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「非弁活動」させた弁護士に有罪 大阪地裁判決

 無資格の事務員に法律事務を行う「非弁活動」をさせたとして、弁護士法違反罪に問われた弁護士法人「あゆみ共同法律事務所」代表弁護士、古川信博被告(32)に対する判決公判が18日、大阪地裁で開かれ、西川篤志裁判長は「犯行は組織的かつ職業的なもので違法性の程度は大きい」として、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年2月)を言い渡した。法人としての同事務所も同罪で起訴されており、求刑通り罰金300万円を言い渡した。
 判決によると、古川被告は、同事務所の高砂あゆみ前代表弁護士(34)=同罪で懲役1年6月、執行猶予3年の判決が確定=と共謀し、平成29年1月〜昨年8月ごろ、インターネット関連会社「HIROKEN」から派遣された事務員に自身の弁護士名義を利用させて、顧客12人の債務整理手続きをさせた。
 判決理由で、西川裁判長は「事務員に名義を利用させる重要な役割を担っていた」とする一方、「非弁行為に誘われて取り込まれた面もある」とした。
 弁護側は「高砂被告との共謀はなく、積極的に犯行に関わったわけではない」などと主張していた。
(2019.10.18 22:15 産経新聞)

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主文
被告人Aを懲役1年に,被告人弁護士法人B法律事務所を罰金300万
円に処する。
被告人Aに対し,この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予す
る。
理由
(罪となるべき事実)
被告人弁護士法人B法律事務所(以下「被告人法人」という。)は,訴訟事件,
非訟事件及び審査請求等に関する行為その他一般の法律事務等を目的とする弁護
士法人であり,被告人Aは,平成28年12月1日以降,被告人法人の社員弁護
士として,被告人法人の業務に従事していたものであるが,被告人Aは,当時の
被告人法人代表社員弁護士Cと共謀の上,被告人法人の業務に関し,株式会社D
の取締役であったEらが,弁護士又は弁護士法人でなく,かつ,法定の除外事由
がないのに,報酬を得る目的で,業として,別紙犯罪事実一覧表(掲載省略)記
載のとおり,平成29年1月18日頃から平成30年8月8日頃までの間,大阪
市(住所省略)所在の被告人法人事務所等において,Fほか11名から,G株式
会社等の債権者に対する債務整理等の法律事件に関する依頼を受け,同事件の債
務整理手続等につき前記Fらに助言,指導し,同人らの債権者との間で和解交渉
をするなどの法律事務を取り扱った際,同事務所等においてこれらの法律事務を
取り扱わせ,前記法律事件の和解書等に弁護士法人印又は弁護士印を押印させる
などし,もって法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業としていた者に自
己の名義を利用させた。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1被告人Aの弁護人は,同被告人の公判供述に基づき,同被告人が被告人法人
の事務所等において弁護士資格のない者らに法律事務を取り扱わせることや,
法律事務を取り扱わせるに当たり弁護士法人である被告人法人や弁護士である
被告人Aの名義を利用させることにつき,Cとの間で意思を通じ合っておらず,
正犯意思も欠いていたことから,共謀は成立せず無罪であり,仮に犯罪が成立
するとしても幇助犯が成立するにとどまる旨主張する。
そこで,以下,当裁判所が判示のとおり認定した理由を補足して説明する。
2関係各証拠によれば,判示のとおり,Cが代表社員弁護士,被告人Aが社員
弁護士として業務に従事していた被告人法人の大阪事務所において,Eらが債
務整理案件に関して判示のとおりの非弁活動を業として行い,その際,弁護士
資格のない事務員らにより同事務所に保管されていた被告人法人名義の印鑑や
被告人Aの弁護士印を用いて和解書等に押印がなされるなどした事実が明らか
である。
また,関係各証拠によれば,本件に関し,以下の事実が認められる。
司法書士法人H法務事務所は,平成28年6月以降,判例により,債権価
額が140万円を超える債務整理につき受任できなくなったため,同事務所
代表者Iや同事務所から広告収入を得ていた株式会社Dの取締役Eらが同事
務所で事務員として勤務し,弁護士資格を有していたCらと相談し,Cを代
表社員弁護士とする被告人法人を設立し,H法務事務所に持ち込まれた債務
整理案件のうち,債権価額が高額のため受任できないものを受任させること
とした。ところが,弁護士登録を抹消していたCの再登録が遅れたことから,
IやEらは,同年10月1日以降,H法務事務所に事務員として応募してき
た被告人Aの了承を得て,一旦,同被告人名義の法律事務所(A法律事務所)
を設立し,Cの弁護士登録が終了した後の同年12月1日以降は,Cを代表
社員弁護士とし,合流した被告人Aを社員弁護士とする被告人法人を設立し,
A法律事務所や被告人法人にH法務事務所が受任できない債権価額が高額な
債務整理案件を受任させていた。
被告人Aは,平成28年9月12日以降,H法務事務所大阪本店に出勤し,
A法律事務所の設立に向けた準備や債務整理事件のうち破産再生案件書類の
起案等を行っていたほか,Jらの指示に従い,面談方法を理解するためにH
法務事務所の事務員と債務者との面談の様子を録音した音声データを聴くな
どしていたが,H法務事務所においては,その当時から,債務整理案件につ
き,来所した債務者からの事情聴取や処理方針の決定,委任契約書の締結に
至るまでの面談は事務員が自らの判断で行っていて,司法書士は面談の終了
時に面談室に入って挨拶するだけで,任意整理案件の和解交渉等についても
司法書士は関与せず,すべて事務員が行っていた。
⑶A法律事務所においては,KやJと共に被告人Aも債務整理案件における
債務者との面談に入っていたが,同年11月20日には,Jが連絡ツールで
あるトークノートを利用して「挨拶のみが2件ありますのでよろしくお願い
します。」と送信し,被告人Aが「了解しました」と返信したこともあった。
そして,E,Cのほか,株式会社DからH法務事務所に事務員として派遣
されていたK及びJらは,同年9月下旬頃から同年10月中旬頃までの間に
打合せを重ね,受任件数の増加が見込まれることから,被告人法人において
は,H法務事務所と同様に債務整理案件につきKやJらの事務員が自らの判
断で債務者との面談を行い,弁護士は挨拶のみを行うことを確認し,同月下
旬ころ,Iらも交えた話し合いの中で,このような方針が再確認された。
⑷被告人法人設立後,被告人Aは,被告人法人東京事務所で勤務し,債務整
理案件については同事務所で相談を受け付けたものも含めてすべてCが勤務
する被告人法人大阪事務所で処理されていた。また,被告人法人東京事務所
における面談予定が立て込んでいて被告人Aのみでは対応できないときに
は,KやJが同事務所に派遣されることがあり,被告人Aは,トークノート
を利用してCに対し,同年12月17日には「面談はKさんと協力して,場
合によっては挨拶のみになります」などと,翌18日には「L様は現在Kさ
んが面談中です(挨拶済み)」などと送信した。そして,被告人法人大阪事務
所においては,事務員らは,H法務事務所と同様に事務員が自らの判断で債
務者との面談を行い,Cは挨拶を行うだけであったほか,債権者との和解交
渉等はすべて事務員が行い,同事務所に保管されていた被告人Aの弁護士印
を用いて和解書が作成されており,平成29年2月16日には被告人Aも閲
覧可能なトークノートにおいて,Cが被告人法人の体制につき,「基本的に,
債務整理の面談は,K&Jで対応・・・※ウチは最初に挨拶」「任意整理チ
ーム(人名省略)破産再生の受任通知も含めて任意整理の処理をする」と連
絡していた。
3このように被告人法人においては,被告人Aも勤務し,事務員による面談状
況の音声データを聴取したこともあったH法務事務所の手法と同様に事情聴取
や処理方針の決定,委任契約書の締結に至るまでの面談を事務員が自らの判断
で行っていて弁護士は形式的な挨拶しか行っておらず,その後の和解交渉等も
すべて事務員が行っていたところ,被告人Aも被告人法人設立後やその前身の
A法律事務所で勤務する中で,弁護士としてJやKらの事務員にこれと同様の
行動をとらせていたように解されるやりとりをJやCとの間で行っていた事実
や,Cから改めて,債務整理案件につき,被告人法人における債務整理案件に
ついて,そのように弁護士が形式的にしか関与しない形態によることを知らさ
れたように解される連絡を受けても異を唱えることがなかった事実に照らして
みても,被告人Aが被告人法人において弁護士資格を有しない事務員が債務整
理案件につき単なる弁護士の補助の域を超えて実質的な判断を伴う方針の決定
や和解交渉等まで行っていることを認識していたことがうかがわれるというべ
きである。
また,そもそも,関係各証拠によれば,被告人法人大阪事務所においては,
1名の弁護士が加わっていた平成29年3月頃から5月頃までの期間を除き,
勤務している弁護士はCしかいなかった反面,被告人法人では,設立後,平成
30年8月までの約1年9か月間に2665件もの任意整理案件を受任してお
り,弁護士のみでは債務者との実質的な面談や和解交渉を到底行えない状況で
あったことは明らかであるところ,被告人Aの公判廷において述べるところに
よっても,同被告人は,グーグルカレンダーやトークノートを通じ,被告人法
人における面談数や受任数を把握できていたというのである。このような被告
人法人における任意整理案件の処理状況やこれについての被告人Aの認識は,
上記のような推認を一層強めるというべきである。
そして,Cは,公判において,「平成28年10月中旬のE,J,Kとの
打合せで任意整理案件の受任後の和解交渉はKが主に行うことが決まったほ
か,11月頃のEらとの打合せでは被告人法人東京事務所で受任した債務整
理案件の和解交渉は被告人法人大阪事務所の事務員が担当することが決ま
り,そのような打合せの内容はJを介して被告人Aに伝えてもらった。大阪
で受任通知や和解書の作成等を行うのであるから,常駐要件に引っかからな
いように,東京の弁護士会に所属している自分ではなく大阪弁護士会に所属
している被告人Aの弁護士印を使用したほうがよいと考え,被告人Aに直接
その旨伝えた。」旨証言している。また,Jは,公判において,「EやKと
の打合せでA法律事務所や被告人法人において受任後の和解交渉はKが担当
することが決まり,平成28年10月26日のE,K,Cらとの打ち合わせ
では,被告人法人において引き続き自分とKがメインで債務者との面談を行
い,Cと被告人Aには挨拶をしてもらうことを確認した。また,被告人法人
の設立後,被告人Aが東京事務所で勤務するに当たり,EやCとの打合せに
おいて,東京事務所では被告人Aには面談等はしてもらうが,必要書類を大
阪事務所に送付してもらい,和解交渉等は同事務所ですべて行うことが決ま
った。このような打合せの内容はすべて被告人Aにも伝えていた。」旨証言
している。さらに,Kは,公判において,「平成28年10月末頃,A法律
事務所で初めて和解書を作成した際,被告人Aの了解を得て和解書に同被告
人の弁護士印を押印するとともに,今後の業務で印鑑を押す場面が多々ある
ので,今後も印鑑を借りてよいか確認し,同被告人の了解を得た。」旨証言
している。
これらの証言は,いずれも2で認定した事実やそれらの事実から推認され
る事実,すなわち,被告人Aも被告人法人において非弁活動が業として行わ
れていることを認識していた事実とよく整合する合理的な内容である。また,
C及びJの各証言は,被告人法人大阪事務所における債務整理案件について,
弁護士が形式的な挨拶しか行わず,事務員が自らの判断で面談を行ったり,
受任後の和解交渉等まで行うことを確認した打合せの内容を被告人Aにも伝
えたという点で相互によく符合し,信用性を支え合っているといえる。さら
に,C及びKの各証言は,被告人Aが和解書等への同被告人の弁護士印の押
印につき包括的に了承していたという点において合致しており,その内容も,
使用されることで後々,その持ち主である弁護士が責任を追及されかねない
弁護士印の性質や前記2のとおり,事務員が任意整理の処理を行うという被
告人法人の体制が被告人Aにも隠すことなく伝えられていた事実に照らし自
然なものである。以上によれば,これらの証言はいずれも十分な信用性を備
えたものといえる。
さらに,被告人Aは,捜査段階においては,検察官に対し,「H法務事務
所で目撃した債務者との面談状況や聴取した実際の事務員と債務者との面談
状況の録音データの内容から,H法務事務所では司法書士資格のない事務員
限りの判断ですべての業務が行われ,司法書士は委任契約の締結後に債務者
に挨拶するという形式的な関与しか行っていないことがはっきり分かった。
そして,Iから設立予定のA法律事務所においては,H法務事務所と同じや
り方で債務整理案件を処理する予定であると伝えられていたことから,平成
28年9月下旬頃までには,A法律事務所や被告人法人において,債務整理
案件の受任から事件処理までの法律事務の大部分を事務員限りの判断で行
い,弁護士は委任契約の締結後に債務者に挨拶するという形式的な関与しか
行わないことをはっきりと理解した。その後,平成28年9月下旬頃,Jか
ら,A法律事務所や被告人法人の業務の進め方について,『先々,事件数が
増えてくると弁護士だけでは絶対に手が回らなくなります。だから,Hみた
いな形で,弁護士は最後に挨拶するだけで,事務員にどんどん面談をやらせ
ます。和解交渉も事務員がやりますから。』と説明を受けた。平成28年1
2月中旬頃に被告人法人の東京事務所に派遣される際,Jから『A先生の弁
護士印はBの大阪で和解契約書等に押すのに使わせてもらいますので,東京
には持っていかず,大阪に置いていってください。』などと指示され,事務
員限りの判断で和解交渉,和解契約の締結,和解契約書への押印等を行うこ
とになると分かりながら,以後,自分の弁護士印を大阪事務所に預けたまま
にしていた。このような被告人法人の業務の進め方が非弁行為に当たること
は理解していたが,月額手取り35万円の報酬に完全に目がくらみ,覚悟を
決めた。」などと自白していた(乙14,15)。その自白の内容もまた,前
記2の認定事実やそれらの事実から推認できる事実とよく整合するだけでな
く,C,J,Kの前記各証言と整合し,あるいは矛盾せず,信用性が高いと
いうことができる。
5以上に対し,被告人Aは,公判において,「Jからは,債務者から事務員が
聴取した上で,弁護士は問題がないかどうかのチェックをし,最終的な判断と
挨拶を行うと聞いていた。被告人法人大阪事務所では,事務員が債務者から聴
取した後,Cに報告し,その最終的な判断により委任契約が締結されており,
和解交渉や和解書の作成に関してもCの監督下に行われているものと思ってい
た。しかし,平成29年8月下旬頃,大阪事務所に出向いた際,任意整理案件
につき,債権者に提案する和解内容等につき確認を求められなかったことから,
和解手続につき弁護士がほとんど関与していないのではないかと疑いを持つよ
うになった。大阪事務所に置いていた弁護士印はJに頼まれ,平成28年10
月5日に事務員が気軽に使えるように作成した二つ目の弁護士印であり,受任
通知を作成するために使用することの了承を求められたことがあり,同事務所
の机上に置いて必要なときに使える状態になっていたが,和解書に自分の弁護
士印が使用されていることは知らなかった。」と供述している。
しかしながら,被告人法人大阪事務所における任意整理案件の受任件数に照
らし,Cしか弁護士がいない状況下で方針の決定や和解交渉,和解内容の実質
的判断が不可能であったことやこれを被告人Aも認識し得る状況であったこと
は先にみたとおりであり,まずもって,すべてCの監督下に事務員による債務
整理手続が進められていたと認識していた旨いう被告人Aの供述は不合理な内
容である。また,被告人Aは,Kが和解交渉を行うことを聞いたかどうかや,
A法律事務所において,Kが和解書を作成するのを目撃したり,和解書に自分
の弁護士印を押印することの了承を求められたりしたかどうかといった点につ
いては,「記憶にないといえばないです」,「和解書の作成に自分が全部携わ
りましたかといわれると,ちょっと違うのではないかと」,「ちょっとそうい
ったのが覚えておりませんので,何かKさんからそういうふうに,そうですね,
和解書についてどうこうというのは,記憶にないですね」などと曖昧に供述し
ている。その上,被告人Aは,捜査段階においては,前記のように自白し
ていた。そして,被告人Aは,公判において,上記のように供述するに至った
理由について,「幇助的な立場であったので,検察官の言うとおりに供述して
いれば罰金程度で済むのではないかと考え,検察官に言われるがままの内容の
供述調書の作成に応じた。ところが,Cと共謀した共同正犯として起訴されて
納得いかず,公判では本当の話をすることにした。」旨供述している。しかし
ながら,被告人Aの述べるところによっても,検察官からの利益誘導等があっ
たことは全くうかがわれないところ,そのような働きかけがないにもかかわら
ず,弁護士でもある被告人Aが自らの処分につき罰金刑程度で済むと軽信する
こと自体,不自然極まりない上,「A法律事務所や被告人法人が業務として非
弁行為を行っていることなどが外部に発覚した場合,弁護士の立場である自分
が無事で済むはずがなく,最悪の場合,刑事処罰され,懲戒処分により弁護士
資格をはく奪されるという不安が頭をよぎっていた。」旨の被告人Aの検察官
調書(乙14)における供述ともそぐわない内容である。そうすると,公判にお
いて,供述を変遷させた理由についての被告人Aの説明は不合理なものといわ
ざるを得ない。
以上によれば,被告人Aの前記公判供述は信用性に欠けるというべきである。
6以上のとおり信用性を肯定できるC,J,Kの各公判供述や被告人Aの検察
官調書(乙14,15)における自白によれば,被告人Aは,本件に至るまで
に,Cから直接又はKやJを介して,被告人法人において,債務整理案件につ
き,受任時の面談における助言や指導,債権者との和解交渉や和解契約の締結
等をKら事務員限りの判断で行うことや,弁護士は面談時に挨拶のみ行って形
式的に関与するにとどまり,事務員限りの判断で自らの弁護士印を和解書に押
印することなどを予め知らされ,これを了承していたのであるから,非弁活動
を業とするEやKらに対し,被告人法人や被告人A自身の弁護士名義を利用さ
せることを十分に認識しており,被告人法人代表社員弁護士であったCとの間
で意思を通じ合っていたものと認められる。
また,本件において,被告人Aは,単に被告人法人の社員弁護士に就任した
だけでなく,月額手取り35万円という少なくない報酬欲しさから,非弁活動
における和解書への自らの弁護士印の押印を了承するなど,弁護士名義を利用
させる行為そのものを行うなど,重要で不可欠な役割を果たしたものと認めら
れる。
この点につき,弁護人は,被告人Aの報酬額が月額100万円というCの報
酬と比較して僅少であり,しかも,その報酬は同被告人が担当した弁護士業務
に対する正当な対価であり,本件による利得がないから,自己の犯罪として本
件を行ったと評価すべきでない旨主張する。しかしながら,他の共犯者と比較
して報酬額が少ないこと自体が共同正犯の成否に直ちに影響を及ぼすものでな
いことはいうまでもない。また,被告人Aが公判において述べるところによっ
ても,同被告人は,H法務事務所で勤務するに至るまで収入が途絶えており,
本件への加担を拒否すれば被告人法人をやめざるを得ず,収入が失われてしま
う状況であったため,そのような報酬欲しさから本件犯行に加担した点は明ら
かであって,被告人Aが弁護士業務にも従事しており,報酬はその対価である
旨いう弁護人指摘の点は被告人Aに共同正犯が成立するという判断に何ら消長
を来すものとはいえない。
以上によれば,被告人Aは,本件につき,Cと意思を通じ合い,自己の犯罪
として本件に関与したものと認められるから,本件につき,被告人AがCと共
謀した事実は合理的な疑いを容れることなく優に認定できる。
(法令の適用)
罰条被告人Aにつき包括して刑法60条,弁護士法7
8条1項2号,77条1号,27条後段,30条の21
被告人法人につき包括して弁護士法78条1項2
号,77条1号,27条後段,30条の21
刑種の選択被告人Aにつき懲役刑を選択
刑の執行猶予被告人Aにつき刑法25条1項
訴訟費用の不負担被告人A及び被告人法人につき刑事訴訟法181
条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件は,当初から,コストを抑えて暴利を得るために事務員ら限りで債務者
との面談や和解交渉等までを行うことが予定され,非弁活動が行われているこ
とを隠ぺいするための弁護士法人として設立された被告人法人の社員弁護士で
あった被告人Aが,共犯者である当時の被告人法人の代表社員弁護士と共謀し,
被告人法人の業務に関し,その弁護士名義や被告人法人の名義を利用して,司
法書士事務所では取り扱えなくなった債権価額が高額の債務整理案件に係る法
律事務を業として取り扱いたいという非弁活動者らの求めに応じ,被告人法人
の事務所において,事務員らが常時,被告人Aの弁護士印を和解書に押印する
ことを容認するなどして弁護士資格を有する自身や共犯者が適法にこれらの法
律事務を取り扱っているかのような外形を作出して非弁活動を助長したという
ものである。
このように本件は,弁護士である被告人Aや共犯者がほとんど法律事務に携
わらないという形態であって,現に,依頼者である債務者の中には,債務整理
に当たり,弁護士でない者の判断によって自己の希望と異なる内容で勝手に和
解を成立させられた者も存在することや,本件における非弁活動が起訴されて
いるだけでも約1年7か月間にわたり,実際に行われた個別の非弁活動が12
件にも達し,多数の事務員を使って行われた組織的かつ職業的なものであって,
国民の公正円滑な法律生活を保持し,法律秩序を確立しようとした法の趣旨に
真っ向から反するものであって違法性の程度が大きい上,弁護士や弁護士法人
に対する社会的信頼も著しく損ないかねず,その社会的影響も軽視することが
できない。
2そして,たしかに,被告人Aは,司法書士事務所の事務員求人に応募した際,
非弁活動者らから本件犯行を誘われたに過ぎず,取り込まれた面があることや,
被告人法人の代表社員弁護士であったCに比べ,被告人法人の業務の進め方等
に関する打合せには直接参加しておらず,受領した報酬額も少なかった点は弁
護人が指摘するとおりであるけれども,被告人Aは,本件犯行への誘いを拒む
ことに支障はなく,その社会的使命や弁護士に対する社会的信頼に思いを至ら
せてこれを拒絶することこそが強く求められていた。それにもかかわらず,被
告人Aは,月額で手取り35万円の報酬を得られるとの利欲的な動機から弁護
士としての社会的使命等を忘れ,非弁活動を業とするための隠れ蓑として設立
された被告人法人の社員弁護士に就任し,摘発されるまでの長期間にわたって
非弁活動を行う者らが常時自らの弁護士印を法律事務に使用することを容認す
るなどしていたのであるから,やはり厳しい非難を免れないというべきである。
しかも,被告人Aは,公判において,不合理な弁解に終始しており,本件を
反省する姿勢も十分とはいえない。
以上によれば,本件の発端は,上記のように被告人Aがすすんで名義貸しを
企図したものではなく,非弁活動を行っていた者らに取り込まれた面があるこ
とや,非弁提携の枠組みに関する話し合いに参加するなどし,被告人法人の代
表社員弁護士に就任したCと比べ,その果たした役割等が従属的なものにとど
まっていることのほか,弁護士資格の喪失につながることなどを考慮しても,
被告人Aにつき,懲役刑の選択は免れないというべきである。
そして,被告人Aには前科前歴がなく,本件発覚後,Cに代わって被告人法
人の代表社員弁護士に就任し,残された債務整理案件等の残務整理を行ってい
ることのほか,父親や大学の先輩に当たる弁護士が出廷し,今後の指導や監督
を誓っていることなどの事情も併せて考慮すると,被告人Aに対しては主文の
刑期を定めるとともに,その刑の執行を猶予するのが相当であり,前記のよう
な本件の違法性の程度等を踏まえ,被告人法人の罰金額は主文のとおりとする
のが相当と判断した。
(求刑−被告人Aにつき懲役1年2月,被告人法人につき罰金300万円,被告人
Aの弁護人及び被告人法人代表者の科刑意見−いずれも上限の300万円から減
額した罰金刑)
大阪地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 西川篤志
裁判官 荒井智也
裁判官 森朋美

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