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主文
本件区分事件の各公訴事実につき,被告人はいずれも有罪。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1Nと共謀の上,故意に自動車事故を作出し,Nが軽四輪貨物自動車を借り受け
た株式会社mが自動車保険契約を締結しているn保険株式会社から対物賠償保険
金名目で金銭をだまし取ろうと企て,平成22年10月8日午後5時30分頃,
甲府市内に所在の被告人が経営する飲食店「o」駐車場において,Nが,軽四輪
貨物自動車を運転し,同車後部を同店店舗壁面に故意に衝突させる自動車事故を
作出した上,同日,東京都新宿区内に所在のp株式会社q事故受付部の担当者に
対し,事故が故意に作出したものではなく,偶然によるものである旨内容虚偽の
事故状況等を報告し,同報告に基づく事故の受付・登録をさせ,さらに,被告人
が,同月12日から同年11月19日までの間,甲府市内に所在のn保険株式会
社rセンタ―所長代理Oらに対し,自動車保険契約に基づく対物賠償保険金の支
払を請求するなどし,同人らを介して報告を受けた同センター所長Pらをして,
同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて対物賠償保険金の支払
を決定させ,よって,同年11月10日から同年12月21日までの間,前後6
回にわたり,被告人名義の普通預金口座及び店舗の所有者であるs株式会社名義
の普通預金口座に現金合計995万円を振込入金させた。
第2Q,B及びAらと共謀の上,故意に自動車事故を作出し,Qが自動車保険契約
を締結するとともに,被告人が所得補償保険契約を締結しているt保険株式会社
及びBの父親が自動車保険契約を締結しているu保険株式会社から,対人賠償保
険金,人身傷害保険金及び所得補償保険金等名目で金銭をだまし取ろうと企て,
平成26年4月23日午前0時55分頃,甲府市内の路上において,Qが運転す
る軽四輪貨物自動車前部を,Bが運転する普通乗用自動車後部に故意に衝突させ
る自動車事故を作出した上
1t保険株式会社と代理店契約を締結しているv株式会社担当者らを介して,同
日,同市内に所在のt保険株式会社w課担当者に対し,事故が故意に作出したも
のではなく,偶然によるものである旨内容虚偽の事故状況等を報告し,同報告に
基づく事故の受付・登録をさせ,さらに,同月30日頃から同年5月7日頃まで
の間,同課Rに対し,自動車保険契約に基づく対人賠償保険金及び人身傷害保険
金の支払を請求するなどし,同人らを介して報告を受けた同課課長Sらをして,
同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて対人賠償保険金及び人
身傷害保険金の支払を決定させ,よって,同月28日から同年8月21日までの
間,前後5回にわたり,被告人名義の普通預金口座に現金合計58万9280円
を,Q名義の通常貯金口座に現金合計38万2700円を,A名義の普通預金口
座に現金61万5600円を,それぞれ振込入金させた。
2v株式会社担当者らを介して,同年5月29日頃,東京都渋谷区内に所在のt
保険株式会社x課主事Tに対し,前同様の内容虚偽の事故状況等を報告し,同報
告に基づく事故の受付・登録をさせるとともに,同人に対し,所得補償保険契約
に基づく所得補償保険金の支払を請求するなどし,同人を介して報告を受けた同
課課長代理Uをして,同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて
所得補償保険金の支払を決定させ,よって,同年6月13日,東京都新宿区内の
y銀行z支店に開設された被告人名義の普通預金口座に現金37万4000円を
振込入金させた。
3aa株式会社担当者を介して,同年5月2日,甲府市内に所在のu保険株式会
社cc課課長代理Vに対し,前同様の内容虚偽の事故状況等を報告し,同報告に
基づく事故の受付・登録をさせ,さらに,同月19日頃,同課Wに対し,自動車
保険契約に基づく人身傷害保険金の支払を請求するなどし,同人を介して報告を
受けたVをして,同請求が保険契約に基づく正当な請求である旨誤信させて人身
傷害保険金の支払を決定させ,よって,同月26日,同市内に所在のc金庫d支
店に開設されたA名義の普通預金口座に現金10万円を振込入金させた。
第3A及びBと共謀の上,Cが死亡したことにより,Cの法定相続人であるXらが
取得することとなった保険金の中から貸付金等回収名目で金銭をだまし取ろうと
企て,平成27年1月9日頃から同年3月31日頃までの間,前後4回にわたり,
真実は株式会社gがCに現金279万円を貸し付けるなどした事実はないのに,
これがあるように装い,Xの代理人弁護士であるYに対して,その旨嘘を言い,
同人をしてその旨誤信させて,Xに貸付金等の返済として現金279万円を支払
わせようとしたが,Yが,嘘を信用しなかったため,その目的を遂げなかった。
第4A及びBと共謀の上,Eの死亡保険金を入手するために,同人を株式会社の取
締役等に就任させた上で,同人を被保険者とする生命保険契約を同社名義で締結
しようと企て,平成26年12月11日から平成27年3月5日までの間,前後
2回にわたり,甲府市内に所在の甲府地方法務局において,同法務局登記部門商
業法人係係員に対し,Eが株式会社gの取締役及び株式会社eeの代表取締役に
就任した旨の内容虚偽の株式会社変更登記申請書等を提出するなどし,よって,
平成26年12月16日頃から平成27年3月10日頃までの間,情を知らない
同所登記官をして,商業登記簿の原本である電磁的記録にその旨不実の記録をさ
せ,その頃,これを同法務局に備え付けさせて商業登記簿の原本の用に供した。
第5第4と同様に企て,平成27年1月21日頃から同年3月27日頃までの間,
前後2回にわたり,行使の目的をもって,ほしいままに,ff保険株式会社宛g
g傷害保険申込書の「被保険者になることの同意」欄に,情を知らない保険代理
店担当者をして「E」と記入させるなどして,もって死亡保険金1億円とする保
険の被保険者となることを同意するE名義の文書2通を偽造した上,同年1月2
8日頃から同年3月31日頃までの間,これを真正に成立したもののように装っ
て,前記保険代理店担当者らを介して,甲府市内に所在のff保険株式会社hh
支店ii支社担当者に対し,提出して行使した。
(争点に対する判断)
第1判示第1について
1争点
判示第1の事故(以下「平成22年事故」という。)が発生したこと及び被告人ら
が判示第1の各保険金をそれぞれ受領したことについては争いがなく,争点は,(
成22年事故が偽装によるものであったか否か及び被告人とNとの間の共謀が認め
られるか否かである。
2Nの供述の信用性
Nの供述の要旨は,以下のとおりである。
平成22年9月頃,Zへの借金を返済できずにいたところ,被告人から,その借金
を直接被告人に返済するように迫る電話が毎日のようにかかってくるようになった。
そして,返済できないのであれば,自動車を被告人が経営する店の壁にぶつける偽装
事故を起こし,その保険金で借金を清算するよう持ち掛けられた。当初は断っていた
が,同年10月8日未明に,自宅に帰宅したところを被告人に待ち伏せされ,偽装事
故を起こさないのであれば母親に請求すると言われたことなどから,偽装事故を起こ
すことを決め,被告人の指示に従って,平成22年事故を起こした。
信用性判断
アNの供述は,被告人に金銭の支払を迫られてから事故を起こすまでの一連の経
緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的なものである。
また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。まず,
Nのパソコン内に保存されていた同人の携帯電話機のバックアップデータには,平成
22年10月8日午前3時16分に被告人の携帯電話機の電話番号等が登録された記
録が残っているが,これは,Nが,同日未明に自宅前で被告人に待ち伏せされた際に,
被告人の連絡先を登録させられたと供述していることと整合している。また,被告人
の携帯電話機にNの電話番号等が記載されたメモを撮影した画像データが保存されて
いることや,Nが事故の翌日に被告人に送信したメッセージの内容が,謝罪ではなく,
被告人にお礼を述べ,レンタカー会社に申請書類を提出したことを報告するものとな
っていることとも整合する。
次に,Nの供述は,Zの供述とも沿うものである。すなわち,Zは,Nに金を貸し
ていたことについて被告人に相談したことがあり,その際,被告人が何とかしてやる
旨言っていたことや,Nの連絡先や住所が記載されたメモを見せた可能性があること
などを供述しているが,これは,被告人から電話が来てZに対する借金の件を持ち出
されたり,自宅で待ち伏せされたりしたというNの供述に沿うものである。
さらに,Nは,平成22年事故によって何の利益も得ておらず,事故が偽装である
などと自らも刑事責任を負うことになるような虚偽の供述をする理由は見出し難いし,
自己の刑事裁判はすでに確定して終了しているから,被告人を巻き込むことで自らの
刑事責任を軽くすることも考えられない。
以上によれば,Nの供述には,信用性が認められる。
イこれに対して,弁護人は,。里事故当日に飲食店oで見掛けたという従業員
風の男について,捜査の過程でも特定するに至っていないこと,■里犯鏐霓佑箸療
話のやりとりを裏付ける通話履歴等の証拠が存在しないこと,H鏐霓佑箸里笋蠎茲
の話をZに確認しなかったのは不自然であることなどを指摘し,Nの供述は信用でき
ないと主張する。
しかしながら,,砲弔い討蓮ぃ里禄抄醗風の男を見掛けただけで,その身上等を
知っていたわけではないから,捜査において特定できなかったとしても不自然とはい
えない。△砲弔い討蓮つ命事業会社における保存期間が経過しているなどの事情が
あるから,通話履歴等が存在しないのはやむを得ないのであって,供述の信用性を疑
わせる事情とはならない。については,Nは,当時,多数の者から借金をしており,
その中でZは督促が厳しい方ではなかったというのであるから,Zに対して確認をし
なかったとしてもあながち不自然とはいえない。
また,その他弁護人が主張する事情も,Nの供述の信用性を否定する事情とはなら
ない。
3被告人の弁解の信用性
被告人は,Nに対して金銭の請求をしていないし,平成22年事故当日の未明
にNとは会っておらず,Nと共謀はしていないなどと弁解する。
しかしながら,被告人の弁解は,被告人の携帯電話機にNの電話番号等が記載
されたメモを撮影した画像データが保存されていたことや,事故の翌日にNからお礼
のメッセージを受け取っていることなどの客観的事情とそぐわないものである。また,
その内容も,事故の加害者であるNに対し,怒りを感じることも,事故の原因を詳し
く問いただすこともなく,事故当日には食事を提供したばかりか,後には仕事を与え
て面倒を見たなどという不自然,不合理なものである。
よって,被告人の弁解は信用できない。
なお,弁護人は,‥絞泙鮟衢する会社の会長であるAAが中心となって保険
会社との示談交渉を行っていたことは,被告人の弁解を支える事情となる,被告人
は経済的に困窮していたわけではないから,被告人には犯行の動機がないなどと主
張する。
しかしながら,,砲弔い討蓮ぞ攀鬚砲茲譴弌と鏐霓夕身も,保険会社の担当者と
やり取りをして損害を訴えていたことや,飲食店oの売上状況を記載したメモを提出
していたこと,被告人の実家から見積書をファックス送信していたことなどの事情が
認められ,これらの事情からすれば,被告人自身も積極的に保険会社との示談交渉に
関わっていたということができるから,弁護人の主張は失当である。△砲弔い討蓮
経済的に困窮していない場合であっても,不法な利益を得るために犯行に及ぶこと
はあり得ることであるから,弁護人の主張は当たらない。
4結論
以上によれば,信用できるNの供述等の証拠から,平成22年事故が偽装によるも
のであったこと,被告人とNとの間に,この偽装事故に基づいて保険金詐欺を行うこ
とについての共謀があったことが認められ,被告人の弁解は信用できないから,この
認定に疑いを容れる事情とはならない。
第2判示第2について
1争点
判示第2の事故(以下「平成26年事故」という。)が偽装事故であったこと及び
被告人らが判示第2の各保険金をそれぞれ受領したことについては争いがなく,争点
は,被告人とQ,B及びAらとの間の共謀が認められるか否かである。
2Qの供述の信用性
Qの供述の要旨は,以下のとおりである。
平成26年4月頃,被告人とCから,Cが経営する介護施設の経営権の買取りに関
するトラブルで厳しく責められ,両者から600万円を借り受けた旨の念書を作成さ
せられた上,Qの母親が会社を設立して介護施設の経営権を買い取ることを約束させ
られた。その設立費用を用意できずにいたところ,被告人から,自動車の偽装事故を
起こし,その保険金を会社設立資金に充てることを持ち掛けられ,偽装事故を起こす
ことを決めた。その後,被告人の提案で,B及びAを偽装事故に参加させることにな
り,同月22日夜に,被告人が経営する飲食店bに,被告人,B,A,C及びQが集
まり,Qと被告人が偽装事故の具体的な流れを説明した上,Cを除く4名で平成26
年事故を起こした。
信用性判断
アQの供述は,介護施設の経営権の買取りに関するトラブルから平成26年事故
を起こすまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容に格別
不合理な点は認められない。
また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。まず,
会社設立並びに被告人及びCから600万円を借り入れた旨が記載された念書の写し
が残されていることや,Qの母親らを発起人とする会社設立に関する書面や同社が上
記介護施設の経営権を買い取る旨の営業権譲渡契約書などのファイルデータが,被告
人が経営する飲食店bにあったパソコン内に保存されていたことは,被告人とCから
責められて念書を書かされたり,Qの母親が設立した会社が介護施設の経営権を買い
取ることを約束させられたりしたというQの供述内容と整合する。また,被告人が平
成26年4月10日及び同月23日にCに対して送信したメッセージには,Qの母親
を会社設立に関与させようとしていたことやQが会社設立費用を用意できなかったこ
とを述べたとみられるものが存在しており,これも上記供述内容と整合するものであ
る。さらに,Qは,jj整骨院に通院したことにして,偽装事故による保険金を取得
する計画であった旨供述しているところ,この点については,Cが同月22日夜に飲
食店bに集合したにもかかわらず,その後上記4名とは行動を共にせずに帰宅してい
ることや,被告人が使用していたLINEのアカウントとCとの間で,jj整骨院へ
の架空通院を内容とする通院証明書を作成することや保険金を6月分まで請求するこ
とを相談する内容のやりとりが残されていること,被告人の自宅から平成26年事故
に関するjj整骨院発行の架空の通院証明書が発見されていることと整合する。
さらに,Qは,自己の刑事裁判はすでに終了しており,被告人を巻き込むことで自
らの刑事責任を軽くすることは考えられない。
次に,Aも,被告人らとQとの間の介護施設の経営権の買取りに関するトラブルか
ら平成26年事故までの主要な経緯について,Qの供述に沿う供述をしており,相互
に信用性を高め合っている。
なお,Aの供述は,具体的で自然なものである上に,被告人が,平成26年7月頃,
台湾での事業のことでCやBらに責められた際に,平成26年の偽装事故のことを警
察に告げると言っていたと供述する点は,Aが,CやBらに対して,被告人に偽装事
故のことを口外させないようにすることを約束する旨のメッセージを送ったことと整
合している。また,AとQとは,被告人を介しての知人という程度の関係にすぎない
から,AがあえてQと口裏を合わせることは考え難い。よって,その供述は信用でき
る。
以上によれば,Qの供述には,信用性が認められる。
イこれに対して,弁護人は,Qの供述は,ゝ響事故を起こしたことによる報酬
の話し合いの場面に被告人が居合わせていたかについて変遷があることや,■僂警
察に相談に行っているにもかかわらず,その後も被告人と関わり続けたことは不合理
であることなどを理由に,信用性が認められないと主張する。
しかしながら,,砲弔い討蓮ぃ僂蓮さ憶の整理をしてみたところ,捜査段階とは
違う供述をすることになった旨述べるが,平成26年事故から証言までの間には相当
の期間が経過していることからすれば,理解できるところであるし,上記場面に被告
人が居合わせていたかどうかという点は,供述全体の中では周辺事情にすぎないので
あるから,その点に変遷があったとしても,被告人との共謀に関する供述全体の信用
性を揺るがすものとはならない。また,△砲弔い討蓮ぃ僂蓮っ凌佑砲眩蠱未両紂ぜ
を返すだけなら大丈夫と考えて飲食店bに赴いたが,実際に行ってみると,被告人ら
から母まで呼び出されて深夜まで責められ続けたと述べているところ,そのような経
緯をたどったのであれば,もはや本件に関与するしかないなどと考えて付き合いを継
続したとしても,あながち不合理とはいえない。
また,その他弁護人が主張する事情も,Q供述の信用性を否定する事情とはならな
い。
3被告人の弁解の信用性
被告人は,Q,B及びAらと,偽装事故を起こして保険金を請求するとの共謀
はしていない旨弁解する。
しかしながら,まず,被告人がjj整骨院への架空通院の事実は知らなかった
とする点は,被告人の自宅から平成26年事故に関するjj整骨院発行の通院証明書
が発見されていることや,jj整骨院が保険会社に施術証明書等を提供することに同
意する旨の同意書に被告人の署名があることにそぐわないものである。また,Qを脅
して金銭を要求したことはない,介護施設の経営権の買取りには関係していないとす
る点は,被告人が使用していたアカウントとCとの間で,Qに対する怒りを示したり,
オートローンを組ませることができず,会社設立費用を出させることができなかった
ので,回収に入ろうと提案したりする内容のメッセージを送っていることにそぐわな
いものである。
その供述内容も,Qが自ら念書を作成して持参してきたなどというもので,借金を
する前に念書を差し入れること自体,不自然である上に,被告人がそのような念書を
保管していたということも不合理である。また,被告人以外の3人が偽装事故を起こ
そうとして,わざわざ何も知らない被告人を巻き込むことも,不自然で不合理である。
さらに,被告人が使用するアカウントから架空通院を前提とする内容のメッセージが
送られていることについて,自分が送ったものではないと述べる点も,第三者がわざ
わざ被告人のアカウントを利用してそのようなメッセージを送る必要性は考えられな
いから,不合理である。
よって,被告人の弁解は信用できない。
4結論
以上によれば,信用できるQ及びAの各供述等の証拠から,被告人とQ,B及びA
らとの間に,平成26年事故に基づいて保険金詐欺を行うことについての共謀があっ
たと認められ,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事情とは
ならない。
第3判示第3について
1争点
本件で,Xの代理人弁護士であるYに対して,貸付金等の返済として279万円の
請求がされたことについては争いがなく,争点は,‐綉279万円の請求が架空の
請求であったか否か及び被告人とA及びBとの間の共謀が認められるか否かである。
2Aの供述の信用性
Aの供述の要旨は,以下のとおりである。
平成26年11月頃,被告人から,Cに対する貸付金の返済などを名目にCの遺族
から金銭をだまし取る計画を持ち掛けられ,それに参加することにした。被告人やB
とともにXらに対して面会を求めるなどしたが,YがXらの代理人に就任して以降は,
Yと交渉するようになった。交渉に当たっては,C作成名義の念書を偽造して提出し
たり,BB弁護士に委任するなどしたが,Yから証拠が十分でないなどとして請求を
拒絶されたため,請求を断念した。
信用性判断
Aの供述は,被告人に詐欺の計画を持ち掛けられてからYと交渉を継続するまでの
一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自然かつ合理的なも
のである。
また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。まず,
被告人からAへ通話がされた直後に,Aが,Bに対して,「そろそろ反撃開始するじ
ゃんけ」「気合い入れて行くじゃんけ」などと行動を促す内容のメッセージを送信し
ていることや,被告人が,Bに対して,Cの遺族から返事が来たので至急集合するこ
とを求める旨のメッセージを送信していること,被告人が,弁護士を依頼するに際し
て,B及びAに対して,証拠書類を提出することや実印のことを指摘するなどの具体
的な注意事項を送信していることなどは,被告人が中心となって本件犯行に及んでい
たというAの供述に整合するものである。また,被告人が,A及びBとともに,警察
署に2回相談に訪れていること,Yとの交渉に毎回同席したばかりか,単独でYと面
会したことやYの事務所に直接電話したこともあること,Yとの交渉の際,8割程度
話していたこと,BBに対して,交渉の進捗状況を直接確認する電話をしていること
も,同様に,被告人が本件を計画し,中心となって実行していたというAの供述に整
合する。なお,Y及びBBは,いずれも弁護士であり,本件で偽証罪に問われる危険
を犯してまで虚偽供述をするような事情は認められないから,その供述は信用できる。
さらに,被告人がCの遺族に宛てた手紙やYに提出した念書を作成していたと供述
する部分は,遺族に宛てた手紙と同一内容の「前略」と題するファイルデータが被告
人の自宅から押収されたUSBメモリ内に存在し,それと同一名称のファイルデータ
が被告人の自宅のデスクトップパソコン内にも存在することや,Yに提出した念書の
作成途中のものとみられる「念書」と題するファイルデータが上記USBメモリ内に
存在し,Yに提出した念書とは押印の位置のみが異なる念書が飲食店bから押収され
ていること,被告人が,念書にある印影と酷似する印影の印鑑を,Cの死亡後に発注
して作成していることなどと整合している。
さらに,Aは,自己の刑事裁判がすでに確定して終了しているから,被告人を巻き
込むことで自らの刑事責任を軽くすることは考えられない。
以上によれば,Aの供述には,信用性が認められる。
3被告人の弁解の信用性
被告人は,279万円の請求の当事者ではないから,請求に関心はなく,Bや
Aとの共謀はなかった旨弁解する。
しかしながら,279万円の請求に関心がなかったと述べる点は,被告人が送
信している通話,通信履歴の内容に反するものである上,被告人が弁護士との面会や
警察への相談の際にも同席していること,被告人の周辺から関係証拠が多数押収され
ていることにそぐわないものである。また,弁護士との面会の際,単に同席していた
にすぎないと述べる点は,信用できるYの供述と反するものである。
また,Cの印鑑の手配はBに頼まれて行った,手紙や念書はBが勝手に作成したな
どと述べる点は,被告人の供述を前提とすると,Bが,事情を知らない被告人に対し
て,すでに亡くなっていたCの印鑑の作成という不審なことを頼み,被告人がそれに
応じたということになるが,それ自体,不合理なことであるし,証拠関係に照らせば,
Bが,深夜に被告人の自宅にあるデスクトップパソコンで念書を作成したことになる
ばかりか,被告人の周辺に関連文書やそのデータを数多く残していたことになるので
あって,不自然,不合理であることは明らかである。
さらに,被告人は,送信したメッセージの一部はAに頼まれたものである旨供述す
るが,Aがわざわざ被告人にメッセージの送信を依頼すること自体不自然であるし,
メッセージの文面からすると,Aから依頼されたとするには明らかに不整合なものも
存在している。
よって,被告人の弁解は信用できない。
なお,弁護人は,(杆郢里任△襭贈造279万円の請求権が成立し得ると考
えたことからすれば,被告人も請求権があるものと考えて行動したとしても不自然で
はない,被告人にはCの遺族に対する恨みはなく,犯行を行う動機がないなどと主
張する。
しかしながら,,砲弔い討蓮っ里蟾腓い諒杆郢里ら紹介されて相談を受けた弁護
士と,死亡した者の印鑑を作成して念書を偽造するなどした被告人とでは,前提が大
きく異なるし,△砲弔い討蓮ず┐澆ない場合であっても,不法な利益を得るために
犯行に及ぶことはあり得ることであるから,弁護人の主張は当たらない。
4結論
以上によれば,信用できるAの供述等の証拠から,279万円の請求の根拠とされ
た念書は,被告人が,Cの死亡後に,Cの印鑑を作成した上で偽造したものであるこ
とが認められ,この事実に,被告人らがBBに求められても279万円の原資を示す
証拠を用意できなかったこと,Aが279万円の貸付けの事実はなかったと供述して
いることなどを併せ考慮すると,279万円の請求は,架空の請求であったと認めら
れる。
また,同様に,信用できるAの供述等の証拠から,被告人とA及びBとの間に,C
の法定相続人であるXから貸付金等回収名目で金銭をだまし取ることについての共謀
があったと認められ,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事
情とはならない。
第4判示第4及び第5について
1争点
判示第4の各登記申請がなされ,それぞれその旨の登記がされたこと,判示第5
の各文書が作成,行使され,Eを被保険者とする各保険契約が締結されたことにつ
いては争いがなく,争点は,“充第4の各登記の申請及び判示第5の各文書の作
成が,Eの了解を得ずにされたか否か,判示第5の各文書の「E」との署名につ
いて,被告人が自ら記入し又は被告人の意を受けた者をして記入させたものか否か,
H鏐霓佑傍偽登記申請及び文書偽造の故意(Eの了解を得ていない認識)が認め
られるか否か,と充第4について,被告人とA及びBとの間の共謀が認められる
か否かである。
2争点,砲弔い
Eの供述の信用性
アEの供述の要旨は,以下のとおりである。
株式会社g及び株式会社eeの取締役等に就任することや,両社名義で契約する
傷害保険の被保険者になるという話は聞いたことがなく,これらについて了解した
ことはないし,同保険契約の申込書に署名したこともない。被告人の会社の買取り
や登記,保険に関して自分の名前でやりとりされた日本語のメール等は,自分が送
受信したものではない。
イ信用性判断
Eは,平成26年10月8日から平成27年3月23日までフィリピンに滞在し
ていたが,フィリピン滞在中に送信したメール(証拠にあるローマ字によるメール)
には,役員就任や保険加入に関する内容のものがないのであって,このことは,役
員就任や保険加入の話を聞いたことがないというEの供述内容と整合する。
また,Eには2社で死亡保険金合計2億円の傷害保険が掛けられているが,事業
が本格的に展開されていない複数の会社のそれぞれについて高額の保険に加入する
合理的な理由は見当たらない上に,株式会社eeで保険申込書が作成された平成2
7年3月27日の時点では,Eはすでに警察に自首していて,保険加入など考えら
れないことも,Eの供述と整合する。
さらに,Eが,役員就任や保険加入を了解していたとした場合に,あえてそれら
を了解していなかったと虚偽の供述をしなければならない事情も認められない上に,
Eの供述は,後述するAの供述とも整合しており,相互に信用性を高め合っている。
加えて,会社の買取りを希望する旨の日本語のメッセージを送受信していないと
いう点については,Aも,これらの送受信はEによるものではない旨を一致して供
述している上に,Eが日本語入力の可能な携帯電話機を持っていたのであれば,わ
ざわざローマ字で記載したメールを送る理由がないことにも整合している。また,
「E」のメールアドレスでのやり取りをしていないという点については,同メール
アドレスが,Eがフィリピン滞在中に,飲食店bにあるパソコンで取得されている
ことや,被告人,A及びBが,Eと連絡が取れなくなったことでEの動向等に関す
るメッセージのやり取りを頻繁にしていた際に,上記「E」のメールアドレスには,
Eの行方や安否を尋ねるなどの連絡を一切していないことなどの事情に整合してい
る。
よって,Eの供述には,信用性が認められる。
結論
以上によれば,信用できるEの供述等の証拠から,Eの名前でやりとりされた,
被告人の会社の買取りや登記,保険に関する日本語のメール等は,Eが送受信した
ものではなく,判示第4の各登記の申請及び判示第5の各文書の作成は,いずれも
Eの了解を得ずにされたと認められる。
3争点△砲弔い
Gの供述の信用性
アGの供述の要旨は,以下のとおりである。
被告人から,被保険者をEとする判示第5の各保険の申込みがあった。申込みに
際して,被保険者となるEの同意が必要であったので,その旨を被告人に確認した
ところ,いずれもEの同意は得ているとの返答であった。株式会社gを契約者とす
る保険の申込みに当たり,被保険者になることの同意欄の署名がされていなかった
ため,被告人に確認したところ,被告人からEのパスポートの署名部分の写真が送
られてきて代筆を依頼されたので,そのとおり代筆した。また,株式会社eeを契
約者とする保険の申込みに当たっては,被保険者になることの同意欄にすべき署名
が別の欄に書かれていたため,被告人に訂正を求めて申込書を渡したところ,後日
正しい部分に署名し直されたものを被告人から渡された。
イ信用性判断
Gの供述は,被告人が保険の契約を求めてから実際に申込書を作成するまでの経
緯を具体的に供述したもので,その内容に格別不合理な点は認められない。また,
各保険申込書の記載にも整合する上,被保険者になることの同意欄に不備があった
際の行動としても,契約者側の申込みの窓口となっていた被告人に問い合わせて対
応を委ねたという経緯は自然かつ合理的なものである。また,株式会社gを契約者
とする保険申込みについては,被告人からGにEのパスポートの署名部分の写真が
送られてきていることとも整合する。署名を代筆したことについても素直に述べる
など,その供述態度は真摯なものである。
よって,Gの供述には,信用性が認められる。
被告人の弁解の信用性
ア被告人は,株式会社gを契約者とする保険の申込書に関しては,Gから頼ま
れてEのパスポートの署名部分の写真を送信しただけであり,Eの署名の代筆を依
頼したことはない旨述べ,株式会社eeを契約者とする保険の申込書に関しては,
自分は関与しておらず,どのような経緯でEの署名がされたのか分からない旨供述
する。
イしかしながら,その供述内容は,信用できるGの供述に反する上,株式会社
gによる保険申込書については,事情も分からずに他人のパスポートの署名部分を
撮影した画像を送信するというのは,それ自体が不自然である。また,保険代理店
の担当者が申込者に無断で署名欄を代筆するということは通常考え難く,本件でも
Gが被告人に無断で署名を代筆しなければならない理由は見出し難い。さらに,株
式会社eeによる保険申込書については,自ら保険申込書に同社の記名印や代表者
印を押したと供述しつつ,Eの署名を誰が記載したのか分からないと供述するなど,
その供述内容はあいまいで不自然である。
よって,被告人の弁解は,信用できない。
結論
以上によれば,信用できるGの供述等の証拠から,判示第5の各文書の「E」と
の署名は,いずれも,被告人が,自ら記入したか,被告人の意を受けた者をして記
入させたものと認められ,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容
れる事情とはならない。
4争点5擇哭い砲弔い
Aの供述の信用性
アAの供述の要旨は,以下のとおりである。
平成26年12月頃,被告人から,Eを株式会社gの役員にして,保険を掛けた
上で殺害するという計画を持ち掛けられ,Bとともに参加することになった。平成
27年2月頃には,Eを株式会社eeでも役員にした上で被保険者とする保険契約
をすることになった。そして,被告人とBが日本で登記と保険の関係を担当し,A
がフィリピンで保険金受取口座とヒットマンの手配の関係を担当するという役割分
担が決まり,判示第4及び第5の犯行に及んだ。
また,この際,被告人は,Eが送信したかのようなメール等を残して証拠にしよ
うと計画し,Eに成り済ますための携帯電話機として株式会社g名義でコーラル色
の携帯電話機を購入した。人に成り済ますようなことは被告人が最もうまくできる
ため,被告人がEに成り済ます役をすることになった。被告人から,Eに成り済ま
したメール等を送信する前に,メール等に対して応答する内容等を電話で指示され
たことがあったし,被告人がEに成り済ましてコーラル色の携帯電話機でメール等
を打ち込んでいるのを見たこともある。
イ信用性判断
Aの供述は,被告人にE殺害計画を持ち掛けられてからEが失踪して計画が
頓挫するまでの一連の経緯を具体的かつ詳細に述べたものである上,その内容も自
然かつ合理的なものである。
また,その供述内容は,証拠により認められる客観的事情とも整合している。ま
ず,Aは,平成26年12月3日,被告人に対して,「チンコの命もらうも,虫歯
抜くんも同じことなんで」とのメッセージを送り,被告人が,Aに対して,「チン
コの処理はムダ毛の処理と一緒じゃけん」と返答するメッセージのやり取りがされ
ているが,Aは,被告人がEのことを「チンコ」と呼ぶことがあり,上記のやりと
りは,Eの命を取ることを内容とするものであると合理的に説明している。また,
被告人が作成したメモには,「故E」との記載があるが,Aは,「故E」というの
は,Eが亡くなるという意味であると合理的に説明している。また,同メモに,
「故E」「俺」「A」「B」「g」「ee」とともに数千万単位の数字が列挙され
た記載があることや,平成26年12月10日頃に,死亡保険金1億円を4人分掛
けることを内容とする保険見積書が,株式会社g宛てに作成されていることも,会
社で保険を掛けてEを殺害する計画であったとするAの供述内容に沿うものである。
次に,Aは,Eを殺害して保険金を受領する口座として,Eの内妻の銀行口座を
開設しようとした旨供述しているが,この供述部分は,Aがフィリピン渡航中に通
帳作成の手配を進めた旨の内容のメッセージを送信していることや,Eが内妻の銀
行口座を開設しようとしている旨のメッセージを送信していること,Eに戸籍上の
妻との離婚届と内妻との婚姻届を作成させていることなどの事情と整合している。
さらに,Eの殺害計画は被告人が持ち掛けてきたものであると供述している点は,
被告人が,株式会社gの登記の際に,Bに対して指示をしたり,フィリピンにいる
Aに対して進捗状況を伝えたりしたメッセージが残されていることや,被告人の経
営する飲食店bなどから,Eの婚姻届や印鑑登録証,健康保険被保険者証が発見さ
れていること,被告人が株式会社ee名義の銀行口座の代表者変更に関する手続を
自ら行っていること,被告人が「代表取締役E」のゴム印を注文して購入しており,
被告人の使用車両から同ゴム印が発見されたことなどの事情と整合する。
また,被告人がEに成り済ましてメール等を送信していたという点については,
Eが会社を買い取ることを望み,役員への就任や保険加入を了解しているかのよう
な内容のメール等はEが送信したものではないこと(上記2)や,コーラル色の携
帯電話機が被告人の自宅から発見されていることと整合している上,Eの殺害を計
画してAとBに持ち掛けた被告人がEに成り済ます役をするという経過も自然なも
のである。
以上によれば,Aの供述には,信用性が認められる。
なお,弁護人は,上記の「チンコの命もらう」とのメッセージの文面からは,
殺害計画の共謀を推認することはできない旨主張する。確かに,同メッセージの文
言だけから一義的に殺害計画を読み取ることはできないものの,上記のとおり,同
メッセージはAの供述を裏付けるものとはなり得るのであるから,弁護人の主張を
踏まえても,Aの供述の信用性は揺るがない。
Eを装ったメール等の送信者について
ア上記2のとおり,Eが会社を買い取ることを望み,役員への就任や保険加入
を了解しているかのような内容のメール等は,Eが送信したものではない。そして,
以下に検討するように,これを送信していたのは被告人であると認められる。
イまず,信用できるAの供述等の証拠によれば,被告人がEに成り済ましてコ
ーラル色の携帯電話機でメール等を送信していたことが認められる。
また,証拠によれば,「E」のメールアカウントは,被告人の経営する飲食店b
にあるパソコンで取得されており,同アカウントにおけるメールアドレス等をたど
ると,被告人の携帯電話番号及びメールアドレスが登録されていたこと,Bが同ア
カウントにメールを送信する前に被告人に対して同一内容のメッセージを送ってい
ることが認められ,これらは,被告人が上記アカウントを取得したことやEに成り
済ましてやりとりをしていたことをうかがわせる事情である。そして,これらの事
情に,被告人がコーラル色の携帯電話機を用いてEに成り済ましていたことを併せ
て考慮すると,被告人は,「E」のメールアカウントについても,これを利用して,
Eに成り済ましてメール等を送信していたと認められる。
ウこれに対し,被告人は,上記コーラル色の携帯電話機は被告人の妻にプレゼ
ントしたもので,被告人がEに成り済ましてLINEにメッセージを送ることは不
可能であると述べるが,被告人の妻は,同携帯電話機を被告人から受け取ったのは
平成27年2月か3月であり,SIMカードも入っていなかったと供述しているの
であって,これらの事情からすれば,被告人がEに成り済ますことが不可能であっ
たとはいえない。
被告人の弁解の信用性
ア被告人は,登記申請や保険契約について,Eが了解していると考えていた,
登記申請などには単に同行したにすぎず,AやBとの共謀はなかった旨弁解する。
イしかしながら,被告人の供述は,信用できるEの供述やAの供述に反してい
る上,被告人が自らEに成り済まして偽装のメール等のやりとりをしていたことや,
被告人が使用していたアカウントから,登記申請に関し,日時の調整をしたり進捗
状況を連絡したりするなどのメッセージが送信されていることなどに整合しない。
また,株式会社g及び株式会社eeは,いずれも事業が本格的に展開していなか
ったのであるから,Eが両社の役員になる合理的な理由は見当たらず,ましてや,
両社で高額の保険に入らなければならない必要性は認められない。それにもかかわ
らず,被告人が,Eの了解があると考えたというのは不自然で不合理である。また,
被告人は,両社の主要株主で,両社の実質的な支配者であり,誰を役員に就任させ
るかについては関心を有していてしかるべきであるのに,その点について関心がな
かったというのも不自然である。加えて,株式会社eeの譲渡代金を回収できる目
処がないにもかかわらず,その点を明確にせずにEに譲渡することにしたと供述す
る点も不合理である。
また,被告人は,Eに成り済まして送信されたメールについて,自ら経営する飲
食店bにあるパソコンで取得されたアカウントから送信されているにもかかわらず,
自分がアカウントを開設したものではなく,誰が開設したものかも分からないと述
べるなど,あいまいで不合理な弁解をしている。
よって,被告人の弁解は信用できない。
ウなお,弁護人は,“鏐霓佑Bから依頼を受けて保険契約の手続をGに依頼
したと供述する点は,Gが株式会社gを契約者とする保険契約についてBに了解の
有無を確認したと供述していることと整合する,被告人にはEに対する恨みはなく,
犯行を行う動機がないなどとして,被告人の弁解は信用できると主張する。
しかしながら,,砲弔い討蓮ぞ綉認定によれば,被告人は,Eの殺害を計画し,
同人を役員とする虚偽登記と同人を被保険者とする保険契約を締結することを中心に
なって行っていたのであり,そうだとすると,Bが,Gから確認された際に了解して
いる旨を伝えたのは,被告人の意を酌んでのことであるとみられるし,△砲弔い討蓮
恨みがない場合であっても,不法な利益を得るために犯行に及ぶことはあり得るこ
とであるから,弁護人の主張は当たらない。
結論
以上によれば,信用できるAの供述等の証拠から,被告人は,Eを会社の役員に
した上で保険を掛けて殺害することを計画し,Eに成り済まして,役員になること
を了解していることなどを装うメール等を送受信していたことが認められるから,
被告人が登記申請や保険契約についてEの了解を得ていないことを認識していたこ
とは明らかである。
また,信用できるAの供述等の証拠から,被告人とA及びBらとの間に,虚偽登
記申請についての共謀があったと認められる。
そして,被告人の弁解は信用できないから,この認定に疑いを容れる事情とはな
らない。
(犯罪事実に関連する情状に関する事実)
関係証拠によれば,(犯罪事実)に記載した事実のほか,次のような事実が認め
られる。
判示第1に関して,被告人は,Nが借金を負っていることに付け込み,同人に偽
装事故を起こさせる犯行を計画し,同人を誘い入れて犯行を実行した。同犯行によ
りNは利益を得ていないのに対して,被告人は保険金を受領した。
判示第2に関して,被告人は,Cが経営する介護施設の買取りに関してQがトラ
ブルを抱えていることに付け込み,同人に偽装事故を起こさせる犯行を計画し,同
人や他の共犯者を誘い入れて犯行を実行した。他の共犯者とともに保険金を請求し
たのみならず,他の共犯者が把握していない被告人が契約していた所得補償契約で
も保険金を請求して,各保険金を受領した。
判示第3に関して,被告人は,犯行を計画し,共犯者を誘い入れた上,遺族宛て
の内容虚偽の手紙や偽造の念書を作成し,遺族側の代理人弁護士と積極的に交渉す
るなどした。
判示第4及び第5に関して,動機は,Eをフィリピンでヒットマンに殺害させて
死亡保険金を入手するために,同人を株式会社g及び株式会社eeの役員に就任さ
せ,同人を被保険者とする傷害保険契約をそれぞれ締結したというものである。ま
た,被告人は,一連の犯行を計画し,共犯者を誘い入れた上,必要書類の作成や傷
害保険の加入手続を自ら行うとともに,共犯者にも一部の手続をさせるなど,犯行
を分担させた。
平成29年6月8日
甲府地方裁判所刑事部
裁判長裁判官 丸山哲巳
裁判官 望月千広
裁判官 種村仁志

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