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松山地裁 給与格差に賠償命令 契約社員へ手当不支給違法

 農業機械メーカー大手「井関農機」(松山市)の子会社2社の契約社員5人が、正社員と手当や賞与に格差があるのは違法だとして計約1450万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、松山地裁(久保井恵子裁判長)は24日、手当を支給しないのは不合理と認め、両社に計約230万円の支払いを命じた。5人は「井関松山製造所」と「井関松山ファクトリー」の30〜50代の契約社員。
 判決で久保井裁判長は、業務内容は正社員と同様と認定。家族手当、住宅手当、精勤手当、年齢に応じて支払われる物価手当の不支給について「職務内容に対応して設定されたと認めることは困難」とし、違法性を指摘した。賞与については、正社員に支給することで「有為な人材の獲得と定着を図ることに一定の合理性が認められる」などと判断、請求を退けた。【中川祐一】
(2018年4月25日 13時48分(最終更新 4月25日 14時00分) 毎日新聞)

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平成27(ワ)224  地位確認等請求事件
主文
1原告らの労働契約上の地位確認請求及び金銭の支払に係る主
位的請求をいずれも棄却する。
2被告は,原告らに対し,それぞれ81万円及びうち36万円
に対する平成27年6月日から,うち4万円に対する平
成29年月26日からそれぞれ支払済みまで年分の割合
による金員を支払え。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを分し,その3を被告の負担とし,そ
の余を原告らの負担とする。
この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1原告らが,被告に対し,被告賃金規程第16条及び第3条ないし第37条
が適用される労働契約上の地位にあることを確認する。
2被告は,原告Aに対し,138万3493円及びこれに対する平成27年6
月日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Aに対し,144万2940円及びこれに対する平成29年1
0月26日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Bに対し,139万7732円及びこれに対する平成27年6
月日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
被告は,原告Bに対し,142万860円及びこれに対する平成29年1
0月26日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告との間で期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」と
いう。)を締結して就労している従業員(以下「有期契約労働者」という。)
である原告らが,被告と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」と
いう。)を締結している従業員(以下「無期契約労働者」という。)との間
に,賞与及び物価手当(以下,これらを合わせて「本件手当等」という。)の
支給に関して不合理な相違が存在すると主張して,被告に対し,‥該不合理
な労働条件の定めは労働契約法条により無効であり,原告らには無期契約
労働者に関する賃金規程の規定が適用されることになるとして,当該賃金規程
の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認を求め(上記第1の
1),∧神年月から平成27年4月までに支給される本件手当等につ
いては,主位的に,同条の効力により原告らに当該賃金規程の規定が適用され
ることを前提とした労働契約に基づく賃金請求として,予備的に,不法行為に
基づく損害賠償請求として,実際に支給された賃金との差額及びこれに対する
訴状送達の日の翌日である平成27年6月日から支払済みまで民法所定の
年分の割合による遅延損害金の支払を求め(上記第1の2及び4),J神
27年月から平成29年月までに支給される本件手当等について,不法
行為に基づく損害賠償請求として,実際に支給された賃金との差額及びこれに
対する不法行為の日の後である平成29年月26日から支払済みまで同割
合による遅延損害金の支払(上記第1の3及び)を求めた事案である。
2前提事実(以下の各事実は,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠等によ
り容易に認定することができる。)
当事者
ア被告
被告は,農業機械,部品の組立,加工及び販売等を事業目的とする株式
会社であり,そのグループ会社で本店所在地を同じくする株式会社井関松
山製造所(以下「松山製造所」という。)の敷地内に工場(以下「本件工
場」という。)を有している。
被告には管理部(3名(平成27年8月1日時点における従業員数を指
す。以下この項において同じ。)),品質保証部(2名),製造部(17
3名)の3つの部署があり(3つの部の従業員の合計は178名),製造
部には,第1サブ組立課(9名),第2サブ組立課(70名),構内物
流課(42名)の3つの課がある。各課の下には「組」という組織単位が
設けられ,各組は組長の名を取って呼称されることがある。第1サブ組立
課には「小型ラインサブ組立」組(D組,23名),「シリンダケース他
サブ組立」組(E組,19名),「乾燥機サブ組立・梱包」組(16名)
があり,第2サブ組立課には,「キャビンサブ組立」組(32名),「大
型ライン(A)サブ組立」組(18名),「大型ライン(C)サブ組立」
組(19名)があり,構内物流課には「工務構内作業」組(42名)があ
る。(乙1)
D(以下「D」という。)は,「小型ラインサブ組立」組(D組)の組
長である(乙)。
イ原告ら
原告らは,それぞれ被告におけるトラクター等の農業機械の製造に係る
ライン業務(以下では,製品ラインを稼働させるために常時発生する作業
を「定常業務」という。)の一端を担っている。原告らの担当するライン
は大規模なものではなく,基本的に,ある1種類の作業に同時に2人が従
事することはなく,各人がそれぞれ異なる業務を割り当てられている。無
期契約労働者と有期契約労働者の間だけでなく,無期契約労働者相互,有
期契約労働者相互でも一人一人業務内容が異なっていることが多い。
ウ原告A(昭和46年生)
原告Aは,平成19年7月16日に契約期間を6か月とする有期契約労
働者として被告に入社し,現在まで有期労働契約を更新しており,現在,
製造部の第1サブ組立課の「小型ラインサブ組立」組(D組)に所属し,
農業用トラクターのフードやフェンダーのサブ組立作業に従事している
(甲22)。
D組の配属者数は,平成29年月時点で,D組長のほか,6名が無
期契約労働者,18名が有期契約労働者又は派遣労働者である。(証人D)
エ原告B(昭和40年生)
原告Bは,平成年8月1日に契約期間を6か月とする有期契約労働
者として被告に入社し,現在まで有期労働契約を更新しており,現在,製
造部の第1サブ組立課の「シリンダケース他サブ組立」組(E組)に所属
し,農業用トラクターの油圧シリンダケースのサブ組立作業に従事してい
る。E組の職場は,「シリンダケース組立」(原告Bが所属している。),
「ミッション部品の小物サブ組立」及び「ミッション内部品マーシャリン
グ」(マーシャリングとは,複数種類の部品を組み立てて1つの製品を作
成する前段階の準備として,その複数種類の部品を1つの製品の組立てに
必要な数ずつ取り分けて,製品単位でまとめておくことをいう。)に分か
れており,同組には,平成28年11月時点で,E組長のほか,3名の無
期契約労働者,名の有期契約労働者及び4名の派遣労働者が配属され
ている。(甲23)
無期契約労働者の労働条件の概要
ア適用される就業規則等
無期契約労働者(就業規則上は「従業員」と定義されているが,以下で
は「無期契約労働者」と読み替えて記載する。)には,「就業規則」(乙
4),「賃金規程」(乙)が適用される。
イ労働時間等
所定労働時間は,3か月単位の変形労働時間制によるものとし,1週間
の労働時間は3か月を平均して40時間を超えないものとする(乙4・
6条⑴ 法始業は午前8時,終業は午後4時0分,休憩は1時間とす
る(乙4・6条⑴◆法6般海療垤臂紂そ蠶蟒業時間以外に早出,残業,
休日出勤をさせることがある(乙4・60条)。
無期契約労働者の定年は,満60歳とする(乙4・26条)。
被告は,業務の都合により無期契約労働者の異動を必要とするときは,
本人の状況等を考慮して公正に異動を行う(乙4・条)。
ウ賃金
基本給,賞与,職能資格手当,職務手当,物価手当,住宅手当,扶養手
当,早出残業手当,休日出勤手当,深夜業手当,通勤手当,精勤手当,鋳
造手当,当直手当及び別居手当がある(乙・3条,37条)。
本件手当等の概要は,次のとおりである。
賞与
a夏季賞与は,前年11月16日より当年月日までを対象とし
て7月末日までに支払い,冬季賞与は,月16日より11月日
までを対象とし12月末日までに支払う。ただし,被告の業績不良の
場合はこの限りでない。賞与の支給は,支給日に在籍する無期契約労
働者に行う。ただし,定年退職者は該当対象期間の在籍日数に応じて
支給する。賞与の査定は,該当期間の業績評価,出勤日数によって行
うが,出勤日数が所定労働日の80%未満の者又は不正行為のあった
者は賞与を支払わないことがある。(乙・3ないし37条)
b賞与の支給額は,次の計算式により算出される慣行となっている。
支給額=(基本給×支給率×出勤率)+一律額+成績加算額+扶
養家族割額+調整額
平成年度の夏季賞与・冬季賞与の平均支給額は,各平均3万
円,平成26年度の夏季賞与及び冬季賞与は各平均37万000円
であり,上記各季における支給率(入社時期に対応する率),成績加
算額(資格と成績に対応する金額),扶養家族割額(扶養家族の人数
に対応する金額)等は,別紙1及び2のとおりである。なお,支給額
に占める割合は,上記各季を平均して「基本給×支給率×出勤率」
が約60%,一律額は約11.7%,成績加算額は約26.3%,扶
養家族割額は約0.3%,調整額は約0.4%であった。
(甲6の1及び2,乙21の1及び2)
物価手当
物価手当は,別紙3・物価手当支給基準の区分により支給する(年齢
変更があった場合,該当月より変更後の区分により支給する。)。ただ
し,井関農機株式会社よりの転籍者には適用しない。(乙・16条)
物価手当が,年齢に応じて増大する生活費を補助する趣旨を含むこと
については,当事者間に争いはない。
有期契約労働者の労働条件の概要
ア適用される就業規則等
有期契約労働者には,「就業規則(臨時社員用)」(乙6)が適用され,
有期契約労働者の賃金のうち,基本給(日給),通勤手当,時間外手当及
び鋳造手当については,無期契約労働者に係る「賃金規程」(乙・1条
2項)も適用される。
イ労働時間等
所定労働時間は,無期契約労働者と同様である(乙6・,8条)。
業務の都合上やむを得ない場合には,無期契約労働者の労働時間を超えな
い範囲内で労働させることができる(乙6・11条2項)。
「就業規則(臨時社員用)」(乙6)には,有期契約労働者の異動に関
する規定がなく,原告Aの労働契約においても勤務場所が松山製造所敷地
内とされている(甲1)。
ウ賃金
有期契約労働者の賃金は,基本給,通勤手当,鋳造手当,塗装手当,所
定労働時間外手当,休日労働手当及び日曜日,特定休日労働手当がある
(乙6・14条,乙・1条2項,11条,26条,27条)。基本給は,
日給又は時間給とし,職務内容,技能,経験,職務遂行能力等を考慮して
個人別に決定する(乙6・14条)。
無期契約労働者に支給される物価手当は,有期契約労働者には一切支
給されない(乙6・14条2項,乙・1条2項参照)。
「就業規則(臨時社員用)」(乙6)上は,賞与は「支給しない。」
(乙6・19条)と定められているが,被告の運用では,有期契約労働
者に対して,業績や評価に基づく一時金として寸志を支給しており,こ
れが賞与と同様の性質を有することについては,当事者間に争いはない。
原告らに対する寸志の支給額は,原告Aにつき,平成年夏季が8
万000円,同年冬季が8万9000円,平成26年夏季が9万0
00円,同年冬季以降が万円であり,原告Bにつき,平成年夏
季が7万8000円,同年冬季が8万円,平成26年夏季が8万00
0円,同年冬季が9万円,平成27年夏季が9万000円,同年冬季
以降が万円である(甲9の1ないし4,甲の1ないし4,甲3
4の1ないし,甲36の1ないし)。
3争点及びこれに対する当事者の主張
労働契約法条違反の成否
(原告ら)
ア労働契約法条違反の有無の判断枠組み等
本件では,就業規則が有期契約労働者と無期契約労働者で各別に定めら
れ,契約期間の定めの有無に基づいて労働条件の相違が生じていることは
明らかである。
労働契約法条の「不合理」の意味は,問題となった処遇に合理的な
理由がない場合と解すべきであり,被告の主張するように,労働条件の相
違が法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものと解釈すること
は,労働契約法条の意義を滅却する。
有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の不合理性判断は,個々の
労働条件ごとにされなければならない。
労働契約法条は,不合理性を判断するに当たり考慮すべき事情とし
て,]働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の
内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲,その他の
事情(以下,ゝ擇哭△鮃腓錣擦董嵜μ各睛禿」といい,,覆い鍬を総
称して「各考慮要素」という。)を掲げているところ,上記,労働者の
就業の実態を表すものとして最も重視されるべきで,その次に上記△考
慮され,上記は中核的な労働契約の内容に関するものではないから,限
定的に解釈されるべきである。
イ職務内容等の相違の有無
原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者(組長を除く。)
との間で職務内容等の相違はない。この相違に関する個別主張は,別紙
4・職務内容等整理表のとおりである。
ウ労働条件に関する相違の不合理性
上記イのとおり,原告らと無期契約労働者との間で職務内容等に相違は
ないから,本件手当等に関する相違は不合理である。本件手当等に関する
個別主張は,別紙・労働条件整理表のとおりである。
(被告)
ア労働契約法条違反の有無の判断枠組み等
労働契約法条の「期間の定めがあることにより」とは,文理どおり,
期間の定めがあることを理由とした労働条件の相違があることを要する趣
旨であると解すべきである。仮に,期間の定めの有無に関連した相違があ
れば足りると解する場合には,期間の定めの有無を直接の理由としない事
情が労働条件の相違に寄与する可能性があるため,その事情は不合理性を
否定する一事情として斟酌されるべきである。
不合理性の具体的な程度としては,法的に否認すべき内容ないし程度で
不公正に低いものであることが必要であって,一般的な観念から単純に不
合理といえる程度では足りないと解すべきである。
常に個々の労働条件を比較対象とすべきではなく,労働条件の相互の関
連性によっては,複数の労働条件を一体として比較し不合理性を判断すべ
き場合もあり得る。
各考慮要素は,相互に性質上の優劣はなく,その他の事情の範囲も広く
解すべきである。
イ職務内容等の相違の有無
原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者との職務内容等に
は大きな相違がある。この相違に関する個別主張は,別紙4・職務内容等
整理表のとおりである。
ウ労働条件に関する相違の合理性
上記イのとおり,原告らと無期契約労働者の間で,職務内容等には大き
な相違があるから,かかる相違等を考慮して,有期契約労働者と無期契約
労働者の間で本件手当等の支給に差をつけることは,被告の経営・人事制
度上の施策として,法的に否認すべき内容ないし程度で不公正とはいえな
い。本件手当等に関する個別主張は,別紙・労働条件整理表のとおりで
ある。
労働契約法条の効力
(原告ら)
労働契約法条には,私法的効力があり,不合理な労働条件の相違は無
効と判断される。そして,そのような明文の規定が存在することから使用者
の故意又は過失の存在が推認され,使用者に不法行為責任を生じさせる。
当該労働条件の相違が無効とされた場合は,労使間の個別的又は集団的な
交渉に委ねては不公正な格差が是正できないから,無期契約労働者の当該労
働条件が有期契約労働者の労働契約の内容になる(補充的効力の肯定)。補
充的効力が認められない場合であっても,不合理な労働条件の相違を確定的
に解消するために,関係する就業規則,労働協約,労働契約等の規定を合理
的に解釈し,可能な限り,有期契約労働者に対して,無期契約労働者の労働
条件を定めた就業規則等の規定を適用すべきである。
(被告)
労働契約法条には「無効とする」との明確な定めがなく,法的安定性
の観点からも,強行法規性はないと解すべきである。
仮に強行法規性が認められる場合であっても,労働契約法12条や労働基
準法13条のような明文の規定がない以上,労働契約法条に補充的効力
はないというべきである。
原告らの損害等の有無及びその額(上記1及び4愀検
(原告ら)
ア労働契約に基づく差額賃金(上記1⊆膂姪請求関係)
平成年月から平成27年4月までに支給される本件手当等につい
て,原告らには労働契約法条の効力により無期契約労働者の賃金規程
の規定が適用され,原告らの年齢,基本給及び勤務状況に照らして,本件
手当等の支給を受ける権利を有している。その支給額は,別紙6及び7の
原告らの請求額計算書1のとおりである。
なお,平成年及び平成26年の夏季及び冬季の賞与は,原告らの平
均基準内賃金に支給率(平成年は1%,平成26年は116.
%)を乗じた額,一律支給額(平成年は4万円,平成26年は4万
000円)及び各季の成績加算額原資の額の合計額から既払金を控除し
て支給額を計算した。
イ不法行為に基づく損害(上記1⇒夙的請求及び4愀検
平成年月から平成27年4月までに支給される本件手当等につ
いて,原告らと無期契約労働者の間の相違は労働契約法条に反する
違法があるところ,その相違が存在せず,原告らにも無期契約労働者と
同様の基準により本件手当等が支給されていたとすれば,別紙6及び7
の原告らの請求額計算書1のとおりの額が支給されていたはずであるか
ら,原告らに同額に相当する損害が生じた。
平成27年月から平成29年月までに支給される本件手当等に
ついても,原告らにも無期契約労働者と同様の基準により本件手当等が
支給されていたとすれば,別紙8及び9の原告らの請求額計算書2のと
おりの額が支給されていたはずであるから,原告らに同額に相当する損
害が生じた。
なお,平成27年夏季から平成29年夏季までの賞与については,支
給基準が不明であるため,成績加算額が少なく支給率が低い平成年
冬季に準拠し,基本給を各年4月の額として,既払金を控除して支給額
を計算した。
(被告)
いずれも争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実,証拠〔甲22,23,27,28,乙,証人D,原告A本人,
原告B本人(ただし,いずれも以下の認定に反する部分を除く。),後掲の書
証〕及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
被告における無期契約労働者の採用・育成等
被告において就労している正社員には,被告において採用された無期契約
労働者及び被告の親会社である井関農機株式会社からの出向者が存在するが,
ライン作業に従事している者は,組長を除いて,被告において採用された無
期契約労働者である。
被告において採用された無期契約労働者は,被告で有期契約労働者として
採用され就労した後,無期契約労働者として採用(被告では「中途採用」と
呼称している。)された者である。中途採用は毎年実施され,応募者にはペ
ーパーテスト及び面接を実施し,毎年1,2名程度が採用されている。組長
は,意欲があって職務遂行能力が高い有期契約労働者に対して中途採用への
応募を勧める等している。
被告は,教育訓練として,無期契約労働者のみに対し,通信教育カリキュ
ラムを用意しており,年1回受講者の応募を募っている。職能資格の昇格時
に,特定のカリキュラムを受講することが義務付けられていることがある。
また,組長に就任した際には監督者教育研修が実施される。
これらの教育訓練は,有期契約労働者に対しては実施されていない。
(乙8,証人D,弁論の全趣旨)
被告における職制
被告には,部長,課長,組長という職制(組長以上の職位)がある。部長
及び課長は管理職層であり,井関農機株式会社からの出向者が就任しており,
被告において採用された無期契約労働者が課長以上の職制に就任した実績は
ない。組長は,現場で部下の指揮をしながら自らも作業に携わっている。
被告においては,無期契約労働者のみが職制に就任することができ,有期
契約労働者が職制に就任することはない。組長に就任するためには工師補の
職能資格が必要である。
「小型ラインサブ組立」組(D組)のD組長及び構内物流課の「工務構内
作業」組の課長兼組長は井関農機株式会社からの出向者であるが,その他8
名の組長(組長代行を含む。)は,被告において中途採用された無期契約労
働者である。平成24年11月に有期契約労働者から無期契約労働者に中途
採用された名のうち2名が同時に組長に就任しているが,他の組長は中途
採用と同時には組長に就任していない。
(証人D,弁論の全趣旨)
業務の内容
ア定常業務
原告A関係
D組は,小型農業用トラクターのサブ組立てを行っているところ,そ
の作業概要は,以下のとおりである。
まず,松山製造所の担当者が塗装済み部品を積載したマーシャリング
台車を被告のサブ組立ラインに投入すると,被告の有期契約労働者がマ
ーシャリング作業をする。サブ組立ラインでは,機種別に設置された作
業台に有期契約労働者と無期契約労働者が入り混じって配置され,各人
が担当する作業台で,マーシャリング台車から塗装済み部品を下ろし,
同部品の組立てをした後,次の台車にサブ組立完成品を積み込む作業を
行っている。サブ組立完成品が積み込まれた台車は松山製造所のメイン
ラインに合流し,同完成品がトラクター本体に組み付けられる。その後,
サブ組立ラインとは離れた場所にあるD組の2か所の作業台で,それぞ
れフードとフェンダーの組立て及び組み付け作業が行われる。
原告Aは,上記の離れた場所にある作業台でフードの組立て及び組み
付け作業を担当しており,作業量(工数)が多いときには,無期契約労
働者であるF又は派遣労働者が補助に入って,原告Aと作業を分担する
ことがある。
また,サブ組立ラインの各作業台のうち,ミスが生じた場合の修正に
時間が掛かるJK,TM及びSFという3つの機種の作業台は,現在,
無期契約労働者が担当しているが,原告Aは,Dが組長に就任する以前
に,TMの作業台を数年間担当したことがあり,現在も有期契約労働者
がJK,TM及びSFの作業台で作業することがある。
(甲22,乙13の1,証人D,原告A本人)
原告B関係
原告Bが所属しているE組の「シリンダケース組立」職場では,無期
契約労働者1名,有期契約労働者8名及び派遣労働者1名が作業をして
いるところ,その作業概要は,以下のとおりである。
まず,松山製造所の担当者がシリンダケース本体を運搬して被告の上
記職場のライン先端に置き,被告の派遣労働者がマーシャリング作業を
行う(必要な部品を集荷し,ハンガーに掛け,シリンダケース本体と共
にラインに投入する。)。次に,有期契約労働者がハンガー掛け部品と
シリンダケースを洗浄機で洗浄するなどした後,無期契約労働者が,シ
リンダケース組み付けの前段階として,生産順序を決定し,それに合わ
せて組み付けをした部品とその他の部品をトレイの上にセットする。そ
の後,有期契約労働者3名が,トレイ上の部品をシリンダケースに組み
付けていき,油圧試験を行って正常動作の確認等をする。そのほか有期
契約労働者2名が付属部品の組み付けや製造所の1組及び2組の各ライ
ン用のバルブ類の組み付け等を行う。
原告Bともう一名の有期契約労働者は,フリーな立場で,他の労働者
に割り当てられている上記組み付け等の作業を,作業の遂行状況や休暇
取得に応じて随時担当しており,原告Bは,さらに油圧試験機のワイヤ
ーやオイルエレメントの交換等も担当している。
マーシャリング作業及びトレイ上の部品の組み付け作業は,無期契約
労働者も以前は担当していたことがある。無期契約労働者が休む際には,
有期契約労働者がその代わりに生産順序の決定も含めて作業をしている。
(甲23,乙13の2,原告B本人)
イ管理業務及び新機種関連業務
定常業務の円滑な遂行を支える管理業務(治具の製作及び調整,作業要
領書及び明細書の維持管理並びに作業計画の策定等)については,組長の
ほか,無期契約労働者が担当しているが,意欲がある有期契約労働者にも
担当させることがある。
新機種関連業務(新機種に関する作業工程の新規策定や作業要領書,明
細書等の作成等により,新機種を導入する際にラインで支障なく流すこと
ができるかどうかを確認する業務)に関しては,組長及び一部の無期契約
労働者が担当する(量産1号機の工程テスト等であるパイロット作業につ
いては,フリーな立場で作業する無期契約労働者は所定労働時間中に,ラ
インに配属された無期契約労働者は所定労働時間外に作業を行う。)。
なお,原告Aは,所定労働時間内に流れ作業の中でパイロット作業を担
当した旨供述するものの(原告A本人),そのような態様での従事をも
って,所定労働時間内に無期契約労働者と同程度にパイロット作業に関与
したものと認めることは困難である。
(乙,証人D,原告A本人)
ウ業務改善提案
被告においては,無期契約労働者に対して,一人当たり月1件の業務改
善提案の提出を推奨している。しかし,平成26年度の参加人員は対象人
員の23%,提案件数は目標件数の33%にとどまっており,業務改善提
案が実際に採用された件数も不明である。有期契約労働者も業務改善提案
を任意に提出でき,提案された実績もある。(乙11)
業務に伴う責任の程度
被告において業務中にミスが発生した場合,リカバリーや修正のための対
応手順を決めるのは,組長又は組長以外の一部の無期契約労働者であるが,
過去にミスの第一次対応を有期契約労働者が行っていたこともある。その他
の無期契約労働者及び有期契約労働者は,第一次対応をした者の指示に従っ
てミスに対応することになる。(乙,証人D,原告B本人)
職務の内容及び配置の変更の範囲
無期契約労働者と有期契約労働者のいずれも,部を越えた異動はなく,課
を越えた異動が行われることはある。有期契約労働者については,課を指定
して配属されていることから,基本的には課を替わることはないが,必要が
ある場合には,本人の同意を取得して課を替えることになる。他方で,無期
契約労働者であっても,本人の同意が得られない場合には,他の異動対象者
を探すことになる。D組に配属された無期契約労働者について,Dが組長に
就任した平成26年1月以降,課を越えた異動の実績はない。
また,被告の従業員は,本件工場内で業務を遂行することが想定されてお
り,勤務地の変更を伴う異動は想定されていない。
(証人D,弁論の全趣旨)
本件手当等の趣旨目的
被告において,本件訴訟係属中に,本件手当等が設定された経緯及び趣旨
等について調査したが,その設定当時の具体的な趣旨目的について記載され
た資料等は発見されなかった(弁論の全趣旨)。

本件手当等の支給に関する相違
有期契約労働者である原告らには,賞与と同様の性質を有する寸志が一季
万円の範囲内で支給され,物価手当は支給されていないところ(上記第
),無期契約労働者には一季平均3万円以上の賞与及び物価手
当が支給されており(),本件手当等の支給に関して,原
告らと無期契約労働者の間で相違がある(以下この相違を「本件相違」とい
う。)。本件相違は,有期契約労働者である原告らと無期契約労働者で適用
される就業規則が異なることによって生じていることは明らかであるから
(上記第2の2),各考慮要素を考慮して不合理であると認め
られる場合には,労働契約法条に違反することになる。
労働契約法条違反の有無に係る判断枠組み
ア労働契約法条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件
の相違について,各考慮要素を考慮して,「不合理と認められるものであ
ってはならない」と規定し,「合理的でなければならない」との文言を用
いていないことに照らせば,同条は,当該労働条件の相違が不合理である
と評価されるかどうかを問題としているというべきであり,そのような相
違を設けることについて,合理的な理由があることまで要求する趣旨では
ないと解される。
イそして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相
違が不合理と認められるか否かの考慮要素として,/μ海瞭睛董き当該
職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,その他の事情を掲げており,
その他の事情として考慮すべきことについて,上記ゝ擇哭△鯲禺┐垢襪
かに特段の制限を設けていないことからすると,労働条件の相違が不合理
であると認められるか否かについては,上記ゝ擇哭△亡慙△垢觸事情を
幅広く総合的に考慮して,個々の労働条件ごとに判断すべきものと解され
る。
これに対し,原告らは,上記ゝ擇哭△了情が上記の事情に比して重
視されるべきであると主張する。しかし,労働契約法条の文言及び厚
生労働省労働基準局長通達「労働契約法の施行について」(平成24年基
発08第2号。以下「本件施行通達」という。甲18)では,上記
ないしの考慮要素の重みづけについては明確に定められていないことに
照らせば,原告らの主張は採用できない。
他方で,被告は,常に個々の労働条件を比較対象とすべきではないと主
張する。しかし,本件施行通達では不合理性について「個々の労働条件ご
とに判断される」としているほか,個々の労働条件ごとに相違の不合理性
を判断する場合においても,当該労働条件と密接に関連する労働条件や賃
金体系全体については上記の「その他の事情」として考慮することがで
きると解されるから,被告の主張は採用できない。
原告らと無期契約労働者の職務内容等の相違等
ア本件において,原告らとの比較対象となる無期契約労働者は,原告らと
同じ製造ラインに配属された無期契約労働者(組長を除く。)であること
に争いはない。以下,各考慮要素を順に検討する。
イ業務の内容の相違
定常業務
原告Aが所属するD組のライン作業は,機種
別に設置された各作業台で,有期契約労働者及び無期契約労働者が入り
混じって作業をしてBが所属
する「シリンダケース組立」職場では,現在は有期契約労働者(及び派
遣労働者)が担当している作業を過去は無期契約労働者が担当していた
ことがあり,無期契約労働者が休んだ際には,有期契約労働者がその代
わりに作業をしている。
したがって,無期契約労働者と有期契約労働者の業務は相互に代替可
能であると認められ,原告らと同一の製造ラインに配属された無期契約
労働者との間で,その定常業務の内容に相違はないと認められる。
これに対し,被告は,無期契約労働者に対し,より責任の重い業務を
割り当てる傾向があり,両者の業務内容には相違があると主張する。
しかし,D組のライン作業のうち,ミスが生じた場合の修正に時間が
掛かるJK,TM及びSFという3つの機種の作業台について,現在も
有期契約労働者が当該作業台で作業をすることがあるほか,原告Aは,
数年間にわたりTMの作業台を担当したことがあるから,現在JK,T
M及びSFの機種の作業台について無期契約労働者が担当していること
をもって,原告らと無期契約労働者で業務内容が相違していると認める
ことはできない。また,E組についても,各人の担当業務の内容等から
みて,無期契約労働者に対してより責任の重い業務が割り当てられてい
ると認めることはできない。したがって,被告の主張は採用できない。
管理業務及び新機種関連業務
管理業務については,無期契約労働者だけでな
く,意欲がある有期契約労働者も担当することがあるから,有期契約労
働者と無期契約労働者の業務内容が相違しているとは認められない。
他方で,新機種関連業務は,定常業務の円滑な遂行を支える点で,被
告において重要な業務であると認められるところ,組長のほか,一部の
無期契約労働者が担当している。したがって,無期契約労働者のうち一
部の者については,原告ら有期契約労働者とは異なる業務を担当してい
る点で,原告らの業務内容とは相違していると認められる。
小括
原告らと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者との間で,そ
労働者のうち
の内容には大きな相違があるとはいえない。
については,無期契約労働
者の実績は乏しく,有期契約労働者もこれを任意に提出でき,その実績
もあることなどから,無期契約労働者と有期契約労働者との間に見るべ
き差異があるとはいえない。
ウ業務に伴う責任の程度に関する相違
リカバリーや修正のため
の対応手順を決めるのは,現在は組長又は組長以外の一部の無期契約労働
者であるが,過去にはミスの第一次対応を有期契約労働者が行っていたこ
ともあるから,現在無期契約労働者のみがミスの第一次対応をしているこ
とをもって,原告らと無期契約労働者で業務に伴う責任の程度が相違して
いると認めることはできない。
これに対し,被告は,有期契約労働者がミスの第一次対応をする場合に
は,無期契約労働者からの監督を及ぼしていたと主張するが,その具体的
な監督内容は証拠上明らかでなく,採用することができない。
また,被告は,無期契約労働者が有期契約労働者よりも優先して時間
外・休日労働を命じられると主張し,D証人も同旨の供述をするが,無期
契約労働者と有期契約労働者の時間外・休日労働時間にどの程度差異が生
じているかは証拠上明らかでないことから,この点は,業務に伴う責任の
程度を左右しないというべきである。
エ職務の内容及び配置の変更の範囲に関する相違
上の
職制に就くことができ,有期契約労働者が職制に就くことはない。そして,
被告において採用される無期契約労働者は,将来,組長に就任し部下を指
揮する立場となる等して被告における重要な役割を担うことが期待されて,
通信教育カリキュラムが用意され,職能資格の昇格時には特定の通信教育
のカリキュラムを受講することが義務付けられるなど,一定の教育訓練と
勤務経験を積みながら育成されるものと認められる。このことは,一部の
無期契約労働者に組長と共に新機種関連業務を担当させていること(上記
通信教
育カリキュラムは実施されておらず,中途採用制度によって有期契約労働
者から無期契約労働者に採用される場合でも,2名の例外を除き,組長に
就任する前に一定期間の無期契約労働者としての勤務経験を経ている。そ
のため,有期契約労働者全体について,将来,職制である組長に就任した
り,組長を補佐する立場になったりする可能性がある者として育成される
べき立場にあるとはいえない。
したがって,原告らと無期契約労働者の間には,職務の内容及び配置の
変更の範囲に関して,人材活用の仕組みに基づく相違があると認められる。
これに対し,原告らは,有期契約労働者も,中途採用により無期契約労
働者となった後に職制に就任することがあるから,組長になり得ると主張
する。しかし,上記1
は,有期契約労働者のうち,意欲があり職務遂行能力が高い人材等を無期
契約労働者に採用しているのであるから,中途採用されていない有期契約
労働者全体と,中途採用者で構成される無期契約労働者に上記のとおり差
異があることは否定できないというべきである。
なお,職制に関係のない部署の異動については,
期契約労働者と有期契約労働者のいずれも,部を越えた異動はなく,課を
越えた異動が行われること,その際には本人の同意を得ていることは同じ
であるから,無期契約労働者と有期契約労働者で異動の有無及び範囲に大
きな相違があるとは認められない。
オその他の事情
被告の無期契約労働者は,基本的に中途採用制度により毎年1,2名程
度が採用されており,無期契約労働者と有期契約労働者の地位はある程度
流動的である。このことは,本件相違の不合理性を判断する際に考慮すべ
き事情といえる。
本件相違の不合理性
上記⑶の原告らと無期契約労働者との職務内容等の相違等を踏まえて,本
件手当等の労働条件ごとにその不合理性を検討する。
ア賞与
一般的に,賞与は,支給対象期間の企業の業績等も考慮した上で,毎月
支給される基本給を補完するものとして支給され,支給対象期間の賃金の
一部を構成するものとして基本給と密接に関連し,賃金の後払としての性
質を有することに加え,従業員が継続勤務したことに対する功労報奨及び
将来の労働に対する勤労奨励といった複合的な性質を有するものと解され
ており,被告における賞与についても,これと同様の性質を有するものと
推認される。そして,これらの性質については,無期契約労働者だけでな
く有期契約労働者にも及び得ることは,原告らの指摘するとおりである。
しかし,前記のとおり,無期契約労働者と有期契約労働者の間の職務の
内容及び配置の変更の範囲に関する相違に関してみたとおり,将来,職制
である組長に就任したり,組長を補佐する立場になったりする可能性があ
る者として育成されるべき立場にある無期契約労働者に対してより高額な
賞与を支給することで,有為な人材の獲得とその定着を図ることにも一定
の合理性が認められること,原告らにも夏季及び冬季に各万円程度の
寸志が支給されていること,被告の無期契約労働者は基本的に中途採用制
度により採用されており,無期契約労働者と有期契約労働者の地位にはあ
る程度流動性があることを総合して勘案すると,一季万円以上の差が
生じている点を考慮しても,賞与における原告らと無期契約労働者の相違
が不合理なものであるとまでは認められない。
これに対し,原告らは,厚労省ガイドライン案(甲24の2)に照らし
て被告の賞与における相違は不合理であると主張する。
しかし,労働契約法条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の
労働条件の相違が不合理なものであることを禁止した規定であり,同一労
働同一賃金の原則を定めたものと解することはできない。そして,厚労省
ガイドライン案の前文には,同案をもとに,法改正の立案作業を進めるこ
とが予定され,今後,関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏ま
えて,同案を最終的に確定すると記載されていることに鑑みると,労働契
約法条の不合理性判断に際して,少なくとも現時点の同案を参酌する
必要があるとはいえず,原告の主張は採用できない。
イ物価手当
物価手当が年齢に応じて増大する生活費を補助する趣旨を含むことにつ
いては,当事者間に争いはなく,被告では労働者の職務内容等とは無関係
に,労働者の年齢に応じて支給されている()。
このような被告における物価手当の支給条件からすれば,同手当が無期
契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認めることは困難で
あり,年齢上昇に応じた生活費の増大は有期契約労働者であっても無期契
約労働者であっても変わりはないから,有期契約労働者に物価手当を一切
支給しないことは不合理である。
これに対して,被告は,物価手当は,その歴史的背景として,家族手当
と同様に年功序列型賃金の一内容として定着したと主張する。
しかし,上記主張を裏付ける的確な証拠はない上,物価手当の支給額は,
勤続年数にかかわらず年齢に応じて増額することに加え,被告では新規採
用により無期契約労働者が採用されることは基本的になく,中途採用が一
般的であって,無期契約労働者として採用される年齢も一律とは認められ
ない。このような物価手当の支給条件及び採用実態を踏まえれば,同手当
を年功序列型の賃金と認めることは困難である。
また,被告は,平成23年時点で,無期契約労働者に家族手当等を支給
する企業の割合と比べて,有期契約労働者に家族手当等を支給する企業の
割合は極めて低いと主張し,これに沿う証拠として実態調査報告書(乙1
0,の2)を挙げるほか,雇用システムの相違それ自体及び各考慮要
素における相違を理由として,より手厚い生活補助を無期契約労働者に対
し講じることは不合理ではないと主張する。
しかし,実態調査報告書に被告における物価手当と同種の手当の支給実
態が示されているのかは直ちに明らかではない。加えて,有期契約労働者
について雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行わ
れにくいことや,処遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえて,
有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確化し,期間の
定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するものとしたという労働
契約法条の制定経緯(本件施行通達参照)に鑑みれば,平成23年当
時の企業実態の大勢を重視することは相当とはいえない。また,被告にお
ける物価手当の支給条件が,職務内容等の相違に基因するものとはいえな
いことは上述のとおりである上,上記法の制定経緯に照らし,雇用システ
ムの相違自体や中途採用制度の存在を含む各考慮要素における相違をもっ
て,その支給対象を無期契約労働者に限定することの不合理性が否定され
るとも解されない。したがって,被告の主張は採用できない。
ウ以上のとおり,本件手当等のうち,物価手当については労働契約法
条に違反するが,賞与については同条に違反しない。

労働契約法条が「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁
止」との見出しの下に「不合理と認められるものであってはならない」と規
定していることから,同条に違反する労働条件の定めは無効というべきであ
り,同条に違反する取扱いは,民法709条の不法行為が成立する場合があ
り得るものと解される。
そして,労働契約法は,同法条に違反した場合の効果として,同法1
2条や労働基準法13条に相当する補充的効力を定めた明文の規定を設けて
おらず,労働契約法条により無効と判断された有期契約労働者の労働条
件をどのように補充するかについては,無期契約労働者と有期契約労働者の
相違を前提とした人事制度全体との整合性を考慮した上,労使間の個別的又
は集団的な交渉に委ねられるべきものであって,裁判所が,明文の規定がな
いにもかかわらず労働条件を補充することは,できる限り控えるべきものと
考えられる。
この点,労働契約法の改正の際の国会審議において,政府参考人から,労
働契約法条により「不合理であり無効とされた労働条件がどうなるかに
ついては,基本的には,無期契約労働者と同じ労働条件が認められるものと
考えます。」(平成24年7月日第180回国会衆議院厚生労働委員会
議録第号(甲17・24頁,頁))とする説明がされ,本件施行通
達においても「無効とされた労働条件については,基本的には,無期契約労
働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること」とされている。
しかし,いずれにおいても「基本的には」という留保が付されていること
から,常に補充的効力を肯定する趣旨とは解されない。そして,例えば,就
業規則が全従業員に適用され,その一部条項のみ有期契約労働者の適用を除
外する定めが置かれているような場合には,当該定めを無効とすることによ
り,結果として有期契約労働者についても無期契約労働者と同様に当該就業
規則が適用されることになるが,そのように就業規則等の規定を合理的に解
釈することができない場合には,前記のとおり,不法行為による損害賠償責
任が生じ得るにとどまるものと解するほかないというべきである。
本件では,無期契約労働者の就業規則には,有期契約労働者については別
に定める規定を適用すると規定し(乙4・2条),有期契約労働者の就業規
則には,無期契約労働者の就業規則(乙4)2条に基づき,有期契約労働者
の労働条件等を定めると規定している(乙6・1条1項)。そして,無期契
約労働者の賃金規程においては,同賃金規程では無期契約労働者に適用すべ
き賃金に関する事項を定めると規定する一方,有期契約労働者には賃金規程
のうち基本給(日給),通勤手当及び時間外手当のみ適用し,鋳造作業従事
者には鋳造手当も支給するとしている(乙・1条,乙4・3条,9条)。
また,諸手当について,有期契約労働者の就業規則では,通勤手当,鋳造手
当,塗装手当及び時間外手当は支給するが,その他は支給しないと規定して
いる(乙6・14条2項)。また,原告Aの労働条件通知書(甲1)をみて
も,無期契約労働者の就業規則(乙4)及び賃金規程(乙)が適用される
ことを前提とする約定は見当たらない。
以上のとおり,有期契約労働者に支給する手当は賃金規程において限定し
て列挙されており,関係する就業規則等の規定を合理的に解釈しても,有期
契約労働者に対して,無期契約労働者の賃金規程(乙)の物価手当を定め
た規定を適用することはできない。
そうすると,原告らの被告に対する,無期契約労働者に関する賃金規程の
規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認を求める請求(上記第
2の1,寮禅瓠傍擇喨神年月から平成27年4月までに支給される
本件手当等について,原告らに当該賃金規程の規定が適用されることを前提
とした労働契約に基づく賃金請求(上記第2の1△亮膂姪請求)には理由
がない。
⑷他方で,原告らは物価手当の支給要件に該当することから,原告らに対す
る物価手当の不支給は,原告らに対する不法行為を構成する。
4等の有無及びその額)について
原告らには,物価手当が無期契約労働者と同様の条件で支給された場合に
おける支給額に相当する損害が生じたと認めるのが相当である。
なお,被告においては,無期契約労働者の基本給の金額との対応を考慮し
て物価手当の金額が設定された可能性は否定できず,仮にそうであった場合
に,有期契約労働者の基本給の金額が無期契約労働者のそれよりも相当低額
であるときには,無期契約労働者に対して支給される物価手当の金額と同額
を原告らの損害とすることに疑義がないわけではない。
しかし,前記認定のとおり,物価手当が設定された当時の趣旨目的は明ら
かでないことに加え,被告における無期契約労働者と有期契約労働者の基本
給の金額の差異等は証拠上明らかでないことからすると,上記支給相当額を
もって損害と認定するほかない。
そして,原告らは,平成年月時点で共に40歳を超えており,別紙
3のとおり,40歳以上の者に対する物価手当の支給額は,原告らが損害と
して請求し主張する1か月当たり1万000円を下回らないから,平成2
年月から平成27年4月までの間の原告らの損害額(上記第2の1△
予備的請求)は各36万円(=1万000円×24か月)であり,同年
月から平成29年月までの間の原告らの損害額(上記第2の1の請
求)は各4万円(=1万000円×30か月)と認められる。
結論
以上の次第で,原告らの請求のうち,
原告らの被告に対する,地位確認請求(上記第2の1,寮禅瓠傍擇喨神
年月から平成27年4月までの間に支給される本件手当等についての
主位的請求である労働契約に基づく賃金請求(上記第2の1△亮膂姪請求)
は,いずれも理由がないから棄却し,
同期間に支給される本件手当等についての予備的請求である不法行為に基
づく損害賠償請求(上記第2の1⇒夙的請求)は,原告らにつき,それぞ
れ,被告に対し36万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成27
年6月日から支払済みまで民法所定の年分の割合による遅延損害金の
支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の予備的請求は理由がな
いから棄却し,
平成27年月から平成29年月までに支給される本件手当等につい
ての不法行為に基づく損害賠償請求(上記第2の1の請求)は,原告らに
つき,それぞれ,被告に対し4万円及び不法行為の日の後である平成29
年月26日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める限
度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,
主文のとおり判決する。
松山地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 久保井恵子
裁判官 百麥
裁判官酒本雄一は,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 久保井恵子

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平成27(ワ)225  地位確認等請求事件
主文
1原告らの労働契約上の地位確認請求及び金銭の支払に係る主
位的請求をいずれも棄却する。
2被告は,原告Aに対し,39万3060円及びうち17万2
040円に対する平成27年6月日から,うち22万
円に対する平成29年月26日からそれぞれ支払済み
まで年分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Bに対し,19万730円及びうち12万6
960円に対する平成27年6月日から,うち7万07
0円に対する平成29年月26日からそれぞれ支払済みま
で年分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Cに対し,11万0380円及びうち万3
30円に対する平成27年6月日から,うち万00
円に対する平成29年月26日からそれぞれ支払済みまで
年分の割合による金員を支払え。
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,これを分し,その1を被告の負担とし,そ
の余を原告らの負担とする。
7この判決は,第2項ないし第4項に限り,仮に執行すること
ができる。
事実及び理由
第1請求
1原告らが,被告に対し,被告正社員用就業規則及び賃金規程上の賞与,家族
手当,住宅手当及び精勤手当の支給を受ける権利を有する労働契約上の地位に
あることを確認する。
2被告は,原告Aに対し,139万81円及びこれに対する平成27年6
月日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Aに対し,2万1740円及びこれに対する平成29年1
0月26日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告Bに対し,147万401円及びこれに対する平成27年6
月日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
被告は,原告Bに対し,168万399円及びこれに対する平成29年1
0月26日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
6被告は,原告Cに対し,1万4709円及びこれに対する平成27年6
月日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
7被告は,原告Cに対し,6万174円及びこれに対する平成29年1
0月26日から支払済みまで年分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告との間で期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」と
いう。)を締結して就労している従業員(以下「有期契約労働者」という。)
である原告らが,被告と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」と
いう。)を締結している従業員(以下「無期契約労働者」という。)との間
に,賞与,家族手当,住宅手当及び精勤手当(以下,これらを合わせて「本件
手当等」という。)の支給に関して不合理な相違が存在すると主張して,被告
に対し,‥該不合理な労働条件の定めは労働契約法条により無効であ
り,原告らには無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用されることに
なるとして,当該就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位に在ること
の確認を求め(上記第1の1),∧神年月から平成27年4月までに
支給される本件手当等については,主位的に,同条の効力により原告らに当該
就業規則等の規定が適用されることを前提とした労働契約に基づく賃金請求と
して,予備的に,不法行為に基づく損害賠償請求として,実際に支給された賃
金との差額及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成27年6月日
から支払済みまで民法所定の年分の割合による遅延損害金の支払を求め(上
記第1の2,4,6),J神27年月から平成29年月までに支給さ
れる本件手当等について,不法行為に基づく損害賠償請求として,実際に支給
された賃金との差額及びこれに対する不法行為の日の後である平成29年
月26日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払(上記第1の3,
,7)を求めた事案である。
2前提事実(以下の各事実は,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠等によ
り容易に認定することができる。)
当事者
ア被告
被告は,農業用機械器具の製造及び販売等を事業目的とする株式会社で
あり,本社敷地内に工場(以下「本件工場」という。)を有している。被
告には総務部(23名(平成27年6月1日時点における従業員数を指す。
以下この項において同じ。)),業務企画部(22名),製造部(360
名),生産技術部(98名),品質保証部(29名),工務部(名)
の6つの部署があり(6つの部の従業員の合計は2名),そのうち製
造部は,鋳造課(37名),機械課(42名),歯車課(36名),調質
課(33名),エンジン製作課(40名),第一組立課(41名),第二
組立課(40名),塗装課(39名),第三組立課(46名)の9つの課
がある。各課の下には「組」という組織単位が設けられている。各組は,
組長の名を取って呼称される。(乙1)
イ原告ら
原告らは,それぞれ被告におけるトラクター等の農業機械の製造に係る
ライン業務(以下では,製品ラインを稼働させるために常時発生する作業
を「定常業務」という。)の一端を担っている。原告らの担当するライン
は大規模なものではなく,基本的に,ある1種類の作業に同時に2人が従
事することはなく,各人がそれぞれ異なる業務を割り当てられている。無
期契約労働者と有期契約労働者の間だけでなく,無期契約労働者相互,有
期契約労働者相互でも一人一人業務内容が異なっていることが多い。
ウ原告A(昭和43年生)
原告Aは,平成19年7月16日に契約期間を6か月とする有期契約労
働者として被告に入社し,現在まで有期労働契約を更新し,平成26年7
月以降,製造部エンジン製作課の02組(平成27年4月以降はE組と呼
ばれている。)に所属している。
02組(E組)は,エンジンの部品を加工するグループであり,B系ヘ
ッドライン,B系ブロックライン,C系ヘッドライン,C系ブロックライ
ン(B系,C系とはエンジンの種類である。)及びギアケースラインの
つのラインがあり,その配属者数は,平成28年11月時点で18名であ
り,うち12名が無期契約労働者,残る6名が有期契約労働者である。
原告Aは,B系ヘッドライン,B系ブロックライン,C系ヘッドライン,
ギアケースラインでの作業に従事している。
(甲26)
エ原告B(昭和7年生)
原告Bは,平成19年7月16日に契約期間を6か月とする有期契約労
働者として被告に入社し,現在まで有期労働契約を更新している。平成2
0年8月以降,本件工場においてシリンダーヘッド組立ての業務に従事し,
平成26年8月以降,製造部エンジン製作課の03組(F組)に所属して
いる。
03組(F組)は,加工された部品を用いてエンジンを組み立てるグル
ープであり,シリンダーヘッドを組み立てるサブ組立ライン,エンジンブ
ロックを組み立てる親メタルライン,シリンダーヘッドとエンジンブロッ
クの組付け等を行う外装ラインの3つのラインがあり,その配属者数は,
平成28年11月時点で22名であり,うち16名が無期契約労働者,残
る6名が有期契約労働者である。
原告Bは,サブ組立ラインでの作業に従事している。なお,原告Bは,
派遣労働者であった時に,平成17年1月14日から平成18年4月末ま
で,エンジンブロックの組立作業を行う親メタルラインに配置されていた。
(甲27)
オ原告C(昭和4年生)
原告Cは,平成19年7月16日に契約期間を6か月とする有期契約労
働者として被告に入社し,現在まで有期労働契約を更新している。原告C
は,派遣労働者であった平成18年月以降,本件工場においてギアケ
ース加工の業務に従事し,平成26年8月以降,製造部エンジン製作課の
02組(E組)に所属し,ギアケースラインでの作業に無期契約労働者も
含む三交替制で従事している。(甲28)
無期契約労働者の労働条件の概要
ア適用される就業規則等
無期契約労働者(就業規則上は「従業員」と定義されているが,以下で
は「無期契約労働者」と読み替えて記載する。)には,「就業規則」(乙
),「賃金規程」(乙6),「賞与支給規程」(乙の1),「賞与
支給基準」(乙の2)が適用される(厳密には,事務系統,技術系統,
技能系統又は特務系統で1級ないし8級の資格(1級から8級の順に昇級
する。)を取得した者に適用される(乙・3条)。)。
イ労働時間等
所定労働時間は,3か月単位の変形労働時間制によるものとし,3か月
間の実働時間を平均して1週間当たりの実働時間が40時間を超えないよ
うにする(乙・43条)。労働日の所定就業時間は1日につき原則とし
て8時間0分とする(実働時間は7時間0分,休憩は1時間であり,
始業は午前8時,終業は午後4時0分である。乙・44条)。業務上
の都合により交替作業をさせることがあり,その際の就業時間,休憩時間
及び交替日の取扱いについてはその都度定める(乙・4条)。業務上
の都合によりやむを得ない場合,被告は労働者の過半数を代表する者と予
め協定し,所定就業時間外に早出,残業,休日出勤をさせることがある
(乙・0条)。
無期契約労働者の定年は,満60歳到達日以降最初に到来する月末日
又は11月末日である(乙・19条1項)。
被告は,業務の都合上,無期契約労働者の異動を必要とするときは,本
人の健康,技能,勤務状況等を考慮して公正に行う(乙・条)。
ウ賃金
基本給,賞与,管理職手当,職能資格手当,職制手当,家族手当,住宅
手当,早出残業手当,休日出勤手当,特定休日出勤手当,深夜業手当,精
勤手当,交替勤務手当,現場手当,技術資格手当,マイスター手当,鋳造
手当,塗装手当,守衛手当,通勤手当,その他の手当及び休業手当がある
(乙6・3条,乙21)。
本件手当等の概要は,次のとおりである。
賞与
賞与の支給対象者,支給対象期間等は,別紙1の1「賞与支給規程」
(乙の1)のとおりであり,また,賞与額の算定基準は,別紙1の
2「賞与支給基準」(乙の2)のとおりである。
被告の業績に応じて,被告が決定する無期契約労働者の平均賞与額
(賞与原資,乙の2・2条)は,平成年夏季が36万3649
円,平成年冬季が平均3万9037円,平成26年夏季が38万
9213円,平成26年冬季が38万8240円であった(乙26の1
ないし4)。
家族手当
無期契約労働者に対しては,家族手当として,扶養家族の続柄に応じ
手当が支給される(乙6・14条,補則3)。その支給額は,平成26
年4月1日施行の現賃金規程(乙6)の下では,配偶者1万円,配偶者
でない扶養家族1人目6000円,2人目3000円,3人目以降
00円であり,平成26年4月改正前の賃金規程(乙24)の下では,
配偶者1万円,その他の扶養家族は一律00円であった。
この家族手当が配偶者ないし扶養家族の有無・人数に応じて支払われ
る生活手当の一種であり,生活補助的な性質を有していることについて
は,当事者間に争いがない。
住宅手当
無期契約労働者に対しては,扶養者の有無及び住宅の別に応じて住宅
手当が支給される(乙6・条,補則4)。具体的には,有扶養者か
つ民営借家居住者には1万円,有扶養者かつ公営住宅居住者ないし持家
居住者には7000円,無扶養者かつ民営借家居住者には000円,
無扶養者かつ公営住宅居住者ないし持家居住者には300円が支給さ
れる。
有扶養者とは,‘販の生計を営む主たる生計者であること,扶養
家族を有する者又は共稼ぎの世帯主であること,I淪棆搬暇瑤篭Σ圓
の配偶者と同居していること,づ人が賃貸契約の当事者であり,賃借
料の支払事実が明確であること(ただし,持家居住者の場合は除く。)
の各要件を満たすことを要する。無扶養者とは,ーら住居を設営し,
独立の生計を営む単身者であること(ただし,独身寮及び親元居住者は
除く。),賃貸契約の場合は有扶養者のい両魴錣鯔たすことを要す
る(乙6・条2項)。
民営借家とは,‥圈て察ど棔じ,市,町,村等公共団体において管
理されている公営住宅,⊇斬雜団の管理する公団住宅,その他財団
法人住宅協会等の管理する住宅,つ村變舛琉貮瑤魘眩以外の条件にて
賃借契約を結んでいる場合,タ涜押ぐ族等の住宅に同居し賃借関係の
ない場合,持家又はこれに準ずるものを除くものとする(乙6・
条3項)。
精勤手当
月給日給者で,かつ,当該月皆勤者に限り精勤手当を支給する。その
支給額は,月額基本給に1/68.11を乗じた金額(円未満は切
上げ)とする(乙6・17条)。
有期契約労働者の労働条件の概要
ア適用される就業規則等
有期契約労働者には,「有期契約社員就業規則」(乙7)が適用される。
イ労働時間等
所定労働時間は,6か月単位の変形労働時間制によるものとする(乙
7・条)。労働日の所定就業時間は無期契約労働者と同様であり(乙
7・11条),業務上の都合により交替作業をさせることがある点も同様
である(乙7・12条)。業務の都合上,やむを得ない場合には所定就業
時間を超えて時間外・休日労働をさせることがある(乙7・16条2項)。
原告A及び原告Bの労働日の所定就業時間は,1日につき8時間0分
(実働時間は7時間0分,休憩は1時間,始業は午前8時,終業は午後
4時0分)であり,原告Cの勤務時間は3交替勤務体系(1勤:午前6
時から午後2時分まで,2勤:午後1時分から午後9時40分ま
で,3勤:午後9時40分から午前6時まで)による(甲1ないし3)。
被告は,業務の都合により,有期契約労働者の勤務場所,職種を変更す
ることがある。人事異動を命ぜられた者は,正当な理由なくこれを拒むこ
とはできない。(乙7・7条)
ウ賃金
有期契約労働者の賃金は,基本給,早出残業手当,休日出勤手当,深夜
業手当,交替勤務手当,鋳造手当,塗装手当及び通勤手当がある(乙7・
23条)。基本給は,時間給(又は日給,月給)とし,職務内容,技能,
経験,職務遂行能力等を考慮して各人別に決定する(乙7・23条1号)。
原告A及び原告Cの基本給は時給00円で,原告Bの基本給は時給1
040円である(甲1ないし3)。
無期契約労働者に支給される家族手当,住宅手当及び精勤手当は,有
期契約労働者には一切支給されない(乙7・23条参照)。
有期契約労働者には,賞与は支給しないが,本人の成績,会社の経営
状態及び経済状勢を勘案し,寸志を支給することがある(乙7・28
条)。原告らには,毎年7月及び12月の2回にそれぞれ一律万円の
寸志が支給されている。
この寸志が賞与と同様の性質を有することについては,当事者間に争
いはない。
3争点及びこれに対する当事者の主張
労働契約法条違反の成否
(原告ら)
ア労働契約法条違反の有無の判断枠組み等
本件では,就業規則が有期契約労働者と無期契約労働者で各別に定めら
れ,契約期間の定めの有無に基づいて労働条件の相違が生じていることは
明らかである。
労働契約法条の「不合理」の意味は,問題となった処遇に合理的な
理由がない場合と解すべきであり,被告の主張するように,労働条件の相
違が法的に否認すべき内容ないし程度で不公正に低いものと解釈すること
は,労働契約法条の意義を滅却する。
有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の不合理性判断は,個々の
労働条件ごとにされなければならない。
労働契約法条は,不合理性を判断するに当たり考慮すべき事情とし
て,]働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の
内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲,その他の
事情(以下,ゝ擇哭△鮃腓錣擦董嵜μ各睛禿」といい,,覆い鍬を総
称して「各考慮要素」という。)を掲げているところ,上記,労働者の
就業の実態を表すものとして最も重視されるべきで,その次に上記△考
慮され,上記は中核的な労働契約の内容に関するものではないから,限
定的に解釈されるべきである。
イ職務内容等の相違の有無
原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者(組長を除く。)
との間で職務内容等の相違はない。この相違に関する個別主張は,別紙
2・職務内容等整理表のとおりである。
ウ労働条件に関する相違の不合理性
上記イのとおり,原告らと無期契約労働者の間で職務内容等に相違はな
いから,本件手当等に関する相違は不合理である。本件手当等に関する個
別主張は,別紙3・労働条件整理表のとおりである。
(被告)
ア労働契約法条違反の有無の判断枠組み等
労働契約法条の「期間の定めがあることにより」とは,文理どおり,
期間の定めがあることを理由とした労働条件の相違があることを要する趣
旨であると解すべきである。仮に,期間の定めの有無に関連した相違があ
れば足りると解する場合には,期間の定めの有無を直接の理由としない事
情が労働条件の相違に寄与する可能性があるため,その事情は不合理性を
否定する一事情として斟酌されるべきである。
不合理性の具体的な程度としては,法的に否認すべき内容ないし程度で
不公正に低いものであることが必要であって,一般的な観念から単純に不
合理といえる程度では足りないと解すべきである。
常に個々の労働条件を比較対象とすべきではなく,労働条件の相互の関
連性によっては,複数の労働条件を一体として比較し不合理性を判断すべ
き場合もあり得る。
各考慮要素は,相互に性質上の優劣はなく,その他の事情の範囲も広く
解すべきである。
イ職務内容等の相違の有無
原告らと同じ製造ラインに配属された無期契約労働者との職務内容等に
は大きな相違がある。職務内容等の相違に関する個別主張は,別紙2・職
務内容等整理表のとおりである。
ウ労働条件に関する相違の合理性
上記イのとおり,原告らと無期契約労働者の間で,職務内容等には大き
な相違があるから,かかる相違等を考慮して,有期契約労働者と無期契約
労働者の間で本件手当等の支給に差をつけることは,被告の経営・人事制
度上の施策として,法的に否認すべき内容ないし程度で不公正とはいえな
い。本件手当等に関する個別主張は,別紙3・労働条件整理表のとおりで
ある。
労働契約法条の効力
(原告ら)
労働契約法条には私法的効力があり,不合理な労働条件の相違は無効
と判断される。そして,そのような明文の規定が存在することから使用者の
故意又は過失の存在が推認され,使用者に不法行為責任を生じさせる。
当該労働条件の相違が無効とされた場合は,労使間の個別的又は集団的な
交渉に委ねては不公正な格差が是正できないから,無期契約労働者の当該労
働条件が有期契約労働者の労働契約の内容になる(補充的効力の肯定)。補
充的効力が認められない場合であっても,関係する就業規則,労働協約,労
働契約等の規定を合理的に解釈し,可能な限り,有期契約労働者に対して,
無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則等の規定を適用すべきである。
(被告)
労働契約法条には「無効とする」との明確な定めがなく,法的安定性
の観点からも,強行法規性はないと解すべきである。
仮に強行法規性が認められる場合であっても,労働契約法12条や労働基
準法13条のような明文の規定がない以上,労働契約法条に補充的効力
はないというべきである。
原告らの損害等の有無及びその額(上記1及び4愀検
(原告ら)
ア労働契約に基づく差額賃金(上記1⊆膂姪請求関係)
平成年月から平成27年4月までに支給される本件手当等につい
て,原告らには労働契約法条の効力により無期契約労働者の就業規則
等の規定が適用され,原告らの勤務状況,扶養家族の有無及び住宅の別に
照らして,本件手当等の支給を受ける権利を有している。その支給額は,
別紙4ないし別紙6の原告らの請求額計算書1のとおりである。
なお,平成年及び平成26年の夏季及び冬季の賞与は,給与比例配
分額について原告らの支給前月の基本給(原告Bについては,平成年
冬季は支給前々月の基本給に基づき計算し,平成26年冬季を除き家族手
当6000円を加算した。)に各季の支給率(高勤続者)を乗じた額を算
出し,成績配分額について各季の成績加算額原資の額に依拠し,その合計
額から既払金を控除した。
イ不法行為に基づく損害(上記1⇒夙的請求及び4愀検
平成年月から平成27年4月までに支給される本件手当等につ
いて,原告らと無期契約労働者の間の相違は労働契約法条に反する
違法があるところ,その相違が存在せず,原告らにも無期契約労働者と
同様の基準により本件手当等が支給されていたとすれば,別紙4ないし
別紙6の原告らの請求額計算書1のとおりの額が支給されていたはずで
あるから,原告らに同額に相当する損害が生じた。
平成27年月から平成29年月までに支給される本件手当等に
ついても,原告らにも無期契約労働者と同様の基準により本件手当等が
支給されていたとすれば,別紙7ないし別紙9の原告らの請求額計算書
2のとおりの額が支給されていたはずであるから,原告らに同額に相当
する損害が生じた。
なお,平成27年夏季から平成29年夏季までの賞与については,平
均賞与額が不明であるため,成績加算額が少なく支給率(高勤続者)が
低い平成年冬季に準拠し,給与比例配分額及び成績加算額原資を計
算し,既払金を控除した。その際,原告B及び原告Cについては,賞与
の支給前月の給与額が不明な部分があるため,直前で判明する基本給を
基準とした。
(被告)
いずれも争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実,証拠〔甲26ないし28,31ないし33,乙23,証人G,原
告A本人,原告B本人,原告C本人(ただし,いずれも以下の認定に反する部
分を除く。),後掲の書証〕及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
被告における無期契約労働者の採用・育成等
被告において就労している正社員には,被告が採用した無期契約労働者,
被告の親会社である井関農機株式会社からの出向者及びグループ会社である
株式会社井関邦栄製造所からの出向者が存在する。
被告において採用された無期契約労働者には,高卒後に新規採用された者
(以下「新規採用者」という。)と,被告において有期契約労働者としての
採用及び就労を経た後,無期契約労働者として採用(被告では「中途採用」
と呼称している。)された者(以下「中途採用者」という。)が存在する。
新規採用者は毎年名ないし6名が採用されている一方,中途採用もほぼ毎
年実施されており,採用人数は1名の年もあれば,名ないし6名の年もあ
る。新規採用者については,勤務経験を積ませながら,現場で作業をする方
が適しているのか,それとも部下を管理する方が適しているかなどを吟味し
て,その適性を見極める。中途採用制度の応募者については,直属の上司で
ある組長等の推薦を踏まえ,履歴書,ストレス適正チェック,小論文,面接
等を実施した上,次期リーダーとして育成し,将来的に組長への登用が期待
される人材や組長を補佐し得る能力等を有する人材等を採用している。
被告において採用された無期契約労働者に対しては,教育訓練として,配
属された部が直接部門,間接部門のいずれであるかを問わず,入社時に新入
社員教育,入社1年目に新入社員育成教育,入社2年目に入社2年目研修,
勤続年ないし8年目頃に中堅社員教育が実施され,組長等の職制に就任し
た際には監督者教育等が実施される。また,入社1年目から3年目までは通
信教育の受講料が無料とされ,無期契約労働者全員が受講の対象者となって
いる。通信教育について,入社4年目以降の者の受講は任意とされているが,
職能資格の昇格時に,特定のカリキュラムを受講することが義務付けられて
いることがある。
これらの教育訓練は,有期契約労働者に対しては実施されていない。
(乙12,証人G,弁論の全趣旨)
被告における職制
被告には,部長,次長,課長,職長,組長というつの職制(組長以上の
職位)がある。部長,次長及び課長は管理職層であるが,課長は現場で作業
をすることもある。職長及び組長は,現場で部下の指揮をしながら自らも作
業に携わっている。組長は,各課に4名程度おり,製造部全体では34ない
し3名程度いる。
被告においては,無期契約労働者のみが職制に就任することができ,有期
契約労働者が職制に就任することはない。
被告の職制に就任している者には,井関農機株式会社からの出向者等も含
まれ,被告において採用された無期契約労働者が部長又は次長に就任した実
績はない。平成28年2月時点で課長,グループ長(グループとは,品質保
証部及び工務部に設けられた部署であり,グループ長は職長相当職である。)
及び組長の職制に就任している無期契約労働者のうち11名が,被告におい
て採用された無期契約労働者である。具体的には,製造部鋳造課の課長1名,
工務部調達グループのグループ長1名及び組長9名(製造部鋳造課の組長1
名,製造部機械課の組長1名,製造部歯車課の組長3名,製造部第一組立課
の組長2名及び製造部塗装課の組長2名)である。上記11名のうち9名
(課長を含む。)は,当初被告に有期契約労働者として雇用され,その後,
無期契約労働者に中途採用されて以降,上記の各職制に昇任するに至った者
である。平成29年月時点では,H鋳造課長が鋳造改善チームリーダー
という課長相当職に異動しており,被告において採用された無期契約労働者
1名が製造部の海外支援担当リーダーという課長相当職に就任している。
新規採用者の場合,高卒後年以上の勤務経験を経て組長に就任するこ
とが多い。中途採用者の場合,中途採用後無期契約労働者として3年以上の
勤務経験を経なければ組長に就任しない傾向にある。
(証人G,弁論の全趣旨)
業務の内容
ア定常業務
原告A関係
原告Aは,本件工場において,02組(E組)のB系ヘッドライン
(ヘッドとはシリンダーヘッドの意である。),B系ブロックライン
(ブロックとはエンジンブロックの意であり,シリンダーヘッドと同様
にエンジンを構成する基本的な部品である。),C系ヘッドライン及び
ギアケースラインで作業をしている。各ラインには,それぞれ加工工程,
エアブロー工程及びリークテスト工程の3つの作業工程があるところ,
原告Aは,そのうちエアブロー工程(圧縮した空気を放出してエンジン
のシリンダーヘッド等に付着した削りかす等を吹き飛ばす業務)及びリ
ークテスト工程(製品から空気漏れがないかどうか確認する業務)の作
業を担っている。B系ヘッドライン及びB系ブロックラインにおいては,
加工工程は無期契約労働者2名が交替制で担当し,エアブロー工程及び
リークテスト工程は原告Aと無期契約労働者又は有期契約労働者が担当
している。C系ヘッドラインにおいても,加工工程は無期契約労働者が
担当し,エアブロー工程及びリークテスト工程は原告Aと無期契約労働
者又は有期契約労働者が担当している。ギアケースラインにおいては,
加工工程は無期契約労働者2名と原告Cが3交替制で担当し,エアブロ
ー工程及びリークテスト工程は原告Aが担当している。B系ヘッドライ
ン,B系ブロックライン及びC系ヘッドラインにおいて,エアブロー工
程及びリークテスト工程の際に不良が見つかった場合には,当該工程の
担当者(無期契約労働者であるか有期契約労働者であるかを問わない。)
が当該不良品を不良品置き場まで運ぶが,その間に他の無期契約労働者
が関与することはない。不良品置き場に製品を運んだ後,その不良が修
正できるか,それとも修正せずに鋳潰すかについては,品質保証部所属
の無期契約労働者が最終的に判断する。(甲26,乙16の1,原告A
本人,弁論の全趣旨)
原告B関係
原告Bが所属する03組(F組)には,サブ組立ライン,親メタルラ
イン及び外装ラインの3つのラインがある。サブ組立ラインは,原告B
と無期契約労働者であるIが担当し,シリンダーヘッドを組み立ててい
る。親メタルラインは,無期契約労働者のみが担当し,エンジンブロッ
クを組み立てている。外装ラインは,無期契約労働者と有期契約労働者
が担当し,サブ組立ラインで組み立てられたシリンダーヘッドと親メタ
ルラインで組み立てられたエンジンブロックを組み付けて,最終の部品
組み付けを行っている。
サブ組立ラインでは,手作業で0個以上の小さな部品を組み付けて
シリンダーヘッドを完成させるところ,1日の生産台数が0台以上
の場合は,Iが組立作業の前半を担当し,原告Bが組立作業の後半とマ
ーシャリング作業(親メタルラインに流すための部品を集める作業のこ
とをいう。)を担当し,1日の生産台数が0台未満の場合は,原告
Bが組立作業を全て担当し,無期契約労働者であるJがマーシャリング
作業を担当する。組立作業の前半と後半で難易度が異なるわけではない。
シリンダーヘッドの組立ては,02組(E組)で加工されたシリンダ
ーヘッドをIがラインに投入すること(以下,この作業を「組立順序作
業」という。)から始まる。投入されるシリンダーヘッドの種類は,生
産計画に応じて予め作られた組立順序表に従って決定される。組立順序
表は,エンジン製作課の職長等が作成し,組立順序を変更する場合にも
職長等からの指示がある。組立順序作業は,Iが無期契約労働者に採用
される前の有期契約労働者の時から担当しており,その前は派遣労働者
が担当している。なお,Iが無期契約労働者に採用される以前と比べて
現在の方が組立順序作業の難易度が上がっているとまでは証拠上認めら
れない。
有期契約労働者は,平成18年月以降,親メタルラインに配置され
ていない。
(甲27,乙16の3,原告B本人)
原告C関係
原告Cは,02組(E組)のギアケースラインで,無期契約労働者2
名と3交替制で作業をしている。ギアケースラインにおいては,ギアケ
ース加工の業務のほかに,無期契約労働者及び有期契約労働者が,設備
の日常点検,給油作業及び清掃作業も行っている。加えて,現在では,
無期契約労働者が,ライン設備における刃工具の交換作業及びその後の
精度出し(交換対象となる刃工具に製品上存在する微細なサイズのばら
つき等を測定し,均一となるよう,必要に応じて追加加工することをい
い,0分の1ミリメートルのレベルでサイズを合わせている。)等
の精密作業並びにライン設備の修理作業を行っており,原告Cはその作
業を担当していない。過去には有期契約労働者(後に無期契約労働者に
登用された。)が上記精密作業を担当したことがある。原告Cも上記各
作業の教育を受けたことがあるが,上記各作業をする能力がないと判断
され,上記各作業の担当から外された。(甲28,乙16の2,原告C
本人,弁論の全趣旨)
イ管理業務及び新機種関連業務
定常業務の円滑な遂行を支える管理業務(例えば,作業要領書及び明細
書の維持管理,作業計画の策定等)及び新機種関連業務(例えば,新機種
に関する作業工程の新規策定や作業要領書,明細書等の作成)に関しては,
組長及びラインごとの組長と同等の能力を持った無期契約労働者のみに割
り当てられ,有期契約労働者が担当することはない。(乙23,証人G)
ウ業務改善提案
被告においては,無期契約労働者に対して,一人当たり月件の業務改
善提案の提出を推奨している。平成26年度では,提出人員の実績はその
目標の97%であり,過去に提出された業務改善提案と同内容のものもあ
ったが,全体の約3%の業務改善提案が採用されている。有期契約労働
者も業務改善提案を任意に提出でき,原告らも提出したことがある。業務
改善提案の作成に要する時間は,速い者で1件につき2,3分程度である
が,1件につき1時間程掛ける者もおり,平均すれば分ないし30分
である。(乙3,9,証人G)
業務に伴う責任の程度
ア現に発生したミスへの対応
被告において業務中にミスが発生した場合,リカバリーや修正のための
対応手順を決定するのは,課長及び組長等の職制に就任している者又はそ
れと同等の能力を持つ一部の無期契約労働者であって,有期契約労働者が
対応手順を決めることはない。その他の無期契約労働者及び有期契約労働
者は,組長の指示に従ってミスに対応することになる。(乙23,証人G)
イ品質不具合の再発防止のための対応(イエローカード制度)
作業ミスをした場合,無期契約労働者と有期契約労働者のいずれも,報
告書を提出することになっており,原告B及び原告Cも報告書を提出した
ことがある。(原告A本人,原告B本人,原告C本人)
品質不具合が発生した場合には,品質保証部がイエローカードを発行し,
不具合発生工程の作業台周辺等に掲示され,当該不具合発生工程の担当作
業者(無期契約労働者)がイエローカードに従った再発防止の継続実施及
び改善対応を実施し,その責任を負うことになる。担当作業者が新入社員,
派遣労働者又は有期契約労働者の場合には,新入社員以外の無期契約労働
者と同等の指導をするものの,改善対応及び再発防止の責任は組長及び管
理監督者が行い,負うものとされる。(乙4の1及び2)
なお,この点について,原告らはイエローカード制度が形骸化している
と主張し,原告Aも同様の供述をするが,エンジン製作課においてもイエ
ローカードが実際に掲示されるなどしていることから(乙11),採用で
きない。
職務の内容及び配置の変更の範囲
無期契約労働者には部又は課を越えた異動が行われ,有期契約労働者には
課を越えた異動が行われることがある。もっとも,無期契約労働者の異動に
際しても本人の希望が聴取されており,部を越えた異動は少なく,特に中途
採用者については同じ課に所属し続けることが多い。他方で,有期契約労働
者についても,本人の同意を得た上で課を越えた異動が行われることがある。
また,被告の従業員は,本件工場内で業務を遂行することが想定されてお
り,勤務地の変更を伴う異動は想定されていない。
(証人G,原告C本人,弁論の全趣旨)
原告らの基本給,勤務状況,扶養家族の有無,住宅の別
原告らは,平成年月から平成29年月までの間(ただし,原告
Aにつき平成年8月,平成26年月及び8月並びに平成28年2月を,
原告Bにつき,平成年11月並びに平成27年月及び6月を,原告C
につき,平成27年11月及び12月,平成28年2月及び8月並びに平成
29年1月及び8月支給分をそれぞれ除く。),欠勤がなく,その間の基本
給の金額は別紙ないし別紙の原告らの認容額計算書1及び2の「基
本給額」欄のとおりである。(甲7の1ないし21,甲8の1ないし23,
甲9の1ないし24,甲36の1ないし29,甲38の1ないし28,甲4
0の1ないし24,弁論の全趣旨)。
原告Aは,扶養者がなく,平成21年月23日に自らが賃借人となっ
て住所地の民間住宅の賃貸借契約を締結し,現在に至るまで居住し,賃料を
支払っている(甲14,弁論の全趣旨)。
原告Bは,祖母のKが平成26年11月22日死亡するまで,祖母と同居
し,祖母を扶養していた(甲13)。
本件手当等の趣旨目的に関する資料
被告において,本件訴訟係属中に,本件手当等が設定された経緯及び趣旨
等について調査したが,その設定当時の具体的な趣旨目的について記載され
た資料等は発見されなかった(弁論の全趣旨)。
2(労働契約法条違反の成否)について
本件手当等の支給に関する相違
有期契約労働者である原告らには,賞与と同様の性質を有する寸志が一季
万円のみ支給され,家族手当,住宅手当及び精勤手当は支給されていない
ところ,無期契約労働者には賞与支給基準に従い賞与
が支給され,その平均賞与額は一季3万円を超え,家族手当,住宅手当及
び精勤手当が支給されており,本件手当等の支給に関
して,原告らと無期契約労働者の間で相違がある(以下この相違を「本件相
違」という。)。本件相違は,有期契約労働者である原告らと無期契約労働
者で適用される就業規則が異なることによって生じていることは明らかであ
るから,各考慮要素を考慮して不合理である
と認められる場合には,労働契約法条に違反することになる。
労働契約法条違反の有無に係る判断枠組み
ア労働契約法条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件
の相違について,各考慮要素を考慮して,「不合理と認められるものであ
ってはならない」と規定し,「合理的でなければならない」との文言を用
いていないことに照らせば,同条は,当該労働条件の相違が不合理である
と評価されるかどうかを問題としているというべきであり,そのような相
違を設けることについて,合理的な理由があることまで要求する趣旨では
ないと解される。
イそして,同条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相
違が不合理と認められるか否かの考慮要素として,/μ海瞭睛董き当該
職務の内容及び配置の変更の範囲のほか,その他の事情を掲げており,
その他の事情として考慮すべきことについて,上記ゝ擇哭△鯲禺┐垢襪
かに特段の制限を設けていないことからすると,労働条件の相違が不合理
であると認められるか否かについては,上記ゝ擇哭△亡慙△垢觸事情を
幅広く総合的に考慮して,個々の労働条件ごとに判断すべきものと解され
る。
これに対し,原告らは,上記ゝ擇哭△了情が上記の事情に比して重
視されるべきであると主張する。しかし,労働契約法条の文言及び厚
生労働省労働基準局長通達「労働契約法の施行について」(平成24年基
発08第2号。以下「本件施行通達」という。甲22)では,上記
ないしの考慮要素の重みづけについて明確に定められていないことに照
らせば,原告らの主張は採用できない。
他方で,被告は,常に個々の労働条件を比較対象とすべきではないと主
張する。しかし,本件施行通達では不合理性について「個々の労働条件ご
とに判断される」としているほか,個々の労働条件ごとに相違の不合理性
を判断する場合においても,当該労働条件と密接に関連する労働条件や賃
金体系全体については上記のその他の事情として考慮することができる
と解されるから,被告の主張は採用できない。
原告らと無期契約労働者の職務内容等の相違等
ア本件において,原告らとの比較対象となる無期契約労働者は,原告らと
同じ製造ラインに配属された無期契約労働者(組長を除く。)であること
に争いはない。以下,各考慮要素を順に検討する。
イ業務の内容の相違
定常業務
a原告A関係
上記のとおり,B系ヘッドライン,B系ブロックライン及
びC系ヘッドラインのエアブロー工程及びリークテスト工程は,原告
A及び無期契約労働者がそれぞれ担当しているから,原告Aの担当業
務は,定常業務に関し,その無期契約労働者と同一の業務に従事して
いると認められる。B系ヘッドライン,B系ブロックライン及びC系
ヘッドラインの加工工程は無期契約労働者のみ担当しているが,ギア
ケースラインについては,加工工程についても原告Cと無期契約労働
者が三交替制で勤務しているから,無期契約労働者と有期契約労働者
で相互に代替可能な業務であると認められる。
これに対し,被告は,無期契約労働者のみがエンジンを鋳潰すかを
決定する業務を担当しているから,無期契約労働者と有期契約労働者
で業務の内容に相違があると主張する。しかし,エンジンを鋳潰すか
否かについては,原告Aが所属する製造部のエンジン製作課の労働者
ではなく,品質保証部所属の無期契約労働者が最終的に判断するので
あるから,これを原告Aと無期契約労働者の業務の相違と捉えること
は相当でない。
b原告B関係
Bは,1日の生産台数が0台以上
の時は,無期契約労働者であるIと組立作業の前半と後半に分かれて
作業を行うところ,その前半と後半で難易度に差があるわけではない
し,生産台数が0台未満の際には,そもそも組立作業の全体を原
告Bが担当している。また,マーシャリング作業については,生産台
数によって原告Bと無期契約労働者であるJで担当者を交替している。
したがって,原告Bのサブ組立ラインにおける定常業務はIやJとい
った無期契約労働者の作業と同一であると認められる。
これに対し,被告は,〔鬼契約労働者のみが親メタルラインでエ
ンジン内部の組立作業に従事していること,¬鬼契約労働者である
Iのみが組立順序作業に従事していることから,原告Bと無期契約労
働者で業務の内容に相違があると主張する。しかし,原告Bは,平成
17年1月14日から平成18年4月末まで,エンジンブロックの組
立作業を行う親メタルラインに配置されていたところ(上記第2の2
),その当時と現在で親メタルラインの業務内容に相違があると
は証拠上認められない。また,Iは無期契約労働者ではない派遣労働
者ないし有期契約労働者の時から組立順序作業を担当しており,その
当時に比べて現在の方が作業の難易度が上がっているとまでは証拠上
認められない上,組立順序作業は組立順序表に従って実施され,組立
順序の変更に関してIには裁量はない。そうすると,親メタルライン
での作業及び組立順序作業のいずれも,現在無期契約労働者のみが従
事していることをもって,原告Bと無期契約労働者で業務内容が相違
していると認めることはできない。
c原告C関係
原告Cは,他の無期契約労働者と三交替制であるため,他の無期契
約労働者と同一の業務に従事している()。
これに対し,被告は,無期契約労働者のみが精密作業及びライン設
備の修理作業に従事しており,無期契約労働者と原告Cで業務の内容
に相違があると主張する。しかし,過去には
有期契約労働者が精密作業に従事したこともあることに加え,原告C
も上記各作業の教育を受けたことがあるから,精密作業を遂行できる
能力がある者は有期契約労働者でも当該作業に従事できるのであって,
無期契約労働者と有期契約労働者で業務内容が相違していると認める
ことはできない。この点については,有期契約労働者が当該作業に従
事していた事実が重要であって,被告が主張するように当該有期契約
労働者が後日中途採用されたことは,上記結論を左右しないというべ
きである。
d以上によれば,原告らと同一の製造ラインに配属された無期契約労
働者との間で,その定常業務の内容に相違はないと認められ,この点
に関する被告の主張は採用できない。
管理業務及び新機種関連業務
によれば,管理業務及び新機種関連業務は,共に定常業務
の円滑な遂行を支える点で,被告において重要な業務であると認められ
るところ,職制に就任している者のほか,ラインごとの組長と同等の能
力を持った無期契約労働者のみに割り当てられ,有期契約労働者は,そ
の職務遂行能力にかかわらず,当該業務を担当することはない。したが
って,職制に就かず,原告らと同一の製造ラインに配属された無期契約
労働者のうち一部の者については,原告ら有期契約労働者とは異なる業
務を担当している点で,原告らの業務内容とは相違していると認められ
る。
業務改善提案
のとおり,業務改善提案は焼き直しによる提出が容認され
ているほか,その提出までの所要時間が比較的少なく,労働者の職務に
占める時間的割合が小さいと認められる。
S活動及び自衛消火隊の活動
S活動及び自衛消火隊の活動に無期契約労働者のみが従事している
ことを認めるに足りる証拠はない。
小括
原告らと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者との間で,そ
の定常業務の内容に相違はな管理業務及び新機種関連業
務は重要な業務であるものの,無期契約労働者のうち一部の者について
られないことからすると,原告らと比較対象となる無期契約労働者との
業務の内容に大きな相違があるとはいえない。
ウ業務に伴う責任の程度に関する相違
作業ミスが発生した場合,有期契約労働者と無期契
約労働者のいずれも,報告書の提出を義務付けられている点で差異はない。
また,現に発生したミスについて,リカバリーや修正のための対応手順を
決めるのは,職制に就任している者又はそれと同等の能力を持つ無期契約
労働者の一部であって,無期契約労働者全体と有期契約労働者全体で相違
があるものではない。
他方で,品質不具合の再発防止のための対応については,無期契約労働
者のみが,再発防止の継続実施及び改善対応を実施し,その責任を負い,
有期契約労働者はその責任を負わない。したがって,職制に就かず,原告
らと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者であっても,ミスの発
生時及び発生後の対応の程度が異なっており,無期契約労働者と有期契約
労働者で業務に伴う責任の程度が一定程度相違していると認められる。さ
らに,被告は,無期契約労働者が有期契約労働者よりも優先して時間外・
休日労働を命じられると主張し,G証人も同旨の供述をするが,無期契約
労働者と有期契約労働者の時間外・休日労働時間にどの程度差異が生じて
いるかは証拠上明らかでないことから,この点は,業務に伴う責任の程度
を左右しないというべきである。
エ職務の内容及び配置の変更の範囲に関する相違
被告においては,無期契約労働者のみ組長以
上の職制に就くことができ,有期契約労働者が職制に就くことはない。そ
して,被告において採用される無期契約労働者は,将来,組長以上の職制
に就任し部下を指揮する立場や組長を補佐する立場となる等して被告にお
ける重要な役割を担うことを期待されて,定期的な研修が実施されている
ほか,職能資格の昇格時には特定の通信教育のカリキュラムを受講するこ
とが義務付けられるなど,継続的な教育訓練と長期間の勤務経験を積みな
がら育成されるものと認められる。このことは,無期契約労働者で組長と
同等の能力を持つ者に管理業務及び新機種関連業務を担当させたり,ミス
が発生した際のリカバリーや修正のための対応手順を決めさせたりしてい
ること)からも裏付けられる。
他方で,有期契約労働者については,のとおり,定期的
な教育訓練は実施されておらず,有期契約労働者を中途採用制度により無
期契約労働者とする場合であっても,職制に就任させるためには3年程度
の無期契約労働者としての勤務経験を経ることが必要である。そのため,
有期契約労働者全体について,将来,組長以上の職制に就任したり,組長
を補佐する立場になったりする可能性がある者として育成されるべき立場
にあるとはいえない。
したがって,原告らと無期契約労働者の間には,職務の内容及び配置の
変更の範囲に関して,人材活用の仕組みに基づく相違があると認められる。
これに対し,原告らは,有期契約労働者も,中途採用により無期契約労
働者となった後に職制に就任することがあるから,組長になり得ると主張
する。しかし,上記1
は,有期契約労働者のうち,将来的に組長に昇任させたい人材や組長を補
佐するのに適した人材等を選抜して無期契約労働者に採用しているのであ
るから,中途採用されていない有期契約労働者全体と,中途採用者を含む
無期契約労働者に上記のとおり差異があることは否定できないというべき
である。
オその他の事情
中途採用は,ほぼ毎年実施されており,現に平成28年2月時点では,
被告において採用された無期契約労働者であって職制にある11名のうち,
9名が有期契約労働者から中途採用されており,無期契約労働者と有期契
約労働者の地位が必ずしも固定的でないことは,本件相違の不合理性を判
断する際に考慮すべき事情といえる。
本件相違の不合理性
上記⑶の原告らと無期契約労働者との職務内容等の相違等を踏まえて,本
件手当等の労働条件ごとにその不合理性を検討する。
ア賞与
一般的に,賞与は,支給対象期間の企業の業績等も考慮した上で,毎月
支給される基本給を補完するものとして支給され,支給対象期間の賃金の
一部を構成するものとして基本給と密接に関連し,賃金の後払としての性
質を有することに加え,従業員が継続勤務したことに対する功労報奨及び
将来の労働に対する勤労奨励といった複合的な性質を有するものと解され
ており,被告における賞与についても,これと同様の性質を有するものと
推認される。そして,これらの性質については,無期契約労働者だけでな
く有期契約労働者にも及び得ることは,原告らの指摘するとおりである。
しかし,前記のとおり,無期契約労働者と有期契約労働者で業務に伴う
責任の程度が一定程度相違していること,職務の内容及び配置の変更の範
囲に関する相違に関してみたとおり,将来,組長以上の職制に就任したり,
組長を補佐する立場になったりする可能性がある者として育成されるべき
立場にある無期契約労働者に対してより高額な賞与を支給することで,有
為な人材の獲得とその定着を図ることにも一定の合理性が認められること,
原告らにも夏季及び冬季に各万円の寸志が支給されていること,中途採
用制度により有期契約労働者から無期契約労働者になることが可能でその
実績もあり,両者の地位は必ずしも固定的でないことを総合して勘案する
と,一季30万円以上の差が生じている点を考慮しても,賞与における原
告らと無期契約労働者の相違が不合理なものであるとまでは認められない。
これに対し,原告は,厚労省ガイドライン案(甲29の2)に照らして
被告の賞与における相違は不合理であると主張する。
しかし,労働契約法条は,有期契約労働者と無期契約労働者の間の
労働条件の相違が不合理なものであることを禁止した規定であり,同一労
働同一賃金の原則を定めたものと解することはできない。そして,上記ガ
イドライン案の前文には,同案をもとに,法改正の立案作業を進めること
が予定され,今後,関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえ
て,同案を最終的に確定すると記載されていることに鑑みると,労働契約
法条の不合理性判断に際して,少なくとも現時点の同案を参酌する必
要があるとはいえず,原告の主張は採用できない。
イ家族手当
証拠(乙)によれば,昭和14年にインフレを抑制するために発出
された賃金臨時措置令を受けて賃金引上げが凍結されたが,物価上昇によ
って,扶養家族を有する労働者の生活が厳しさを増したことから,翌年,
一定収入以下の労働者に対し扶養家族を対象とした手当の支給が許可され
たことにより,多くの企業において家族手当が採用されたこと,その後,
第2次大戦直後のインフレ期には,労働組合が生活保障の要素を重視する
観点から家族手当の支給や引上げを要求し,企業もそれに応じ,高度経済
成長期には,いわゆる日本的雇用システムが構築され,正規雇用者として
長期に雇用される男性世帯主を中心に支給される家族手当が,従業員に対
する処遇として定着したことが認められる。被告においても,家族手当は,
生活補助的な性質を有しており,労働者の職務内容等とは無関係に,扶養
家族の有無,属性及び人数に着目して支給されている(
)。
上記の歴史的経緯並びに被告における家族手当の性質及び支給条件から
すれば,家族手当が無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手
当と認めることは困難である。そして,配偶者及び扶養家族がいることに
より生活費が増加することは有期契約労働者であっても変わりがないから,
無期契約労働者に家族手当を支給するにもかかわらず,有期契約労働者に
家族手当を支給しないことは不合理である。
これに対し,被告は,平成23年時点で,無期契約労働者に家族手当を
支給する企業の割合と比べて,有期契約労働者が無期契約労働者と同様の
職務に従事していると企業が認識している場合であっても有期契約労働者
に家族手当を支給する企業の割合は極めて低いと主張し,これに沿う証拠
として厚生労働省労働基準局の「平成23年有期労働契約に関する実態調
査(事業所調査)報告書」(以下「実態調査報告書」という。乙14及び
14の2)を挙げるほか,雇用システムの相違それ自体及び各考慮要素に
おける相違を理由として,より手厚い生活補助を無期契約労働者に対し講
じることは不合理ではないと主張する。
しかし,各企業の家族手当の支給条件はそれぞれ異なると予想されると
ころ,有期契約労働者と無期契約労働者に対して家族手当を支給する企業
の割合を単純に比較することは必ずしも相当とはいえない。加えて,有期
契約労働者について雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の
決定が行われにくいことや,処遇に対する不満が多く指摘されていること
を踏まえて,有期労働契約の労働条件を設定する際のルールを法律上明確
化し,期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止するものとし
たという労働契約法条の制定経緯(本件施行通達参照)に鑑みれば,
平成23年当時の企業実態の大勢を重視することは相当とはいえない。ま
た,被告における家族手当の支給条件が,職務内容等の相違に基因するも
のとはいえないことは上述のとおりである上,上記法の制定経緯に照らせ
ば,雇用システムの相違自体や中途採用制度の存在を含む各考慮要素の相
違をもって,その支給対象を無期契約労働者に限定することの不合理性が
否定されるとも解されない。したがって,被告の主張は採用できない。
ウ住宅手当
被告は,無期契約労働者に対して一律に住宅手当を支給しているわけ
ではなく,民営借家,公営住宅又は持家に居住する無期契約労働者に住
宅手当を支給している。そして,民営借家居住者には公営住宅居住者及
び持家居住者と比べて高額な手当を支給し,扶養者がいる場合にはより
高額な手当を支給している。また,賃貸契約の場合,当人が賃貸契約の
当事者であることを要件としている。
そうすると,被告の住宅手当は,住宅費用の負担の度合いに応じて対
象者を類型化してその者の費用負担を補助する趣旨であると認められ,
住宅手当が無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認
めることは困難であり,有期契約労働者であっても,住宅費用を負担す
る場合があることに変わりはない。したがって,無期契約労働者には住
宅手当を支給し,有期契約労働者には住宅手当を支給しないことは,不
合理であると認められる。
これに対し,被告は,配置の変更の範囲が広い無期契約労働者は,潜
在的に住宅に要する費用が有期契約労働者よりも高くなるから,無期契
約労働者のみに住宅手当を支給することは不合理ではないと主張する。
しかし,被告の従業員は,勤務地の変更を伴う異動は想定されていない
から
に住宅費用が高くなると認めることは困難である。
また,被告は,住宅手当は,その歴史的背景として,家族手当と同様
に年功序列型賃金の一内容として定着したと主張するが,その主張を裏
付ける的確な証拠はない上,被告における住宅手当の内容
おりであって,これを年功序列型賃金の一内容とみることはできない。
さらに,被告は,実態調査報告書に依拠して有期契約労働者に住宅手
当を支給する企業の割合は極めて低いとか,無期契約労働者に対してよ
り手厚い生活補助を講じることに合理性がある旨主張するが,そのよう
な被告の主張が採用できないことは上記イのとおりである。
エ精勤手当
無期契約労働者には,月給者(連続1か月未満の欠勤については,基本
給の欠勤控除を行わない者をいい,事務・技術職とされる。)と月給日給
者(欠勤1日につき,月額基本給の1/.3の金額を欠勤控除する者
をいい,技能職とされる。)がいるところ,被告は,月給日給者かつ当該
月皆勤者に限り精勤手当を支給しており,月給者には精勤手当を支給して
いない(乙6・2条3項ないし項,条1項及び3項,17条)。そ
うすると,精勤手当の趣旨としては,少なくとも,月給者に比べて月給日
給者の方が欠勤日数の影響で基本給が変動して収入が不安定であるため,
かかる状態を軽減する趣旨が含まれると認められる。他方で,被告が主張
するように,無期契約労働者に対して精勤に対する見返りを支給し,会社
に対する貢献の増大を図るために精勤手当が設定されたと認めるに足りる
証拠はない。
そして,有期契約労働者は,時給制であり,欠勤等の時間については,
1時間当たりの賃金額に欠勤等の合計時間数を乗じた額を差し引くものと
され(乙7・23条ないし条),欠勤日数の影響で基本給が変動し収
入が不安定となる点は月給日給者と変わりはない。したがって,無期契約
労働者の月給日給者には精勤手当を支給し,有期契約労働者には精勤手当
を支給しないことは,不合理であると認められる。
被告は,実態調査報告書に依拠して有期契約労働者に精勤手当を支給す
る企業の割合は極めて低いと主張するが,かかる主張が採用できないこと
は上記イのとおりである。
オ以上のとおり,本件手当等のうち,家族手当,住宅手当及び精勤手当に
ついては労働契約法条に違反するが,賞与については同条に違反しな
い。
3(労働契約法条の効力(補充的効力の有無))について
労働契約法条が「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁
止」との見出しの下に「不合理と認められるものであってはならない」と規
定していることから,同条に違反する労働条件の定めは無効というべきであ
り,同条に違反する取扱いは,民法709条の不法行為が成立する場合があ
り得るものと解される。
そして,労働契約法は,同法条に違反した場合の効果として,同法1
2条や労働基準法13条に相当する補充的効力を定めた明文の規定を設けて
おらず,労働契約法条により無効と判断された有期契約労働者の労働条
件をどのように補充するかについては,無期契約労働者と有期契約労働者の
相違を前提とした人事制度全体との整合性を考慮した上,労使間の個別的又
は集団的な交渉に委ねられるべきものであって,裁判所が,明文の規定がな
いにもかかわらず労働条件を補充することは,できる限り控えるべきものと
考えられる。
この点,労働契約法の改正の際の国会審議において,政府参考人から,労
働契約法条により「不合理であり無効とされた労働条件はどうなるかに
ついては,基本的には,無期契約労働者と同じ労働条件が認められるものと
考えます。」(平成24年7月日第180回国会衆議院厚生労働委員会
議録第号(甲21・24頁,頁))とする説明がされ,本件施行通
達においても「無効とされた労働条件については,基本的には,無期契約労
働者と同じ労働条件が認められると解されるものであること」とされている。
しかし,いずれにおいても「基本的には」という留保が付されていること
から,常に補充的効力を肯定する趣旨とは解されない。そして,例えば,就
業規則が全従業員に適用され,その一部条項のみ有期契約労働者の適用を除
外する定めが置かれているような場合には,当該定めを無効とすることによ
り,結果として有期契約労働者についても無期契約労働者と同様に当該就業
規則が適用されることになるが,そのように就業規則等の規定を合理的に解
釈することができない場合には,前記のとおり,不法行為による損害賠償責
任が生じ得るにとどまるものと解するほかないというべきである。
本件では,無期契約労働者の就業規則は,有期契約労働者については別に
定める就業規則を適用すると明記している(乙・2条,3条)。無期契約
労働者の賃金規程においても,無期契約労働者に適用する賃金に関する事項
を定めると規定し,試用社員について家族手当を除き賃金規程を準用し,嘱
託,準社員及び臨時については,別に定める基準によると規定しているが,
有期契約労働者については言及がない(乙6・1条)。そして,有期契約労
働者の就業規則には,無期契約労働者の就業規則(乙)2条に基づき,有
期契約労働者の労働条件等を定めると規定し(乙7・1条1項),賃金につ
いてもその就業規則において規定している(乙7・23条ないし29条)。
また,原告らの労働契約書(甲1ないし3)をみても,無期契約労働者の就
業規則(乙)及び賃金規程(乙6)が適用されることを前提とする約定は
見当たらない。
以上のとおり,無期契約労働者の就業規則等とは別個独立のものとして有
期契約労働者の就業規則等が存在しており,関係する就業規則等の規定を合
理的に解釈しても,有期契約労働者に対して,無期契約労働者の労働条件を
定めた就業規則等の規定を適用することはできない。
そうすると,原告らの被告に対する,無期契約労働者に関する就業規則等
の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認を求める請求(上記
第2の1,寮禅瓠傍擇喨神年月から平成27年4月までに支給され
る本件手当等について,原告らに当該就業規則等の規定が適用されることを
前提とした労働契約に基づく賃金請求(上記第2の1△亮膂姪請求)には
理由がない。
⑷他方で,原告Bは,祖母が平成26年11月22日に
死亡するまで祖母を扶養しており,同月分までは家族手当の支給要件に該当
すること,原告Aは,扶養者がなく,自らが賃借人となって民間住宅の賃貸
借契約を締結して現在に至るまで居住し,賃料を支払っており,住宅手当の
要件のうち「無扶養者かつ民営借家居住者」に該当すること,原告らは,一
部の月を除き,精勤手当の支給要件に該当することから,原告らに対する上
記各手当(以下「本件各手当」という。)の不支給は,原告らに対する不法
行為を構成するというべきである。
4(原告らの損害の有無及びその額)について
原告らの被告に対する,平成年月から平成27年4月までに支給さ
れる本件手当等に関する不法行為に基づく損害賠償請求(上記第2の1△
予備的請求)について
原告らには,本件各手当が無期契約労働者と同様の条件で支給された場合
における支給額に相当する損害が生じたと認めるのが相当である。平成
年月から平成27年4月までの間における原告らの基本給,勤務状況,扶
養家族の有無及び住宅の別)に照らすと,原告らに対して,無期
契約労働者と同様の条件で本件各手当が支給された場合における原告らに対
する本件各手当の支給額は,別紙ないし12の原告らの「認容額計算書
1」の「支給日」欄の各支給日に対応する「家族手当」欄,「住宅手当」欄
及び「精勤手当」欄の各金額のとおりであって,その合計額が原告らの各損
害と認められる。
原告らの被告に対する,平成27年月から平成29年月までに支給
される本件手当等に関する不法行為に基づく損害賠償請求(上記第2の1
の請求)について
平成27年月から平成29年月までの間における原告らの基本給,
勤務)に照らすと,原告らに対して,無期契約
労働者と同様の条件で本件各手当が支給された場合における原告らに対する
本件各手当の支給額は,別紙13ないしの原告らの「認容額計算書2」
の「支給日」欄の各支給日に対応する「住宅手当」欄及び「精勤手当」欄の
各金額のとおりであって,その合計額が原告らの各損害と認められる。
結論
以上の次第で,原告らの請求のうち,
原告らの被告に対する,地位確認請求(上記第2の1,寮禅瓠傍擇喨神
年月から平成27年4月までの間に支給される本件手当等について,
主位的請求である労働契約に基づく賃金請求(上記第2の1△亮膂姪請求)
はいずれも理由がないから棄却し,
同期間に支給される本件手当等について,予備的請求である不法行為に基
づく損害賠償請求(上記第2の1⇒夙的請求)は,原告Aにつき,被告に
対し17万40円及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年
6月日から支払済みまで民法所定の年分の割合による遅延損害金の支
払を求める限度で,原告Bにつき,被告に対し12万6960円及びこれに
対する不法行為の日の後である平成27年6月日から支払済みまで同割
合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告Cにつき,被告に対し万
330円及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年6月日
から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ
理由があるから認容し,その余の予備的請求は理由がないから棄却し,
平成27年月から平成29年月までに支給される本件手当等につい
て,不法行為に基づく損害賠償請求(上記第2の1の請求)は,原告Aに
つき,被告に対し22万円及び不法行為の日の後である平成29年
月26日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める限度
で,原告Bにつき,被告に対し7万070円及びこれに対する不法行為の
日の後である平成29年月26日から支払済みまで同割合による遅延損
害金の支払を求める限度で,原告Cにつき,被告に対し万00円及び
これに対する不法行為の日の後である平成29年月26日から支払済み
まで同割合による遅延損害金の支払を求める限度で,それぞれ理由があるか
ら認容し,その余は棄却することとして,主文のとおり判決する。
松山地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 久保井恵子
裁判官 百麥
裁判官酒本雄一は,転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 久保井恵子

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