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組長の「虚偽診断書」作成、担当医に無罪判決 京都地裁

 暴力団組長が刑務所に収容されないよう虚偽の診断書をつくり、大阪高検に提出したとして虚偽診断書作成・同行使の罪に問われた担当医の全栄和被告(63)の判決が19日、京都地裁であった。斎藤正人裁判長は「記載内容が事実に反するというには合理的な疑いが残り、虚偽であると認めることはできない」として無罪(求刑禁錮1年6カ月)を言い渡した。
 全被告は康生会・武田病院(京都市下京区)に勤務していた2016年初め、恐喝罪などで懲役8年が確定した指定暴力団山口組直系組長の高山義友希(よしゆき)受刑者(62)について、重い不整脈で重篤化が予測できるとする虚偽の診断書をつくり、同年2月に大阪高検に提出したとして起訴された。高検は1年間、刑務所収容を見送った。
(3/19(火) 14:44 朝日新聞)

「虚偽診断書」医師に無罪判決 組長収監逃れ 「真実に反する、言えず」

 暴力団組長に収監を逃れさせるため病状を偽る診断書を作成し検察に提出したとして、虚偽診断書作成・同行使の罪に問われた京都市左京区の医師、全栄和(チョン・ヨンファ)被告(63)に対し、京都地裁(斎藤正人裁判長)は19日、「記載内容が医学的・客観的に見て真実に反するというには合理的疑いが残る」として無罪(求刑・禁錮1年6月)を言い渡した。
 判決によると、全被告は「康生会武田病院」(京都市下京区)の不整脈治療センター所長だった2011年以降、指定暴力団・山口組の直系組織「淡海(おうみ)一家」総長、高山義友希(よしゆき)受刑者(62)を診療。16年1〜2月、大阪高検の照会に対し「心室性不整脈が頻発し、病状が重篤化することが予測できる」などと診断する回答書を提出した。
 高山受刑者は15年7月に恐喝罪などで懲役8年の実刑が確定したが、14年に京都府立医大付属病院(京都市上京区)で腎移植手術を受け、同病院と武田病院の回答書を基に16年2月、大阪高検が刑の執行を停止し収監を見送った。高検は17年2月、診断書が虚偽だったとして高山受刑者を収監し、京都府警が両病院を家宅捜索。府警は全被告の他にも武田病院の元医事部長と暴力団組員を同容疑で逮捕し、府立医大病院の前院長と元主治医を虚偽有印公文書作成・同行使容疑で書類送検したが、京都地検が不起訴処分とし、全被告だけが起訴されていた。
 斎藤裁判長は「『発作時には早急に的確な医療が受けられる状態が望ましい』など収監を前提にした記載があり、収監のストレスで不整脈が悪化する可能性があるとの予測的判断を示したにとどまる」と判断。「回答書にはあいまいな内容も多いが、虚偽とするなら趣旨を明確にする必要がある。提出を受けた大阪高検が確認した形跡がない」と検察を批判した。
 判決を受け、京都地検は「判決内容を精査し、上級庁と協議の上、適切に対応したい」とのコメントを出した。【澤木政輝】
(3/19(火) 22:45 毎日新聞)

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平成29(わ)421  虚偽診断書作成,同行使
平成31年3月19日  京都地方裁判所
主文
被告人は無罪。
理由
第1本件公訴事実及び争点
本件公訴事実は,「被告人は,京都市a区b町c番地のd医療法人AB病院
Cセンター所長を務める医師であり,指定暴力団D総長Eの診療を担当してい
たものであるが,Eの病状等に関するF高等検察庁検察官からの平成28年1
月27日付け裁判執行関係事項照会書に対し,同月29日頃から同年2月5日
までの間に,同病院において,真実はEがその当時に重篤な心室性不整脈であ
るなどの事実はなかったのに,『当院での現在の病状については,継続して起
こる心室性の不整脈であり,その出現頻度は日によって異なるが概ね7,00
0回から10,000回は出現していると思われる。時間帯によって多く出現
する時間帯が認められ,時には2連発までの出現が確認されている。』,『E
氏の心室性不整脈は…かなり重篤な状況であるといえる。』,『特に最近につ
いては強い自覚症状を訴えて時間外に受診されることもあり』,『現在の症状
から,今後,心室性不整脈が頻発し,症状が重篤化することが安易に予測でき
る。』などと虚偽の事実を記載して同年2月5日付け同検察官宛ての回答書を
作成し,もって公務所に提出すべき診断書に虚偽の記載をした上,大阪市e区
fg丁目h番i号F高等検察庁に郵送し,同月8日,同検察庁執行係職員に対
し,同回答書を真正な内容のものであるように装い提出して行使したものであ
る。」というものである。
本件では,被告人が作成・行使したこの回答書(以下「本件回答書」とい
う。)の記載内容が虚偽であるかどうか,すなわち,被告人が,客観的真実に
反する診断内容を,自己の認識又は判断に反して記載したかどうかが争われて
いる。
第2当裁判所の判断
1本件回答書に記載された心臓突然死のリスク(危険性)の程度・意味内容に
ついて
⑴検察官は,本件回答書の記載内容は,一般通常人が素直に読めばEを刑事
施設に収容することにつき否定的判断を示したものであると読めるとして,
被告人はそのような趣旨の判断をしたものと解するのに対し,弁護人は,そ
のような趣旨には解されない旨主張しており,そもそも被告人が本件回答書
でどのような判断を示したのかについて争いがある。
⑵本件回答書の病名欄に記載された「重症心室性不整脈」が,心臓突然死の
リスク(危険性)のある心室性不整脈を指すことは当事者間に争いがなく,
関係証拠からも認められるところ,本件回答書の記載内容を,検察官が主張
する趣旨と解するかどうかは,本件回答書の記載内容が虚偽といえるかどう
かの判断(以下「虚偽性の判断」ともいう。)にも関わるものである。また,
診療過程で患者から聴取した自覚症状やそれまでの検査結果等を前提に病名
を診断し,今後の治療予測等を立てたり,予後を予測したりするものと,そ
れに加えて各種検査を行った上でその時点における確定的な診断をするもの
とでは,その診断根拠が異なるであろうから,被告人が本件回答書でどのよ
うな診断を求められていたかという点も,虚偽性の判断に関わることになる。
そこで,本件回答書の記載内容について,虚偽性を判断すべき対象をどう
考えるべきかについて検討する。
⑶確かに,本件回答書には,「2現在の病状3.加療・検査・診察経過及
びその内容」欄に,E「の心室性不整脈は…かなり重篤な状況である。」,
「5今後の加療予定・計画」欄に,「現在の症状から,今後,心室性不整
脈が頻発し,症状が重篤化することが安易に予測できる。」,「6その他
病状等について参考となる事項」欄に,「実際に服役するとなった時には…
心室性不整脈がさらに重症化することは明白である。」といった記載があり,
これらの記載のみを見ると,検察官が主張するように,被告人は,Eの刑事
施設への収容について否定的判断を示したものと解する余地は十分にある。
しかし,他方で,同じく「6その他病状等について参考となる事項」欄
には,「発作時には早急に的確な医療が受けられる状態で療養されることが
望ましいと考える。」,「もちろん有事には,AEDなどによる適切な応急
処置と不整脈科専門医のいる医療機関への搬送が早急に行われないと生命予
後も危ういことは明白である。(当院は受入可能である。)」との記載があ
ることからすると,そもそもEが不整脈専門医のいない場所にいること,す
なわち,刑事施設へ収容されたことを前提とした記載と読むこともできる内
容にもなっているのである。
このように本件回答書の記載内容は,曖昧で,その趣旨が明確でない部分
が多かったのであるから,その記載内容が虚偽であるとして刑事処罰を科す
ることをも視野に入れるというのであるなら,その趣旨を明確にしないと,
その虚偽性の判断対象もまた不明確なままになってしまう。そして,本件回
答書は,F高等検察庁に提出されたものであり,同庁において,その趣旨を
被告人に確認するなどして明確にすることが困難であった事情は見当たらな
いが,そのような照会・確認等がされた形跡はない。また,検察官の主張に
よると,被告人は本件回答書作成時点での確定的な診断を求められていたか
のようにも見えるが,同庁検察官からの照会がそもそもそのようなものであ
ったといえるのか疑わしい上,今後の加療予定等という仮定的な判断も求め
ている以上,予測的な判断とならざるを得ない面があるのは当然である。
そうすると,本件回答書の記載内容は,Eについて,検察官が主張するよ
うに,刑事施設に収容することができない程度に重症心室性不整脈による心
臓突然死のリスクが高い(危険性の程度が大きい)ということを確定的に示
したものとはいえず,心臓突然死のリスク(危険性),すなわち心臓突然死
に至る可能性のある重症心室性不整脈があり,刑事施設に収容し,過度のス
トレスがかかった場合には,それが更に悪化する可能性があるという予測的
判断を示したにとどまることを前提に,その虚偽性を判断するよりほかない。
これを前提に検討・判断すると,本件回答書の記載内容が虚偽であること
について,検察官が合理的な疑いを超えた立証をしたということはできない。
以下,詳述する。
2Eの診療経過等について
⑴前提としての医学的知見等
関係証拠(証人G〔以下「G医師」ということがある。〕,証人H,弁2
から4まで,被告人の公判供述等)によると,以下の事実が認められる。
ア不整脈の意義及び種類
不整脈とは,心臓の調律(リズム)の異常による脈の乱れであり,
心臓を収縮させる電気信号の生成・伝導に異常が生じる病態である。
不整脈には,大きく分けると,脈が遅く打つ徐脈,脈が速く打つ頻
脈,正常心拍の間に割って入る期外収縮という3種類がある。さらに,
期外収縮は発生部位が心室か心房かによって心房性期外収縮と心室性
期外収縮に分類される。
頻脈のうち,発生部位が心室のものに心室頻拍と心室細動があり,
心拍数の違いにより区別される。また,期外収縮の連発が長くなると
頻拍となる。
イ不整脈に関する検査方法
不整脈に関する検査方法として,心電図検査があり,不整脈出現の
有無やその発生部位,不整脈と関連する心疾患の有無(例えば,心筋梗
塞があるか,心臓肥大があるかなど。)の判断資料となる。
心電図検査には,一般的に行われている短時間(10秒から20秒
程度)の12誘導心電図検査のほかに,3分間又は1分間心電図検査,
運動負荷心電図検査があり,長時間記録ができるものとしては,24時
間連続で行うホルター心電図検査,更に長期間の記録が可能で,不整脈
があった際に心電図が記録されるイベントレコーダー,自覚症状があっ
た場合に患者自らが記録する携帯型心電計,皮下に埋め込み心電図をモ
ニタリングする植込み型心電計がある。
心エコー(心臓超音波)検査では,心疾患の有無や心機能(心臓が
血液を送り出す機能)の状態を診断することができ,心機能が正常かど
うかを示す左室駆出率が判明する。正常な左室駆出率は概ね55%以上
である。
その他の不整脈に関係する検査として,血液検査,胸部X線写真検
査,カテーテルを用いた電気生理検査がある。
ウ致死性の心室性不整脈の発生要因・機序等
致死性の心室性不整脈は,一般に,「基質」があるところに,「環
境因子(修飾因子)」と「引き金(トリガー)」とが相まって発生する
ものである。
基質とは,心臓に不整脈が起こるような組織的な構造があるという
ことであり,心疾患等があることを指す。
「環境因子」には,ストレス,透析による循環ボリュームの変動や電
解質異常等が挙げられる。
「引き金(トリガー)」には,心室期外収縮の発現やストレス等が
挙げられる。
エ心臓突然死のリスクのある心室性不整脈の診断方法等
心室頻拍,心室細動を伴う場合には,心臓突然死の危険性が高い心
室性不整脈と認められる。
の場合に該当しなくとも,重症心疾患があり,心機能の低下(具体
的には,左室駆出率が35%程度以下)を伴う場合には,生命予後を改
善するために治療が必要な,心臓突然死の危険性のある心室性不整脈と
認められる。
⑵Eの主要な診療経過
関係証拠(甲15,18ないし20,甲65,被告人の公判供述等)によ
ると,以下の事実が認められる。
ア腎臓移植手術(以下「腎移植」という。)前の診療経過等
Eは,前記医療法人AB病院(以下「B病院」という。)透析クリニ
ックにおいて,平成24年3月28日から,慢性腎臓病(腎不全)によ
り,透析治療を受け始めた。
Eは,同年6月26日から同月27日にかけて,1回目のホルター
心電図検査(24時間)を受け,その結果,1日当たり1万939回,
2連発1回の心室期外収縮の出現が確認された。
当時,B病院の医師であった被告人は,同年10月10日,Eを初
めて診察し,経過観察等のため,同日から同月23日までの間,Eを入
院させた。
同入院期間中のEの心電図モニター上,1日1万回程度の心室期外
収縮の出現が確認された。
Eは,同月31日から同年11月1日にかけて2回目のホルター心
電図検査(24時間)を受け,その結果,1日当たり9222回,2
連発2回の心室期外収縮の出現が認められた。
Eは,同年12月25日,12誘導心電図検査を受け,その結果,
心室期外収縮が確認された。
Eは,翌日以降,平成26年6月19日までの間,合計18回の心
電図検査(ただし長時間心電図検査ではないもの。)を受けたが,心
電図上,心室期外収縮の出現は認められなかった。
Eの透析治療は,平成26年6月30日を最後に,行われていない。
イ腎移植
Eは,平成26年7月8日,I病院で腎移植を受け,その後は透析治療
を受けることがなくなった。
ウ腎移植後の診療経過等
被告人は,平成26年10月15日,Eを診察し,3分間心電図検
査を行ったが,心電図上は,心室期外収縮の出現は認められなかった。
同日のカルテには,Eが,免疫抑制剤を大量に服用している旨の記
載がある。
被告人は,平成27年4月16日,Eを診察し,3分間心電図検査
を行ったが,心電図上は,心室期外収縮の出現は認められなかった。
被告人は,同年9月30日,通常の診療時間外にEを診察し,1分
間心電図検査を行ったが,心電図上は,心室期外収縮の出現は認めら
れなかった。
同日のカルテには,Eが「時々動悸がして気が遠くなることもあ
る。」旨述べたことが記載されている。
Eは,平成28年1月18日から5日間,I病院に検査入院し,ク
レアチニンの値の上昇が認められたが,最終的には,「軽快」したと
して退院した。
F高等検察庁検察官は,B病院に対し,同月27日付「裁判執行関
係事項照会書」により,Eの病状等に関する照会を行い,被告人は,
下記診察までの間に,同照会の存在を知った。
被告人は,同年2月3日,Eを診察し,12誘導心電図検査を行っ
たが,心電図上は,心室期外収縮の出現は認められなかった。
同日のカルテには,「重症不整脈の発作が出ている可能性がある。
アミオダロンを開始する。腎臓との関係もあり少量から開始」との記
載がある。
3争点に対する判断
⑴本件回答書作成の時点で,Eが,心臓突然死の危険性のある心室性不整脈
であり,刑事施設に収容し,過度のストレスがかかった場合には,それが更
に悪化する可能性があると判断する根拠があったかどうかについて
ア検察官は,前記のとおり,平成24年12月25日の検査を最後に,E
の心電図検査上,心室期外収縮の出現が確認されていないことからする
と,そもそも,本件回答書作成の時点で,Eに心室期外収縮の存在自体
を認める医学的・客観的な根拠がなく,仮にこの点を措くとしても,E
には重症心疾患も心機能の低下もないのだから,Eの心室性不整脈が重
篤と判断できる根拠もない旨主張する。
確かに,検察官が主張するとおり,本件回答書作成当時,Eに心室期
外収縮が出現していたと断定するだけの客観的根拠は存在しなかった上,
Eには重症心疾患も認められず,心機能も正常であったことが認められ
る。
しかしながら,過去の心電図検査の結果等から,本件回答書作成当時の
心室期外収縮の出現を推察することがおよそ不合理とは認められず(G
医師も,不整脈の出現を確認した3年前の心電図検査の結果から現在の
出現頻度を推測するという発想自体を否定するものではない。),また,
重症心疾患の存在及び心機能の低下は,生命予後改善のために治療が必
要な心室期外収縮のうちのコアな部分を判断するための基準にすぎない
と解される。そもそも,検察官が前提とするG医師が証言するのと同じ
意味内容で被告人が本件回答書を作成したということが立証されていな
いのであり,G医師と見解を異にするからといって,虚偽であるといえ
るわけではない。
イ被告人は,要旨,「Eの心電図検査上,左軸偏位が出現したり改善した
りしながら,腎移植の頃には左軸偏位が確立したことから,末期腎不全
を原因とした心筋の障害(心筋の繊維化,部分的細胞壊死等)がある程
度起こっていると考えており,これが基質になると考えた。また,心室
期外収縮については,心電図上は約3年前を最後に確認されていないが,
必ずしもホルター心電図検査で心室期外収縮の発現が捉えられるわけで
はないし,前記基質が残存している以上,引き続き同程度の心室期外収
縮が出現していると考えた。さらに,腎移植により人工透析が不要とな
ったことから,透析ボリュームの変動等はなくなるが,平成28年1月
にクレアチニンの上昇により短期入院していることから,移植腎が定着
したとはいえず,依然として環境因子も存在していると考えた。」と供
述する。
確かに,被告人が診断根拠として供述する心筋の障害が存在しているか
どうかは,心筋生検や特殊な心臓MRIで検査しないと確定することは
できないし,本件回答書作成当時,心電図上は心室期外収縮は確認され
ていないわけであるから,被告人の診断は,根拠事実のレベルでも可能
性の域を出ないことは否定できない。しかしながら,〆玄簡舒未左心
室に存在する病態の現れとして心電図上に出現したものであり,心筋の
障害の存在を推察させるという医学的評価,∨楫鏖鹽書作成の半月余
り前に,Eが前記のようにクレアチニンの値の上昇により入院したこと
から移植腎が安定しているとはいえないという判断,2甬遒凌甘顛涕
査の結果やEの自覚症状等を総合し検討した結果,Eが,心臓突然死の
危険性のある心室性不整脈であり,刑事施設に収容し,過度のストレス
がかかった場合には,それが更に悪化する可能性があるという判断が,
医学的・客観的にみて真実に反することが明らかといえるほどに不合理
なものと断ずるには合理的疑いが残る。
特に,被告人は,平成25年12月26日付けのEの弁護人に対する報
告書で,「目の前が一瞬暗くなり,意識が飛ぶような感じ」になるなど
の訴えが繰り返されることは,「状態が悪化していると考えられる。」
と記載したり,カルテに,「不整脈にはストレス,その他が一番影響し
ている。」(平成25年6月4日等)などと記載したりしており,不整
脈の発生要因として,ストレスといった環境因子や引き金を重視し,ま
た,その診断根拠として,自覚症状を重視していたとみられることをも
考えると,前記判断が不合理とはいい難い。
ウ検察官は,被告人の診断根拠のうち,左軸偏位について,平成24年9
月に軽度のものが1回確認されたが,その後散見されるようになったの
は,平成25年6月以降であって,被告人がEの病名を重症心室性不整
脈と変更した同年4月16日の時点では,前記のほかには一度も認めら
れていないこと,左軸偏位があるだけでは心筋の障害の所見にはならず,
心機能が正常である以上,心筋の障害を推測する根拠にはならない旨の
G医師の証言と整合しないことから,左軸偏位は重症心室性不整脈の診
断根拠足りえないと主張する。
しかしながら,虚偽性が争われているのは,平成28年2月頃に作成さ
れた本件回答書であるから,本件回答書が医学的・客観的に真実に反し
ているかについては,その時点までに存在する検査結果等を基に判断す
ればよいのであって,被告人が平成25年4月16日にカルテ上の診断
名を変更した際の根拠としていないからといって,左軸偏位を重症心室
性不整脈の根拠とすることが医学的・客観的に真実に反するという結論
は直ちには導かれない。また,確かに被告人の供述は,G医師の証言と
は合致しないが,被告人は,過去にJ大学において,人工透析を経て亡
くなった患者の心臓の顕微鏡標本を連続して研究したり,不整脈を訴え
る透析患者に致死性の不整脈が発生するかどうかについての誘発試験を
行ったりした経験等を有しており,そこで得られた自らの専門的知見に
基づき,Eの左軸偏位と重症心室性不整脈との関連性を判断しているの
であって,G医師の証言と整合しないからといって,直ちに被告人の述
べる根拠が医学的・客観的に真実に反することにならないことは明らか
である。
⑵被告人が採った診療経過について
ア検察官は,。鼎凌娑椰後本件回答書作成までの約1年6か月の間に,
被告人がEを診察したのは4回にすぎない上,本件回答書作成直前の診
察までは投薬を行わず,実施した心電図検査も,3分間から1分間,1
分間から12誘導と簡略化していっていること等,被告人にはEに対す
る適切な治療の前提となる正確な病状把握を行う姿勢が見られないこと,
⊇転匹任△襪反巴任靴覆ら抗不整脈薬の投薬を全く行っていなかった
のに,本件回答書作成の直前になってアミオダロンの投与を開始してい
るように,診断と投薬とが整合していないこと,カテーテルアブレー
ション等の適切な治療をしていないことといった被告人の診療行動は,
重症心室性不整脈という診断内容と矛盾し,Eがそのような状態になか
ったと被告人自身が判断していたことを示すものである旨主張する。
イ確かに,検察官の指摘する事情は,あるべき医師の姿として望ましいと
いうことはでき,検察官が前提とする重症心室性不整脈を想定すると,被
告人の行動は,その診断内容と矛盾すると評価する余地もある。
しかしながら,ここで言う「重症」の意味は,前記1の⑶で示したと
おりのものであることも考えると,望ましい行動としてどの程度のものが
要求されるかも異なってくるのであり,検察官が指摘する事情を考慮して
も,以下のとおり,その判断が虚偽であったと推認できる力はそれほど強
いものとはいえない。
まず,,凌甘顛涕〆困より簡易なものになっていったことについてみ
ると,そもそも,被告人は,Eを前記1の⑶の意味での「重症」心室性不
整脈と診ていたにとどまるのであるから,その後も,自覚症状を見ながら
診察し,更なる精密検査をするに至らなかったという検査経過に特段不合
理というほどのものがあるとはいえない。また,のカテーテルアブレー
ション等については,Eに提案したものの,拒否されたり,腎移植等の事
情を考慮したというのであるから,この経過も説明ができないものではな
い(検察官は,カルテに記載がないことを指摘するが,そうであるならば,
そのような提案等がなかったことについて,Eの証人尋問等により立証す
るのが筋であろう。)。さらに,△療衞状況に注意していないというこ
とは,前記の意味での「重症」という診断であるとしても,その診断に疑
問を抱かせる事情とはなり得るものの,被告人自らが処方した投薬を中止
し,その後も投薬をしていなかったという事情があるわけではない上,ア
ミオダロンの処方については,医師ごとにその判断が分かれ得るものとみ
ることも十分に可能なものである。
⑶被告人が,不整脈の出現頻度や受診の事実につき,腎移植前に重篤と診断
した根拠に用いられた当時の検査結果等を記載したことについて
ア検察官は,被告人が,Eについて,過去に「慢性腎臓病,維持透析に伴
う心室性の不整脈」と診断していることからすると,慢性腎臓病の存在
が不整脈の根拠となっていることは明らかであるのに,腎移植によりこ
の根拠が消失したにもかかわらず,特段の理由もなく,腎移植前の心電
図検査の結果等を,あたかも本件回答書作成当時の診断結果であるかの
ように記載しているのであるから,これは,本件回答書の記載内容が虚
偽であることを示している旨主張する。
イ確かに,本件回答書は,F高等検察庁検事がその時点でEを刑事施設に
収容することが可能かどうかの判断材料とするためにした照会に対して
作成されたものであり,このような経緯等にも鑑みると,被告人が,時
期を明示することなく腎移植前の心電図検査の結果等を本件回答書に記
載したことが不適切であることは否定できない。
しかしながら,前記⑴のとおり,被告人は,過去の心電図検査の結果等
を参考に,Eには過去と同様に現在も心室期外収縮が起きていると考え
たために本件回答書のような記載をしたと考える余地もあるから,この
不適切な記載をもって,直ちに本件回答書の結論部分が医学的・客観的
に真実に反するということにはならないし,この記載自体が医学的・客
観的に真実に反する検査結果を記載したとまでも言えない。また,最近
の自覚症状に関する記載についても,平成27年9月30日に,Eが自
覚症状を訴えて時間外に被告人の診察を受けていることからすると,客
観的真実に反する事実を記載したとまではいえない。そして,被告人は,
慢性腎不全の末期状態として,血液中に停滞する高濃度の尿酸による心
筋の障害が生じていると考え,これが左軸偏位という形で心電図上に現
れるようになっており,この左軸偏位が腎移植後にも継続して出ている
ことから,腎移植前後を通じて重症心室性不整脈であると判断した旨の
根拠を示しており,G医師がこれと異なった証言をしているからといっ
て,これが虚偽であると断定できるものではない。
被告人に本件回答書に虚偽の記載をする動機があったかどうかについて
検察官は,被告人が,実刑収容を免れたいというEの意図を理解し,実際
にEから金品を受け取っていたという事実や,当時のB病院医事部長のKに
捜査機関に対する反感等を述べていたこと等からすると,被告人にはEに肩
入れしようという心情が働いていたと認められ,虚偽の回答をする動機があ
った旨主張する。
しかし,検察官の主張するような動機の存在があるとしても,虚偽の回答
をしたことを推認させる力は極めて弱いというほかないし,検察官も指摘す
るように,被告人は,Kに対して,「こんな悪い状態で入ったらかわいそう
だ。」という趣旨のことも述べていたというのであり,これは,Eの重症心
室性不整脈がなお回復していないと判断したことと整合的な発言内容といえ
る。
被告人の捜査段階での供述内容について
検察官は,被告人が捜査段階で,)楫鏖鹽書に記載した不整脈の出現頻
度は,平成24年,平成25年当時のことであり,現在の病状として記載す
るのは正しくなく,実際の病状とは異なる内容を記載したとか(乙2から4
まで),◆崗評が重篤化することが安易に予測できる」などと断定するよ
うな重篤な状況にはなかった(乙2,4)などと,本件回答書が虚偽である
ことを自認する供述をしている旨主張する。
しかし,,砲弔い討蓮つ抄瓩竜甸囘な検査結果はなかったという意味の
供述とみることもできる上,被告人は,Eには動悸といった自覚症状もあり,
以前の重症心室性不整脈が完治したとまではいえないので,病名をそのまま
維持した旨供述している(乙4)ことも考えると,これらの供述内容は,後
から振り返ったときに表現として問題があったと読むこともできるものでも
ある(乙3)。そもそも,これらの供述は,確定的な診断としてみたときの
ものなのか,予測的な診断としてみたときのものなのかについての峻別もさ
れていないという問題がある上,この供述は,診断結果がなぜ正しくないの
かといった具体的な内容が語られているわけではなく,結論を示しているに
過ぎないことも考えると,前記第2の1⑶の意味での「重症」ということに
ついて,虚偽であることを自認した供述と言うことはできないものである。
そうすると,被告人の捜査段階での供述内容も,本件回答書が虚偽であるこ
とを示すものとしての証拠価値は大きいとはいえない。
小括
以上で検討してきたとおり,被告人の診療行動,投薬状況,本件回答書の
記載内容,捜査段階での供述内容等には,被告人が自己の認識に反して本件
回答書を記載したことを推認させる事情は複数認められるものの,それらを
総合しても,本件回答書の記載内容が医学的・客観的に虚偽であると認定す
るにはなお疑いが残る。
第3結論
以上によると,被告人が作成した本件回答書の記載内容が,医学的・客観的
にみて真実に反するというには合理的な疑いが残り,本件回答書の記載内容が
虚偽であると認めることはできない。
よって,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことになるから,その
余の点について判断するまでもなく,刑事訴訟法336条により,被告人に対
し,無罪の言渡しをする。
(求刑禁錮1年6月)
平成31年3月19日
京都地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 齋藤正人
裁判官 石井寛
裁判官 築山健一

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