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原因は“認知の歪み”か?ゴッド・ハンドと呼ばれた整体師がわいせつ行為

“ゴッド・ハンド”の持ち主と言われた整体師・磯部昭弘被告(47)が、20代の女性客に対して、施術に見せかけながらわいせつな行為をしたとして準強制わいせつ罪に問われた裁判で、東京地裁(福嶋一訓裁判長)は6月6日、懲役2年6月、執行猶予4年(求刑懲役2年6月)の判決が下した。
 テレビに出演し、タレントにも施術を行うなど知名度も高かった磯部被告だが、「この人なら触っても大丈夫」との思い込みから、複数の女性客にわいせつな行為を繰り返したことを証言した。福嶋裁判長は「被害者の信頼に乗じた犯行で悪質」と述べた。

■施術中に、女性客の陰部と胸を触った
 判決などによると、磯部被告は16年9月4日、初めて来店したAさんに対して施術台で全裸にさせたあとに、陰部を触ったり、胸を揉んだりした。さらに、Aさんの右手をもって、被告人自身の陰茎をズボンの上から触らせた。また、16年8月31日、2回目の来店だったBさんを施術台に仰向けで寝かせて、スパッツに手を入れて、陰部を触った。右手で腰を持ち上げながら、5分間触り続けた。その後、Tシャルの胸元から手を入れて、両手で直接、胸元を5分ほど揉んだ。
 被告人は、起訴事実について争わなかった。
 5月16日には論告求刑があった。検察側は、磯部被告が整体師という立場を利用し、長時間にわたって、裸もしくは裸同然の被害者にわいせつな行為をしたこと、規範意識に欠けること、性的欲求を抑えられなかったこと、当時は「性的に受け入れている」と思い込んだという弁解を述べていることなどから、被害者一人とは示談、もう一人には賠償金を払ったことを考慮して、懲役2年6月を求刑した。
 一方、最終弁論で弁護側は、磯部被告が「最初は小さな出来心から始まった」といい、わいせつな行為を行なったのは「施術した約3万人のうち10人に対してであり、常習とは言えない」と主張。また、「自分の行為は受け入れられているという認知の歪みから犯行が行われた。司法サポートプログラムの認知行動療法の中でそれを自覚した。検察官のいうような『弁解』ではない」とした。さらに計画性がないこと、Aさんには示談金を、Bさんには賠償金を払っている」などから、執行猶予相当だとした。
 判決で、福嶋裁判長は「被害者の信頼に乗じた犯行で悪質」であり、被害女性は見知らぬ男性への恐怖心が芽生えるなど「精神的苦痛を与えた」とした。一方で、Aさんには示談金を、Bさんには賠償金を支払っていること、司法サポートプログラムを受けていること、被告人の父親が更生の約束をしていること、前科前歴がないことを踏まえて、執行猶予とした。

■わいせつ行為のきっかけは、一人の客と肉体関係を持ったこと
 これに先立ち、4月27日には被告人尋問があった。
 磯部被告が整体師になろうと思ったのは1999年。きっかけは、「人の役に立ちたい」「直接、人と接する仕事がしたい」というものだった。そのために、整体の専門学校や北京大学に短期留学をして、技術を学んだ。働き始めたのは2000年ごろ。その後、独立して、吉祥寺や南青山、そして6年前、銀座で店を構えるようになった。口コミを基本としながらも、メディアでも取り上げられ、客足が伸びた。
 そんな中で事件が起きるが、事件化するまでにも、わいせつ行為を繰り返していた。

弁護人:今までわいせつ行為は何人ぐらい?
被告人:10人ぐらいです
弁護人:施術はこれまでに?
被告人:3万人以上

そもそも、被告人が施術と称して客に対してわいせつ行為を繰り返すようになったのには、きっかけがある。

弁護人:今回のようなわいせつ行為は、2人以外にもありますか?
被告人:最初は平成20年ごろ
弁護人:きっかけは?
被告人:最初は、仲良くなったお客さんと肉体関係を持った。その女性は1回目の施術のときに、性的な感情を抱き、「性感マッサージのようだ」と言っていた。そのことが頭から離れないでいた。

■“成功体験”から、「この人は触っても大丈夫!」と思い込んだ
 こうした“成功体験”によって、磯部被告自身の整体の技術により、性的に感じる女性がいる、という認識になった。そして、多くの客の中から、「この人は触っても大丈夫だ」という人を選ぶことになる。「認知の歪み」と言われる、身勝手で、都合のよい思い込みが生じ、その中で、逮捕のきっかけとなったAさんの事件が起きる。

弁護人:わいせつな行為をしようと思ったのはなぜですか?
被告人:施術を終えて、鏡をみて、姿勢をチェックした。話をしている中で、くびれ部分が気になっていた。
弁護人:それから?
被告人:再び、うつぶせにしました。そのとき、通常のマッサージの気持ち良さとは違うように誤認した。
弁護人:まずどうしましたか?
被告人:ベッドに座り、キャミソールを脱がせて、仰向けにして、直接、脇腹から施術。それがエスカレートした。ズボンを脱がせて、全裸にした。
弁護人:Aさんは施術と思っていた?
被告人:施術の延長という意識だった。
弁護人:わいせつな行為について、同意をとった?
被告人:同意ではない。私の見当違い
弁護人:わいせつ行為の内容は?
被告人:下着をおろす前、陰部を触った。その後、下着を脱がせて、ブラを外した。またがった状態で、胸を触った。
 磯部被告の逮捕容疑はAさんの事件だったが、その後の捜査で、それ以前にもBさんに対してわいせつ行為をしていたことが発覚。起訴された。

弁護人:Bさんへのわいせつ行為の内容は?
被告人:最初はうつぶせして、その後、仰向けにさせた。そしてスパッツに手を入れて、陰部を触った。
弁護人:どんな態勢?
被告人:ベッドの右側に座って、右手で腰を持ち上げた。
弁護人:どのくらいの間?
被告人:5分ぐらい。
弁護人:他にしたのは?
被告人:Bさんの頭側に座り、服の中に手を入れて触った。両手で直接。
弁護人:どのくらい?
被告人:5分ほど。
 Bさんのときも、Aさんのときと同様に、磯部被告は「触っても大丈夫」という認知の歪みが起きている。そして、陰部と胸を触るという、やはり同じ行為をしていた。Bさんは2回目の来店だった。1回目はわいせつ行為をしていなかったが、なぜ2回目にすることになったのか?

弁護人:しようと思ったのは?
被告人:Bさんは2回目の来店。Bさんは私に信頼感があった。そのため、「触っても大丈夫」と思ってしまった。
 性犯罪者の多くは、「こうしたとしても許されるはず」との認知の歪みがあり、磯部被告の場合も、女性客が「性的に感じている」「この人なら触っても大丈夫」と思い込んだときに、わいせつ行為のターゲットにした。しかも、施術に見せかけるために、Aさんに対して「体は物体にしか見えない」などと言っていた。これらについて、検察官は、弁護人よりも細かく聞いている。

検察官:下着を脱がせ、どのように陰部を触った。
被告人:右手中指で。くるくると回すように。
検察官:そのとき、何か言った?
被告人:「少し濡れてきたね」「マッサージをすると普通なんだよ」
磯部被告は我慢しきれなかったのか、わいせつ行為中に「濡れてきた」と言っている。しかも、「マッサージをすると普通なんだよ」と、施術中と見せかけている。

■検察官はさらに詳細に証言させた。その意図は?
 検察官は女性だが、なぜ、このような細かい描写を証言させたのか。
 被告人質問の前に、父親による証人尋問があった。「被告人から何をしたのか聞いたか?」と聞かれ、父親は「詳しくはわからないが、施術中に行ったと聞いた」と答えた。検察官は「そこを知らないと監督できないのではないか」と強く指摘していた。傍聴席にいた父親に何をしたのかを知らしめたかったのではないか。
 また検察官はさらに詳細に聞く。

検察官:どうして陰茎を触れさせた?
被告人:「自分自身も勃った」と教えたかったのかも
検察官:Aさんはお客さん。性的な行為を予期していないですよね?
被告人:当時は、受け入れていると思ってしまった。
検察官:「体が物体にしか見えない」と言った?
被告人:Aさんだけでないが、着替えているときに言っている。
検察官:それを言った意図は?
被告人:恥ずかしそうにしていたので、女性として体を見ていないという意味
 弁護人はAさんに自分の陰部を触らせたことは聞いたが、その意図については聞いていない。検察官はそこをあえて聞いている。被告人の身勝手さを露呈させようとしたのだろう。Bさんに対する行為では、以下のように「欲望の赴くままに」という言葉を引き出さしている。

検察官:Bさんのスパッツの中に手を入れたのはどうして?
被告人:欲望の赴くままに。
検察官:両手で直接胸を触った?
被告人:Tシャツの胸元から手を入れた。胸周りを揉んだ。一回掴んで揉んだ。
 法務省は2006年5月から、刑務所内で「性犯罪者処遇プログラム」を導入した。04年11月、奈良県奈良市で、わいせつ目的で女児誘拐殺害事件が起きたことがきっかけだった。小林薫死刑囚(執行済)は過去に幼児への強制わいせつの前科があり、性犯罪者への再犯防止対策をしなければならないとの声があがった。問題のある認知や感情に対処し、自己管理能力を高め、再犯に至らないようにする取り組みだ。
 一方、被告人は、民間医療機関の司法サポートプログラムを受けている。裁判前から取り組む性犯罪者の更生プログラムのことだ。リスクマネージメントプラン(RMP)を作り、「なりたい自分」を想定し、何をすべきかを書き込む用紙がある。また、性犯罪を犯さないために、自分自身のパターンを知り、それを防ぐための手段や協力者の存在、加害行動に責任を取らせることを意識づける。このRMPを何度も更新させていく。再犯防止が目的だ。
 その点について、被告人はこう述べていた。
 「整体の仕事から手を引く。留置所の中でも思っていたが、保釈後に決意した。それが再犯防止だと思う」
 施術室は、被告人がわいせつ行為をする大きな要因だ。しかし、施術室ではない環境で、「この人なら触っても大丈夫」という考えが浮かばないとも限らない。そのため、認知の歪みそのものを修正していく必要がある。また、修正できない場合には薬物療法を併用していく必要がある。証人尋問でもクリニックの社会福祉士・精神保健福祉士、斉藤章佳氏が「本人の同意が必要だが、薬物療法で性的欲望を抑えることができる」と話していた。

(2017年06月08日 11:18 BLOGOS 渋井哲也)

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