報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

三木市長の倫理審査会求めた署名返却は違法 地裁

 2015年11月の兵庫県三木市幹部慰労会に市の工事を受注する建設業者が同席した問題で、当時の薮本吉秀市長に対する倫理審査会開催を求めた署名と審査請求書を返却され、精神的苦痛を受けたとして、市民4人が市に総額400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が8日、神戸地裁であった。阿多麻子裁判長は「適正な手続きへの合理的な期待を裏切るもので違法」として、市に慰謝料など計40万円の支払いを命じた。
 原告側の永井幸寿弁護士は「市民による行政監視の権限を、実質的に保障する画期的な判決」と評価。三木市の仲田一彦市長は「判決を真摯に受け止め、控訴しない」とコメントした。
 判決などによると、原告の女性(71)らは16年11月、条例で定める有権者数を超える署名約1900人分と審査請求書を提出。市は同月、薮本氏が条例違反を認めて減給処分したことなどを理由にして、書類を受け付けず返した。
 阿多裁判長は「要件を満たした書類を受け付けず、返却したのは許されない」と判断。「前市長の意思に基づく行為とみるべき」と指摘した。
 薮本氏は17年5月、一連の問題で辞職し、同年7月の出直し市長選で落選した。
(2019/10/8 21:56 神戸新聞)

倫理審請求返却で三木市に賠償命令 地裁判決 /兵庫

 三木市の藪本吉秀前市長(2017年5月辞職)に対する倫理審査会の開催請求を受け付けられず、精神的苦痛を受けたとして、市民団体が市に総額400万円の損害賠償を求めた訴訟で、神戸地裁(阿多麻子裁判長)は8日、市に総額40万円の支払いを命じた。
 原告は「市長等倫理審査会の開催を求める署名有志の会」のメンバー4人。判決などによると、市幹部による慰労会の2次会に、公共工事で利害関係がある業者が同席した問題を巡り、有志の会は16年11月、市条例に基づき約1900人の署名を添えて倫理審査会の開催請求書を市に提出。市は同月、前市長による謝罪などを理由に請求書を返却した。
 判決で阿多裁判長は、返却は前市長の意志だったと判断し、手続きの違法性を認定。「適正手続きに対する原告らの合理的な期待を侵害した」と指摘した。【望月靖祥】
()

PDF

令和元年月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成29年(ワ)第1号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和元年7月23日
判決
主文
1被告は,原告Aに対し,万円及びこれに対する平成29年7月11日から
支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,万円及びこれに対する平成29年7月11日から
支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Cに対し,万円及びこれに対する平成29年7月11日から
支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Dに対し,万円及びこれに対する平成29年7月11日から
支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用はこれを分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担
とする。
7この判決は,1ないし4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告Aに対し,0万円及びこれに対する平成29年7月11日か
ら支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Bに対し,0万円及びこれに対する平成29年7月11日か
ら支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Cに対し,0万円及びこれに対する平成29年7月11日か
ら支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Dに対し,0万円及びこれに対する平成29年7月11日か
ら支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の概要
本件は,兵庫県三木市内に住所を有する住民である原告らが,三木市長等倫理
条例(平成18年12月日条例第48号,以下「市長等倫理条例」という。)
4条1項に基づき当時の被告市長に審査請求をした(以下「本件審査請求」とい
う。)ところ,同市長が,‘云鯲磽款鬘温爐鉾燭靴董つ召舛某該裟禅畚餤擇單塞
書類の写しを三木倫理審査会に提出してその審査を求めず,△海譴蕕僚駑爐鮨
査請求者代表者の原告Aに返却したことが,国家賠償法上違法であり,これによ
り原告らが精神的苦痛を被ったと主張して,被告に対し,同法1条1項による損
害賠償請求権に基づき,各0万円及びこれに対する平成29年7月11日
(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年%の割合による遅延損害
金の支払を求める事案である。
2市長等倫理条例(甲71)及び同施行規則(甲72)
別紙1のとおり
3前提事実(末尾に証拠[枝番のあるものは枝番も含む。以下同じ。]等の掲記が
ない事実は,当事者間に争いがない。)
⑴当事者等
ア原告らは,いずれも兵庫県三木市内に住所を有する,地方自治法18条に
定める選挙権を有する者(以下「有権者」という。)であり,後記⑵の本件飲
食について事実関係を明らかにするため結成された「市長等倫理審査会の開
催を求める署名有志の会」(以下「有志の会」という。)の会員である。
イ被告は,地方公共団体であり,Eは,平成27年11月当時から平成29
年月に辞職するまで,被告の市長であった者である。
⑵本件飲食
平成27年11月18日,被告の幹部職員懇親会の2次会に,被告から工事
を受注している建設会社社長ら2名が参加し,E,副市長及び教育長並びに被
告の部長級職員6名(以下「当該部長ら」という。)と共に飲食をした(以下
「本件飲食」という。)。
⑶記者会見及び広報
ア本件飲食は,地方公務員法3条2項の一般職である当該部長らについては,
三木市職員倫理条例(甲69。以下「職員倫理条例」という。)施行規則(甲
70)3条1項6号「利害関係者から接待を受けること」又は同7号「利害
関係者と共に飲食をすること」に該当するか否かが問題とされ,市長,副市
長及び教育長(以下「市長等」という。)については,市長等倫理条例3条1
項1号に該当するか否か問題とされた。
イEは,平成27年12月8日及び同月市議会で,「当該部長らは,事前に民
間人の参加を知らされていなかったから,本件飲食は職員倫理条例施行規則
3条1項6号及び同7号に抵触しない」との見解を表明し,被告が平成28
年1月3日付で配布した三木市広報別冊(以下「本件広報」という。)にも,
同じ見解が掲載された(甲4,6,7,)。
⑷職員等倫理審査会
当該部長らについては,平成28年1月,職員倫理条例8条1項に基づく職
員等倫理審査会が組織され,同審査会は,同月6日から4回にわたり,当該部
長らに職員倫理条例違反があるか否かを審査し,同年2月3日,全員について,
職員倫理条例施行規則3条1項7号違反があるとする意見書をEに提出した。
当該部長らの処分については,これを受けて職員賞罰審査委員会が開催され,
被告は,賞罰審査委員会の意見具申を受けて,平成28年3月4日付で当該部
長らを処分した。
⑸市長等倫理責任の自認及び減俸処分
Eは,平成28年3月4日,記者会見を開き,^賚△良埔融の発端は,E
が民間人の参加を知りながら当該部長らを本件飲食に誘ったことにあり,かか
る行為は市長等倫理条例3条1項1号に違反する,▲い糧言等につい
ても,市長が職員倫理条例施行規則の解釈を間違ってきたことの責任を認める
等と述べた上で,自らに対し給料の0分のを3か月減額する処分を行
ったと発表した(乙1)。
⑹本件審査請求
原告らは,平成28年11月18日,Eに市長等倫理条例3条1項1号及び
2号に違反する疑いがあるとして,同条例4条1項に基づき本件審査請求を行
い,/該裟禅畚顱聞達検法き被告の有権者約1900名の署名簿(甲
3,4。以下「本件署名簿」という。),A駄聖駑繊聞達院腺隠粥ぃ械亜
以下,,覆い鍬を併せて「本件各書類」という。)を被告企画管理部企画調整
課長に提出した。同課長は,同日,審査請求者代表者である原告Aに「預り証」
を交付し,本件各書類について,「下記書類をお預かりしました。ただし,受け
付けたものではありません。」と表明した(甲6)。
⑺本件各書類の返却
Eは,本件各書類について,市長等倫理条例4条2項に従って三木倫理審査
会に提出して審査を求めることなく(以下「本件不作為」という。),これを原
告らに返却すると判断した。
被告は,上記判断に基づき,平成28年11月日,企画管理部長の名で,
本件各書類を原告A宅に送付し返却した(以下「本件返却」という。)。その際,
被告は,同日付「審査請求書及び添付書類の返却について」と題する文書(甲
66。以下「本件返却文書」という。)を添付し,「受付しない理由」として,
本件審査請求時点で,Eは,既に本件飲食に関する自身の言動が市長等倫理条
例3条1項に違反することを認めて謝罪し,自ら給料減額処分を市議会の議決
を経て課すことで「市長の倫理の保持に資するため必要な措置」を講じている
ので,同条例4条1項に規定する「疑い」の余地はなくなっていると表明した。
⑻Eの辞職
Eは,平成29年月日,被告市議会の閉会挨拶において,自らの倫理
責任を認め,被告の市長を辞任する旨を表明し,同日付で辞表を提出した(甲
68,乙2)。
⑼本件提訴
原告らは,平成29年6月日,本件訴訟を当庁に提起し,本件訴訟の訴
状は同年7月日,被告に送達された(顕著な事実)。
4争点
⑴本件不作為及び本件返却は,国家賠償法1条1項にいう違法な行為か。
ア本件不作為及び本件返却は,市長等倫理条例4条2項に反するか(争点1)。
イ市長等倫理条例は,審査請求者個人の私的利益を保護しているか(争点2)。
⑵Eに故意・過失が認められるか(争点3)。
⑶原告らが被った損害及び損害額(争点4)
争点に関する当事者の主張
⑴争点1(市長等倫理条例4条2項違反)について
(原告らの主張)
本件不作為及び本件返却は,いずれも市長等倫理条例4条2項に違反する。
ア市長等倫理条例
市長等倫理条例4条1項及び2項,条,6条によれば,連署で行った請
求については審査会の審査がなされなければならず,審査請求者らは,後記
⑵(原告らの主張)のとおり,請求内容を市長等倫理審査会で審査される権
利ないし法的利益を条例で明示的に保障されている。
また,被告においては,行政手続法と制定趣旨を同じくする三木市行政手
続条例が制定されており,同条例37条は,届出が条例等に定められた形式
上の要件に適合している場合は,当該届出が条例等により当該届出の提出先
とされている機関の事務所に到達したときに,当該届出をすべき手続上の義
務が履行されたものと定め,行政手続法37条と同様の規定をしている。本
件各書類一式は形式上の要件に適合しており,これらが被告の事務所に提出
されたときに,当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものと解すべき
である。したがって,被告としては,これらを受理しないとか受け付けない
という扱いはできない。
イ本件不作為
前記アによれば,原告らが本件各書類を事務所に提出した時点で,Eには,
これを直ちに市長等倫理審査会に提出して審査を求める義務があった。にも
かかわらず,Eは,本件各書類を審査会に提出せず,審査手続に入らなかっ
たものであり(本件不作為),このような対応は市長等倫理条例に違反する。
市長等倫理条例には,審査に至るまでの過程で,必要性の有無その他の判
断を入れて審査を不要とすることができる旨の定めはない。仮に,受付をし
ない理由が,倫理審査会を開いても同一の結論がなされる蓋然性が高いとい
うものであるとしても,かかる判断ができるのは審査会だけである。市長等
倫理条例には,市長又は補助機関に対し,審査の必要性がないと判断する権
限や,書類を返送する権限を付与した定めはないし,そのような判断は,市
長の自覚(同2条)や自主規制(同3条)に委ねられた事項でもない。市長
等倫理条例では,審査会の開催と審査の必要が行為規範として定められてお
り,そのことは審査義務の存在を意味するから,審査に入らないことが同条
例違反であり違法である。
ウ本件返却
連署の提出は,市長等倫理条例上の根拠を持つ行為である。提出された署
名を受け付けずに返却する権限を定めた規定は,同条例には存在しない。本
件のように正規の審査手続に入らないだけでなく,規定にない「預かり」と
した上で,ことさらに連署を返却することは,署名をした有権者及びそれを
提出した原告らに対する積極的な「嫌がらせ」であり,市長等倫理条例に違
反する。
(被告の主張)
本件審査請求は,本件飲食に関するEの倫理違反を主張して審査を求めるも
のであるが,Eは,本件審査請求時点で,既に,本件飲食に被告職員らを誘っ
たこと及び民間人と飲食したことが市長等倫理条例違反に当たることを認め
て市民に謝罪し,その倫理違反の責任に基づいて給料月額の分の2を3か
月減額される処分を受けていた。そのため,Eは,同じ問題について重ねて市
長等倫理審査会を開催する必要はないと判断し,同審査会に審査を求めなかっ
たものである。
市長等倫理条例によれば,市長等倫理審査会は,市長等に倫理基準違反があ
るかどうかを審査した上で,その結果を報告書の作成・提出により表明し,市
長はその審査結果を尊重して市民の信頼を回復するために必要な措置を講じ
ることになる。上記の制度設計に鑑みれば,既に市長等に倫理違反があったこ
とが公に表明され,その者に対する処分も終了している問題については,もは
や同条例4条1項にいう「疑いがある」という段階を過ぎており,審査の必要
がないから,同項所定の審査請求の要件を満たさないものと解すべきである。
また,市長等倫理条例施行規則2条6項が,市長等倫理審査会で過去に審査さ
れた事案について再び審査請求を行うことができない旨規定していることも,
同条例及び同規則が不必要な市長等倫理審査会開催の回避を重視しているこ
とのあらわれであり,上記解釈を補強するというべきである。
⑵争点2(法的保護に値する利益)について
(原告らの主張)
ア原告らには,市長等倫理条例が定める要件を履践して審査請求に及んだ審
査請求者に対し,同条例が具体的権利として創設した「審査を受ける権利」
があり,本件ではそれが侵害された。
市長等倫理条例の目的は,市長等の倫理の保持に資するため必要な措置を
講じることにより,市政に対する市民の信頼を確保することであるが(1条),
倫理が人間の内面的な事象であり,外在的な規制には馴染みにくいものであ
ることから,同条例は,倫理の水準の確保を実現するための手段を,まず市
長等の自覚(2条)と自主規制(3条)に委ねている。これに対する唯一の
例外として,また,具体的規制手続として定められているのが,有権者の一
定数の連署を伴う請求である。倫理の欠如については自覚と自主規制では十
分な結果が出ない場合があり,このような場合に対処すべく,民主主義的・
住民監視的役割を持った仕組みを備えることが必要となった。そこで,住民
に外的規制の主導権を与えることが各地で実施されるようになったのが政
治倫理条例であり,市長等倫理条例も同様の趣旨によるものである。
このように,市長等倫理条例は,政治倫理の管理者は自治の主人公である
という趣旨を一般的・抽象的に定めるにとどまらず,同条例及び施行規則で
具体的な手続を定めることによって,連署による請求で審査会の審査を受け
ることを住民の権利として保障したものである。これは,市長等倫理条例に
定められた一定の要件を履践して請求に及んだ審査請求者に対し具体的権
利として同倫理条例が創設したものであり,市民全体の一般的・抽象的権利
を宣言した理念的なものではない。ただし,少数者の思いつきや,悪意によ
る請求などによる濫用の弊害を避けるため,一定の連署を備えること,すな
わち住民の中での一定の賛同を要することとしている。この意味で,連署を
伴うことは,倫理条例においてその目的を実現するために最も重要な位置に
あるものといえる。
ここで住民に保障される権利は,住民一般については抽象的一般的権利に
すぎないとしても,有権者の総数の0分の1以上の連署をもって審査請求
に及んだ審査請求人については具体的権利性が認められるのであり,本件で
は,このような条例の創設した権利が侵害されている。
イ人格権の侵害
人が社会生活において,他者から内心の静穏な感情を害されて精神的苦痛
を受けることがあっても,一定の限度では甘受すべきものというべきではあ
るが,社会通念上その限度を超えるものについては人格的利益として法的に
保護すべき場合があり,それに対する侵害があれば,その侵害の態様,程度
のいかんによっては不法行為が成立する余地があると解すべきである。
原告らは,炎天下の中,約1900名もの市民からの署名を集めて本件審
査請求をしたにもかかわらず,本件不作為によって審査請求の手続に入らな
かったばかりか,本件返却という予期せぬ嫌がらせにより,かけた労力が無
になり,不服申立ての機会も奪われた。本件返却は,社会通念上の限度を超
えて原告らに著しい落胆,不安,焦燥を与えるものであり,さらに,正規に
取り扱われるとの期待が踏みにじられた。
(被告の主張)
ア市長等倫理条例は,審査請求人(原告ら)の私的利益を保護していない。
私人が公的機関に対して何らかの申請又は申立て・請求(申請等)を行う
ことが法的に認められている場合でも,当該申請等に係る制度自体が,公的
利益を保護する趣旨のものであるに過ぎない場合には,申請者は,当該申請
又は制度に関する運用等の違法を理由として損害賠償を請求することはで
きないと解すべきである。また,念のために付言すると,制度自体がそのよ
うなものであるときは,申請等自体が不受理とされた場合であっても,それ
を理由とする損害賠償はできないというべきである。
市長等倫理条例によれば,市長等倫理審査会は,市長等に倫理基準違反が
あるかを審査した上で,その結果を報告書の作成・提出により表明し,市長
はその審査結果を尊重して市民の信頼を回復するために必要な措置を講じ
ることになっている。そして,同条例3条1項が倫理基準の内容として掲げ
る3つの事項にはいずれも「市民全体」の語が含まれていることに鑑みれば,
同基準は,「特定私人の利益」を保護するためではなく,「抽象的な市民全体
の利益(公益)」を保護するために設けられているといえる。また,同条例3
条2項の文言によれば,同条例は,市長等に「疑惑の解明」や「責任を明ら
かにすること」の努力義務を課したに過ぎない。さらに,同条例1条の文言
によれば,同条例によって問われる市長等の責任が「倫理責任」であって「法
的責任」ではないことを明らかにしているということができる。
以上の制度設計・制度内容に鑑みれば,同条例の各規定は,抽象的な市民
全体の利益(公益)を保護する趣旨の規定というべきであり,審査請求人の
私的利益を保護する趣旨を含むものではない。そうすると,倫理審査会が開
催されなかったことによって原告らに損害が発生したとしても,そのことを
理由に原告らが被告に対し損害賠償請求をすることはできない。
イ原告は,本件返却により原告らの人格権が侵害されたと主張する。しかし
ながら,相手方から提出された書類を相手方に返却する行為は,それだけで
相手方に苦痛を生じさせる性質の行為とはいえず,かかる主張は,結局,審
査請求に対する行政側の対応により損害を受けたという主張にすぎない。そ
して,前記アのとおり,市長等倫理条例が審査請求人の私的利益を保護して
いない以上,原告らが被告に対し損害賠償請求をすることはできないという
べきである。
⑶争点3(故意・過失)について
(原告らの主張)
アEは,本件不作為及び本件返却によって,違法に原告らの権利を侵害し,
損害を加えることについて故意がある。
Eは,市長等倫理条例の内容や手続を認識しており,平成27年12月1
1日の第332回三木市議会定例会では,市民が審査請求を行い,署名等を
提出した場合には,市長がこれを倫理審査会に提出してこの中で審理する方
針である旨言明し,平成29年月日の市議会閉会挨拶でも,本件各書
類を倫理審査会に提出せず返却したことは条例違反であると述べていた。
しかも,Eは,三木市在住で市長在任期間も12年に及ぶことから,同市
が都市部と比べて自治体の影響力が強く,長や市政に批判的な署名を行うこ
とが後に不利益を伴うことが少なくないことを認識しており,原告らが署名
活動を実施していたことも,自ら見聞し,あるいは被告職員らの報告を受け
て認識していた。
しかるに,Eは,自らの判断で,原告らが炎天下の中集めた約1900名
分の署名を廃棄物であるかのように原告Aに返送し,本件審査請求自体をな
かったこととして,原告らの不服申立ての機会を奪ったのであるから,本件
返却によって,原告らの人格的利益が侵害され精神的苦痛が生じることを認
識しつつ,その結果の発生を認容していたというべきである。
イ仮にEに故意が認められないとしても,上記アの各事情によれば,Eには,
少なくとも損害の発生について予見可能性がある。また,市長等倫理条例に
準拠して審査の請求を行えば,損害の発生を回避することもできた。よって,
Eには過失がある。
(被告の主張)
前記⑴(被告の主張)のとおり,Eは,本件審査請求時点で,既に倫理責任
を認め,処分を受けた旨を公表していたことから,審査会の開催の必要がない
と判断して本件返却を行ったものであり,そのような判断には注意義務違反が
ない。よって故意及び過失があるとはいえない。
⑷争点4(損害の発生及び数額)について
(原告らの主張)
原告らは,前記⑵(原告らの主張)イのとおり,本件不作為及び本件返却に
よって,市長等倫理条例の手続を履行して審査請求をしたにもかかわらず,内
心の静謐な感情を害されない利益を侵害され,精神的苦痛を被った。これに対
する慰謝料の額は90万円が相当であり,違法行為と相当因果関係のある弁護
士費用としては万円が相当である。
(被告の主張)
いずれも争う。
前記⑵(被告の主張)で詳述した審査請求の手続によれば,市長等倫理条例
による審査請求によって審査請求人が獲得する具体的な利益は,〇堋硬に倫
理違反があったか否かの結論が公に表明されること(表明要求利益)と,∋
長等に倫理違反があったという結論が出た場合に,それに対応した措置(処分)
が市長により講じられること(処分要求利益)である。
しかるところ,Eは,平成28年3月4日の記者会見で,自らに倫理違反が
あったことを認め,処分の公表を行っている。また,Eは,平成29年月1
日の市議会閉会挨拶において,更に広範な事項について自らに倫理責任があ
ったことを認めて市長を辞職する旨表明し,閉会挨拶の内容は,被告のウェブ
サイト上に掲載され,各種新聞等においても報道された。
以上によれば,本件審査請求において,原告らが倫理違反の有無について審
査を求めた事項については,倫理違反に当たる旨の表明がEから行われており,
表明要求利益が達成されているし,Eが自ら辞職したことによれば,処分要求
利益も達成されている。よって,原告らの私的利益は達成されており,原告ら
に損害が生じているとはいえない。
第3争点に対する判断
1認定事実
前記第2の3の前提事実,当事者間に争いのない事実及び後掲各証拠によれば,
次の事実が認められる。
⑴本件飲食発覚の端緒
平成27年11月19日午前1時分頃,被告の理事が酒気帯び運転によ
り現行犯逮捕され,これを機に本件飲食が発覚した。Eは,同年12月3日,
神戸新聞社の取材に対し,当該部長らは民間人の参加を知らずに同席しただけ
で倫理規定違反にはならないと答え,同月4日朝刊にその記事が掲載された。
しかし,当該部長らは,被告秘書課から同年11月11日送られた出欠確認メ
ール(以下「本件メール」という。)により,本件飲食の参加者に民間人が含ま
れていることを事前に認識しており,同年12月4日,それを副市長に伝えた。
Eは,同日,副市長から当該部長らの発言を伝えられ,本件メールが関係部局
にしか出されていないのであれば,なかったことにしてはどうかと指示し,副
市長は,上記指示に従って,当該部長らにメールの消去を指示した(甲1〜3,
,68,)。
⑵記者会見及び本件広報
Eは,平成27年12月8日の記者会見で,前記第2の3⑶の見解を述べた
上で,当該部長らについては,疑念を払拭するために職員倫理審査会を開き,
市長等については,記者会見や市議会本会議で質問に答える中で責任を果たす
と発言し,市民からの審査請求があれば市長等倫理審査会を設置するとも発言
した。Eは,同月9日からの市議会定例会でも同趣旨の発言をし,市議会議員
の質問に対し,市民への説明責任は広報のような形で説明したいと述べた。被
告は,これを受けて,平成28年1月3日に市内約3万世帯に本件広報を配布
した(甲4,7,,96,)。
⑶職員倫理審査会
平成28年1月6日,第1回職員倫理審査会が開催された。同月13日,新
聞記者が本件メールを打ち直した書面を持参し,副市長に取材をした。Eは,
同月14日,取材に対し「メールの存在は知らなかったが,事実であると聞い
ている」と回答したが,同月日,同審査会事務局の理事に対し,同月16
日の第2回審査会に備えて想定問答を作るよう指示した。同月日発行の読
売新聞及び同月21日発行の神戸新聞に,本件飲食の7日前に民間人を参加予
定者とするメール(本件メール)が送られていたという記事が掲載され,同月
28日の第3回審査会では,当該部長らが民間人の参加を認識していたかにつ
いても意見聴取が行われた。当該部長らは,委員の質問に対し,民間人の参加
は知らなかったと答え,本件メールについても「メールの詳細までは確認して
いない」「読んでいなかった」等と答えたが,同審査会は,同年2月3日の第4
回審査会で,当該部長ら全員について職員倫理条例施行規則3条1項7号に抵
触すると判断し,その旨の意見書をEに提出した(甲8,9,30,4,7
8,8,)。
⑷平成28年3月4日記者会見
Eは,平成28年3月4日,当該部長らに対する前記第2の3⑷の処分を受
けて記者会見を行い,本件飲食に関する自分の行為について,前記第2の3⑸
のとおり,改めて市長等倫理審査会を開催するまでもなく市長の倫理責任を認
めると述べた上で,自身に対する給料減額処分を発表した。このとき,Eは,
本件メールにも言及し,同市長としては同年1月14日に初めてその存在を知
ったものであるが,本件メールが昨年11月11日に送信されていたにもかか
わらず,同市長が平成27年12月定例会や新聞報道等により本件メールが存
在しないことを前提とした発言をして世間を惑わせたことも反省すべきであ
る旨発言した(甲8〜13,30,乙1)。
⑸公文書公開請求
ア原告らは,平成28年1月に署名活動を始める予定であったが,同月
日及び同月21日の新聞報道で本件メールの存在を知り,情報を収集するた
めに,同年2月16日以降,三木市情報公開条例(平成11年条例第1号)
に基づく公文書公開請求を行った。その一環として,原告B,原告D及び原
告Aは,同年3月22日以降,職員倫理審査委員会の議事録についてそれぞ
れ公文書公開請求をしたが,被告は,いずれの請求についても,三木市倫理
審査委員会委員長Fの名で,「公文書の公開を行わない理由そのものが情報
公開できない項目に該当する」との理由で非公開決定をしたので,原告らは,
これらの処分の取消しを求めて審査請求をした(甲32,34,36,40,
41,79,80)。
イ職員倫理審査会の議事録については,被告が,平成28年2月の神戸新聞
三木支局の公文書公開請求には個人情報部分を除いて開示したのに対し,同
年3月の市議会議員の公文書公開請求には,前記アと同一の理由で全面非開
示の決定をしたことが,異例の事態として新聞報道されていた(同非開示決
定は,後に,前記アの理由が情報公開条例8条3号の除外事由に当たらない
等の理由で,判決で取り消された〔甲8〕。)。原告Aは,同年月12日付
公開質問状をFに送り,Fから,同月14日付で,同委員会としては非公開
決定を承認した事実はなく,追認する予定もない等の回答を得た(甲44,
49,81,82)。
ウ被告企画管理部長は,同年月18日,原告B,原告D及び原告Aに対し,
「情報提供」として,一部を黒塗りにした職員倫理審査会議事録を送付し,
非公開決定通知をFの名で行ったことは誤りであったと謝罪した。原告Aは,
同年6月9日,Eに公開質問状を送り,非公開決定の取消しや公文書公開決
定通知を求め,審査請求について情報公開審査会への諮問状況を尋ねたが,
Eは,同月30日,既に情報提供として議事録を送付したことにより,非公
開決定に対する審査請求の利益はなくなっていると回答した。原告Aは,同
年7月11日付で,被告企画管理部長を有印公文書偽造,同行使罪で神戸地
方検察庁に告発した(甲4,2,4,6)。
⑹本件審査請求及びその後の経緯
ア原告らは,平成28年7月以降署名活動を行い,当時の有権者総数6万
406名の0分の1以上に当たる約1900名の署名を集め,同年11月
18日,被告企画管理部企画調整課の受付カウンターで,同課長に本件各書
類を交付した。このとき,原告らは,Eの市長等倫理条例3条1項1号違反
の疑いがある行為として,)楫鏐報では,本件飲食に民間人が同席するこ
とを当該部長らに伝えていなかったとしながら,その後の新聞記事で本件メ
ールの存在が発覚し,本件広報の内容が虚偽であることが判明したこと,
自らが制定に深く関わった職員倫理条例施行規則に反する行為を部下に促
したこと,職員倫理審査会の開催直前に「想定問答」と称する口裏合わせ
とも取れる指示をメールで行ったことを挙げ,同2号違反の疑いがある行為
として,自らが呼びかけた幹部職員向け慰労会で特定の人物との会見が実現
し,市幹部職員同席の前で会見を中断することなく行ったことを挙げた(甲
8,9,98〜4)。
イ被告は,平成28年11月18日,前記第2の3⑹のとおり,企画管理部
企画調整課長の名で「預り証」を出して本件各書類を「受付しない」扱いと
し,同⑺のとおり,同月日,Eの判断に基づき,企画管理部長の名で本
件返却を行った。また,被告は,「『審査請求の要旨』に対する市の見解」と
題する文書を添付し,。鼎本件メールを知ったのは平成28年1月14日
である,∩枋衞篥については,倫理審査会を円滑に進行するに当たり市長
として当然の指示をしたものであり,副市長に対する結論操作や,当該部長
らに対する発言内容の助言ではない,その他の行為については謝罪済みで
あると回答した。原告Aは,平成29年3月6日,Eに対し,本件返却の法
的性質や,本件返却文書に記載された理由は,誰が,どのような法的根拠に
基づき判断したものかなど,項目について公開質問状を出したが,Eから
回答はなかった(甲66,67)。
⑺市長閉会挨拶
Eは,平成29年月日,市議会閉会挨拶において,本件広報のうち,
当該部長らが民間人の参加を知らされていなかったという部分は虚偽であり,
平成27年12月8日の記者発表資料,同年12月市議会での市長答弁,平成
28年3月4日の記者発表資料等にも虚偽の内容が含まれていることを認め,
改めて謝罪するとともに,この時点で市長の職を辞し,辞職後の選挙に再立候
補する決意を示した。
このとき,Eは,ー分が本件メールの存在を知った時期が平成27年12
月4日であったにもかかわらず,これを平成28年1月14日と偽ったことに
より,当初から民間人の参加を知っていた当該部長らを,職員倫理審査会で虚
偽の陳述をせざるを得ない状況に追い込んだことを認め,∨楫鐃該裟禅瓩癲
本来であれば受付すべきものであったこと,K楫鑛峙冓現颪蓮い海譴泙波鏐
が前提としてきた一連の流れでEが作成し,決済区分により企画管理部長名で
出したことも認めて謝罪した(甲68,乙2,3)。
⑻0条委員会
Eは,平成29年7月2日に実施された三木市長選挙に立候補したが落選し,
同年11月7日,被告市議会で開催された「前三木市長主催の幹部慰労会問題
に関する調査特別委員会」に証人として出席した。Eは,本件各書類を受付し
ないことを最終的に判断したのは前市長自身であると答え,その理由について,
同市長が平成28年3月4日の記者会見において,倫理審査会の開催を待つま
でもなく,自らの行為が市長等倫理条例に違反することを認めているならば,
改めて同審査会を開催してまで審査する必要がないと考えていた旨証言した
(甲94)。
2争点1及び2(国家賠償法1条1項にいう違法な行為)について
⑴国家賠償法1条1項にいう「違法」について
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,
個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を
加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定する
ものである(最高裁判所昭和60年11月21日・民集39巻7号12頁)。
そうすると,国家賠償法1条1項にいう違法性が認められるためには,国民が
公務員の行為により侵害されたと主張する権利利益が,国家賠償法上保護に値
する権利利益であると認められ,当該公務員が,当該個別の国民に対しそのよ
うな権利利益を保護する職務上の法的義務を負うにもかかわらず,これに違背
したものと認められることが必要である。
⑵原告らの権利利益について
アまず,原告らが本件不作為又は本件返却によって侵害されたと主張する権
利利益が,国家賠償法上保護に値する権利利益といえるかについて検討する。
市長等倫理条例は,市長等の倫理の確保に資するため必要な措置を講ずる
ことにより,市政に対する市民の信頼を確保することを目的とする(1条)。
また,同条例2条及び3条によれば,同条例は,原則として,市長等がその
責務を強く自覚し(2条),同条例3号1項各号に定める倫理基準を自ら遵
守することによって,市長等の倫理の保持を図り有権者との信頼関係を確保
する仕組みを取り,同条例3条2項によれば,市長等が倫理基準に違反する
との疑惑を持たれたときも,まずは,市長等が自ら誠実な態度によって市民
に対する説明責任を果たし,適時適切な形で情報を提供して事態を説明する
ことにより,市民の信頼を確保することを予定しているものと解される。
その一方で,市長等倫理条例は,市長等に倫理基準に違反する疑いが認め
られる場合には,有権者の総数の0分の1以上の連署を集めた市民に対し,
市長への審査請求(以下「倫理審査請求」という。)を行う権限を付与してい
る(4条1項)。倫理審査請求がなされたときには,市長は,直ちに審査請求
書及び添付書類を諮問機関である倫理審査会に送付して審査を求めなけれ
ばならないとされており(4条2項),市長の判断で倫理審査会への審査を
求めないことを可能とする明文の規定は存しない。また,倫理審査会は,審
査を求められたときには,直ちに必要な審査を開始し(6条1項),原則とし
て,審査請求の日の翌日から60日以内に審査の結果及びその理由を報告し
た審査報告書を市長に提出しなければならないとされており(8条1項),
倫理審査会の判断で,審査を開始しないことを可能とする明文の規定は存在
しない。
イこのように,市長等倫理審査条例は,市長等の倫理基準違反の解明を,原
則として,市長等の説明責任や適時適切な形の情報提供義務に委ねながらも,
同条例が行使要件として求めた数の連署を集めた市民から倫理審査請求が
された場合には,審査対象者の倫理基準違反行為の有無について,客観的で
公正な諮問機関である倫理審査会の審査がされなければならないと定める
ことによって,住民が行政過程に関与し,行政を監視する機会を設け,もっ
て,市長等の説明責任や情報提供義務を補完し,市長等の倫理の保持という
公益上の目的を図るものと解される。
もっとも,倫理審査会の審査が行われた後,審査請求者には,その代表者
に報告書の内容が通知され,要旨が市民に公表されるのみであり(9条)報
告書において倫理基準に違反している旨の指摘がされたときは,市長が,市
民の信頼を回復するために必要な措置を講じる義務を負うとされている(1
0条)。このように,市長等倫理条例は,市長等の倫理及び市政に対する市民
の信頼の確保という公益が,最終的に市長によって図られる仕組みを取って
おり,かかる制度設計・制度内容に鑑みれば,同条例が,倫理審査請求を行
った市民らの権利利益を直接的な保護の対象としていると解することはで
きない。
ウしかしながら,市長等倫理条例には,倫理審査会に,審査期間の延長及び
その理由を審査請求代表者に通知する義務を負わせた規定(8条3項)や,
報告書が提出されたときに,市長にその内容を審査請求代表者に通知する義
務を負わせた規定(9条)のように,倫理審査請求を行った者に配慮して,
適正な手続を確保する趣旨を定めた規定が存在する。
また,倫理審査請求の行使要件である有権者の総数の0分の1以上の連
署とは,地方自治法上の直接請求の行使要件(条例の制定又は改廃の請求[同
法74条1項]及び監査請求[同法7条])と同じであり,市長等倫理条例
が倫理審査請求に連署を求める意味は,倫理審査請求が,直接請求権とは同
視できないまでも,単なる公益保護を目的とする手続の端緒ではなく,住民
が行政過程に関与し,行政を監視する性格を有することから,住民の中で一
定の賛同を得ていることの証明を求めることにあると解される。
以上のような倫理審査請求の意義や趣旨に鑑みれば,市長等倫理条例が行
使要件として定めた連署を集めて倫理審査請求を行った市民には,当該倫理
審査請求について,市長等倫理条例及び同施行規則に従った適正な手続を受
けられることに対する合理的な期待が生じており,このような合理的期待は,
法律上の権利ないし法的利益として客観的に把握し得るような明確性を有
していることに鑑み,国家賠償法上も保護されるべき権利利益に当たるもの
というべきである。
⑶公務員の個々の国民に対する職務上の法的義務について
アそこで,市長が,審査請求者となった個々の市民に対し,市長等倫理条例
及び同施行規則に従った適正な手続に対する合理的期待を保護する職務上
の法的義務を負っているといえるかについて検討する。
イ倫理審査請求における「受付」の手続的意義
倫理審査請求の手続を定めた市長等倫理条例施行規則3条1項は,市長は,
審査請求書を「受け付けたとき」は,選挙管理委員会に対し,署名簿に署名
した者が有権者であることの確認を求めなければならないと定め,選管から
確認結果の報告を受けた場合には,審査請求書及び審査請求署名簿並びに疎
明資料の写しを審査会に提出し,その審査を求めなければならないと定めて
いる(同条例4条2項,同規則3条3項)。
もっとも,市長は,同施行規則4条1項各号所定の却下事由が存在する場
合には,当該審査請求を却下することができるが(3条3項,4条1項),こ
れらの却下事由(4条1項各号)は,当該倫理審査請求の手続の適法性に関
する事由に限られている。しかも,このうち市長が単独で却下することがで
きるのは,形式的要件の不充足である施行規則4条1項1号,3号及び4号
のみであり,同項2号「倫理基準以外の事項について審査請求したものであ
るとき」については,審査請求の対象の内容に係わることから,審査請求を
却下しようとするときには,あらかじめ審査会の意見を聴かなければならな
いと定められている(4条2項)。
このように,倫理審査請求について,市長には内容的要件審査権限がない
ことに鑑みれば,施行規則2条1項にいう審査請求書の提出は,三木市行政
手続条例(平成9年3月28日条例第1号。以下「行政手続条例」という。
甲1)2条1項7号が定める「届出」(行政庁に対し一定の通知をする行
為であって,条例等により直接に当該通知が義務付けられているもの)の性
質を有すると解するのが相当である。
ウ「届出」の意義
行政手続条例37条は,届出について,「届出が届出書の記載事項に不備
がないこと,届出書に必要な書類が添付されていることその他の条例等に定
められた届出の形式上の要件に適合している場合は,当該届出が条例等によ
り当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに,当該届出
をすべき手続上の義務が履行されたものとする。」と規定する。この場合,届
出は形式上の要件が充足しているならば,到達したときに届出としての効果
をもつことになり,その限りにおいて,行政庁には,受理,すなわち,受付
を留保したり,申請書を返戻したりする権限の観念を入れる余地はないとい
うべきである。
これを倫理審査請求についてみると,市長等倫理条例施行規則2条1項所
定の書類が被告の事務所に到達し,当該書類が客観的に被告の了知し得る状
態に置かれた時点で,同条例4条2項にいう「審査の請求がなされたとき」
及び同施行規則3条1項にいう「審査請求書を受け付けたとき」の要件が満
たされることとなり,この時点で,市長は,同条例4条1項に基づく審査の
請求があったものとして,直ちに審査請求書及び添付書類について形式的審
査を行い,形式的要件に不備がなければ,これらの書類を倫理審査会に送付
して審査を求めなければならず,受付を留保したり,いったん提出された書
類を返戻したりすることは許されないというべきである。
エ市長等倫理条例は,前記⑵ウのとおり,同条例及び同施行条例に従った適
正な手続を受けられることへの合理的な利益を保護するものと解すべきで
ある。したがって,市長は,行使要件として求めた一定数の連署を集めた市
民から,形式的要件を満たした適法な倫理審査請求があった場合には,審査
請求者である個別の市民との関係においても,前記イで詳述した,同条例に
基づく適正な手続を行うべき職務上の法的義務を負うというべきである。
⑷本件へのあてはめ
前記1の認定事実によれば,原告らは,平成28年11月18日,被告の企
画管理部企画調整課の受付カウンターで同課長に本件各書類を交付したもの
であり(同⑹),この時点で,市長等倫理条例4条2項に基づき本件審査請求が
なされたものといえる。したがって,Eは,原告らに対し,直ちに本件各書類
について市長等倫理条例施行規則3条に基づく形式的審査を行い,形式的要件
を満たしている場合には,直ちに本件各書類を倫理審査会に提出して,審査を
請求すべき職務上の法的義務を負っていた。
しかるに,Eは,市長には倫理審査請求について内容的要件審査権限がなく,
審査の必要性を判断する権限もないにもかかわらず,自分が平成28年3月4
日の記者会見で倫理責任を認め,かつ自ら処分を受けたことを公表した以上,
本件審査請求について倫理審査会を開催する必要性はないとの誤った判断に
基づき,本件各書類を受付しないこととし(前記1⑺⑻),上記判断に基づき,
企画管理部企画調整課長をして,同年11月18日に本件各書類が被告事務所
に到達した時点で「受け付けたものではない」との留保をさせ(前提事実⑹),
同月日,企画管理部長をして本件返却を行わせ,その理由として必要性が
ない旨表明させた(前提事実⑺)。これらの行為は,Eの意思に基づく一連の行
為とみるべきである。市長等倫理条例によって職務上負っている義務に違反す
る。原告らの適正な手続に対する合理的な期待を侵害する行為である。同条例
に違反するのみならず,国家賠償法1条1項にいう違法な行為というほかない。
3争点3(故意又は過失)について
上記2のとおり,市長等倫理条例及び行政手続条例の趣旨に鑑みれば,行使要
件である連署を集めた市民から形式上の要件を満たした倫理審査請求があった
場合には,市長がこれを受付しないで書類を返却することが許されないことは明
らかである。しかも,本件審査請求では,市長等倫理条例3条1項1号違反の疑
いがある行為として,Eが平成28年3月4日に倫理責任を認め,自らに対する
減俸処分の対象とした行為(前記1⑷)以外に,同市長が,職員倫理審査請求会
の開催直前に,理事を通じて「想定問答」の作成を指示して口裏合わせをさせ,
当該部長らに虚偽の回答をさせた疑いが指摘されているが(同⑹ア),Eは,新た
な「疑い」についても,自らの見解に基づき審査の必要性がないと判断し(同イ),
正規の行政手続である倫理審査会の審査を回避したことが認められる。
以上の事実を総合すると,Eが本件各書類を受け付けず,本件返却を行った過
程には看過しがたい過誤があり,Eは,その職務を行うについて,故意または過
失によって違法に損害を加えたものというべきである。
4争点4(損害の発生及び損害額)について
⑴前記1の認定事実によれば,原告らは,有志の会として署名活動を行い,市
民約1900名の署名を集めた上で本件審査請求を行ったにもかかわらず,E
の上記違法行為によって,市長等倫理条例及び同施行規則に基づく適正な手続
を受けることへの合理的な期待が裏切られ,精神的苦痛を被ったと認められる。
かかる事情のほか,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,原告らの被った精
神的苦痛に対する慰謝料としては,原告らそれぞれにつき各9万円と認めるの
が相当である。また,本件事案の内容や訴訟経過,上記慰謝料の認容額その他
一切の事情を考慮すると,弁護士費用として1万円を本件と相当因果関係のあ
る損害と認めるのが相当である。
⑵被告は,Eが自らの倫理責任を認めて処分を受け,市長を辞職した以上,原
告らが本件審査請求で求めた利益はすべて達成され,損害はない旨主張する。
しかし,原告らの損害は,適正な手続を受けることへの合理的な期待を裏切
られたことによる精神的苦痛であり,被告の主張する事情は,かかる意味で
の原告の精神的苦痛の有無及び程度を左右する事情とはいえない。
第4結論
以上の次第で,原告らの本件各請求は,いずれも被告に対し,国家賠償法1条
1項に基づき,損害金合計万円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成
29年7月11日から支払済みまで民法所定の年分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度で理由があるから,それぞれその限度で認容し,その余はい
ずれも理由がないからこれらを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官 阿多麻子
裁判官 下山誠
裁判官 牛靈亀?

(別紙)
倫理条例等の定め
⑴市長等倫理条例(甲71)
1条(目的)
この条例は,市政が市民の厳粛な信託によるものであるため,特に重い責務を
果たすべき市長,副市長及び教育長(以下「市長等」という。)には,より高い倫
理の保持が求められることにかんがみ,市長等の倫理の保持に資するため必要な
措置を講ずることにより,市政に対する市民の信頼を確保することを目的とする。
2条(市長等の責務)
市長等は,市民全体の奉仕者として市政に携わるに当たっては,その権限を市
民のために行使すべき責務を負っていることを強く自覚し,その使命の達成に努
めなければならない。
3条(倫理基準の遵守等)
1項市長等は,次に掲げる倫理基準を遵守しなければならない。
1号市民全体の奉仕者として,その品位と名誉を損なうおそれのある行為を
慎み,その権限又は地位のもたらす影響力を私的な目的のために行使しな
いこと。
2号常に市民全体の利益のみを指針として行動するものとし,その権限又は
地位を利用して不当に金品を授受しないこと。
3号市民全体の利益の実現のために全力を尽くさなければならず,特定の者
に対してのみ有利又は不利な取扱いをする等の不当な取扱いをしないこ
と。
2項市長等は,倫理基準に違反する事実があるとの疑惑をもたれたときは,自
ら誠実な態度をもって疑惑の解明に当たるとともに,その責任を明らかにす
るよう努めなければならない。
4条(審査の請求)
1項地方自治法(昭和22年法律第67号)第18条に定める選挙権を有する
者は,市長等が前条第1項の規定に違反する疑いがあると認めるときは,そ
の総数の0分の1以上の連署をもって,その代表者から,これを疑うに足
りる事実を証する書面を添付した審査請求書を提出して,市長に審査を請求
することができる。
2項市長は,前項の規定による審査の請求がなされたときは,直ちに審査請求
書及び添付書類の写しを次条第1項に規定する三木市長等倫理審査会に提
出して,その審査を求めなければならない。
条(市長等倫理審査会の設置等)
1項市長等の倫理の保持に資するため,三木市長等倫理審査会(以下「審査会」
という。)を置く。
2項審査会は,委員人以内で組織し,専門的知識を有する者等のうちから市
長が委嘱する。
(3項ないし6項省略)
7項委員は,自己,その配偶者若しくは3親等以内の親族が関係する事案につ
いては,議事に加わることができない。
(8項省略)
6条(審査会の審査)
1項審査会は,第4条第2項の規定により審査を求められたときは,直ちに必
要な審査を行わなければならない。
(2項省略)。
3項審査会は,第4条第1項の規定による審査の請求をした市民の代表者から
事情を聴取し,資料の提出を求め,又は市民その他関係人を参考人として出
席させ意見を聴くことができる。
(7条省略)
8条(報告書の提出等)
1項審査会は,第4条第2項の規定により審査を求められた日の翌日から起算
して60日以内に,審査の結果及びその理由を記載した審査報告書(以下「報
告書」という。)を作成し,これを市長に提出しなければならない。
2項審査会は,前項の規定にかかわらず,事務処理上の困難その他正当な理由
により,報告書が提出できないと判断したときは,同項の期間を延長するこ
とができる。この場合において,審査会は,当該延長の期間及びその理由を
市長に報告しなければならない。
3項市長は,前項の規定による報告を受けたときは,速やかに当該延長の期間
及びその理由を,当該期間の延長に係る審査の請求をした市民の代表者に通
知しなければならない。
9条(公表)
市長は,前条第1項の規定により報告書の提出を受けたときは,その内容を当
該報告書に係る審査の請求をした市民の代表者に通知するとともに,その要旨を
公表しなければならない。
条(市長の措置)
市長は,報告書において,第3条第1項の規定に違反している旨の指摘がされ
たときは,これを尊重して,市民の信頼を回復するために必要と認められる措置
を講じなければならない。
11条(補則)
この条例の施行に関し必要な事項は,規則で定める。
附則1項(施行期日)
この条例は,平成19年4月1日から施行する。
附則2項(経過措置)
第4条第1項の規定は,この条例の施行の日以後になされた市長等の行為につ
いて適用する。
(附則以下省略)
⑵市長等倫理条例施行規則(甲72)
1条(趣旨)
この規則は,三木市長等倫理条例(平成18年条例第48号。以下「条例」と
いう。)の施行に関し,必要な事項を定めるものとする。
2条(審査請求の手続)
1項条例第4条第1項の規定による審査の請求(以下「審査請求」という。)を
しようとする市民の代表者(以下「審査請求代表者」という。)は,審査請求
に係る署名簿(以下「審査請求署名簿」という。)及び第項に規定する疎明
資料を添え,次に掲げる事項を記載した審査請求書(以下「審査請求書」と
いう。)を市長に提出しなければならない。
1号審査請求代表者の氏名及び住所
2号条例第3条第1項に規定する倫理基準(以下「倫理基準」という。)に違
反する疑いがあると認められる者の氏名
3号違反する疑いがあると認められる倫理基準
4号審査請求の要旨(1,000字以内)
2項審査請求書にあっては審査請求代表者が,審査請求書名簿にあっては審査
請求をしようとする市民が,それぞれ自ら署名し,及び押印しなければなら
ない。
(3項及び4項省略)
項条例第4条第1項に規定する事実を証する書面は,審査請求の要旨を疎明
するに足る書面(以下「疎明資料」という。)とする。
6項審査請求は,審査会(条例第条第1項に規定する三木市長等倫理審査会
をいう。以下同じ。)において審査された事案については,再び行うことがで
きない。
3条(審査請求の受付等)
1項市長は,審査請求書を受け付けたときは,三木市選挙管理委員会(以下「選
挙管理委員会」という。)に対し,当該審査請求名簿に署名した市民が当該審
査請求書が提出された日において,条例第4条第1項に規定する選挙権を有
する者(以下「選挙権を有する者」という。)であることの確認を求めなけれ
ばならない。
2項選挙管理委員会は,前項の規定により確認を求められたときは,直ちにこ
れを行い,その結果を市長に報告しなければならない。
3項市長は,前項の報告を受けたときは,当該審査請求書及び確認した審査請
求署名簿並びに疎明資料の写しを審査会に提出し,その審査を求めなければ
ならない。ただし,次条第1項の規定により却下する場合は,この限りでな
い。
4条(審査請求の却下等)
1項市長は,審査請求が次の各号のいずれかに該当するときは,当該審査請求
を却下することができる。
1号提出された審査請求署名簿に0分の1以上の選挙権を有する者の署
名がないとき。
2号倫理基準以外の事項について審査請求したものであるとき。
3号条例附則第2項に規定する事案以外の事案について審査請求したもの
であるとき。
4号審査請求書の記載事項に不備があるとき,又は審査請求書に疎明資料の
添付がないとき。
2項市長は,前項の場合において,同項第2号に該当することを理由に当該審
査請求を却下しようとするときは,あらかじめ審査会の意見を聴かなければ
ならない。
3項市長は,第1項第4号に該当する場合において,当該不備又は疎明資料の
添付が補正できるものであるときは,期間を定めて,当該審査請求代表者に
その補正を命ずることができる。
4項市長は,第1項の規定により審査請求を却下したときは,直ちに審査請求
却下通知書により当該審査請求代表者に通知しなければならない。
(条以下省略)

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

もくじ

名前で検索


 あ行

 か行

 さ行

 た行

 な行

 は行

 ま行

 や行

 ら行?

 わ行

 

管理人/副管理人のみ編集できます