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平成28(ワ)5771  賃金等請求事件
平成31年3月20日  大阪地方裁判所
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
別紙2「請求の表示」記載のとおり
第2事案の概要等
1本件事案の概要
本件は,貨物自動車運送業等を目的とする被告との間で労働契約を締結し,
集荷,配達業務(以下「集配業務」という。)に従事していた原告らが,被告
に対し,被告は,原告らに支給する能率手当の計算に当たり,業務結果等によ
り算出される出来高(賃金対象額)から時間外手当に相当する額を控除してい
るため,労働基準法(以下「労基法」という。)37条所定の割増賃金の一部
が未払であるなどと主張して,労働契約に基づく賃金請求として,未払割増賃
金及び労基法114条所定の付加金並びにこれらに対する遅延損害金の支払を
求める事案である。
2前提事実(争いがない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認定できる事実)
当事者
ア被告は,貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である。
イ原告らは,いずれも,被告との間で労働契約を締結し,本件各請求に係
る期間(以下「本件請求期間」という。),被告において集配業務を行う
「集配職」として就労していた者である。
原告らは,本件請求期間中,第1事件原告X,第1事件原告X9及び
第2事件原告X(以下,併せて「原告Xら」という。)が,それぞ
れ別紙4「社員区分」欄に「P/A」と記載された時期にアルバイトとし
て就労していたほか,いずれも被告の正社員として就労していた。
被告は,従業員に対する各月の賃金を,原則として,前月16日から当月
日までを計算期間として当月日に支給している(甲1,乙1,8)。
被告正社員の集配職に対する賃金
被告は,本件請求期間中の平成26年12月16日に賃金規則及びその細
則を改定し,被告の賃金制度は同日の前後で異なる(乙6,7,11)。
ア平成26年12月日までの賃金制度(以下「旧賃金制度」という。)
旧賃金制度における被告正社員の集配職の賃金は,ヾ霆狷眥其發任
る職務給(13万円),勤続年数手当,現業職地域手当及び能率手当等,
基準外賃金である通勤手当,別居手当,時間外手当,宿日直手当,休
暇手当及び調整手当により構成されている(乙8)。
時間外手当は時間外手当A及び時間外手当Bにより構成され,それぞ
れ以下の計算式により算出される。
a時間外手当A=能率手当を除く基準内賃金÷年間平均所定時間
×(1.×60時間までの時間外労働時間
+1.×60時間を超える時間外労働時間
+0.×深夜労働時間
+1.3×法定休日労働時間)
b時間外手当B=能率手当÷総労働時間
×(0.×60時間までの時間外労働時間
+0.×60時間を超える時間外労働時間
+0.×深夜労働時間
+0.3×法定休日労働時間)
(以上につき,乙6,8)
能率手当は,従事した業務内容(本人取扱重量,件数等)に基づき算
出された「賃金対象額」と称する出来高が,時間外手当Aの額を上回る
場合に支給され,次の計算式により算出される。
能率手当=(賃金対象額−時間外手当A)×α
上記計算式中の「α」は,1以下の係数であって,総労働時間÷(総
労働時間+60時間までの時間外労働時間×0.+60時間を超え
る時間外労働時間×0.+深夜労働時間×0.+法定休日労働時
間×0.3)により算出される。
(乙8)
イ平成26年12月16日以降の賃金制度(以下「新賃金制度」という。)
新賃金制度における被告正社員の集配職の賃金は,上記アの各手当
に加えて,ヾ霆狷眥其發任△詁反伴蠹及び配偶者手当並びに基準外
賃金である扶養手当により構成されている(甲1,乙1)。
時間外手当は,時間外手当A,時間外手当B及び時間外手当Cにより
構成され,それぞれ以下の計算式により算出される。
a時間外手当A=能率手当を除く基準内賃金÷年間平均所定時間
×(1.×時間外労働時間
+0.×深夜労働時間
+1.3×法定休日労働時間)
b時間外手当Bの計算式は,旧賃金制度(上記アb)と同様である。
c時間外手当C=能率手当を除く基準内賃金÷年間平均所定時間
×0.×60時間を超える時間外労働時間
(以上につき,甲1,乙6)
能率手当は,賃金対象額(集配業務に係る取扱重量,伝票枚数,軒数
及び走行距離等に基づき算出され,旧賃金制度における賃金対象額とは
その構成要素が変更されている。)が時間外手当Aの額を上回る場合に
支給され,次の計算式により算出される。
能率手当=賃金対象額−時間外手当A
(甲2,乙6)
ウ小括
上記ア及びイのとおり,新賃金制度では,旧賃金制度と比較すると,
新たな手当が追加されたこと,旧賃金制度における時間外手当Aのうち
60時間超の時間外労働に対応する部分の一部が時間外手当Cとなり,残
部が時間外手当Aとなったこと,D其眤仂欒曚旅柔要素が変更されたこ
と,で塾┝蠹が支給される場合(賃金対象額が時間外手当Aを上回る場
合)に,その計算過程で賃金対象額と時間外手当Aとの差額(以下「超過
差額」という。)に対し係数(α)が乗じられなくなったこと,以上の点
が変更されている(なお,上記のように変更された点はあるが,両賃金制
度を通じて同じ名称の手当等について,単に「時間外手当A」,「能率手
当」,「賃金対象額」などと表記する。)。
一方,両賃金制度において,原告らが問題としているように,能率手当
の計算過程で超過差額を基準とするという点については変更されていない
(以下,両賃金制度を通じて,上記ア及びイの能率手当の計算方法を
「本件計算方法」という。)。
被告アルバイトの集配職に対する賃金
被告は,被告アルバイトの集配職に対し,職務給,通勤手当及び調整手当
のほか,上記ア及びイで認定した方法により計算される能率手当及び時間
外手当を支給している(乙の´◆ぞ攷唯繊法
原告らの稼働状況及び既払賃金等
原告らは,本件請求期間において,それぞれ別紙4「支給対象年月」欄記
載の各月(前月16日から当月日まで)に,同「勤務情報」欄記載のと
おり出勤し,時間外労働,深夜労働及び法定休日労働(以下「時間外労働等」
という。)を行い,同「既払額内訳」欄記載の各賃金項目について,同欄記
載の額を被告から支給された(甲ないし23,30ないし34,67,
68〔各枝番を含む。〕)。
第3本件の争点
1本件計算方法の有効性(争点1)
時間外手当Aが現実に支払われたといえるか否か
集配職の賃金について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37
条に定める割増賃金に当たる部分とが明確に区分されているといえる(以下
「明確区分性」という。)か否か
本件計算方法が労基法37条の潜脱に当たるか否か
本件計算方法が公序良俗に反するか否か
2本件計算方法が無効である場合に原告らに追加して支払われるべき割増賃金
の額(争点2)
3被告に対し付加金の支払が命じられるべきか否か(争点3)
第4争点に対する当事者の主張
1争点1(本件計算方法の有効性)について
【原告らの主張】
時間外手当Aが現実に支払われているとはいえないことについて
ア集配職の賃金は,職務給,能率手当,時間外手当A及び各種手当を合計
したものであるが,本件計算方法において,賃金対象額から時間外手当A
を控除したものが能率手当とされることにより,実際に支給される賃金の
額は,要するに職務給,賃金対象額及び各種手当の合計額ということにな
る。
イ労基法37条の趣旨は,〇藩兌圓乏篩賃金の支払を義務付けることに
よって,その経済的負担により時間外労働等を抑制すること,及び通常
の労働時間に付加された特別な労働である時間外労働に対して一定の補償
をさせることにあるから,同条の割増賃金が支払われたというためには,
使用者に対して現実の負担を負わせること,労働者に対して現実に残業時
間分の割増賃金が支払われ補償がされていることが必要になる。
しかるに,上記アのとおり,被告が集配職に対して支給している賃金は,
職務給,賃金対象額及び各種手当の合計額であるから,被告が残業時間に
相当する割増賃金(時間外手当A)を現実に負担したとはいえず,これが
労働者に現実に支払われたともいえない。なお,賃金対象額は,配達重量,
集荷重量及び走行距離等により算出され,労働時間の長短ではなく労働の
結果のみを考慮したものであるから,労基法に従った割増賃金の支払とは
評価できない。
ウしたがって,被告が,原告らに対し,時間外手当Aに相当する時間外割
増賃金を支給したとはいえず,本件計算方法は労基法37条に反する。
集配職の賃金が明確区分性を具備しているとはいえないことについて
ア労基法37条所定の割増賃金が支払われているというためには,…名
の労働時間に対する賃金と,同条の定める割増賃金に当たる部分とが判別
することができることを前提に,割増賃金として支払われた金額が,通
常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労基法37条等
に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないことが必要で
ある。
そして,上記,痢崢名錣力働時間の賃金に当たる部分」及び「同条の
定める割増賃金に当たる部分」は,それぞれ形式上の名目ではなく,その
ような実質を有しているか否かによって判断されるべきである。
イしかるに,時間外手当Aは,形式上は時間外労働等に対する割増賃金の
名目で支払われているものの,能率手当の計算過程において同額が減額さ
れることにより時間外労働等の対価としての効果が相殺される。また,こ
のように形式上支払われる一方で別の賃金から同額が控除されるというこ
とは,過重な労働に対する労働者への補償を行うとともに時間外労働等を
抑制するという労基法37条の趣旨にも反する。したがって,
時間外手当Aが,労基法37条の定める割増賃金としての実質を有してい
るということはできない。
また,「通常の労働時間の賃金」は,割増賃金が支払われているか否か
を判定したり,割増賃金算定に係る基礎賃金を確定したりする前提になる
ため,時間外労働等に応じて変動するものであってはならないと解すべき
であるところ,本件計算方法により算出される能率手当は,時間外労働等
に応じて減額されるものであることから,「通常の労働時間の賃金」とし
ての実質を有しているとはいえない。
したがって,時間外手当A及び能率手当について本件計算方法をそのま
ま適用すると,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定め
る割増賃金に当たる部分とを判別することはできず,明確区分性を欠くと
いうべきであり,時間外手当Aによって労基法37条の割増賃金が支払わ
れたということはできない(なお,時間外手当Aの額が賃金対象額を上回
り,能率手当の額が0円になる場合に限り,時間外手当Aから賃金対象額
を控除した額の限度で,割増賃金の一部の支払に当たると認めることがで
きる。)。
本件計算方法が労基法37条の潜脱に当たることについて
ア労基法37条が,時間外労働等に対して割増賃金の支払を義務付けてい
る趣旨は,〇間外労働を抑制し,労働時間制の原則の維持を図るととも
に,過重な労働に対する労働者への補償を行おうとするものである。
イしかるに,本件計算方法により,能率手当の計算過程で,時間外手当A
と同額が差し引かれるため,原告らが時間外労働等を行えば行うほど,時
間外手当Aと同額だけ「通常の労働時間の賃金」が減少していくことにな
り,原告らの時間外労働等が増加したとしても,使用者である被告が割増
賃金による経済的負担を負うことはないから,使用者に経済的負担を負わ
せて時間外労働の抑制を図るという上記,亮饂櫃鉾燭垢襦
また,上記のように原告らが時間外労働等を行えば行うほど,時間外手
当Aと同額だけ「通常の労働時間の賃金」が減少していくことになるため,
集配職の従業員が時間外労働等をどれだけ行っても,賃金総額は増額され
ず,時間外手当等が全く支払われていないのと同じ結果になるから,上記
△亮饂櫃砲眸燭垢襪箸い┐襦
ウこれに加えて,本件計算方法は,その内容等に照らすと労基法所定の割
増賃金の支払を免れる不当な目的により制定されたものというべきであり,
このような計算方法が許容されるとすると,同様の脱法行為により強行法
規である労基法37条の趣旨が完全に没却される。
エこのように,本件計算方法は,労基法37条の趣旨に反しており,これ
を許容することは同条の趣旨を没却することとなるから,同条の潜脱とし
て許されないというべきである。
本件計算方法が公序良俗に反することについて
被告は,上記のとおり,本件計算方法に基づいて,名目上,一旦は時間外
労働等に対する割増賃金を支払ったとしているが,実質的にみれば,残業時
間の長短にかかわらず実際に支給される賃金は変わらないというものであり,
労基法37条の趣旨に反し,公序良俗に反するものというべきであるから,
民法90条により無効というべきである。
本件計算方法の合理性の点について
以上に対し,被告は,能率手当は成果主義賃金であり,本件計算方法は長
時間労働の抑制にもつながるものであって合理性を有する旨主張する。
しかし,原告ら集配職は,被告と荷主との間の契約を前提とする被告の指
示に基づいて業務内容を決められているため,個々の運転手の努力や工夫に
より売上高が左右されるタクシー運転手等とは異なり,原告らの努力や工夫
によって賃金対象額を増減させることができるものではない(現に,原告ら
の一部は,平成29年月から,残業の一部を拒否する争議行動を開始し,
被告により定時退社を命じられるようになったことにより残業時間が大幅に
減少したが,賃金支給額はさほど変化していない。)。
また,集配職の業務内容に照らし,努力や工夫によって業務時間を短縮で
きるものではなく,かえって,被告は,本件計算方法によって割増賃金の支
払を免れることにより,36協定に定められた限界までの時間外労働を躊躇
なく命じており,本件計算方法が長時間労働を抑制しているとはいえない。
したがって,本件計算方法に合理性はない。
小括
以上のとおり,本件計算方法により,能率手当の計算に当たり賃金対象額
から時間外手当Aを控除している点は,労基法37条に反し又は民法90条
により無効というべきである。
【被告の主張】
本件計算方法は,成果主義賃金的要素の集積によって算出された賃金対象
額が,時間外手当Aを上回った場合に限り,超過差額を能率手当として支給
するというものであり,賃金から時間外手当Aを「控除」するというもので
はない。
そして,被告は,時間外手当について,原告らが主張するような名目上支
払った形式にしているというものではなく,独立の賃金項目として労基法所
定の計算式によって算出し,その満額を支給している。したがって,本件請
求期間に係る原告らに対する未払割増賃金は存在しない。
成果主義賃金の計算方法や内容をどのように定めるかについては,強行法
規に違反するなどしない限り当事者の自由に委ねられている。
より短時間の労働によって高い価値(成果)を創造したことを数値化する
ために,所定の要素から算出される賃金対象額と,長時間労働に比例して金
額が増加する時間外手当との差額を支給するという本件計算方法は,成果主
義賃金の目的達成のために合理的なものである。これを労働者側からみれば,
漫然と残業時間を増やしても能率手当が支給されないことから,能率を向上
させて長時間労働を回避する方向に働くことになるのであって,本件計算方
法は,長時間労働の抑止という政策的効果を有するものである。集配職の過
半数が加入している労働組合も,上記観点から導入された本件計算方法を支
持している。
以上の点に鑑みると,本件計算方法が労基法37条の趣旨に反するとはい
えず,また,公序良俗に反し無効であるともいえない。
2争点2(本件計算方法が無効である場合に原告らに追加して支払われるべき
割増賃金の額)について
【原告らの主張】
上記1【原告らの主張】のとおり,本件計算方法は,能率手当の計算に当
たり賃金対象額から時間外手当Aを控除する点において無効であることから
すると,当該控除された時間外手当Aの額(賃金対象額がこれを下回る場合
には,賃金対象額)に相当する割増賃金が未払といえる。
また,その場合,能率手当は,時間外手当Aの額を控除しない賃金対象額
そのものとして支給されるべきこととなるから,それを前提に算出した時間
外手当Bの額と現に支給された時間外手当Bの額との差額も,未払割増賃金
といえる。
以上を前提に計算すると,原告らに対する未払割増賃金の額は,別紙4
「未払金額(原告ら)」欄記載のとおりとなる。
被告は,原告Xらに対してアルバイト期間中に支給された調整手当は,
日給1万円を保障する趣旨で支給されたものであり,本件計算方法が無効と
されて割増賃金支給額が増加する場合には,支給済みの調整手当を減額すべ
きである旨主張するが,上記日給の保障は,1日8時間の実働による賃金の
保障とみるべきであり,時間外労働に対する未払割増賃金が追加支給された
としても,調整手当を返還(又は控除)することは相当でない。
【被告の主張】
仮に,本件計算方法が無効とされる場合には,能率手当の支給方法全体が
無効とされた上で,能率手当が導入された趣旨等を踏まえ,当事者の合理的
意思解釈により,代替される労働契約の内容が検討されるべきである。
原告らが主張する計算方法は,本件計算方法に係る計算過程の一部(時間
外手当Aを差し引く部分)のみを無効とし,この部分のみをなかったものと
して計算し,計算過程での便宜上の額にすぎない賃金対象額を能率手当その
ものとするものであるが,このような計算方法は当事者の意思に反する不合
理なものというべきである。
原告Xらに対してアルバイト期間中に支給された調整手当は,時間外手
当を含めた日給1万円(被告浜松支店では1万00円)を保障する趣旨
のものであり,通勤手当を除く賃金日額が上記保障額に満たない場合に,同
額まで補填するものとして支給されたものである。
したがって,仮に,本件計算方法が違法又は無効とされ,原告Xらに上
記期間の割増賃金が追加支給されるのであれば,既払の調整手当が控除され
るべきである(このように計算すると,原告らに対する未払割増賃金の額は,
別紙4「未払金額(被告)」欄記載のとおりとなる。)。
3争点3(被告に対し付加金の支払が命じられるべきか否か)について
【原告らの主張】
被告による原告らに対する割増賃金の未払は悪質なものであるから,被告に
対し,労基法114条の除斥期間の範囲内で,未払割増賃金と同額の付加金の
支払が命じられるべきである。
【被告の主張】
仮に,未払割増賃金が認められたとしても,本件における被告の対応は悪質
なものではないから,被告に対し付加金の支払まで命じられるべきではない。
第当裁判所の判断
1争点1(本件計算方法の有効性)について
原告らは,本件計算方法において賃金対象額から時間外手当Aが控除されて
いる点に鑑み,〇間外手当Aが現実に支払われていない,¬棲龍菠性を欠
く,O基法37条の潜脱に当たる,じ序良俗に反する旨それぞれ主張する
(前記第4の1【原告らの主張】)ので,以下検討する。
上記ゝ擇哭の点について
ア前記前提事実ないしによれば,集配職の賃金については,⒜能率
手当以外の基準内賃金を基礎賃金として,時間外労働等に対する割増賃金
として,時間外手当A及び時間外手当C(旧賃金制度においては時間外手
当Aのみ)が算出され,⒝これとは別に所定の計算式により算出された賃
金対象額が,時間外手当Aの額を上回る場合には,超過差額を基準として
能率手当が算出され(本件計算方法),⒞そのようにして算出された能率
手当を基礎賃金として,時間外労働等に対する割増賃金として,時間外手
当Bが算出されていること,集配職の従業員が時間外労働等に従事した
場合には,被告が各従業員に対して,上記のとおり算出された時間外手当
を含む賃金を支給していること,以上の事実が認められる。
以上の事実によれば,時間外手当Aと能率手当は,それぞれ独立の賃金
項目として支給されており,能率手当も含めた基準内賃金に対し,所定の
計算式によって時間外労働等に対する時間外手当が算出され支給されてい
ることが認められるところ,被告と原告らとの間の労働契約において,賃
金対象額と同額を能率手当として支払うなどとする合意の存在は認められ
ず,本件計算方法は,飽くまでも能率手当の算出方法を定めたものにすぎ
ないといえるのであるから,能率手当の具体的な算出方法として,「能率
手当=賃金対象額−時間外手当A」という過程を経ているとしても(上記
のとおり,能率手当は賃金対象額が時間外手当Aを上回る場合に支給され
るものであって,賃金対象額が時間外手当Aを下回る場合にマイナスとな
るものではない。),被告は,現実に時間外手当Aを支払っていると解す
るのが相当である。
また,労基法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどの
ように定めるか特に規定していないことに照らせば,労働契約の内容とな
る賃金体系の設計は,法令による規制及び公序良俗に反することがない限
り,私的自治の原則に従い,当事者の意思によって決定することができる
ものであり,基本的に労使の自治に委ねられていると解するのが相当であ
る。
そして,本件における能率手当は,労働の成果に応じて金額が変動する
ことを内容とした出来高払制賃金であると解されるところ,出来高払制賃
金の定め方を指定し,あるいは規制した法令等は特に見当たらず,出来高
払制賃金について,いわゆる成果主義の観点から労働効率性を評価に取り
入れて,労働の成果が同じである場合に労働時間の長短によって金額に差
が生ずるようにその算定過程で調整を図ること自体は特段不合理なもので
あるとはいえない。したがって,能率手当の算定に当たって,賃金対象額
と時間外手当Aとを比較した超過差額を基準とする本件計算方法は,労働
時間に応じた労働効率性を能率手当の金額に反映させるための仕組みとし
て,合理性を是認することができるというべきである。
以上説示した点に鑑みると,本件計算方法が,労基法37条の趣旨に反
するとか,同条の潜脱に当たるとはいえない。
イ原告らは,賃金対象額は従業員の努力や工夫により増減させられるもの
ではなく,本件計算方法は合理性を欠いている,本件計算方法は,割増賃
金の支払を免れる意図で導入されたものである旨主張する。
しかしながら,証拠(甲1,2,乙1,8,13,証人A,原告X1,
原告X4)及び弁論の全趣旨によれば,⒜被告は,集配職に対し,集配
業務に係る具体的な順序・経路及び積荷の方法等までは指示しておらず,
これらは個々の集配職の裁量に委ねられていたこと,⒝集配職は,入社
当初の研修期間は先輩社員に同乗し,その後,担当エリアにおける集配
業務に習熟することで,一定程度は業務時間を短縮することができるこ
と,⒞集配職は,被告から指示された業務のほか,被告に対し追加業務
を申し出たり,顧客から新たな業務を獲得したりすることにより,賃金
対象額を加算することができること,以上の事実が認められる。
以上の事実に照らすと,被告が集配職に対し本件計算方法により算出
される能率手当を支給している趣旨目的としては,事業場外で行われる
集配業務に関し,従業員に対する労働効率化への動機付けを行うことで,
漫然と業務遂行することによる非効率的な時間外労働を抑制し,効率的
な業務を奨励するという点にあると解され,このような能率手当支給の
趣旨目的からすると,本件計算方法については合理性があると認めるの
が相当である。
そして,以上説示した点に,被告が,従業員の過半数が加入する労働
組合との協議,調整を経て能率手当を導入し,その後も賃金対象額の算
定方法等について同組合と協議,調整をしていること(乙6,7,13,
証人A)も併せ鑑みると,本件計算方法が割増賃金の支払を免れる意図
により導入されたものとは認められない。
以上によれば,原告らの上記主張はいずれも採用できない。
上記△療世砲弔い
ア使用者が,労働者に対し,時間外労働等の対価として労基法37条の定
める割増賃金を支払ったとすることができるか否かについては,労働契約
における賃金の定めにつき,それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と
同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検
討した上で,そのような判別をすることができる場合に,割増賃金として
支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎と
して,労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下
回らないか否かを踏まえて判断するのが相当である(最高裁平成6年6月
13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁,最高裁平成24年
3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁,最高裁平成29
年2月28日第三小法廷判決・裁判集民事号1頁,最高裁平成29
年7月7日第二小法廷判決・裁判集民事6号31頁参照)。
以上を踏まえて本件についてみると,及びアで
認定した事実によれば,⒜集配職に支給される賃金は,能率手当以外の
基準内賃金とこれらに対する割増賃金である時間外手当A及び時間外手
当C,出来高払制賃金である能率手当とこれに対する割増賃金である時
間外手当B並びにその他の基準外賃金(通勤手当,扶養手当等)により
構成されていること,⒝以上の賃金のうち,能率手当を含む基準内賃金
が,通常の労働時間の賃金に当たる部分であり,時間外手当A,時間外
手当B及び時間外手当Cが,労基法37条の定める割増賃金に当たる部
分に該当すること,以上の点が認められ,これらの点に鑑みると,集配
職の賃金は,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定め
る割増賃金に当たる部分とが明確に区分されて定められていると認めら
れる。
この点,原告らは,集配職の賃金が明確区分性を具備しているとはい
えない根拠として,時間外手当Aは,名目上支給されているものの,本
件計算方法においてこれと同額が控除されているから,労基法37条の
定める割増賃金に当たる部分ということはできないという点及び通常の
労働時間の賃金は,時間外労働等に応じて変動するものであってはなら
ないから,時間外労働等に応じて増減が生ずる能率手当は,通常の労働
時間の賃金に当たると評価することができないという点を挙げている
(前記第4の1【原告らの主張】⑵)。
しかしながら,で認定説示したとおり,被告は,能率手当以外
の基準内賃金に対する割増賃金として時間外手当Aを支給しており,こ
れとは別に所定の計算式により算出された賃金対象額(これ自体は「通
常の労働時間の賃金」として支給が定められたものではない。)が時間
外手当Aの額を上回る場合に,超過差額を能率手当として支給している
のであって,能率手当に係る本件計算方法の過程で,通常の労働時間の
賃金から時間外手当Aに相当する額を控除しているわけではないという
べきであるから,時間外手当Aは,その内容に鑑みて,労基法37条に
定める割増賃金に該当すると解するのが相当である。また,能率手当は,
出来高払制の賃金であるが,労働の成果のみならず,労働効率性を評価
に取り入れて,成果の獲得に要した労働時間によって金額が変動するも
のとしても,成果主義的な賃金として,通常の労働時間の賃金としての
実質を欠くものとはいえない。
したがって,原告らの上記主張はいずれも採用できない。
ウそして,割増賃金として支払われた時間外
手当A,時間外手当B及び時間外手当Cの金額は,通常の労働時間の賃金
に相当する部分の金額を基礎として,労基法37条等に定められた方法に
より算定した割増賃金の額を下回るものではないことが認められる。そし
て,この点に,上記アで説示した点を併せ鑑みれば,被告は,原告らに対
し,時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を全額支払
っていると認めるのが相当である。
上記い療世砲弔い
労基法37条は,労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定
めるかについて特に規定していないことに鑑みると,労働契約において,出
来高に基づき算出した金額が同条に定める割増賃金に相当する額を超える場
合に限り,その差額を通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合
に,当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し,無効
と解することができないというべきである(前掲最高裁平成29年2月28
日第三小法廷判決参照)。そして,上記で認定説示したとおり,本件計算
方法が労基法37条の趣旨に反すると認められないことも併せ鑑みると,本
件計算方法は公序良俗に反するものではないというべきである。
小括
以上のとおり,本件計算方法に関する有効性を否定する原告らの上記各主
張はいずれも採用することができず,本件計算方法は有効というべきである
から,原告らの被告に対する未払割増賃金請求権が存在するとは認められな
い。
2結論
以上によれば,その余の点(争点2,3)について判断するまでもなく,原
告らの本件各請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第民事部
裁判長裁判官 内藤裕之
裁判官 大森直哉
裁判官 池上裕康
別紙2
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1⑴被告は,第1事件原告X1に対し,161万1316円及び別紙3「X1」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X1に対し,161万1316円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
2⑴被告は,第1事件原告X2に対し,111万2144円及び別紙3「X2」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X2に対し,111万2144円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
3⑴被告は,第1事件原告X3に対し,177万31円及び別紙3「X3」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X3に対し,177万31円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
4⑴被告は,第1事件原告X4に対し,149万8428円及び別紙3「X4」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X4に対し,149万8428円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
⑴被告は,第1事件原告Xに対し,73万19円及び別紙3「X」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告Xに対し,73万19円及びこれに対する本
判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
6⑴被告は,第1事件原告X6に対し,6万964円及び別紙3「X6」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X6に対し,6万964円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
7⑴被告は,第1事件原告X7に対し,218万0967円及び別紙3「X7」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X7に対し,218万0967円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
8⑴被告は,第1事件原告X8に対し,174万0899円及び別紙3「X8」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X8に対し,174万0899円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
9⑴被告は,第1事件原告X9に対し,2万84円及び別紙3「X9」
欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第1事件原告X9に対し,2万84円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
⑴被告は,第2事件原告Xに対し,80万2436円及び別紙3「X1
0」欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで
年6分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第2事件原告Xに対し,74万616円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
11⑴被告は,第2事件原告X11に対し,182万3929円及び別紙3「X
11」欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みま
で年6分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第2事件原告X11に対し,138万3899円及びこれに対す
る本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
12⑴被告は,第2事件原告X12に対し,114万8187円及び別紙3「X
12」欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みま
で年6分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第2事件原告X12に対し,77万9867円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
13⑴被告は,第2事件原告X13に対し,74万8776円及び別紙3「X1
3」欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みまで
年6分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第2事件原告X13に対し,40万997円及びこれに対する
本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
14⑴被告は,第2事件原告X14に対し,179万6413円及び別紙3「X
14」欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みま
で年6分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第2事件原告X14に対し,179万6413円及びこれに対す
る本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
⑴被告は,第3事件原告Xに対し,7万2923円及び別紙3「X
」欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みま
で年6分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第3事件原告Xに対し,141万40円及びこれに対す
る本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
16⑴被告は,第3事件原告X16に対し,170万8637円及び別紙3「X
16」欄記載の各金員に対するそれぞれ対応する月の26日から支払済みま
で年6分の割合による金員を支払え。
⑵被告は,第3事件原告X16に対し,3万986円及びこれに対す
る本判決確定の日の翌日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
以上

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