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裁判員10年 裁判官インタビュー(11)「争点を本質的なものに」大阪地裁・大森直子裁判官(47) 31件担当


大阪地裁の大森直子裁判官=4月24日、大阪市(南雲都撮影)
 (聞き手・真鍋義明、件数は担当した1審裁判員裁判の数)
 −−裁判員裁判の導入によって変化はありましたか
 「私自身は劇的な変化があったと感じています。一番変わったなと思うところは、法廷で見て、聞いていれば判断がつく、そういう審理になったという点です。以前は1つの事件の記録でロッカーがいっぱいになるものもあったり、少ないものでもずいぶん厚みがあったりしました。それを法廷で全部読むわけにいかないので、裁判官室に戻って夜遅くまでページをめくっていた、というのを覚えています」
 「証人尋問や被告人質問で、事細かに事実を聞き続けるということもありました。当時は事件の詳細までつまびらかに解明し、詳細に事実を認定していくという『精密司法』の時代だったからです。その後、私は刑事裁判を離れ、裁判員制度が導入されて5年後くらいに戻りましたが、法廷に座っていれば記録をめくらなくても分かるというところに驚きました。争点をかなり明確にしているので、書証や証人、被告人にどの話をお聞きするかも、争点判断に必要なものに限られてきます。『そこを判断すればよいのね』というところがよく分かるようになっていました。裁判員裁判を経験したことで、裁判員裁判以外でも、争点の設定は本質的なものに絞っていこうとしたり、証拠は厳選していこうとしたりする姿勢が、強く生まれてきたと思います。事件について、本当に必要な核心部分を調べ、審理するという『核心司法』に変化したなと思います」
 「自分自身も変わったと思うのは、物事の本質や、『人に分かりやすく説明できるか?』ということを、よりよく考えるようになりました。法律家としてそれまで当たり前に思っていたことを、本当にそうなのか? それでいいのか?と検証していく良い機会になっていると思います」
 −−裁判員裁判を通じて感じることは
 「辞退率の高さが課題とされていますが、裁判員候補者や選任された裁判員らと接していると、『(裁判員を)やりたかったんです』という声がずいぶん多くなったと感じます。以前は『残念ながら当たってしまいました』という方がほとんどでした。ところが最近は『当たってよかった』や『実はやりたかった』という声を聞くことが多くなりました。私も『ええー、本当ですか?』なんて結構、驚いているんです(笑)そこで尋ねると、インターネットなどで裁判員経験者が『やりがいがある』『とやってよかった』と書いているのを見たから、という話でした。ありがたいなと思います」
 −−裁判員裁判の評議で心がけていることは
 「大きく2点あります。1点目は裁判員らが自分の意見を言うことができる環境づくり。2点目は、評議の場に限りませんが、裁判員らの不安をなくし、負担感を少しでも軽減することです。」
 「1点目ですが、私はいつも選任されたばかりの裁判員らにこう申し上げています。『皆さんと一緒に達成感を持って判決の日を迎えたい。そのためには、一度かもしれない裁判員や補充裁判員なので、後悔がないように、疑問を残さず、思ったことはすべておっしゃってください』と。裁判員裁判の意義の一つに、国民の多様な視点を取り込むということがあります。国民といっても一人一人違うわけで、異なるバックグラウンド、異なる価値観、異なる視点を持っています。そうした全員の視点をその場に出していただくことができるように、話をしやすい雰囲気作りを心がけています」
 「もう一つよく申し上げるのが『議論は乗り降り自由』です。実は裁判官も、裁判員と議論をする中で『その考え方はいいな』『その考え方ももっともだ』と思ったときは、柔軟に意見を変えています。そうすることで、異なる視点が融合していくというか、深みのある議論が可能になると思います。まじめな方だと、一度言った意見を変えちゃいけないと思ったりもします。でも、そうではないんです。分からないことや疑問に思うことこそ、いい視点の意見につながったりしますので、臆することなく言ってほしいと伝えています」
 「2点目ですが、選任された日から裁判員らとコミュニケーションをとって、疑問や不安があればすぐに言ってもらい、解決できるように心がけています。裁判の仕組みや事件の手続きなどでも分からないことがあれば説明しますし、審理が始まる前や最初に法廷に入るときはみなさん緊張されたりしますので、休廷時間中に緊張を解きほぐしながら、やっていくという感じです」
 「審理の中には見るのもつらい、聞くのもつらい、考えるのもつらいという場面もあります。そうした際は特に裁判員らの様子を常に注意深く見守って、ときには個別で話を聞いたりします。『不安を抱えたままでいないでください』『決して無理はしないでください』と伝えています」
 −−検察・弁護側について感じることはありますか
 「検察・弁護側の主張や立証活動は日々変化していると思いますし、分かりやすく伝えるための技術はずいぶん向上していると思います。検察・弁護側というよりも、私自身を含めて努力しないといけないなと思うことは2つあります。1つ目は公判前整理手続きの中で事件の核心を見極めるということです。核心司法を実現するためには核心を見極めるのがもっとも重要で、そこは外してはならないですが、結構難しい。裁判所は当事者と違って、膨大な証拠を全く見ない中で、手続きに臨みます。証拠を全部見ている検察官と弁護人の主張から、争点を把握し、その判断のために調べる証拠は何かと絞っていく必要があります」
 「もう1つは、自分たちが裁判員裁判に慣れてくると『前の裁判員はここまで分かってくれたので、次も分かってもらえるだろう』という、まるで裁判員も慣れているような錯覚をしていないだろうかということです。裁判員は、当たり前ですが、初めて裁判員裁判に臨みますので、常に原点に立ち返り、分かりやすくしていかなければならないなと思っています」
 −−これからの裁判員裁判についてどう考えていますか
 「月並みですが、裁判員に達成感を持ってもらい、参加してよかったと思えるような審理や評議を1件でも多くしたい。それを口コミで広げていただけるよう、1人でも多くの人に裁判員裁判に参加したいと思ってもらえるよう努力したいと思っています。そうすることで、さらに多くの人に、裁判員裁判だけではなく、裁判や裁判所にも関心を持っていただければありがたいなと思っています」
 ■大森直子
 おおもり・なおこ 平成10年判事補。神戸地裁支部判事など経て、29年4月から大阪地裁判事。47歳。27年12月、フィリピンで少女とのみだらな行為を撮影したとして児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)などの罪に問われた元横浜市立中学校長に対し、「フィリピンの児童の経済的苦境に乗じた犯行で、少女の健全な成長に悪影響が懸念される」として懲役2年、執行猶予4年(求刑懲役2年)を言い渡した。
(2019.5.28 14:00 産経新聞)

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