報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

男性の自殺、労災認める=職場でいじめ、遺族が逆転勝訴−大阪高裁

 阪神高速道路の子会社に勤めていた神戸市の男性=当時(24)=がうつ病で自殺したのは職場のいじめが原因だとして、父親が国に対し、労災と認めなかった処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が29日、大阪高裁であった。佐村浩之裁判長は、請求を棄却した一審大阪地裁判決を取り消し、父親の逆転勝訴を言い渡した。
 判決によると、男性は阪神高速道路の巡回業務を担当していた2012年5月、自宅で自殺。父親が遺族補償給付などを請求したが、神戸西労働基準監督署は業務が原因ではないとして不支給とした。
 佐村裁判長は、ペアを組んだ上司が巡回中などに「何もするな」「殺すぞ」と怒鳴り、男性に強い心理的負荷が掛かったと指摘。うつ病の発症を推認でき、自殺は業務が原因と判断した。
(2017/09/29-18:49 時事ドットコム)

パワハラ自殺、逆転で認定 大阪高裁

 会社員の息子=当時(24)=が自殺したのは職場でのパワーハラスメントが原因だとして、神戸市に住む父親が国に労災不支給決定の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(佐村浩之裁判長)は29日、先輩社員のいじめでうつ病を発症したと判断して自殺との因果関係を認め、請求を棄却した1審大阪地裁判決を覆し、逆転勝訴を言い渡した。
 判決によると、息子は阪神高速道路を管理する「阪神高速パトロール」(大阪市)の正社員として勤務。平成24年4月に職場が一緒になった先輩社員に「殺すぞ」などと怒鳴られ、翌5月に自宅で首をつって死亡した。2人は空手の心得があったが、演武中心だった息子に対し、打撃中心の流派の先輩が「道場へ来い。道場やったら殴りやすい」と発言したこともあった。
 1審判決は「いじめに該当するが、精神障害を発症させるほどの強い心理的負荷とは認められない」としたが、佐村裁判長は「極めて理不尽な言動が連続的にあり、相当強度の負荷がかかった」と認定。自殺直前にうつ病を発症し、正常な判断能力を失っていたと結論付けた。
(2017.9.29 21:11 産経WEST)

<パワハラ自殺>遺族側、逆転勝訴 大阪高裁が労災認定

 阪神高速道路の子会社・阪神高速パトロール(大阪市)の元男性社員(当時24歳)が自殺したのは上司のパワハラが原因だとして、男性の父親=神戸市=が労災の遺族補償給付を不支給とした国の処分取り消しを求めた訴訟で、大阪高裁(佐村浩之裁判長)は29日、自殺とパワハラの因果関係を認め、国に支給を命じる遺族側の逆転勝訴を言い渡した。
 判決によると、男性は2010年に入社し、高速道路の巡回業務を担当。12年4月に同じ職場になった上司の男性(当時46歳)から仕事内容を注意された際に「殺すぞ」「何もするな」などと繰り返し暴言を受け、5月に自宅で自殺した。
 男性と上司はそれぞれ空手の経験があり、上司から「道場へ来い。道場だったら殴りやすい」と怒鳴られることもあった。男性は自殺直前、家族に「明日行くのが怖いねん。殺されるかもしれへん」と話していたという。
 遺族は神戸西労働基準監督署に労災を申請したが、同署は13年1月に不支給を決定。訴訟でも国側は自殺は業務に起因するものではないと主張し、1審・大阪地裁判決は請求を棄却していた。
 佐村裁判長は控訴審判決で「極めて理不尽な言動が連続的に行われた」と指摘。「パワハラが原因でうつ病を発症し、自殺した」として労災に当たると認定した。【遠藤浩二】
(9/29(金) 22:00 毎日新聞)

PDF

主文
1原判決を取り消す。
2神戸西労働基準監督署長が控訴人に対して平成25年1月18日付けでし
た労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しないとの
決定を取り消す。
3訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,阪神高速パトロール株式会社(以下「本件会社」という。)に勤務
していた労働者であるAが自殺したこと(以下「本件自殺」という。)に関し,
その父である控訴人が,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)
に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,神戸西労働基準監
督署長(以下「処分行政庁」という。)から,Aの死亡は業務上の死亡に当た
らないとして,これらを支給しない旨の決定(以下「本件各処分」という。)
を受けたため,その取消しを求める事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人は,これを不服とし
て控訴した。
2前提事実
2事案の概要等」の2のとおりであるから,これを引用する。
原判決の補正
ア原判決3頁20行目の「以下「B班長」という。」を「以下「B」又は
「B班長」という。」に,21行目及び25行目の「主任」の次にそれぞ
れ「(副班長)」を加える。
イ原判決4頁4行目の「平成25年」を「平成24年」に改める。
ウ原判決4頁12行目の「乙15,28」を「乙15,19,28」に改
める。
エ原判決4頁20行目の「本件疾病の発症に業務起因性が認められないこ
とを理由に」を「Aの死亡が業務上の死亡に当たらないことを理由に」に
改める。
オ原判決6頁7行目の「いずれの要件」の次に「(以下,上記要件を「認定
要件」といい,上記,稜定要件を「認定要件 廚里茲Δ砲いΑ)」を加
える。
3争点およびこれに関する当事者の主張
本件の争点は,Aの死亡の業務起因性,すなわち,Aが本件自殺の直前頃う
つ病又は適応障害を発症したか,及び上記うつ病又は適応障害は業務に起因し
て発症したものであるかである。
控訴人の主張
アAには業務による強い心理的負荷が掛かっていたこと
本件夜勤前
aAのしていた空手に関する発言(以下「出来事◆廚箸いΑ吻,老
番)。)
Cは,平成24年4月ないし5月頃,Aが長年打ち込んできた空手
について,「なんちゃって空手」などと言って,Aのしていた空手や
人格そのものを否定した。
b「道場へ来い。」などの発言(以下「出来事」という。)
Cは,平成24年4月ないし5月頃,Aに対し,「道場へ来い。道
場やったら思いっきり殴れる。」と言い,空手の練習という名の下で
暴行を加えることを告げた。これにより,Aは,暴行を加えられる恐
怖を感じた。
c指差喚呼に関する発言(以下「出来事ぁ廚箸いΑ)
本件会社では,指差喚呼(助手席に乗った者が安全確認のため,「右
よし。左よし。」と声を出して行うもの)を行うことが決まりとなっ
ていたが,Cは,平成24年4月ないし5月頃,Aが指差喚呼をした
ところ,「俺の運転が信用できんのか。大きな声で言うな。うるさい
んじゃ。」などと言い,指差喚呼を実施しないよう指示した。
本件夜勤時
a第2回巡回前の言動(以下「出来事А廚箸いΑ吻サ擇哭Δ老臠屐法)
Cは,第2回巡回の直前,Aが人事考課個人目標(B班長へ提出す
べきもの。以下「個人目標」という。)を自分に相談なくB班長に提
出したことに立腹し,Aを怒鳴りつけた上,Aに対し,「道場へ来い。
道場やったら殴りやすいから。」と言った。
b第2回巡回時の言動(以下「出来事─廚箸いΑ)
Cは,第2回巡回の出発の際,タコグラフをセットしようとしたA
に対し,「何もするな。」と言った。そして,「殺すぞ。」と怒鳴り
つけた。
Cは「何もするな。」と言って勤務中のAから仕事を取り上げたと
ころ,仕事をさせないこと(仕事の取り上げ)は,典型的なハラスメ
ントとされているものである(甲3−4枚目)。また,「殺すぞ。」
との発言は脅迫罪の構成要件に該当する行為である。
c第2回巡回後の言動(以下「出来事」という。)
Aは,第2回巡回後,事務所において,書類作成を始めたところ,
Cは,Aが書類作成をしているのを見るや,「何もするな言うたやろ。
殺すぞ。」と語気鋭く怒鳴りつけた。
上記のCの発言は脅迫罪が成立するものであり,Aが後に「殺され
のが怖い。」と言っていたことからもAが怯えていたことは明らか
である。
d第3回巡回時の言動(以下「出来事」という。)
パーキングエリアでの不審車対応
パーキングエリアで不審車を発見した際のAの対応に不備はな
かったにもかかわらず,Cは自らの持論を前提にAの対応を非難し
た。その上,B班長に電話を架けさせ対応の適否を確認させたのは,
Aの判断が間違っていることを印象付けようとするためのもので,
ハラスメントである。
落下物の処理
Aは,巡回中に落下物を発見したため回収しようとしたところ,
Cから,「こんなところでこんなもん拾う必要ないやろ。殺すぞ。」
などと言われた。
落下物の撤去についてもAも判断が誤っていたとはいえないし,
仮に誤っていたとしても,「殺すぞ。」などと怒鳴りつけることは
論外であり,不適切な指導である。
このようなCのハラスメントにより,Aは,第3回巡回中,v集
約(基地)のトイレで過呼吸となった。CのハラスメントがAにと
って強い心理的負荷となっていたことは明らかである。
e第3回巡回後の言動(以下「出来事」という。)
「使い物にならない」との発言
Cは,第3回巡回後,事務所において,複数の上司や同僚がいる
前で,B班長に対し,「あいつは,もう使い物になりませんわ。」
と言った。その時,Aは,事務所の外の段差に座って頭を抱えて座
っていたところ,その位置関係等からすれば,事務所の中でしたC
の上記発言は,Aに聞こえていたはずである。
文書作成の指示と「小学生の文書みたいやな。」との発言
Cは,第3回巡回後,事務所において,Aに対し,第3回巡回中
に起こったことをまとめる文書を作成するように指示した。本件会
社において,上司が部下にこのような指示を行うことは通常ないこ
とであった。Aは落ち込んだ様子で青ざめた顔色をして固まってい
た一方,Cはその背後に立って文書作成の様子を監視していたもの
であり,異様な光景であった。
そして,Cは,Aが作成した文書を見て,上司や同僚らの面前で,
「何やこれ,小学生の文書みたいやな。」と,Aを貶める発言をし
た。
出来事Г覆い鍬は,次のとおり,原判決別紙認定基準の別表1「業
務による心理的負荷評価表」(以下「認定基準別表1」という。)の
「(ひどい)嫌がらせ,いじめ…を受けた」の心理的負荷の強度が「強」
であるとされる具体例「部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲
を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含ま
れ,かつ,これが執拗に行われた」に合致する。又は,上記出来事に
よって,上記具体例に匹敵する心理的負荷がAに掛かったというべき
である。
すなわち,Cは,第2回巡回に入る前に,Aを怒鳴りつけた上,A
に対して「道場へ来い。道場やったら殴りやすいから。」と威嚇し(出
来事А法い修譴飽き続く2時間の密室での第2回巡回において,「何
もするな。」と言って,Aに仕事を何もさせなかった(出来事─法
このように,仕事を取り上げ,Aの労働者としての存在意義を否定し
プライドをズタズタにし続けた上で,Cは,第2回巡回後,事務所に
戻った段階で,既に仕事の取り上げという労働者にとって最もきつい
陰湿なハラスメントを受け続けていたAに対し,上司,先輩,同僚ら
のいる前で,「何もするな言うたやろ。」と言い,しかも,「殺すぞ。」
とまで大声で怒鳴りつけたものである(出来事)。これは明らかに
執拗である。上記のハラスメントは,短期間にかつ継続的に集中して
行われ,労働者の存在意義を否定しその人格を踏みにじる陰湿なハラ
スメント,生命身体を害することを告げる発言が連続して行われたも
のであり,このことからすると,精神障害を発病させるに足りるハラ
スメントが総体として存在していたことは明らかである。
bCは,Aの身体や生命の安全を害する告知を行っており,Aは,業
務遂行中に脅迫罪という犯罪に曝されたものである。上記告知によっ
て,Aに掛かった心理的負荷の強さは計り知れない。
また,CAの人格や人間性を踏みにじる言
がらせ,いじめは十分執拗なものであった。本件夜勤時におけるCの
Aに対するハラスメント,いじめだけを捉えても,Aに掛かった心理
的負荷の強度は認定基準にいう「強」である。しかも,ハラスメント
は,本件自殺の1か月程度前から始まっており,継続的かつ執拗とい
える。
cしたがって,Aには,平成24年4月から5月26日までの間に,
出来事△覆い鍬ぁきГ覆い鍬によって,客観的にうつ病や適応障害
を発病させるおそれのある強い心理的負荷が掛かっていたというべ
きである。
イAは本件自殺直前頃うつ病又は適応障害を発症したこと
専門部会意見書
地方労災医員協議会精神障害等専門部会(以下「専門部会」という。)
が平成24年12月28日頃に医学的見解を記載した意見書(以下「専
門部会意見書」という。)は,「Aは,自殺直前には,ICD−10の
「F3気分(感情)障害」を発症していた可能性が考えられる。」と
している(乙1−379頁)。
Aは,次のとおり,本件自殺の直前頃,ICD−10の「F32
うつ病エピソード」(以下「うつ病」ということがある。)を発症し
た。
Aには精神障害に関する診断や治療歴はないが,精神障害は周囲
が気付きにくい場合もあることから関係者の聴取内容等を慎重に
検討すべきであり,診断ガイドラインの診断基準を満たすと医学的
に推定される場合には精神障害が発症したものとして取り扱うべ
きである。
もっとも,ICD−10の診断基準は絶対的なものではなく,幅
のあるものである。2週間の症状持続期間についても形式的に適用
すべきではなく,ICD−10診断ガイドラインにも「症状がきわ
めて重症で急激な発症であれば,より短い期間であってもかまわな
い」とされている。
Aには,次のとおり,種々のうつ病エピソードがあった。
駘泙Δ諜な
Aは,本件夜勤の第2回巡回後,Cから「何もするな言うたや
ろ。殺すぞ。」と怒鳴られ,今まで見たこともないくらいに落ち
込んだ様子を見せており,第3回巡回後には異変が際立ってい
た。
鮖弭幼篁漾思考力の減退・活動性の減少・集中力と注意力の減

Aは,第2回巡回後から呆然として立ち尽くしたり,思考が停
止してどうしていいのかわからない状態に陥っていた。
また,Aは,第3回巡回後には,Dから話しかけられても「だ
めです。もう無理です。」と言うのみで普通の反応や会話すらで
きておらず,思考停止状態が進展していた。
さらに,自宅で笑わなくなったり,自室に閉じこもるなどの様
子もあった。
鷁畍撞
Aは,本件夜勤の第3回巡回時に過呼吸になっており,Cから
のハラスメントがAに不安や緊張,恐怖心を与えていたことがう
かがえる。
興味と喜びの喪失・将来に対する希望のない悲観的な見方
Aは,Cからの一連のハラスメントにより,充実していた仕事,
望んでやり甲斐を感じていた仕事を「辞めたい。」と述べており,
喜びの喪失,悲観的な見方に支配されていたことは明らかであ
る。
自殺念慮(希死念慮)
Aが最終的に自死に及んでいること,交際相手宛に自殺念慮を
示すメールを作成していることに照らせば,Aには自殺念慮があ
ったといえる。希死念慮は,気分障害の中核的な症状の抑うつ気
分や不安と強く結びついており,希死念慮がある場合には他の抑
うつ気分等の症状がないか否かについて慎重に判断する必要が
あるとされており,特に注意して検討すべきである。
食欲不振
Aは,本件自殺の3日前から急に食欲がなくなっていた。
自殺者のほとんどは精神障害を発症していたとの医学的知見が
あること
饉殺は,自らの生命を自ら絶つという,通常の精神状態の下で
は起こり得ない出来事であり,次のとおり,自殺者のほとんど(9
割以上)は精神障害を発症していたとの医学的知見がある。
仝生労働省が設置した「精神障害等の労災認定に係る専門検
討会」が平成11年7月29日付けで作成した「精神障害等の
労災認定に係る専門検討会報告書」(乙4−41頁)は,「自
殺者に占める精神障害者の比率に関する研究は19世紀後半
から近年に至るまで,多くの報告がある。これらの報告を『自
殺者に占める精神障害の比率及び自殺者の診断名分布の研究』
に示すが,精神障害と自殺の関連性は高いといえる。」として
いる。
参考4の「自殺者に占める精神障害の比率の資料一覧」(乙
4−71・72頁)によれば,自殺者のうち精神障害が認めら
れる者の比率は,その多くの調査において90%を超えてお
り,100%,すなわち自殺者の全員が何らかの精神障害を発
症していたとする調査も少なくない。
∧神16年度の厚生労働省委託研究に基づくE医師の「自殺
に関して」という論文(甲22−83頁)は,近年の自殺者に
おける精神障害罹患の割合について一覧表で報告している。こ
れによっても,自殺者のほとんどは精神障害を発症していたこ
とが明らかである。なお,この表の9)のWHOの調査は多国
間の共同研究をまとめたもので権威のあるものである。この調
査は1万5629件の自殺に関して心理的剖検を実施し,精神
障害と自殺との関係について調査したものであるが,「精神障
害の診断なし・保留」の者は僅か2.0%にとどまっている。
このWHOの調査結果を解説したF医師は,「その結果をま
とめると,自殺に及ぶ前に大多数(9割以上)の人々が何らか
の精神疾患に該当する状態であった。」としている(甲24−
68頁)。
「仕事・職場の問題が自殺に与える影響」(甲25−14頁)
も,「自殺既遂者の心理学的剖検調査で,90%近くに精神障
害が見いだされてきたことはすでに知られている。」としてい
る。
ぃ念綮佞痢崋殺の危険因子としての精神障害」という論文(甲
26)は,「…自殺者に占める精神障害の割合は,…これらを
合わせると90%に上り…。したがって日本においても,自殺
既遂者に占める精神障害の割合が高いことが推定された。」と
している。
鬚海譴蕕了実によれば,自殺者が精神障害に罹患していること
は高度の蓋然性をもって認められる事実であり,精神障害の発症
なくしてなされる「覚悟の自殺」は希有な事例である。したがっ
て,自殺した事実があれば,特段の事情が認められない限り,精
神障害の下で自殺がなされたことが推定されるのであり,精神障
害に罹患していたことを否定する側において,自殺を覚悟させる
に至った,正常人においても了解できる理由(例えば,悲憤の余
りの抗議の自殺や殉死による自殺など)があること等の特段の事
情を立証することが求められる。その立証がない限り,自殺は,
行為選択能力,あるいは自殺を思いとどまる意思が著しく阻害さ
れた精神状態,すなわち精神障害の下でなされたと認定されるべ
きである。
以上のとおり,Aには,Cの第2回巡回後の「殺すぞ。」との発
言前から,異変が起こり,勤務中に控訴人に電話するところまで追
い詰められており,また,第3回巡回中には過呼吸にもなった。そ
して,第3回巡回後にはひどく落ち込み,本件自殺直前には殺され
るかもしれないとの発言までしており,「極めて重症で急激な発
症」といえる。そうすると,ICD−10の診断基準の適用に際し,
2週間の持続期間は不要であり,Aが本件自殺直前頃うつ病を発症
していたことは明らかである。
仮にうつ病の発症が認められないとしても,Aは,次のとおり,本
件自殺の直前頃,適応障害を発症した。
bAには,Cから「殺すぞ。」などと脅迫されたり,ハラスメントを
受けるなどの極めて大きなストレスにより,「重大な生活上の変化や
ストレスに満ちた生活上の出来事」が生じている。このような重大な
出来事の直後に上記のような抑うつ症状や不安,恐怖の感情などが出
現しており,ICD−10の診断ガイドラインの適応障害の診断基準
を満たしており,Aは,少なくとも適応障害(混合性不安抑うつ反応)
を発症していた。
ウ本件自殺直前頃のうつ病又は適応障害の発症につき業務起因性がある
こと
前記ア及びイによれば,出来事△覆い鍬ぁきГ覆い鍬による心理的負
荷によって,Aは,本件自殺の直前頃,うつ病又は適応障害(これらを以
下「うつ病等」という。)を発症したといえる。そして,上記出来事によ
りAに掛かった心理的負荷は業務による心理的負荷に当たるから,Aが上
記のとおりうつ病等を発症したことにつき業務起因性があるというべき
である。
被控訴人の主張
ア「Aには業務による強い心理的負荷が掛かっていた」との主張に対し
本件夜勤前
aAのしていた空手に関する発言(出来事◆砲砲弔い
CがAの空手や人格を否定したことはない。仮に「なんちゃって
空手」などの発言があったとしても,冗談でなされた可能性もある
し,空手の競技について,Aと異なる意見を述べた程度のものであ
る。また,Aは,Cの上記発言に対し,「止めてくださいよ。」と
言って笑っていた。
したがって,Cの上記発言によってAに心理的負荷が掛かったと
はいえない。
C
的領域に属する出来事であるから,上記発言によりAが心理的負荷
を受けたとしても,それは業務による心理的負荷には当たらない。
b「道場へ来い。」などの発言(出来事)について
Cは「道場へ来い。」と発言したが,「道場やったら思いっきり
殴れる。」と発言した事実はない。
Cが「道場へ来い。」との発言をしてAを空手道場に誘ったのは,
Cが主宰する空手教室の子ども達に空手を教えてほしいと依頼した
ものであり,組手など空手の練習を口実にAに暴力を振るうことを
意図したものではない。そして,Cの上記発言は,具体的状況に照
らし,その相手方をして,Cに加害の意図があると思わせる可能性
のあるものではなかった。
したがって,仮に,AがCの上記発言を加害の意図に基づくもの
と思い込んで,これによって心理的負荷を受けていたとしても,A
の一方的な思い込みに基づくものであり,上記発言をいじめや嫌が
らせと評価すべきではなく,上記発言によってAに対して心理的負
荷が掛かったとはいえない。
仮に,Cの「道場へ来い。」との発言がAに不安を感じさせるよ
うな状況でなされたとしても,それは業務とは全く関連性のない私
的領域に属する出来事であるから,上記発言によりAが心理的負荷
を受けたとしても,それは業務による心理的負荷には当たらない。
c指差喚呼に関する発言(出来事ぁ砲砲弔い
Cが指差喚呼をしなくてよいと言ったのは,形式的な発声や指差動
作に気を取られ目視による安全確認が疎かになっている者が多いと
感じていたことから,目視による完全確認をしっかりするように指導
したものであり,命令でも強制でもない。また,上記指導は,高圧的
あるいは威圧的なものでも,繰り返しなされたものでもなく,業務指
導の範囲を逸脱したものとは認められないから,いじめと評価される
ものではない。
本件夜勤時
a第2回巡回前の言動(出来事А砲砲弔い
Cは,Aから個人目標について相談を受けており,個人目標の件に
ついて指導しようとしたにもかかわらず,Aが個人目標をB班長に提
出し「勝手に班長に出しました。何でCさんに聞かなならんのですか。」
と言ったことに立腹し,そのことが契機となって,「それなら,もう
俺には聞くな。」と応じたものである。
「道場へ来い。」などの発言は,Cの発言を聞いたAが,すねてふ
てくされた態度をとり,肩を揺すって詰め寄る気配を示したため,事
務所内で喧嘩はできないと思っての発言であるが,Cは冷静で,Aに
詰め寄るなどの事態には発展していない。そして,Aに落ち込んだ様
子はなかった。
b第2回巡回時の言動(出来事─砲砲弔い
Cの「何もするな。」との発言は,第2回巡回に出発する際,Aが
車内ですねた態度で作業をしたことに立腹してなされたものである。
Cは,巡回中に関係修復を図ろうとしたがそのきっかけがなかったに
すぎず,その間,Aはすねて押し黙ったまま,ふてくされた態度を取
っていた。また,第2回巡回の際,Cが「殺すぞ。」と発言した事実
はない。
そして,Aが仕事をしないように言われたのは,第2回巡回中の約
2時間のみであることからすれば,Cの上記言動によりAに掛かった
心理的負荷は弱いものであったといえる。
c第2回巡回後の言動(出来事)について
Cの「何もするな言うたやろ。殺すぞ。」との発言は,第2回巡回
中ふてくされて何もしなかったAが事務所に帰還するやあたかも仕
事をしていたように振る舞っているようにCに映り,怒りのあまりと
っさに出た言葉である。
上記のとおり,Cの「殺すぞ。」との発言は,一時的な興奮に基づ
く突発的な発言であり,CがAに殴りかかるような気勢を示すとか詰
め寄るとかいった行動を伴うものではなかった。
したがって,Cの上記言動によりAに掛かった心理的負荷は強いも
のではなかった。
d第3回巡回時の言動(出来事)について
パーキングエリアでの不審車対応
パーキングエリアで不審車を発見した件は,自殺の可能性があ
り,後続のパトロールカーへの引継ぎのため本部に連絡する必要が
あったから,B班長への電話連絡を指示したものであり,正当な指
導の範囲を超えるものではない。
落下物の処理
Cの言動は正当な指導の範囲を超えるものではなく,その際に,
「殺すぞ。」とは発言していない。
なお,控訴人は,Aが過呼吸となった旨主張するが,Cの認識に
よれば巡回中にはそのような様子はなく,実際に過呼吸となったか
否かは不明といわざるを得ない。
e第3回巡回後の言動(出来事)について
Cの「使い物にならない」との発言は,B班長に対するものであっ
て,Aの面前でなされたものではない。
文書作成の指示は,その年(平成24年)の4月から導入されたO
JTの一環としてなされたものであり,業務指導の範囲を逸脱するも
のではない。
「小学生の文書みたいやな。」との発言は,失言の部類に属するも
のではあるが,認定基準別表1にいう「(ひどい)嫌がらせ,いじめ」
に該当する程のものではない。
以上によれば,Aについて,本件自殺直前頃の前おおむね6か月の
間にあった業務による出来事は,それによる心理的負荷の総合評価が
認定基準にいう「中」程度のものであったといえる。
b認定基準は,対象疾病の発病につき業務起因性を認めるための要件
件△蓮ぁ崑仂歇隻造糧病前おおむね6か月の間に,業務による強い
心理的負荷が認められること」を要するものとしている。そして,認
定基準は,認定基準別表1に基づき心理的負荷の総合評価が「強」と
判断される場合に,認定要件△鯔たすものとしている。
そうすると,Aについては,前記aのとおり,業務による心理的負
荷の総合評価が「中」であったから,認定要件△鯔たしていない。
イ「Aは本件自殺直前頃うつ病等を発症した」との主張に対し
Aが本件自殺直前頃うつ病等を発症したことは認められない(その根拠
は,次のとおりである。)。したがって,A
イの認定要件 並仂歇隻造鯣病していること)を満たしていない。
H意見書
医員として専門部会意見書の判断に関与したHが作成した意見書(以
下「H意見書」という。乙20)は,「専門部会意見書にある「Aは,
自殺直前には,ICD−10の「F3気分(感情)障害」を発症して
いた可能性が考えられる。」との記述(乙1−374・379頁)は,
Aが精神障害を発症していた蓋然性は極めて低いが,念のために,業務
による負荷の強度を検討するために,ICD−10の「F3気分(感
情)障害」を発症していたと仮定するという意味である。したがって,
「気分障害を発症していた可能性が考えられる。」との部分は,「仮に
気分障害を発症していたとしたら」と訂正するのが正確である。」とし
ている。
上記のH意見書によれば,AがICD−10の「F3気分(感情)
障害」やその他の精神障害を発症していた可能性は極めて低いというべ
きである。
うつ病について
aICD−10の「F32うつ病エピソード」(うつ病)について,
ICD−10診断ガイドラインは,次のとおりとする(乙8)。
「3種類全ての典型的な抑うつのエピソード(軽症(F32.0),
中等症(F32.1)及び重症(F32.2とF32.3))では,
患者は,通常,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,及び易疲労性(活
動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少)に悩まされる。
わずかに頑張った後でも,ひどく疲労を感じることが普通である。
他の一般的な症状には,―乎耄呂斑躇嬶呂慮座燹き⊆己評価と
自信の低下,罪責感と無価値観(軽症エピソードにもみられる。),
ぞ来に対する希望のない悲観的な見方,ゼ傷あるいは自殺の観
念や行為,睡眠障害,Э欲不振がある。
うつ病エピソードは,重症度の如何に関係なく,普通少なくとも
2週間の持続が診断に必要とされるが,もし症状が極めて重症で急
激な発症であれば,より短い期間であってもかまわない。」
b控訴人が主張するエピソードは,2週間以上持続する抑うつ気分や
活動の低下,興味と喜びの喪失を伴う症状ということはできない。
適応障害について
Aには,適応障害の症状を示すものは認められない。
ウ控訴人の主張ウ(本件自殺直前頃のうつ病等の発症につき業務起因性が
あること)は争う。
Aが本件自殺直前頃うつ病等を発症したとは認められない。仮にうつ病
等を発症したことが認められるとしても,上記うつ病等の発症につき業務
起因性があるとはいえない。
第3当裁判所の判断
1前記前提事実及び証拠(乙1,9,後掲のもの)並びに弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
A(本件夜勤当時24歳の男性)は,本件会社に入社した平成22年3
月以降,2名1組で阪神高速道路の巡回パトロール業務(道路上の落下物
の回収や事故車両の処理等を行う交通管理業務)に従事していた。
Aの仕事の出来,能力は,経験年数に照らして普通のレベルであった。
Aは,仕事に関しやる気があり,仕事の習得に前向きな姿勢であった。A
は,明るく人懐っこい性格で,先輩など皆に可愛がられるタイプであった。
Aは,上司から受けた注意を気にしやすいところや,仕事で小さな失敗を
しても落ち込みやすいところがあったが,翌日には元気になるなど,短期
間で立ち直っていた。
Aは,幼少期から空手を始め,高校時代にはインターハイに出場し,大
学も空手の推薦で入学し,空手部に所属していた。そして,社会人になっ
てからも,幼稚園から通っていた空手道場に顔を出し試合に出るなどして
空手を続けていた。Aは,長年にわたって練習に打ち込んで習得した自ら
の空手について,特技として誇りを持っていた。Aがしていた空手は,「糸
東流」という伝統空手であり,型の演武を重視し,組手においては突きや
蹴りを相手に当てない「寸止め」を行う空手の流派であった。
(甲11,乙1−18・19・21・270・281・287・295・
305・309・325・338・341・438頁,乙9−11頁,乙
18,19,21,証人B,同I,同J,控訴人本人)
イC(本件夜勤当時46歳の男性)は,勤続18年のベテラン社員であっ
た。Cは,部下に対する指導が厳しいということで知られており,かつて
の配属先の部下の中には,Cについて「とにかく怖い存在であった。威圧
感があった。」という者もいた。また,Cについて「人によって態度が変
わる人であった。」,「カッとなりやすいタイプで,声を荒げることがあ
った。人に対して好き嫌いが激しい面があった。」などの見方をする隊員
もいた。
(乙1−271・280・287・288・295・314・341頁,
乙9−18頁,証人I)
Cは,20歳頃から空手を始め,極真空手の豊富な経験を有し,これを
習得していたが,既に試合などの競技生活は引退し,平成17年頃から,
子ども向けの空手教室を主宰するなど指導者として空手に携わっていた。
Cがしていた極真空手は,Aがしていた伝統空手とは異なり,組手や試合
において,突きや蹴りによる強力な打撃を加え相手を打ち倒すという直接
打撃制の空手を行う流派である。
(乙14,15,証人C,控訴人本人)
平成22年3月(A入社時)から平成24年3月までの状況
Aは,平成22年4月頃,新人研修における自己紹介の際に空手が得意で
ある旨発言したところ,その数か月後,CがAについて「いっぺん締めたら
なあかんな。」などと周囲に話していたとの噂を聞いた。このことから,A
は,Cに対して不安を抱いた。
Aは,平成23年3月27日,w交通管理課の配属となった。
AとCは,Cが後記のとおり平成24年4月に異動でw交通管理課の配属
となるまでの間,ほとんど接触することはなかった。
平成24年4月から本件夜勤前までの状況
アCは,平成24年4月(以下,月日のみ記載するときは,いずれも平成
24年である。)の異動で,Aの配属先であるw交通管理課に配属された。
4月当時,Aが所属していた班の構成員8名は,班長(係長)がBであ
り,主任がC,K,D及びJであり(そのうちC及びKが副班長である。),
一般職員がL,A及びMであった。
イ指差喚呼に関する発言
Cは,4月11日,Aとペアで巡回パトロールを行った際,助手席のA
が指差喚呼(確認対象を指で示しながら声に出して安全を目視確認する方
法をいう。本件会社では,パトロールカーの助手席に乗った隊員が安全確
認をしその方向を指しながら「右よし。」,「左よし。」と声を出して指
差喚呼の安全確認を行うことが決まりとされていた。)を実施した時,「俺
の運転が信用できないか。」と言い,指差喚呼を実施しないよう指示した。
Aは,Cの上記指示を不適切だと思ったが,その後,Cとペアを組む際
には指差喚呼をしないようにした。
なお,Cは,A以外の隊員に対しても同様に,自分とペアを組む際には
指差喚呼をしないよう言っていた。
(乙1−27頁,乙9−16頁,乙15,証人C)
ウAのしていた空手に関する発言
Cは,4月ないし5月頃,巡回パトロールの前後,w交通管理課の事
務所(以下「事務所」という。)において,Aと雑談した際,Aがして
きた空手について,「お前がやっている空手は,武道家を気取って実戦
に使えない空手やから,そんなんして何の意味があるねん。」,「お前
の空手は,なんちゃって空手だ。」などと言って,Aの空手を否定し,
ばかにする発言をした。これに対し,Aは,「止めてくださいよ。」と
言って笑っていた。
AとCは,本件夜勤前に3回(4月11日,同月15日,5月4日),
ペアで巡回パトロールを行った(乙1−136・146・191頁)。
Cは,4月15日又は5月4日,Aとペアで巡回パトロールを行った
際,AAのしていた空手を否定し,ばかにする
発言をした。
Aは,その巡回の直後頃,巡回のペア編成を担当するJに対し,「C
さんとペアで巡回中,空手の話題になり,Cさんに,自分がしている「型
の空手」を否定された。Cさんとのペア巡回はやり辛い。」と言い,C
とのペア巡回を極力外してほしいと頼んだ。そのため,Jは,以後,そ
の依頼に沿うよう,ペア編成に関し相応の配慮をしていた。
Aは,5月上旬頃,I(w交通管理課の,Aの班とは別の班で主任を
していた隊員。以下「I」という。なお,Iは,Aが前年に所属してい
た班で,副班長を務めていた。)に対し,「Cさんから『お前がやって
いる空手は空手ではない。』と言われ,今までやってきた空手を否定さ
れた。なぜそんなことまで言われないといけないのか。」と言い,悩ん
でいる様子であった。
Aは,5月中旬頃,Dに対し,「Cさんに自分の空手人生を否定され
た。落ち込むわ。」と言い,悩んでいる様子であった。
Aは,5月23日に,K,J及びIとともに飲みに行った際,Cに自
分の空手を否定されたなどと言い,Cに関する悩みを相談した。Kは,
その際,Aに対し,「中途半端にビビっているから,あかん。」などと
Cへの対応についてアドバイスをした。
(乙1−277・293・297・301・316・327・331・
342頁,乙9−13・14・17・18頁,乙21,証人I,同J)
エ「道場へ来い。」との発言
Cは,4月中旬ないし下旬頃,Aに対し,「道場へ来い。」と言って,
空手道場に誘ったが,Aは,道場に行けば組手に名を借りてCに殴られた
り蹴られたりすると思い,上記誘いを断った。(なお,控訴人は,Cが上
記発言の際に「道場やったら思いきり殴れる。」とも言った旨主張するけ
れども,これを認めるに足りる証拠はない。)
Aは,その頃,Lに対し,上記の出来事を話したが,その際,「Cさん
は僕のことを嫌っているから,組手を理由に殴られるのではないか。」と
も言い,Cを怖がっている様子であった。
Cは,その後も,5月中旬頃までの間,Aに対し,道場へ来るように誘
うことがあったが,Aはその誘いを断っていた。
Aは,4月中旬頃以降,控訴人(Aの父)やN(Aの母)に対し,複数
回,「Cさんから道場に来るように誘われているが,うまく断っている。」,
「道場に行ったら,ボコボコにされる。」,「Cさんの空手は極真空手で,
極真空手は人も殺せる。」などと言い,Cを怖がっている様子であった。
なお,Cは,前記のとおり子ども向けの空手教室を主宰しており,Aの
ほかにも本件会社の部下等の隊員に対して道場に来るように誘うことが
あった。(乙1−10・23・297・298・314・315頁,乙9
−1・18頁,乙19,証人C,同I,控訴人本人)
オ4月以降,本件夜勤前までは,事務所内で,AとCの雰囲気が悪くなっ
ている様子は見られなかった。
しかし,Aは,両親や親しい隊員に対しては,前記のようにCに関する
悩みを話していた。Iは,4月以降,Aから,前記の話のほか,「Cさん
から仕事のことについて質問されて返答するが,次々に質問される。自分
の技量を認めてくれない。厳しい。」との話を聞いていた。
また,O隊員は,4月ないし5月頃,Aから,「Cさんから仕事のこと
で強く言われる。細かいことも言われ,すごく辛い。」との話を聞いてお
り,P隊員は,5月21日頃,Aから,Cとの間で空手の話などになって
精神的にきつい状態であるとの話を聞いていた。
Dは,4月ないし5月頃,3回位,Aが,Cのことを苦手だと言うのを
聞くことがあった。
Kは,4月以降,CのAに対する言い方がきついと感じ,Aに対し,「あ
まり気にしないように。」と言ったことがあった。
Iは,4月下旬頃からAに少し元気がないように感じており,Q隊員は,
5月前半からAに元気がなくなったように感じていた。
(乙1−297・301・306・327・334・335・341・3
42頁,乙9−14・18頁)
本件夜勤時の状況
アAは,5月25日から同月26日(以下,日のみ記載するときは,いず
れも平成24年5月である。)にかけての本件夜勤において,Cとペアを
組んでパトロールカーに乗り,次のとおり巡回パトロールを行った。
第1回巡回25日午後6時から同日午後8時30分まで
第2回巡回25日午後10時から同日午後12時まで
第3回巡回26日午前3時30分から同日午前6時まで
イ第1回巡回が25日午後8時30分頃に終了するまで,AとCとの間に
特段のトラブルはなかった。
ウ第1回巡回後,第2回巡回開始(25日午後10時)までの間
A及びCは,第1回巡回後,事務所において,食事を取るなどしていた。
第2回巡回に出発する間際(25日午後10時前頃),Cが,Aに対し,
個人目標(隊員が作成しB班長に直接提出すべきもの)の進捗状況につい
て尋ねたところ,Aは,「もう班長に出しました。なんでCさんに聞かれ
ないといけないんですか。」と答えた。Cは,従前,個人目標について,
Aから相談を受けAに対して作成のアドバイスをしていたため,作成した
個人目標をB班長に提出する前にはAから相談があると思っていたにも
かかわらず,AがCに相談することなくB班長に個人目標を提出したこと
に立腹し,「それやったら,俺と仕事の話は一切せんでええ。」とAを怒
鳴りつけた。そして,Cは,Aが肩を揺すって歩いているのを見て,Aに
対し,「歩き方が気に入らない。」,「道場へ来い。道場やったら殴りや
すいから。」と大声で言った。Cが一方的にAを怒鳴りつけている間,A
は黙って聞いているだけであった。
(乙1−272・273・307・342・343・350頁,乙9−7
・8頁,乙15,19,証人C)
エ第2回巡回(25日午後10時から同日午後12時まで)
A及びCは,Cがパトロールカーを運転し,Aが助手席に乗って第2回
巡回に出発した。
運転席に座ったCは,助手席に座ったAがタコメーターをセットしよう
としたところ,Aに対し,「何もするな。全て俺がやる。」と怒鳴りつけ
た。そして,Cは,タコメーターのセット・処置,基地局との無線対応な
ど,助手席の乗務員がすべき業務を自ら行った。そのため,Aは,第2回
巡回の間,終始無言で助手席に座っており,巡回に伴う具体的業務を何ら
行わずにいた。(なお,控訴人は,Cは「何もするな。」と言った際に「殺
すぞ。」と怒鳴ったと主張し,本人尋問において,Aから電話でそのよう
に聞いた旨供述する。しかしながら,控訴人は,9月24日の労働基準監
督官による事情聴取における聴取書(乙1−8〜19頁)や,その後の陳
述書(甲11,33)において,上記のことを述べていないことに照らし,
控訴人の上記供述は,直ちに採用することができない。)
(乙1−11・12・328頁,乙15,証人C,同J)
オ第2回巡回後,第3回巡回開始(26日午前3時30分)までの間
第2回巡回後,Cよりも先に事務所に戻ったAは,Cから何もするなと
言われていたものの,Jから巡回終了後の書類整理を行うように促された
ことから,書類整理を開始した。遅れて事務所内に入ってきたCは,上記
のAの様子を認め,激怒し,「何もするな言うたやろ。殺すぞ。」と大声
で怒鳴りつけた。これに対し,Aは黙っていた。その様子を見ていたB班
長は,Cを事務所外に連れ出し,Cに対し,「言い過ぎや。Aが怖がって
いるやないか。」などと言って注意した。
Jは,Cから怒鳴られたAの様子を見て,落ち込んでいるように思われ
たので,第3回巡回はCとペアを組ませるべきではないと考え,B班長に
対し,AとCのペア替えを提案した。B班長は,その提案に対し,一旦は
ペア替えを検討したものの,C及びAの様子がいずれも落ち着いているこ
とを踏まえ,今後も一緒に仕事をしていくことを考えると,今日だけはペ
ア替えをしない方がよいと考え,Aに対し,当日だけのペア続行を打診し,
Aもこれに同意した。
Aは,第2回巡回後,第3回巡回開始までの間,数回,控訴人に電話を
架け,「仕事辞めてもええか。このまま帰りたいわ。助けてくれ。」など
と言った。
(乙1−11・307・317・328頁,乙9−7・8頁,乙15,1
8,21,証人C,同B,同J)
カ第3回巡回(26日午前3時30分から同日午前6時まで)
A及びCは,Aがパトロールカーを運転し,Cが助手席に乗って第3回
巡回に出発した。
パーキングエリアでの不審車対応
A及びCは,第3回巡回中,パーキングエリアで駐車場の隅にカーテ
ンを閉めて駐車している不審車を発見した。そこで,Aが不審車の周囲
を回って状況を確認してパトロールカーに戻ってきたところ,Cは,自
殺の可能性があるから車の窓をノックして返事があるか確認する必要
があると考え,Aに対し,確認の仕方が不十分であると注意し指導した。
その際,Aがすねた態度をとっていると思い,Aに対し,Cの言ってい
ることが間違っていないかB班長に確認するよう指示し,B班長へ電話
を架けさせ,上記の確認をさせた。
落下物の処理
Aは,第3回巡回中,高速道路上に落下物を発見したため,落下物を
回収しようと急ブレーキをかけた。Cは,その時,後方にトラックが追
従している状況にあったことから,Aに対し,「こんなところでこんな
もん拾う必要はないだろう。」などと大声で注意した。(なお,控訴人
は,この時,CがAに対して「殺すぞ。」と発言した旨主張するが,前
記エで説示したところと同様の理由から,採用できない。)
ACの注意を厳しいと感じていた。
Aは,第3回巡回中,v集約(基地)に立ち寄った際,そのトイレで,
過呼吸になり,しばらくしゃがみこんだ(なお,本件夜勤におけるこれ
までの経緯のほか,Aが,26日の本件夜勤直後頃,I,w交通管理課
課長代理R(以下「R課長代理」という。)及び控訴人に対し,それぞ
れ上記過呼吸に係る事実があったことを具体的に述べていたことによ
れば,上記事実が認められ,上記認定を覆すに足りる証拠はない。)。
(甲11,31,乙1−12・274〜276・298頁,乙9−1・8
・9・13頁,乙15,18,21,証人C,同B,控訴人本人)
キ第3回巡回後,本件夜勤終了までの間
Aは,26日午前6時頃,第3回巡回を終えて事務所に戻った時,か
なり落ち込んでいる様子であった。
Cは,第3回巡回後,事務所において,B班長に対し,Aについて「あ
いつは,もう使い物になりませんわ。」と発言した。この時,Aは,事
務所の外の階段のところで,頭を抱えて座っていた。(なお,控訴人は,
AがCの上記発言を聞いていた旨主張するが,これを認めるに足りる証
拠はない。)
また,Dが,一人で下を向いて座っているAに対して「どうした。」
と声をかけたところ,Aが「駄目です。もう無理です。」と言ったので,
Dは「どうしたんや。」と聞いたが,Aは,首を横に振って「駄目です。
もう無理です。」の一点張りで,それ以上のことは何も言わなかった。
Cは,Aに対し,第3回巡回中に起こった出来事について,文書にま
とめるように指示し,Aは,これに従い文書を作成した。Cは,最初の
頃,パソコンの前に座って文書を作成しているAの背後に立ち,Aに対
し,指示を出し訂正をさせていた。この時,Aは,落ち込んだ様子で顔
色も青ざめていた。Kは,Cが席を外した時に,Aから作成した文書を
見せられ,Aに対し,「これでいいん違うか。あまり気にしないように。」
と言った。
その後,Aが作成した文書をCに提出したところ,Cは,その文書を
見て,周りに他の隊員らがいる前で,Aに対し,「小学生の文書みたい
やな。」と大声で言った。
(甲31,乙1−307・318・329・336・344・351頁,
乙9−12頁,乙18,証人C,同B,同I,控訴人本人)
本件夜勤終了後の事務所における状況
ア本件夜勤が終了し,Cが退社した後の26日午前9時半頃,事務所にお
いて,Cを除いた班員7名でミーティングが行われた。この時,Aは,ひ
どく落ち込んでいる様子であった。その際,B班長は,本件夜勤における
AとCとの間の出来事について事情説明をした上で,Aが精神的に回復す
るまでCとペアを組ませないということを決定した。
また,Aは,B班長に対し,「きついです。何をやっても否定されて何
をやっていいか分からない。」と言い,28日(月曜日)以降しばらく休
みたい旨の申出をした。これに対し,B班長が「休むと,出てきにくくな
るんじゃないか。できれば出勤してほしい。」などと言ったところ,Aは,
「家に帰って家族会議をする。」と言った。そして,Aが,本件夜勤にお
けるCとの間の出来事についてR課長代理にも報告してほしい旨要望した
ところ,B班長は,報告すると約束した。
イそのミーティングの後,A,B班長,J,S(w交通管理課で係長とし
て勤務する者(以下「S」という。)。なお,Sは上記ミーティング後に
出勤してきた。)の4名で話合いを行った。
Sは,上記話合いが終わった後,Aと二人で話をした際,Aが空手のこ
とでCを怖がっているように思ったことから,Aに対し,「何かされたら
転がって救急車呼んで訴えたらええねん。そしたら大ごとになるから。」
と言った。また,Sは,AがCから道場へ来いと誘われていることについ
て道場に行ったらボコボコにされると思っているようであったので,「C
から誘われても道場には行かなくてよいから。」と言った。
その後,Jは,帰る前に,Aと二人で話をした際,Aがひどく落ち込ん
でいるように見えたので,「親に相談してみ。」と声をかけた。
(乙1−285・289・290・307・308・329・344・34
5頁,乙9−5・6・11・12頁,乙21,証人B,同J)
退社後の26日の状況
ア控訴人は,Aとの電話でx墓園で落ち合って食事をしようということに
なり,26日昼頃,x墓園でAと会ったが,Aに食欲はなかった。
R課長代理は,B班長から本件夜勤におけるAとCとの間の出来事につ
いて報告を受けた後,26日昼頃,Aに電話を架け,Aから事情を聞いた。
そうしたところ,Aが「前から色々あったんです。4月の後半頃から,C
さんから道場へ来いと誘われているんです。これってどういうことか分か
りますよね。」と言ったことから,R課長代理が「ボコボコにされるとい
うことか。」と聞くと,Aは,「そういうことです。」と言い,さらに,
「Cさんとペアで巡回をしていた時に,指差喚呼をしたところ,Cさんか
ら『俺の運転が信用できんのか。』と言われたことがあった。」などと言
った上,本件夜勤におけるCとの出来事について話をした。これに対し,
R課長代理は,Cに対しては指導すること,それでもCが何か言ってきた
ら自分に言ってほしいこと,CからAを守ること,Cとペアにすることは
ないこと等について,話をした。
イAは,26日,本件会社を辞めて転職することを考え,携帯電話でメー
ルを送信し,宅急便の会社の求人に応募した。
また,Aは,同日,控訴人と話をした際,本件会社を辞めたいこと,2
8日(月曜日)からしばらく休むことなどについて,控訴人に相談した。
これに対し,控訴人は,28日は取りあえず出勤するようにアドバイスし
た。
(甲11,甲32の9・10・12・28〜31,乙1−273〜277頁,
乙9−1・2頁,控訴人本人−17・33・36〜39頁)
27日及び28日午前の状況
27日はAの公休出勤の日であり,Aは,同日朝,出勤した。
Aは,事務所で顔を合わせたM(Aの1年後輩の隊員)に,「仕事を
辞めたい。」と言った。そして,Mが「辞めるのもいいんじゃないです
か。」と言うと,Aは「有休も残っているし,ボーナスもあるから,考
える。」と言った。
Aは,Iとペアを組み,27日の巡回を行った。
Iは,同日朝出勤した時にAが「昨日から何も食べていないんです。」
と言っていたことから,Aに対し,「コンビニで昼ご飯買ってこい。」
と言って買いに行かせた。
Iは,巡回中,Aから本件夜勤におけるCとの出来事について話を聞
いた。そして,Aが「会社を辞めたい。」と言ったので,Iは「初めて
のボーナスまで待つ手もあるで。家族とも相談してみろ。」などと言っ
た。そして,Iが「月曜日(28日)頑張って出てきや。」と言ったと
ころ,Aは「分かりました。」と言った。
その後,Aは,27日午後1時25分,B班長に対し,「明日,出勤
します。」旨のメールを送信した。そして,B班長から受信した「了解。
Cにはきっちり話するから,心配せずに。」とのメールに対し,「了解
です。お願いします。」とのメールを返信した。
なお,Aは,同日昼頃,Iと一緒に昼食を取ったが,その時は食欲も
普通で,完食した。
Aは,27日の勤務終了後,M及びTと話をした際,Cとの接触につ
いて,Tから,R課長代理に言えばCとのペアを外してくれるなどの話
があったのに対し,「事務所で顔を合わすのも嫌だ。待機中でも顔を合
わすのが怖い。」,「明日,仕事に行くのが嫌だ。仕事に行きたくない。」
と言った。
イAは,車を運転してMとTをx駅まで送った後,27日午後7時頃,帰
宅した。そして,控訴人に対し,「夕食はいらん。」と言って,自分の部
屋に入った。この時,Aはかなり落ち込んでいる様子であった。Aは,同
日の晩,U(Aの姉)が帰りに買ってきたケーキも食べなかった。
N(当時,1週間前頃から毎日控訴人宅で寝泊まりをしていた。)は,
26日頃からAが帰宅した時に食欲がなかったことやAが家の中で顔色
が悪く元気がなかったことなどからAのことを心配していたところ,27
日の午後8時ないし午後9時頃,気になってAの部屋に様子を見に行っ
た。その時,Aは,疲れ切った表情で,Nに対し,「おかん,また同じ勤
務になるみたいや。」と言った。
Aは,27日午後12時頃,自室からトイレに行く途中,廊下でNとす
れ違った時,「明日行くのが怖いねん。殺されるかもしれへん。」と言っ
た。
控訴人は,28日午前7時頃,Aの部屋に行ったところ,Aが自室で縊
死しているのを発見した。なお,Aの死体検案書(乙1−7頁)によれば,
Aの推定死亡時刻は28日午前2時頃とされている。
(甲32の16・17・38,乙1−15・16・22・23・246・2
47・298〜300・329・330・347・351・352頁,乙9
−12・16頁,証人I)
2労災保険法にいう業務起因性について
労災保険法7条1項1号にいう「労働者の業務上の死亡」とは,労働者が
業務に基づく負傷又は疾病(これらを併せて,以下「疾病等」という。)に
起因して死亡した場合をいい,業務と上記疾病等との間には相当因果関係の
あることが必要であり,その疾病等が原因となって死亡の結果が発生した場
合でなければならないと解すべきである(最高裁昭和50年(行ツ)第11
1号同51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事第119号189頁
参照)。
そして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的
証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の
結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,
その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るも
のであることを必要とし,かつ,それで足りるものと解すべきである(最高
裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集
29巻9号1417頁,最高裁平成7年(オ)第1205号同9年2月25
日第三小法廷判決・民集51巻2号502頁,最高裁平成5年(行ツ)第8
5号同9年11月28日第三小法廷判決・裁判集民事第186号269頁,
最高裁平成16年(受)第672号同18年6月16日第二小法廷判決・民
集60巻5号1997頁参照)。
また,精神障害の業務起因性の判断について,厚生労働省は認定基準を策
定しているところ,これは行政処分の迅速かつ画一的な処理を目的として定
められたもので,裁判所を法的に拘束するものではないが,精神医学,心理
学及び法律学等の専門家により作成された平成23年報告書に基づき,医学
的専門的知見を踏まえて策定されたものであり,その作成経緯及び内容等に
照らして合理性を有するといえるから,精神障害に係る業務起因性を判断す
るに当たっても,これをも参考にして行うのが相当である。
3争点についての判断
前記前提事実及び前記1の事実によれば,次のとおり認定判断することが
できる。
アAに業務による強い心理的負荷が掛かっていたか
本件夜勤前の出来事
aAのしていた空手に関する発言(出来事◆
前記1のとおり,Cは,4月ないし5月頃,Aに対し,複数回,
Aのしていた空手を否定し,ばかにする発言をしたものである。
。舛蓮つ糠にわたって練習に打ち込んで習得した自らの空手に
ついて,特技として誇りを持っていたこと,■舛蓮C
発言により落ち込み苦悩していることを,I,D,K,Jらに対し,
度々打ち明けて相談し,さらに,巡回のペア編成を担当するJに対
しては,Cの上記発言が辛いとして,Cとのペア巡回を極力外して
ほしいと頼んでいたこと,これらに照らせば,C
よって,Aには,一定の心理的負荷が掛かっていたというべきであ
る。
これに対し,被控訴人は,AはC
くださいよ。」と言って笑っていたとして,これによってAに心理
的負荷が掛かったとはいえない旨主張する。
しかしながら,Aにとって,Cは職場における上司に当たるので
あるから,Aが,Cの上記発言によって,内心で辛い気持ちを抱い
ていたとしても,その場の雰囲気を悪くし職場におけるCとの人間
関係を悪化させることを避けるため,Cに対して反論等することな
く,愛想笑いをするということは,十分ありうることであり,容易
に推察することができるというべきである。

するものではなく,被控訴人の上記主張は採用することができな
い。
また,被控訴人は,Cの上記発言による心理的負荷は,業務とは
全く関連性のない私的領域に属する出来事によるものであるから,
業務によるものには当たらない旨主張する。
確かに,上記発言は,AがCと巡回の前後や巡回中にされたもの
ではあるが,その会話自体は雑談であり私的領域に属するものであ
るから,これによる心理的負荷を直ちに業務上のものということは
できない。したがって,上記発言による心理的負荷は,それ自体で
業務上のものということはできないが,これが業務に関連する機会
になされたものであること,及び上記発言が後にされたCの言動に
つきその背景として心理的負荷を強める作用をしていると考えら
れることからすると,その後のCの言動による心理的負荷の評価や,
全ての負荷の総合評価に当たっては,出来事△梁減澆鬚盥洋犬靴
負荷の強度を評価し得るものと解するのが相当である。
b「道場へ来い。」などの発言(出来事)
前記1のとおり,Cは,4月中旬頃ないし5月中旬頃,Aに対
し,複数回,「道場へ来い。」と言って,空手道場に誘ったもの
である。
そして,前記1のとおり,。舛蓮ち圧aのとおり,Cの空手
に関する発言によって,辛いと感じ悩んでいたこと,Cの上記
発言は,組手を「寸止め」で行う,Aのしていた伝統空手につい
て,実戦に使えない空手であるとして否定するものであること,
Aは,自らの伝統空手の組手と極真空手の組手の違いを熟知し
ており,極真空手を習得し,かつ,職場における自らの上司に当
たるCと,極真空手の組手を行うことになった場合,「ボコボコ
にされる。」と感じていたこと,ぃ舛蓮Cの前記aの空手に関
する発言や,Cの仕事面でのAに対する厳しい言辞によって,辛
いと感じ,Cから嫌われていると思い,Cに対する苦手意識を抱
いていたこと,ィ舛蓮ぃ未篶梢討紡个掘Cから空手道場に来る
ように誘われているが,断っている旨の話をした際,「道場に行
ったら,組手で,ボコボコにされる。」などと言い,Cのことを
怖がっている様子であったこと,Γ舛蓮ぃ横尭昼頃にも,R課
長代理に対し,4月後半頃以降Cから「道場へ来い。」と誘われ
ており,その誘いについて「道場に行ったら,組手で,ボコボコ
にされる。」と思っていた旨述べたこと,以上の事実が認められ
るのであり,これらに照らせば,C
との発言と,C
らによって,Aには,業務による相当程度の心理的負荷が掛かっ
ていたというべきである(以下,上記各発言を併せて「本件夜勤
前の出来事」という。)。
これに対し,被控訴人は,C
照らしてCに加害の意図があると思わせる可能性のあるものでは
なかった旨主張するけれども,上記発言が,AとCとの従前の人
間関係を含む具体的状況に照らし,Cに加害の意図があると思わ
から明らかであり,被控訴人の上記主張は採用することができな
い。
また,被控訴人は,C
とは全く関連性のない私的領域に属する出来事によるものであ
るから,業務によるものには当たらない旨主張するところ,この
本件夜勤時の出来事
a第2回巡回前の言動(出来事А
前記1のとおり,Cは,第2回巡回に出発する間際,AがCに相
談することなく個人目標をB班長に提出したことに立腹し,「それ
やったら,俺と仕事の話は一切せんでええ。」とAを怒鳴りつけ,
さらに,Aが歩いているのを見て,Aに対し,「歩き方が気に入ら
ない。」,「道場へ来い。道場やったら殴りやすいから。」と大声
で言ったものである。
CAを怒鳴り
つけ,その内容も仕事の話を一切しないように言うなど理不尽なも
のであった。そして,前判示のとおり,従前の経緯等から,CがA
に対して「道場へ来い。」と言うことは,Aを怖がらせる行為であ
ったところ,C
ら。」と加害の意図を有することをも示している。
前記1のとおり,Cが一方的にAを怒鳴りつけている間,Aは黙
って聞いているだけであったが,これは,CがAの上司であり,か
つ,前判示のとおりAにとって怖い存在であったことから,Aの心
理状態は,反論,反発のできるような状態でなかったことによると
考えるのが合理的である。
これらに照らせば,CAには,業務に
よる相当程度の心理的負荷が掛かったというべきである。
b第2回巡回時の言動(出来事─
前記1のとおり,Cは,第2回巡回時,Aに対し,「何もするな。」
と怒鳴りつけ,Aに同巡回の際に何も仕事をさせなかったものであ
る。
Cは,やり甲斐のある仕事と思って本件会社における仕事に前向
きに取り組んでいたAに対し,自らの怒りの感情を爆発させ,「何
もするな。」と怒鳴りつけ仕事をさせなかったものであり,それは,
極めて理不尽な言動であり,Aの労働者としての職業上の人格を踏
みにじり,否定する行為といっても過言ではなく,これが,嫌がら
せ,いじめに当たることは明らかである。
そして,C
Cの第2回巡回前の言動(前記a)があった直後,連続的に行われ
たものであり,その時のAには,Cの第2回巡回前の言動により掛
かった心理的負荷による影響が減少することなく残存していたと
考えられる。このことからすれば,CAに掛
かった心理的負荷は,それが単発的に行われた場合より強いものと
なったとみるべきである。
以上によれば,CAには,業務による
相当程度の心理的負荷が掛かったものと認められる。
これに対し,被控訴人は,Aが仕事をしないように言われたのは,
第2回巡回中の約2時間のみであるとして,C
りAに掛かった心理的負荷は弱いものであった旨主張する。

2時間であるからといって,Aに掛かった心理的負荷が弱いもので
あったということはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
c第2回巡回後の言動(出来事)
前記1のとおり,Cは,第2回巡回後,事務所において,巡回終
了後にすべき書類整理を始めていたAの様子を認め,激怒し,「何
もするな言うたやろ。殺すぞ。」と大声で怒鳴りつけたものである。
CAを怒鳴り
つけたものであり,極めて理不尽な言動である。
のみならず,「殺すぞ。」と怒鳴りつけた行為は,文字通り殺人
行為が実行されるとの恐怖を相手方に抱かせるものとまではいえ
ないが,AとCの従前の人間関係,本件夜勤におけるそれまでの出
来事を含む具体的状況に照らせば,殴る蹴るなどの危害が加えられ
るかもしれないという畏怖の念ないし不安感をAに抱かせるに足
りる行為であったということができる。Cの上記言動がなされた場
所が他の隊員がいる事務所内であったことは,上記判断を左右する
ものではない。
そして,C
Cの第2回巡回前の言動(前記a),第2回巡回時の言動(前記b)
があった直後,連続的に行われたものであり,その時のAには,C
の上記各言動により掛かった心理的負荷による影響が減少するこ
となく残存していたと考えられる。このことからすれば,Cの前記
Aに掛かった心理的負荷は,それが単発的に行われ
た場合より強いものとなったとみるのが合理的である。
以上によれば,CAには,業務による
強い心理的負荷が掛かったものと認められる。
これに対し,被控訴人は,Cの「殺すぞ。」との発言は,一時的
な興奮に基づく突発的な発言であり,CがAに殴りかかるような気
勢を示すなどといった行動を伴うものではなかったとして,これに
よりAに掛かった心理的負荷は強いものではなかった旨主張する。

することができない。
d「第3回巡回時」及び「第3回巡回後,本件夜勤終了まで」の各言
動(出来事)
前記1のとおり,Cは,第3回巡回の際,「パーキングエリアで
の不審車対応」及び「落下物の処理」の関係で,Aに対し,厳しい
注意指導をした。また,Cは,第3回巡回後,Aに対し,第3回巡
回中に起こった出来事について,文書にまとめるように指示し,A
に文書を作成させたところ,Aから作成した文書の提出を受けた
際,周りに他の隊員らがいる前で,Aに対し,「小学生の文書みた
いやな。」と大声で言ったものである。
前記1のとおりの具体的状況に照らせば,C
ち,第3回巡回の際にした注意指導について,正当な指導の範囲を
超えるものであったとはいえない。また,C
第3回巡回後,Aに文書を作成させたことは,その年の4月から導
入されたOJTの一環としてなされたものであり,業務指導の範囲
を逸脱するものということはできない。
しかしながら,前記1の事実によれば,C
それぞれ単発的に行われたものではなく,Cの第2回巡回前の言動
(前記a),第2回巡回時の言動(前記b),第2回巡回後の言動
(前記c)があった直後,連続的に行われたものであること,その
ため,その時のAには,Cの上記各言動により掛かった心理的負荷
による影響が減少することなく残存していたと考えられ,Cの前記
Aに掛かった心理的負荷は,それが単発的に行われ
た場合より強いものとなったと考えられること,■舛蓮ぢ茖害鷭
回中,トイレで過呼吸になりしばらくしゃがみこんでいたこと,
Aは,第3回巡回を終えて事務所に戻った時,かなり落ち込んでい
る様子であり,一人で下を向いて座っていたところ,Dから声をか
けられたが,「駄目です。もう無理です。」の一点張りであり,精
神的に追い込まれた状態にあったと考えられること,ぃ舛蓮ぢ茖
回巡回後,背後に立ったCから訂正指示を受けながら,文書を作成
したところ,その時のAは,落ち込んだ様子で顔色が青ざめていた
こと,Cは,Aがそのようにして作成した文書の提出を受けるや,
周りに他の隊員らがいる前で,Aに対し,「小学生の文書みたいや
な。」と大声で言ったものであり,そのような人格の否定につなが
るような侮蔑的な言辞で侮辱されたAが強い屈辱感等を抱き,惨め
な気持ちであったことは容易に推察されること,Γ舛蓮に楫鑢覿
終了後,事務所において行われたミーティングの時,ひどく落ち込
んでいる様子であり,B班長に対し,「きついです。何をやっても
否定されて何をやっていいか分からない。」と言って,28日以降
しばらく休みたい旨の申出をしたこと,以上の諸点を指摘すること
ができる。
これらによれば,CAには,業務によ
る,相当強度の心理的負荷が掛かったものと認められる。
e前記aないしdによれば,Cの前記aないしdの言動によって,A
には,業務による強い心理的負荷が掛かったことが認められる(以下,
上記各言動を併せて「本件夜勤時の出来事」といい,本件夜勤前の出
来事と本件夜勤時の出来事を併せて「本件各出来事」という。)。
Aには,4月から本件夜勤前までの約2か月
間に,本件夜勤前の出来事によって,業務による相当程度の心理的負荷
が掛かったところ,さらに,5月25日から26日までの間に,本件夜
勤時の出来事によって,業務による強い心理的負荷が掛かったものとい
うべきである。
専門部会意見書
a専門部会が平成24年12月28日頃に作成した医学的見解に係
る意見書(専門部会意見書)は,「Aは,自殺直前には,ICD−1
0の「F3気分(感情)障害」を発症していた可能性が考えられる。」
としている(乙1−374・379頁。なお,ICD−10の「F3
にいう対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性があるとして
いる精神障害(主としてICD−10のF2からF4に分類される精
神障害)に含まれている疾病であり,うつ病は,ICD−10の「F
3気分(感情)障害」に含まれる疾病である(乙8)。)。
b専門部会意見書の判断に医員として関与したHが作成した意見書
(H意見書。乙20)は,「専門部会意見書にある前記aの記述は,
Aが精神障害を発症していた蓋然性は極めて低いが,念のために,業
務による負荷の強度を検討するために,ICD−10の「F3気分
(感情)障害」を発症していたと仮定するという意味である。したが
って,「気分障害を発症していた可能性が考えられる。」との部分は,
「仮に気分障害を発症していたとしたら」と訂正するのが正確であ
る。」としている。
そこで検討すると,認定基準は,「労働基準監督署長は,自殺に係
る事案等一定の場合,専門部会に協議して合議による意見を求め,そ
の意見に基づき認定要件を満たすか否かを判断する。」旨定めている
ところ,その趣旨は,発病の有無,疾患名,発病時期,心理的負荷の
強度の判断について高度な医学的検討をした上での意見を専門家に
より構成される専門部会に求めることにある(乙3)。したがって,
専門部会は,専門的知見に基づき医学的検討をした上でその意見を正
確に表現して意見書を作成すべき重大な職責を負っているというべ
きである。そうすると, 崟鎖西祿欧鯣症していた蓋然性は極めて
低い」とのH意見書の意見と,◆孱稗達帖檻隠阿痢孱藤概な(感
情)障害」を発症していた可能性が考えられる。」としつつ,上記疾
病を発症していなかった可能性があることにつき何ら言及していな
い(乙1−372〜379頁)専門部会意見書記載の意見とでは,大
きく意味が異なるのであるから,専門部会が,上記,琉娶を有して
いたにもかかわらず,専門部会意見書において,上記△琉娶を記載
したなどということは,専門部会が負っている上記職責に照らし,直
ちには考え難いというべきである。
したがって,H意見書をそのまま採用することはできない。
うつ病の診断基準
ICD−10の「F32うつ病エピソード」(うつ病)の診断基
準について,ICD−10診断ガイドラインは,次のとおりとする(乙
8)。
3種類全ての典型的な抑うつのエピソード(軽症(F32.0),
中等症(F32.1)及び重症(F32.2とF32.3))では,
患者は,通常,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,及び易疲労性(活
動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少)に悩まされる。
わずかに頑張った後でも,ひどく疲労を感じることが普通である。
他の一般的な症状には,―乎耄呂斑躇嬶呂慮座燹き⊆己評価と
自信の低下,罪責感と無価値観(軽症エピソードにもみられる。),
ぞ来に対する希望のない悲観的な見方,ゼ傷あるいは自殺の観
念や行為,睡眠障害,Э欲不振がある。
うつ病エピソードは,重症度の如何に関係なく,普通少なくとも
2週間の持続が診断に必要とされるが,もし症状が極めて重症で急
激な発症であれば,より短い期間であってもかまわない。
軽症うつ病エピソード(F32.0)については,うつ病にとっ
て最も典型的な症状である抑うつ気分,興味と喜びの喪失,及び易
うちの少なくとも二つが,診断を確定するために存在しなければな
らない。いかなる症状も著しい程度であってはならず,エピソード
全体の最短の持続期間は約2週間である。
軽症うつ病エピソードの患者は,通常,症状に悩まされて日常の
仕事や社会的活動を続けるのに幾分困難を感じるが,完全に機能で
きなくなるまでのことはない。
中等症うつ病エピソード(F32.1)については,抑うつ気分,
興味と喜びの喪失,及び易疲労性のうち少なくとも二つ,更に前記
が存在しなければならない。そのうちの一部の症状は著しい程度に
までなることがあるが,もし全般的で広汎な症状が存在するなら
ば,このことは必須ではない。エピソード全体の最短の持続期間は
約2週間である。
中等症うつ病エピソードの患者は,通常,社会的,職業的あるい
は家庭的活動を続けていくのがかなり困難になるであろう。
精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード(F32.2)につ
いては,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,及び易疲労性の全て,さ
重症でなければならない。うつ病エピソードは,少なくとも約2週
間持続しなければならないが,もし症状が極めて重く急激な発症で
あれば,2週間未満でもこの診断をつけてよい。
重症うつ病エピソードの期間中,患者は,ごく限られた範囲のも
のを除いて,社会的,職業的あるいは家庭的な活動を続けることが
ほとんどできない。
精神病症状を伴う重症うつ病エピソード(F32.3)について
に加えて,妄想,幻覚あるいはうつ病性昏迷が存在する。
b前記1の事実及び前記a(うつ病の診断基準)によれば,Aには,
26日ないし28日午前2時頃,うつ病において最も典型的な症状で
ある(顱僕泙Δ諜な,(髻剖縮と喜びの喪失,及び(鵝飽徃莽
性の全て,さらに前記の他の一般的な症状のうち,⊆己評価と自信
の低下,罪責感と無価値観,ぞ来に対する希望のない悲観的な見
方,ゼ傷あるいは自殺の観念や行為,Э欲不振の五つの症状が存
在し,その多く(上記(顱法ぁ放髻法き◆き,さ擇哭ァ砲重症で
あったということができる。Aについては,症状が約2週間持続した
との事実はないが,精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード(F
32.2)については,症状が極めて重く急激な発症であれば,症状
の持続が2週間未満でもこの診断をつけてよいとされている。
そうすると,ICD−10診断ガイドラインにおけるうつ病の診断
基準に照らせば,Aの26日ないし28日午前2時頃の状態は,精神
病症状を伴わない重症うつ病エピソード(F32.2)と診断するた
めの上記診断基準を満たすものであったというべきである。
自殺者の大多数(約9割)は,何らかの精神障害に罹患している状
態であるとする医学的知見がある(甲22−83頁,甲24−68頁,
甲25−14頁,甲26,乙4−41・71・72頁)。

る。
本件夜勤におけるAとCとの間の出来事があったことから,26
日の本件夜勤終了後,班員7名でミーティングが行われ,その際,
Aが精神的に回復するまでCとペアを組ませないということが決定
された。そして,Aが,B班長に対し,本件夜勤におけるCとの間
の出来事についてR課長代理にも報告してほしい旨要望したとこ
ろ,B班長から上記報告を受けたR課長代理は,同日昼頃,Aに電
話を架け,Aから事情を聞いた上で,Aに対し,Cに対しては指導
すること,CからAを守ること,Cとペアにすることはないこと等
について,話をした。
Aは,26日に控訴人と話をした際,控訴人から,28日は取り
あえず出勤するようにアドバイスを受けた。また,27日にIとペ
アを組み巡回をした際,Iに,本件夜勤におけるCとの出来事につ
いて話を聞いてもらった上,28日は頑張って出勤するように励ま
され,B班長に対し,28日は出勤する旨のメールを送信した。
Aは,上記のとおりB班長に対して出勤するとの連絡をしたもの
の,その後も,Cとペアを組んで巡回することがなくても巡回の前
後に事務所でCと顔を合わすことが怖かったことから,28日に出
勤したくないという気持ちが強かった。
そして,Aは,27日午後12時頃,自宅廊下でNとすれ違った
時,「明日行くのが怖いねん。殺されるかもしれへん。」と言った。
Aが28日にCとペアを組んで巡回する可能性
はなかったし,本件夜勤におけるCとの出来事について,R課長代
理からCに対して指導が行われ,AをCから守るための配慮がなさ
れることは確実であったこと,Aも,そのことを認識していたこと
が認められる。
そうすると,合理的な思考をすれば,28日に出勤することが,
Aに自殺を決意させるほどの苦痛を生じさせるものであったとは
考え難いというべきである。
c本件全証拠によっても,本件自殺当時のAについて,他に自殺の原
因となり得るような事情は見当たらない。
d前記aないしcによれば,Aは,本件自殺当時,精神障害によって
正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思
いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥っていた
可能性が高いというべきである。
ウ本件において,本件各出来事のほかには,Aが精神障害を発病する原因
となる可能性のある,「業務以外の心理的負荷に係る具体的事実」や「A
の個体側要因に係る具体的事実」の存在はうかがわれない。
総合検討すると,次のとおり認定判断することができる。
。舛砲蓮ぃ慣遒ら本件夜勤前までの約2か月間に,本件夜勤前の出来
事によって,業務による相当程度の心理的負荷が掛かったところ,さらに,
5月25日から26日までの間に,本件夜勤時の出来事によって,業務に
よる強い心理的負荷が掛かったこと,∪賁臧会意見書は,「Aは,自殺
直前には,ICD−10の「F3気分(感情)障害」を発症していた可
能性が考えられる。」としていること(なお,うつ病は,ICD−10の
F3に分類される精神障害である。),Aの26日ないし28日午前2
時頃の状態は,精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード(F32.2)
と診断するための診断基準(ICD−10診断ガイドラインにおけるうつ
病の診断基準)を満たすものであったこと,そ転匹Δ追促┘團宗璽鼻複
32.2)を含む「F3気分(感情)障害」は,業務に関連して発病す
る可能性があるとされている精神障害の一つであること,ィ舛蓮に楫鐚
殺当時,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,
あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状
態に陥っていた可能性が高いこと,λ楫錣砲いて,本件各出来事のほか
には,Aが精神障害を発病する原因となる可能性のある,「業務以外の心
理的負荷に係る具体的事実」や「Aの個体側要因に係る具体的事実」の存
Aは,
本件各出来事による心理的負荷によって,本件自殺の直前頃,うつ病を発
症したことを推認することができる。
認定基準の見地からの検討

ア認定要件,砲弔い
Aが認定要件,鯔た
していることは明らかであり,Aが本件自殺直前頃うつ病を発症した事実
はなく認定要件,鯔たしていない旨の被控訴人の主張は採用すること
ができない。
イ認定要件△砲弔い
れば,以下のとおり認められる。
認定基準は,「認定要件の具体的判断」のうち「業務による心理的負
荷の強度の判断」について,要旨次のとおりとする。
a認定要件△痢崑仂歇隻造糧病前おおむね6か月の間に,業務によ
る強い心理的負荷が認められること」とは,対象疾病の発病前おおむ
ね6か月の間に業務による出来事があり,当該出来事及びその後の状
況による心理的負荷が,客観的に対象疾病を発病させるおそれのある
強い心理的負荷であると認められることをいう。
このため,業務による心理的負荷の強度の判断に当たっては,精神
障害発病前おおむね6か月の間に,対象疾病の発病に関与したと考え
られる業務によるどのような出来事があり,また,その後の状況がど
のようなものであったのかを具体的に把握し,それらによる心理的負
荷の強度はどの程度であるかについて,認定基準別表1を指標として
「強」,「中」,「弱」の三段階に区分する。
なお,上記別表1は,業務による強い心理的負荷が認められるもの
を心理的負荷の総合評価が「強」と表記し,業務による強い心理的負
荷が認められないものを「中」又は「弱」と表記している。
心理的負荷の総合評価が「強」と判断される場合に,認定要件△
満たすものとする。
b「出来事ごとの心理的負荷の総合評価」を行うに当たっては,出来
事についての事実関係が,認定基準別表1の具体例に合致する場合に
は,その強度で評価する。
具体例に合致しない場合には,具体例も参考としつつ個々の事案ご
とに評価する。また,具体例はあくまでも例示であるので,具体例の
「強」の欄で示したもの以外は「強」と判断しないというものではな
い。
cいじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返され
るものについては,繰り返される出来事を一体のものとして評価し,
また,「その継続する状況」は,心理的負荷が強まるものとしている。
d認定基準別表1は,心理的負荷の強度を「強」と判断する具体例と
して,「ひどい嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」場合がこれに
当たるとする。そして,「強」である例の一つとして,「部下に対す
る上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人
間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた」
場合を挙げている。
Cにより連続
的に繰り返し行われた行為である本件夜勤時の出来事は,一体のものと
して評価すべきである
本件夜勤時の出来事による心理的負荷は,心理的負荷の強度を「強」と
判断する例の一つとして挙げられている「部下に対する上司の言動が,
業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するよう
な言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた」場合に該当するか,少
なくともこれと比べて,その強度において下回ることはないといえる。
したがって,本件夜勤時の出来事は,認定基準別表1が,心理的負荷
の強度を「強」と判断する具体例としている「ひどい嫌がらせ,いじめ
…を受けた」場合に当たるから,Aが本件自殺直前頃うつ病を発症した
ことについて,認定要件△鯔たすというべきである。
これに対し,被控訴人は,Aについての業務による心理的負荷の総合
評価(認定基準別表1に基づくもの)は「中」であったから,認定要件
△鯔たしていない旨主張し,専門部会意見書(乙1−378・379
頁)は,「Aが受けた業務による心理的負荷の強度は,総合評価として
は「中」と判断する。」としているけれども,上記に説示したところに
照らし,採用することができない。
ウ認定要件について
認定要件は「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を
発病したとは認められないこと」を要件とするところ,本件において,業
務以外の発病要因を認めるに足りる証拠はない。
したがって,Aが本件自殺直前頃うつ病を発症したことについて,認定
要件を満たすというべきである。
エ前記アないしウによれば,Aが本件自殺直前頃うつ病を発症したことに
ついて,認定基準所定の認定要件 き及びのいずれの要件も満たして
いるのであるから,認定基準の見地からも,業務起因性は肯定されるとい
うべきである。
事による心理的負荷によりA
は本件自殺直前頃うつ病を発症したというべきである。
そして,認定基準は,「業務によりICD−10のF0からF4に分類さ
れる精神障害を発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害
によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を
思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定
上記基準は,医学的知見に適ったものであり,合理性を有するといえる。ま
た,Aが発症したうつ病は,前判示のとおり,ICD−10のF3に分類さ
れる精神障害であるから,Aは,上記のとおり発症したうつ病によって正常
の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思いとどまる
精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったことによって,すなわち
上記うつ病が原因となって本件自殺をしたということができる。したがって,
Aの死亡は,業務に起因するものであり,労災保険法にいう業務上の死亡に
当たるというべきである。
第4結論
以上によれば,Aの死亡は業務上の死亡に当たらないとした本件各処分は,
違法として取消しを免れず,控訴人の請求はこれを認容すべきである。よって,
これと異なる原判決を取り消した上,本件各処分を取り消すこととして,主文
のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部
裁判長裁判官 佐村浩之
裁判官 大野正男
裁判官 井田宏

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

もくじ

名前で検索


 あ行

 か行

 さ行

 た行

 な行

 は行

 ま行

 や行

 ら行?

 わ行

 

管理人/副管理人のみ編集できます