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准看護師強殺事件で弁護側の控訴を棄却 大阪高裁

 大阪市西成区で平成26年、准看護師の岡田里香さん=当時(29)=を殺害して現金などを奪ったとして、強盗殺人罪などに問われた元同級生の日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(35)の控訴審判決公判が12日、大阪高裁で開かれ、三浦透裁判長は求刑通り無期懲役とした1審大阪地裁の裁判員裁判判決を支持し、弁護側の控訴を棄却した。
 控訴審で、弁護側は犯行時、被告は多重人格が現れる「解離性同一性障害」の影響により行動を制御できない心神耗弱状態だったと主張。検察側は控訴棄却を求めていた。
 1審判決は、犯行動機を「親密な関係だった女性がいる中国へ渡航したかったが在留資格がなく、岡田さんを殺害し、旅券を取得しようとした」と認定。ナイフを準備したり、殺害後に現場の血痕を拭き取ったりしていたことから完全責任能力を認めた。
 1審判決によると、被告は岡田さんの小中学校時代の同級生。26年3月22日、岡田さん宅で岡田さんをナイフで複数回突き刺して出血性ショックで殺害、現金やクレジットカードなどを奪った。
(2019.12.12 11:39 産経新聞)

大阪の准看護師殺害、2審も無期懲役…大阪高裁

 大阪市西成区で2014年、知人の准看護師・岡田里香さん(当時29歳)を殺害したとして、強盗殺人罪などに問われた日系ブラジル人、オーイシ・ケティ・ユリ被告(35)の控訴審判決で、大阪高裁(三浦透裁判長)は12日、求刑通り無期懲役とした1審・大阪地裁の裁判員裁判判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。
 今年3月の1審判決によると、不法滞在状態だったオーイシ被告は、親密な女性と中国に渡航するため、岡田さんになりすましてパスポートを取得しようと計画。14年3月、岡田さん方で岡田さんの胸や腹をナイフで刺して殺害し、現金を奪うなどした。
 争点は刑事責任能力の程度。オーイシ被告は起訴後の精神鑑定で、多重人格として知られる「解離性同一性障害」と診断された。
 1審判決は「多重人格の影響はあったが、両方の人格で記憶が共有され、普段の人格が行動を制御できていた」と判断し、完全責任能力があったと認定。弁護側は控訴審で1審同様、「犯行時は別の人格に支配されていた」と訴え、刑が減軽される心神耗弱状態だったと主張していた。
(2019/12/12 10:53 読売新聞)

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令和元年(う)第526号強盗殺人,有印私文書偽造,同行使,詐欺被告事件
令和元年12月12日大阪高等裁判所第2刑事部判決
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中210日を原判決の刑に算入する。
理由
第1本件控訴の趣意等
原判決は,被告人が,‖梢楊承舛離僖好檗璽箸糧給を受けるために同
級生であったA(以下「被害者」という。)を殺害して身分証を奪い,金
品も奪おうと考え,被害者方において,被害者に対して,殺意をもって,
その胸部,腹部等をペティナイフで多数回突き刺し,よって,その頃,被
害者を殺害した上,現金及び物品を奪ったという強盗殺人1件(原判示第
1),不正に入手した被害者名義のクレジットカードを使用して,各店
舗等において,承諾書等を偽造し,提出した上,ペットホテルでの飼い犬
2匹の預託サービスの提供,ホテルでの大人2名の宿泊サービスの提供,
衣料品店でのスカート等の交付を受けたという有印私文書偽造,同行使,
詐欺3件(原判示第2から第4まで)の各事実を認定し,被告人を無期懲
役に処した。
弁護人の控訴趣意は被告人は,各犯行当時,心神耗弱の状態であっ
たのに,完全責任能力であったと認定した原判決には,判決に影響を及ぼ
被告人を無期懲役に処した原判
決の量刑は,重すぎて不当である,というものである。
第2事実誤認の控訴趣意について
原審記録を調査して検討する。
1弁護人の主張の要旨等
弁護人は,原判決は,原審でのB医師(以下「原審鑑定人」という。)
の鑑定等を一部曲解したり,恣意的に引用したりした上,結論を導いた
ものであり,鑑定意見の尊重を明らかにした最高裁判例に反するし,被
告人の行動制御能力の程度を誤認し,完全責任能力を肯定したものであっ
て,事実誤認がある旨主張している。そこで,初めに原審鑑定人の意見
及び当時の被告人の行動を確認した上で,原判決の責任能力に係る事実
認定の当否を検討することとする。
2原審鑑定人の意見の要旨
原審裁判所は,被告人の精神鑑定を採用し,原審鑑定人は,原審公判
において,被告人の精神障害や,その犯行への影響等について供述した。
原判決は,「争点に対する判断」第3の1において,原審鑑定人の供述
内容を次のとおり要約した。
犯行に関する被告人の説明は,C(平成26年3月頃まで被告人と
同居していた女性)が中国に帰ってから大胆で冷酷な自分がメインで
考えているようだ,強盗殺人事件については1回刺している別の私を
上から見ていることだけを覚えている,刺していたのは冷静で冷たい
自分であり,それを見ていた弱い自分は止めることもできなかった,
などというものである。
上記説明や被告人の生活歴等によれば,被告人は,本件犯行以前か
ら,人格の交代,健忘,離人感などを体験させる解離性同一性障害の
精神障害を有していた。解離性同一性障害の患者について,最も長い
期間身体を支配している人格状態を主人格といい,それ以外の人格状
態を別人格又は副人格という。主人格と別人格は患者の意思とは関係
なく交代する。通常の解離性同一性障害は,主人格は別人格の経験を
認識せず,そのため記憶も共有しないが,主人格と別人格が完全には
解離しない症状もある。
被告人については,「おとなしい自分」が主人格であり,「大胆で
冷酷な自分」が別人格であったと考えられる。被告人は,Cが中国に
行った頃から,主として別人格が行動を支配していたと考えられるが,
平成29年3月の取調べの頃まで,犯行の記憶などの主として別人格
に行動を支配された時期の記憶を共有しており,犯行に関する健忘が
ないことから,犯行時に,主人格と別人格は完全には解離していなかっ
たと考えられる。
当時,被告人の主人格は別人格をコントロールすることができてお
らず,犯行に精神障害の影響はあったといえる。主として別人格が行
動を支配している当時の精神状態において,被告人は,目的に従って
合理的に行動しており,状況を正しく認識し,行動のコントロールが
できていたといえる。
3当時の被告人の行動
原判決は,「争点に対する判断」第3の2において,被告人の捜査段
階の供述調書などの関係証拠によれば,強盗殺人の犯行は,以下の経緯
で実行されたものと認められるとして,要旨,次のとおり,説示したと
ころ,この説示はおおむね相当である。
被告人は,Cのいる中国に行きたいと考えていたが,日本での在留
資格がない状態になっていたことから,他人名義のパスポートを取得
して中国に行くため,一人暮らしでパスポートも取得していなかった
被害者を殺害し,被害者に成り代わって,パスポートを取得すること
を考えた。
被告人は,事前に被害者の予定を確認し,パスポートを取得してい
るかどうかを確認しようとした上で,東京から大阪に出向き,凶器を
準備した上で,被害者方に入った。
被告人は,被害者と話をしていたが,なかなか殺害を実行する決心
がつかず,被害者から帰宅を促されたところで,先延ばしはできない
と考えて,被害者が動かなくなるまで被害者を何度も刺して殺害した。
被告人は,被害者を殺害した後,友人と会う約束をキャンセルし,
ホテルに戻ってチェックアウトをした上で現場に戻り,被害者の源泉
徴収票やクレジットカードなどを奪い,被害者の遺体を梱包し,現場
の血を拭き取るなどした後,運送会社を使って被告人方に搬送した。
4責任能力についての原判決の説示
原判決は,前記2の原審鑑定人の意見の要旨,前記3の当時の被告人
の行動の説示に次いで,被告人の責任能力について,要旨,次のとおり
説示した(「争点に対する判断」第3の3ないし5)。
被告人の行動から被告人の当時の精神状態を検討してみると,被告
人には,強盗殺人の犯行当時,被害者名義のパスポートを取得し,被
害者になりすますという目的があり,被害者を殺害し源泉徴収票等を
奪う行為は,目的に沿った行動であり,その後も状況に合わせて犯行
の発覚を防ぐための行動を続けている。当時の被告人は目的達成のた
めの合理的な行動ができていたといえるし,自らの行為の善悪の判断
をした上で行動をしていたことも明らかといえる。
鑑定人も,精神科医の立場から,被告人の捜査段階の供述を前提に,
記憶の共有があることから,人格が完全には解離していないとした上
で,当時の被告人の精神状態は,合目的的な行動ができ,行動のコン
トロールができる状態であったなどと述べており,この点の見解は採
用できる。
これらによれば,強盗殺人事件当時,被告人の善悪の判断能力や行
動の制御能力が著しく低下していなかったことは明らかといえる。
鑑定人は,被告人が,自分が1回刺しているのを上から見ていた記
憶しかない,弱い自分が止められなかったなどと説明していることを
踏まえて,当時の被告人は主人格からのコントロールができていなかっ
た旨考察している。
鑑定人のこの部分の考察は,その前提事実に問題があるとも考えら
れる。しかし,鑑定人のこの部分の考察は,主人格からのコントロー
ルについて述べるものであって,当時の被告人の精神状態による行動
のコントロールについての考察とは違った事柄についての考察である。
鑑定人の見解は,主人格からのコントロールができていなかったと述
べる一方で,当時の精神状態は行動のコントロールができる状態であっ
た旨述べているから,主人格からのコントロールについて述べた鑑定
人の見解は,善悪の判断能力や行動の制御能力が著しく低下していな
かったという認定には影響しない。
弁護人は,当時,別人格が主として行動を支配しており,主人格か
らのコントロールができなかった旨の鑑定人の見解を踏まえて,被告
人の主人格は,主として別人格が支配していた行動をコントロールで
きず,行動制御能力が著しく欠けていた疑いがあると主張している。
鑑定人の見解を踏まえても,被告人の主人格や別人格の特性を確定
すること自体が困難といえ,各犯行当時の被告人の人格の解離状態を
考察するという方法で責任能力を検討することも困難といえるが,疑
問のある状況を,被告人に不利に考察することはできず,主人格から
のコントロールができなかった旨の精神医学的見解は排斥できない。
しかし,責任能力は,犯行時の被告人の精神状態について,善悪の
判断能力や行動制御能力を問題とするもので,その当時の精神状態に
行動制御能力があると認められる以上,その状態を「主人格」という
ものが更に制御できるかという点を問題にする必要はないというべき
である。鑑定人の見解を前提にすると,被告人は比較的長い期間別人
格が主として行動を支配していたということになるが,既に検討した
とおり,当時の被告人は,別人格が主となった状態であっても,主人
格と記憶を共有し,状況を理解し,行動の制御ができていたのである
から,実質的に考えても,そのような状態で犯行を行ったことについ
ては,そのような状況下で犯行の決断をした被告人の責任といえる。
上記弁護人の主張は採用できない。
以上によれば,強盗殺人の犯行当時,被告人には完全責任能力があっ
たといえる。各有印私文書偽造,同行使,詐欺の犯行に関する責任能
力も争われているが,これらの犯行は被告人が利得目的で行った犯行
で,他人になりすますなどの合理的な行動もできており,これについ
ての記憶もあり,鑑定人の見解を踏まえても,強盗殺人の行為時の精
神状態と違いがあったとは認められないから,これらの各犯行につい
ても完全責任能力が認められる。
5原判決の説示の評価と弁護人の主張についての判断
原判決は,上記のとおり,原審鑑定人の意見及び当時の被告人の行
動を踏まえて被告人の責任能力を判断したものであるが,その説示は,
おおむね相当である。これに対して,弁護人は,原判決が,仝郷慨
定人の意見の理解等,鑑定の前提となる事実等の評価,これらを
踏まえた責任能力の判断のいずれにおいても誤りがあると主張して,
原判決を論難するので,以下,検討する。
原審鑑定人の意見の理解等に関する主張について
弁護人は,原審鑑定人は,犯行時の被告人の精神状態は合目的的な
行動ができ,行動のコントロールができる状態であったと供述をして
いるものの,他方で,その供述の前提として,被告人は解離性同一性
障害にり患しており,複数の人格のうち,本件犯行時には別人格に支
配されていた旨述べているのであるから,上記原審鑑定人の供述は,
犯行当時における別人格の判断や行動について評価したものと捉える
べきであるのに,原判決は,原審鑑定人とは前提を異にしており,そ
の供述を曲解し,恣意的に引用している旨主張する。また,弁護人は,
原判決は,原審鑑定人の意見という精神医学的見解を合理的理由がな
いのに排斥しており,最二小判平成20年4月25日・刑集62巻5
号1559頁に反する旨主張する。
検討するに,確かに原審鑑定人は,精神障害の犯行への影響に関し,
“鏐霓佑蓮と塙堙時,目的に従って合理的に行動しており,状況を
正しく認識し,行動のコントロールができていた,と供述する一方で,
犯行当時の被告人は,主として別人格が行動を支配しており,主人
格は別人格をコントロールすることはできていない,とも供述してい
る。この点についての原判決の説示を見ると,原判決は,犯行時に主
人格からのコントロールができなかったとする精神医学的見解は排斥
意見
として,世韻任覆,△眩按鵑箸靴童‘い靴討い襪海箸鰐世蕕であ
る。そして,原判決に,犯行当時被告人は主として別人格が行動を支
配していたとの原審鑑定人の供述を否定する記載はなく,原判決の原
審鑑定人の供述の理解に誤りがあることをうかがわせる点はない。そ
の上で,原判決は,このような精神医学の専門家の意見を前提として,
犯行時の善悪の判断能力及び行動制御能力という法的問題について検
討を進め,これらの法的問題に焦点化して見ると,原審鑑定人の△
意見は,犯行時の被告人の精神状態についての善悪の判断能力,行動
制御能力には影響しないと判断したものと解される。
これらによれば,原判決がその法的判断の前提とした原審鑑定人の
意見の理解に誤りはなく,これを曲解したものでも,恣意的な引用を
したものでもなく,もとより原審鑑定人の専門的知見に基づく意見を
排斥したものでもない。したがって,原判決は,上記最高裁判例にも
反しないというべきである。
鑑定の前提となる事実等の評価に関する主張について
ア弁護人は,原判決は,原審鑑定人が,被告人が1回刺しているの
を上から見ていた記憶しかない,弱い自分が止められなかったなどと
説明していることを踏まえて,当時の被告人は主人格からのコント
ロールができていなかった旨考察していることについて,被告人の上
記説明は,捜査段階における「何度も刺した」旨の説明と異なってい
ることなどから,捜査段階の供述と同じ記憶に基づくものとは考えに
くく,前提となる説明に問題があるとも考えられると説示している
が,原判決が,このことをもって,「弱い自分が止められなかった」
という被告人の説明の真実性までを疑わしいとするのは無理がある旨
主張する。
この点,原判決は,被告人の捜査段階の供述等によれば,被告人は
被害者から帰宅を促されて殺害を決断して被害者を何度も刺し,その
ことについての記憶が3年近く失われていなかったと認められるので
あり,1回刺した記憶しかないと言いながら,弱い自分が止められな
かったとする鑑定の頃の被告人の説明は,捜査段階の供述と同じ記憶
に基づくものとは考えにくいと説示し,そのことから,弱い自分が止
められなかったという説明を前提にした原審鑑定人の考察の部分に
問題があるとも考えられる旨説示しているところ,これらは,客観的
な供述経過を検討した結果に基づく説示であり,誤りがあるとはいえ
ない。そして,原判決は,結局のところ,犯行当時,主人格からのコ
ントロールができていなかった一方で,当時の精神状態は行動のコン
トロールができる状態であった旨の原審鑑定人の意見を排斥せず,む
しろこれを前提として,被告人の責任能力を考察しているのであるか
ら,弁護人の主張は原判決に対する適切な批判になっていない。
イ弁護人は,原判決は,被告人が被害者を多数回刺したことについ
て,特に異常な行動といえるほどの意図的な残虐性は認められない
と説示するが,このような犯行態様には,明らかに意図的な残虐性
が認められる旨主張する。
この点,原判決は,原審弁護人(当審弁護人でもある。)の同様
の主張について,被告人にとっては,被害者がその場で確実に死亡
することが必要であったのであるから,被害者が動かなくなるまで
刺そうとしたことが異常とはいえないこと,被害者が受けた傷には
浅い傷も多いことを指摘して,特に異常な行動といえるほどの意図
的な残虐性は認められない旨説示する。この原判決の説示は,被告
人が,検察官調書(原審乙4)において,最初に被害者の腹付近を
ナイフで刺し,被害者が倒れた後も,被害者がまだ動いていたこと
から,動かなくなるまで,被害者の胸や腹付近を何度も刺したと供
述したことや,被害者の遺体の損傷状況(原審甲94)は,被害者
の前胸部ないし腹部の傷の中には浅い傷や小さい傷も少なくないと
いうものであることに裏付けられており,誤りがあるとはいえない。
ウ弁護人は,被告人が,原審鑑定人に対し,1回刺した記憶しかな
いと供述していることについて整合性をもって説明するには,被告
人が1回刺した段階までは,主人格と別人格の記憶は共有できてい
たものの,その後は別人格が憑依し,主人格は別人格の記憶を共有
できなくなったと見るべきであって,事件の詳細を語ることができ
た捜査段階の取調べにおいては別人格が支配していたと見るべきで
ある旨主張する。
しかし,原審鑑定人は,被告人の主人格は,「おとなしい自分」
であり,別人格は,「大胆で冷酷な自分」であったところ,捜査段
階の取調べ時のDVDを見ると,面接している際の被告人とその態
度,物の言い方,物腰は同じ印象を受けるから,捜査段階の取調べ
時は,主人格であったといえると供述している。この原審鑑定人の
供述は,精神医学の知見に支えられたものといえ,信用できる。そ
して,被告人が捜査段階において,被疑者ノートに,覚えているこ
とは正直に話したなどと記載していることは,上記原審鑑定人の見
方に親和的であり,加えて,捜査段階の供述調書の内容に照らすと,
主人格が支配していたと認められる捜査段階の被告人は,犯行につ
いて十分に記憶を保持していたと認められる。そうすると,主人格
が別人格の記憶を共有しており,主人格と別人格は完全には解離し
ていなかった旨の原審鑑定人の意見及びこれを前提とする原判決の
説示に誤りはない。被告人が1回刺した後は別人格が支配するよう
になり,その段階では主人格は記憶を共有していないとの弁護人の
見方は採用できない。
原審鑑定人の意見等を踏まえた責任能力の判断に関する主張につい

弁護人は,原審鑑定人は,被告人による本件犯行時,解離性同一性
障害という精神疾患の影響があったことが認められるとともに,その
とき,主人格は別人格の行動を止めることができなかったというので
あるから,原審鑑定人の専門的知見によれば,本件犯行時,解離性同
一性障害により別人格の状態にあった被告人について,行動制御能力
が著しく失われていた疑いを否定することはできない旨主張する。
確かに,原審鑑定人は,犯行当時,被告人について,主として別人
格が行動を支配しており,被告人の主人格は別人格をコントロールす
ることができていなかったとしている。しかし,他方で,原審鑑定人
の供述によれば,精神医学においては,解離性同一性障害にり患して,
人格が多数現れたとしても,元々のその人の中に包摂されていない人
格が発現することはなく,その人が本来持っているいろいろな側面が,
解離という精神状態を経て,際立った特徴を持った人格となって主と
して現れてくると考えられており,別人格といっても,いわば一人の
人間の中の別の側面であると認められる。さらに,
原審鑑定人によれば,被告人は,捜査段階において,犯行の記憶など
の主として別人格に行動を支配された時期の記憶を共有しており,犯
行に関する健忘がないことから,一般的な解離性同一性障害の症状と
異なり,犯行時に,主人格と別人格は完全には解離していなかったと
認められる。
以上のような原審鑑定人の供述に基づく解離性同一性障害に関する
理解及び被告人の具体的な症状を前提に検討するならば,原判決(前
法的判断として,責任能力は,犯行時の被告人の精神状
態について善悪の判断能力や行動制御能力を問題とするものであるか
ら,その当時の精神状態に行動制御能力があると認められる以上,そ
の状態を「主人格」というものが更に制御できるかという点を問題に
する必要はないというべきであると説示する点については,被告人に
対する刑事責任の判断方法として妥当なものといえる。この点に関す
る原判決の説示に誤りがあるとはいえない。
そして,のとおり,原審鑑定人は,主として別人格が行動
を支配している当時の精神状態において,被告人は,目的に従って合
理的に行動しており,状況を正しく認識し,行動のコントロールがで
きていたといえると供述するが,これは,前記3の当時の被告人の行
動とも整合し,信用できるものである。
そうすると,原審鑑定人の意見を踏まえて,各犯行当時,被告人の
善悪の判断能力や行動の制御能力が著しく低下していなかったとした
原判決の認定,判断に誤りはない。
なお,弁護人は,解離性同一性障害にり患しており,犯行時に心神
耗弱の状態にあったとされた別の事件の判決を引用しながら,本件に
ついても同様に判断されるべきである旨主張する。しかし,弁護人の
主張によっても,上記事案は,本件とは,精神状態や,犯行の内容等
が全く異なるものであるから,弁護人の主張は採用できない。
その余の弁護人の主張を踏まえて検討しても,各犯行当時,被告人
に完全責任能力があったと認定した原判決に誤りはない。
6事実誤認の控訴趣意は理由がない。
第3量刑不当の控訴趣意について
原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討する。
1原判決は,「量刑の理由」の項において,要旨,次のとおり説示する。
量刑の考察の中心となる強盗殺人事件は,被害者名義のパスポート
の取得を最終的な目的とし,凶器を用意するなどの計画的犯行である。
被害者を多数回突き刺すなど殺害意思が強かったが,被害者に苦痛を
与えること自体を目的とするなどの意図的な残虐性は認められない。
人を殺害して成り代わるという考えは,被害者に重大な結果が生じ
ることを顧みない身勝手な考えであり,在留資格の問題は,重大な手
段を選択したことに関する非難を軽くする事情とはいえない。また,
責任能力に関する前記判断や,被告人が,被害者を殺害して成り代わ
る気持ちを持ち続け,準備をした上で強盗殺人を行っていることなど
によれば,解離性同一性障害の問題も大きく考慮することはできない。
被害者が命を奪われたという生じた結果は重大であり,被害者遺族
の処罰感情が極めて厳しいが,その心情は理解できる。
有印私文書偽造,同行使,詐欺事件3件について,自己の利益のた
めに犯行を続けている点も軽視できない。
被告人は捜査段階では最終的に自白しており,その当時は事件の重
大性を理解し,反省の気持ちがあったと認められるが,最終的な自白
までの供述経過からは深い反省があったとまでは評価できない。
これらによれば,被告人の責任は誠に重大であって,過去の強盗殺
人の事例も参考に,行為の計画性,被害の重大性,残虐性の程度など
を検討し,有期懲役刑とするために酌量減軽することを相当とするよ
うな事情は見当たらない本件については,被告人には,無期懲役刑を
科すのが相当と判断した。
2以上の原判決の説示はおおむね相当である。原判決が指摘する犯情
の悪質さなどからすれば,酌量減軽をしないで,被告人を無期懲役に
処した原判決の量刑が重すぎるとはいえない。
弁護人は,“鏐霓佑解離性同一性障害にり患したのは,被告人の
責任ではなく,酌むべき事情があるし,被告人は,解離性同一性障
害の影響で行動制御能力が「著しく」ではないにしても,相当程度減
弱していたから,刑法66条を適用して刑を減軽すべきであった旨主
張する。
しかし,まず,△療世砲弔い童ると,前記のとおり,被告人は,
各犯行時,主として別人格に支配されていたとはいえ,その精神状態
は,合目的的な行動ができ,行動のコントロールができる状態であっ
たことからすると,証拠上,被告人の善悪の判断能力や行動制御能力
は大きく低下していなかったということができ,本件は酌量減軽すべ
き事案であるとはいえない。そして,,療世砲弔い討蓮こ里に,被
告人が解離性同一性障害にり患したことは,被告人の責任とはいえな
いものの,解離性同一性障害の影響により犯行時の被告人の善悪の判
断能力及び行動制御能力が大きく低下してはいない以上,その事情は,
考慮するにしても限度のある情状にすぎない。
弁護人は,犯行の動機について,信頼できる人物が就職を機に中国
へ帰国することとなり,被告人が入国管理局の摘発を恐れ,孤立無援
になり,追い詰められていたという点は考慮すべきであり,原判決の
量刑は重すぎる旨主張する。
しかし,信頼できる人物が離れて孤独になったが,在留資格がない
ため,他人に相談できなかったなどの事情があったとしても,そのよ
うな事情と,人を殺害して成り代わるという身勝手な考えを持って実
行に移したこととの間には,大きな飛躍がある。在留資格の問題は,
このような重大な手段を選択したことに関する非難を軽くする事情と
はいえないとする原判決の説示に誤りはない。
その余の弁護人の主張を踏まえて検討しても,原判決の量刑が重す
ぎて不当であるとはいえない。
3さらに,当審において弁護人が立証した事情を踏まえて検討しても,
原判決の量刑が重すぎて不当になったとはいえない。
4量刑不当の控訴趣意は理由がない。
第4適用した法令
控訴棄却について刑訴法396条,当審における未決勾留日数の算入に
ついて刑法21条
(裁判長裁判官三浦透,裁判官杉田友宏,裁判官近道暁郎

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