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裁判員10年 裁判官インタビュー(10)「評議は『乗り降り自由』」大阪地裁・中川綾子裁判官(50) 50件以上担当


(聞き手・矢田幸己、件数は担当した1審裁判員裁判の数)
 −−裁判員裁判の導入によって、刑事裁判全体に変化はありましたか。変化したとすればどのような点でしょうか
 「大きく変化がありました。たとえば、裁判官は以前、膨大な証拠書類を読むのが大前提でした。振り返れば、必ずしも関係がないところも詳細に審理を尽くしていました。ただ、裁判員が入るとそういうわけにはいきません。判断の核心部分に必要な範囲で審理・判断する、と。そういうことを強く意識するようになりました。検察側、弁護側の当事者もポイントを絞った主張をするようになりましたね。証拠についても、判断に必要なベスト・エビデンス(最良証拠)は何か、という意識を強く持つようになりました」
 「開廷の間隔もそうです。昔は1カ月に1度とかでしたが、それでは裁判員の方に来てもらえないので、連日的な集中審理に変わってきています。変化の背景に何があったか。法曹三者で協議会を行ったり、模擬裁判・模擬評議をしたり。そういう中でより良い裁判員裁判の実現、という共通の目標ができました。それが裁判員裁判だけではなく、ほかの事件にも波及してきているのではないか、と考えています」
 「裁判官の仕事にも変化がありました。以前は(資料を)持ち帰って膨大な証拠を読み込んだりして、自宅で判決を起案をするというスタイルでした。それだと、分かりづらい、難しいという感想が(裁判員から)出てきたのではないかと思います。判決書きは裁判員裁判でも裁判官が担当しますが、判決に必要な範囲を簡潔かつ明瞭にするように、分かりやすく、短くするように心がけています」
 −−裁判員裁判そのものについては施行からの10年間で変化はありましたか。変化したとすればどのような点でしょうか
 「具体例を3つ挙げます。たとえば裁判員の選任手続き。最初の頃はよかれと思ってしていましたが、午前中が選任で、午後から即審理に入っていくというケースが全国的に多くありました。しかし、裁判員候補者からすると、午前中に選任のために来ても選ばれるかどうかは分からない。ところが、選ばれると(仕事などの)調整をしないといけないのに、午後からいきなり審理に入ってしまうということになります。そのため、今は選任手続きと公判はなるべく別の日にしています。これは裁判員の方のご意見を踏まえた変化ですね」
 「2つ目は冒頭陳述。最初の頃は裁判員の方にたくさんの情報を与えたほうがいい、と検察官も考えていたのではないでしょうか。非常で綿密で詳細な冒頭陳述でした。ところが、これも裁判員にとっては初公判が始まって緊張しているのに、膨大な情報量を与えられても処理できない、と。そういう意見が多かったんです。むしろ、それよりどんな事案概要なのか、私たちはどこを判断すればいいのか、そして証拠調べとどんな関連があるのか分かりやすくしてもらったほうがいい、という意見をいただくようになりました。個別の反省会もしているので、検察官や弁護人にそれを伝えます。事案の概要とか争点を映画の予告編のような形でしてくれたほうが興味を持って聞いてくれますよ、と。それからだいぶ冒頭陳述も変わった気がします」
 「3つ目は重要証人の話を直接聞いて判断するように変わったということです。裁判官は書類を読むことに抵抗はないし、耳で聞いても分かるのですが、法廷での読み上げは時間がかかる割には裁判員の方には不評で…。それよりは被害者や目撃者、共犯者ら重要な証人に出てもらい、聞くほうがよく頭に入る、と。実際に証人尋問で直接聞くほうに変わりました」
 −−裁判員裁判の評議では、どのような点を心がけていますか
 「裁判員の方は突然、刑事裁判という非日常に参加することになります。まずは不安を解消するということを心がけています。生活上の不安とか、重大事件を審理するということで精神的な負担もあると思うので気を配ります。きちんと眠れているかどうか、裁判に参加することで休日を仕事で潰していないかどうか、といったことですね」
 「昼食時は差し支えのない範囲で自己紹介をしてもらっています。言える範囲でいいので、と。裁判官もどんな人なのか、紹介します。隣に座っている人がどんな人か分かれば、意見も言いやすくなりますよね。そうした雰囲気づくりを心がけています。これは10年前から私は一緒ですね。なるべくざっくばらんに話してもらえるようにしています。裁判官に対して堅いイメージしかないと思うので。まずはそこを崩すところから。先生と生徒のような関係になってはいけないので1対1の平等な関係を目指します。同じ1票ですからね。それによって裁判所や裁判官に良いイメージを持ってもらえたら喜ばしい。どういう思考過程で裁判官が判決に至っているのかも話すようにしています。証拠に基づいて判断していることを分かってもらえれば裁判の信頼につながります」
 −−検察側、弁護側の主張・立証で変化した点、改善してほしい点はありますか
 「証拠調べはポイントを絞った重要な主張・立証になってきていますし、そこはいい点でしょうね。ただ、争点の判断に必要のない細かいところに入り込んでしまいがち。そこだけは絶えず改善に向けて取り組む必要はあるかな、と思います。両者(検察側と弁護側)ともに細かいところにこだわりがちなんですが、それは裁判員から不評です。『なぜあんなことを聞いているの?』と。当事者はこういう獲得目標を持って聞いている、と伝わるようにしていただければと思います」
 −−今後の裁判員裁判に期待される点、ご自身の職務にあたっての意気込みを教えてください
 「裁判員裁判は裁判員の方々が刑事裁判の審理・評議に参加するということで成り立っています。負担をかけるかもしれませんが、積極的に多種多様な方々に参加してほしいと思っています。これまで数十件の裁判員裁判を担当した感想からすると、『3人寄れば文殊の知恵』ではないですが、いろんなバックグラウンドを持った方に参加していただければ、それぞれの角度からいろんな意見が出て、練り上げられた深みのある議論ができるように思えます。そのためには引き続き、参加していただきやすいように配慮をしていかなければいけません。裁判所は堅苦しいというイメージを持たれがちですが、『意外と分かりやすいやん』『裁判官も話しやすかったやん』と言っていただけるように日々努めていきたいと思っています」
 「最後に。他の人の意見が自分と同じとは限りません。裁判員の方には、『自分の意見が違うと思ったら、いくらでも変えていいですよ』と伝えています。前の意見に固執する必要はありません。評議は『乗り降り自由』なんです。意見を変えると節操がないと思われがちですが、ありなんです。裁判官も乗ったり、降りたりしますから。裁判官も『そういう見方があったか』と気づくことがあります。いろんなバックグラウンドを持った方がおられるので、『これはこうですよ』と教えてもらうことも。一面的な見方ではなく、それをふるいにかけて最後に残ったものが判決になっています」
 ■中川綾子
 なかがわ・あやこ 平成8年判事補。大阪地裁判事などを経て、31年4月から大阪地裁部総括判事。50歳。京都、大阪、兵庫3府県で起きた連続青酸死事件をめぐり、京都地裁で開かれた裁判員裁判で29年11月、夫や内縁男性ら4人に青酸化合物を飲ませて殺害したなどとして殺人罪と強盗殺人未遂罪に問われた女に対し、求刑通り死刑を言い渡した。
(2019.5.21 18:00 産経新聞)

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