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裁判員10年 裁判官インタビュー(7)「質問を受け、自分の引き出し増えていく」最高裁・内藤恵美子調査官(40) 約30件担当


(聞き手・加藤園子、件数は担当した1審裁判員裁判の数)
 −−裁判員裁判の評議ではどんなことに気を付けていますか
 「よく似た『法令解釈』と『法令適用』の線引きが難しいと思っています。法律では、法令解釈は、裁判官から裁判員に説明することになっています。法令適用は、裁判員のみなさんと一緒に考えることが求められています。法令解釈は、まずはやさしい言葉で。一方で法律要件の本質をとらえ、正確で誤解がないようにしないといけません。説明事項の中で難易度の高いものとして『責任能力』や『共同正犯』があります。まずは説明する裁判官が法律要件について分かっていないといけません」
 「裁判官裁判の時代は、そこをあまり詰めて言語化しなくても仕事が回っていたように思います。業界用語というか、マジックワードがあり、裁判官同士でわかり合えた気になっていました。でも実際に本質が何か、裁判官同士で議論してみると、結構理解が違っていたりして。裁判員のみなさんが加わって、ごまかしが通用しなくなったといいますか。頑張って研究しないといけないと思います」
 −−初めて裁判員裁判に携わったときから説明に当たられたのですか
 「長崎地裁にいたときに裁判員制度が始まり、右陪席として裁判員裁判に携わってきました。長崎の時に考えていた説明を今になって振り返ると、もっといい説明があったかもしれないなとも思います。裁判員裁判が始まって、裁判例を勉強したり、専門家の著書を読んだりすることが増えました。本当にベストな説明ができているのかどうかは、永遠の課題です。裁判員が質問してくれる度に自分の引き出しが増えていきます。答えに窮したり、ほかの裁判官に助けてもらったりすることもありますけれど」
 −−裁判員と一緒に考えるときはどのような姿勢で臨むのですか
 「私自身、分からないと思うことや、悩むことも多いです。素直に『ここ悩んでいます』とか、『ここ分からないんです』と口にして、周りの人の意見を聞くようにしています。結構評議室から戻ってくると、独り言のように『ここ分からないなー』なんて口にしています。言うと、両脇の裁判員や補充裁判員が『こういう意味じゃないか』と答えてくれたり、私が見落とした証拠を指摘してくれたり、自分と違う見方を提示してくれたりします。みんな記憶が鮮明なので感じていることがあるんですね」
「一人だと、証拠の見方にバイアスがかかっていたり、見落としがあったりする恐れが、どんなに気を付けていても可能性として捨て切れないと思います。いろいろな立場の多角的な視点が加わって、その恐れが是正されるんじゃないかなと思っています。裁判員と評議していると、自分の見方が一面的というか、紋切り型というか、思い切りがよすぎるということに気付かされることがよくあります。いろんな経験をした方が集まることのメリットだと感じています」
 −−刑事事件全体の変化はありましたか
 「『触媒(しょくばい)』という言葉が一番しっくりくると思っています。裁判員制度が触媒となって、刑事裁判全体が大きく変わったと思います。1審は法廷で心証をとる、公判の審理で決着をつけるという考え方が根付きました。よくよく考えると裁判員裁判は裁判員法という特別ルールに定められていますが、示されているのは本当に手続きの一部です。公判中心主義や直接主義、連日開廷、証拠の厳選という、裁判員裁判で理想とされている理念は、全部、一般ルールである刑事訴訟法にもともと書いてあるものでした。刑事裁判の原点に立ち返る流れができ、裁判員裁判の対象ではない一般事件でもそう考えられるようになってきています」
 −−裁判官の仕事の変化はありましたか
 「初任の頃は法廷から帰ると、膨大な供述調書や捜査資料を読み込むことに時間がかかっていました。判決書きもずいぶん盛りだくさんでした。当時はそうは思っていませんでしたけど。今は証拠の点数が絞られ、証人から直接話を聞くことが増えました。供述調書を何通も読み込むわけではないのです。判決は、結論を左右する必要十分な事実が何なのか、エッセンスを意識しながら起案するようになりました。公判前整理手続きが導入されていなかった段階では、双方が主張した内容に、判決で全て、総花的に、答えていました。念のため全て盛り込もう、という意識があったのかもしれません」
 −−10年間で裁判員裁判はどう変わりましたか
 「検察官、弁護人の主張・立証が変化したと思います。制度の施行当初、冒頭陳述などは詳細なものが多かったです。詳細すぎると主張と証拠との区別がしづらくなり、緊張している裁判員が処理しきれなくなってしまいます。今はスリム化したかなと思います。あとは証人に直接聞く機会も増えました。以前は自白事件の場合、立証は書面だけということもありました。供述調書を検察官が全文朗読するという形です。今は証人に二次被害がないなら、証人尋問をすることが増えたと思います。このことで結果的に判断の質が上がっているんじゃないかと思います。裁判所は判断の責任を負っているので、関係者に直接、確認し、質問したいと思っています。検察官も弁護人も、重要証人は直接話を聞いて起訴の判断や証人の請求をしています。裁判所も同じように直接体験した人から聞きたいと思っています」
 「裁判所の中では、裁判員との実質的協働という言葉が言われてきています。それぞれが審理を通じて心証形成して、評議の段階では、自分なりの暫定的な結論と、おおまかな理由が言えるようになっている状態を目指そうじゃないかと。そういう審理をするためには、公判前整理手続きで審理計画や争点をどう設定するかが重要だと思います」
 −−検察官、弁護人に改善してほしい点はありますか
 「皆さん工夫していただいています。強いて言うなら、尋問技術でしょうか。証人や被告人からどんな答えが返ってくるかは、公判にならないと分かりません。どこまで攻めるか、どこで引くか。供述調書と法廷での細かい食い違いにこだわるなど、詳細になりすぎると裁判員にも分かりにくくなってしまうと思います」
 −−今後の裁判員裁判に期待することは何ですか
 「裁判員裁判の導入をきっかけに、法律要件の本質を検討してきました。法曹三者の議論も活発になりました。学者との交流も活発です。本質に立ち返った争点の設定があり、裁判員を交えた多角的な判断ができるようになったと思っています。こうした効用がこれから先も積み重なり、司法判断の説得力や論理性、透明性が高まるのではないかと期待しています。10年後、20年後の判断と、施行前の判断を比べると、法解釈自体が動いている可能性もあるのではないかなと思っています」
 ■内藤恵美子
 ないとう・えみこ 平成14年判事補。横浜地裁判事補、長崎地裁判事補、広島高裁判事、東京地裁判事などを経て、31年4月から最高裁調査官。40歳。
(2019.5.21 16:10 産経新聞)

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