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稲川会元会長の使用者責任認めず 特殊詐欺巡り東京地裁

 暴力団稲川会系組員らによる特殊詐欺事件の被害に遭った70代の女性が、稲川会の辛炳圭(通称清田次郎)元会長に2150万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が11日、東京地裁であった。小川理津子裁判長は「詐欺は稲川会の威力を利用した資金獲得行為とは認められない」などとして、暴力団対策法と民法の両面で使用者責任を認めず、請求を棄却した。
 原告弁護団によると、特殊詐欺に絡んで暴力団トップの使用者責任を認めなかった判決は2件目。責任を認めてトップに賠償を命じた判決も2件あり、司法判断は割れている。
 小川裁判長は判決で、組員が詐欺に使う携帯電話などをどう準備したかは明らかでなく、稲川会が協力したと認められる証拠もないと指摘。共犯者に暴力団組員であることを示した証拠もないとして、稲川会の威力を利用したとはいえないと判断した。詐取金が稲川会の収益になった証拠もないとして、民法上の使用者責任も否定した。
 2008年施行の改正暴力団対策法は、組員が資金を獲得する際に組織の威力を利用して他人の生命や財産を侵害した場合、暴力団の代表者も賠償責任を負うと規定している。
(2019/11/11 16:42 日経新聞)

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令和元年11月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成30年(ワ)第2986号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和元年9月9日
判決
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,20万円及びこれに対する平成28年1月27日
から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,分離前相被告Aが中心になって行った,いわゆる振り込め詐欺によ
って万円をだまし取られた原告が,当時Aの所属する指定暴力団稲川
会(以下「稲川会」という。)の会長であった被告に対し,暴力団員による不当
な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号。以下「暴対法」という。)
31条の2又は使用者責任(民法7条1項)に基づき,詐欺により原告が
被った損害賠償金合計20万円及びこれに対する平成28年1月27日
(最後の不法行為時)から支払済みまで民法所定の年分の割合による遅延損
害金の支払を求める事案である。
1前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によ
って容易に認められる。
⑴当事者等
ア被告は,稲川会の代目会長として,平成28年1月当時,稲川会を代
表する地位にあった者である(争いなし)。
イAは,稲川会の傘下組織である稲川会山瀬一家B組に所属する暴力団の
組員であり,A,いずれも分離前の相被告であるC,D,E及びF(以下,
C,D,E及びFを併せて「本件共犯者ら」ということがある。)の名で
構成された振り込め詐欺グループ(以下「本件詐欺グループ」という。)の
リーダー格であった者である。(甲13,31,33,43,44)
⑵原告に対する詐欺
本件詐欺グループは,架空の商品購入に関する名義貸しトラブルの解決金
名目で高齢者から現金をだまし取ろうと考え,平成28年1月13日から同
月日までの間,東京都千代田区ab丁目c番d号e事務所において,
複数回にわたり,原告宅に電話を架けるなどし,原告に対し,架空の商品購
入に関し,第三者が原告名義で振込入金しているところ,これが違法な名義
貸しに当たり,これを解決するために現金30万円が必要だなどと虚偽の
事実を述べて,原告にその旨誤信させ,同日,本件詐欺グループが指定した
送付先に現金30万円を送付させるなどして,これを詐取した。
さらに,本件詐欺グループは,同年1月27日,前記e事務所において,
複数回にわたり,原告宅へ電話を架けるなどし,原告に対し,前記違法な名
義貸しにより原告が起訴されることを免れるために現金800万円が必要だ
などと虚偽の事実を述べて,原告にその旨誤信させ,同日,上記送付先に現
金800万円を送付させるなどして,これを詐取した。(これらの行為を併せ
て,以下「本件詐欺」という。)(甲13,31,33,43,44)
⑶Aに対する刑事判決
Aは,平成28年3月16日,本件共犯者らと共に,本件詐欺を含む3件
の振り込め詐欺又は詐欺未遂被告事件について東京地方裁判所に対して公訴
提起された。同裁判所は,同年8月日,Aに対して懲役年6月の実刑判
決を宣告し,同判決は確定した。(甲13)
2争点
(暴対法31条の2について)
⑴本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたものか。
⑵被告は,本件詐欺に関し,暴対法31条の2ただし書1号に該当するか。
(使用者責任について)
⑶被告は,Aの使用者といえるか。
⑷本件詐欺は,稲川会の事業として行われたものか。
(共通)
⑸損害の発生及びその額
3争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴(本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたも
のか。)について
(原告の主張)
ア暴対法31条の2の趣旨は,民法7条の使用者責任の特則として,
立証責任を軽減し,被害者救済を図るとともに,暴力団が資金獲得を目的
とする組織であること及び威力を用いて社会全体に害悪を与える組織であ
ることに鑑み,威力を利用した資金獲得活動を牽制・抑止することにある。
かかる趣旨に加え,暴力団による資金獲得活動が巧妙化している現状から
すれば,同条にいう「威力利用資金獲得行為」とは,暴力団が行う資金獲
得行為を広く含むと解釈されるべきである。
イ「威力を利用して」について
暴対法の解釈
暴対法31条の2にいう「威力を利用して」とは,暴対法3条1号の
文言と同様,指定暴力団員が,当該指定暴力団に所属していることによ
り,資金獲得活動を効果的に行うための影響力又は便益を利用すること
をいい,当該指定暴力団の指定暴力団員としての地位と資金獲得活動と
が結びついている一切の場合をいうものである。
暴対法31条の2はあえて「威力を利用して」と要件を定めているこ
とからすると,同条の「利用」については,不法行為の相手方に対して
威力を示すことを要せず,不法行為の相手方が威力を認識する必要もな
く,指定暴力団員としての地位と資金獲得活動とが結びついている一切
の利用態様を含むというべきであって,指定暴力団員が,指定暴力団の
人的・物的な影響力ないし便益を利用していた場合には,威力を利用し
たものといえる。
したがって,資金獲得行為の遂行に必要な人員や活動拠点の確保,携
帯電話等の物的資源の調達や,検挙を免れるための各種情報収集のため
に,指定暴力団特有の人的ネットワークを利用していた場合(以下「便
益利用型」という。)や,犯行グループ内で指揮命令系統を維持確保し,
規律の実効性を高めるために指定暴力団の影響力を利用していた場合
(以下「内部統制型」ともいう。)もまた,指定暴力団の人的・物的な影
響力ないし便益を利用しているものといえるから,暴対法31条の2に
いう「威力を利用」したものである。
本件の便益利用型該当性
Aは,稲川会の組織力を背景に,本件詐欺を含む一連の詐欺行為の準
備として,電話を架ける相手の名簿,電話の架け方等に関する詳細かつ
膨大なマニュアル及び詐欺に使用する携帯電話機等を全て用意し,拠点
となる事務所の移転先も用意したと考えられる。
本件の内部統制型該当性
Aは,暴力団組員という自己の経歴ないし地位を利用して,本件共犯
者らに対して危害を加える可能性のある者であることを認識させていた
のであるから,Aから本件共犯者らに対して危害を加える旨の明示的な
言動が仮になかったとしても,Aは,内部統制のために威力を利用して
いた。なお,本件共犯者らにおいて,Aが暴力団員であることを認識す
れば内部統制のために威力を利用できるから,Aが所属していた暴力団
名の認識は不要である。
ウ資金獲得行為について
「生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金」とは,お
よそ何らかの使途のための資金を指し,いわゆる特殊詐欺においては,組
織化されたスキームによって一体となって詐欺行為を行うのであるから,
そのようなスキーム全体が資金獲得行為といえる。
本件詐欺についても,Aが指揮した振り込め詐欺グループが組織的一体
となって詐欺行為を行っているのであるから,組織の構築や準備行為を含
む詐欺行為のスキーム全体が,資金獲得行為に該当する。
エ一般に,暴力団においては,序列的な疑似的血縁関係に基づく強固な服
従強制が行われており,上位者の意向に反した場合に組織的威力を用いた
制裁措置が課される。Aは,暴力団の中でも特に危険性が高いとして公安
委員会から指定暴力団とされている稲川会に所属する組員なのであるから,
自己の所属団体である稲川会の上位者に内密で別組織から便益提供を受け
て暴力団の事業といえる特殊詐欺を行い,これにより得た資金を暴力団以
外の別組織のみに提供することは,所属する稲川会に対する重大な裏切り
行為であり,到底考えられない。Aが本件詐欺に関して便益の提供を受け
た組織は,稲川会に他ならないというべきである。
オ以上より,Aの属する振り込め詐欺グループが行った本件詐欺は,威力
利用資金獲得行為に当たる。
(被告の主張)
アAは,原告に対しても本件共犯者らに対しても,全く威力を用いておら
ず,暴対法31条の2本文所定の「威力を利用」した事実は存在しない。
また,本件共犯者らにおいても,Aが暴力団に所属しているとか,稲川
会構成員であったとの事実について,明白な認識はなかった。
よって,Aらによる本件詐欺は,威力利用資金獲得行為には該当しない。
イ本件詐欺の巧妙な手口から判断しても,巧妙な手口を考案し,Aの更に
上部に位置して,Aに対して指導した上部組織の存在が窺われる。本件詐
欺の刑事事件において,Aがほとんど完全黙秘を貫徹したのも,このよう
な上部組織に対する配慮又は恐れのためであると思われるが,この上部組
織は稲川会ではない。
⑵争点⑵(被告は,本件詐欺に関し,暴対法31条の2ただし書1号に該当
するか。)について
(被告の主張)
Aは,稲川会山瀬一家B組組長代行であるGの配下であったが,本件詐欺
により得た利益はもちろん,何らかの経済的利得を直属の上位者であるGに
対して分配納付したことはなく,むしろ,Gは,Aに対し,月額30万円程
度の小遣い銭を渡していた。
仮に,Gが自己の直属する幹部であるB組組長に対して何らかの経済的利
益を納付し,更に同人から山瀬一家総長及び稲川会会長である被告に対して
順次経済的利益等が納付されていたとしても,その原資にAが本件詐欺によ
って得た利益は含まれておらず,被告は,本件詐欺により得られる資金を得
るために必要な地位を得ていない。
よって,被告は,本件詐欺に関し,暴対法31条の2ただし書1号に該当
し,同条本文の適用を除外されている。
(原告の主張)
暴対法31条の2ただし書1号は,極めて例外的な場合を規定するもので
あって,当該要件の充足性の判断は厳格になされなければならない。
被告が関与を示唆する稲川会とは異なる「特殊詐欺グループ上部組織」が
具体的にいかなる組織であり,いかなる関与を行ったのかについて,具体的
な主張を欠く以上,被告の抗弁は失当である。
⑶争点⑶(被告は,Aの使用者といえるか。)について
(原告の主張)
暴力団組織においては,組長と組員との間,及び,上部組織と下部組織と
の間において,絶対的な上命下服の関係が成り立っており,最高幹部の指示
に下部組織の構成員が従わないということは許されないから,暴力団の最高
幹部と下部組織の構成員との間には,暴力団の事業について,一般的に民法
7条1項の使用者・被用者の関係が成り立っているというべきである。
本件においては,被告は稲川会の組長であり,Aは稲川会の傘下組織に所
属する暴力団の組員であるから,被告とAとの間には使用者と被用者の関係
が認められる。
(被告の主張)
一般論としての主張は争わないが,稲川会は,配下構成員に対して特殊詐
欺に関与することを厳禁していたから,Aらが行っていたという本件詐欺は
稲川会の事業とは認められず,被告が管理支配下において統制していた事実
もない。
したがって,被告とAとの間に使用者と被用者の関係も存在しない。
⑷争点⑷(本件詐欺は,稲川会の事業として行われたものか。)について
(原告の主張)
暴力団は,疑似的血縁関係の下,親である会長を頂点とするピラミッド型
の指揮命令系統を有し,構成員らによる「シノギ」と呼ばれる様々な違法行
為又は違法な経済活動によって活動資金を獲得することを特徴とする組織で
あり,親である会長は,配下の組員らが,シノギによって資金を獲得し,こ
れを上納金として組の上部組織へ納めていることを当然に認識しつつ,これ
を容認している。
稲川会でも,近年,多くの組員が特殊詐欺をシノギとしており,特殊詐欺
による収益から上納金を納めている。被告は,こうした状況を当然に認識し
つつ,これを容認し,配下組員が特殊詐欺によって集めた収益から上納金を
受け取り,これを稲川会の活動資金としているのであるから,稲川会組員に
よる特殊詐欺行為は,稲川会の事業に当たる。
(被告の主張)
稲川会は,本件詐欺のような特殊詐欺事案に配下構成員が関わることを厳
禁しており,幹部会等における指導に加え,Aが所属する系列の上部団体で
ある山瀬一家及びB組のいずれにおいても,このことを折に触れて配下組員
に厳しく示達している。
Aは,本件詐欺の遂行について稲川会組織のいずれからも直接間接を問わ
ず指示,支援又は協力を受けたことはなく,Gは,Aが本件詐欺に関わって
いることを全く知らなかった。
よって,本件詐欺は,稲川会の事業とはいえない。
⑸争点⑸(損害の発生及びその額)について
(原告の主張)
原告は,本件詐欺によりAらに合計万円を詐取された。したがっ
て,原告には同額の財産的損害が発生した。
また,原告が本件詐欺により被った精神的苦痛は,仮にその財産的損害が
全て回復したとしても慰謝されるものではないことから,別途精神的損害の
賠償が認められるべきであり,これに対する慰謝料は00万円を下らない。
本件は,指定暴力団の組員を首謀者とする組織的かつ悪質性の高い事案で
あることなどの事情から,原告は,多数の弁護士による弁護団を結成して対
応することを余儀なくされたのであり,本件における弁護士費用は00万
円を下らない。
以上のとおり,本件詐欺により原告が被った損害の合計は20万円で
ある。
(被告の主張)
財産的損害については不知。
財産犯による被害として,精神的損害を認める必要はない。
本件が暴力団の会長を被告とする事案であるからといって,格別に弁護士
費用を高額に見積もる理由はない。
第3争点に対する判断
1認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
⑴稲川会について(争いなし)
ア稲川会は,構成員約00名と全国の暴力団の中で4番目の規模を有
し,平成28年末における全暴力団構成員のうち約13.8%を占めてい
る。稲川会は,平成4年6月23日に暴対法3条の暴力団として初の指定
を受けて以降,3年間の指定の有効期限ごとに,東京都公安委員会による
指定を受け続けている。
イ稲川会においては,組織を代表する会長である被告を頂点に,理事長,
顧問等の各役職が置かれ,各役職には最高幹部が名を連ねている。こうし
た者らで構成される一次団体が稲川会の本部機能を担っており,これらの
各役職者の多くは,二次団体の代表の地位も兼ねている。
一次団体の長である被告は,二次団体の各代表との間で,二次団体の代
表若しくは幹部は,それぞれに属する三次団体の代表との間で,親子の擬
制的血縁関係を結んでいる。
ウ一次団体では,稲川会の活動方針や人事等が審議の上で決定されるが,
最終的な決定権は会長である被告にある。ここで決定された事項は,二次
団体から三次団体へと伝えられ,下部組織の構成員に対して絶対的な拘束
力と強制力を持っている。
エ下部組織は,自らを表示する場合,「稲川会」を冒頭に掲げ,次に二次団
体である一家名を入れ,その次に三次団体である組の名称を付すという形
で,自らの組織が稲川会の傘下に属する組織であることを明確にしている。
稲川会の下部組織に加入した者は,稲川会の名称や代紋の使用を許され,
また,指定暴力団である稲川会の威力を利用した資金獲得行為を行うこと
を容認される。
オ稲川会の構成員となった者は,その地位に応じた金員を定期的に上部組
織に対して上納する義務を負う。こうした上納金制度の存在は,暴力団一
般に認められるものである。
カAは,稲川会山瀬一家B組に所属し,B組組長代行のGの配下であった
が,本件詐欺による有罪判決の宣告を受けた後,稲川会山瀬一家の名で破
門された(乙1)。
⑵暴力団と特殊詐欺の関係
ア特殊詐欺に関する検挙人員のうち,暴力団構成員及び準構成員その他の
周辺者(以下「暴力団構成員等」という。)が占める割合は,平成26年に
おいては3.2%,平成27年においては33.0%,平成28年は2
6.3%であった(甲19〜21)。
イ暴力団構成員等の罪種別検挙人員において,詐欺の占める割合は,平成
19年は6.4%であったのに対し,平成26年は.4%,平成27
年は.%,平成28年は.3%と増加している。これは,平成
26年から平成28年においては覚せい剤取締法違反,傷害に次いで3番
目に多く,恐喝(4〜%程度)を上回っている。(甲19〜21)
ウ平成27年頃,H組員が指示役を務め,その下でI組の周辺者1人とJ
組員2人が特殊詐欺を行っていたとして,それぞれ逮捕された事件がある
(甲22)。
⑶稲川会と特殊詐欺の関係
ア稲川会の構成員が特殊詐欺により検挙されたとして報道された事例は,
少なくとも,平成年2月23日に2件,同年8月1日,平成26年6
月12日,同年7月日,同年9月24日,平成27年1月23日,同月
24日,同年4月24日,同年6月日,同年11月日,平成28
年3月日,同年9月8日,同月12日(いずれも報道の日)に各1件
の合計14件あった(甲23〜27,34〜42)。
イ稲川会山瀬一家K組の組員であるLは,平成29年3月27日から同月
31日までの間に,3名の被害者から特殊詐欺により1223万9000
円をだまし取ったところ,K組の組事務所において,被害者からだまし取
った現金及びキャッシュカードを共犯者から受け取り,組事務所にある計
数機を用いて金額を確認していた。(甲0〜83)
稲川会山瀬一家K組の組長であるMは,平成30年月9日,平成2
9年月上旬に特殊詐欺の犯罪収益の一部と知りながら,銀行のATMか
ら引き出された現金67万円を収受した疑いで,組織犯罪処罰法違反(犯
罪収益の収受)容疑で逮捕された。報道では,Lらが当該特殊詐欺で得た
利益の一部をMが受け取った疑いがあることが判明したとされている。
(甲84〜88)
Lは,平成30年4月,稲川会山瀬一家の名で破門の処分を受けた(乙
,6)。
ウ稲川会は,本件詐欺のような特殊詐欺事案に配下構成員が関わることを
厳禁しており,幹部会等における伝達に加え,Aが所属する系列の上部団
体である山瀬一家及びB組のいずれにおいても,このことを定例会などに
おいて配下組員に伝えている(甲22,乙2,3,証人G,証人M)。
⑷本件詐欺等について
ア本件詐欺グループの手口は,詐欺の方法を記載したマニュアルに沿って,
マスコミ関係者に成りすまして家族関係や資産状況を聞き出した上で,資
産があると判断した者に対し,第三者が被害者名義で商品の代金を送金し
ているが,これは,被害者が違法な名義貸しをしたことになるなどと述べ,
その解決金名目や起訴を免れるためと偽って現金を送付させるという方法
で行われ,被害者からだまし取った現金は,事情を知らない第三者数名を
経由して,本件共犯者らが受領していた。(甲13,33,43)
イDは,平成27年1月ころ,顔見知りのAから,電話を架けるだけで稼
げる仕事があると誘われて,詐欺の仕事であることは分かったが,生活費
に窮していたため,金銭目当てで本件詐欺グループに加わり,名簿に登載
された者に対して電話を架ける役割を担当した。
Cは,遅くとも同年4月ころから,仕事があると誘われて,生活費に窮
していたため,金銭目当てで本件詐欺グループに加わり,名簿に登載され
た者に対して電話を架ける役割を担当した。
Eは,同年4月ころ,生活費に窮していたところ,友人のCから勧誘さ
れて,Aの面接を経て,本件詐欺グループに加わり,そのころまでには,
Fも,生活費欲しさから本件詐欺グループに加わり,主としてDの指示に
従って,電話を架ける役割を分担などしていた。(甲31,33,43,4
4)
ウAは,事務所では他の人と離れた上座の席に座っており,振り込め詐欺
で被害者から騙し取る金額や,金を転送させる順番等についての最終決定
をするほか,詐欺に使っていたマニュアル,携帯電話機や名簿などの手配,
事務所を引っ越す時期や引っ越し先の決定を行い,さらに,D,C及びE
の報酬をだまし取った金額の7%と決定し,Fの報酬をだまし取った金額
の%と決定し,それぞれ,封筒に入れて給料として手渡しをするなど,
本件詐欺グループのリーダーであった。(甲31,33,43,44)
エA及び本件共犯者らは,Aの指示により,互いに偽名や通称名で呼び合
っており,互いの本名を知らない本件共犯者らもいた。(甲31,33,4
3)
Eは,Cが,平成28年2月ころ,Aに対し,本件詐欺グループの事務
所に来る週1回以外の日は何をしているのか尋ねたところ,Aが,質問を
はぐらかし,はっきりと回答をしない様子を目撃したことがあったほか,
Aについて,詳しい団体等は分らないがヤクザであるとCから聞いていた
(甲31)。
Fは,司法警察員の取調べに対し,「暴力団関係者については,お話しす
ることができません。」とのみ供述し,本件詐欺に係る刑事裁判での被告人
質問において,詐欺グループに加わったいきさつについては,身の危険を
感じるから言えないと答えた(甲32,44)。
Cは,本件詐欺に係る捜査において,黙秘をして事件のことを一切話さ
なかったため,供述調書は作成されなかった。そして,刑事裁判の被告人
質問においても,自分自身の罪は認めたものの,他の者のことは言いたく
ないとして,本件詐欺グループに加わることになった経緯や,本件詐欺グ
ループ内における具体的な役割分担,誰から指示を受けていたのか等につ
いては,いずれも答えなかった。(甲43)
なお,Aは,本件詐欺の刑事裁判において,本件詐欺に関与したことを
否認していた(甲13)。
2争点⑴(本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたもの
か。)について
⑴原告は,Aが,^霎邁颪料反ノ呂鯒愀覆法に楫鏈承修魎泙牋賚△虜承醜
為の準備として,詐欺に使用する備品等を全て用意し,拠点となる事務所も
用意するなど指定暴力団特有の人的ネットワークを利用していた,∨塾話
組員という自己の経歴ないし地位を利用して,本件共犯者らに対して危害を
加える可能性のある者であることを認識させて内部統制のために威力を利用
していたとして,本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについて行
われたものであると主張する。
⑵暴対法31条の2が定められた趣旨は,指定暴力団の威力を示しての恐喝
や,みかじめ料の徴収といった指定暴力団員による指定暴力団の威力を利用
しての資金獲得行為に関連して発生した国民の生命,身体,財産に対する深
刻な被害について,民事手続によりその回復を図る場合において,直接の加
害者である末端の指定暴力団員に対して損害賠償請求をしても,十分な賠償
資力がなく,十分な被害回復が行われないおそれがあり,かつ,民法7
条(使用者責任)の規定によって,より賠償資力の見込まれる当該指定暴力
団の代表者等に対して損害賠償責任を追及しようとした場合には,事業性,
使用者性及び事業執行性の主張立証に困難を伴うものであることから,被害
者が,当該指定暴力団の代表者等に対して損害賠償責任を追及する場合に生
ずる立証負担の軽減を図ろうとしたものと解される(甲29)。
このような立法趣旨や,暴対法31条の2が,威力利用資金獲得行為につ
いて,当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事
業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行
為と定義するところ,その文言上,威力を示すとはされずに,威力を利用す
るとされていることからすれば,威力利用資金獲得行為は,ある程度幅の広
い行為態様を意味するものとも解しうる。
⑶Aは,本件詐欺グループでの活動を開始するに当たって,名簿,マニュア
ル,携帯電話機などの備品及び拠点となる事務所を用意していたことは認め
られるものの,これらの準備行為が具体的にどのように行われたかについて
の証拠は何ら提出されていない。
そして,Aがしたこれらの準備行為については,何らかの組織がAに協力
したことが窺えるものの,特殊詐欺に関する検挙人員に占める暴力団構成員
等の割合は3割前後であることからしても,必ずしも,Aに協力した組織が,
稲川会や指定暴力団であったとは認められるものではない。
そうすると,Aが,指定暴力団に所属しているとの地位を利用して,その
影響力を行使したり,その便益を利用したりして,資金獲得活動を効果的に
行ったとの原告の主張の前提となる事実は未だ認められない。
⑷Aが,本件共犯者らに対して,稲川会又は指定暴力団の何らかの威力を利
用したかについても,Aにおいて,本件共犯者らに対し,自らが稲川会の構
成員であることや,暴力団員であることを示したと認めるに足りる証拠はな
く,むしろ,前記認定事実のとおり,Aは,本件詐欺グループの事務所にい
ない時に何をしているか回答しようとしないなど,本件共犯者らに対して,
自らの素性を積極的に伝えようとしていなかったことからすれば,A自身が,
本件共犯者らに対し,自らが暴力団の構成員であることを明示的にも黙示的
にも明らかにしていたとは認められず,本件共犯者らに危害を加える可能性
のある者であることを認識させていたとはいえない。
他方,本件共犯者らのうち,Eは,CからAがどこかの団体の「ヤクザ」
であると聞いていたことが認められるから,Cも同様の認識を有していたこ
とが推認され,Fも,暴力団関係者が本件詐欺に関与していると考えていた
様子は窺えるものの,C及びFが,Aが暴力団員であると認識するに至った
根拠は,証拠上全く明らかではなく,C及びFは,Aが暴力団員であるとの
情報について,どの程度の確度のあるものと考えていたのかは明らかではな
い。
そして,本件共犯者らは,Aの指示に従って,特殊詐欺の実行行為を分担
していたものであるが,Aが,本件詐欺等に必要な備品等を手配し,本件共
犯者らを勧誘し,同人らに対して報酬を分配するなどしていたことからすれ
ば,本件共犯者らが,Aを本件詐欺グループのリーダーと考えて,その指示
に従うことは不合理・不自然ではないし,本件各共犯者らは,金銭目当てで
積極的に本件詐欺グループに加わった者であり,強制的に本件詐欺グループ
に加入させられたような事情も窺えないことからすれば,同人らがAの指示
に従って詐欺を行っていた事実をもって,直ちにAが指定暴力団の構成員で
あることを恐れて本件詐欺をしたと認められるものではない。
そうすると,本件共犯者らが,Aが暴力団員である可能性等を認識してい
たとしても,その事実をもって,Aが,指定暴力団員であることを利用して,
本件共犯者らをしてAの指示に従わせて詐欺をしていたとは未だ認められな
いし,その他に,Aが,犯行グループ内で指揮命令系統を維持確保し,規律
の実効性を高めるために稲川会又は指定暴力団の威力を利用して本件詐欺を
したと認めるに足りる証拠はない。
⑸以上によれば,本件詐欺は,威力利用資金獲得行為であると認めることは
できないから,被告に暴対法31条の2に基づく責任を認めることはできな
い。
3争点⑷(本件詐欺は,稲川会の事業として行われたものか。)について
⑴被告は,使用者性(争点⑶)についても争っているが,被告とAとの間の
一般的な関係性については争わず,本件詐欺が稲川会の事業ではないことを
理由に使用者性も否認しているから,便宜上,争点⑷から判断する。
⑵原告は,稲川会において多くの組員が特殊詐欺による収益を得ていること,
稲川会には上納金制度があり,特殊詐欺によって得た収益が上納金の形で上
部組織へと納められ,稲川会の活動資金になっていること,被告はこれを認
識しつつ容認していることを理由に,特殊詐欺は稲川会の事業であり,本件
詐欺は稲川会の事業として行われたものであると主張する。
なるほど,稲川会の構成員は,定期的に上部組織に対してその地位に応じ
た金員を上納する義務を負っており,近年,特殊詐欺の検挙人員のうち,暴
力団構成員等は2〜3割を占め,暴力団構成員等の罪種別検挙人員において,
詐欺は1割程度を占めていることからすれば,暴力団員が特殊詐欺によって
収益を得るケースは少ないとはいえず,稲川会についても,その構成員が特
殊詐欺により検挙された事例は,報道されただけでも14件あることが認め
られ,Aが所属していた稲川会山瀬一家B組と同じ二次団体(山瀬一家)の
傘下の三次団体であるK組においては,特殊詐欺の過程で組事務所が現金の
受渡しに用いられたことがあり,特殊詐欺の収益の一部を組長が受け取った
疑いで逮捕されるなどしている。
⑶本件詐欺グループについても,前記2⑶説示のとおり,何らかの組織がA
に協力したことが窺える上,詐欺によって得た利益のうち,Aの手元には7
4%が残る計算となるから,当該組織に対して利益の一部を移転していたこ
とも十分ありえるところ,Aは稲川会の構成員であり,稲川会の構成員が特
殊詐欺に関与した事例が複数あることからすれば,稲川会傘下の暴力団が,
Aに協力した組織であったとしても不自然ではない。
他方,稲川会は,本件詐欺のような特殊詐欺事案に配下構成員が関わるこ
とを厳禁しており,現に,Aも本件詐欺による有罪判決を受けた後に破門さ
れ,前記⑵説示のとおり,稲川会の構成員が特殊詐欺に係わった事例が散見
されるとしても,稲川会の構成員が約00名であることからすれば,特
殊詐欺に関与した構成員の割合はごく僅かといわざるを得ない。
しかも,報道によれば,H組員が指示役を務め,I組周辺者1名及びJ組
員2名が実行役を担っている特殊詐欺グループが存在するなど,暴力団組織
の枠組みにとらわれず,これを横断するような形態の詐欺グループが存在す
ることも窺われるのであって,暴力団員が特殊詐欺に関与する場面において,
必ずしもその背後にある組織が当該暴力団員の所属する暴力団とは限らない。
そうすると,Aが稲川会の構成員であり,稲川会の他の構成員が特殊詐欺
に関与した事例があるとしても,そのことによって直ちに本件詐欺グループ
に協力していた組織が稲川会であるとは認められないし,本件詐欺によって
得た収益金が稲川会傘下の暴力団に納められた事実や,被告がこれを認識し
つつ容認していた事実を認めるに足りる証拠もないから,本件詐欺が稲川会
の事業として行われたものと認めることはできない。
⑷よって,その余の争点について判断するまでもなく,被告は本件詐欺につ
いて使用者責任を負わない。
第4結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担
につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部
裁判長裁判官 小川理津子
裁判官 木村匡彦
裁判官 山田裕貴
別紙当事者目録は記載を省略

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