報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

心愛さん虐待死、傷害幇助罪の母親に猶予判決 千葉地裁

 千葉県野田市の小学4年、栗原心愛(みあ)さん(当時10)が虐待死したとされる事件で、傷害幇助(ほうじょ)罪に問われた母親のなぎさ被告(32)の判決が26日、千葉地裁であった。小池健治裁判長は懲役2年6カ月保護観察付き執行猶予5年(求刑懲役2年)を言い渡した。
 判決によると、父親の勇一郎被告(41)=傷害致死罪などで起訴=は1月22〜24日、心愛さんを長時間立たせたり冷水を浴びせたりしたほか、背中に座って体を反らせるなどの虐待を加え、飢餓と強いストレスによる病的状態に陥らせた。なぎさ被告はこうした虐待を制止せず、食事を与えないなどで手助けした。心愛さんは24日深夜、自宅の浴室で死亡した状態で発見された。
 判決で、小池裁判長は「父から虐待を受け、母からも助けてもらえず、心愛さんが感じた絶望感は計り知れない」と指摘した。DV(家庭内暴力)の影響については「精神的に脆弱(ぜいじゃく)で、夫の支配的な言動に強い影響を受け、一概に非難できない」と述べた。
 公判で検察側は、なぎさ被告が夫の指示で「お父さんにたたかれたというのは、うそです」という虚偽の内容の書面を心愛さんに書かせたり、「勝手にお茶を飲もうとしている。むかつくね」と心愛さんの行動を夫にLINE(ライン)で報告したりしたと指摘。「守るべき立場であったのに心身両面で苦しませた。DVの事情を踏まえても虐待を容認することは許されない」として実刑を求刑していた。
 弁護側は、事実関係に争いはないとした上で「被告はDVの影響が大きく、逆らうことは困難だった」と主張し、執行猶予付きの判決を求めていた。なぎさ被告は法廷で「(夫の指示は)絶対にやらなくてはいけない気持ちになる。怒られると思ったから」などと語っていた。
 勇一郎被告は裁判員裁判が予定され、21日に第1回公判前整理手続きがあった。次回は7月24日に予定されている。(松本江里加)
(2019年6月26日11時37分 朝日新聞)

PDF

平成31(わ)244  傷害幇助被告事件
令和元年6月26日  千葉地方裁判所
主文
被告人を懲役2年6月に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の全部の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,平成20年2月,勤務していた会社の同僚であったAと婚姻し,長女
のVをもうけたが,Aからの監視束縛が強いことなどを嫌って別居し,平成23年
10月,Aと離婚した。被告人は,平成26年春頃以降精神状態が悪化し,双極性
感情障害と診断され,入院治療を受けた(精神障害2級)。その後,被告人は,A
と復縁し,平成28年8月頃,Vを連れてAとの同棲を始め,二女を妊娠したこと
を機に,平成29年2月Aと再婚し,同年6月に二女を出産した。その後,被告人
の精神状態が悪化して入院した際に,Aは,V及び二女を連れて沖縄県から千葉県
野田市内に転居した。被告人は,同年9月下旬頃,Aの後を追い,同市(以下略)
の同人方(以下「本件居室」という。)においてA,V及び二女と生活を始めた。
被告人は,同年10月初め頃以降,Vから,Aから夜中に廊下で立たされたり,
叩かれたり蹴られたりした被害を打ち明けられたが,時間が経てば解決する,事実
を確認した場合には暴力が激化するなどと考え,Aに事実を質さなかった。
同年11月6日,Vが小学校の「いじめにかんするアンケート」に,Aからの暴
力被害について助けを求める内容の記載をしたことを契機に,Vは,翌7日から同
年12月末頃までの間,B児童相談所に一時保護された。この頃以降,Aは,学校
やC教育委員会等の関係機関に対し,自己の行動を正当化する高圧的な言動を繰り
平成31年(わ)第244号傷害幇助被告事件
令和元年6月26日千葉地方裁判所刑事5部判決
返し,一時保護を解除させたり,前記アンケート写しを入手し,被告人に指示して
Vにアンケートの記載を否定させる書面等を作成させたりした。
Vは,Aの生家で生活することになったが,その間,Aが児童相談所の職員とV
との単独面談をさせないよう働き掛けるなどした結果,虐待の事実が児童相談所に
把握されないまま経過し,平成30年3月頃以降,Vは再び,本件居室で生活する
こととなった。同年の夏頃から同年末頃にかけて,Aは,Vに対し,風呂場で濡れ
た肌着のまま長時間立たせる,屈伸や足踏みを続けさせる,トイレに行かせずに失
禁させるなどの仕打ちを激化させ,Vを床に打ち付けるなどの暴力を振るって負傷
させることを続けた。被告人はこれを認識し,心身ともに疲弊しているVを案ずる
一方,自らが通報するなどした場合,家族関係が壊れることとなり,また,Aの暴
行を止めた際に暴行を受けたこともあり,同人を制止しても無駄だなどと考えて,
警察に通報するなどの対応をとることはなかった。
(罪となるべき事実)
Aは,平成31年1月22日午後10時頃から同月24日午後9時50分頃まで
の間,本件居室において,V(当時10歳)を飢餓状態にするとともに強度のスト
レスを与え続けることにより強度に衰弱させる虐待を加えようと考え,Vに,食事
を与えないとともに,長時間,リビング及び浴室に立たせ続けたり,肌着のみの状
態で暖房のない浴室に放置したりするなどして十分な睡眠を取らせず,かつ,その
間,同日午後1時頃,浴室において,水に濡れた肌着とパンツのみを着用させたV
に,「5秒以内に服を脱げ。5,4,3,2,1。」などと申し向けて,5秒以内
に脱衣できなかったVの頭部及び身体に直ちにボウルに入れた冷水を数回浴びせ
かけ,さらに,「シャワーで流せよ。お湯じゃないだろう。なんでお湯なんだ。」
などと申し向けてシャワーでその身体に冷水を浴びせかけ,同日午後4時頃,リビ
ングの床にうつ伏せにしたVの背中に座り,その両足をつかんでその身体を反らせ
るなどの暴行を加え,よって,Vを前記一連の行為による飢餓状態及び強度のスト
レス状態に起因する全治期間不詳のケトアシドーシス等に陥らせた。【Aによる傷
害(正犯)行為】
被告人は,母親としてVを監護すべき立場にあって,Aによる前記一連の行為や
Aの加虐の意図を認識していたのに,Aの暴行を直接制止したり,警察や行政機関
に通報して保護を求めたりしてその行為の継続やVの症状の重篤化を阻止するこ
ともせず,これを放置するとともに,Aの指示を受けてVに食事を与えないなどし,
もってAの前記犯行を容易にして,これを幇助した。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,AがV(当時10歳)に対して虐待行為を続けていることを
知りながら,これを制止せず,自らもAの指示に従いVに食事を与えないなどして,
Vを全治期間不詳のケトアシドーシス等に陥らせたAの傷害の犯行を容易にした
傷害幇助の事案である。
1正犯者であるAがVに対して敢行した判示の一連の虐待行為は,ほぼ2日間に
わたり全く食事を与えず,底冷えする浴室に濡れた下着を着せたまま立たせ続け,
冷水を浴びせるなどして十分な睡眠を取らせない執拗,非情なもので,その間,V
はトイレに行くことも許されずに何度も尿を漏らし,最終的には自立することも困
難な状況に追い込まれていて,その状態でプロレス技の逆エビ固めまで受けた。常
習的に虐待を加え続けた末に行われた犯行であり,本件では年端も行かぬ女児が苦
しむ様子も気にかけず,非人間的な虐待行為をためらいもなく加え続けていて,虐
待そのものが目的化していたとみるほかない。父からの悪質な虐待を受け,母の助
けも得られず衰弱していったVが感じた絶望感は計り知れない。被害者は腹を空か
せる中で極めて強度のストレスにさらされ,これに起因するケトアシドーシス等に
より瀕死の状態に陥っており,結果も重大であり,本件は設定された訴因の正犯行
為の枠内でみても,甚だ悪質な傷害事案である。
2被告人は,母として,虐待を受け続けていたVに対して救いの手を差し伸べら
れる唯一の監護者であり,かつ,Aによる一連の行為や虐待の意図を認識していた。
それにもかかわらず,これを制止などせずに放置し,Aの指示に迎合するように食
事を与えないなどして,Aの虐待行為を容易にした。被告人による幇助行為が結果
発生に寄与した程度は小さくない。すなわち,被告人は,判示犯行に至る経緯のと
おり,本件前からAによる虐待を認識し,また,生傷の絶えないVから何度も救い
を求められていたのに,家族関係の存続を図るなどとの理由でAからの虐待に苦し
むVから目を背け,本件に至っている。そればかりか,被告人は,Aの意に沿うよ
うにVの言動を監視してAに報告するなど,自らの判断によりAに迎合するような
行動を選択していたようにうかがえるところもある。そして,Vが一度児童相談所
に保護された経過等を見聞きしている被告人において,警察や児童相談所への通報
や相談が容易に思いつくはずである。加えて,父により虐待される間,母がこれに
手を貸していたこともVの大きなストレスとなっていたはずである。以上によれば,
被告人の寄与は小さくなかったといえる。
3しかしながら,Aに迎合する形で本件幇助行為に及んだ被告人について,一概
に非難を向けることが困難な事情なども認められる。
被告人は,双極性感情障害にり患していて(精神障害2級),精神的に脆弱で,
恐怖や圧力を回避するため自己の意見を述べることが難しく,他者の意見に迎合し
やすい性格行動傾向を有していた(弁1号証等)。被告人の母によれば,Aの意向の
影響で同女も被告人に連絡できない状態にあり,被告人は周囲に相談相手もなく孤
立し,高圧的,支配的言動を重ねるAの意向に抗うのが困難な状況に陥っていたこ
とがうかがわれる。現に,Aは,Vが児童相談所に一時保護された際,関係職員を
厳しく責め立てるなどして恐怖感を与え,その結果,児童の虐待の訴えをそのまま
虐待をした疑いがある親に示すことなど許されるはずがないのに,児童を守るべき
同職員をしてアンケートの写しを提供させたり,Aの父母らに働き掛けて同職員が
Vと単独で面談することを避けさせるなどしている。このように,Aが自己の意向
を強く押し通そうとして他者に与える圧力は相当なものであったといえ,Vに対す
る暴力を止めに入った際に被告人は暴行被害を受けたこともあった。精神的に脆弱
な被告人が,寝食を共にしていたAから受けた影響は大きく,悪いことに判示犯行
の期間,インフルエンザを患ったAが家に居続けていたため,より一層その支配的
な言動や意向の影響を強く受けていたとうかがえ,本件以前の虐待行為の際のよう
に,Aの目が届かないところで,Vに休息を与えたり,いたわったりすることがほ
とんどできないでいた。
もとより母としてVを守るべき義務を怠りAの犯行を幇助したことに対する非
難は免れないが,上記の病状や性格行動傾向を有する被告人が,虐待を加える意図
を有するAの支配的言動の強い影響により,その意向に逆らう行動に出ることが相
当難しくなっていたことは否定できず,Aに迎合した被告人に対し,一概に強い非
難を向けることはできず,相応に非難を減ずべきである。
被告人は,捜査段階から,Vのためを思って,Aが行っていたVに対する過酷
な仕打ちやそれに対する自身の関与も含め詳細な事実関係を供述し,客観的証拠の
みでは解明困難な家庭内での虐待事案の解明に協力した。なお,この事情は,被告
人に有利な事情にはなり得るが,重大な傷害事案において,この事後的な事情自体
を考慮するには自ずから限度がある。
⑶加えて,被告人の母が社会復帰後,被告人の精神疾患の治療を支援する旨証言
していること,被告人にはこれまで犯罪歴がないことなどの事情も認められる。
4以上の諸事情を総合考慮すると,母である被告人が重大な傷害事件に関与した
程度に照らすと,被告人を実刑に処することが相応しいようにも思われる。しかし
ながら,Aの目の行き届かないところではVを安堵させるような関わりをし,Vを
傷付けることを積極的に望んでいたとはいえない被告人について,前記のとおりの
精神の脆弱さやAの影響にも鑑みると相応に非難を減ずべきであること,Vのこと
を思って捜査段階から事案の解明に協力していることなどを踏まえると,今後10
歳で亡くなった不憫なVの無念さや自責の念と向き合いながら,社会の中で反省,
悔悟の日々を送らせる形で更生の道を歩ませる余地があると認め,刑の執行を猶予
することとした。もっとも,被告人の精神の脆弱さや帰住環境等を踏まえると,公
的機関による指導,助言を受けさせることが必要不可欠であるというべきであるか
ら,その猶予の期間中保護観察に付することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小池健治,裁判官谷口吉伸,裁判官本田真理子

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

もくじ

名前で検索


 あ行

 か行

 さ行

 た行

 な行

 は行

 ま行

 や行

 ら行?

 わ行

 

管理人/副管理人のみ編集できます