報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

さい帯血無届け医療、販売会社の元社長に有罪

 他人のさい帯血を使った再生医療が無届けで行われた事件で、再生医療安全性確保法違反(計画未提出)などに問われたさい帯血販売会社「ビー・ビー」(茨城県つくば市、解散)元社長・篠崎庸雄(つねお)被告(52)に対し、松山地裁は14日、懲役2年4月、執行猶予3年(求刑・懲役2年6月)の判決を言い渡した。
 末弘陽一裁判長は「再生医療への国民の信頼を著しく失墜させた」と述べた。
 判決などによると、篠崎被告は2009年に経営破綻したつくば市の民間バンクからさい帯血を入手し、仲介業者を通じて各地のクリニックに販売。昨年7月〜今年4月、東京都内のクリニックの医師・首藤紳介被告(40)(公判中)らと共謀し、美容目的などの患者4人にさい帯血を無届け投与するなどした。
(12/14(木) 14:29 読売新聞)

<さい帯血>無届け投与 福岡の元社長有罪 事件で初判決

 各地のクリニックが他人のさい帯血を国に無届けで投与していた事件で、再生医療安全性確保法違反の罪に問われた福岡市の医療関連会社「レクラン」(解散)元社長、井上美奈子被告(59)に対し松山地裁(末弘陽一裁判長)は14日、懲役10月、執行猶予2年(求刑・懲役10月)の判決を言い渡した。
 愛媛県警などの合同捜査本部が捜査した一連の事件では4人が起訴されており、今回が初の判決。
 判決で末弘裁判長は、未知のリスクを含む治療で多額の利益を得る悪質な犯行だったと指摘。「被告は自らさい帯血の運搬をするなど、不可欠かつ重要な役割だった」とした。一方で「会社を解散し、再犯の可能性は乏しい」として執行猶予をつけた。【木島諒子】
(12/14(木) 12:05 毎日新聞)

臍帯血を無届けで移植、販売業者らに有罪判決

 東京や大阪のクリニックで臍帯血(さいたいけつ)が国に無届けで移植されていた問題で、再生医療安全性確保法違反の罪に問われた販売業者ら2被告の判決公判が14日、松山地裁であった。末弘陽一裁判長はいずれも執行猶予つき有罪判決を言い渡した。
 判決の内容は、臍帯血保管販売会社「ビー・ビー」(茨城県つくば市、解散)元社長の篠崎庸雄(つねお)被告(52)=詐欺、横領罪でも起訴=に懲役2年4カ月執行猶予3年(求刑懲役2年6カ月)、仲介会社「レクラン」(福岡市、閉鎖)元社長の井上美奈子被告(59)に懲役10カ月執行猶予2年(同懲役10カ月)。
 事件ではほかに医師ら2被告が起訴され、月内に判決が言い渡される。
 臍帯血はへその緒や胎盤に含まれ、公的バンクが産婦から無償提供を受け、白血病の治療などに使われている。確保法により、2015年11月以降は他人の細胞の移植には、国への治療計画の提出が原則必要となった。
 判決などによると、篠崎被告は破綻(はたん)した民間バンクから臍帯血を入手し、16年2月〜17年4月、井上被告らと共謀し、都内や大阪市内のクリニックで計6人に無届けで移植した。篠崎被告はさらに、自身が社長を務める会社に臍帯血の保管を委託した男女からその所有権をだまし取ったほか、家宅捜索を受けた際、保管を命じられた臍帯血をクリニックに譲渡し、横領した。
 篠崎被告は約1千検体の臍帯血を入手。各地のクリニックに転売され、高額の自由診療として、有効性や安全性が未確立のがん治療や美容目的などで用いられていた。
 末弘裁判長は、被告らが必要な前処置をせず臍帯血を移植していたことについて「投与された細胞の性質が体内で変わり得る未知のリスクが含まれる」と指摘。「人命及び健康に重大な影響を与える恐れがあった」と述べた。(大川洋輔、藤井宏太)
(12/14(木) 21:30 朝日新聞)

PDF

平成29(わ)311  臍帯血移植事件
主文
被告人を懲役2年4月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,臍帯血の保管等を業とする株式会社アの代表取締役及び臍帯血販売等
を業とする株式会社イの代表取締役(平成27年7月10日以前は実質経営者)と
して,両社の業務全般を統括管理しているものであるが,
第1【平成29年10月5日付け起訴状公訴事実第1】
平成26年12月27日,茨城県ab番地所在の当時の前記ア事務所におい
て,長男の臍帯血の保管を前記アに委託していたA(当時38歳)に対し,真
実は提供を受けた臍帯血は研究目的に使用せず,前記イにおいて中間業者を介
して医療機関に高額で販売する意思であるのにその情を秘し,「臍帯血を研究
に使わせていただきたい。」などとうそを言い,さらに,「提供した臍帯血は,
再生医療の発展を目指した研究に使用される」旨記載した臍帯血提供同意書を
交付して閲読させ,前記Aをしてその旨誤信させ,よって,同月29日,前記
Aをして,署名押印した前記臍帯血提供同意書及び臍帯血保管委託基本契約解
除通知書を前記ア宛てに郵送させ,その頃,同所に到達させて,その長男の臍
帯血1個(販売価格80万円相当)の所有権を前記アに無償で譲渡させ,もっ
て人を欺いて財産上不法の利益を得た
第2【平成29年10月5日付け起訴状公訴事実第2】
平成27年2月9日,長男及び二男の臍帯血の保管を前記アに委託していた
B(当時56歳)が,前記ア事務所に電話をかけて保管委託契約の解約の申込
みをした際,前記Bに対し,真実は提供を受けた臍帯血は研究目的に使用せず,
前記イにおいて中間業者を介して医療機関に高額で販売する意思であるのに
その情を秘し,電話で,「臍帯血を研究開発のために使わせてもらえませんか。
再生医療の発展のために臍帯血を使わせてもらえませんか。」などとうそを言
い,さらに,その頃,「提供した臍帯血は,再生医療の発展を目指した研究に
使用される」旨記載した臍帯血提供同意書を前記B宛てに送付して閲読させ,
前記Bをしてその旨誤信させ,よって,同月13日頃,前記Bをして,署名押
印した前記臍帯血提供同意書及び臍帯血保管委託基本契約解除通知書を前記
ア宛てに郵送させ,その頃,同所に到達させて,その長男及び二男の臍帯血合
計2個(販売価格合計150万円相当)の所有権を前記アに無償で譲渡させ,
もって人を欺いて財産上不法の利益を得た
第3【平成29年9月15日付け起訴状公訴事実第1】
C,D及びEと共謀の上,大阪市cd丁目e番f号所在の診療所であるウに
おいて再生医療法に規定する第一種再生医療等に該当する他人間の臍帯血移
植を実施するに当たり,前記ウの管理者であるCにおいて,第一種再生医療等
提供計画を厚生労働大臣に提出することなく,別表1記載のとおり,平成28
年2月13日から平成29年4月14日までの間,3回にわたり,前記ウにお
いて,Fほか1名に対し,別表1記載の各目的で,分離調製済みの冷凍保存さ
れた他人の臍帯血を,解凍の上,投与し,もって第一種再生医療等提供計画を
提出せずに第一種再生医療等を提供した
第4【平成29年9月15日付け起訴状公訴事実第2】
G,H及びIと共謀の上,東京都gh丁目i番j号kビル1階所在の診療所
であるエにおいて再生医療法に規定する第一種再生医療等に該当する他人間
の臍帯血移植を実施するに当たり,前記エの管理者であるGにおいて,第一種
再生医療等提供計画を厚生労働大臣に提出することなく,別表2記載のとおり,
平成28年7月28日から平成29年4月12日までの間,6回にわたり,前
記エにおいて,Jほか3名に対し,別表2記載の各目的で,分離調製済みの冷
凍保存された他人の臍帯血を,解凍の上,投与し,もって第一種再生医療等提
供計画を提出せずに第一種再生医療等を提供した
第5【平成29年10月5日付け起訴状公訴事実第3】
平成28年11月15日及び同月16日,愛媛県警察本部カ課司法警察員警
部補Kにより臍帯血664個の差押えを受け,同日,同人からそのうち649
個の仮還付を受けて保管を命ぜられ,これらを保管中,Eと共謀の上,
1平成29年3月26日,前記保管を命ぜられていた臍帯血のうち,前記ア又
は前記イ所有に係る臍帯血1個(検体番号q番)を,被告人において,ほしい
ままに,茨城県al番地m前記ア兼前記イ事務所から同市no丁目p番地キ株
式会社オ駅まで持ち出し,同所において,一般社団法人ウ代表理事のDに譲り
渡し,
2同年4月13日,前記保管を命ぜられていた臍帯血のうち,前記ア又は前記
イ所有に係る臍帯血1個(検体番号r番)を,被告人において,ほしいままに,
前記ア兼前記イ事務所から前記オ駅まで持ち出し,同所において,前記ウ代表
理事のDに譲り渡し,
もって横領した
ものである。
(証拠の標目)
省略
AAウ(法令の適用)
罰条
判示第1,第2の各行為それぞれ刑法246条2項
判示第3,第4の各行為それぞれ包括して刑法65条1項,60条,再生
医療法60条1号,4条1項〔同種行為を反復継
続する意思をもって事前の提出義務に違反し,各
提供行為に及んでおり,それぞれ包括一罪になる
と解する。〕
判示第5の各行為包括して刑法60条,252条1項
刑種の選択判示第3及び第4の罪について,それぞれ懲役刑
を選択
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯
情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
刑の執行猶予刑法25条1項
(量刑の理由)
1本件は,民間の臍帯血バンクが経営破綻してその事業を引き継いだことを契機
に,臍帯血の保管,販売業等を営んでいた被告人が,“鏐霓佑硫饉劼枚疎啖譴
保管を委託していた各被害者に対し,研究に使用する目的であるなどと虚偽の説
明をして,臍帯血を無償で譲渡させた詐欺2件(判示第1,第2),⊃芭貼蠅隆
理者のほか,臍帯血の卸売業等を営む共犯者らと共謀の上,上記管理者において,
第一種再生医療等提供計画を提出することなく,各患者に対し,それぞれ大腸が
んの治療,脳性麻痺の治療,アンチエイジング,膵炎の再発防止等の目的で,細
胞の分離,冷凍等の操作を加えた他人の臍帯血を解凍した上,静脈注射等をする
という方法で臍帯血移植を行った再生医療法違反2件(判示第3,第4),H鏐
人の会社が所有し,捜査機関により差押えを受け,仮還付を受けて保管を命じら
れていた臍帯血を,臍帯血の卸売事業等を営む共犯者と共謀の上,判示第3の診
療所の代表理事に譲り渡した横領(判示第5)の事案であり,これらは,被告人
の会社が保管していた臍帯血に端を発する一連の事件である。
2まず,再生医療法違反の各犯行(判示第3,第4)についてみると,再生医
療法は,実施される再生医療等に想定されるリスクの程度等に応じた安全確保
のための仕組みを設けており,臨床応用がほとんどなく,未知の領域が多く残
された第一種再生医療等については,細胞の腫瘍化や予測不能かつ重篤な有害
事象を発生させ,人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあることに
鑑み,同法4条1項において,これを提供しようとする病院又は診療所の管理
者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,その提供計画の提出を義務付
けている。被告人らが再生医療法施行以前から実施してきた臍帯血移植は,ア
ンチエイジング等の目的,あるいは移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推
進に関する法律施行規則1条所定の27疾病(悪性リンパ腫,急性白血病等の
疾病)以外の疾病に対する治療を目的として,免疫抑制等の処置をすることな
く,細胞の分離,冷凍等の操作を加えただけの他人の臍帯血を静脈注射等によ
って患者に投与する方法(以下「本件臍帯血移植」という。)によるものであり,
このような方法は,安全性,有効性が確立された医療技術ではなく,投与され
た細胞の性質が体内で変わり得る未知のリスクが含まれるものであって,移植
に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律2条2項所定の有効性,
安全性が確立された造血幹細胞移植には該当せず,また,本来の細胞と異なる
構造・機能を発揮することを目的として細胞を使用するものであり,再生医療
法2条4項所定の「細胞加工物」を用いた医療技術であると解されることなど
から,同法4条1項の適用対象となる第一種再生医療等に該当するものであっ
た。
被告人らは,平成27年11月に再生医療法の罰則適用の対象となり,平成
28年1月には,厚生労働省から,本件臍帯血移植が再生医療法の対象となる
ため直ちに治療の提供を中止し,法に基づく手続を行うよう行政指導を受けた
にもかかわらず,その後も平成29年4月までの間,医師であるCとGにおい
て,被告人から臍帯血の卸売業者であるEやH,Iを経由して提供された臍帯
血を用いて判示第3と第4の各犯行に及び,被告人を含む共犯者はいずれも多
額の利益を得ていたのであり,その各犯行は,再生医療等提供計画の提出を義
務付けることにより当該治療の安全性確保を図るという同法の趣旨を没却す
る悪質な犯行であったというべきである。加えて,判示第4の犯行については,
Gにおいて,前記27疾病に該当する病名又はその疑いがあるなどと,事実と
は異なる診断名をカルテに記載するなどして再生医療法の適用除外となる臍
帯血移植であるかのように装いながら犯行に及んでいたというのであり,なお
さら悪質であったといわざるを得ない。
また,本件臍帯血移植は,前記のとおり,安全性や有効性が科学的に証明さ
れておらず,仮に,第一種再生医療等提供計画を提出しても,そのまま受理さ
れることはないというものであり,人命及び健康に重大な影響を与えるおそれ
があったのであるから,唯一医業を行うことができる医師によってこのような
行為が行われたことは,再生医療そのものに対する国民の信頼を著しく失墜さ
せるものであり,その社会的影響も看過することができない。
被告人は,EやHらを介してCやGに継続的に臍帯血を提供し,臍帯血移植
の症例に係る照会に回答するなど,CとGが本件臍帯血移植を実施する上で重
要な役割を果たし,判示第3及び第4の犯行に限っても,臍帯血の販売によっ
て約970万円という多額の利益を得ている。また,臍帯血移植が違法である
と確定的に認識しながら,保有していた臍帯血をできる限り販売して利益を得
たいと考え,確たる根拠もないのに,共犯者らに対し,本件臍帯血移植が再生医
療法の適用対象ではないなどと誤った説明を重ね,本件臍帯血移植の継続を助
長したのであり,その身勝手な意思決定に対しては厳しい法的非難が向けられ
るべきである。
そうすると,被告人自身は,第一種再生医療等提供計画の提出義務を課され
ている管理者(医者)ではなく,個々の案件で臍帯血移植を実施するかどうか
の判断はCやGに委ねられている点を前提としても,被告人の本件各犯行への
関与の度合いはかなり大きく,共犯者との比較においても,犯情は重いという
べきである。
3次に,詐欺の各犯行(判示第1,第2)についてみると,被告人は,将来子供
が病気になった場合に備えて有償で保管委託していた,臍帯血に思い入れのある
各被害者に対し,臍帯血が再生医療発展のための研究に用いられるなどと申し向
けてその旨信じ込ませ,臍帯血合計3個の所有権を放棄させたのであり,各被害
者の善意等を利用し,言葉巧みに臍帯血をだまし取った手口は悪質というほかな
い。もとより,転売目的でこのような犯行に及んだ動機等に酌むべき事情は見受
けられず,実際,不正に入手した上記臍帯血のうちの2個を合計330万円もの
高額で売却し,利益を得ていることからしても,その意思決定に対しては厳しい
法的非難が向けられるべきである。
4加えて,横領の犯行(判示第5)についても,自らが行ってきた臍帯血関連事
業が捜査対象とされていたにもかかわらず,その事業を第三者に譲渡して利益
を得ようと考え,買収話を仲介していたDが自らが経営する診療所に対する臍
帯血の販売の継続を求めていたことから,Eの依頼に応じて,Dの便宜を図る
目的で犯行に及んだというのであり,その利欲的な動機に酌むべき点がないこ
とはもとより,犯行の発覚を免れるため,押収されている臍帯血の全体の個数
が変わらないよう別の臍帯血を入れ替えて保管する偽装工作を施していること
からしても,犯情が軽いとはいえない。
5以上のとおり,被告人については,犯情の重い再生医療法違反(法定刑が1年
以下の懲役等)の犯行が2件ある上に,より法定刑の重い詐欺や横領の犯行が
あり,これらの犯情も併せ考慮すると,その刑事責任は,共犯者と比較しても,
全体として重いといわざるを得ない。
6ただ,被告人にこれまで懲役前科がないこと,犯罪事実を認めて反省の態度を
示し,経営する臍帯血販売会社を既に解散するなどして,今後は臍帯血移植等
に関わらない旨約していること,詐欺の各被害者との間でそれぞれ示談が成立
していること,出廷した妻が今後の監督を申し出ていることなどの事情を考慮
すると,懲役2年4月の刑を科してその刑事責任を明確にした上,今回に限っ
ては刑の執行を猶予し,社会内において自力更生の機会を与えるのが相当であ
ると判断した。
(求刑―懲役2年6月)
(別表省略)
平成29年12月14日
松山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 末弘陽一
裁判官 馬場義博
裁判官 丸林裕矢

PDF

平成29(わ)313
主文
被告人を懲役10月に処する。
この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,臍帯血の卸売等を業としていたア株式会社の代表取締役として同社の
業務全般を統括管理していたもの,分離前の相被告人Aは,東京都ab丁目c番d
号eビル1階所在の診療所であるイの管理者であるが,被告人は,A,B及びCと
共謀の上,前記イにおいて再生医療法に規定する第一種再生医療等に該当する他人
間の臍帯血移植を実施するに当たり,Aにおいて,第一種再生医療等提供計画を厚
生労働大臣に提出することなく,別表記載のとおり,平成28年7月28日から平
成29年4月12日までの間,6回にわたり,前記イにおいて,Dほか3名に対し,
別表記載の各目的で,分離調製済みの冷凍保存された他人の臍帯血を,解凍の上,
投与し,もって第一種再生医療等提供計画を提出せずに第一種再生医療等を提供し
たものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
罰条包括して刑法65条1項,60条,再生医療法6
0条1号,4条1項〔同種行為を反復継続する意
思をもって事前の提出義務に違反し,各提供行為
に及んでおり,包括一罪になると解する。〕
刑種の選択懲役刑を選択
刑の執行猶予刑法25条1項
(量刑の理由)
1本件は,臍帯血の卸売業等を営む被告人が,判示診療所の管理者であるAのほ
か,B,Cと共謀の上,Aにおいて,第一種再生医療等提供計画を提出すること
なく,各患者に対し,それぞれ脳性麻痺の治療,網膜剥離の治療,アンチエイジ
ング,膵炎の再発防止の目的で,細胞の分離,冷凍等の操作を加えた他人の臍帯
血を解凍した上,皮下注射等をするという方法で臍帯血移植を行った再生医療法
違反の事案である。
2再生医療法は,実施される再生医療等に想定されるリスクの程度等に応じた
安全確保のための仕組みを設けており,臨床応用がほとんどなく,未知の領域
が多く残された第一種再生医療等については,細胞の腫瘍化や予測不能かつ重
篤な有害事象を発生させ,人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあ
ることに鑑み,同法4条1項において,これを提供しようとする病院又は診療
所の管理者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,その提供計画の提出
を義務付けている。被告人らが再生医療法施行以前から実施してきた臍帯血移
植は,アンチエイジング等の目的,あるいは移植に用いる造血幹細胞の適切な
提供の推進に関する法律施行規則1条所定の27疾病(悪性リンパ腫,急性白
血病等の疾病)以外の疾病に対する治療を目的として,免疫抑制等の処置をす
ることなく,細胞の分離,冷凍等の操作を加えただけの他人の臍帯血を皮下注
射等によって患者に投与する方法(以下「本件臍帯血移植」という。)による
ものであり,このような方法は,安全性,有効性が確立された医療技術ではな
く,投与された細胞の性質が体内で変わり得る未知のリスクが含まれるもので
あって,移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律2条2項所
定の有効性,安全性が確立された造血幹細胞移植には該当せず,また,本来の
細胞と異なる構造・機能を発揮することを目的として細胞を使用するものであ
り,再生医療法2条4項所定の「細胞加工物」を用いた医療技術であると解さ
れることなどから,同法4条1項の適用対象となる第一種再生医療等に該当す
るものであった。
被告人らは,平成27年11月に再生医療法の罰則適用の対象となり,平成
28年1月には,厚生労働省から,本件臍帯血移植が再生医療法の対象となる
ため直ちに治療の提供を中止し,法に基づく手続を行うよう行政指導がされた
にもかかわらず,その後も平成29年4月までの間,医師であるAにおいて,
前記27疾病に該当する病名又はその疑いがあるなどと,事実とは異なる診断
名をカルテに記載するなどして同法の適用除外となる臍帯血移植であるかの
ように装いながら,被告人から提供された臍帯血を用いて本件犯行に及び,そ
れぞれ多額の利益を得ていたのであり,本件犯行は,再生医療等提供計画の提
出を義務付けることにより当該治療の安全性確保を図るという同法の趣旨を
没却する悪質な犯行であったというべきである。加えて,本件臍帯血移植は,
前記のとおり,安全性や有効性が科学的に証明されておらず,仮に,第一種再
生医療等提供計画を提出しても,そのまま受理されることはないというもので
あり,人命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあったのであるから,唯一
医業を行うことができる医師によってこのような行為が行われたことは,再生
医療そのものに対する国民の信頼を著しく失墜させるものであり,その社会的
影響も看過することができない。
被告人は,長男のCとともに臍帯血の卸売業等を営んでおり,臍帯血の保管,
販売業等を営んでいたBから継続的に臍帯血を仕入れ,これをAの経営する診
療所に提供していたほか,被告人自ら臍帯血の搬送や解凍作業をしたり,Aか
ら臍帯血移植の症例の照会を受けると,Bに照会した上で回答したりするなど,
Aが本件臍帯血移植を実施する上で不可欠かつ重要な役割を果たし,本件犯行
に限っても,臍帯血の販売によって合計約467万円もの利益を得ている。ま
た,証拠上,本件臍帯血移植が再生医療法の適用対象になることや,Aがカル
テに事実とは異なる診断名を記載していたことについて,被告人が確定的な認
識を有していたとまでは認められないものの,前記行政指導後も,Aが患者を
27疾病又はその疑いと診断した上,実際には,アンチエイジングや27疾病
以外の疾病に対する治療を目的として本件臍帯血移植を継続することを認識
していながら,患者への副作用などの危険性や再生医療法の規制について深く
考えずに,Aに対する臍帯血の提供を継続した点については,強い非難を免れ
ないというべきである。
3このような観点からすると,被告人自身は,第一種再生医療等提供計画の提出
義務を課されている管理者(医師)ではなく,個々の案件で臍帯血移植を実施す
るかどうかの判断はAに委ねられている点を前提としても,その刑事責任は,当
該違反の法定刑(1年以下の懲役等)の範囲の中で比較的重い位置付けになると
いうべきである。
4その上で,被告人に前科前歴がないこと,犯罪事実を基本的に認めるなど反省
の態度を示し,経営する臍帯血の卸売会社を既に解散し,今後は臍帯血移植等に
関わらない旨約していること,出廷した夫が今後の監督を申し出ていることなど
の事情を考慮すると,懲役10月の刑を科してその刑事責任を明確にした上,今
回に限っては刑の執行を猶予し,社会内において自力更生の機会を与えるのが相
当である。そして,その執行猶予期間については,本件事案の内容を踏まえた再
犯可能性の乏しさなどを考慮し,2年間とするのが相当であると判断した。
(求刑―懲役10月)
(別表省略)
平成29年12月14日
松山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 末弘陽一
裁判官 馬場義博
裁判官 丸林裕矢

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