報道等をもとに日本の裁判官の情報を収集、掲載しています。

裁判員10年 裁判官インタビュー(20)「裁判員は制度のパートナー」広島地裁・冨田敦史裁判官(56) 90件担当


(聞き手・滝口亜希、件数は担当した1審裁判員裁判の数)
 −−裁判員制度が21日で施行から10年を迎えました
 「制度が始まった頃から裁判員裁判を担当していますので、10年たったんだなという気持ちもありますし、最近、裁判員については悪いニュースが取り上げられていますよね。(審理期間が)長いなど。そういうマイナスなイメージだけが報道を通じて一人歩きしているので、なんとか挽回したいという気持ちがあります。挽回するには、裁判員制度が始まった頃と同じように、裁判官や裁判所の中の人が外に出て行かないと、そう簡単に世間の流れは変わらないだろうと考えていて、10周年を機会に、改めて裁判員制度の良さや今のリアルな姿を伝えられたら、と思っています」
 「企業や、裁判員経験者のお勤め先に呼んでいただくことがあります。『(聴衆が)何人もで行きます。親戚の集まりでもいいから呼んでください』と言っています。さすがに、親戚の集まりに呼ばれたことは、まだありませんが。最初に裁判員の制度の概要や、皆さんが不安に思っていることをお話しして、質問に答える形式にしています。よく不安に思われているのは、日数が長くなるのではないか、残虐な証拠を見せられるのではないか、(事件の)関係者に恨まれるのではないか、といった点で、できる限りそうした心配が解消されるように話をしています」
 −−残虐な証拠を見せられるのではないかという心配については、どのように答えていますか
 「そんなものを見せることないです、と答えています。そうした証拠を裁判員に見せなければならない要件を満たすことは、ほぼありません。裁判員裁判が始まるまでは、裁判官は日常的に証拠として見ていましたから、制度施行当初は鈍感な部分もあったと思います。裁判の中でそういう証拠が出され、弁護人も同意すれば取り調べるのが昔のスタンダードな実務でした。しかし、精神的な負担を感じる方がおられて、その証拠がなぜ審理に必要なのか、ということを全国的に改めて考えるようになりました」
 「そもそも、専門家でない人が遺体写真を見て『これは刺し傷だ』『これが死因だ』といったことが分かるわけではありません。一般的な経験則ではなく、専門家の判断を前提にして考えているわけです」
 −−ショックを受ける原因は人それぞれかと思いますが、裁判員の様子にはどのように気を配っていますか
 「裁判官のアンテナの立て方だと思うんです。裁判員は今、どんな気持ちになっているのか、ということを普通の人の気持ちに戻って考え、受け止める。そして、裁判員と補充裁判員が、同じことを経験している同士として、今どんな気持ちなのかを、お互いに言い合えるような関係を作ることがとても大事なんです。簡単に言うと愚痴を言い合えるような関係を作ることが大切です」
 「制度が始まった頃は、裁判員同士は番号で呼び合うか、本名で呼び合うかという二択が多かったのですが、プライバシーの問題もあります。ただ、番号だと無個性な感じになってしまうんですね。僕のグループでは、裁判員に『芸名』をつけてもらっているんです。裁判員期間中の芸名を考えてきてくださいと伝え、それで互いにやりとりをします。あだ名みたいなものですが、親近感を持ちやすいですし、家族や会社の人と考えてもらえば、そこで裁判員に対する関心も広がりますよね」
 −−裁判員制度が導入されたことで、刑事裁判全体にはどのような変化がありましたか
 「自分の中で感じる違いは、公判で『見て、聞いて、分かる』ような審理をするために、事前に、今度の裁判では何を決めるのかということを検察官、弁護人に準備してもらい、本番を迎えるようになりました。これは、裁判員裁判以外の刑事裁判にも良い影響として表れています」
 −−裁判員裁判の進め方で、この10年で変えてきた点はありますか
 「初めの頃は右陪席でした。振り返ってみると、制度施行当初は、証拠調べで同意された書面を読み上げるなど、裁判員の前でそれまでの刑事裁判と同じようなことをやっていたこともありました。調書の朗読に1日、2日と費やしたり。そこから、公判中心主義とは何なのかということを全国の裁判官が考えたときに、捜査段階の証拠を公判で見ることが公判中心主義ではない、という原則に立ち返り、法廷に被告がいるなら捜査段階の調書を見返すよりも本人に聞いた方がいい、証人にも法廷に来ていただいて話を聞く方がいい、ということに思い至りました。制度施行から3年ほどの間に、見て聞いて分かる審理をするためには、大事なことは人に聞こう、という方向が決まりました」
 −−裁判員・補充裁判員にまんべんなく意見を言ってもらうために、どのような工夫をしていますか
 「評議の内容やメンバーを見て、どのような手法で意見を出してもらうかを決めています。順繰りに意見を述べてもらうこともあります。たとえば、性犯罪ですと事件内容について議論するときに、女性が話しづらいということがあります。そうした場合は、付箋紙に意見を書いてもらって張り出し、それぞれ理由を言ってもらいます。また、量刑の議論をするときに、意見が強い人に他の人が引きずられるような傾向が見られる場面では、付箋紙を使って意見の『同時出し』という手法をとります」
 −−裁判員制度では辞退率が上昇傾向にあり、出席率が低下傾向にあります。参加者を増やすためには、どうしたらいいと考えていますか
 「裁判員の辞退の申し出には『仕事が忙しくて会社に言えない』『会社からも忙しいから断ってこいといわれた』という理由が一定数あります。参加率を上げるには、仕事と裁判員の調整をどうつけるかということが、一番大きい課題だと思っています。日程の組み方をみると、以前はたとえば5日間の期日がある場合、月曜から金曜まで期日指定をすることが多かったですが、そうすると会社員の方は1週間ずっと仕事を休まないといけなくなります。より参加しやすくするためには、間に数日間の休日を入れるなどした方が『週3日だったら参加できます』という会社員の方対応することができます」
 「また、職場訪問をした際には、実際に仕事と裁判員を両立させてくださった方のお話をして、職場の支援が大事だということを経営者や上司、同僚の方に話すことで、職場の支援態勢を広げていきたいと考えています。企業にとっても、従業員が裁判員として参加することはその人の役に立つし、企業の貢献という意味でも大事なことだということを理解してもらうことができれば、少しずつでも仕事を理由とする辞退の割合が変化していくのではないかなと思います」
 「裁判員制度でこれまでに説明したようなさまざまな手法がなぜ生まれたのかというと、たくさん失敗をしてきたからです。これまで90件ほどの裁判員裁判をやってきましたが、自分が裁判長で陪席と『もっとこうしたらよかったんじゃないですか』と話すことがあります。そして、改善していくんですね。裁判員の方は、裁判員制度が発展していくための大事なパートナーです。裁判員には、単に客体として来てもらっているのではなく、パートナーとして参加してもらうことで、裁判員制度も10年の間に大きく変化を遂げてきているんだということを伝えたいですし、とても感謝しています」
 −−今後の抱負を教えてください
 「この制度をどの方向に発展させていくのかは『裁判員と裁判官の協働』というのが、答えを示していると思います。協働の仕方としてどんなイメージを持っているのかを、これから裁判官は考えなければいけないと思っています。僕は、基本的には市民主導で事実認定の議論や量刑議論の中身はしてもらいたいと思っていて、こちらの役割は土俵設定だと思っています。評議の中で裁判官が専門的な意見を言って頑張らなければいけないというのはおかしくて、裁判官が専門的な意見を言わなくても、正しい、法的な議論ができるような場面設定さえしておけばきちんと議論ができると思います」
 「僕の評議室には灯台の絵を飾っています。灯台というのは、進む方向を示す目印ではなく、危険な場所を示すものです。船がどう進むかは船が自分で考え、決めるんです。灯台は、危険な場所を示して『そこへ行ったら危ないですよ』『脱線しますよ』ということを示すもので、裁判官の役割も似ていると思うんです。司会は別ですが、議論の中身は彼らが決めていけばいい。裁判官は『そこは崖ですよ』『ここは外れますよ』ということを示せるような存在でいればいいんです」
 「現時点では、まだ一緒に『(方向は)右ですよ、左ですよ』と言わなければいけない場合もありますが、裁判官が舵を持って乗っけていく船旅では、おかしいですよね。自分達で決めてもらうんです。この絵は『裁判官の役割ってね…』といつか語る場面がないかなと思って置いているんですが、まだ裁判員の方に絵の意味を話したことはないですよ。裁判員に言う場面というのは、議論が脱線しそうな場面っていうことですからね。自分の中では、そういう存在として評議や審理が進められたらいいなと思って大事にしているんです」
 ■冨田敦史
 とみた・あつし 平成7年判事補。神戸地裁判事、鹿児島地裁部総括判事などを経て、30年4月から広島地裁部総括判事。56歳。
(2019.5.30 23:30 産経新聞)

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