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警官が射殺事件「公の信託に背いた」 地裁判決で指摘

 滋賀県彦根市の彦根署河瀬駅前交番で昨年4月、井本光(あきら)巡査部長(当時41)=警部に2階級特進=を拳銃で撃って殺害したとして殺人と銃刀法違反の罪に問われた部下の元巡査(20)=当時19歳=に対する裁判員裁判の判決が8日、大津地裁であった。伊藤寛樹裁判長は「現職の警察官が拳銃で殺害に及んだ空前の、絶後となるべき重大な事案」として懲役22年(求刑懲役25年)を言い渡した。
 判決によると、元巡査は井本さんから書類の訂正などの指導や注意を受けることが続き、反感を募らせていた。昨年4月11日、厳しく叱責(しっせき)され、できの悪さは親のせいかなどと言われて反感と憤りを一気に強め、井本さんの殺害を決意。同日午後7時47分ごろ、交番で井本さんの後頭部と背中を拳銃で2発撃って殺害。同日午後8時半ごろまで、実弾3発が入った拳銃を持ったまま逃走した。
 判決は争点となった元巡査の責任能力について検討。現場の様子が撮られた防犯カメラの映像などを踏まえ、井本さんの背後から拳銃を的確に用いて殺害している▽事件後に交番から逃走する際に施錠をしたり、訪問者に整然と対応したりしている――などと指摘。「行動を統制する能力などが著しく減退していた疑いはない」として、心神耗弱状態だったとする弁護側の主張を退けた。
 その上で、「公の信託を受けて例外的に拳銃の携帯を許されている警察官が信託に背いた」と指摘。「警察官の本分を思い起こし、凶行を思いとどまるべきだった。非難の程度は強いものとならざるを得ない」などと量刑の理由を述べた。
 一方で、警察に対しては「未熟な警察官が拳銃を携帯していることを踏まえると、組織の指導、養成のあり方が検討されるべきだった」とも言及した。伊藤裁判長は判決読み上げ後、元巡査に「国民が警察官に信託を寄せているのは、このような悲惨な事態を招くためではない。責任の重大さを認識し、被害者の分まで生きるつもりで償い、社会への還元を果たすよう求めます」と語った。(石川友恵)
(2019年2月8日22時54分 朝日新聞)

彦根警官射殺、元巡査に懲役22年判決

 滋賀県彦根市の交番で昨年4月、教育係の井本光(あきら)巡査部長=当時(41)、警部に特進=を拳銃で射殺したとして、殺人などの罪に問われた元巡査の男(20)=懲戒免職、事件当時少年=の裁判員裁判の判決公判が8日、大津地裁で開かれ、伊藤寛樹裁判長は懲役22年(求刑懲役25年)を言い渡した。
 裁判では元巡査の犯行当時の責任能力の程度が争点となり、精神鑑定を行った精神科医らへの尋問が行われた。
 検察側は「責任能力に影響を与える精神障害は存在しなかった」とする精神科医の証言や、犯行後に交番を施錠するなど、逃走するために合理的に行動したことなどを挙げて完全責任能力を主張した。
 弁護側は元巡査が厳しい指導による適応障害の影響で犯行当時、「『撃ったら楽になれる』としか考えられなくなる意識狭窄(きょうさく)状態で、思いとどまるのは非常に難しかった」などと、犯行当時は心神耗弱状態だったと主張。量刑への配慮を求めていた。
 起訴状によると、元巡査は昨年4月11日午後7時45分ごろ、井本巡査部長の後頭部や背中を拳銃で撃って殺害し、拳銃を所持したままパトカーで逃走するなどしたとしている。
(2019.2.8 15:40 産経新聞)

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平成30(わ)235  殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
主文
被告人を懲役22年に処する。
未決勾留日数中190日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
平成29年4月に滋賀県警察官を拝命した被告人は,警察学校卒業後,A警察署
に赴任して同署管内で勤務し,平成30年3月26日から同署B交番に配置され,
C巡査部長(以下「被害者」という。)ほか1名の警察官と共に同交番で勤務して
いたが,職務上作成が求められる書類の細部の訂正を繰り返し指示されるなどして
被害者から指導,注意を受けることが続いていた。そのような応対が続くうちに被
告人は自信を失い,適性がないように感じて劣等感を強め,他方で,高校卒業後,
念願かなって成就した任官がここで頓挫し,職を失うのは耐え難いとして自尊心に
とらわれ,退職の選択もできないまま悩みを募らせるうち,むしろ被害者の指導が
理不尽ではないかとの思いを抱き,反感を募らせていた。同年4月7日,もう1名
の相勤警察官が急遽入院し,当面,被害者と二人きりで勤務をこなす機会が増える
こととなった被告人は,同様に思い悩む時間が続くものととらえて暗澹たる心境に
なっていた。
その折の平成30年4月11日,通報に応じて出向いた先の現場で被告人は被害
者の指示内容を果たせず,同交番において被害者から厳しく叱責され,そのうちに
お前の出来の悪さは親のせいかなどとなじられた被告人は,その発言をきっかけと
して被害者に対する反感,憤りを一気に強め,うっ積していた自責,他責の念を晴
らそうと考え,同人の殺害を思い立った。
以上の経緯のもとで,被告人は,
第1被害者を殺害しようと企て,同日午後7時47分頃,滋賀県彦根市a町b番
地c所在の不特定又は多数の者の用に供される同交番において,腰に装着のホ
ルスターから取り出した職務上携帯中の回転弾倉式けん銃の撃鉄を起こした
上,事務机に着席してパソコンの操作をする被害者(当時41歳)の後方1.
7メートル前後の位置に立って同けん銃を片手で構え,法定の除外事由がない
のに,弾丸1発を発射し,これを同人の後頭部に命中させ,続いて同様に構え
た同けん銃で弾丸1発を発射し,机に突っ伏した同人の背部にこれを命中させ,
よって,その頃,同所において,同人を頭部射創による脳幹部損傷のため死亡
させ,もってけん銃を発射するとともに同人を殺害した。
第2第1記載の犯行後,パトカーを運転するなどして逃亡するに際し,法定の除
外事由がないのに,同記載の日時頃から同日午後8時30分頃までの間,同交
番から滋賀県犬上郡d町ef番付近に至るまでの間の走行中の同自動車内及
びその後の歩行場所である路上等において,同記載のけん銃1丁を,これに適
合する弾倉内の実包3発と共に携帯して所持した。
【争点に対する判断】
1弁護人は,判示第1のけん銃発射及び殺人の犯行時の被告人について,適応障
害等の精神面の不具合により,意識狭窄や,衝動性の抑制が困難になるなどの状
態に陥り,よって善悪の判断能力及び行動の統制能力がいずれも著しく減退し,
心神耗弱であった疑いがあると主張する。
2検討するに,被告人の精神鑑定及び心理鑑定の結果によれば,精神疾患の病歴
はないものの,その劣等感の強さなどから判示のとおり思い悩むうちに出現した
精神症状として想定できるものがあり,これに当たるものとして意識狭窄のほか,
現実感の欠落や離人感の出現,思考の硬直化等が挙げられ,また,それらの影響
で衝動性が高まって抑制が難しくなる状態を挙げられる。そこで,これらの症状
が出現し,被告人の各能力を著しく減退させていたか否かを吟味してみたが,そ
のような程度の強い減退があったとはいえない。
⑴すなわち,現場の様子が撮影された防犯カメラの映像や,全般的におおむね記
憶を保持しているとうかがわれる被告人の公判供述等の関係証拠によれば,犯行
時及びその少し前に遡る頃の被告人の言動のうちに,周囲の状況の認識が欠けて
いる様子を示すものはなく,視野が極度に狭まっている様子もなく,むしろ,事
態に対しある程度の見通しをもって整然と対応し,衝動の抑制が働いていたこと
を表す事実が,以下のとおり多数認められる。
アまず,被告人は,判示交番で被害者と席を並べ,夕食用の弁当を食するなど
して平静な行動状況を示したのち,気付かれないうちに被害者の背後の間近に
位置し,同じく気付かれないうちに判示のとおり取り出したけん銃の,各発射
の犯行に及んでいる。その際,あらかじめ離れたところでけん銃の撃鉄を起こ
しておき,狙いをつけて引き金を引く動作で1発目の発射を遂げている。この
発射を受けて被害者が机に突っ伏すと,再び狙いをつけ,撃鉄が降りているけ
ん銃の引き金を強い力で引くことにより撃鉄が起き,これが降りて射撃に至る
動作で2発目の発射を遂げ,椅子の背もたれなどにも阻まれずに被害者の背部
左下辺りに弾丸が命中し,右前胸部に達するに至らせており,2回の発射の間
隔である7秒間のうちにこれらの所作を意図的に選択している。以上は,ほか
に身に付けていた警棒等よりもはるかに殺傷能力が高いけん銃を的確に用い,
反撃に遭わないうちに確実に殺害を遂げる方法を,行動を統制しながら円滑に
遂げたことを示す事実といえる。
イまた,被告人は,弁当を食べ終わる頃に殺害を決意したが,その後けん銃を
発射するまでに約12分間が経過しており,その間,傍らに被害者が存在する
状況にもかかわらず,同人に対する攻撃を直ちに開始してはいなかった。被害
者の背後に立っていったんけん銃を構えるも,その場面では発射せず,交番内
の休憩室に戻って飲み物でのどを潤すなどしているのであって,この行動は,
けん銃を発射して殺害に及ぶことの重大性を認識しているがゆえに踏み切れ
なかったことを示しており,衝動を抑え込む能力を十分に保持していたことを
示すと認められる。
⑵そうすると,犯行に先立ち,被害者との接触を重ねるうちに被告人が相当に意
気消沈し,言葉少なになって表情が沈んでいたことや,犯行当日も被害者の前で
委縮し,指示に対し返答するなどの反応もできずに硬直する様子であったことな
どの事情を考慮に入れても,判示第1の犯行時に前記各症状の影響が強く及んで
いたとは認められない。
また,防犯カメラが作動している交番内で射殺に及ぶなどの,意識範囲の一定
の縮小はあったし,その犯行自体が突発的で見通しを欠くものであったことも明
らかであるが,少なからず切迫した心理に陥る犯罪の局面一般と比べて特に異常
さがあるとはいえない。
射殺後の行動を見ても,パトカーを運転して途中で水田に進入してしまう事態
に陥るほか,その後歩いて逃亡する過程でも場当たり的に行動している節がうか
がわれるが,他方で,交番から立ち去る際に施錠をしたり,折からの訪問者に整
然と対応していったん退去させたりするなどの,一定の深い思考を伴う所作も多
く見受けられるから,これら事後の行動状況のうちに程度の強い能力の減退を示
すものがあるとはいえない。
3総合すると,判示第1の犯行時,前記各症状の一部が幾らか現れていたとは認
められるものの,それらが強く影響を及ぼし,よって被告人の善悪の判断能力及
び行動の統制能力の双方又はいずれかが著しく減退していた疑いはなく,すなわ
ち,心神耗弱であったとの合理的な疑いを容れる余地はないと判断できる。弁護
人の主張は採用できない。
【法令の適用】
被告人の判示第1の所為のうち,殺人の点は刑法199条に,けん銃発射の点は
包括して銃砲刀剣類所持等取締法31条1項,3条の13に,判示第2の所為は同
法31条の3第2項,1項,3条1項にそれぞれ該当するところ,判示第1は1個
の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により
1罪として重い殺人罪の刑で処断し,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を
選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条によ
り重い判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役22年に
処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中190日をその刑に算入し,訴訟費用
は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
【量刑の理由】
1本件は,当時19歳とはいえ現職の警察官であった被告人が,勤務中に携帯す
るけん銃を凶器に用い,上司に当たる同僚警察官との関係で募らせていた悪感情
を晴らすべく,けん銃発射の方法で殺害に及び,即死させた内容を含む空前の,
絶後となるべき重大な事案である。
2よって慎重に検討した結果,以下のとおりの評価に至った。
⑴けん銃関連の殺人罪の量刑傾向は,社会秩序を根本的に覆す意味合いを有する
反社会的組織の活動に属する事案が主にその傾向の基礎となっているところ,本
件をこれらと同視することはできない。むしろ,職場の同僚との人間関係のもつ
れから殺害に及んだ類型に準じる位置付けとしつつ,非難を強めるべき特有の観
点の有無を思案したところ,公の信託を受けて例外的にけん銃の携帯を許されて
いる警察官が信託に背き,社会を揺るがせる不正なけん銃の使用や所持に及んだ
要素が見過ごせないから,ひとつ重い部類の位置付けとして意識することとした。
⑵その上で順に検討すると,量刑の中心を占めるけん銃発射及び殺人の犯行は,
殺傷能力の高い凶器の性状はもとより,判示のとおりの態様で2発もの弾丸を至
近距離で撃ち込むという危険で悪質な犯情を備えている。突発的で計画性はない
ものの,強い殺害の意欲に基づく犯行であって,この点の評価は当然に厳しい。
⑶次に,犯行の経緯の評価を述べると,被告人は,現場勤務に就いてからさほど
期間を経ていない新人の警察官であった。被告人を含む新人警察官の指導,養成
は,警察学校でも十分な教育を尽くすに至らず,残りを現場の指導担当者に委ね
るものの,その個性や余力に依存するところが大きく,新人の特性との組み合わ
せ次第により達成度に差を生じかねないものであったとうかがわれる。その未熟
な警察官がけん銃を携帯していることを踏まえると,組織の指導,養成の在り方
が検討されるべきであったと考えられる。結果として,言葉遣いは厳しいものの
熱意を込めて指導に当たっていた被害者の思いは伝わらず,かみ合わないまま,
未だ社会性が乏しい上に劣等感が強い被告人が感情をうっ積させ,犯行が引き起
こされた側面も認められるのであり,判示のいきさつのとおりに思い悩んだこと
自体については,一定の理解ができる。
しかしながら,思い悩んだとして,周囲の同僚,上司,家族等に悩みを打ち明
け,相談を持ち掛けるなどして事態の打開を図ることが,当時の被告人におよそ
できなかったとは認められない。被告人と被害者が一緒に交番勤務をこなすよう
になってからわずか5回目の接触の機会に犯行に及んでいるのであり,やがても
う1名の相勤警察官の復帰が見込まれていたことにも照らし,事態の好転を待ち
ながらなお穏当な対策を探る余地のある段階であったといえる。自尊心にとらわ
れていたというのであるが,他害を回避しない理由にはならないのであり,この
点の考察は,年若い世代であったことを考慮しても大きくは変動しない。
そして,同じく年齢の点を考慮に入れつつも,けん銃を携帯する意義等に係る
教育を受けていた被告人は,最終的に犯行直前,腰に下げているけん銃の存在に
意識を及ぼしたときこそ警察官の本分を思い起こし,凶行を思いとどまるべきで
あった。そのような抑制を働かせることができないほどに,被告人の能力が減退
していたともいえない。
結局,被告人が射殺を含む本件各犯行に及ぶこととしたその意思決定に向ける
べき非難の程度は,強いものとならざるを得ない。
⑷以上の吟味に整合するようにして被害者の妻は厳しい被害感情を述べている。
被害者の生命が失われた事実はあまりに大きく,量刑に当たっては当然にこの点
を考慮しなければならない。悔恨の念にかられていると認められる被告人におい
ても,同様に被害者の生命の尊さに一層思いを致し,反省を深めることが求めら
れる。そのほか,被告人の母親が出廷して更生に寄り添う覚悟を述べたことなど
の,審理に現れた事情一切をよく検討したが,当裁判所は,やはり重い刑罰権を
発動すべき事案ととらえるものであり,主文のとおり判決する。
(求刑・懲役25年)
平成31年2月18日
大津地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 伊藤寛樹
裁判官 盒粁て
裁判官 進藤諭

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