであることなどその性質に照らし,安全性に係る審
査基準において個別かつ網羅的,一義的な規定を置くことには限界がある
ことを考慮すると,これをもって直ちに不合理であるとはいえない。他方,
基準地震動審査ガイドでは,前記(1)ウ(オ)のとおり,例えば日本原子力学
会による「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:
2007」(甲B113,165)等に示される手法を適宜参考にして地震
PSAを行い,その妥当性を規制委員会が確認することとされ,その際,
専門家の意見の相違が反映されるようにすることなどが求められており,
客観的視点からの,地震を起因とする確率論的安全評価が推奨されている
ものと解される。また,IAEA安全基準のうち個別安全要件であるSS
G−9は,確率論的地震ハザード評価や第三者による評価・検証(ピアレ
ビュー)を推奨するものであって(前記第2の1(4)参照),必ずしも規制
要件化されることを求める趣旨とはいえず,我が国の新規制基準はこれに
反するものとはいえない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
ウまた,原告らは,我が国では過去10年間に基準地震動を超える地震動
が4回の地震で5件(延べ18基)の原子炉で生じていること,信頼性に
足る基準地震動の策定が不可能であることを多くの学者が認めていること,
観測記録が少ないこと等を指摘して,基準地震動の策定につき抜本的な見
直しが必要であるのに新規制基準においてそれがなされていないと主張す
る。
しかし,前記(3)の基準地震動を超過する事例のうち,事例,ら事例
までは,旧耐震設計審査指針に基づき策定された基準地震動S2を超えたと
いうものであり(これらの事例を受けて,保安院が耐震バックチェックを
指示したことは前記のとおりである。),新耐震設計審査指針の策定後に生
じた事例さ擇啝例イ呂い困譴癲さ豸胸厦等規制法の改正に伴う現在の
審査基準が策定されるきっかけとなった福島原発事故の要因である東北地
方太平洋沖地震により生じたものである(なお,いずれも観測された地震
動の一部が基準地震動Ssを上回ったものの,概ね同程度であったものと
認められる。)。最新の知見が取り入れられる以前の過去における基準地震
動の策定が結果的に相当ではなかったとしても,それが直ちに現在の審査
基準の合理性を否定することにはならないというべきである。それはさて
措くとしても,前記のとおり,現在の新規制基準では,基準地震動の策定
過程における具体的手順や,確率論的安全評価の具体的手法が事細かに定
められているというものではなく(そのこと自体が不合理とはいえないこ
とは既に述べたとおりである。),そのような内容であることを踏まえると,
新耐震設計審査指針と根本的に変わっていないからといって不合理である
ということにはならない。また,新規制基準では,推本レシピ等の最新の
研究成果を考慮すべきものとされており,科学的,技術的知見が変わり得
ることを前提に最新の知見を取り入れるものとされているから,原告らの
前記指摘あるいは原告らの指摘する地震学者らの見解(甲B100,10
2,106,107,110)が,具体的な調査審議における適合性判断
の場面で何らかの形で問題になることはあり得るとしても,審査基準自体
の不合理性を基礎付ける事情とはいえないというべきである。
3争点4(本件原発周辺の海底断層)について
(1)関連する規制基準の概要
ア基準地震動の策定について
基準地震動の策定に係る設置許可基準規則,同規則の解釈及び基準地震
動審査ガイドの定めは,概要,前記2(1)アからウまでのとおりであり,こ
のうち,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定においては,
内陸地殻内地震,プレート間地震及び海洋プレート内地震について,検討
用地震を複数選定するなどとされているところ(前記2(1)イ(ア)b),内陸
地殻内地震に関して,設置許可基準規則の解釈には,次の規定がある。
(ア)内陸地殻内地震に関しては,次に示す事項を考慮すること(同規則の
解釈別記2の5二◆法
a震源として考慮する活断層の評価に当たっては,調査地域の地形・
地質条件に応じ,既存文献の調査,変動地形学的調査,地質調査,地
球物理学的調査等の特性を活かし,これらを適切に組み合わせた調査
を実施した上で,その結果を総合的に評価し活断層の位置・形状・活
動性等を明らかにすること。
b震源モデルの形状及び震源特性パラメータ等の評価に当たっては,
孤立した短い活断層の扱いに留意するとともに,複数の活断層の連動
を考慮すること。
(イ)内陸地殻内地震について選定した検討用地震のうち,震源が敷地に極
めて近い場合は,地表に変位を伴う断層全体を考慮した上で,震源モデ
ルの形状及び位置の妥当性,敷地及びそこに設置する施設との位置関係,
並びに震源特性パラメータの設定の妥当性について詳細に検討するとと
もに,これらの検討結果を踏まえた評価方法の適用性に留意の上,各種
の不確かさが地震動評価に与える影響をより詳細に評価し,震源の極近
傍での地震動の特徴に係る最新の科学的・技術的知見を踏まえた上で,
さらに十分な余裕を考慮して基準地震動を策定すること(同Α法
イ原子炉施設が設置される地盤について
(ア)設置許可基準規則
設置許可基準規則(乙イD9の3)は,原子炉施設が設置される地盤
について,設計基準対象施設(同規則3条)と重大事故等対処施設(同
規則38条)のそれぞれの施設に応じて,要求事項を定めているところ,
このうち設計基準対象施設については,次の規定がある。
a設計基準対象施設は,地震力(耐震重要施設にあっては,基準地震
動による地震力)が作用した場合においても当該設計基準対象施設を
十分に支持することができる地盤に設けなければならない(3条1項)。
b耐震重要施設は,変形した場合においてもその安全機能が損なわれ
るおそれがない地盤に設けなければならない(同条2項)。
c耐震重要施設は,変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければな
らない(同条3項)。
(イ)設置許可基準規則の解釈
設置許可基準規則の解釈(乙イD11の2)は,別記1において同規
則3条(設計基準対象施設)に関する事項を定め,同規則38条(重大
事故等対処施設)についても別記1に準ずるものとしているところ,同
規則3条2項,3項に関し,次の規定がある。
a同規則3条2項の「変形」とは,地震発生に伴う地殻変動によって
生じる支持地盤の傾斜及び撓み(たわみ)並びに地震発生に伴う建
物・構築物間の不等沈下,液状化及び揺すり込み沈下等の周辺地盤の
変状をいう(別記1の2)。
b同規則3条3項の「変位」とは,将来活動する可能性のある断層等
が活動することにより,地盤に与えるずれをいう。
また,同条項の「変位が生ずるおそれのない地盤に設け」るとは,
耐震重要施設が将来活動する可能性のある断層等の露頭がある地盤に
設置された場合,その断層等の活動によって安全機能に重大な影響を
与えるおそれがあるため,当該施設を将来活動する可能性のある断層
等の露頭がないことを確認した地盤に設置することをいう。
なお,前記の「将来活動する可能性のある断層等」とは,後期更新
世以降(約12〜13万年前以降)の活動が否定できない断層等とす
る。その認定に当たって,後期更新世の地形面又は地層が欠如する等,
後期更新世以降の活動性が明確に判断できない場合には,中期更新世
以降(約40万年前以降)まで遡って地形,地質・地質構造及び応力
場等を総合的に検討した上で活動性を評価すること。なお,活動性の
評価に当たって,設置面での確認が困難な場合には,当該断層の延長
部で確認される断層等の性状等により,安全側に判断すること。
また,「将来活動する可能性のある断層等」には,震源として考慮す
る活断層のほか,地震活動に伴って永久変位が生じる断層に加え,支
持地盤まで変位及び変形が及ぶ地すべり面を含む。
(別記1の3)
(2)NRCの規制指針
NRCの規制指針(RegulatoryGuide)は,規制を行う際の具体的な見解
(容認される例)をまとめた指針であり(乙イA13の2頁),NRCの規制
の特定部分を実施する際にNRCスタッフにとって受け入れ可能な方法,具
体的な問題や想定される事故の評価時にスタッフが使用する技術,許可及び
認可の申請書審査の際にNRCスタッフが必要とするデータ等について説明
し,一般国民が利用できるように発行したものである。規制指針は規制に代
わるものではなく,規制指針への準拠は必須ではない(乙イD67)。
NRC規制指針のRG4.7(Revision2,1998年)(甲D115,1
24,乙イD67)には,「サイトに適しているのは,サイト周辺の半径5マ
イル以内に,地表又は地表近くの変形や活断層が存在する可能性がほとんど
ないこと」との記載がある。
(3)原告らの主張について
原告らは,地震の予想に限界があるにもかかわらず,新規制基準において
は,大間北方沖活断層等の活動性が否定されない場合でも,それに応じた耐
震設計をすることで本件原発の建設が許可される可能性があるところ,米国
においては,NRCのRG4.7(Revision2)により,原子炉から半径5マ
イル(8km)以内に地表の変形や地震を引き起こす断層がないことが要求
されており,かかる立地指針を欠く新規制基準は不備がある旨を主張する。
しかし,原告らの指摘するRG4.7(Revision2)は,前記(2)のとおり,
規制に代わるものではなく,当該指針への準拠は必須ではないとされており,
法的拘束力のある規制基準とは認められないから,我が国において立地指針
が規制要件とされていないことが国際的基準に反するとはいえない。
また,設置許可基準規則では,原子炉施設の敷地及び周辺の外部事象に関
する審査事項として,地盤(同規則3条),地震(同規則4条),津波(同規
則5条)及びそれ以外の外部事象(同規則6条)による損傷防止が定められ
ており,かかる観点から,立地を含む個別具体的な判断がされるものといえ
る。例えば,前記(1)イのとおり,耐震重要施設を将来活動する可能性のある
断層等の露頭がある地盤に設置しようとすれば,立地不適と評価されること
になり(同規則3条3項,同規則の解釈別記1の3),その当否は具体的な調
査審議において判断される。他方,基準地震動の策定の場面では,前記(1)ア
及び前記2(1)のとおり,震源として考慮する活断層について,各種調査に基
づき活断層の位置,活動性等を評価した上で,詳細な検討の下に応答スペク
トルに基づく地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を行
うなどし,これを踏まえ地震動による地震力に耐えるよう耐震重要度に応じ
た施設等の設計が行われることになる。これに対し,前記RG4.7の前記
(2)の記載が,設置許可基準規則でいえば3条(地盤)に関するものであるか,
4条(地震)に関するものであるか判然とせず,当該断層から想定される地
震力や地盤の変形等について考慮することなく一律に原子炉から半径5マイ
ルの範囲に断層がないことを要求する合理的根拠が明らかではない。よって,
新規制基準に前記RG4.7のような規定がないからといって,そのことが
不合理であるとはいえない。
4争点7(火山対策)について
(1)関連する規制基準の概要
ア設置許可基準規則6条
(ア)安全施設は,想定される自然現象(地震及び津波を除く。)が発生した
場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(1項)。
(イ)重要安全施設は,当該重要安全施設に大きな影響を及ぼすおそれがあ
ると想定される自然現象により当該重要安全施設に作用する衝撃及び設
計基準事故時に生ずる応力を適切に考慮したものでなければならない
(2項)
イ設置許可基準規則の解釈
(ア)前記ア(ア)の「想定される自然現象」とは,敷地の自然環境を基に,洪
水,風(台風),竜巻,凍結,降水,積雪,落雷,地滑り,火山の影響,
生物学的事象又は森林火災等から適用されるものをいう(6条の2)。
(イ)前記ア(ア)の「想定される自然現象(地震及び津波を除く。)が発生し
た場合においても安全機能を損なわないもの」とは,設計上の考慮を要
する自然現象又はその組み合わせに遭遇した場合において,自然事象そ
のものがもたらす環境条件及びその結果として施設で生じ得る環境条件
において,その設備が有する安全機能が達成されることをいう(6条の
3)。
ウ火山ガイド
火山ガイド(別紙2の第4(16),乙イD12の1)は,原発への火山影
響を適切に評価するため,原発に影響を及ぼし得る火山の抽出,抽出され
た火山の火山活動に関する個別評価,原発に影響を及ぼし得る火山事象の
抽出及びその影響評価のための方法と確認事項を取りまとめたものである
(1.1)。その内容は,以下に概観するとおりである。
(ア)火山影響評価の流れ
火山影響評価は,別紙31のとおり,立地評価と影響評価の2段階で
行う。
立地評価では,当該原発に影響を及ぼし得る火山の抽出を行い,抽出
された場合には,抽出された火山の火山活動に関する個別評価(設計対
応不可能な火山事象が原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)
を行う。
上記の個別評価で影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された場合
は,火山活動のモニタリングと火山活動の兆候把握時の対応を適切に行
うことを条件として,個々の火山事象に対する影響評価を行う。一方,
その可能性が十分小さいと評価されない場合は,立地不適となる。
影響評価では,個々の火山現象への設計対応及び運転対応の妥当性に
ついて評価を行う。
(2.柱書)
(イ)原発に影響を及ぼし得る火山の抽出
a当該原発の地理的領域(半径160kmの範囲の領域)に対して,
文献調査等で第四紀(約258万年前以降)に活動した火山を抽出す
る(3.柱書)。
b前記aの火山のうち,文献調査並びに地形・地質調査及び火山学的
調査により,完新世(約1万年前以降)に活動を行った火山は,将来
活動の可能性の否定できない火山として,後記(ウ)の個別評価の対象と
する(3.3(1))。
c前記aの火山のうち,完新世に活動を行っていない火山については,
前記のような各調査結果を基に,当該火山の第四紀の噴火時期,噴火
規模,活動の休止期間を示す階段ダイヤグラムを作成し,より古い時
期の活動を評価する。階段ダイヤグラムにおいて,火山活動が終息す
る傾向が顕著であり,最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期
間より長い等,将来の活動可能性がないと判断できる場合は,個別評
価の対象外とし,そうでない火山は,将来の活動可能性が否定できな
いものとして,後記(ウ)の個別評価の対象とする。(3.3(2))
(ウ)原発の運用期間における火山活動に関する個別評価
a前記(イ)b,cにより個別評価の対象とされた火山については,後記
bのとおり原発の運転期間中における設計対応が不可能な火山事象を
伴う火山活動の可能性の評価を行うが,この評価においては,過去の
火山活動履歴とともに,必要に応じて,地球物理学的及び地球化学的
調査を行い,現在の火山活動の状況も併せて評価する。地球物理学的
観点からは,地震波速度構造,重力構造,比抵抗構造,地震活動及び
地殻変動に関する検討により,マグマ溜まりの規模や位置,マグマの
供給系に関連する地下構造等について分析し,地球化学的観点からは,
火山噴出物等について分析することにより,火山の活動状況を把握す
る。(4.柱書及び4.2)
なお,上記の「設計対応不可能な火山事象」は,_从嬖密度流,
⇒牢篶,4箒なだれ・地滑り及び斜面崩壊,た靴靴げ亳の開口,
ッ漏綿册阿箸垢襦これらのうち,検討対象火山と原子力発電所との
距離が前記火山事象ごとに定める一定の距離より大きいものについて
は,評価の対象外とすることができる。(4.1(1))
b対象検討火山の調査結果から,検討対象火山の活動可能性,噴火規
模を推定した上で(推定できない場合は過去最大の噴火規模とする。),
影響範囲等を判断し,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到
達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立
地は不適当であると考えられる(4.1(2)及び(3))。
他方,設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性
が十分小さいと評価できる場合には,過去の最大規模の噴火により設
計対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達したと考えられる火山
について,後記(エ)の火山活動のモニタリングの対象とし,運用期間中
に火山活動の継続的な評価を行う(前同)。
(エ)火山活動のモニタリング
過去の最大規模の噴火により設計対応不可能な火山事象が当該原発に
到達したと考えられる火山を監視対象火山とし,噴火可能性が十分小さ
いことを継続的に確認することを目的として運用期間中のモニタリング
を行う(5.柱書)。
監視項目は,地震活動の観測(火山性地震の観測),地殻変動の観測
(GPS等を利用し地殻変動を観測),火山ガスの観測(放出される二酸
化硫黄や二酸化炭素量などの観測)であり,モニタリング結果を定期的
に評価し,当該火山の活動状況を把握し,状況に変化がないことを確認
する(5.2及び5.3前段)。
事業者が実施すべきモニタリングは,原子炉の運転停止,核燃料の搬
出等を行うための監視であり,火山専門家のみならず,原子力やその関
連技術者により構成され,透明・公平性のあるモニタリング結果の評価
を行う仕組みを構築する。事業者は,モニタリングにより火山活動の兆
候を把握した場合の対処方針等を定める必要がある。(5.3後段,5.
4)
(オ)火山事象の影響評価
a前記(イ)b,cにより個別評価の対象とされた火山のうち,前記(ウ)
bにより原発の運用期間中において設計対応不可能な火山事象によっ
て当該原発の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された
火山について,それが噴火した場合,当該原発に影響を与える可能性
のある火山事象を抽出し,その影響評価を行う(6.柱書)。
b降下火砕物に関しては,前記(イ)の火山抽出の結果にかかわらず,当
該原発の敷地及びその周辺調査から求められる単位面積当たりの質量
と同等の火砕物が降下するものとして,その影響評価を行う(6.柱
書及び6.1)。
降下火砕物の影響評価では,降下火砕物の堆積物量,堆積速度,堆
積期間及び火山灰等の特性などの設定並びに降雨等の同時期に想定さ
れる気象条件が火山灰等特性に及ぼす影響を考慮し,それらの原子炉
施設又はその付属設備への影響を評価し,必要な場合には対策がとら
れ,求められている安全機能が担保されることを評価する(6.1
(2))。
原子力発電所内及びその周辺敷地において降下火砕物の堆積が観測
されない場合は,次の方法により堆積物量を設定する(同解説−16)。
・類似する火山の降下火砕物堆積物の情報を基に求める。
・対象となる火山の噴火量,噴煙柱高,全体粒度分布及びその領域
における風速分布の変動を高度及び関連パラメータの関数として,
原子力発電所における降下火砕物の数値シミュレーションを行う
ことにより求める。数値シミュレーションに際しては,過去の噴
火履歴等の関連パラメータ並びに類似の火山降下火砕物堆積物等
の情報を参考とすることができる。
堆積速度,堆積期間については,類似火山の事象やシミュレーショ
ン等に基づいて,原子力発電所への間接的な影響も含めて評価する
(同解説−17)。
c影響評価では,降下火砕物,火砕物密度流,溶岩流等,個々の火山
事象ごとに,設計対応及び運転対応の妥当性について評価を行う(6.
柱書,表2Α法
エ火山ガイドの改定その他の検討について
(ア)規制委員会は,平成28年10月,電力中央研究所の「数値シミュ
レーションによる降下火山灰の輸送・堆積特性評価法の開発(その2)」
と題するレポートや産業技術総合研究所研究員らの「吸気フィルタの火
山灰目詰試験」と題するレポートが同年4月にそれぞれ公表されたこと
などを踏まえ,全国の既設炉(規制委員会において新規制基準への適合
性が確認されたプラント)に対し,降下火砕物の影響評価につき,19
80年のセントヘレンズ山の噴火で得られた観測データを用いた評価と
同様の評価を行うこと等を求めるとともに,これらのレポートで示され
た最新知見の妥当性を確認した上で,火山ガイドの改定その他の検討に
着手することとした(甲B222,224,227,266,270)。
(イ)規制委員会は,降下火砕物の影響評価に関する検討チームを設け,平
成29年3月29日(第1回),同年5月15日(第2回),同年6月2
2日(第3回)に会合を開催し,外部専門家及び事業者からの意見聴取
等を行った。そして,第3回会合において,同検討チームから,気中降
下火砕物濃度等の設定方法,当該濃度等の規制上の位置付け,規制上の
要求事項についての基本的な考え方の案が示され,基準の改定に向けた
作業が進められることとなった。(甲B386から392まで,乙ロB3
82,383,393の1から4まで)
(2)IAEA安全基準
ア原子炉等施設の立地評価(NS−R−3)
原子炉等施設の立地評価に係る安全要件を定めるIAEA安全基準の安
全要件NS−R−3(甲D81,前記第2の7(3)エ参照)には,「その他
の重要な検討事項」として,次のような規定が存在する。
(ア)火山活動,砂嵐,豪雨,降雪,氷結,降ひょう(雹)及び過冷却水の
地表面下での凍結(氷塊)のような,原子炉等施設の安全を損なう可能
性のある現象に関して歴史上のデータを収集し評価しなければならない。
可能性が確認された場合,危険性を評価するとともに,これらの事象に
対する設計根拠を導出しなければならない。(3.52)
(イ)原子炉等施設への危険性が容認できず,また,現実的な解決策がない
場合,立地地点は適していないと考えなければならない(3.55)。
イ原子炉等施設のサイト評価における火山ハザード(SSG−21)
IAEA安全基準の安全指針であるSSG−21(甲B178,乙イB
29の1・2)は,NS−R−3(前記ア(ア))で定められた原子力施設に
関する安全要件のうち火山ハザードに関係した勧告を提供し,補足するも
のであり(1.1),その内容は,概略,以下のとおりである(別紙32参
照)。
(ア)第1段階初期評価
地理的領域(原子炉等施設に影響を与える可能性のある火山現象の性
質と種類を考慮して定義される。)において1000万年前以降(過去1
0Maの間)に火山活動があるかどうかをみて,火山活動がなければ設
計基準事象ではないとされ,更なる調査は不要であるが,火山活動があ
る場合には第2段階に進む(3.5,3.6)。
地理的領域内における火山活動は,個々の火山に関連する活動よりも
長い時間スケールで持続し得る。多くの火山弧が1000万年以上にわ
たって火山活動を繰り返しているが,火山弧内の個々の火山自体は10
0万年程度しか活動を維持できない場合がある。このような分散した活
動は数百万年も継続する可能性があるため,過去1000万年の間に火
山活動があった地域は,将来の火山活動性を考慮すべきである。(2.7)
(イ)第2段階将来の火山活動の潜在的発生源の特性評価
初期評価により過去1000万年以内の火山源が地理的領域に存在し
ていることが明らかになった場合には,その領域における火山プロセス
に対する概念モデルを作成するのがよい。これは,次のような階層解析
を用いて正当化を裏付けることができる。(3.7,5.6から5.12
まで)
a現在火山活動が行われていることが明らかな場合は,将来噴火の可
能性があるため,第3段階へ進む。
完新世(過去約1万年間)の噴火の証拠は将来噴火があり得ること
を示すものとして広く受け入れられていることから,完新世火山につ
いては,将来の噴火があり得るとみなされるべきであり,第3段階に
進むことになる。
現在の活動又は完新世の活動の証拠が存在しない場合には,より古
い活動時期について詳しく検討するのがよい。過去200万年の間の
噴火記録は,一般に将来の火山活動の可能性が残っていることを示す。
さらに,分散した火山域や,活動的でないカルデラは,およそ500
万年の間に活動したものは,将来に火山活動の可能性をある程度示し
ている場合がある。十分に評価されていることを確実にするため,地
質データを評価して,当該地域の1000万年程度の古さの火山源が
将来噴火する可能性を持つかどうかを判断するのがよい。
bこの第2段階では,将来の火山事象の可能性に関する確率論的解析
を使用することができる。
決定論的手法もまた使用可能である。例えば,類似した火山を調査
し,火山活動の最大休止期間を判別し,その活動の空白期間を閾値
(しきいち)にすることも可能である。現在休止中の火山については,
活動を再開する確率をこの閾値との比較によって評価できるであろう。
付加的な決定論的手法として,火山系における時間と量の関係,も
しくは岩石学的傾向が援用できる可能性がある。例えば,前期更新世
あるいはより古い時期と時間と量の関係から,火山活動の明らかな減
退傾向と明白な休止が明らかになるかもしれない。これらの他の基準
に基づく解決ができない場合には,決定論的手法は単純に,1000
万年よりも若いあらゆる火山においても噴火の可能性があると仮定す
るのがよい。
地理的領域で考慮される将来の火山活動が,定められた年発生確率
より低い確率でしか起こり得ないとみなせることが分かるかもしれな
い。もしこの結論を担保する十分な証拠もある場合には,それ以上の
検討は不要であり,それ以上の火山ハザード調査を行う必要はなくな
る。逆に,十分な証拠がないこと,あるいは,対象地域の将来の火山
活動の可能性があると考えられるという所見は,第3段階に進むこと
になる。
(ウ)第3段階ハザードスクリーニング
サイト周辺における将来の火山活動可能性が明らかになった場合,あ
るいはその可能性が否定できない場合,災害事象がサイトに及ぼす影響
を評価しなければならない。いくつかのケースでは,特定の災害事象は,
サイトに到達する確率が無視できるために,それ以上の考慮が不要とな
るかもしれない。スクリーニングの決定においては,これらの事象が,
火山現象の複合事象における二次的なプロセスやシナリオによって引き
起こされる可能性があるかどうかを検討するのがよい。(3.8,5.1
6等)
(エ)第4段階サイトのハザード評価
考慮すべき火山が区分できた場合,サイト固有の火山ハザードの評価
を実施する。この評価は,サイトに影響を及ぼし得る特定の現象と,そ
れらの事象の潜在的な因果関係の双方を検討する。
決定論的手法と確率論的手法の組み合わせが火山ハザード評価におい
ても必要な場合がある。
火山灰(降下火砕物)を作り出す噴火の発生頻度や火山灰発生源とサ
イトの間の気象条件を考慮すべきであり,決定論的手法でも様々なパラ
メータの不確実性は考慮されなければならず,確率論的手法では,サイ
トの降下火砕物の数値シミュレーションを使用するのがよい。
(3.2(堯法ぃ蕎蓮
(3)原告らの主張について
ア原告らは,火山ガイドは第四紀(約258万年前以降)に活動をしてい
ない火山を評価の対象外としていることについて,SSG−21が過去1
000万年間に活動のあった火山について将来の活動可能性を検討すべき
としていることに反する旨を主張する。
前記(1)ウのとおり,火山ガイドにおける火山影響評価では,まず地理的
領域の第四紀火山を抽出することとされているところ,日本列島は,プ
レートが沈み込む海溝に沿って位置しており,日本列島の火山もプレート
が沈み込むところに分布する火山に当たるため,その寿命は一般に,数十
万年から100万年程度と考えられていること,日本列島の基本的な骨組
みができたのは鮮新世の頃であって,それ以前に活動した火山は既に寿命
を終えており,そもそも日本列島の形成に伴い地理的場所が移動している
などするため現在そのような火山の位置を確認することができず,日本に
おいて258万年間の休止期間を経た後に火山活動を再開したという火山
が存在していないこと(乙ロB213の117頁,357,358,乙イ
D41の268頁)からすれば,日本において,第四紀火山すなわち過去
258万年間に活動した火山を抽出するものとされていることには,十分
な合理性が認められる。
また,現に,原告らが将来の活動可能性を指摘する火山(洞爺カルデラ,
銭亀,恐山,陸奥燧岳,恵山,北海道駒ケ岳)は,いずれも第四紀火山で
あり,本件設置変更許可申請においても第四紀火山として挙げられている
こと(乙ロD1−2−2・6−7−18頁等。別紙22参照),原告らは,
約258万年より前の具体的な火山に関する危険性を主張していないこと
からして,過去1000万年間を抽出対象とするか過去258万年間を抽
出対象とするかによって本件原発の安全性に係る評価が変わるものとはい
えない。
以上のとおり,日本列島の火山の実情からすれば,火山ガイドが第四紀
に活動をしていない火山を評価の対象外にしている点は不合理とはいえず,
また,本件原発の危険性に係る判断に影響するものでもない。
イ原告らは,火山ガイドが,完新世(約1万1700年前以降)に活動を
していない第四紀火山について,最後の活動終了からの期間が過去の最大
休止期間より長いなど将来の活動可能性がないと判断できる場合に,個別
評価の対象外としていることは,SSG−21が過去200万年間の噴火
記録は一般に活動可能性があるとしていることに反する旨を主張する。
しかし,前記(2)イ(イ)aのとおり,SSG−21は,一般論として(S
SG−21の5.10),過去200万年間の噴火記録が将来の活動可能性
があることを示すことを指摘するものであって,この場合においては,地
質データを評価して,当該地域の1000万年程度の古さの火山が将来噴
火する可能性を持つかどうかを判断することを推奨している上,火山ガイ
ドが採用する決定論的手法も許容している。
よって,火山ガイドが,完新世に活動をしていない第四紀火山について
一定の場合に個別評価の対象外としていることをもって,直ちにSSG−
21に反するとはいえない。
なお,原告らは,火山ガイドの案の段階では過去にVEI=6以上の大
規模噴火を起こした第四紀火山は将来の活動可能性が否定できない火山と
して個別評価の対象としていたのに対し(甲B179の8頁),策定された
火山ガイドで当該規定が削除されたのは,事業者の便宜のためではないか
と指摘しているが,火山ガイドの策定過程を見ると,火山ガイドの案に対
するパブリックコメントにおいて,規定に矛盾があるとの指摘を受けて規
定が削除されたものと認められるから(乙イB30),事業者の便宜のため
との原告らの憶測は当たらない。
ウ原告らは,火山ガイドによると,例えば8万年前と5万年前の2回しか
活動していない火山については,無条件に将来の活動可能性が否定される
ことになり不合理である旨を主張する。しかし,前記(1)ウ(イ)cのとおり,
火山ガイドの3.3(2)の規定は,単に最後の活動終了からの期間と過去の
最大休止期間の比較からのみ将来の活動可能性を判断するとしているわけ
ではなく,こうした比較に加え,過去の噴火状況を示す階段ダイヤグラム
から火山活動終息の傾向が顕著といえることをも要件としているから,原
告が指摘するケースにおいて当然に将来の活動可能性が否定されるもので
はなく,その当否は具体的な調査審議(適合性判断)の当否に帰着するも
のである。
エ原告らは,火山ガイドにおいて,当該原発の地理的領域内に将来の活動
可能性が否定できない火山が存在する場合であっても,設計対応不可能な
火山事象が当該原発の運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分に小さいと
いえる場合には,当該原発の設置が許可され得るとされていることについ
て,当該原発の運用期間中に当該火山が噴火する可能性やその規模を的確
に予測することは困難であって,過去に設計対応不可能な火山現象が到達
したとみられる原発を立地不適としないことは不合理である旨を主張する。
しかし,前記(2)イ(ウ)のとおり,SSG−21は,サイト周辺における
将来の火山活動可能性が明らかになった場合,あるいはその可能性が否定
できない場合,災害事象がサイトに及ぼす影響を評価しなければならない
とした上で,いくつかのケースでは,特定の災害現象は,サイトに到達す
る確率が無視できるために,それ以上の考慮が不要となるかもしれないと
規定しているのであって(SSG−21の5.16),地理的領域内に将来
の活動可能性が否定できない火山が存在する場合であっても,その影響の
到達可能性を評価して更なる検討から除外することを許容しており,火山
ガイドの当該規定もこれに沿うものといえるから,火山ガイドの当該規定
が不合理であるとはいえない。
オ原告らは,英国の原子力コンサルタントであるジョン・ラージ氏のレ
ポート(甲B121の1・2,別紙21参照)を援用して,火山ガイドに
は,NRCが通常行う審査やIAEAが勧告する原発の立地審査基準にお
いて設定される降灰確率,風向き,火山灰の密度等の詳細なパラメータに
関する具体的な規定がない旨を主張する。
しかし,上記レポートがIAEAやNRCのいかなる規定等を参照して
火山ガイドと比較しているのかは必ずしも明らかではなく,確立された国
際基準として,具体的かつ詳細なパラメータを規制基準として示すことが
求められているものとは直ちに認め難い。安全性に係る審査基準は,現在
の科学技術水準を構成する科学的,技術的知見が将来変わり得ることを前
提に,安全性につき審査する基準であって,一定程度の概括的な規定とな
ることはやむを得ないものであり,降下火砕物の影響評価等についても,
具体的な調査審議において,高度の専門性を有する規制委員会がその時点
における最新の知見を踏まえて審査すべきであるから,火山ガイドを含む
新規制基準において,原告らが指摘するような詳細なパラメータの定めが
ないことをもって不合理であるとはいえない。
よって,上記レポートの存在から,火山ガイドの定めが国際基準と比較
して不合理であるということはできない。
5争点8(津波対策)について
(1)関連する規制基準の概要
ア設置許可基準規則
同規則(乙イD9の3)は,設計基準対象施設につき,基準津波(施設
の供用中に当該施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波)に対して安
全機能が損なわれるおそれがないものでなければならないとし(5条),重
大事故等対処施設につき,基準津波に対して重大事故等に対処するために
必要な機能が損なわれるおそれがないものでなければならないとしている
(40条)。
イ設置許可基準規則の解釈
同規則の解釈(乙イD11の2)は,上記アの規定に関し,別記3にお
いて基準津波の策定方針と耐津波設計方針について定めている。このうち
基準津波の策定に関しては,津波の発生要因として,地震のほか,地すべ
り,斜面崩壊その他の地震以外の要因,これらの組合せによるものを複数
選定することとされ(別記3の1),国内のみならず世界で起きた大規模な
津波事例を踏まえて検討すること(別記3の2二),不確かさを考慮した数
値解析(別記3の2六),最新の科学的・技術的知見を踏まえること(別記
3の2八),基準津波の超過確率を把握すること(別記3の2九)などが求
められている。
ウ津波審査ガイド
津波審査ガイド(別紙2の第4の(27),乙イD12の12)は,発電用
軽水型原子炉施設の設置許可段階の基準津波策定及び耐津波設計方針に係
る審査において,審査官等が,設置許可基準規則及び同規則の解釈の趣旨
を十分踏まえ,基準津波策定及び耐津波設計方針の妥当性を厳格に確認す
るために活用することを目的とするものであり(同ガイド毅院ィ欝擇哭
1.1),このうち基準津波策定における国内外で起きた大規模な津波事例
の考慮に関し,次の規定が存在する。
(ア)プレート間地震に起因する津波発生事例(毅魁ィ魁ィ臆鮴(1))
巨大津波の例としては,1952年カムチャツカ地震(Mw9.0),
1960年チリ地震(Mw9.5),1964年アラスカ地震(Mw9.
2),2004年スマトラ沖地震(Mw9.1),2011年東北地方太
平洋沖地震(Mw9.0)が挙げられる。また,津波地震の発生事例と
しては,1946年アリューシャン地震(Mt*9.3)及び1896年
明治三陸地震(Mt8.6−9.0)が挙げられる。
(イ)海洋プレート内地震に起因する津波発生事例(毅魁ィ魁ィ害鮴(1))
正断層型のアウターライズ地震の代表例として,1933年昭和三陸
地震(Mw8.4)が挙げられる。また,2012年インドネシア・ス
マトラ島北部西方沖の地震(Mw8.6)は横ずれ断層型であるが,ア
ウターライズで発生した地震の例として挙げられる。
(ウ)海域の活断層による地殻内地震に起因する津波発生事例(毅魁ィ魁
4解説(1))
事例としては,1983年日本海中部地震津波(Mw7.9)及び1
993年北海道南西沖地震津波(Mw7.7)が挙げられる。
(エ)地すべり等に起因する津波発生事例(毅魁ィ魁ィ飢鮴(1))
1958年リツヤ湾の津波は,地震の揺れの後に発生した斜面崩壊に
よって発生した。また,1946年アリューシャン津波地震,1964
年アラスカ地震津波(Mw9.2)及び1998年パプアニューギニア
地震津波(Mw7.1)は,地震の地殻変動による津波と地震動による
沿岸部あるいは海底での地すべりによる津波の両方が同時に発生した可
能性が高い。
(オ)火山現象に起因する津波発生事例(毅魁ィ魁ィ恐鮴(1))
1640年北海道駒ヶ岳噴火津波,1741年渡島大島火山津波,1
792年島原眉山崩壊による津波は,火山噴火あるいは火山性地震によ
る山体崩壊後の土砂崩れ(岩屑なだれ)の発生が原因であるとされてい
る。また,1883年インドネシア・クラカタウ火山津波は,火山噴火
によるカルデラ陥没形成や海中爆発が原因と考えられている。
(2)原告らの主張について
原告らは,津波審査ガイドでは日本海側の検討対象が限定的であり,日本
海で今後発生が想定される地震について十分な検証ができていない状況にお
いて,新規制基準における津波想定手法の見直しが不十分であると主張する。
しかし,日本海を震源とする地震に伴う津波事例が太平洋側と比較して少
ないからといって,そのことが直ちに検討不十分ということにはならず,ま
た,原告らが指摘する国土交通省の「日本海における大規模地震に関する調
査検討会」は,平成26年8月頃,検討結果の報告をしているところ(乙イ
B17),その中では十分な検証ができていないとの指摘はされていない。い
ずれにせよ,原発の安全性に関わる調査審議は,最新の科学技術水準を踏ま
えてなされるものであり,最新の科学的・技術的知見を踏まえること(前記
(1)イ)とする新規制基準が不合理であるとはいえない。
第4小括
以上のとおり,最新の科学技術水準を踏まえ,確立された国際基準からみて,
規制委員会が本件原発の安全審査に用いる具体的審査基準に不合理な点は認めら
れず,また,本件設置変更許可申請に対する規制委員会の安全審査及び処分が未
だなされておらず,本件原発が運転を開始する具体的な目途も立っていない現時
点において,本件原発に過酷事故発生の具体的危険性があることを理由として,
その建設及び運転の差止めを認めることはできないというべきであるから,原告
らの被告電源開発に対する差止請求は,その余の点について判断するまでもなく,
いずれも理由がない。
第4章当裁判所の判断その2−被告らに対する各慰謝料請求について
第1争点15(原告らの法益侵害及び損害の発生)について
事案に鑑み,まず原告らの主張する法益侵害が生じているかについて検討する。
1民法上の不法行為に基づく損害賠償請求(同法709条)も,その特別法で
ある国賠法1条1項に基づく損害賠償請求も,法益侵害のあることが前提とな
るものであるところ,原告らは,生命,身体に対する侵害への恐怖や不安な気
持ちを抱かされない,内心の静穏な感情及び生活を害されないという人格的利
益をこれらの請求に係る被侵害利益として主張している。
一般に,生命・身体という重要な保護法益に対する侵害について不法行為が
成立し得ることは当然として,名誉・信用の毀損や騒音・日照権侵害等の生活
利益の侵害といった人格的利益の侵害についても,不法行為を構成する場合が
あり得るものであるが,とりわけ生活利益や内心の静穏な感情といった,人に
よって受け止め方に差の生じ得る主観的利益については,各人の価値観が多様
化し,精神的な摩擦が様々な形で現れている現代社会において,他者の社会的
活動との調和を充分に図る必要があるから,仮に人がその侵害により精神的苦
痛を受けることがあっても,一定の限度では甘受すべきものであって,およそ
その侵害が全て賠償責任の対象となるものではなく,社会通念上容認される限
度を超えるものに限って法的保護の対象になり得るというべきである。
2前記第3章第1の1(7),(8)で認定したとおり,現時点において,本件原発
は,原子炉建屋やタービン建屋等の建設作業中で,本件原発の主要な機器(圧
力容器,タービン,発電機など)や核燃料物質は,未だ本件敷地内に搬入され
ておらず,旧原子炉等規制法下において運転していたこともない。前記第3章
第1の1(6)のとおり,旧原子炉等規制法の下で原子炉設置許可処分がなされた
としても,現時点で直ちにこれに基づき原子炉の設置及び運転をすることは不
可能であり,改正原子炉等規制法及び新規制基準の下での規制委員会の許認可
や検査を受けない限り,具体的,現実的に本件原子炉が設置,運転される見込
みはない。したがって,現時点において,本件原発の設置,運転あるいは重大
な事故発生による原告らに対する生命,身体への侵害につき,原告らの居住区
域いかんにかかわらず,未だその現実的なおそれは生じていないというべきで
ある。
また,被告電源開発は,改正原子炉等規制法の施行に伴い本件原発の建設,
運転に必要とされる設置変更許可を受けるべく,規制委員会に対し本件設置変
更許可申請をしたが,現在,規制委員会において新規制基準への適合性に係る
審査が継続されている段階であって,本件設置変更許可申請に対する規制委員
会の許可がなされる目途も立っていないことに照らすと,現時点において,本
件原発の運転等に伴う具体的,現実的な健康被害やそのおそれが発生していな
いというのみにとどまらず,運転開始の見込みが高いゆえに重大な事故の発生
により放射性物質が本件敷地外に放出される具体的危険性がある,ということ
もできない。そうすると,原告らの主張する不安な気持ちは,現時点において
は,極めて抽象的なものにとどまり,社会通念上受忍限度を超えるものともい
えないというべきであって,原告らに対する法律上保護されるべき法益侵害は
未だ生じていないといわざるを得ない。
第2小括
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告らに対す
る各慰謝料請求は,いずれも理由がない。
第5章結論
以上の次第で,原告らが,規制委員会が本件原発の安全審査に用いる具体的審
査基準に不合理な点があると主張するいずれの事項についても,不合理であると
は認められず,未だ規制委員会の判断がなされておらず,本件原発の運転開始の
目途も立っていない現時点(本件口頭弁論終結時)においては,本件原発の重大
な事故発生に伴う放射性物質の放出等の具体的危険があるとは認められない。し
たがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告電源開発に対
する本件原発の建設及び運転の差止請求は,いずれも理由がない。
また,上記のとおり,本件原発の運転開始の目途も立っていない現時点におい
ては,本件原発の重大な事故発生に伴う放射性物質の放出等に対する原告らの不
安感は抽象的なものにとどまると認められ,原告らの主張する法益侵害が生じて
いるとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告
らに対する各慰謝料請求は,いずれも理由がない。
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
函館地方裁判所民事部
裁判長裁判官 浅岡千香子
裁判官 布施雄士
裁判官 山田将之

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