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京都地判H29.10.6

平成26(ワ)3716号 損害賠償請求事件
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告らに対し,別紙1請求金額目録の請求金額欄各記載の金額及び
これらに対する平成24年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,平成24年8月14日(以下「本件当日」ともいう。)に京都府南
部を中心として発生した集中豪雨(以下「本件集中豪雨」という。)に伴い,
京都府宇治市を流域とする弥陀次郎川の天井川区間での堤防が,同市五ケ庄北
ノ庄地区付近で決壊し(以下,この決壊を「本件決壊」といい,「欠壊」と表
記すべきものも「決壊」と統一して記す。),同地区のほか,同西川原地区,
同西田地区,同市木幡熊小路地区等(以下併せて「本件浸水地区」という。)
において浸水被害が発生したことから(以下,発生した浸水被害を「本件水害」
という。),本件浸水地区に居住し又は建物等を所有する原告らが,弥陀次郎
川の管理者及び管理費用負担者である被告に対し,公の営造物である弥陀次郎
川の管理に瑕疵があったとして,国家賠償法2条1項,3条1項に基づき,建
物の損壊及び家財や車両の損壊・流出等による損害賠償及びこれに対する民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,一部請求によって求める事案
である。
本件の主な争点は,弥陀次郎川の管理に瑕疵があったか否かであり,その前
提として,本件決壊の機序が争われている。
2前提となる事実(当事者間に争いがないか,証拠(甲89〜111(カラー
コピーの点以外は,甲1〜23と内容は同一である。),乙1〜3,35(カ
ラーコピーの点以外は,甲24と内容は同一である。)。)及び弁論の全趣旨
により容易に認定できる事実。個別の証拠番号を付さない事実については,当
事者間に争いがない。)
⑴当事者等
ア原告ら及び亡Bは,平成24年8月14日当時,いずれも,本件浸水地
区において,居住又は建物等を所有し,本件決壊により,自宅等の建物に
浸水被害を被った者らである。
亡Bは,原告であったが,本件の訴え提起後である平成28年11月2
2日死亡し,その子らである原告A1及び原告A2が,亡Bの本件訴訟に
関する権利義務を2分の1ずつ相続して本件訴訟を承継した。
イ弥陀次郎川は,京都府宇治市高峰山に源を発し,宇治市北東部の市街地
を西に流れ,途中小弥陀次郎川を左岸(上流から下流を見て左の岸)に合
わせて,淀川水系宇治川に流入する幹川流路延長約2.0キロメートル,流
域面積約1.4平方キロメートルの一級河川(河川法4条1項)である。
ウ一級河川である弥陀次郎川の管理は,国土交通大臣が行うところ(河川
法9条1項),その権限に属する事務の一部は,法定受託事務として被告
の権限に属し(同法9条2項,同法施行令2条1項,57条の5第1号,
地方自治法148条),京都府知事はその権限を行使している(河川法9
条2項,地方自治法148条)。また,被告が行う弥陀次郎川の管理に要
する費用は,被告が負担している(河川法60条2項)。
⑵弥陀次郎川について
ア流域の地形等
弥陀次郎川は,河口(宇治川との合流部分を指す。河口から河口に接す
る上流部分を「河口部」という。以下それぞれ同じ。)から1400メー
トル付近で小弥陀次郎川と合流し,1140メートル付近で京都府道京都
宇治線,1040メートル付近でJR奈良線,840メートル付近で京阪
電気鉄道宇治線などの主要交通機関とそれぞれ交差している。また,河口
から780メートル付近に上出橋が,同320メートル付近に水路橋(川
の下に道路が交差している構造)が,同160メートル付近に雲雀橋がそ
れぞれ位置し,同約220から740メートルの区間について河床が堤内
地の地盤高より高い天井川となって住宅地を流下している。(甲90,別
紙2参照)
イ護岸の構造
上記天井川区間における護岸の構造は,下流側が三面張コンクリート区
間であり,上流側が石積区間となっている。三面張りコンクリート区間は,
設置時期は不明であるが,三面張りコンクリートが設けられた後,昭和4
2年頃,河床張りコンクリートが増し打ちされ,護岸に嵩上げコンクリー
トがなされた。他方,石積区間は,昭和24年から同25年頃,練り石積
みの護岸が設置され,その後,時期は不明であるが根継ぎと河床コンクリ
ートが設置された後,昭和46年頃,護岸に嵩上げコンクリートがなされ
た。(甲93,乙35,別紙3参照)
ウ過去の水害歴
弥陀次郎川においては,下記の昭和42年7月の豪雨による水害があっ
た以後,堤防決壊や浸水被害が生じるような水害は発生していない。
昭和42年7月,豪雨が発生し(降雨実績は1時間最大雨量46.6ミ
リメートル(以下単に「ミリ」と略す。),24時間雨量184ミリを記
録した。),現在の水路橋付近において,川からの溢水によって天井川部
分の河川を支えている盛土土砂が流出し,河床のコンクリートに開いた穴
から河川の水が流れ出すという水害が発生した。これにより,周辺の農地
等が浸水被害を受け,7ヘクタールの農地が浸水した。(甲90,乙35)
エ計画高水位
被告は,当時の京都府宇治土木工営所(現京都府山城北土木事務所)が,
昭和42年頃,計画高水位を設定した。計画高水位は,計画高水流量(ピ
ーク流量)を流下させる水位(河床からの高さ)であり,その定め方は,
計画高水流量を算出し,その流量が流下可能な断面を決定し,その断面の
上底(上辺)位置により設定する。昭和42年度弥陀次郎川河川災害関連
工事全体設計書によれば,弥陀次郎川の計画高水流量は,毎秒17.7立
方メートルであり,当時被災があった箇所(本件決壊箇所の約60メート
ル下流)において,毎秒17.7立方メートルの計画高水流量を流下させ
ることができる断面として,河床からの高さを1.6メートルと設定した。
本件決壊箇所の計画高水位も同じ数値となっている。なお,計画高水位に
おいて,洪水到達速度は毎秒3.0メートル,洪水到達時間は15.5分
であり,弥陀次郎川の流域面積は,1.2平方キロメートルとなっていた。
(乙1〜3)
⑶本件集中豪雨の発生
ア平成24年8月14日明け方から朝にかけて,前線が日本海から西日本
に南下し,この前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだため,大気
の状態が非常に不安定となったことから,近畿地方中部を中心に大量の降
雨があった。大阪府枚方では,1時間に91.0ミリ,京都府田辺では7
8.0ミリを観測するなど観測史上1位の値を更新した。この豪雨(本件
集中豪雨)の影響で,大阪府で1名が死亡し,京都府宇治市で2名が行方
不明となったほか,大阪府,京都府などで床上浸水,床下浸水などの被害
が多数発生し,交通機関にも大きな影響が生じた。(甲90,乙35)
イ同日,京都府の雨量観測所である宇治観測所(宇治市,別紙4参照)に
おいては,総雨量307ミリ(昭和28年台風13号豪雨時は202.6
ミリ,昭和61年豪雨時は216.5ミリ),1時間最大雨量74ミリ(昭
和28年台風13号豪雨時は53ミリ,昭和61年豪雨時は64ミリ),
3時間最大雨量186ミリ(昭和28年台風13号豪雨時は109ミリ,
昭和61年豪雨時は115.5ミリ)を記録した。なお,比較した昭和2
8年台風13号は,太平洋戦争後最大降雨をもたらした台風であり,昭和
61年豪雨は,京都府南部に大被害をもたらした集中豪雨である。
弥陀次郎川流域及び本件決壊箇所に近い宇治観測所の雨量データでは,
本件当日は,午前3時30分頃に10分間雨量が最大となり,その前後と
午前5時10分前後に雨量が多くなっていた。XバンドMPレーダー観測
記録による弥陀次郎川流域の平均雨量は,同日午前4時50分頃に10分
間雨量が最大となり,その前後と午前3時30分前後に雨量が多くなって
いた。
(甲90,93,乙35)
⑷本件決壊の規模等
本件集中豪雨により,平成24年8月14日午前4時頃,弥陀次郎川の河
口540メートルから560メートル付近の石積護岸区間において,両岸の
護岸が破壊され,左岸が24メートルに渡って決壊し,付近の堤内地(宅地
側)へ水が流出した(決壊箇所は別紙2の図のとおりであり,以下「本件決
壊箇所」という。)。右岸は20メートルにわたって護岸コンクリートが流
出するなどしたが,宅地側への水の流出までには至らなかった。
⑸本件浸水区域の位置関係
本件浸水区域のうち,弥陀次郎川右岸地域はおおむね木幡と呼ばれる地域
であり,上出橋と本件決壊箇所との間の地点(本件決壊箇所寄りの地点であ
る。)から雲雀橋付近が木幡熊小路地区である。左岸地域はおおむね五ケ庄
と呼ばれる地域であり,上出橋付近から水道橋付近が五ケ庄北ノ庄地区,水
道橋付近から雲雀橋付近が五ケ庄西川原地区となっており,西川原地区の南
方に五ケ庄西田地区が位置している。(甲87,弁論の全趣旨)
⑹天井川技術検討会
ア本件決壊について,そのメカニズムを解明することと京都府内天井川の
安全向上策を検討することを目的として,天井川に関する技術検討会(「技
術検討委員会」と称されることもあった。以下「技術検討会」という。)
が発足した。(甲60,乙6)
イ技術検討会は,Cが座長となって,合計5名の委員によって構成され,
平成24年9月1日から平成25年5月29日にかけて,合計5回開かれ
た。結果は,各回,議事録としてまとめられ,第1回から第4回までの技
術検討会における検討結果を取りまとめた文書(以下「技術検討会とりま
とめ」という。乙35)も作成された。
⑺関係法令
ア河川法13条
河川管理施設・・(中略)・・は,水位,流量,地形,地質その他河川の
状況及び自重,水圧その他予想される荷重を考慮した安全な構造のもので
なければならない。(1項)
河川管理施設・・(中略)・・のうち,ダム,堤防その他主要なものの
構造について河川管理上必要とされる技術的基準は,政令で定める。(2
項)
イ河川管理施設等構造令(昭和51年7月20日政令第199号)18条
堤防は,護岸,水制その他これらに類する施設と一体として,計画高水
位(高潮区間にあっては,計画高潮位)以下の水位の流水の通常の作用に
対して安全な構造とするものとする。(1項)
ウ河川法15条の2(ただし,平成25年法律第35号による改正によっ
て新設された。)
河川管理者又は許可工作物の管理者は,河川管理施設又は許可工作物を
良好な状態に保つように維持し,修繕し,もつて公共の安全が保持される
ように努めなければならない。(1項)
河川管理施設又は許可工作物の維持又は修繕に関する技術的基準その他
必要な事項は,政令で定める。(2項)
エ河川法施行令9条の3(ただし,河川法15条の2の新設に伴い新設さ
れた。)
河川法15条の2第2項の政令で定める河川管理施設又は許可工作物
(以下この条において「河川管理施設等」という。)の維持又は修繕に関
する技術的基準その他必要な事項は,次のとおりとする。(1項本文)
河川管理施設等の構造又は維持若しくは修繕の状況,河川の状況,河川
管理施設等の存する地域の気象の状況その他の状況(次号において「河川
管理施設等の構造等」という。)を勘案して,適切な時期に,河川管理施設
等の巡視を行い,及び草刈り,障害物の処分その他の河川管理施設等の機
能(許可工作物にあっては,河川管理上必要とされるものに限る。)を維
持するために必要な措置を講ずること。(同項1号)
河川管理施設等の点検は,河川管理施設等の構造等を勘案して,適切な
時期に,目視その他適切な方法により行うこと。(同項2号)
前号の点検は,ダム,堤防その他の国土交通省令で定める河川管理施設
等にあっては,1年に1回以上の適切な頻度で行うこと。(同項3号)
2号の点検その他の方法により河川管理施設等の損傷,腐食その他の劣
化その他の異状があることを把握したときは,河川管理施設等の効率的な
維持及び修繕が図られるよう,必要な措置を講ずること。(同項4号)
オ河川の維持管理については,全国的な基準がなかったところ,集中豪雨
による激甚な水害が相次いだことから,平成19年4月以降,国が中心と
なり,各地方自治体にも依頼して,河川維持管理計画の作成等による効果
的・効率的な河川維持管理の試行的な取り組みを行い,これを受けてなさ
れたのが,上記ウ,エの各規定の新設である。(乙21〜23,38,3
9,弁論の全趣旨)
3争点及び争点に関する当事者の主張
⑴弥陀次郎川の河川管理の瑕疵の有無(争点 法
(原告らの主張)
ア弥陀次郎川の河川管理に瑕疵があったこと
弥陀次郎川の天井川部分では,その地盤が軟弱であったことなどから,
不等沈下が起きていたため,河床コンクリートには亀裂が,石積護岸には
深刻な隙間が生じており,構造物が毀損していた。上記亀裂や隙間に草木
が繁茂,成長すれば,生じた亀裂や隙間が拡大し,その部分から水流が浸
透して,透水性の高い砂礫層や樹木の根に沿って堤体内を流れてパイピン
グ現象(浸透水の挙動によって生じる地盤や構造物の破壊現象)を発生さ
せ,護岸構造や堤体自体を破壊,流出させることになるのであるから,被
告は,護岸構造物に隙間が生じないように管理し,護岸や堤体の上部や法
面に繁茂した樹木などによって護岸や堤体の構造の脆弱化やパイピング現
象の発生を助長しないように管理しなければならない。しかし,被告は,
本件決壊箇所について,平成17年以降,護岸の補修工事を行わず,上記
のとおり,草木が繁茂するなどして護岸構造物にはひび割れや隙間が生じ
ていた。また,脱落した間知石(護岸の石積みに使用されていた石。本件
決壊以後,河口付近で発見された石は,間知石であったか否かにかかわら
ず,「雑割石」という。)が存在していたにも関わらず,石積部分に漏水
を緩和する十分な裏込め処理を施しておらず,又は施した裏込めが劣化,
損傷したままの状態にしており,増水時にはこれらの隙間から漏水が生じ
る状態のまま放置していた。その上,堤体の上部や法面にはパイピング現
象を助長するような大きな樹木が繁茂したままの状態を放置していた。こ
のような本件決壊箇所の状態は,堤体からの越水が生じない計画高水位の
範囲内の水位の上昇時に,護岸構造からの漏水による決壊を惹起せしめる
ものであり,天井川である弥陀次郎川が通常有すべき安全性を欠いていた。
イ本件決壊の機序について
本件水害の原因
本件水害は,石積部分の間知石の隙間,河床コンクリートや嵩上げコ
ンクリートの隙間,ひび割れ部分などの護岸から堤体内へ浸透及び漏水
し,その漏水が堤体内の砂礫層や樹木の根に沿って流れて堤体中腹部か
ら噴出するというパイピング現象を生じさせたことが原因で発生したも
のである。同現象により堤体内の土砂が河道に向けて円弧滑りを起こし,
流出して堤体を一部崩壊させ,護岸や河床を破壊して,河床コンクリー
ト片及び間知石を河口付近まで流下させた後に,完全な破堤を生じさせ
た。なお,計画高水位の範囲内の水位の上昇によって石積部分の間知石
の脱落が生じ,漏水が加速してパイピング現象が一層激しく進行したこ
とも考えられる。
石積護岸の状況
a間知石の間に隙間があったこと
本件水害が発生した約2週間後に近隣住民が撮影した写真によれば,
本件決壊箇所付近の石積護岸は,至る所に間知石間の隙間があり,そ
の大きさは人の手が入るくらいのものもある状態であった。撮影箇所
と本件決壊箇所の各河道内の構造は同じであるから,本件決壊箇所に
も同様に,間知石間の隙間が多く発生していたことは明らかである。
また,技術検討会が,本件水害発生を受けて弥陀次郎川の石積護岸の
点検を行った際,上出橋下流地点で石積みの隙間や間知石の抜け落ち,
石積みとパラペットの隙間を確認している。このように,本件決壊当
時,石積護岸には至る所に間知石間の隙間が発生していた。
b石積護岸の裏側には空洞が生じていたこと
技術検討会では,石積護岸の裏側に胴込コンクリートを確認したと
するが,下記のとおり,本件決壊箇所の石積護岸の裏側には胴込コン
クリートがなかったか,仮にあったとしても著しく損傷しており,空
洞が生じていた。本件決壊箇所の石積護岸断面には,胴込コンクリー
トは確認されておらず,石積護岸の隙間から草木が繁茂していたこと
からすれば,草木が石積みの隙間から成長して河道内に広がることは
あり得ない。そもそも,本件決壊箇所の胴込コンクリートは,60年
以上前に施工されたままであり,本件水害に至るまで,補修工事が行
われていない。また,本件水害直後に実施された応急補修工事の資料
によれば,石積護岸の裏側に空洞の充填に用いられたモルタル量の多
さや,測定された石積みの空洞の奥行からすれば,相当大きな空洞が
生じていた。
c間知石間の隙間から草木が繁茂していたこと
本件決壊当時,石積護岸の隙間から草木が生え,成長し,河道内に
繁茂していた。本件決壊箇所直近下流の石積護岸は,石積みが見えな
いほど隙間から草木が繁茂しており,左岸は天端近くまで草木が生い
茂っており,さらに,本件決壊箇所に極めて近い下流の左岸側には天
端を大きく超える高さの草木が成長して葉を広げていた。技術検討会
でも,本件決壊箇所上流及び下流で石積護岸の隙間から草木が繁茂し,
河道内に広がっている状況が確認されている。以上のように,本件決
壊当時、石積護岸の隙間から草木が繁茂し,河道内に広がっていた。
d本件決壊箇所の左岸側堤体に大きな樹木が繁茂していたこと
本件決壊当時,左岸の堤体には大きな樹木が繁茂していた。なお,
右岸には左岸のような木の繁茂は見られなかった。このように本件決
壊箇所付近の左岸側堤体には,大きな樹木が複数生えていたのであり,
これらの樹木が堤体内部に広く根を張っていたことは明らかである。
eこのような護岸の状況を踏まえれば,原告らが主張するような機序
によって,本件決壊が生じたことは明らかである。
水位・流量・流速
本件決壊当時,本件決壊箇所の流量は,毎秒13.5立方メートルを
超えることはなかった。原告A1の目撃によれば,本件決壊当時の水位
は堤防の天端から15から20センチメートル(以下「センチ」という。)
をさらに下回っていた。また,当時の流量は狭隘部である上出橋で制限
されて,上出橋を通過できる毎秒13.5立方メートル以上が流れるこ
とはなく,河道から溢れた水が上出橋の上を渡り再度河道に戻るという
還流も発生することはなかったし,さらに上出橋には流木等が引っかか
って流れが阻害されており,上出橋から本件決壊箇所まで天井川区間で
流入側溝もないことも考えれば,本件決壊箇所の流量も,上出橋を通過
した流量と同様に毎秒13.5立方メートルを下回っていたと考えられ
る。この場合,流速は毎秒2.6(2.5〜2.9)メートルであるか
ら,毎秒3メートルを下回っていた。したがって,流量についての毎秒
15から20立方メートルという被告の主張は,上出橋の上流に同様の
ゲートがいくつもあることに照らしても,あり得ない。また,原告A3
や新聞配達員のDの目撃によると,午前5時頃の最大雨量を前提にして
も,上出橋付近の溢水はさほど多いものではなかったのであったことか
らしても明らかである。
河床コンクリートの破損とめくれ
a河床コンクリートが流木等で損傷される可能性は考えにくいこと
流木は浮いて流れるため,河床コンクリートを損傷することはない
し,転石についても,流速毎秒2.5から2.9メートルを前提とす
ると,平均直径約15から20センチの石までしか移動することはな
いから,この程度の石で河床コンクリートが損傷することは考えられ
ない。また,損傷の危険が最も高いと考えられる,上出橋から本件決
壊箇所までの間にある落差工でも損傷痕跡はない。したがって,流木
等により河床コンクリートが損傷したとの被告主張は失当である。
b河床がめくれることはないこと
仮に河床コンクリートを損傷することがあったとしても,大きな摩
擦力があるから,河床がめくれることはない。そもそも,流速が毎秒
3メートルを超えているという被告の主張には前提に誤りがあるし,
被告が用いた「めくれモデル」は摩擦力を一切考慮していない。「め
くれモデル」が想定するのは,法覆工の部材が単体として存在し,周
囲との摩擦がない状態であるから,本件機序を考えるにあたっては,
摩擦力を考慮すべきであり,計算式として妥当ではない。
c河床コンクリートが先に損傷したとはいえないこと
被告は,河口付近において間知石が4個発見されたことを前提とし
て,護岸よりも河床コンクリートが先に損傷した旨主張するが,原告
らは,弥陀次郎川河口付近で,さらに14個もの間知石に当たる雑割
石を調査発見しており,被告の主張は前提を欠いている。このように
多くの雑割石が河口付近で発見されていることからすれば,原告らが
主張するように護岸が先に崩れたものと見るべきである。
ウ被告の管理維持義務の根拠と内容
河川法1条は,「この法律は,河川について,洪水,津波,高潮等によ
る災害の発生が防止され,河川が適正に利用され,流水の正常な機能が維
持され,及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理す
ること」など河川法の目的を定めており,さらに同法9条以下で河川の管
理について定めているから,本件水害時に,平成25年の河川法改正によ
る同法15条の2が存在していなかったとしても,河川管理者である被告
は,弥陀次郎川の本件決壊部分について,日常の維持管理義務を負ってい
た。
具体的には,被告は,弥陀次郎川の護岸構造物に隙間が生じないように
管理し,護岸や堤体の上部や法面に繁茂した樹木などによって護岸や堤体
の構造の脆弱化やパイピング現象の発生を助長しないように管理しなけれ
ばならなかった。しかし,被告は,上記アのとおり,本件決壊箇所につい
て,護岸の補修工事を行わず,護岸構造物にひび割れや隙間を生じさせて
いたほか,漏水を緩和する十分な裏込め処理を施さず,樹木が生えたまま
にしているなど日常的な維持管理義務を怠り,その結果,危険な状態を発
生させたのであるから,本件決壊箇所については,河川管理に瑕疵がある
というべきである。
エ大東水害訴訟の判例法理は適用されないこと
原告らは,昭和46年になされた改修工事の機能が日常の管理によっ
て適切に維持されていれば本件水害は起きなかった,すなわち被告が日
常の管理を怠っていたことが河川管理の瑕疵であると主張しているので
あり,大東水害訴訟の判例法理は本件には適用されない。
大東水害は,戦後27年目に起こったものであり,そこからさらに4
0年以上を経た本件水害とでは,時代背景が全く異なっているし,大東
水害訴訟と本件訴訟とでは,時代背景のみならず,内容においても事案
を異にしている。すなわち,〔鐶房]裟遒療薫羸邏茣屬録郵的に築堤
された部分であり,そもそも自然発生的な河川の堤防ではなく,∨楫
程度の流量による水害を避けるための治水事業は,既に昭和46年に完
了しており,8狭陲蕕主張する日常管理というものは大東水害訴訟の
最高裁判決にいう河川の改修とは規模も予算も極めて小さいのである。
本件において破堤した弥陀次郎川の天井川区間の堤防や護岸は,自然に
できた危険性を有する河川を,時間をかけて安全にするために設置され
たものではなく,一から人工的に水路を作って設置されたものであって,
まさに,当初から人工的に安全性を備えたものとして設置され管理者の
公用開始行為によって公共の用に供されたものである。
したがって,国家的財政難の中,本来的に危険性を有している自然発
生的な河川の安全性を確保するために,限られた予算で実施されている
治水事業の過程における水害であるから,安全性は過渡的なものでもや
むをえないとする大東水害訴訟の最高裁判決の理論が,本件に妥当しな
いことは明白である。
(被告の主張)
ア弥陀次郎川の河川管理に瑕疵はないこと
原告らは,本件水害当時弥陀次郎川の護岸等に劣化が生じていたとして,
その劣化が原因となって,本件決壊が生じた旨主張している。しかし,以
下に述べるとおり,原告らが主張するほどの劣化が生じていた事実は認め
られないし,本件決壊はその機序からすれば,護岸等の劣化が原因となっ
て生じたものではない。したがって,本件において弥陀次郎川の管理に瑕
疵はないから,被告が国家賠償法に基づき本件水害について損害賠償責任
を負うことはない。
イ本件決壊に至る機序について
本件決壊に至る機序は,以下のとおりであったと考えられる。
a本件水害時の総雨量は307ミリ,3時間最大雨量は186ミリ,
上出橋地点の最大流出量は毎秒25立方メートル,本件決壊箇所の想
定流量は毎秒13.5から20立方メートルであり,大量の流下物を
含む満水状態の濁流が生じていた。
b流速が毎秒3メートル程度を超える状況で,大量の土砂や転石,流
木等の流下物の衝突等の作用によって河床コンクリ―トや護岸の一部
にめくれ等の破損が生じた。
c河床コンクリートや護岸の一部に破損が生じたことから,抗力や揚
力により河床コンクリートの破損が拡大してコンクリートが流出し,
河床や護岸が洗掘された。
d河床コンクリートの流出は,パイピングが発生する可能性を高め,
コンクリート流出後は,河床土の洗掘に伴う護岸の損壊,護岸背面土
の吸い出しが生じた。河床土の洗掘や吸い出しが進行していく中で,
さらにパイピングが進展した。
eパイピングの進展に伴う護岸の損壊や護岸背面土の吸い出しの拡大
により,嵩上げ擁壁が崩落して堤防が直接浸食され,決壊に至った。
護岸や河床の状態
a本件水害後の調査によれば,本件決壊箇所の上流側及び下流側に草
木は生えていたが,石積みの緩みは確認されず,直ちに補修を要する
状態ではなかった。また,本件水害後の補修工事時において,護岸が
前に出たり,へこんだり,間知石が緩むなどの外観上の変状はなく,
間知石の間に隙間はあったが,ほとんどの石は動くことがなかった。
木の根はあったが,小さく細いものばかりで,量も平均的であり,手
作業で撤去後,焼いて処理できる程度であった。このように,石積護
岸や堤体はほぼ健全であり,護岸や堤体に一部劣化があったとしても,
機能的には問題がない程度であった。また,河床コンクリートについ
ても,本件水害後の調査では,通常の流水の状態で剥離につながるよ
うな損傷は確認されていない。
bまた,原告らは,護岸の裏側に空洞が生じていた旨主張するが,本
件水害後,被災を免れた天井川区間で行われたレーダー探査では,護
岸背面に空洞や土の緩みは生じていないことが確認され,本件決壊箇
所の上流側と下流側で行われた抜石調査では,石積みの背面に胴込め
コンクリートが存在することが確認されている。
cしたがって,原告らが主張するような護岸等の劣化や護岸裏側の堤
体に空洞があったという事実は認められない。
水位・流量・流速
a水位について,雨量データに基づく流出量や近隣住民の目撃証言等
によれば,水位からして本件決壊箇所の河道は満水状態であり,少な
くとも計画高水位を大きく超える状態であった。
b本件決壊箇所の流量については,実測値がないことから,目撃証言
による河道内の水位や上流の上出橋を狭窄条件とする試算から推定す
るしかないが,流量の推定にあたっては,本件決壊箇所でどのような
現象が生じていたと考えるのが合理的かという観点から考察を行うた
め,ある程度幅をもって検討し,実際に生じた可能性のある,あらゆ
る事象を検討の対象とするのが妥当と考えられる。技術検討会も,こ
のような考え方から,目撃水位に基づき河道内樹木の有無を考慮して
流量を毎秒15から20立方メートル,狭窄箇所となっている上出橋
からの流量は,狭窄部の断面積をもとに計算すると毎秒13.5立方
メートルとそれぞれ算出し,考えられる流量として,毎秒13.5か
ら20立方メートルまでの間であるとした。
cこの点について,原告らは本件決壊箇所の流量は,上出橋の狭窄条
件に加え,流木のひっかかり等の流れを阻害する要因や上流の降雨量
との関係を根拠に,毎時13.5立方メートルを下回っていた旨主張
する。しかし,技術検討会が算出した上記毎秒13.5立方メートル
という流量は,上出橋付近で水が溢れていたという複数の近隣住民の
証言があることや,上流部の痕跡水位によると,河道から溢れた水等
がガードレールを越えて橋の上を渡り再度河道に戻るなどして,上出
橋の下流ではほぼ満水状態で流下していた可能性がある。また,実際
の痕跡水位にあわせて上出橋上流水深を2.4メートルとし,上出橋
を狭窄条件として流量を計算すると毎秒14.7立方メートルとなる。
さらに,上出橋下流で確認できた波状跳水の痕跡から計算した流量は
毎秒20.1立方メートルである。
dそうすると,考えられる流量の幅は,技術検討会において目撃水位
から算定した毎秒15から20立方メートルと整合するものであり,
実際に生じた可能性のあるあらゆる事象を検討の対象にするとすれば,
本件水害当時上出橋において,毎秒13.5立方メートル以下しか流
れなかったということはできないから,本件決壊箇所においても同様
である。
eまた,上記流量を前提とすると,樹木を考慮する場合と考慮しない
場合で流速は毎秒2.5から3.9メートルとなり,毎秒3メートル
を超えることもあったから,河床コンクリートがめくれたと考えても
矛盾はない。
河床コンクリートの破損とめくれ
a原告らは,流木は浮くから河床が損傷することはない旨主張してい
る。しかし,石や礫の衝突によって河床コンクリートが損傷(摩耗)
した事例があることは一般に知られており,弥陀次郎川のような川幅
が狭く流水部も小さい河川では,洪水時には岩石だけではなく根や枝
がついた流木や土砂が混じり合って回転するなどして様々な角度で流
れたことが考えられるから,それによって河床コンクリートが損傷し
た可能性は十分にあるというべきである。
b本件では,河床コンクリートの破片が弥陀次郎川の河口付近におい
て多数発見された一方,間知石が河口付近では多数は発見されず,む
しろ本件決壊箇所直下の宅地側で多数発見されたことは動かしがたい
事実である。
天井川が決壊すれば,その高低差から河川の水は決壊箇所から一気
に堤内地側に流れ落ち,下流には水がほとんど流れなくなる。本件で
は,河床コンクリートの破損から決壊までの正確な時間は不明である
が,本件決壊箇所から500メートル以上も下流で,上記のとおり,
多数の河床コンクリート片が発見されたという事実は,河床コンクリ
ートが破損してからもしばらくは堤体が保たれたことを示している。
したがって,少なくとも護岸の崩壊が始まってから河床コンクリート
がめくれたという順序ではない。
c原告らは,河口付近で14個の雑割石が発見されたと主張し,護岸
が先に崩壊を始めたことの証拠であるとする。しかし,原告らが指摘
する石は,全体的に赤茶色であったり,流水に面していたはずの面の
方が濃かったりするなど,護岸に使用されていた間知石の特徴とは異
なる様相を呈している。また,仮に14個の雑割石のうち,いくつか
が本件決壊箇所の間知石だったとしても,多数のコンクリート片が下
流に流下した一方で,間知石は本件決壊箇所直下の堤内地に多数流出
したという事実を変えるものではないから,原告らの主張する機序の
根拠とはなりえない。
以上のとおり,_捨で河床コンクリートの破片が多数発見された
が,間知石は多数までは発見されておらず,むしろ本件決壊箇所直下の
宅地内で多数発見されたこと,考えられる水位・流量・流速の範囲か
ら流下物による河床コンクリートの損傷の可能性が十分あることなどか
らすれば,本件の破堤原因は,想定外の豪雨により発生した大量の流下
物を含む満水の濁流によって河床コンクリートのめくれが生じ,それを
引き金として河床や護岸が洗堀され,それに伴う護岸の損壊や護岸背面
土の吸出しの進行により堤防が浸食されて決壊した(浸食による破壊)
と考えるのが妥当である。一方,原告らが主張するパイピング現象・破
壊については,護岸崩壊の過程の中で生じた可能性はあるものの,もと
もとそれが本件決壊の原因となったとするには,護岸等が破壊の危険性
がある程度に劣化していたことを前提としているが,そのような事実は
認められないから,パイピングを本件決壊の原因と考えるのは相当でな
い。
ウまた,仮に原告ら主張の機序を前提としても,被告が弥陀次郎川の日常
的維持管理を怠ったことはないから,弥陀次郎川の河川管理に瑕疵はない。
河川の維持修繕義務の根拠について
河川の維持管理については,従前全国的な基準はなかったところ,国
が,平成19年4月,河川維持管理指針(案)に基づく河川維持管理計
画(案)を策定し,効率的・効果的な維持管理を実施する取り組みを始
めるとともに,都道府県や政令市に対し,試行的な取り組みを始めるこ
とを依頼した。その後も,国は,試行的な取り組みを進め,これを受け
て河川法が改正され,平成25年12月に同法15条の2及び同法施行
令9条の3が施行されたが,同法15条の2に基づく河川管理者の河川
管理施設の維持管理はなお努力義務とされている。本件水害時は,河川
法改正がなされる以前であり,被告のみならず他の地方公共団体におい
ても具体的な維持管理の基準が確立されていない状況にあったものであ
るから,弥陀次郎川にかかる被告の維持管理についても,河川法15条
の2や同法施行令9条の3に基づく義務が課されるものではない。
被告による河川の維持修繕義務について
被告の山城北土木事務所における河川の維持修繕業務は,流水が安全
に流れるように河川構造物の点検や修繕を行い,また,環境保全のため
に,堤防の草刈り等を行うことである。平成25年の河川法の一部改正
以前は,護岸の形態や構造物の経過年数等河川の具体的状況に応じ,職
員が河川の管理行為のために現地に赴く種々の機会に護岸等の変状の有
無を確認し,変状を発見した場合は対応の要否を検討し,必要に応じて
補修工事を行っていた。
弥陀次郎川においても適切な維持管理が行われていたこと
被告は,弥陀次郎川について,毎年2回行う除草作業の他,住民から
の通報や不法行為の取締り,河川改修工事,台風や豪雨後の点検等の際
に職員が現地に赴き,これら管理行為に合わせて河川の状況を確認して
いた。職員が現地に赴き,堤防の上から目視で点検し,変状が疑われれ
ば河道に下りるなどして護岸や河床の状態を間近で確認し,前記の基準
に従い補修の必要性を判断していた。補修工事のうち,平成17年には,
それまでの河床の状況の経過観察を経て,一定まとまった工事をする状
況になったと判断して,河床コンクリート補修工事を発注した,平成2
0年から同24年にかけては,種々の管理行為の機会に補修の必要性が
あると判断し,護岸修繕や河床補修の工事をした。さらに,平成24年
5月には,山城北土木事務所管轄の全河川の点検の一環として弥陀次郎
川の巡視点検を行い,堆積について経過観察を要する以外の問題点は見
つからなかった。
以上のとおりであり,平成25年の河川法の一部改正以前でも,被告
に弥陀次郎川の堤防の安全性を保持すべき義務があったことは争わない
が,法令上,河川の維持修繕について具体的な基準は定められていなか
ったから,被告は,巡視・点検を定期化していなかったものの,具体的
な河川の状況に応じ,種々の管理行為に合わせて随時点検を行い,それ
により発見された変状について護岸等の危険性の有無から補修の要否を
判断してきたのであり,被告の同維持修繕の方法が法令上相当性を欠い
ていたとはいえないし,弥陀次郎川についても,法令上相当性を欠く維
持修繕をしてきたわけではない。
エ大東水害訴訟の判例法理の適用があること
昭和39年の河川法の制定に伴い,昭和40年に国は淀川水系工事実施
基本計画を策定し,昭和46年に改定した。同基本計画における基本方針
に沿って,被告は,平成9年3月に弥陀次郎川河川改良全体計画の認可を
受け,同全体計画に基づいて,被告は,宇治川合流点から760メートル
を事業区間として河道の掘削や築堤等の改修工事を進めてきたものであり,
平成21年までに事業区間のうち約195メートルが改修済みであった。
このように,弥陀次郎川は「既に改修計画が定められ,これに基づいて現
に改修中である河川」であるから,大東水害訴訟の判例法理の適用がある
というべきである。
⑵損害額(争点◆
(原告らの主張)
ア原告らが,本件水害によって被った損害は,別紙5損害一覧表の原告ら
主張欄記載のとおりであり,以下の基準によって算定されるべきである。
また,原告らは,被った損害の合計額(別紙5損害一覧表の損害合計額は
世帯における合計額である。)の一部として,別紙1請求金額目録の請求
金額欄記載の金額を請求するものである。
イ家財損害については,その算定において,東京電力株式会社作成の基準
及び国税局作成の被害割合に応じて,賠償すべきである。原告らは,水害
によって家財に損害を受けている者が多いが,水害当時の家財の時価等を
立証することは極めて困難である。原告らの多くは,水害当時浸水した地
域に居住して生活を営んでいたのであって,合理的な範囲で家財を有して
いたことは明らかである。そのため,通常有すると思われる家財の損害に
ついて賠償されるべきである。
ウ東京電力株式会社作成の基準は,福島原発事故に際して作成した家財損
害の評価基準に則して世帯構成等によって合理的な範囲の家財損害を算定
したものであるから,客観的基準であるといえ,本件水害による家財損害
の算定の基準とすべきである。また,原告らは浸水した家財については,
流失しており,かろうじて流されずに残ったものについても,カビが生え
たり,悪臭が残ったりするなどの理由により,使用不可能になっている。
このことから,原告らの家財損害の評価に当たっては,上記基準のうち放
射能汚染が深刻であり,家財が使用不可能であることを前提とした「帰還
困難地域」の基準によるべきである。
エ原告らの世帯は,それぞれ浸水の程度が異なるため,家財損害の被害程
度についても浸水した高さに応じて賠償されるべきである。具体的には、
国税局及び税務署が作成した損失額の計算方法のうち,別紙6被害割合表
(別表3)によるべきである。なお,本件水害は土砂を含んだ水による浸
水であるから,被害割合は同表のうち上段の割合を使用して計算されるべ
きである。
(被告の主張)
ア原告らの損害の各主張に対する反論は,別紙5損害一覧表の被告主張欄
記載のとおりである。家財損害の算定について,東京電力株式会社作成の
基準及び国税局作成の被害割合に応じて賠償すべきとする原告らの主張は
争う。
イ福島原発事故による避難者の場合と異なり,各原告の損害の認定を行う
ことは十分可能である。たしかに,災害の性質上立証方法が限定されると
いうことはあり得るが,それは証明の程度として考慮されるべき問題であ
り,不法行為法の原則である個別立証を免除する理由とはなり得ない。不
法行為法の原則どおり,原告らの損害算定については,個別に立証される
必要がある。また,福島原発事故の場合とは異なって家屋への立入等が禁
止されていない原告らについて,家財一切の価値を喪失したと一律に認め
ることはできないし,原告らを家財の持ち出しも将来における使用もおよ
そ不可となる帰還困難区域の住民と同視することはできない。
ウ原告らは被害割合についても国税局作成の基準を用いるべきと主張する
が,同基準は莫大な数に及ぶ東日本大震災の被災者について,税負担の減
免という政策的見地から雑損控除における控除額の算定方法を画一的に定
めたものであり,実体上の被害額とは一致しないことに照らすと,本件損
害賠償の基準とすることは相当ではない。
⑶損益相殺の可否(争点)
(被告の主張)
ア原告らに支払われた支援金は別紙7原告受給額一覧表記載のとおりであ
るが,このうち(宇治市)地域再建被災者住宅等支援事業補助金交付要綱
に基づく補助金は,被災者生活再建支援法に基づく支援金を補完するため
に,京都府及び市町村が独自に予算化して支給したものであり,住宅が損
壊又は流失した場合等に,住宅の新築・購入費,補修費,賃借費,解体費
等の対象経費を積算し,その3分の1の額から被災者生活再建支援法に基
づく被災者生活再建支援金の額を控除した額を支払うというものであり,
住宅が受けた損害の回復と重なり,損害と同質性ある利益であるから,損
益相殺の対象となる。
イ原告らは,原告らに支払われた支援金が,公益目的で支払われた金員で
あって損失補填の趣旨ではないから,本件損害賠償の損害額から控除すべ
きではないと主張する。しかしながら,支援金を含む補助金等はすべて公
益目的で支払われるものであり,公益上の必要性がないということはそも
そもあり得ない。損益相殺は,一般には,賠償権利者が損害を被ったのと
同時に,同一原因によって利益を受けた場合に,損害から利益を差し引い
た残額をもって賠償すべき損害額とすることなどと定義されるが,その利
益が損害と同質性ある利益である場合には控除が認められるべきである。
(原告らの主張)
原告らに支払われた支援金は,公益目的に基づいて支払われる金員であっ
て,損失填補の趣旨ではないから,損害額から控除すべきではない。原告らの
一部は,(宇治市)地域再建被災者住宅等支援事業に基づく補助金を支給され
ているが,同事業補助金交付要綱には,被災者が早期に安定した生活を再建
することにより地域のコミュニティの崩壊を防止し,活力を取り戻すことを
目的としており,地域のコミュニティを保護する公益目的であることが示さ
れている。同事業に基づく補助金は,被災者生活再建支援法による支援金の
補完として支給されるものであって,その趣旨は同じである。また,居住者が
生活再建のために住宅を再建する場合も支給され,被災住宅の所有権がなく
ても補助対象となるが,被災住宅の解体・撤去・整地のみ行う場合は補助対象
とならず,あくまで地域再建が前提となっている。さらに,個々が加入してい
た保険金による充当の有無にかかわらず補助対象となっており,速やかな生
活再建によって被災地を復興させるための措置といえ,公益目的であるから
損害補填の趣旨でない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実並びに証拠(甲25〜32,34,37〜40,42〜45,
55,58,59,62,67,69,71〜77,80〜87,89〜11
1,甲B3の1,乙4,5,14〜20,24〜26,29〜32,35〜3
7,40(枝番のある書証は,特記しない限り,枝番を全て含む。以下同じ。),
証人E,証人F,証人G,証人H,原告A1本人。個別の項目等に関する証拠
は,個別の項目等の末尾にも記載した。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。
⑴弥陀次郎川の護岸及び河床等の状況
ア本件当時,本件決壊箇所周辺の河道は,護岸の石積みの間知石間に隙間
が生じた箇所があり,その隙間からは草木も生えており,さらに,堤防の
天端付近では樹木等も生えており,護岸石積みには,樹木等の根が張る状
態となっていた。また,石積護岸の区間において,間知石が抜け落ちてい
る箇所も存在した。(甲31,42〜45,59,80〜85,91,9
3,甲B3の1,証人E,原告A1本人)
イまた,本件決壊箇所周辺の河床コンクリートに剥がれや割れの損耗が生
じている箇所があり,その箇所では,剥がれのために水たまりが生じてい
たほか,河床コンクリートの割れのため,割れの間から水が流れる状態に
なっていた(甲86,91,93,証人F)。
ウ石積護岸区域の石積みは,空石積みではなく,練り石積みであったが,
間知石と胴込めコンクリートが一体化したような堅固なつくりにはなって
いなかった(甲93)。
⑵被告による護岸等の管理状況
ア被告の山城北土木事務所では,平成24年度から3年計画で全ての河川
を巡視点検する計画を立て,現地を確認して,写真を撮影するなどして点
検記録簿を作成しており,河川管理上,巡視点検者が気になった部分につ
いてカルテを作成することとなっていた。弥陀次郎川は平成24年5月2
1日に巡視点検が実施され,本件決壊箇所の上流部分の2か所で,土砂堆
積箇所があるとしてカルテに記録されたほかは,護岸や河床を含めてカル
テは作成されず,巡視点検者からすると,特に緊急の補修が必要な状態で
はなかった。(乙4,40,証人H)
イ被告は,河道の除草を,堤防の法面部分について,業者に発注し,毎年
7月頃までと,10月頃の年2回,監督職員立会いの上で実施していた。
樹木の伐採や,河道内の除草については,原則として行っていなかったが,
現地で確認した上で必要な範囲で別途作業することはあった。(乙40,
証人H)
⑶護岸等の補修工事歴
ア被告は,弥陀次郎川について,年2回行う除草作業のほか,住民からの
通報や不法行為の取締り,河川改修工事,台風や豪雨後の職員による点検
等を端緒とし,又はこれらに伴う経過観察により,本件水害発生前に,護
岸や河床コンクリート等の補修工事や維持管理工事を行ってきており,そ
の修繕履歴は別紙9のとおりである(乙5,40,証人H,弁論の全趣旨)。
イ本件決壊箇所を含む区域(上出橋から雲雀橋にかけての610メートル
又は616メートルの各区域)については,本件水害発生前において,平
成8年度から平成9年度及び平成17年度,被告は,河床コンクリートの
摩耗等について,補修が必要な部分についてコンクリートの増し打ち(打
設)及び間詰めの各工事,石積みの目地の開きについて,モルタルによる
目地の間詰めの工事などの補修工事をした。平成17年度の河床コンクリ
ートの増し打ち工事は,本件決壊箇所の下流では,全面的な摩耗に対する
補修として,厚さ5センチでの連続したものであり,本件決壊箇所では,
部分的な摩耗や破損に対するものとして,厚さ5センチ又は同7センチの
ものであった。また,本件決壊箇所の上流部分でも,部分的な摩耗や破損
に対するものとして,厚さ15センチまで又は同20センチの各増し打ち
工事であった。それらの修復箇所は,別紙8のとおりである。その後,本
件決壊時まで,本件決壊箇所について補修工事は行われていなかった。(甲
101,乙5,40,証人H)
⑷本件決壊時の弥陀次郎川の状況について
ア本件当日前夜から雨が降り始め,本件決壊は,本件当日午前4時頃に発
生した。同時点において,本件決壊箇所では溢水していなかった。まず,
本件決壊箇所の左岸堤防の中腹から宅地側へと水が噴き出し,その後護岸
コンクリート等が崩落して本件決壊に至った。(甲B3の1,原告A1本
人)
イ本件決壊によって,左岸の住宅地には,大量の水と土砂が流れ込み,石
積護岸に使用されていた間知石とみられる,同程度の大きさの石が多数発
見された。その他にも,大量の石や流木が住宅地へと流れ込んだ。(甲2
5〜30,32,34,37〜39,乙20,35,原告A3本人)
ウ本件決壊箇所の上流にあるゴルフ場内や市道と交差する橋付近では,大
きな流木が橋の欄干に引っかかるなどしていた(甲90)。
⑸浸水被害について
本件集中豪雨により,床上浸水132戸,床下浸水188戸等の浸水被害
が発生した。本件決壊箇所よりも下流地域である本件浸水区域のほかに,同
箇所上流の上出橋付近でも溢水が生じており,別紙10のとおり,上出橋上
流右岸側において浸水被害が生じた。(甲40,69,乙35)
⑹本件決壊後の被告による調査
ア本件水害後の平成24年8月20日の現地調査では,上出橋上流右岸側
のガードレール下面付近に,本件水害時に付着したとみられる草が残存し
ていた。これを基にした痕跡水位としては,別紙11のとおり,上出橋下
面から90センチ(240cm−150cm),上出橋上面(ガードレー
ル下のコンクリートの上端)から40センチ(240cm−200cm),
地盤面から70センチの高さとなる。(乙36)
イ上記現地調査時には,上出橋下流右岸の護岸に,上出橋から少し下流の
地点からさらに下流に向かってせりあがるように泥水の痕跡が付着してお
り,その最も高い位置は,上出橋より下流に約6メートルで,河床から約
2メートルの高さの地点(護岸天端より約20センチ低い地点)であった
(乙36)。
ウ平成24年9月6日,被告の依頼によって,表面に表れている流下物の
調査が行われた。同調査において,雲雀橋より下流の弥陀次郎川河口部か
ら宇治川合流部(河口から宇治川に入った部分。河川敷が広がっている。
以下「合流部」という。)で,1メートル以上の辺をもつ大きさのコンク
リート片が8個(最大のもので1400ミリ×1000ミリ,最小のもの
で1000ミリ×500ミリ。厚さは概ね150ミリ),それらを含めて
合計24個のコンクリ―ト片が発見された。また,調査者が,白っぽい雑
割石で護岸でよく使われる間知石に当たると判断したものが,河口部及び
合流部で4個(大きさは,おおむね200ミリ×300ミリ)発見された。
(甲93,乙37,証人G)
エ弥陀次郎川の堤防の土質状況を把握するため,本件決壊箇所上流2か所
と下流1か所の合計3か所において,ボーリング調査が実施された。堤防
の上部から順に,盛土層,沖積礫質土層,沖積粘土層,洪積礫質土層の順
に積み重なり,堤体下約3メートル程度で洪積層が確認された。また,サ
ウンディング試験(スウェーデン式サウンディング試験及び簡易動的コー
ン貫入試験)も実施された。それらの調査の結果,堤体及び基礎地盤には,
礫分の多い砂質土があり,透水性が高いが,堤体は,堤体下面より,粗粒
度層,細粒度層,粗粒度層,細粒度層という層順に分かれることが判明し
た。(甲93,96,乙15〜19,35)
オ石積護岸の透水性を推定するための基礎調査として,本件決壊箇所の上
流と下流の合計4か所において,抜石調査を行ったところ,間知石の裏側
に胴込めコンクリートの存在が確認された。また,河床コンクリート及び
護岸擁壁を対象(ただし,石積護岸部分は対象となっていない。甲101・
8頁参照)に,レーダー探査を実施し,背面に空洞や緩みなどの異常な状
態である可能性が考えられる箇所を調査したところ,河床コンクリート背
面に変状の想定される箇所が確認された。同箇所については,さらに河床
コンクリートのコア抜きを行い,平面空洞の有無等を確認したところ,栗
石や砂利が分布しており,空洞や緩みは生じていなかった。栗石や砂利の
分布は,セメント部分の流出により骨材や砂利が残されたことを意味して
おり,コンクリートの劣化にあたる。(甲101,乙35)
カ平成24年8月30日及び31日,10月12日及び13日,現地住民
に対する聞き取り調査が実施された。同調査において,本件決壊箇所の左
岸の住民が,河道内の水位は満水であった旨述べており,上出橋付近の住
民が,上出橋のガードレールやフェンスに流木,丸太などが引っかかって
水が溢れたこと,上出橋下流の河道は水が満杯で流れていたことなどを述
べていた。(甲90,93)
⑺本件決壊後の補修状況等
ア本件水害発生後,被告は株式会社I(以下「I」という。)に委託して,
緊急補修として石積護岸の目地にモルタルを充填する工事(管内一円(弥
陀次郎川)地域防災対策(天井川水路箸対策)工事中のモルタル注入工)
を行った。Iは,石積護岸の目地にモルタルを注入する工事の特許を取得
しており,本件以外の石積護岸においても,同様の工事を行っていた。(甲
58,75〜77)
イモルタル充填工事は,間知石の隙間にモルタルを充填する方法により行
われた。モルタルは,根継ぎと護岸の隙間を埋めたり,護岸天端を補強し
たり,河床コンクリートの隙間を埋めることなどに使用されていた。工事
を行う前の状況として,間知石の緩みなどはなく,ほとんどの石は動くこ
とはなく,苦労して石を外すと裏側に空洞はなく,石の形がしっかり残っ
ていた。Iの現場技術者は,工事を行ったことによる意見として,々事
を行った範囲の護岸裏側に石積みが不安定になったり,崩壊したりするよ
うな空洞はなかったこと,護岸の裏側に空洞があった場合,護岸を削孔
のうえ塩ビパイプを挿入し,このパイプから護岸裏側の空洞にモルタルを
充てんする工法をとるが,弥陀次郎川ではその必要はなかったこと,B
の施工箇所と比べて,弥陀次郎川の石積みの損傷状態は良い方であり,ほ
ぼ健全と判断され,モルタルの充てん量も少ない方であったことを述べて
いる。(甲58,71〜74,乙29〜32)
⑻弥陀次郎川の改修計画
昭和40年4月,国は淀川水系工事実施基本計画を策定し,昭和46年3
月,同基本計画を改定した。同基本計画における基本方針に沿って,被告は,
平成9年3月19日,流域内の急速な都市化の進行による流出増に対処する
目的で,宇治川合流点から市道上出橋までの760メートルを事業区間とし,
計画高水流量を毎秒30立方メートルなどとする内容の弥陀次郎川河川改良
全体計画の認可を受けた。同全体計画に基づき,被告は,河道の掘削や築堤
等の改修工事を進め,平成21年までに事業区間のうち約195メートルが
改修済みであった。(乙24〜26,弁論の全趣旨)
2争点 別鐶房]裟遒硫論邊浜の瑕疵の有無)について
⑴本件決壊に至る機序について
ア原告らは,本件水害の発生は,被告が弥陀次郎川の石積護岸の管理を怠
っていたことが原因である旨主張しているため,その前提として,本件決
壊に至った機序について,まず検討する。
イ原告らは,J,K,Lら3名連名の意見書(甲55,56。以下,併せ
て「Jら意見書」という。)に基づき,不等沈下により生じた石積護岸の
隙間から河川の水が浸透し,堤体内の土砂が円弧すべりを起こして流出し
た結果,護岸や河床の破壊を生じて本件決壊に至った旨(浸透による決壊)
主張し,他方で被告は,技術検討会における検討結果により,本件決壊の
機序について,Cが作成した各意見書(乙28,36,41。以下,併せ
て「C意見書」という。)に基づき,石積護岸は健全であり,計画高水位
を超える水量が流れて,河床コンクリートが流木等によって損傷した結果,
河床がめくれて,河床や護岸が洗堀され,それに伴う護岸の損壊や護岸背
面土の吸出しの進行により堤防が浸食され,本件決壊に至った旨(浸食に
よる決壊)主張している。Jら意見書が,本件決壊の機序を断定するにあ
たって基礎とした事実は,)楫鏃莢時の護岸等がその裏側に空洞ができ
るまでに劣化していたこと,∨楫鏃莢時の流量が毎秒13.5立方メー
トルを下回っていたこと,2聾付近で多数の間知石に当たる雑割石が発
見されたこと等であるが,以下のとおり,Jら意見書をもって,原告らの
主張する機序によって本件決壊が生じたと認定することはできず,C意見
書に基づく被告主張の機序によって,本件決壊が生じたとみるべきである。
ウ護岸等の劣化状況について
前記認定事実のとおり,本件決壊箇所付近の護岸の石積みの隙間には草
木が繁茂し,河床コンクリートには剥がれや割れの損耗が生じており,コ
ンクリートの剥がれのために水たまりが生じたり,コンクリートの割れの
ため,間から水が流れる状態になっていたりしていた。
さらに進んで,Jら意見書は,護岸の石積護岸の裏側に空洞が生じ拡が
っていたことを前提としており,証人Jは同旨の証言をしているが,本件
全証拠をもってしても,石積護岸の裏側に大きな空洞ができていたとまで
認めることはできない。確かに,本件決壊当時,石積護岸の間知石間に隙
間が生じていたことは,前記認定事実のとおりであり,被告が本件水害発
生後,Iによる緊急補修工事を行った際,メジャーによる計測が行われて,
7センチから25センチ程度の奥行の空間があることが確認されている
(甲58の1)。ただし,その隙間の大きさについては,Iに対するヒア
リング結果(乙30)や,Iの前記工事の前に撮影された写真(甲58の
1)で認めることができるのは,間知石の間にメジャーが挿入できる程度
にすぎないし,Iの現場技術者は,上記ヒアリングにおいて,工事を行っ
たことによる意見として,護岸裏側に石積みが不安定になったり,崩壊し
たりするような空洞はなかったこと,護岸の裏側に空洞があった場合,空
洞にモルタルを充てんする工法をとるが,弥陀次郎川ではその必要はなか
ったこと,他の施工箇所と比べて,弥陀次郎川の石積みの損傷状態は良い
方であり,ほぼ健全と判断され,モルタルの充てん量も少ない方であった
ことを述べている。そして,被告が行った抜石調査では,間知石の裏側に
胴込めコンクリートの存在が確認され,間知石に動揺がなかった(Iの調
査でも同様であった。)。これらの事情を踏まえると,原告らが主張する
ように,Iによる緊急補修工事の際の奥行空間の確認によって,間知石の
裏側全体に大きな空洞が生じていたとまで認めることはできない。
また,証人Eは石積護岸にはこぶしが入るほどの大きさの隙間が生じて
いた旨証言するが,仮にそのような場所があったとしても,その時期や場
所は定かではないし,Jら意見書が指摘しているように間知石の裏側全体
に空洞が生じていることを裏付けているとまではいえない。さらに,原告
らは,Iの工事によって石積護岸の隙間に充填されたモルタル量から逆算
して,石積護岸の隙間を算定しているが(原告ら第12準備書面参照),
実際に工事をおこなったIの代表者によれば,補修工事の目的は石積護岸
の空洞をモルタルで埋めることではなく,あくまでも目地を埋めるもので
あり,補修工事に利用したモルタルは天端や河床コンクリートの隙間など,
石積護岸の隙間以外の他の補修にも利用していたというのであるから(乙
30),計算の前提としてモルタルの全量が隙間部分にすべて注入されて
いるかは疑問があるし,上記のとおり,Iの現場技術者によると,他の施
工箇所と比べて,弥陀次郎川の石積みの損傷状態は良い方であり,ほぼ健
全と判断され,モルタルの充てん量も少ない方であったなどというのであ
るから,やはり,間知石の裏側に大きな空洞ができていたとまでは認めら
れない。
一方,C意見書は,間知石の緩みや裏側の空洞を前提としていないが,
上記の認定説示によると,その前提に誤りがあるとはいえず,原告らの反
論はあたらない。また,C意見書が前提にしている,技術検討会において
検討された内容には,護岸の透水性について,胴込めコンクリートに空隙
があるため石積みの目地から浸透する水を完全に遮水できないことなどか
ら,遮水性は低いと判断した上で,それを前提に本件決壊の機序を検討し
ていることがうかがえる(乙35・32頁参照)。そうすると,C意見書
は,むしろ,間知石の間にはある程度の隙間はあったことを前提として,
それを適切に評価しているものと考えられる。
エ本件決壊時の水位・流量・流速について
Jら意見書は,原告A1作成の陳述書(甲B3の1)及び本人供述(本
件当日午前3時頃及び午前3時30分頃,弥陀次郎川の水面が見えなかっ
た旨。以下併せて「原告A1の供述等」という。)や,上出橋における状
況(狭窄部で流れが阻害されていたこと)等からすれば,本件決壊時の流
量が毎秒13.5立方メートルを下回っていたことになることを前提とし,
流量を毎秒15から20立方メートルを前提とした被告の主張は前提を欠
く旨反論している。しかし,この点についても,本件決壊時の流量が毎秒
13.5立方メートルを下回っていたことが明らかであるとは認められな
い。
まず,原告A1の供述等について検討すると,本件当日は8月14日で
あり,午前3時から4時頃の時間帯,同供述等にあるように稲光によって
瞬間的に照らされることはあったとしても,日の出時間を考えれば,屋外
はいまだ明るくはなかったものとみられ,さらに原告らが主張するとおり,
土手には草木や樹木が繁茂していたというのであるから,原告A1が視認
できる状況はさほど良好なものであったとはいえず,Jの意見書(甲41)
を踏まえたとしても,堤防の内側が十分見える状況であったことには疑問
が残る。また,堤防の内側が時折見えたとしても,原告A1の供述等では,
本件当日の午前3時頃に弥陀次郎川の水面が見えないことを確認した後,
周囲の状況把握のため,スマートフォンでニュース等を確認したり,弥陀
次郎川とは反対側になる玄関側の路上に止めてあった車を確認したりして
いたというのであるから,原告A1は,本件決壊が生じるまでの間連続的
に水面や水位をつぶさに観察していたとまではいえない。そして,弥陀次
郎川は,流域面積からして,洪水到達時間が,計画高水位において15分
程度と短く(前記前提となる事実。なお,技術検討会でも上出橋付近で2
0分と推定した(乙35)。),雨量によっては短時間で水位が変わり得
る河川であったということができる。そうすると,本件決壊後の現地住民
に対する各聞き取り調査において,本件決壊箇所近くの住民等の複数名が
河道内の水位は満水であったと述べていたという事実(前記認定事実)も
併せ考慮すると,水面は見えなかったとする原告A1の供述等を前提とし
て,本件決壊当時である午前4時頃の弥陀次郎川の水位が天端より10か
ら15センチをさらに下回っていたと断定することはできない。
また,原告らは上出橋の下流にある本件決壊箇所の流量は,上出橋のそ
れを上回ることはないとし,原告A3の本人供述や新聞配達員のD作成の
陳述書(甲70,以下「D陳述書」という。)により,本件決壊時の上出
橋における溢水はさほど多いものではなく,Cが述べるように,河道から
溢れた水が上出橋の上を渡り再度河道に戻る還流が発生することなどなか
った旨主張している。しかし,原告A3は,避難する途中,上出橋へつな
がる道路が濁流のようになっていたり,自動車が走りにくかったりしたと
ころはなかった旨本人として供述しているものの,そもそも,原告A3が
避難したのは午前5時前頃であって本件決壊時ではなく,しかも上出橋の
たもと付近を直接目撃したわけではないし,目撃したところも降雨が激し
く見通しが悪い状況であったというのであるから,原告A3の本人供述で,
本件当日の午前4時頃における上出橋の状況を推認するには無理があると
いわざるを得ない。また,D陳述書も,午前5時半前後の水位を問題とし
ているから,原告A3の本人供述と時間的に同様の疑問がある。そして,
前記認定事実によると,本件当日には,上出橋上流右岸の住宅地では浸水
被害が発生していたこと(甲90資料1・8月14日浸水実績図によると,
上出橋下流右岸も浸水していたのではないかとみられる。),本件決壊後
の調査によると,上出橋上流右岸側のガードレール下面の本件水害時に付
着したとみられる草の残存により,痕跡水位としては,上出橋上面(ガー
ドレール下のコンクリートの上端)から40センチ上の高さなどになって
いたこと,上記現地調査時には,上出橋下流右岸の護岸に,下流に向かっ
てせりあがるように泥水の痕跡が付着しており,その最も高い位置は,河
床から約2メートルの高さ(護岸天端より約20センチ低い地点)であっ
たこと,本件決壊後の現地住民に対する各聞き取り調査において,上出橋
付近の住民が,上出橋のガードレールやフェンスに流木,丸太などが引っ
かかって水が溢れたことや上出橋下流の河道は水が満杯で流れていたこと
などを述べていたことなどの事情を指摘することができ,これらの事情に
よると,本件当日には,上出橋上流の水面が常に上出橋下面よりも下であ
ったとは到底いえず,河道から溢れた水が上出橋の上を渡った可能性は極
めて高いということができる。そして,溢れた水が,上出橋がかかる道路
方向(弥陀次郎川が流れる方向とは垂直関係に交差)の左右だけでなく,
橋の上を越えるなどして下流側に再び流れ込んでいたという還流という状
況が生じたことは,低い方向に流れるという水の性質からして,十分考え
られるところである。その上,弥陀次郎川流域の雨量や水位は実測されて
いないから,宇治観測所の雨量データ及びXバンドMPレーダー観測記録
(前記前提事実)を参考にすると,雨量の多かった午前3時30分よりも
後である午前4時前後に,河道から溢れた水が上出橋の上を渡っていた可
能性も十分あるというべきである(他の雨量の多い時間帯にも,同様の事
態が生じていていた可能性も否定できない。)。したがって,原告A3の
本人供述やD陳述書により,本件決壊時の上出橋における状況を推認する
ことはできないし,溢れた水が上出橋の上を渡り再度河道に戻る還流が発
生することなどなかったと断定することもできない。
他方で,C意見書は,上出橋下流において,波状跳水とみられる洪水痕
跡が確認されたことを指摘しており,この場合の流量は毎秒20.1立方
メートルと計算されていることに加えて,上出橋の上流側右岸のフェンス
において確認された痕跡水位を元に計算された流量は毎秒14.7立方メ
ートルであり,これらの事実を踏まえても毎秒13.5立方メートル以下
しか流れないということはできない。
なお,いずれの上出橋付近における推定においても,本件決壊当時以降
においても降雨が続いており,上記で指摘した各痕跡が,本件決壊後に生
じた痕跡等である可能性も完全には否定することはできない。したがって,
本件決壊時の流量や流速はあくまでも推定でしかないのであるから,ある
程度幅をもって判断せざるを得ず,宇治観測所の雨量データ及びXバンド
MPレーダー観測記録のいずれの雨量の記録においても,本件決壊後であ
る本件当日午前5時前後の雨量が非常に多いほか,本件決壊前の午前3時
半前後の雨量も多かったものと推定されることも踏まえれば,Jら意見書
が述べるように毎秒13.5立方メートル以下しか流れなかったと断定す
ることはできない。そうすると,C意見書が前提とする,本件決壊時の流
量が毎秒15から20立方メートル,流速が毎秒3メートル以上であった
という可能性を否定することはできないというべきである。
オ河床コンクリート等の流下物について
原告らは,弥陀次郎川河口付近で発見された間知石とみられる雑割石が
14個と多数発見されたことから,河床コンクリートではなく,石積護岸
が先に崩壊した旨主張し,Jら意見書も同様の指摘をしている。確かに,
証拠(甲48,61,112,113,116)及び弁論の全趣旨による
と,本件決壊後の平成24年11月12日,同25年6月18日等に,J
らの調査により,原告ら主張の場所(合流部)において,14個の雑割石
が発見されたことが認められる。証人Gによれば,14個の雑割石のうち
複数個が弥陀次郎川の護岸に使用されていた間知石の特徴と合致している
というのであるから,被告が主張する4個を超える間知石が,河口付近ま
で流れていた可能性は否定できない。しかし,上記14個の雑割石には,
変色したり,土砂に埋まっていたりしたものがあり,被告が主張する4個
の間知石(証人Gらが発見した4個の雑割石は,発見時期・場所・石の特
徴等からして,弥陀次郎川護岸で使用されていた間知石と認められる。)
とは異なり,どの程度の数の雑割石が間知石に該当するのか判然としない。
また,仮に,何個かが間知石に該当するとしても,このことはJら意見書
の前提となる事実であるとはいえるものの,住宅地の方へ間知石が多数流
れ込んだこと(前記認定事実)を否定するものではなく,原告主張の機序
であることを断定できるに足りる事実であるとはいえない。
他方で,原告らの主張する機序によれば,河口付近で河床コンクリート
片が多数発見されていることを合理的に説明できているか疑問が残るとい
わざるを得ない。本件決壊箇所は天井川になっている部分であるから,護
岸が決壊すれば,それ以後,河道の水は,河道よりも低い住宅側へ流れ込
むこととなり,下流の河道内への流量は著しく減少することは明らかであ
るところ,証人Jの証言によれば,円弧すべりが生じてから決壊までは3
0分もない,正確には述べられない,河床コンクリート片がどれほどの流
量で流下するかは計算不能であるというのであるが,J自身が計算し,計
画高水流量である毎秒17.7立方メートルをかなり下回る毎秒13.5
立方メートルのさらにそれ以下の流量で,1メートル以上の辺を持つ多数
の河床コンクリートが500メートル以上もある河口付近まで流下し得る
のか疑問であり,河床コンクリート片が河口付近まで流下していたことに
ついて,Jら意見書で示されている機序の中で整合的な説明がされている
とはいえない。証人Jも,毎秒13.5立方メートルよりも小さな流量で
河床コンクリート片が河口付近まで流れたとすることについて疑問を持っ
ており,地滑り(円弧滑り)によって,間知石が川の方に崩れこんでダム
状態となり,せきが切れて河床コンクリート片や間知石が一挙に流れたの
ではないかとの推測を証言しているが,ダム状態ができるほど間知石が崩
れたのであれば,堤体及び基礎地盤には,礫分の多い砂質土があり,透水
性が高い部分があること(前記認定事実)から,堤体が短時間で崩れたと
想定すべきことにならざるを得ないが,そうすると,ダム状態のせきが切
れるまでに堤体が崩れることになるのではないか(この場合は,ダムのせ
きが切れず,河床コンクリート片や間知石が下流に流れないことになる。),
仮にそうでなくとも,せきが堤体よりも先に切れたからといって,ダム状
態による一時的な水の貯留で,河床コンクリート片や間知石が一挙に河口
付近まで流れることになるのかという疑問がぬぐいきれないことになる。
この点,被告主張の機序においては,河床のめくれから堤体全体の崩壊ま
では護岸はしばらく保たれたままであるし,流量も計画高水量を超えてい
た可能性があるから,多数の河床コンクリート片の流下という事実を合理
的に説明できているものといえる。また,証人Kは,河床コンクリートの
めくれは円弧すべりが生じたと考える方が合理的に説明できる旨証言し,
この場合河床が崩れるのと護岸が崩れるのとが同時であるとも述べており,
そうすると,破堤までの時間内に,河床コンクリート片が河口まで流下し
ていたことを説明できるかについては疑問が残る。
また,原告らは,河床コンクリートは流木等で破損することはなく,破
損したとしてもめくれることはない旨主張している。この点について,C
意見書では,河床コンクリートの損傷可能性について,一般的に報告され
る現象であると述べており,実際に弥陀次郎川上流付近では橋の欄干に流
木が大量にひっかかっていることが確認されていること,原告A3も石が
ごろごろと流れてきた旨述べ,本件決壊後,住宅地において多数の石が発
見されていることからすれば,本件決壊当時,多数の流木や石が流下して
いたものと認められるのであるから,これらによって河床コンクリートが
損傷した可能性は高いというべきである。めくれモデルについても,その
評価手法では摩擦力を考慮しないものであり,当該評価手法を用いたこと
が明らかに妥当性を欠くとまではいえない。
カC意見書について
C意見書は,技術検討会における検討を踏まえたものであるが,技術検
討会においては,前記認定事実のとおり,近隣住民からの聞き取り調査の
ほか,護岸の間知石の抜き取り調査や,河床コンクリート等のレーダー探
査を行った結果のデータに基づいて検討がなされている。また,本件決壊
機序を検討するにあたっては,^鄂紊砲茲詛鵬,⊃仔による破壊(す
べり破壊とパイピング破壊),浸食による崩壊の3つの可能性を念頭に
おいた上で検討を行い,最終的な結論として浸食による破壊の可能性が高
いと結論づけた経過としては,以下のとおりである。
まず,前記の目撃情報によれば,本件決壊箇所における溢水の事実が認
められないことから,溢水による破壊の可能性を否定している。そして,
浸透による破壊については,本件決壊箇所の地質について,ボーリング調
査及びスウェーデン式サウンディング調査のデータを解析し,すべり破壊
とパイピング破壊がどのような条件になれば発生するのか,本件当日午前
4時頃に決壊した事実と整合的な機序は何かという観点から解析を行い,
すべり破壊の可能性はないが,浸透によるパイピング破壊の可能性はある
と判断している。他方で,浸食による破壊については,河床コンクリート
片が河口付近で発見されていること,河床が破壊されると洗掘や吸出しが
進行してパイピング現象が発生する可能性があることから,当該機序によ
る破壊である可能性が高いと結論づけている。
以上のように,原告らの主張する機序の可能性も視野に入れながら,そ
の可能性は全く否定しきれないものの,最終的には浸食による破壊である
可能性が高いことを結論づけており,検討過程はその内容からして正当で
あるといえる。また,前記ウから同オまでのとおり,C意見書が基礎とし
た事実に誤りがあるとはいえないし,むしろ,河床コンクリート片が河口
付近で複数発見されたという事実を整合的に説明できているものといえる。
したがって,本件の証拠関係に照らせば,C意見書に基づく被告主張の
機序(浸食による決壊)によって,本件決壊が生じたと認めるのが相当で
ある。
⑵河川管理の瑕疵の有無について
ア国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常
有すべき安全性を欠き,他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい,こ
のような瑕疵の存否については,当該営造物の構造,用法,場所的環境及
び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきもので
ある(最高裁昭和51年第395号同56年12月16日大法廷判決・
民集35巻10号1369頁,最高裁53年第76号同年7月4日第三
小法廷判決・民集32巻5号809頁参照)。
イ本件においては,前記⑴ウのとおり,石積護岸の間知石の間には隙間が
生じていた箇所があり,その隙間や堤防の天端付近には,草木が繁茂する
状態であるなど石積護岸に劣化があったことは否定できない。しかし,前
記のような本件決壊に至る機序によれば,はじめに河床が破損したことに
よって,石積護岸の崩落を招いたことが認められるから,石積護岸の劣化
が本件決壊の原因であるとする原告らの主張はその前提を欠いており,理
由がない。
ウまた,原告らは河床コンクリートが劣化していたことも主張しているの
で,この点が瑕疵にあたるかについても検討する。確かに,前記認定事実
によると,本件決壊当時,本件決壊箇所周辺で剥がれや割れの劣化(損耗)
があり,また,技術検討会において,本件水害後にどのような対策を施す
べきかという観点から,河床コンクリートの厚みを増すことなどが指摘さ
れていることからすれば,本件決壊の機序を前提として,本件決壊と河床
コンクリートの劣化(損耗)に何らかの関係があったことに疑問が生じな
いわけではない。しかし,本件全証拠によっても,本件決壊箇所付近はと
もかくとして,本件決壊当時の本件決壊箇所自体の河床コンクリートには,
どの程度の劣化(損耗)が生じていたのか,仮に生じていたとしてもどの
程度本件決壊に影響したのかは明らかではなく,かえって,前記認定事実
によると,平成17年の段階で,本件決壊箇所の補修工事として行われた
河床コンクリートの増し打ち工事は,部分的なものであり,他の補修場所
(決壊しなかった場所である。)に比べて,必ずしも増し打ちの範囲又は
厚さが大きいものではなかったのであるから,本件決壊箇所自体の河床コ
ンクリートは,劣化(損耗)が進んでいるわけではなかったともみること
ができることに加え,C意見書によると,技術検討会における検討のとお
り,本件破堤箇所の流量が毎秒15から20立方メートルと推定するのが
妥当というのであるから,流量が計画高水位(毎秒17.7立方メートル)
を超えていた可能性があること,本件決壊時,多数の流木や石が流下して
おり(前記認定事実),河床コンクリートを損傷する他の要因が考えられ
ることも併せ考慮すると,河床コンクリートの劣化(損耗)によって本件
決壊が生じたとまで認めるのは困難である。
エ他方で,本件決壊時,本件決壊箇所付近で,弥陀次郎川が溢水していな
かったことは争いがない事実であり,そのような状況で河床コンクリート
がめくれたことについては,上記のとおり,原因までは明確ではないもの
の,何らかの河川管理の瑕疵があったのではないか,少なくとも,原告が
主張する日常的な河川の維持管理のほかに,河川の安全を図る根本的な改
修を進めておけば本件水害が避けられたのではないかとの疑問が残るとこ
ろである。しかしながら,以下の点を考慮すると,被告に河川管理の瑕疵
があったということはできない。
河川の管理についての瑕疵の有無は,過去に発生した水害の規模,発生
の頻度,発生原因,被害の性質,降雨状況,流域の地形その他の自然的条
件,土地の利用状況その他の社会的条件,改修を要する緊急性の有無及び
その程度等諸般の事情を総合的に考慮し,財政的,技術的及び社会的制約
のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして
是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断す
べきであると解するのが相当である。そして,既に改修計画が定められ,
これに基づいて現に改修中である河川については,同計画が全体として前
記の見地からみて格別不合理なものと認められないときは,その後の事情
の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著と
なり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして
早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じ
ない限り,同部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもって河
川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべきである(最高裁昭和
53年第492号,493号,494号同59年1月26日第一小法廷
判決・民集38巻2号53頁参照。原告ら及び被告の引用するいわゆる「大
東水害訴訟の最高裁判決」である。)。
本件では,前記前提となる事実のとおり,弥陀次郎川において,昭和4
2年7月,豪雨による水害があり,そのころ,当時の京都府宇治土木工営
所が計画高水位を設定したほか,三面張りコンクリート区間で,河床張り
コンクリートが増し打ちされ,護岸に嵩上げコンクリートがなされ,石積
区間でも,昭和46年頃,護岸に嵩上げコンクリートがなされた。また,
前記認定事実のとおり,被告は,弥陀次郎川について,年2回行う除草作
業のほか,住民からの通報や不法行為の取締り,河川改修工事,台風や豪
雨後の職員による点検等を端緒とし,又はこれらに伴う経過観察により,
本件水害発生前に,護岸や河床コンクリート等の補修工事や維持管理工事
を行ってきており,本件決壊箇所を含む区域について,平成8年度から平
成9年度及び平成17年度,河床コンクリートについて,コンクリートの
増し打ち等の補修工事をしている。こうした河川管理もあって,昭和42
年7月の上記豪雨による水害より後には,本件水害までの間に,弥陀次郎
川において,堤防決壊や浸水被害が生じるような水害は発生していなかっ
た。
そして,本件決壊箇所自体は,本件水害発生時において,いまだ改修前
の河川の状態ではあったものの,弥陀次郎川自体では,平成9年に本件決
壊箇所を含め,宇治川合流点から市道上出橋までの760メートルを事業
区間とし,計画高水流量を毎秒30立方メートルなどとする内容の河川法
16条,16条の2に基づくとみられる弥陀次郎川河川改良全体計画が策
定されており,その計画に不合理な点は特段見当たらない。また,その策
定後の事情ではあるが,本件決壊箇所を含め,その周辺の河床コンクリー
トの損耗状況について,前記認定事実のとおり,被告は,平成17年に河
床の補修工事を行い,平成24年には弥陀次郎川の巡視点検を行っており,
巡視点検者からすると,特に緊急の補修が必要な状態ではなかったという
のであるから,上記計画策定後,弥陀次郎川,殊に本件決壊箇所において,
水害発生の危険性が特に顕著であり,早期の改修工事を施行しなければな
らなかったと認めるべき特段の事由があるとは認められない。
こうした事情を総合的に考慮すると,弥陀次郎川は,予定されていた改
修計画(弥陀次郎川河川改良全体計画)の実施途上にあり,本件決壊箇所
は改修前の状態にはあったものの,同種・同規模の河川の管理の一般水準
及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていたと認められると判
断するのが相当である。
したがって,弥陀次郎川が溢水していなかった事情を踏まえたとしても,
河床コンクリートについて,河川管理の瑕疵があるとは認められない。
⑶小括
以上のとおりであるから,石積護岸の点においても,河床コンクリートの
点においても,弥陀次郎川の河川管理に,本件決壊の原因となる瑕疵があっ
たとはいえない。
第4結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも
理由がないから,棄却することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法6
1条,65条1項本文を各適用し,主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 浅見宣義
裁判官 朝倉亮子?
裁判官 秋本円香?

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