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安保違憲訴訟で請求棄却 東京地裁

 集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法は憲法違反だとして、市民1553人が国に1人10万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(前沢達朗裁判長)は7日、請求を棄却した。
 弁護士らでつくる「安保法制違憲訴訟の会」の呼び掛けで、全国の計約7700人が東京地裁を含む22の地裁・支部に起こした集団訴訟の一つ。判決は2件目。1件目となった今年4月の札幌地裁判決も請求を退けており、原告側が控訴した。
 東京地裁の原告側は昨年7月、立証に不可欠な証人尋問を認めなかったなどとして、裁判官3人の忌避を地裁に申し立てたが、退けられていた。
(2019.11.7 16:05 産経新聞)

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令和元年11月7日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第13号,同第39438号,平成29年(ワ)第27132号
安保法制違憲・国家賠償請求事件
口頭弁論終結日令和元年7月日
判決
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告らそれぞれに対し,10万円及びこれに対する平成27年9月
19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案
本件は,原告らが,
うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する
閣議決定と,∧神27年9月19日に国会において可決成立し,平成28年
3月29日に施行された「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資する
ための自衛隊法等の一部を改正する法律」及び「国際平和共同対処事態に際し
て我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」に
係る内閣による行為(法案の閣議決定及び国会への法案提出)並びに国会によ
る立法行為(以上ゝ擇哭△瞭盂婬擇唸餡颪砲茲觜坩戮鯀躱里靴董嵋楫鏗胴坩戞
という。)が,憲法前文,9条,96条1項
被告によるゞ遒栄佞鰻抔遒稜ぬ海付与された自衛隊の部隊の南スーダン共和
国への派遣,及び武器等防護の実施としての海上自衛隊護衛艦によるアメリ
カ合衆国海軍艦船の護衛が,憲法前文,9条,96条1項に違反し違憲違法で
あり,これら被告の行為により原告らが有する平和的生存権,人格権,憲法改
正・決定権が侵害され,精神的苦痛を被ったと主張して,被告に対し,国家賠
償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,原告らそれぞれにつき慰謝
料万円及びこれに対する上記成立日である平成27年9月19日から支払
済みまで民法所定の年分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実等(平和安全法制関連2法の内容を含む。)
平成26年7月閣議決定と平和安全法制関連2法の制定,施行に至るまで
の経過等
ア内閣は,平成26年7月1日,「国の存立を全うし,国民を守るための切
れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定(以下「平成
26年7月閣議決定」という。)をした。
イ内閣は,平成27年月14日,「我が国及び国際社会の平和及び安全の
確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(以下「平和安全法
制整備法」という。)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施す
る諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(以下「国際平和
支援法」という。)に係る各法律案について閣議決定(以下「平成27年
月閣議決定」という。)をした。
内閣総理大臣は,同月日,国会(衆議院)に平和安全法制整備法及
び国際平和支援法に係る法律案を提出し,各法律案は,同年7月16日に
衆議院本会議で,同年9月19日に参議院本会議で,それぞれ可決され,
同日,平和安全法制整備法(同年法律第76号)及び国際平和支援法(同
年法律第77号)の各法律(これらを併せて,以下「平和安全法制関連2
法」という。)が成立した。
ウ平和安全法制整備法は,自衛隊法等の一部を改正する法律であり,国際
平和支援法は,新規に制定された法律である。
平和安全法制整備法により改正された法律は,ー衛隊法(昭和29年
法律第16号),国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(平
成4年法律第79号,以下「国際平和協力法」という。),重要影響事態
に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成
11年法律第60号,以下「重要影響事態安全確保法」という。),そ斗
影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律(平成12年法律
第14号),ド靂蝋況盪態等及び存立危機事態における我が国の平和と
独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成年法律第79
号,以下「事態対処法」という。),ι靂蝋況盪態等及び存立危機事態に
おけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関す
る法律(平成16年法律第113号),武力攻撃事態等における特定公共
施設等の利用に関する法律(平成16年法律第114号),武力攻撃事態
及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律(平
成16年法律第116号),武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜
等の取扱いに関する法律(平成16年法律第117号),国家安全保障会
議設置法(昭和61年法律第71号)である(なお,各法律の題名はいず
れも平和安全法制整備法による改正後のものであり,以下についても同様
である。)。
エ平和安全法制関連2法は,平成27年9月30日に公布され,平成28
年3月29日に施行された。
(以上につき,当裁判所に顕著な事実)
平成26年7月閣議決定,平和安全法制関連2法により改正ないし制定さ
れた平和安全法制の概要等
ア平成26年7月閣議決定
平成26年7月閣議決定は,「我が国を取り巻く安全保障環境は根本的に
変容するとともに,更に変化し続け,我が国は複雑かつ重大な国家安全保
障上の課題に直面している。」,「冷戦終結後の四半世紀だけをとっても,グ
ローバルなパワーバランスの変化,技術革新の急速な進展,大量破壊兵器
や弾道ミサイルの開発及び拡散,国際テロなどの脅威により,アジア太平
洋地域において問題や緊張が生み出されるとともに,脅威が世界のどの地
域において発生しても,我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼし得る状
況になっている。」などの情勢認識に基づき,「政府の最も重要な責務は,
我が国の平和と安全を維持し,その存立を全うするとともに,国民の命を
守ることである。我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し,政府と
しての責務を果たすためには,まず,十分な体制をもって力強い外交を推
進することにより,安定しかつ見通しがつきやすい国際環境を創出し,脅
威の出現を未然に防ぐとともに,国際法にのっとって行動し,法の支配を
重視することにより,紛争の平和的な解決を図らなければならない。」,「さ
らに,我が国自身の防衛力を適切に整備,維持,運用し,同盟国である米
国との相互協力を強化するとともに,域内外のパートナーとの信頼及び協
力関係を深めることが重要である。特に,我が国の安全及びアジア太平洋
地域の平和と安定のために,日米安全保障体制の実効性を一層高め,日米
同盟の抑止力を向上させることにより,武力紛争を未然に回避し,我が国
に脅威が及ぶことを防止することが必要不可欠である。」,「いかなる事態に
おいても国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くとともに,国際協
調主義に基づく『積極的平和主義』の下,国際社会の平和と安定にこれま
で以上に積極的に貢献するためには,切れ目のない対応を可能とする国内
法制を整備しなければならない」として,以下の法整備の基本方針を示し
た。
すなわち, 嵒靂蝋況發忙蠅蕕覆た害への対処」として,警察機関と
自衛隊との協力による対応体制の整備,治安出動や海上警備行動の下令手
続の迅速化の措置,自衛隊による米軍の武器等防護の法整備等を行う,
「国際社会の平和と安定への一層の貢献」として,いわゆる後方支援につ
いて,従来の「後方地域」や「非戦闘地域」といった自衛隊が活動する範
囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組みではなく,
他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で実施する補給,
輸送などの支援活動を実施できるようにするとともに,PKOなどの国際
的な平和支援活動について,駆け付け警護や治安維持の任務を遂行するた
めの武器使用を認め,また,領域国政府の同意に基づく邦人救出のための
武器使用を認める,「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」として,
「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず,我が国と密接な関
係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅か
され,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危
険がある場合において,これを排除し,我が国の存立を全うし,国民を守
るために他に適当な手段がないときに,必要最小限度の実力を行使するこ
とは,従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として,
憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った」として,憲法
9条はその限度での集団的自衛権の行使を許容しているというものである。
(以上につき,甲A)
イ防衛出動としての集団的自衛権の行使に関する法整備(自衛隊法,事態
対処法関係)
存立危機事態(事態対処法関係)
事態対処法は,武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態
をいう。以下同じ。)及び存立危機事態への対処について,基本理念,国,
地方公共団体等の責務,国民の協力その他の基本となる事項を定めるこ
とにより,武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための態勢を整
備し,もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資す
ることを目的とする法律である(同法1条)。「武力攻撃」とは,我が国
に対する外部からの武力攻撃をいう(同法2条柱書・1号)。そして,同
法は,2条柱書及び2号ないし4号において,「武力攻撃事態」とは,「武
力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫してい
ると認められるに至った事態」をいい(2号),「武力攻撃予測事態」と
は,「武力攻撃事態には至っていないが,事態が緊迫し,武力攻撃が予測
されるに至った事態」をいい(3号),「存立危機事態」とは,「我が国と
密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の
存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆さ
れる明白な危険がある事態」をいう(4号)と規定している。
平成安全法制整備法により,同号の存立危機事態の定義が新設される
とともに,対処措置の定義規定(同条8号)として,存立危機事態を終
結させるためにその推移に応じて実施する措置に関する規定(同号ハ)
が新設され,存立危機武力攻撃(上記の他国に対する武力攻撃であって,
上記の明白な危険があるもの)を排除するために必要な自衛隊が実施す
して規定された。
存立危機事態における防衛出動
自衛隊法は,上記の存立危機事態に関する規定の新設に伴い,平和安
全法制整備法により改正され,同法76条1項柱書及び2号により,内
閣総理大臣は,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生
し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追
求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態)に
際して,我が国を防衛するため必要があると認める場合には,自衛隊の
全部又は一部の出動(防衛出動)を命ずることができるものとされた(た
だし,この場合には,事態対処法9条の定めるところにより,国会の承
認を得なければならない。)。
自衛権発動の新三要件
なお,政府は,憲法9条の下において認められる自衛権の発動として
の武力の行使については,所定の要件をいずれも満たす場合に限られる
ものとし,要件該当性の判断は政府において行うものとしているが,平
成26年7月閣議決定に際して以下の三要件を示している(これを以下
「新三要件」という。)。
_罎国に対する武力攻撃が発生したこと,又は我が国と密接な関
係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立
が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆さ
れる明白な危険があること
△海譴鯒喀し,我が国の存立を全うし,国民を守るために他に適
当な手段がないこと
I要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
他方,平成26年7月閣議決定がされるまでは,政府から,以下の三
要件が示されていた。
_罎国に対する急迫不正の侵害があること
△海譴鯒喀するために他の適当な手段がないこと
I要最小限の実力行使にとどまること
ウ武器等防護に関する法整備(自衛隊法関係)
平和安全法制整備法による自衛隊法の改正により,同法9条の2が新
設され,自衛官は,アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これ
に資する組織の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動
(共同訓練を含み,現に戦闘行為が行われている現場で行われているもの
を除く。)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり,人
又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には,
その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用できることと
された。
エ後方支援活動に関する法整備(重要影響事態安全確保法関係)
平和安全法制整備法による改正前
平和安全法制整備法による改正前の重要影響事態安全確保法すなわち
「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関す
る法律」(以下,上記改正前の重要影響事態安全確保法について「周辺事
態安全確保法」という。)1条は,「そのまま放置すれば我が国に対する
直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我
が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」とい
う。)に対応して我が国が実施する措置,その実施の手続その他の必要な
事項を定め,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条
約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し,我が国の
平和及び安全の確保に資すること」を目的とし,同法2条1項は,「政府
は,周辺事態に際して,適切かつ迅速に,後方地域支援,後方地域捜索
救助活動その他の周辺事態に対応するため必要な措置を実施し,我が国
の平和及び安全の確保に努めるものとする。」と規定し,同法3条1項柱
書・1号は,「後方地域支援」について「周辺事態に際して日米安保条約
の目的の達成に寄与する活動を行っているアメリカ合衆国の軍隊に対す
る物品及び役務の提供,便宜の供与その他の支援措置であって,後方地
域において我が国が実施するものをいう。」と規定し,同条3号は,「後
方地域」について「我が国領域並びに現に戦闘行為が行われておらず,
かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることが
ないと認められる我が国周辺の公海(海洋法に関する国際連合条約に規
定する排他的経済水域を含む。)及びその上空の範囲」と規定し,同条2
項は,「後方地域支援として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊に
よる役務の提供(次項後段に規定するものを除く。)は,別表第一に掲げ
るもの」と規定しているところ,同別表第一において「補給」とは「給
水,給油,食事の提供並びにこれらの類する物品及び役務の提供」とさ
れているが,「物品の提供」には「武器(弾薬を含む。)の提供」を含ま
ないものとされ,「物品の提供及び役務の提供」には「戦闘作戦行動のた
めに発進準備中の航空機に対する給油及び整備」を含まないものとされ
ていた。
平和安全法制整備法による改正後
重要影響事態安全確保法1条は,「そのまま放置すれば我が国に対する
直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要
な影響を与える事態(以下「重要影響事態」という。)に際し,合衆国軍
隊等に対する後方支援活動等を行うことにより,日本国とアメリカ合衆
国との間の相互協力及び安全保障条約(日米安保条約)の効果的な運用
に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強
化し,我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。」と規定
し(なお,重要影響事態の定義は,上記周辺事態の定義と対比して「我
が国周辺の地域における」との文言による限定が除外されたものとなっ
ている。),同法2条1項は,「政府は,重要影響事態に際して,適切かつ
迅速に,後方支援活動,捜索救助活動,重要影響事態等に際して実施す
る船舶検査活動に関する法律(平成12年法律第14号)第2条に規
定する船舶検査活動(重要影響事態に際して実施するものに限る。以下
「船舶検査活動」という。)その他の重要影響事態に対応するため必要な
措置(以下「対応措置」という。)を実施し,我が国の平和及び安全の確
保に努めるものとする。」と規定し,同法2条3項は,「後方支援活動及
び捜索救助活動は,現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行わ
れる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われてい
る現場では実施しないものとする。」と規定する。
そして,同法3条1項柱書・2号は,「後方支援活動」について「合衆
国軍隊等に対する物品及び役務の提供,便宜の供与その他の支援措置で
あって,我が国が実施するものをいう。」と規定し,同条2項は,「後方
支援活動として行う自衛隊に属する物品の提供及び自衛隊による役務の
提供(次項後段に規定するものを除く。)は,別表第一に掲げるものとす
る。」と規定する。別表第一は,「物品の提供には,武器の提供を含まな
いものとする。」として,従来あった「(弾薬を含む。)」との文言が削除
され,「物品及び役務の提供には,戦闘作戦行動のために発進準備中の航
空機に対する給油及び整備を含まないものとする。」との文言が削除され,
それらの文言削除部分が後方支援活動に含まれるものとされている(た
だし,同法における合衆国軍隊等とは,重要影響事態に対処し,日米安
保条約の目的の達成に寄与する活動を行うアメリカ合衆国の軍隊及びそ
の他の国際連合憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その
他これに類する組織をいう(同法3条柱書・1号)。)。
オ協力支援活動に関する法整備(国際平和支援法関係)
国際平和支援法は,新規に制定された法律であり,「国際社会の平和及び
安全を脅かす事態であって,その脅威を除去するために国際社会が国際連
合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い,かつ,我が国が国際社
会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの(以下
「国際平和共同対処事態」という。)に際し,当該活動を行う諸外国の軍隊
等に対する協力支援活動等を行うことにより,国際社会の平和及び安全の
確保に資することを目的とする法律である(同法1条)。同法は,3条1項
柱書・2号において,「協力支援活動」とは,「諸外国の軍隊等に対する物
品及び役務の提供であって,我が国が実施するものをいう。」と規定し,同
条2項において,「協力支援活動として行う自衛隊に属する物品の提供及び
自衛隊による役務の提供(次項後段に規定するものを除く。)は,別表第一
に掲げるものとする。」と規定する。別表第一には,協力支援活動として行
われる自衛隊に属する「物品の提供には,武器の提供を含まないものとす
る。」と規定されているが,上記「武器の提供」には「(弾薬を含む。)」の
文言が付されておらず,弾薬の提供は上記「物品の提供」に含まれるもの
とされている。
カ駆け付け警護に関する法整備(国際平和協力法関係)
国際平和協力法は,国際連合平和維持活動,国際連携平和安全活動,人
道的な国際救援活動及び国際的な選挙監視活動に対し適切かつ迅速な協力
を行うため,国際平和協力業務実施計画及び国際平和協力業務実施要領の
策定手続,国際平和協力隊の設置等について定めることにより,国際平和
協力業務の実施体制を整備するとともに,これらの活動に対する物資協力
のための措置等を講じ,もって我が国が国際連合を中心とした国際平和の
ための努力に積極的に寄与することを目的とする法律である(同法1条)。
いわゆる「駆け付け警護」は,国際平和協力法の平和安全法制整備法に
よる改正によって,国際平和協力業務として追加されたものである。その
内容は,国際平和協力法の定める国際平和協力業務(同法が3条号ヲな
いしネに掲げる,国の防衛に関する組織等の設立又は再建を援助するため
の所定の業務に関する助言又は指導,教育訓練や,医療,被災民の捜索も
しくは救出又は帰還援助等といったものである。)を行う場合であって,上
記の国際連合平和維持活動等に従事する者又はその活動を支援する者(以
下,その者らを「活動関係者」という。)について,生命又は身体に対する
不測の侵害又は危難が生じ,又は生ずるおそれがある場合に,緊急の要請
に対応して行う当該活動関係者の生命及び身体の保護である(同法3条
号ラ)。そして,駆け付け警護に従事する自衛官は,その業務を行うに際し,
自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体を防護するため
やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には,その事態に
応じ合理的に必要と判断される限度で,武器の使用が許可されている(同
法26条2項)。
駆け付け警護の任務付与等
ア本件駆け付け警護の任務付与
日本政府は,平成23年11月日,国際連合南スーダン共和国ミッ
ション(以下「UNMISS」という。)へ我が国要員を派遣する旨閣議決
定をし,平成24年1月から陸上自衛隊施設部隊の第1次要員を南スーダ
ン共和国(以下「南スーダン」という。)に派遣し,その後,第次要員
まで派遣を継続した。
そして,日本政府は,平成27年11月日,南スーダン国際平和協
力業務実施計画に国際平和協力法3条号ラに掲げる業務(駆け付け警護)
を追加する旨の閣議決定をし,第11次要員を派遣した(以下「本件駆け
付け警護の任務付与」という。)。
南スーダンでは,平成28年7月7日以降,首都ジュバでキール大統領
派とマシャール前第一副大統領派との間で武力衝突が発生し,死傷者が出
て,UNMISSの中国部隊要員2名が死亡した。うち同月日から翌
11日にかけては,我が国の派遣施設隊の宿営地近傍にあるビルにマシャ
ール前第一副大統領派が立てこもり,銃撃戦が行われた。日本政府は,同
日,ジュバの危険度をレベル4(退避勧告)に引き上げた。同月13日に
は,国際協力機構(JICA)が手配したチャーター機により,邦人47
名を含む関係者93名が国外退避した。
内閣官房,内閣府,外務省,防衛省による平成28年11月日付け
「新任務付与に関する基本的な考え方」(甲A64)には,以下のとおり示
されている。一つの宿営地を,自衛隊の部隊の他,ルワンダ等,いくつか
の部隊が活動拠点としている。このような宿営地に武装集団による襲撃が
あり,他国の要員が危機に瀕している場合でも,これまでは,自衛隊は共
同して対応することはできず,平素の訓練にも参加できなかった。しかし,
同じ宿営地にいる以上,他国の要員が倒れてしまえば,自衛隊員が襲撃さ
れる恐れがある。他国の要員と自衛隊員は,いわば運命共同体であり,共
同して対処した方が,その安全を高めることができる。
日本政府は,平成29年3月日,南スーダンに派遣中の第11次要
員が行なっている道路補修の業務を完了させた上で,同年月末を目処に
自衛隊の施設部隊を撤収することを決定し,同月27日までに順次帰国し,
派遣施設部隊は同月31日をもって廃止された。
イ本件武器等防護の実施等
平成29年3月7日から日まで,海上自衛隊護衛艦(以下「海自護
衛艦」という。)2隻がアメリカ合衆国海軍(以下「米海軍」という。)航
空母艦(以下「米空母」という。)カールビンソンと東シナ海周辺海域で共
同巡航訓練をし,同月27日から29日まで,海自護衛艦隻が上記米空
母と東シナ海周辺海域で共同巡航訓練をし,同年4月23日,海自護衛艦
2隻が上記米空母と西太平洋で共同巡航訓練をし,同年月3日,海自護
衛艦2隻がシンガポール共和国へ向かった。
また,同月,防衛大臣の武器等防護の警護実施命令により,海自護衛艦
が米海軍補給艦と合流して航行した。(甲C24の3ないし,上記命令に
よる海自護衛艦の航行を以下「本件武器等防護の実施」という。)
なお,平成28年12月22日に国家安全保障会議が自衛隊法9条の
2の運用指針を決定しており,同条が,自衛隊と連携して我が国の防衛に
資する活動(共同訓練を含み,現に戦闘行為が行われている現場で行われ
ているものを除く。)に現に従事しているアメリカ合衆国(以下「米国」と
いう。)の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊の武器等
という,我が国の防衛力を構成する重要な物的手段に相当するものと評価
することができるものを武力攻撃に至らない侵害から防護するための,極
めて受動的かつ限定的な必要最小限の武器の使用を認めるものである,な
どといった考え方が示された。(甲A66)
3争点及びこれに関する当事者の主張
内閣による平成26年7月閣議決定,並びに平和安全法制関連2法の制定
について内閣による平成27年月閣議決定と国会への法案提出及び国会に
よる立法行為(本件各行為)が憲法9条等に違反し,国賠法1条1項におい
て違法とされるかどうか(争点1)
(原告らの主張)
ア平成26年7月閣議決定による集団的自衛権の許容,並びにこれに基づ
く事態対処法・自衛隊法による防衛出動と武器等防護,重要影響事態安全
確保法による後方支援活動及び国際平和支援法による協力支援活動の各違
憲性等
集団的自衛権行使の許容が違憲であること
平成26年7月閣議決定は,従来は憲法9条1項の下で許容される自
衛権行使の範囲を個別的自衛権が行使される場面に限定するものとして
いたにもかかわらず,その範囲を超えて,集団的自衛権の行使を許容す
ることとした。
また,平和安全法制整備法の制定による改正で,事態対処法2条4号,
自衛隊法76条1項柱書・2号において,存立危機事態への対処として
集団的自衛権の行使が許容され(防衛出動),自衛隊法9条の2におい
て,米国の軍隊を始めとする外国軍隊の武器等が警護の対象とされた(武
器等防護)。これらは,被告において定着した憲法9条1項の解釈を,し
かもその核心部分である「自衛権の発動は日本に対する直接の武力攻撃
が発生した場合にのみ,これを日本の領域から排除するための必要最小
限度の実力の行使に限って許される」という解釈を根底から覆して,他
国に対する武力攻撃が発生した場合にまで,自衛隊を出動させて戦争を
することを認めるものであり,被告が本件各行為によって憲法9条1項
に違反したことにほかならない。米国は,第2次世界大戦後も世界中で
戦争を繰り返しているが,本件各行為は,結局のところ,米国に対する
支援を目的とするものであり,我が国が米国の戦争に巻き込まれる危険
性を飛躍的に高めるものにほかならない。
平成26年7月閣議決定は,集団的自衛権の行使の要件を示している
は極めて曖昧であり,自衛
隊が自衛のための必要最低限度の実力の保持しか許容されていない存在
であるというのに,専守防衛という目的から離れて世界中で武力を行使
することを可能にしたのであり,正しく,自衛隊を憲法9条2項が禁止
する「戦力」とし,他国との「交戦権」を認めるものであり,憲法9条
2項に明白に違反する。
更にいえば,本件各行為は,憲法9条の実質的な改変である。憲法9
条につき,従来の政府解釈は,他国防衛のための武力行使は認められな
い以上,集団的自衛権の行使は一切禁止されており,「必要最小限の実力
行使にとどまること」という数量的概念を用いた議論を挟む余地はない
ものとして確立されており,憲法規範性を備えるに至っている。それに
もかかわらず,本件各行為は,内閣による憲法解釈の変更及び国会によ
る法律の制定によって,集団的自衛権の行使を許容した。本件各行為は,
憲法96条が定める憲法改正手続を潜脱しており,同条にも違反する。
後方支援活動と協力支援活動が違憲であること
平成26年7月閣議決定と重要影響事態安全確保法が定める後方支援
活動,及び国際平和支援法が定める協力支援活動(以下,これと後方支
援活動とを併せて「後方支援活動等」という。)は,外国軍隊に対する物
品及び役務の提供であって,一般に「兵站」と呼ばれるものである。後
方支援活動等は,それ自体が戦闘行為そのものではないとしても,相手
国から見ると戦闘行為と一体となって武力行使をする支援部隊としてみ
なされ,攻撃の対象となり得るから,法的には武力行使と評価されるべ
きものである。
周辺事態安全確保法(平和安全法制整備法による改正前の重要影響事
態安全確保法)は,後方支援活動の範囲を「後方地域」すなわち「現に
戦闘行為が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じ
て戦闘行為が行われることがないと認められる地域」に限定し,かつ,
弾薬を含む武器の提供,戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対
する給油・整備といった外国軍隊の武力行使への直接の支援を認めてい
なかった。
しかるに,平和安全法制整備法による改正により,重要影響事態安全
確保法は,後方支援活動につき,「現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一
環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。)が行われて
いる現場」以外の場所であれば,武力行使と一体化するものではないと
して,活動範囲の限定を緩和するとともに,改正前は認めていなかった
弾薬の提供,戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・
整備を許容した。これは,他国軍隊の武力行使への直接の支援にほかな
らない。同法は,自衛隊による後方支援活動等を外国軍隊,主に米国軍
の武力の行使と現に一体化させ,若しくはそのおそれを高めるものであ
り,憲法9条に違反することが明白である。
また,国際平和支援法による協力支援活動においても弾薬の提供が認
められており,同法も憲法9条に違反することが明白である。
さらに,平成26年7月閣議決定と,周辺事態安全確保法の改正(重
要影響事態安全確保法)と国際平和支援法の制定に係る平和安全法制関
連2法の制定は,憲法9条の実質的改変として同法96条が定める憲法
改正手続を潜脱するものであり,同条にも違反する。
相関関係論による違法性判断をすべきであること
本件は,本件各行為について民法の特別法である国賠法における違法
性を問題とするところ,不法行為責任の発生の関係では,侵害行為の態
様・程度と被侵害利益の種類・内容との相関関係において,その違法性
を検討すべきである。
本件各行為の違憲性,憲法破壊の重大性は明らかであり,これまでの
議論や判例の延長として平和的生存権,人格権,憲法改正・決定権の議
論を行うべきではなく,重大な違憲性等を十分に斟酌,考慮して違法性
の有無を検討すべきである。
このことは,国会議員の立法不作為について国賠法1条1項の適用に
おいて違法性を認めた最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集
9巻7号87頁(いわゆる在外邦人選挙権制限事件)に限らず,違
法性を認めなかった最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集6
9巻8号86頁(いわゆる夫婦同姓規定合憲判決)及び前同・民集
69巻8号2427頁(いわゆる再婚禁止期間違憲判決)においても,
法令の憲法適合性に関する判断が先行して行われたことからしても明ら
かである。
憲法判断の回避は許されないこと
本件各行為の違憲性,憲法破壊が明白であるから,本件については,
裁判所がいわゆる事件性の要件を欠くとして憲法判断を回避したり,事
件性の要件を満たしても統治行為論やフランダイス・ルールを適用する
などして憲法判断を回避したりすることは許されない。
イ本件各行為による平和的生存権の侵害
平和的生存権は,憲法前文,13条により具体的な権利性を根拠付け
られるとともに,憲法9条によって制度的に担保されているものである。
平和の概念は,国民が基本的人権を保障され,人間の尊厳に値する生活
を営む基本的な前提条件であることからしても明らかであるし,議論の
成熟に伴って,平和的生存権が,個々人がそれぞれの人生を生きる上で
不可欠の前提条件として「ひとしく恐怖と欠乏から免れ,平和のうちに
生存する権利」であると確認されており,近時,多数の憲法上の学説と
複数の裁判例が具体的権利性を肯定している。原告らが,国による戦争
の遂行,武力の行使等や,戦争の準備行為等によって,個人の生命,自
由が侵害され又は侵害の危険にさらされ,あるいは,現実的な戦争等に
よる被害や恐怖にさらされるような場合,また,戦争の遂行等への加担,
協力を強制されるような場合には,裁判所に対して損害賠償請求を求め
ることが認められるべきであるし,上記のような場合に至るおそれが生
じて精神的苦痛を受けたときにも,損害賠償請求の方法による救済が認
められるべきである。
本件各行為により,集団的自衛権の行使と後方支援活動等の実施が制
度的に許容された。集団的自衛権の行使や後方支援活動等の実施は,我
が国が,他国の攻撃に加担し,武力行使や兵站活動等を行って,他国の
国土を破壊し,その国民・市民を死傷させるものであるとともに,戦争
の当事国として,敵対国から国土に攻撃を受け,テロリズムの対象とな
ることを覚悟しなければならないものである。本件各行為は,そのよう
な事態となる具体的危険を生じさせた。そのため,原告らは,平和的生
存権を侵害されて,甚大な精神的苦痛を被っている。その具体的内容を
以下例示する。
原告らのうち,第二次世界大戦の被害経験者は,空襲被害,原爆被害
などの中,生命の危険にさらされ,親族を失うなどの経験などによって,
二度と戦争による被害があってはならないと身をもって痛感し,平和憲
法を拠り所にして戦後を生活してきた。しかし,これまでの人生を否定
されたような虚しい気分に陥り,生きている心地がしないなどと感じて
いる。
兵役経験者は,戦争の悲惨さを知らない者らがあたかも戦争ごっこを
するかのように,本件各行為がされたことに多大な不安を覚えており,
平和安全法制関連2法が制定されたことから戦争の足音を感じている。
戦争が人と人との殺し合いであるという実態に気付いてからでは遅いと
考え,戦争を予防することが必要であるなどと感じている。
米軍及び自衛隊基地周辺で生活する者は,集団的自衛権が行使される
と,他国の武力攻撃や武装勢力からのテロ攻撃に基地等がさらされる蓋
然性が高いため,生命・身体に重大な被害を受けるおそれがある。その
危険に日々怯えている。
交通労働者は,集団的自衛権が行使されると,交通機関が他国や武装
勢力から攻撃目標とされるおそれがあり,これが行われた場合には,生
命・身体に重大な被害を受けるおそれがある。その危険に不安を覚えて
いる。
憲法を研究する学者は,平和安全法制関連2法が憲法9条違反である
との見解を否定され,教育活動を制限される状況に至っている。教師は,
教え子を戦場に行かせはしないとの信念で平和教育に努めてきたが,こ
れを否定されて甚大な精神的苦痛を被っており,とりわけ,教え子に自
衛官がいる者は,戦場という殺し,殺される場に送り込まれることを思
うと眠れないほどである。
障がい者は,平和安全法制関連2法に伴う軍事予算の増大により社会
保障費等が削減されて,障がい者や高齢者が冷遇される社会に向かって
いると実感させられて,将来に生きる希望が持てないなどと感じている。
子どもを持つ母親は,自分の子が戦争に加担させられるのではないか
と不安を抱いており,世の中に役立つ人間に育てようと努力してきたこ
れまでの人生が無視されたように感じている。
ウ本件各行為による人格権の侵害
人格権は,生命・身体及び人間としての生活を送るのに必要な精神に
関する利益を侵害されない権利はもとより,健康上の危険にさらされる
ことなく平穏かつ安全に生活する権利,人間らしくその尊厳を保ちつつ
平穏な生活を営む権利,日常生活を破壊されずに当たり前の生活を営む
権利,平穏で安全な生活を妨害されることによる精神的苦痛を与えられ
ない精神的権利などを含む,人格的利益の総体である。人格権は,憲法
13条,条の趣旨・理念に立脚し,私法上も保護が認められる基本
的権利,あるいは民法709条,7条を実定法上の根拠とする重大
な保護法益である。このような人格権が,国賠法上保護に値する権利な
いし法律上の利益であることはいうまでもない。
本件各行為は,集団的自衛権の行使と,後方支援活動等を許容したた
め,これまでの平和な暮らしから転じて,我が国が戦争の当事国となる,
あるいは他国の戦争に巻き込まれる危険と機会を増大させており,敵対
国から我が国の国土が攻撃を受ける,あるいは武装勢力からのテロ攻撃
にさらされる危険をもたらした(
項で述べる。)。原告らは,そのような事態に直面することを余儀なくさ
れ,犠牲を被る覚悟を避けられない立場を強いられている。
そのため,原告らは,本件各行為により,生命・身体及び精神に関す
る利益が侵害される危険にさらされ,また,平穏な生活を破壊され,さ
らに,憲法改正について主権者として意思決定をする機会を奪われて,
著しい精神的苦痛を被っている。その精神的苦痛は,原告らの人格的利
益として法律上保護されるべき利益であり,これを侵害する本件各行為
我が国が集団的自衛権を行使すれば,戦争当事国となる危険性は飛躍
的に高まり,事態対処法などにおいて想定される存立危機事態とこれに
必然的に併存する武力攻撃予測事態,武力攻撃事態を招く危険性は非常
に高い。
そのような事態が生じたときには,国民は,直接,生命身体に対する
被害を受ける危険を負うほか,各種法律による権利の制限や義務を課さ
れることとなる。重要影響事態及び国際平和共同対処事態においては,
後方支援活動等の対応措置に関する基本計画の実施に当たり,関係行政
機関の長から地方公共団体の長に対して協力依頼がされ(重要影響事態
法9条),防衛大臣から「物品の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供につ
いて国以外の者に協力」依頼がされる(国際平和支援法13条1項)。存
立危機事態においては,国と地方公共団体及び指定公共機関による相互
の連携協力が求められ(事態対処法3条1項),武力攻撃予測事態におい
ては,自衛隊に防衛出動待機命令が発せられ(自衛隊法77条),防衛施
設構築の措置が命じられるほか(同法77条の2),予備自衛官の招集命
令が発せられる(同法70条1項)。自衛隊の部隊の展開予定地域では,
防衛施設構築のために土地等が強制使用される(同法3条の2)。ま
た,武力攻撃予測事態及び武力攻撃事態(以下,併せて「武力攻撃事態
等」という。)においては,地方公共団体及び指定公共機関は国と協力し
て,武力攻撃事態等への対処に関して必要な措置を実施する責務を負い,
国民も当該対処措置に必要な協力を求められる(事態対処法条ないし
8条)。そして,武力攻撃事態においては,自衛隊に防衛出動が発せられ
て(自衛隊法76条1項),防衛出動時の武力行使が行われ(同法88条
1項),同法3条による病院等施設の管理や土地・家屋・物資の使用,
物資の保管・収用等が行われる。これは権利に対する種々の制限であり,
国民にとって重大な権利侵害である。
また,集団的自衛権が発動されれば,我が国が攻撃の対象とされてい
ないにもかかわらず,他国の戦争に参戦して,武力行使をすることとな
る。自衛隊員は,戦場で殺し,殺され,国民・市民は,他国からの反撃
や武装勢力によるテロ攻撃にさらされ,ある者にあっては戦争に協力さ
せられる結果となる。攻撃の対象には,大都市や原子力発電所,在日米
軍基地や自衛隊基地が選ばれる可能性が高く,その被害は甚大なものと
なる。
以上のことは,後方支援活動等が行われる場合であっても,武力行使
と一体化するものであるから,同様の事態に陥ることが予想される。
以上のとおり,我が国が攻撃の対象とされる蓋然性は高まっているの
であり,「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施
に関する特別措置法」により自衛隊をイラク共和国及びその周辺地域に
派遣した時点(平成年から平成18年)とは,国民に攻撃が及ぶ危
険性は全く質を異にするものとなっている。
集団的自衛権が実際に行使される事態に至っていないとしても,行使
の可能性は抽象的なものではなく,非常に高い蓋然性があるというべき
である。
政府が集団的自衛権の行使の相手国と想定するのは主に米国であるが,
米国は過去に先制攻撃を繰り返している。我が国を取り巻くアジアの情
勢をみると,北朝鮮人民共和国(以下「北朝鮮」という。)が米国と核・
ミサイル開発を巡って緊張・対立関係にあり,同国が集団的自衛権行使
の対象となる可能性が最も高く,同国から,我が国の在日米軍基地や自
衛隊基地,更には大都市や原子力発電所も攻撃の対象とされる蓋然性が
十分にある。中華人民共和国との関係でも,軍事衝突が起これば同様の
危険が生じ得る。平成26年7月閣議決定で示された集団的自衛権行使
の要件(新三要件)は,内容からして歯止めにならない。後方支援活動
等は,軍事行使と一体のものとみられることは常識であり,攻撃の標的
とされる可能性が高い。
また,我が国は,これまで,国際社会から平和国家としての信頼を築
いてきたが,集団的自衛権行使の許容によりその信頼を自ら破壊した。
そのため,武装集団は,我が国の国民を敵視することとなった。
平和安全法制関連2法が施行されてから,被告により,駆け付け警護
の任務が付与された自衛隊の施設部隊がUNMISSに派遣され(前記
警護については,派遣部隊が実際に出動して武器使用をすれば,対立当
事者のどちらかとの戦闘行為に発展して,自衛隊員が殺傷し,又は殺傷
される事態が生じることが危惧されているが,本件駆け付け警護の任務
付与についてみると,派遣先の南スーダンにおける現地の状況から上記
危険は現実化していた。本件武器等防護の実施は,米国と北朝鮮との緊
張・対立関係が激化する状況下で,米国が米海軍艦船を北朝鮮の近海に
向かわせて軍事的圧力を強める過程で行われたのであり,北朝鮮が米海
軍艦船を攻撃すればその防護のために海自護衛艦が武器を使用するとい
う積極的姿勢を誇示しようとするものであった。本件武器等防護の実施
は,北朝鮮からみて,我が国を米国側の対立当事者と位置付けさせるも
のであり,一触即発の状況になれば我が国が戦火を交えることになりか
ねないものであった。今後も武器等防護のための警護が行われる可能性
は否定できない。以上のとおり,本件駆け付け警護の任務付与及び本件
武器等防護の実施は,我が国が武力行使に至る具体的危険を生じさせた。
この点,被告は,原告らの主張が,結局のところ,我が国が戦争やテ
ロ行為の当事者となった場合に何らかの犠牲を強いられたり危険にさら
さらされたりするのではないかといった漠然とした不安感を抱いたとい
う域を超えるものではないと主張する。しかし,被告は,平成26年7
月閣議決定において,我が国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容す
るとともに,更に変化を続け,我が国は複雑かつ重大な国家安全保障上
の課題に直面している,国際テロなどの脅威により,アジア太平洋地域
において問題や緊張が生み出されるとともに,脅威が世界のどの地域に
おいて発生しても,我が国の安全保障に直接的な影響を及ぼし得る状況
になっているなどと,危機を強調していたところであるから,被告の主
張は自らがした平成26年7月閣議決定と矛盾しており,失当である。
本件各行為は,本件駆け付け警護の任務付与及び本件武器等防護の実
施を経て,我が国が置かれた国際情勢の下で,我が国が武力行使に至る
具体的危険を生じさせており,敵対国から我が国の国土が攻撃を受ける,
あるいは武装勢力からのテロ攻撃にさらされる危険を現実のものとした。
原告らは,戦争に直面させられることを実感しており,平和憲法に導
かれて戦後築いてきた平和な生活が否定され,破壊されたと感じている。
原告らは,生命・身体及び人間としての生活を送るのに必要な精神に関
する利益が侵害される危険にさらされるとともに,安全で平穏な生活を
送ることを妨げられている。
また,原告らは,戦争等により自分自身や家族の身に危険を感じると
いう恐怖や不安に苛まれており,そのほかに,他国の市民を攻撃・殺傷
する加害者になる,加害者に加担する可能性があることに対する良心の
呵責に苛まれている。さらに,原告らは,我が国の平和外交国家として
のありように対する信頼を毀損されたと感じている。
以上の精神的苦痛は,以下のとおり,原告らにとって個別具体的なも
のである。
原告らのうち戦争体験者は,東京大空襲や原子爆弾による被害,その
他戦争による被害を体験しており,先の戦争で生死の境をさまよい,肉
親を失い,財産を失い,戦後も苛酷な生活を強いられた。再び戦争が起
きる危険から,安堵を奪われ,戦争に起因するトラウマを呼び起こされ,
再体験を迫られている。その悲しみや苦しみは筆舌に尽くし難い。
米軍基地が集中する沖縄県に居住する者や,全国の米軍・自衛隊基地
の周辺に居住する者らは,航空機騒音その他の基地被害が一層増大する
ことを危惧しているが,そればかりではない。戦争が起きるおそれを日
常的に感じていて,それらの基地が敵対国などから真っ先に攻撃の対象
とされる可能性が高いために,生命・身体が侵害される危険にさらされ
ている。不安や恐怖への怯えは,戦争被害体験者らに比肩するものであ
る。原子力発電所施設及びその付近等の地域に居住する者らもまた,攻
撃対象とされ,生命・身体等を直接に侵害される危険にさらされている。
地方自治体や,航空機関・船舶・鉄道等の指定公共機関で働く者らは,
有事体制下では軍事物資の輸送等危険な業務に従事させられることにな
り,敵対国からの攻撃や武装集団からのテロ攻撃にさらされて生命・身
体を脅かされる危険に不安を募らせている。また,協力義務の下に自ら
の意思に反して戦争に加担させられるおそれに心を痛めている。
海外で活動するNGO関係者や戦場ジャーナリストなどは,我が国が
平和外交国家であり,他国に対して敵対的行為に及ばない国であるとの
信頼が海外から寄せられていたからこそ,安全な活動が保障されていた。
しかし,上記信頼が損なわれて,すでに身の危険や活動への障害を実感
している。
戦争となれば,若者は戦場に駆り出されることとなる。若者らは,真
っ先に戦争の被害に遭うから,その恐怖に怯えており,戦争への加担を
否応なしに迫られることに絶望感や無力感を覚えている。女性,子ども,
障がい者など,いわゆる社会的弱者とされる者らは,犠牲の中心となり,
戦火を逃げ惑い,人間性を蹂躙され,困窮した生活を強いられる結果と
なる。子を持つ親や孫を持つ祖父母は,子や孫の行く末を案じて,平穏
な生活を送ることができなくなっている。障がい者の支援に携わる者も
同様である。宗教者や,平和教育に努めてきた教育者らは,その宗教的
心情や教育者としての心情を真っ向から否定され,これまでの活動を踏
みにじられたと感じている。学者らは,これまで研究を重ねて築き上げ
てきた考え方を否定され,学問・教育の自由への脅威となりかねず,耐
え難い苦痛を味わわされている。
さらに,原告らは,主権者としての立場を蔑ろにされて,自尊心を深
く傷付けられた。原告らは,平和憲法としての日本国憲法を誇りとし,
二度と戦争をしてはならないとの信念から,憲法9条を守り通さなけれ
ばならないとの強い決意を抱き,平成26年7月閣議決定がされると,
集団的自衛権の行使を許容してはならないとの意見ないし意思を内閣,
各政党,各国会議員らに対して可能な限り表明した。それにもかかわら
ず,国会審議では平和安全法制関連2法が強行採決された。本件各行為
は,憲法9条の実質的な憲法改変であり,本来であれば憲法改正手続に
よらなければならなかったのであり,原告らは,本来参加し得べき憲法
改正手続への参加の機会を奪われた。
以上のとおり,原告らは,人格権を侵害されて,著しい精神的苦痛を
被っており,本件各行為は国賠法上の違法行為である。
エ本件各行為による憲法改正・決定権の侵害
憲法改正には,憲法の条文の文言を変更するとの明文改憲のほか,確
立した憲法解釈を根本から変更することも含まれ,後者は実質的改正と
いうことができる。
具体的な憲法改正課題が生じたとき,国民各人は,最終的には,国民
投票制度を通じて賛否を表明し,改正の是非を決定するが,憲法改正・
決定権は,投票権としての側面にとどまるものではなく,個々人が,国
会による発議がされる以前から,国民の代表である国会議員を通じて,
あるいは表現の自由,政治活動の自由その他の権利を自ら行使し,国民
投票運動に参加するなどして,憲法改正課題に対して賛否その他の意見
を表明し,国民的意思を形成する過程に参加する権利としての内容も含
むものである。
憲法改正・決定権は,これを定める憲法上の明文規定がないが,憲法
前文第1段,96条,99条を根拠とする。憲法前文第1段は,国民が
憲法制定権限を有する旨を明示している。憲法96条は,1項において
憲法改正に国民の承認を必要とすることを,2項において改正された憲
法を国民の名で公布することを定めて,国民が個別に憲法改正・決定に
ついて最終的権限を有することを明らかにしている。憲法99条は,国
会議員等に憲法尊重擁護義務を課すが,国会の発議に対する国民投票に
おいて,反対することで国会議員の憲法尊重擁護義務違反を阻止し,あ
るいは,賛成することで国会議員の同義務を解除するものといえ,同条
も憲法改正・決定権の根拠となる。そして,憲法改正・決定権は,日本
国憲法の改正手続に関する法律が制定されて,国民個々に保障された具
体的な権利となっている。
政府は,これまで,繰り返し,集団的自衛権の行使には憲法9条の改
正が必要と明言してきた。憲法9条についての政府の憲法解釈は,集団
的自衛権の行使は認められないとして確立されており,憲法規範となっ
ている。しかるに,被告は,平成26年7月閣議決定において上記憲法
解釈を変更して,集団的自衛権の行使は許容されるとし,同閣議決定を
含む本件各行為により,集団的自衛権の行使を可能とした。本件各行為
は,内閣による閣議決定及び国会による立法行為により,憲法9条の実
質的改正をするものであり,憲法96条1項所定の手続を潜脱している。
原告らは,平和憲法としての日本国憲法を誇りとし,二度と戦争をし
てはならないとの信念から,憲法9条を守り通さなければならないとの
強い決意を抱き,平成26年7月閣議決定に対し,集団的自衛権の行使
を許容してはならないとの意見ないし意思を内閣,各政党,各国会議員
らに対して可能な限り表明してきた。しかし,原告らは,本件各行為に
より,個々に憲法改正の是非を意思表示する機会を奪われ,憲法改正・
決定権を侵害された。しかも,国会の審議過程では,多くの国民・市民
及び野党からの反対があったにもかかわらず,反対を押し切って,採決
が強行された。特に,参議院平和安全法制特別委員会における採決では,
地方公聴会の報告や総括質疑がされず,不意をついて与党議員が委員長
席を取り囲んで野党議員を排除し,「議場騒然、聴取不能」としか速記に
記録されない混乱の中で「可決」とされた。言論の府である国会が,乱
暴極まりない方法で採決を強行して,憲法の実質的改正をしたものであ
り,憲法改正・決定権を侵害する程度が大きく,かつ,その態様も著し
く相当性を欠くことは明白である。
これに対し,被告は,原告らの以上の主張が憲法改正・決定権侵害と
いいながら抽象的に法令自体の憲法適合性審査を求めるものにすぎない
と主張する。しかし,原告らは,本件各行為により憲法が蹂躙され破壊
されたことから,個々に有する憲法改正・決定権を侵害されて,精神的
苦痛を被っており,国家賠償による救済を求めているのであるから,被
告の主張は失当である。
オまとめ
以上のとおり,本件各行為については,国賠法1条1項における違法性
が明白であり,これらに関与した内閣総理大臣及び国務大臣並びに国会議
員の故意過失もまた明白である。
(被告の主張)
ア原告らが主張する本件各行為の違憲性について
後記イのとおり,原告らの請求は,国賠法上保護された権利又は利益の
侵害をいうものではなく,主張自体失当であるから,原告らの見解に認否
反論する必要はない。なお,被告は,平和安全法制整備法による改正後の
自衛隊法及び事態対処法において認められる武力の行使のうち,国際法上
は集団的自衛権として違法性が阻却されるものは,我が国を防衛するため
のやむを得ない必要最小限度の自衛の措置にとどまるものであるから,憲
法9条の禁ずる武力の行使に当たるものではない一方,他国を防衛するこ
と自体を目的とする集団的自衛権の行使は認められないとの見解を採って
いる。
イ原告らが主張する権利が,国賠法上の保護された権利又は法的利益と認
められないこと
国家賠償制度が個別の国民の権利ないし法的利益の侵害を救済するも
のであることの当然の帰結として,国賠法1条1項の違法は,当該個別
の国民の権利ないし法的利益に対する侵害があることを前提としており,
権利ないし法的利益の侵害が観念できない場合には,国又は公権力の行
使に当たる公務員の行為の違法性判断に立ち入るまでもなく,国賠法上
の違法を認める余地はない(最高裁昭和43年7月9日第三小法廷判決・
集民91号639頁,最高裁昭和63年6月1日大法廷判決・民集42
巻号277頁,最高裁平成2年2月日第三小法廷判決・集民
9号161頁等)。
以上のとおりであるから,国賠法上の違法性は,原告らが主張する相
関関係により判断されることはなく,原告らの主張は失当である。原告
らが指摘する最高裁判決は,いずれも,当該事件の原告の具体的な権利
ないし法的利益の存在を前提として,立法行為の違法性判断を行ってい
るものであり,原告らの主張の根拠となるものではない。
原告らが主張する平和的生存権は具体的権利とはいえない。平和の概
念は,抽象的かつ不明確であり,原告らが主張する権利は,具体的内容,
根拠規定,主体,成立要件,法律効果等のどの点をとってみても,一義
性に欠け,その外延を画することさえできない極めて曖昧なものである。
原告らが主張する「人格権」なるものも,具体的な権利内容,成立要
件,法律効果等について一義性に欠ける極めて曖昧なものであるから,
そこに具体的権利性を認めることはできない。
また,原告らが主張する「人格権」の侵害の内容は,結局のところ,
我が国が戦争やテロ行為の当事国となると,国民が何らかの犠牲を強い
られたり危険にさらされたりするといった漠然とした不安感を抱いたと
いう域を超えるものではないのであって,かかる程度の内容をもって具
体的権利性が認められると解する余地などない。
したがって,原告らの主張する「人格権」についても,国賠法上保護
された権利ないし法的利益と認めることはできない。
原告らが主張する憲法改正・決定権は,国賠法上保護された権利ない
し法的利益とはいえない。
憲法96条1項は,国民が自らの意思に基づいて憲法の条項と内容を
決定するという国民主権ないし民主主義の原理・理念を体現するもので
あるとしても,飽くまで,「国家の主権者としての国民」という抽象的な
位置付けにとどまる。憲法前文第1段も,国民主権の理念を規定するに
とどまり,憲法99条は,国会議員,裁判官その他の公務員等の憲法尊
重擁護義務を定めるものである。いずれの規定からも,直ちに,国賠法
による救済が得られるような,原告らという具体的な「個別の国民」と
の関係における具体的,個別的な権利ないし法的利益としての「憲法改
正・決定権」なるものが導かれるわけではない。原告らは,憲法改正・
決定権なるものが,表現の自由,政治活動の自由その他の権利を自ら行
使し,国民投票運動に参加し,その憲法改正課題に対して賛否その他の
意見を表明することというが,国家の主権者たる国民としての意見・意
思の表明という国民主権ないし民主主義の原理・理念の言い換えにすぎ
ない。
その点を措くとしても,平和安全法制関連2法は,憲法の条文自体を
改正するものではなく,憲法改正に伴う国民投票制度における個別の国
民の投票権の内容や行使に何ら具体的な制約を加えるものでないことは
明らかであって,憲法改正手続に関する原告らの具体的,個別的な権利
又は法的利益に何ら影響を及ぼすものではない。
憲法改正・決定権侵害という原告らの主張は,本件各行為が憲法9条
と抵触し,憲法の実質的改正であることを理由にして,個々の国民の具
体的,個別的な権利ないし法的利益の侵害を離れて,抽象的に法令自体
の憲法適合性の審査を求めるものである。これが付随的違憲審査制を採
用する我が国の司法制度の在り方と適合しないことは明らかである。
ウまとめ
以上のとおり,原告らが権利として主張するものは,いずれも,国賠法
上の保護された権利又は法的利益とはいえないのであるから,その余の点
を検討するまでもなく,本件各行為が国賠法上違法との評価はできない。
本件駆け付け警護の任務付与及び本件武器等防護の実施が憲法9条等に違
反し,国賠法1条1項において違法とされるかどうか(争点2)
(原告らの主張)
ア平成26年7月閣議決定と国際平和協力法が定める駆け付け警護は,そ
の任務遂行のために強力な武器使用を必要とし,任務遂行中に相手方から
反撃があれば戦闘行為が発生することは避けられず,今日の国連による平
和維持活動の主任務が住民の保護とされていることに鑑みれば,武装勢力
等との武力衝突を招き,更には武力行使へと発展する可能性が極めて高い。
そうすると,駆け付け警護を認めた平成26年7月閣議決定と,国際平
和協力法の改正に係る平和安全法制整備法の制定は,憲法9条に違反する
ことが明白であるとともに,同条の実質的改変として同法96条が定める
憲法改正手続を潜脱するものであり,同条にも違反する。
イ本件駆け付け警護の任務付与については,南スーダンの状況が,大規模
な戦闘の発生等,内戦が激化してUNMISSの筆頭任務が住民保護とな
り,そのための武力行使権限も認められているというものであったことか
ら,任務を付与された自衛隊の部隊が実際に駆け付け警護に出動し,任務
遂行のために武器を使用すれば,対立当事者のどちらかとの戦闘行為に発
展して,自衛隊員が殺傷し又は殺傷される事態が生じかねないと危惧され
ていた。
ウまた,本件武器等防護の実施は,米国と北朝鮮との緊張・対立関係が激
化する状況の下で実施されており,ミサイル攻撃等による侵害からの警護
を目的とするものであるとともに,米海軍艦船に攻撃が加えられればその
防護のために我が国の護衛艦が武器を使用することになるとの姿勢を誇示
するものであったから,我が国を米朝対立の中で軍事的一方当事者に位置
付けることになり,一触即発の状況となれば現実に戦火を交える事態にも
なりかねないものであった。
エ以上のとおりであるから,本件駆け付け警護の任務付与及び本件武器等
防護の実施は,いずれも,我が国が武力の行使をし又は武力行使に至る具
体的危険を生じさせたものとして,本件各行為と同様に憲法9条等に違反
しており,原告らの平和的生存権,人格権及び憲法改正・決定権を侵害し
た。
(被告の主張)
本件駆け付け警護の任務付与及び本件武器等防護の実施は,いずれも原告
らに向けられたものではなく,原告らの権利ないし法律上の利益に何ら影響
を及ぼすものではないから,いずれも原告らについて国賠法上違法となるこ
とはない。
平成26年7月閣議決定,平和安全法制関連2法等に係る内閣及び国会の
行為,並びに本件駆け付け警護の任務付与及び本件武器等防護の実施により
原告らが損害を受けたかどうか(争点3)
(原告らの主張)
原告らは,違憲違法な本件各行為並びに本件駆け付け警護の任務付与及び
本件武器等防護の実施により精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには,原
告ら各人について万円が相当である。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件各行為が憲法9条等に違反し,国賠法1条1項において違法と
されるかどうか)について
原告らは,内閣による平成26年7月閣議決定,並びに平和安全法制関連2
法の制定について内閣による法案決定をした平成27年月閣議決定と国会へ
の法案提出及び国会による立法行為(本件各行為)が憲法9条等に違反し,国
賠法上違法であると主張する。
ところで,憲法76条により裁判所に与えられている司法権は,いわゆる法
律上の争訟について裁判を行う作用をいい(裁判所法3条1項),具体的な権利
又は法律関係につき紛争が存する場合に初めて発動することができるものであ
り,憲法81条により裁判所に与えられている違憲立法審査権も,このような
司法権を発動することができる場合に行使することができるものと解すべきで
あるから,裁判所は具体的事件を離れて抽象的に政府や国会の行った行為等の
違憲,違法について判断する権限を有しない(最高裁昭和27年(マ)第23
号同年月8日大法廷判決・民集6巻9号783頁,最高裁昭和27年(マ)
第148号同28年4月日・民集7巻4号30頁参照)。
原告らは,本件各行為により,原告らの権利ないし法的利益が侵害された旨
主張するので,まず,この点につき,以下検討する。
2平和的生存権について
原告らは,憲法が,前文,9条及び13条に基づいて,平和的生存権を保
障している旨主張する。
憲法前文は,恒久の平和を念願し,全世界の国民が平和のうちに生存す
る権利を有することを確認する旨を謳い,憲法9条は,国権の発動たる戦
争と国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇又は武力の行使を放
棄し,戦力を保持せず,国の交戦権を認めない旨を規定している。憲法が,
戦争の惨禍から人類が永遠に免れることを希求し,日本のみならず世界の
恒久平和を念願し,基本的人権を保障する基礎的条件として,日本国民が
平和のうちに生存すべきであるとの理念を備えていることに疑いはない。
イしかし,憲法前文は,憲法の基本的精神及び理念を表明したものであっ
て,そこに表明されたものが本文各規定を解釈する指針となり得ることが
あるとしても,それ自体が具体的権利の賦与やその保障を定めたものとは
解し難い。
また,平和とは,理念ないし目的としての抽象的概念であり,各個人の
思想や信条により,多様な捉え方が可能なものである。また,平和は,個々
人の信条や行動のみならず,常に他者との関係を含めて初めて達成し得る
ものであって,これを確保する手段,方法は,常時変化する複雑な国際情
勢に応じて多岐多様にわたり,特定することができない。以上に照らせば,
「平和のうちに生存する権利」との文言から,直ちに一定の意味内容や,
これを達成する手段や方法が特定されるものではないから,憲法前文から
裁判規範となるべき国民の権利としての具体的な意味内容を確定すること
は困難であり,憲法前文を根拠として,個々の国民に対して平和的生存権
という具体的権利ないし利益が保障されているものと解することはできな
い。
憲法9条は,国家の統治機構ないし統治活動についての規範を定めたもの
であって,国民の私法上の権利を直接保障したものということはできず,同
条を根拠としては,平和的生存権という個々人の具体的な権利が保障されて
いるということはできない。
また,憲法13条は,憲法上明示的に列挙されていない利益を新しい人権
おり,「平和」の概念自体が抽象的であること等に照らして,平和的生存権が
具体的内容を有すると認め難いことは先に述べたところであり,憲法13条
によっても平和的生存権が原告ら個々人に具体的な権利ないし法的利益とし
て賦与されたということはできない。
原告らは,その主張する平和的生存権は,議論の成熟に伴い,内容が明確
化されている旨主張するが,原告らが主張する「ひとしく恐怖と欠乏から免
れ,平和のうちに生存する権利」が具体的にはいかなる内容で,どのような
法律効果があるのかといった点はなお不明確であり,原告らが権利侵害と主
「平和」概念の抽象性や多義的性格が左右されるものとはいえない。
したがって,原告らの主張は採用できない。
3人格権について
原告らは,仮に,平和的生存権が憲法上保障された具体的権利として認
められないとしても,原告らは,本件各行為によって集団的自衛権の行使
が許容されたため,我が国が戦争の当事国となる,あるいは他国の戦争に
巻き込まれる危険と機会が増大しており,敵対国から我が国の国土が攻撃
を受ける,あるいは武装勢力からテロ攻撃にさらされる危険をもたらして,
原告らの生命・身体が侵害される危険にさらされている旨を主張する。
イしかしながら,本件各行為は立法行為及び閣議決定であり,それ自体が
原告らの生命・身体の安全に危険をもたらす行為とはいい難い。
ウまた,本件各行為により防衛出動としての集団的自衛権の行使を許容し,
後方支援活動等を認める法制度が整備されてから,本件駆け付け警護の任
務付与や,本件武器等防護の実施がされたところであるが,本件全証拠に
よっても,当審における口頭弁論終結時において,我が国が他国から武力
行使の対象とされているものとは認められず,客観的な意味で,原告らの
主張する戦争やテロ攻撃のおそれが切迫し,原告らの生命・身体の安全が
侵害される具体的な危険が発生したものとは認め難い。
エこの点,A氏の意見書(甲B43)には,要旨,)楫鏗胴坩戮,米国
による我が国に対する軍事的役割の拡大要求の結果であり,これにより集
団的自衛権の行使が恒久的に許容され,米国の戦争への参加に対する防波
堤が失われたこと,⊆衛隊の装備の増強や攻撃的兵器の導入により,米
軍との一体化が進行していることを指摘した上で,2甬遒領鮖砲望箸蕕掘
米国が今後戦争をしないとは考えられず,我が国が米国による戦争に巻き
込まれる蓋然性は高いなどとして,我が国が他国からの武力行使の対象と
なり,また,米国を敵視する過激派組織等によるテロの標的となる危険が
現実化した旨を述べる部分がある。
しかしながら,上記陳述の内容は,全体として,米国による戦争(他国
に対する攻撃)と,我が国による集団的自衛権の行使等を二重に予測した
上で,これに起因して,我が国が武力行使又はテロ攻撃の対象となる旨の
予測を述べるものであって,我が国が現実に武力行使又はテロ攻撃の対象
とされている旨を述べるものとはいえない。上記のような予測を前提とし
ても,少なくとも,集団的自衛権の行使等の対象となるべき特定の事象(米
国による戦争等)が現実に発生した段階で,初めて我が国を攻撃対象とす
る戦争やテロ攻撃のおそれが切迫したか否かを検討し得るものであり,当
該事象が未だ発生していない現段階において,原告らの生命,身体の安全
が侵害される具体的危険が生じたものと評価するに足りない。
なお,上記意見書中には,本件駆け付け警護の任務付与に関し,自衛隊
37
が戦闘行為に巻き込まれる危険が存在した旨の記載があるが,上記意見書
を前提としても,南スーダンにおける紛争は同国の国内問題とみるほかな
く,その帰趨により,我が国に対する武力行使を通じて,個別の原告らの
生命・身体の安全に具体的な危険が生ずるものとは直ちに認め難い。また,
上記意見書中には,本件武器等防護が,米朝関係が極度に緊張した平成2
9年月に実施されたなどとして,我が国が上記二国間対立において一方
当事国となりかねない危険性を指摘する部分もあるが,その後の事情とし
て,米国と北朝鮮との間の戦争等に係る現実の危険性を指摘する部分はな
く,この点で,原告らの生命・身体の安全に対する具体的な危険の存在を
裏付けるものとはいえない。
オ以上によれば,原告らの前記アの主張は採用できない。
原告らは,健康上の危険にさらされることなく平穏かつ安全に生活する権
利,人間らしくその尊厳を保ちつつ平穏な生活を営む権利,日常生活を破壊
されずに当たり前の生活を営む権利が人格権を構成するものとして認められ
るものの,これが本件各行為により侵害されていると主張する。
り,当審における口頭弁論終結時において,我が国が他国から武力行使の対
象とされているものとは認められず,客観的な意味で,原告らの主張する戦
争やテロ攻撃のおそれが切迫し,原告らの生命・身体の安全が侵害される具
体的な危険が発生したものとは認め難いから,原告らについて本件各行為に
より平穏な生活を送るという利益が侵害されているとはいえない。
原告らは,本件各行為により,戦争に巻き込まれる,あるいはテロ攻撃
にさらされて自分自身や家族の身に危険を感じるという恐怖や不安に苛ま
れて精神的苦痛を被ったと主張する。
イそこで,個人の内心的な感情についてみると,一般的には,価値観が多
様化している中で社会生活が営まれている以上,価値観の相違から,内心
が刺激されて,動揺や葛藤が生じ,不快感や焦燥感等といったある種の精
神的苦痛を感じること自体は避け難く,各人において社会活動を通じて他
者との間の調和を図る必要があることも否定できない。個人の内心的な感
情については,それが害されることによる精神的苦痛が社会通念上受忍す
べき限度を超えるような場合には,人格的な利益として法的に保護すべき
場合があり,それに対する侵害があれば,その侵害の態様,程度いかんに
よっては,不法行為が成立する余地があるものの,社会通念上受忍すべき
限度を超えたと評価されるには,一定の特殊な地位にあること等によって
通常の社会生活の中では生じ得ないような深刻な不快感,焦燥感等が生ず
ることが必要であると解すべきである。
ウこれを原告らについてみると,原告らが甲D号証として提出した全ての
陳述書並びに原告B,原告C,原告D,原告E,原告F,原告G,原告H,
原告I,原告J及び原告Kの各供述によれば,原告らが,本件各行為を契
機として,我が国が置かれた国際情勢下の立場に我が国が戦争に巻き込ま
れる,あるいはテロ攻撃にさらされるおそれをみてとり,自分自身や家族
らの生命,身体に対する侵害が及ぶことへの恐怖と不安を覚えていること
が認められる。
しかしながら,本件各行為は,政策決定ないし立法行為そのものであっ
て,我が国の国民一般に及ぶものであり,戦争やテロ攻撃に対する恐怖や
不安といった感情は,本件各行為により個別的,具体的に特別の関係を有
することにより生ずるというものとはいえない。この点,原告らのうちに
は先の戦争による被害を体験した者らや,米軍基地や自衛隊基地の周辺に
居住する者,紛争地域を含む他国で活動する者らが含まれるが,本件各行
為により原告らの生命,身体の安全に係る法的利益が侵害されたと認める
に足りないことは先に判示したとおりであり,上記のような原告らの精神
的苦痛も,その置かれた境遇や立場を基礎にして,本件各行為を戦争への
加担ないしテロ攻撃による被害を導くものとして理解を共通にする国民一
般に広く生じ得る恐怖,不安とみるほかない。
以上によれば,原告らの前記アの主張は採用できない。
さらに,原告らは,本件各行為により,戦争に巻き込まれて,他国の市民
を攻撃・殺傷する加害者になる,加害者に加担する可能性があることについ
て良心の呵責に苛まれて精神的苦痛を被ったと主張する。
原告らの上記主張は,戦争に加担しないで平和に暮らしたいという思いや,
国家の行為を介して他国民の生命,身体を侵害する結果となることへの日本
国民としての精神的苦痛,人殺しに加担したくないとの信念による精神的苦
痛と理解できる。もっとも,本件各行為は立法政策ないし立法行為であって,
我が国の国民一般に及ぶものであり,必ずしも全国民の個々の見解や信念と
一致するものではないことは,多数決原理を基礎とする間接民主制を採用す
る我が国においては自明のことである。原告らの精神的苦痛は,原告らと憲
法解釈等を共通にする国民一般に広く生じ得る公憤ないし義憤と解するほか
なく,本件各行為により原告らとの関係で個別的,具体的に特別の関係を有
することにより生じた精神的苦痛とみることはできない。
原告らが本件各行為により自らの思いや信念を否定されたと感じるとして
も,原告らが本件各行為において採用された政策判断を批判し,自らの信念
を表明して,個々人において意見表明や政治活動に及んだり,賛同者を求め
て集団行動としてそれらの活動に及んだりして,更に賛同者を募ることは何
ら妨げられるものではないのであり,その意味において,原告らの精神的苦
痛は社会生活において回復されるべき事柄というべきである。そうすると,
原告らの精神的苦痛については,直ちに社会生活上受忍すべき限度を超えた
ものとはいえず,法的保護に値する利益と認めることはできないといわざる
いる切実なものであると認められるが,これによって受忍限度が左右される
ものとはいえない。
また,原告らは,本件各行為により,我が国の平和外交国家としての在り
様に対する他国や他国の国民らから寄せられている信頼が毀損されたと主張
し,原告らの平和を希求する信念からくる精神的苦痛と理解できるが,これ
もまた,原告らと憲法解釈等を共通にする国民一般に広く生じ得る義憤,公
憤であって,国賠法上の保護の対象となる法的利益ということはできない。
4憲法改正・決定権について
原告らは,憲法改正・決定権が憲法前文第1段,96条,99条を根拠に,
個別に保障される権利であり,投票権としての側面にとどまるものではなく,
個々人が,国会による発議がされる以前から,国民の代表である国会議員を
通じて,あるいは表現の自由,政治活動の自由その他の権利を自ら行使し,
国民投票運動に参加するなどして,憲法改正課題に対して賛否その他の意見
を表明し,国民的意思を形成する過程に参加することが保障されていると主
張した上で,)楫鏗胴坩戮砲茲蠏法改正手続(憲法96条)が潜脱された
ことや,∧刃属汰緩\関連2法が強硬採決されたこと等により,原告らの
権利が侵害された旨を主張する。
この点,憲法前文第1段は,「日本国民は,(中略)ここに主権が国民に存
することを宣言し,この憲法を確定する」と述べて,主権者である国民が憲
法制定権力の主体であることを示し,憲法96条は,1項において,憲法の
改正は国会の発議に対して国民の承認を得なければならないとして,国民に
最終決定権があることを明らかにし,2項において,「国民の名で」公布する
として,憲法改正権の主体が国民であることを明示している。
しかしながら,同条1項は,憲法改正の発議を国会が行い,国民投票が当
該発議に係る「承認」につき行われる旨を明記していることに照らせば,特
定の問題に関する憲法改正の発議の有無につき,個々の国民に対し,何らか
の権利又は法的利益を保障する趣旨とは解し難い。原告らの主張は,本件各
行為の憲法適合性を担保するための憲法改正手続の不存在につき,国賠法上
の権利侵害等を主張するものと解されるところ,当該主張を前提とすると,
国民は,法令等の違憲性を主張するとともに,当該法令等に係る憲法改正手
続の不存在を主張することによって国家賠償請求訴訟を提起し得ることとな
り,実質的には,抽象的に法令等の違憲,違法の判断を求める訴訟を許容す
る結果となるものというほかなく,この点は,本件各行為に係る政府による
憲法解釈の変更の有無により左右されるものとはいえない。
原告らの前記主張は採用できない。
また,前記3で述べたところによれば,本件各行為は,その内容において,
原告らの権利または法的利益を侵害するものとはいえず,そうである以上,
本件各行為に係る強行採決等の経緯の如何により権利侵害等の有無が左右さ
れるものとはいえないものであって,この点で,憲法擁護義務に関する原告
らの主張も採用できない。
上記の経緯に関する原告らの主張は,原告らの表現行為や政治活動そのも
のに対する自由権の侵害をいうものではなく,平和主義の擁護に係る自らの
主張や信念が,国会において尊重されず,強行採決等により蹂躙されたこと
による精神的苦痛をいうものと解するほかないところ,そのような精神的苦
痛は,原告らと同様の憲法解釈を共有する国民一般において,本件各行為と
の関係で生じ得る公憤ないし義憤とみるほかなく,それ自体が民主政治の過
程において回復されるほかないものであり,国賠法上保護されるべき権利な
いし法的利益とはいえない。
小括
以上のとおり,原告らが本件各行為により侵害されたと主張する権利ないし
法的利益は,いずれも損害賠償により法的保護を与えられるべき利益とはいえ
ない。
6争点2(本件駆け付け警護の任務付与及び本件武器等防護の実施が憲法9条
等に違反し,国賠法1条1項において違法とされるかどうか)について
権がいずれも原告ら個々人に具体的な権利ないし法的利益として賦与されたも
のということはできない。
また,前記3で検討したところに照らせば,本件駆け付け警護の任務付与
及び本件武器等防護の実施により,当審における口頭弁論終結時において,我
が国が他国から武力行使の対象とされているものとは認められないから,原告
らについて,生命,身体の安全や,平穏な生活を送る利益といったものが侵害
されているとはいえない。原告らが主張する精神的苦痛についても,本件駆け
付け警護の任務付与及び本件武器等防護の実施が政策決定に基づくものである
ことから,原告らと憲法解釈を共通にする国民一般に広く生じ得る恐怖や不安,
あるいは義憤ないし公憤とみるほかなく,国賠法上の保護の対象となる法的利
益とはいえない。
したがって,原告らが主張する権利ないし法的利益は,いずれも損害賠償に
より法的保護を与えられるべき利益とはいえない。
7まとめ
以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告ら
の損害賠償請求には理由がないこととなる。
8憲法判断について
原告らは,いわゆる相関関係論に立って,本件各行為の違法性判断のために
憲法判断をすべきである旨主張する。しかし,我が国の裁判所による憲法適合
性の判断については,具体的事件の結論を出すに当たって必要な場合にその限
度で行われるという付随的違憲審査性が採用されていることは,先に述べたと
おりである。本件では,損害賠償により法的保護を与えられるべき利益が存在
するとは認められないから,相関関係論に立って違法性を判断する必要がある
との原告らの主張は採用できない。原告らの主張中には,立法不作為の国賠法
上の違法性に関する最高裁判決を援用する部分があるが,これらの判決は,い
ずれも,選挙権の行使や,婚姻の際の姓又は時期の選択につき,個々の原告が
立法において考慮すべき法的利益を有していたものと評価し得る事案であり,
本件とは事案を異にするものというほかない。原告らの主張は採用できない。
第4結論
以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却すること
として,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 前澤達朗
裁判官 実本滋
裁判官 神本博雅
(別紙原告目録,同原告ら訴訟代理人目録,同原告ら訴訟復代理人目録,同被告指
定代理人目録は,記載を省略)

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