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ウェッジに330万円の賠償命令 研究ねつ造報道は誤り

 子宮頸(けい)がんワクチンの副作用に関する研究発表を「捏造(ねつぞう)」と報じた月刊誌「ウェッジ」の記事で名誉を傷つけられたとして、信州大医学部の池田修一・元教授が発行元と、執筆したジャーナリストらに約1100万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。男沢聡子裁判長は「記事の重要な部分が真実とは認められない」と述べ、ウェッジ側に330万円の支払いと謝罪広告の掲載などを命じた。
 ウェッジの2016年7月号やウェブマガジンは、池田氏が同年3月に発表した研究について、ワクチンの影響が強く出たマウス実験の結果を意図的に抽出したと報じた。判決は「池田氏が虚偽の結論をでっちあげた事実は認められない」と指摘。裏付け取材も不十分で、ウェッジ側が「捏造」だと信じた「相当な理由はない」と述べた。
 池田氏は「私の主張を的確に捉えてくれた判決」と評価。同社は「判決を真摯(しんし)に受け止めつつ、対応を検討する」とコメントした。
(3/26(火) 21:30 朝日新聞)

HPVワクチン名誉毀損、出版社などに330万円の支払いを命じる 東京地裁

 子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するための「HPVワクチン」の副反応を研究している元信州大医学部長の池田修一氏が、月刊誌「Wedge」の記事で名誉を毀損されたとして、出版社や医師でジャーナリストの村中璃子氏らを訴えていた裁判は3月26日、東京地裁で判決があった。
 男澤聡子裁判長は、出版元(ウエッジ)や村中氏、当時の編集長に対し、330万円の支払いと謝罪広告の掲載、ネット記事中の記述の一部削除を命じた。
 ●「捏造」の表現が争点に
 村中氏らは、「Wedge」の2016年7月号や関連するネットの記事で、池田氏が厚労省の成果発表会(2016年3月)で行なった発表の問題点を指摘し、見出しも含め「捏造」という言葉を複数回使った。
 池田氏は、意図的な不正はしていないと主張し、「捏造」は名誉棄損に当たるとして、約1100万円の損害賠償や謝罪広告の掲載などを求めて提訴。対する村中氏は、スラップ(いやがらせ)訴訟だと反訴していた。
 判決では、池田氏が「自分に都合が良いスライドだけを選び出した」などとする記述について、事実とは認められないと判断。裏付け取材も不足しているとして、真実相当性も否定した。
 なお、研究発表そのものについては、厚労省が「国民の皆様の誤解を招いた池田氏の社会的責任は大きく遺憾」と発表。所属していた信州大が設けた外部有識者による調査委員会も「混乱を招いたことについて猛省を求める」などと報告している。
(3/26(火) 13:41 弁護士ドットコム)

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平成31年3月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第2762号 損害賠償等請求事件(本訴)
平成29年(ワ)第14391号債務不存在確認請求反訴事件(第1反訴)
平成30年(ワ)第3253号 損害賠償請求反訴事件(第2反訴)
口頭弁論終結日平成30年11月13日
判決
主文
1被告会社,被告乙及び被告丙は,原告に対し,連帯して330万円
及びうち16万円に対する平成28年6月日から,うち16万
円に対する平成28年6月23日から,各支払済みまで年分の割合に
よる金員を支払え。
2被告会社は,月刊誌「Wedge」に,別紙1の謝罪広告を,別紙
2第1記載の掲載条件で掲載せよ。
3被告会社は,本判決確定の日から2週間以内に,ウェブマガジン
「WEDGEInfinity」における「子宮頸がんワクチン研究
班が捏造厚労省,信州大は調査委設置を利用される日本の科学報道
(続篇)」と題する記事のうち,別紙3記載の各記述を削除せよ。
4被告会社は,ウェブマガジン「WEDGEInfinity」に,
別紙4の謝罪広告を,別紙2第2記載の掲載条件で掲載せよ。
原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
6被告丙の第1反訴請求を却下する。
7被告丙の第2反訴請求を棄却する。
8訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを分し,その3を原告の,
その1を被告会社の,その1を被告乙の,その余を被告丙の負担とする。
9この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1本訴
⑴被告会社,被告乙及び被告丙は,原告に対し,連帯して1116万円及び
これに対する平成28年6月日から支払済みまで年分の割合による金
員を支払え。
⑵被告会社は,月刊誌「Wedge」に,別紙の謝罪広告を,別紙6第1
記載の掲載条件で掲載せよ。
⑶被告会社は,ウェブマガジン「WEDGEInfinity」における
「子宮頸がんワクチン研究班が捏造厚労省,信州大は調査委設置を利用
される日本の科学報道(続篇)」と題する記事のうち,別紙7記載の各記述
を削除せよ。
⑷被告会社は,ウェブマガジン「WEDGEInfinity」に,別紙
の謝罪広告を,別紙6第2記載の掲載条件で掲載せよ。
2第1反訴
被告丙が執筆した別紙記事目録記載⑴ないし⑸の各記事に関し,被告丙の原
告に対する名誉毀損による損害賠償債務の存在しないことを確認する。
3第2反訴
原告は,被告丙に対し,0万円及びこれに対する平成28年月
日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
本訴は,信州大学医学部教授であり,同大学の医学部長兼副学長であった原
告が,月刊誌「Wedge」(以下「本件雑誌」という。)及びウェブマガジ
ン「WEDGEInfinity」(以下「本件ウェブマガジン」とい
う。)に掲載された,原告が子宮頸がんワクチンの副反応の研究においてねつ
造行為をしたとの事実を摘示する記述により自らの名誉を毀損されたと主張し
て,本件雑誌を制作,発行し,かつ,本件ウェブマガジンを制作,発表した被
告会社,上記記述を含む記事が掲載された当時,本件雑誌及び本件ウェブマガ
ジンの編集人であった被告乙並びに上記記事を執筆した被告丙に対し,不法行
為に基づく損害賠償請求として,慰謝料及び本件雑誌の発行日である平成28
年6月日から民法所定の年分の割合による遅延損害金の支払を求めると
ともに,名誉を回復するための適当な処分として本件雑誌及び本件ウェブマガ
ジンへの謝罪広告の掲載等を求める事案である。
第1反訴事件は,本訴において原告が名誉毀損であると主張する記述を含む
前記記事の中で,上記記述を除く部分及び前記記事以外に被告丙が執筆した子
宮頸がんワクチンに関する記事について,被告丙が,原告に対し,不法行為に
基づく損害賠償債務のないことの確認を求める事案である。
第2反訴事件は,原告は,本訴について不法行為の成立要件を満たすもので
はないことを知り又は容易にそのことを知り得たにもかかわらず,被告丙の言
論を封殺し,子宮頸がんワクチン薬害国家賠償訴訟を有利に進める目的で,敢
えてこれを提起したと主張して,被告丙が,原告に対し,不法行為に基づく損
害賠償請求として,慰謝料及び本訴の訴状が被告丙に送達された日である平成
28年月日から支払済みまで民法所定の年分の割合による遅延損害
金の支払を求めた事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認められる事実)
⑴当事者
ア原告は,本件雑誌平成28年7月号が発行された同年6月日当時,
国立大学法人である信州大学医学部の教授であり,同大学の医学部長兼副
学長であった。
原告は,厚生労働科学研究費補助金を受けた新興・再興感染症及び予防
接種政策推進研究事業である「子宮頸がんワクチン接種後の神経障害に
関する治療法の確立と情報提供についての研究(以下「本件研究」とい
う。)」の研究代表者であった。
(争いがないほか,弁論の全趣旨)
イ被告会社は,図書,雑誌その他印刷物の開発,製作及び販売等を目的と
する株式会社であり,月刊誌「Wedge」(本件雑誌)を制作,発行す
るとともに,ウェブマガジン「WEDGEInfinity」(本件ウ
ェブマガジン)を制作,発表する会社である。
(争いがないほか,弁論の全趣旨)
ウ被告乙は,平成28年6月当時,本件雑誌及び本件ウェブマガジンの編
集人(編集長と同義)であった者である。
(争いがないほか,甲1,弁論の全趣旨)
エ被告丙は,医師・ジャーナリストの肩書で,本件雑誌及び本件ウェブマ
ガジンに後記本件各記事を執筆した者である。
(争いがないほか,甲1,2,弁論の全趣旨)
⑵本件研究におけるマウス実験及びその公表について
ア信州大学医学部特任教授A氏(肩書は平成28年6月当時。以下「A
氏」という。)は,本件研究の研究分担者である信州大学医学部教授B
(以下「B教授」という)から依頼され,本件研究の一環となる,子宮頸
がんワクチンを含む複数のワクチンを実験用の特殊なマウスに対して各々
接種して,各マウスから得られた血清を,正常なマウスの脳組織切片に振
りかけ,血清中の抗体が正常な脳の海馬の中枢神経細胞を認識すると緑色
に発色することにより,その反応の有無を観察することのできる実験(以
下「本件マウス実験」という。)を行った。
(争いがないほか,甲24,弁論の全趣旨)
イA氏は,平成27年12月28日に開催され,原告も出席した「プログ
レスミーティング」と称する信州大学の産科婦人科教室内で行われた研究
会(以下「本件ミーティング」という。)において,本件マウス実験にお
ける実験結果として,子宮頸がんワクチンを接種したマウスから得た血清
を振りかけて得られた画像と,それ以外のワクチンを接種したマウスから
得た血清を振りかけて得られた画像とを組み合わせたスライド(甲17㉛,
以下「本件A氏作成スライド」という。)を含む資料を示した。
本件A氏作成スライドは,本件マウス実験により得られた画像を組み合
わせたものである。組合せに用いた画像は,子宮頸がんワクチンについ
ては,画像全体が強く緑色に発色しているのに対して,他のワクチンの
場合,画像の辺縁部がわずかに発色するにとどまり,画像の大部分は緑
色に発色していない。
(争いがないほか,甲17,弁論の全趣旨)
ウ原告は,平成28年3月16日,厚生労働省における成果発表会(以下
「本件成果発表会」という。)において,本件A氏作成スライドを基に
「サーバリックスだけに自己抗体(IgG)沈着あり」などの記載が加え
られ,原告において白丸を付したスライド(甲,以下「本件スライド」
という。)のほか,「今後の取り組み」として,「サーバリックス接種群
においてのみ,マウス海馬への自己抗体(IgG)の沈着この抗体(I
gG)はヒト海馬へも沈着抹消神経障害あり」などと記載されたスライ
ド(甲4)を用いて発表を行った。
(争いがないほか,甲3,4,弁論の全趣旨)
エ株式会社TBSテレビ(以下「TBS」という。)は,平成28年3月
16日,報道番組である「NEWS23」(以下「本件番組」という。)
において,原告が「子宮頸がんワクチンを打ったマウスだけ,脳の海馬と
いって,記憶の中枢があるところに異常な抗体が沈着して,海馬の機能を
障害していそうだ。」,「これは明らかに脳に障害が起こっているという
ことです。ワクチンを打った後,こういう脳障害を訴えている患者さんの
共通した客観的所見がこうじゃないですか,ということを提示できてい
る。」と話す内容を放映した。
(争いがないほか,乙1,丙79の1・2,弁論の全趣旨)
⑶記事の掲載
ア被告会社は,平成28年6月日,「子宮頸がんワクチン薬害研究班
崩れる根拠,暴かれた捏造」と題する記事(以下「本件雑誌記事」とい
う。)が掲載された本件雑誌平成28年7月号を約12万000部発行
し,東海道新幹線のグリーン車内で無料配布するとともに,東海道新幹線
の列車内及び駅売店で販売した。
(争いがないほか,甲1,11,弁論の全趣旨)
イ被告会社は,同月23日,本件ウェブマガジンに「子宮頸がんワクチン
研究班が捏造厚労省,信州大は調査委設置を利用される日本の科学報
道(続篇)」と題する記事(以下「本件ウェブ記事」といい,本件雑誌記
事と併せて「本件各記事」という。)を掲載し,現在に至るまで公開を続
けている。
(争いがないほか,甲2,弁論の全趣旨)
⑷本件各記事の記載内容
ア本件雑誌記事(甲1)には,次の,らイ泙任粒撞述(以下,,竜
述を「本件記述 廚箸いぁき△らまでの各記述についての略称もこの
例によるものとし,本件記述 銑を併せて「本件各記述」という。)が
ある。
 峺Φ羲圓燭舛呂い辰燭げ燭剖遒蕕譴燭里子宮頸がんワクチン薬
害研究班崩れる根拠,暴かれた捏造」<40頁>
◆孱灰月に及ぶ取材で明らかになったのは,信じがたい捏造行為の
存在だった。」<41頁>
「A氏によれば(中略)手渡した資料には子宮頸がんワクチン以外
のワクチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあった。しかし,原告
教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光
っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表したのだという。
これは重大な捏造である。」<42頁>
ぁ屮船礇鵐團ンデータで議論を進めるのは紛れもない捏造であ
る。」<42頁>
ァ屬修譴召譴領場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――こ
れが国費を投じた薬害研究班の実態だ。」<44頁>
イ本件ウェブ記事(甲2)には,次のΔらまでの各記述がある。
Α峪匍樶瑤んワクチン研究班が捏造」<1頁>
А屬靴し,原告教授はこの組み合わせのスライドだけを選んで公表
した。」<2頁>
─崑召離錺チンでも強く光っている写真がたくさんあったのに,原
告教授は,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで
光っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表した。」<3頁

「これは『子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起き
た』と言うために造られた実験であり,“捏造の意図”があったと結論
付けざるを得ない。」<頁>
「それぞれの立場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――こ
れが国費を投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。」<7頁>
⑸原告は,平成29年6月13日に実施された第回口頭弁論期日において,
第1反訴につき,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事(ただし,記述
さ擇哭┐鮟く。)について,被告丙に,名誉毀損に基づく損害賠償債務が
存在する旨の主張をしない旨陳述した。
(当裁判所に顕著)
3主な争点
⑴本訴
ア本件各記述が,原告の社会的評価を低下させるものであるか。
イ本件各記述について,違法性阻却事由又は責任阻却事由があるか。
ウ原告に生じた損害額
エ原告の名誉を回復するのに適当な処分として,謝罪広告の掲載等が必要
か。
⑵第1反訴
ア被告丙の反訴請求について,確認の利益が存するか。
イ被告丙に,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事について,不法行
為に基づく損害賠償債務が存するか。
⑶第2反訴
ア原告が,本訴請求について,不法行為の成立要件を満たすものではない
ことを知り又は容易に知り得たにもかかわらず,敢えてこれを提起したと
認められるか。
イ被告丙に生じた損害額
4主な争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴ア本件各記述が,原告の社会的評価を低下させるものであるか。
【原告の主張】
ア本件記述,ぁきУ擇哭─憤焚次い海譴蕕鯤擦擦董嵋楫鏥載1」とい
う。)は,原告がA氏から手渡された子宮頸がんワクチン以外のワクチン
でも強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,子宮頸がん
ワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み
合わさったスライドだけを発表したという事実を摘示するものである(以
下「本件摘示事実1」という。)。
一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると,本件記述は,原告が
スライドに基づいて発表をした場面を指しており,前後の文脈からする
と,本件成果発表会での発表を指すものであって,本件番組で放映され
た原告の発言を「発表」に含めると解することはできない。
イ本件記述 銑Αき及び(以下,これらを併せて「本件記載2」とい
う。)は,本件摘示事実1を踏まえて,原告が本研究班のマウスを使った
動物実験に関してねつ造行為,具体的にはマウス実験について存在しない
データや研究結果等を作成した事実を摘示するものである(以下「本件摘
示事実2」という。)。
本件記載2において用いられている「捏造」という言葉は,研究活動の
不正行為等の定義として,「存在しないデータ,研究結果等を作成する
こと。」(「研究活動の不正行為への対応に関する指針」平成19年4
月19日決定)とされており,一般的にも「事実でない事を事実のよう
にこしらえること」(新村出編「広辞苑」第6版)とされており,評価
を表す言葉ではない。
ウしたがって,本件記載1及び2は,原告が,実験結果をねつ造する研究
者であるという印象を読者に与えるものであるから,原告の社会的評価を
著しく低下させるものである。
【被告らの主張】
ア原告は,本件研究において,比較の対象とはならない「遺伝子保有率」
と「遺伝子頻度」を比較するなど,研究者として基本的なミスを犯してお
り,この点に関して,厚生労働省が異例の発表を出したことや,本件雑誌
記事の本件各記述以外の部分において,本件研究が不適切であったことが
明らかにされたことにより,研究者としての原告の名誉は既に著しく低下
していたから,原告には本件各記述によって毀損される名誉が存在しない,
又は,毀損されたとしても毀損された名誉はごく僅少であるから,名誉毀
損が成立する余地はない。
イ原告の主張によれば,ねつ造行為として事実が特定されているのは,本
件記述とい任△襪箸海蹇に楫鏥述のうち「A氏によれば……とい
う。」の部分は,A氏に対する取材の結果を伝聞形式で紹介するものであ
り,A氏が取材において「手渡した資料には子宮頸がんワクチン以外のワ
クチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあった。しかし,原告教授は,
子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない
写真が組み合わさったスライドだけを発表した。」という趣旨の発言をし
た事実を摘示したものである。
本件記述のうち,「これは重大な捏造である。」の部分は,その前の
「手渡した資料には……発表したのだという。」の部分が真実であれば
それは「捏造」に値するとの趣旨で書かれたものであり,一般的読者も
そのように理解するであろうから,「これは重大な捏造である。」の部
分は,事実の摘示ではなく,単なる評価に過ぎず,そもそも名誉毀損に
は該当しない。
本件記述い砲弔い討蓮ぁ屮船礇鵐團ンデータで議論を進めるのは」
「捏造」に値するとの趣旨で書かれたものであり,一般的読者もそのよ
うに理解するであろうから,「紛れもない捏造である。」の部分は,事
実の摘示ではなく,単なる評価に過ぎず,そもそも名誉毀損には該当し
ない。
ウまた,本件記載2について,本件各記事における「捏造」とは,一般の
読者の普通の注意と読み方を基準とすると,「厚生労働分野の研究活動に
おける不正行為の対応等に関するガイドライン」にいう「捏造」ではなく,
読者一般が想定する一般的な意味で用いられたものであり,その内容とし
ては,㋐原告が,子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳にワクチンによ
る異常が発生したという科学的事実はなく,そもそも,このマウス実験は
ワクチン接種後に症状を訴えている患者とは何ら結びつけることができな
い実験だったにもかかわらず,原告が,あたかも子宮頸がんワクチンを打
ったマウスにのみ脳に障害が起こっており,子宮頸がんワクチンを打った
後,脳障害を訴えている患者の共通した客観的所見が提示できているよう
に本件番組で断定的に発言したこと(以下「本件対象事実㋐」といい,㋑
及び㋒についても同様とする。),㋑子宮頸がんワクチンを接種したマウ
スのみが強く緑色に光ったという事実は存在せず,それ以外のワクチンで
も強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,原告が,子宮
頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真
が組み合わさったスライドだけを発表し,もって,子宮頸がんワクチンを
接種したマウスのみが強く緑色に光ったものとして発表したこと,㋒原告
が,本件マウス実験の結果について,各群ごとに各1匹のマウスから採取
された血清を用いたものに過ぎないのに,さも結果を代表する意味を持つ
データが実験によって得られたかのように議論を進めたこと,以上の本件
対象事実㋐から㋒までの全ての事実又はこれらのいずれかの事実について,
「捏造」と評価されるべき旨を記載したものと読むべきである。
⑵争点⑴イ本件各記述について,違法性阻却事由又は責任阻却事由がある
か。
【被告らの主張】
ア本件記載2は,本件摘示事実1及び本件成果発表会から本件番組におけ
る原告の発言を前提として,それが「捏造」に相当すると評価したもので
あって,その行為は公共の利害に関する事実に係るものであって,かつ,
その目的は専ら公益を図ることにある。そして,前提としている本件摘示
事実1及びその他の前提事実はいずれも真実であり,人身攻撃に及ぶなど
意見ないし論評としての域を逸脱したものではないから,当該行為は違法
性を欠くものであって,不法行為が成立することはない。
イ本件記載1及び2がいずれも事実の摘示であるとしても,以下のとおり,
本件各摘示事実はいずれも公共性があり,かつ,公益目的においてなされ
た,真実ないし真実と信じるについて相当の理由がある表現であるという
べきであるから,違法性又は責任が阻却される。
真実性の証明の対象となる事実
本件摘示事実1の真実性の証明の対象となる事実は,一般の読者の普
通の注意と読み方を基準として摘示された事実である,A氏が「手渡し
た資料には子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった
画像が何枚もあった。しかし,原告教授は,子宮頸がんワクチンでよく
光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったス
ライドだけを発表した。」と発言した事実である。
また,本件摘示事実2の真実性の証明の対象となる事実は,本件対象
事実㋐ないし㋒が「捏造」,すなわち事実でないことをさも事実である
かのように作り上げたといえることである。
公共性又は公益目的
本件各記事は,我が国の子宮頸がんワクチン接種政策推進の可否を左
右し,公衆衛生向上の観点から重大な社会的意義を有し,国民の関心も
極めて高い子宮頸がんワクチンの副反応に関連する本件研究において,
適切さを疑われる研究が行われていた事実に関するものであるから,公
共の利害に関する事実に係るものであることは明らかである。
また,このように,重大な社会的意義を有し,国民の関心も極めて高
い子宮頸がんワクチンの副反応に関する研究において,不適切な研究が
行われていたとすれば,それは当該研究に対する国民の信頼を破壊する
行為であって,ひいては国のワクチン接種政策を誤らせる危険のある深
刻な問題である。本件各記事は,そのような政策の誤りを回避して,国
民の健康の増進に資するのために掲載されたものであるから,その目的
は,専ら公益を図ることにある。
本件摘示事実1についての真実性又は真実相当性
A氏は,被告乙及び被告丙がA氏に対して直接取材を行った際,「手
渡した資料には子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染ま
った画像が何枚もあった。しかし,原告教授は,子宮頸がんワクチンで
よく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさっ
たスライドだけを発表した。」との趣旨を述べたから,本件摘示事実1
は真実である。
仮に本件摘示事実1を「A氏が原告に手渡した画像の中には子宮頸が
んワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像があった」と読
む場合であっても,A氏は,被告乙及び被告丙がA氏に対して直接取材
を行った際,A氏は何枚もある画像を原告に渡し,原告が当該画像をピ
ックアップしたという趣旨の発言をしていたから,これを真実と信じる
に相当な理由があった。
本件摘示事実2に係る各対象事実についての真実性又は真実相当性
本件対象事実㋐について,原告は,本件マウス実験によっては結果を
代表する意味を持つデータが何ら得られていないのに,その事実を歪曲
し,結果を代表する意味を持つデータが得られたかのように画像及び棒
グラフを提示し,本件成果発表会で発表すると共に,本件番組で発言し
た。
また,本件対象事実㋑について,原告は,何枚もあるスライドの中か
ら,子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光って
いない写真が組み合わさったスライドだけを発表し,もって,子宮頸が
んワクチンを接種したマウスのみが強く緑色に光ったものとして発表し
た。
そして,本件対象事実㋒について,原告は,本件マウス実験の結果に
ついて,各群ごとに各1匹のマウスから採取された血清を用いたもので
あったに過ぎないのに,結果を代表する意味を持つデータが実験によっ
て得られたかのように議論を進めた。
したがって,原告は,事実でないことをさも事実であるかのように事
実を作り上げたといえるから,一般的な意味での「捏造」を行ったとい
える。また,仮にそうでないとしても,被告らは,A氏に対する取材を
行い,その結果について専門家である藤田保健衛生大学総合医科学研究
所教授C(心理学博士。肩書は当時。以下「C教授」という。)を始め
研究者の検証を経たこと,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌をA氏に
送付したが異論を述べられることはなかったことから,本件対象事実㋐
ないし㋒の事実が真実であると信じたのであり,真実と信ずるについて
相当の理由がある。
【原告の主張】
ア本件摘示事実1及び2は,いずれも論評ではなく事実の摘示である。
イ本件記載1及び2は,以下のとおり,いずれも公益を図る目的でなされ
たものではない上,本件摘示事実1及び2は,真実でもないし,被告らが
真実と信じるにつき相当の理由があったとも認められない。
公益目的がないこと
本件各記事は,子宮頸がんワクチンの安全性に疑念を抱くことを許さ
ない推進論者である被告乙及び被告丙が,公益目的を装って,子宮頸が
んワクチンの副反応を研究する者に対する研究妨害ないし口封じを意図
した悪質な人身攻撃であり,本研究班の研究内容に難癖をつけて妨害し,
中止に至らせることを目的としたものであり,およそ公益を図る目的に
出たものではない。
すなわち,当時の本件雑誌の編集人であった被告乙自ら取材を行い,
一面識もないB教授に対して取材を申し込むに際しても「期限(明日の
正午)までにお答えがない場合,……,ご回答は『YES』であったと
理解して記事化させていただきます」と記載した電子メールを送付する
など,強引な決めつけを行い,被告乙自ら,本件雑誌記事の掲載された
本件雑誌の正式出版前に,原告の所属する信州大学学長に宛てて本件雑
誌と共に「大学として何らかの措置をとられるべき」と記載した手紙を
送付したり,厚生労働省の担当部局を訪れて本件雑誌を配布したりする
などの行動をしていたことからすると,公益目的はおよそ認められない。
本件摘示事実1について真実性及び真実相当性がないこと
本件摘示事実1は真実ではない。原告は,A氏から,「子宮頸がんワ
クチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像」を受け取った事実
がない。
原告は,B教授から,本件マウス実験に関するスライド資料(甲6)
を受け取っただけであり,その資料の中には,本件マウス実験に関する
スライドは,1枚(14枚目)しかなく,その1枚は本件A氏作成スラ
イドと同一のものであった。
したがって,原告が本件成果発表会用の資料を選定するにあたり,本
件マウス実験について子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色
に染まった画像が何枚も存在したという事実がなく,子宮頸がんワクチ
ンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わ
さったスライドだけを選ぶ余地もない。
そして,上記スライドの画像しかない以上,原告が仮説にとって都合
の良いデータをチャンピオンデータとして選択することは不可能であり,
原告がチャンピオンデータで議論を進めたという記述も誤りである。
また,被告らは,本件各記事を掲載又は発表するにあたって,A氏の
取材以外に裏付け取材を何も行っておらず,真実相当性が認められる余
地はない。そのA氏の取材についても,A氏の発言を裏付ける重要な客
観資料であるスライドについて,結局,A氏から提供を受けられず,A
氏の取材における発言の信用性は低下していた。
本件各記事は,研究者である原告に対して「捏造」という極めて重大
な非難を行う記事であるにもかかわらず,これについて原告に何らの確
認を行っていない。また,B教授に対する取材についても,前述のとお
り「期限(明日の正午)までにお答えがない場合,……,ご回答は『Y
ES』であったと理解して記事化させていただきます」などと記載した
一方的な電子メールを送付したに過ぎず,結局,実質的な裏付け取材は
何ら行っていなかった。
したがって,本件各記事に関する裏付け取材は,事実上全く行われて
いなかったから,被告らが本件摘示事実1を真実であると信じるについ
て相当な理由があったということはできない。
本件摘示事実2について真実性及び真実相当性がないこと
本件摘示事実2について,原告が「マウスを使った動物実験に関して,
存在しないデータや研究結果を作成した」というねつ造の事実はない。
したがって,本件摘示事実2は真実でないし,真実であると信じたこ
とが相当であると評価できないことは,上記同様である。
⑶争点⑴ウ原告に生じた損害額
【原告の主張】
原告は,本件各記述による名誉毀損により,実験結果をねつ造する研究者
であると目され,原告の研究者,医療従事者としての社会的評価は著しく失
墜させられた。原告は,被告らの不法行為により,多大な精神的苦痛を被っ
ており,この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,00万円を下らな
い。
また,原告は,本件訴訟追行のため,弁護士に依頼せざるを得なくなった
から,弁護士費用である116万円が被告らの不法行為と相当因果関係のあ
る損害である。
【被告らの主張】
争う。
争点⑴ア【被告らの主張】において記載したとおり,原告は,平成28年
3月16日,本件成果発表会及び本件番組において,大多数の研究者及び医
師が「捏造」と評価する発表を自ら行ったことにより,研究者としての名誉
を完全に喪失し,又はその資質に疑問を抱かれて当然であるから,本件各記
事が掲載された平成28年6月時点において,原告には研究者として毀損さ
れる名誉が存在しない。
したがって,原告には,本件各記事の掲載と相当因果関係のある損害が生
じていない。
⑷争点⑴エ原告の名誉を回復するのに適当な処分として,謝罪広告の掲載
等が必要か。
【原告の主張】
本件各記述によって毀損された原告の社会的評価を回復するためには,慰
謝料のみでは足りず,本件雑誌及び本件ウェブマガジンにおける謝罪広告が
必要である。
さらに,本件ウェブ記事は現在も本件ウェブマガジン上に掲載されている
ところ,本件ウェブ記事の掲載を継続すれば,被告らから原告に対して慰謝
料が支払われたとしても,なお名誉毀損が継続することになるから,本件ウ
ェブ記事のうち,別紙7記載の記述部分の削除も必要である。
【被告らの主張】
争う。
⑸争点⑵ア被告丙の反訴請求について,確認の利益が存するか。
【被告丙の主張】
原告は,本件各記事の中で,本訴請求において名誉毀損であると主張する
本件各記述以外の部分及び本件各記事以外に被告丙が執筆した子宮頸がんワ
クチンに関する記事について,請求原因を追加する予定である旨を主張する
から,今後名誉毀損に基づく損害賠償請求をされるおそれがあり,確認の利
益がある。
【原告の主張】
債務不存在確認請求において,確認の利益が認められるためには,被告丙
の権利ないし法的地位に危険又は不安が現存し,その除去のため確認判決に
よって即時に権利ないし法的地位を確定する必要がある場合でなければなら
ない。
原告は,被告丙に対し,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事(ただ
し,本件記述さ擇哭┐鮟く)について,名誉毀損に基づく損害賠償請求権
の存在を主張しない。なお,本件記述さ擇哭┐砲弔い討蓮に楞弊禅瓩砲い
て,名誉毀損に基づく損害賠償請求の対象としているから,この部分につい
ても確認の利益がない。
したがって,第1反訴は訴えの利益を欠くから不適法であり,却下される
べきである。
⑹争点⑵イ被告丙に,別紙記事目録記載⑴から⑸までの各記事について,
不法行為に基づく損害賠償債務が存するか。
【被告丙の主張】
別紙記事目録記載⑴から⑸までの各記事について,原告に対する名誉毀損
は成立しないから,これらの各記事に関して,被告丙が原告に対して不法行
為に基づく損害賠償債務を負うことはない。
【原告の主張】
原告が,被告丙に対し,別紙記事目録記載の⑴から⑸までの各記事(ただ
し,本件記述さ擇哭┐鮟く)について,名誉毀損に基づく損害賠償請求権
の存在を主張していないのは,前記⑸【原告の主張】のとおりである。
⑺争点⑶ア原告が,本訴請求について,不法行為の成立要件を満たすもの
ではないことを知り又は容易に知り得たにもかかわらず,敢えてこれを提起
したと認められるか。
【被告丙の主張】
原告は,本訴請求について不法行為の成立要件を満たすものではなく,事
実的・法律的根拠を欠くことを知り又は通常人であれば容易にそのことを知
ることができた。
本訴の提起は,科学的観点から子宮頸がんワクチン薬害説を否定する被告
丙の言論を封殺し,子宮頸がんワクチン薬害国家賠償訴訟を有利に進めるた
めに提起されたものであるから,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当
性を欠くものとして違法であって,原告は被告丙に対し,不法行為に基づく
損害賠償責任を負う。
【原告の主張】
争う。
原告は,本件マウス実験に関与しておらず,本件マウス実験にねつ造や改
ざん行為がなかったことは,信州大学が設置した調査委員会も認定したとお
りであって,原告が何らねつ造行為をしていないことは客観的にも明らかに
なっている。
したがって,原告による本訴請求は,事実上・法律上根拠を欠くものでは
ないから,原告の本訴提起が被告丙に対する不法行為になる余地はない。
⑻争点⑶イ被告丙に生じた損害額
【被告丙の主張】
被告丙は,原告の本訴提起により,連載を失うなど,ジャーナリストとし
て大きな打撃を受け,本訴の対応のために精神的に疲労困憊しており,多大
な精神的苦痛を被った。この精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は,0
万円を下らない。
【原告の主張】
争う。
第3争点に対する判断
1前記前提事実のほか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
⑴当事者
ア原告は,平成年4月に信州大学医学部の教授に就任し,本件各記事
が掲載された平成28年6月当時,同大学の副学長及び同大学医学部長を
務めていた。
(争いがないほか,甲19,弁論の全趣旨)
イ被告会社が発行する本件雑誌は,主に東海道新幹線のグリーン車内で無
料配布されると共に,東海道新幹線の列車内及び駅売店等でも販売されて
おり,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌平成28年7月号の発行部数は
約12万000部であった。
また,被告会社の発表する本件ウェブマガジンは,誰でも閲覧できるよ
うに公開されており,現在も,本件ウェブ記事は掲載されている。
(争いがないほか,甲11,弁論の全趣旨)
ウ被告乙は,平成18年から被告会社において編集者として勤務し,平成
23年に編集責任者となり,本件各記事が掲載された平成28年6月当時,
本件雑誌及び本件ウェブマガジンの編集人として,編集責任者の地位にあ
った者である。
被告乙は,平成28年6月末で,本件雑誌の編集責任者を退任すること
になっていた。
(争いがないほか,甲1,被告乙本人,弁論の全趣旨)
エ被告丙は,医師免許取得後,世界保健機関(WHO)やワクチンを製造
する製薬会社に勤務し,平成26年頃から医療問題に関する執筆活動を行
うジャーナリストとして活動する者であり,本件各記事の執筆者である。
被告丙は,子宮頸がんワクチンに関して,その接種による副反応につい
て,科学的とはいえない診断や治療が行われていることに対して危機感
を持ち,接種を勧奨する立場から,被告乙の協力を得て,同ワクチンに
関する取材,執筆等を行っている。
(争いがないほか,丙71,弁論の全趣旨)
⑵本件研究における本件ミーティング開催までの経緯
ア原告は,平成11年から厚生労働省(当時の厚生省)の研究事業に携わ
るようになり,厚生労働省から,平成27年,「子宮頸がんワクチン接種
後の神経障害に関する治療法の確立と情報提供についての研究(本件研
究)」を単年度で依頼され,その後,平成28年から平成30年までの間,
本件研究の成果を踏まえて「子宮頸がんワクチン接種後に生じた症状に関
する治療法の確立と情報提供についての研究」の依頼を受けた。原告は,
これらの研究の研究代表を務めている(以下,原告が研究代表を務める,
本件研究等を行っていた研究者グループを称して「原告班」という。)。
(争いがないほか,甲19,弁論の全趣旨)
イ原告が,各研究分担者の研究を研究代表者として取りまとめる際には,
各研究分担者が十分な経験を有する研究者であることに鑑みて,各研究分
担者の具体的な研究内容を指示したり,指揮監督したりするのではなく,
研究班の班会議を行って各研究分担者の報告内容を議論した上で,各研究
分担者が報告書を作成し,これを取りまとめるという順序で行っていた。
(甲8,9,19,原告本人,弁論の全趣旨)
ウ厚生労働科学研究費補助金事業は公募によるものが通常であるが,本件
研究は,厚生労働省が平成年4月に子宮頸がんワクチンについて定期
接種に指定したものの,同ワクチンの副反応とみられる症状を訴える複数
の患者が現れたことから,積極的接種勧奨を差し控えることとされた,と
いう経緯を受けて,厚生労働省から研究タイトルと研究期間(1年)を指
示して依頼されたものである。
(甲19,弁論の全趣旨)
エB教授は,本件研究の研究分担者の一員であるところ,「子宮頸がんワ
クチンの視床下部ホルモンへの影響検討」と題して,原告班においても子
宮頸がんワクチン自体の生物学的作用を研究対象としていた。
原告は,本件研究の研究分担者に対し,平成28年1月8日に班会議を
実施すること及び同班会議における各研究分担者の発表の演題や抄録の
送付を依頼し,これを受けて,B教授は,平成27年12月3日,原告
に対して,「Cervarix(子宮頸がんワクチン)接種による中枢
神経細胞を認識する自己抗体の産生誘導」との演題で発表したいとの連
絡をし,抄録のファイルを送付した。
これに関心を抱いた原告は,平成27年12月28日のプログレスミー
ティング(本件ミーティング)に出席することとした。
(甲6,19,原告本人,弁論の全趣旨)
⑶本件マウス実験について
アA氏は,平成年11月頃,B教授から,子宮頸がんワクチンの副反
応について,マウスを用いた実験を行ってみないかと誘われ,同実験を行
うことになった。
ただし,A氏は,研究分担者となるわけではなく,B教授の研究の一環
として,自己の研究結果を研究分担者であるB教授に報告し,B教授が
原告に報告するという関係であった。
(甲8,9,19,24,証人A,原告本人,弁論の全趣旨)
イA氏は,B教授から,動物に子宮頸がんワクチンを打った場合に特異的
な反応が出るかどうかを試しに見てもらえないか,という概括的な指示を
受け,検討した結果,A氏が,従前,NF−κBp0欠損マウスと呼ば
れる,自己免疫疾患の素因を有し,ワクチンの接種の有無に関わらず加齢
により自己抗体を産生し,神経変性が起きやすいマウス(以下「本件マウ
ス」という。)による実験を行った経験があり,本件マウスについての高
い知見を有していたことから,上記実験で用いるマウスについても,本件
マウスによることとした。
(甲24,36,証人A,原告本人,弁論の全趣旨)
ウA氏は,子宮頸がんワクチンと生理食塩水とを接種したマウスからそれ
ぞれ血清を採取して,これを希釈した上で正常なマウスの脳組織切片に振
りかける,免疫組織化学染色法を行った実験結果について,B教授に報告
し,B教授は,原告も参加した平成27年1月の班会議において,A氏の
前記実験結果を踏まえた報告を行った。
B教授の上記の実験報告を聞いた原告が,子宮頸がんワクチン以外のワ
クチンとも比較対照してみてはどうかという趣旨の提案をした旨伝え聞
いたA氏は,子宮頸がんワクチン及び生理食塩水に加えて,インフルエ
ンザワクチン,B型肝炎ワクチンについても,本件マウスに接種して,
同様に免疫組織化学染色法による検討を行うこととした(本件マウス実
験)。
A氏は,本件マウスを用いて本件マウス実験を行い,子宮頸がんワクチ
ンにおいて,有意かつ早期に自己免疫疾患が認められるかどうかを検討
することにした。
ただし,本件マウス実験は,単年度の研究の中で行われるものであり,
限定された予算の下で,各群匹程度の規模で行われる予備的な実験で
あって,これにより有意な実験結果を得ることは不可能であり,さらに
マウスの数を増やして相当な匹数(1群匹程度)で実験を行う必要
があることはA氏自身も認識していた。
(甲19,24,36,証人A,原告本人,弁論の全趣旨)
エA氏は,平成27年2月頃から本件マウス実験を開始し,各群ごとにマ
ウス1匹から得られた血清を用いて,複数枚の画像を撮影した。
A氏が撮影した画像の中には,自己抗体を産生しやすい本件マウスの特
性から,本件マウスから得た血清の希釈倍率が低かったために,いずれ
の群についても強く緑色に光るなどして,有意に子宮頸がんワクチンを
接種したマウスと,それ以外のワクチン等を接種したマウスとの差別化
を示すことのできなかった画像もあった。
A氏は,本件マウス実験で得られた画像のうち,子宮頸がんワクチンに
よってのみ緑色を呈し,それ以外のワクチン等では発色が見られないよう
な,適切な倍率で血清を希釈して行った実験によって得られた画像を組み
合わせて,本件ミーティングの資料となる本件A氏作成スライドを作成し
た。
A氏が,本件ミーティングまでの間に,本件マウス実験について子宮頸
がんワクチンを用いて得られた画像と,それ以外のワクチン等を用いて
得られた画像とを組み合わせて作成したスライドは,本件A氏作成スラ
イドの1枚のみである。
(甲24,36,証人A,弁論の全趣旨)
⑷本件ミーティングの実施内容及びその後の状況
ア本件ミーティングは,平成27年12月28日,信州大学医学部産婦人
科教室で開催され,原告,B教授,A氏のほか,同教室に所属する医局員
ら総勢数十人が参加した。
A氏は,本件ミーティングにおいて,本件A氏作成スライドを含む47
枚のスライド(甲17)を示しながら説明を行った。
(甲17,19,24,37,原告本人,弁論の全趣旨)
イB教授は,本件ミーティングの後,A氏が資料として用いたスライドを
交付するようA氏に依頼し,A氏は,本件A氏作成スライドを含む資料の
スライド(甲17)を,「宅ふぁいる便」と称するファイル転送サービス
を用いて,B教授に送付した。
(甲24,証人A,弁論の全趣旨)
ウ原告班は,平成28年1月8日,班会議を開催し,原告,B教授のほか,
厚生労働省における本件研究の担当者であるD氏らが参加した。
B教授は,上記班会議において,本件A氏作成スライドに自ら手を加え
たスライド(甲7,以下「本件B教授作成スライド」という。)を示しな
がら研究報告を行った。
本件B教授作成スライドは,本件A氏作成スライドに,「サーバリック
スだけに自己抗体(IgG)沈着あり」との記載が書き加えられるとと
もに,当初は別のスライド(甲17㉜)で示されていた画像の蛍光強度
を示すグラフ(以下「本件グラフ」という。)が画像の右上に配されて
いる。
本件グラフには,左から「Flu.(注:インフルエンザワクチンを指
す。)」,「HBV(注:B型肝炎ワクチンを指す。)」,「Cer.
(注:子宮頸がんワクチン『サーバリックス』を指す。)」,「PBS
(注:生理食塩水を指す。)」が順に並べられ,それぞれ赤色と緑色の
2つの棒グラフが示されている。棒グラフの内,赤色のグラフはいずれ
も1〜140の値を示し,大きな差が見受けられないのに対して,
緑色のグラフは,「Cer.」以外はいずれも2.〜3.0の小さい
値を示す一方で,「Cer.」のみ72と大きな値を示している。
(甲6,7,19,24,証人A,弁論の全趣旨)
⑸成果発表会における発表の内容
ア厚生労働省は,平成28年3月16日,本件研究の成果発表会(本件成
果発表会)を,現段階での研究の進捗状況について,成果という形で発表
することにより,協力医療機関の先生方の診療に役立つ情報提供となるこ
とを企図して開催した。
成果発表会は,非公開で行われるのが通例であったが,本件成果発表会
は,公開で行われた。
(甲18,19,原告本人,弁論の全趣旨)
イ原告は,本件成果発表会において,本件スライドを含む資料(甲4)を
示しながら,子宮頸がんワクチンの副反応を訴える患者0例以上の臨
床データや,高次脳機能検査及び脳SPECT画像検査の結果などについ
て報告した上で,疾患感受性遺伝子がある可能性についても言及し,最後
に,本件マウス実験について,「脳の海馬と呼ばれている記憶の中枢のと
ころに,このHPVワクチンを打ったマウスだけ,こういう異常抗体がつ
いている。すなわち,脳を攻撃する異常な抗体がこのマウスにはできたと
いうことが分かりました。現在,その抗体の性状を詳しく分析していると
ころなんですが,同時に,このマウスの,こういう皮膚,足の足底の皮膚
の中の神経,こういうところですね,これを電子顕微鏡で見てみるとです
ね,皮内の神経,こういうものですが,どの神経も壊れている。だからこ
のマウスは脳と末梢神経と同時に障害を受けていそうだ,人の子宮頸がん
ワクチンの反応の解析をするモデルになりそうだというところまできてお
ります。ただ,まだ調べて確定したものではない。今後,このマウスの機
序をもっと深部,調べて,ワクチン成分の何がこういうことを起こしてい
るのかということの研究に使えればと考えております。」と述べた。
(甲3,4,18,19,丙37,弁論の全趣旨)
⑹NEWS23の報道内容
TBSは,平成28年3月16日,本件番組を放送し,同月14日に原告
に対する取材を行った際に,原告がした発言のうち,「子宮頸がんワクチン
を打ったマウスだけ,どうも脳のですね,海馬といって,記憶の中枢がある
ところに,異常な抗体が沈着して,海馬の機能を障害していそうだ。」と述
べた部分と,「高次脳機能障害が生じている患者の,高次脳機能検査及び脳
SPECT画像検査の各所見から」,「これは明らかに脳に障害が起こって
いるということですね。ワクチンを打った後こういう脳障害を訴えている患
者さんの共通した客観的所見がこうじゃないですかということを提示できて
いる。」と述べた部分を,編集して放送した。
また,TBSは,本件番組において,「子宮頸がんワクチン」を接種した
マウスの絵の直下に「異常あり」との記載と共に,緑色を呈する画像を配し,
「インフルエンザワクチン」及び「B型肝炎ワクチン」を接種したマウスの
絵の直下に何も記載せず,緑色がわずかにしか見られない画像を配した画面
を放送した。
(甲2,19,乙1,丙79の1〜3,弁論の全趣旨)
⑺被告乙及び被告丙の取材状況
ア被告乙及び被告丙は,本件成果発表会及び本件番組における原告の発言
を知ったことから,これを検証して報道しようと考え,C教授に協力を求
めた上で,原告や,A氏への取材を行うこととした。
(乙9,12,丙71,被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)
イ被告丙は,平成28年3月22日,原告に対して,本件マウス実験等に
関する12項目の質問を列挙した電子メールを送付した。
原告は,同月23日,「メール拝見しました。HLAgeno−ty
pingの結果あ(ママ)表示で,DPB10:01allel
eについてその遺伝子頻度とこのAlleleをヘテロまたはホモで有
している個体頻度をもう少し明瞭に分けて示さなかったことが混乱の原
因になったと考えております。鹿児島大学のデーターについてはE教授
へ直接お問い合わせ下さい。私達が脳障害とした診断根拠等は現在論文
にまとめている最中であります。……。マウスの実験は私ではなく,信
州大学の他の研究者が発案して実施しております。私は皮内神経の障害
の有無を検索する役割を担っております。このノックアウトマウスは学
内の研究室で長年自己免疫疾患の研究に使用しており,免疫異常を引き
起こしやすいから使用しているとのことです。実験結果の詳細は,研究
のoriginalityと論文作成のためお話しすることはできませ
ん。電子顕微鏡写真等の個別データーの解説は控えさせていただきます。
……。以上,私の回答できる範囲で述べさせていただきました。」と記
載された電子メールを,被告丙に送信した。
(甲21,弁論の全趣旨)
ウC教授は,原告に対し,A氏への面談を実施する前に,本件マウス実験
に関するデータの開示と発表内容の訂正を提案した。
原告は,平成28年4月8日,C教授に対し,「ご指摘の点については
近日中に厚労省の方から提示する予定です。マウスの実験については自己
抗体が検出され,これが脳に付着していることを提示したのみで,神経変
性には言及しておりません。あくまでモデルマウスになる可能性がる(マ
マ)ことを示したのみです。以上の点を御理解下さい。」と記載した電子
メールを送信し,C教授は,この電子メールを被告乙及び被告丙に提供し
た。
(乙8,被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)
エ一方,A氏は,B教授や共同で実験を行っている医局員の了解なくジャ
ーナリストに本件マウス実験の内容を話すことはできないとして,当初は
取材を受けることに難色を示していた。しかし,被告乙及び被告丙が,A
氏の旧知の友人であるC教授を介して繰り返し取材を申し込み,A氏がこ
のまま取材を受けないとA氏自身も不利な状況に追い込まれる旨の連絡を
したことや,A氏が,自らの指導教官であったF氏(以下「F教授」とい
う。)に相談した際に,本件マウス実験の実験方法について,正確な内容
を説明した方がよいと示唆されたことから,被告乙及び被告丙の取材を受
けることにした。
(甲24,丙71,証人A,弁論の全趣旨)
オ被告乙,被告丙及びC教授は,平成28年6月3日,東京都内のホテル
のレストランで,A氏と面談し(以下「本件面談」という。),約1時間
半程度,会食をしながら取材を行い,その内容を録音した。本件面談では,
別紙取材結果記載の会話がされ,原告は,被告乙らに対して,本件マウス
を用いた研究論文を交付するなどして本件マウス実験について説明すると
共に,本件マウス実験は,子宮頸がんワクチン等を接種した本件マウスに
自己抗体ができているかについて,正常なマウスの脳組織と反応するかを
画像が緑色に染まるかどうかで確認する実験であること,本件スライドは
マウス1匹について得られた画像を組み合わせたに過ぎず,本件マウス実
験はあくまでパイロット実験として位置づけるものであるから,クローズ
ドのプレゼンであればともかく,学会発表を行うレベルのものではないと
B教授には伝えていたことなどを述べた。
なお,A氏は,本件面談の際,「サーバリックスだけに自己抗体(Ig
G)沈着あり」との記載をB教授がしたものであるとは思っておらず,
原告が記載したものであると考えていた。
(甲24,の1・2,乙7の1・2,丙70,71,証人A,弁論
の全趣旨)
⑻本件面談以後の動き
アA氏は,本件マウス実験により得た画像等について,本件面談の際に,
被告乙らから強く交付を求められ,これに応じるような発言もしていたが,
実際には,B教授や原告が,上記画像等についてジャーナリストに交付す
ることを了解するはずはないと考えていた。
本件面談の翌日である平成28年6月4日及び日に,被告丙,被告乙
及びC教授から,上記画像等の交付を求める催促の電話や電子メールが
何度もあったが,A氏は,B教授や原告に対して,上記画像の提供の可
否を尋ねたりすることもなく,同月6日の朝,被告乙からの催促の電話
に対して,「出さなければならない理由はない。」と述べて拒絶した。
(乙7の1・2,証人A,被告乙本人,弁論の全趣旨)
イ被告乙は,A氏から画像の交付を断られた翌日である平成28年6月7
日午後4時3分,B教授に対し,本件面談の要旨を記載し,「次の2つ
の質問について,明日6月8日の正午までにご回答をいただきますようお
願い致します。(中略)期限までにお答えがない場合,実験デザイン,進
捗のご報告を受けていたB先生は,1,2ともにご回答は『YES』であ
ったと理解して記事化させていただきますのでご了承ください。」と記載
した上で,本件マウス実験により得られた画像は,「N=1のチャンピオ
ンデータである」ことを前提として,B教授が本件マウス実験に対して,
どのような関与をしていたのかを質問する電子メールを送信した。
B教授は,同日午後時21分,前記電子メールに対し,「どなたかし
りませんが,デリケートな質問を勝手にメールで送り付け,返答しない
場合はそちらの勝手な答えを掲載するという行為は一種の脅迫であり自
分にはちょっと信じられません。」と電子メールで回答した。
被告乙は,同日午後時27分,B教授の電子メールに対し「面会して
お話しをお伺いしたいところですが,距離もございますので,お時間を
頂戴できれば,お電話させていただく,あるいはスカイプといった手段
もございます。できる限りのことをやらせていただきたいと思っており
ます。」と記載した電子メールを送信したが,これに対するB教授の回
答はなかった。
(乙4,弁論の全趣旨)
ウ被告乙及び被告丙は,本件面談後,本件各記事の掲載までの間,原告に
対しては,一切取材を行っていない。
また,被告乙が,本件各記事の掲載までの間,自ら行った裏付け取材は,
前記イのB教授に対する電子メールのみである。
(被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)
⑼本件雑誌記事の掲載及びその後の状況
ア被告丙は,平成28年6月7日頃,本件雑誌記事の初稿を被告乙に交付
した。
被告乙は,本件雑誌記事の見出し等を作成した上で,同月日から1
2日頃までの間に,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌の原稿を印刷所
に入稿した。
(被告乙本人,被告丙本人,弁論の全趣旨)
イ被告乙は,平成28年6月17日,原告に対し,本件雑誌記事の掲載さ
れた本件雑誌を送付すると共に,信州大学の学長に対しても,同雑誌を,
「貴学医学部長,原告教授が率いる厚労省研究班の発表内容に重大な問題
があることが判明しましたので記事にいたしました。このような方が副学
長,医学部長の任にあることは大きな問題であると考えます。大学として
何らかの措置をとられるべきではないかと存じます。」と記載した手紙と
共に送付した。
また,被告乙は,同日頃,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌を,厚生
労働省に持ち込んで配布した。
(甲19,28,29,原告本人,被告乙本人,弁論の全趣旨)
ウ被告丙は,A氏に対し,同日頃,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌を
送付した。
被告丙は,同月19日,A氏に対し,「掲載記事は来週以降,加筆して
ウェブでも展開する予定です。通常,ウェブは雑誌の数百倍ほど読まれま
すが,金曜日に本誌の宣伝用に出したウェブ記事がすでに驚くほどの数読
まれており,本件が世間の注目を集めておりますこと,どうぞご承知おき
ください。もし,今からでもお話しいただけることがあれば,ウェブ記事
でのトーンの修正は可能です。」等と記載した電子メールを送信した。
A氏は,翌日に,「私といたしましては,先日御会いした際,御話
しをした内容が真実で,だいたい全てです。」等と記載した電子メールを
返信した。
被告丙は,A氏の電子メールに対し,「記事への反論や修正点はなく,
原則,この内容でウェブにも掲載するという理解で宜しいのですね。」
等と記載した電子メールを送信した。
A氏は,被告丙にさらに返答したものの,前記記載の部分に対しては,
特に言及していない。
(丙73,弁論の全趣旨)
エ本件雑誌記事の掲載された本件雑誌は,同年6月日,一般に発売さ
れた。
(争いがないほか,甲1,弁論の全趣旨)
⑽本件各記事の公開及びその後の状況
ア信州大学は,平成28年6月日付けのC教授による公益通報メール
を受けて,同月29日,報道機関等から研究活動における不正行為の疑い
が指摘されたとして,本件研究について研究不正があったかどうかについ
ての調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
本件調査は,信州大学の理事や教授,弁護士からなる予備調査(以下
「本件予備調査」という。)と,法学の専門家1名,医学の専門家4名
からなる本調査(以下「本件本調査」という。)の二段階により実施さ
れた。
(丙2,9,84〜86,弁論の全趣旨)
イ本件予備調査においては,原告,B教授及びA氏からのヒアリングを合
計9回実施し,最終的に研究成果の発表方法として,研究倫理上の問題が
存在する可能性があること,一方で,データのねつ造・改ざん等に該当す
るような具体的事実は見つからず,「研究活動における不正行為」の有無
について確認できていないことから,本調査委員会を設置し,調査を行う
べきであるとの結論に至った。
(丙8,86,弁論の全趣旨)
ウ本件本調査においては,原告,B教授,A氏からのヒアリングを実施し,
さらに,本件マウス実験に関する実験ノートやマウス繁殖記録,研究の各
段階で作成された報告資料等のほか,A氏の個人所有コンピュータ内の本
件マウス実験により得られた編集前の画像等についても調査を実施したう
えで,実験結果と矛盾する画像が存在しないことを確認し,平成28年1
1月日,調査の結果,信州大学不正防止規定第2条2項に定める研究
活動における不正行為(ねつ造,改ざん,盗用,不適切なオーサーシップ,
二重投稿)及び厚生労働分野の研究活動における不正行為への対応等に関
するガイドラインに定める特定不正行為(故意又は研究者としてわきまえ
るべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる,投稿論文など発表さ
れた研究成果の中に示されたデータや調査結果等のねつ造,改ざん及び盗
用)は認められなかったとの結論を示した。
なお,本件本調査の結果として,原告について,「平成28年3月16
日開催の成果報告会……は,厚生労働科学研究費の助成を受けた研究の進
捗状況を報告するものであって,必ずしも科学的に証明された知見のみを
公表する場ではなかったことも考慮すると,発表の一部に,このような予
備的な実験段階における研究結果が含まれていたとしても,それは許容範
囲のものであったと考えられる」けれども,「厚生労働省に提出した報告
書での予備的な段階における実験結果の断定的な記述や抗体の『沈着』と
いう表現が用いられたこと(本来は「反応」という表現にとどめるべきで
あった)に関して,調査委員会は原告教授に対し,A教授(注:B教授)
とともに,その修正または修正内容の公表の措置をとる」こと,「本件マ
ウス実験の結果が予備的な段階のものであることを,適切な方法をもって
公に明らかにすること」及び「科学的な証明に耐えうる数のNF−κBp
0欠損マウスを用意したうえで,HPVワクチンを含むワクチン等を接
種する初めの段階からの検証実験の実施と,その結果の公表」を求めた。
(丙2,86〜88,証人A,弁論の全趣旨)
⑾本件各記事公表後の信州大学の状況
ア信州大学では,本件雑誌記事の掲載された本件雑誌の発行直後である平
成28年6月22日に実施された医学部の定例教授会で,ねつ造の疑いが
ある医学部長が教授会の司会を行うことに反対する意見が出たため,原告
による議事進行が困難となった。
原告は,医学部事務部長や医学部執行部と相談した結果,今後,教授会
の運営が妨げられたり,医学部教授会がまとまらなくなったりすること
が強く懸念されることから,同年6月30日に辞職届を提出し,9月末
日に医学部長及び副学長を辞任することとした。
(甲19,24,原告本人,弁論の全趣旨)
イ原告は,本件本調査により,研究不正はない旨結論付けられたものの,
「確定的な結論を得たかのような印象を与える発表」を本件成果発表会や
マスメディアに対して行ったことを原因として,学長厳重注意処分となり,
同年12月14日付けで,医学部教授についても辞任した。
(甲19,丙2,原告本人,弁論の全趣旨)
ウなお,原告班は「子宮頸がんワクチン接種後に生じた症状に関する治療
法の確立と情報提供についての研究」として,現在も活動中である。
(甲19,弁論の全趣旨)
2争点⑴ア(本件各記述が,原告の社会的評価を低下させるものであるか。)
について
⑴事実を摘示してする名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する
事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示さ
れた事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,
上記行為には違法性がなく,仮に上記証明がないときにも,行為者において
上記事実の重要な部分を真実と信じるについて相当の理由があれば,その故
意または過失は否定される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・
民集巻号1118頁,最高裁昭和8年月日第一小法廷判
決・裁判集民事140号177頁参照)。
⑵そこで,上記⑴の観点から,本件各記述がどのような意味内容の事実を摘
示し,又は意見若しくは論評を表明するものか,及びそれが原告の社会的評
価を低下させるものかどうかについて,以下検討する。
ア本件各記事中で「捏造」とされている行為の具体的内容は,本件記述,
ぁきУ擇哭┐納┐気譴討い襪箸海蹇に楫鏥述は,前後の文脈を含めた
一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,A氏の談話の形式をと
りながら,A氏が原告に手渡した資料には,子宮頸がんワクチン以外のワ
クチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,原告
は,敢えて子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光
っていない写真が組み合わさったスライドだけを発表したという事実(以
下「本件摘示事実A」という。)を摘示するとともに,その事実を前提と
して,そのような原告の行為を重大なねつ造であるという被告丙の意見若
しくは論評(以下「本件論評a」という。)を表明するものと理解するこ
とができる。
そして,本件記述У擇哭┐砲弔い討癲に楫鏥述と同様に,本件摘示
事実Aを摘示するものであると解される。
また,本件記述い砲弔い討蓮ち宛紊諒弧を含めた一般の読者の普通の
注意と読み方を基準とすれば,原告がチャンピオンデータ(仮説にとっ
て都合の良いデータのこと)で議論を進めている事実(以下「本件摘示
事実B」という。)を摘示するとともに,その事実を前提として,その
ような原告の行為を紛れもないねつ造であるという被告丙の意見若しく
は論評(以下「本件論評b」という。)を表明するものと理解すること
ができる。
本件摘示事実A及びB並びに本件論評a及びbは,原告が,A氏から手
渡された資料の中には,反対の結論を示すものもあったにもかかわらず,
自分にとって都合の良い1枚のスライド,1匹のデータのみを取り出し
て発表し,研究結果について虚偽の結論をでっちあげたとの印象を読者
に与えるものであるから,本件記述,ぁきУ擇哭┐蓮じ狭陲亮匆馘
評価を低下させるものである。
イ本件記述,蓮に楫鏤┿鏥事のタイトルであり,このタイトルに続く本
件雑誌記事の本文を一般の読者の普通の注意と読み方を基準として読むと,
子宮頸がんワクチン薬害研究班の研究者たちというのは,原告班の研究者
らを指すものであり,その研究代表者である原告が,本件研究において,
何らかの理由により研究結果のねつ造を行っていたという事実(以下「本
件摘示事実C」という。)を摘示するものと解される。そして,本件雑誌
記事全体に照らすと,ねつ造行為の内容とされているのは,本件摘示事実
Aであると読むことができる。
同様に,本件記述Δ蓮に楫錺ΕД峙事のタイトルの一部であり,子宮
頸がんワクチン薬害研究班,すなわち原告班が研究結果のねつ造を行っ
ていたという事実(本件摘示事実C)を摘示するものと解され,本件ウ
ェブ記事の本文を併せ読むと,ねつ造行為の内容とされているのは,本
件摘示事実Aであると理解できる。
そして,本件記述◆きサ擇哭についても,原告班が研究結果のねつ造
を行っていたという事実(本件摘示事実C)を摘示するものと解され,
本件各記事の文脈からすると,ねつ造行為の内容とされているのは,本
件摘示事実Aであると読むことができる。
そうすると,本件記述 き◆きァきΑきは,原告が,反対の結論を示
す実験結果もあったにもかかわらず,自分にとって都合の良いスライド
のみを取り出して発表し,研究結果について虚偽の結論をでっちあげる
というねつ造行為を行っていたとの印象を読者に与えるものであるから,
これらの記述は,原告の社会的評価を低下させるものである。
ウ本件記述は,前後の文脈を含めた一般の読者の普通の注意と読み方を
基準とすれば,「これ」は本件マウス実験を指すものと読むことができる
から,本件マウス実験は,原告が,「子宮頸がんワクチンを打ったマウス
の脳に障害が起きた」という結論を導くために作り出した実験であり,原
告には「捏造の意図」があったという事実(以下「本件摘示事実D」とい
う。)を摘示するものと理解することができる。
本件摘示事実Dは,原告が,自己が欲する結論を得るために,本件マウ
ス実験を自分にとって都合の良いように,意図的にでっちあげたとの印
象を読者に与えるものであるから,本件記述は,原告の社会的評価を
低下させるものである。
⑶この点,被告らは,原告が,本件成果発表会において,遺伝子頻度と遺伝
子保有率を混同した発表をしているところ,この両者の区別を誤って発表す
ることは,遺伝に関する基本的理解を欠いていることを自ら露呈するもので
あって,この時点で研究者としての原告の名誉は失われているから,本件各
記事の公表によって毀損されるべき原告の名誉はすでに存在しない旨主張し,
被告乙及び被告丙は,その本人尋問においてこれに沿う供述をするほか,同
旨を述べる意見書等(丙62の1・2,63の1〜6,74の1〜4)を提
出する。
しかしながら,不法行為の被侵害利益としての名誉(民法7条,72
3条)とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から
受ける客観的評価のことをいうところ(最高裁昭和61年6月11日大法廷
判決・民集40巻4号872頁ほか参照),前記認定事実によれば,本件各
記事が掲載された時点において,原告は,信州大学の副学長及び医学部長の
任にあり,厚労省の依頼により,本件研究の原告班の研究代表を務めていた
ことが認められる。
そして,被告らが主張するように,原告が本件成果発表会において,遺伝
子頻度と遺伝子保有率を混同するという誤りを述べたという事実があったと
しても,それは,ねつ造のような研究不正とは次元の異なるものであり,そ
もそも根拠が示されて故意によるものではない誤りについては,研究不正と
はされていないこと(甲12)に照らしても,上記誤りを述べたことによっ
て,毀損される名誉が存しないほどに原告の社会的評価が著しく低下したと
は認めることができないから,被告らの上記主張には理由がない。
⑷以上によれば,前記認定のとおり,本件各記述は,本件摘示事実Aないし
Dを摘示し,本件論評a及びbを表明することによって,それぞれ原告の社
会的評価を低下させるものということができる。
したがって,前記第2の4⑴の被告らの主張は,この判断に抵触する限度
において,理由がない。
3続いて,争点⑵(本件各記述について,違法性阻却事由又は責任阻却事由が
あるか。)について,判断する。
⑴事実を摘示することによる名誉毀損については,当該事実を摘示する行為
が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることに
あった場合において,摘示された事実の重要な部分が真実であることが証明
されたときは,当該行為には違法性がなく,不法行為は成立しないものと解
するのが相当であり,また,真実であることが証明されなかったときであっ
ても,その行為者が真実と信ずるについて相当の理由があるときには,当該
行為には故意又は過失がなく,不法行為は成立しないものと解される(最高
裁判所昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集巻号1118頁,
最高裁判所昭和8年月日第一小法廷判決・裁判集民事140号1
77頁参照)。さらに,特定の事実を基礎としての意見又は論評の表明によ
る名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,
その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,当該意見又は論評の前提と
している事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,
人身攻撃に及ぶなど意見又は論評としての域を逸脱したものでない限り,当
該行為は違法性を欠くものというべきであり,仮に証明がないときにも,行
為者において当該事実を真実と信ずるについて相当な理由があれば,その故
意又は過失は否定されると解される(最高裁判所平成9年9月9日第三小法
廷判決・民集1巻8号3804頁)。
⑵そこで,上記⑴において説示したところを前提として,本件各記述に関し,
その違法性阻却事由又は責任阻却事由の有無について,検討する。
ア前記認定事実によれば,原告は,国立大学の医学部教授であり,本件研
究の研究代表者であるところ,子宮頸がんワクチンの副反応に関する本件
研究が,国の同ワクチン接種に係る政策を左右しうる重要な研究であるこ
とに鑑みると,本件研究においてねつ造行為が行われていたかどうかにつ
いては,一般多数人の利害ないし関心に関わるものということができるか
ら,本件摘示事実AないしDを摘示し,本件論評a及びbを表明する行為
は,公共の利害に関するものと認められ,かつ,上記摘示事実を摘示した
主たる動機は,公益を図る目的にあったものと認めることができる。
この点,原告は,被告乙が,本件雑誌記事を掲載した本件雑誌を信州大
学学長宛てに送付したり,厚生労働省に持ち込んで配布したりしたこと
から,被告乙及び被告丙が本件各記事を本件雑誌に掲載したり本件ウェ
ブマガジンに発表したりしたことは,公益目的を装った子宮頸がんワク
チンの副反応を研究する者に対する研究妨害又は口封じであって,公益
を図る目的でされたものではない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件研究において実際に研究不正が
行われていたとすれば,国の施策をも左右する重要な事柄であると認め
られるところ,前記1⑼イ記載のとおり,被告乙及び被告丙がA氏との
本件面談の結果,本件研究には研究不正があったと信じて大学や厚生労
働省に対する働きかけを行っていることが認められるから,そのような
行動から,直ちに公益目的がないということはできず,原告の上記主張
には理由がない。
イ次に,本件各記述に関し,摘示された事実の重要な部分若しくは意見若
しくは論評の前提としている事実の重要な部分が真実であるかどうか,又
はこれらが真実であると信ずるについて相当の理由があるかどうかについ
て,検討する。
本件摘示事実Aについて
a本件摘示事実Aの重要な部分は,前記2⑵のとおり,A氏が原告に
手渡した資料には,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色
に染まった画像が何枚もあったにもかかわらず,原告は,敢えて子宮
頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない
写真が組み合わさったスライドだけを選び出したということである。
前記認定事実によれば,A氏が実施した本件マウス実験では,自己
免疫疾患の素因を有し,加齢により自己抗体を産生し,神経変性が起
きやすい本件マウスを用いるために,本件マウスから得た血清の希釈
倍率が低かった場合には,いずれの群についても強く緑色に光るなど
して,有意に子宮頸がんワクチンを接種したマウスと,それ以外のワ
クチン等を接種したマウスとの差別化を示すことのできなかった画像
もあったことが認められるが,A氏は,本件マウス実験で得られた画
像のうち,子宮頸がんワクチンによってのみ緑色を呈し,それ以外の
ワクチン等では発色が見られないような,適切な倍率で血清を希釈し
て行った実験によって得られた画像を組み合わせて,本件ミーティン
グの資料となる本件A氏作成スライドを1枚だけ作成し(網膜の画像
は別である。),これを本件ミーティングの資料として用いた後,B
教授の求めに応じて,他の資料と共にB教授に送付したことが認めら
れる。
したがって,A氏が原告に対して,本件A氏作成スライドを含め,
いかなる画像を手渡したこともない上,本件マウス実験に関して,原
告がB教授から入手したスライドは,本件A氏作成スライドにB教授
が手を加えた本件B教授作成スライド1枚のみであったから,原告の
手元に,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった
画像が何枚もあったという事実も認めることはできないし,原告が,
その中から自分に都合の良いように,子宮頸がんワクチンでよく光っ
ている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさったスラ
イドだけを選び出したという事実も認めることはできない。
以上によれば,本件摘示事実Aの重要な部分が真実であるとは認め
られない。
bこの点,被告らは,被告乙及び被告丙が行った本件面談において,
A氏は,何枚もある画像を原告に渡し,原告が当該画像をピックアッ
プしたという趣旨の発言をしていたから,これを真実と信じるに足り
る相当な理由があったと主張する。
確かに,別紙取材結果によれば,本件面談において,A氏は,本件
マウスの特性から,子宮頸がんワクチンを打っていない他のマウスで
も緑色に染まることがあったこと(6),毎月行われるプログレス・
ミーティングのときに,何枚も写真を出しており,(本件スライド
は),6枚はある中の1枚であること,網膜の写真もあること(8,
13),その中から原告が選んだと思われること(8,13)などを
述べている部分がある。
しかしながら,A氏が原告に複数の画像を渡したと明確に述べてい
る部分はなく,A氏が渡したのはB教授であったと解される発言もあ
り(17),A氏がB教授と原告との間のやり取りを知らなければ,
原告に本件スライド以外の画像が渡ったのかについては,A氏の推測
に過ぎないことになる。実際,A氏は,本件A氏作成スライドを誰が
どのように記載を加えて本件スライドになったかについて知らなかっ
た。したがって,取材する側としては,A氏が誰に,何を渡したのか
について明確に確認しなければ,その説明の信用性について判断でき
なかったというべきである。
しかも,A氏の説明では,他にもあったという画像が,本件A氏作
成スライドのように各ワクチン等で得られた画像を組み合わせて1枚
に作成したものなのか,その元となる画像なのか,網膜の画像なのか,
必ずしも明確とはいえない。
このように本件摘示事実Aに関するA氏の説明はあいまいさが残っ
ており,本件面談の場では,他にもあると述べた画像について,被告
らに提供しても良いような発言をしていたものの,その後,画像の提
供を拒否しており,結局,A氏の発言の客観的な裏付けは取れていな
いというべきである。
cさらに,前記認定事実によれば,被告乙及び被告丙は,A氏との本
件面談の結果を受け,本件各記事の掲載に先立って,原告に対する取
材を行っていないことが認められる。
本件摘示事実Aとの関係では,原告が,A氏から,いかなる画像や
スライドを受け取っていたのか,原告に取材を行うことが,最も重要
かつ端的であり,それが困難であった事情は認め難い。
この点,被告らは,平成28年3月22日に原告に対する電子メー
ルを送付して取材した際,原告が回答を拒否したため,本件各記事に
関しても,回答を得ることは困難と考えて,原告に対する取材を行わ
なかったと主張する。
しかしながら,前記認定事実によれば,原告は,被告丙による上記
取材に対して,「マウスの実験は私ではなく,信州大学の他の研究者
が発案して実施しております。」,「このノックアウトマウスは学内
の研究室で長年自己免疫疾患の研究に使用しており,免疫異常を引き
起こしやすいから使用しているとのことです。」,「実験結果の詳細
は,研究のoriginalityと論文作成のためお話しすること
はできません。」などと記載して,回答できる範囲で,質問に回答す
る姿勢を示していることが認められるから,同年6月上旬の時点にお
いて,原告がいかなる取材に対しても回答しないことが明らかであっ
たということはできない。
dまた,被告らは,被告乙が平成28年6月7日,B教授に対して電
子メールで取材を行ったから,適切な裏付け取材を行っている旨主張
する。
しかしながら,前記認定事実によれば,被告乙のB教授に対する取
材とは,24時間以内の期限を設定した上,期限までに返答がなけれ
ばYESと理解して記事にする旨を付記した上で,「本件スライドに
ついてA氏からチャンピオンデータとの説明を受けていたか。」「本
件スライドをチャンピオンデータと言わずに公表することを了承して
いたか。」という2点の質問を記載した電子メールを送付したことで
あると認められる。
前記認定事実によれば,上記のような一方的な電子メールを受け取
ったB教授は,「どなたか知りませんが,デリケートな質問を勝手に
メールで送り付け,返答しない場合はそちらの勝手な答えを掲載する
という行為は一種の脅迫であり自分にはちょっと信じられません。」
という電子メールを返信し,被告乙の取材に応じることはなかったこ
とが認められる。
以上によれば,上記電子メールの送付をもって,被告乙が本件摘示
事実Aについて,適切な裏付け取材を行ったということはできない。
e被告らが,本件調査の結果等もない段階で,本件摘示事実Aの存在
をもって,本件研究についてねつ造であるという,研究者にとって致
命的ともいえる研究不正の存在を告発する趣旨の記事を公表するので
あれば,その記事が原告に与える影響の重大さに鑑みて,A氏の発言
を鵜呑みにするのではなく,より慎重に裏付け取材を行う必要があっ
たというべきである。
本件各記事は,その内容からして,裏付け取材をする暇がないほど
に公表の緊急性を要するものということはできない。(被告乙が編集
人として本件雑誌を発行するのが平成28年7月号で最後であるとい
った事情は,被告ら内部の事情である。)
なお,前記認定事実によれば,被告丙は,本件ウェブ記事の掲載前
に本件雑誌記事をA氏に送付して,修正点がない旨の確認をした事実
が認められるものの,これは,A氏の発言を事後的に確認しただけで
あって,A氏の発言内容の裏付け取材としての意義は乏しい。
以上によれば,被告らが,本件面談においてA氏の述べた内容を軽
信し,その他,実効的な裏付け取材を何ら行わないまま,本件摘示事
実Aを真実と信じたことについては,相当の理由があったものという
ことはできない。
本件論評aについて
本件論評aの前提としている事実の重要な部分は,前記2⑵のとおり,
本件摘示事実Aであるところ,これが真実でないこと及び被告らにおい
てこれが真実であると信ずるについて相当の理由があったと認めること
ができないのは,である。
本件摘示事実Bについて
a本件摘示事実Bの重要な部分は,前記2⑵のとおり,原告が自分の
仮説にとって都合の良いチャンピオンデータで議論をしているという
ことである。
B教授から受け取ったスライド資
料の中に,本件マウス実験に関するスライドは本件B教授作成スライ
ド1枚しかなかったから,原告が,子宮頸がんワクチン以外のワクチ
ンでも強く緑色に染まった画像が何枚もある中から,自分の仮説に都
合の良い本件スライドだけを公表して,チャンピオンデータで議論を
しているという事実を認めることはできない。
また,前記認定事実によれば,A氏は本件マウス実験について,各
群ごとにマウス1匹から得られた血清を用いて複数枚の画像を撮影し,
その画像の中から本件A氏作成スライドを作成したことが認められる
から,本件A氏作成スライドを基に作成された本件スライドは,マウ
ス1匹から得られた血清によるデータではある。
しかし,本件記述い紡海被告丙の説明によれば,チャンピオンデ
ータとは,「0人に1人しか成功しないダイエット法で減量に成
功した一個人のデータや写真のようなもの」というのであるから(甲
1),多数のマウスを用いて同様の実験を行い,1匹だけに都合の良
い結果が得られた場合に,当該1匹のデータや写真のようなものがチ
ャンピオンデータだということになる。そうすると,A氏は,本件ミ
ーティング時点においては,当該1匹以外のマウスについての画像を
有しているわけではなく,仮説に都合の悪いデータを持っていたわけ
でもないから,本件A氏作成スライドは,上記の意味でのチャンピオ
ンデータには当たらないというべきである。
実験担当者のA氏が当該1匹以外のマウスについて画像を作成して
いない以上,原告が,当該1匹以外のマウスについて画像を有してい
ないのは明らかであり,この意味においても,原告が,相反する結果
がある中で,都合のよいチャンピオンデータを用いて議論していると
認めることはできない。(なお,本件記述い砲けるチャンピオンデ
ータを用いて議論することと,N=1のデータで有意の結論を導くこ
ととは異なる問題である。)
以上によれば,本件摘示事実Bの重要な部分が真実であるとは認め
られない。
bそして,前記で述べたのと同様に,被告らが,本件面談において
A氏の述べた内容を軽信して,原告が,子宮頸がんワクチン以外のワ
クチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もある中から,自分の仮説
に都合の良い本件スライドだけを公表して,チャンピオンデータで議
論をしているという事実(本件摘示事実B)を真実と信じたことにつ
いては,相当の理由があったものということはできない。
確かに,前記認定事実によれば,本件面談において,A氏は,本件
スライドについて,1匹のマウスから得られた画像であることを述べ
ており,A氏自身が「チャンピオン」,「チャンピオンデータ」とい
う言葉に対して,「うん,そうそう。」と相づちを打っていることが
認められる。しかし,A氏が「チャンピオン」,「チャンピオンデー
タ」という言葉をどのように理解した上で,同調したのかは必ずしも
明確ではない。むしろ,A氏は,「原告先生が『一番いいやつ持って
来てくれ』とか,そういうオーダーはありました?」という被告乙の
質問に対しても,「何かこのサーバリックスに関して『やっぱりって
思うようなデータない?』みたいな感じのことは言われなかった?」
という被告丙の質問に対しても,明確に「ない。」と否定しているこ
とが認められる。
そうすると,被告乙及び被告丙としては,A氏が本件面談において,
「チャンピオン」,「チャンピオンデータ」という言葉に同調したこ
とがあったとしても,それを軽信することなく,原告がA氏から本件
マウス実験について,どのような説明を受け,その実験結果について
いかなる画像やスライドを受け取っていたのか,原告に裏付け取材を
行うべきであったのに,そのような裏付け取材を何ら行わないまま,
本件摘示事実Bを真実と信じたことについて,相当の理由があったも
のということはできない。
本件論評bについて
本件論評bの前提としている事実の重要な部分は,前記2⑵のとおり,
本件摘示事実Bであるところ,これが真実でないこと及び被告らにおい
てこれが真実であると信ずるについて相当の理由があったと認めること
ができないのはある。
本件摘示事実Cについて
a本件摘示事実Cの重要な部分は,前記2⑵のとおり,原告が,本件
研究において,研究結果のねつ造,すなわち,存在しない研究結果を
存在するかのように作り上げたということである。そして,本件記述
 き◆きァきΦ擇哭におけるねつ造行為の内容は,原告が,反対の
結論を示す実験結果もあったにもかかわらず,自分にとって都合の良
いスライドのみを取り出して発表したこと(本件摘示事実A)と解さ
れるのは前述のとおりである。
て,子宮頸がんワクチン以外のワクチンでも強く緑色に染まった画像
が何枚もあったにもかかわらず,その中から,子宮頸がんワクチンで
よく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真が組み合わさ
ったスライドだけを選び出して,あたかも子宮頸がんワクチンの場合
のみ緑色に染まる(同ワクチンを接種した本件マウスの血清について
のみ,その中の一部の抗体が,正常な脳の海馬の中枢神経を認識する
ことを意味する。)という結果が得られたかのように作出したという
事実は認められない。
そもそも,前記認定事実によれば,原告は,本件成果発表会におい
て,自己の報告の終わりの方で,本件マウス実験について,「脳の海
馬と呼ばれている記憶の中枢のところに,このHPVワクチンを打っ
たマウスだけ,こういう異常抗体がついている。すなわち,脳を攻撃
する異常な抗体がこのマウスにはできたということが分かりまし
た。」と紹介してはいるものの,「ただ,まだ調べて確定したもので
はない。今後,このマウスの機序をもっと深部,調べて,ワクチン成
分の何がこういうことを起こしているのかということの研究に使えれ
ばと考えております。」と述べていることが認められ,確たる結論が
得られたという趣旨の報告をしているわけではなく,次年度以降の研
究の頭出しといった意味合いで言及していることからしても,研究結
果のねつ造というには無理がある。
前記認定事実によれば,原告班の本件研究にねつ造があったかどう
かについては,約か月間に及ぶ本件調査において,関係者からのヒ
アリングは勿論,本件マウス実験に関する実験ノートやマウス繁殖記
録,研究の各段階で作成された報告資料等のほか,A氏の個人所有コ
ンピュータ内の本件マウス実験で得られた編集前の画像等についても
調査を実施した上で,実験結果と矛盾する画像が存在しないことが確
認されており,調査の結果,本件研究には,ねつ造,改ざん等の不正
行為がなかったとの結論が示されている。
以上によれば,本件摘示事実Cの重要な部分が真実であるとは認め
られない。
bなお,被告らは,原告の本件番組での発言を捉えて,事実でないこ
とをさも事実であるかのように事実を作り上げたから,ねつ造を行っ
たといえる旨主張する。
しかしながら,発言それ自体については,仮に虚偽の事実や根拠の
乏しい事実を述べたとしても,「事実を作り上げた」ということには
ならないから,発言を捉えてねつ造行為の内容と主張する被告らの主
張は無理があるというべきである。
また,前記認定事実によれば,本件番組では,原告の「これは明ら
かに脳に障害が起こっているということですね。ワクチンを打った後
こういう脳障害を訴えている患者さんの共通した客観的所見がこうじ
ゃないですかということを提示できている。」と断定的に述べた発言
が,本件マウス実験に関する「子宮頸がんワクチンを打ったマウスだ
け,どうも脳のですね,海馬といって,記憶の中枢があるところに,
異常な抗体が沈着して,海馬の機能を障害していそうだ。」という発
言の後に放送されていることが認められるところ,その結果,本件番
組を見た視聴者は,原告が,あたかも本件マウス実験により得られた
結果を,子宮頸がんワクチンによる副反応を訴える患者たちの脳障害
と結びつけて,結論付けているかのように受け取ることになる。(実
際,被告乙及び被告丙は,そのように受け取っている。)
しかしながら,「これは明らかに脳に障害が起こっている」,「患
者さんの共通した客観的所見」といった発言内容からすると,原告が
主張するように,高次脳機能障害が生じている患者の,高次脳機能検
査及び脳SPECT画像検査の各所見を説明して述べた発言と解する
方が自然であり,本件成果発表会における原告の発表内容(甲4,丙
37)とも整合するから,本件番組における原告の発言は,TBSの
編集の結果,原告がTBSの取材において実際に述べたのと異なる文
脈で放送されたというべきである。
したがって,原告が,本件番組において,本件マウス実験により,
子宮頸がんワクチンにより脳障害が引き起こされたことが明らかにな
ったという虚偽の結論を述べたという事実を認めることもできない。
cそして,前記で述べたのと同様に,被告らが,本件面談において
A氏の述べた内容を軽信して,原告が,子宮頸がんワクチン以外のワ
クチンでも強く緑色に染まった画像が何枚もある中から,自分にとっ
て都合の良いスライドのみを取り出して発表し,存在しない研究結果
を存在するかのように作り上げたという事実(本件摘示事実C)を真
実と信じたことについては,相当の理由があったものということはで
きない。
本件摘示事実Dについて
a本件摘示事実Dの重要な部分は,前記2⑵のとおり,本件マウス実
験は,原告が,「子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起
きた」という結論を導くために作り出した実験であり,原告には「捏
造の意図」があったということである。
前記認定事実によれば,本件マウス実験は,B教授から実験に誘わ
れたA氏が,本件マウスによる実験を行った経験があったため,本件
マウスを用いることとし,子宮頸がんワクチンと他のワクチン等を本
件マウスに接種して,血清を採取して,これを希釈した上で,正常な
マウスの脳組織切片に振りかける免疫組織化学染色法を行うことを発
案,実行したものであり,原告は他のワクチンとも比較対照してみて
はどうかという提案をしたことがあるのみで,実験を主導していたわ
けでも,関与していたわけではなく,そのことは,原告自身が,被告
丙に宛てた平成28年3月23日の電子メールにおいて記載している
ことが認められる。また,原告がC教授に宛てた同年4月8日の電子
メールに,「マウスの実験については自己抗体が検出され,これが脳
に付着していることを提示したのみで,神経変性には言及しておりま
せん。」と記載していること,C教授はその電子メールを被告乙及び
被告丙に提供していたことが認められる。
そして,本件マウス実験の方法自体は,A氏が本件面談でも説明し
ているとおり,自己抗体を有しているかどうかを調べる方法としては,
被験者の血清を採取して,別の正常な組織と反応させて自己抗体の有
無,程度を検査するやり方として,医療機関で行われている通常の検
査方法であること(別紙取材結果,甲24,の1・2),本件
マウスは加齢と共に神経変性が起きやすいマウスであるが,それを前
提として,本件マウス実験は,子宮頸がんワクチンを接種をしたマウ
スについて,他のワクチン等を接種したマウスよりも,より早期に自
己免疫疾患が認められるかを調べることを目的としていたこと(甲別
紙取材目録16,甲24)が認められ,本件マウス実験それ自体が被
告丙が本件記述の直前に書いているような「不自然な実験内容」で
あったということはできない。
したがって,本件摘示事実Dの重要な部分が真実であるとは認めら
れない。
bまた,被告らは,原告の上記2通の電子メールの内容を承知してい
た上,A氏が本件面談において,本件マウス実験の実験方法は自己抗
体を有しているかの検査方法としては通常のものであるということを,
論文も渡して説明したにもかかわらず,あくまで,子宮頸がんワクチ
ンがBBB(血液脳関門)を越えて脳に何らかの影響を及ぼしている
のかが争点であるという自説を堅持し,BBBを越えないことを十分
に承知していた実験者が,「自己抗体を生じさせた別の異常マウスか
らわざわざ血清を摂取し,正常なマウスの脳切片にふりかけた」とい
う実験方法を「不自然な実験内容」と決めつけ,本件摘示事実Dの結
論を導いていることからすると,本件摘示事実Dを真実と信じたこと
について,相当な理由があったとは認められない。
以上によれば,本件摘示事実AないしD並びに本件論評a及びbの
前提としている事実の重要な部分は,いずれも真実と認めることができ
ず,かつ,被告らにおいて真実であると信ずるについて相当な理由があ
ったということもできない。
したがって,本件記述,覆い鍬について,その違法性又は責任を阻
却する事由を認めることはできないから,不法行為が成立しない旨の被
告らの主張は,理由がない。
4争点⑴ウ(原告に生じた損害額)について
前記2のとおり,原告は本件各記事によりその名誉を毀損されたと認められ
るところ,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌は発行部数が約12万000
部を数え,東海道新幹線の車内等において販売し,グリーン車においては本件
雑誌を無料配布したうえ,被告乙は,本件雑誌記事が掲載された本件雑誌を原
告の所属する信州大学の学長に宛てて送付したり,本件研究の監督官庁である
厚生労働省に持ち込んで配布したりした。
さらに,本件ウェブ記事については,本件調査において,ねつ造等の不正行
為がなかったとの結論が示された後も,現在まで,被告会社の運営するウェブ
サイト上に掲載を続けており,2年以上にわたり名誉毀損行為を継続している
ものと認めることができる。被告丙は,本訴の提起の後も,自らの管理するウ
ェブサイト等において,繰り返し原告による本訴提起の不当性を訴えるため,
本件各記事の正当性を主張する表現活動を続けている(甲33,34)ほか,
本件各記事の正当性を前提とした署名活動により,相当数の署名も得ている
(丙7)ことが認められる。
これらの事情を考慮すれば,本件各記事の内容は,そもそも本件各記事発行
当時に相当広範囲に伝播していたと認められる上,現在においても,相当広範
囲への伝播が引き続き行われていると認められる。
そして,本件雑誌記事の掲載の状況を見ると,「WEDGE_REPOR
T」の先頭に,「SPECIALREPORT」と銘打って掲載された記事
であることや,本件各記事は,平成年に子宮頸がんワクチンの定期接種指
定以来,副反応報告が相次ぎ,厚生労働省が積極的接種勧奨を差し控えるなど,
社会的に耳目を集めていた分野についての記事であること,平成26年にST
AP細胞における研究不正によって,研究代表者の学位が取り消されるなどし
た記憶も新しい時期に,「薬害研究班」による「捏造」という,重大な意味を
もつ表題を付して掲載されたこと,その上,記事の内容についても,医師の肩
書を付した被告丙が,十分な裏付け取材もせずに,繰り返し原告の行為を「捏
造」と記載したこと,当時,本件各記事が信州大学の副学長,医学部長及び医
学部教授の任にあった原告に与えた影響は甚大であって,結果的に上記役職す
べてを辞任せざるを得なくなったこと,その他本件に現れた一切の事情を総合
考慮すると,本件各記述によって原告に生じた損害額は,300万円と認める
のが相当である。
また,本件における認容額,事案の内容その他一切の事情に鑑みると,被告
らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,30万円と認めるのが相当
である。
争点⑴エ(原告の名誉を回復するのに適当な処分として,謝罪広告の掲載等
が必要か。)について
民法723条が,名誉を毀損された被害者の救済処分として,損害賠償のほ
かに,それに代えまたはそれとともに原状回復処分を命じ得ることを規定して
いる趣旨は,金銭による損害賠償のみでは填補できない,毀損された人格的価
値に対する社会的,客観的評価自体を回復することを可能ならしめる点にある
(最高裁判所昭和4年12月18日第二小法廷判決・民集24巻13号21
1頁参照)。
⑴本件各記事の削除の要否
前記4のとおり,本件ウェブ記事が掲載され続けることにより,原告の名
誉は継続して侵害され続けているものと認められるから,原告の名誉を回復
するために適当な処分としては,本件ウェブ記事中の原告の名誉を毀損する
部分の削除を命ずることが最も適当であると認められる。
⑵謝罪広告の要否
本件雑誌記事に対する謝罪広告の掲載について検討すると,本件記述,
いしイ砲茲詭祥脊迷擦,本件雑誌において行われたことに鑑みると,名誉
が毀損された媒体と同一の媒体において謝罪広告を命ずることは,そのこと
自体によって相当の名誉回復が図り得ることになるものと認められるほか,
本件雑誌の販売・配布の特殊性から,本件雑誌への謝罪広告を命ずることは,
原告の名誉の回復のために直接かつ有効な手段であるであると認められる。
そして,原告に生じた名誉毀損の被害が深刻であって,その回復の必要性が
高いことは前述のとおりであるから,別紙2記載の条件により,謝罪広告を
掲載させることは,原告の名誉を回復するための措置として相当であると認
められる。
さらに,本件ウェブマガジンについては,本件雑誌と異なり,自ら積極的
に本件ウェブ記事にアクセスするなどしてこれを閲読した者が相当数に上る
ものと考えられるから,本件ウェブマガジンに謝罪広告を掲載することは,
名誉回復手段としての有効性を認めることができるところ,原告に生じた名
誉毀損の被害が深刻であって,その回復の必要性が高いというべきことは前
述のとおりであるから,原告の名誉を回復するための適当な処分として,別
紙2記載の条件により,謝罪広告を掲載させることが,原告の名誉を回復す
るための措置として相当であると認められる。
6争点⑵ア(被告丙の反訴請求について,確認の利益が存するか。)について
前記認定事実によれば,原告は,被告丙が損害賠償債務のないことの確認を
求める別紙記事目録記載の記事のうち,本件記述さ擇哭┐鮟く各記事につい
て,名誉毀損に基づく,損害賠償請求権の存在を主張しないというのであるか
ら,上記損害賠償請求権の存否について原告と被告丙との間に争いがない。し
たがって,上記各記事について被告丙の損害賠償債務がないことの確認を求め
る訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であり,却下を免れない。
また,原告は,本件記述い鉢┐砲弔い討蓮じ狭陲糧鏐霾困紡个垢詼楞福並
害賠償請求)の対象となっているから,この点についても,確認の利益がなく
不適法であり,やはり却下を免れない。
7争点⑶ア(原告が,本訴請求について,不法行為の成立要件を満たすもので
はないことを知り又は容易に知り得たにもかかわらず,敢えてこれを提起した
と認められるか。)について
前記のとおり,原告による本訴請求は,名誉毀損の不法行為の成立要件を満
たすものであって,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと
はいえないから,その余の点について判断するまでもなく,被告丙による第2
反訴は理由がない。
第4結論
以上によれば,原告の被告らに対する本訴請求には主文の限度で理由がある
から当該限度において認容するとともに,その余の部分を棄却することとし,
被告丙の第1反訴については不適法であるからこれを却下し,第2反訴につい
ては理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部
裁判長裁判官 男澤聡子
裁判長裁判官 森田淳
裁判長裁判官 奥山直毅
別紙1本件雑誌における謝罪広告の内容
第1見出し
原告氏に対するお詫び
第2本文
当社は,当社発行の月刊誌「Wedge」平成28年7月号において,「研
究者たちはいったい何に駆られたのか子宮頸がんワクチン薬害研究班崩れ
る根拠,暴かれた捏造」と題して,原告氏が厚生労働省の研究班の研究活動に
おいて捏造行為を行ったとする誤った内容の記事を掲載したことで,原告氏の
名誉を著しく傷つけ,多大なるご迷惑をお掛けいたしました。
ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成年月日
被告会社
代表取締役丁
別紙2掲載条件
第1月刊誌「Wedge」
1掲載場所
いずれかの頁の4分の1面
2使用活字
見出しについては,12ポイント,ゴシック体活字
本文については,.ポイント,明朝体活字
3回数
本判決確定の日から3か月以内に1回
第2ウェブマガジン「WEDGEInfinity」
1使用字体
見出しについては,12ポイント,ゴシック体(黒色)
本文について,.ポイント,明朝体(黒色)
2掲載期間
本判決確定の日から1カ月以内に掲載を開始することとし,掲載開始日より
6カ月間,継続して掲載する。
別紙3ウェブマガジン「WEDGEInfinity」削除対象部分
1本件ウェブ記事タイトル
「子宮頸がんワクチン研究班が捏造」
2中見出し「実験担当者の供述」中の記事
「しかし,原告教授はこの組み合わせのスライドだけを選んで公表した。」
(「A氏が語ったことの詳細」としてまとめられた記述の第4項部分)
3中見出し「チャンピオンデータは科学か」中の記事
「他のワクチンでも強く光っている写真がたくさんあったのに,原告教授は,
子宮頸がんワクチンでよく光っている写真と他のワクチンで光っていない写真
が組み合わさったスライドだけを発表した。」
4中見出し「明らかな意図」中の記事
「これは「子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起きた」と言うた
めに造られた実験であり,“捏造の意図”があったと結論付けざるを得な
い。」
中見出し「当事者たちに反省なし」中の記事
「それぞれの立場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――これが国費を
投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。」
別紙4本件ウェブマガジンにおける謝罪広告の内容
第1見出し
原告氏に対するお詫び
第2本文
当社は,当社ウェブマガジン「WEDGEInfinity」において,
「子宮頸がんワクチン研究班が捏造厚労省,信州大は調査委設置を利用さ
れる日本の科学報道(続篇)」と題して,原告氏が厚生労働省の研究班の研究
活動において捏造行為を行ったとする誤った内容の記事を掲載したことで,原
告氏の名誉を著しく傷つけ,多大なるご迷惑をお掛けいたしました。
ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成年月日
被告会社
代表取締役丁
別紙謝罪広告の内容
第1見出し
原告氏に対するお詫び
第2本文
当社は,当社発行の月刊誌「Wedge」平成28年7月号において「研究
者たちはいったい何に駆られたのか子宮頸がんワクチン薬害研究班崩れる
根拠,暴かれた捏造」と題し,また,当社ウェブマガジン「WEDGEIn
finity」において,「子宮頸がんワクチン研究班が捏造厚労省,信州
大は調査委設置を利用される日本の科学報道(続篇)」と題して,原告氏が
厚生労働省の研究班の研究活動において実験結果の捏造行為を行ったとする虚
偽の内容の記事を掲載したことで,原告氏の名誉を著しく傷つけ,多大なるご
迷惑をお掛け致しました。
ここに謹んでお詫び申し上げます。
平成年月日
原告様
被告会社
代表取締役戊
別紙6掲載条件
第1月刊誌「Wedge」
1掲載場所
いずれかの頁の1面
2使用活字
見出しについては,14ポイント,ゴシック活字
本文については,12ポイント,明朝体活字
第2ウェブマガジン「WEDGEInfinity」
12ポイント以上のゴシック体。
掲載開始日より1年間継続して掲載する。
別紙7ウェブマガジン「WEDGEInfinity」削除対象部分
1本件ウェブ記事のタイトル
「子宮頸がんワクチン研究班が捏造」
2中見出し「実験担当者の供述」中の記事
「しかし,原告教授はこの組み合わせのスライドだけを選んで公表した。」
(「A氏が語ったことの詳細」としてまとめられた記述の第4項部分)
3中見出し「明らかな意図」中の記事
「これは「子宮頸がんワクチンを打ったマウスの脳に障害が起きた」と言うた
めに造られた実験であり,“捏造の意図”があったと結論付けざるを得な
い。」
4中見出し「当事者たちに反省なし」中の記事
「それぞれの立場と動機から,捏造に手を染める研究者たち――これが国費を
投じた子宮頸がんワクチン薬害研究班の実態だ。」
別紙取材結果
1A氏「(本件スライドを指して)まあ,これ,沈着じゃないですよね。」<7
頁>
2被告乙「『NEWS23』,原告先生,何て言ったかというと,読み上げると
『明らかに脳に障害が起きていて,ワクチンを打った後,こういう脳障害を訴え
ている患者の共通した客観的所見が提示できている』。」,A氏「ないですね,
そんな。」<12頁>
3被告乙「脳の海馬,記憶の中枢に異常な抗体が沈着したと。で,海馬の機能を
障害していそうだ。」,A氏「いや,それもないですね。」(中略)「これから
やりましょうか,って話になったんですよ。」<13頁>
4A氏「ただ,今回はパイロット実験でやっただけなんですよ。」<18頁>
A氏「脳の切片を取って,ちょうど海馬が出るとこ,そこに各ネズミから採っ
てきた血清をこう載せて,そこに自己抗体がもしあって,その自己抗体が,脳の,
何らかのものを認識すれば,緑色に染まるような状態にしたって感じ。」,被告
丙「何でそんなことしたんですか。」,A氏「自己抗体のやり方です」,被告丙
「要するにアジュバンドがね,Blood−BrainBarrier越えて,
脳に沈着化するかどうかみたいなところが割と争点になっていて。」,A氏「そ
れ,全然違いますよ。」(中略)C教授「自己抗体って,割と,マウスだと,B
BB越えないんです。」,A氏「越えないですね。」(中略)「ただ,自己抗体
ができているかどうかを確認しただけです。」(中略)「ワクチンを打ったマウ
スの脳の神経変性が起きたっていうようなことは,一切やってないんですよ。私
たち。」<28〜30頁>
6A氏「元々このネズミって,脳とか神経変性が起きやすいネズミだから,例え
ばワクチン,子宮頸がんワクチンを打ったところだけがドラマチックに緑色にな
るっていうこともあるんだけども,ただ,元々なるから,他のマウスでも緑色に
染まることありました。」<32頁>
7A氏「ただ,数値から見ると,子宮頸がんワクチンの方が若干高いかな。」<
33頁>
8被告乙「(本件スライドを示しながら)これが,ずっと,テレビとかに使われ
てるんですけど。」,A氏「例えばね,うん,例えば,緑色のこれとか出るんで
すよ。……。元々,自己抗体持ってますからね,このネズミは。だから,出ると
きありますよ。もちろん。……。ラボのプログレス・ミーティングのときに,何
枚も写真出しますよ。何枚も写真出して,その中の1枚なんですよ。」(中略)
「きれいかなって」(中略)「だから,それを選んだんじゃないですか。原告先
生が。」,被告乙「(本件スライドを示しながら)これに近いぐらい染まってる
やつは他にも。」,A氏「ありますよ。」<43〜4頁>
9A氏「だから,これ,班会議だから,私は出した,渡しただけであって。」
(中略)C教授「文科省から厚労科研費の,あのう,中間発表の,あの,報告会
みたいなのは,基本,クローズで。」,A氏「クローズ。」<46〜47頁>
A氏「私,『学会発表はだめだ』って言ってますから。」,被告丙「いいまし
た?先生に。」A氏「言ってます。」,C教授「これ,学会発表やる段階じゃな
い。」,A氏「段階じゃない,こんなものは。」(中略)被告丙「これ,かなり
騒ぎになってるんですけど。」,A氏「そうだよ。困っちゃうんですよ,こんな
ことやられたんじゃ。全然,事実と違いますからね。」<6頁>
C教授「だから,N1ずつっていうことですね。この棒グラフは。」,A氏
「この場合はN1ですね。」,被告乙「これ,まさにチャンピオンっていう。」,
A氏「うん,そうそう。」<8〜9頁>
A氏「厚労省科研の報告書,申請書見てもらえればわかると思う。私の名前は
どこにもないですよ。」,被告乙「そうですよね。」,A氏「はい。ないです
よ。」,被告丙「ああ。そう,確かに,確かに。ないですよね。」,被告乙「じ
ゃ,ほんと,お手伝いさせられた」,A氏「お手伝いさんです,私は。」,C教
授「だから原告先生が『これやって』って言ったから」,A氏「『やって』って
言われたから,やった。」<61頁>
被告丙「サーバリックスの差ってやっぱりすごく濃く見えますけど,こういう
ふうにきれいに他のものでも染まることってあったんですか。」,A氏「ありま
したよ。」(中略)被告丙「だけど,この,一番サーバリックスがきれいに染ま
っているデータを原告先生にお渡しした理由は何かあるんですか。」,A氏「い
や,だから,それだけじゃないですもん。」,被告丙「もっと,これが何枚もあ
る」,A氏「もう,もう何枚もある。」,被告丙「あ,で,原告先生が,これ取
ったの?」,C教授「で,それ,これ,ピックアップ。」,A氏「ピックアップ
しただけなんですよ。」,C教授「やばい人なんだ。」,被告丙「うわ,やばい。
これは,やばい。」,C教授「やばい人ですよ。それ。」,A氏「だって,私,
渡したのは毎回毎回プログレス・ミーティングでやるのは,大体1回あたり30
枚やりますからね。」,被告乙「30枚あるんですか?」,被告丙「もうこれ記
事バリュー超上がります。」,C教授「超上がります。」,被告乙「30枚ある
んですか。」,A氏「1回当たり,1カ月当たりのプログレス・ミーティング,
30枚あるので,その内の2,3枚がこういうデータなので,枚数からすると,
,6枚はありますよ。」,被告乙「これが?」,A氏「うん,こういうの。あ
と,これは海馬だけれども,網膜もありますからね。」<7〜77頁>
被告丙「先生,これぜひ,こういうふうに,濃くきれいに他のワクチンが染ま
ってる画像とかも欲しいです。」,被告乙「見せたんだったら。」,被告丙「見
せたのであれば。」,A氏「ありますよ。うん,上がってますからね。数値的に
は。」,被告丙「もらえます?それ。」,A氏「うん?今すぐ出ないよ。」,被
告丙「今すぐじゃなくて,お帰りになってからでいいんで。」,A氏「松本行か
ないと,出ないです。うん。」,被告乙「松本,いつ行かれますか。」,A氏
「今日の夜。」<79〜80頁>
被告乙「原告先生が『一番いいやつ持って来てくれ』とか,3月の発表がある
から『早く出して』『早く出してくれ』とか,そういうオーダーはありまし
た?」,A氏「ない。」,被告丙「何かこのサーバリックスに関して『やっぱり
って思うようなデータない?』みたいな感じのことは言われなかった?」,A氏
「ない。」(中略)被告乙「単につまんだって。」,A氏「つまんだってこ
と。」<81〜82頁>
被告丙「先生自体は,これ,パイロットでやってますけど,かなり,サーバリ
ックスだけにおかしいことが起きてそうだみたいな,例えばマウスの様子とかね,
そういうのも含めて。」,被告乙「印象はある?」,被告丙「何か印象としては
どうですか。」,A氏「多少なりともあるかな。」,被告丙「多少なり。」,A
氏「でも,それは,サイエンティフィックエビデンス提示しろ,っていわれたら,
今現時点ではちょっとないですね。」,被告乙「でも,ちょっと感触があるから,
これからも続けようとされてるわけですね。」,A氏「うん。そういうことです
よ。そう,そう,そう。」,被告丙「どんなところですか,例えば。なんか,そ
の,そういうふうに思わせるもの。」,A氏「ああ,それは,例えば自己抗体に
しても,一応少しは高いですからね。サーバリックスにすると。」<86頁>
A氏「内輪の,クローズド・ミーティングのときは(パイロット実験で得られ
た結果について,発表することも)『いいですよ』って私,言ってんだけど。」,
被告丙「それも言ったんですか。先生。」,A氏「言ってますよ。B先生に言っ
てます。言ってる。」,被告丙「B先生にはクローズドの会なら出していいとい
うふうにおっしゃった?」,A氏「ファイナルというか,クローズド・ミーティ
ングで表に出ないもんだったらば,プレゼンは,いいんじゃないですかと。その
中に。」,C教授「先ほど,他のワクチンを打ったマウスも緑色になってるやつ
も渡しつつ。」,A氏「そうそう。渡して。うん。」<98頁>
C教授「ワクチン打ったマウスで,脳にIgGが,あのう,確認っていう。」,
A氏「沈着したっていうのは見てないし,そんなデータ持ってません。」,被告
乙「なるほど。脳に病気は,もちろん,元々そういうマウスだからあるけど。」,
A氏「元々,はい。」,被告乙「IgGは出てないと。その脳のマウスそのもの
の。」,A氏「出てないんじゃなくて,出てるっというエビデンスは,も,取れ
てない。」,被告乙「出てるっていうデータがない。」,C教授「ちょっとやっ
た限りでは」,被告乙「分かんない。」,A氏「エビデンスは取れてない。」,
C教授「ちょっとやった限りでは,あの,出てなかった。」,A氏「ちゃんとや
れば出るかもしれないけれども。」,被告乙「取れるかもしれない。なるほど。
なるほど。」,A氏「私は今のところ,そのエビデンスは持ってない。」<11
〜116頁>
被告丙「ワクチンを打ったマウスの,12カ月時点のもので,IgGの沈着が
確認されたものはなかったと言っていいですよね」,A氏「なかったんじゃなく
て。」,被告乙「あるエビデンスがない。」,A氏「あるっていうエビデンスは
取れてない。」,被告丙「あるというエビデンスはない。」,被告乙「あるとい
うエビデンスが取れてない。」,A氏「うん。」,被告乙「なかったとは言えな
い。」,A氏「なかったなんて言わない。言ってないですよ,私。」,被告乙
「わかりました。」,A氏「あるっていう証明できるエビデンスが取れていな
い。」,C教授「ちょっと実験やった限りでは。」,A氏「うん,ちょっとやっ
た限りではね。」<117〜118頁>
被告乙「(本件面談について)原告さんの指示は,確認とか,指示はされ,受
けて,特に原告先生に相談されたりということはしてない?」,A氏「してない
です。」<131頁>
A氏「パイロット実験の内容に対して,話をしても,正確な話はできないんじ
ゃないかと。だから,もし可能性があるならば,本当にちゃんとした実験系を組
んだときに,確かなデータが出た時に話をするっているのが,一つのルールなん
じゃないかなっていうのは,それはB先生のコメントです。」<136頁>

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