報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

裁判員10年 裁判官インタビュー(9)「分かりやすい裁判、まさに実感」大阪地裁・長瀬敬昭裁判官(51) 35件担当


(聞き手・矢田幸己、件数は担当した1審裁判員裁判の数)
 −−裁判員裁判の導入によって、刑事裁判全体に変化はありましたか。変化したとすればどのような点でしょうか
 「まず裁判員制度をなぜ導入したのかという話をします。裁判が分かりやすくなる、裁判が身近になる−この2点が導入の理由とされています。(導入から10年が経過して)まさにそれらを実感しています。判断主体の中に裁判員という法律知識のない方が入っていて、当事者は事件について、いかに分かりやすく伝えるか、ということを心がけます。裁判員にとっても分かりやすい審理になるということは、当然裁判官にとっても分かりやすい審理になります。そこが一番の大きな変化ですね」
 −−裁判員裁判そのものについては施行からの10年間で変化はありましたか。変化したとすればどのような点でしょうか
 「当初は今までにない制度を始める、ということでエネルギーを使って導入を迎えました。今はちょっと落ち着いてきていると感じます。同じ力量でやっていないというか。逆に言うとそれは定着したことの表れかな、と思っています。(施行から)10年がたって裁判員制度を知らない方もおられるでしょうが、そこは広報不足。他方でかなり関心を持っている方もいらっしゃる。あるいはやってみたいという人も。そうすると、かなり裁判員裁判が定着しつつあるのかな、と思います」
 −−裁判員裁判の評議では、どのような点を心がけていますか
 「議論しやすい雰囲気をつくるいうことに尽きます。いきなり法律の話をして『殺意の有無について話しましょう』と言っても発言が出るわけではありません。まずは雑談。どんなことでも言っていい、という雰囲気を作り出すことに力を入れています。これを私は雑談力と言っています。たとえば裁判所の仕事に興味を持っていらっしゃる方なんかは『裁判官は転勤が多いですよね。実は私も転勤族でして…。引っ越しが大変ですよね』と、引っ越しの話で盛り上がることも。裁判のドラマの話もします。私も割と見るほうなので」
 「裁判官の仕事の変化としては判断を迅速・的確に判断するということは変わっていません。評議で人の発言を引き出すというのは新しい能力として必要かな、と思います。それまで全く議論したことがない方同士が顔を合わせて有罪や無罪、有罪の場合は量刑をも議論しますから。いかにそこでご自身が思っていることを素直に言っていただくかですね。私、施行時は裁判員裁判を担当していないんです。裁判長の立場としてのスタートでした。だから、他のやり方を知りません。我流ですが、自分が裁判員の立場になったら、まずは話ができる雰囲気であったほうがいいなと思います」
 −−検察側、弁護側の主張・立証で変化した点、改善してほしい点はありますか
 「いずれも分かりやすい審理を心がけてくれています。それはうかがえます。検察は組織なので、工夫は組織としてできます。弁護人ほど差はありません。ただ、検察官は有罪立証をしようとするので、ともすれば過剰な立証が多すぎると思うことがあります。今は『証拠の厳選』。争点に則して必要な証拠調べだけをしましょう、と。それがテーマになっています」
 「弁護人は組織ではないので千差万別です。裁判員裁判を意識した分かりやすい審理を心がけている方もいる一方で、旧態依然とした方もいます。過去に、検察側が開示した被告人に有利な証拠を、自分の言葉で分かりやすく置き換えずに、そのまま出してくる方がいました。法律の知識とか裁判の知識がない方がどう感じるか、という想像力が足らないと感じるケースもあります」
 「今は当該事件が終わった後に個別の意見交換会をしています。『弁護人からああいう証拠が出ましたが、裁判員の方からすると、ちょっと分かりにくかったよ』と。評議の秘密にあたらない形で裁判員の評価を伝えるようにしています。当初と比べると弁護人も工夫している例は増えてきていますが、組織ではない分、一枚岩でないですからね」
 「検察側についてさらに言うと、『なぜ同じような証拠が出てくるの?』と裁判員の方が思われることがあります。証拠Aと全く同じBという証拠が出てきてしまうと、分かりにくさにつながります。裁判員の方はまじめなので、Aだけでは心許(もと)ないからBもある、ではなく、同じものがなぜ2つもあるのかと考えてしまいます。そうした場合は意見交換の場でA、B双方の証拠が出てきたが、皆さん(裁判員)はBのせいで混乱していましたよ、と伝えるようにしています。まさに証拠の厳選をどう考えるということですね。裁判員の方がいて、できるだけ合理的な期間に参加してもらうことを目指すと、無駄は少なくしてほしいということですね。本来、証拠の厳選は裁判官裁判でも同じですが。裁判員裁判で得た運営や運用を非対象事件にどう生かすかもテーマです」
 −−今後の裁判員裁判に期待される点、ご自身の職務にあたっての意気込みを教えてください
 「分かりやすい裁判をしているし、良い制度と心底思っています。今後も続いてほしいですが、そのためには参加する人がいないといけません。裁判所のアンケート結果では、『非常に良かった』『良かった』が全体の95%。アンケート結果が手前みそだとしても、かなりの方は達成感や満足感を持っていらっしゃる。私の実感としてもそう思います。『なんとなく不安』『なんとなくしたくない』ということで敬遠している方には、やりがいがある、とPRしたいと思います」
 「制度の問題がないわけではありません。たとえば期間の問題です。責任能力が争われる事件だと審理期間が伸びがちです。工夫してできるだけ短い間に結論を出すような仕方を研究していきたいと思います。われわれだけでもできないので、検察官、弁護人とも意見交換をし、合理的な仕方を議論して進めていきたいです。私も裁判員裁判をずっと担当したいのですが、1審の裁判長をできる時間は限られています。『(裁判員制度は)ここまで進んだよ、ここから先はお願いね』と後進の裁判官に伝えていきたいと思っています」
 ■長瀬敬昭
 ながせ・たかあき 平成6年判事補。広島地家裁判事、大阪地裁判事などを経て、28年4月から大阪地裁部総括判事。51歳。裁判所に令状を請求せず、捜査対象者の行動を確認するために車両に衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付けた捜査手法が争われた広域窃盗事件の大阪地裁での公判で27年6月、「令状主義を軽視し、プライバシーを侵害する重大な違法捜査」と判断、関連の収集証拠を採用しない決定をした。
(2019.5.21 17:30 産経新聞)

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

もくじ

名前で検索


 あ行

 か行

 さ行

 た行

 な行

 は行

 ま行

 や行

 ら行?

 わ行

 

管理人/副管理人のみ編集できます