報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

北海道白老町のバス横転事故 運転士に無罪判決


 北海道白老町の道央自動車道で2013年、マイクロバスが横転し乗客13人が重軽傷を負った事故で、自動車運転過失傷害罪で在宅起訴された千歳市の運転手、高橋雅彦被告(60)に、札幌地裁室蘭支部(五十嵐浩介裁判長)は11日、無罪判決を言い渡した。求刑は禁錮10月だった。
 被告側は公判で、バス床下の金属部品が腐食などにより破損し、ハンドル操作ができなくなったとして無罪を主張。検察側は、仮に部品が破損して異変が生じていたとしても、直ちにブレーキをかけて運転を中止する義務があり、安全に停止することは十分可能だったと指摘していた。
 起訴状などによると、高橋被告は13年8月26日午後、前方を注視するといった注意義務を怠り、運転中のバスを中央分離帯に接触、横転させ、乗客13人に骨折などの重軽傷を負わせたとしている。バスは新千歳空港から登別市のホテルに向かっていた。
 被告は18年4月、バスを製造した三菱ふそうトラック・バス(川崎市)が車両の欠陥を隠し、捜査機関に「操作困難な状況ではなかった」と虚偽の報告をしたため起訴されたとして、同社に約1300万円の損害賠償を求めて札幌地裁に提訴。
 地裁は同11月、報告の真偽は刑事裁判で判断されるべきだとした上で、この報告が検察官の起訴判断に影響したとは言えないとして棄却した。(共同)
(2019年3月11日 12時48分(最終更新 3月11日 13時05分) 毎日新聞)

バス事故で13人けが、運転手に無罪判決 故障の可能性

 北海道白老町の道央自動車道で2013年、小型バスを横転させて乗客13人にけがを負わせたとして、自動車運転過失傷害の罪に問われた運転手の男性(60)の判決公判が11日、札幌地裁室蘭支部であった。五十嵐浩介裁判長は車体の部品が壊れていたために事故が起きた可能性を指摘し、「被告人に過失は認められない」として無罪(求刑禁錮10カ月)を言い渡した。
 13年8月26日に発生した事故では、バスが道央道の中央分離帯に衝突してから横転した。男性は前方を注視せず、的確なハンドルやブレーキの操作を怠ったとして、15年9月に在宅起訴された。
 バスは三菱ふそうトラック・バス社製で、事故後には緩衝装置「ロアアーム」を車体に固定する金属部品「センターメンバー」が破損していたことが判明。弁護側は、走行中に部品が破損してハンドル操作がきかなくなり、事故が起きたと主張。事故原因は破損にあり、男性に過失はないとして無罪を訴えていた。
 一方、検察側は、安定的なハンドル操作が困難になるほどの破損ではなかったと主張。その後、「異常に気づいたのに、直ちに停車させなかった過失がある」という訴因も予備的に追加し、ハンドル操作が困難な場合でも、異常を感じてすぐにブレーキを踏めば安全に停車することができたはずだとしていた。
 同社製のバスをめぐっては、13〜15年、別の型式でセンターメンバーの破損が原因の人身事故が3件発生した。同社は17年にリコールをしたが、道央道の事故車両の型式は対象になっていない。(布田一樹、三上修)
(2019年3月11日11時27分 朝日新聞)

白老の道央道バス横転事故で運転手無罪 地裁室蘭支部 「被告に過失は認められない」と

 【室蘭】胆振管内白老町の道央道で2013年に三菱ふそうトラック・バス(川崎市)製のマイクロバスが横転し、乗客13人が重軽傷を負った事故で、自動車運転過失致傷罪に問われた運転手高橋雅彦被告(60)=千歳市=の判決公判が11日、札幌地裁室蘭支部であった。五十嵐(いからし)浩介裁判長は事故当時、床下部品の破損によってバスの走行に異常が起きたと判断した上で、「被告に過失は認められない」と述べ、高橋被告に無罪(求刑禁錮10カ月)を言い渡した。
 争点は、バス床下にある金属製の箱形部品の破損が事故原因かどうか。事故後の車両検分で、さびて破損していたことが判明している。
 「部品が9割程度破損し、安定的な走行が困難になった」
 五十嵐裁判長は判決理由で、事故直前のバスの蛇行状況や、被告が金属片の折れるような音を聞いたことなどの異常について「部品が9割程度破損し、安定的な走行が困難になったことと整合する」と指摘。「安全走行に影響を及ぼすほどの異常はなかった」とする検察側の主張を退け、「被告に前方不注視などの過失は認められない」と結論付けた。
 判決などによると、事故は13年8月26日午後に発生。新千歳空港から登別市内へ向かうマイクロバスが道央道を走行中、中央分離帯に衝突、横転し、乗客13人全員がけがを負った。
 検察側は当初、高橋運転手が前方注視を怠ったとする起訴内容で起訴。その後、車体に異常があったことを前提に「異常に気付いたのだから、ただちに停車すべきだった」とする起訴内容を追加した。裁判は争点明確化のための非公開手続きを挟み、約3年半に及んだ。(松下文音)
(3/11(月) 11:47 北海道新聞)

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平成27(わ)93  
平成31年3月11日  札幌地方裁判所
主文
被告人は無罪。
理由
第1本件訴訟の公訴事実,争点及び当事者の主張の概要
1本件公訴事実
本件の主位的訴因は,「被告人は,平成年8月26日午後3時分頃,中
型乗用自動車(以下「本件バス」ともいう。)を運転し,北海道白老郡a町字b
c番地先高速自動車国道北海道縦貫自動車道札幌市d区e起点から上りS73.
4キロメートル地点道路走行車線をfインターチェンジ方面からaインターチ
ェンジ方面に向かい時速約98キロメートルで進行するに当たり,前方左右を注
視してハンドル・ブレーキを的確に操作し,自車の進路を適正に保持して進行す
べき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り,前方左右を注視せず,かつ,
ハンドル・ブレーキを的確に操作せず,漫然上記速度で進行した過失により,自
車の進路を適正に保持せず,左斜め前方に暴走させて道路左側に設けられたガー
ドケーブルに衝突する危険を感じて急制動右急転把し,自車左後部を同ガードケ
ーブルに衝突させた後,右斜め前方に暴走させて中央分離帯のガードケーブルに
自車右前部を衝突させた上,左に横転させ,よって,自車に乗車していたAほか
12名に対し,別紙被害者一覧表記載のとおりの各傷害を負わせた(以下本件バ
スの同衝突及び横転を「本件事故」という。)」というものである。また,本件
の予備的訴因は,被告人が上記日時に本件バスを運転し,上記場所を上記速度で
進行中,「自車ハンドルの振動や車体の揺れ等の異常に気付いたのであるから,
直ちに自車を停止させて運転を中止すべき自動車運転上の注意義務があるのに
これを怠り,直ちに自車を停止させず,漫然と上記状態で運転を継続した過失に
より,自車が左斜め前方に進行して道路左側に設けられたガードケーブルに衝突
する危険を感じて急制動右急転把し」,本件事故を惹起させ,よって,上記乗客
ら13名に対し,上記各傷害を負わせたというものである。
2争点及び当事者の主張の概要
主位的訴因の主たる争点は,本件事故が発生した原因であり,検察官は,被
告人が前方左右を注視し,的確にハンドル・ブレーキを操作して本件バスの進
路を適正に保持せず,漫然上記速度で進行した過失により本件バスを左斜め前
方に暴走させた上,左側ガードケーブルへの衝突の危険を感じて急制動右急転
把して右斜め前方に本件バスを暴走させるなどして中央分離帯のガードケーブ
ルに衝突,横転させたことが事故の原因である旨主張するのに対し,弁護人は,
本件事故の原因が,本件バスのセンターメンバーとNo.2アウトリガーが走
行中に破断したことによって,本件バスの安全走行が不可能となったことによ
るのであり,事故を回避することは不可能であったから,被告人には過失は認
められない旨主張する。検察官は,弁護人の主張に対し,本件バスのセンター
メンバー等の故障はハンドル操舵には影響しておらず,本件バスは十分制御で
きた旨主張している。
予備的訴因の主たる争点は,結果回避義務及び結果回避可能性の有無であり,
検察官は,仮に,本件において,センターメンバーの9割程度の部分破断によ
って安定的なハンドル操舵が困難であったとしても,被告人がセンターメンバ
ーの破断に伴う感知可能な異常を感知した時点で,直ちに制動措置を講じてい
れば,安全に停止して事故を回避することができたのであり,被告人には,直
ちに制動措置を講じて運転を中止すべき義務があった旨主張するのに対し,弁
護人は,被告人が異常を感知したとしても,直ちに制動措置を講じて本件バス
を走行車線上で停止させることは危険であって,そのような義務はなく,回避
可能性についての検察官の立証も十分でなく,本件バスを路肩に安全に停止さ
せようとした被告人には過失が認められない旨主張する。
そこで,以下,当裁判所が主位的訴因及び予備的訴因についていずれも認め
られないと判断した理由について補足して説明する。
第2前提事実
本件争点を判断する際の前提となる事実として,関係証拠によれば,以下の各事
実が容易に認められる。
1事故に至る経緯
被告人は,昭和63年頃からバス運転手として稼働し始め,本件事故時もバ
ス運転手として民間会社に勤務していた。
被告人は,平成年8月26日午後2時半頃,gにおいて,運転していた
B株式会社製造の中型乗用自動車(これが本件バスである。)に乗客を乗せた
後,高速自動車国道北海道縦貫自動車道(上り)をhに向かい走行した。
本件バスは,上記自動車道走行車線上をfインターチェンジ方面からaイン
ターチェンジ方面に向かって,i橋にある2か所の橋梁用伸縮装置(以下「ジョ
イント」という。)のうち,一つ目のジョイントに至る直前,時速約98キロ
メートルで走行していた。本件バスは,同日午後3時分頃,2つ目のジョイ
ントを通過して間もなく,走行車線から左斜め前方に進行し,道路左側のガー
ドケーブルに自車左後部を接触させた後,右斜め前方に進行して,中央分離帯
のガードケーブルに自車右前部を衝突させ,自車左側面を路面に接地させて横
転した(これが本件事故である。)。
本件事故によって,乗客であったAほか12名が別紙被害者一覧表記載のと
おりの各傷害を負った。
2本件事故の現場の状況
本件事故の現場は,北海道白老郡a町字bc番地先高速自動車国道北海道縦貫
自動車道札幌市d区e起点から上りS73.4キロメートル地点付近(以下「本
件事故現場」という。)であり,本件バスが横転したのは,同S73.キロメ
ートル地点から約42.8メートル手前の地点である。
本件事故現場付近道路は,中央部に上り車線と下り車線を隔てるガードケーブ
ルが設置され,道路南側(上り車線の左側)にもガードケーブルが設置されてお
り,fインターチェンジ方面からaインターチェンジ方面に向かって曲線半径
6,000メートル右に湾曲し,同方面へ下り勾配0.37パーセントである。
上り車線では,走行車線及び追越車線の幅員がいずれも3.6メートルで,有
効幅員が12.2メートルである。本件事故現場の見通しは良好であり,当時の
路面は乾燥していた。
本件バスが道路左側のガードケーブルに接触する直前の路面上には,本件事故
による左右前輪及び右後輪のブレーキ痕が印象され,道路左側のガードケーブル
接触前後及び右斜め前方に進行した路面上には,連続した左前輪及び左後輪のス
リップ痕及び2か所の右前輪スリップ痕が印象されている。なお,左前輪スリッ
プ痕付近には,3つのガウジ痕(車体金属部が路面と接触し,舗装路面の骨材が
削り取られた痕)が印象されている(同ガウジ痕が本件事故によるものか否かは
当事者間に争いがある。)。
3本件バスの故障について
本件バスのセンターメンバーは錆びて腐食しており,本件事故直後はその前方
が大きく破断している様子が確認されており(なお,後部の破断状況までは確認
できない。),事故から約3か月後の平成年12月12日に実施された実況
見分では,前部から後部にかけて上下に破断し,センターメンバーを補助的に支
える部品であるNo.2アウトリガーも破断していた。各部品とも腐食が著しく,
上記実況見分において,立会人であるB品質保証本部市場情報管理部技術情報(車
両調査)所属のCは,センターメンバーの破断時期は不明である旨説明している。
なお,Bは,平成29年2月14日,対象となる前輪独立懸架方式の大型・中
型バスについて,センターメンバーの製造が不適切なため,センターメンバー内
部に融雪剤等を含んだ水が浸入し,ロアアーム・コンプリート(以下「ロアアー
ム」という。)取付部付近が腐食することがあり,そのままの状態で使用を続け
ると腐食が進行し,センターメンバーが破損して,最悪の場合,ロアアームが脱
落して操舵不能となるおそれがあるとして,リコールを届け出ている(ただし,
本件バスに係る型式のバスは,前輪独立懸架方式ではあるが,リコールの対象と
はなっていない。)。
4本件バスのセンターメンバー等の構造及びセンターメンバーの破断によるハン
ドル操舵に対する影響
本件バスのセンターメンバー等の構造
アセンターメンバーは車両の左右前輪の中央に位置する箱型の部品であり,
ロアアームを含むフロントサスペンション部品を車体に固定するために設置
されている。正常時は車体と固定されていて動くことはない。
イロアアームは,地面と平行に位置しているひし形状の部品であり,中央部
分がセンターメンバーを介して車両本体と接続し,ロアアームの左右両端部
分がそれぞれ左右前輪の連結部品(ナックルサポート)に接続している。ロ
アアームは,フロントサスペンション部品の一部であり,その上部に対で位
置するアッパーアームと共に上下運動し,車体と左右前輪の平行状態を保つ
とともに,センターメンバーにより車体と固定されて左右方向には動かない
ため,左右前輪と地面との垂直性を維持する役割も果たしている。
ウNo.2アウトリガーは,ロアアームの支柱であり,センターメンバーの
前方と後方に接続されており,センターメンバーとロアアームを連結するた
めの補助的な部品である。
エスタビライザーは,車両のコーナリング時や道路の凸凹等による車両水平
方向の傾斜を抑制して乗り心地を安定させる装置であり,その中間部が車体
フレームに,その両端部がロアアーム端部にそれぞれ固定されている。
センターメンバーの破断によるハンドル操舵に対する影響
センターメンバーが上下に完全に破断した場合,ロアアームが接続するセン
ターメンバーの下部が車体と固定されなくなり,ロアアームが左右に動くよう
になるため,左右前輪の連結部品を介して,タイヤが連動して左右に傾くこと
で,タイヤが傾いた方向に車両が進行する走行異常が生じる。高速走行中にセ
ンターメンバーが完全に破断した場合,タイヤの垂直性が損なわれ,間もなく
ハンドル操舵は不能となる。スタビライザーが設置されている車両の場合(本
件バスにもスタビライザーが設置されている。),それによってロアアームの
左右方向の動きが一定程度抑制されるが,その場合であっても,時速約98キ
ロメートルの高速走行下においては,早期に操舵不能となる(なお,下記のと
おり,弁護人は,上記機序の他に,センターメンバーが破断した場合,ステア
リング系統の部品にも影響し,ハンドル操作の動力がタイヤに上手く伝わらな
くなり,又ロアアームが下垂することで,ハンドル操舵が不能となる旨主張す
るが,少なくとも上記機序によって操舵不能となるとの限度では,当事者間に
争いはない。)。
また,センターメンバーが完全に破断せず,その前部が9割程度破断した場
合であっても,センターメンバーの前部が左右に動くため,ロアアームも左右
に動き,タイヤが左右に傾くことが起こり,同様に,スタビライザーの有無に
かかわらず,時速約98キロメートルの高速走行下においては,運転手はハン
ドル操舵を通常時と同様に安定的に行うのは困難となる(以上に対し,弁護人
は,9割程度の部分破断の場合であっても,上記弁護人主張の機序から,安全
走行が不可能となる旨主張し,E証人もその旨証言しており,ハンドル操舵に
与える影響の程度に関しては異なる部分があるものの,9割程度の部分破断に
よって少なくとも安定的なハンドル操舵が困難となるとの限度では,当事者間
に争いはない。)。
センターメンバーが完全破断又は9割程度破断した場合,運転手は,車体の
振動やハンドルのぶれといった異常を感知することができる。
第3主位的訴因について
1検察官は,主位的訴因につき,本件事故時,本件バスのセンターメンバーは安
定的なハンドル操舵等が困難となるほどには破断しておらず,本件バスはハンド
ル操舵によって十分制御可能であった旨主張し,それにもかかわらず本件事故を
惹起した被告人には,ハンドル・ブレーキの不的確操作の過失がある旨主張する。
そして,検察官の上記ハンドル操舵の制御可能性についての主張は,センターメ
ンバーに9割程度の破断が生じていた場合,運転手はハンドル操舵を通常時と同
様に安定的に行うのは困難となる一方,車体振動やハンドルのぶれといった異常
が生じ,運転手はこのような異常を感知することができるところ(上記第2,4
本件事故直前には,このような感知可能な異常は発生していなかったこと
を根拠とする。そこで,以下,本件事故直前の本件バスの異常について検討する。
2本件事故直前の本件バスの異常の有無及び程度について
検察官は,本件事故直前の本件バスに,車体振動やハンドルのぶれといった
異常が生じていなかったとする根拠として,〆覗偉鵑両莎劼蛇行以外の異常
を感知していないこと及び被告人が異常を感知したならば指導されていると
おりに直ちに制動措置を講じるはずなのに,実際には指導と異なり走行車線上
で左に寄りながら制動措置を講じていること等を指摘する。
これに対し,被告人は,自らの感知した異常について,二つ目のジョイント
通過時,運転席の後部から金属が折れるような音がした,間もなくハンドルが
振動し,左右に時計の針で分程度ずつ振れた,車体が左右に揺れ,右側に少
し下がったなどと供述する。
上記,療世砲弔,まず,本件事故時に本件バスの最前列の乗客席に座って
いたAは,本件バスが蛇行した際,金属音や通常の走行とは異なる車体の上下
の小刻みな振動や大きな振動,傾き等を感じなかった旨供述する。
しかし,上記供述は,平成28年2月8日及び同月12日にされたものであ
って,本件事故から既に約2年6月が経過した後のものであり,記憶保持の点
で疑義がある。現に,Aは,同月8日の検察官調書において,蛇行は2回であ
り,1回目の蛇行が左右どちらであったか覚えていない旨供述しているのに対
し,本件事故の翌日である平成年8月27日には本件バスが小さな蛇行か
ら大きな蛇行となって何度か蛇行を繰り返したと供述しており,供述の変遷が
見られる。また,Aは,同日,警察官に対し,「バスが事故を起こすまでは異音
等はなく普通に走行していた」と供述しているが,同供述の前に「最初は小さ
な蛇行でしたが,だんだんと大きな蛇行状態となって走行車線から追い越し車
線そして走行車線と何度か繰り返したのです。」とも供述しており,そこでい
う蛇行開始前には通常の走行をしているバスの乗客にすぎないAにおいて,異
音等のバスの状態異常にどの程度留意した上で,異音等はなく普通に走行して
いたと認識したのかは判然とせず,被告人の感知したとする異音等の状態異常
を聞き漏らしたおそれも否定し得ない。
また,ハンドルの振動や左右の振れについては,運転手以外が感知できるも
のでないことはもちろんである。
他方,被告人の上記供述は,センターメンバーの完全破断又は9割程度の部
分破断がある場合に生じる車両の異常と整合的である。
検察官は,被告人の弁解が不合理であるとして,目撃者供述とは異なり,被
告人が蛇行の回数を一回であったと供述していること,当初,被告人が,事故
原因について,被告人の本件事故当時の上司であるF証人に対し,「風にあお
られた」などと報告し,しばらくした後に車両の不具合を主張し始めたこと等
を指摘する。
確かに,本件バスの後続車両の運転手であるGは,本件バスの蛇行の回数は
2回であった旨供述しているところ,同人は本件事故について利害関係を有し
ておらず,本件バスの約80メートル後方を走行しており,視認状況にも問題
はなかったことからすると,同人の供述は,基本的に信用できるものであるが
(他方で,車体の振動や細かな蛇行の有無まで目撃できるかについては疑義が
ある。),そうであるとしても,被告人があえて虚偽供述をする動機も想定し
難いことからすると,被告人が蛇行の回数を1回であると認識していること自
体が虚偽であるとまで断定することはできず,被告人の供述全体の信用性を失
わせるまでの事情とは言えない。
また,F証人は,本件事故直後に,被告人と電話で会話した際,被告人が,
事故の原因について,「風にあおられた」と話していた旨証言するが,被告人
は,そのように述べたことを否定しているところ,F証人の当時の被告人等と
のやりとりに関する記憶は非常に曖昧で,捜査段階から複数の供述が変遷して
いること等からすると,同証言の信用性には疑義があるというほかなく,被告
人が上記発言をしたと認めることはできない。むしろ,被告人は,本件事故直
後の現場において,警察官に対し,「このバスは廃車寸前のバスで,乗りたく
なかった。」と発言し,勤務先への電話口や乗客の一人に対し,「左にハンド
ルがとられた。」,「ハンドルが利かなくなった。」などと述べ,その翌日に
は,職場の同僚に対し,「ゴト,ゴトと音がしてハンドル操作が出来ない状態
になり,その後に車体が左に振られ,次に右に振られた後にひっくりかえった。」
と話し,平成年8月30日実施の実況見分に立会した際にも,「事故は右
前の足回りの故障と思う」と説明し,「橋を越えた辺りで急に…ハンドルがぶ
れ始め,ハンドルが利かなくなった。」,「異音がして,コントロールが全く
出来なくなった(以下省略)。」と説明するなど,本件事故直後から,感知し
た異常の内容や事故原因がバスの故障によること等を指摘していたのであり,
細部はともかくとしても,供述の核心部分については概ね一貫しているものと
評価できる。
なお,被告人は,本件事故当日又は被告人立会での実況見分以降,本件事故
の原因がフロントサスペンション部品の一部であるアッパーアームナックルシ
ャフトの損壊によると考えていたことから,それに沿うよう自身の体験を一部
誇張する可能性も指摘することができるが,仮にそのような供述が一部含まれ
ているとしても,そのことだけで,被告人の供述全体の信用性を直ちに否定し,
被告人が如何なる異常をも感知していないとまでいうことはできない。
以上のとおり,AやGの上記各供述及びF証人の上記証言から直ちに被告人
の供述を排斥することはできず,それだけでは本件事故直前に本件バスに異常
が生じなかったとは認められない。
また,上記△砲弔,検察官は,F証人が,一般のバスの運転手は,ハンド
ル操作等に異常が生じた場合,そのまま真っ直ぐ道路上で制動措置を講じるこ
とが基本的な措置である旨証言しており,弁護人申請による証人であるH(同
人は職業バス運転手で,Bがリコールを届け出た際に,同社が報告した人身事
故3件のうちの1件で,バスを運転していた。)も,何らかの異常を感知した
場合の危険回避方法としては,左側路側帯に待避するのが理想とはしつつも,
ハンドルが左右にぶれる異常を感知した場合には,自分も走行車線上で止まる
旨証言し,F証人が証言している内容が,職業的なバス運転手にとって常識的
な措置であることを裏付けている旨指摘する。
しかし,F証人は,自分であればそのままブレーキを踏んで止める旨証言し,
しかも,そのように考えるのは,若い頃,バスはどんな事故があっても道路の
上で止まるようにと先輩運転手に指導されたからであると説明しているに過ぎ
ないのであるから,F証人がバスの運転手として約30年間の運転経験を有し
ているとしても,以上の証言のみを根拠として,本件において直ちに制動措置
を講じることがバス運転手として当然に取るはずの措置であるとまでは認めら
れない。なお,F証人は,経験のないドライバーが入ってきた際には,同様の
指導をすると証言するも,被告人に対しても同じ指導をしたとまでは証言して
いない。
また,H証人は,ハンドル操作が利くのであれば,路側帯に入るし,左に寄
せる努力はするなどとも証言しているのであって,その意味するところは,状
況に応じて適切な事故回避措置を講じる旨述べているに過ぎないのであるか
ら,同人の証言によっても,ハンドル操舵上の異常を感知しただけで,直ちに
走行車線上でも停止させることが通常の措置であるとは認められない。
被告人は,異常を感知した後も直ちに制動措置を講じていないことについて,
異常感知後,時速90キロメートル程度の高速走行中に足回りの故障が生じた
ものと思って,そのような状況下で制動措置を講じることは危険であると判断
し,路肩に安全に停止させることを考えたからであると説明しているところ,
そのような説明自体は特段不自然なものではないから,被告人が直ちに制動措
置を講じていないことから,被告人が何らの異常も感知していないと推認する
ことには飛躍があると言わざるを得ない。
⑷以上のとおり,異音やハンドルの振動,ハンドルの左右の振れ等を感知した
旨の被告人の供述を排斥することはできず,本件事故前,本件バスのセンター
メンバーの破断が9割未満に止まっており,本件バスのハンドル操舵に影響を
与えていないとの検察官の主張は採用できない。
3以上を踏まえて,主位的訴因について検討するに,まず,被告人は,上記のと
おり異常を感知した後,本件バスを車道の左側に寄せて停止させようとしたが,
本件バスが左側に持って行かれるように感じたため,急ブレーキを踏んだところ,
更に本件バスが左側に寄り,ガードケーブルに衝突しそうになったため,右側に
ハンドルを少し切ったところ,本件バスが急に右側に寄って行き,中央分離帯の
ガードケーブルと衝突して,本件事故に至った旨供述している。
そして,被告人の供述する事故態様は,センターメンバーの9割程度の部分破
断によって,安定的なハンドル操舵が困難となることと整合
している。したがって,本件事故の原因がセンターメンバーの9割程度の部分破
断によって安定的なハンドル操舵が困難となったことによるものでなく,被告人
の前方左右注視義務及びハンドル・ブレーキ的確操作義務の各違反によるもので
あることについては,合理的な疑いを排斥することができないのであるから,被
告人には,主位的訴因における過失は認められない。
なお,弁護人は,本件において,センターメンバーの完全破断か9割程度の部
分破断かによらず,ハンドル操作の動力がタイヤに上手く伝わらなくなるステア
リング系統の異常が生じたこと,及びノーズダイブ(急制動の際,前方のサスペ
ンションが沈み込むことで車体前方が沈み込む現象)時に路面に接触するほどロ
アアームが下垂したこと(弁護人は,本件事故現場の左前輪スリップ痕付近にあ
るガウジ痕が下垂したロアアームによって印象されたものであると主張する。)
等によって,本件バスの安全走行は不可能であった旨主張し,k工業大学名誉教
授で,自動車工学を専門とするE証人等も同旨を証言する一方で,検察官は,セ
ンターメンバーが破断しても,ステアリング系統に異常は生じず,また,ロアア
ームが路面に接触し得るほど下垂するのは,タイヤの垂直性が完全に損なわれタ
イヤが横倒しになるなどした場合であって,本件バスの走行状況等からはそれは
あり得ないし,上記ガウジ痕についても,本件バスのロアアームによって印象さ
れたものではないなどと主張している。以上のとおり,当事者間では,ステアリ
ング系統の異常又はロアアームの下垂の有無,及びそれによって本件バスの安全
走行が不可能となったか否か等について争いがあるが,上記のとおり,当裁判所
は,センターメンバーの9割程度の部分破断によると安定的なハンドル操舵が困
難となるという当事者間に争いがなく,証拠からも容易に認められる限度を前提
としても,被告人には前方左右注視義務違反及びハンドル・ブレーキ的確操作義
務違反の過失が認められないと判断しているのであるから,更に進んで上記争い
についての判断を示す必要があるものとは解されない。
第4予備的訴因について
1検察官の主張の概要
検察官は,予備的訴因において,仮に,センターメンバーの9割程度の部分破
断によって本件バスの安定的なハンドル操舵が困難であったとしても,被告人に
は,本件バスの異常を感知した時点で,直ちに制動措置を講じて運転を中止すべ
き注意義務があり,同制動措置を講じれば本件事故に至ることなく本件バスを安
全に停止させることは可能であったのに,同注意義務を怠った過失がある旨主張
する。
そして,検察官が被告人において制動措置を講じるべき地点として主張するの
は,具体的には,1度目の蛇行の時点(本件バスと中央分離帯のガードケーブル
との衝突地点から約237.8メートル手前の地点),あるいは,その後被告人
がハンドルの振動等の異常を感知した時点(上記衝突地点から約17.9メー
トル手前の地点。異音を感知したのは,さらにその約6メートル手前である。)
である。
2高速道路を制限速度付近の速度で走行中,運転手において何らかの異常を感知
したとしても,事故回避のため車線上に車両を停車させることは,後続車両の追
突による重大な事故を生じさせるおそれがあり,また,車両の故障時に制動措置
を講じた場合,車両の挙動が更に不安定となるおそれがあるなど,看過できない
危険性があるのであるから,原則として,それによらなければ事故を回避できな
いような緊急状況下における措置とみるべきであって,運転手において,他の回
避措置によっては事故を回避できないことが予見可能でない限り,高速道路の車
線上において車両停止義務を負わせることは相当でない。
また,検察官が依拠するD証言においても,同人の実施したコンピューターシ
ミュレーション(以下「本件シミュレーション」という。)において,運転手が
異常を感知して1秒後からブレーキを作動させた場合に安全に停止することがで
きるとするにとどまっているところ,異常を感知した後,1秒間程度の短時間に,
かつ,実際に路肩での停止を試みることもなく,路肩に安全に停止させることが
不可能で,直ちに走行車線上で停止する必要があると判断して,それを実行する
ことは相当に困難であることは容易に推察され,このことは,被告人が職業運転
手であることを考慮しても,本件のような状況を体験することが極めて稀である
ことからすると,変わらないというべきである。そうすると,上記予見可能性の
有無の判断に当たっては,この点も考慮に入れる必要がある。
3以上を前提に,予備的訴因に係る被告人の過失の有無を検討する。
検察官は,まず,本件バスが2回蛇行しており,被告人が1回目の蛇行を感
知した時点(本件バスと中央分離帯のガードケーブルとの衝突地点から約23
7.8メートル手前の地点)で,直ちに制動措置を講じるべきであったと主張
する。
しかし,仮に,検察官主張のとおり,本件バスが2回蛇行したと認められる
としても,検察官も指摘するとおり,2回蛇行したこと自体は,蛇行しながら
も一回は走行車線に戻ることができ,この時点ではハンドル操作がある程度は
利いていたことを推認させる事情とも評価できるのであるから,同時点は,被
告人において,直ちに制動措置を講じなければ事故を回避できないような緊急
状況下であると予見可能であったとは認められず,被告人には同制動措置を講
じる注意義務はなく,被告人に同義務違反の過失は認められない。
なお,被告人は,本件事故後,一時,異常発生後ハンドルが利かなかったと
述べていた様子もうかがえるが,その後捜査段階から公判に至るまで,本件バ
スを左側に寄せようとした際,ハンドル操作をしていないと供述し,また,左
側のガードケーブルに衝突しそうになった際,ハンドルを右に切って右に転把
できており,ハンドルは利いていたと供述するに至っていることからすると,
被告人が異常発生を感知した後,ハンドルが全く利かなかったものとは認めら
れない。
次に,検察官は,被告人がハンドルの振動等の異常を感知した時点(本件バ
スと中央分離帯のガードケーブルとの衝突地点から約17.9メートル手前
の地点)で,直ちに制動措置を講じるべきであったと主張する。
そして,上記のとおり,被告人は,同時点付近で,ジョイント通過時に金属
が折れるような音を聞き,間もなく,これまでに経験したことのないようなハ
ンドルの振動や左右の時計の針で分程度ずつの振れ等を感知し,それによっ
て,本件バスに足回りの故障が生じたと認識したことが認められる。
しかし,これら被告人が認識した事実だけであれば,これによって運転に支
障が生じており,運転の中止に向けて措置を講じるべき状況にあることは認識
できたとしても,その支障の程度,すなわち,本件バスを路肩に安全に停止さ
せることが不可能なほどハンドル操作が利かなくなり,直ちに停止させなけれ
ばならないことまで予見することができたとは認められない。それゆえ,同時
点は,被告人において,直ちに制動措置を講じなければ事故を回避できないよ
うな緊急状況下であると予見可能であったとは認められず,被告人には同制動
措置を講じる注意義務はなく,被告人に同義務違反の過失は認められない。
なお,検察官は,道路交通法上,高速道路上であっても「危険を防止するた
め一時停止する」ことは認められており(同法7条の8第1項柱書),他方
で後続車両には車間保持義務(同法26条)があるのであるから,追突のおそ
れがあることを理由に制動措置を講じることが期待できないわけではないと主
張する。
しかし,たとえ,後続車両が道路交通法上の車間保持義務を負っているとし
ても,実際には追突事故が発生し得るのであるから,後続車両による追突のお
それを考慮しなくてよいことにはならず,また,危険を防止するため高速道路
上であっても一時停止することが許されるとしても,それはやむを得ない場合
に限られるのであって,まずは走行車線上でなく,路肩で停車させることを検
討することが不相当でないことは明らかである(同法7条の8第1項2号で
は,高速道路走行中,故障その他の理由によりやむを得ず駐停車する場合,十
分な幅員がある路肩又は路側帯に駐停車するものと定められている。また,路
肩で安全に停止できる状況であるにもかかわらず,車線上で停止させ,それに
よって後続車両による追突事故が生じた場合には,停止行為について過失責任
を問われるおそれがある。)。
4以上のとおり,本件において,被告人に停止義務違反の過失がある旨の検察官
の主張は採用できず,この点で既に被告人には予備的訴因に係る過失が認められ
ない。
なお,予備的訴因における結果回避可能性についても以下付言するに,検察官
は,D証人作成の意見書及び同人の証言(同証人は,本件シミュレーションの結
果に基づいて,その意見を述べる。),すなわち,本件事故前と同様の状況にお
いて,運転手が異常を感知(同シミュレーションでは,一つ目のジョイントから
約77メートルの地点とされている。)して1秒後にブレーキを作動させた場合,
通常の減速(0.2G)では一つ目のジョイントから約メートルの位置,
強めの減速(0.3G)では約8メートルの位置,急ブレーキ(0.G)
では約169メートルの位置で安全に停止できるとする見解に依拠して,本件に
おいて,被告人が異常を感知した時点で直ちに制動措置を講じれば,本件事故に
至る以前に,本件バスを安全に停止することは十分可能であったと主張する。
そして,D証人は,B等で自動車開発等に現に利用されている,SIMPAC
K等のソフトウェアを使用して,本件シミュレーションを実施しているところ,
同人は,B開発本部実験統括部長兼l研究所長という役職にあって,Bl研究所
において,試作段階や開発段階の試作車両のコンピューターによるシミュレーシ
ョン及び車両による実験の業務を担当しており,自動車工学に関する高度の専門
性を有するとともに,同ソフトウェアによるシミュレーション解析に習熟してい
ることまでは認められる(なお,SIMPACKは,マルチボディシステムと呼
ばれる解析手法を採用しており,必要なデータを入力して車両を構成する各部品
をコンピューター上で作成し,各部品より車両を組み上げ,その挙動をシミュレ
ートするものである。また,D証人は,センターメンバーについては,他の部品
と異なり,部分的に破断した状態で変形することを考慮する必要があることから,
パーマスという別のソフトウェアを使用している。同ソフトウェアは,有限要素
法と呼ばれる解析手法を採用しており,部品を細かい要素に分割して,各要素の
変形量等から部品全体の変形をシミュレートするものである。)。
これに対し,弁護人は,D証人がBの従業員であって,本件に関し利害関係を
有していること,Bが本件シミュレーションの個々の入力データを開示していな
いこと(なお,Bは,入力データについて,本件バスに関する製品情報が企業秘
密であるとして,任意による開示には難色を示している。),及び自動車の設計,
開発のためのソフトウェアに過ぎないSIMPACKを使用して,過去の交通事
故を再現することの問題性等を指摘して,その信用性等に対して疑義を呈してい
る。
以上のとおり,当事者間において,本件シミュレーションの依拠する科学的原
理やソフトウェアの正確性・信頼性,及びD証人による誠実なシミュレーション
の実施等に関連して争いがあるものの,仮にこれらを肯定するとしても,コンピ
ューターシミュレーションがあくまでコンピューター上で事実を近似的に再現す
るものであり,又本件において,結果回避可能性を基礎づける証拠が上記意見書
及び証言のほかにないことからすると,同各証拠から実際の本件事故前の状況に
おいて検察官主張の位置で本件バスが停止可能であったことを推認するには,慎
重な検討を要するというべきである。
しかるに,本件シミュレーションでは,事故現場が緩い右カーブとなっている
こと(したがって,ハンドル操作をしなければ,車両は自然と左側に寄る。),
路側帯の幅,及びセンターメンバーとロアアーム以外の部品の腐食や老朽化が車
両の挙動に与える影響等が考慮されていないこと等,本件事故の状況と異なる部
分が認められる。D証人は,シミュレーションの結果について,実際の車両の動
きと微妙なずれが出るとしても,傾向は合うもので,大きなそごはない旨証言す
るが,その根拠や,そこでいう傾向や大きなそごがどの程度のものかは必ずしも
明らかでなく,本件シミュレーションでも,車両は走行車線を一部外れるほど左
右に振れながら停止するに至っていることも併せ考えると,本件シミュレーショ
ンに反映されていない事情が実際の本件バスの挙動に影響を与えず,本件バスが
本件シミュレーションどおりに停止が可能であったとまで言い切ることは躊躇せ
ざるを得ない。
加えて,本件シミュレーションでは,車両の走行異常が生じた際,運転手が適
正な進路を保持するようハンドルを操作することが想定されており,運転手がそ
れと異なるハンドル操作をした場合にも,異なる結果となり得ることが認められ
るところ,本件バスのような走行異常のある車両について,高速走行下で制動措
置を講じながら適切なハンドル操作をすることはバス運転手にとっても容易でな
いことや,運転手が走行車線を維持するようなハンドル操作をしない可能性があ
ること(例えば,運転手が,異常感知後,直ちに制動措置を講じるのと同時に,
路肩に寄せて停止させるようなハンドル操作を試みる可能性も否定できない。)
等を考慮した場合にも,なお本件バスが本件シミュレーションどおりに停止が可
能であったかについては疑義があるというほかない。
そうすると,本件シミュレーションは,被告人が異常を感知した時点で直ちに
制動措置を講じれば本件事故に至る以前に本件バスを安全に停止することが可能
であったことについて確信を抱かせるものではなく,合理的な疑いが残るという
べきであるから,これに依拠した結果回避可能性についての検察官の主張は採用
できない。
第5結論
以上によれば,本件公訴事実については,主位的訴因及び予備的訴因のいずれも
犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し,無
罪の言渡しをする。
平成31年3月11日
札幌地方裁判所室蘭支部
裁判長裁判官 五十嵐浩介
裁判官 原彰一
裁判官 牧野一成

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