報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

千歳トレーラー死傷事故、高梨被告に実刑判決 札幌地裁

 千歳市内の国道で1月、トレーラーを対向車線にはみ出させ、伊達市の会社員津崎慎治さん=当時(38)=ら2人が死傷する事故を引き起こしたとして、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた胆振管内洞爺湖町、会社員高梨正志被告(34)の判決公判が20日、札幌地裁であった。坂田正史裁判官は「不要にブレーキ操作した過失は危険で重大」として禁錮2年8カ月(求刑禁錮3年6カ月)を言い渡した。
 高梨被告は公判で「津崎さんが先に対向車線にはみ出してきた」と述べ、事故原因は津崎さん側にあるとして過失を否認していた。
 判決理由で坂田裁判官は、事故当時、高梨被告の後続を走っていた男性の証言などから「津崎さんは進路を保っていた。高梨被告が不用意なブレーキ操作をしたと強く推認できる」と指摘。高梨被告の供述は、津崎さんの走行状況に関して「大きく変遷しており、不合理」などと退けた。
(09/20 13:51 更新 北海道新聞)

トレーラー荷台 "わざと"はみ出し2人死亡 運転の男 禁錮2年8か月 「不必要なブレーキ」 札幌地裁

 北海道千歳市で2017年1月、トレーラーの荷台が対向車線にはみ出て2人が死傷した事故で、運転手の男に禁錮2年8か月の判決が言い渡されました。
 洞爺湖町の会社員、高梨正志被告(34)は、2017年1月、千歳市の国道で、トレーラーを運転中に荷台部分を対向車線にはみ出させ、その結果、別のトレーラー同士が衝突する事故を起こし、男性2人を死傷させたとして過失運転致傷の罪に問われていました。
 高梨被告は、自分に過失はないと無罪を主張していました。
 20日の判決公判で、札幌地裁の坂田正史裁判長は「不必要にブレーキを操作し対向車線に荷台をはみ出させ、その過失は危険、重大」と指摘し、禁錮2年8か月の実刑判決を言い渡しました。
(9/20(水) 19:11 UHB)

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平成29年9月20日宣告平成29号過失運転致死傷被告事件
主文
被告人を禁錮2年8月に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成29年1月11日午前11時55分頃,大型貨物自動車(大型ト
レーラ)を運転し,北海道千歳市ab番地先の左方に湾曲し路面が凍結した道路を
伊達市方面から苫小牧市方面に向かい時速約60kmで進行するに当たり,不必要
な制動措置を差し控え,進路を適正に保持して進行すべき自動車運転上の注意義務
があるのにこれを怠り,不必要にトレーラブレーキを操作して制動措置を講じ,自
車トレーラ部の後部を滑走させて対向車線にはみ出させた過失により,折から大型
貨物自動車(大型トレーラ)を運転して対向直進してきたA(当時38歳)をして
自車との衝突回避のために左転把の措置を余儀なくさせ,同車をその進路左側の雪
壁に衝突させた上,走行の自由を失わせて対向車線に暴走させ,その対向から直進
してきたB(当時40歳)運転の大型貨物自動車(大型トレーラ)右前部にA運転
車両前部を衝突させ,よって,Aに多発外傷の傷害を負わせ,同日午後4時35分
頃,札幌市中央区c条d丁目e番地所在のf病院において,同人を前記傷害に基づ
く出血性ショックにより死亡させたほか,Bに加療約3か月間を要する右膝関節開
放骨折等の傷害を負わせた。
(事実認定の補足説明)
第1争点の所在等
本件では,公訴事実記載の日時・場所において,被告人運転の大型貨物自動車が
進行する車線の対向車線を走行していたA運転の大型貨物自動車が進路左側の雪壁
に衝突した上対向車線に暴走し,被告人車両の後続車両の1台であったB運転の大
型貨物自動車の右前部にA車両の前部が衝突し,それにより,公訴事実記載のとお
りAが死亡するに至り,Bが傷害を負ったことに争いはない。もっとも,公訴事実
では,被告人が不必要にトレーラブレーキを操作して自車のトレーラ部分後部を対
向車線にはみ出させる過失を犯し,そのために,Aをして被告人車両との衝突を回
避するために左転把の措置をさせ,A車両を進路左側の雪壁に衝突させた上で対向
車線に暴走させ,B車両と衝突させるに至ったとされている点について,被告人
は,自身がトレーラブレーキを操作した事実はなく,本件事故の原因は,A車両が
被告人の走行車線に進入してきたことにあるなどとして,過失を争っている。そこ
で,当裁判所が被告人の過失を公訴事実どおりに認定した理由につき,以下補足し
て説明する。
第2当裁判所の判断
1関係証拠によれば,以下の前提事実が認められる。
本件の現場道路(国道g号線の北海道千歳市ab番地先)は,h湖沿いの片
側一車線の道路であって,被告人車両の進行方向であった苫小牧市方面に向かって
左方のh湖側に次第に湾曲する(曲線半径約280m)とともに,やや上り勾配で
あった。本件当時,現場道路には積雪があって凍結しており,路面は圧雪状態又は
シャーベット状態であった。
本件事故が起きた平成29年1月11日,被告人車両及びB車両を含め,被
告人が役員を務めるC株式会社の大型貨物自動車(大型トレーラ)4台は,運搬業
務のために苫小牧市と伊達市との間を往復することとなっており,一方,Aも,運
搬業務のために同様の区間を大型貨物自動車(大型トレーラ)で行き来することと
なっていた。同人は,被告人らとは別の会社の従業員であったものの,同じく大型
貨物自動車の運転に従事していたこともあって,愛称で呼び合い,運転中に無線機
で各々相互に会話を交わすこともあるなど,被告人らC株式会社の従業員と親しい
間柄であった。
被告人車両は,長さ約5.89mの牽引車両(トラクタ)と長さ約12mの
被牽引車両(セミトレーラ。以下「トレーラ」ともいう。)から構成されていた。
被告人車両を含む4台の大型貨物自動車は,先頭から被告人車両,D運転車両,B
車両,E運転車両の順序で,無線の会話等から,対向車線を進行してくるA車両と
いずれすれ違うであろうことを知りながら,国道g号線を伊達市方面から苫小牧市
方面に進み,本件現場手前で片側通行規制がなされていた箇所でいったん停止し,
その後は連なって進行し,被告人車両やD車両が時速約60kmで現場道路に至っ
たところ,対向車線を伊達市方面に走行するA車両(トラクタの長さ約6.64
m,トレーラの長さ約9.83m)とすれ違い,その頃,A車両が進行方向左方の
雪壁に衝突し,さらに対向車線に進入してB車両と衝突した(本件事故)。これに
より,A車両のトラクタ前部及びB車両のトラクタ右前部が大破するなどして,判
示のとおりAは死亡するに至り,Bは傷害を負った。
被告人,D及びEは,現場で事故の通報やAやBの救護等に当たったが,そ
の頃被告人は,B車両のドライブレコーダーからSDカードを抜き取り,警察官か
ら提出を求められたが,これに応じず持ち帰った。
2本件事故の目撃者の供述について
本件事故を目撃したDは,概要以下のとおり供述している。
A車両が対向車線を進行してきたところ,前を走行していた被告人車両のシャー
シ(トレーラ)が対向車線側(進行方向右側)に流れて行った。被告人は,Aをび
っくりさせてやろうというような感じで,わざとシャーシを対向車線に流したと思
う。そのシャーシは対向車線の半ばくらいまで流れていた。A車両とすれ違った
際,同車両はシャーシを避けようと左に寄って雪山と衝突し,左フロントタイヤが
雪山に乗り上げるような格好で姿勢を崩し,ジャックナイフ状態(トラクタ部分と
トレーラ部分とが「く」の字の形に折れ曲がる状態)になって自分たちの車線の方
へ向かってきた。A車両とすれ違う頃,同人が無線のマイクを握り左にハンドルを
切っている姿が見え,無線を通じて,同人が「兄弟,ちょっとそれは」と言うのが
聞こえた。後ろを走行していたBのことが心配になり,無線で声を掛けた瞬間,ド
ーンという衝突音が聞こえた。
そのほか,Dは,現場道路でA車両が対向車線にはみ出したり進出したりしたこ
とはなかった,シャーシが流れた際,被告人車両のスピードが落ちることはなく,
同車両のヘッド(トラクタ)は左右にぶれることなく車線内を真っすぐ普通に走行
していたとも供述している。
D供述の信用性について
アDは,被告人車両に追従してそのすぐ後ろを走行し,車両の運転席という近
い位置から本件事故の状況について目撃したもので,視認条件は十分良好であった
と認められる。供述内容も真に迫るものとなっており,とっさに起きた出来事であ
ったとはいえ,十分な注意力をもって観察していたものと認められる。Dは,被告
人車両とすれ違うまでの間A車両は車線上を問題なく走行していた旨をも供述して
いるところ,現場道路はDの進行方向に向かって左方に湾曲していたものの,道路
左端には積雪のある歩道部分とガードパイプを隔てて立木等がまばらにある程度の
状況で,吹雪いていたといった事情もなく,道路先の右方への湾曲部分まで見通し
を遮るものはなかったと認められ,やはり視認条件に問題はなかったといえる。ま
た,被告人側の事情が原因で本件事故が発生したとすると,B車両との衝突直前
に,A車両が雪壁に衝突して対向車線に進出するといった異常な動きをしていたこ
とや,Aが無線で「兄弟,ちょっとそれは」と言ったことは,状況に即した理由が
あったこととなり,そのような意味でD供述は合理的ということができる(仮に本
件事故の原因が,A車両が対向車線に進出するなどA側の事情にあったとすると,
何ゆえA車両がそのような動きをしたのか,何ゆえAがそのような言葉を発したの
か不可解であることとなる。)。
Bは,被告人のいとこに当たり,かつ,長らくC株式会社に勤務している人物で
あって,被告人の責任を殊更強調するおそれが比較的少ない間柄にあると考えられ
る。そのBは,A車両が左の雪山にぶつかって自分の車線に入り自車の方に向かっ
てきて衝突したことや,Aは事故直前に無線で「兄弟,それは」と言ったことを供
述しており,これらの部分でD供述を裏付けているといえる。また,D供述のう
ち,シャーシが流れた際,被告人車両のスピードが落ちることはなかったとする点
は,タコグラフチャート紙の鑑定結果から見て取れる被告人車両の速度変化の状況
にも沿うものといえる。
イたしかに,Dは,本件当日に現場で行われた実況見分の際,被告人がわざと
シャーシを流したといった重要な事柄について警察官に説明をしなかったことが認
められる。しかし,Dの供述によると,会社では自身が被告人の部下であること
や,本件が親しい仲間内の事故であったことなどから,自分の身を守ろうとする心
理もあって,Aが快復して証言することを祈って何も言わずにいたが,複数の友人
と相談して,隠しておくのはまずいと思い,また,Aが死亡したことを聞いて,自
身が言わなければAが一方的に悪者になってしまうといった考えから,翌日自宅に
来た警察官には,本件事故の原因は,被告人がわざとシャーシを流したことにある
旨を説明したというのであって,そのような思惑や心境の推移等は十分理由がある
ものといえる。むしろ,Dは,本件当日のうちに,C株式会社の社長(被告人の兄
F)に電話をかけ,被告人がわざとシャーシを流したために行き場を失ったAが突
っ込んで事故が起きた旨を告げており,その後も,知人や被告人との会話の中で,
このような事故状況を見た旨を伝えているなど,その説明は一貫していたといえ
る。そうすると,Dが当初警察官への説明を差し控えた点は,その供述の信用性評
価に影響を及ぼすものではない。
ウ以上によると,D供述は,本件事故の状況を認定する上で十分信用すること
ができると認められる。
弁護人の主張について
ア弁護人は,Dは,労働基準監督署に相談の電話をしたことがあるなど,C株
式会社の労働環境に強い不満をもっていたが,社長に借金があったために退職でき
なかったことや,あまり仕事をしない被告人の態度等に不満を抱いていたことなど
から,悪感情が原因で虚偽供述をする動機があると主張する。
しかし,Dがそのような不満を抱くなどしていたからといって,突然起きた本件
事故の責任を事実に反してまで被告人に負わせようとしているとみるのは,飛躍が
あるといわざるを得ない。事故から間もない段階で虚偽の状況説明を試みたところ
で,捜査の進行によっては,それが事実に反することは容易に露見するであろうか
ら,Dがそのような説明を行おうとするとは考え難いともいえる。Dは,本件事故
を境にたびたび無断欠勤をするようになったとも認められるが,その供述による
と,事故の記憶が浮かび,精神的に少し病んで仕事ができない状態になったという
のであって,被告人の行為が本件事故の原因であると考える中,被告人が役員を,
被告人の兄が社長を務める同社への出勤に抵抗を覚えて欠勤しがちになったとして
も,それは自然でやむを得ないことと考えられる。
イ弁護人は,平成29年1月31日頃にした被告人との電話で,Dが,A車両
が来るのは見えていなかった旨話していたことをも指摘する。しかし,その電話で
の被告人のDに対する話しぶりは,あからさまに口封じ等を図るわけではないもの
の,本件事故の責任が被告人にある旨Dが周囲に述べているのを被告人が承知して
いることを伝えつつ,暗に,Dが事故状況をどのように把握しているかを探るとと
もに,同人を誘導又は牽制しようとするものであったと認められる。そうであれ
ば,Dが,そのような被告人とのやり取りの中で弁護人指摘のような応じ方をした
ことが一部あったのも無理からぬことと考えられるから,その指摘は当たらない。
ウなお,弁護人は,Dが,捜査段階では一切供述していなかったのに,公判廷
では,本件事故前に現場手前の区間で被告人がわざとトレーラスイング(トラクタ
部分はそのまま走行し,トレーラ部分のみが左右に振られること)をさせているの
を見た旨述べていることを挙げ,これがD供述の最大の疑問点であるとも主張す
る。しかし,その点は,D供述の核心部分の信用性評価に当たって大きな意味をも
つわけではないと解される。たしかに,Dは,捜査段階の事情聴取で,本件以前に
被告人がわざとトレーラスイングをしているのを見たことがあったかと問われ,記
憶に従っていくつかの場面を供述したことがうかがわれるが,事情聴取の進み方い
かんによっては,Dが本件事故直前のそれを述べなかったとしても,不自然ともい
い難い。この点の弁護人の主張も採用できない。
エD供述の信用性を争う弁護人のその余の主張にも,採用できるものはないと
いわざるを得ない。
3被告人のブレーキ等の操作状況に関する検討
D供述にあるように,A車両が雪壁に衝突する直前,被告人車両のトレーラ
部分は,目に見える形でA車両の走行する車線内に進入していったこと,その際被
告人車両のトラクタ部分は進路を保って走行しており,かつ減速することがなかっ
たことなどに加え,捜査段階で実施された走行実験の結果から見て取れる,フット
ブレーキ又はトレーラブレーキを操作した場合における大型貨物自動車の走行軌
跡,挙動等の在り方を併せ考慮すると,被告人は,現場道路を走行中,トレーラブ
レーキのみを不必要に操作することによって車両のトレーラ部分を対向車線にはみ
出させたものと強く推認される。以下,若干補足して説明する。
本件走行実験の概要等
ア本件走行実験は,現場道路の形状・路面状態等を再現した場所で,被告人車
両と同種の大型貨物自動車を運転走行させ,左カーブの一定の地点においてフット
ブレーキ又はトレーラブレーキをいくつかの方法で操作するなどして,実験車両の
走行軌跡や挙動を計測・見分したものであり,その結果は概要次のとおりである。
イ.侫奪肇屮譟璽(トラクタ部分及びトレーラ部分双方のタイヤにブレーキ
がかかるもの)のみを弱く又は強くかけた場合,車両は減速し,車体は中央線をは
み出すことなく走行を終えた(1回目ないし3回目の実験。なお,フットブレーキ
を強めにかけた3回目の実験では,ブレーキをかけ始めて間もなくトレーラ部分の
タイヤがロックして同部分だけが遠心力でカーブの外側に横滑りする現象が一瞬起
こった。)。▲肇譟璽薀屮譟璽(トレーラ部分のタイヤにのみブレーキがかかるも
の。「シャーシブレーキ」ともいう。)のみを短めにかけた場合,トラクタ部分は進
路上を進行したが,トレーラ部分後部が進行しながら対向車線側へ流れ,右後部が
中央線を越えて対向車線側へはみ出してトレーラスイングが起き,緩やかに減速し
て,その後トレーラ部分が進路に戻った(4回目の実験。はみ出しが開始した地点
から終了した地点までの直線距離は約13.5mであり,中央線から対向車線側へ
はみ出した幅は最大約0.9m)。トレーラブレーキのみを長めにかけた場合,
やはりトラクタ部分は進路上を進行したが,トレーラ部分後部が進行しながら対向
車線側へ流れ,右後部が中央線を越えて対向車線側へはみ出すというトレーラスイ
ングが起き,緩やかに減速して,その後トレーラ部分が進路に戻った(5回目の実
験。はみ出しが開始した地点から終了した地点までの直線距離は約55.5mであ
り,中央線から対向車線側へはみ出した幅は最大約2.2m)。ぅ魯鵐疋襪鮠し
左側へ切り,同時にフットブレーキをかけた場合,トラクタ部分が左に向かい,約
10m間隔で設置されていた有効幅員の境界線(再現車線の進行方向左端)を示す
セーフティコーン2個をはじき飛ばして,トラクタ部分が走行車線に戻る際には車
体が「く」の字の形になるジャックナイフ状態となり,トレーラ部分後部が対向車
線側へ流れて右後部が中央線を越えて対向車線側へはみ出し,その後トレーラ部分
が走行車線側へ戻った(6回目の実験。実験車両が有効幅員の境界線を越えるはみ
出しが開始した地点から終了した地点までの直線距離は約17.7mであり,その
はみ出した幅は最大約0.5m。実験車両の対向車線側へのはみ出しが開始した地
点から終了した地点までの直線距離は約18.5mであり,そのはみ出した幅は最
大約0.6m)。本件走行実験の結果は,概要以上のとおりである。
なお,本件走行実験は,民間会社で大型貨物自動車の運転業務又は車検・整備業
務に従事する中立的な者らの協力や立会いを得て実施されており,本件事故の条件
とは異なるところもあり得るが,各種ブレーキを各様に操作した場合におけるこの
種車両の挙動等の傾向を把握する上では,十分な証拠価値を有すると認められる。
本件走行実験の結果をふまえた検討
ア被告人車両は,トレーラ部分が流れた際にスピードは落ちず,トラクタ部分
は左右にぶれることなく車線内を真っすぐ走行していたというのであるから,これ
をもって,本件走行実験の前記,筬い里茲Δ縫侫奪肇屮譟璽を操作した場合の挙
動等とみるのは相容れず,その車両の動きはむしろ前記∨瑤廊のようにトレーラ
ブレーキのみを操作した場合の挙動等に近いことが明らかである。このような本件
走行実験の結果を併せ考慮すると,被告人は,左方に湾曲している現場道路を走行
中,トレーラブレーキのみを不必要に操作することによって車両のトレーラ部分を
外側方向の対向車線にはみ出させたものと強く推認されるというべきである。大型
貨物自動車の運転業務に従事してきたDも,その経験等をふまえ,被告人車両の動
き等から,被告人はトレーラブレーキのみをかけてわざとシャーシを流したと思う
と述べているところである。
イこの点,弁護人は,トレーラスイングが起きた場合とジャックナイフ現象が
起きた場合とでは,後方からの見た目にはトレーラ部分の流れ方,戻り方やトラク
タ部分の動き方にほとんど差異はない旨指摘している。しかし,本件走行実験の映
像からも見て取れるように,トラクタ部分とトレーラ部分との角度の付き方がかな
り違う上,ジャックナイフ現象が起きたい両豺腓砲蓮ぅ魯鵐疋襪鮴擇襪海箸妊肇
クタ部分が左方に逸脱するなどの特徴があらわれており,被告人車両のすぐ後ろを
追従走行していたDからの見通し(前記)を前提とすると,こういった動き
の違いは十分区別がつくものであったと考えられる。弁護人は,後方からは,トレ
ーラスイングの場合とジャックナイフ現象の場合とで,速度の落ち方も差はないよ
うに見えるとも指摘するが,前者の場合は,トレーラ部分のみに制動がかかり,ト
ラクタ部分は駆動を継続することになるのに対し,後者の場合は双方に制動がかか
るため減速の仕方が異なるというのであるから,前記のようなトラクタ部分とトレ
ーラ部分の動き等の相違も相まって,両者の違いは,後続車両を運転していたDに
おいて十分区別がつくものであったことに変わりはないと考えられる。
弁護人は,ハンドルを切りながらフットブレーキを踏んだ場合,必ずジャックナ
イフ現象が起きるとは限らず,むしろトレーラスイングが起きることもある旨主張
する。しかし,本件走行実験の結果によると,フットブレーキのみを強くかけた場
合のトレーラ部分の流れ方は小さなものにとどまり(3回目の実験結果),その挙
動は,トレーラブレーキのみを操作した場合に,トレーラ部分が目に見える形で対
向車線に進入する動きとは外観上異なると認められる。Dが,目撃供述の中で,被
告人車両のトレーラ部分は「対向車線の半ばくらいまで」流れていたと述べている
のは,トレーラ部分の対向車線への進入の程度を必ずしも厳密に再現するものでは
ないと解されるが,いずれにしても,同人の供述によれば,被告人車両のトレーラ
部分は目に見える形で対向車線に流れていったことが明らかであって,このような
事態は,フットブレーキのみを操作した場合には想定しにくいと考えられる。弁護
人は,現場道路は摩擦力の小さい圧雪状態又はシャーベット状態であったから,フ
ットブレーキを踏んでタイヤにロックがかかると,速度がさほど落ちずともトレー
ラ部分が流れる状況にあった旨をも主張しているが,本件走行実験が行われた再現
道路も,積雪路面に雪を運搬・整地して圧雪状態とされていたものであり,車両の
運転に当たった実験協力者の供述によると,再現道路は軟らか目の圧雪状態で,ツ
ルツルではなかったが滑りやすい冬道の状況が再現されていたというのであって,
そのような条件の下で先の実験結果が得られている以上,その主張も当たらないと
考えられる。
被告人のブレーキ等の操作状況に関連するその他の事実関係について
アD及びBの供述によると,被告人は,過去に,知り合いの大型トレーラとす
れ違う際などにふざけてわざとトレーラを流して見せることがあったことが認めら
れるから,被告人がそのような運転操作を行うことができたことに疑いはないと認
められる。また,被告人は,本件事故前には,いずれA車両とすれ違うであろうこ
とを知りながら走行していたと認められることを併せ考えると,A車両が走行して
くるのを認め,トレーラブレーキのみを操作してトレーラを対向車線にはみ出させ
るという運転行動に出たとしても,特に唐突であるとか不自然であるといった問題
もない(弁護人は,かような運転操作は被告人自身にとっても非常に危険な行為で
あるから,あえてこれに及ぶ動機はないなどとも主張するが,採用できない。)。
イさらに,被告人において,本件事故の原因が,A車両が対向車線にはみ出す
などA側の事情にあると認識していたのであれば,本件事故後,B車両のドライブ
レコーダーからSDカードを抜き取り,警察官の提出の求めに応じなかったという
のも不自然といわざるを得ない。被告人は,会社の保険対応のために確認をしよう
と思い,SDカードを抜き取って自分で持っていたと供述するが,そうであれば,
いったん警察官に提出した後に返還を受けるとか,会社に持ち帰った後提出するな
どすれば事足りるのであるから,不自然であることに変わりはない。被告人は,自
身の非が原因で本件事故が起きたと認識していたからこそ,かかる対応に出たとみ
ることが可能であり,この点も先の推認に沿う事情ということができる。
ウ被告人が,本件当時トレーラブレーキのみを不必要に操作してトレーラ部分
を対向車線にはみ出させたとする先の推認は,これらの事実関係によっても支えら
れていると考えられる。
4被告人の供述について
被告人の供述の概要
被告人は,公判廷において,本件当時,対向車線を走行するA車両が先に被告人
車両の走行車線にはみ出してきたので,トレーラブレーキではなくフットブレーキ
をかなり強く踏み,左にハンドルを切って回避したところ,被告人車両のトレーラ
部分が対向車線に流れたため,トレーラ部分を引っ張り自分の車線に戻して立て直
そうと加速し,その後A車両がB車両と衝突したもので,自分に責任はない旨述べ
ている(被告人は,捜査段階の取調べでも,本件事故直前のA車両及び被告人車両
の動きに関するこの限度では,おおむね同様の供述をしていた。)。
被告人の供述の信用性について
アA車両が被告人車両の走行車線に進出してきたとする被告人供述についてみ
ると,被告人車両の前方をさほど車間距離を空けることなく同じく苫小牧市方面に
走行していたと認められるG運転車両のドライブレコーダー映像や同人の供述等に
よれば,A車両は,Gが進行方向先の対向車線上に同車両の存在を認めた頃からG
車両とすれ違った頃(A車両と雪壁との衝突地点から苫小牧市方面に約49.3m
の地点)までの間,その走行車線上を問題なく走行していたと認められる。他方,
実況見分時の被告人の説明やその現場見取図を用いた捜査段階の供述を前提とする
と,A車両は,この間に被告人車両の走行車線にはみ出す形で走行していたことに
なり,相容れない。また,被告人が述べるA車両の走行状況を前提とすると,さほ
ど車間距離をおくことなく被告人車両の前方を走行していたG車両の方が,A車両
と接触する危険性が高かったと考えられるのに,Gが危険を感じたような形跡はう
かがえない。被告人供述によれば,むしろ,G車両の後方にあって同車両よりもA
車両との距離が離れていた被告人車両の方が,A車両との接触等を回避すべく,フ
ットブレーキを強く踏むなどの措置を余儀なくされたこととなるから,不自然とい
うべきである。
そもそも被告人は,捜査段階の取調べに対しては,被告人車両の前に車はなかっ
た旨述べていた点で,その供述はG供述等に明らかに反していたものである。被告
人は,公判段階になると,被告人車両の前に車がいた記憶は依然としてないとしな
がらもその先行車両の存在自体は認めるに至り,その上で,推測ではあるが,A車
両はその先行車両とすれ違ってから被告人車両の車線に出てきたと思う,被告人立
会いに係る実況見分調書の見取図で,被告人車両からかなり距離が離れたところで
A車両が車線をはみ出したとされているのは,間違っていると思うなどと述べるよ
うになっており,大きく変化している。このような供述の変遷は,記憶や認識に基
づく体験供述のそれとしては想定し難い不合理なものである上,推測を交えて述べ
られていることも相まって,信用できないというべきである。
イ加えて,被告人供述は,本件当時Aが無線で「兄弟,ちょっとそれは」など
と言ったのを聞いた記憶はないとする点でも,D及びBの供述に反する。さらに,
被告人は,過去にトレーラブレーキを操作してわざとトレーラスイングを引き起こ
したことはなく,Bはおそらく,幅寄せをしたのを見て勘違いをしていると思うと
いった供述もしているが,DもBも,被告人がわざとトレーラを流して見せたこと
があったことを相当具体的かつ明瞭に述べており,やはり食い違いをみせている。
なお,被告人は,時速約60kmないし約70kmで走行中,A車両が自身の車
線に進出してきたため,フットブレーキをかなり強く踏んで減速し,その後加速し
て立て直そうとした際に速度計を見ると時速40kmくらいを示していたとも供述
しているが,この点は,タコグラフチャート紙の鑑定結果から見て取れる被告人車
両の速度変化の状況(前記)と相容れない。弁護人は,加速・減速の仕方に
よっては同チャート紙上のグラフ線が重なるなどして減速の跡が残らない場合があ
る旨指摘するが,本件事故直前の速度変化をあらわす同チャート紙上のグラフ線
は,速度が最も低下した時点でも時速約50kmを示すにとどまっているなど,被
告人が述べるような大幅な減速の仕方をした形跡はいずれにしても見当たらない。
弁護人が挙げるような一般論はともかく,このような被告人車両の速度変化の状況
は,同車両から差し押さえられたタコグラフチャート紙を具体的に見分した鑑定の
結果として導かれたもので,証拠上,その正確性に疑義を差し挟むべき個別的事情
がうかがわれるわけでもないから,その指摘は当たらないというべきである。
小括
以上からすると,本件事故の状況等を争う被告人の供述は信用することができな
いから,D供述の信用性評価や被告人のブレーキの操作状況の認定を左右するもの
ではないと認められる。
第3結論
したがって,被告人は,不必要にトレーラブレーキを操作して制動措置を講じ,
自車トレーラ部の後部を滑走させて対向車線にはみ出させたという過失を犯し,本
件事故を引き起こしたものと認められる。そこで,罪となるべき事実のとおり過失
運転致死傷の事実を認定した。
(法令の適用)
罰条被害者ごとに自動車の運転により人を死傷させる行為等の
処罰に関する法律5条本文
科刑上一罪の処理刑法54条1項前段,10条(犯情の重い過失運転致死罪
の刑で処断)
刑種の選択禁錮刑を選択
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用刑訴法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
被告人は,大型貨物自動車(大型トレーラ)の運転業務中,凍結した片側一車線
の道路を走行していた際,別の大型貨物自動車が対向進行してくるのを認め,特に
理由なく,不必要にトレーラブレーキを操作して制動措置を講じ,トレーラ部分を
滑走させて対向車線にはみ出させ,本件事故を引き起こしたのであり,その過失は
危険,重大というほかない。その結果,対向進行してきた車両は,接触を避けよう
として雪壁と衝突し,被告人車両の後続の大型貨物自動車とほぼ正面衝突をするに
至り,その結果,各車両の運転席部分が大破して,対向進行していた車両の運転手
が死亡し,一方の車両の運転手も骨折などの重いけがを負った。このような過失の
内容や結果に照らすと,本件の情状は,故意の犯罪行為により人を死傷させた危険
運転致死傷の事案とはもとより同列に評価できないものの,本件同様の死傷結果を
生じさせた過失運転致死傷の事案の中では相当悪いというべきである。
そうすると,被告人には比較的近年の漁業法違反による罰金前科1犯以外に前科
がない点をふまえても,本件では相応の刑期の実刑を選択する必要がある。その上
で,死亡被害者の母が,その人柄などに思いを致しつつ,かけがえのない我が子を
失った痛切な心情をあらわしていること,他方,被告人には反省,謝罪の態度が一
切みられず,本件に伴う経済的損害につき弁償を行う様子もうかがえないことなど
を併せ考慮し,過失運転致死傷の事案における量刑傾向をもとに検討して,被告人
に対しては,主文の実刑に処するのが相当であると判断した。
(求刑禁錮3年6月)
平成29年9月20日
札幌地方裁判所刑事第3部
裁判官 坂田正史

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