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職員過労自殺、病院側の責任認める 地裁小樽支部 賠償請求は棄却

 【小樽】小樽掖済(えきさい)会病院の男性職員=当時(34)=が2015年に自殺したのは長時間労働によるうつ病が原因だったとして、遺族が病院を運営する一般社団法人日本海員掖済会(東京)に約1億2600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が12日、札幌地裁小樽支部であった。梶川匡志裁判長は病院側の安全配慮義務違反を認定。一方、既に訴訟外で賠償済みと判断し、請求は棄却した。
 梶川裁判長は判決理由で、自殺直前の15年11月の時間外労働が「過労死ライン」の月100時間を超えるおおむね160時間に達したとし「業務の心理的負荷は精神障害を発症させるほど過重だった」と指摘。うつ病と自殺の原因が業務にあったと認定した。病院は過重労働を把握できたのに対策を講じず安全配慮義務を怠ったとし、本来、賠償するべき額は慰謝料など1億287万円と算出した。
(06/12 21:06 北海道新聞)

臨床検査技師の自殺、長時間労働が原因 札幌地裁支部

 小樽掖済(えきさい)会病院(北海道小樽市)の臨床検査技師の男性(当時34)が2015年12月に自殺したのは長時間労働によるうつ病が原因だとして、男性の遺族が病院側に約1億2千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が12日、札幌地裁小樽支部であった。梶川匡志裁判長は長時間労働が自殺につながったことを認めた。
 一方、小樽労働基準監督署が16年11月、男性の労災を認定し、遺族補償年金などを支給。さらに病院側は今年1月、裁判とは別に、損害賠償の名目で約1億円を遺族側に支払った。判決は、未払い賃金や慰謝料などで1億円の損害賠償を認めたが、すでに遺族側に支払われた支給額によって打ち消されるため、裁判での請求は棄却した。
 判決によると、男性は15年6月ごろから、病院の新築移転に伴って導入される電子カルテのシステムの構築などを任され、残業が常態化。うつ病を発症し、同年12月に病院の屋上から飛び降りて自殺した。
 判決は、自殺直前の1カ月間の時間外労働を約160時間と認定。病院側は男性の状況を把握していたにも関わらず対策をしなかったとして、安全配慮義務に違反があったと判断した。
 男性の妻は判決後、「病院が誠意ある態度を一度でも見せてくれていたら、私たち遺族が救われる部分も多少なりともあったかもしれません。この社会から長時間労働やその末の過労死、過労自死がなくなることを切に願います」とコメントした。
 病院を運営する日本海員掖済会は「改めて亡くなられた元職員のご冥福をお祈りする。判決がまだ届いておらずコメントは差し控えます」との談話を出した。(伊沢健司)
(2019年6月13日16時00分 朝日新聞)

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平成28(ワ)71  時間外手当請求事件,損害賠償請求事件
令和元年6月12日  札幌地方裁判所
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
⑴被告は,原告Aに対し,94万9883円及びこれに対する平成27年12
月22日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
⑵被告は,原告Bに対し,47万4942円及びこれに対する平成27年12
月22日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
⑶被告は,原告Cに対し,47万4942円及びこれに対する平成27年12
月22日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
2第2事件
⑴被告は,原告Aに対し,602万6689円及びこれに対する平成27年
12月8日から支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
⑵被告は,原告Bに対し,3081万3344円及びこれに対する平成27年
12月8日から支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
⑶被告は,原告Cに対し,3081万3344円及びこれに対する平成27年
12月8日から支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
⑷被告は,原告Dに対し,240万4011円及びこれに対する平成27年1
2月8日から支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
⑸被告は,原告Eに対し,1万円及びこれに対する平成27年12月8日
から支払済みまで年%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
⑴第1事件
第1事件は,訴外亡Fの相続人である原告A,同B及び同C(以下上記3名
を併せて「第1事件原告ら」という。)が,被告と亡Fとの間の雇用契約に基づ
く権利を相続したとして,被告に対し,平成26年1月分から平成27年12
月分までの亡Fの未払時間外手当及びこれに対する退職日後に到来する支払
期日後である平成27年12月22日から支払済みまで賃金の支払の確保等
に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案
である。
第2事件
第2事件は,原告らが,亡Fの使用者であった被告の安全配慮義務違反によ
って亡Fが自死したと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,亡Fの相続
人である原告A,同B及び同Cが相続した損害及び固有の損害の賠償並びにこ
れらに対する亡F死亡の日である平成27年12月8日から支払済みまで民
法所定の年%の割合による遅延損害金の支払を,亡Fの両親である原告D及
び原告E(以下上記原告ら名を併せて「第2事件原告ら」という。)が固有の
損害の賠償及びこれに対する亡F死亡の日である平成27年12月8日から
支払済みまで民法所定の年%の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求
めた事案である。
2前提事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)
⑴当事者等(甲,18,乙1,2の1,同2,3の1,同2,弁論の全趣
旨)
ア被告は,船員及びその家族に対する掖済援護事業を行うとともに,社会福
祉の精神に則り一般の援護事業を行うことを目的とする一般社団法人であ
り,小樽市内において小樽掖済会病院(以下「本件病院」という。)を経営す
るものである。
イ亡F(昭和▲年▲月▲日生)は,被告との間で雇用契約を締結し,本件病
院において臨床検査技師として稼働していた者であり,小樽検査技師会(以
下「技師会」という。)の事務局長を務めていた者である。
ウ原告Aは,亡Fの配偶者であり,原告B及び原告Cはその子である。原告
D及び原告Eは亡Fの両親である。
エ技師会は,臨床検査技師等の任意加入団体である一般社団法人北海道臨床
衛生検査技師会の会務の運営のため,小樽地区に設けられた同社団の下部組
織である。遅くとも平成26年4月以降,技師会の会長は被告のG技師長(以
下「技師長」という。)が務めていた。
⑵亡Fと被告の雇用契約の締結(甲2,3,4の1から24まで,21,乙2
8の1,同2,弁論の全趣旨)
亡Fは,被告との間で平成17年4月1日,雇用契約を締結し,本件病院に
おいて臨床検査技師として稼働を開始した。被告における主な雇用条件は以下
のとおりである。
ア労働時間
平日午前8時30分から午後時まで(うち1時間休憩)
第2,第4及び第土曜日午前8時30分から午後0時30分まで
イ休日(被告就業規則29条)
第1及び第3土曜日並びに日曜日(なお,この定め方に鑑み,日曜日を
法定休日と認める。)
国民の祝日(日曜日と重なった日は翌日)
12月30日から翌年1月3日まで
8月日
ウ給与
給与体系(被告就業規則48条)
給与は,俸給及び諸手当(地域手当,職務手当,特殊勤務手当,救急当
番手当,待機手当等)からなる。
このうち,救急当番手当は,日曜日又は国民の祝日のうち,本件病院が
救急搬送される患者に対応する救急当番日の午前9時から午後6時まで
の間に出勤する職員に対し支払う手当(臨床検査技師に対しては,1日9
00円)である。救急当番日における臨床検査技師の主な業務は,救急
搬送される患者のうち,医師が採血等を指示した患者の血液等をもとに検
査を実施することであった。また,当該職員が午後6時以降に勤務した場
合には,別途時間外手当が支払われていた。
また,待機手当は,所定勤務時間外に臨床検査技師等が本件病院に出勤
して検査等の実施が必要となった場合に備えて,職員に自宅等において待
機することを命じた場合に支払う手当(臨床検査技師に対しては,平日(午
後時から翌日午前8時30分まで)は00円,土曜日(出勤日は午
後0時30分から翌日午前8時30分まで,出勤に当たらない日は午前8
時30分から翌日午前8時30分まで)は00円,日曜日及び国民の
祝日(午前8時30分から翌日午前8時30分まで)は00円)であ
る。当該職員が待機中に本件病院に実際に出勤して検査等を実施した場合
には,時間外手当が支払われていた。
支払期等
給与は,毎月末日締め,21日払とされている。ただし,時間外手当に
ついては,当月分を翌月の給与に含めて支払っていた。
エ就業規則の定め
被告就業規則には,以下の定めがある(その解釈については当事者間に争
いがある。)。
第3条所定勤務時間外の労働については,次の計算式による時間外手当
を支給する。
時間外労働の場合
―蠶蟷間外の勤務時間数が1ヶ月60時間以下の場合は,
所定時間外の実労働時間1時間につき,賃金の1時間相当額
の2割分増の額とし,所定時間外の勤務時間数が1ヶ月6
0時間を超える場合は所定時間外の実労働時間1時間につ
き,賃金の1時間相当額の割増の額とする。但し,(平時及
び土曜日)において実労働時間8時間に達するまでは,勤務
1時間につき,賃金の1時間相当額とする。
午後時から午前時までの時間外については,実労働
時間1時間につき賃金の1時間相当額の2割分増(,鉢
は別々に計算する)。
休日労働の場合
第29条に定める休日に労働した場合は,実労働時間1時間
につき賃金の1時間相当額の3割分増の額
⑶亡Fの稼働(甲1,4の1から24,乙,弁論の全趣旨)
亡Fは,被告への就職後,平成27年12月8日まで本件病院の臨床検査技
師として稼働した。その状況は以下のとおりであった。
ア月平均所定労働時間
平成26年160.9時間
平成27年161.21時間
イ出退勤管理
本件病院では,平成27年11月30日まではタイムカードにより,本件
病院が新建物に移転した後である同年12月1日からは本件病院が貸与し
ているセキュリティカードにより,職員の勤務時間を管理していた(以下,
タイムカードとセキュリティカードを区別せずに「タイムカード等」と称す
る)。また,本件病院では,所定勤務時間外に労働をした場合,超過勤務報告
書を作成することとされており,臨床検査部においては,各職員が超勤簿に
超過勤務の時間及び職務内容の概略を記載し,技師長が超勤簿に基づいて超
過勤務報告書を作成していた。本件病院は,超過勤務報告書に基づいて時間
外手当を算定していた。
ウ賃金支払状況
被告は,亡Fに対し,別紙1のとおり,平成26年1月分から平成27年
12月分までの給与,地域手当,職務手当,特殊勤務手当,救急当番手当,
待機手当及び時間外手当を支払った。なお,亡F死亡後,被告において支払
うべき平成27年7月から同年月までの時間外手当額に誤りがあった
として,時間外手当の追加分として3万3676円が支払われた。
⑷亡Fの死亡(甲9,,,16,18,弁論の全趣旨)
亡Fは,平成27年12月8日,建物の屋上から飛び降りて自死し,同日,
被告を退職した。
⑸労災認定等(甲12,,3,47,弁論の全趣旨)
ア原告Aは,平成28年月27日,亡Fの自死が労働災害に当たるとして
小樽労働基準監督署長に対して保険給付等を請求した。
イ厚生労働省が策定した「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下単
に「認定基準」という。)は,‖仂櫃箸覆訐鎖西祿押聞餾歇隻楕類第回
修正版(以下「ICD−」という。)第章「精神および行動の障害」に
定める障害)を発病していること,対象となる精神障害の発病前概ね6か
月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,6般外奮阿凌翰
的負荷や個体側要因により対象となる精神障害を発病したとは認められな
いことのいずれの要件も満たす場合,当該精神障害を労働基準法施行規則別
表第1の2第9号に該当する「業務上の疾病」として取り扱うこととしてい
る。このうち前記△砲弔,長時間労働がある場合,発病直前の1か月に概
ね160時間以上の時間外労働(週40時間を超える労働をいう。)を行っ
た場合「特別な出来事」とし,発症直前の2か月間に連続して1月当たり概
ね1時間,又は発症直前の3か月間に連続して1月当たり概ね0時
間以上の時間外労働を行った場合には「出来事」とし,いずれも心理的負荷
の強度を「強」と判断することとしている。
ウ小樽労働基準監督署長は,調査の結果,平成28年11月9日,亡Fの死
亡は業務災害によるものと認定し,遺族補償年金等を支給する旨決定した。
その結果,以下の年金等が原告Aに対して支払われた。
平成28年1月分から平成30年月分までの遺族基礎年金及び遺族
厚生年金合計404万0933円
葬祭料123万9600円
平成28年12月期から平成30年6月期の遺族補償年金
合計748万016円
⑹被告の弁済(乙30,32,弁論の全趣旨)
被告は,平成31年1月23日,)楫鏤間外手当債務及び本件損害賠償債
務の各遅延損害金,∨楫鏤間外手当債務の元本,K楫鐶山嫁綵債務の元本
の順に充当することを指定して,本件時間外手当債務及び本件損害賠償債務の
弁済として,原告ら訴訟代理人の口座に振り込む方法により,1億038万
8443円を支払った。なお,本件損害賠償債務の元本に充当した際に仮に不
足が生じる場合は,原告らが被告に対して有する損害賠償債務の額に応じて案
分する方法で充当されることにつき,当事者間に争いはない。
第3争点及びこれに対する当事者の主張
1第1事件について
就業規則3条の解釈について
ア「賃金」に含まれる手当の範囲について
(第1事件原告らの主張)
時間外手当の算定の基礎となる賃金につき,労働基準法37条1項は「通
常の労働時間又は労働日の賃金」と定めているのに対し,就業規則3条は,
「賃金」とのみ定めていることからすれば,同条は,従業員に対して支給さ
れる金員は労働基準法37条1項所定の賃金に含まれなくても就業規則
3条の「賃金」に含める趣旨であり,従業員に対して支給される金員から,
労働基準法37条項及び同法施行規則21条各号によって除外される手
当を除いた賃金を時間外手当の算定の基礎となる賃金と定めた規定と解す
べきである。したがって,時間外手当の算定の基礎となる賃金には,俸給,
地域手当,職務手当及び特殊勤務手当に加え,救急当番手当及び待機手当も
含まれる。
(被告の主張)
就業規則3条が規定する「賃金」とは,労働基準法37条1項で定める
「通常の労働時間又は労働日の賃金」を指す趣旨であることは明らかである。
そして,救急当番手当は,救急当番担当日の際に出勤する者に対して支払わ
れる手当であるが,救急当番日における業務は,救急搬送されてきた患者の
うち医師の指示がされた患者の検体に対する検査業務であって,検査業務時
間以外は待機とされており,通常の業務とは異なっている。また,待機手当
は,自宅等での待機時間に対する対価であり,通常の業務とは異なっている。
したがって,いずれも「通常の労働時間又は労働日の賃金」には当たらない。
就業規則3条の「賃金」に,俸給,地域手当,職務手当及び特殊勤務手当
が含まれることは争わない。
イ割増率について
(第1事件原告らの主張)
就業規則3条⑴の文言によれば,同条は,従業員の時間外労働が月60
時間を超えた場合,その月に支払う時間外手当は全て賃金の割増とする旨
定めた規定と解すべきである。就業規則3条⑵は,従業員が就業規則29
条に定める休日に労働した場合,賃金の3割分増の時間外手当を支払う旨
定めるが,従業員の時間外労働が月60時間を超えた場合には,就業規則
3条⑴により賃金の割増の時間外手当を支払うものと解すべきである。し
たがって,被告が,雇用契約に基づき支払うべき時間外手当の割増率及び額
は以下のとおりとなる。
時間外労働時間が60時間を超えなかった月
法定時間内労働1倍
休日労働を除く法定時間外労働1.倍
休日労働1.3倍
深夜労働0.倍加算
時間外労働時間が60時間を超えた月
法定時間内労働1倍
法定時間外労働1.倍
休日労働1.倍
深夜労働0.倍加算
(被告の主張)
就業規則3条は,従業員の時間外労働が月60時間未満の部分の割増率
と,月60時間を超えた部分の割増率を区別して定めた規定と解すべきであ
る。
労働の場合の割増率を3割分と定めているが,時間外労働が月60時間を
超えた場合,法定休日労働の割増率は3割分であるが,所定休日の労働は
労働基準法上,時間外労働として取り扱われるから,労働基準法を下回る限
度において労働基準法が優先され,割増となる。
したがって,被告が,雇用契約に基づき支払うべき時間外手当の割増率及
び額は以下のとおりとなる。
月の時間外労働時間が60時間を超えない部分
法定時間内労働1倍
法定時間外労働1.倍
所定休日労働1.3倍
法定休日労働1.3倍
深夜労働0.倍加算
月の時間外労働時間が60時間を超える部分
法定時間外労働(所定休日労働を含む)1.倍
法定休日労働1.3倍
深夜労働0.倍加算
時間外労働の有無及びその量について
(原告A,同B及び同Cの主張)
ア亡Fは,別紙2記載のとおり,時間外労働をした。
イ亡Fの労働時間は,タイムカード等の記載に従って認定されるべきである。
亡Fが平成27年月日から同年12月日まで休みを取っていない
ことなどからも明らかなように,亡Fは大量の業務によって早出残業を余儀
なくされていたから,所定の始業時刻前であっても,タイムカード等の打刻
時刻が始業時刻となる。また,終業時刻は,タイムカード等の打刻時刻を原
則とするが,講演会等へ出席した場合は,その終了時刻となる。タイムカー
ド等の打刻がない場合には,始業時刻は午前8時,終業時刻は午後6時(土
曜日については,午後1時)と推定するか,あるいは,超勤簿の記載に基づ
いて算定するのが相当である。
ウ亡Fの被告における業務と技師会の業務を画一的な基準により区分する
ことは不可能であるから,亡Fが技師会の事務として行ったメール送信につ
き画一的に被告における労働時間から控除すべきではない。
(被告の主張)
ア亡Fの時間外労働時間は別紙3の被告主張欄記載のとおりである。
イ被告の臨床検査部では,従業員が超勤簿に超過時間等を記載し,上司であ
る技師長がその内容を踏まえて作成した超過勤務報告書によって所定時間
外労働を管理しているから,同報告書に基づいて時間外労働時間を算定すべ
きである。亡Fが早出残業を余儀なくされるような事情は存在しないから,
始業時刻前にタイムカード等が記録されているとしても,所定の始業時刻が
始業時刻となる。また,講演会等は,被告が実施するものではなく,出席を
強制することもないから,講演会等への参加が時間外労働に該当するとはい
えない。
ウ技師会の業務は被告における業務には該当しない。亡Fが,時間外労働時
間中に技師会に関する電子メールを送信した場合,1通につき分を時間
外労働時間から除くのが相当である。
未払時間外手当の金額について
(第1事件原告らの主張)
前記⑵の原告の主張する亡Fの労働時間によれば,被告就業規則3条に基
づき,亡Fの時間外労働により発生する時間外手当の未払金額は,別紙4記載
のとおり,合計191万7412円である。
(被告の主張)
前記⑵の被告の主張する亡Fの労働時間によれば,被告就業規則3条に基
づき,亡Fの時間外労働により発生する時間外手当の未払金額は,別紙記載
のとおり,合計万8309円である。
2第2事件について
亡Fの死亡の原因が本件病院における業務にあるか
(第2事件原告らの主張)
ア亡Fの業務の過重性
亡Fの被告における1か月間の時間外労働時間は,亡F死亡の1か月前が
188時間03分,2か月前が1時間3分,3か月前が62時間3
分,4か月前が1時間47分,か月前が1時間07分,6か月前
が71時間29分であり,亡Fは,長時間にわたる時間外労働に半年以上従
事していた。このような長時間にわたる時間外労働が発生したのは,平成2
7年6月頃から,通常の検査業務に加えて,電子カルテ新システム導入業務
を中心的に担当したためであった。
加えて,亡Fには,被告における業務以外に強い心理的負荷になる事情は
なく,自死に至るまで特段の問題なく社会生活を送っていたことからしても,
亡Fの性格傾向が,通常人とは異なり,特別にうつ病等の精神疾患を発症さ
せやすい脆弱なものであったとはいえない。
イ因果関係
前記アのとおり,被告における業務による心理的負荷は,精神疾患を発症
させることが社会通念上相当といえる程度に量的及び質的に過重なもので
あり,被告における業務以外に強い心理的負荷になる事情はないことからす
ると,亡Fは,被告における長時間労働によってうつ病を発症し,自死に至
ったものである。
(被告の主張)
ア亡Fの業務の過重性
亡Fの死亡前6か月間の被告における時間外労働時間は別紙6記載のと
おりである。技師会活動は被告の指揮命令により行われた労働ではないこと
などから,亡Fが,被告において精神に変調を来すほどの極度の長時間労働
に従事したということはできない。また,電子カルテ新システム導入業務は,
本件病院の情報システム科が中心的な役割を果たしており,亡Fは,臨床検
査部が行う業務の一部を担当していたものの,その業務内容は過重なもので
はなかった。
イ因果関係
前記アのとおり,被告における業務による心理的負荷は,精神疾患を発症
させることが社会通念上相当といえる程度に強いものではなく,亡Fがうつ
病を発症していたとは認められない。仮に,亡Fがうつ病を発症していたと
しても,被告における業務による心理的負荷によってうつ病を発症したもの
ではない。
被告の安全配慮義務違反の有無
(第2事件原告らの主張)
被告は,亡Fの労働実態が同人の心身の健康を損なう程度のものであること
を認識しており,被告の安全配慮義務違反を基礎づけるのに十分な事情を予見
していた。
被告は,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心
身の健康を損なうことがないよう,安全確保のための必要な措置を講じておく
べき注意義務を負っていた。そして,被告は,通常業務に加え,亡Fを電子カ
ルテ新システム導入業務に従事させた結果,亡Fが長時間労働を余儀なくされ
ており,その労働時間が過労死基準を超える段階に至っていたことを認識して
いたのであるから,亡Fが自死に至る抽象的可能性を予見することは可能であ
った。しかし,被告は,亡Fの労働時間を削減するために取りうる措置を取っ
ておらず,前記注意義務に違反していることは明らかである。
(被告の主張)
被告における業務は量的及び質的に過重なものではなく,亡Fも業務が過重
であると訴えることはなかったこと,亡Fは自死する前に精神の変調やうつ病
の症状を呈していたことはなかったことから,被告は亡Fの心身の健康が損な
われて何らかの精神障害を起こすおそれを具体的客観的に予見することはで
きなかった。また,被告は,電子カルテ新システム導入業務における亡Fの業
務負担に配慮し,亡Fの負担感の改善に努めるなど,結果回避措置を尽くして
いた。仮に亡Fが平成27年12月初旬にうつ病を発症していたとしても,う
つ病を発症していたことをうかがわせるような行動面,身体面の状態は現れて
おらず,前日まで普段と変わらない態度を示していたことからすれば,被告に
おいて,具体的に亡Fの自死を防止するための措置を取ることはできなかった。
損害等
(第2事件原告らの主張)
ア亡Fの損害
死亡慰謝料3000万円
逸失利益89万31円
亡Fの年収は,就職時から毎年上昇し,概ね賃金センサス男性大学卒以
上(平成28年)と同額の収入を得ていた。そこで,亡Fの逸失利益を算
出するに当たっては,昇給を考慮し,亡Fが34歳から67歳まで稼働す
るとして,各年齢に応じた前記賃金センサスの年収額を平均した723万
9326円を亡Fの基礎収入とすべきである。基礎収入から生活費控除率
(30%)を控除し,これに就労可能年数33年に相当するライプニッツ
係数16.00を乗じた89万31円が逸失利益となる。
仮に,昇給を考慮しないとしても,亡Fの収入91万1909円には
支払われるべき未払時間外手当が含まれていないから,これを加算して基
礎収入を算出すべきであり,基礎収入は696万7963円となり,逸失
利益は780万3379円となる。
イ原告Aについて
亡Fから相続(相続割合2分の1)した損害に加え,以下の損害が生じた。
固有の慰謝料0万円
弁護士費用0万円
ウ原告B及び同Cについて
亡Fから相続(相続割合各4分の1)した損害に加え,以下の損害が生じ
た。
固有の慰謝料各0万円
弁護士費用各280万円
エ原告Dについて
固有の慰謝料0万円
葬儀費用118万6011円
弁護士費用21万8000円
オ原告Eについて
固有の慰謝料0万円
弁護士費用万円
(被告の主張)
いずれも争う。
過失相殺ないし寄与度減額の当否
(被告の主張)
亡Fが,技師会の活動を継続していたこと,専門医の受診や産業医への相談
をしなかったこと,主任という立場にあったにもかかわらず自らの労働時間を
適正に管理しなかったこと,亡F自身が真面目で几帳面といった性格傾向であ
ったこと,原告Aは亡Fの体調の変化を把握していたにもかかわらず適切な措
置をとらなかったことなどからすると,本件では割の過失相殺ないし寄与度
減額が認められるべきである。
(第2事件原告らの主張)
本件では,過失相殺及び寄与度減額を認めるべき事情は存在しない。
損益相殺
(被告の主張)
ア既支給分
原告A,同B及び同Cに対しては,遺族基礎年金,遺族厚生年金,葬祭料,
遺族補償年金が支給されたから,同額が損益相殺される。
イ履行猶予額
本件では労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)附則64条
1項に基づき履行猶予がされる。その額は,遺族補償年金前払一時金の最高
限度額(66万円)から支給決定日までの法定利息(9万48円)
を除いた1970万842円から,既支給の年金(同年金が支払われた日
までの遅延損害金を控除する。合計6万3983円)を控除した金額
(90万189円)である。
(原告A,同B及び同Cの主張)
ア既支給分
既支給の遺族基礎年金,遺族厚生年金,葬祭料,遺族補償年金が損益相殺
されることは争わない。なお,葬祭料は原告Aの損害から控除されるべきで
ある。
イ履行猶予額
履行猶予がされることは争わない。その額は,遺族補償年金前払一時金の
最高限度額(66万円)から支給決定日までの法定利息並びに既支給の
年金及び葬祭料(合計1276万49円)を控除した金額である。
第4当裁判所の判断
1第1事件について
⑴就業規則3条の解釈について
ア「賃金」に含まれる手当の範囲について
被告就業規則3条は,「賃金」を所定労働時間で除し,これに時間外労働
の時間に応じた割増率を乗じた金額を乗じて1時間当たりの時間外手当額
を定める旨定めるけれども,被告就業規則にはいかなる手当が同条の「賃金」
に含まれるか定める条項は存しない。
もっとも,労働基準法は,時間外労働がなされたときには,「通常の賃金」
を所定労働時間で除し,これに割増率を乗じて算出される割増賃金を支払う
べき旨を定めるとともに,就業規則等でこれに満たない水準の割増賃金額を
定めても,労働者は前記労働基準法所定の割増賃金との差額を請求すること
ができるのであるから,就業規則については,可能な限り,労働基準法と適
合した解釈がなされるべきである。そうすると,労働基準法37条1項の「通
常の賃金」に当たる俸給に加え,地域手当,職務手当及び特殊勤務手当は,
「賃金」に含まれるものというべきである。
他方,前記前提事実によれば,救急当番手当は救急当番日である休日の午
前9時から午後6時までの勤務に対して支払われるものであり,待機手当は,
所定労働時間外に自宅等において待機することの対価として支払われるも
のである。そうすると,これらは,いずれも所定労働時間内における労務提
供の対価ということはできないから,労働基準法37条1項の「通常の賃金」
には含まれないものと解されるところ,被告就業規則において,「通常の賃
金」に当たらないこれらの手当をも割増賃金の基礎とすることを定めたもの
と解釈する根拠はない。そうすると,救急当番手当及び待機手当は,被告就
業規則3条の「賃金」には含まれないと解するのが相当である。
これに対し,原告は,“鏐霆業規則3条で時間外手当の算定の基礎と
なる賃金が「賃金」とのみ定義され,特段の限定を付されていないことの趣
旨は,労働基準法37条1項が時間外手当の算定の基礎として定義する「通
常の労働時間又は労働日の賃金」以外の賃金も時間外手当の算定の基礎とな
る賃金に含めることにある,救急当番日の負担は平日と変わらないし,待
機を命じられたときの負担は拘束が強いから,いずれも労働時間に含まれる,
として救急当番手当及び待機手当も「賃金」に含まれると主張する。しかし
ながら,)楫鑄賊,砲いて,原告主張の趣旨で就業規則が制定されたこと
をうかがわせる事情は認められないし,∩圧前提事実によれば,救急当番
及び待機が所定時間外になされる業務であることは明らかであるから,労働
の負担や拘束の程度によって「賃金」に含まれる余地があると解することは
できない。したがって,原告の主張はいずれも採用できない。
イ割増率について
被告就業規則3条⑴,蓮そ蠶蟷間外の労働時間が1か月60時間以下
かこれを超えるかによって異なる割増率が適用される旨定めるところ,所定
時間外の労働時間が1か月60時間を超える場合に,これを超過した部分に
限って高い割増率を適用する趣旨か,超過していない部分も含めた全時間外
労働について高い割増率を適用する趣旨かはその文言上必ずしも明らかで
はない。
この点,労働基準法は法定時間外の労働が1か月につき60時間を超えた
場合にはその超えた時間の労働に限って高い割増率を適用する旨定めてい
るところ,被告就業規則もこれにならって定められたことがうかがわれる上,
時間外手当は所定時間外の労働によって生じるものであって,その額がその
月の時間外労働の量によって事後的に変更される理由も見出しがたいこと
からすれば,就業規則の定める高い割増率は,所定時間外の労働時間のうち,
1か月60時間を超える部分に限って適用されるものというべきである。な
お,第1事件原告らは,「所定時間外労働」が60時間を超えた場合に高い割
増率が適用されるとしつつ,週の労働時間が40時間を超えるときにもこれ
を超える労働を時間外労働と取り扱っていない。しかしながら,被告就業規
則3条⑴,燭世圭颪蓮そ蠶蟷間外労働のうち,平日及び土曜日の労働に
つき,実労働時間が8時間に満たないときは割増率を適用しない旨定めてお
り,割増率の適用の有無を判断する際に算入される労働が時間外労働として
割増の対象とならないのは不合理であるから,高い割増率が適用されるのは,
所定時間外労働のうち,法定時間外労働を指すものと解すべきである。また,
就業規則につき,労働基準法に適合した解釈がなされるべきことは前記のと
おりであるから,週の労働時間が40時間を超えたときには,これを超えた
労働は時間外労働として取り扱うのが相当である。
これに対し,第1事件原告らは,被告就業規則3条はその月の所定時間
外労働の時間が60時間を超えた場合には,その月の全ての所定時間外労働
につき高い割増率が適用されるべきである旨主張する。しかしながら,被告
就業規則3条⑴,燭世圭颪蓮い修侶遒僚蠶蟷間外労働の量にかかわらず,
所定時間外労働であっても,実労働時間が8時間に達するまでは割増をしな
い旨定めているから,そもそもすべての時間外労働につき高い割増率を適用
する趣旨と認めることはできず,原告の主張は採用できない。
以上のとおりであるから,被告が,雇用契約に基づき支払うべき時間外手
当の割増率は以下のとおりである(なお,月の法定時間外労働時間が60時
間を超えた場合に,その超えた所定休日労働について割増率を1.倍とす
べきことについて当事者間に争いはない)。
月の法定時間外労働時間が60時間を超えない場合
法定時間内労働1倍
所定休日労働を除く法定時間外労働1.倍
所定休日労働(法定休日労働を含む)1.3倍
深夜労働0.倍加算
月の法定時間外労働時間が60時間を超えた部分
法定時間外労働(所定休日労働を含む)1.倍
法定休日労働1.3倍
深夜労働0.倍加算
⑵時間外労働の有無及び量について
ア労働時間の認定について
前記前提事実,証拠(甲1添付資料1ないし3,甲の1ないし17,2
0の1ないし4,29)及び弁論の全趣旨によれば,本件病院においては,
職員の出退勤につきタイムカード等による記録がなされていたところ,亡F
に係るタイムカード等を第三者が使用していたなどの事情は見当たらない
から,平成26年1月から平成27年12月までの亡Fの出退勤時間は,別
紙3タイムカード欄の出勤及び退勤欄記載のとおりであると認められる(た
だし,平成26年4月日の退勤時間を午後6時22分と改める。タイム
カード等の記録が存しない部分については,就業規則に従い勤務開始を午前
8時30分と,勤務終了を午後時00分(平日)又は午後零時30分(土
曜日)と認めた。)。これに対して,同期間の超過勤務報告書による超過勤務
時間は,別紙3超過勤務報告書(超勤簿)欄記載のとおりである。
前記前提事実によれば,被告においては上司の関与の下超過勤務報告書が
作成され,その記載に従って時間外手当が支払われていたというのであるか
ら,少なくとも同報告書に記載された時間については,亡Fは業務命令に基
づいて業務をしていたものと認めるのが相当である。
また,亡Fは少なくともタイムカード等に記録された出退勤時刻の間,本
件病院内に滞留していたことになるが,亡Fが業務以外の理由で本件病院内
に滞留していたと認められる場合でない限り,業務でない理由で本件病院に
滞留する必要性は見出し難い。そうすると,亡Fは,そのタイムカード等に
記録された出退勤時刻のうち所定労働時間を超えるものは,業務によるもの
でないことが認められる場合を除いて,業務命令に基づき業務に従事してい
たものと推認するのが相当である。もっとも,亡Fは,別紙3タイムカード
欄の記載のとおり,始業時刻である午前8時30分よりも前に出勤している
ことが認められるところ,その出勤時刻は,始業時刻の概ね1時間前を超え
るものではなく,労働者が交通機関の混乱や始業の準備のため,始業時刻よ
りも一定程度早く就労場所に行くことは一般的であると認められることか
らすれば,実際に出勤した時刻から業務を開始していたとしても,それを命
じられていたとまで認めることはできない。そうすると,亡Fが始業時刻よ
りも前に出勤したという事実のみで,始業時刻以降時間外労働をしたと認め
ることはできず,始業時刻である午前8時30分から勤務を開始したものと
認めるのが相当である。救急当番と認められる日及び超過勤務報告書が作成
された日についても同様にそれぞれ救急当番の業務開始時刻である午前9
時,超過勤務報告書に記載された始業時刻を始業時刻と認める。
以上によれば,亡Fの労働時間は,別紙7記載のとおりと認めることがで
きる。なお,亡Fが暦日をまたいで勤務した場合には,暦日を異にする場合
でも1勤務として取り扱うのが相当であるが,勤務した日の法的性質が異な
り,かつ,割増率が異なる場合には当日の終業時刻を午前0時とし,翌日の
始業時刻を午前0時と認定した。
イ第1事件原告らの主張に対する判断
これに対し,‖茖瓜件原告らは,タイムカード等に記録されていない場
合,所定終業時刻後,午後6時まで時間外労働をしたと推認すべきである,
∨楫鑄賊,砲いては,タイムカード等によって労働時間が管理されていた
上,亡Fが始業時刻前に臨床検査部の業務を行っていたのは,始業時刻に出
勤したのでは処理しきれない大量の業務に追われていたためであって,始業
時刻前から労務の提供を余儀なくされていたのであるから,タイムカード等
の記録時刻から労務の提供を義務付けられていたと推定すべきである,K
Fが別紙2の備考欄に記載した研修や講演会に参加した時間は時間外労働
に該当する,と主張する。
しかしながら,亡Fが常に所定終業時刻後に本件病院に滞留していたこと
を認めるに足る証拠はない(現に亡Fが所定終業時刻の直後に退勤したタイ
ムカード等の記録が存する。)から,タイムカード等の記録すらないのに,
亡Fが所定終業時刻よりも遅くに滞留していたことを認めることは困難と
いうべきであって,前記,亮臘イ郎陵僂任ない。また,亡Fが始業時刻前
に業務を行っていたとしていかなる業務を行っていたかを明らかにする証
拠はないし,大量の業務がなくても,一般に始業の一定時間前に出勤するこ
とはあり得ることからすれば,前記△亮臘イ郎陵僂任ない。亡Fが研修や
講演会に出席したのが本件病院の明示又は黙示の指示に基づくものであっ
たことを認めるに足る証拠はなく,前記の主張は採用できない(技師長が
技師会の会長であるからといって,被告が亡Fに対して技師会実施の研修等
へ出席するように命じたとまでは認められない。)。ただし,証拠(甲1,6,
7の11,26)及び弁論の全趣旨によれば,平成27年11月日(金
曜日)及び同月21日(土曜日)に開催された医療安全管理者養成講習会に
ついては,被告の業務命令に基づいて参加したことが認められるから,同月
21日については,同講習会の開催時間である午前9時から午後3時まで時
間外労働をしたものと認めた。
ウ被告の主張に対する判断
被告は,―業時刻後の時間外労働について,タイムカード等の記録では
なく,超過勤務報告書に基づいて認定すべきである,∨苅討亘楫鑄賊‘發
おいて技師会活動を行っているところ,かかる時間は実労働時間とはいえな
いから,休憩時間を除く所定時間内又は所定時間外に技師会活動に関する電
子メールを送信する度に,実労働時間から分を控除すべきである,と主
張する。
しかしながら,別紙3のタイムカード欄と超過勤務報告書欄の超過勤務終
了時刻は必ずしも整合していないところ,超過勤務報告書記載の超過勤務の
終了時刻が経過した後,本件病院に滞留する合理的理由がないことには変わ
りがなく,この時間について業務命令に基づいて滞留していたと認めること
が相当であることは前記のとおりである。現に,亡Fは,超勤簿に記載した
終業時刻以降に,本件病院の業務に関する電子メールを送信することもあっ
たが,その際も,超過勤務報告書は超勤簿の記載の通りの終業時刻で作成さ
れていたことが認められるのである(甲29)。したがって,被告の前記,
主張は採用できない。また,亡Fは,技師長を含む技師会会員に対して,所
定時間内に技師会活動に関する電子メールを送信するなどしており(甲1,
乙4の1),その際も技師長から所定時間外に技師会活動を行うよう指示等
をうけたことはうかがわれないことからすると,亡Fにおいて,技師会活動
に関する業務と本件病院における業務は区別されることなく一体として行
われていたと評価できる。そうすると,終業時刻後に技師会活動として電子
メールを送信していたとしても,その時間が本件病院の指揮命令に服さない
時間であったとは評価することができない。したがって,前記△亮臘イ盧
用できない。
エ時間外手当額の計算
以上によれば,亡Fの時間外労働により発生する時間外手当の金額は,別
紙8のとおり,合計284万7683円である。別紙1のとおり,時間外手
当の既払金は8万19円であり,救急当番手当(これは所定休日の
午前9時から午後6時までの勤務に対する固定の時間外手当として支払わ
れていたものであるから,時間外手当の支払と認めるのが相当である。)の
既払金は6万600円であるから,これらを控除した残額119万926
8円が亡Fに対する時間外手当の未払額となる。
2第2事件について
⑴認定事実
前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら
れる。
ア亡Fは,平成17年4月1日本件病院に就職し,臨床検査部において臨床
検査技師として検体検査,生理検査及び一般検査等の業務に従事した。亡F
は,平成年4月1日,臨床検査部主任に昇進した。平成26年4月1日
以降の時点で,本件病院の臨床検査部には,技師長,主任である亡Fのほか,
検査技師4名,検査助手1名及び委託職員1名が在籍していたところ,平成
27年4月1日から,技師長が平日の午後に事務部の管理業務等を行うこと
となったため,その時間帯については,主任である亡Fが臨床検査部におい
て事実上最も上の立場となった。また,亡Fは,技師会に所属していたが,
平成年4月から技師会の事務局長として事務を行っていた。(甲1,2,
弁論の全趣旨)
イ本件病院は,新病院建設に当たり電子カルテシステムとそれに接続する臨
床検査システムを新規に導入することが予定されていたところ,亡Fは,平
成27年6月頃以降,検査部門のマスタ作成についての中心的な役割を担い,
全体会議や医療システムの開発・販売を行う外部業者との打合せに出席し,
外部業者らと連絡しながら電子カルテ新システムにおいて用いるデータへ
数値等を入力する等の業務を行うようになった。その結果,同年6月下旬頃
から,亡Fの時間外勤務が長時間となるようになった。(甲1,7の1から1
2,,28,29,弁論の全趣旨)
ウ亡Fは,平成27年11月頃,同僚職員に対し,電子カルテ新システム導
入に関する業務が負担になっていること,電子カルテシステムが機能しなか
った場合には病院の業務に影響を与えるおそれがあることで精神的に負担
に感じていることなどを訴えるようになった。また,亡Fは,同月中旬頃以
降,食欲が減り,原告Aに対して,不眠を訴えるとともに,本件病院での業
務に関して問題が解決せず困っているなどと打ち明けるようになった。
同年12月頃以降,亡Fは,自宅にいる際,原告Aの話に返事をしなかっ
たり,好きだった海外ドラマの録画データを全部消して良いなどと言ったり
するようになり,目つきや顔つきにも変化が見られるようになった。原告A
は,亡Fに対し,「少しだけでも本当に休んで。」と言ったが,亡Fは「休め
ない。休んでも仕事のことが気になるだけ。それなら仕事に行って少しでも
前に進めたい」などと答えた。(甲1,,,原告A,弁論の全趣旨)
エ平成27年12月7日,亡Fは,通常通り出勤し,午後時分頃退勤
したが,その後,移転前の本件病院の屋上から飛び降りて,翌8日死亡した。
臨床検査室に置かれたノートには,亡Fが「せっかくまかせていただいた仕
事も満足にできず,さらにご迷惑をかけ申し訳ありません。」と記載したメ
モが挟まっていた。(甲1,,弁論の全趣旨)
オ亡Fは,本件自殺に至るまで,精神障害等を患ったことはなく,アルコー
ル依存等を指摘されたこともなかった。(甲1,,原告A)
カ原告Aの請求を受けた小樽労働基準監督署は,被告の亡Fに係るタイムカ
ード等の記録やパソコンのログを確認し,亡Fの死亡前6か月間の各1か月
の時間外労働時間は,約188時間(1か月前),約1時間(2か月前),
約62時間(3か月前),約1時間(4か月前),約1時間(か月
前),約71時間(6か月前)と認定した。
北海道労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会は,亡Fに現れた精神
障害は,ICD−診断ガイドラインに照らし,「F32.うつ病エピソー
ド」であり,自殺直前の平成27年12月上旬頃を発病時期と判断した上,
亡Fの発病直前に概ね1か月の時間外労働が160時間を超えることが確
認できることから,「特別な出来事」である極度の長時間労働に該当し,心理
的負荷の総合評価は「強」となり,他方業務以外の心理的負荷は特に確認で
きず,個体側要因としての既往歴やアルコール等依存状況等も特に確認でき
なかったとして,亡Fに発病した精神障害は,業務による心理的負荷が主要
な原因となって発病したものと認められ,精神障害を発病した亡Fが,正常
な認識,行動選択能力及び精神的抑制力が著しく阻害され,自殺に至ったも
のと推認されるとの意見書を作成した。
小樽労働基準監督署長は,これらの調査復命を受けた上,平成28年11
月9日,亡Fの死亡が業務災害に該当することを前提に,遺族補償年金,遺
族特別支給金等を給付する旨を決定した。(甲12,,弁論の全趣旨)
⑵亡Fの死亡の原因が本件病院における業務にあるか
厚生労働省が策定した認定基準は,専門家である医師らが関与して策定され
たものであるから,本件の判断においても参考になるものというべきである。
被告は,論文(乙12)を根拠に長時間労働が精神障害を引き起こすとの科学
的関連性は不明である旨主張するけれども,同論文は,その関連性を認める研
究が複数あるが,その研究間の比較が困難であることを言うものであって,そ
の関連性を否定するものということはできない。
ア亡Fが精神障害に罹患したか否か
前記認定のとおり,北海道労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会は,
亡Fに平成27年12月上旬頃,「F32.うつ病エピソード」が現れた旨判
断している。同判断は専門家による判断であり,前記認定事実のとおり,同
年11月以降,亡Fに不眠や食欲不振,興味関心の減退をうかがわせる事実
が認められるから,同判断が前提とする事実に誤認があるとも認められない。
そうすると,北海道労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会の判断は信
用することができ,亡Fが平成27年12月頃,「F32.うつ病エピソー
ド」を発症したと認めるのが相当である。
これに対して,被告は,亡Fに精神疾患の受診歴がないことや,死亡直前
まで亡Fは無遅刻・無欠勤で集中力の低下等が見られず,意欲もあり,IC
D−の「うつ病エピソード」の診断基準に亡Fの状況は当てはまらない
などと主張するけれども,精神疾患の受診歴がないことが精神障害への罹患
を否定する理由にはならないし,医師でない者がICD−へのあてはめ
をしても,前記専門家の判断が医学的に合理性を欠く根拠となるものではな
い。そうすると,被告の主張はいずれも採用できない。
イ亡Fの長時間労働について
前記認定事実によれば,小樽労働基準監督署の調査により認定された亡F
の本件病院での時間外労働による拘束時間は,精神障害発症(平成27年1
2月3日)から1か月前(同年11月4日)までで188時間3分に及ぶも
のと認められている。前記認定は,亡Fの使用していたパーソナルコンピュ
ータのログや亡Fの同僚の発言,被告の業務命令によるか否か不明な研修等
への参加等を前提としており,当裁判所においてその当否を判断するに足り
る資料が存しない部分もあるけれども,当裁判所が認定するところによって
も,亡Fが精神障害を発症する平成27年12月の直前である同年11月の
時間外労働による拘束時間は別紙9のとおり概ね160時間に達している
(なお,業務起因性について判断する際には,業務命令の有無ではなく,当
該労働者が現に労働のため拘束されているか否かが問題であるから,前記労
働時間の算定に当たっては,タイムカード等の始業時刻を採用した。)。した
がって,当裁判所も,認定基準のいう「特別の出来事」があったものと認め
るのが相当である。
これに対し,被告は,前記労働時間を否認するが,被告の主張する亡Fの
労働時間は,時間外手当に関して主張するものと同一であり,前記のとおり
技師会に関するメールの作成時間を控除するなど,時間外手当の計算におい
ても採用できないから,被告の主張を採用することはできない。
ウ業務以外の心理的負荷や個体側要因の有無について
前記認定のとおり,亡Fについて,その死亡までに精神疾患の存在やアル
コール等の依存が指摘されたことはない。また,亡Fについて,業務以外の
心理的負荷を認めるに足る証拠はなく,小樽労働基準監督署の調査によって
も存在が認められない。
そうすると,業務以外の心理的負荷や個体側要因はなかったものと認める
のが相当である。
エ小括
以上のとおり,亡Fは平成27年12月上旬に精神障害を発症したと認め
られるところ,その直前の時間外労働による拘束は概ね160時間に達して
いるものであり「特別の出来事」があったと認められる。また,亡Fの個体
側要因が原因となって,前記精神障害を発症したものとは認められないから,
認定基準によれば,亡Fの自死は業務に起因して精神障害を発症したことに
よるものということができる。
その上,亡Fが従事していた電子カルテ新システムの導入は,本件病院全
体の業務に大きく影響するものであることがうかがわれる上,そのミスは医
療過誤等にも直結しかねないものであることが認められるから,その一部で
ある検査部門のマスタ作成業務等を担当した亡Fの心理的負担が小さなも
のであったということはできない。前記認定した亡Fの言動に照らしても,
亡Fが電子カルテ新システムの導入に不安を有していたことは明らかであ
る。
以上を勘案すると,亡Fは,本件自死に及んだ当時,本件病院における業
務によって精神障害を発症し,それによって自死に至ったものと認めるのが
相当である。
被告の安全配慮義務の有無について
ア使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつ
つ労働することができるよう,必要な配慮をする義務を負う(労働契約法
条参照。)。前記認定のとおり,亡Fは,平成27年11月には概ね160時
間に達する時間外労働をしていたところ,本件病院は,亡Fが加重な労働を
していたことを把握し得たにもかかわらず,同人の業務を軽減する等の対策
を講じなかったから,被告において,前記安全配慮義務違反があったものと
認めるのが相当である。
なお,前記認定のとおり,亡Fは,技師会の事務作業も行っており,時間
外労働時間の一部は同事務のために行われていたことが認められる。しかし
ながら,被告が本件病院の業務と認める限度でも,別紙6のとおり亡Fの死
亡1か月前の時間外労働時間は1か月につき0時間を超えていたこと,
亡Fが技師会の事務を行っていた場所は本件病院内であり,本件病院におい
ても亡Fが同事務を行うことを把握し,かつこれを拒絶していなかったと認
められること,亡Fの本件病院への滞留時間は,タイムカード等を見ること
で容易に把握することができ,被告において超過勤務報告書との食い違いを
把握できていなかったことに照らせば,亡Fが,本件病院に滞留している時
間に技師会の事務をも行ったことが,被告の安全配慮義務違反を否定する理
由にはならないというべきである。
イ被告は,予見可能性又は結果回避可能性がないことを主張する。しかしな
がら,前記のとおり,本件病院への滞留時間からうかがわれる亡Fの時間外
労働の時間を,被告において把握できなかった理由は認められないところ,
本件認定基準に照らせば,その時間外労働の時間から亡Fが何らかの精神障
害を発症しかねないことは被告にとって十分具体的に認識することができ
たというべきであるから,被告の主張は理由がない。
過失相殺について
被告は,亡Fが技師会活動を休止又は減少させなかったこと,亡Fが被告に
おいて設置したメンタルヘルス対策の相談等を利用しなかったこと,亡Fが業
務を部下に割り振るなどして自らの労働時間を適切に管理しなかったこと,亡
Fが仕事について完璧を期そうとする性格であったこと,原告Aが亡Fの体調
の変化を把握していながら,特段の対応を講じなかったことなどを指摘する。
しかしながら,これらが過失相殺すべき事由になるものとは認められない。
損害等
ア亡Fの損害
慰謝料00万円
亡Fが本件病院において長時間労働に従事したことによって自死に至
ったことの他一切の事情を考慮すると,自死によって亡Fが被った精神的
苦痛を慰藉するのに必要な額は00万円と定めるのが相当である。
逸失利益6928万198円
前記認定事実によれば,亡Fの時間外労働の主な要因は電子カルテ新シ
ステムの導入であり,これは常に発生する業務ではないところ,亡Fの直
前の収入には相当額の残業代が含まれており,今後の得べかりし収入を算
出するに当たって前提とすることは相当ではない。また,亡Fの直前の残
業代を除く収入額を用いても,今後の昇給等を反映することができない。
そこで,平成27年度賃金センサス中,従業員数が00人以上いる
企業の男性臨床検査技師の統計を用い,34歳から67歳までの年収を算
出し,算出した平均賃金(別紙)に基づいて逸失利益を算出すること
とし,3割の割合による生活費控除を行い,就労可能年数を33年とする
のが相当である。
(計算式)618万212円×(1−0.3)×16.00
=6928万198円(小数点以下切捨て)
イ固有の損害
原告らの慰謝料について
亡Fが死亡するに至った経緯,亡Fと原告らとの生活状況等,諸般の事
情を考慮すると,亡Fの死亡による原告らの精神的苦痛を慰藉するのに必
要な金額は,妻である原告Aが慰謝料0万円,子である原告B及び原
告Cが各0万円,両親である原告D及び原告Eが各0万円と認める
のが相当である。
原告D
葬祭費118万6011円(甲19)
損益相殺
ア損益相殺
前記前提事実⑸及び原告Aの供述によれば,原告Aは,遺族基礎年金及
び遺族厚生年金として,万円(平成28年3月から平成3
1年2月まで),遺族補償年金として977万312円(平成28年1
2月から平成31年2月まで)の支給を受け,原告A,原告B,原告Cが
相続した亡Fの逸失利益の損害の填補に充てられたと解するのが相当で
ある。
原告Aは,亡Fの死亡を原因として,労災保険による葬祭料123万9
600円を受給しているところ,その全額が原告Aの損害から損益相殺さ
れることについては当事者間に争いがない。したがって,本件では,原告
Aが相続した亡Fの逸失利益から同額を控除するのが相当である。
イ履行猶予の抗弁について
労災保険法附則64条1項は,労働者又はその遺族が障害補償年金若しく
は遺族補償年金又は障害年金若しくは遺族年金(以下「年金給付」という。)
を受けるべき場合であって,同一の事由について,当該労働者を使用してい
る事業主から民法その他の法律による損害賠償を受けることができるとき
については,事業主は,当該労働者又はその遺族の年金給付を受ける権利が
消滅するまでの間,当該年金給付にかかる前払一時金最高限度額からその損
害の発生時から当該年金給付にかかる前払一時金給付を受けるべき時まで
の法定利率により計算される利子相当額を控除した額の限度で,その損害賠
償の履行をしないことができ,また,前記猶予がされている場合に年金給付
又は前払一時金給付の支給がなされた場合には,その価額の損害発生時点に
おける現価の限度で,その履行猶予額が減少する旨を定める。
そうすると,被告において,損害賠償の履行が猶予される額は,遺族補償
年金前払一時金の最高限度額(66万円)から,支給決定日までの法定
利息(9万48円)を控除した1970万842円から,本件口頭
弁論終結時までに原告Aがすでに受けた年金給付である1493万041
7円(被告は,その全額について損益相殺の結果損害賠償の責めを免れてい
る。)を差し引いた477万4円である。
これに対して,原告A,同B及び同Cは,履行猶予額から支給を受けた葬
祭料を差し引くべきであると主張するが,独自の見解であって採用できない。
相続等
以上によれば,損益相殺後の各原告の損害額及び弁護士費用は以下のとおり
である。
ア原告A損害380万0078円
弁護士費用380万円
イ原告B損害1964万4839円
弁護士費用196万円
ウ原告C損害1964万4839円
弁護士費用196万円
エ原告D損害168万6011円
弁護士費用16万円
オ原告E損害0万円
弁護士費用万円
3弁済
前記前提事実⑹のとおり,被告は,平成31年1月23日,原告らに対し,1
億038万8443円を支払った。前記1のとおり,未払時間外手当は119
万9268円であり,その平成27年12月22日から支払日までの遅延損害金
は4万19円である。また,前記2のとおり,第2事件原告らの損害は合
計874万767円であり,その平成27年12月8日から支払日までの遅
延損害金は1368万1436円である。そうすると,前記各元本及び各遅延損
害金の合計は1億0287万780円であって,弁済額はこれを上回るから,
前記各元本及び各遅延損害金は消滅し,残額は存在しない。
第結論
よって,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の
負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所小樽支部
裁判長裁判官 梶川匡志
裁判官 田中結花
裁判官 大木峻

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