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       主   文
 本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 請求(原告ら)
一 被告が岩崎産業株式会社に対し平成四年三月三一日付けでした森林法一〇条の
二に基づく林地開発行為の許可処分(指令森保第三六号)は無効であることを確認
する。
二 被告が奄美大島開発株式会社に対し平成六年一二月二日付けでした森林法一〇
条の二に基づく林地開発行為の許可処分(指令六森保第一五号)を取り消す。
第二 事案の概要
一 岩崎産業株式会社(本店・鹿児島市)は、平成二年ころから、鹿児島県大島郡
α一四四二番地外(奄美大島南東部に位置する。乙一)に、一八ホールの奄美オー
シャン・ビューゴルフクラブ(開発面積約一七一万平方メートル)のゴルフ場(以
下「δゴルフ場」という。)開発を計画しているところ、被告は、同社に対し、平
成四年三月一三日付けで、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為の許可処分(指
令森保第三六号。甲二八)をした(以下「岩崎産業に対する本件処分」とい
う。)。
二 奄美大島開発株式会社(本店・鹿児島市)は、平成二年ころから、鹿児島県大
島郡β九一八の一番地外(奄美大島北東部に位置する。乙一)に、一八ホール(開
発面積約一二五万平方メートル)のゴルフ場(以下「γゴルフ場」といい、δゴル
フ場と併せて「本件各ゴルフ場」という。)開発を計画しているところ、被告は、
同社に対し、平成六年一二月二日付けで、森林法一〇条の二に基づく林地開発行為
の許可処分(指令六森保第一五号。甲二三、乙六)をした(以下「奄美大島開発に
対する本件処分」といい、岩崎産業に対する本件処分と併せて「本件各処分」とい
う。)。
三 原告らは、δゴルフ場開発予定地及びその周辺には、アマミノクロウサギ(特
別天然記念物。環境庁作成のレッドデータブックでは危急種とされ、国際自然保護
連合(IUCN)作成のレッドデータブックでは絶滅危惧種とされている。)、オ
オトラツグミ(天然記念物、国内希少野生動植物種)など南西諸島独特の貴重種が
高い密度で生息する地域であり、δゴルフ場開発はこれらの動物の種の存続に大打
撃を与え、また、γゴルフ場開発予定地及びその周辺には、アマミヤマシギ(国内
希少野生動植物種)、ルリカケス(天然記念物、国内希少野生動植物種、鹿児島県
鳥)など貴重な動物相が見られ、γゴルフ場開発はこれらの動物の種の存続
に深刻な影響を及ぼすおそれがあるほか、調整池などの堰堤などの崩壊により周辺
住民、土地利用関係者に被害が及ぶ危険があるところ、本件各処分は、森林法一〇
条の二第二項一号、一号の二、三号に違反する違法、無効なものと主張して、その
取消し及び無効であることの確認を求めるものである。
第三 本案前の申立て(被告)
 本件訴えをいずれも却下する。
第四 本案前の当事者の主張及び原告の本案主張
 別紙「当事者の主張」のとおり
       理   由
第一 奄美の自然と原告名が冠された野生動物、本件各ゴルフ場予定地の状況と原
告らの観察活動、本件訴訟の特徴について
一 奄美大島の自然の特徴
1 奄美大島の概要
 奄美大島は、面積約七一九平方キロメートル、加計呂麻島等の近接の島を含めた
行政界の面積は約八二〇平方キロメートルあり、沖縄島、佐渡島に次いでわが国で
三番目に大きい島である。九州から約三八〇キロメートル、屋久島から約三〇〇キ
ロメートル弱離れており、海岸線は複雑に入り組み、周囲は約四〇五・六キロメー
トルある。西部にある標高六九四・四メートルの湯湾岳が最も高く、山麓斜面が海
岸線まで迫って険しい地形をなしている。北東端の笠利半島は赤尾木の約八〇〇メ
ートルの細い地峡で陸続きになっているものの、南西部分から比較的隔離されてお
り、地形もほかに比べて平坦である。わずかにあるサトウキビ畑などはこの半島に
集中している。全島の約八五パーセントが森林及び原野であり、気候は島の西側を
流れる黒潮の影響で亜熱帯海洋性気候を示し、四季を通じて温暖・多湿で、年平均
降雨量は二八七一ミリに達する日本有数の多雨地域である(甲一九、一〇二、一〇
一五)。
2 奄美大島の生物相の特色及び重要性
 奄美大島は、動物地理区上の旧北区に属するトカラ列島以北の本土地域とは異な
り、東洋区に属し、本土とは様相を異にした自然が展開している。また、奄美大島
以南の南西諸島は、一五〇万年前にトカラ海峡が成立した後も(このラインを生物
地理上「渡瀬線」という。)中国大陸と琉球弧の陸橋で結ばれていたため大陸起源
の古い動植物が陸伝いに渡来することができ、また、琉球弧が島になってからは島
嶼という限られた環境で残存種が保存された。そのため大陸起源の古い種が遺存
し、あるいは島内で固有の種に進化したものも多い(甲一〇一五、証人Aの証
言)。
3 奄美大島の自然及び野生生物の現状
奄美大
島に生息する動物相は、両生類が五科一二種、は虫類が八科一六種、鳥類が一九科
三四種、ほ乳類が七科一五種(甲一〇一五・一七頁)であるが、急激な開発等の影
響により、このうち、環境庁の編集した「日本の絶滅のおそれのある野生生物―レ
ッドデータブック―」(以下「日本版レッドデーターブック」という。)選定によ
る絶滅危倶種は四種(アマミヤマシギ、オオトラツグミ等)、危急種一一種(アマ
ミノクロウサギ、ルリカケス等)、希少種一八種とその種の存続が緊急の課題とな
っているものが少なくない(甲三二、証人Aの証言)。
二 原告名が冠された野生動物について
1 アマミノクロウサギ(検甲一、四二、四三、甲三二、三七、証人Aの証言)
アマミノクロウサギ(学名ペンタラーグス・ファーネシー)は、ウサギ科のアマミ
ノクロウサギ属に属する一属一種の固有種として(アマミノクロウサギをムカシウ
サギ亜科に分類する学者もいるが、疑問も呈されている。)、奇跡的に生き残った
遺存種であり、「生きた化石」として紹介される。現生のウサギ科中もっとも原始
的なタイプで、眼と耳介が小さく、足は短く、爪は強大で穴を掘るのに適してい
る。尾はウサギ科中でもっとも短く約一・五センチメートル程度しかない。体長は
四一・八から五一センチメートル、耳長四・一から四・五センチメートル、爪は一
から二センチメートル、体毛厚く、毛が深い、背面暗褐色、腹面はより赤味を帯び
る。山の斜面の土中に長さ約一メートル前後の横穴を掘り、その中で産仔する。一
腹の産仔数は一から三個体で年に二回の繁殖を行う。シイ・カシなどの原生林を生
息地の核としてその周辺に広がる伐開跡地・造林地、ススキなどの生い茂る荒れ
地、農耕地などで採食している。奄美大島北部の低山帯を除いた山間部、徳之島の
山間部に広く分布しているが、一九九二年から九四年にかけて奄美大島全島につい
て行われた分布及び生息頻度の調査結果によると、分布域に大きな変化はないが、
北東部(名瀬市市街地の東と西)で後退し、相対的な生息密度に非常に大きな地域
差があり、比較的高密度を保っている地域が限られ(朝戸川から川内川上流にかけ
て、住用川上流の西側、肥後山から青久にかけての一帯など)、名瀬市街地より東
は生息密度が非常に低く、全体的に生息密度レベルが七六年、八六年の調査時点に
比べてかなり低い(全ルートの糞数の平均値は、七六年が二三三個/km/日
、八五から八六年が四七・二個/km/日、九二から九四年が一三・〇個/km/
日)とされている(甲三二、甲三七「A アマミノクロウサギと奄美大島のランド
スケープの変遷」)。
 日本版レッドデーターブック(甲三二)では、「アマミノクロウサギが生存の基
盤としている原生林は現在のところ細々と残存しているので、ただちに絶滅の危機
にはおかれていないが、現行の速度で天然林の伐開が進行すると、生活の基盤を失
い早期に絶滅するおそれがある。」、「原生林はこれまで人・ノイヌ・ノネコ・猛
禽類の侵入を阻止してきたが伐開はこれを許すことになる。天然林の伐開はクロウ
サギのみならずルリカケス・ケナガネズミ・セマルハコガメなど希少種を絶滅に導
くことになる。」として「危急種」(絶滅の危機が増大している種又は亜種)に選
定されている。また、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブック(一九
九〇年)では絶滅危倶種に指定されている。
 大正一〇年の「史跡名勝天然記念物保存法」に基づき、わが国で最初の「天然記
念物」に指定され、文化財保護法下でも「天然記念物」に指定され、さらに、昭和
三八年「特別天然記念物」(文化財保護法六九条二項)に指定されている(乙二の
3)。なお、現在のところ、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法
律(以下「種の保存法」という。)にいう国内希少野生動植物種(四条三項。その
個体が本邦に生息し又は生育する絶滅のおそれのある野生動植物の種であって、政
令で定めるもの)には指定されていない。
2 オオトラツグミ(検甲二、四〇、甲一九、三二、八二、八四)
オオトラツグミ(学名トゥルドゥス・ダウマ・アマミ)は、奄美大島と加計呂麻島
のみに分布する特産亜種であり、生態的に不明な点が多い。体は日本産のツグミの
仲間では最大であり、亜種トラツグミによく似ているが体が大きく、また体色は黄
色味に富む。地上採食性で昆虫類・ミミズ類・果実などを食べていると推測され、
生息地の条件や生息状況は不明であるが、奄美大島のクス・シイ・タブ・イス`カ
シなどの常緑広葉樹林にのみ生息する分布の極限された亜種である。自然植生であ
る亜熱帯広葉樹林のスギ・リュウキュウマツなどへの樹種転換が行われたり、パル
プ用材としての森林の伐採により、日本版レッドデーターブック(甲三二)では、
「絶滅危倶種」(絶滅の危機に瀕している種又は亜種。もしも現在の状態
をもたらした圧迫要因が引き続き作用するならば、その存続が困難なもの)に選定
されている。
 文化財保護法により、昭和四六年、天然記念物に指定され、また、種の保存法に
より、国内希少野生動植物種(四条三項)に指定されている(同法施行令一条一項
別表第一表一の(一二)すずめ目ひたき科)。研究者及び奄美野鳥の会による生息
調査(ルートセンサス、定点観察及び任意観察によるさえずり個体)において確認
された生息数も極めて少ない(甲八二、八四)。
3 ルリカケス(検甲四、三〇、甲一九、三二、八三、乙二の3)
ルリカケス(学名ガルルルス・リドティ)は、奄美大島とその属島(加計呂麻島、
請島)のみに周年普通に生息する特産種である。徳之島では絶滅状態と考えられて
いる。青紫色と赤栗色の美しい鳥で、常緑広葉樹林や二次林にも住む。樹洞や岩の
割れ目・林に近い市街地の建物などにも営巣する。奄美大島ではγ以南のほぼ全域
に広く分布する。雑食性で人為的な環境にも営巣する適応をみせ、現在絶滅の危機
に直面してはいないが、分布が極限されているため、森林伐採など環境の悪化に伴
う急速な個体数の減少も考えられるとされ、日本版レッドデーターブック(甲三
二)では危急種に選定されている。大正一〇年「天然記念物」に指定され(乙二の
3)、文化財保護法下でも「天然記念物」に指定されている。種の保存法では、国
内希少野生動植物種(四条三項)に指定されている(同法施行令一条一項別表第一
表一の(一二)すずめ目からす科)。
4 アマミヤマシギ(検甲三、二九、甲一九、三二)
アマミヤマシギ(学名スコロパクス・ミラ)は、南西諸島の特産種であり、奄美大
島、徳之島、沖縄本島、渡嘉敷島の四島に留鳥として生息し、常緑広葉樹林に周年
住む茶色の太ったシギである。二月から三月に地上でディスプレイを行い、山地の
地上に皿型の巣を作り、三月中旬から五月初旬に二から四卵を産む。夜行性。詳し
い生態はまだよくわかっていないが、人の存在には比較的無関心で、夜間、林道に
出て餌をとったりする。日本版レッドデーターブック(甲三二)には、絶滅危惧種
に選定されている。また、種の保存法により、国内希少野生動植物種(四条三項)
に指定されている(同法施行令一条一項別表第一表一の(八)ちどり目しぎ科)。
三 本件各ゴルフ場予定地の状況と原告らの観察活動
1 γゴルフ場予定地(市理原)
(一) 予定地の状況
 γ
は奄美大島の北東部に位置する(名瀬市と笠利町に挾まれる)。γゴルフ場予定地
のある市理原地域は、同町東部の海に面した山地にあり、東側は急傾斜地や断崖が
発達している。周囲の森林とは孤立した形態で存在し、頂上付近に小さな湿地があ
る(甲三一、乙一、六)。
(二) 予定地の動植物
 風衝低木とリュウキュウマツの混じる壮齢照葉樹林を主体とし、一部にオキナワ
ウラジロガシの大径木を含む壮齢照葉樹林がある。東側斜面はやや急で樹高が低く
リュゥキュウマツが多いが、西側は緩やかな斜面で樹高も高い。同地区にはアマミ
ヤマシギ、ルリカケス、オーストンオオアカゲラ、カラスバト等の鳥類が生息して
いる(甲一一、一二、一九)。
(三) 原告らの観察活動
 原告らは、同地区において、道路沿い、あるいは屋入川下流域の谷筋に沿って鳥
類等の生態観察活動を行っている(甲一一〜一六、一六九の1・2、原告B、C、
D、E)。
2 δゴルフ場予定地
(一) 予定地の状況
 δは奄美大島の南東部に位置し、δゴルフ場予定地は名瀬市から約四〇キロメー
トルの距離にある市の集落から南東に伸びる岬(市崎)の先端部にある。かつては
放牧地として利用されていたが、同ゴルフ場予定地へ容易に通行できる道はない。
付近は大部分がススキの原となり、それを常緑広葉樹林が取り囲んでいる。岬の北
西側には大浜と呼ばれる入江があり、その背後に丘陵地が広がり、ハチジョウスス
キの原となっている。岬から北東側には急峻な海食崖が連続する(甲二四〜二八、
乙一、検証の結果)。
(二) 予定地の動植物
 δゴルフ場予定地及びその周辺部の植生は、二次林(常緑広葉樹林)、海岸の風
衝低木林、ハチジョウススキ草原など様々なタイプの植生がモザイク状に分布し、
低い樹木がまだらに見られ疎林状の部分も見られる。岬の先端部のハチジョウスス
キの原を取り巻くように岬の根元側にはスダジイを主体とする常緑広葉樹の自然林
が展開している。同地区にはルリカケス、アマミノクロウサギ(糞による確認。な
お、後記第四参照)等の動物が生息している(甲九八・九九、証人Aの証言、検証
の結果)。
(三) 原告らの観察活動
 原告らは、同地区において、市崎の大浜付近から上陸したり、山道、尾根沿いに
動植物の生態観察活動を行っている(甲一七・一八、八一〜一二二、一六九の1・
2、原告B、C、D、E)。
四 本件訴訟の特徴
 本件訴訟は、本件各ゴルフ場の
開発によって開発予定地及びその周辺地域の自然環境が破壊され、そこに生息する
アマミノクロウサギ、オオトラツグミ、アマミヤマシギ、ルリカケスなど奄美の貴
重種である野生動物がその種の存続に大打撃を受け、これらの野生動物を含む奄美
の自然の「自然の権利」が侵害されるとして、奄美大島において野鳥観察活動等野
生動物の観察活動を行ってきた原告ら(別紙当事者目録(一)の自然人の原告ら)
及び同原告らで結成した自然保護活動団体である原告環境ネットワーク奄美が、自
然観察活動や自然保護活動を通じて奄美の自然をよく知り、奄美の自然と深い結び
つきを有することから、奄美の自然の代弁者として、本件各処分の取消し及び無効
確認訴訟の原告適格を有すると主張して提起しているものである。本件訴訟の主要
な争点は、ゴルフ場開発予定地及びその周辺地域において自然観察活動・自然保護
活動を行う個人や団体に対して、ゴルフ場開発を許可した林地開発許可の取消し・
無効確認を求める原告適格が認められるかどうかであり、ここでは「自然の権利」
という新しい概念を原告らに原告適格が肯定されるべき根拠として主張している点
に本件訴訟の特徴がある。
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