報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

ホスト飲酒死、会社に賠償命令「飲み過ぎ防止配慮欠く」

 大阪・ミナミのホストクラブでホストの男性が大量の酒を飲まされて急性アルコール中毒で死亡したのは店側に責任があるとして、両親が経営会社「ダイヤモンド」(大阪市、清算)と経営者らに計約8600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が26日、大阪地裁であった。酒井良介裁判長は「接客中の飲酒を強要されて死亡したのは会社の事業で生じたといえ、会社は使用者責任を負う」として、経営会社に約7300万円の支払いを命じた。
 判決によると、男性は田中裕也さん=当時(21)。田中さんは平成24年8月1日午前7時半ごろ、勤務先の大阪市中央区心斎橋筋のホストクラブ店内で倒れているのを発見され、病院に搬送されたが、急性アルコール中毒で死亡した。
 酒井裁判長は判決理由で、遺体の解剖結果や客の証言などから、田中さんが主任ら同僚ホストから多量の飲酒を強要され嘔(おう)吐(と)した後、暴行されてさらに酒を飲まされ、泥酔状態のまま放置され急性アルコール中毒で死亡したと認定した。
 その上で「主任には、ホストらが過度な飲酒をしない配慮や救急車を呼ぶなどの措置をとる注意義務があったのに、飲酒を強要し、田中さんを放置した」と指摘。こうした不法行為は接客中のものであることなどから、「会社は事故の発生に使用者責任を負う」と結論づけた。
 一方、店では普段、過度の飲酒をしないよう指導していたなどとして、経営者らへの賠償請求は認めなかった。
(2019.2.26 16:01 産経新聞)

クラブ経営会社に賠償命令=ホスト飲酒死、遺族勝訴−大阪地裁

 大阪市中央区内のホストクラブで2012年、ホストの男性=当時(21)=が大量の飲酒を強制され急性アルコール中毒で死亡したとして、両親がクラブ経営会社などに計約8600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁(酒井良介裁判長)は26日、計約7300万円の支払いを会社に命じた。
 会社側は、男性が業務と関係なく自らの意思で大量に飲酒したと主張していた。酒井裁判長は客の証言などから、男性の指導役らが何度も一気飲みをさせ、これ以上飲めないと告げた後も「もっと飲め」と威圧的に求めたと認定。「暴力も伴いながら飲酒を強要し、泥酔状態で放置して死亡させた」と述べ、会社の使用者責任を認めた。
 男性の父親(55)は大阪市内で取材に応じ、「息子の名誉が守られたことはよかった」と述べた。
(2019年02月26日18時32分 時事ドットコム)

PDF

平成27(ワ)7371  損害賠償請求事件
平成31年2月26日  大阪地方裁判所
主文
1被告会社は,原告ら各自に対し,3694万8301円及びこれに対す
る平成24年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2原告らの被告会社に対するその余の請求,被告Cに対する請求並びに被
告B及び被告Dに対する主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,原告ら及び被告会社に生じた費用の100分の15並びに
被告B,被告C及び被告Dに生じた費用を原告らの負担とし,原告ら及び
被告会社に生じたその余の費用を被告会社の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告ら各自に対し,連帯して,4344万8301円及びこれに対
する平成24年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(被告B及び被告Dに対する予備的請求)
被告B及び被告Dは,原告ら各自に対し,連帯して,4344万8301円及
びこれに対する被告Bについては平成27年9月16日から,被告Dについては
平成28年2月18日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件は,被告会社が経営していたホストクラブE(以下「本件ホストクラブ」
という。)のホストであった亡Aが,勤務中,急激かつ大量の飲酒をさせられたた
め,急性アルコール中毒により死亡したとして,亡Aの父母である原告らが,被
告らに対し,亡Aから相続した損害賠償請求権及び遺族固有の損害賠償請求権に
基づき,連帯して,それぞれ4344万8301円及びこれに対する亡Aの死亡
した日である平成24年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金(被告B及び被告Dについては,予備的請求として,附帯請求に
関し,訴状送達の日の翌日(被告Bについては,平成27年9月16日,被告D
については平成28年2月18日)から支払済みまで,民法所定の年5分の割合
による遅延損害金)の支払を求める事案である。
原告らは,被告会社に対しては,本件ホストクラブの他のホストが亡Aに飲酒
を強要した上,同人が酩酊して危険な状態になったにもかかわらず,救護すべき
義務を怠ったとして,主位的に使用者責任,予備的に債務不履行(安全配慮義務
違反)に基づき,被告Bに対しては,主位的に,被告会社の取締役としての職務
である従業員の安全配慮を怠り,そのことにつき悪意又は重過失があったとして,
会社法429条1項に基づき,予備的に,故意又は過失により従業員に対する安
全配慮義務を怠ったとして,不法行為に基づき,被告Cに対しては,主位的に,
被告会社の取締役在任中,従業員が過度に飲酒しないよう十分な監視体制及び救
護体制を構築する職務上の義務を怠り,そのことにつき悪意又は重過失があった
として,会社法429条1項に基づき,予備的に,従業員に対する安全配慮義務
を怠ったとして,不法行為に基づき,被告Dについては,被告会社の取締役とし
て,従業員に対し,過度の飲酒をしないよう十分な監視体制及び救護体制を構築
する義務を怠ったとして,不法行為に基づき,それぞれ損害賠償請求をするもの
である。なお,原告らは,被告Dについて,当初,会社法429条1項の主張に
基づく予備的請求をしており,後に同主張は撤回されたが,予備的請求の取下げ
はしていない。
1前提事実(証拠等の記載がないものは争いがない。)
⑴当事者等
ア亡A
亡Aは,平成3年生まれの男性である。(甲4)
亡Aは,平成24年8月1日午前9時11分,勤務先である本件ホストク
ラブから救急搬送され,搬送先の病院において急性アルコール中毒により死
亡した(以下「本件事故」という。)。
イ原告ら
原告らは,亡Aの父母であり,他に亡Aの相続人はいない。
ウ被告会社
被告会社は,平成23年5月10日に設立された,飲食店の経営等を目的
とする株式会社であり,本件ホストクラブを経営していた。被告会社は,平
成27年10月21日,株主総会の決議により解散して同年11月5日その
旨の登記をし,平成28年1月12日に清算を結了して同日その旨の登記を
した。(甲1,弁論の全趣旨)
エ被告B
被告Bは,平成23年10月1日,被告会社の取締役及び代表取締役に就
任したが,同社の解散により,代表清算人に就任した。(甲1,弁論の全趣旨)
オ被告D
被告Dは,被告会社の設立以来,その取締役を務めていたが,平成25年
6月30日に退任し,同年11月12日,その旨の登記をした。(甲1)
カ被告C
被告Cは,被告会社の設立以来,その代表取締役を務めていたが,平成2
3年10月1日に代表取締役を退任するとともに取締役を辞任し,同月21
日,その旨の登記をした。
神戸地方裁判所尼崎支部は,被告Cに対し,平成29年4月13日午後5
時に破産手続開始及び同時破産廃止決定をし,同年6月21日に免責許可決
定をし,同年7月21日に免責許可決定が確定した。(丙1及び2,弁論の全
趣旨)
⑵本件ホストクラブについて
ア営業形態
本件ホストクラブは,大阪市F区Gに所在していた,客の接待をして客に
飲食をさせる営業をする施設であり,本件事故当時には,約10名のホスト
が在籍していた。
本件ホストクラブは,営業開始当初,午後9時から翌日の午前1時までの
第1部,第1部終了後の日の出から午後9時頃までの第2部からなる2部制
により営業をしていた。
イホストの業務
本件ホストクラブにおいては,基本的に,ホスト2名で1組の客を接待し
ていたが,来客数が少ない場合には,客に指名されたホストの周囲を,指名
を受けていない他の数名のホストが盛り上げ役として取り囲み,共に接待す
ることがあった(以下,客の指名を受けずに接待するホストを「ヘルプ」と
いう。)。
ホストの業務には,客と会話等をして接待することのほか,客の費用で一
緒に飲酒することも含まれていた。
2当事者の主張
⑴本件事故発生前におけるホストらによる飲酒強要等の事実の有無
(原告らの主張)
ア本件ホストクラブの主任であるHは,ホストに対する指導や朝礼などの指
示も職務として担当しており,代表,店長に次ぐ3番目の地位にあった。ま
た,Hは,本件ホストクラブにおけるナンバーワンホストであり,被告Bが
客として本件ホストクラブを訪れた際に指名を受けていたことなどから,本
件ホストクラブにおいて一番の権力者であった。加えて,Hは,客の承諾も
なくシャンパン等を提供し,客が承諾せざるを得ない状況に追い込むような
営業を頻繁に行っていた。そのため,本件ホストクラブにおいて,Hに逆ら
ったり,Hの行動を止めたりすることのできる人物はいなかった。
一方,亡Aは,通っていた通信制高校の学費を稼ぐために本件ホストクラ
ブで働いていたが,酒に弱く,本件ホストクラブにおいても,普段は薄い酒
を飲んでいた。
亡Aは,Hにあこがれており,同人の傍にいることが多かったが,Hは,
亡Aを嫌っていたことから,職務上の地位等を背景に,日常的に様々ないじ
め行為を繰り返していた。
イ亡Aは,平成24年7月31日,38度の高熱があったため,本件ホスト
クラブに対し,仕事を休ませてほしい旨申し入れたが,飲酒はしなくて良い
から,席にだけ着くよう言われ,やむなく同日も勤務に就いた。
Iは,平成24年8月1日午前3時頃本件ホストクラブを訪れたが,普段
から指名していたホストであるJが他の客を接待していたことから,亡Aが
ヘルプとしてIの席に着いた。Iが本件ホストクラブを訪れた時には,四,
五組の客が入っており,また月末の最終締日であったことから,売上げを伸
ばすため大量の飲酒が行われていた。
亡Aは,Iの席で,同人がキープしていた焼酎のボトルで薄い水割りを作
り,一,二杯程度飲んだ。その後,HとJがIの席に加わったが,同人らは,
亡Aに対し,「なにちびちび飲んでんねん。もっと飲めや。」,「3人で飲み比
べをしよう。」などと申し向けて,焼酎やテキーラゴールドの一気飲みを強
制し,亡Aが,もう飲めないと述べて拒否したにもかかわらず,飲酒を強制
し続けた。さらに,Jは,亡Aが客席でおう吐したことに逆上し,暴行を加
えた。その後も,H及びJは,顔色が悪くなっていた亡Aに対し飲酒を強制
し,亡Aがこれを拒むと暴行を加えた。
酔いつぶれた亡Aは,客席に一人放置されたが,その後,泡を吹いて倒れ
ているのを発見され,救急車で搬送されたが死亡した。
(被告会社及び被告Bの主張)
原告らの主張事実は否認する。
ア亡Aは,普段から自ら好んで飲酒をしており,プライベートで飲酒をする
際には,ビールのほか,テキーラなどの酒をストレートで飲んでおり,テキ
ーラであればショットグラスで10杯程度は飲み,時には一人で焼酎ボトル
1本を空けることもあった。
亡Aは,平成24年8月1日午前0時頃,電話でHに借金を申し込んだ。
Hは本件ホストクラブで亡Aを待っていたところ,亡Aはひどく酔った状態
で訪れた。Hは,亡Aに対し,借金の申込みを断った上で,酔いがひどいか
ら帰るよう述べた。その後,Hは,本件ホストクラブを離れ,同日午前3時
頃再び同店に戻ったが,亡Aは,本件ホストクラブを去らずに,酔った状態
でソファーに座っており,金を貸してくれなどといっていた。その後,亡A
は救急車で搬送された。
以上のとおり,亡Aは,本件事故当時,大量の飲酒をした状態で業務と関
係なく本件ホストクラブに行ったものであり,またそうでないとしても,勤
務中であったにもかかわらず,業務と関係なく,自らの意思で大量の飲酒を
していた可能性もある。
イ原告らの主張は,Iの供述を前提とするものである。
しかし,Iは,本件事故当日,来店時に四,五組の客が入っていたと述べ
るものの,事件当日の午後2時から同4時の間に来店していた客は2組だけ
であったこと,また,本件ホストクラブの関係者の中に本件事故に関して起
訴された者はいないことからすれば,同人の供述は信用できない。
(被告Cの主張)
原告らの主張事実は否認する。Iは,被告Cが本件ホストクラブの会長で
あったと供述するが,事実と異なっており,その供述は全体として信用性を
欠く。
⑵被告会社の責任の有無1使用者責任
(原告らの主張)
アHは,従業員の生命身体の安全に配慮すべき立場にある本件ホストクラブ
の主任だったのであるから,客の接待をしているホストに対し,過度の飲酒
により生命身体を損なうことがないように指導監督するとともに,ホストが
酩酊等により危険な状態に陥った場合には,直ちに救急車を呼ぶ等して,生
命身体を保護すべき義務を負っていた。
Hは,本件事故の発生に先立ち,亡Aが体調不良であったことを認識し,
又は認識し得たところ,上記各義務に反し,普段から薄い酒しか飲まず,高
熱による体調不良の状態であった亡Aに対し,同人が拒否していたにもかか
わらず,強制的に焼酎ほぼ1本と,大量のテキーラゴールドを飲ませ,亡A
が酔いつぶれた後も,直ちに救急車を呼ぶなどして病院に連れて行くなどの
措置を執ることなく,長時間にわたり放置し,亡Aを死亡させた。
したがって,Hは,本件事故の発生につき,不法行為責任を負う。
イHの上記不法行為は,本件ホストクラブ内における接客中に行われたもの
であり,被告会社の職務と密接な関連性があるから,事業の執行につき行わ
れたものといえる。
したがって,被告会社は,本件事故の発生につき,使用者責任を負う。
(被告会社の主張)
ア原告らの主張は争う。争点⑴において主張したとおり,亡Aは,業務とは
関係なく,自らの意思で大量に飲酒したものである。
イ仮に,Hが亡Aに暴行等を加えて飲酒させていたとしても,被告会社は,
下記のとおり被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をして
いた。また,本件ホストクラブにおいて,本件事故当日以前にホストらが飲
み比べをしたことはなく,私的な金銭貸借等の機会における突発的な暴行を
防止することは困難であり,相当の注意をしても本件事故が発生していた。
本件ホストクラブにおける主任は,現場のホストの接待及び接客を補助
又は指導監督する役割を担っており,自らが全く飲酒をしなくとも指名を
受けることができ,責任を持った行動ができる地位にある者が選ばれると
ころ,Hは,かかる技量を持つものとして選任された。
本件ホストクラブにおいては,ホストが過度の飲酒を行い,接待に支障
が発生することを回避するため,ホストに対し,過度の飲酒の誘因となる
売上ノルマを設定せず,次のとおり,過度の飲酒を防止する体制を整える
とともに,飲酒の方法や飲酒を回避する方法等を指導又は指示していた。
また本件ホストクラブにおいては,店内全体を見渡して,異常事態に対
する回避や対処をするために,キャッシャー及び主任が置かれ,そのうち
の一人が必ず店内にいるようにしており,過度に飲酒するおそれがあるホ
ストに対しては,キャッシャー又は主任が,席を外させる,休ませる,又
は帰宅させるという対応をしていた。さらに,ホストが一人で客に接客す
ることがないように,ホストが指名されていてもヘルプを付けて2名体制
で客に接するようにしていた。ヘルプに対しては,指名されたホストを補
助するだけでなく,両者でその場を盛り上げるとともに,相互にけん制す
るように指導しており,指名されたホストが飲酒しすぎるおそれがある場
合は,ヘルプがそれを抑制し,ヘルプが飲酒しすぎるおそれがある場合は,
指名されたホストがそれを抑制するようにしていた。
加えて,1週間におおむね二,三回開催されるミーティングでは,接客
における会話能力を高めることや,過度に飲酒をしないことを,繰り返し
指示伝達していた。また,同ミーティングにおいては,ホストに飲酒をす
るよう求めて絡むおそれのある客のかわし方として,おしぼりを顎の下付
近に接触させ,飲むしぐさをしながら,口から顎に伝って流れるようにし
ておしぼりに酒類を吸収させること等,具体的な方法も指導していた。そ
して,被告Dは,店の方針や従業員の心得等を記載した従業員マニュアル
を作成し,ホストの新規採用時に交付し,同マニュアルに沿って指導教育
を行っていた。さらに,各ホストに対して,セレブを迎える店という本件
ホストクラブのコンセプトを前提に,ホストが出勤前に飲酒して接待に影
響しないようにすることはもちろん,勤務中にあっても過度の飲酒を厳に
禁じるだけでなく,客からの勧めがあっても飲みすぎないようにする方策
を指導,教育し,上記コンセプトに反する行動をし,又はする可能性のあ
る客は退店させていた。
⑶被告会社の責任の有無2債務不履行責任(安全配慮義務違反)
(原告らの主張)
被告会社は,亡Aを雇用し,本件ホストクラブで勤務させていたのであるか
ら,雇用契約に基づき,従業員であるホストに対し,生命身体に危険を及ぼす
ような過度の飲酒をしないように指導監督する義務及び酩酊等により危険な
状態に陥った場合には,直ちに救急車を呼ぶ等して生命身体を保護すべき義務
を負っていた。
Hは,被告会社の履行補助者として上記義務を履行すべき地位にあったとこ
ろ,上記⑵記載のとおり,これらの義務を怠り,亡Aを死亡させたものである
から,被告会社は,本件事故の発生につき,安全配慮義務違反による債務不履
行責任を負う。
(被告会社の主張)
原告らの主張は争う。被告会社は,上記⑵イ記載の過度の飲酒を防止するた
めの体制の構築やホストに対する指導等を通じて,従業員に対する安全配慮義
務を尽くしていた。
また,仮に,本件事故に当たりHが亡Aに飲酒を強制していたとしても,本
件ホストクラブにおいて,本件事故が発生する前にそのような飲酒の強制がさ
れたことはなく,本件事故のような突発的な事故を予見することはできなかっ
たから,被告会社には過失がない。
⑷被告Bの責任の有無
(原告らの主張)
ア会社法429条1項に基づく責任
被告Bは,被告会社の取締役として,従業員の生命身体の安全に配慮すべ
き職務上の義務を負っていた。
被告Bは,週に1回程度本件ホストクラブを訪れ,Hを指名した上でVI
Pルームにおいて接待を受け,亡Aに対しても過度の飲酒をさせていたこと
から,本件ホストクラブにおいて日常的に過度の飲酒が行われていることを
知っており,また,本件ホストクラブに設置されていた防犯カメラによる監
視を通じ,Hが亡Aに対して焼酎ほぼ1本と大量のテキーラゴールドを強制
的に飲ませていることを知り得た。したがって,被告Bは,過度の飲酒や飲
酒の強要により亡Aが死亡するおそれがある状況にあったにもかかわらず,
悪意又は重過失により,上記義務を怠り,亡Aを死亡させたものであるから,
本件事故の発生につき,会社法429条1項に基づく責任を負う。
イ不法行為責任
被告Bは,上記のア記載のとおり,従業員の生命身体の安全に配慮すべき
義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,亡Aを死亡させたものであ
るから,本件事故の発生につき,不法行為責任を負う。
(被告Bの主張)
ア被告Bの本件ホストクラブへの関与の程度について
被告Bが本件ホストクラブに頻繁に来店し,防犯カメラで店内を監視して
いたことは否認する。
Iは,被告Bが本件ホストクラブを頻繁に利用し,VIPルームに入って
行くところを見ており,被告Bが店内に設置された防犯カメラでホストの勤
務態度を確認していた旨供述する。しかし,被告Bは,本件事故発生当時,
東京に生活の本拠があり,一,二か月に1度しか本件ホストクラブに行くこ
とはなかった。また,VIPルームへは,本件ホストクラブの店舗と構造上
独立している廊下を通り,一般の客の出入口とは異なるVIP用出入口から
入室するのであって,廊下からVIPルームに出入りする客は本件ホストク
ラブの客室からは見えないし,店内は客が互いに見えにくいように薄暗くし
ており,店内からVIPルームに入る場合であっても他の客からは分かりに
くい状況にあったことなどからすれば,被告Bが本件ホストクラブを頻繁に
利用しており,同人がVIPルームに入るのを見た旨の上記供述は信用でき
ない。被告Bが店内に設置された防犯カメラでホストの勤務態度を確認して
いたとの点も,従業員からの伝聞にすぎず,店内には,防犯カメラの内容を
チェックできる部屋や設備はなかったのであるから,被告Bは,店内の状況
を監視することはできなかった。
イ会社法429条1項に基づく責任
本件ホストクラブにおいて,日常的に過度の飲酒が行われていた事実は存
在しない。また,上記⑴記載のとおり,亡AがHにより飲酒を強要された事
実は存在せず,仮にかかる事実があったとしても,本件事故は突発的に生じ
たものである。
上記⑵及び⑶記載の被告会社の主張のとおり,本件ホストクラブにおいて
は,従業員に対する安全配慮義務が尽くされていたのであって,被告Bには,
任務懈怠はなく,悪意も重過失もない。
したがって,被告Bは,会社法429条1項に基づく責任を負わない。
ウ不法行為責任
上記イ記載のとおり,被告Bは,従業員に対する安全配慮義務を尽くして
おり,亡Aの死亡につき予見可能性がなかったのであるから,被告Bには故
意も過失もない。
したがって,被告Bは,不法行為責任を負わない。
⑸被告Cの責任の有無
(原告らの主張)
ア会社法429条1項に基づく責任
被告Cは,平成23年5月10日から同年10月1日までの間,被告会社
の代表取締役だったものであり,取締役在任中,従業員が過度の飲酒により
生命身体を損なうことがないよう監視体制を整え,従業員であるホストが酩
酊状態等危険な状態に陥った場合には,直ちに救急車を呼ぶ等して病院に連
れて行き,早期の治療・処置を施すという体制を構築する取締役としての職
務上の義務を負っていたところ,悪意又は重大な過失によりかかる義務を怠
り,退任後に亡Aの死亡という結果を生じさせたものであるから,本件事故
の発生につき,会社法429条1項に基づく責任を負う。
イ不法行為責任
被告Cは,上記アのとおり,被告会社の取締役在任中に,被告会社の従業
員に対する安全配慮義務違反を負っていたところ,故意又は過失により同義
務を怠り,退任後に亡Aを死亡させたものであるから,本件事故の発生につ
き,不法行為責任を負う。
(被告Cの主張)
被告Cは,平成23年10月1日に被告会社の代表取締役及び取締役を退任
してからは,被告会社とは関わりを有しておらず,取締役に在任中も,経営に
は関与せず,経営実態を聞かされることもなかった。
また,本件事故は,被告Cの退任から1年近く経過してから発生したもので
あり,被告Cがこれを防止することは不可能だった。
以上によれば,被告Cは,亡Aの死亡につき何ら責任を負わない。
⑹被告Dの責任の有無
(原告らの主張)
被告Dは,本件事故発生当時,被告会社の取締役であり,本件ホストクラブ
に常勤し,本件ホストクラブの運営責任者でもあった。被告Dは,本件ホスト
クラブにおいて,勤務中のホストが過度の飲酒を行うおそれがあることを十分
に認識していたものであり,ホスト等の従業員に対し,飲酒量の十分な監視体
制及びホスト等が酩酊状態等危険な状態に陥った場合の救護体制を構築すべ
き義務を負っていた。しかるに,被告Dは,故意又は過失によりかかる義務を
怠り,これによって亡Aを死亡させたものであるから,本件事故の発生につき,
不法行為責任を負う。
⑺損害
(原告らの主張)
ア亡Aの損害額
治療費4万3210円
亡AがK病院に救急搬送された際の治療費である。
葬儀費用150万円
葬儀費用として,社会通念上相当な金額である。
逸失利益4735万3392円
亡Aは死亡時21歳の男性であり,就労可能年齢67歳までの46年間
にわたり得ることができたはずである平成24年賃金センサスによる男
性・学歴計・全年齢平均賃金529万6800円の収入を失った。亡Aの
逸失利益を,生活費控除率を50パーセントとし,ライプニッツ方式によ
り中間利息を控除すると(ライプニッツ係数は17.880),亡Aの逸失
利益は,以下のとおりに算定することができる。
529万6800円×(1−0.5)×17.880
=4735万3392円
死亡慰謝料2800万円
亡Aに配偶者及び子はいなかったが,将来ある21歳の若者の生命が奪
われた慰謝料は2800万円が相当である。
原告らは,上記亡Aの損害賠償請求権をそれぞれ2分の1ずつ相続した。
イ原告らの固有の慰謝料各人につき500万円
原告らは,まだ若い亡Aの死亡により多大な精神的苦痛を被った。また,
被告会社は,本件事故後,原告らに対し謝罪も連絡もせず,ひたすら責任を
逃れようとしていたため,原告らは,本件訴訟提起までの間,子を失った悲
しみのやり場もなく苦しみ続けていた。以上によれば,原告らの固有の慰謝
料としては,各人につき500万円が相当である。
(被告会社,被告B及び被告Cの主張)
原告らの相続分がそれぞれ2分の1である事実を除き,否認ないし不知。
第3当裁判所の判断
1認定事実
⑴本件ホストクラブの体制等について
ア被告Dは,本件ホストクラブに勤務する前からホスト業をしていた者であ
り,被告Bから開店費用の援助を受けて本件ホストクラブを開業し,本件ホ
ストクラブにおいては,運営に関する最高責任者として「代表」と呼ばれる
立場にあり,売上げの管理をしたり,従業員の雇用及び従業員の給与の支払
の決定を行ったりしていた。
被告Bは,被告会社の設立及び本件ホストクラブの開業に当たり,本来で
あれば,直ちに被告会社の代表取締役に就任すべき立場にあったが,設立か
ら平成23年10月1日までの間,クレジットカード使用の審査のため,被
告Cに取締役及び代表取締役に就任してもらい,同期間の後は,被告Bが被
告会社の取締役及び代表取締役に就任した。
Lは,本件ホストクラブの店長として,ホスト全員の出退勤の管理や,迷
惑客への対応等を行っていた。
Hは,本件ホストクラブが新規開店した平成23年7月から平成24年秋
頃まで,同所でホストとして勤務するとともに,他のホストに対し売上げや
勤務態度の指導をする役職である主任を務めていた。
Mは,本件ホストクラブにおいて,ホストとしての勤務は行わず,キャッ
シャーとして,金銭管理及びホストによる接客体制の管理を行っていた。
(乙4ないし6)
イ本件ホストクラブは,定期的なミーティングを行い,その内容は接客やヘ
ルプの指導が中心であったが,過度な飲酒をしないよう指導が行われること
もあった。また,接客できないほど過度に飲酒をしているホストには,店に
出ないで帰宅するよう注意していた。店長,主任及びキャッシャーは,店内
において異常が発生した場合に対応することとなっていた。(甲5,乙4,
5)
⑵本件ホストクラブの店内の状況について
ア本件ホストクラブの店内は,南北に細長く伸びており,南側には外部に通
ずる出入口ドアが設置され,内部では,ガラス戸等によって,一般の接客フ
ロアと北側奥のVIPルームに仕切られていた。
店内には,一般の接客フロアに2基のトイレが設置されているほか,VI
Pルームには広めのトイレが1基設置されていた。
南側出入口付近にある事務室には,防犯カメラの操作器が設置されており,
店内及び店外に設置された防犯カメラの映像をモニターで確認できるよう
になっていた。
(甲21の2)
イ亡Aが死亡した日の翌日である平成24年8月2日にN警察署が実施し
た検証の際には,店内の厨房から,空ビール瓶18本,テキーラスピリッツ
の空き瓶1本等が発見された。接客フロアとVIPルームとの間を仕切るガ
ラス戸の南面及び付近の床上からは,吐物様の物が採取された。本件事故発
生当時にVIPルームの真南に設置されていたボックス席のテーブルとそ
の奥のソファーとの間付近の床面には,吐物を拭いたような跡が残っていた。
店内の冷蔵庫に掲示されていた予定表には,「7月締日」との表題の下に,午
後10時から午前0時,午前0時から午前2時,午前2時から午前4時,午
前4時以降及び未定と,5つの時間枠があり,午前2時から午前4時の枠に
2組,未定の枠に2組の来店予定の客及びそれぞれの担当者(ホスト)4名
の名前,さらに,亡Aが,午前2時から午前4時にかけて来店予定の客を担
当するJのヘルプとして席に着く予定であることが記載されていた。(甲2
1の2)
⑶亡Aの本件ホストクラブにおける勤務状況
亡Aは,平成24年4月頃,被告会社に雇用されて本件ホストクラブに勤務
するとともに,通信制高校にも在籍していた。亡Aは,被告会社に雇用されて
から本件事故までの間,勤務中に指導されたことを頻繁にノートに取り,ホス
トとしての心構え,仕事の手順,目標等を記入していた。また,知人に対し,
電子メールにより,しばしば勤務中に多量の飲酒をせざるを得なかったことを
明るい調子で報告していた。(甲5,10)
⑷本件事故の状況
ア本件ホストクラブは,平成24年7月31日深夜に第1部の営業が開始し,
亡A,H,L,Mのほか,J他数名のホストが出勤し,亡Aは,ヘルプとし
て接客をしていた。そして,同年8月1日午前4時から午前6時まで滞在し
た1名の客,午前3時30分から午前7時まで滞在した1名の客については,
会計表が残っており,本件ホストクラブは,少なくとも同日においては,第
1部の終了予定時間後もそのまま営業を続けていた。被告Bは,本件事故時,
本件ホストクラブにはいなかった。(甲12の1及び2,甲16の1及び2,
乙3の1及び2,乙4,6)
イ亡Aは,平成24年8月1日午前7時30分頃,本件ホストクラブの一般
の接客フロアにおいて,VIPルームとの仕切り近くのボックス席前の通路
部分で泡を吹いて倒れているところを発見され,呼吸を停止しているようで
あったことから他のホストが救命措置を執ったが,回復せず,同日午前8時
6分に119番通報がされ,同日午前8時10分に救急車が本件ホストクラ
ブに到着した。
亡Aは,平成24年8月1日午前8時34分,L及びHの付添いの下,K
病院へ搬送されたが,同日午前9時11分,死亡が確認された。
(甲12の1及び2,甲19,乙4)
⑸亡Aの解剖結果
平成24年8月2日警察の嘱託により行われた亡Aの解剖の結果は,次のと
おりである。
亡Aは,同月1日午前9時11分,アルコールの大量摂取による急性アルコ
ール中毒により死亡し,死亡時の血中アルコール濃度は1ミリリットル当たり
3.6ミリグラム(泥酔期のアルコール濃度に相当し,意識が消失し,死亡の
危険性がある濃度)であった。
亡Aには,右側頭部の右耳介上端から4.5センチメートルの部分に皮下出
血,同部頭皮下に頭皮下出血,さらにその下層に右側頭筋内出血が認められた。
また,頭頂部やや左側に頭皮下出血が,左側頭部の左耳介上端から上方に9セ
ンチメートルの部分に軽微な頭皮下出血が,右外眼角から外側に3.5センチ
メートルの部分に皮下出血がそれぞれ認められた。これらの損傷の原因は,鈍
体による打撲であり,いずれも死因には直接の影響はないものの,右側頭部の
打撲は,側頭筋内にも出血が及んでいることから,やや強い打撲と認められた。
(甲21の3)
2本件事故の発生状況
⑴本件ホストクラブに平成24年8月1日午前4時から午後6時の間客とし
て滞在し,亡Aの接待を受けたIの陳述書及び尋問に係る供述(甲20,証人
I。以下「I供述」という。)並びに労働基準監督官から本件事故に至る状況等
の取調べを受けた際のHの供述(乙4。以下「H供述」という。)は,いずれも
本件事故の発生状況に関して具体的に言及したものであるため,上記1で認定
した客観的事実を踏まえて,その信用性を検討する。
⑵I供述は,要旨以下のとおりである。
亡Aは,本件ホストクラブに客として来店したIを,VIPルームとの仕切
りの近くに位置する一般の接客フロアのボックス席で接待することとなった。
その後,H及びIの当時の交際相手であったJも,Iの接待に加わった。
H及びJは,亡Aに対し,「なにチビチビ飲んでんねん。」,「飲めよ。」などと
いって,Iがボトルキープしていた焼酎の水割りを飲ませたほか,Hがバーカ
ウンターから持ってきたテキーラゴールドを何度も一気飲みさせた。H及びJ
は,亡Aが,これ以上は飲めないといった後も,「もっと飲め。」,「お前,酒弱
いんか。」などと威圧的な態度で飲酒を求めた。
焼酎1本及びテキーラ1本に近い量の酒を飲んだ亡Aは,ボックス席でおう
吐し,VIPルームのトイレに移動した。亡Aを追って行ったJは,ボックス
席に戻った後,Iに対し,「どついたったわ。」,「あいつ調子のってる。」などと
述べた。
亡AがVIPルームのトイレから戻った後も,亡Aは,H及びJに「客から
もらった酒吐くなや。」,「飲んだ分出ていってんねんからまだ入るやろ。」など
と言われ,酒を飲まされていた。
亡Aは,Iのいたボックス席で寝てしまい,Iは,他のホストに言われて別
の客が接待を受けている席に合流した。
その後,Iは,亡Aが泡を吹いて倒れているのを発見し,Jが救命措置を行
ったが回復せず,発見から30分ないし1時間後,119番通報がされた。
⑶H供述は,要旨以下のとおりである。
亡Aは,プライベートで飲むとき,一人で焼酎のボトル1本は空けることが
あり,テキーラもストレートでショットグラス10杯くらい飲み,酒には強か
った。亡Aは,近所で飲酒してから本件ホストクラブに出勤することがほとん
どで,2回に1回は,相当酔った状態で店のドアを蹴って入り,後輩のホスト
に絡んでいるような状況だった。
亡Aは,平成24年8月1日午前0時頃,Hに借金を要請する内容の電話を
かけてから本件ホストクラブに来たが,Hは,亡Aが酔っていたため,家に帰
るように言い,Mに対し,亡Aを帰らせるよう指示をした。しかし,Hが同日
午前3時頃にミーティングのため本件ホストクラブを訪れたところ,亡Aが酔
ってソファーで寝ていたため,亡Aが帰っていないことについてMを叱責した。
Hは,ミーティングの後,客とバーOで飲んでいたが,同日午前7時か8時頃,
Mから,亡Aが倒れたので救急車を呼んだとの報告を受け,本件ホストクラブ
に戻った。
⑷まず,I供述について検討する。
亡Aには,死亡時,右側頭部,頭頂部,左側頭部の合計4か所に鈍体による
打撲があったこと,本件事故の翌日実施された検証において,亡Aが倒れてい
たボックス席の床面に吐物の痕跡が確認されたこと,その場所からVIPルー
ム内のトイレまでの動線上にある接客フロアとVIPルームとを仕切るガラ
ス戸の付近に,吐物様の物が確認されたこと(認定事実⑵イ及び⑸),これらの
事実は,I供述による亡Aに対する飲酒強要の経過,すなわち,VIPルーム
真南で,Iの接客をしていた亡Aが,H及びJから焼酎1本,テキーラ1本近
くを飲まされた上,ボックス席でおう吐してVIPルームのトイレに移動した
が,亡Aの後を追ってトイレに行ったJがボックス席に戻って来ると,「どつ
いたったわ。」などと暴行を加えた趣旨の発言をし,Hは,Jとともに,戻って
きた亡Aに対してさらに酒を飲ませていたこととおおむね整合している。
被告らは,。匹本件事故に関して検察官等から取調べを受けたにもかかわ
らず,H及びJは起訴されなかったのは,I供述に客観的事実と整合しない部
分があったためである,■匹蓮に楫鏤故当日の来客について,4ないし5組
の客がいたという事実に反する供述をしている,Iは,被告Cが本件ホスト
クラブの会長であったという事実に反する供述をしていると主張して,I供述
の信用性を争っている。
しかし,,砲弔い董ぃ筏擇咤覆起訴されなかったことが,直ちにI供述の
信用性の有無と結びつくものではない。△砲弔い董で定事実⑵イによれば,
午前2時から4時にかけての来店予約が2組,さらに時間未定の来店予約が2
組あったのであるから,必ずしも,客観的事実に矛盾しているとはいえないし,
来客数の違いも,供述の信用性を揺るがす程度のものとはいえない。につい
て,確かに前提事実⑴カとは整合しないものの,本件ホストクラブの会長につ
いての認識の誤りが,本件事故に関する認識,記憶等の誤りにつながるとは解
し難い。そして,上記のとおり,亡Aに対する飲酒強要の経過に関するI供述
は,客観的事実と整合しており,供述それ自体に矛盾点や不自然な点が見当た
らないことにも照らすと,被告らの上記,覆い鍬の指摘は,亡Aの飲酒強要
の経過に関するI供述の信用性を損なうものではなく,また,他に信用性を疑
わせる事情もない。
⑸次に,H供述について検討する。
亡Aには,死亡時に合計4か所の鈍体による打撲があったこと,本件事故の
翌日実施された検証において,吐物の痕跡及び吐物様の物が確認されたことは,
H供述と矛盾するものではない。
しかし,亡Aが,酒に酔った状態で勤務と関わりなく本件ホストクラブを訪
れたということは,亡Aの勤務状況(認定事実⑶)に照らして信用し難い。ま
た,仮にそのような事実があったとしても,本件ホストクラブの営業の妨げに
なるような状態にあった亡Aに対して,店内に立ち入ることを許した上,おう
吐し,口から泡を吹いて倒れているという一見して危険な状態になるまで特段
対処することなく寝ている状態で放置していたということは,不自然といわざ
るを得ない。
⑹以上によれば,I供述は,亡Aに対する飲酒強要の経過の中核部分において
十分な信用性があり,H供述は,客観的事実関係との整合性に欠ける上,内容
も不自然であり,信用できないというべきである。
そして,前記認定事実とI供述を総合すると,亡Aは,HやJから多量の飲
酒を強要されておう吐した後,暴行を加えられてさらに飲酒させられ,泥酔状
態のまま放置された上,急性アルコール中毒により死亡したと認められる。
3被告会社の責任の有無1使用者責任
上記1及び2の認定事実によれば,Hは,本件ホストクラブの主任として,従
業員であるホストらが過度に飲酒しないように配慮し,酩酊など危険な状態に陥
った場合には,救急車を呼び,早期に適切な措置を執ってその生命身体の安全に
配慮すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,同義務に反し,本件ホストク
ラブにおいて,Jとともに,業務中の亡Aに暴力も伴いながら飲酒を強要した上,
泥酔状態に陥った亡Aを放置し,その結果,亡Aを急性アルコール中毒により死
亡させたものであるから,本件事故の発生につき,不法行為責任を負う。
そして,Hは,被告会社の被用者であるところ,上記Hの不法行為は,本件ホ
ストクラブにおいて,客であるIの接待中になされたものであるから,被告会社
の事業の執行について生じたものといえる。
本件事故当日,本件ホストクラブでは,Hだけでなく,店長であるLやキャッ
シャーであるMも仕事をしていたのであり,店内において異常が発生した場合に
は,これらの者が対応することとなっていたにもかかわらず,Hらによる飲酒の
強要に起因する本件事故が起きたことからすると,被告会社が,本件事故当日に
被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとか,相当の注意を
しても損害が生ずべきであったとは到底認められず,被告会社の同旨主張は採用
できない。
よって,被告会社は,本件事故の発生につき,使用者責任を負う。
4被告Bの責任の有無
⑴会社法429条1項に基づく責任
被告Bは,被告会社の取締役として,従業員である亡Aの生命身体の安全に
配慮すべき職務上の義務を負っていたところ,本件ホストクラブにおいて,従
業員であるホストの飲酒も予定されていたことに照らすと,上記安全配慮義務
違反の一環として,従業員の過度の飲酒を防止し,従業員の体調に異変が生じ
た場合に救急車を呼ぶ等の指導を行うべき義務を負っていたというべきであ
る。しかし,それを超えて,取締役の地位にある者が,常時従業員の動向を監
視する義務があるとはいえず,本件ホストクラブに監視カメラ及びモニターが
あったことによっても,一般的にかかる義務を負うとはいえない。また,Bは,
本件事故時に本件ホストクラブにいなかったのであるから,具体的状況下にお
いても監視義務を負っていたとはいえない。
そして,本件ホストクラブにおいては,定期的にミーティングが開催され,
過度な飲酒をしないよう指導を行い,接客ができないほど過度な飲酒をしてい
るときは,店に出ないで帰宅するよう注意していたこと(認定事実⑴イ),本件
事故発生以前に,ホスト同士の飲酒の強要があったことはうかがわれないこと,
本件ホストクラブにおいては,店長,主任及びキャッシャーは,店内において
異常が発生した場合には対応することとなっていたこと(認定事実⑴イ),本
件事故当時,口から泡を吹いて倒れている亡Aを発見した他のホストが救命活
動を行い,発見から30分余りで救急要請がされたこと(認定事実⑷イ)から
すれば,被告Bについて,上記安全配慮義務に基づく過度の飲酒に対する十分
な監視体制及び救護体制の構築,本件ホストクラブの従業員に対する指導等に
ついて懈怠があったとは認められず,上記指導を行うべき主任のHが,他のホ
ストともに亡Aへの暴力を伴う飲酒強要に及んだ本件事故は,取締役の業務執
行に係る安全配慮義務の範ちゅうを超える突発的な出来事といわざるを得な
い。
以上によれば,被告Bに職務上負っていた安全配慮義務の懈怠があったとは
いえず,会社法429条1項に基づく責任を負うとはいえない。
⑵不法行為責任
また,前記1及び2の事実関係及び上記4⑴で判断したところによれば,被
告Bは,本件ホストクラブの従業員に対する関係で,生命身体に対する安全配
慮義務を負うというべきであるが,亡Aが通常の業務において想定される程度
を超えて,他のホストから過度の飲酒を強要され,本件事故に至ったことを予
見し得たとは認められない。
したがって,被告Bには,結果を予見及び回避する義務の違反があったとは
いえず,不法行為責任を負うとはいえない。
5被告D及び被告Cの責任の有無
被告Dについては,本件事故当時,被告会社の取締役の立場にあったのである
から,本件ホストクラブの従業員に対する関係で,被告Bと同様の安全配慮義務
を負っていたというべきであるが,上記4のとおり,本件事故の発生について予
見可能性があったとはいえず,過度の飲酒に対する十分な監視体制及び救護体制
の構築,本件ホストクラブの従業員に対する指導等についての安全配慮義務違反
も認められないから,不法行為責任を負うとはいえない(なお,被告Dは,公示
送達により呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日等に出頭しない。)。
本件事故当時既に被告会社の取締役を退任していた被告Cについても,本件事
故当時の取締役である被告B及び被告Dに,過度の飲酒に対する十分な監視体制
及び救護体制の構築,本件ホストクラブの従業員に対する指導等についての安全
配慮義務が認められないのであるから,取締役在任中における被告Cの職務執行
を問題とする余地はなく,被告Cに,本件事故につながるような取締役としての
義務懈怠があったとはいえない。また,本件事故の約10か月前に被告会社の取
締役を退任している被告Cに,本件事故の発生について予見可能性があったとは
いえないし,結果回避義務を負うべき根拠もない。したがって,被告Cには,会
社法429条1項に基づく責任及び不法行為責任を負うとはいえない。
6亡Aの損害
⑴死亡慰謝料
亡Aの死亡当時の年齢その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Aの
死亡による精神的苦痛を慰謝するための金額としては,2300万円が相当で
ある。
⑵逸失利益
亡Aは,死亡当時満21歳の男性であり,満67歳に至るまでの46年間に
わたって稼働可能であったところ,この間,平成24年度賃金センサスの産業
計・企業規模計・男性・学歴計全年齢平均賃金に基づく年間529万6800
円の収入を得ることができたと認められる。また,Aの死亡当時の年齢,家族
構成,死亡直前の稼働状況,その他本件に現れた一切の事情を考慮すれば,生
活費控除率は50パーセントとするのが相当である。
ライプニッツ方式により中間利息を控除すると(46年のライプニッツ係数
は17.880),亡Aの死亡による逸失利益は,以下の計算式のとおり,47
35万3392円と認められる。
(計算式)
529万6800円×(1−0.5)×17.880
=4735万3392円
⑶葬儀費用
本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Aの葬儀費用は150万円と認め
るのが相当である。
⑷治療費
証拠(甲9)によれば,本件事故後に搬送されたK病院において処置を受け,
治療費として4万3210円の損害を被ったことが認められる。
損害のまとめ
亡Aが被った上記⑴ないし⑷の損害の合計額は7189万6602円であ
るところ,原告らは,相続により,その2分の1に当たる3594万8301
円の損害賠償請求権をそれぞれ取得した。
7原告らの損害
原告らは,亡Aの両親であるところ,年齢,家族状況等,本件に現れた一切の
事情を考慮して,亡Aの死亡による民法711条に基づく遺族ら固有の慰謝料と
しては,各人につき100万円をもって相当と認める。
8結論
よって,原告らの請求は,被告会社に対し,原告ら各自に対し3694万83
01円及びこれに対する不法行為の日である平成24年8月1日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ
るからこれを認容し,被告会社に対するその余の請求,被告Cに対する請求並び
に被告B及び被告Dに対する主位的請求及び予備的請求には理由がないから,こ
れをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第12民事部
裁判長裁判官 酒井良介
裁判官 安川秀方
裁判官 前田早織

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

もくじ

名前で検索


 あ行

 か行

 さ行

 た行

 な行

 は行

 ま行

 や行

 ら行?

 わ行

 

管理人/副管理人のみ編集できます