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国歌斉唱時不起立、元教諭ら敗訴
 卒業式の国歌斉唱時に起立しなかったことを理由に定年退職後の再任用を拒否したのは違法だとして、大阪府内の公立学校の元教諭3人が府などに対し、処分の取り消しや損害賠償を求めた訴訟の判決が10日、大阪地裁であり、内藤裕之裁判長は原告側の訴えを全面的に退けた。
 判決理由で内藤裁判長は、再任用するかどうかは行政に広い裁量権があると指摘。拒否したとしても行政処分には当たらず、取り消しを求める訴えは不適法だとして却下した。賠償請求も棄却した。
 判決によると、3人は平成24〜25年、勤務する学校の卒業式で国歌斉唱時に起立しなかったため、再任用の合格や更新を取り消された。
(2017.5.10 20:22 産経WEST)

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主文
1原告Aの訴えのうち,再任用合格決定の取消処分の取消しを求める訴え,再
任用拒否処分の取消しを求める訴え,再任用任期更新拒否処分の取消しを求め
る訴え,高槻市公立学校教員への再任用の義務付けを求める訴え,再任用の任
期の更新処分の義務付けを求める訴えをいずれも却下する。
2原告Bの訴えのうち,再任用更新合格決定の取消処分の取消しを求める訴え,
再任用任期更新拒否処分の取消しを求める訴え,再任用の任期の更新処分の義
務付けを求める訴えをいずれも却下する。
3原告Cの訴えのうち,再任用合格決定の取消処分の取消しを求める訴え,再
任用拒否処分の取消しを求める訴え,再任用任期更新拒否処分の取消しを求め
る訴え,大阪府立高等学校教員への再任用の義務付けを求める訴え,再任用の
任期の更新処分の義務付けを求める訴えをいずれも却下する。
4原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告A関係
(1)大阪府教育委員会が
ア平成24年3月29日付けで原告Aに対してした再任用合格決定の取消
し処分を取り消す。
イ平成24年4月1日付けで原告Aに対してした再任用拒否処分を取り消
す。
ウ平成25年4月1日付けで原告Aに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
エ平成26年4月1日付けで原告Aに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
オ平成27年4月1日付けで原告Aに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
カ平成28年4月1日付けで原告Aに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
(2)大阪府教育委員会は,
ア平成24年4月1日付けで原告Aを高槻市公立学校教員に任期を平成2
5年3月31日までとして再任用せよ。
イ平成25年4月1日付けで原告Aの再任用の任期を平成26年3月31
日と更新する処分をせよ。
ウ平成26年4月1日付けで原告Aの再任用の任期を平成27年3月31
日と更新する処分をせよ。
エ平成27年4月1日付けで原告Aの再任用の任期を平成28年3月31
日と更新する処分をせよ。
オ平成28年4月1日付けで原告Aの再任用の任期を平成29年3月31
日と更新する処分をせよ。
(3)原告Aが,被告らに対し,高槻市公立学校教員たる地位にあることを確認
する。
(4)被告らは,原告Aに対し,連帯して1147万9200円及びこれに対す
る平成26年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2原告B関係
(1)大阪府教育委員会が,平成24年3月9日付けで原告Bに対してした戒告
処分を取り消す。
(2)大阪府教育委員会が,
ア平成24年3月19日付けで原告Bに対してした再任用更新合格決定の
取消し処分を取り消す。
イ平成24年4月1日付けで原告Bに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
ウ平成25年4月1日付けで原告Bに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
エ平成26年4月1日付けで原告Bに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
オ平成27年4月1日付けで原告Bに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
(3)大阪府教育委員会は,
ア平成24年4月1日付けで原告Bの再任用の任期を平成25年3月31
日と更新する処分をせよ。
イ平成25年4月1日付けで原告Bの再任用の任期を平成26年3月31
日と更新する処分をせよ。
ウ平成26年4月1日付けで原告Bの再任用の任期を平成27年3月31
日と更新する処分をせよ。
エ平成27年4月1日付けで原告Bの再任用の任期を平成28年3月31
日と更新する処分をせよ。
(4)原告Bが,被告大阪府に対し,大阪府立高等学校教員たる地位にあること
を確認する。
(5)被告大阪府は,原告Bに対し,740万3288円及びこれに対する平成
26年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告C関係
(1)大阪府教育委員会が,平成25年3月12日付けで原告Cに対してした戒
告処分を取り消す。
(2)大阪府教育委員会が,
ア平成25年3月28日付けで原告Cに対してした再任用合格決定の取消
し処分を取り消す。
イ平成25年4月1日付けで原告Cに対してした再任用拒否処分を取り消
す。
ウ平成26年4月1日付けで原告Cに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
エ平成27年4月1日付けで原告Cに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
オ平成28年4月1日付けで原告Cに対してした再任用任期更新拒否処分
を取り消す。
(3)大阪府教育委員会は,
ア平成25年4月1日付けで原告Cを大阪府立高等学校教員に任期を平成
26年3月31日までとして再任用せよ。
イ平成26年4月1日付けで原告Cの再任用の任期を平成27年3月31
日と更新する処分をせよ。
ウ平成27年4月1日付けで原告Cの再任用の任期を平成28年3月31
日と更新する処分をせよ。
エ平成28年4月1日付けで原告Cの再任用の任期を平成29年3月31
日と更新する処分をせよ。
(4)原告Cが,被告大阪府に対し,大阪府立高等学校教員たる地位にあること
を確認する。
(5)被告大阪府は,原告Cに対し,479万9564円及びこれに対する平成
26年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1本件事案の概要
本件は,平成24年3月31日に高槻市公立学校教員の職を定年退職した原
告A,平成23年3月31日に大阪府公立高等学校教員の職を定年退職し,同
年4月1日から任期を1年として再任用されていた原告B及び平成25年3
月31日に大阪府公立高等学校教員の職を定年退職した原告Cが,再任用ある
いは再任用の任期更新の申込みをし,合格の通知・内示を受けていたが,合格
が取り消されたことから,(a)‖莪貅\禅瓩箸靴董ず毒ね儿膤雰萃蠅亮莨箪菠
の取消し,再任用拒否処分の取消し,再任用の任期更新合格決定の取消処分の
取消し,再任用任期更新拒否処分の取消しを求め,第二次請求として,再任
用あるいは再任用任期更新について法令に基づく申請権を有しているとした
上で,申請型の義務付け訴訟(行政事件訴訟法[以下「行訴法」という。]3条
6項2号,37条の3)として,再任用あるいは再任用任期更新の義務付けを
求め,B荵絢\禅瓩箸靴董げ召法ず毒ね僂△襪い郎毒ね冉ご更新について法
令に基づく申請権を有していないとしても,非申請型の義務付け訴訟(行訴法
3条6項1号,37条の2)として,再任用あるいは再任用任期更新の義務付
けを求め,ぢ荵夕\禅瓩箸靴董ぜ村租当事者訴訟として,教員の地位にある
ことの確認を求めるとともに,(b)原告B及び原告Cに対する戒告処分につい
て,原告らの行為は職務命令違反に該当しない,職務命令が憲法等に反し違憲・
違法である,有効な職務命令ではないなどとして,その取消しを求め(なお,
原告Aに対する戒告処分は大阪府人事委員会[以下「人事委員会」という。]が
取り消している。),さらに,(c)戒告処分,再任用合格決定の取消しあるいは再
任用任期更新合格決定の取消し等により損害(逸失利益,慰謝料等)を被った
として,国家賠償法に基づき損害賠償を求める事案である。
2前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがないか,弁論の全趣
旨により容易に認めることができる。)
(1)当事者
ア原告A(昭和26年5月20日生)は,昭和50年4月1日,大阪府教
育委員会(以下「府教委」という。)に高槻市公立学校教員として任用され,
以後,小学校教員を歴任し,平成12年4月1日から平成24年3月31
日までD小学校教員を務め,同日,定年退職した。
また,原告Aは,Eの組合員である。
イ原告B(昭和25年10月22日生)は,昭和60年4月1日,府教委
に大阪府公立学校教員として任用され,以後,高等学校教員を歴任し,平
成23年3月31日,定年退職した。その後,原告Bは,F高校の教員と
して再任用され,平成24年3月31日,平成23年度再任用の任期が満
了した。
ウ原告C(昭和27年12月3日生)は,昭和53年4月1日,府教委に
大阪府公立学校教員として任用され,以後,高等学校教員を歴任し,平成
20年4月1日から平成25年3月31日までG高校の教員を務め,同日,
定年退職した。
エ被告大阪府は,地方自治法180条の5第1項1号,地方教育行政の組
織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)2条に基づき,被告
大阪府の処理する教育に関する事務を管理執行する行政庁として,府教委
を設置している。また,市町村立学校職員給与負担法に基づき,被告高槻
市学校職員の報酬及び職務を行うために要する費用の弁償を負担している。
オ被告高槻市は,地方自治法180条の5第1項1号,地教行法2条に基
づき,被告高槻市の処理する教育に関する事務を管理執行する行政庁とし
て,高槻市教育委員会(以下「市教委」という。)を設置している。
(2)再任用制度
ア被告大阪府は,定年退職等をした教職員を,1年間を超えない範囲内で
任期を定め再任用することができるとした地方公務員法(以下「地公法」
という。)28条の4・5を受けて,府の職員,府費負担教職員等に関して
職員の再任用に関する条例(以下「本件条例」という。)を制定しており,
府教委は再任用教職員の採用選考等に関する要綱(以下「本件要綱」とい
う。)を制定している(乙1,2)。
イ本件条例には概要以下の定めがある(乙1)。
【第1条】(趣旨)
この条例は,地方公務員法第28条の4第1項,第28条の4第2項
及び第3項並びに地方公務員法等の一部を改正する法律附則第5条及び
第6条の規定に基づき,府の職員,市町村立学校職員給与負担法第1条
及び第2条に規定する職員並びに府が設立した地方独立行政法人法第2
条第2項に規定する特定地方独立行政法人の職員の再任用に関し必要な
事項を定めるものとする。
【第3条】(任期の更新)
任命権者(特定地方独立行政法人の理事長を含む。)は,再任用された
職員について,その任期(この条の規定により更新された任期を含む。)
における勤務実績が良好であると認める場合は,あらかじめ当該職員の
同意を得て,当該任期を1年を超えない範囲内で更新することができる。
ウ本件要綱には概要以下の定めがある(乙2)。
【第1条】(趣旨)
この要綱は,府立の高等学校,視覚支援学校,聴覚支援学校及び支援
学校に勤務する教職員並びに府費負担教職員であって大阪府教育委員会
(以下「府教委」という。)が任命権を有する者につき,地方公務員法第
28条の4第1項,第28条の5第1項の規定により採用する教職員の
採用に係る選考の実施並びに職員の再任用に関する条例第3条の規定に
よる任期の更新の手続に関し,必要な事項を定めるものとする。
【第5条】(選考の実施)
府教委は,職種毎(職種内に区分がある場合は区分毎)に次の基準に
基づいて,申込者の従前の勤務実績,勤務意欲及び心身の状況等並びに
必要に応じて実施する面接考査の結果を総合的に判断し,合否を判定す
る。
(1)勤務実績在職中の勤務実績が良好であること
(2)勤務意欲職務を遂行するについて意欲を有すること
(3)心身の状況職務を遂行しうる心身の状況にあること
(4)資格・免許,専門的知識等
法令により必要とされる資格又は免許及び専門的知識等
を必要とする職務にあっては,当該資格又は免許及び専門
的知識等を有していること
【第6条】(選考結果の通知)
府教委は,選考の合否について,校長等を通じ,申込者に通知する。
【第7条】(合格の取消し)
1項選考に合格した者(以下「合格者」という。)について,非違行
為その他再任用することが適当でないと認められる事由が生じた
時は,府教委は,合格を取消すことができる。
2項(略)
【第10条】(選考の申込の撤回)
申込者が選考の申込みを撤回する場合には,再任用教職員採用選考辞
退届を校長等を通じ,府教委へ提出するものとする。
【第11条】(合格後における再任用の辞退)
合格者が再任用を辞退する場合は,再任用辞退届を校長等を通じて,
府教委へ提出するものとする。
【第12条】(任期の更新)
1項任期の更新の対象となる者は,府教委の指定する日までに,更
新意向申出書を校長等を通じて府教委に提出しなければならない。
2項(略)
3項校長等からの内申に基づき,府教委は第5条に掲げる基準を勘
案して任期を更新するかどうかの判定を行う。
4項任期の更新を希望する者のうち,任期を更新しない者について
は,府教委は任期を更新しない旨を通知する。
(3)国旗・国歌に関する法律,条例,通知,職務命令
ア国旗及び国歌に関する法律(以下「国旗国歌法」という。)
【第2条】(国歌)
1項国歌は,君が代とする。
2項君が代の歌詞及び楽曲は,別記第二(省略)のとおりとする。
イ被告大阪府は,大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌
の斉唱に関する条例(以下「府国旗国歌条例」という。)を制定し,平成2
3年6月13日,公布・施行した。
府国旗国歌条例には,概要以下の定めがある(乙3)。
【第1条】(目的)
この条例は,国旗及び国歌に関する法律,教育基本法及び学習指導
要領の趣旨を踏まえ,府の施設における国旗の掲揚及び教職員による
国歌の斉唱について定めることにより,府民,とりわけ次代を担う子
どもが伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷土を愛す
る意識の高揚に資するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発
展に寄与する態度を養うこと並びに府立学校及び府内の市町村立学校
における服務規律の厳格化を図ることを目的とする。
【第4条】(国歌の斉唱)
1項府立学校及び府内の市町村立学校の行事において行われる国歌
の斉唱にあっては,教職員は起立により斉唱を行うものとする。
ただし,身体上の障がい,負傷又は疾病により起立,若しくは斉
唱するのに支障があると校長が認める者については,この限りで
ない。
2項前項の規定は,市町村の教育委員会による服務の監督の権限を
侵すものではない。
ウ通達
(ア)市教委の通達
市教委の教育長は,平成24年1月23日付けで,市内小中学校長に
対し,平成23年度卒業式の実施に関し,「卒業式及び入学式における国
旗掲揚・国歌斉唱について(通知)」(以下「本件高槻市通知」という。)
を発し,国歌斉唱を行う際は,式場内の全ての教職員は,起立して斉唱
するよう指導することを求めた(甲A19)。
(イ)府教委の通達
府教委の教育長は,平成24年1月17日付で,府立学校の全教職員
に対し,「入学式及び卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱について」
と題する通達(以下「本件大阪府通達」といい,本件高槻市通知と併せ
て「本件各通達」という。)を発し,入学式及び卒業式等国旗を掲揚し,
国歌斉唱が行われる学校行事において国歌斉唱を行う際は,式場内の全
ての職員は起立して斉唱することを命じるとともに,同日,府立学校の
校長及び准校長に対し,上記通達と同名の通達を発し,入学式及び卒業
式等において,国歌斉唱を行う際は起立により斉唱するよう教職員に対
し通達を行ったが,校長又は准校長からこの趣旨を徹底するよう職務命
令を行うことを命じた(乙8,9)。
エ原告Aに対する職務命令
D小学校のH校長は,平成24年3月16日,原告Aに対し,書面で,
平成23年度卒業式における国歌斉唱に当たっては,起立して斉唱する旨
の職務命令(以下「本件A職務命令」という。)を行った。
オ原告Bに対する職務命令
(ア)F高校のI校長は,平成24年2月14日,原告Bと面談した(なお,
同日の面談の内容については,当事者間に争いがある。)。
I校長は,同日,職員会議において,原告Bを含む教員に対し,本件
大阪府通達,卒業式当日の役割分担表及び会場図を配付し,「平成24年
2月29日に実施する平成23年度卒業式に関しては,通達により教育
長から職務命令が出されました。式場内の教職員は,国歌斉唱の際に起
立して斉唱してください。これは私からの職務命令です。」と発言し,職
務命令(以下「本件B職務命令」という。)を発した。
(イ)I校長は,平成24年2月28日,原告Bと面談を行い,「あなたは,
式当日は勤務を要しない日なので,参加を控えていただきたい。もし参
列する場合は,保護者席でお願いします。もし,教職員席にいて,国歌
斉唱時に座れば懲戒や指導の対象になります。」と発言した。
カ原告Cに対する職務命令
G高校のJ校長は,平成25年2月7日の職員会議において,原告Cを
含む教員に対し,本件大阪府通達,「役割分担表」及び「会場図」を配付し,
「すでに平成24年1月17日付け通達により教育長から府立学校の教職
員に対して職務命令が出ています。これを踏まえて,私の方から式当日の
職務の分担を示します。「役割分担表」,「会場図」にしたがって,自らの職
務に専念してください。式場内の教職員は,国歌斉唱の際に起立して斉唱
してください。これはわたくしからの職務命令です。双方の職務命令に従
わない場合は,服務上の責任が問われることになります。」と発言し,職務
命令(以下「本件C職務命令」といい,本件A職務命令,本件B職務命令
と併せて「本件各職務命令」という。)を発した。
(4)戒告処分に関する経緯
ア原告Aについて
(ア)原告Aは,平成24年3月19日に実施されたD小学校の平成23
年度卒業式において,国歌斉唱時に起立して斉唱しなかった。
(イ)市教委は,平成24年3月19日,H校長立会いの下で,原告Aに
対する事情聴取を行った(乙A1)。
(ウ)市教委は,平成24年3月21日,H校長立会いの下で,原告Aに
対する事情聴取を行った。市教委は,同日の事情聴取において,原告A
に対し,同月23日午前9時30分に府教委が事情聴取を行うので出席
するよう連絡したが,原告Aは,府教委の事情聴取の日時が,授業時間
であり,終業式でもあるので,参加できないし,参加しないとして出席
しなかった。
(乙A2,A3)
(エ)H校長は,平成24年3月21日付けで,市教委に対し,原告Aが
卒業式における国歌斉唱時に不起立であったこと,指導の経過等を記載
した報告書を提出した(乙A4)。
(オ)市教委は,平成24年3月26日付けで,府教委に対し,地教行法
38条に基づき,原告Aの懲戒処分に関する内申を行った(甲A14)。
なお,市教委は,同内申に際し,承認決議を経るのではなく,教育長
の専決により行った(甲A4)。
(カ)府教委は,平成24年3月27日付けで,原告Aに対し,本件A職
務命令に違反して国歌斉唱時に起立して斉唱しなかった行為について,
地公法32条に反し,同法29条1項1号及び3号に該当する懲戒事由
が認められるとして,戒告処分(以下「本件A戒告処分」という。)を行
った(甲A1,2)。
(キ)原告Aは,平成24年3月30日,人事委員会に対し,本件A戒告
処分の取消しを求める不服申立てを行った。
(ク)人事委員会は,平成24年3月24日,上記(キ)の申立てについて,
市教委が,府費負担教職員の懲戒に関する内申について,教育長の専決
事項に該当しないから,市教委の議決若しくは教育長の臨時代理による
手続を経て行われるべきであるとして,教育長の専決による内申を行っ
たことが手続において違法な内申であったとして,本件A戒告処分を取
り消した。また,人事委員会は,再任用合格決定の取消しの撤回を求め
る申立てについては棄却する旨の裁決を行った。
(甲A4)
イ原告Bについて
(ア)原告Bは,F高校の平成23年度卒業式の日である平成24年2月
29日,午前7時30分頃に来校し,同校の校門外側において,卒業式
に参加する生徒や保護者に対し,「国旗・国歌の強制に反対する教職員の
会」の名前でビラを配布した。また,原告Bは,ビラ配布後,体育館内
に入り,空いていた教職員席の一つに着席した。そして,原告Bは,卒
業式開式の際に司会者の発言により起立したが,司会者が「国歌斉唱を
行います」と発言した際に着席した。
(イ)府教委は,平成24年3月6日,I校長立会いの下で,原告Bに対
する事情聴取を行った(乙B2)。
(ウ)府教委は,平成24年3月9日付けで,原告Bに対し,本件B職務
命令に違反して国歌斉唱時に起立して斉唱しなかった行為について,地
公法32条に反し,同法29条1項1号及び3号に該当する懲戒事由が
認められるとして,戒告処分(以下「本件B戒告処分」という。)を行っ
た(甲B1,2)。
(エ)原告Bは,平成24年3月29日,人事委員会に対し,本件B戒告
処分の取消しを求める不服申立てを行った。
(オ)人事委員会は,平成26年10月8日,上記(エ)の不服申立てにつ
いて,本件B戒告処分を承認する旨の裁決をした(乙B1)。
ウ原告Cについて
(ア)原告Cは,平成25年3月1日に実施されたG高校の平成24年度
卒業式において,国歌斉唱時に起立して斉唱しなかった。
(イ)府教委は,平成25年3月5日,J校長立会いの下で,原告Cに対
する事情聴取を行った(乙C1)。
(ウ)府教委は,平成25年3月12日付けで,原告Cに対し,本件C職
務命令に違反して国歌斉唱時に起立して斉唱しなかった行為について,
地公法32条に反し,同法29条1項1号及び3号に該当する懲戒事由
が認められるとして,戒告処分(以下「本件C戒告処分」といい,本件
A戒告処分及び本件B戒告処分と併せて「本件各処分」という。)を行っ
た(甲C1,2)。
(エ)原告Cは,平成25年3月29日,人事委員会に対し,本件C戒告
処分の取消しを求める不服申立てを行った。
(5)再任用あるいは再任用更新の取消しに関する経緯
ア原告Aについて
(ア)原告Aは,平成23年12月,再任用の採用選考の申込みをし,平成
24年2月16日,校長を通じて合格の通知を受けた。
(イ)府教委は,平成24年3月29日付けで,原告Aに対し,勤務実績が
良好でないとして,本件要綱5条,7条により,再任用合格決定を取り
消す旨の通知(以下「本件A通知」という。)をした(甲A3)。
(ウ)原告Aは,平成24年3月30日,人事委員会に対し,再任用合格
決定取消しの撤回を求めて不服申立てをした。
イ原告Bについて
(ア)原告Bは,平成23年12月,再任用の任期更新の申込みをし,平
成24年2月15日,校長を通じて合格の内示を受けた。
(イ)府教委は,平成24年3月19日付けで,原告Bに対し,勤務実績
が良好でないとして,本件要綱5条並びに12条3項及び4項の規定に
より,再任用の任期を更新しない旨の通知(以下「本件B通知」という。)
をした(甲B3)。
(ウ)原告Bは,平成24年3月29日,人事委員会に対し,再任用の任期
を更新しない旨の通知の撤回を求めて不服申立てをした。
(エ)人事委員会は,平成26年10月8日,上記(ウ)の申立てについて,
再任用の任期を更新しない旨の通知の撤回を求める申立てを却下する旨
の裁決をした(乙B1)。
ウ原告Cについて
(ア)原告Cは,平成24年12月頃,再任用の採用選考の申込みをし,平
成25年2月19日,校長を通じて合格の通知を受けた。
(イ)府教委は,平成25年3月28日付けで,原告Cに対し,勤務実績が
良好でないとして,本件要綱5条並びに7条の規定により,再任用合格
決定を取り消す旨の通知(以下「本件C通知」という。)をした(甲C3)。
(ウ)原告Cは,平成25年3月29日,人事委員会に対し,再任用合格決
定取消しの撤回を求めて不服申立てをした。
第3本件の主たる争点
1再任用合格決定の取消し,再任用合格決定を取り消す旨の通知,再任用の任
期更新合格決定の取消し,再任用の任期を更新しない旨の通知の行政処分性如
何(争点1)
2再任用拒否処分,再任用任期更新拒否処分の有無及び行政処分性如何(争点
2)
3原告らの訴えのうち,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任期更新の
義務付けを求める部分が,それぞれ申請型の義務付け訴訟に当たるか(争点3)
4原告らの訴えのうち,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任期更新の
義務付けを求める部分が,いずれも申請型の義務付け訴訟に当たらないとした
場合,非申請型の義務付け訴訟の要件を満たすか(争点4)
5実質的当事者訴訟として,教員の地位にあることの確認を求めることができ
るか(争点5)
6府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が原告らの思想及び良心の自
由(憲法19条),信教の自由(憲法20条)を侵害するか(争点6)
7府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が,児童・生徒の思想及び良
心の自由(憲法19条),学習権(憲法23条・26条)を侵害するか,また,
教師の教育の自由(憲法23条・26条)を侵害するか(争点7)
8府国旗国歌条例が憲法94条に反するか(争点8)
9本件A職務命令が憲法28条,地公法56条に反するか(争点9)
10本件各職務命令が,自由権規約18条1項,2項及び19条1項等に反す
るか(争点10)
11本件各通達が有効な職務命令に当たるか(争点11)
12本件B職務命令が有効な職務命令に当たるか(争点12)
13本件各処分に裁量権の逸脱・濫用があるか(争点13)
14再任用合格決定の取消し,再任用の任期更新合格決定の取消しに裁量権の
逸脱・濫用があるか(争点14)
15原告ら主張に係る国家賠償請求の成否及び損害の有無(争点15)
第4争点に関する当事者の主張
1争点1(再任用合格決定の取消し,再任用合格決定を取り消す旨の通知,再
任用の任期更新合格決定の取消し,再任用の任期を更新しない旨の通知の行政
処分性如何)について
(原告らの主張)
(1)本件要綱は,再任用についても,再任用任期更新についても,合否の判定
とその通知,合格取消しとその通知とをそれぞれ区別して観念しているとい
えるから,それぞれについて行政処分性を検討すべきである。
(2)地方公務員についての定年退職者の再任用制度の趣旨や,再任用制度の実
際の運用,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年法」という。)
の趣旨に照らすと,再任用を希望する者については,従前の定年年齢から6
5歳に至るまでの5年間は地方公務員としての身分が継続し,例外的に任命
権者が再任用しない旨の通知を行った場合に公務員としての身分が消滅する
と解すべきである。
(3)ア(ア)再任用合格決定の取消決定の通知は,処分行政庁の判断により,次
年度以降65歳に至るまでの期間における公務員としての地位を一方
的かつ直接的に侵害するものである。よって,再任用合格決定の取消決
定は,公務員としての地位を直接に侵害するというべきであるから行政
処分性が認められる。
(イ)地方公務員は,定年退職により一旦その法的地位を失うとしても,
再任用合格決定によりその法的地位を回復する。すなわち,再任用合格
決定は行政処分性を有する。とすれば,再任用合格決定の取消決定は,
再任用合格決定により回復した地方公務員としての法的地位を再度失わ
せるものであるから,行政処分性が認められる。
イ行訴法3条2項においては,「行政庁の処分」のほか「その他公権力の行
使に当たる行為」も抗告訴訟の対象となることが認められている。
再任用採用選考申込者は,この再任用合格決定の取消決定の通知により,
再任用採用される道を閉ざされるに至り,実質的には,退職後の教職員と
しての地位を失うこととなる。再任用合格決定の取消決定の通知は,観念
の通知であるかもしれないが,本件要綱に準拠してなされたものであり,
かつ,実質に照らせば,これにより再任用採用されることができなくなる
という法律上の効果を及ぼすものというべきである。よって,再任用合格
決定の取消決定の通知には処分性が認められる。
(4)ア再任用の任期更新合格決定の取消決定についても,上記(3)アと同様に二
つの構成により,対象者の権利義務や法的地位に変動を与えると考えるこ
とができるから,行政処分性が認められる。
イ上記(3)イと同様に,再任用の任期更新合格決定を取り消す旨の決定通知
には行政処分性が認められるというべきである。
(被告大阪府の主張)
(1)再任用合格決定の取消しは,行政庁内部の意思決定若しくは判断であり,
行政庁が内部的な合格の取消しの意思決定若しくは判断を相手方に通知する
ことによって,行政庁の行為が成立する。したがって,行政庁内部の意思決
定若しくは判断である,再任用合格決定の取消しに対する取消訴訟はあり得
ず,それらの意思決定若しくは判断が通知により外部に表示され,行政庁の
行為が成立してはじめて,当該行為が取消訴訟の対象となる行政処分又は公
権力の行使に当たるかどうかが判断される。
(2)再任用合格決定の通知は,再任用採用選考の申込みに対する合否判定の通
知であり,当該通知は,それにより再任用職員に任命される等の実体的な法
律効果を生じさせる行政処分ではない。
再任用合格決定を取り消す旨の通知は,申込みに基づき実施された再任用
の選考の結果が通知された後に,再任用することが適当でないと認められる
事由が生じたことを理由に合格を取り消すことを通知したものである。選考
結果の通知は,任命権者の選考に関する判定を通知するものであり,それ自
体が直接申込者の権利義務や法的地位に変動を与えるものではないので,行
政処分に当たらないことから,その選考結果を取り消す旨の合格決定取消し
の通知についてもまた行政処分には当たらない。
(3)再任用の任期更新合格決定の取消しについても上記(1)と同じである。
(4)再任用の任期を更新しない旨の通知については,府教委は,本件条例3条
及び本件要綱12条3項に基づき,再任用の任期満了に伴い,本件要綱5条
に掲げる基準を考慮して任期を更新するかどうかの判定をした結果,任期を
更新しないと判定されたため,本件要綱12条4項に基づき,任期を更新し
ない旨を通知したものである。そして,地公法28条の5第2項において準
用する同法28条の4第2項,本件条例3条及び本件要綱12条3項の各規
定によれば,再任用の任期が当然に更新されるものではない以上,上記の通
知は,再任用の任期の更新をしない旨を予告したものにすぎず,それ自体が
直接権利義務や法的地位に変動を与えるものではないので,行政処分に当た
らない。
(5)地公法28条の4第1項は,任命権者は,当該地方公共団体の定年退職者
等を,1年を超えない範囲内で任期を定め,常時勤務を要する職に採用する
ことができると規定しており,また,上記再任用の制度と地公法28条の2
及び被告大阪府の「職員の定年等に関する条例」に基づく定年制度が並存し
ていることからみても,原告らが主張するような解釈を入れる余地はない。
2争点2(再任用拒否処分,再任用任期更新拒否処分の有無及び行政処分性如
何)について
(原告らの主張)
(1)被告大阪府では,一旦再任用された教員について,次年度以降再任用の継
続を望まない場合,「辞退届」を提出するという運用がなされていた。その
ことから,採用選考の申込みは,平成25年度以降の再任用任期更新の申込
みも兼ねていた。
(2)ア原告Aは,平成23年12月,再任用制度に係る採用選考の申込みをし
た。
イ原告Bは,平成22年12月頃,再任用制度に係る採用選考の申込みを
した。
ウ原告Cは,平成24年12月頃,再任用制度に係る採用選考の申込みを
した。
(3)ア被告大阪府は,平成24年4月1日,原告Aの再任用を拒否する処分を
した。また,被告大阪府は,原告Aについて,平成25年4月1日,平成
26年4月1日,平成27年4月1日にそれぞれ,再任用任期更新拒否処
分をした。
イ被告大阪府は,原告Bについて,平成24年4月1日,平成25年4月
1日,平成26年4月1日,平成27年4月1日にそれぞれ,再任用任期
更新拒否処分をした。
ウ被告大阪府は,平成25年4月1日,原告Cの再任用を拒否する処分を
した。また,被告大阪府は,原告Cについて,平成26年4月1日,平成
27年4月1日にそれぞれ,再任用任期更新拒否処分をした。
(被告の主張)
(1)原告らに対し,原告らが主張する再任用任期拒否処分又は再任用任期更新
拒否処分がなされた事実は存在しない。
被告大阪府が,再任用職員が次年度以降再任用の継続を望まない場合に
「辞退届」を提出するというような運用をしている事実はない。地公法28
条の4第1項及び2項並びに同法28条の5第1項及び2項が規定するよ
うに,再任用及び任期の更新は1年を超えない範囲内で任期を定めて行われ
ることから,次年度以降の再任用の任期更新についても,それぞれの任期ご
との所要の手続を経て行われる。府教委に対する再任用の同意(申込み)が,
次年度以降の再任用の任期更新の同意(申込み)を兼ねるということはあり
得ない。
(2)職員の任用は,受験成績,勤務成績その他の能力の実証に基づいて行わ
なければならないとされ,再任用に関しても,任命権者は定年退職者等を,
従前の勤務実績等に基づく選考により,1年を超えない範囲内で任期を定め,
常時勤務を要する職又は短時間勤務の職に採用することができると規定し
ているように,再任用職員に任用するかどうかは,一般の地方公務員の任用
と同様に,任命権者である府教委の広い裁量権に委ねられており,法律上再
任用職員としての任用が必然的に義務付けられているものではない。この点
は,任期の更新についても同様である。したがって,任命権者である府教委
に対し,自らを再任用あるいは再任用の任期を更新するよう求める法律上の
申請権は現行法上認められていないことから,府教委が,原告らの求めに応
じて,再任用拒否処分又は再任用任期更新拒否処分をするということはあり
得ず,これら拒否処分は法律上存在しない。
また,事実面からみても,府教委が,再任用に関する何らかの処分をした
という事実はない。原告らが定年退職後に再任用職員の身分を取得しなかっ
たのは,府教委が再任用の任命をしなかったために,定年により当然退職し
たからにすぎず,任期の更新を拒否したことについても同様である。
3争点3(原告らの訴えのうち,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任
期更新の義務付けを求める部分が,それぞれ申請型の義務付け訴訟に当たるか)
について
(原告らの主張)
(1)「法令に基づく申請」とは,法令が明文で申請権を認めている場合に限
られない。明文の規定がない場合であっても,法令の解釈上,申請権が認
められていると解される場合もこれに該当する。
(2)地公法28条の4第1項は,「任命権者は,当該地方公共団体の定年退職
者等を,従前の勤務実績に基づく選考により,1年を超えない範囲内で任
期を定め,常時勤務を要する職に採用することができる。」と規定しており,
本件条例3条は,任命権者は,再任用された職員について,当該任期を1
年を超えない範囲内で更新することができると規定していることから,再
任用及び再任用の任期の更新については,1年ごとに新しい処分が行われ
る。そして,再任用を求める者は,本件要綱3条1項に規定されている「再
任用教職員採用選考申込書」を校長等に提出しなければならず,また,再
任用の任期の更新を求める者は,本件要綱12条1項の「更新意向申出書」
を校長等を通じて処分者に提出しなければならない。処分者は,再任用を
求める者や再任用の任期の更新を求める者から提出された再任用教職員採
用選考申込書や更新意向申出書に対する応答として,再任用ないし再任用
の任期の更新の通知ないし処分を行う。
(3)再任用処分及び再任用の任期の更新の処分は,本件条例及び本件要綱を
根拠として提出される再任用教職員採用選考申込書や更新意向申出書に基
づいてなされる処分であるから,法令を根拠とした申請に基づく行政処分
である。
(被告大阪府の主張)
(1)行訴法3条6項2号は,申請型義務付け訴訟について,「行政庁に対し
一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされ
た場合」と規定しているところ,原告A及び原告Cが求める再任用の点に
ついて,任命権者に対し申請することができることを定めた法令の規定は
存在しない。また,原告Bが求める再任用の任期の更新の点についても,
任命権者に対し申請することができることを定めた法令の規定は存在し
ない。地公法28条の4第1項は,定年退職者等の再任用の申請に関して
は一切定めておらず,再任用の任期の更新についても同様である。さらに,
本件要綱3条は,選考の申込みについて定めた規定であり,再任用そのも
のの申請について定めた規定ではなく,本件要綱12条も,同様に,再任
用の任期の更新そのものの申請について規定したものではない。
(2)再任用教職員採用選考申込書や更新意向申出書は,本件要綱に基づく意
向確認のための文書であり,行訴法3条6項2号でいう「法令に基づく申請」
には該当しない。
4争点4(原告らの訴えのうち,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任
期更新の義務付けを求める部分が,いずれも申請型の義務付け訴訟に当たらな
いとした場合,非申請型の義務付け訴訟の要件を満たすか)について
(原告らの主張)
(1)損害の回復の困難の程度は要考慮事項にはなっているものの,回復の困難
な損害であることは要件ではない。再任用の拒否は,原告らの教師及び公務
員としての地位を一方的かつ直接的に奪うものであり,免職に等しい極めて
重大なものである。これにより,原告らは,教壇から追われ,教師として子
ども達と過ごす機会を日々奪われ続けている。教師である原告らにとって,
これら機会の喪失は,回復することが極めて困難であり,「重大な損害を生ず
るおそれ」は優に存在する。
(2)補充性の要件は,行政過程や個別法において特別の救済ルートが設けられ
ていない場合を念頭に置いている。本件では,原告らの再任用拒否につき,
行政過程における特別の救済ルートや個別法は存在しないのであるから,補
充性の要件を満たす。
(被告大阪府の主張)
(1)再任用をし又は再任用の任期を更新するかどうかは,任命権者である府教
委の広い裁量権に委ねられており,法律上,再任用職員の任用及び再任用の
任期更新が必然的に義務付けられているわけではない。したがって,府教委
が原告らに対し,再任用又は再任用の任期更新をすべきであることが,「そ
の処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ」るときという
要件(行訴法37条の2第5項)を満たさないし,府教委による原告らの再
任用不採用又は再任用任期不更新が,原告らの教師及び公務員としての地位
を一方的かつ直接的に奪うものであり,免職に等しい極めて重大な損害であ
ると解することは誤りである。
また,本件では,府教委が原告らに対し,再任用しないということには正
当な理由があり,その裁量権の範囲を超え,若しくはその濫用となると認め
られるときには該当しない。
(2)原告らが主張するような,給与や子供達と過ごす機会の喪失をもって回
復が困難な重大な損害と認めることは困難である。
原告らが主張する損害のほとんどは金銭によって償うことができるもの
であり,かつ,原告らが損害賠償の訴えを併せて提起していることからすれ
ば,「その損害を避けるため他に適当な方法がないこと」という要件を満た
さない。
5争点5(実質的当事者訴訟として,教員の地位にあることの確認を求めるこ
とができるか)について
(原告らの主張)
(1)上記1(2)のとおり,再任用を希望する地方公務員については,原則として,
従前の定年年齢から65歳に至るまでの5年間は地方公務員としての身分
が継続する。
(2)もっとも,再任用を希望する者についても,例外的に任命権者が再任用を
しない旨の通知を行った場合には公務員としての身分が消滅するものと解
されるが,原告らに対してなされた再任用合格決定の取消しないし再任用更
新合格決定の取消しは違法な処分として取り消されるべきであるから,原告
らの身分は消滅していない。
(被告大阪府の主張)
(1)再任用制度は,職員の生活の保障という色彩の強いものではあるが,職員
の任用が公務遂行のためであることから,職員が再任用すべきことを要求す
る権利を付与したものではなく,特定の者を再任用するか否かは,通常の職
員の採用と同様に,任命権者の裁量に委ねられている。
(2)総務副大臣通知は,既に再任用制度を設けていた被告大阪府に対しては,
従前どおりの再任用制度の中で雇用と年金の接続のために必要な措置を講ず
ることを要請したという意味を持つものであり,例えば,本件要綱7条に規
定される非違行為その他再任用することが適当でないと認められる事由が生
じた場合にまで再任用の義務化を要請したものではない。なお,総務省通知
は,「制度概要(案)」であり,総務副大臣通知は,「技術的な助言」であって,
いずれも各地方公共団体に対し法的拘束力を有するものではない。したがっ
て,これらの通知により,地方公共団体の再任用希望者の再任用が法的に義
務付けられることはあり得ない。
(3)原告らが,府教委による再任用の任命処分又は再任用の任期更新の処分を
受けた事実がないため,原告らが確認を請求する法律上の地位を取得したこ
とがないから,原告らの請求は理由がない。
6争点6(府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が原告らの思想及び
良心の自由[憲法19条],信教の自由[憲法20条]を侵害するか)について
(被告大阪府の主張)
本件各職務命令の根拠規定である府国旗国歌条例の規定は,最高裁平成23
年6月6日判決に則ったものであり,憲法19条に反しない。本件各職務命令
が違憲・違法でないことは,同判決及びその他の判例からも認められるところ
である。
(被告高槻市の主張)
最高裁平成23年5月30日判決等に照らし,本件高槻市通知及び本件A職
務命令は憲法19条に反するものではない。
(原告らの主張)
(1)日の丸・君が代については,その歴史的経過から,府立学校の教職員の中
には,学校行事に日の丸・君が代が持ち込まれるべきではない,君が代を起
立斉唱することは自らの歴史観・世界観・宗教観に反する,君が代の起立斉
唱を一律に強制するべきでないなどといった思想及び良心や宗教観を持つ者
がいることは十分に想定されるところである。府国旗国歌条例4条は,その
ような思想及び良心や宗教観を有する府立学校の教職員に対して,自らの思
想及び良心や宗教観に反する行動を強いるものであり,教職員の思想及び良
心の自由及び信教の自由を侵害するものである。
(2)原告らは,理由は,様々であるが,世界観,人生観,主義,主張に根ざし,
日の丸・君が代そのものについて,あるいはそれを一律に強制することにつ
いて否定的に評価する思想を持っており,卒業式及び入学式における国歌斉
唱に際して起立斉唱することは,その思想に照らして到底肯んじ得ないもの
である。本件各職務命令は,そのような思想信条をもつ原告らに対し,職務
命令をもって卒・入学式の国歌斉唱に際して起立・斉唱を命ずるものであり,
原告らの思想に真っ向から反する行動を命じるものであるから,原告らの思
想及び良心の自由を侵害するものである。さらに,本件各職務命令は,そも
そも式典の円滑な進行を図るという価値中立的な意図で発せられたもので
はなく,上記のような思想信条を有する教職員を念頭に置き,それに対する
強い否定的評価を背景に,不利益処分をもってその思想信条に反する行為を
強制することにあることは明らかである。
以上のように,本件各職務命令の目的が不当であること及び目的を達成す
るための手段として不利益処分を背景とした職務命令を発出することは必
要最小限度の域を超えていることからすると,本件各職務命令は思想及び良
心の自由に対する制約として許容される限度を超えている。
7争点7(府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が,児童・生徒の思
想及び良心の自由[憲法19条],学習権[憲法23条・26条]を侵害するか,
また,教師の教育の自由[憲法23条・26条]を侵害するか)について
(被告大阪府の主張)
(1)本件各職務命令は,原告ら教職員に対して命じたものであり,児童に対し
て発したものではない。
(2)最高裁昭和51年5月21日判決によれば,地公法32条,国旗国歌法,
高等学校学習指導要領の国旗国歌条項や府国旗国歌条例の各規定に基づき原
告らに対し本件各職務命令を発することが児童の学習権を侵害するというよ
うな主張が認められないことは明らかである。
(被告高槻市の主張)
最高裁昭和51年5月21日判決や最高裁平成17年12月1日判決に照ら
し,本件高槻市通知及び本件A職務命令は憲法26条に反するものではない。
(原告らの主張)
(1)卒業式に参加した児童らも,国民・市民として,思想及び良心の自由,教
育を受ける権利を有するところ,国による教育内容に対する決定権能につい
て,国家が誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教
育を施すことを強制するようなことは憲法26条,13条の規定から許され
ない。職務命令によって卒業式において君が代斉唱を教員に強制することは,
日の丸・君が代自体が有する国民統合機能によって,一方的な観念を子ども
たちの心に刻み付けることであって,子どもが自由かつ独立の人格として成
長することを妨げるものである。
(2)卒業式及び入学式における教員に対する君が代斉唱時の起立斉唱の強制
は,戦前日本の国家主義,全体主義に利用されてきた日の丸・君が代の歴史
的役割を重視し,それに否定的な歴史観や教育上の信念を有する教職員を念
頭に置き,その歴史観等に対する否定的評価を背景に,不利益処分をもって,
その歴史観等に反する行為を意識的に強制するものである。そして,これは,
教職員だけを念頭に置いたものではなく,憲法上強制が許されない生徒に対
して,国旗・国歌ひいてはそれらによって象徴される国家に対する敬愛を刷
り込むという憲法上許されざる目的を持ったものである。刷込み式愛国心教
育は生徒の理性的思考を遮断し,民主主義を根底から揺るがしかねない。卒
業式及び入学式は教育の一環であり,このような許されざる公教育への行政
の介入に対し,子どもの学習権を守る観点からこれに抵抗し,拒否する行為
は,国家主義的全体主義的な教育を拒否し,憲法に基づく民主主義的で自由
な教育を守る見地から,教師の教育の自由として憲法上保障されるものであ
る。
府国旗国歌条例4条は,学校行事の際に,日の丸・君が代をどのように取
り扱うかという教育内容について,一律に教職員は起立斉唱するものとする
と定めて,日の丸・君が代に批判的な姿勢を取ることは許されず敬意を表明
しなければならないという一方的な観念を子どもに植え付けるような内容
の教育を施すことを強いるものであるから,教育内容に対する不当な介入で
あり,子どもの学習権及び教職員の教育の自由を侵害するものである。
8争点8(府国旗国歌条例が憲法94条に反するか)について
(被告大阪府の主張)
府国旗国歌条例は,国旗国歌法及び学習指導要領の趣旨を踏まえて,学校
行事において行われる国歌斉唱の際,起立により斉唱を行うことを規定した
ものであり,憲法94条に規定する地方公共団体の条例制定権及び地方自治
法14条1項の規定に基づき制定されたものである。府国旗国歌条例は,府
立学校及び府内の市町村立学校の卒業式等の儀式的行事における国歌斉唱時
の教職員の起立斉唱という服務規律に関して定めたものであり,「法令に違
反しない限りにおいて」,被告大阪府に属する「地域における事務及びその他
の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされる事務」に関
して制定されたものであるから,憲法94条に違反するものではなく,適法
かつ有効な条例である。
(原告らの主張)
(1)国旗国歌法は,国旗を日の丸とし,国歌を君が代とする以外の規定はない
から,「法令中にこれを規律する明文の規定がない場合」に該当する。また,
国旗国歌法制定時,内閣総理大臣は,国会において,「長年の慣行により,国
民の間に広く定着している国旗と国歌を成文法で明確に規定するものであり
ますことから,法制化に伴い,国旗に対する尊重規定や侮辱罪を創設するこ
とは考えておりません」,「政府としては,今回の法制化に当たり,国旗の掲
揚等に関し義務付けを行うことは考えておらず」などと述べている。したが
って,国旗国歌法の趣旨は,「当該法令全体からみて,右規定の欠如が特に当
該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨」
であるところ,府国旗国歌条例は国旗国歌について具体的な義務を課すこと
を内容とするものであるから,法律に反する条例として無効である。
(2)府国旗国歌条例は,教育基本法2条5号の目的を超えて,「我が国と郷土
を愛する意識の高揚」という人の内心に踏み込む目的を掲げている一方,教
育基本法が「学問の自由を尊重しつつ」と断り書きを入れている部分を採り
入れていない。また,教育基本法が教育の目的のみを定めているのに対し,
府国旗国歌条例は,「府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉
唱について定めること」によって,「我が国と郷土を愛する意識」を高揚させ
るという目的を達成すると定めており,府の施設で国旗を掲揚し,教職員に
対して国歌の起立斉唱を義務付けることが目的達成のための手段であると明
記している。
9争点9(本件A職務命令が憲法28条,地公法56条に反するか)について
(被告高槻市の主張)
(1)職務命令は,卒業式の国歌斉唱時に起立しない旨の意思表示をした教職員
及び起立又は不起立の意思を表明しなかった教職員を対象として発出したも
のであって,Eの組合員を狙い撃ちにした命令ではない。
(2)市教委教育長は,府教委発出の文書を踏まえ,本件高槻市通知を発出した。
市教委は,平成24年3月1日開催の校長会において,校長に対し,「教職
員は教育公務員としての立場を自覚し,率先垂範して起立し,斉唱するよう
指導すること」を指示した。また,市教委は,校長に対し,市教委の方針と
して,「粘り強く指導を重ねても,不起立が予想される教職員がいる場合は,
事前に市教委と相談の上,最終的な判断として教職員個人に対し,「職務命令」
を文書で発出することもあり得ると考えていること」を伝えた。さらに,市
教委は,校長に対し,職員会議等で教職員全体に再度指導するとともに,式
場内に出席する教職員及び不適切な行為を行う可能性のある教職員を把握す
るよう伝えた。
上記の点を踏まえて,各校長は,教職員に対し,卒業式の国歌斉唱に当た
っては,起立して斉唱するように指導し,起立をしないことが予想される教
職員に対し,個別に意思確認を行った。当初,不起立の意思を表明した教職
員及び起立又は不起立の意思表示を行わなかった教職員は17名いたが,校
長が粘り強く指導した結果,13名は校長の指導に従う旨を表明した。しか
るに,残りの4名は,最後まで起立しない旨の意思を表示するか,起立又は
不起立の意思表示を行わなかった。そのため,校長らは,同4名に対し,職
務命令を発した。この4名が,結果的にEの組合員であったのである。
(被告大阪府の主張)
原告らの主張は,否認ないし争う。
(原告Aの主張)
(1)高槻市立小学校の教職員が所属する地公法上の職員団体は4組合である
ところ,平成23年度卒業式における起立斉唱の職務命令は,原告Aが所属
するEに所属する組合員に対してのみ発せられた。
高槻市で勤務していた現職のE4人全員に対し,同一の職務命令が発出さ
れたが,Eの組合員以外で職務命令が発出された教職員は存在しなかった。
本件A職務命令は,Eを嫌悪して,原告AがEの構成員であることの故を
もってなされた不利益な取扱いである。
(2)Eは,休憩時間保障に関わる大阪府人事委員会への措置要求や訴訟,中学
校教科書採択に係る情報非公開への異議申立て等の組合活動を行ってきた。
市教委は,このような活動を行うEを嫌悪し,平成16年には,2学期制の
導入について,他の組合に対しては説明・協議しながら,Eに対しては説明・
協議をしないままに校長会・教頭会における説明を実施した。また,平成2
3年には,夏休みの勤務条件に関わり,他の組合とは交渉した一方で,Eと
は交渉を行わなかった。
10争点10(本件各職務命令が,自由権規約18条1項,2項及び19条1
項等に反するか)について
(被告大阪府の主張)
原告らの主張は,いずれも争う。
(原告らの主張)
(1)本件各職務命令は,自由権規約18条1項及び2項が保障する「思想,良
心及び宗教の自由」を侵害するとともに,同規約19条1項が保障する「意
見を持つ権利」を侵害するものであるから,無効である。
(2)本件各職務命令は,原告らの思想及び良心の自由,信教の自由や意見を持
つ自由に対する制限を課すものであるところ,自由権規約18条3項及び1
9条3項のような事由は存在しないから,自由権規約委員会第6回総括所見
で示された勧告に反する。
(3)本件各職務命令は,ユネスコ「教員の地位に関する勧告」の趣旨にも反す
る。
11争点11(本件各通達が有効な職務命令に当たるか)について
(被告大阪府の主張)
(1)府国旗国歌条例1条が規定するように,府立学校及び府内の市町村立学校
の卒業式等において式場内の教職員に対し,国歌斉唱時に起立して斉唱する
よう職務命令を発することは,教育内容や方法の問題ではなく,地方公務員
たる教職員の服務規律の問題である。
(2)また,府教育長は,地教行法17条1項に規定するとおり,府教委の指揮
監督の下に府教委の権限に属する全ての事務をつかさどることから,府立学
校に勤務する教職員に対し,服務に関する事項を含む職務上の指示監督をす
る権限を有している。この結果,府教育長は,府立学校の全ての教職員の職
務上の上司に当たるため,府教育長が,教職員の服務規律に関して職務命令
を発することは当然適法である。
(原告らの主張)
(1)教育委員会は,地教行法23条の「教育に関する事務」で,学校その他の
教育機関の設置,管理,廃止に関する事項や,職員の任免その他の人事に関
する事項について管理執行権限を有するが,その職務は,飽くまで「教育に
関する事務」であって「教育」そのものではないこと,「児童・生徒の教育は
教諭がつかさどる」とされていることからすると,児童・生徒に対する具体
的な教育内容や方法については,教育委員会が決定・介入できる事項ではな
く,教育をつかさどる教諭が,子ども各人の個性・能力・適性に応じて決定
し実践すべきものである。したがって,教育長は,具体的な教育内容及びそ
の実施方法に関わることについて,各学校の教職員に対して,直接に指示・
命令することができる「権限がある職務上の上司」には当たらない。
(2)本件高槻市通知は,卒業式における国歌斉唱の際に起立して斉唱するこ
とを命ずるものであるが,卒業式は教育課程のうち特別活動に関わるもので
あり,教育活動の一環そのものであるから,教育委員会,教育長がその具体
的な実施方法について通知を出しても,個々の教職員に対する関係で,権限
のある職務上の上司から出されたものには該当せず,そもそも有効な職務命
令には当たらない。
(3)本件大阪府通達についても同様である。
12争点12(本件B職務命令が有効な職務命令に当たるか)について
(被告大阪府の主張)
(1)原告Bは,平成24年2月14日,校長室においてI校長と話合いを行
い,卒業式への出席の意向確認を受け,原告Bが勤務を要しない日として
出席する意向を示したところ,I校長から,「勤務を要しない日での参列な
らば,保護者席で参列してください。教職員席には座れません。教職員席
で参列するのなら,勤務日への振替えが必要です。」と指導された。
また,原告Bは,同月28日,校長室においてI校長と話合いを行い,
I校長から,「あなたは,式当日は勤務を要しない日なので,参加を控えて
いただきたい。もし参列する場合は,保護者席でお願いします。もし,教
職員席にいて,国歌斉唱時に座れば懲戒や指導の対象になります。」と再度
指導された。
しかるに,原告Bは,卒業式の当日,来校し,校内の機械科職員室に行
った後,校門外側において卒業式に参加する生徒や保護者に対して,「国旗・
国歌の強制に反対する教職員の会」の名前で,府教委教育長の職務命令に
反対する内容のビラを配布し,また,体育館入口に立ち卒業生を迎え入れ,
その後,自らも体育館内に入り,空いていた教職員席の一つに着席した。
(2)職務命令は公務員の職務の遂行に関する命令であり,当該公務員が非番
であっても,その職務命令の対象となる職務を遂行する場合は,当然その
職務命令の名宛人となる。特に,原告Bは,I校長から事前に,「あなたは,
式当日は勤務を要しない日なので,参加を控えていただきたい。もし参列
する場合は,保護者席でお願いします。もし,教職員席にいて,国歌斉唱
時に座れば懲戒や指導の対象となります。」などと再三指導を受けていたに
もかかわらず,式場に入り,自らが教員であるとの認識の下に,空いてい
た教職員席の一つに着席し,国歌斉唱時に着席したものである。
したがって,原告Bの入場・着席等の一連の行為が本件大阪府通達及び
本件B職務命令の対象となる職務行為であることは明らかである。また,
原告Bが,教職員席に着席し,司会者の発言により教職員席の参列者その
他全員とともに起立するなど,卒業式において教職員が行う行動をしたこ
と自体が職務命令の対象となる職務行為である。
(3)また,I校長が原告Bに対しビラを配布しないよう指導したのは,卒業
式を円滑に実施することを目的として,同校の教員が国旗掲揚・国歌斉唱
に反対する内容のビラを校門外側で生徒・保護者らに配布することは,卒
業式に出席する生徒・保護者らの清新な気分に何らかの影響を与えるとと
もに,地域住民にとっても,ビラを配布する者が学校関係者であると認識
され,その者が学校の実施する卒業式自体又は国旗掲揚・国歌斉唱に反対
しているという印象を与えるなど,全体の奉仕者として公共の利益のため
に勤務すべき教育公務員にふさわしくない行為とみられるおそれがあり,
その結果,その職の信用を失墜させるおそれがあると判断し,ビラ配布行
為を中止させる必要があると判断したためである。以上のような指導の目
的及びその必要性からみれば,I校長の行為は,職務との関係において合
理的な範囲内にある行為というべきである。
(原告Bの主張)
(1)原告Bは,平成24年2月29日は勤務日ではなく,職務を遂行する立
場になかった。「職務命令に関する手続きについて」においても,明白に,
式当日が勤務日でない教職員には職務命令の対象とならない事実を府教委
が前提としていることが表れている。
原告Bが教員席に座ったのは,「外形的に職務行為として卒業式に参列
するため」ではない。原告Bは卒業生の保護者ではなく,教職員であるか
ら教職員席に座ったにすぎない。そもそも,着席をした目的によって職務
命令が及ぶ職務行為になるか否かが決まるなどという主張には何の法的根
拠もない。
(2)原告Bが配布したビラは,飽くまで生徒ら自身において考えさせる内容
にとどまるものであり,生徒・保護者らの不起立を扇動するようなもので
はない。よって,これを配布することを禁止することは公務としての地位
あるいは職務との関係において合理的な範囲を超えている。
13争点13(本件各処分に裁量権の逸脱・濫用があるか)について
(原告らの主張)
(1)原告Bについて
ア(ア)原告Bは,卒業式会場において卒業生を出迎え終わると,教職員
席のうち空いていた席に着き,「国歌斉唱を行います」という発言の直
後に同席に座った。このような不起立行為は,消極的不作為にすぎず,
式典を妨害するなどの積極的行為を含まない。原告Bの不起立行為は,
実際上,何ら実質的な問題を引き起こしていない。
(イ)原告Bは,平成24年2月29日,F高校に到着し,同校校門外に
おいて,同校の生徒や保護者に対して「卒業おめでとう」と題する「国
旗・国歌の強制に反対する教職員の会」名義のビラを配布した後,卒
業生入場口付近において卒業生を迎え入れ,空いていた教職員席に着
いた。
勤務日でない卒業式の日に勤務校に出てくる行為は,I校長からも
制止されなかったものであり,何ら問題がない。また,上記ビラ配布
行為は,勤務日でないため職務専念義務違反等には当たらない。確か
に,I校長は,同月14日の面談においてビラ配布を禁止する趣旨を
述べたが,勤務日ではない場面において,校長の管理の及ばない学校
敷地外において,原告Bが憲法上保障される表現の自由を行使するこ
とを制止する権限を有しないことは明らかである。
イ原告Bは,平成24年3月12日,職務命令に従う意思の確認書を提
出している。
ウ(ア)戒告処分を受ければ,ゞ佇拏蠹の成積率が減少する,⊂叉襪
限定される,B狄Χ發紡纂困出る,せ実上,定年退職後に再雇用
される機会を失うという不利益を受けるものであり,式典の度に不起
立行為をする場合には式典の度に懲戒処分が累積加重されることにも
鑑みれば,戒告処分自体,相当に重い不利益処分である。
(イ)府教委及び各市町村教育委員会における懲戒処分に至らない服務
上の措置の中には,不起立行為と比較して悪質ないし重大と思われる
ものが含まれている。このような事案に比較すれば,本件のような不
起立行為は,動機,性質及び結果等いかなる側面からみても,他の非
行ないし非違行為と同列に扱うことがふさわしくないことは明らかで
ある。本件各処分は,過剰にすぎ,比例原則ないし平等原則に反する
というべきである。
(2)原告Cについて
ア原告Cの行為は,「起立しない」,「斉唱しない」という意味で不作為で
ある。その行為の態様,性質等から,それによる具体的な害悪の存在や
危険性はない。起立していない,斉唱していない者がいるということが
明らかになるほかに特段の結果は生じず,実質的には何ら悪影響を及ぼ
していない。
イ上記(1)ウ(イ)のとおり,懲戒処分に至らない服務上の措置の中には,
原告Cの行為と比較して悪質ないし重大と思われるものが複数含まれて
いる。このことに照らすと,原告Cに対する本件C戒告処分は重きにす
ぎ,比例原則・平等原則に反する。
(被告大阪府の主張)
(1)公務員に対する懲戒処分は,当該公務員に職務上の義務違反,その他単
なる労使関係の見地においてではなく,国民全体の奉仕者として公共の利
益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地におい
て,公務員としてふさわしくない非行がある場合に,その責任を確認し,
公務員関係の秩序を維持するため科される制裁であると解されている。
地公法所定の懲戒事由がある場合に,懲戒権者が,懲戒処分をすべきか
どうか,懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを判断するに
ついては,公正であるべきことや,平等取扱いの原則等に違反してはなら
ないこと以外に具体的な基準が法定されていないことから,懲戒事由に該
当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,
当該公務員の行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処
分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処
分をすべきかどうか,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか
を決定すべきものと解されている。懲戒権者の判断が上記の事情を総合的
に考慮してされることから,懲戒処分を行うかどうか,いかなる処分を選
ぶかは懲戒権者の裁量に任されており,懲戒権者がその裁量の行使として
した懲戒処分は,それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した
目的を逸脱し,これを濫用したものと認められる場合でない限り,その裁
量権の範囲内にあるものとして,違法とはならないものと解される。
(2)原告Bについて
ア原告Bの行為は,卒業生及び保護者が容易に視認できる状況であった。
また,原告Bも,府教委が行った事情聴取において,「ただ,着席してい
る状況を見た同僚教員,生徒や保護者には,この教員はなぜ座っている
のかといった疑問を与えたかもしれません。」と述べている。さらに,最
高裁平成24年1月16日判決は,「不起立行為等の性質,態様は,全校
の生徒等の出席する重要な学校行事である卒業式において行われた教
諭による職務命令違反であり,当該行為は,その結果,影響として学校
の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をも
たらすものであって,それにより式典に参列する生徒への影響も伴うこ
とは否定し難い。」と判示しており,原告Bの行為が何ら実質的な問題を
引き起こしていないとは認められない。
イ府教委は,原告Bがビラ配布行為を行ったことについて,それ自体独
立した懲戒事由に当たると判断したものではない。原告Bに係る非違行
為自体がI校長の指示に反して原告Bの非番の日を勤務日に変更する
ことなく卒業式に教員として参列した上で行われたものであることか
ら,当該ビラ配布行為が非番の日に行われたことについても,同非違行
為の前後における態度として考慮したものである。
ウ原告Bが引用する事案は,傷害罪,セクシュアル・ハラスメント又は
体罰に関するものであり,本件事案とは全く異なるものであることから,
比較することはできない。
エ本件B戒告処分は,平成24年3月9日付けで行ったものであり,原
告Bが主張する処分後の行為については,本件B戒告処分の効力には何
ら影響を与えない。
オ原告Bは,卒業式の当日,自らは勤務を要しない日であることを知り
ながら,I校長の事前の指導に反して,式典会場の教職員席の一つに無
断で着席したが,I校長が事前に原告Bに対し指導したとおり,このこ
とにより,原告Bは,教職員として,式典に参列する他の教職員と同様
に,教育長や校長から事前に発せられた職務命令に従い,国歌斉唱時に
起立して斉唱をするべき職務上の義務を負ったものである。にもかかわ
らず,原告Bは,教頭が,「引き続き国歌斉唱を行います。」と発言した
際,参列者のうち,原告Bだけが教職員席の一つに着席した。
また,I校長は,原告Bが式典当日に校門の前で式典に参加する保護
者や生徒に対して教育長の職務命令に反対する内容のビラを配布する
ことは,保護者や生徒にとって同校の教員であることが周知の事実であ
ることから,保護者や生徒に与える影響を懸念し,式典の混乱等を回避
するために,平成24年2月14日に原告Bと話し合った際に,原告B
に対し,「校外でのビラ配りもダメです。」と指導したが,原告Bは,そ
の指導に従うことなく,ビラの配布を行った。
カ以上のとおり,府教委は,原告Bの行為について検討するとともに,
諸般の事情も総合的に考慮して,本件B戒告処分を決定したものであり,
同処分については,懲戒権者である府教委の裁量権の範囲内のものとい
うべきである。
(3)原告Cについて
ア原告Cは,G高校の平成24年度卒業式において,教育長通達及び本
件C職務命令に違反して,国歌斉唱時に起立して国歌を斉唱しなかった。
このときの原告Cの座席位置と,生徒・保護者・来賓席との位置関係は,
「式場配置図」(乙C5)のとおりであり,原告Cが3年担任団席に座っ
ていたことから,原告Cの行為は,卒業生や保護者が視認できる状況で
あり,原告Cの行為の反規律性を認識することは極めて容易であった。
原告Cの行為は,最高裁平成24年1月16日判決が判示していると
おり,その影響として,卒業式の式典の秩序や雰囲気を損ない,また生
徒への影響を伴った行為であり,そのような影響を及ぼした原告Cの職
務命令違反の行為は,明らかにその職の信用を著しく失墜し,また全体
の奉仕者たるにふさわしくない非行である。
イ原告Cが引用する事例については,上記(2)ウと同じであって,比較す
ることができないものである。
ウ府教委は,原告Cの行為について,諸般の事情を合的に考慮して本件
C戒告処分を決定したものであり,懲戒権者である府教委の裁量権の範
囲内にある。
14争点14(再任用合格決定の取消し,再任用の任期更新合格決定の取消し
に裁量権の逸脱・濫用があるか)について
(原告らの主張)
(1)民間企業において高年齢者継続雇用制度が強化され,国家公務員制度に
義務的な再任用制度が導入されたのを踏まえ,地方公務員についても,雇
用と年金を接続して地方公務員の生活を保障するという観点から,義務的
な再任用を導入する方針が決定された。総務副大臣通知によれば,閣議決
定の趣旨を踏まえ,定年退職する職員が再任用を希望した場合,当該職員
の任命権者は,退職日の翌日,当該職員が年金支給開始年齢に達するまで,
常時勤務を要する職に当該職員を再任用するものとすることとされている。
そして,再任用しない者の要件として,規定に基づく欠格事由又は分限免
職事由としており,極めて限定的な要件を設けている。これらの通達及び
通知の趣旨に照らすと,地方公務員については,再任用を希望する定年退
職者等については,任命権者は再任用を認めるか否かについて原則として
裁量を有さず,再任用申込者の生活保障の観点を考慮してもなお再任用を
拒否すべき特段の理由がある場合を除き,再任用希望者の再任用を法的に
義務付けられることになった。
(2)総務省通知,総務副大臣通知が,それぞれ通知にとどまり,それ自体に
よって直接的に法的効力を有するものでないとしても,再任用制度の趣旨
からは,「再任用することが適当でないと認められる事由」とは,欠格事由
又は分限免職事由がある場合に限ると解すべきである。これを超えて再任
用を拒否した場合には,裁量権の範囲を逸脱した違法がある。
(3)府教委は,卒業式及び入学式における君が代斉唱時の不起立に係る処分
について,「懲戒処分歴があることだけで,再任用を否とすることにはなら
ない」と繰り返し明らかにしている。これに照らしても,起立斉唱の職務
命令に違反したことを理由とする再任用合格決定の取消しには裁量権を
逸脱した違法があるというべきである。
(4)被告大阪府の再任用制度においては,いずれの年度も合格率が95%を
超えており,再任用任期更新制度においては,いずれの年度も合格率が9
8%を超えている。再任用制度の意義や運用実態からすると,定年退職に
より退職する教職員が再任用職員として採用されることを希望する場合
には,基本的に教職員の希望を尊重し,特段の支障のない限り再任用教職
員として積極的に採用する形で運用されていたと解するのが相当である。
そして,再任用制度は,希望者のうち95%以上が採用されているように,
高い蓋然性のもとに定年後も引き続き職場と収入が確保されていたとい
う実態からすれば,教職員において,恣意性を排した客観的かつ合理的な
基準に従ってその選考が行われるものと期待することは当然のことであ
って,法的保護に値する。特に,原告らについては,一旦は再任用合格・
再任用更新合格の判定が出ているものであり,一たび再任用合格の旨を通
知された場合には,当該教職員が次年度も教職員としての地位と収入を保
障されるものと解釈するのは至極当然である。
(5)意向確認書は,作成根拠・作成経過・作成目的が不明な起案者も明らか
でない公文書とも行政文書ともいうことができず,処分者自身「提出は任
意」というほかないものである。法的根拠がなく行政的な手続にも則って
おらず,提出が任意であるものを被処分者に要求し,その対応をもって,
再任用合格を取り消すかどうかの判断基準とすることは,それ自体違法で
ある。
意向確認書の主眼は,「入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱
の職務命令には従います」すなわち次回以降の式典で起立斉唱するかどう
かを確認することである。処分者が君が代不起立者に対して以後の同様の
機会に起立斉唱するかどうか尋ねることは,国家権力が対象者の内面にお
ける精神活動に立ち入るものにほかならず,思想信条の自由を害するもの
である。よって,意向確認書の提出を求めることは,そもそも違憲であり
許されないのであるから,意向確認書を提出する義務や必要がないことは
いうまでもない。
被告大阪府は,卒業式及び入学式における国歌斉唱時の不起立や起立斉
唱に関する「意向確認」について,これを過重に重視して,再任用,再任
用更新の判断を行っていたということにほかならない。
原告Aについて
(ア)a原告Aに対しては,本件A戒告処分が既に取り消されている。懲戒
処分が取り消された以上,処分者が当該懲戒事由の存在を事実として
も主張することは許されないというべきである。
b市町村教委の内申どおりとならない異例の場合があり得るとしても,
その内申は尊重しなければならない。
c内申の趣旨が図られる限り内申に欠けるところはないとの被告高槻
市の主張は,最高裁判例の趣旨を誤るものである。
d地教行法26条2項は,同項記載の各事務について,「合議制の教育
委員会がみずから責任を持って事務を管理し,執行」することを求めて
いる。専決は,合議制の教育委員会が自ら責任を持った事務の管理・執
行とはいえない。同項記載の各事務は,委任と同じく,専決させること
も,法によって禁止されている。
(イ)原告Aは,卒業式,入学式で君が代が流れるようになって以降,職員
会議で常に反対の意思を表明し,式で君が代が流れる間は堂々と座って
きたし,校長に対しても,平成24年1月末か2月の初めにはその旨を
明らかにしていたから,再任用の合格決定は,その事実をも踏まえてな
されたはずであった。ところが,被告大阪府は,一旦は再任用の合格決
定をしながら,従前の勤務実績,勤労意欲,心身の状況等の一切を無視
して,合格決定を取り消した。このような判断は,客観的合理性及び社
会的相当性を欠くものであり,裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たり,
平等原則違反も存在する。
(ウ)平成24年度卒業式において,被告大阪府が非違行為と主張する国
歌斉唱時の不起立が認められながら再任用された者は9人中7人であ
る。他方,そのうちの1人である原告Aは再任用合格決定を取り消され,
もう1人である原告Bは再任用任期更新を拒否された。同様の非違行為
を認めながら,一方は再任用し,他方は再任用合格決定を取り消すとい
う取扱いの差異は,明らかに恣意に基づく不平等な取扱いである。
(エ)被告大阪府の主張は,「K」施設内学級の現実を無視したものである。
原告Aは,必ず「あゆみ」を児童に渡さなければならない理由と必要性
があったのであり,そのために,平成24年3月23日午前9時30分
では事情聴取に応じることができなかった。
府教委において真に事情聴取を求めるのであれば,府教委が改めて日
程調整を申し入れるべきである。
(オ)原告Aには服務規律違反の行為はなかったから,「服務規律に関する
研修を受講」する義務も必要もなかった。
(カ)顛末書が原告Aの不起立に至る理由を問い質し,それを改めさせよ
うとするものであるとすれば,意向確認書の提出を求めることと同様に
違憲・違法である。顛末書をもって原告Aの弁明を聞こうとするもので
あれば,その不提出が原告Aにとって不利益に扱われるべきでないのは
事情聴取と同様である。
イ原告Bについて
(ア)平成24年に開催された卒業式の国歌斉唱において起立斉唱しなか
った教職員のうち,意向確認書を提出した原告Bとその他の教職員との
間で,不平等な取扱いが行われている。
原告Bは,意向確認書にある「今後,入学式や卒業式等における国歌
斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令には従います。」という文言の
うち,「今後,入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む」
の部分に線を引いて提出した。その後,I校長からの説得を受け,同書
面に,「今後,入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む」
と自筆により書き加えて提出し直した。その一方で,Lは,「今後,入学
式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に
は従います。」という文言全てに線を引き,「今後,上司の職務命令を遵
守します。」と自筆により書き加えて提出した。意向確認書の内容を変更
したLが翌年度に再任用された一方,原告Bは再任用されなかったので
あるから,原告Bに対する取扱いは不平等である。
(イ)原告Bは,平成22年度の卒業式の際もビラを配布し,君が代斉唱
時には職員席に着いていたが,再任用を可とされている。平成23年度
の卒業式でビラを配布し,君が代斉唱時に起立斉唱しなかったことを理
由として再任用の任期を更新しないというのは,明らかに期待権を侵害
する取扱いであるが,そのことについて検討された形跡もない。
ウ原告Cについて
本件C職務命令に違反する行為の非違性を不当に重く扱う一方で,原告
Cの従前の勤務成績を判定する際に考慮されるべき多種多様な要素,原告
Cが教職員として長年培った知識や技能,経験,学校教育に対する意欲な
どを全く考慮しないものであるから,再任用制度の趣旨にも反し,運用実
態とも大きく異なる。客観的合理性及び社会的相当性を欠くものであり,
裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たり違法である。
(被告大阪府の主張)
(1)任命権者が再任用又は任期の更新を行う場合は,その裁量権に基づき,
従前の勤務実績等又は直前の勤務実績の良好性を判断しなければならない
のであり,任命権者がこれらの判断を抜きにして職員の再任用又は任期の更
新を行うことは,法律上許されない。
(2)これまで再任用又は任期の更新がされた教職員は,従前の勤務実績等又
は直前の任期の勤務実績が良好であることが認められたために再任用や任
期更新の処分がされたのであり,単に再任用等を希望したというだけで,当
然に再任用や任期更新が認められたのではない。
原告らは,再任用合格,再任用更新合格の判定を受けた後に非違行為を行
い,またそれに関連する不適切な行為をしたため,それらも総合して,従前
の勤務実績等又は直前の任期の勤務実績が良好でないと判断された結果,再
任用合格,再任用任期更新合格の判定が取り消されたのである。原告らが,
合格判定を受けたからといって,任命権者が,原告らの行ったその後の非違
行為を再任用や任期更新の判断において考慮しない理由はない。
(3)ア原告Aについて
(ア)a原告Aの行為は,本件A職務命令に違反し,卒業式の当日,国歌斉
唱時に起立して斉唱しなかったものであり,地公法32条の上司の職
務上の命令に従う義務に違反する行為である。そして,このことは,学
校教育に携わる公立学校教員として,その職の信用を著しく失墜し,ま
た,全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であり,地公法29条1項
1号及び3号の懲戒事由に当たる。本件A戒告処分は,原告Aの行為に
ついて,諸般の事情を総合考慮して決定されたものであり,懲戒権者で
ある府教委の裁量権の範囲内にある。
b人事委員会が本件A戒告処分を取り消したのは,市教委の内申手続の
不備を理由とするものであり,非違行為自体の不存在を理由とするも
のではない。本件A戒告処分が市教委の内申手続の不備を理由に取り
消されたとしても,原告Aが地公法29条1項1及び3号に規定する
懲戒事由に該当する非違行為をしたことに変わりはないのであるから,
任命権者である府教委が,再任用の判断において,その事実も併せて総
合的に原告Aの従前の勤務実績を考慮することは,当然のことである。
c地教行法38条1項については,「本条は,前条の規定により県費負
担教職員の任命権が,都道府県委員会に属することとなったが,これら
教職員は,市町村が設置する学校に勤務し,学校の管理者である市町村
の教育委員会の管理権の下に職務に従事するものであるから,都道府
県委員会がその任命権を行使するについて,学校の管理者である市町
村の教育委員会の上申をまって,これらの教職員の任免その他の身分
上の変動を行うこととしたものである。」と解されており,また,「市町
村委員会の内申どおりに任命権を行使しなければならないかというに,
その内申は尊重しなければならないが,異例の場合はあり得る。」,「内
申されたものについて発令行為を行うか否かの判断は任命権者が行う
ものである。」と解されている。すなわち,地教行法38条1項の内申
の制度は,専ら府費負担教職員の服務監督者である市町村教委の学校
管理者としての意見を尊重するために設けられたものである。
そうすると,本件A戒告処分が,市教委教育長の専決処分に基づく
内申によりなされ,当該内申に関して市教委の承認を欠いたという手
続的瑕疵を理由として取り消された場合でも,原告Aについて懲戒事
由が存在することに変わりがない。
(イ)原告Aに対する再任用選考合格決定の取消しは,当該決定後の非違行
為及び関連する不適切な行為を加えて総合的に判断したものであり,従前
の勤務実績,勤務意欲,心身の状況等を一切無視したものではない。した
がって,平等原則に違反するともいえない。
府教委が再任用合格決定を取り消したのは,卒業式での不起立行為に加
え,不起立行為に係る顛末書の提出を拒否し,府教委の事情聴取を拒否し,
懲戒処分後に府教委が実施した研修の受講を拒否し,意向確認書を提出し
ない等の行為は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する地方公
務員にふさわしくない非行であり,その職の信用性を失墜させる行為であ
ると判断したからであり,これらの非行も併せて従前の勤務実績等を総合
して斟酌した結果である。
(ウ)府教委は,平成24年3月の卒業式において不起立行為をした者につ
いて,戒告処分の辞令交付後,地方公務員の服務に関する研修を実施し,
意向確認書を提出した者について今後同様の職務命令に従う旨の意向を
確認した。上司の職務命令遵守の意向があるか否かについて確認を求める
ことは,任命権者として当然のことであり,意向確認ができた者と,意向
確認ができなかった者又は意向確認に応じなかった者とで再任用の判断
が異なることはやむを得ない。
(エ)府教委が,再任用するか否かを判断する際に,再任用後の職務遂行に
おいて上司の職務命令を遵守する意向があるか否かの確認を違反者に求
めるのは任命権者として当然のことであり,何ら違法ではない。
(オ)校長作成の報告によると,校長の再三の指導に対し,原告Aが自己の
意思で府教委の事情聴取を拒否したことが認められ,原告Aが事情聴取に
出席することができなかったとする主張は認められない。
原告Aが,府教委が指定した日時以外であれば出頭可能である等の日時
調整の申出をしなかったことについては,原告A自身が自認していること
から考えれば,原告Aは府教委による事情聴取を自らの意思で拒否したも
のと解される。
(カ)上記のとおり,本件A戒告処分が,市教委の内申手続の不備により取
り消されたとしても,原告Aが懲戒事由に該当する非違行為をした事実自
体が消滅するものではなく,人事委員会が本件A戒告処分を取り消す前に
府教委が行った研修を,原告Aが受講する義務も必要もなかったと解する
ことは理由がない。
(キ)顛末書は,任命権者が,非違行為をした公務員に対して,非違行為に
至った経緯,非違行為の動機及び態様並びに反省の状況等を報告させるも
のであり,公務員である非違行為者はその指示に従うべきであり,任命権
者が非違行為者に対し顛末書の提出を求めることは,何ら違憲・違法では
ない。
イ原告Bについて
(ア)原告Bは,卒業式で非違行為を行った後,本件B戒告処分の辞令交
付や研修の終了時に意向確認書を提出せずに持ち帰り,翌日に「今後,
入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む」との文言を削
除した上で校長に提出し,更に校長の説得を受けたため,元の文言を手
書きで追加記入した意向確認書を提出したという経過を経たことを考
慮し,再任用教職員採用審査会においても,当該変更後の意向確認書が
原告Bの真意を示したものと判定することは困難であるとの意見が大
勢を占め,このため,府教委としても,変更後の意向確認書が原告Bの
真意を表したものと判断することができなかった。
他方,Lは,府教委が示した意向確認書の文言を全て削除し,「今後上
司の職務命令を遵守します。」と手書きした意向確認書を提出したが,校
長がその趣旨を確認したところ,変更後の意向確認書において遵守する
と記載した上司の職務命令には,卒業式,入学式等における国歌斉唱時
の起立斉唱に関する職務命令を含むことを明確に認めた。また,Lは,
国歌斉唱に反対する旨のビラを配布したり,校長の指導に反して卒業式
の式場に無断入場したり,教員席へ無断着席したりする等の行為をした
事実はなく,原告Bの行為とは態様等が異なっている。
(イ)原告Bの主張は再任用教職員採用審査会議事録の記載内容に基づい
たものと主張されるが,同議事録は審議の要旨,特に判断に至る理由を
簡潔に記載したものであり,全ての議論を記録しているものではない。
ウ原告Cについて
上記イ(イ)と同じ。
(被告高槻市の主張)
(1)ア地教行法38条1項にいう「任免その他の進退」とは,任用,免職,休
職,懲戒,昇格等身分上の異動一切をいうものと解されている。そして,
同項が,「内申をまって任免その他の進退を行う」旨規定し,「内申により」
であるとか「内申に基づき」などとの表現を用いていないことからすれば,
府教委は市教委の内申に拘束されずに「任免その他の進退」を行うことが
できる。
イ地教行法38条1項は,具体的な内申の方法については規定していない。
そして,内申の趣旨は,県費負担教職員の服務を監督する権限を有する者
が市町村教委であることから,教職員の身近にいてその服務状態を熟知し
ている市町村教委の意見を都道府県教委の任命権の行使に反映させること
により,市町村教委にその服務監督の実質を保持させることとした趣旨で
あると解される。その趣旨は,府費負担教職員である原告Aについても異
なるところはないところ,内申の趣旨が図られる限りは,地教行法38条
1項にいう「内申」に欠けるところはないと解すべきである。
ウ地教行法38条1項が定める内申は,府教委が,府費負担教職員に対し
懲戒を実施するにあたっての不可欠の要件ではない。すなわち,最高裁昭
和61年3月13日判決(民集40巻2号258頁)は,市教委の内申が
ない場合でも県教委の任命権の行使を容認しているし,行政解釈において
も,昭和49年10月4日付け初等中等教育局長通達が,内申がない場合
の都道府県教委の任命権の行使を許容している。
(2)専決は,委任とは異なり,行政機関内部の補助者が,行政機関の権限行使
を補助するものにすぎない。そして,地教行法26条2項は,同項各号所定
の市教委の権限事項を教育長に委任することを禁じるものではあるが,教育
長が,専決により,市教委の補助者として,市教委の権限事項を行使するこ
とまで禁じるものではないと解すべきである。したがって,府費負担教職員
に係る内申について,教育長が専決することは,地教行法26条2項には抵
触しない。
(3)市教委及び同教育長は,原告Aの服務状態について十分に把握していた。
また,原告Aの職務命令違反については,)楫鐓鯲祕稟燭任△襪海函き府
立高校の教員や他市の教員に対する処分との均衡等を考慮すれば,異なる内
申になることはない。したがって,府教委に対する意見(内申)は,市教委の
原告Aに対する服務監督の実質を損なうものではない。そうすると,本件の
事実関係において,市教委教育長が専決として内申することは,市教委の決
議を欠いたとしても,市教委の原告Aに対する服務監督の実質を損なうもの
ではないから,この点からも,地教行法38条1項に抵触するものではない。
15争点15(原告ら主張に係る国家賠償請求の成否及び損害の有無)につい

(原告らの主張)
(1)公務員の違法な行為に着目し,侵害行為の態様が法に違反するといえる場
合には,違法性が肯定されるべきである。具体的には,職務上尽くすべき注
意義務を尽くさず,漫然と当該行為を行ったような場合には,当該行為は違
法と判断され,当該行為を行った公務員には,少なくとも過失が認められる
というべきである。一方,取消訴訟における違法性判断において,ある処分
が特定の条項に反することが認められれば,それはその処分を行った公務員
において法令に違反する行為があったということにほかならない。
(2)本件各処分,再任用合格決定の取消し,再任用の任期更新合格決定の取消
しはいずれも違法であるから,被告らはその違法な処分によって原告らが被
った損害を賠償する義務を負う。
(被告らの主張)
原告らの主張は,いずれも否認ないし争う。
本件各処分,再任用合格決定の取消し,再任用任期更新合格決定の取消しは
いずれも適法である。
第5当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が
認められる。
(1)原告Aに関する事実経緯
ア(ア)H校長は,平成24年2月29日の職員会議において,本件市教委
通達を踏まえ,卒業式における国歌斉唱時に起立斉唱することを周知・
指導したところ,原告Aは,不起立の意思を表明した。
(イ)H校長は,平成24年3月9日,同月12日,同月13日,同月15
日,原告Aに対し,国歌斉唱時に起立斉唱するよう指導したが,原告A
は,不起立の意思を繰り返し表明した。
(ウ)H校長は,平成24年3月16日,原告Aに対し,国歌斉唱時に起立
斉唱するよう指導するとともに,国歌斉唱時には別の係を担当し,国歌
斉唱が終了してから教職員席に入場・着席することを提案したが,原告
Aは応じなかった。
H校長は,同日,原告Aに対し,本件A職務命令を発出し,文書を手
交した。
(以上につき,乙A4)
イ市教委は,平成24年3月19日,原告Aに対する事情聴取を行った。
原告Aは,同事情聴取において,同日の卒業式の国歌斉唱において起立
斉唱しなかったこと,同月16日に,校長から起立して斉唱するよう文書
で職務命令を受けたこと,同日までに,校長から複数回にわたって,卒業
式において起立して国歌斉唱するよう指導を受けたことをそれぞれ認めた。
(乙A1)
ウ原告Aは,平成24年3月21日,教頭に対し,顛末書を提出しない旨
表明した(乙A4)。
エ市教委は,平成24年3月21日,H校長立会いの下で,原告Aに対す
る事情聴取を行った。
原告Aは,同事情聴取において,「自分は教育公務員であるが,子どもの
教育に責任を持っており,戦後の反省を活かさないのはおかしいと考えて
おり,法律に書いてあることと自分の考えが異なったときは,何が正しい
かについて判断するのは自分で判断し行動すべきである。」,「条例が出来
たことは知っているが,法律以前の問題と考えている。」などと述べた。
また,市教委は,原告Aに対し,府教委が事情聴取を予定しているので,
同月23日午前9時30分に必ず出席するようにと求めた。これに対し,
原告Aは,「行くか行かないかを考える前にこの時間は行けません。行かな
い趣旨については別紙にて提出します。」と回答した。
原告Aは,「3月23日(金)午前9時30分頃というのは子どもたちの
授業時間であり,後期の終業式でもありますので参加できないし,また
参加しません」と記載した書面を提出した。
(乙A2,3,原告A,弁論の全趣旨)
オ(ア)H校長は,平成24年3月22日午前8時20分頃から,原告Aに
対し,市教委を通じて日程変更について問い合わせたが,「日時の変更に
ついては調整したが不可能であり,当初の日程で出席するように」との
回答があった旨伝え,事情聴取は,事実確認と弁明の機会であり,校長
として,教頭にその時間の対応をさせるなどの配慮をするので,是非と
も出席するよう重ねて指導したが,原告Aは,「子どもたちにあゆみを渡
す日なので,事情聴取には出席できない」と返答した。
(イ)H校長は,平成24年3月22日午後1時頃から,原告Aに対し,再
度,「校長として,教頭にその時間の対応をさせるなどの配慮をするので,
是非とも出席してください。出席しない理由にはあたらない。」と伝えた
が,原告Aは,「子ども達にあゆみを渡す日なので事情聴取には出席でき
ない」旨回答した。
また,H校長が,原告Aに対し,「大阪府教育委員会による事情聴取に
出席しなければ,事実確認と弁明の機会を損なってしまうことになるが,
それでいいのか」と尋ねると,原告Aは,「行けないんだからしょうがな
い。設定が悪い」と回答した。
さらに,H校長は,原告Aに対し,「出席しないのなら理由書を作成し
て提出しなければならない」旨伝えるとともに,事実確認と弁明の機会
についても記述するよう促した。原告Aは,「3月23日は今年度の終
業式であり,子どもたちにあゆみをわたす日であり,今年度の最後の授
業の日でありますので出席できません。」と記載した書面を提出した。
(以上につき,乙A3)
カ府教委は,戒告処分を受けた教職員に対し,職員基本条例29条1項に
基づき,戒告処分の発令直後に,資質向上研修を実施している(乙10)。
原告Aは,平成24年3月27日,原告A戒告処分を受けたが,同処分
後に行われた資質向上研修には出席しなかった(甲10の─す達腺械機
36,37頁)。
キ府教委は,資質向上研修終了後,各教員に対し,意向確認書を示し,意
向確認を行ったが,原告Aは,意向確認書に署名押印する必要はないとし
て署名押印せず,また,提出もしなかった(甲A35・37,38頁)。
(2)原告Bに関する事実経緯
ア(ア)I校長は,平成24年2月2日,職員会議において,本件大阪府通達
が発せられていることを通知し,各職員室に教職員宛通達を掲示した(甲
B20,乙B3)。
(イ)I校長は,平成24年2月14日,原告Bと面談した。I校長は,同
面談において,原告Bに対し,卒業式当日が原告Bの勤務日でないこと
から,休むのか卒業式に出席するのか尋ねた。原告Bが,同質問に対し,
出席する旨答えたため,I校長は,勤務日に振り替えるか尋ねたが,原
告Bは,休日扱いで出席すること,今までも同様である旨答えた。I校
長は,原告Bに対し,休日扱いで参列するのであれば保護者席で参列す
ること,職員席には座れないこと,職員席に座るのであれば勤務日に振
り替えることが必要であることを伝えた。
原告Bが,分かっていること,迷惑をかけることになるかもしれない
旨述べたため,I校長は,もし職員席で参列し,着席したら,懲戒若し
くは指導の対象となることを伝え,原告Bは,心得ている旨述べた。
また,I校長は,再度,原告Bに対し,休暇では卒業式には参列でき
ないこと,参列する場合は保護者席になること,職員席に座れば懲戒の
対象になること,校外でのビラ配りもだめであることを伝えた。
(甲B20,乙B3)
イI校長は,平成23年2月14日の職員会議において,本件大阪府通達,
役割分担表,会場図を配布し,平成23年度卒業式に関して教育長から職
務命令が発出されたこと,式場内の教職員は,国歌斉唱の際に起立して斉
唱すること,これは,I校長からの職務命令であるとして,本件B職務命
令を発した。
原告Bは,同職員会議において,東京の裁判でも処分は慎重にするよう
に判決が出ている,反対意見が言えない状態はおかしい,ファシズムの戦
前と同じである,3回でくびにする道筋をつけている,何も言えない職場
になる旨述べた。
(甲B20,乙B3)
ウI校長は,平成23年2月28日,原告Bに対し,卒業式当日を勤務日
に振り替える手続をとるか尋ねたが,原告Bは,とらない旨回答した。
I校長は,原告Bに対し,当日は休日なので参加を控えてほしい,参列
する場合は保護者席でお願いしたい,職員席にいて座れば懲戒・指導の対
象になることを伝え,原告Bは「はい」と答えた。
(甲B20,乙B3)
エ原告Bは,「私は平成24年2月29日に本校体育館でおこなわれた第
5回卒業証書授与式の国歌斉唱時に着席をしました。私は卒業式前の職員
会議において国歌斉唱時には起立し斉唱するようにとの職務命令が多くの
先生方に出されたことを確認しております。尚,私は卒業式当日,勤務日
ではありませんでしたが,卒業式に出席し,職員席にて式に参列しました。」
と記載した顛末書を提出した(乙B2)。
オ府教委は,平成24年3月6日,I校長立会いの下で,原告Bに対する
事情聴取を行った。
(ア)原告Bは,同年2月14日のI校長とのやり取りの内容が,おおむ
ね上記ア(イ)のとおりである旨認めた。また,原告Bは,同日のI校長と
のやり取りの時点において,教職員席に着席する意思であった旨述べた。
(イ)原告Bは,同月28日のI校長とのやり取りの内容が,おおむね上
記ウのとおりである旨認めた。また,原告Bは,同日のI校長とのやり
取りの時点においても,教職員席に着席する意思であった旨述べた。
(ウ)原告Bは,I校長の指導に反している認識はなかったかと尋ねられ
たのに対し,ビラを配布することを勤務時間中に行うことはよくないと
考えていたことから,年休を取得していましたので,今回も同じ行動を
したという認識で,指導に反しているという自覚はなかった旨回答した。
(エ)原告Bは,当初から校長の事前の指導に反して勤務を要しない日で
あるにもかかわらず,卒業式に参列し教職員席に座り,国歌斉唱時に着
席する予定だったのですねと尋ねられたのに対し,突発的に考えたこと
ではなく,意識的に行動したものである旨回答した。
(以上につき,乙B2)
カ原告Bは,本件B戒告処分後に行われた資質向上研修を受講した。
キ原告Bは,平成24年3月12日付けで,意向確認書のうち,「今後,入
学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む」と印字された部分
に横線を引いて削除して,提出した(乙B6)
クI校長は,上記キの後,原告Bと面談を行った。その後,原告Bは,平
成24年3月13日付けで,上記キで削除した部分の上部に,手書きで,
「今後,入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む」と記載
して意向確認書を提出した。
(甲B6,乙B5)
(3)原告Cに関する事実経緯
アJ校長は,平成25年1月24日の職員会議において,同年2月7日に,
卒業式時の職務命令を発出する旨伝えた(乙C2,3)。
イJ校長は,平成27年2月7日の職員会議において,教職員に対し,本
件大阪府通達,役割分担表及び会場図を配布し,教育長から職務命令が出
ていること,式場内の教職員は,国歌斉唱の際に起立して斉唱すること,
J校長からの職務命令であること,双方の職務命令に従わない場合,服務
上の責任が問われる旨述べ,本件C職務命令を発した(乙C2,3)。
ウJ校長は,卒業式後,原告Cに対し,望ましい形であったかどうかを尋
ねたが,原告Cは,「それについては,こちらからは何も言わない」旨回答
した。J校長が,国歌斉唱時に不起立であったことを確認しようとしたが,
原告Cは,「こちらからは言うことはない」旨回答した。
(乙C2,3)
エJ校長は,平成25年3月1日,原告Cに対し,顛末書の提出を求めた。
原告Cは,顛末書を提出する意思はない旨表明した。J校長は,職務命令
違反に関する顛末書であることを告げ,顛末書に記載する内容及び提出期
限が同月4日午前9時であることを説明したが,原告Cは,期限までに提
出しなければ,提出の意思がないととってもらっていい旨述べた。
(乙C2,3)
オJ校長は,平成25年3月4日,原告Cに対し,顛末書の提出を求めた
が,原告Cは提出しない旨表明した(乙C2,3)。
カ府教委は,平成25年3月5日,J校長立会いの下で,原告Cに対する
事情聴取を行った。
(ア)原告Cは,府教委担当者から,本件C職務命令を受けたことが間違
いないか尋ねられたことについて,「職員会議には出席していたと思いま
す。雑件が色々あったので覚えていません。命令があったのかもしれな
いし,なかったかもしれません。」と回答した。
(イ)府教委担当者が,J校長に対し,本件C職務命令を発したことを確
認した上で,再度,原告Cに対し,本件C職務命令を受けたか尋ねられ
ると,原告Cは,「校長がそう言うならそうだったんでしょう。」と回答
した。
(ウ)府教委担当者は,原告Cに対し,卒業式において,国歌斉唱時に起立
して斉唱しなかったことは間違いないか尋ねると,原告Cは,「お答えし
かねます。」と回答した。
(エ)府教委担当者が,原告Cに対し,国歌斉唱時にあなたが不起立であ
ったことは管理職が現認されていますが,このことについてはどういう
認識であるか尋ねると,原告Cは,「管理職とは誰ですか。管理職という
人はいません。」と回答した。
(オ)府教委担当者が,再度,起立斉唱したか尋ねると,原告Cは,「お答
えしかねます。」と回答した。
(カ)原告Cは,府教委担当者から,顛末書を提出していないことの理由
を尋ねられたことについて,「出す必要がないと思ったからです。」と回
答した。
(キ)原告Cは,府教委担当者から,国歌斉唱時に起立して斉唱しなかっ
た理由を尋ねられたことについて,「答えられません。」と回答した。
(ク)原告Cは,府教委担当者から,自らの行為を反省しているか尋ねら
れたことについて,「答えられません。」と回答した。
原告Cは,府教委担当者から,今後,入学式や卒業式において参列す
る場合,教育長からの文書による職務命令に従うか尋ねられたことにつ
いて,「わかりません。今日は答えられません。」と回答した。
(以上につき,乙C1)
キ原告Cは,本件C戒告処分後に行われた資質向上研修を受講した。
ク原告Cは,平成25年3月13日付けで,「偏狭な国家主義と排外主義に
よって引き起こされた戦争の惨禍への反省を込めて制定された日本国憲法
の精神を遵守し,その支配下で制定された地方公務員法第32条,第29
条第1項第1号及び第3号を含む地方公務員法の諸規程を守ります。」と記
載した書面を提出した(甲11のΑげ毅達粥な柤世料桓饂檗法
ケ再任用教職員採用審査会は,平成25年3月15日,原告Cが,今後,
入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に
従うかどうかを確認することとした(甲11のΑな柤世料桓饂檗法
コ(ア)J校長は,平成25年3月22日,原告Cと面談し,原告Cが,意向
確認書について,上記クのとおり記載したことに関し,今後,入学式や
卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従うと
いう趣旨が含まれているのか否かを確認したい旨告げた。
原告Cは,「それ以上のことは書く必要がないと思います。しかも先生
も出席しておられたと思いますが,処分辞令交付後の研修事項に関して
は,研修と称した何分かのレジュメや話の範囲にちゃんと,それに従っ
ていると思いますが。それを敢えて,何故,おっしゃられるのですか。
何を教育委員会が要求されているのですか。しかも,『書き換えてもいい
ですか』と申し上げたら,『書き換えても結構です』,『出しても,出さな
くても自由です』,『ただし,それによっては再任用に影響することもあ
ります』ということもおっしゃいました。そのとおり出しました。処分
理由を踏まえて,そこに書いたにもかかわらず,改めて,また取り立て
て,それだけをそうして要求するのは,それに従えという話でしかない
し,踏絵を踏めということでしかないです。」,「私は,思想や価値観に関
する確認については,お断りしますよ。価値観については,あらかじめ
言っておきますよ。」などと述べた。
(イ)J校長は,原告Cに対し,意向確認書に加筆修正したことが,今後,
入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令
に従うという趣旨が含まれているのかいないのか,回答を求めた。
原告Cは,「そのことについては,言えませんし,お断りします。それ
については,回答する必要はないと思います。いくら校長であっても,
価値観であるとか,そんなことを校長に述べる必要はないと思います。
それは私の思想信条でしょう,それは。思想調査をしてどうするのです
か。それこそプライバシー保護条例違反でしょう。」,「私は,職務命令に
は従います。法律に従うことを誓いますと言っているのです。それで十
分じゃないですか。」,「私は,これで十分だと思っているのです。それで
判断してください。」,「先ほどからお答えしているように,そういうこと
自身がプライバシー条例違反ですよと言っているのです。そのことに対
する明確な返答がない限り,私は答える必要がないと思います。」などと
回答した。
(ウ)J校長が,「C先生は,思想調査にあたるので答えられないと言い,
私の方は,意向確認の文言での意向確認はできなかったということです。」
と述べると,原告Cは,「それは,意向確認ができなかったということは,
校長先生の感想なんでそれで,結構ですが,私の意向はこれです。」と述
べた。
(甲C4)
サJ校長は,平成25年3月23日,原告Cと,電話で,上記クの書面に
関する会話をした(甲C5)。
シJ校長は,平成25年3月25日,原告Cと面談し,同月22日及び同
月23日のやり取りを踏まえたメールの内容について,原告Cに確認を求
めた(甲C5)。
スJ校長は,平成25年3月26日,原告Cと面談し,上記クの書面の内
容について,これまでのやり取り等を確認した(甲C6)。
2争点1(再任用合格決定の取消し,再任用合格決定を取り消す旨の通知,再
任用の任期更新合格決定の取消し,再任用の任期を更新しない旨の通知の行政
処分性如何)について
(1)原告らは,再任用合格決定の取消し,再任用合格決定を取り消す旨の通知,
再任用の任期更新合格決定の取消し,再任用の任期を更新しない旨の通知が
行政処分性であると主張する。
しかしながら,前記前提事実(2)のとおり,再任用制度は,定年等により一
旦退職した一般職の地方公務員を,従前の勤務実績等に基づいて選考を行い,
1年を超えない範囲で任期を定め,常時勤務を要する職又は短時間勤務の職
に採用するという制度であり,任命権者である府教委は,採用するか否かに
ついて広範な裁量権を有しているのであって,再任用選考の申込みをした者
全員を合格させなければならないものではなく,また,合格者を全員必ず採
用しなければならないものでもない。
そして,再任用であっても,その勤務関係は公法上の任用関係である以上,
任用行為がなされて初めて公務員としての地位を取得するものであり,いま
だ任用行為がない時点においては,再任用を希望する者と被告大阪府との間
において何らの法律関係も形成されていないといわざるを得ない。そして,
この点は,再任用の任期更新についても同様である。そうすると,再任用合
格決定が取り消され,あるいは再任用の任期更新合格決定が取り消されたと
しても,そのこと自体から原告らの権利又は法律上の地位には変動が生じる
ということにはならない。
以上からすれば,再任用合格決定の取消しとその通知あるいは再任用の任
期更新合格決定の取消しとその通知とを,一体のものとみるのか別個のもの
とみるのかにかかわらず,これらについて,行政処分であると解することは
できない。
(2)なお,原告らは,地方公務員について,再任用制度,高年法の趣旨等に照
らせば,再任用を希望すれば,65歳まで地方公務員としての身分が継続し,
再任用をしない旨の通知を行った場合にのみ地方公務員の身分が消滅する
と解すべきである旨主張する。
しかしながら,地方公務員は,定年(60歳)に達したときは,定年に達
した日以後における最初の3月31日までの間において,条例で定める日に
退職するのであり(地公法28条の2第1項),定年に達しても,地方公務員
の身分を喪失しない(退職しない)というのは,明らかに地公法の定めに反
する。また,ある者を地方公務員に任用するためには,その前提として,当
該人物が地方公務員としての身分を有していないことが当然の前提となり,
「再任用」という文言からも,一度退職した者を改めて任用する制度である
ことが明らかである。したがって,原告らの上記主張は,採用することがで
きない。
(3)以上のとおり,原告らの訴えのうち,再任用合格決定の取消し,再任用合
格決定を取り消す旨の通知,再任用の任期更新合格決定の取消し,再任用の
任期を更新しない旨の通知に行政処分性があることを前提として,それらの
取消しを求める部分は,上記説示した限りで,不適法な訴えであるから,い
ずれも却下を免れない。
3争点2(再任用拒否処分,再任用任期更新拒否処分の有無及び行政処分性如
何)について
原告らは,被告大阪府が,再任用拒否処分あるいは再任用任期更新拒否処分
という行政処分をした旨主張する。
しかしながら,上記2で認定説示したとおり,再任用制度は,定年等により
一旦退職した一般職の地方公務員を,従前の勤務実績等に基づいて選考を行い,
1年を超えない範囲で任期を定め,常時勤務を要する職又は短時間勤務の職に
採用するという制度である以上,定年となり,あるいは,定められた任期が満
了すれば任用関係が終了するものであり,同任用関係は,当然に更新されるも
のではないこと,再任用制度において,任命権者である府教委は,再任用選考
の申込みをした者全員を合格させなければならないものではなく,また,合格
者を全員必ず採用しなければならないものでもないこと,これらの点は再任用
の任期更新についても同様であること,再任用であっても,その勤務関係は公
法上の任用関係である以上,任命権者による任用行為がなされて初めて公務員
としての地位を取得するものであって,本件においては,府教委が,原告らに
対する任用行為をしなければ,原告らが再任用職員としての法的地位を取得す
ることもないこと,以上の点に鑑みると,被告大阪府(ないし府教委)として
は,原告らを再任用しない,あるいは再任用の任期を更新しないということで
あれば,原告らに対する任用行為自体を行わなければ足りることであって,あ
えて,「再任用拒否処分」あるいは「再任用任期更新拒否処分」をする理由も必
要性もない。なお,本件において,被告大阪府(ないし府教委)が,原告らに
ついて再任用拒否処分あるいは再任用任期更新拒否処分を行ったという事実
を認めるに足りる的確な証拠は認められない。
したがって,被告大阪府(ないし府教委)が,再任用拒否処分あるいは再任
用の任期更新の拒否処分という処分を行っていない以上,その限りにおいて,
原告らの訴えのうち,再任用拒否処分あるいは再任用任期更新拒否処分の取消
しを求める部分は,不適法な訴えであり,いずれも却下を免れない。
4争点3(原告らの訴えのうち,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任
期更新の義務付けを求める部分が,それぞれ申請型の義務付け訴訟に当たるか)
について
原告らは,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任期更新の義務付けを
求める部分が申請型の義務付け訴訟に当たる旨主張する。
(1)ところで,申請型の義務付け訴訟を提起するには,「行政庁に対し一定の
処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合にお
いて,当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがさ
れないとき」(行訴法3条6項2号)であることが必要であるところ,再任用
あるいは再任用の任期の更新について,任命権者に対し,申請することがで
きることを定めた法令の規定は存在しない。
この点,原告らは,「法令に基づく申請」とは,法令が明文で申請権を認め
ている場合に限らない旨主張する。しかしながら,上記2及び3においてそ
れぞれ説示したとおり,任命権者である府教委は,再任用選考の申込みをし
た者全員を合格させなければならないものではなく,また合格者全員を必ず
採用しなければならないものでもないことからすれば,原告らが主張する要
綱等をもって,「法令に基づく申請」に当たるということはできない。
(2)したがって,原告らの訴えのうち,申請型の義務付け訴訟として,再任用
の義務付けあるいは再任用の任期の更新の義務付けを求める部分は,その限
りにおいて,不適法な訴えであるから,いずれも却下を免れない。
5争点4(原告らの訴えのうち,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任
期更新の義務付けを求める部分が,いずれも申請型の義務付け訴訟に当たらな
いとした場合,非申請型の義務付け訴訟の要件を満たすか)について
原告らは,再任用の義務付けを求める部分,再任用の任期更新の義務付けを
求める部分が非申請型の義務付け訴訟の要件を満たす旨主張する。
(1)ところで,非申請型の義務付け訴訟は,「一定の処分がなされないことに
より重大な損害を生ずるおそれがあり」(重大性),かつ「その損害を避ける
ため他に適当な方法がないときに限り」(補充性)提起することができるとさ
れる(行訴法37条の2)ところ,仮に,原告らが再任用あるいは再任用の
任期更新をされるべきであったとした場合,原告らに生じる主たる損害は,
労務提供の対価である給与の喪失ということになるが,同損害については,
同給与相当額の支払請求をすることによって十分に損害の回復を得ること
が可能というべきであるから,補充性の要件を満たさないというほかない。
(2)したがって,原告らの訴えのうち,非申請型の義務付け訴訟として,再任
用の義務付けあるいは再任用の任期更新の義務付けを求める部分は,不適法
な訴えであり,いずれも却下を免れない。
6争点5(実質的当事者訴訟として,教員の地位にあることの確認を求めるこ
とができるか)について
原告Aについては,被告高槻市に対して高槻市公立学校教員たる地位にある
ことの,その他の原告らについては,被告大阪府に対して大阪府立高等学校教
員たる地位にあることの各確認を求めている。
(1)この点,上記2及び3において説示したとおり,再任用であっても,その
法律関係は公法上の任用関係である以上,任用行為がなされて初めて公務員
としての地位を取得するということになるのであるから,原告らが,上記の
ような高槻市公立学校教員たる地位あるいは大阪府立高等学校教員たる地
位を取得するためには,原告らに対して,任用権者による任用行為が行われ
ることが必要である。しかしながら,本件において,原告A及び原告Cは,
いずれも定年退職をし,その後再任用されておらず,また,原告Bについて
も,再任用期間満了後,再度任用されていない(前記前提事実(1))。そうする
と,原告らについては,いずれも任用権者による任用行為が存在しない。
(2)また,地方公務員について,再任用制度,高年法の趣旨等に照らせば,再
任用を希望すれば,65歳まで地方公務員としての身分が継続し,再任用を
しない旨の通知を行った場合にのみ地方公務員の身分が消滅すると解すべ
きである旨の原告らの主張に理由がないことは,上記2で説示したとおりで
ある。
(3)以上によれば,原告らの請求のうち,高槻市公立学校教員たる地位あるい
は大阪府立高等学校教員たる地位を有することの確認を求める部分は,いず
れも理由がないといわざるを得ない。
7争点6(府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が原告らの思想及び
良心の自由[憲法19条],信教の自由[憲法20条]を侵害するか)について
(1)ア原告らは,府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が,原告
らの思想及び良心の自由,信教の自由を侵害するものである旨主張する。
しかしながら,府国旗国歌条例が公布・施行された当時,あるいは本
件各通達や本件各職務命令が発令された当時,公立学校における卒業式
等の学校行事において,国歌としての君が代の斉唱が広く行われていた
ことは周知の事実であって,学校の儀式的行事である卒業式等の式典に
おける国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,一般的,客観的に見て,これら
の式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであ
り,かつ,そのような所作として外部からも認識されるものというべき
である。したがって,上記起立斉唱行為は,その性質からみて,原告ら
の有する歴史観,世界観,宗教観,人生観,主義,主張を否定すること
と不可分に結び付くものとはいえず,原告らに起立斉唱を求める本件各
通達や本件各職務命令は,上記の歴史観,世界観,宗教観,人生観,主
義,主張それ自体を否定するものということはできない。また,上記起
立斉唱行為は,その外部からの認識という点から見ても,特定の思想又
はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価する
ことは困難であり,職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場
合には,上記のように評価することは一層困難であるといえるのであっ
て,本件各通達や本件各職務命令は,特定の思想を持つことを強制した
り,これに反する思想を持つことを禁止したりするものではなく,特定
の思想の有無について告白することを強要するものということもでき
ない。また,本件各通達や本件各職務命令が,特定の宗教を信仰するこ
とを強制したり,これに反する宗教を信仰することを禁止したりするも
のでもない。そうすると,本件各通達及び本件各職務命令は,これらの
観点において,個人の思想及び良心の自由あるいは信教の自由を直ちに
制約するものと認めることはできないというべきである。
もっとも,上記起立斉唱行為は,一般的,客観的に見ても,国旗及び
国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができる。
そうすると,自らの歴史観,世界観,宗教観,人生観,主義,主張との
関係で否定的な評価の対象となる日の丸や君が代に対して敬意を表明
することには応じ難いと考える者が,これらに対する敬意の表明の要素
を含む行為を求められることは,その行為が個人の歴史観ないし世界観
に反する特定の思想の表明に係る行為そのものではないとはいえ,個人
の歴史観,世界観,宗教観,人生観,主義,主張に由来する行動(敬意
の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を
求められることとなり,その限りにおいて,その者の思想及び良心の自
由について間接的な制約となる面があることは否定し難い。他方で,個
人の歴史観,世界観,宗教観,人生観,主義,主張には多種多様なもの
があり得るのであり,それが内心にとどまらず,それに由来する行動の
実行又は拒否という外部的行動として現れ,当該外部的行動が社会一般
の規範等と抵触する場面において制限を受けることがあるところ,その
制限が必要かつ合理的なものである場合には,その制限を介して生ずる
上記の間接的な制限も許容され得るものというべきである。そして,こ
のような間接的な制約が許容されるか否かは職務命令等の目的及び内
容並びに上記制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に衡量して,上
記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かと
いう観点から判断するのが相当である(最高裁平成23年5月30日第
二小法廷判決・民集65巻4号1780頁,同平成23年6月6日第一
小法廷判決・民集65巻4号1855頁,同平成23年6月14日第三
小法廷判決・民集65巻4号2148頁,同平成23年6月21日第三
小法廷判決・裁判集民事237号53頁参照)。
イ(ア)以上を踏まえて本件についてみると,確かに,国歌斉唱時に起立
斉唱することは,原告らの歴史観,世界観,宗教観,人生観,主義,
主張との関係で否定的な評価の対象となるものに対する敬意の表明
の要素との関係において,その歴史観,世界観,宗教観,人生観,主
義,主張に由来する行動との相違を生じさせることになるという点で
は原告の思想及び良心の自由,信教の自由を間接的に制約する面があ
ることは否定できない。
(イ)しかしながら,他方で,学校の卒業式等という教育上の特に重要
な節目となる儀式的行事においては,生徒等への配慮を含め,教育上
の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが
必要であるといえる。また,法令等においても,学校教育法が高等学
校教育の目的として我が国と郷土の現状や歴史についての正しい理
解や伝統文化の尊重,他国の尊重や国際社会の平和と発展に寄与する
態度の慈養涵養を掲げ(学校教育法72条,51条1号,21条3号),
教育基本法も,伝統と文化を尊重し,それらを育んできた我が国と郷
土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与す
る態度を養うことを教育の目標として掲げ,国旗国歌法は,従来の慣
習を法文化して国旗は日の丸とし,国歌は君が代とする旨定めている。
さらに,府国旗国歌条例は,国旗国歌法や学習指導要領等の趣旨を踏
まえ,伝統と文化の尊重,我が国と郷土を愛する意識の高揚,国際社
会の平和と発展に寄与する態度の慈養及び府立学校等における服務
規律の厳格化を目的として,国歌斉唱の際に起立して斉唱することを
定めている(前提事実(3)イ)。
そして,全体の奉仕者として法令等及び上司の職務上の命令に従っ
て職務を遂行すべきこととされている地方公務員の地位の性質及び
その職務の公共性(憲法15条,地公法30条,32条)に鑑み,公
立の小学校や高等学校の教員である原告らは,法令等及び職務上の命
令に従わなければならない立場にあり,地公法に基づき,学習指導要
領を踏まえて,その勤務する学校の校長から学校行事である卒業式に
関して本件各職務命令を受けたものである。
(ウ)以上の点に照らすと,本件各通達及び本件各職務命令は,普通教
育の目標や卒業式等儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等
の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公
共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩
序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図る目的を有するものと
いうことができる。
(2)以上認定説示した点からすれば,本件各通達及び本件各職務命令は,
上記(1)アで述べたように外部的行動の制限を介して原告らの思想及び良
心の自由あるいは信教の自由についての間接的な制約となる面があるこ
とは否定できないものの,その目的及び内容並びに上記制限を介して生ず
る制約の態様等を総合的に衡量すれば,上記制約を許容し得る程度の必要
性及び合理性が認められ,これらの根拠となった府国旗国歌条例について
も,違憲・違法であるということはできない。
8争点7(府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が,児童・生徒の思
想及び良心の自由[憲法19条],学習権[憲法23条,26条]を侵害するか,
また,教師の教育の自由[憲法23条,26条]を侵害するか)について
(1)ア原告らは,府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が,児童・生
徒の思想及び良心の自由,学習権を侵害する旨主張する。
しかしながら,そもそも本件各通達及び本件各職務命令は,卒業式にお
いて,原告らを含む教職員に対し,国歌斉唱の際に起立斉唱することを命
じたものであって,児童に宛てて発出されたものではなく,上記7で認定
説示したとおり,その内容が憲法19条ないし20条に反することもない。
したがって,原告らの上記主張は,それ自体が失当であるといわざるを得
ない。
イまた,仮に,上記の点を措くとしても,憲法26条が子どもの学習権を
認め,教育はこの学習権を充足すべき責務として行われるべきものである
ことに照らせば,子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げ
るような国家的介入,例えば,誤った知識や一方的な観念を子どもに植え
付けるような内容の教育を施すことは許されないというべきであるが,本
件各通達,本件各職務命令は,君が代が国歌と規定され,一般に国旗国歌
に対する敬意の表明が慣例上の儀礼的な所作として尊重されることなどを
生徒らに感得させることを目的とするものであり,誤った知識や一方的な
観念を子どもに植え付けるような内容の教育を強制的に施すことを目的と
するものではない。
なお,原告らは,府国旗国歌条例は,一方的な観念を子どもに植え付け
るような内容の教育を施すことを強いるものである旨主張するが,上記説
示のとおり,国歌斉唱時の起立斉唱は,儀礼的な所作であり,特定の内容
の教育を施すものとはいえないのであるから,原告らの同主張は理由がな
い。
ウしたがって,府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が,児童・
生徒の思想及び良心の自由(憲法19条),学習権(憲法23条,26条)
を侵害するとの原告らの上記主張は理由がない。
(2)また,原告らは,府国旗国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が,教師
の教育の自由を侵害する旨主張する。
ア確かに,普通教育の場において,教師が公権力によって特定の意見のみ
を教授されないという意味において,また,子どもの教育が教師と子ども
との間の直接の人格的接触を通じ,その個性に応じて行われなければなら
ないという本質的要請に照らし,教授の具体的内容及び方法についてある
程度の自由な裁量が認めなければならないという意味において,教員にも
一定の範囲における教授の自由が認められるというべきである。しかしな
がら,大学教育の場合には,学生が一応教授内容を批判する能力を備えて
いると考えられるのに対し,普通教育においては,児童・生徒について,
このような能力がないか,あるいは,制限されており,教師が児童・生徒
に対して強い影響力,支配力を有していること,普通教育では,児童・生
徒の側に学校や教師を選択する余地が乏しく,教育の機会均等を図る上か
らも全国的に一定の水準を確保すべき要請があることなどからすると,普
通教育において,教師に完全な教授の自由を認めることはできないと解す
るのが相当である(最高裁昭和51年5月21日大法廷判決・刑集30巻
5号615頁参照)。
イそして,上記7において認定説示したとおり,府国旗国歌条例,本件各
通達,本件各職務命令は,普通教育の目標や卒業式等儀式的行事の意義,
在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位
の性質及びその職務の公共性を踏まえ,児童・生徒への配慮を含め,教育
上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図る目
的を有するものであって,直接に児童・生徒に対する教育内容や方法に関
して発出されたものとはいえないことに加えて,卒業式等の学校行事は,
個々の教員が行う授業等とは異なり,全卒業生,全在学生及び教職員並び
に保護者等も含めた参加者が,一定の式次第に従って行う教育課程におけ
る特別活動の一部として実施される儀式であること,国歌斉唱時の起立斉
唱が儀礼的な所作であることなどをも併せ考慮すれば,本件各通達,本件
各職務命令が児童・生徒に対して誤った知識や一方的な観念を植え付け,
児童・生徒の自由かつ独立した人格形成を妨げるかのような内容の教育を
施すことを教員に強制するものとはいえず,教師の教育の自由に対する侵
害や教育内容に対する介入であるとは認められない。
ウ以上によれば,原告らの上記主張は理由がない。
9争点8(府国旗国歌条例が憲法94条に反するか)について
(1)条例が国の法令に違反するかどうかは,両者の対象事項と規定文言を対比
するのみでなく,それぞれの趣旨,目的,内容及び効果を比較し,両者の間
に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。例えば,
ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも,
当該法令全体からみて,右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制
をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは,これ
について規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなり得るし,
逆に,特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合で
も,後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり,その適用
によって前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないとき
や,両者が同一の目的に出たものであっても,国の法令が必ずしもその規定
によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく,それぞれの普
通地方公共団体において,その地方の実情に応じて,別段の規制を施すこと
を容認する趣旨であると解されるときは,国の法令と条例との間にはなんら
の矛盾牴触はなく,条例が国の法令に違反する問題は生じ得ない(最高裁昭
和50年9月10日大法廷判決・刑集29巻8号489頁参照)。
(2)以上を踏まえて本件についてみると,国旗国歌法は,国旗を日の丸とし,
国歌を君が代と定めるものであり,従前の慣習を法文化したものであること,
教育基本法2条5号は,伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が
国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与す
る態度を養うことを教育の目標として掲げていること,他方,府国旗国歌条
例は,伝統と文化の尊重,我が国と郷土を愛する意識の高揚,国際社会の平
和と発展に寄与する態度の慈養及び府立学校等における服務規律の厳格化を
目的として,国歌斉唱の際に起立して斉唱することを定めていること,以上
の点が認められる。
以上のような規定等に鑑みれば,学校の式典において国歌斉唱時に起立斉
唱を命じる職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在
り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿い,かつ,地方公務員の地位
の性質及びその職務の公共性を踏まえた上で,生徒等への配慮を含め,教育
上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るもの
であるということができるから(最高裁平成23年5月30日第二小法廷判
決・民集65巻4号1780頁参照),府国旗国歌条例は,国旗国歌法,教育
基本法の趣旨に沿うものであり,その目的及び効果を阻害するものではなく,
矛盾抵触するものとはいえない。
(3)また,教育基本法の規定と府国旗国歌条例の規定に照らすと,両者の趣旨,
目的には共通する部分があるとはいえるものの,他方で,教育基本法は基本
的な理念等を定めたものであり,その理念は全国共通のものであるが,同法
は「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」
とも規定しているところ,各郷土について学ぶためには,各地方ごとの状況
に応じた内容とする必要があり,また重要な節目となる儀式的行事としてふ
さわしい秩序・雰囲気が確保されているかなどの実情に応じた対応とするこ
とも必要であることからすれば,必ずしも全国的に一律の内容,対応とする
ことまで想定しているものとは解されない。そうすると,教育基本法と府国
旗国歌条例との間に矛盾抵触があるということもできない。
(4)以上によれば,府国旗国歌条例が憲法94条に違反する旨の原告らの主
張は理由がない。
10争点9(本件A職務命令が憲法28条,地公法56条に反するか)につい

原告Aは,本件A職務命令がEに対する嫌悪の情に基づくものであり,憲法
28条,地公法56条に違反する旨主張する。
(1)確かに,平成23年度の卒業式に関して,市教委から,個別に,国歌斉唱
時に起立斉唱する旨の職務命令を受けた教職員は原告Aを含めて4名であっ
たところ,その全員がEの組合員であり,他方,Eの組合員以外で同様に個
別の職務命令を受けた教職員は存在しない。
(2)しかしながら,証拠(証人有馬)及び弁論の全趣旨によれば,被告高槻市
の教職員で,事前の意思確認において,平成23年度の卒業式で国歌斉唱時
に不起立の意思を表明した教職員及び起立又は不起立の意思を明らかにしな
かった小学校の教職員は合計17名であったこと,そのうち,上記4名を除
く13名は,校長の指導の結果,指導に従う旨を表明したこと,以上の点が
認められる。そして,市教委とすれば,教職員が国歌斉唱時に起立斉唱する
旨の指導に従う旨を表明したのであれば,個別に職務命令を発出する理由も
必要性もない。
そうすると,市教委が個別に職務命令を発出した4名全員がEの組合員で
あったとしても,それは,国歌斉唱時に起立斉唱する意思を表明しなかった
ことから職務命令を発出する理由及び必要性があった教職員が,結果的にE
の組合員であったというにすぎないと認めるのが相当であって,その他に,
原告Aの同主張を認めるに足りる的確な証拠は認められない。
(3)したがって,原告Aの上記主張は採用できない。
11争点10(本件各職務命令が,自由権規約18条1項,2項及び19条1
項等に反するか)について
原告らは,本件各職務命令が,自由権規約18条1項,2項及び19条1項
等に反する旨主張するが,上記7において認定説示したとおり,本件各職務命
令は,思想及び良心の自由あるいは信教の自由を侵害するものではなく,同様
に,意見を持つ自由に対する制限を課すものともいえない。
したがって,原告らの同主張は失当であるといわざるを得ない。
12争点11(本件各通達が有効な職務命令に当たるか)について
原告らは,本件各通達は教育活動の一環そのものであり卒業式に関するもの
であるとした上で,教育委員会の職務は「教育に関する事務」であって「教育」
そのものではなく,教育長は,各学校の教職員に対して,直接に指示・命令す
ることができる「権限がある職務上の上司」には当たらないとして,本件各通
達は有効な職務命令に当たらない旨主張する。
(1)しかしながら,本件各通達は,府国旗国歌条例の定める府立学校の行事に
おいて行われる国歌斉唱の際に,式場内の教職員に起立斉唱することを命じ
るために発出されたものであり,児童・生徒に対する教育内容やその方法に
関して発出されたものではあるとは認められない。したがって,本件各通達
が,教育内容やその方法に関するものであるとする原告らの主張は前提を欠
き,その限りにおいて,失当といわざるを得ない。
また,教育長は,教育委員会の指揮監督の下に教育委員会の権限に属する
全ての事務をつかさどると規定されているところ(平成26年法律第76号
による改正前の地教行法17条1項),教育委員会の権限には教職員の服務
の監督に関する事務が含まれているのであるから,教育長は,教職員に対す
る服務の監督について執行権限を付与されており,地公法32条の「上司」
として,教職員に対して本件各通達を発する権限を有するものと解するのが
相当である。
(2)したがって,本件各通達は有効な職務命令であると認められるから,原告
らの上記主張は理由がない。
13争点12(本件B職務命令が有効な職務命令に当たるか)について
(1)原告Bは,卒業式が行われた平成24年2月29日は勤務日ではなかった,
ビラ配布を禁止することは合理的な範囲を超えているとして,本件B職務命
令が有効な職務命令に当たらない旨主張する。
ア確かに,原告Bは,平成24年2月29日について,(午前の)半日休暇
を取得していたことが認められる。
イこの点,卒業式における教職員席は,その設置された位置に照らしても,
卒業式の挙行という職務を遂行する教職員のために設けられた席であると
認められるから,卒業式の参列に当たって教職員席に着席するということ
は,同卒業式において,学校長の指揮監督下において,職務を遂行するこ
とを意味するものであると認めるのが相当である。また,卒業式に参列し
た児童・生徒,保護者等からみても,教職員席で参列していれば,当該教
職員が,職務遂行中であり,学校長の指揮監督下にあるとの認識を有する
ものと認められる。そうすると,卒業式において教職員席に着席している
教職員は,教職員としてふさわしい行動をとることが求められることにな
り,卒業式の進行等も踏まえると,同教職員は,学校長の指揮監督下に入
ることが必要ということになる。
ウところで,原告Bは,事前に,I校長から,卒業式に参列するのであれ
ば,保護者席で参列するか,勤務日に振り替えた上で教職員席で参列する
こと,教職員席にいて国歌斉唱時に着席すれば,懲戒や指導の対象になる
という指導を受けていたのであるから,教職員席で参列するということで
あれば,校長の指揮監督下に入ることになることを十分に認識理解してい
たと認められる。そして,原告Bは,そのような状況及び認識下で,自ら
の意思で教職員席に着席して卒業式に参列したということであるから,学
校長の指揮監督下に入ることとなり,同卒業式においてI校長が全教員に
発した職務命令(卒業式における国歌斉唱時には起立して斉唱すること)
の効力が及ぶ対象者になるというべきである。
エしたがって,本件B職務命令は有効な職務命令であると認められるから,
原告Bの上記主張は理由がない。
(2)原告Bは,「職務命令に関する手続きについて」(甲5)において,「勤務日
でない再任用教職員に対して,起立斉唱を命じることは可能か」という問い
に対し,「勤務を要しない再任用教職員においては,職務命令を発することは
できない」と記載されている点を指摘する。
しかしながら,上記記載は,休暇を取得しており,校長の指揮監督下で入
学式・卒業式を挙行するという職務に従事しない教職員は職務命令の対象外
となるという当然のことを確認したものであり,上記(1)イで認定説示した点
(校長等の指揮監督下に入って,職務命令の対象者となるという点)からす
ると,上記の記載があることをもって,本件B職務命令の有効性が左右され
るものではない。
(3)なお,I校長は,原告Bに対し,卒業式に際し,ビラを配布しないよう指
導しているところ,原告Bは,そのような指導は,公務としての地位あるい
は職務との関係において合理的な範囲を超えている旨主張する。
ア確かに,私生活領域における活動は,基本的には公務の遂行とは無関係
に行われるものであり,公務の円滑な遂行や公務に対する信頼性の確保と
は,基本的には無関係であるから,懲戒処分や指導の対象となるものでは
ない。
もっとも,私生活領域における活動であれば,いかなる活動であっても
懲戒処分や指導の対象とならないものではなく,公務の遂行に影響を与え
るものや,公務に対する信頼性を害するものについては,懲戒処分や指導
の対象となると解するのが相当である。
イ以上を踏まえて本件についてみると,原告Bが,卒業式当日に校門外側
でビラを配布すれば,その姿を見た生徒・保護者等の来校者としては,原
告Bが,教職員としての立場でビラを配布していると認識することは十分
に考えられるところであり,しかも,原告Bが,ビラを配布していたのが
校門のすぐ外側であったこと,ビラ配布後,原告Bが卒業式において教職
員席に着席したことをも併せ考慮すれば,尚更である。そうすると,本件
大阪府通達,本件B職務命令に反する内容のビラを卒業式当日に卒業式の
会場である学校の校門前で配布するという行為は,原告Bの主観はさてお
き,外形的・客観的には公務に対する信頼性を阻害する行為であると認め
られるから,指導の対象となるというべきである。
ウ以上によれば,原告Bの上記主張は理由がない。
14争点13(本件各処分に裁量権の逸脱・濫用があるか)について
(1)公務員に対する懲戒処分の適否に係る判断枠組みについて
公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認
められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員
の前記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の
公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべき
かどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定
する裁量権を有しており,その判断は,それが社会通念上著しく妥当を欠い
て裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法と
なるものと解される(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集
31巻7号1101頁,最高裁平成2年1月18日第一小法廷判決・民集4
4巻1号1頁参照)。
(2)原告B戒告処分について
ア本件B戒告処分の対象とされている非違行為の態様は,原告Bが,職員
会議において,I校長から,本件大阪府通達が発出されていること,I校
長からの職務命令として,卒業式における国歌斉唱時には起立斉唱するこ
とを告げられ,また,別の機会に,個別に,I校長から,卒業式の日は勤
務を要しない日なので参列を控えていただきたい,仮に,参列する場合は,
保護者席で参列すること,もし,教職員席にいて国歌斉唱時に座れば懲戒
や指導の対象となることを告げられていたにもかかわらず,卒業式におい
て,教職員席で参列し,国歌斉唱がなされる際に,起立斉唱することなく
着席したというものである。
原告Bの同非違行為は,重要な節目の学校行事である卒業式という式典
において行われた教職員による職務命令違反であり,学校の儀式的行事と
しての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらすものである。
そして,上記7ないし9,11ないし13でそれぞれ認定説示したとお
り,本件B職務命令は,憲法19条,23条,26条,94条等に違反す
るものではなく,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方
等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質
及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事に
ふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであって(最
高裁平成23年6月6日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁等参
照),このような観点から,その遵守を確保する必要性があったということ
ができる。
原告Bは,I校長から,原告Bが卒業式の日に半休を取得することにつ
いて勤務日に振り替えるよう求められたことはなく(I校長が指摘したの
は教職員席で参列するのであれば勤務日に振り替える必要があるという趣
旨である。),また,I校長から,勤務日に振り替えないままで卒業式に参
列するのであれば保護者席で参列すること,教職員席で参列すれば,職務
命令の対象となり,従わなければ懲戒や指導の対象となることを告げられ
ていたところ,原告Bが卒業式に参列して生徒の卒業を祝うというのであ
れば,I校長の助言・指導に沿って行動すれば,職務命令違反となること
を避けることが十分に可能であったものである。このように,I校長が,
原告Bに対して,懲戒処分を避け得る選択肢を提示するなど配慮を行った
にもかかわらず,原告Bは,勤務日に振り替えるという手続をとることな
く,教職員席で参列し,国歌斉唱時に,着席し,斉唱しなかったというも
のである。
以上のような経緯等に鑑みれば,本件B戒告処分の対象となった卒業式
の国歌斉唱時における不起立行為は,式場内の役割を与えられて式場内に
いた教職員が国歌斉唱時に起立斉唱をしなかったという事案とは異なり,
殊更,卒業式の国歌斉唱時における不起立という行為に積極的かつ意図的
に及んだものというほかなく,かかる行為は,地方公務員として期待され
る規律や秩序を保持する義務や学校行事の厳粛性よりも,原告B自らの歴
史観,世界観,人生観,主義,主張等を優先させたものというほかない。
イ原告Bは,府国旗国歌条例,本件大阪府通達,本件B職務命令が違憲・
違法であると主張するほか,仝狭陦造旅坩戮蓮ぞ旦謀不作為にすぎず,
何ら実質的な問題を引き起こしていない,勤務日でなかったから卒業式
の日に学校に出てくる行為は制止されておらず,ビラを配布した行為をI
校長が制止することはできない,2告処分自体が相当に重い処分である
ところ,本件B処分は,動機,性質及び結果等からみても,過剰にすぎ,
比例原則ないし平等原則に反する,な神24年3月12日に,意向確認
書を提出している旨主張する。
(ア)まず,上記7及び8で認定説示したとおり,府国旗国歌条例,大阪府
通達,本件B職務命令が違憲・違法であるとする原告らの主張は理由が
ない。
(イ)上記,療世砲弔い討蓮こ里に,原告Bが卒業式の国歌斉唱時に起
立斉唱を行わなかったことで,式典の進行が遅れるなどの事態は生じて
いない。しかしながら,上記したとおり,原告Bは,I校長の指導・助
言に反し,勤務日に振り替えるという必要な手続をとることなく,教職
員席で参列し,国歌斉唱時に着席するという行為に及んだものであって,
必ずしも消極的な不作為ということはできない。
また,既に説示したとおり,原告Bの行為は原告B職務命令違反行為
であること,他の教職員は起立斉唱している中で,原告Bのみが敢えて
着席しているという異質な行為であり,その行動は,卒業生,保護者等
の参列者からも認識可能なものであること,以上の点に鑑みると,原告
Bの行為は,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度
損なう作用をもたらすものというべきであるから,何ら問題を引き起こ
していないということもできない。
(ウ)△療世砲弔い討蓮ぞ綉13(1)のとおり,勤務日でないとの主張は
それ自体失当であること,ビラを配布した行為自体は懲戒処分の対象と
なる行為とはされておらず,飽くまでも事情であるものの,上記13(3)
のとおり,指導の対象となること,以上の点を指摘することができる。
(エ)の点については,仮に,原告Bが主張するように,非違行為につい
て,懲戒処分に至らない服務上の措置があるとしても,非違行為があっ
た場合には,非違行為の内容・態様,非違行為に至る経緯,非違行為後
の行為者の態度等,様々な事情を考慮して懲戒処分を行うか否か,行う
としてどのような処分を行うかが判断されるものであるから,懲戒処分
がなされていない非違行為があるからといって,直ちに,本件B戒告処
分が比例原則ないし平等原則に反することになるとはいえない。そして,
上記で認定説示してきた本件B戒告処分に関する事情,各種規定されて
いる懲戒処分における戒告の位置づけ等に照らせば,本件B戒告処分が
不当に重いということはできず,また,比例原則ないし平等原則に反す
るということもできない。
(オ)い療世砲弔い討蓮に楫錚族告処分は平成24年3月9日付けでな
されたものであるところ,原告Bの主張を前提としても,原告Bが意向
確認書を提出したのは本件B戒告処分後の同月12日である。そうする
と,処分後の事情が処分に影響を与えるものではないから,同主張自体
失当というほかない。
ウ以上の点を総合的に考慮すると,本件大阪府通達及び本件B職務命令の
違反を理由として原告Bに対して戒告処分をした府教委の判断が,社会通
念上著しく妥当を欠いて,懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを
濫用したものと認めることはできない。したがって,この点に関する原告
Bの主張は採用できない。
(3)原告C戒告処分について
ア上記(2)アで説示したとおり,卒業式の国歌斉唱時における不起立・不斉
唱という行為は,重要な節目の学校行事である卒業式という式典において
行われた教職員による職務命令違反であり,当該行為は,その結果,影響
として,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう
作用をもたらすものであること,本件C職務命令が憲法の各規定等に違反
するものではないこと,遵守を確保する必要性があったこと,以上の点が
認められる。また,原告Cは,卒業式の国歌斉唱時において,起立斉唱し
なかったところ,原告Cは,卒業式終了後に,J校長から,国歌斉唱時に
起立斉唱したか確認された際に回答しなかったこと(認定事実(3)ウ),そ
の後,J校長から,数回にわたり顛末書を提出するよう求められたが,結
局,顛末書を提出しなかったこと(認定事実(3)エ,オ),府教委からの事情
聴取において,本件C職務命令を受けたことの確認を求められた際にも,
「命令があったかもしれないし,なかったかもしれない」,「校長がそう言
うならそうだったんでしょう」などと対応をし(認定事実(3)カ(ア)(イ)),
国歌斉唱時に起立斉唱しなかったことについて確認を求められた際にも,
「お答えしかねます」として自らの行動を明らかにすることを拒絶したり
(認定事実(3)カ(ウ)),「管理職とはだれですか。管理職という人はいませ
ん」などという態度であったこと(認定事実(3)カ(エ)),以上の点が認めら
れるのであって,このような一連の原告Cの態度に鑑みれば,自らの職務
違反行為について,何ら反省していないことがうかがわれる。
以上の事情に,法律上,戒告処分それ自体によって法的地位に直接の不
利益を及ぼすものではないことをも併せ考慮すると,将来の昇給等への影
響や再任用等への影響を勘案したとしても,本件C職務命令違反に対し,
教職員の規律違反の責任を確認して将来を戒める処分である戒告処分をす
ることは,学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付けら
れるものであって,懲戒権者の裁量権の範囲内に属する事柄ということが
できる。
イ原告Cは,原告B同様に,府国旗国歌条例,本件大阪府通達,本件C職
務命令が違憲・違法であると主張するほか,仝狭陦辰旅坩戮鷲垪邂戮任
り,実質的には何ら悪影響を及ぼしていない,比例原則ないし平等原則
に反する旨も主張するが,これらの主張に理由がないことは,上記(2)イの
とおりである。
ウ以上の諸事情を総合的に考慮すると,本件大阪府通達及び本件C職務命
令の違反を理由として原告Cに対して戒告処分をした府教委の判断が,社
会通念上著しく妥当を欠いて,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用し
たものと認めることはできない。したがって,この点に関する原告Cの主
張は採用できない。
15争点14(再任用合格決定の取消し,再任用の任期更新合格決定の取消し
に裁量権の逸脱・濫用があるか)について
(1)ア本件条例及び本件要綱の内容等に鑑みれば,本件要綱に係る再任用制度
は,高齢者の生活保障のための雇用の確保という点のみならず,公務の能
率的運営の確保という趣旨も有していると解するのが相当である。そして,
本件要綱によれば,再任用制度は,定年等によりいったん退職した職員に
ついて,従前の勤務実績等に基づき新たに選考した上で,1年以内の任期
付職員として採用することができるとする制度であるから,任命権者であ
る市教委において,採用選考申込みがあれば希望者全員を合格させて採用
しなければならないという法的義務を負うものではなく,府教委は,採用
選考候補者の合否及び採否の判断に当たって,広範な裁量権を有している
と解するのが相当である。
イ原告らは,再任用合格決定の取消し,再任用の任期更新合格決定の取消
しに裁量権の逸脱・濫用がある根拠として,々眷法,総務省通知,総務
副大臣通知等を踏まえれば,任命権者は,原則として,再任用を認めるか
否かについて原則として裁量を有さず,特段の理由がある場合を除き,再
任用を法的に義務付けられる,◆嶌毒ね僂垢襪海箸適当でないと認めら
れる場合」とは,欠格事由又は分限免職事由がある場合に限られる,I
教委が,懲戒処分歴があることだけで再任用を拒否することにならない旨
繰り返し明らかにしている,と鏐霏膾緝椶虜毒ね兩度では高い合格率と
なっていること,原告らが一旦は再任用合格・再任用更新合格の判定が出
ていることから,次年度も教職員としての地位と収入を保障されるものと
解釈するのは当然である,グ娶確認書の提出を求めることは違憲で許さ
れないにもかかわらず,被告大阪府は,意向確認書について過重に重視し
ている旨それぞれ主張する。
(ア)ゝ擇哭△療世砲弔い討澆襪函ぞ綉アのとおり,再任用制度は高齢
者の生活保障のための雇用の確保という点のみならず,公務の能率的運
営の確保という趣旨も有していること,再任用制度であっても,公務員
の新規任用のための選考である以上,府教委が,その採否について広範
な裁量権を有していること,以上の点からすると,原告らの上記各主張
は採用することができない。
(イ)の点についてみると,懲戒処分がなされたとしても,懲戒処分の
対象となる非違行為の態様,非違行為前後の行為者の言動には様々なも
のがあるから,懲戒処分がなされたとしても,直ちに再任用が拒否され
るということになるものではない。そうすると,原告らが主張するよう
な事情があるからといって,直ちに再任用あるいは再任用の任期更新を
しないことが裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したということを
基礎付ける事情となるものではない。したがって,原告らの同主張は理
由がない。
(ウ)い療世砲弔い討澆襪函こ里に,被告大阪府の再任用制度において
は高い合格率となっていることが認められる。しかしながら,そもそも
大半の教職員は,通常の能力・規範意識を有しており,懲戒事由に該当
するような問題行動を起こすこともなく,教師としての能力にも特段の
問題がないとうかがわれる。また,合格率が高いとしても,全員が再任
用されるものでないことは原告らも自認するところであり,同制度の趣
旨目的等からして,再任用が適当でない事由があれば,再任用されない
こととなること自体特段不合理不相当なこととはいえない。
また,原告らについて,再任用合格決定あるいは再任用の任期更新合
格決定を取り消されることとなったのは,再任用合格決定あるいは再任
用の任期更新合格決定後の事情に基づくものであるところ,再任用合格
決定あるいは再任用の更新合格決定後に,再任用が適当でない事由が発
生すれば,同事由に基づいて,再任用合格決定あるいは再任用の任期更
新合格決定が取り消されたとしても何ら不合理不相当であるとはいえな
い。
以上からすると,原告らが主張する事情があるとしても,そのことを
もって裁量権の逸脱・濫用を基礎付ける事情とはならず,原告らの主張
は理由がない。
(エ)イ療世砲弔い討澆襪函ぐ娶確認書は,職務命令に従うことの確認
を求めるものであるところ,教職員が職務命令に従うのは当然のことで
あって,府教委として,職務命令違反行為があった者に対して,今後,
同様の行為に及ばないよう注意・指導する必要があること,府国旗国歌
条例,本件各通達,本件各職務命令が違憲・違法とはいえないこと,以
上の点に照らすと,再任用合格決定の取消しないし再任用の任期更新合
格決定の取消しの判断に当たって,職務命令に従う意向があることを確
認したことを考慮すること自体,違法不当であるとまでは認められない。
(オ)以上のとおりであって,原告らの上記各主張はいずれも採用するこ
とができない。
ウ原告Aについて
原告Aは,原告Aに対する再任用合格決定の取消しに裁量権の逸脱・濫
用があることの根拠として,(神23年度入学式以前から,国歌斉唱時
には着席しており,平成23年度卒業式においても国歌斉唱時に不起立す
ることは明らかにしており,そのことを踏まえて再任用合格決定がなされ
ている,∨楫錚漸告処分は,人事委員会において取り消されているから,
同処分をしたことを考慮することは許されない,9餡寮鴇Щに不起立を
しながら再任用された者もおり,不平等な取扱いである,ど楸軌僂了情
聴取の日時は「あゆみ」を児童に手渡さなければならない理由と必要性が
あった,府教委が改めて日程調整を申し入れるべきであった,ジ狭陦舛
は服務規律違反の行為がないから,研修を受講する義務も必要もなかった,
顛末書が不起立の理由を問い質すものであれば,意向確認書と同様に違
憲・違法であり,弁明を聞くものであれば,事情聴取と同様である旨主張
する。
(ア),療世砲弔い討澆襪函げ召妨狭陦舛従前から入学式・卒業式にお
ける国歌斉唱時に起立斉唱していなかったとしても,それらの際に国歌
斉唱時には起立斉唱することを命じる職務命令が発出されていなければ,
職務命令違反を理由とする懲戒処分の対象とはならない。そして,府国
旗国歌条例が施行されたのは平成23年6月13日であることをも踏ま
えると,本件A職務命令が発出された平成23年度卒業式とそれ以前の
卒業式や入学式とを同視することは相当とはいえない。
また,実際に,本件A職務命令が発出され,平成23年度卒業式の国
歌斉唱時に不起立という行為に及ばなければ非違行為とはならないので
あるから,仮に,原告Aが主張するとおり,原告Aが,平成24年1月
又は2月の時点において,平成23年度卒業式の国歌斉唱時における国
歌斉唱時に不起立とすることを明らかにしており,そのことを前提に再
任用合格決定がなされていたとしても,そのことをもって,裁量権の逸
脱・濫用を基礎付ける事情とはならない。
(イ)△療世砲弔い討澆襪函こ里に,原告A戒告処分は,人事委員会にお
いて取り消されている。しかしながら,同取消しの理由は,前記前提事
実(4)クのとおり,市教委の議決若しくは教育長の臨時代理によるべきで
あったにもかかわらず,教育長の専決を行ったという内申手続に誤りが
あったという手続上の事由を理由とするものであり,原告Aが,卒業式
の国歌斉唱時に起立斉唱しなかったという事実が認められない,あるい
は,府国旗国歌条例,本件各通達あるいは原告A職務命令が違憲・違法
であるといった原告A戒告処分に係る実体上の事由を理由とするもので
はない。そして,手続上の事由を理由として,本件A戒告処分が取り消
されたとしても,原告Aが,本件A職務命令に違反した事実や,その後
の事情聴取における態度という客観的な事実までもが存在しなかったこ
とになるものではなく,ひいては,当該事実を考慮することができなく
なるというものでもない。
そこで,原告A戒告処分に係る原告Aの行為についてみると,府国旗
国歌条例,本件各通達,本件各職務命令が違憲・違法とはいえないこと,
上記14(2)アで認定説示したとおり,卒業式の国歌斉唱時における不起
立・不斉唱という行為が,重要な節目の学校行事である卒業式という式
典において行われた教職員による職務命令違反であり,当該行為は,そ
の結果,影響として,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を
一定程度損なう作用をもたらすものであり,本件A職務命令は憲法の各
規定等に違反するものではなく,遵守を確保する必要性があったこと,
原告Aは,府教委から意向確認書の提出を求められたにもかかわらず,
これに応じていないこと,原告Aは,本件A戒告処分の辞令交付直後に
行われた資質向上研修を受講しなかったこと(辞令自体は受領している
ことから,受講すること自体十分に可能であったと認められる。),府教
委の事情聴取に出頭しておらず,顛末書も提出していないこと,以上の
点が認められ,これら一連の行為に鑑みれば,原告Aは,職務命令違反
という自らの行為について,反省の態度を示しているとは認め難い。
そして,これらの事情からすれば,本件A職務命令違反に対し,教職
員の規律違反の責任を確認して将来を戒める処分である戒告処分をす
ることは,学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付け
られるものであって,法律上,戒告処分それ自体によって法的地位に直
接の不利益を及ぼすものではないことをも併せ考慮すると,将来の昇給
等への影響や再任用等への影響を勘案しても,懲戒権者の裁量権の範囲
内に属する事柄ということができると解される。
(ウ)の点については,上記14(2)イにおいて,既に説示したとおりで
あって,それ自体理由がない。
(エ)い療世砲弔い討蓮こ里に,原告Aが,事情聴取のため,平成24年
3月23日午前9時30分に府教委に出頭することとなれば,同日が終
業式であったことからして,原告A自身が児童に対して直接「あゆみ」
を手渡すことができないということとなる。
ところで,上記事情聴取日から新年度である平成24年4月1日まで
は,僅か12日間しかないことから,市教委としては,原告Aに係る再
任用合格決定が取り消された場合を見据えた人員の配置や代替措置の必
要性との関係で,早急に原告Aから事情を聴取し,同原告に対する再任
用合格の是非を判断する必要があったとうかがわれる。また,認定事実
(1)オ(ア)のとおり,校長は,原告Aの代わりに教頭に対応させることと
するなど代替措置を講じることを明らかにしていたこと,そもそも,府
教委が,原告Aから事情聴取する必要が生じたのは,原告Aが本件A職
務命令に反して,卒業式における国歌斉唱時に起立斉唱しなかったこと
によるものであったこと,以上の点に鑑みれば,原告Aの同主張は採用
できない。
(オ)イ療世砲弔い討澆襪函じ狭陦舛梁感伴阿旅餡寮鴇Щにおける不起
立・不斉唱という行為が,本件A職務命令に反する非違行為であること
からすると,原告Aが研修を受講する義務も必要もあったことは明らか
である。したがって,原告Aの同主張は理由がない。
(カ)の点についてみると,府国旗国歌条例,本件各通達,本件A職務命
令が違憲・違法とはいえないこと,上記(エ)で説示したとおり,原告Aの
行為は,本件A職務命令に反する非違行為であるから,府教委としては,
処分を行うのか,行うとしてどのような処分をするのかを判断するため
にも,非違行為者本人である原告Aが,自らの行為についてどのように
認識しており,どのような理由で当該行為に及んだのかを把握する必要
があること,以上の点からすると,原告Aから,これらの点を記載した
顛末書の提出を求めることには合理性があると認められる。なお,意向
確認書の点については,上記(1)イ(エ)で述べたとおりである。
(キ)以上のとおりであって,これらの諸事情を総合的に勘案すると,原
告Aに対する再任用合格決定の取消しについて,裁量権の逸脱・濫用が
あるとは認められない。したがって,この点に関する原告Aの主張は採
用できない。
エ原告Bについて
原告Bは,原告Bに対する再任用任期更新合格決定の取消しに裁量権の
逸脱・濫用があることの根拠として,仝狭陦造汎瑛諭ぐ娶確認書に加筆
修正したLは再任用されており,不平等な取扱いである,∧神22年度
の卒業式の際にもビラを配布し,国歌斉唱時に不起立としたが,再任用さ
れていることを主張する。
(ア),砲弔い討澆襪函こ里に,証拠(甲B24)によれば,Lが意向確
認書の「今後,入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱を含む
上司の職務命令には従います。」との文言を削除した上で,「今後,上司
の職務命令を遵守します。」と書き加えて意向確認書を提出したことが
認められる。しかしながら,他方で,Lは,J校長から同意向書の記載
の意味を尋ねられた際に,君が代斉唱時の起立斉唱の職務命令を除いて
職務命令を遵守するという意味ではない,特定の事項について従う・従
わないという表現をすることは,むしろ職務命令遵守の本来的な趣旨を
曲げることになる旨の説明をしたと陳述している(乙C6)。Lの同陳述
を前提とすれば,J校長は,Lが,今後の入学式や卒業式等における国
歌斉唱時の起立斉唱に関する職務命令を含むことを認めたとの認識に
至ったと認めるのが相当であり,これらの点に鑑みると,Lについては,
原告Bと事情が異なっているということになる。
この点,Lは,その陳述書(甲B28)において,「『公務員として職
務命令に従う』ということを言ったのであり,『起立斉唱の意向がある』
という趣旨のことは言っていません。意図的な誤解・曲解をしない限り,
<起立斉唱の職務命令を含めて遵守する。>という意味に受け取られる
ことがない程度には説明を尽くしたつもりです。」と陳述しているが,同
陳述書は,本件訴訟提起後に作成されたものであり,上記陳述書(乙C
6)の記載と相容れないものであって,直ちに採用することはできない。
また,仮に,その点を措いたとしても,LのJ校長に対する説明が今
後の入学式や卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱に関する職務命
令を含む趣旨でなかったとすれば,Lの意思が府教委に正確に伝わって
いなかったことになり,Lの再任用の判断に際しての判断資料が誤って
いたことになるが,それは,府教委(被告大阪府)とLとの間の問題で
あって,この点をもって,原告Bとの関係で裁量権の逸脱・濫用があっ
たことの根拠となるものではない。
以上を踏まえて,原告Bについてみると,確かに,原告Bが加筆した
ことで,意向確認書の文言上は,今後の入学式や卒業式における国歌斉
唱時には起立斉唱する旨の記載になっている。しかしながら,本件にお
ける原告Bの主張あるいは原告B本人尋問における供述の具体的な内
容に照らせば,原告Bは,今後の入学式や卒業式において,適式な職務
命令を受けた教職員として卒業式に参列し,国歌斉唱時に起立斉唱する
意思を有していなかったと認められる。そうすると,原告Bは,今後の
入学式や卒業式における国歌斉唱時に起立斉唱する意思がなかった,あ
るいは,平成23年度卒業式と同様,有給休暇を取得した上で教職員席
に参列し,国歌斉唱時に不起立とすることを意図していたにもかかわら
ず,そのことを秘して,入学式や卒業式における国歌斉唱時に起立斉唱
する意思があるかのような記載をしたものといわざるを得ない。
また,原告Bは,国歌斉唱時に起立斉唱しなかったのみならず,I校
長の指導に反して,卒業式直前に校門前でビラを配布するという行為に
及んでいること(なお,この点に関するI校長の指導に問題がないこと
は上記13(3)で説示したとおりである。)をも併せ鑑みると,原告Bと
Lとでは事情が異なるというべきである。
また,△療世砲弔い討蓮ぞ綉ウ(ア)(原告Aのー臘イ紡个垢詆分)
で説示したことと同様,原告Bの同主張についても理由がない。
(イ)以上のとおりであって,これらの諸事情を総合的に勘案すると,原
告Bに対する再任用任期更新合格決定の取消しについて,裁量権の逸脱・
濫用があるとは認められない。したがって,この点に関する原告Bの主
張は採用できない。
オ原告Cについて
(ア)原告Cは,‖感伴暗日に,J校長から,国歌斉唱時に不起立であっ
たことを確認された際に,「こちらからは言うことはない。」として回答
を拒否したり,複数回にわたって,顛末書の提出を求められたことにつ
いても提出する意思がない旨表明したりしていること,府教委からの
事情聴取の際にも,本件C職務命令を受けたことの確認を求められた際
に,「命令があったのかもしれないし,なかったかもしれません。」と回
答したり,「校長がそう言うんならそうだったんでしょう。」などと回答
したほか,国歌斉唱時に不起立であったことを確認された際に,「お答え
いたしかねます。」,「管理職とは誰ですか。管理職という人はいません。」
などとして回答を拒否していること,J校長から意向確認書の記載内
容について確認された際に,「研修と称した」などと発言していること(認
定事実(3)コ(ア)),じ狭陦男椰与厂笋砲いても,本件C職務命令の適法
性について疑問がある旨供述していること,以上の点が認められ,これ
らの点からすると,原告Cは,本件C職務命令違反の非違行為を行った
ことについて反省しているとはうかがえず,かえって,自らの歴史観・
価値観等を最優先にし,それに沿わない条例,通達,職務命令には従わ
ないという確固たる意思を有していることがうかがわれるのであって,
原告Cのそのような態度は,上司の職務命令や組織としての規範等より
も,自らの考えを優先するというものであるが,そのような態度が公務
に従事する公務員として許されるものとは言い難い。
(イ)以上のとおりであって,これらの諸事情を総合的に勘案すると,原
告Cに対する再任用合格決定の取消しについて,裁量権の逸脱・濫用が
あると認めることはできない。したがって,この点に関する原告Cの主
張は採用できない。
16争点15(原告ら主張に係る国家賠償請求の成否及び損害の有無)につい

原告らは,本件各処分あるいは再任用合格決定の取消し,再任用任期更新合
格決定の取消しが違法であり,これらにより損害(逸失利益,慰謝料等)を被
ったなどと主張する。
しかしながら,上記7ないし15でそれぞれ認定説示したとおり,本件各処
分が違憲・違法なものと認めることはできず,また,本件各処分に裁量権の逸
脱・濫用があるとも認めることができないこと,再任用合格決定取消し,再任
用任期更新合格決定の取消しに裁量権の逸脱・濫用があると認めることもでき
ないこと,以上の点からすれば,被告らに対し損害賠償を求める原告らの同請
求にはいずれも理由がないといわざるを得ない。
17原告らによる口頭弁論再開申立ての点について
原告らは,当審における口頭弁論終結後である平成29年4月4日,意向確
認に関する主張立証の補充の点を挙げて,口頭弁論再開申立書を提出した。し
かしながら,上記認定説示した点に鑑みても,再任用合格決定の取消しないし
再任用の任期更新合格決定の取消しが裁量権の範囲を逸脱し,又は,これを濫
用しているか否かの判断をすることは十分に可能であることから,口頭弁論を
再開する必要性があるとは認められない。
第6結論
以上の次第で,原告らの訴えのうち,再任用合格決定の取消処分の取消しを
求める訴え,再任用拒否処分の取消しを求める訴え,再任用の任期更新拒否処
分の取消しを求める訴え,高槻市公立学校教員への再任用の義務付けを求める
訴え,再任用の任期更新処分の義務付けを求める訴え,再任用更新合格決定の
取消処分の取消しを求める訴え,大阪府立高等学校教員への再任用の義務付け
を求める訴えは,いずれも不適法であるからそれぞれ却下することとし,原告
らのその余の各請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のと
おり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官 内藤裕之
裁判官 甲斐雄次
裁判官佐々木隆憲?は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 内藤裕之

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