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大阪高裁 覚せい剤使用罪の男性に逆転無罪

 覚せい剤取締法違反(使用)の罪に問われた大阪市の無職男性(49)の控訴審判決で、大阪高裁は30日、懲役2年10月とした1審・大阪地裁判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。和田真裁判長は、大阪府警の警察官が令状請求中、男性のマンションの部屋のドアを閉めさせなかったことについて「プライバシーを大きく侵害する違法行為」と指摘した。
 判決などによると、男性は昨年6月、東大阪市内で職務質問を受けた際、任意での採尿を拒否し、大阪市内の自宅マンションに移動。同行した警察官は強制採尿令状が出るまで約1時間半、マンションの廊下などにとどまり、部屋のドアを閉めさせなかった。その後、令状に基づく採尿で覚醒剤反応が出たため男性は緊急逮捕、起訴された。
 和田裁判長は「令状主義の精神を無視する重大な違法」として尿の鑑定書について証拠能力を認めなかった。
 大阪高検の中沢康夫・公安部長は「判決内容を精査して適切に対応する」とコメントした。【戸上文恵】
(2018年8月30日 20時34分(最終更新 8月30日 21時42分) 毎日新聞)

「捜査手続きに違法」覚醒剤使用、男性に逆転無罪 大阪高裁判決

 覚せい剤取締法違反(使用)罪に問われた男性被告(49)の控訴審判決公判が30日、大阪高裁で開かれ、和田真裁判長は「捜査手続きに違法な行為があった」として、懲役2年10月とした1審大阪地裁判決を破棄、無罪を言い渡した。
 男性は昨年6月、東大阪市内で覚醒剤の使用が疑われ、府警の警察官らが自宅まで同行。尿検査で覚醒剤成分が検出されて逮捕された。しかし、警察官は強制採尿令状の発付前に男性が住む建物に立ち入り、約1時間半にわたって部屋のドアを閉めさせず室内の様子をうかがっていた。
 こうした行為を1審は「重大な違法はない」としたが、和田裁判長は「強制処分に当たる」と指摘し、尿の鑑定書は証拠として認められないと判断した。
(2018.8.31 08:35 産経WEST)

令状なく見張り 違法捜査で無罪

 覚醒剤を使用した罪に問われた男性の裁判で、大阪高等裁判所は警察官が裁判所の令状が出るまでの間、男性のマンションの部屋のドアを閉めさせずに見張っていたことは違法な捜査にあたると判断して無罪を言い渡しました。
 この裁判は大阪・西成区の49歳の男性が覚醒剤を使用した罪に問われていたものです。
 判決によりますと男性は去年、大阪府警の警察官から路上で職務質問を受け、尿の提出を求められましたが、裁判所の令状がないことを理由に拒否し、自宅のマンションに戻ったということです。
 これに対し、警察官はマンションの建物内に入り、令状が出るまで1時間半ほど部屋のドアを閉めさせず見張っていたということです。
 その後、男性の尿から覚醒剤の成分が検出されたということで、1審は有罪判決を言い渡しましたが、男性は違法な捜査だと主張して控訴していました。
 30日の2審の判決で、大阪高等裁判所の和田真裁判長は、警察官の行為について「強制捜査の令状主義の精神を失わせるもので、プライバシーが大きく侵害され、違法性の程度は重大だ。こうした手法で得られた証拠は、同様の捜査を抑制するためにも認められない」と述べて1審の有罪判決を取り消し、無罪を言い渡しました。
 判決で、捜査の違法性が指摘されたことについて、大阪府警察本部は「コメントすることはありません」としています。
(08/30 19:36 NHK)

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平成30年(う)第361号覚せい剤取締法違反被告事件
平成30年8月30日大阪高等裁判所第1刑事部判決
主文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。
理由
1本件控訴の趣意
本件控訴の趣意は,弁護人奥田昌宏作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に各記
載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官藤田信宏作成の答弁書記載のとお
りである。
論旨は,原判決は,違法収集証拠であって証拠能力のない被告人の尿の鑑定書等
(原審甲1から3。以下「本件鑑定書等」という。)を証拠として採用することで,
被告人が自己の身体に覚せい剤を使用したとの公訴事実について有罪認定している
ところ,本件鑑定書等がなければ有罪認定はできなかったのであるから,原判決に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというものであ
る。
当裁判所は,原判決が本件鑑定書等の証拠能力を認めたことは是認できないもの
と判断した。以下,その理由を述べる。
2原審の経過及び本件鑑定書等の証拠能力に関する原判決の判断
被告人の尿の押収に関する事実経過等
本件で問題とされている被告人に対する職務質問から尿の押収に至る経過等を,
原判決が認定したところを要約し,当裁判所における事実取調べの結果も踏まえて
若干補足して摘示すると,以下のとおりである。
ア大阪府警警察官Aは,平成29年6月7日午前3時58分頃,相勤者と共にパ
トカーで警ら中,大阪府東大阪市内の交差点の角に立つ被告人を発見し,その様子
に不審を抱き,相勤者と共に被告人への職務質問を開始した。
イ被告人は,Aらからの所持品検査の求めに応じ,ポケット内の物品や手提げか
ばん(本件所持品)を差し出した。それらの中には,違法薬物やその使用用具は含
まれていなかったものの,軍手,ドライバー,レンチ,先が丸く曲がった細長い鉄
製の棒等が入っており,被告人は,これらについて友人から預かっていたと述べる
だけで,その用途等について明らかにしなかった。
Aは,被告人の挙動や肌の色等から覚せい剤使用の嫌疑を抱き,被告人を説得し
て両肘内側を見分したところ,真新しい注射痕が複数あった。被告人は,これにつ
いて点滴の痕だと述べて覚せい剤等の使用を否定する一方,警察署への任意同行や
尿の任意提出の求めを拒否し,携帯電話機で何者かに連絡をとり,同日午前4時2
4分頃,被告人が呼んだと思われる男性1名(被告人が「甲」だと述べる人物)が
やってきた。被告人は,Aに対し,本件所持品を甲に渡すよう求めたが,Aは,す
べてが終わってから被告人に返すことしかできないなどと説明した。
同日午前4時43分頃,Aらの応援要請に基づいて臨場した警察官が被告人に令
状請求手続に移行する旨を告げた。
ウ被告人は,令状の取得には二,三時間かかるだろうから自宅に帰って寝ると言
って歩き出したため,Aの要請で応援臨場していたBら5名の警察官がこれに追随
し,そのうちの1名が本件所持品を携行していた。さらにパトカー数台が赤色灯を
点けたまま,歩調に合わせて同じ経路を走行し,交差点ではサイレンを吹鳴させた。
エ同日午前6時21分頃,被告人は,その頃居住していた本件建物に到着し,正
面入口(シャッターにより閉鎖中)横の無施錠のドアから建物内に入った。Bら大
勢の警察官がこれに続いたことから,被告人が「捜査権がないのに入ってこれんの。」
と尋ねると,Bらは,「うん,入れる入れる。」などと答え,そのまま被告人の居室
である311号室前まで付いて行った。
オ被告人は,居室に入ってドアを閉めようとしたが,Bらは,居室の外からドア
を手や足で押さえ,閉められると何をされるか分からない,預かっている所持品も
ある,などと口々に述べてドアを開けたままにするよう求めた。被告人は,今から
寝るのでドアを閉めたい,任意のはずだ,説得には応じない,などと怒声を上げて
訴えたが,10分間ほどの押し問答の末,自らビニール傘を差し込み,ドアが完全
に閉まらない状態にした上で就寝した。警察官は,被告人が床に就いた後,ドアの
隙間に更に物干し竿様の棒を差し込んで施錠されないようにした上,居室前で待機
した。
カ同日午前7時頃,警察官らは大阪地方裁判所に被告人の強制採尿を実施するた
めの捜索差押許可状や居室の捜索差押許可状等の発付を請求し,同日午前7時55
分頃,これらの令状が発付された。その後,被告人は,令状の呈示を受けて,同日
午前8時46分に尿を提出し,覚せい剤成分が検出されたため,緊急逮捕された。
キ本件建物は6階建ての共同住宅であり,建物の入り口で靴を脱ぎ,建物内の廊
下や階段を通って各居室に行くようになっていた。居室のドアの鍵は住人が管理し
ているが,居室に他人を入れることは禁止されていた。また,共用部分には風呂や
トイレのほか談話室もあり,管理人がいる平日午前8時頃から午後6時頃までの間
は住人が他人をそこに上げることができるが,管理人が不在の間は外部の人間の立
入りは禁止されていた。
原審における被告人の主張
原審弁護人は,上記一連の捜査には次の各点において令状主義を没却する重大な
違法があり,その結果,得られた本件鑑定書は違法収集証拠として証拠能力がない
旨主張した(当審弁護人も同様の主張をしている。)。
警察官らは,本件建物に到着するまで,警察官5名に加え,パトカーを連ねて被告
を得ることなく,本件建物に大勢で立ち入り,被告人の居室を確認した後にも留ま
警察官らは,物理的有形力を行使し,被告人の意思を制圧して扉を閉めることを断
念させている。
証拠能力に関する原判決の判断
原審裁判所は,その第4回公判期日において,本件鑑定書等を採用する旨決定し,
原判決において,その証拠能力を肯定した理由について,要旨,次のとおり説示し
た。
ア捜査手続の適法性
Aらは,被告人から本件所持品の返還を求められたが,泥棒工具だから返せな
いなどと説明して応じず,被告人も,最終的には本件所持品をAらが預かることを
消極的に容認したと認められる。本件所持品の内容や被告人がこれを所持していた
時間帯等に照らせば,Aらが被告人に対して窃盗犯の疑いを抱いたことには相応の
理由があるし,レンチについては武器として使用される可能性も否定できない。そ
うすると,Aらが,被告人に対して理由を告げて説得し,消極的にせよ被告人の了
承を得て,本件所持品を職務質問等が完了するまでの間預かっていたことは,職務
質問に付随する措置として許容される範囲内であり,違法とはいえない。被告人
に対し,覚せい剤使用の相応に高度の嫌疑があった上に,強制採尿令状の執行に備
えてその所在を把握しておく必要があったところ,万一被告人が逃走を図った場合
にも確実に対応するため,相応の人員やパトカーを配備するのはやむを得ない措置
であり,警察官らが被告人を本件建物まで追随した行為は,任意捜査として許容さ
れる範囲内というべきであるから,違法とはいえない。本件建物の共用部分は,
住人の居住スペースの延長ともいえる場所で,管理者は,管理人が不在の間は,住
人以外の者が本件建物内に立ち入ることを許していなかったのであり,Bらが,本
件建物の管理者の承諾を得ることなく,その共用部分に立ち入ることは,違法とい
うべきである。Bは,被告人から許可を得ていると解釈していた旨証言するが,被
告人とのやりとりに照らすと,その証言自体,疑わしい。
閉めさせなかった行為については,被告人の逃走を防止したり,強制採尿令状が発
付された場合の執行に備える必要性があるとしても,Bらが管理者の承諾なく本件
建物の共用部分に立ち入ったことが,そもそも違法というべきであるから,約10
分間にわたり,有形力を行使しつつ,被告人と押し問答をしたことで,結果的に,
被告人を含む本件建物内の住人らの平穏を害したことは,その違法の程度をより強
めるものというべきである。
イ本件鑑定書等の証拠能力
次の事情からすると,警察官らが管理者の承諾なく本件建物内に立ち入った行為
等の違法性の程度は,いまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえ
ない。
警察官らが本件建物内に立ち入った時点において,被告人には覚せい剤使用の
相応に高度な嫌疑があり,既に強制採尿令状の請求手続に入っていたのであるから,
近くその令状の発付が見込まれていたといえるところ,強制採尿令状の執行のため
には,被告人と共に本件建物内に立ち入り,その居室の場所や被告人の所在を把握
しておく必要性が高かったことは否定できない。
警察官らが被告人を職務質問現場に留め置かずに,本件建物内の自室に戻るこ
とを容認したのは,令状によらずに被告人の移動の自由を制約することをなるべく
回避しようとしたためと解されるのであって,その点では警察官らに令状主義を潜
脱しようという意図は見られない。
警察官らは,住人である被告人と共に,無施錠のドアを通って本件建物内に立
ち入ったものであり,立ち入った場所も共用部分にとどまっている。Bらは,共用
部分であれば,令状無くして立ち入っても問題はないと安易に考えていた節があり,
それ自体戒められるべきであるが,管理人が不在の間は,たとえ共用部分であって
も,本件建物内への立入りが禁止されていることを明確に認識しながら,あえてこ
れを無視して本件建物内に立ち入ったとまでは認められない。
3当裁判所の判断
原判決が捜査手続の適法性について説示する事項のうち本件所持品の不返

は,検討不十分な点がある。
まず,原判決は,に関して,管理者の管理権を侵害したと
の点で違法としているが,本件にあっては,違法の内実はそれに止まるものではな
い。原判決も述べるように,本件建物の共用部分は,住人の居住スペースの延長で,
住居に準ずる私的領域としての性質を有する空間と解される。管理人が所在する間
は,管理人に住人らとの契約に基づく包括的な管理権限があるといえるから,その
承諾を得ることで住人の許可なしに本件建物の共用部分に立ち入ることは許容され
得るとしても,管理人不在の間に共用部分に立ち入る行為は,管理権侵害にとどま
らず,被告人を含む住人のプライバシーを侵害するもので,それ相応の法的根拠が
なければ許されないはずである。本件にあっては,警察官らは,まだ裁判所への令
状請求にも至っていない時点で本件建物に立ち入っており,その態様も被告人や住
人らに断りもなく,大勢で次々に入るというもので,後記のとおり,正当性も認め
がたい以上,建造物侵入に問われかねない行為といえる。
また,原判決は,被告人に自室のドアを閉めさせなかった行為について,結果的
に,被告人を含む本件建物内の住人らの平穏を害したことで,本件建物への立入り
に関する違法の程度をより強めるとのみ述べるが,そうした評価はいかにも皮相で,
本件においてはそれに止まらない違法があるというべきである。すなわち,ドアの
内側は被告人の住居であって,そこは個人のプライバシーが強く保護されなければ
ならない領域であり,居住者が自らの意思によりドアの開閉や施錠を決定すべきこ
とは,その保護の要請からの当然の帰結である。ドアを開けておくよう説得するこ
とは,合理的な限度であればもとより許容されるところであるが,本件では,被告
人が明確かつ強固に説得を拒む意思を表明した後も,警察官らは約10分間にわた
って押し問答を続け,しかも,ドアを手足で押さえるとの有形力行使とともに,警
察官らが預かっている本件所持品について,これを返すわけにはいかないが,その
状態を被告人に終始確認してもらわなければならないなどといった,およそ詭弁と
いうほかない発言を繰り返してまでドアを開けさせることに固執しており,これら
は説得の域を超えている。被告人が最終的には自ら傘をドアに差し入れたのは,警
察官らによってドアを閉めることを断念せざるを得ない状況に追いこまれたからで,
承諾があったなどとは到底いえず,警察官らの行為は,被告人の意思を制圧するも
のであったと評価できる。
しかも,当時,被告人にドアを閉めさせないことについて,必要性・緊急性があ
ったともいえない。この点,検察官は,被告人が逃走を図る可能性があり,その場
合には負傷するおそれがあった,ドアが施錠されると令状執行に多大な支障が生じ
た,などとして,高度の必要性・緊急性があったという。しかしながら,被告人は,
渋々とはいえ,自身の住居が明らかになることを当然に分かりながら,本件建物ま
での警察官らによる追随を受け入れていて,移動の間に逃走を図ったり,衝動的な
行為に出たりする素振りをみせておらず,ドアを閉める理由についても就寝するた
めと述べていたのであるから,逃走に及ぶことを懸念すべき具体的事情は認められ
ない。そもそも,逃走に備えるのであれば本件建物の周辺に待機等することで足り
るはずである。令状執行の支障の点については,令状が発付されれば,その執行に
必要な処分として開錠ができると解されるから,その手間を省くために施錠させな
いというのは,捜査側の都合を過度に優先させるものであって,必要性・緊急性を
基礎づけるものではない。
このように,何らの必要性・緊急性も認められないのに,被告人
の意思を制圧して住居についてのプライバシーを侵害したものに他ならないから,
原判決が説示するように平穏を害したことでの違法の程度をより強めるのみなら
ず,住居そのものへの侵入と比肩するほどの違法性があるというべきである。
以上を前提に,一連の捜査手続の違法性の程度等について検討すると,それは,
令状主義の精神を没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ない。
本件では,本件建物への立入りや自室のドアを閉めさせなかった行為は,強制処
分に当たるものと解され,既に強制採尿令状の請求準備に入っており,近く令状発
付が見込まれていたことは,強制処分に当たらない程度の留め置き等を正当化する
根拠になり得るとしても,そのことは,およそ令状なくしては許されない強制処分
に及ぶことを正当化する事由になるはずはない。しかも,警察官らは,被告人から
疑義を呈されながら「入れる入れる。」などと軽く受け流すだけで何ら再考の姿勢を
示すことなく違法な行為を継続し,のみならず,必要性・緊急性も認められないの
に,単に令状の執行を容易にするため,被告人の意思を制圧して自室のドアを閉め
させず,令状が発付されるまでの1時間半ほどにわたって本件建物内に留まり,被
告人方居室内の様子をうかがっていたもので,これによって被告人の住居について
のプライバシーが大きく侵害されたといえる。警察官らが意図的に令状主義を潜脱
しようとしたとまではいえなくても,住居についてのプライバシーの重要性や,警
察官らの無配慮な態度等に照らすと,その違法の程度は令状主義の精神を没却する
重大なものといわれてもやむを得ない。そして,このような行為の後に請求をして
発付された強制採尿令状を居室内の被告人に示し,これを受けて被告人が排出した
尿を押収したものであるから,被告人の尿は,上記のような違法な行為を直接利用
して得られたものというべきで,違法行為が尿の押収を目的としたことも明らかで
ある。このような違法な手続により押収された尿の鑑定に関する本件鑑定書等の証
拠を許容することは,その違法が警察官らの確信的な侵害行為によってもたらされ
たものであることをも考慮すると,将来における同様の捜査を抑制するとの見地か
らも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである。
これに対して,検察官は,答弁において,本件建物への立入り及び居室のドア
を閉めさせなかった行為のいずれについても任意捜査として許容される範囲であり,
仮に違法であるとしても,既に警察官らは令状請求の準備に入っていたから,強制
採尿令状の執行に備えるための必要性や緊急性は高度である一方,被告人を含む居
住者の利益が害された程度は大きくないから,令状主義の精神を没却するような重
大な違法は認められない,と主張する。
しかし,被告人の居室がその住居であることはもとより,本件建物の共用部分に
ついても,原判決が指摘するとおり,居住スペースの延長ともいえる場所であった
と解されるから,その住人や管理者の許可なく立ち入るためには令状が必要である
ことは明白で,これが任意捜査として許容できるとはおよそ解し得ない。そして,
被告人の居室のドアを閉めさせなかった点についても,被告人の意思を制圧して住
居についてのプライバシーを侵害したのであるから,やはり任意捜査として許容で
きるものではない。本件においては,令状の執行に備えるために,本件建物に深く
立ち入り,被告人方居室のドアに隙間を空けさせ,長時間にわたり様子をうかがう
必要性及び緊急性がなかったことは,前述のとおりである。憲法35条で住居の不
可侵が保障されているにもかかわらず,警察官らがこの点への配慮を欠き,令状な
く,確信的にこの保障と密接に関係する利益を侵害した本件の違法の程度は大きく,
令状主義の精神にもとり,将来の違法捜査の抑制の見地からもこれを放置できるも
のではない。検察官の主張は,いずれも採用できない。
以上述べたとおり,本件鑑定書等の証拠能力は否定されるべきであるところ,
その証拠能力を認めて採用した原審の訴訟手続には,刑訴法317条に反する違法
がある。
本件鑑定書等が証拠採用されなければ,原審で取り調べられた他の証拠の証明力
評価の如何に関わらず,公訴事実記載の覚せい剤使用の事実を認定することはでき
ないから,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
4破棄自判
よって,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄し,同法400条た
だし書により直ちに当裁判所において自判すべきものと認め,更に判決する。
本件公訴事実の要旨は,「被告人は,法定の除外事由がないのに,平成29年5月
28日頃から同年6月7日までの間に,日本国内の場所不詳において,フエニルメ
チルアミノプロパンの塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって
覚せい剤を使用したものである。」というものであるところ,被告人の尿から覚せい
剤成分が検出された旨の本件鑑定書(原審甲3)は証拠として許容することができ
ず,他に本件公訴事実を的確に認定し得る証拠はない。したがって,本件公訴事実
については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑訴法336条により被告人に
対し無罪の言渡しをする。
大阪高等裁判所第1刑事部
(裁判長裁判官 和田真 裁判官 坪井祐子 裁判官 真鍋秀永

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