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仙台高裁も「合憲」判決 17年衆院選、1票の格差

 「1票の格差」が最大1.98倍だった昨年10月の衆院選は憲法が求める投票価値の平等に反するとして、青森、岩手、宮城、山形、福島の東北5県の住民が選挙無効を求めた訴訟の判決で、仙台高裁(小林久起裁判長)は2日、「合憲」と判断し請求を棄却した。
 全国14の高裁・高裁支部に一斉に起こされた同種訴訟の判決は7件目で、合憲判断が続いた。
 最高裁は最大格差が2.43〜2.13倍だった2009年、12年、14年の各衆院選を「違憲状態」と判断。これを受け国会は格差を縮小するため、小選挙区の定数を「0増6減」し、19都道府県の97選挙区で区割りを変更した。昨年の衆院選は投票日時点で、有権者数が最少の鳥取1区と最多の東京13区の格差は1.98倍だった。
 原告側は、最高裁が格差を生む要因として廃止を求めた「1人別枠方式」が事実上残っていると指摘し「憲法の人口比例選挙の要求に反する」と主張。被告の各県選挙管理委員会側は「国会は格差を最高裁判決の趣旨に沿う2倍未満に縮小しており、不平等は解消された」と反論していた。
 秋田県の3選挙区については1月、仙台高裁秋田支部が「合憲」との判決を出した。〔共同〕
(2018/2/2 16:53 日経新聞)

去年の衆院選 1票格差判決 仙台高裁も合憲

 去年10月の衆議院選挙でいわゆる1票の格差が最大で1.98倍だったことについて、仙台高等裁判所は、「投票価値の平等の要求に反する状態とはいえない」として、憲法に違反しないとする判決を言い渡しました。
 去年10月の衆議院選挙では、選挙区によって議員1人当たりの有権者の数に最大で1.98倍の格差があり、2つの弁護士グループが「投票価値の平等に反し、憲法に違反する」として全国で選挙の無効を求める訴えを起こしました。
 このうち秋田をのぞく東北5県の合わせて20選挙区を対象とした判決で、仙台高等裁判所の小林久起裁判長は、「選挙区の区割りの改定で格差は2倍未満になり、国会が改革を進めた成果として格差が着実に縮小されたと評価できる」と指摘しました。
 そのうえで、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえない」として、憲法に違反しないとする判断を示しました。
 去年の衆議院選挙をめぐる一連の裁判では、これで7件の判決が言い渡され、いずれも憲法に違反しないという判断が示されています。
 衆議院選挙の1票の格差をめぐっては、最高裁判所が平成26年までの3回の選挙を「違憲状態」と判断していて、去年の選挙ではおよそ3分の1の小選挙区で区割りが見直され、格差が縮小しました。
(2月2日 16時41分 NHK)

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平成29年(行ケ)第2号,第3号,第4号選挙無効請求事件
平成30年2月2日仙台高等裁判所第2民事部判決
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
別紙請求目録のとおり
第2事案の概要
1原告らの請求
原告らは,平成29年10月22日施行の衆議院小選挙区選出議員選挙について,
選挙区割りを定める公職選挙法の規定が憲法56条2項,同1条,同前文第1文が
定める人口比例選挙の要求に反するから憲法98条1項により無効であると主張し
て公職選挙法204条に基づく選挙無効訴訟を提起し,各原告が選挙人となってい
る小選挙区における選挙を無効とする裁判を求めた。
2争いのない事実
⑴平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙
平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙の小選挙区選出議員選挙(以下
「本件選挙」という。)において,原告らは,当事者目録記載の各選挙区(宮城県第
1区ないし第6区,青森県第1区ないし第3区,岩手県第1区ないし第3区,山形
県第1区ないし第3区,福島県第1区ないし第5区)の選挙人であった。
⑵衆議院小選挙区の選挙区別人口の較差
本件選挙における選挙区割り(公職選挙法13条1項,別表第一)によって,小
選挙区別に,平成27年日本国民の人口及び人口最少選挙区との較差をみると,別
紙「衆議院小選挙区別平成27年日本国民の人口及び人口最少選挙区との較差【改
定案】」及び「衆議院小選挙区別平成27年日本国民の人口及び人口最少選挙区と
の較差【改定案】人口順」の各表のとおり,最大較差は,神奈川県第16区と鳥取
県第2区との間の1.956倍であり,較差が2倍以上となった選挙区は0であっ
た。
⑶前回選挙が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったこと
最高裁判所大法廷判決は,憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の
平等を要求しているとした上で,平成26年12月14日施行の前回衆議院議員総
選挙における小選挙区選出議員選挙の選挙区割りについて,憲法の投票価値の平等
の要求に反する状態にあったが,憲法上要求される合理的期間内における是正がさ
れなかったとはいえず,選挙区割りを定める公職選挙法の規定が憲法14条1項等
の憲法の規定に違反するとはいえないと判断した。
前回選挙の選挙区割りは,平成22年10月1日を調査時とする平成22年国勢
調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998になるが,同国勢
調査後の人口変動の結果として,平成25年3月31日現在及び平成26年1月1
日現在の各住民基本台帳に基づいて総務省が試算した選挙区間の人口の最大較差は
それぞれ1対2.097及び1対2.109であり,上記試算において較差が2倍
以上となっている選挙区は,それぞれ9選挙区及び14選挙区となっていた。
選挙時における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.129に達し,較差2
倍以上の選挙区も13選挙区存在した。選挙人数が最も多い東京都第1区の選挙人
数は,12選挙区の各選挙人数の2倍以上となり,この12選挙区の属する県の多
くが,旧区割基準(1人別枠方式により各都道府県にあらかじめ1を配当すること
とした1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数
を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数を各都道府県の区域内の選挙
区の数とすると定めていた平成24年改正前の区割基準)により相対的に有利な定
数の配分を受けていた。
上記大法廷判決は,以上のような前回選挙時における投票価値の較差の状況やそ
の要因となっていた事情などを総合考慮すると,前回選挙の選挙区割りは憲法の投
票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないと判断した。
3当事者の主張の骨子
⑴原告らの主張
平成28年改正法下の選挙区割り(「0増6減」の選挙区割り)において,最大の
一票の較差は,1.956倍(平成27年簡易国勢調査に基づく。)であり,本件選
挙の投票日(平成29年10月22日)の時点で,この選挙区割りは,憲法の投票
価値の平等の要求に反する状態にあった。
本件選挙においても,1人別枠方式による選挙人の住所(都道府県)を根拠とす
る合理的な理由のない投票価値の不平等が生じていた。1人別枠方式を廃止して,
平成22年国勢調査に基づき仮にアダムズ方式を採用して議席の再配分をすれば,
「0増6減」の対象の6県以外に,12都県において「7増7減」の再配分が必要
である。アダムズ方式の採用の場合に再配分の対象となる12都県においては,1
人別枠方式の議員定数がそのまま温存され,都道府県基準の1人別枠方式を理由と
する不合理な投票価値の不平等は,依然として継続されている。
⑵被告らの主張
選挙区間の人口の最大較差が2倍未満となる本件選挙の選挙区割りは,憲法の投
票価値の平等の要求に反するものとはいえない。
1人別枠方式の構造的な問題は,人口比例に基づく配分方式であるアダムズ方式
の導入や0増6減等を含む平成28年改正及び平成29年改正により,選挙区間の
最大較差が2倍未満に縮小され,かつ,将来的にも選挙区間の較差が2倍未満とな
るような立法的措置が執られたことにより,最終的に解決されたものである。
4争点
本件選挙の選挙区割りが,選挙時において,憲法の投票価値の平等の要求に反す
る状態にあったか否かが,主たる争点である。
第3裁判所の判断
1要約
⑴結論の骨子
平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙の小選挙区選出議員選挙におけ
る選挙区割りを定めた公職選挙法の規定が,選挙時において,憲法の投票価値の平
等の要求に反する状態にあったとはいえない。
⑵判断の前提となる事実
衆議院小選挙区選出議員選挙の選挙区割りは,平成28年及び平成29年に行わ
れた衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の改正により,次のように
改められ,本件選挙における選挙区割りは,これらの改正による0増6減と選挙区
割りの改定により,平成27年人口及び平成32年見込人口において最大較差が2
倍未満となるように措置された。
.▲瀬爛妻式の採用
小選挙区の都道府県別定数配分は,アダムズ方式により行うこととし,アダムズ
方式による都道府県別定数配分は,制度の安定性を勘案し,平成32年の大規模国
勢調査から行い,以後10年に1度の大規模国勢調査でのみ行うこととした。
⊂選挙区定数の0増6減
小選挙区の定数の0増6減を行い,小選挙区選出議員の定数を289人とし,定
数6減の対象県は,平成27年簡易国勢調査の結果による日本国民の人口に基づき
アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる県のうち,議
員1人当たりの人口の少ない順に6県とした。
A挙区間の人口の最大較差を2倍未満とする選挙区割りの改定
19都道府県の97選挙区(改定後91選挙区)の選挙区割りを改め,平成27
年人口に基づく選挙区間の最大較差を2倍未満(1.956倍)とするのみならず,
平成32年見込人口に基づく最大較差も2倍未満(1.999倍)となるように較
差の是正を行った。
他方で,都道府県別定数配分の抜本的な平等を図るべく採用されたアダムズ方式
の実際の適用は,平成32年の大規模国勢調査に基づく定数配分から行うこととさ
れ,0増6減によっても,現在の定数289人を平成27年人口に基づきアダムズ
方式によって配分した場合に増減が生ずべき12都県(7増7減)についての定数
の再配分は行われていない。
⑶選挙制度の合憲性についての判断の枠組み
選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,
議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要
かつ基本的な基準とすることが求められるが,それ以外の要素も合理性を有する限
り国会において考慮することが許容され,具体的な選挙区を定めるに当たっては,
都道府県を細分化した市町村その他の行政区画を基本的な単位として,地域の面積,
人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を勘案しつつ,国政遂行
のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという
要請との調和を図ることが求められる。
したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を考慮した上でな
お,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって
判断されることになり,国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,
上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界
を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反す
ることになる。
⑷本件選挙の選挙区割りの規定の合憲性について
本件選挙についてみると,前記のように,アダムズ方式による都道府県別定数の
再配分が0増6減の措置によっては完了していない点で,人口が多い都市部の都県
において1人別枠方式が採用されていた当時からの相対的に不利な定数配分がなお
維持されているといえる。しかし,他方で,平成28年及び平成29年の改正によ
り,平成32年の国勢調査以降はアダムズ方式により抜本的な都道府県別定数の再
配分を行う基本方針が定められ,その上での当面の措置として,0増6減及び選挙
区割りの改定により,平成27年人口はもとより平成32年見込人口においても選
挙区間の最大較差が2倍未満となるよう措置されている。
以上の事情によれば,本件選挙における選挙区割りの規定は,人口が多い都市部
の都県において1人別枠方式が採用されていた当時からの相対的に不利な定数配分
がなお維持されているとしても,アダムズ方式を将来の基本方針として採用した上
で,当面の措置として選挙区間の人口の最大較差が2倍未満となるように較差の是
正がされたことに鑑みれば,国会に与えられた裁量権を考慮してもなお,憲法の投
票価値の平等の要請に反するために裁量権の限界を超えているとまでは認められな
い。
2前提となる事実
証拠及び弁論により以下の事実が認められる。
⑴小選挙区選出議員選挙について
衆議院議員の選挙制度は,平成6年1月に成立した公職選挙法の改正により,従
来の中選挙区単記投票制から小選挙区比例代表並立制に改められた。
平成24年改正前の公職選挙法によれば,衆議院議員の定数は480人とされ,
そのうち300人が小選挙区選出議員,180人が比例代表選出議員とされ,小選
挙区選挙については,全国300の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を
選出するものとされている。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙とを
同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている。
⑵1人別枠方式による都道府県別の小選挙区の定数配分について
平成6年1月の公職選挙法改正と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設
置法(以下「区画審設置法」という。)により設置された衆議院議員選挙区画定審議
会(以下「区画審」という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,
調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧
告するものとされている(同法2条)。
平成24年改正前の区画審設置法3条は,別紙「区画審設置法改正経過」のとお
り規定し,上記の選挙区の区割りの基準につき,。厩爐砲いて,上記の改定案を
作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,そ
の最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにするこ
とを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わな
ければならないものと定めるとともに,■温爐砲いて,各都道府県の区域内の選
挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(1人別枠方式),この
1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口
に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた。
⑶平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙について
平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙の当時の選挙区割りの規定の下に
おける選挙区間の人口の較差を見ると,最大較差は人口が最も少ない高知県第1区
と人口が最も多い兵庫県第6区との間で1対2.064であり,高知県第1区と比
べて人口較差が2倍以上となっている選挙区は9選挙区であった。また,選挙当日
における選挙区間の選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない高知県第3区と
選挙人数が最も多い千葉県第4区との間で1対2.304であり,高知県第3区と
比べて較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった。
このような状況の下で施行された選挙について,最高裁平成22年(行ツ)第2
07号同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下「平成23
年大法廷判決」という。)は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最
大較差が2倍未満となるように区割りをすることを基本とすべきものとする当時の
区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を
定めたものであるとする一方,平成21年選挙時において選挙区間の投票価値の較
差が上記のとおり拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り
当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,
かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入され
た1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,
1人別枠方式に係る区割基準及びこの基準に従って定められた選挙区割りは憲法の
投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判断した。そして,同判決は,
これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったと
はいえず,これら区割基準と選挙区割りの規定が憲法14条1項等の憲法の規定に
違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正の
ための合理的期間内に上記の状態を解消するために,できるだけ速やかに1人別枠
方式を廃止し,区画審設置法3条1項の趣旨に沿って選挙区割りの規定を改正する
など,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
⑷平成24年12月16日施行の衆議院議員総選挙について
平成24年11月16日,1人別枠方式を定めた区画審設置法3条2項を削除し,
0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない
5県(福井県,山梨県,徳島県,高知県及び佐賀県)の各選挙区数をそれぞれ1減
じたもの)を内容とする改正法が,平成24年法律第95号(以下「平成24年改
正法」という。乙3の1・2)として成立した。
平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,平成24年12月16日に
衆議院議員総選挙が施行されたが,同選挙までに新たな選挙区割りを定めることは
時間的に不可能であったため,同選挙は平成21年選挙と同じ選挙区割りにより施
行された。この選挙における選挙区間の選挙人数の最大較差(乙2の1・2)は,
高知県第3区と千葉県第4区との間の1対2.425であり,高知県第3区と比べ
て較差が2倍以上となっている選挙区は72選挙区であった。
この選挙について,最高裁平成25年(行ツ)第209号ないし第211号同年
11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下「平成25年大法廷判
決」という。)は,同選挙時において選挙区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の
投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,選挙までの間の国会
における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁
量権の行使として相当なものでなかったとはいえないから,憲法上要求される合理
的期間内における是正がされなかったとはいえず,選挙区割りの規定が憲法14条
1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会におい
ては今後も平成24年改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に
向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。
⑸平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙について
平成24年改正法の成立後,同法の附則の規定に従って区画審による審議が行わ
れ,平成25年3月28日,区画審は,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案
の勧告(乙5,乙6)を行った。この改定案は,平成24年改正法の附則の趣旨に
基づき,選挙区数の0増5減を前提に,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満とな
るように17都県の42選挙区において区割りを改めることを内容とするものであ
った。
上記勧告を受けて,内閣は,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする
法案を国会に提出し,平成25年6月24日,上記改正法案が平成25年法律第6
8号(以下「平成25年改正法」という。乙3の1・2)として成立した。平成2
5年改正法による0増5減及び選挙区割りの改定の結果,平成22年国勢調査の結
果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされたが,平
成25年3月31日現在及び平成26年1月1日現在の各住民基本台帳に基づいて
総務省が試算した選挙区間の人口の最大較差はそれぞれ1対2.097及び1対2.
109であり,上記試算において較差が2倍以上となっている選挙区はそれぞれ9
選挙区及び14選挙区であった。
平成26年11月21日の衆議院解散に伴い,同年12月14日,上記改定後の
選挙区割りの下において,衆議院議員総選挙が施行された。選挙当日における選挙
区間の選挙人数の較差(乙2の3)を見ると,選挙人数が最も少ない選挙区(宮城
県第5区)と比べて,選挙人数が最も多い選挙区(東京都第1区)との間で1対2.
129であり,その他12の選挙区との間で較差が2倍以上となっていた。なお,
選挙当日において,東京都第1区の選挙人数は,宮城県第5区,福島県第4区,鳥
取県第1区,同第2区,長崎県第3区,同第4区,鹿児島県第5区,三重県第4区,
青森県第3区,長野県第4区,栃木県第3区及び香川県第3区の12選挙区の各選
挙人数のそれぞれ2倍以上となっていた。
この選挙について,最高裁平成27年(行ツ)第267号,同第268号同年1
1月25日大法廷判決・集民251号55頁は,同選挙時における選挙区間の人口
の最大較差等の状況は前記のとおりであり,このような投票価値の較差が生じた主
な原因は,いまだ多くの都道府県において,平成24年改正後の区画審設置法3条
の定める選挙区割りの基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数
が配分されているということにあり,以上のような選挙時における投票価値の較差
の状況やその要因となっていた事情などを総合考慮すると,この選挙区割りは,な
お憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないが,
選挙までに国会における是正の実現に向けた取組が行われ,是正の実現に向けた一
定の前進と評価し得る法改正及びこれに基づく選挙区割りの改定が行われたこと等
の諸事情に照らすと,国会における是正の実現に向けた取組が平成23年大法廷判
決及び平成25年大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使として相当なもの
でなかったということはできないから,憲法上要求される合理的期間を徒過したも
のと断ずることはできず,選挙区割りの規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違
反するものということはできないとした上で,国会においては今後も区画審設置法
3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があ
ると判示した。
⑹平成28年改正について
平成25年改正法の成立の前後を通じて,国会においては,今後の人口移動によ
っても憲法の投票価値の平等の要求に反する状態とならないようにするための制度
の見直しについて,総定数の削減の要否等を含め,引き続き検討が進められ,平成
26年6月には,衆議院に,有識者により構成される検討機関として衆議院選挙制
度に関する調査会(以下「選挙制度調査会」という。乙9)が設置され,選挙制度
調査会において衆議院議員選挙の制度の在り方の見直し等が進められた(乙8の1
〜17)。選挙制度調査会においては,同年9月以降,本件選挙の前後を通じて,定
期的な会合が開かれ,投票価値の較差の更なる縮小を可能にする定数配分等の制度
の見直しを内容とする具体的な改正案などの検討が行われた。
選挙制度調査会は,衆議院議長に対し,平成28年1月14日,―圧脹ゝ聴の
定数を10人削減し,小選挙区選挙の定数を6人削減して289人とすること,
都道府県への議席配分をアダムズ方式(除数方式という人口比例に基づく配分方式
の一つであり,各都道府県への議席配分は,各都道府県の人口を一定の数値で除し,
それぞれの商の整数部に小数部以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選
挙の定数と一致するように上記一定の数値を調整する方式)により行うこと,E
道府県への議席配分の見直しは,制度の安定性を勘案し,10年ごとに行われる大
規模国勢調査の結果による人口に基づき行うことなどを内容とする答申をした(乙
10)。答申においては,小選挙区の定数を6減じて定数289とした場合のアダム
ズ方式による都道府県への議席配分試算がされ(乙10の答申の20頁),平成22
年国勢調査人口に基づく試算は,別紙「【アダムズ方式による都道府県への議席配分
試算】」のとおり,定数を13県において各1を減じ,5都県において合計7増やす,
7増13減が必要と試算された。
平成28年5月20日,衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一
部を改正する法律(平成28年法律49号。以下「平成28年改正法」という。乙
4,乙11の1・2,乙13の1〜4)が成立した。
平成28年改正法は,その本則において,―圧脹‐選挙区選出議員の選挙区間
における人口較差について,各都道府県の区域内の選挙区の数を平成32年以降1
0年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により配分した
上で,各選挙区間の最大較差(日本国民の人口)が2倍以上にならないようにする
こと(改正後の区画審設置法3条1項,2項,4条1項),∧神37年以降の簡易
国勢調査の結果に基づく各選挙区間の最大較差が2倍以上になったときは,選挙区
の安定性を図るとともに較差2倍未満を達成するため,区画審が格差是正のために
選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うものとすること(同法3条3項,4条2
項),衆議院議員の定数を10人削減し,小選挙区の定数を6人削減して289人
とすること(改正後の公職選挙法4条1項)を規定し,附則において,な神32
年国勢調査までの措置として,平成27年簡易国勢調査の結果に基づき,各選挙区
の人口に関し,将来の見込人口を踏まえ,平成32年までの5年間を通じて較差2
倍未満となるよう区割りを行うなどの措置を行うこと(附則2条1項,2条3項),
ゾ選挙区選挙の定数6減の対象県について,平成27年簡易国勢調査の結果に基
づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象となる県のう
ち,議員1人当たり人口の少ない県から順に6県とすること(附則2条2項1号),
κ神28年改正法の施行後においても,全国民を代表する国会議員を選出するた
めの望ましい選挙制度の在り方については,不断の見直しが行われるものとするこ
と(附則5条)を定めている。平成28年改正法による改正後の区画審設置法3条
は,別紙「区画審設置法改正経過」のとおり,1項において「前条の規定による改
定案の作成は,各選挙区の人口(中略)の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,そ
の最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにするこ
ととし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行われなけれ
ばならない。」と定めている。
平成28年改正は,0増6減による小選挙区選挙の定数6減の対象県について,
平成27年簡易国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により都道府県別定数を計
算した場合に減員対象となる県のうち,議員1人当たり人口の少ない都道府県から
順に6県とすることとし,0増6減後に議員1人当たりの人口が最も少なくなる鳥
取県は,アダムズ方式によって定数を再配分した場合にも,減員の対象とならない
ことから,鳥取県よりも議員1人当たりの人口が多い県については,平成28年改
正において定数削減がされなかった。
なお,選挙制度調査会が行った平成22年人口に基づく前記の試算によれば,1
人別枠方式を廃止してアダムズ方式による定数の再配分を行えば,18都県につい
て7増13減の定数の再配分が必要となり,0増6減の対象外となった残り12都
県についても,なお7増7減の定数の再配分が必要となるが,平成28年改正にお
いては,このような定数の再配分は行われていない。
平成28年改正法について,次のような法案審議が行われた(乙11の1・2,
乙12の1〜7)。すなわち,アダムズ方式の導入が平成32年の大規模国勢調査か
らとされた理由については,平成28年改正法の提出者において,\立した法律
を敢えて遡及適用することは例外的であり,アダムズ方式を導入するのは平成32
年の大規模国勢調査以降とするのが自然であること,仮に,平成22年国勢調査
の結果に基づいてアダムズ方式を導入した場合,平成27年簡易国勢調査の結果に
基づいてアダムズ方式を導入した場合とで議席配分結果に違いが生ずるなど,古い
国勢調査の結果である平成22年国勢調査の数値を用いる合理性があるとはいえな
いこと,J神22年国勢調査の結果が出てから既に2回の衆議院議員総選挙を経
ているにもかかわらず,平成22年国勢調査の結果を用いて新たに議席を配分し直
すとするならば,それにより従前と異なる議席を配分された都道府県の選挙人を中
心に,これら2回の総選挙の正統性や選挙された議員の地位に対し疑念を抱かせる
ことになるという問題があること,ぃ看後には次の大規模国勢調査が控えており,
立て続けに都道府県への議席配分の見直しを行うこととなり,選挙制度の安定性に
欠けるという問題があることが答弁された。
⑺平成29年改正について
平成28年改正法の成立後,同法附則の規定に従って区画審による審議が行われ,
区画審は,平成29年4月19日,内閣総理大臣に対し,選挙区割りの改定案の勧
告(乙14の1・2)をした。勧告は,平成28年改正法附則に基づき,各都道府
県の選挙区数の0増6減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく,平成27年簡
易国勢調査に基づきアダムズ方式により都道府県別定数を計算した場合に減員対象
となる県のうち,議員1人当たり人口の少ない県から順に6県(青森県,岩手県,
三重県,奈良県,熊本県及び鹿児島県)の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをい
う。)を前提に,平成27年簡易国勢調査の結果に基づく選挙区間の最大較差を2倍
未満(1.956)とするのみならず,平成32年見込人口に基づく選挙区間の最
大較差も2倍未満(1.999倍)となるよう19都道府県の97選挙区(改定後
は91選挙区)において選挙区割りを改めることを内容とするものであり,都道府
県間の議員1人当たり人口の格差が1.844倍の中で,過去最大の分割市区数と
なるなど,較差の是正を行ったものである。
勧告を受けて,内閣は,平成29年5月16日,平成28年改正法に基づき,同
法のうち,0増6減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるととも
に,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項を定
める法制上の措置として,衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一
部を改正する法律の一部を改正する法律案を国会に提出し,平成29年6月9日,
上記改正法案が平成29年法律第58号(以下「平成29年改正法」という。乙1
6,乙17の1〜4,乙18の1〜6)として成立した。平成29年改正法は,1
票の較差を是正するため,前記改定案のとおり,衆議院小選挙区選出議員の選挙区
の改定を19都道府県97選挙区において行うこと等を内容とするものである。
平成29年改正法により,平成27年簡易国勢調査による日本国民の人口におけ
る各都道府県間の議員1人当たり人口の最大較差は1.844倍となり,また,選
挙区間の最大較差は,宮城県第5区と北海道第1区との間の2.176倍から鳥取
県第2区と神奈川県第16区との間の1.956倍にまで縮小され(較差が2倍以
上の選挙区は32選挙区から0選挙区に縮小),更に,平成32年見込人口において
も,宮城県第5区と東京都第1区との間の2.552倍から鳥取県第1区と東京都
第22区との間の1.999倍にまで縮小(較差が2倍以上の選挙区は71選挙区
から0選挙区に縮小)された(乙14の1の資料4ないし資料7)。
なお,平成27年簡易国勢調査の結果に基づき1人別枠方式を廃止してアダムズ
方式により定数を再配分した場合には,平成22年国勢調査の結果に基づく選挙制
度調査会答申の前記試算と同様,18都県について7増13減の定数の再配分が必
要となり,0増6減の対象外となった残り12都県についても,なお7増7減の定
数の再配分が必要となるが,このような定数の再配分は,平成29年の改正におい
ても行われていない。
3選挙制度の合憲性についての判断の枠組みについて
代表民主制の下における選挙制度は,選挙された代表者を通じて,国民の利害や
意見が公正かつ効果的に国政の運営に反映されることを目標とし,他方,国政にお
ける安定の要請をも考慮しながら,それぞれの国において,その国の事情に即して
具体的に決定されるべきものである。
我が国においては,憲法が,国会の両議院の議員の選挙について,議員は全国民
を代表するものでなければならないという基本的な要請(憲法43条1項)の下で,
議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるものとし
(同条2項,47条),選挙制度の具体的な仕組みの決定については,原則として国
会の広い裁量に委ねている。したがって,国会が選挙制度の具体的な仕組みについ
て定めたところが,上記の基本的な要請や法の下の平等などの憲法上の要請に反す
るため,上記のような裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認
することができない場合に,初めて憲法に違反することになると解すべきである。
憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求しているものと
解されるが,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,
国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調
和的に実現されるべきものであり,上記のように,国会の両議院の議員の選挙につ
いては,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律
で定めるべきものとされ,選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認
められている。
衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される
場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,
憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを
最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ
以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているもの
と解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化
した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,
住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を勘案しつつ,国政遂行のための民
意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調
和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の
合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権
の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会
がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上
の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これ
を是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになる。
また,裁判所において選挙制度について投票価値の平等の観点から憲法上問題が
あると判断したとしても,自らこれに代わる具体的な制度を定め得るものではなく,
その是正は国会の立法によって行われることになるものであり,是正の方法につい
ても国会は幅広い裁量権を有しているので,裁判所が選挙制度の憲法適合性につい
て上記の判断枠組みの下で一定の判断を示すことにより,国会がこれを踏まえて自
ら所要の適切な是正の措置を講ずることが,憲法上想定されているものと解される。
このような憲法秩序の下における司法権と立法権との関係に照らせば,定数配分又
は選挙区割りが上記のような諸事情を総合的に考慮した上で投票価値の較差におい
て憲法の投票価値の平等の要求に反する状態においても,憲法上要求される合理的
期間内における是正がされなかったとして定数配分規定又は区割規定が憲法の規定
に違反するに至っているか否かを更に審理判断すべきである。そして,この判断に
当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,その
ために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮
して,国会における是正の実現に向けた取組が司法の判断の趣旨を踏まえた立法裁
量権の行使として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべ
きである。
原告らは,憲法47条の「選挙に関する事項」のうち,議員の定数を何人にする
か,選挙制度を比例代表制にするか選挙区制にするかこの両者を組み合わせるか,
選挙区割りの大きさをどのようにするかといった点については国会が立法裁量権を
有するが,人口比例選挙は憲法56条2項,同1条,同前文第1文の要求するとこ
ろであり,国会議員は上記各規範を尊重し擁護する義務を負っている(憲法99条)
から,これについて国会は立法裁量権を有しない旨主張する。しかし,衆議院議員
選挙においては,投票価値の平等の確保の要請とともに国政遂行のための民意の的
確な反映の要請が調和的に充足されるべきものであって,投票価値の平等の確保の
要請は,合理性を有する他の考慮事情を排してまで実現されるべきものとは解され
ず,上記諸要請の調和的充足を図る上で,国会が広範な裁量権を有することを否定
することはできない。また,選挙制度の具体的内容(たとえば比例代表制にするか
選挙区制にするか,選挙区割りの大きさをどのようにするか)が現実的に実現可能
な投票価値の較差の縮小の限界を規定する面があることは否めないのであって,憲
法47条の「選挙に関する事項」を,原告らが主張するような,人口比例選挙に関
わるものとそれ以外のものとに截然と区別することはそもそも不可能というべきで
ある。原告らの上記主張は採用できない。
4本件選挙の選挙区割りの規定の合憲性について
本件選挙における選挙区割りは,前記前提事実のとおり,平成28年及び平成2
9年に行われた衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の改正により,
次のように改められ,これらの改正による0増6減と選挙区割りの改定により,平
成27年人口及び平成32年見込人口において最大較差が2倍未満となるように措
置されたものである。
⑴アダムズ方式の採用
小選挙区の都道府県別定数配分は,アダムズ方式により行うこととし,アダムズ
方式による都道府県別定数配分は,制度の安定性を勘案し,平成32年の大規模国
勢調査から行い,以後10年に1度の大規模国勢調査でのみ行うこととした。
⑵小選挙区定数の0増6減
小選挙区の定数の0増6減を行い,小選挙区選出議員の定数を289人とし,定
数6減の対象県は,平成27年簡易国勢調査の結果に基づきアダムズ方式により都
道府県定数を計算した場合に減員対象となる県のうち,議員1人当たりの人口の最
も少ない順に6県とした。
⑶選挙区間の人口の最大較差を2倍未満とする選挙区割りの改定
19都道府県の97選挙区(改定後91選挙区)の選挙区割りを改め,平成27
年の簡易国勢調査による日本国民の人口に基づく選挙区間の最大較差を2倍未満
(1.956倍)とするのみならず,平成32年見込人口に基づく最大較差も2倍
未満(1.999倍)となるように較差の是正を行った。
他方で,都道府県別定数配分の抜本的な平等を図るべく採用されたアダムズ方式
の実際の適用は,平成32年の大規模国勢調査に基づく定数配分から行うこととさ
れ,平成28年改正後の区画審設置法3条2項が定めるアダムズ方式に基づいた定
数の再配分が行われていないことから,0増6減によっても,現在の定数289人
を平成27年人口に基づきアダムズ方式によって配分した場合に増減が生ずべき1
2都県(7増7減)についての定数の再配分は行われていないが,平成29年改正
による選挙区割りの改定により,本件選挙当時,平成27年簡易国勢調査による日
本国民の人口に基づく各都道府県間の議員1人当たりの人口の最大較差は1.84
4倍となり,また,選挙区間の最大較差は,鳥取県第2区と神奈川県第16区との
間の1.956倍となっており,最大較差が2倍未満となった。そして,0増6減
後に議員1人当たりの人口が最も少ない鳥取県については,アダムズ方式が採用さ
れたとしても議員定数の削減の対象とはならないため,定数の削減はされなかった。
このようにみてみると,アダムズ方式による都道府県別定数の再配分が0増6減
の措置によっては完了していない点で,人口が多い都市部の都県においては,1人
別枠方式が採用されていた当時からの相対的に不利な定数配分がなお維持されてい
るといえる。しかし,一方で,小選挙区制や人口の都市集中によって生ずる都道府
県の人口の差異から生ずる定数配分の較差是正への制約もある中で,平成28年及
び平成29年の改正により,平成32年の国勢調査以降はアダムズ方式により抜本
的な都道府県別定数の再配分を行う基本方針が定められ,しかも現行の区画審設置
法3条1項に選挙区間の人口較差が2倍以上にならないようにすることが法律上明
記された上で,その上での当面の措置として,0増6減及び選挙区割りの改定によ
り,平成27年人口はもとより平成32年見込人口においても選挙区間の人口の最
大較差が2倍未満となるよう措置されたことにより,1人別枠方式による定数配分
による不利な状態も相対的に軽減されたとみることができる。
以上の事情によれば,本件選挙における選挙区割りの規定は,経済社会の変化に
より人口が集中してきた都市部の都県において,1人別枠方式が採用されていた当
時からの相対的に不利な定数配分がなお維持されているといえることから,選挙区
間の人口の最大較差が2倍未満となるよう措置されたからといって,そのことだけ
で当然に憲法の投票価値の平等の要請に反する状態になかったと評価するのは相当
とはいえない。しかし,アダムズ方式を将来の基本方針として採用した上で,当面
の措置として選挙区間の人口の最大較差が2倍未満となる措置がされたこと等の較
差是正に向けた平成28年改正及び平成29年改正の経緯及び内容を踏まえると,
1人別枠方式があった当時の定数配分の不利な状態は相対的にみて軽減されている
面もあるから,1人別枠方式による定数配分がなお維持されている側面のみを重視
して,現行の選挙区割りが,国会に与えられた裁量権を考慮してもなお,憲法の投
票価値の平等の要請に反する状態にあるとまで評価するのは相当でなく,国会の裁
量権の限界を超えているとまで認めることはできない。
基本方針としてアダムズ方式を採用し,アダムズ方式の導入そのものとは異なる
ものの,平成27年簡易国勢調査の結果に基づいてアダムズ方式を導入した場合に
減員対象となる県から0増6減の対象県を選定し,投票価値の較差の縮小に向けた
暫定的措置をも講じた上で選挙区割りを改定し,選挙区間の人口の最大較差が当面
2倍未満となったことは,国会が自ら投票価値の平等の要請にかなう抜本的な選挙
制度の見直しに向けた作業の一環として,漸次的な改革を進め,その成果として投
票価値の較差が着実に縮小されてきたものと評価することができ,国会における是
正の実現に向けた取組が最高裁大法廷判決の趣旨を踏まえた立法裁量権の行使とし
て相当でなかったとはいえないと考えるからである。
5結論
以上によれば,本件選挙の選挙区割りを定めた公職選挙法の規定は,憲法の投票
価値の平等の要求に反する状態にあったものということはできず,憲法14条1項
等に違反して無効となるものではない。本件選挙は,無効とされるべきものではな
く,原告らの請求は理由がない。
仙台高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 小林久起
裁判官 杉浦正典
裁判官 坂本浩志
(別紙「当事者目録」,「衆議院小選挙区別平成27年日本国民の人口及び人口最
小選挙区との較差【改定案】」,「衆議院小選挙区別平成27年日本国民の人口及び
人口最小選挙区との較差【改定案】人口順」,「区画審設置法改正経過」及び「【アダ
ムズ方式による都道府県への議席配分試算】」省略)
別紙
請求目録
第1被告宮城県選挙管理委員会に対する請求
1原告A
平成29年10月22日施行の衆議院小選挙区選出議員選挙の宮城県第1区にお
ける選挙を無効とする。
2原告B
同衆議院小選挙区選出議員選挙の宮城県第2区における選挙を無効とする。
3原告C
同衆議院小選挙区選出議員選挙の宮城県第3区における選挙を無効とする。
4原告D
同衆議院小選挙区選出議員選挙の宮城県第4区における選挙を無効とする。
5原告E
同衆議院小選挙区選出議員選挙の宮城県第5区における選挙を無効とする。
6原告F
同衆議院小選挙区選出議員選挙の宮城県第6区における選挙を無効とする。
第2被告青森県選挙管理委員会に対する請求
1原告G
同衆議院小選挙区選出議員選挙の青森県第1区における選挙を無効とする。
2原告H及び原告I
同衆議院小選挙区選出議員選挙の青森県第2区における選挙を無効とする。
3原告J
同衆議院小選挙区選出議員選挙の青森県第3区における選挙を無効とする。
第3被告岩手県選挙管理委員会に対する請求
1原告K
同衆議院小選挙区選出議員選挙の岩手県第1区における選挙を無効とする。
2原告L
同衆議院小選挙区選出議員選挙の岩手県第2区における選挙を無効とする。
3原告M
同衆議院小選挙区選出議員選挙の岩手県第3区における選挙を無効とする。
第4被告山形県選挙管理委員会に対する請求
1原告N
同衆議院小選挙区選出議員選挙の山形県第1区における選挙を無効とする。
2原告O
同衆議院小選挙区選出議員選挙の山形県第2区における選挙を無効とする。
3原告P
同衆議院小選挙区選出議員選挙の山形県第3区における選挙を無効とする。
第5被告福島県選挙管理委員会に対する請求
1原告Q
同衆議院小選挙区選出議員選挙の福島県第1区における選挙を無効とする。
2原告R
同衆議院小選挙区選出議員選挙の福島県第2区における選挙を無効とする。
3原告S
同衆議院小選挙区選出議員選挙の福島県第3区における選挙を無効とする。
4原告T
同衆議院小選挙区選出議員選挙の福島県第4区における選挙を無効とする。
5原告U
同衆議院小選挙区選出議員選挙の福島県第5区における選挙を無効とする。

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