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平成24年12月25日判決言渡
平成23年(行ウ)第385号所得税納税告知処分等取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
豊島税務署長が平成21年11月25日付けで原告に対してした同年1月分
の源泉徴収に係る所得税の納税告知及び不納付加算税の賦課決定をいずれも取
り消す。
第2事案の概要
本件は,土木建築工事の請負を業とする株式会社であり,所得税法(平成2
2年法律第6号による改正前のもの。以下同じ。)6条の源泉徴収義務者であ
る原告が,豊島税務署長(処分行政庁)から平成21年11月25日付けで国
税通則法36条1項2号の規定に基づく同年1月分の源泉徴収に係る所得税の
納税告知(以下「本件納税告知」という。)及び不納付加算税の賦課決定(以
下「本件賦課決定」といい,本件納税告知と併せて「本件納税告知等」とい
う。)を受けたため,本件納税告知の原因とされた原告の従業員らの慰安旅行
に係る経済的利益の供与は所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当する
ものではなく,原告は上記経済的利益について源泉徴収義務を負うものではな
いのであって,本件納税告知等は違法であると主張し,処分行政庁の所属する
国を被告として,本件納税告知等の各取消しを求める事案である。
1関係法令の定め等
本件の関係法令の定め等は別紙(関係法令の定め等)のとおりである。なお,
同別紙の中で定めた言葉の意味は,以下の本文中においても同一の意味である
ものとする。
2前提事実(顕著な事実,争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1)当事者
原告は,鉄道線路の基礎杭打工事の請負事業を営む株式会社である。(甲
10)
(2)慰安旅行の実施及びその費用の負担
原告は,平成21年1月10日から同月12日まで,原告代表者,原告の
従業員10人(以下「本件各従業員」という。)並びに外注先の従業員及び
一人親方21人の合計32人を参加者として,中華人民共和国(以下「中
国」という。)澳門特別行政区(以下「マカオ」という。)への2泊3日の
慰安旅行(以下「本件旅行」という。)を実施し(乙3),その費用(以下
「本件旅行費用」という。)の全額合計800万円を負担した。(乙4,
5)
(3)本件旅行費用の経理処理
原告は,本件旅行費用のうち本件各従業員(10人)に係る1人当たり2
4万1300円(以下「本件各従業員分旅行費用」という。)の合計241
万3000円を福利厚生費として経理処理し(乙6),本件各従業員に供与
した本件旅行に係る経済的利益についての源泉徴収に係る所得税(以下「源
泉所得税」という。)を平成21年1月分の源泉所得税の法定納期限である
同年2月10日までに納付することはしなかった。
(4)本件納税告知等の経緯
ア本件納税告知等
豊島税務署長は,本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的利益の供
与は所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当し,原告は同法183
条1項の規定により上記経済的利益について源泉徴収義務を負ったもので
あるところ,平成21年1月分の源泉所得税の法定納期限である同年2月
10日までにその納付をしなかったとし,別表1のとおり,同年11月2
5日付けで,国税通則法36条1項2号の規定に基づいて,原告に対し,
上記経済的利益についての源泉所得税に係る本件納税告知及び本件賦課決
定をした。(甲1)
イ本件納税告知等についての異議申立て
原告は,本件旅行は所得税基本通達36-30(別紙の3)が役員又は
使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認
められる行事により供与された経済的利益については非課税としている趣
旨を逸脱するものではなく,本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的
利益の供与を「給与等」の支払として源泉徴収義務を課すのは課税の公平
という大原則を逸脱するものであると主張し,別表1のとおり,平成22
年1月22日付けで,本件納税告知等についての異議申立てをした。豊島
税務署長は,本件旅行は上記通達の解釈通達(別紙の4)が定める要件を
形式上は満たすものであるが,本件各従業員分旅行費用が1人当たり24
万1300円と多額であることによれば,所得税基本通達36-30にい
う「役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行わ
れていると認められる」行事に該当すると認めることはできないとし,別
表1のとおり,同年3月19日付けで,原告の異議申立てをいずれも棄却
する決定をした。(甲2,3)
ウ本件納税告知等についての審査請求
原告は,上記イの異議申立ての理由と同趣旨の理由により,別表1のと
おり,平成22年4月20日付けで,本件納税告知等についての審査請求
をした。国税不服審判所長は,本件各従業員分旅行費用は海外への慰安旅
行における一般的な会社負担額(旅行費用の平均額8万1154円の70.
1%に相当する5万6889円)を大きく上回るものであるから,それに
ついて少額不追求の観点から強いて課税しない取扱いをすべき根拠はない
ものといわざるを得ず,本件旅行は所得税基本通達36-30にいう「役
員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われてい
ると認められる」行事に該当すると認めることはできないとし,別表1の
とおり,同年12月17日付けで,原告の審査請求をいずれも棄却する裁
決をした。(甲4ないし6)
(5)原告は,平成23年6月20日に本件訴えを提起した。
3争点
本件の争点は,本件納税告知等の適否,具体的には,本件各従業員に対する
本件旅行に係る経済的利益の供与は所得税法28条1項の「給与等」の支払に
該当するか否かである。
4当事者の主張
(1)被告の主張
ア本件納税告知の根拠
本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的利益の供与は所得税法28
条1項の「給与等」の支払に該当し,原告は,同法183条1項の規定に
より,上記経済的利益について源泉徴収義務を負ったものであるところ,
この経済的利益は同法186条1項の「賞与」に該当するから,原告がこ
れについて本件各従業員から徴収し納付すべき源泉所得税額は合計34万
7472円である。原告は,平成21年1月分の源泉所得税の法定納期限
である同年2月10日までにその納付をしなかった。
イ本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的利益の供与の所得税法28
条1項の「給与等」の支払該当性
(ア)所得税の課税対象となる経済的利得
我が国の所得税法は,いわゆる包括的所得概念,すなわち,担税力を
増加させる経済的利得は全て所得を構成し,反復的,継続的利得のみな
らず,一時的,偶発的,恩恵的利得も所得に含まれるという考え方を採
用している。人の担税力を増加させる経済的利得であっても,担税力の
薄弱性,公益上ないし政策上の理由等により所得税の課税対象とするこ
とが適当でないものについては,同法9条ないし11条や租税特別措置
法その他の法令において,例外的に非課税とされていることからしても,
所得税法は,人の担税力を増加させる経済的利得の全てを所得と捉え,
特に非課税とする明文の規定が存在しない限り,その利得の生じた原因
又は法律関係のいかんを問わず,所得税の課税対象となるものとしてい
ることは明らかである。
(イ)所得税法28条1項の「給与等」の意義
所得税法は,給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びに
これらの性質を有する給与に係る所得をいうと定めている(28条1
項)ところ,この給与所得とは,雇用契約又はこれに準ずる関係に基づ
いて提供される非独立的な人的役務の提供の対価としての性質を有する
所得であると解される。そして,同法36条1項が,各種所得の金額の
計算上収入金額とすべき金額は,金銭以外の物又は権利その他経済的な
利益をもって収入する場合には,その金銭以外の物又は権利その他経済
的な利益の価額とする旨規定し,経済的利益による収入も課税対象とな
ることを明らかにしていることからすると,雇用契約等に基づいて提供
される非独立的な人的役務の提供の対価としての性質を有する経済的利
益も同法28条1項の「給与等」に該当するのであって,使用者が従業
員に慰安旅行に係る経済的利益を供与した場合,当該経済的利益は「給
与等」に該当するということとなる。
(ウ)本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的利益の供与の「給与等」
の支払該当性
使用者が従業員に供与する慰安旅行に係る経済的利益については,所
得税法はもとより,その余の法令においても,これを非課税とする明文
の規定は存在しない。したがって,原告が本件各従業員に供与した本件
旅行に係る経済的利益が所得税の課税対象となる所得に該当することは
明らかである。
そして,本件旅行は本件各従業員の慰安及び親睦を目的として行われ
たものであるところ,本件各従業員は,原告と雇用契約にあるために本
件旅行に参加し,原告の費用負担において本件旅行に係る経済的利益の
供与を受けたものであるから,その経済的利益が,本件各従業員との雇
用契約に基づいて提供された非独立的な人的役務の提供の対価としての
性質を有するものであることは明らかであり,本件各従業員に対する本
件旅行に係る経済的利益の供与は所得税法28条1項の「給与等」の支
払に該当するというべきである。
ウ本件納税告知の適法性
上記イ(ウ)のとおり,本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的利益
の供与は所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当するから,原告は,
同法183条1項の規定により,上記経済的利益について源泉徴収義務を
負ったものである。そして,この経済的利益は,その支給額,支給基準及
び支給期のいずれもがあらかじめ定められておらず,同法186条1項の
「賞与」に該当するから,原告がこれについて本件各従業員から徴収し納
付すべき源泉所得税額は,別表2のとおり,合計34万7472円である
こととなるところ,本件納税告知における納付すべき源泉所得税額はこの
金額と同額であり,原告は,平成21年1月分の源泉所得税の法定納期限
である同年2月10日までにその納付をしなかったのであるから,本件納
税告知は適法である。
エ本件賦課決定の根拠と適法性
原告は,本件各従業員に供与した本件旅行に係る経済的利益についての
源泉所得税をその法定納期限までに納付していないところ,そのことにつ
いて国税通則法67条1項の「正当な理由」があると認めることはできな
いのであって,原告の平成21年1月分の源泉所得税に係る不納付加算税
の額は3万4000円である。そして,本件賦課決定における不納付加算
税の額はこの金額と同額であるから,本件賦課決定は適法である。
(2)原告の主張
次のとおり,本件各従業員分旅行費用相当の本件旅行に係る経済的利益は
所得税の課税対象とされる経済的利益に当たるものではなく,本件各従業員
分旅行費用の負担は所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当するもの
ではない。したがって,本件各従業員分旅行費用の負担が「給与等」の支払
に該当するものであるとしてされた本件納税告知等は,全て違法な処分であ
る。
ア本件旅行の目的
原告は,基礎杭打工事の中でもとりわけ危険な鉄道線路の基礎杭打工事
の施行において高い技術を有しているところ,過誤が許されない危険な工
事を安全に施行するためには,強固な指揮命令系統を確立し,維持するこ
とが必要不可欠である。本件旅行の目的は,退職する取引先の従業員を盛
大に送り出すことを現場の全従業員に示すことにより強固な指揮命令系統
を更に強化することにあり,本件旅行は,操業の安全と能率の増進を図り,
業務に資するために行われたものである。本件旅行は,原告の社内におい
て絶対の存在である原告代表者の企画立案の下に行われたものであり,本
件各従業員は,本件旅行について,参加するか否かの選択,旅程の選択,
自由行動の幅といういずれの観点からも自由を与えられていなかったので
あって,反射的に利益を受けることはあっても,この利益を自由に処分す
ることはできなかった。
イ経済的利益が所得性を有し課税対象となるための要件
所得税法28条1項の「給与等」については,一般に,金銭の形をとる
必要はなく,金銭以外の経済的利益であっても,それが労務の対価として
の性質を有する限りは,給与所得に含まれると解されている。しかし,同
法36条1項が経済的利益を「収入すべき金額」の一態様として規定して
いること,及び,同項の収入金額とは相手方の財産的犠牲により流入する
金銭,物,権利又は経済的利益から構成される経済的価値であると解され
ることからすると,経済的利益でさえあれば,どのようなものであっても,
同項の「収入すべき金額」に該当し,課税対象となるわけではなく,経済
的利益が所得性を有し所得税の課税対象となるためには,/佑旅坩戮
より物権の変動又は債権発生に伴い管理,使用収益及び処分権を取得する
こと(流入性),⇔入によって取得した物権又は債権が直接又は間接
に生活目的に何らかの役に立つ性質すなわち効用を有すること(価値の保
有性),2瀛梢値による評価の可能なものであること(金銭的評価の
可能性)という三つの要件をいずれも満たす必要があると解すべきである
(幸田久「所得税法上の経済的利益について」税務大学校編・税大研究資
料第34号(昭和45年6月)研究科論文集(所得税編)。以下「幸田論
文」という。)。
ウ本件各従業員分旅行費用相当の経済的利益は幸田論文の三つの要件を満
たさないこと
そこで,本件各従業員分旅行費用相当の経済的利益が幸田論文の三つの
要件をいずれも満たすものであるか否かについて検討すると,次のとおり,
本件各従業員分旅行費用相当の経済的利益はこれらの要件をいずれも満た
さないものである。
(ア)流入性の要件を満たさないこと
幸田論文は,レクリエーション施設の利用,無料の研修その他の教育
費等の利益は,雇用の条件であるとともに,従業員の健康の保持等によ
って操業の安全と能率の増進を図る性質を有し,かつ,業務上の重要な
要件でもあるし,従業員はこの種の利益を任意に選択する自由を持たな
いから,業務の一環とみることができるのであって,流入性を有しない
としているところ,前記アのとおり,本件各従業員は,本件旅行につい
て,参加するか否かの選択,旅程の選択,自由行動の幅といういずれの
観点からも自由を与えられていなかったのであって,本件旅行は,操業
の安全と能率の増進を図り,業務に資するために行われたものであるこ
とからすれば,本件各従業員分旅行費用相当の経済的利益は,人の行為
により物権の変動又は債権発生に伴い管理,使用収益及び処分権を取得
することという流入性の要件を満たすものではない。
(イ)価値の保有性の要件を満たさないこと
幸田論文は,上記(ア)に掲記の私経済における反射的利益は価値の保
有性についても疑問があり,例えば,ホテルの管理人がホテルの中に無
料で居住した場合の効用は,一般従業員が社宅に無料で居住した場合の
効用とその外観及び消費の節約となる点において同様であり,価値の保
有性があるように見えるが,ホテルの管理人は職務上の必要性から自己
の欲求を犠牲にして居住しているのであり,価値の保有性を有しないと
している。このように,職務上の必要性から自己の欲求を犠牲にしてい
るとみられる場合には,経済的利益があるように見えても,保有性を有
しないというべきであるところ,前記アによれば,本件旅行は,職務上
の必要性から自己の欲求を犠牲にして参加しなければならない社内行事
であり,自由時間である休日に行われたにもかかわらず,本件各従業員
の生活目的に何ら役立っていないのであるから,本件各従業員分旅行費
用相当の経済的利益は,流入によって取得した物権又は債権が直接又は
間接に生活目的に何らかの役に立つ性質すなわち効用を有することとい
う価値の保有性の要件を満たすものではない。
(ウ)金銭的評価の可能性の要件を満たさないこと
幸田論文は,所得税の課税客体である所得は全て貨幣数値で表現され,
租税の納付は金銭納付を原則とするから,貨幣数値による評価の可能な
もののみが課税対象の範疇に含まれるとしているところ,本件各従業員
は,本件旅行について,参加するか否かの選択,旅程の選択,自由行動
の幅といういずれの観点からも自由を与えられていなかったことによれ
ば,仮に本件各従業員が本件旅行に参加するという経済的利益の供与を
受けたということができるとしても,このような経済的利益に交換価値
を観念することはできない。また,本件各従業員が,本件旅行について,
上記のとおり自由を与えられていなかったことによれば,本件旅行は私
的な自由旅行とは区別されるべきものであり,少なくとも本件各従業員
分旅行費用の額がそのまま本件各従業員が供与を受けた経済的利益の額
となるということはできない。本件各従業員分旅行費用相当の経済的利
益は,本件旅行の特質性から貨幣数値による評価の可能性を欠き,金銭
的評価の可能性の要件を満たすものではない。
エ被告の主張について
(ア)被告は,人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を構成すると
いう包括的所得概念に基づく主張をする。しかし,包括的所得概念は,
人の担税力を増加させる経済的利得は所得を構成するとするものにすぎ
ず,経済的利得であれば何であれ所得を構成するとしているわけではな
い。そして,本件各従業員は本件旅行への参加を強制されたものであり,
本件各従業員分旅行費用相当の経済的利益は,本件各従業員の担税力を
増加させるものではないから,所得性を有しない。
(イ)仮に,被告が主張するように,本件各従業員分旅行費用相当の経済的
利益が所得性を有する経済的利益であるとすると,管理支配基準によっ
ても所得の帰属時期を確定することができないという不合理な結論が導
かれる。すなわち,前記アのとおり,本件各従業員は,本件旅行につい
て,参加するか否かの選択,旅程の選択,自由行動の幅といういずれの
観点からも自由を与えられていなかったのであって,本件旅行に係る経
済的利益が本件各従業員のコントロールの下に入ったことはないという
べきであるから,権利確定主義はもとより,管理支配基準によっても,
所得の帰属時期を確定することはできない。
第3当裁判所の判断
1給与所得に係る源泉徴収についての所得税法の定め等
(1)所得税法28条1項(給与所得)に規定する「給与等」の支払をする者は,
同法により,その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務があり(同法6
条),居住者に対し国内において上記「給与等」の支払をする者は,その支
払の際,その給与等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌
月10日までに,これを国に納付しなければならない(同法183条1項)。
そして,上記「給与等」とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれ
らの性質を有する給与(同法28条1項),すなわち,雇用契約又はこれに
類する原因に基づき使用者等の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の
対価として受ける給付をいうものであると解される(最高裁昭和52年(行
ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁,
最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民
集59巻1号64頁参照)ところ,同法が,人の担税力を増加させる利得は
その源泉のいかんにかかわらず全て所得を構成するものとするいわゆる包括
的所得概念を採用しており(譲渡所得(33条1項),一時所得(34条1
項)等の所得の種類を設けて,反復的,継続的な利得のみならず偶発的,一
時的又は恩恵的な利得についても一般的に課税の対象とした上で,さらに,
雑所得(35条1項)をも設けて,23条から34条までに列記する各種所
得のいずれにも該当しない利得についても全て課税の対象としている。),
利得の形式についても,36条1項において,各種所得の金額の計算上収入
金額とすべき金額の中には金銭以外の物又は権利その他経済的な利益も含ま
れるものとしていることによれば,上記「給与等」の給付の形式は金銭の支
払には限られず,金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の移転又は供与
であっても,それが上記のような労務の対価としてされたものであれば,上
記「給与等」の支払に当たるものというべきである。
なお,所得税法183条1項の規定により徴収すべき所得税の額は,賞与
以外の給与等については同法185条の規定により,賞与については同法1
86条の規定により定められている。
(2)源泉徴収による所得税を徴収して国に納付する義務(納税義務)は,「給
与等」の支払の時に成立し(国税通則法15条2項2号),その成立と同時
に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(同条1項,3項2
号)。そして,税務署長は,国税に関する法律の規定により,源泉徴収によ
る所得税でその法定納期限までに納付されなかったものを徴収しようとする
ときは,政令で定めるところにより,納付すべき税額,納期限及び納付場所
を記載した納税告知書を送達して,納税の告知をしなければならない(同法
36条1項2号,2項)。
2本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的な利益の供与が所得税法28条
1項の「給与等」の支払に該当すること
(1)上記1を前提として,本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的な利益
の供与が「給与等」の支払に該当するか否かについて検討するに,前提事実
に加えて,証拠(甲2,4,11,乙1ないし6)及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実を認めることができる。
ア原告の業務内容
原告は,土木建築工事の中でも鉄道線路の基礎杭打工事を専門に請け負
っているものであるところ,鉄道線路の基礎杭打工事は,時間的及び空間
的制約が厳しいことから,一般的な基礎杭打工事と比べても危険性が高い
とされ,その現場作業においては,分秒単位で厳格に管理された作業工程
を確実に実施することが必要とされる。(甲11)
イ本件旅行の目的
原告は,従業員及び恒常的に取引関係のある外注先の従業員等を対象と
して,その慰安と親睦のため,数年に1度,2泊3日程度の旅程で海外へ
の社員旅行を実施しており,本件旅行の前には,平成16年に上海への社
員旅行を実施した。(甲11,乙1,2)
ウ本件旅行の企画立案
本件旅行の企画立案は,原告代表者が旅行代理店であるAの担当者であ
るBと相談の上で行った。原告代表者は,宿泊先について,一流ホテルに
1人1部屋で宿泊することとするという指示をするとともに,食事関係に
ついて,全6食を最高の食事とすることとするという指示をし,上記担当
者は,この指示に従い,マカオで最高級のホテルである「C」を宿泊先と
して選定するなどした。原告代表者は,旅程について,専用バスを利用し
て移動することとするという指示をしたのみで,具体的な観光先の選定等
は上記担当者に任せていたが,「全日程をマカオに滞在すると博打ばかり
してしまうので,2日目の午前に中国本土の珠海を観光することにしてほ
しい。」という指示をし,上記担当者は,この指示に従うとともに,他の
観光先として一般的な観光場所を選定するなどした。原告代表者は,予算
については,特に指示をしなかったため,本件旅行の費用は,マカオを渡
航先とする一般的な旅行と比べて,割高なものとなった。(甲11,乙1,
2)
エ本件旅行の実施
本件旅行は,原告が主催して実施されたものである。原告の従業員のう
ち,現場作業を担当するもの(本件各従業員)は全員が本件旅行に参加し
たが,現場作業を担当せず事務所において総務職を担当する女性従業員2
人は本件旅行に参加しなかった。
原告代表者及び本件各従業員10人は,平成21年1月10日午前,外
注先の従業員等21人と共に,D便とE便とに分乗して香港に行き,船
(F)を利用してマカオに到着した。原告代表者及び本件各従業員は,外
注先の従業員等と共に,専用バスを利用してαなどを巡り,マカオ市内の
観光をし,「G」で夕食をとった後,「H」で懇親会を開き,「C」に宿
泊した。原告代表者及び本件各従業員は,同月11日,外注先の従業員等
と共に,専用バスを利用して中国本土にある珠海の観光をし,昼食後,専
用バスを利用してβなどの世界遺産を巡り,マカオ市内の観光をした。原
告代表者及び本件各従業員並びに外注先の従業員等は,同日午後4時から
6時まで,自由時間を過ごし,「I」で夕食をとった後,「C」に宿泊し
た。原告代表者及び本件各従業員は,同月12日午前,外注先の従業員等
と共に,船(F)を利用して香港に到着し,専用バスを利用して香港市内
の観光をし,「J」で昼食をとった後,D便とE便とに分乗して帰国した。
(乙3)
オ本件旅行費用の負担及びその経理処理
原告は,平成20年10月20日,同年11月20日及び同年12月1
9日の3回にわたり,Aに対し,本件旅行の代金として合計800万円を
支払った(乙4,5)。原告は,そのうち,外注先の従業員等21人分の
代金に相当する506万7300円を交際費として,本件各従業員10人
分の代金に相当する241万3000円を福利厚生費として,原告代表者
分の代金に相当する51万9700円を役員賞与として,それぞれ経理処
理し(乙6),本件各従業員に供与した本件旅行に係る経済的な利益につ
いての源泉所得税を平成21年1月分の源泉所得税の法定納期限である同
年2月10日までに納付しなかった。
本件旅行費用は,その全額を原告が負担したため,原告の従業員で本件
旅行の費用を負担したものは存在しない。また,本件旅行に参加しなかっ
た上記女性従業員2人に対し,参加に代えて金銭の支給等がされることは
なかった。
カ異議申立ての理由
原告の本件納税告知等についての異議申立書の中には,本件旅行の目的
が強固な指揮命令系統を更に強化することにあった旨の記載や,本件各従
業員は本件旅行に参加するか否かの自由が与えられていなかった旨の記載
は存在しない。(甲2)
キ原告代表者の異議調査における供述
原告代表者は,平成22年2月10日に行われた異議調査において,豊
島税務署法人課税第1部門財務事務官Kに対し,本件旅行の目的について,
「慰安と親睦のための旅行である。危険を伴う仕事をしているので,数年
に1回実施し,従業員の慰安の意味合いが強い。従業員も楽しみにしてい
る。」と供述した。しかし,原告代表者が,上記異議調査において,本件
旅行の目的が強固な指揮命令系統を更に強化することにあった旨の供述や,
本件各従業員は本件旅行に参加するか否かの自由が与えられていなかった
旨の供述をした旨の記載は,その際に作成された調査報告書の中には存在
しない。(乙1)
ク審査請求の理由
原告の本件納税告知等についての審査請求書の中には,本件各従業員は
本件旅行に参加するか否かの自由が与えられていなかった旨の記載は存在
するが,本件旅行の目的が強固な指揮命令系統を更に強化することにあっ
た旨の記載は存在しない。(甲4)
(2)本件各従業員に対する本件旅行に係る経済的な利益の供与が「給与等」の
支払に該当すること
上記(1)ウないしオで認定したとおり,本件旅行は,原告代表者による企
画立案の下,原告が主催して実施されたものであり,平成21年1月10日
から同月12日までの2泊3日の旅程で,マカオを目的地及び滞在地とし,
原告代表者,本件各従業員(原告の従業員のうち現場作業を担当するものの
全員)及び外注先の従業員等を参加者として行われたものであること,及び,
その費用は全額を原告が負担したことによれば,本件各従業員は,本件旅行
に参加することにより,その使用者である原告から,本件旅行に係る経済的
な利益の供与を受けた(すなわち,本来有償でなければ受けることができな
い航空機,F等の交通機関,飲食店,宿泊施設等における役務の提供を,使
用者である原告の費用負担の下に無償で受けた)ものであると認めるのが相
当である。そして,上記(1)アないしエで認定した事実によれば,本件旅行
は,原告代表者が,鉄道線路の基礎杭打工事の現場作業に日々従事している
本件各従業員や外注先の従業員等を慰労し,併せて,相互の親睦を深め,今
後の業務の遂行をより円滑なものとする目的をもって,企画立案したもので
あり,実際にも,2泊3日の旅程中は,マカオ及びその周辺地域の観光に終
始し,指揮命令系統を強化するための研修などは一切行われなかったと認め
ることができるのであって,本件旅行は,専ら本件各従業員ほかのレクリエ
ーションのための観光を目的とする慰安旅行であったものであると認めるの
が相当である。そうすると,本件各従業員は,その使用者である原告から,
雇用契約に基づき原告の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対価と
して,本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものであり,原告は,本
件各従業員に対し,本件旅行に係る経済的な利益を供与し,所得税法28条
1項の「給与等」の支払をしたものであるということができる。
(3)原告の主張について
ア原告は,本件旅行の目的は,退職する取引先の従業員を盛大に送り出す
ことを現場の全従業員に示すことにより強固な指揮命令系統を更に強化す
ることにあり,本件各従業員は,本件旅行について,参加するか否かの選
択,旅程の選択,自由行動の幅といういずれの観点からも自由を与えられ
ていなかったと主張し,甲第11号証(原告代表者作成の平成23年11
月25日付け陳述書)の中には,これに沿う記載がある。
しかし,原告は,本件納税告知等についての異議申立てにおいては,異
議申立書の中に,本件旅行の目的が強固な指揮命令系統を更に強化するこ
とにあった旨の記載や,本件各従業員は本件旅行に参加するか否かの自由
が与えられていなかった旨の記載をしていないこと,原告代表者が,異議
調査において,本件旅行の目的が強固な指揮命令系統を更に強化すること
にあった旨の供述や,本件各従業員は本件旅行に参加するか否かの自由が
与えられていなかった旨の供述をした旨の記載は,その際に作成された調
査報告書の中には存在しないこと,原告は,本件納税告知等についての審
査請求においては,審査請求書の中に,本件各従業員は本件旅行に参加す
るか否かの自由が与えられていなかった旨の記載はしているものの,本件
旅行の目的が強固な指揮命令系統を更に強化することにあった旨の記載は
していないこと,そして,かえって,原告代表者は,異議調査において,
本件旅行は慰安と親睦のためのものであり,従業員の慰安の意味合いが強
く,従業員も楽しみにしていると供述したことは,上記(1)カないしクで
認定したとおりであり,本件旅行は,専ら本件各従業員ほかのレクリエー
ションのための観光を目的とする慰安旅行であったものであると認めるの
が相当であることは,上記(2)のとおりである。これらによれば,本件旅
行が,現場作業員の指揮命令系統を強化し,操業の安全と能率の増進を図
るという原告の業務上の必要に基づいて,本件各従業員に参加を強制して
行われたものであると認めることはできないのであって,本件各従業員が,
原告から,労務の対価としてではなく,原告の業務上の必要に基づいて,
本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものであるということはでき
ないものというべきである。
イ原告は,経済的利益が所得性を有し所得税の課税対象となるためには,
流入性,価値の保有性,金銭的評価の可能性という三つの要件をいずれも
満たす必要があると解すべきであるところ,本件各従業員は,本件旅行に
ついて,参加するか否かの選択等いずれの観点からも自由を与えられてい
なかったのであって,本件旅行は,操業の安全と能率の増進を図り,業務
に資するために行われたものであることなどからすれば,本件各従業員分
旅行費用相当の経済的利益はこれらの要件をいずれも満たさないものであ
ると主張し,また,本件各従業員は本件旅行への参加を強制されたもので
あり,本件各従業員分旅行費用相当の経済的利益は,本件各従業員の担税
力を増加させるものではないから,所得性を有しないとも主張する。
しかし,本件旅行が,現場作業員の指揮命令系統を強化し,操業の安全
と能率の増進を図るという原告の業務上の必要に基づいて,本件各従業員
に参加を強制して行われたものであると認めることはできないことは,上
記アのとおりであり,原告の上記主張は前提を欠くものである。そして,
本件各従業員は,本件旅行に参加することにより,その使用者である原告
から,本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものであると認めるの
が相当であることは,上記(2)のとおりであり,そのようにして本来有償
でなければ受けることができない役務の提供を無償で受けたことにより,
本件各従業員の担税力は増加したものであるということができるのであっ
て,原告が本件各従業員に供与した本件旅行に係る経済的な利益は所得税
の課税対象となるものというべきである。
ウ原告は,本件各従業員は,本件旅行について,参加するか否かの選択等
いずれの観点からも自由を与えられていなかったのであって,本件旅行に
係る経済的利益が本件各従業員のコントロールの下に入ったことはないと
いうべきであるから,権利確定主義はもとより,管理支配基準によっても,
所得の帰属時期を確定することはできず,仮に,被告が主張するように,
本件各従業員分旅行費用相当の経済的利益が所得性を有する経済的利益で
あるとすると,管理支配基準によっても所得の帰属時期を確定することが
できないという不合理な結論が導かれると主張する。
しかし,本件旅行が,現場作業員の指揮命令系統を強化し,操業の安全
と能率の増進を図るという原告の業務上の必要に基づいて,本件各従業員
に参加を強制して行われたものであると認めることはできないことは,上
記アのとおりであり,原告の上記主張は前提を欠くものである。そして,
所得税法は,各種所得の収入金額の収入すべき時期について,現実の収入
がなくても,その収入の原因となる権利が確定的に発生したときは,その
発生の時に所得の実現があったものとして,当該確定的な権利発生の時の
属する年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべきものとするいわゆ
る権利確定主義を採用していると解される(最高裁昭和43年(オ)第31
4号同49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁参照)が,
同法が権利確定主義を採用しているのは,所得税を課するに当たり常に現
実の収入があるまで課することができないとしたのでは,納税者の恣意を
許し,課税の公平を期し難いので,徴税政策上の技術的見地から,収入の
原因となる権利が確定的に発生した時期をとらえて課税することとしたも
のであることに鑑みれば,既に金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他
経済的な利益を収受し,所得の実現があったとみることができる状態が生
じたときは,その時期の属する年分の収入金額として所得を計算すべきも
のであることは当然である(最高裁昭和50年(行ツ)第123号同53年
2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁参照)。そこで,これ
を本件についてみると,本件各従業員は,本件旅行に参加することにより,
その使用者である原告から,本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けた
ものであると認めるのが相当であることは,上記(2)のとおりであり,本
件旅行に係る経済的な利益は,本件旅行が実施された平成21年1月10
日から同月12日までの間に,本件各従業員に収受され,所得の実現があ
ったとみることができる状態が生じたということができるのであって,本
件旅行に係る経済的な利益は本件旅行が実施された時に実現したものとす
るのが相当であり,その帰属時期を確定することができないということは
できない。
エ原告は,本件各従業員は,本件旅行について,参加するか否かの選択等
いずれの観点からも自由を与えられていなかったことによれば,本件旅行
は私的な自由旅行とは区別されるべきものであり,少なくとも本件各従業
員分旅行費用の額がそのまま本件各従業員が供与を受けた経済的利益の額
となるということはできないと主張する。
しかし,本件旅行が,現場作業員の指揮命令系統を強化し,操業の安全
と能率の増進を図るという原告の業務上の必要に基づいて,本件各従業員
に参加を強制して行われたものであると認めることはできないことは,上
記アのとおりであり,原告の上記主張は前提を欠くものである。そして,
使用者が役員又は使用人に提供した用役については,当該用役につき通常
支払われるべき対価の額により評価するのが相当であると解される(所得
税基本通達36-50参照)ところ,弁論の全趣旨によれば,原告が本件
各従業員に供与した本件旅行に係る経済的な利益につき通常支払われるべ
き対価の額は本件各従業員分旅行費用の額である24万1300円である
と認めることができるのであって,本件各従業員が供与を受けた経済的な
利益の額は本件各従業員分旅行費用の額となるとするのが相当である。
(4)所得税基本通達36-30について
なお,念のため,本件旅行は所得税基本通達36-30にいう「役員又は
使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認め
られる」行事に該当すると認めることはできず,同通達により非課税とする
ことはできないとすることが,課税の公平に反するということができるか否
かについて検討するに,上記通達が,使用者が「役員又は使用人のレクリエ
ーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」行事の費
用を負担することにより,これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける
経済的な利益については,課税しなくて差し支えないものとするのは,上記
のような行事は簡易なものであることが多く,それに参加することにより享
受する経済的な利益の額は少額であることに鑑み,少額不追求の観点から強
いて課税しないこととするのが相当であるためであると解されるところ,原
告代表者は,宿泊先について,一流ホテルに1人1部屋で宿泊することとす
るという指示をするとともに,食事関係について,全6食を最高の食事とす
ることとするという指示をし,Aの担当者は,この指示に従い,マカオで最
高級のホテルである「C」を宿泊先として選定するなどしたこと,原告代表
者は,予算については,特に指示をしなかったため,本件旅行の費用は,マ
カオを渡航先とする一般的な旅行と比べて,割高なものとなったことは,上
記(1)ウで認定したとおりであり,本件各従業員が供与を受けた経済的な利
益の額は本件各従業員分旅行費用の額すなわち24万1300円となるとす
るのが相当であることは,上記(3)エのとおりである。これらによれば,本
件旅行は,それに参加することにより享受する経済的な利益の額が少額であ
るものであるとは認めることができないのであって,上記通達にいう「役員
又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると
認められる」行事に該当するということはできず,本件各従業員に対する本
件旅行に係る経済的な利益の供与が「給与等」の支払に該当するとすること
が課税の公平に反するということはできないものというべきである。
3本件納税告知の適法性
上記2(2)のとおり,原告は,本件各従業員に対し,本件旅行に係る経済的
な利益を供与し,所得税法28条1項の「給与等」の支払をしたものというべ
きであるから,同法183条1項の規定により,その支払(供与)の際,本件
旅行に係る経済的な利益について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月で
ある平成21年1月の翌月10日までに,これを国に納付する義務を負ったと
ころ,上記所得税を上記法定納期限までに納付しなかったものである。そして,
本件旅行に係る経済的な利益は,その支給額,支給基準及び支給期のいずれも
があらかじめ定められておらず,同法186条1項の「賞与」に該当するから,
同条及び188条の規定を適用して,原告が平成21年1月分の源泉所得税と
して本件旅行に係る経済的な利益について本件各従業員から徴収し納付すべき
額を計算すると,その合計額は,別表2のとおり,34万7472円であるこ
ととなるところ,本件納税告知における徴収し納付すべき源泉所得税額はこの
金額と同額であるから,本件納税告知は適法である。
4本件賦課決定の適法性
原告は,本件各従業員に供与した本件旅行に係る経済的な利益についての源
泉所得税をその法定納期限までに納付していないところ,そのことについて国
税通則法67条1項ただし書に規定する正当な理由があると認めることはでき
ない(原告も,この点については特段の主張をしていない。)。そうすると,
同項本文及び118条3項の規定により,原告が納付すべき平成21年1月分
の源泉所得税額に係る不納付加算税の額は3万4000円であることとなり,
本件賦課決定における不納付加算税の納付すべき税額はこの金額と同額である
から,本件賦課決定は適法である。
第4結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,
訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官内野俊夫
裁判官小口五大は異動のため署名押印をすることができない。
裁判長裁判官川神裕
(別紙)
関係法令の定め等
1所得税法の定め
(1)6条(源泉徴収義務者)
28条1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者その他第4編第1
章から第6章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は,この法律により,
その支払に係る金額につき源泉徴収をする義務がある。
(2)28条(給与所得)
給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有す
る給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。(1
項)
(3)36条(収入金額)
アその年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額
に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入す
べき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合
には,その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。(1
項)
イ前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は,当該物若しく
は権利を取得し,又は当該利益を享受する時における価額とする。(2項)
(4)183条(源泉徴収義務)
居住者に対し国内において28条1項(給与所得)に規定する給与等(以下
この章において「給与等」という。)の支払をする者は,その支払の際,その
給与等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日までに,
これを国に納付しなければならない。(1項)
(5)186条(賞与に係る徴収税額)
賞与(賞与の性質を有する給与を含む。以下この条において同じ。)につい
て183条1項(源泉徴収義務)の規定により徴収すべき所得税の額は,次項
の規定の適用がある場合を除き,次の各号に掲げる賞与の区分に応じ当該各号
に定める税額とする。(1項)
ア給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者に対し,その提出の際に
経由した給与等の支払者が支払う賞与次に掲げる場合の区分に応じそれぞ
れ次に定める税額(1号)
(ア)その賞与の支払者がその支払を受ける居住者に対し前月中に支払った又
は支払うべきその他の給与等(以下この条において「通常の給与等」とい
う。)がある場合(その賞与の支払者が支払う通常の給与等の支給期が月
の整数倍の期間ごとと定められている場合にあっては,前月中に通常の給
与等の支払がされない場合を含む。(中略))前月中に支払った又は支
払うべき通常の給与等の金額(その賞与の支払者が支払う通常の給与等の
支給期が月の整数倍の期間ごとと定められている場合には,その賞与の支
払の直前に支払った又は支払うべきその通常の給与等の前条1項1号に規
定する月割額。(中略)),給与所得者の扶養控除等申告書に記載された
主たる給与等に係る控除対象配偶者及び扶養親族の有無及びその数に応じ
別表第4の甲欄により求めた率をその賞与の金額に乗じて計算した金額に
相当する税額(イ)
(イ)(ロは省略)
イ(2号は省略)
(6)188条(給与等から控除される社会保険料等がある場合の徴収税額の計
算)
給与等の支払の際控除される74条2項(社会保険料控除)に規定する社会
保険料又は75条2項(小規模企業共済等掛金控除)に規定する小規模企業共
済等掛金がある場合には,185条(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は
186条(賞与に係る徴収税額)の規定の適用については,その給与等の金額
に相当する金額から当該社会保険料の金額と当該小規模企業共済等掛金の額と
の合計額を控除した残額に相当する金額の給与等の支払があったものとみなし,
その残額がないときは,その給与等の支払がなかったものとみなす。
2国税通則法36条(納税の告知)の定め
(1)税務署長は,国税に関する法律の規定により次に掲げる国税(その滞納処分
費を除く。以下次条において同じ。)を徴収しようとするときは,納税の告知
をしなければならない。(1項)
ア(1号は省略)
イ源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかったもの(2
号)
ウ(3号及び4号は省略)
(2)前項の規定による納税の告知は,税務署長が,政令で定めるところにより,
納付すべき税額,納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行う。
(以下省略)(2項)
3所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益…使用者が負担するレクリ
エーションの費用)
使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行わ
れていると認められる会食,旅行,演芸会,運動会等の行事の費用を負担するこ
とにより,これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益について
は,使用者が,当該行事に参加しなかった役員又は使用人(使用者の業務の必要
に基づき参加できなかった者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する
場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き,課税しな
くて差し支えない。
(注)上記の行事に参加しなかった者(使用者の業務の必要に基づき参加できな
かった者を含む。)に支給する金銭については,給与等として課税すること
に留意する。
4所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益…使用者が負担するレクリ
エーションの費用)の運用について(法令解釈通達)
標記通達のうち使用者が,役員又は使用人(以下「従業員等」という。)のレ
クリエーションのために行う旅行の費用を負担することにより,これらの旅行に
参加した従業員等が受ける経済的利益については,下記により取り扱うこととさ
れたい。
なお,この取扱いは,今後処理するものから適用する。
おって,昭和61年12月24日付直法6-13,直所3-21「所得税基本通
達36-30(課税しない経済的利益…使用者が負担するレクリエーション費
用)の運用について」通達は廃止する。
(趣旨)
慰安旅行に参加したことにより受ける経済的利益の課税上の取扱いの明確化を
図ったものである。

使用者が,従業員等のレクリエーションのために行う旅行の費用を負担するこ
とにより,これらの旅行に参加した従業員等が受ける経済的利益については,当
該旅行の企画立案,主催者,旅行の目的・規模・行程,従業員等の参加割合・使
用者及び参加従業員等の負担額及び負担割合などを総合的に勘案して実態に即し
た処理を行うこととするが,次のいずれの要件も満たしている場合には,原則と
して課税しなくて差し支えないものとする。
(1)当該旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には,目的地におけ
る滞在日数による。)以内のものであること。
(2)当該旅行に参加する従業員等の数が全従業員等(工場,支店等で行う場合に
は,当該工場,支店等の従業員等)の50%以上であること。
(別表1)
(単位円)
区分年月日納付すべき税額不納付加算税の額
本件告知処分等21.11.25347,47234,000
異議申立て22.1.2200
異議決定22.3.19棄却
審査請求22.4.2000
審査裁決22.12.17棄却
(別表2)
氏名経済的利益の

前月の社会保険料等
控除後の給与等の金

扶養親族等
の数
賞与の金額
に乗ずべき

源泉所得税額
L241,300円380,344円1人10%24,130円
M241,300円1,229,952円4人30%72,390円
N241,300円1,229,952円2人30%72,390円
O241,300円279,858円0人6%14,478円
P241,300円311,325円0人8%19,304円
Q241,300円488,400円0人16%38,608円
R241,300円286,346円0人6%14,478円
S241,300円347,049円0人10%24,130円
T241,300円405,859円0人14%33,782円
U241,300円442,628円1人14%33,782円
合計2,413,000円347,472円
(注)「扶養親族等の数」は控除対象配偶者及び扶養親族の合計人数を表す。

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