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暴力団幹部に賠償命令 全国初、組員の詐欺で責任認める

 指定暴力団住吉会系の組員らによる特殊詐欺事件をめぐり、茨城県内の被害者3人が住吉会の最高幹部2人に対し、暴力団対策法が定める代表者としての責任があるとして総額約715万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、水戸地裁であった。
 前田英子裁判長は最高幹部らの責任を認め、実際に金をだまし取られた2人に計605万円を支払うよう命じた。弁護団によると、特殊詐欺事件で暴力団トップの代表者責任を認めた判決は全国で初めて。未遂の被害者1人については請求を退けた。
 被害者らは2016年夏、親族を装った電話などで組員らに計500万円をだまし取られたなどとして、住吉会の関功会長と福田晴瞭特別相談役を提訴。弁護団は被害者を通じて刑事裁判の記録を集め、事実関係などを固めたという。
 事件では、住吉会系の組員=詐欺罪などで実刑判決=が周辺者の男=詐欺幇助(ほうじょ)罪で有罪判決=に詐欺の「受け子」を探させ、犯行グループを組織した。暴力団の「威力」を被害者に直接示していない事例で、トップの責任が問えるかが争点の一つとなっていた。
 前田裁判長は判決で、「組員が詐欺グループのメンバーを集める際に暴力団の威力を利用しており、暴力団の力を使った資金獲得にあたる」と認め、代表者の責任を問えるとした。受け子探しを指示された男は、組員が住吉会系の暴力団員であることを認識して恐怖心を抱いており、組員もそのことを知っていたと認定。「威力の利用」にあたると判断した。
 一方で、受け子役の男については、だまし取った現金を回収する男の腕に入れ墨があることを見ていたものの、暴力団員が関与しているという認識があったとは確認できず、「威力の利用には当たらない」とした。
 判決後、原告代理人の小沼典彦弁護士は「暴対法に基づく代表者責任が認められれば、被害が十分救済されるため、判決の意義は大きい」と話した。詐欺未遂の被害者の賠償が認められなかったことについては「より救済の幅を広げるため、未遂でも損害賠償が認められるよう控訴を検討する」としている。(片田貴也、佐々木凌)
(2019年5月23日15時54分 朝日新聞)

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平成30(ワ)358  損害賠償請求事件
令和元年5月23日  水戸地方裁判所
令和元年5月23日判決言渡同日原本領収
平成30年(ワ)第358号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成31年3月1日
主文
1被告らは,連帯して,原告Aに対し,363万円及びこれに対する平成28
年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,連帯して,原告Bに対し,242万円及びこれに対する平成28
年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告A及び原告Bのその余の請求並びに原告Cの請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,原告Aに生じた費用の10分の1及び被告らに生じた費用の3
0分の1を原告Aの負担とし,原告Bに生じた費用の10分の1及び被告らに
生じた費用の30分の1を原告Bの負担とし,原告Cに生じた費用及び被告ら
に生じた費用の3分の1を原告Cの負担とし,原告Aに生じた費用の10分の
9,原告Bに生じた費用の10分の9及び被告らに生じた費用の5分の3を被
告らの負担とする。
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,連帯して,原告Aに対し,385万円及びこれに対する平成28
年8月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,連帯して,原告Bに対し,275万円及びこれに対する平成28
年8月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告らは,連帯して,原告Cに対し,55万円及びこれに対する平成28年
8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,Fが主導したグループにより,被害者の親族になりすまし親族が現
金を至急必要としているかのように装って被害者から金員をだまし取る詐欺の
被害を受けた原告らが,被告D及び被告Eに対し,Fは,指定暴力団G会H会
I一家に所属しており,Fが指定暴力団G会の威力を利用して上記グループを
構成し,上記グループが原告らから金員を詐取した行為は,暴力団員による不
当な行為の防止等に関する法律(平成20年法律第28号による改正後のも
の。以下「暴対法」という。)31条の2にいう「威力利用資金獲得行為」に
該当し,G会の会長である被告D及び同会の特別相談役である被告Eは,G会
の「代表者等」に該当するから,原告らに生じた損害を賠償する義務があると
主張して,同条に基づき,連帯して,原告らが上記グループに交付した金員相
当額,慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認められる事実)
⑴当事者等
ア原告ら
原告A,原告B,及び原告Cは,平成28年7月31日から同年8月8
日までの間に,後記⑵のとおり,詐欺行為により金銭を詐取又は詐取され
そうになった者らである。
イ被告ら
被告Dは,平成26年4月から現在に至るまで,J公安委員会により暴
対法3条の規定による指定を受けた指定暴力団であるG会の会長職にある
者であり,被告Eは,G会の会長職を務めた後,平成26年4月に会長職
を退き,以降,現在に至るまでG会の特別相談役の地位にある者である。
⑵原告らに対する詐欺行為
Kは,氏名不詳者等と共謀し,他人の親族になりすまし,その親族が現金
を至急必要としているかのように装って現金をだまし取ろうと考え,以下の
ア〜ウのとおりの詐欺行為を行った。
ア平成28年7月31日から同年8月2日までの間,氏名不詳者が,複数
回にわたり,原告A方に電話を掛け,原告A(当時73歳)に対し,電話
の相手が原告Aの親族であるかのように装い,電話の相手が,原告Aの姪
の子である旨誤信した原告Aに,原告Aの姪の子が現金300万円を至急
必要としているので,上記姪の子の代わりに行く郵便局員のLに現金を渡
してもらいたい旨嘘を言い,さらに,同日午前11時30分頃,同所にお
いて,Kが,原告Aに対し,上記Lになりすまして,上記姪の子のために
現金を預かるものと装い,原告Aにその旨誤信させ,よって,その頃,同
所において,原告Aから現金300万円の交付を受け,もって人を欺いて
財物を交付させた(以下「本件詐欺行為1」という。)。
イ同月3日,氏名不詳者が,複数回にわたり,原告B方に電話を掛け,原
告B(当時90歳)に対し,電話の相手が原告Bの親族であるかのように
装い,電話の相手が原告Bの孫である旨誤信した原告Bに,原告Bの孫が
現金400万円を至急必要としているので,上記孫のために代わりに行く
郵便局員のMに現金を渡してもらいたい旨嘘を言い,さらに,同日午前1
1時30分頃,同所東側路上において,Kが,原告Bに対し,上記Mにな
りすまして,上記孫のために現金を預かるものと装い,原告Bにその旨誤
信させ,よって,その頃,同所において,原告Bから,現金200万円の
交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた(以下「本件詐欺行為
2」という。)。
ウ同月8日,氏名不詳者が,複数回にわたり,原告C方に電話を掛け,原
告C(当時66歳)に対し,電話の相手が原告Cの息子であり,原告Cの
息子が現金300万円を至急必要としているので,上記息子のために代わ
りに行く郵便局員のNに現金を渡してもらいたい旨嘘を言って原告Cにそ
の旨誤信させ,さらに,同日午前11時20分頃,同所において,Kが応
対した原告Cの親族に対し上記Nになりすまして,上記息子のために現金
を預かる者と装って現金の交付を求め,その交付を受けようとしたが,原
告Cに嘘を見破られていたため,その目的を遂げなかった(以下「本件詐
欺行為3」といい,本件詐欺行為1ないし3を併せて「本件各詐欺行為」
と総称する。)。
⑶K,F,Oの刑事処分
アKは,原告らに対する詐欺・詐欺未遂被告事件(水戸地方裁判所平成2
8年第412号,第489号)において,平成28年11月25日,本
件各詐欺行為に関し,原告らから直接現金を受け取る役割を担った者とし
て,懲役2年の実刑判決の宣告を受けた。同判決において認定された罪と
なるべき事実の要旨は,前記⑵ア〜ウのとおりである(甲7)。
イFは,原告A,原告B及び他の被害者に対する詐欺・詐欺未遂被告事件
(水戸地方裁判所平成29年第591号,平成30年第105号)に
おいて,平成30年5月23日,本件詐欺行為1及び2に関し,他の犯罪
事実と併せて懲役4年の実刑判決の宣告を受けた(甲3)。
ウOは,原告Aに対する詐欺幇助被告事件(水戸地方裁判所平成29年
第238号)において,本件詐欺行為1に関し,平成29年8月24日,
詐欺幇助の犯罪事実により,懲役2年,執行猶予4年,猶予期間の保護観
察付の判決の宣告を受けた(甲4)。
2関係法令などの定め
⑴暴対法2条1号は,「暴力的不法行為等」を「別表に掲げる罪のうち国家
公安委員会規則で定めるものに当たる違法な行為」と定めるところ,別表2
号は「刑法第2編第5章,第7章,第22章,第23章,第26章,第27
章,第31章から第33章まで,第35章から第37章まで及び第40章に
規定する罪」を掲げている。
なお,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則(国家公
安委員会規則第4号。(以下「本件規則」という。))は,暴対法2条1号
の国家公安委員会規則で定める罪のうち,刑法第37章(詐欺及び恐喝の
罪)に係るものとしては,刑法249条(恐喝)及び250条(未遂)(2
49条に係る部分に限る。)のみを定め,刑法246条(詐欺),246条
の2(電子計算機使用詐欺),247条(背任)及び248条(準詐欺)に
ついては定めていない。
⑵暴対法2条2号は,「暴力団」を「その団体の構成員(その団体の構成団
体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うこと
を助長するおそれがある団体」と,同条3号は,「指定暴力団」を「同法3
条の規定により指定された暴力団」と,同条6号は,「暴力団員」を「暴力
団の構成員」と定めている。
⑶暴対法3条は,都道府県公安委員会は,暴力団が同条各号のいずれにも該
当すると認めるときは,当該暴力団を,その暴力団員が集団的に又は常習的
に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定
するものとする旨を定める。
同条1号は,名目上の目的のいかんを問わず,当該暴力団の暴力団員が当
該暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための
資金を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員
に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認す
ることを実質上の目的とするものと認められることを定める。
同条3号は,当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある
者(以下「代表者等」という。)の統制の下に階層的に構成されている団体
であることを定める。
⑷暴対法9条は,指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」とい
う。)は,その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等
(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団
体となり,又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員とな
っている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等
をいう。以下同じ。)の威力を示して同条所定の行為をしてはならないと規
定する。
⑸暴対法31条の2(平成20年法律第28号により新設)本文は,指定暴
力団の代表者等は,当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為
(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の
遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為を
いう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命,身体又は財
産を侵害したときは,これによって生じた損害を賠償する責任を負う旨を定
める。
3争点及び争点に関する当事者の主張
⑴争点1(FがG会の暴力団員であるか。)
ア原告らの主張
Fは,G会H会I一家に所属する指定暴力団員である。
イ被告らの主張
否認する。Fは,G会に所属しておらず,被告らは,Fの存在及び名前
を知らないし,会ったこともない。
⑵争点2(被告Eが暴対法31条の2の「代表者等」に当たるか。)
ア原告らの主張
暴対法31条の2の「代表者等」とは,当該暴力団を代表する者又はそ
の運営を支配する地位にある者をいう(同法3条3号)。「運営を支配す
る地位にある者」とは,団体を統制している者を意味し,暴力団の最高幹
部がこれに当たる。被告Eは,平成26年にG会の特別相談役となり,本
件各詐欺行為が行われた間も特別相談役であった。特別相談役は,G会の
最高幹部であるから,G会の運営を支配する地位にある者である。したが
って,被告Eは,同法31条の2の「代表者等」に該当する。
イ被告らの主張
被告Eは,本件各詐欺行為が発生した日において,既にG会の会長を退
いており,特別相談役であったにすぎない。特別相談役とは,重大な事項
又は紛議などに適当な助言又は調停などをする役であって,G会の決定機
関でも最高幹部でもない。したがって,G会の運営を支配する地位にある
者とはいえず,被告Eは,暴対法31条の2「代表者等」に該当しない。
⑶争点3(本件各詐欺行為が暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」
に該当するか。)
ア原告らの主張
暴対法31条の2の趣旨は,民法715条の使用者責任の特則として
被害者の立証責任を軽減し,暴力団が資金獲得を目的とする組織である
こと及び威力を用いて社会全体に害悪を与える組織であることに鑑み
て,広く威力を利用した資金獲得活動を規制することにある。上記趣旨
に照らせば,暴対法31条の2にいう「威力を利用して」とは,指定暴
力団員が,当該指定暴力団に所属していることにより資金獲得活動を効
果的に行うための影響力又は便益を利用することをいい,当該指定暴力
団の指定暴力団員としての地位と資金獲得活動とが結びついている一切
の場合をいう。
同条が規定する「威力を利用して」とは,同法9条が規定する「威力
を示して」とは異なり,威力を相手方(被害者)に認識させることは不
要であって,「威力を示して」よりも広い概念であることは明らかであ
る。
要するに,生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金
を得,又は当該資金を得るために必要な行為(以下「資金獲得行為」と
いう。),本件でいえば,詐欺行為そのものに威力が利用されている必
要はなく,詐欺行為に向けて共犯者らを組織する際に威力が利用されて
いれば,同法31条の2が規定する威力利用資金獲得行為に該当する。
Fは,同法3条に基づき指定を受けた暴力団であるG会H会I一家の
組員である。Fが主導して詐欺グループを構成し,本件各詐欺行為が行
われたところ,上記グループの非暴力団員であるメンバーは,Fが指定
暴力団に所属していることを恐れており,かつFはそのことを知ってい
た。
Oは,FがG会の暴力団員であることを認識し,Fの求めを断れば自
分や交際相手の身に危険が及ぶかもしれないとの恐怖心から,被害者か
ら金銭を直接受け取る役割(以下「受け子」という。)をする人物の勧
誘を取り仕切る役割を担うに至った。また,Kは,上記グループに暴力
団員が関与していることを認識し,断ったら何をされるかわからないと
いう恐怖心から,受け子をすることを断ることができなかった。
Fは,上記非暴力団員メンバーが暴力団に対する恐怖心から自身の指
示・命令に従わざるを得ないことを認識した上で,上記非暴力団員メン
バーが断ることのできない状況を利用し,本件各詐欺行為に向けて,受
け子の勧誘等の指示・命令を出し,本件各詐欺行為が実行されたのであ
り,本件各詐欺行為は,指定暴力団員Fが,指定暴力団G会に所属して
いることによる威力を利用して,上記グループを指揮・統制して効果的
に資金獲得行為を行ったものであり,同法31条の2の「威力利用資金
獲得行為」に該当する。
イ被告らの主張
原告らに対する本件各詐欺行為において,指定暴力団に所属しているこ
とを示すなどの威力は用いられておらず,本件各詐欺行為は,暴対法31
条の2に規定する威力利用資金獲得行為には該当しない。すなわち,同条
の規定する指定暴力団の威力の利用は,資金獲得行為そのものについてさ
れていなければならず,詐欺行為に向けて共犯者を組織する際に指定暴力
団の威力が利用されている場合は含まれない。
⑷争点4(原告らの損害額)
ア原告らの主張
本件各詐欺行為により,原告らには次のとおりの損害が発生した。
なお,本件各詐欺行為は,原告らの親族になりすますことによって親族
の非常事態を偽装し,親族を案じる原告らから多額の金員を詐取し又は詐
取しようとしたものであり,犯行態様として極めて悪質である。このよう
な事案の悪質性及び被害金額を考慮したとき,原告らが被った精神的損害
を金銭的に評価するとそれぞれ50万円を下らない。
原告A
a財産的損害300万円
b精神的損害50万円
c弁護士費用35万円
d合計385万円
原告B
a財産的損害200万円
b精神的損害50万円
c弁護士費用25万円
d合計275万円
原告C
a精神的損害50万円
b弁護士費用5万円
c合計55万円
イ被告らの主張
前記アはいずれも不知。
第3当裁判所の判断
1争点1について
証拠(甲1,2,13,15,16)によれば,P県警察本部は,本件各詐
欺行為当時(平成28年7月31日〜同年8月8日),Fを指定暴力団G会H
会I一家(以下「I一家」という。)に所属する指定暴力団員と認定していた
こと,Fは,詐欺,詐欺未遂被疑事件において,検察官に対し,暴力団に所属
していることを自認し,組員としてはQと名乗っていた旨を供述しているこ
と,Oは,詐欺被告事件(水戸地裁平成29年(わ)第591号等)の公判廷に
おいて,FがI一家に所属している旨を供述していることが認められるから,
Fは,本件各詐欺行為当時,I一家に所属するG会の指定暴力団員であると認
められ,これを覆すに足りる証拠はない。
2争点2について
前提事実,証拠(甲19,20,乙2,4)及び弁論の全趣旨によれば,
G会は,歴代のR一家総長を重んじる組織であること,被告Eは,平成10
年頃,G会の会長職に就き,平成17年4月,R一家六代目総長の指名によ
りR一家七代目総長となり,平成26年4月,G会の会長職を退いて特別相
談役となり,被告Dが会長職に就いたこと,被告Eは,本件各詐欺行為当時
(平成28年7月31日〜同年8月8日)においても特別相談役であったこ
とが認められる。
⑵暴対法31条の2の「代表者等」とは,「当該暴力団を代表する者又はそ
の運営を支配する地位にある者」(同法3条3号)をいい,「当該暴力団を
代表する者」すなわち会長,総長等と称する暴力団の首領のほか,「その運
営を支配する地位にある者」すなわち暴力団特有の階層的構成においてその
運営を支配する立場にある者も含まれる。
被告Eの役職は「特別相談役」であるところ,相談役とは,一般に,会社
などにおいて,第一線を退いた社長等が,重大な事項等について,現経営陣
に対する指導や助言を行う役職をいい,前記⑴によれば,被告Eは,長期に
わたりG会の会長職を務めたほか,R一家七代目総長でもあり,G会が歴代
のR一家総長を重んじる組織であることや暴力団特有の階層的支配服従関係
に照らすと,G会の会長職を辞してなお,G会の特別相談役として,G会の
会長等に指導や助言をすることを通じ,その運営に強い影響力を有するもの
と推認され,これを覆すに足りる的確な証拠はない。したがって,被告E
は,G会の運営を支配する地位にある者として同法31条の2の「代表者
等」に該当すると認めるのが相当である。
3争点3について
⑴認定事実
前提事実,掲記の証拠(ただし,後記認定に反する部分は採用しない。)
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
アOについて
Oは,暴力団員ではなかったが,平成27年頃,I一家で使い走りをす
るなどしており,I一家の暴力団員であるFと知り合った。Oは,平成2
8年7月頃には19歳であったが,I一家の者が始めたダーツバーで店長
として働くようになっていたところ,Fは,頻繁に同店を訪れていた。
(甲1,2,14,16・2,3,11,14頁)
Oは,FがI一家所属の暴力団員であることを認識しており,Fに対し
恐怖心を抱いていた(甲16・2頁)。
イ本件各詐欺行為の経緯
Oは,平成28年7月頃,前記ダーツバーにおいて,Fから,詐取金
額の一定割合の報酬を渡すことを条件として,被害者の親族等になりす
まし,親族等の非常事態を偽装することによって被害者から金員を詐取
する詐欺(以下「本件特殊詐欺」という。)に関して,受け子を担うこ
とを複数回にわたって要求されたが,自らが逮捕される危険があること
から,これを断っていた。すると,Oは,Fから,O自身が受け子をし
ない代わりに他に受け子をする人物を探してくるよう要求された。O
は,Fが毎日のように前記ダーツバーを訪れ,しつこく上記要求をする
こともあり,Fの要求を断ったら何かされるのではないかと考えるとと
もに,報酬を受け取ることもできることから,受け子をする人物を探す
こととした。(甲14・1頁,甲15・1〜4頁,甲16・2〜4頁)
Oは,同月下旬頃,地元の後輩の一人であるS(当時18歳の大学生
である。)に受け子をする人物がいないかと話を持ち掛けた。Sは,地
元の同級生からK(当時22歳の大学生である。)の弟を紹介され,K
の弟と連絡を取り合い,本件特殊詐欺の受け子の勧誘をしたところ,K
の弟は,Kに対し,本件特殊詐欺の受け子の話を持ち掛け,Kはこれを
引き受けた。(甲5,6,14〜18)
Oは,SからKが受け子をすることができる旨の連絡を受け,同年8
月初め頃,Sから,Kの携帯電話番号を聞き,直ちにFに伝えた。な
お,当時,Oは,Kとの面識はなかった。(甲13〜18)
前記の経緯により,本件特殊詐欺を行うグループ(以下「本件詐
欺グループ」という。)が組織され,本件詐欺行為1及び2が行われた
(前提事実⑵ア,イ)。
Kは,本件詐欺行為1及び2によって詐取した被害金を,回収役の男
に渡したところ,同人の両腕に入れられた和柄の刺青を見て同人はヤク
ザであると恐怖を感じた(甲18)。
Kは,本件詐欺行為1及び2を終えた後,本件詐欺行為3の受け子を
依頼されたが,これ以上詐欺の仕事はしたくないと考えて断ろうとした
ところ,本件詐欺行為3の依頼をしてきたTと名乗る男から,本部にも
伝えており断れないと怒鳴られたことや,前記のとおり回収役の男が
ヤクザであると恐怖を感じ,詐欺の受け子を断れば何をされるかわから
ないと考えたことから,本件詐欺行為3を行うことを決意した。(甲1
8)
本件詐欺行為3は原告Cが嘘を見破っていたため,未遂に終わった
(前提事実⑵ウ)。
⑵暴対法31条の2の威力利用資金獲得行為の範囲
ア原告らは,G会の指定暴力団員であるFが,G会に所属していることに
よる威力を利用して本件詐欺グループを構成し,同グループを指揮・統制
して効果的に本件詐欺行為を行ったと主張し,このような場合にも,暴対
法31条の2の定める威力利用資金獲得行為に該当すると主張するので,
この点について検討する。
イ指定暴力団は,当該暴力団の暴力団員が当該暴力団の威力を利用して生
計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるよ
うにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ,又は当該暴
力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的
とし(暴対法3条1号),当該暴力団を代表する者又はその運営を支配す
る地位にある者の統制の下に階層的に構成されている団体という性質を有
する(同条3号)。
すなわち,指定暴力団の代表者等は,配下の指定暴力団員が資金獲得の
ために当該指定暴力団の威力を利用することを容認しているところ,この
ような威力を利用して行う資金獲得行為は他人の権利利益を侵害する可能
性が高く,また,指定暴力団の代表者等の統制は末端の指定暴力団員にま
で及んでいるから,指定暴力団の代表者等は,指定暴力団員の資金獲得行
為による権利侵害を防止し得る立場にあるといえる。加えて,指定暴力団
員による資金獲得行為は,当該指定暴力団の威力の維持拡大に資するとと
もに,指定暴力団の代表者等は,上納金システムにより指定暴力団員によ
る資金獲得行為による利益を享受する立場にあるといえる。これらのこと
から,同法31条の2は,指定暴力団の代表者等に配下の指定暴力団員の
威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任を負わせるものとし,民法71
5条の規定を適用して代表者等の損害賠償責任を追及する場合において生
ずる被害者側の立証の負担の軽減を図ることとしたものである。
ウ暴対法31条の2は,「威力利用資金獲得行為」について,当該指定暴
力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のため
の資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為と定義する
ところ,「威力を利用」するとは,「威力を示す」(同法9条参照)とは
異なり,より幅の広い行為態様を意味するものと解される。指定暴力団の
縄張りであることを認識させてみかじめ料を徴収する行為などの資金獲得
行為それ自体に指定暴力団の威力を利用する場合が,同条の適用対象とな
ることは明らかであるが,上記定義の文言からは,直ちに,威力利用資金
獲得行為が,指定暴力団の威力を資金獲得行為それ自体に利用する場合に
限定されると解することはできない。
そして,指定暴力団の威力が資金獲得行為それ自体,すなわち資金獲得
行為の被害者たる相手方に対し直接利用されていなくとも,例えば,指定
暴力団員がその威力を利用して詐欺グループのメンバーを集めて同グルー
プを構成し,同メンバーを利用して詐欺を行って資金を獲得する場合にお
いては,暴力団の威力を利用することによって詐欺という権利侵害行為を
実現させていることに照らすと,前記イの同法31条の2の立法趣旨及び
根拠が妥当するのであって,指定暴力団の威力が資金獲得行為のそれ自体
に利用される場合と異なるところはないというべきである。
そうすると,同条にいう「威力利用資金獲得行為」には,当該指定暴力
団の指定暴力団員が,資金獲得行為それ自体に当該指定暴力団の威力を利
用する場合のみならず,当該指定暴力団員が指定暴力団の威力を利用して
共犯者を集める場合など,資金獲得行為の実行に至る過程において当該指
定暴力団の威力を利用する場合も含まれると解するのが相当である。
エなお,指定暴力団とは,公安委員会が,当該暴力団員が集団的に又は常
習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団とし
て指定するものであるところ(暴対法3条),本件規則は,暴力的不法行
為等として詐欺罪を規定していないが(第2の2⑴),同法31条の2
は,威力利用資金獲得行為について暴力的不法行為等に係るものとの限定
を付していないのであって,詐欺行為が暴力的不法行為等に含まれないか
らといって,威力利用資金獲得行為に該当しないと解することはできな
い。
⑶Kとの関係で威力を利用したといえるか
Kは,OからFを紹介された際,同人が指定暴力団である旨聞かされるこ
ともなく,これを知らなかったところ,本件詐欺行為1及び2を終えた後,
詐取した被害金を回収役の男に渡す際,同人の腕に刺青があったことから,
本件各詐欺行為にヤクザが関与していると考えたにすぎず(認定事実イ
),本件詐欺行為1及び2について,G会の威力によって受け子を引き受
けたものとは認められない。そうであれば,Kとの関係において,本件詐欺
行為1及び2が,G会の威力を利用されたことによる資金獲得行為であると
認めることはできない。
また,Kは,本件詐欺行為1及び2の後に,本件各詐欺行為には,ヤクザ
の関与があると思い,そのことが,少なくとも本件詐欺行為3の受け子を断
れない要因の一つとなったものと認められるが(認定事実イ),G会の
暴力団員が関与しているとの認識があったとは認められず,また,Fにおい
ても,Kが,暴力団員が関与していることを恐れて本件詐欺行為3の受け子
を引き受けたと認識していたと認めるに足る証拠はない。そうすると,Kと
の関係においては,本件詐欺行為3についても,G会の威力が利用されたこ
とによる資金獲得行為であると認めることはできない。
⑷Oとの関係で威力を利用したといえるか
Oは,平成28年7月頃,Fから受け子を探すよう要求された際,Fから
の要求を拒否すれば,何かされるのではないかと考え,これを引き受けたも
のである(認定事実イ)。そして,Oは,I一家で使い走りをしていた関
係でFと知り合っており,FがG会の暴力団員であることを認識し,同人を
恐れていたと認められ(認定事実ア),Fも,当然にOの上記認識を了知し
ていたと推認される。そうすると,Oは,Fの所属するG会の威力に恐れて
本件各詐欺行為の受け子を探すことを引き受け,受け子としてKをFに紹介
したことにより本件詐欺グループが構成され,本件詐欺グループにより本件
各詐欺行為が実行されたという関係にあると認められる。したがって,G会
の指定暴力団員であるFが,G会の威力を利用して,G会の暴力団員ではな
いOに受け子を探させOが紹介した受け子と本件詐欺グループを構成したこ
とにより実行された本件各詐欺行為は,暴対法31条の2にいう「威力利用
資金獲得行為」に該当すると認めるのが相当である。
⑸よって,被告D及びEは,連帯して,本件各詐欺行為を行うについて原告
らに生じた損害を賠償する責任を負う。
4争点4について
⑴財産的損害について
前提事実⑵ア及びイによれば,原告A及び原告Bは,それぞれ,以下のと
おりの現金を詐取され,同額の損害が生じたと認められる。
ア原告A300万円
イ原告B200万円
⑵精神的損害について
本件において,原告A及び原告Bは,本件詐欺グループにより,親族が現
金を至急必要な状態にあると虚偽の情報による不安な心理状態を利用されて
金銭を詐取されたものであり,Fらの不法行為により相応の精神的苦痛を被
ったものと認められる。
そして,Fらによる詐欺行為が,親族の非常事態を装い高齢の原告A及び
原告Bが親族の身を案じる心情につけこむ卑劣な手口であり,被害額は多額
に及んでいることなど,本件に現れた一切の事情を総合すれば,原告A及び
原告Bの被った精神的苦痛は,財産的損害の賠償をもって完全に慰謝される
ものとはいえないから,慰謝料として,財産的損害の額の1割の賠償を認め
るのが相当である。したがって,原告Aには30万円,原告Bには20万円
の限度で精神的損害に対する慰謝料の請求が認められる。
他方で,原告Cは,本件詐欺グループの嘘を見破り,金員の詐取をされる
には至っておらず,損害賠償をもって慰謝されるべき精神的損害を被ったも
のとは認められない。
⑶弁護士費用について
原告A及び原告Bが要した弁護士費用のうち,各原告らの被った財産的損
害(前記⑴ア,イ)及び精神的損害(前記⑵)の合計額の1割に相当する,
原告Aにつき33万円,原告Bにつき22万円の限度で本件詐欺行為1又は
2と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
なお,原告Cは,前記のとおり,本件詐欺行為3によって何らかの損害が
生じたものとは認められないから,弁護士費用についても相当因果関係のあ
る損害とは認められない。
第4結論
以上によれば,原告Aの請求は,363万円及びこれに対する平成28年8
月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で,原告
Bの請求は,242万円及びこれに対する同月3日から支払済みまで年5分の
割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し,
原告A及び原告Bのその余の請求並びに原告Cの請求は理由がないからこれを
棄却することとして,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条本文,6
5条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用し,
主文のとおり判決する。
水戸地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 前田英子
裁判官 山本隼人
裁判官塚田奈保は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 前田英子

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