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<記者のこだわり>受理件数は年100万件超 誕生から70年、家裁の役割とは 最高裁家庭局長インタビュー


インタビューに応える手嶋あさみ・最高裁家庭局長=東京都千代田区で2018年12月7日午後1時38分、伊藤直孝撮影

 離婚や相続に関わる家庭内紛争(家事事件)の解決や少年事件の審理を担う家庭裁判所が誕生して今年1月で70年がたちました。家事事件の受理件数は2016年に初めて100万件を突破し、家裁の役割や存在感はますます大きくなっています。昨年9月に就任した手嶋あさみ最高裁家庭局長に家裁の役割や、直面するテーマについて詳しく尋ねました。【さいたま支局・伊藤直孝】
 ◇新憲法で「家事審判所」と「少年審判所」が統合
 ――家裁が1949年1月に誕生してから70年がたちました。
 ◆家裁は新憲法のもとで、家庭内のことを扱う戦前の家事審判所と非行のある少年の事件を扱う少年審判所とが統合され、誕生しました。昨年9月の着任後、家裁誕生の経緯を紹介した「家庭裁判所物語」(清永聡著、日本評論社)を読みました。戦後の厳しい環境の中で「家庭に光を、少年に愛を」という家裁の理念を掲げて奮闘された先輩たちの姿に感銘を受けました。家族観、価値観の多様化が進んでおり、家庭の問題を総合的・専門的に担う家裁の役割はますます重要性を増しています。
 ――家裁はどのような特徴がある裁判所なのでしょうか。
 ◆手続きの非公開と、話し合いである調停を重視している点が特徴的です。家庭内の紛争は、婚姻、親子関係、遺産分割などプライバシーに関わる内容が多く、通常の裁判のように公開の法廷で争うことになれば、かえって感情的な対立が激化するおそれがあります。また裁判が終わっても家族関係は終わりません。将来的に何らかの人的関係が続いていきます。単に法的に白黒をつけるだけでは十分ではなく、紛争の核心部分を見いだして、未来志向の解決策を探る必要があります。少年事件についても、成人と同じように公開法廷で刑罰を決めるよりも、非行を繰り返さないように教育的な働きかけを行い、処分を決めることが適切な場合が多いと考えられています。
 ◇将来見すえた解決が重要
 ――(手嶋氏は)これまで裁判官として主に民事裁判に長く関わってこられました。民事裁判と、家裁が取り扱う家事審判・調停はどのような違いがあると感じますか。
 ◆民事裁判は、法律を適用することによって権利義務関係を確定して判断することが大きな役割です。一方の家庭内紛争や少年事件は将来を見すえ、問題の根っこをつかまえて働きかけなければ、本当の解決になりません。その点が民事裁判とは異なります。家裁には心理学や社会学などを用いて専門的調査をする家裁調査官や、医師などさまざまなスタッフが働いており、チームで紛争解決に当たっています。
 ――個別のテーマをお聞きします。東京家裁で3月、離婚調停中の妻が、家裁庁舎入り口で夫に刺されて死亡する事件が起きました。家裁が取り扱う案件は深刻な紛争が多いですが、利用者の安全をどのように確保していきますか。
 ◆事件については、当事者の方が亡くなられるという重大な結果が生じたことを重く受け止めており、亡くなられた被害者、ご遺族の方に心からお悔やみを申し上げます。
 事件そのものについては捜査中でもありコメントを差し控えますが、ご指摘の通り、家庭内紛争では一般に深刻な対立や葛藤を抱える紛争は少なくありません。加害行為が発生するおそれがあるような事案について、当事者の方の安全を確保することは、裁判所として極めて重要と考えています。事前に当事者の方に危険が及ぶおそれなどを把握している事案については、これまでも内容に応じて当事者同士が対面しないようにするなどさまざまな配慮をしてきていますが、今回の事件を受けて、一件一件について、必要な情報の把握に努め、努力を続けていくことの重要性を再確認しています。今後もそうした観点から各家裁の取り組みを支援していきます。
 ◇市民後見人の支援態勢づくりを
 ――家裁では成年後見制度を巡る事件の取り扱いが増えています。成年後見制度については2016年に国会で利用促進法が成立し、17年に利用促進基本計画が閣議決定されました。制度をより進めていくための国の後押しが進む中、家裁としてどのように運用を促進していきますか。
 ◆利用促進基本計画を踏まえ、利用者がメリットを実感できる運用の改善を目指します。一般的に本人にとっては後見人にふさわしい身近な親族や地域の方に後見人になってもらう方が、生活面に関するさまざまな契約手続きや福祉的な連携という観点からは好ましい場合が多いのです。他方で、親族間に対立があるなど、特定の親族を選任するとかえってトラブルになることが予想されるような事案では、そのような選任は最適の選択肢とは言えません。専門的な対応が必要な課題がある場合には、それに適した専門職を選任するほうが望ましいでしょう。各裁判官は、こうした諸事情を勘案して最も適切な後見人を選任していると思いますが、親族や市民後見人の候補者の中には、一定の支援があれば適切に後見人としての事務を処理することができるけれども、それが十分ではないために、専門職の後見人が選任されているという事案も少なくないと思われます。必要な専門性を有する各地域の関係機関などが連携してネットワークを作り、親族や市民後見人を支援する態勢が整えば、選任のあり方も目指すべき方向性に向かって大きく歩を進めることができます。それが利用促進基本計画の理念でもあります。
 ――利用を促進する態勢づくりに向けて、現状ではどのようなことが進められているのでしょうか。
 ◆利用促進基本計画に基づいて、関係機関が連携して地域における力を結集するネットワークづくりに向けた努力が行われています。具体的には、自治体に中核機関を設置し、これを中心としたネットワーク(地域連携ネットワーク)を作ります。仕組みの構築に向けた協議会は現在、各地で行われており、裁判官や書記官もオブザーバーとして参加しています。難しい問題も多いですが、最終的には、中核機関が福祉的な観点も加味してご本人の利益にかなう後見人の候補者を推薦し、地域のチーム力を生かして後見人に適切な支援をしてくれるような形が望ましいと考えています。少しでも理想に近づいていけるように、最高裁としても必要な協力をしていきたいと思います。
 ――高齢化が進み、相続における遺産分割の重要性が増しています。家裁では現在、遺産分割はどのように運用されているのでしょうか。
 ◆遺産分割は難しい事案ですが、法律に基づいて最終的にどうなるかということを当事者に提示できます。法的なポイントを押さえて調整すれば確実に解決していけると考えています。この分野では相続法の改正があり、今年7月に一部が施行されます。新たに、相続人以外の方が被相続人の介護などに特別に寄与した場合に、金銭の請求を認める制度が設けられました。最高裁としては、新制度に合わせた規則改正なども行っています。
 ◇離婚後の「子の福祉」、親へのガイダンス進める
 ――離婚した夫婦の子どもとの面会交流の調停は、10年間で2倍以上に増えました。2017年には別居親が面会交流に関連して子や同居親を傷付ける事件も起きました。裁判所の審判や調停のあり方が「面会交流原則実施論」と批判的に呼ばれることもあります。面会交流について家裁の基本的な考え方を教えてください。
 ◆面会交流の実施の可否や程度は事案に応じた裁判官個々の判断であり、面会交流について裁判所の一般的な判断基準といったものがあるわけではありません。ただし、「面会交流は(いわゆるDVなどの)明らかな制限事由が無い限り、子の利益にかなう」という単純な問題ではないことは確かです。面会交流の可否や回数を決めるために考慮すべき要素は複雑多岐にわたり、評価も難しい。子の年齢によるところも大きい。また「子の意思」とひとくちに言っても、子の気持ちは両親との間で揺れ動き、傷ついています。それらをどのように分析し、面会交流のあり方に生かしていくのか。現場も一件一件悩みながら、答えを模索している状態です。
 ――家裁としては子の福祉を第一に判断しているということでしょうか?
 ◆そうです。そのために今、家裁では「親ガイダンス」という取り組みを進めています。離婚を考えている親などに見てもらうもので、両親の紛争が子にどのような影響を及ぼすのかなどをまとめて説明するDVDを作製しました。子にとって最善の道は何なのかという視点を持っていただくきっかけになればと考えています。
 また、裁判所職員総合研修所では家裁調査官が17〜18年度、面会交流の案件を調査する際に考慮する要素や考慮のあり方などについて過去の例や専門家の話などをもとに整理し、研究を進めています。研究報告は19年度末にも公表できる見通しです。こうした研究の知見も踏まえて家裁調査官や裁判官の中でも議論していきたいと思います。
 ◇最高裁初の女性局長、「性別に関わりなくやりがい」
 ――最高裁事務総局で初めての女性局長となられました。
 ◆男女雇用機会均等法施行の年(1986年)に就職活動をしており、そういう世代なのだと思いますが、初めての女性局長という実感はありません。同期の裁判官96人のうち20人が女性で、これまでも女性ということを特に意識せずに仕事をしてこられました。全裁判官総数に占める女性の割合は21%(2016年末)ですが、若手の「新任判事補」(採用1年目の裁判官)で3〜4割程度まで増えています。裁判に向けて自分なりによく検討して準備をし、計画的に裁判期日を定めて審理を進め、考えに考えた判断を判決という形にまとめ、あるいは双方の当事者が納得できるような解決のために、和解を試みるといった仕事は、性別に関わりなくやりがいが大きく、比較的予定を立てて計画的に取り組みやすい。女性にフレンドリーな職場ではないかと思います。
 ――家庭局長として今後の抱負をお聞かせください。
 ◆重責ですが、家庭局には裁判官や調査官、書記官らによる強力なチームがあり、アドバイスをいただける先輩や上司もいます。歴史の中で積み重なってきた家裁の役割を次の世代にふさわしい形でバトンタッチできるよう、精いっぱい頑張りたいと思います。
 てじま・あさみ
 東京都出身。東京大卒業後、1991年任官。札幌、東京地裁などで民事裁判を担当。最高裁事務総局では民事局1課長や情報政策課長を歴任した。2018年9月から現職。56歳。
(5/23(木) 7:00 毎日新聞)

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