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平成30年6月1日宣告
平成30年(わ)第103号現住建造物等放火未遂被告事件
判決
主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
札幌地方検察庁で保管中のライター1本(平成30年領第207号符
号1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,札幌市a区b条c丁目d番e号所在の「甲」f棟(以下「本件建物」
という。)g号室(以下「被告人方」という。)に入居していたところ,本件建物
での生活に対する不満が高まり,被告人方において火を放って騒ぎを起こすことで
本件建物を退去して刑務所に入りたいと考えるようになったことから,平成29年
12月7日午後9時16分頃,被告人方において,Aら43名が現に住居として使
用し,かつ,同人ら43名が現在する本件建物(鉄筋コンクリート造陸屋根地下1
階付5階建,床面積合計約2427.48平方メートル)に火が燃え移る危険があ
ることを分かっていながら,ベッドの布団にライター(平成30年領第207号符
号1)で点火して火をつけたが,臨場した消防隊員により消火されたため,室内の
壁紙等を焼損したにとどまり,本件建物の焼損に至らなかった。
(事実認定の補足説明)
本件の争点は,被告人がベッドの布団に火をつけた際,本件建物に火が燃え移る
可能性を分かっていたか(現住建造物等放火罪の故意の有無)である。
証拠を検討すると,被告人は,さほど広くないワンルームの部屋の壁に沿って置
かれたベッドの布団に火をつけているのであるから,本件建物の構造部分が基本的
にコンクリートで造られているとはいっても,放っておけば本件建物の一部に火が
燃え移る危険があることは通常容易に分かるといえる。
この点,被告人には本件当時精神遅滞,統合失調症等の精神障害があり,現実的
検討能力が低く,後先を考えずに短絡的に放火行為に及んでいるともいえるところ
である。しかしながら,被告人は,火がベッドの上から他に燃え広がらないような
行動や自ら消火するような行動はとらずに被告人方から立ち去っており,このこと
からすれば,被告人は火が布団からその周辺に燃え広がる可能性を予測していたと
見ることができる。このことに加え,被告人は,本件建物に勤務していた職員の部
屋を訪れて火をつけた旨申告しているところ,被告人は,この行動をとった理由に
ついて,放っておけば危ないと感じていたとも述べており,建物の構造が異なると
はいえ過去に布団に火をつけて建物を全焼させたことがあることをも併せ考えると,
被告人が意図する以上に火が布団からその周辺に燃え広がる可能性があることもな
お一層理解していたものと見ることができる。
そうすると,被告人は,弁護人が指摘する被告人の精神障害等の事情を考慮して
も,布団に火をつけると布団等のベッド上の物が燃えるにとどまらず,建物の一部
にも火が燃え移る可能性があることは分かっていたと認められ,現住建造物等放火
罪の故意があったと認められる。
(累犯前科)
事実
平成24年7月20日甲府地方裁判所宣告
建造物侵入,窃盗の罪により懲役1年4月
平成25年10月29日刑執行終了
(法令の適用)
罰条刑法112条,108条
刑種の選択有期懲役刑
累犯加重刑法56条1項,57条(刑法14条2項の制限内
で再犯の加重)
法律上の減軽刑法43条本文,68条3号
未決勾留日数の算入刑法21条
没収刑法19条1項2号,2項本文(札幌地方検察庁で
保管中のライター1本〔平成30年領第207号符
号1〕は判示犯行の用に供した物で被告人以外の者
に属しない。)
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,放火を認識しても速やかな避難が困難であると予想される高齢者又は障
害者が多数所在する建物内において火をつけたものである。本件建物が鉄筋コンク
リート造であることなどからすると,多数の居住者に危害が及ぶ現実的なおそれが
高かったとまではいえないが,多数の者に対し危害を及ぼし得る危険な犯行といえ
る。
被告人が犯行に及んだのは,軽度の精神遅滞により事の重大性の認識が乏しいな
ど現実的検討能力が低かったことなどの影響もあり,この点を無視することはでき
ない。しかし,本件建物内での生活に不満を感じ,本件建物から出ていきたいなど
と思い,本件犯行に至ったものであって,このような動機から危険な犯行に及んだ
ことは身勝手なものであるといわざるを得ず,非難の程度が大きく低下するとはい
えない。
そうすると,被告人の犯行は,精神障害を考慮しても,前科のある者が現住建造
物等放火未遂を1件行ったという本件と同様の事案の中では中程度に位置付けられ
るので,主文の刑が相当である。
(検察官大友隆,長谷川麻理,国選弁護人浅水正,田頭理各出席)
(求刑懲役5年,主文同旨の没収)
平成30年6月1日
札幌地方裁判所刑事第1部
裁判長裁判官 島戸純
裁判官 平手健太郎
裁判官 亀井直子

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